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なんか、PEACEというバンドがキテいるらしい。「いやー、いい」と職場の若い子たちも言うし、『NME』で彼らのレヴューを読むと、「この曲はキュアーで、あの部分はシャーラタンだし、ここはブラーじゃないか。でも所詮コピーはオリジナルには勝てない。みたいな偏狭なリスナーになってはいけない。この世に若者がいる限り、彼らは目を輝かせながら"ディスカヴァリー"という経験をし続ける」という主旨の長文だったので、この偏狭きわまりないばばあもちょっと聴いてみることにした。
が、聴いてみると、UKのPEACEではなく、USのFoxygenのレヴューが書きたくなった。
Foxygenのほうは、そもそもタイトルがふざけている。何が『We Are the 21st Ambassadors of Peace and Magic』だ。まるで思春期のギークの内輪ギャグのような、或いはドサ回りのヒッピー系手品師のフライヤーに書かれた文句みたいである。
しかも、「過去の"ディスカヴァリー"をしている」点では、Foxygenのコピー量のほうが恥知らずなほど膨大だ。キンクス、ドアーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ピンク・フロイド、ビートルズ、ストーンズ、ボウイ、ディラン、T.レックス、プリンス、ザ・クランプス、ピクシーズ。いったいこれはロック史図鑑なのか。と思うほどである。
「この道はアリエル・ピンクやMGMTも探求している。が、Foxygenは、全部ぶち込んでやれという熱意が新しい」と『Pitchfolk』が書いていたが、これだけの総括的なぶち込みは、高度な編集の技が無ければできるもんではない。例えば、"On Blue Mountain"という曲である。ドアーズを歌うブラック・フランシスではじまったなあ、と思っているとヴェルヴェット・アンダーグランドになり、ストーンズも入って来た、なかなか変化に富んだ助走じゃねえか。と思っていると、いきなり白いジャンプ・スーツのエルヴィスが出て来て腰を振りながら"We can't go on together with suspicious mind"のメロディを歌い出すもんだから、なんだこの人たちはふざけていたのか。と、大笑いしてしまうのである。ここまで、1分30秒だ。めまぐるしい。めまぐるしいんだが、実に巧妙に繋がっている。
"Oh Year"ではT.レックスとプリンスがせつなく喘いで情交しながらスタンダップ・コメディをやっているし、"Shuggie"はスペシャルズを歌うセルジュ・ゲンズブールではじまりながら、何故か中盤はアンドリュー・ロイド・ウェーバーの『オペラ座の怪人』になっている。
この過剰に盛りたくさんな感じで思い出すのは、英国チャンネル4の名作コメディ『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』だ。この番組を作ったメンツが、後に『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』や『宇宙人ポール』などの映画を世に送りだしたわけだが、彼らが世に出るきっかけとなった『SPACED』と、Foxygenの音楽は似ている。あのドラマも過去の映画へのオマージュが短いスパンで次から次に出てきた。しかも、そのめまぐるしいカットがシュールなほど芸術的に繋がっていて、巧いが故に妙におかしい。というところがあった。
また、Foxygenは、さまざまなジャンルの音楽を交尾させて見事なハイブリッド・ミュージックを創造したAlt-Jのレトロ版なのかという気もしている。この両者には、多種多様な音楽をディスカヴァーして目を輝かせて模倣しているだけでなく、それらを弄んでやろうというアロガンスが感じられる。
わたしは市井の労働者なので何のムーヴメントにも乗る必要ないからはっきり書くが、この歳になるとべとべとにロマンティックな懐古ロックはどうでも良い。こちらのノスタルジアを、けけけ、と嘲笑ってくれるような、そんな若者の才気が、腰を押さえて「オー・マイ・バック」とか言って働いている年寄りの生活にビタミンをくれるのだ。んなわけで、インフルと腰痛に苦しんだ今年の冬(はまだ続いているが)、もっとも頻繁に聴いたのはこのふざけたアルバムだった。
ちなみに、サッチャーが亡くなった英国でも、ヒット・チャートに返り咲いているのはザ・スミスではない。『オズの魔法使い』の"ディンドン! 悪い魔女は死んだ"がiTunesチャートでトップ10入りしているというから、こちらもまたふざけている。
ブレイディみかこ