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(((さらうんど)))

Pop

(((さらうんど)))

New Age

カクバリズム

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竹内正太郎   Jul 17,2013 UP
E王

 よく磨かれた鏡の上をスッと滑る光のような、あるいはプリズムを通じてパッと散らばっていく光の粒のようなシンセサイザー......そのよく澄んだ音色、豊かな立体感。イントロダクション"Welcome to Brand New Age"からして、音の鳴りがすごい。60年代、〈モータウン〉のサウンド・エンジニアたちはスタジオの床が擦り減るくらい、つまりグルーヴを身体で確認するために立ちっぱなしで作業していたというが、この(((さらうんど)))のチームはと言えば、煌めく音の、その光の反射率でも測ったのではないだろうか。それくらい、音の鳴りがまずもって素晴らしい。
 「空気の振動を聴くという行為そのもののなかに、既に報酬が含まれている」――ここのところ、そんなことをまたくよくよと考えているが、それ以外の具体的な感想や、それ以上の分析めいたものは、おそらく副次的なものに過ぎない。品質管理が驚くほど徹底された本作に、そんなプリミティブな領域が確保されているとすれば、それはエンジニアである得能直也(ここ1年ではVIDEOTAPEMUSICの佳作『7泊8日』や、ceroの大躍進作『My Lost City』、また最近ではフル・アルバムを控える注目株、森は生きているのシングル「日々の泡沫」のマスタリングなどを手掛ける)によるところが大きいのだろう。

 だが、そんな透明な体験を助けもし、また邪魔をもするのがこのポップスという音楽だ。そこには言葉がどこまでも付きまとい、時には歌い手のエゴを前面化させる。だからそもそも、僕が昨年、一十三十一の『City Dive』や、この(((さらうんど)))にどうしようもなく惹かれたのは、ポップスの純然たる機能性というものがそこで批評的に復元されているように思えたからだし、だから一十三十一がこの夏、前作で得た自信をスムースにフィードバックし、新作『Surfbank Social Club』においてもやはり、シティ・ガールとサマー・ビッチのあいだで優雅に微笑んでいるのを、悪いとは思わない。それは、終わらない夏の国の甘いファンタジーだ。
 だとすれば (((さらうんど)))は、この『New Age』で、もうちょっと込み入ったジレンマを抱えながら帰ってきたように思える。たしかに、より丹念に気密化されたシンセ主体のウワモノ、ディスコ~ハウスのエッセンスをポップスのフォーマットに落とし込む、跳ねるようなリズム・セクション、あるいはサックス(後関好宏)やギター(Kashif)によるテクニカルなソロ・パートは、どれを取ってもバンドの状態の良さ、充実感がビシビシと伝わってくるし、鴨田潤(a.k.a イルリメ)の優しい歌声は、ポップ・シンガーとしてすっかり板についた感がある。

 が、彼らは機能性の復権/その保守、というレヴェルではどうにも我慢がならなかったようだ。彼らはより大胆に、機能性から普遍性への飛躍を目指しているように思う。そう、鴨田はいま、20年前にこの国で打ち鳴らされた小沢健二の音楽を、「理想を歌うポップス」と呼び、より確信的にポップスを標榜している。前作において、佐野元春のカヴァー"ジュジュ"に比べればいくらか遠慮がちに思えたヴォーカルのメロディも、本作では多様なゲストから助力を得ることによってさらにポップに磨かれている。
 リード曲であるシングル"空中分解するアイラビュー"はもちろん、メンバーであるCrystal作曲によるハウシーな"Imagination.oO"、そして彼と砂原良徳が共作した、続く"きみは New Age"は、アルバム序盤のダメ押しとなる。また、スカートの澤部渡による"Neon Tetra"は生音とエレクトロニクスの配合が絶妙なアレンジに、ceroの荒内佑による"Swan Song's Story"は極上のアーバン・ポップに仕上げられ、鴨田による新しいアンセム"Hocus Pocus"が最後に待っているのだから、まったく甲乙付け難い(そして相変わらず、完璧な曲順!!)。

 「POP」なき時代に、それでもポップスを目指して――。この『New Age』は、そういう大きな野心を持って43分をドライヴする。とても情熱的に。一義的には、その目標はほとんど達成されていると言えるだろう。
 もちろん、そこに懐疑的な眼差しを向ける人もいるかもしれない(小沢健二の最近の話題と言えば、例えば倖田來未による"ラヴリー"のカヴァーなんかだったし、若年層のシティ・ボーイにはずいぶん分の悪い方向性だろう、あるいは)。小言が許されるなら、僕はその視線を鴨田自身が先回りして歌詞を綴ったような"Neon Tetra"の言葉が少し気になった。彼の知性がそうさせるのだろうが、『LIFE』期の確信的な小沢健二に限って言えば、おそらくはそのメタ・ヴァージョンは原理的に存在し得なかったはずである。
 であればこそ、鴨田は言葉としてのポップス論を、少なくとも楽曲内に持ち込むべきではなかったのではないだろうか。ほんの少しの隙を見せた本当に数少ない場面で、彼はその誘惑に負けているようにも思う(アルバムに寄せられた公式声明「New Ageのプロローグ」においても驚くほど饒舌だ)。大原大次郎の鮮烈なまでにスタイリッシュなジャケット・デザインに比べて、言葉にはまだ脂肪分が多い気もする。

 だが......ポップスの良し悪しを知る最良の方法は、口に出して、一緒に歌ってみることだ。歌詞カードを読んでいるだけでは分からないものが、そこで見つかることもある。だから、言葉の表面を眺めて、そこから浮かぶ何かをここでつらつらと書き連ねるには、まだ時期があまりにも早いだろう。ひとつだけ言うなら、離別のシーンや感情が多い気がして、表層をすくうだけでは分からない何かが、自分で書いた言葉を使うなら「ポップスの報酬」が、その奥にこそ隠されているような気もしたのだが......。
 ともかく、僕は『New Age』をとても気に入っている。ほとんどが前作の成果を踏襲した順当なフォロー・アップだが、鴨田がひと時だけイルリメに戻るような"Soul Music"の、サイケデリックなプロダクションもいい。と言うか、だいたい、これ以上のセカンド・アルバムをどうやって想像できようか。この夏は、このキラキラの音楽で部屋の空気を振るわせていようと思う。床に立って、グルーヴをたしかめ、できれば一緒に声を出しながら。ひこうき雲を消えてから探すのでは、遅すぎる。

竹内正太郎