Home > Reviews > Album Reviews > Octavian- Endorphins
Octavian の2作目となるアルバム・スケールの作品『Endorphins』がリリースされた。前作の『SPACEMAN』で脱力した雰囲気で歌い上げるスタイルで一躍人気となった彼は、イギリス各地の単独公演をソールドアウトさせるなど破竹の勢いだ。そんな彼の2作目はこれまでのスタイルを維持しつつ、音楽的にジャンルをクロスオーヴァーしながら試行錯誤を重ねた1作だ。
本作品はゴスペル調の 1. “Gangster Love” で幕を開ける。Octavian は前作『SPACEMAN』で見せた強さの裏にある「粋な」優しさを見せる。続く 2. “King Essie” ではセルフボーストを、3. “Molly Go Down” は落ち着いたトーンでスローダウンしたような感じがあり、エクスタシーを摂取した翌日の抑うつ的な気分を感じさせる。フロリダの Smokepurpp を客演に招いた 4. “Take It Easy” は、バウンスなビートとテンションの低い音色、Smokepurrp のヴァースのフロウの巧みさという組み合わせが特に素晴らしいが、 Octavian もUKのスラングを多用せずヒップホップのメインストリームに乗り出していこうという気概を感じた。
8小節のイントロを挟んで、後半ではより実験を重ねていく。6. “Feel It” では80sポップスを感じさせる爽やかなインストに乗せて、モノトーンに歌い上げる Octavian と対照的にキレのある Theophilus London のラップが絶妙なバランスで絡む。さらにミュージック・ヴィデオのヴィジュアルもいい意味で力が抜けていて、ラッパーとしての新たな一面を見せてくれる。
マッシュルームを食べながら作ったとされる 7. “Risking Our Lives” はかなり支離滅裂だが、8. “No Weakness” では再びベースラインにロック・サウンドを感じさせるトラップ・チューンに乗せて強気なラップを乗せ、9. “World” ではカラフルなダブ・トラックが世界観を広げる。この作品全体のハイライトと感じたのは、SBTRKT の “Right Thing To Do” のカヴァー 10. “Walking Alone” である。歌詞の意味が Octavian がこのアルバムの流れの中で歌うことでより刹那的に変わり、彼のアドリブはオリジナルに新たな息を吹き込む。ヴォーカルと Jessie Ware の歌とのバランスが良い。3分以降のギター弾き語りのパートでは、これまでのモノトーンなフロウが打って変わってソウルフルなラヴ・ソングになる。そのエモーションはそのまま Abra を迎えた “My Head” に引き継がれていく。
A$AP Ferg が参加した “Lit” は、これまでの流れから見ればアウトロのような位置付けの1曲で、ヒップホップのマナーでヒットを狙った1曲だろう。
前作でトラップやドリルが全面に押し出され、暴力的なリリックが多くを占めていたのと比べると、ラップは若干ソフトになり、音楽的な幅を広げ、カヴァーにも挑戦するなど試行錯誤が見られる。特にオートチューンのかけ方は、Bon Iver のような「ハーモナイズ」をメインとした使い方でなく、生感の強いソロのオートチューンを中心に据えて、強気の奥に潜む悲壮感や孤独感を感じさせる。また、ベースラインがしっかりしたバンド・サウンドを808トラップ・サウンドの中に取り入れることで新たなポップネスを獲得した1作だ。
米澤慎太朗