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電気グルーヴ

電気グルーヴ

and the ARENA ~みんなとみらいのYOUとぴあ~
@みなとみらいのぴあアリーナMM

2022年10月15日

文と写真:野田努 Oct 19,2022 UP

 基本的にぼくは疲れている男だ。これは自己嫌悪型ナルシズムではない、と自分では思っている。明日、起き上がって歩けるだろうかというレヴェルにおいて、本格的に疲れているのだ。悲しいことに、若い頃のように夜が明けるまでぶっ通しで飲むことができないどころか、ビールのジョッキを5〜6杯と焼酎を少々飲んだぐらいで翌日に残ってしまうという有様だったりする。ライヴの当日がまさにそうだった。前日の夜、恐れていた二日酔いに見舞われると、自分のメランコリックな属性が稼働し、さらに悪いことに朝から最悪のことばかりを想像してしまう。「何も変わらないだろう」と電気グルーヴは歌ったが、人類は少数の富裕層と大多数の下々という、考えてみれば昔ながらの世界に回帰した。おめでとう。そしてぼくはゾンビの大群のひとりのように電車に乗って、ふらふらとみなとみらいへと向かった。なんとか歩けるようだし。
 最近、代名詞についてちょっと調べる機会があった。中国の(秦の)始皇帝は自らを「朕」と呼んだが、これはもちろん庶民には使えない言葉だった。中国語の一人称代名詞は「我」で、その言葉には価値のない身体という意味があったという説があるらしい。正しいか俗説なのかはわからないが、少なくともぼくには相応しく思える。そんなことを思いながらも、ぼくはステージ上で踊っているひとりの「朕」=ピエール瀧を眺めていた。
 ワンマンライヴは3年振りだとステージ上のふたりは言っていたけれど、ぼく個人にとってはもっと久しぶりだった。最後に見たワンマンがいつだったか思い出せないくらいに。それはたぶん、人間生活にとって不都合な管理体制がいまほどきつくなかった時代だったかもしれない。インターネットがよりよい世界を作るだろう、新しいコミュニケーションをうながしオンライン上では誰もが自由に自己表現ができるだろうなどという説を知識人たちが喧伝しはじめた頃だった。人類が、日がな一日液晶画面のなかのアルゴリズムによる広告や動画を視界に入れながら、敵を作らないよう細心の注意が払われた安っぽい文章を読むか、さもなければ好みの動画で時間をつぶすこともなかったあの時代の電気グルーヴのライヴなら、人に自慢できるほどたくさん見ている。彼らがギリギリのところで存在していた奇跡的な時代のドキュメント、思い出だらけのあれこれ……。


 
 二日酔いの身体にビールを流し込むことは決して快感ではないはずだが、音楽とは不思議なモノで、電気グルーヴのライヴがはじまってから3曲目だったか、“モノノケダンス”のころにはビールのなかに抗うつ剤が混じっていたのかと疑ったほどだった。
 電気グルーヴは素晴らしかった。クラフトワークと同じように、彼らはテクノの徹底的な大衆主義者だ。エンターテイナーとしての自分たちの型と世界を持っている唯一無二の存在だ。誰もがその扉を開けることができるし、誰もが楽しむことができる。ヴィジュアルや照明といった演出も良かった。ライヴが終わったあと、ぼくはその場にいた湯山玲子にもっともらしくそんなことを言った。
 しかしごめん、湯山さん、ぼくがライヴの最中に泣いたのは、じつは“Fallin' Down”のときだった。その曲が名曲であるかどうかを判断する基準として、リスナーの個人的な事情や社会の認識という主観が許されるなら、こいつはこの夜のぼくにとってはスマッシュヒットだった。もっとも盛り上がった曲のひとつで人気曲、石野卓球がワンコーラス目を歌い逃したほど感極まったかに見えた“NO”は、ふたりの友情の証でもあるが、PWEIがサンプリングした1977年のディスコ・ソング(Belle Epoque)の冒頭のアカペラを情熱のこもった愛らしいイントロに変換してしまった意味においてもこの曲はインパクトがある。PWEIは、1980年代のまだロック主義者たちがディスコを見下していた時代に、茶化しと反抗とユーモアの入り交じったサンプリング芸としてそれを見せたわけだが、電気グルーヴは彼らの精神を継承しながらも、ひとつのジョークとして、さながら文化的階級闘争のように、もはやディスコこそが最高だと他を見下しているかのようなのだ。そう、ピエール瀧こそが朕であり、そしてステージ上では朕の執行猶予明けが報告されもした。「執行猶予中のみなさん、もうすぐだからね」と、彼は人びとを勇気づけることも忘れなかった。

 相変わらずのリップサーヴィスのなかで、自分たちは資本主義者で金の亡者だから物販を買って欲しいと繰り返す場面もあった。ぼくはこれにも笑った。反資本主義と言いながら何万部突破などと宣伝していることより信用できるだろう。とまあ、そんな具合に、1万人以上のオーディエンスを2時間ものあいだ楽しませた電気グルーヴは、アンコールでは“富士山”をやって、それからさくっと「みんなとみらいのYOUとぴあ」という面白い言葉を冠したライヴ公演の幕を下ろした。“人間大統領”も“虹”もやらなかったけれど、なんの不満もない。理解を超えた、不毛(ナンセンス)なことに熱中することはなんて楽しいのだろう。それがこんなにもまぶしいポップな娯楽として成立している世界は、そんなに悪くない。
 
 電気グルーヴは、11月には全国ツアー「みんなと未来とYシャツと大五郎」も控えている。 

 

文と写真:野田努