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ロンドンを拠点に活動を展開するエレクトロニック・ミュージック・プロデューサーのワードカラー(ニコラス・ウォラール)のサウンドには、シンセサイザーの魅惑的な音色、コラージュされる声、細やかなリズムが横溢している。
特に今年リリースされた彼の最初のアルバム『The Trees Were Buzzing, and the Grass.』は格別な出来栄えだ。過去2作のEP作品で展開されていたサウンド・コラージュ的な要素とエレガントなエレクトロニック・ミュージックの要素が融合し、エクスペリメンタル・ミュージックの領域へと無理なく拡張したアルバムに仕上がっていたのだ。
最初にワードカラーのリリース歴をざっと振り返っていくと、まずロンドンのアンダーグラウンド・ミックス音源で知られる〈Blowing Up v The Workshop〉から『I Want To Tell You Something』という秀逸なミックス音源を2019年にリリースした。翌2020年には、スペインはバルセロナの〈Lapsus Records〉から最初のオリジナル音源であるEP「Tell Me Something」をリリースし、その2021年にはロンドンの名門〈Fabric Records〉傘下のレーベル〈Houndstooth〉からEP「Juno Way EP」を、2021年にはEP「Bluster」を相次いでリリースする。特に「Juno Way EP」におけるサウンド構築の進化が凄まじい。音のコラージュがいっそう研ぎ澄まされていたのだ。
彼の作り出すサウンドは、さまざまな音源からサンプルングされた声の要素などをコラージュ的に組み合わせていく最新型のエレクトロニック・ミュージックである。シンセサイザーの音色の聴き心地もよく、けっして聴きづらくはないが、実験的な要素もそこかしこにある。その音世界には優雅なムードが流れており、曲の頭からつい引き込まれてしまう。
そして2022年に〈Houndstooth〉から『The Trees Were Buzzing, and the Grass.』を送り出す。このアルバムは今年リリースされたエレクトロニック・アルバムのなかでも、注目すべき現代性を宿している逸品といえる。
シンセサイザーの音色の魅力を存分に展開しつつも、コラージュ的な構成を展開していく楽曲はとにかくモダンだ。機能性が、その機能を逸脱するというよりは、拡張するかのようにエクスペリメンタルなサウンドに隣接するさまを味わうことができるのだ。
なかでもシンセサイザーのアルペジオとフレージングにドラムンベース的なリズムが断片的にレイヤーされる2曲め “Blossom” に聴きいっていると、数年前の「OPN以降」という言葉を久しぶりに思い出した。あえていえばワードカラーの音は「OPN以降がもはや当たり前のものになった時代」のサウンドではないか。つまり「以降の以降」というフェーズが鳴っているように思えたのだ。洗練と深化の時代とでもいうべきか。
じじつ、ワードカラーの『The Trees Were Buzzing, and the Grass.』には、声のコラージュ、柔らかい電子音、シンセサイザーのシルキーな音色とアルペジオなど、いまの電子音楽を考えるにあたって重要な要素がすべて揃っている。そう、『The Trees Were Buzzing, and the Grass.』は、2022年に聴く「いまの音」であり、2022年以降の新しいモードを模索するためにも重要なアルバムである。
コラージュとシンセサイザー・電子音楽のいまとその先へ。新しい情報密度を持ったエレガントなエレクトロニック・ミュージックがここにある。例えばカテリーナ・バルビエリの2022年作『Spirit Exit』とともに聴き込みたいアルバムではないかと思う。
デンシノオト