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Marquis Hawkes

House

Marquis Hawkes

The Marquis Of Hawkes

Houndstooth

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小林拓音   Sep 05,2018 UP

 風向き、勢い、流れ。たしかにそういうものはあるのだろう。アイシャ・デヴィやパリア、あるいはコンピレイション盤『In Death's Dream Kingdom』など、立て続けに佳作を送り出している〈Fabric〉傘下の〈Houndstooth〉から、またも充実のアルバムが届けられた。今回は、ハウスである。

 マーク・ホーキンスはベルリンを拠点に活動しているロンドン出身のプロデューサーで、90年代末よりさまざまなレーベルから数多くのシングルをリリースしている。2012年以降はマークィス・ホークスなるハウス専用の名義も用いはじめ、〈Dixon Avenue Basement Jams〉や〈Aus Music〉などからコンスタントに作品を発表しているが、2014年の「Fifty Fathoms Deep」を皮切りに〈Houndstooth〉とも良好な関係を構築、自身の暮らす「公営住宅」をタイトルに冠した前作『Social Housing』は、そのテーマとディスコ・オリエンテッドなサウンドで注目を集めた。このたびリリースされた『The Marquis Of Hawkes』はそれに続く2枚目のフルレングスとなる。

 来るべき祝祭の予兆を感じさせるビートレスな冒頭の“Beton Theme”、この曲こそが本作全体の鍵を握っている。というのも、この曲を覆うウェイトレスなシンセ・サウンドが、アルバム全体の方向を決定づけているからだ。アースラ・ラッカーが「あなたはただダンスしたいだけでしょ?」と語りかける先行シングル曲の“Don't U”、それに続く“Instrument Of Thought”や“Tough Love”、あるいは折り返し地点に配置された“The Matrix”やアシッディな“Hope In Our Hearts”などなど、その幽玄な音の響きはときにうっすらと、ときに大々的に各々のトラックを彩り、アルバム全体に90年代のムードをもたらしている。それらメロディアスなシンセの来し方をたどれば、いやおうなしにデトロイトに行き着くことになるだろう。

 もちろん、これまでの彼の作品にデトロイト・テクノからの影響がなかったわけではない(そもそも本名名義のほうで彼がやっていたのは、テクノである)。けれども、たとえば前作『Social Housing』は、ジョセリン・ブラウンの参加が如実に物語っているように、全体としてはディスコを志向したアルバムだったわけで、その路線が大きく変更されたのは、前作に引き続きアートワークを担当しているアラン・オールダムの存在が何かしらの影響を与えたからなのかもしれない。DJ T-1000名義などでデトロイト・テクノの一翼を担ってきたかのプロデューサーは他方で、それこそリディム・イズ・リディムの初期名作群のアートワークを手がけたイラストレイターでもあるわけだけれど(現在はベルリン在住の模様)、『The Marquis Of Hawkes』を特徴づけているメロディアスかつウェイトレスなシンセ音は、そういった初期〈Transmat〉や〈Retroactive〉のサウンドを彷彿させもするのである。
 とはいえ本作の軸足はあくまでハウスに置かれており、いわゆるソウルやファンクの要素が失われてしまっているわけではない。注目すべきは最後の“We Should Be Free”だろう。フィーチャーされたジェイミー・リデルが、軽快に突き進んでいくキックとピアノに後れをとるまいと一心不乱に、しかし彼らしく妖しげにくねくねと歌い上げるさまはとにかく最高である。

 今年は折々のタイミングで、デトロイト由来のシンセ・サウンドを響かせる作品が目に留まる。ダニエル・エイヴリーがテクノ~IDMの分野で、エックス・アルテラがジャングル/ドラムンベースの分野で改めてその功績を確認したのだとしたら、ハウスの分野で同じことをやってみせたのがマークィス・ホークスのこのアルバムということになるだろう。散発的に回帰する90年代、あるいはデトロイトの幽霊たち。いまはやはりそういう風向きなのだ。

小林拓音