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die ANGEL

die ANGEL

Entropien I

Cosmo Rhythmatic

disk unionbandcamp iTunes

デンシノオト   Dec 19,2017 UP

 エンジェルは、2016年に亡くなったミカ・ヴァイニオがメンバーであったフィンランドのエクスペリメンタル・ユニット、パン・ソニックのイルポ・ヴァイサネンと、シュナイダーTM名義でも知られるダーク・ドレッセルハウスによるユニットである。

 彼らは、まず2002年にファースト・アルバム『ANGEL』を〈BiP_HOp〉からリリースした。4年を置いた2006年、モダン・クラシカルの作曲家/チェロ奏者のヒルドゥル・グズナドッティルとの共作『In Transmediale』を、アクフェン、モノトンなどをリリースしていたモントリールの〈Oral〉から発表する。さらに2008年には〈Editions Mego〉より『Kalmukia』『Hedonism』を連続リリース、2009年には〈Important Records〉からストリングス・オブ・コンシャスネスとの共作『Strings Of Consciousness & ANGEL』を発表。2011年には〈Editions Mego〉から『26000』、2014年には同じく〈Editions Mego〉から『Terra Null.』と、コンスタントにアルバムを送り出してきた。中でも『Terra Null.』はプログレッシヴ・ノイズとでも形容したいほどのコンセプチュアルなアルバムに仕上がっており、その時点での彼らの最高傑作といえる仕上がりだった。
 また、2010年のパン・ソニック活動休止以降は、ミカ・ヴァイニオのソロ・アルバムやØ名義、イルポ・ヴァイサネンのI-LP-O In Dub名義での活動と共に、元パン・ソニックの音楽をわれわれリスナーが追うことができたプラットフォームでもあった(いや「元」であったのか分からないが)。

 そして前作から3年後の2017年、新作『Entropien I』が発表されたわけだが、2008年以降のお馴染みであった〈Editions Mego〉からのリリースではなく、ブラック・レイン&シャープノイズ、ミカ・ヴァイニオ&フランク・ヴィグロー、ジェシー・オズボーン・ランティエ&グリーシャ・リヒテンバーガーなどのリリースでマニアに知られる〈Cosmo Rhythmatic〉からの発売で、そのうえユニット名が「ダイ・エンジェル」と変更されていた。メンバーにオーレン・アンバーチが加わっているので、一種の新ユニットともいえなくもないが、リリース間隔から考えると明らかにエンジェルの新作にも思える。
 などと思っていると、どうやら本作には2017年に亡くなったミカ・ヴァイニオへの追悼アルバムという意味合いがあるという。とすると「死んだ天使」とはミカ・ヴァイニオのことだろうか。盟友イルポ・ヴァイサネンだからこそ言える追悼の言葉にも思える。

 とはいえ制作自体はミカ・ヴァイニオが亡くなる前から進められていたらしい。というのもアルバム・クレジットに、2015年12月から2016年1月にかけてイルポ・ヴァイサネンとダーク・ドレッセルハウスのリアルタイム・パフォーマンスがベルリン「Zone」で録音され、その後、2016年4月から5月にかけてイルポ・ヴァイサネンとオーレン・アンバーチよるオーバーダブが「Zone」で行われたと記されているからだ。
 この経緯を踏まえると、もともとは エンジェルの新作としてスタートしたとすべきではないかと思う。つまり2015年12月から2016年1月に エンジェルの新作としてベーシックとなる録音を取り終え、同年4月にオーレン・アンバーチを招いて録音が行われた。だが2017年のミカ・ヴァイニオの突然の死によって、彼らはユニット名を変更してでもアルバムに追悼の意を込めたのだろう(最終的な編集段階でサウンドに変更が加えられたのかもしれないが)。ちなみに編集とミックスはダーク・ドレッセルハウス、マスタリング/カッティングをマット・コルトンが手掛けており、前作以上に極上のノイズ・サウンドを満喫できるアルバムでもある。

 むろん、そのような憶測よりも、まずは「音」である。とにかく腐食した鋼鉄のごときノイズが圧倒的なのだ。本アルバムには全7曲が収録されているが、オーレン・アンバーチ特有のクラウト・ロック的なミニマル・ドラム(ハイハットの規則的な刻みだが)が聴けるのはA2“Terminen Kevät”のみであり、ほかのトラックはどれもダビーな音響処理のもと、強烈なヘビー・ノイズ・サウンドが展開されている。

 “Terminen Kevät”もミニマルなハットのむこうにさまざまなノイズ・サウンドが横溢しているし、A3“Kitka”ではグリッチに反復するリズムの上に、鋸のようなノイズ・サウンドが咆哮をあげている。いわば「グリッチ・メタル・ノイズ」とでも形容したい音なのだ(もしもパン・ソニックの新作があったとするなら、このような音になったのではないかと妄想すらしてしまったほど)。続くA4“Silvaticum”はスローなテンポと空間的な音響のなか、ダブ・ノイズ的なサウンドが展開するなど、ドープな緊張感に満ちたトラック。一転して、B1“Papyrus”では、反復する声を編集した高速ループの地響きのようなノイズ・サウンドがレイヤーされる。B2の“Entropia - North”、“Entropia - South”は組曲形式で展開するトラック。“Entropia - North”は15分に及ぶ長尺で、ダブ・ノイズ・サウンドが堪らない。そして終局近くで鳴り響く雷鳴のごときノイズ・サウンドは眩暈がするほど強烈。インダストリアルなノイズは近年飽和気味だが、このダイ・エンジェル『Entropien I』は、やはり流石の完成度である。ノイズ・サウンドが、その純度を保ったまま、新しい強度を、そのサウンドのレイヤーとコンポジションによって獲得しているのだ。
 私は本アルバムを聴いていると、ミカ・ヴァイニオがパン・ソニック以前にヤンネ・コスキ、タピオ・オンネラらと活動していたインダストリアル・ユニット、ガガーリン‐コンビナッティ(Gagarin-Kombinaatti)の鋼鉄/腐食のノイズを思い出してしまった(2015年に〈Sähkö〉傘下で、ジミ・テナーが主宰する 〈Puu〉から音源集『83-85』がリリースされたので、近年でも簡単に聴けるようになった)。いわばインダストリアル・ノイズの過去と現在が結びつくような感覚とでもいうべきか。

 それにしても「I」ということは「II」もあるのだろうか。とすれば彼らはどんな極上のノイズ・サウンドを聴かせてくれるのだろう。これほどのサウンドを聴いてしまうと、やはり次が気になってしまう。このネクストへの期待・希望を持たせてくれる点が重要だ。これで終わりではない(かもしれない)。まだ、次はある(かもしれない)。未来に尽きぬ希望を賭けること。ネクストへの意志。それこそが「天使」から「天使」への最高の応答のように思えてならない。

デンシノオト