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Sequoyah Murray

ElectronicPopR&B

Sequoyah Murray

Before You Begin

Thrill Jockey / Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

野田努   Sep 30,2019 UP
E王

 アトランタといえばいまじゃトラップのいわば聖地だが、セコイア・マーレイ(Sequoyah Murray)を虜にしたのはグライムスだった。そして彼はエレクトロニック・ミュージックに興味を抱き、地元のDIYコミュニティや即興/ジャズのシーンに出入りした。マーレイが今年の5月に〈スリル・ジョッキー〉からリリースしたデビューEP「Penalties Of Love(恋の罰)」は、“黒いアーサー・ラッセル”としてこぞって評価されているが、22歳になったばかりの若者の才能には、もっとさまざまな感覚が詰まっているという点において自由で、魅惑的かつ新鮮であることが先日リリースされたばかりのファースト・アルバム『Before You Begin』によって明らかになった。
 3オクターヴほどの音域を行き来しながら、バリトンヴォイスを自在に操るマーレイのヴォーカリゼーションは、ありし日のビリー・マッケンジーのようである。たしかにアーサー・ラッセル風だった「Penalties Of Love」とはまた違って、『Before You Begin』はグライムスの影響から来ているのであろうシンセポップ風の曲もあることも一因となって、色気と荘厳さを兼ね備えたマッケンジーを彷彿させる。つまり、イヴ・トゥモアがデヴィッド・ボウイならこやつはロキシー・ミュージックだ。恋がはじまったら、やがて終わりゆくであろうその甘美な時間は、しかし終わってはならない、断固として。

 両親ともに音楽家で、家にはプロのドラマーの父が作ったスタジオがあるという恵まれた環境で育ったセコイア・マーレイはポップスも大好きで、とくにビヨンセのファンであることを公言している。終わってはならない甘美な時間はポップスの本質でもあり、本作においてはミルトン・ナシメントとトロピカーナからの影響もあるそうだ。色気に満ちた声と実験性のあるポップ・サウンド(ゴスペル、アフロ、ラテン的サイケデリア)との素晴らしい結合は、この先大きな舞台にも昇りそうではあるが、ある記事によると今年ベルリンでマイク・バンクスに感銘を受けたというから、この若者はまだまだいろんなものを吸収していきそうである。
 近年はOPNであるとかローレル・ヘイローであるとか、ドレイクやジェイムス・ブレイクもしかりだが、ゼロ年代後半に脚光を浴びはじめた人たちもすっかりベテランと呼べるような年になって、そして同時に今後10年に重要な働きをしそうな若い世代が出はじめている。が、それにしても“Penalties Of Love”はキラーすぎる。

野田努