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ショック・ドゥ・フューチャー

ショック・ドゥ・フューチャー

2019年/フランス/78分/5.1ch/シネマスコープ/DCP/映倫区分G/原題「LE CHOC DU FUTUR」
監督:マーク・コリン(音楽ユニット “ヌーヴェル・ヴァーグ”)
出演:アルマ・ホドロフスキー、フィリップ・ルボ、クララ・ルチアーニ、ジェフリー・キャリー、コリーヌ
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://chocfuturjp.com/

(c) 2019 Nebo Productions - The Perfect Kiss Films - Sogni Vera Films

8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開

小林拓音   Sep 01,2021 UP

 未来の衝撃。そう題されたこの映画の舞台は、40年以上前のパリだ。ある特定の世代の懐古趣味と捉えられかねない側面がないわけではない。けれどもこの『ショック・ドゥ・フューチャー 』は、2010年代が終わりを迎えようとしている「現在」──フランス本国での公開は2019年──だからこそ、大きな意味を持つ作品だと思う。

 ときは1978年。当時のシンセサイザーは巨大だった。ゆえに部屋ごと機材を借りている主人公の若手音楽家アナは、依頼されたCM曲がうまくつくれず悩んでいた。とうに〆切は過ぎ、自身の立場を危うくしたくない男性担当者が押しかけてくる。そんなせっぱ詰まったタイミングで機材が故障、泣きっ面に蜂の状況に陥るも、修理に訪れた技術屋がたまたま持っていたリズムマシンにアナは天啓を得る。その後CM曲を歌うことになっていた歌手クララが部屋を訪れ、意気投合したふたりはその場でセッションを開始、名曲誕生の予感に胸を躍らせる。今夜のパーティにはレコード会社の大物も顔を出すらしい──
 ストーリーはいたってシンプルだ。フランス古典主義の「三単一」よろしく、ひとつの場所で、一日のあいだに、ひとつの筋が進行していく。主題をぼかさないための工夫だろう(序盤のカフェや終盤のセーヌとおぼしき川など、一部舞台は変更されるものの)。
 さりげなく画面に映りこむテリー・ライリー『A Rainbow In Curved Air』やブライアン・イーノ『Before And After Science』(当時出たばかりのぴちぴちの新譜)、ジョルジオ・モロダー『From Here To Eternity』(1年前にリリース)などの輝かしきエレクトロニック・ミュージックの重要盤、シャンソンやロックと対比的に流されるスロッビング・グリッスル “United” やスーサイドの “Frankie Teardrop”、それとわかるように明確に映しだされる SYSTEM-700 や CR-78 といった機材──パンフレットで野田編集長が指摘しているように、それら細部を確認することもまたこの映画の楽しみ方のひとつではある。
 しかし、ではぼくのように遅れて生まれてしまった者、かかっている曲をパッと答えられないような後追い世代の人間は、この映画をどう享受したらいいのだろう?


 作中では、あからさまな偏見やいやがらせが何度も挿入される。ほのめかされていた主題は、エンディングにおいて明確になる。「電子音楽の創生と普及を担った女性先駆者たちに捧ぐ」との献辞につづいて掲げられる、12人の音楽家たちの名前。そこにはウェンディ・カルロスをはじめ、近年再評価されているローリー・シュピーゲルやスザンヌ・チアーニ、ポーリン・オリヴェロスやベアトリス・フェレイラらの名が並んでいる。直接エレクトロニック・ミュージックとは関係のないパティ・スミス『Horses』が映り込んだり、アナがジャニス・ジョプリンのTシャツを着ていたりすることにも、意味がこめられていたのだ。

 2010年代のエレクトロニック・ミュージックの動向のひとつに、女性音楽家たちの著しい擡頭があった。ローレル・ヘイローをはじめ、インガ・コープランド、マリー・デイヴィッドソン、ホーリー・ハーンダン、コリーン、ジュリアナ・バーウィック、ソフィー、グライムス、ファティマ・アル・カディリ、ジェイリン、ガゼル・トゥイン、ジェニー・ヴァル、ケイトリン・アウレリア・スミス、クライン、ラファウンダ、カテリーナ・バルビエリ、ピュース・マリー、ニディア、キシ、アフロドイチェ、アースイーター、ヤッタ、ムーア・マザー、クララ・ルイス、ルクレシア・ダルト、フェリシア・アトキンソン、ビアトリス・ディロン、サラ・ダヴァーチ、Cuushe、galcid、ユウコ・アラキ、直近でいえば2021年の台風の目たるロレイン・ジェイムズにヤナ・ラッシュ、以前から活動していたひとたちのさらなる躍進という意味ではコージー・ファニ・トゥッティや Phew、パメラ・Zやエレン・フルマン、上述の献辞には登場しないがおなじく再評価されている例としてポーリン・アンナ・ストロームなどなど、枚挙にいとまがない。
 彼女たちの音楽が高く評価されたのは、彼女たちが女性だったからではない(もちろん、女性でなかったからでもない)。単純に、その音が尖鋭的だったり独創的だったり強度を持っていたりしたからだ。2010年代とは、エレクトロニック・ミュージックがつくり手のジェンダー(や人種や年齢)に左右されず正当にサウンドで評価されるジャンルだということに、多くの人びとが気づくようになった時代なのだ。

 映画には二重の苦難が描かれている。ひとつは、ポピュラー・ミュージックにおいて電子音楽が異端でキワモノ扱いされていた時代に、それをやるということ。もうひとつは……本作にはアナが、「歌手になれば?」とアドヴァイスされる場面が出てくる。いまそんな助言をするやつはいない。「女性=ヴォーカリスト」という固定観念が失効するまでに、40年近くかかったということだ(似たような偏見に「女は機械に弱い」というのもある)。「未来の衝撃」の意味を、ぼくはそう解釈した。
 過去へのリスペクトに満ちたこの映画はじつは、今日においてまたべつのかたちの偏見と闘っているひとたちへのエールなんだろうと思う。オバマが大統領に就任したとき、ローザ・パークスの「拒否」から50年以上が経過していた。いまの苦労や試行錯誤が報われるのは半世紀後かもしれない。でも、あなたがやっている尖鋭的な試みはけっして間違ってはいないと、『ショック・ドゥ・フューチャー』は、現在見向きもされず、トレンドから遠く離れたところで実験に明け暮れている、野心あふれるチャレンジャーたちに激励を送っているのだ。

予告編

小林拓音