サウス・ロンドンを中心に、若く新しいアーティストによって活況を呈するイギリスのジャズ・シーン。いろいろなタイプのアーティストが活動しているのだが、そうしたなかでもっともクラブ・ミュージックやストリート・サウンドとの連携を見せるひとつがブルー・ラブ・ビーツである。
ブルー・ラブ・ビーツはプロデューサー/ビートメイカーの NK-OK ことナマリ・クワテンと、マルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーのミスター・DM ことデヴィッド・ムラクポルがロンドンで2013年に結成したユニットで、2016年にEPの「ブルー・スカイズ」でデビュー。ヒップホップやR&B/ネオ・ソウル、ハウスやドラムンベース、ブロークンビーツなどのプログラミング・サウンドとジャズ・ミュージシャンたちによる生演奏を融合し、ラッパーやシンガーたちとのコラボを積極的におこなっている。アメリカにおけるロバート・グラスパーやサンダーキャットなどの新世代ジャズの影響を受けつつも、レゲエ/ダンスホールやグライムなどUKらしいクラブ・サウンドのエッセンスを取り入れているのが特徴である。ファースト・アルバム『クロスオーヴァー』(2018年)ではモーゼス・ボイド、ヌバイア・ガルシア、アシュリー・ヘンリー、ネリヤらと共演するなど、サウス・ロンドンのジャズ・シーンとも深く関わりを見せ、セカンド・アルバムの『ヴォヤージ』(2019年)ではアフリカ、カリブ、ラテンなどのルーツ・ミュージック的なテイストを色濃く表して進化を見せた。
2021年からは〈ブルーノート〉と契約を結び、今年は3年ぶりのニュー・アルバム『マザーランド・ジャーニー』をリリースした後、キャリア初のライヴ盤となる『ジャズトロニカ』を発表している。この『ジャズトロニカ』はクラシックなどの世界でも名高いロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでの録音で、JFエイブラハムが指揮するマルチ・ストーリー・オーケストラとの共演という、これまでのブルー・ラブ・ビーツの作品のなかでも異色のものとなっている。こうしてまた新たなチャレンジを試みたブルー・ラブ・ビーツが待望の初来日公演をおこなった。会場はブルーノート・ジャパンが手掛ける新業態のダイニング「BLUE NOTE PLACE」(東京・恵比寿)で、12/6~9と4日間に渡って日替わりでゲスト・ミュージシャンやDJも入り、マイケル・カネコら日本のアーティストとの共演もおこなわれた。このライヴの合間を縫って、初めて日本の地を踏んだ NK-OK とミスター・DM に話を訊いた。

向かって左がNK-OK(ナマリ・クワテン)、右がミスター・DM(デヴィッド・ムラクポル)
ライヴではみんなが即興でやれる自由を与えたい。自分の解釈でやってほしい。きっちりこのメロディ・ラインを吹かなきゃ、とか思わずにやってほしい。
■日本は初めてですよね?
NK-OK(以下NK):ああ。
■以前、日本のアーティスト Kan Sano さんと対談されていましたが、そのとき来日していたわけではないのですね。
NK:あれはZOOMでやったんだ。
■日本の印象はどうですか?
NK:とても美しい。ロンドンより全然クリーンで(笑)。比べ物にならない。
ミスター・DM(以下DM):ヴィジュアル的に惹かれる。
NK:すべてにおいてスタンダードが高くて、感動するね。
■気に入った場所とかあります?
NK:今朝、神社に行ったんだよ。このあたりの(と地図アプリを見せる。明治神宮のあたり)。少し歩いたよ。
■まずは発売されたばかりのライヴEP「ジャズトロニカ」についてお伺いします。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールという由緒正しき会場で録音されていますね。普段あなたがたがやっているトータル・リフレッシュメント・センターやジャズ・リフレッシュドなどでのライヴとはかなり毛色が異なっていますが、この会場でやることになった経緯を教えてください。
NK:ロイヤル・アルバート・ホールと言っても、厳密にはエルガー・ルームなんだよ。だからチケットも12ポンド(約2,000円)と手頃な値段だ。
DM:テーブルと椅子もとっぱらった。
NK:そう、スタンディングで400人くらいだったかな。ソールド・アウトになってすごく盛り上がったよ。ここ(恵比寿BLUE NOTE PLACE)もそうだけど、インティメイトなギグだった。「ハイプ・マン!」で「イェー!イェー!イェー!」とみんなを煽るやつを、普段はお堅いロイヤル・アルバート・ホールでできたのが最高だったね。「みんなジャンプしろ!」ってね。しかもバックにはストリングスがいて……最高の気分だった。
■エルガー・ルームというのは、ロイヤル・アルバート・ホールのなかにあるスペースのことですよね。
NK:ああ、普段は椅子があって150名くらい入るスペースで。新人のミュージシャンにしてみれば、そこでやっても「ロイヤル・アルバート・ホールでやった」と言えるということ。メインのホールよりはずっとハードルが低くて、チケットも手頃な金額になる。メインホールだと50ポンド(約8,300円)は越えるから。
WACは安い授業料で様々な音楽プログラムを提供するところなんだ。授業料は1時間で1ポンド(170円弱)くらいだったかな。そこでデヴィッドと会ったのさ。
■JFエイブラハムが指揮するマルチ・ストーリー・オーケストラと一緒にやることになった経緯も教えてください。
NK:ロイヤル・アルバート・ホール/エルガー・ルームの方から、それでやらないかとコンタクトがあり、それでストリング・セクションを集め、ネイティヴ・インストルメンツ社、スピットファイアー・オーディオ社、YouTubeミュージック社、〈ブルーノート〉などに話を持ちかけ、協賛金を出してもらった。YouTubeが全部撮影をしたので、いまは4曲ほどだけアップされてるけど、年内には全曲分が公開予定だ。
■ストリングスが入ることで、クラシック音楽との関連が見えましたが、おふたりはこれまでクラシック音楽を学んだことはありますか?
DM:まったくない。
NK:僕も。オーケストラにアレンジされたものを聴くのは好きだよ。J・ディラの……
DM:ミゲル・アトウッド・ファーガソン。
NK:そう、彼のJ・ディラのプロジェクトはよかった。
■今回のストリングスのアレンジとか編成に関しては、誰が、どんなふうにされたんですか?
NK:基本のアレンジは僕らふたりがやって、それをデヴィットから作曲家、そして指揮者に渡して、三者のブレインを集結させ、やりとりの末に仕上げたんだ。一度リハーサルをやって、本番に臨んだ。
■曲はおもに今年リリースしたアルバム『マザーランド・ジャーニー』からのものですが、オーケストラが加わることで大きく印象が変わっています。ライヴ用に新たにアレンジされたんですよね?
NK:ああ、そうだよ。
■今夜(12月7日)の BLUE NOTE PLACE でのライヴはどんな感じになりそうですか? ストリングスはいないですよね。
NK:(笑)。ああ、いないね。僕がドラムマシンとコンピューターを使って、プログラミングですべての音を出し……
DM:そこに僕がキーボードとギターでライヴの要素を加える。
NK:さらにはゲストでサックス(中島朱葉)、トランペット(曽根麻央)、ラッパー(鈴木真海子)、シンガー(ナオ・ヨシオカ)を迎えるよ。
■いつもイギリスでやるときのメンバーを全員連れてくるわけにはいかないと思いますが、今回のように現地のゲストを迎えることもよくあるのですか?
NK:ヨーロッパだったら、いつもやってるトランペットとサックス奏者を連れていけるけど、それより遠くだと予算を考えて、現地のプレイヤーを使うんだ。そうすることの楽しさももちろんあるよ。カナダのモントリオールでもそうだった。
■マイケル・カネコ(前日の12月6日に共演)さんとはどうでした?
NK:連絡をもらって、音を聴いて「すごいドープなやつだな!」って思ったよ。
■逆に、現地の方々とやることの難しさは?
NK:難しさは言葉の壁かな(笑)。それでも通訳を介して、なんとでもなる。
DM:僕らの音楽を、彼らがどう解釈してくれるか……それを聴くのが楽しいよ。
NK:ああ、それが聴けるっていうのがいちばん美しい部分だね。ライヴではみんなが即興でやれる自由を与えたい。自分の解釈でやってほしい、と。リハーサルでも、アレンジを知ってくれた上で自由にやってとお願いしたんだ。きっちりこのメロディ・ラインを吹かなきゃ、とか思わずにやってほしいと。昨夜もすごくいい感じだったよ。
[[SplitPage]]ひとつでいいから、自分たちの音楽のなかに初めて探索する部分がほしかった。やり慣れたエリアを離れて仕事をすることで、最終的には「メイク・センスするもの(意味が通じるもの)」ができたと思う。
■あらためて、これまでの歩みについても伺いたく思います。あなたがたが登場してきた2010年代後半はちょうどサウス・ロンドンのジャズ・シーンに注目が集まり、トム・ミッシュやジョルジャ・スミスなどのシンガーが台頭してきた時期でした。ですのであなたがたのこともそのくくりで見てしまいがちですが、じっさいはロンドンの北部を拠点にしているのですよね?
DM:ああ、ノース・ロンドンだよ。
■そこの大学で出会って、曲作りをはじめた?
NK:ベルサイズ・パークにあるウィークエンド・アーツ・カレッジ(WAC)で会ったんだ。僕は12歳くらいだった。一緒に音楽を作りはじめたときは13になってたよね。
DM:ああ。
■12歳で大学生だったわけじゃないですよね?
NK:違う違う。僕が食堂でビートをプレイしてたところにデヴィッドが通りかかって、「ドープ! あっちでリハーサルやってるから来ないか?」って声をかけられて、リハーサル室に行ったら、次々と楽器を弾くんで「よし、こいつとやろう」と思ったんだ。
■そのときデヴィッドはカレッジで勉強していた?
DM:2010年に入学して数年通ってたよ。
■ナマリはなぜそのとき、WACにいたんですか?
NK:説明すると、WACは安い授業料で、ライヴ・ミュージックに関するクラスとか、プロダクション、ヴォーカル、演技、ダンス……と様々な音楽プログラムを提供するところなんだ〔訳注: 5~25歳の低所得家庭の若者が対象〕。授業料は1時間で1ポンド(170円弱)くらいだったかな。日本円なら数百円(笑)? そこは素晴らしい才能を輩出してるんだよ。そこでデヴィッドと会ったのさ。
■ブルー・ラブ・ビーツの音楽にはジャズやR&B、ヒップホップ、クラブ・ミュージックなどいろいろな要素が混ざっています。ナマリのお父さんは、アシッド・ジャズの頃に活躍したDインフルエンスのメンバーですが、そこからの影響もありますか?
NK:ああ、それは間違いなくある。父だけでなく、DJだった母からの影響もね。家ではいつもいろんなジャンルの音楽がかかっていたから。
■以前、アメリカのロバート・グラスパーからの影響を述べていたことがありますよね。じっさい『ブラック・レディオ』を意識した部分もあると思います。一方で BLB の音楽には、UKならではのグライムやダンスホール、ドラムンベース、ブロークンビーツの影響もあり、それらUSとUKの要素をうまくミックスしていると感じますが、本人としてはどう思いますか?
DM:うん、オープンでいることはいいことだと思う。自分たちにとって安全なゾーンを離れ、人が予想しないような音楽を聴くこともある。だから、僕らもそうなるんだと思う。
■ファースト・アルバムの『クロスオーヴァー』にはモーゼス・ボイド、ヌバイア・ガルシア、ジョー・アーモン・ジョーンズ、アシュリー・ヘンリー、ダニエル・カシミール、エズラ・コレクティヴやココロコ、ネリヤのメンバーなど、サウス・ロンドンの面々が多く参加していました。現在のサウス・ロンドンのシーンについてはどう見ていますか?
NK:シーン? とても盛り上がってるよ。UKエキスペリメンタルというか、UKジャズというか……
DM:サブ・ジャンルを生みつつね。
NK:そう、たくさんのサブ・ジャンルがある。イースト・ロンドンも盛り上がっている。特にグライムかな。いや、グライムはノース・ロンドンでも盛り上がってるな。それを言えば、グライムはロンドン全部でだな。
■セカンド・アルバム『ヴォヤージ』ではアフロやカリビアン、ラテンのテイストが際立っていて、今年の新作でもその傾向は強まっています。UKにはアフリカやカリブ、ラテン系のミュージシャンも多く、自身のルーツを意識して音楽づくりをする人も少なくないですが、それはあなたがたもそうですか?
NK:ああ、それはすごく大きいよ。さっきも言った「安全なゾーンを離れる」ということさ。特に『マザーランド・ジャーニー』はそれが顕著だったので、制作には2年半~3年近くかかった。何から何までというのではなく、ひとつでいいから、自分たちの音楽のなかに初めて探索する部分がほしかった。だからいつもの安全ゾーンから飛び出し、ゲットー・ボーイとコラボレーションしてみた。彼とはアンジェリーク・キジョーのグラミーを受賞したアルバム(『マザー・ネイチャー』)でも仕事をした。2年近くかかったけど、やり慣れたエリアを離れて仕事をすることで、最終的には「メイク・センスするもの(意味が通じるもの)」ができたと思う。
いま、シャバカ・ハッチングスとアルバムを作ってるんだ。まだエディット段階だけど、レコーディングは面白かったよ。そのロウなエネルギーといい、ヴァイブ感といい。
■『マザーランド・ジャーニー』にはエゴ・エラ・メイ、エマヴィー、ジェローム・トーマスなどUKの新しいアーティストが参加していますが、「次は誰とコラボするのか?」といつも楽しみです。彼らとは日頃のセッションで交流を深めて、その結果アルバムに参加してもらっているのですか?
NK:ああ。ブルー・ラブ・スタジオに来てもらってセッションをするわけだけど、どんなときも、なるべくフリーなセッションにしようとしてる。特にこれ、という目的を設定するのでなくて、会話を交わすように音楽をつくる。それは毎回そう。1曲が終わってようやく「ああ、これはこんなふうだね」「もっとこういうふうにしようか」というように話をする。
■スタジオに来てもらう前にも、一緒にやったことはあったんですか?
NK:いや、そのときが初めてだよ。
■『マザーランド・ジャーニー』のセッションのなかで、特に「これはすごい」と思った相手、もしくは出来事はありました?
NK:フェラ・クティをサンプリングする機会をもらえたことかな。その機会だけでもすごいことだったから〔訳注:フェラ・クティの関係者側からのオファーだったとのこと〕。
DM:スピリチュアルだった。
NK:“ラベルズ” でコフィ・ストーンとやれたのも楽しかったよ。ティアナ・メジャー・ナインとは昔もやったことがあったけど、またやれて良かった。
■キーファーともやっていますね。US西海岸の注目のアーティストで、素晴らしい楽器演奏技術とポップでメロディアスな作曲センスを両立させている人ですが、ブルー・ラブ・ビーツと共通点があるようにも思います。彼との共演はいかがでしたか?
DM:とても良かったよ。さっきも言ったように、他のミュージシャンが僕らの音楽をどう解釈するかという意味で、自分以外のピアノ奏者、しかも彼みたいに最高なピアノ奏者の解釈を聴くのは刺激的だった。
NK:特にイントロ部分がね。
DM:ああ。
NK:彼にはラフなアイディアを渡したんだけど、彼から返ってきたヴァージョン、特にイントロの部分はとてもおもしろかった。
■今後の活動で何か考えていることはありますか?
NK:いま、シャバカ・ハッチングスとアルバムを作ってるんだ。まだエディット段階だけど、レコーディングは面白かったよ。そのロウなエネルギーといい、ヴァイブ感といい。彼からスタジオに遊びにおいでよ、と招かれて行ったときには、もしかしたら1曲くらい何かをやることになるのかな、とは思ってた。ところが彼から「君たちとアルバムを作りたいんだ」と言われて驚いた。「え、いま?」「そうそう!」「3日で?」「そうそう!」って(笑)。全部で8曲録ったよ。EPになるのかもしれないけど、どの曲も20分くらいやってそれを6分くらいにする、という感じ。そのうちの少なくとも1曲は10分の長さの曲だよ。
■素晴らしいコラボだと思います。それは〈ブルーノート〉からリリース予定ですか?
NK:いや、シャバカのレーベルだ。
■では〈インパルス〉ですかね。ちょうど先週、ザ・コメット・イズ・カミングが来日していたんですよ。素晴らしいショウでした。
NK:知ってるよ。彼が、なんだっけ……名前を忘れたけどあの楽器(尺八)を作るんだって、インスタに画像を上げてて(と尺八用の竹を手にしたシャバカの投稿写真を見せる)。完成品を受け取るために、来年また日本に来るらしい。レコーディングのときも尺八を持ってたよ。吹くのがすごく難しいから、まだまだ勉強中らしいけどね。彼が日本に来たときの話もたくさん聞いている。
■コラボレーション、とても楽しみです。最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
NK:(一度キャンセルになっていたにもかかわらず)辛抱して待っていてくれてありがとう。ようやく日本で演奏することができたよ。来年、また必ず戻ってくる。日本のヴァイブ、すごく気に入ったんで……何もかもがクールだね!
DM:デビューの頃から、長いことサポートしてもらえたこと、感謝してるよ。
NK:2016年からだ。
DM:ああ、もう6年だ。
NK:最高だよ。




