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Red Snapper

Jazz FunkRed SnapperTrip Hop

Red Snapper

Everybody Is Somebody

Lo Recordings

小川充   Jun 27,2022 UP

 1990年代半ばのUKの〈ニンジャ・チューン〉や〈ワープ〉、〈モー・ワックス〉あたりのサウンド、その頃の呼び名でいうトリップホップは基本的にDJ主導によるサンプリング~プログラミング・ミュージックだった。そうしたなかで生演奏やバンド・サウンドからトリップホップにアプローチしていったアーティストも少数派だが存在していて、レッド・スナッパーやフレットレス・アズムことマックス・ブレナンだとか、ジャングル~ドラムンベースにアプローチしていったスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン、ジンプスターことジェイミー・オデルなどが代表的なところだ。こうしたなかには生演奏とプログラミングを巧みに融合させるアーティストもいるわけだが、レッド・スナッパーはアリ・フレンド(ダブル・ベース)、リチャード・ゼア(ドラムス)、デヴィッド・エアーズ(ギター)のトリオによる完全生バンドで、あくまで生演奏に拘ったアーティストだ。

 1993年にロンドンで結成されたレッド・スナッパーは、ダブ、ファンク、ジャズ、ブルース・ロック、ポスト・パンク、ニュー・ウェイヴ、ディスコ、アフロなどいろいろな音楽を飲み込んだUKらしい折衷性の高いジャム・バンドで、当時終焉を迎えつつあったアシッド・ジャズからブレイクビーツを軸とするダンス・ミュージックやレイヴ・サウンドの狭間に登場してきた。ザ・ポップ・グループからア・サートゥン・ラシオなどの系譜に位置するバンドと言える。
 セイバーズ・オブ・パラダイスの元メンバーらが集まり、リチャード・ゼアもメンバーだったザ・アルーフの運営する〈フロウ・レコーディングス〉からデビューした後、1996年に〈ワープ〉からファースト・アルバム『プリンス・ブリメイ』を発表。トリオ演奏にサックスやフルートのオリー・ムーアを加えた編成で、なかにはヴォーカリストをフィーチャーした曲があるものの基本はインストで、エレキ・ベースではなくダブル・ベースという点も特徴的。ベースの重低音が支えるソリッドなブレイクビーツは、その頃のマシンが作り出すダンス・ビートに馴染んでいた耳にはとても新鮮で、当時は人力トリップホップとも評された。セイバーズ・オブ・パラダイスの『ホーンティッド・ダンスホール』(1994年)、ナイトメアズ・オン・ワックスの『スモーカーズ・ディライト』(1995年)などと並ぶ〈ワープ〉の傑作トリップホップ・アルバムで、いま改めて聴いてもすごく新鮮でカッコいい作品だ。

 1998年リリースのセカンド・アルバム『メイキング・ボーンズ』ではシンガーのアリソン・デヴィッドやラッパーのMCデットらのほか、英国ジャズ界の巨匠であるバイロン・ウォーレンとも共演し、2000年秋には彼らの最高傑作とも評されるサード・アルバム『アワ・アイム・イズ・トゥ・サティスファイ』を発表するが、その約1年後の2002年初頭にバンドは解散。長く活動する内にメンバー間で音楽性の相違が生じ、それぞれのソロ活動に移行していくことになる。未発表作品集やリミックス・アルバムなどがリリースされた後、2007年末に約6年ぶりに再結成される。バンドは新たに新メンバーのトム・チャレンジャー(クラリネット)を加えた4人編成となり、復活作となる『ア・ペイル・ブルー・ドット』を2008年に〈ロー・レコーディングス〉からリリース。その後も『キー』(2011年)、『ハイエナ』(2014年)とアルバムをリリースしていくが、バンド活動はどちらかと言えばスロー・ペースだった。そうしたなかでアリ・フレンドとリチャード・ゼアはバイロン・ウォーレンなども交えたナンバーズというニュー・ウェイヴ~ファンク~エクスペリメンタル・ディスコ系のサイド・プロジェクトを起こし、アルバムの『バイナリー』を2020年にリリース。そして、久しぶりに本家のレッド・スナッパーがニュー・アルバムをリリースした。

 この新作『エヴリバディ・イズ・サムバディ』は過去3年に渡って東ロンドンのハックニーにあるスタジオでレコーディングしてきた作品をまとめたもので、4人のメンバーのほかにピアノ、キーボード、トロンボーン、サックス、チェロなどのゲスト・ミュージシャンが参加する。ヴォーカリストも数名参加するほか、面白いところではテルミンをフィーチャーした曲もある。“B・プラネット” や “トゥルース” は往年のレッド・スナッパーらしいソリッドなジャズ・ファンク・ナンバーで、“ターザン” はアフロ・サンバ風味が前面に出たディスコ・ナンバー。“ザ・ワープ・アンド・ザ・ウェフト” は ポエトリー・リーディング調のヴォーカルを交えたスモーキーな味わいが正しくトリップホップ的で、サックスを交えた “トラヴィス・ビックル” の演奏はジャズ・ファンクとディスコの中間をいくもの。“デタッチ” の神秘的でアンビエントなテイストはテルミンによるものだ。雑多な音楽性を持ちつつもどの音楽ジャンルにも分類できない、レッド・スナッパーの音楽は本作でも健在である。

小川充