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Lucy Railton & YPY

Lucy Railton & YPY

@表参道 WALL&WALL

2023年5月30日(火)

小林拓音 Jun 02,2023 UP

 先週5月25日から明日6月3日まで、ある意味一年でもっとも過ごしやすいこの梅雨入り直前の季節(今日は台風だけれど)、東京ではエクスペリメンタルな音楽にフォーカスしたイヴェントが開催されている。先日ニュースでもお伝えした「MODE」がそれだ。複数の日にち・会場に分散されているそのなかでも、とくに観ておきたかったのがルーシー・レイルトンYPYビアトリス・ディロンの3組が一堂に会する5月30日の公演だった。会場は WALL&WALL。VENT としても知られている表参道のヴェニューである。

 先陣を切ったのはルーシー・レイルトン。〈PAN〉や〈Modern Love〉などからのリリースをつうじて徐々にその名を広めつつある、実験的なチェロ奏者だ。開始早々、フロッグ(持ち手部分の箱)から毛が外れた弓をぶんぶん振りまわしている。宙で弧を描く馬のしっぽ──うん、だいぶ変だ。この時点ではオーディエンスはフロアの半分を埋めるくらい。演出の一環として空調が切られている。漏れ聞こえてくるラウンジの雑談。この静寂を利用し彼女は、ときおり電子音も絡めつつ、通常のチェロからは想像もつかない音を奏でていく、というより鳴らしていく。エフェクターをかまし、オリヴァー・コーツのようなサイケデリアを轟かせる時間帯もあった。なるほど、〈Ideologic Organ〉から出たカリ・マローン&スティーヴン・オマリーとの最新作しかり、尖ったレーベルやアーティストが彼女のもとに集まってくる理由がわかるようなパフォーマンスだ。

 つづいて登場したのは日野浩志郎。バンド goat からソロ、オーケストラ・プロジェクトまで多岐にわたって活動している大阪のプロデューサーで、いうなればポスト・バトルズ的なことから現代音楽的なもの、クラブ・ミュージックまでこなせる唯一無二の才能だ(昨年末に出た KAKUHAN の素晴らしいアルバムも記憶に新しい)。
 今回の名義は YPY。エレキングでもたびたび取り上げてきたように、彼がエレクトロニック・ミュージックをやる際に用いる名前である。序盤はいくつかの電子音を控えめに鳴らすところからはじまり、次第にグルーヴが増大していく流れ。バンドからソロまで、日野の音楽を特徴づける最大の特徴といっても過言ではないズレ、ポリリズム、変拍子のようなリズムの実験がつぎつぎと繰り広げられていく。頭でっかちなひとがそれをやるとたいていの場合踊れなくなってしまうものだけれど、日野はダンスを忘れない。レイルトンのときは静かだったオーディエンスも、かなり身体を揺らしていたように思う。実験と快楽が同居した、圧倒的なパフォーマンスだった。半月後の goat のライヴも楽しみだが、2010年代日本が生んだこの最高の実験主義者のインタヴューを、7月5日発売の紙エレ最新号ではフィーチャーしている。ぜひそちらもチェックしてみてください。

 最後はビアトリス・ディロン。ラウンジやバーカウンターにたむろしていた人びとも、みなフロアへと消えていく。2020年、〈PAN〉からのブレイクスルー作『Workaround』が出た直後の来日公演がパンデミックにより中止になってしまって以来、ずっとライヴを観ることを楽しみにしていたのだけれど、どうしても外せない用事があったたため泣く泣くここで離脱(この日ビアトリス・ディロンを観ずに会場をあとにしたのはおそらくぼくくらいだろう)。無念ではあるものの、日野浩志郎の卓越した演奏を目撃することができただけでも十分お釣りのくるイヴェントだったと思う。

小林拓音