「LV」と一致するもの

Kazuhiro Abo - ele-king

最近美味しかった音楽(順不同)


1
DJ Nate -Da Trak Genious -Planet Mu

2
Funkineven - Heart Pound -Eglo

3
Mange Le Funk -I Still Want You(Gramophonedzie Remix) -OXYD

4
Rune And Jerome Sydenham -Aqua Boogie -Avocado

5
Dyno -Robottino -Hell Yeah

6
The Backwoods -Midnight Run -Ene

7
Planetary Assault Systems -GT (James Ruskin Remix) -Mote Evolver

8
okadada - Fictional Dawn -Maltine Records

9
Ice Dynasty -Fresh (GUNHEAD REMIX)

10
韻踏合組合 -前人未踏 -IFK Records

tomad - ele-king

Chart by JAPANICA 2010.09.02 - ele-king

Shop Chart


1

BLAST HEAD

BLAST HEAD IN WATER DISCO RUDIMENTS / JPN / 2010/9/1 »COMMENT GET MUSIC
高揚感/疾走感を掻き立てるベース・ラインにフルート、サックス、パーカッション等がワイルドに絡み合いトライバル感覚溢れるアフロ・ファンクな 激烈ダンス・グルーヴ"IN WATER DISCO"はアルバム中でもハイライトとなっていた一曲でほんとヴァイナル化を待ち望んでいた方も多いのでは!?そして本盤はさらにC/Wにマルチ・プ レイヤー=GLYN BIGGA BUSHによるアフロ・ブレイクビーツ・リミックスを収録!こちらもオリジナル・ヴァージョンのテンションそのままにクロスオーヴァーした土着的な鳴りを 響かせる絶品リミックスに!

2

HOLGER CZUKAY

HOLGER CZUKAY PERSIAN LOVE CLAREMONT 56 / UK / 2010/8/24 »COMMENT GET MUSIC
クラウト・ロックの伝説グループCANのベーシストであり、バンド解散後も活発なソロ活動を続けきたHOLGER CZUKAYが1979年にリリースした傑作アルバム「MOVIE」に収録、美しいギターの旋律と短波ラジオから流れてきたコーランやノイズをテープ・コ ラージュしたこの曲は、日本でもかつて、あのスネークマンショーの「戦争反対」に収録されたり、「サントリー・ウィスキー角」のCMに使われて大 ヒットした一曲。今回もゴールド・ヴァイナル&特色印刷ジャケという豪華仕様!

3

BING (a.k.a. カジワラトシオ)

BING (a.k.a. カジワラトシオ) DISCOTECA MAHAMID SLEEPING BUGZ / JPN / 2010/8/29 »COMMENT GET MUSIC
<SLEEPING BUGZ>が新たに贈る新ミックス・シリーズ「A NIGHT FOR STRANGERS」第1弾にBING(a.k.a. カジワラトシオ)が登場です!前2作とは対照的に実験的であり、また好奇心に溢れたタイトル通り「STRANGERS」の為の音楽をリリースするという当 シリーズ。70~80'Sあたりのロック、ディスコ、エレクトロに辺境グルーヴなどを、独特の空気感を放ちつつじっくりと煮込んでいくような、、そんな燻し銀ミックス・ワークで知らず知らずのうちにどっぷりとハメられてしまう危険な一枚!凄過ぎます!

4

DJ NATURE

DJ NATURE FOGGY MONDAY MORNING / FEELING LIKE A WOMAN GOLF CHANNEL / US / 2010/8/17 »COMMENT GET MUSIC
<GOLF CHANNEL>よりまたまたどヤバイ新作2タイトルが緊急リリース!お得意のエレピやサックス・ソロ等が軽やかに鳴り響き全体を通し淡いジャズ・ヴァイブスが覆うディープ・ジャズ・ハウス"FOGGY MONDAY MORNING"は清涼感とドス黒さが同居したくそヤバイ一発に!そしてC/Wにはパーカッションにマリンバ、フルート等が織り成す土着的ビートダウン・ グルーヴ"FEELING LIKE A WOMAN"を収録!

5

DJ NATURE

DJ NATURE EVERYONE / NEIGHBOURHOOD NOVELTY GOLF CHANNEL / US / 2010/8/17 »COMMENT GET MUSIC
<GOLF CHANNEL>よりまたまたどヤバイ新作2タイトルが緊急リリース!ポエトリー風のサンプルを配しディスコ/ヒップホップ感覚での展開に中盤のトランペット・ソロがまた違った側面で渋味を効かせるジャジー・ブラック・ハウス"EVERYONE"!C/Wは躍動的なベース・ラインにメリハリのあ るキック/ハットで構成されたトラック上にエレピやヴォイス・サンプルのエフェクティブな演出が随所に光るこちらも至高のブラック・ジャズ・ハウ ス"NEIGHBOURHOOD NOVELTY"!

6

SYLVIA STRIPLIN

SYLVIA STRIPLIN GIVE ME YOUR LOVE UNIVERSAL SOUND / UK / 2010/8/30 »COMMENT GET MUSIC
黒人女性ジャズ/R&Bヴォーカリスト=SYLVIA STRIPLINのROY AYERSプロデュースによる81年リリースの唯一のソロ・アルバム「GIVE ME YOUR LOVE」が重量盤2LPでオフィシャル・リイシュー。ディスコ・クラシック"GIVE ME YOUR LOVE"をはじめ、サンプリング・ソ-スとしてもお馴染み、最近ではERYKAH BADUがまんま使用したメロウ・クラシック"YOU CAN'T TURN LOVE AWAY"等、全編に渡りROY AYERSサウンドとSYLVIA STRIPLINのヴォーカルとが抜群の相性で織り成す80'Sディスコ傑作盤です!

7

CRUE-L GRAND ORCHESTRA

CRUE-L GRAND ORCHESTRA (YOU ARE) MORE THAN PARADISE INCLUDES THEO PARRISH REMIX CRUE-L / JPN / 2010/8/13 »COMMENT GET MUSIC
CRUE-L GRAND ORCHESTRAの来るサード・アルバム「CRUE-L GRAND ORCHESTRA III」収録曲でもあるPORT OF NOTES"(YOU ARE) MORE THAN PARADISE"のカヴァーをTHEO PARRISHがビートダウン・リミックス!原曲のサウダージな質感を残したまま見事ダンス・トラックへと昇華させたグレイト・ワークス(しかも2ヴァージョン収録!)で今後全国各地のフロアを彩ること請け合いの逸品です!DJ HARVEYも絶賛、2010年を代表するビッグ・リリースです!

8

SAGARAXX

SAGARAXX FLOATING POINT RUDIMENTS / JPN / 2010/9/1 »COMMENT GET MUSIC
世界規模での広がりと進化をし続けるエレクトロニクスにフォーカスしたビート・ミュージックを中心に、あくまでDJ視点によりセレクト/ミックス を施した本作。決して派手にはならず、さりげないミックス・ワークによりしっとりとクールな空気感を演出し、最後までぶれることなく保たれる芯の 通ったグルーヴ感が覆う、まさにセレクトされた楽曲郡を完全に自分の世界観の中で昇華してしまった傑作と呼ぶに相応しいスゴすぎる作品!マスタリングは盟友でもあるお馴染み京都の才人KNDが担当です!

9

GILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BAND

GILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BAND ROFOROFO FIGHT (LOUIE VEGA REMIXES) BROWNSWOOD / UK / 2010/8/20 »COMMENT GET MUSIC
モダン・キューバン・ミュージックの傑作コンピレーション「HAVANA CULTURA」収録のGILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BANDによるFELA KUTI"ROFOROFO FIGHT"のキューバン・ジャズ・カヴァーをさらにLOUIE VEGAがサルサ・テイストで軽快なダンス・ナンバーへとリミックスした逸品!程よいBPM、テンションで展開するまさに場所を選ばずオールタイムで使え る至極のリミックス・ワークです!

10

七尾旅人 × やけのはら

七尾旅人 × やけのはら ROLLIN' ROLLIN' P-VINE [JPN] / 2010/9/2 »COMMENT GET MUSIC
アーバン・メロウ最高傑作"ROLLIN' ROLLIN'"奇跡の再発!先頃リリースされたアルバムが話題を集めている両雄、七尾旅人とやけのはらによる奇跡の名曲"ROLLIN' ROLLIN'"が待望の再プレス!今回は前回未収録のリミックスも3VER.収録!そしてジャケットはもちろん、菱沼彩子(東京BITCH)!前回も瞬 く間に市場から姿を消しましたが、今回も初回限定生産なので激レア化間違いナシ!

Den (Trapez / Op.disc) - ele-king

Summer 2010(alphabetical order)


1
Cassy - Seteachotherfree - Perlon

2
La Pena - La Pena #7 - La Pena

3
Lb/Ko - Fre/Dad - Pup Music

4
Mark Henning & Den - La Galaxia Llorona - Trapez Ltd

5
Melchior & Pronsato - Puerto Rican Girls - Smallville

6
Now This Is Congo - Tribal Gathering - Sacred Rhythm

7
STEREOCiTI - Cosmoride - Mojuba

8
STL - Traveling Dubs And Echoes - Echocord

9
Various Artists - The Helping Hand - House Is The Cure

10
Yaya - Ca Na Negretti - Carnibal

Sonic Weapon (AUDI.) - ele-king

Hot Music Chart 4 Summer 2010


1
Ben Mays - Summer Afternoon - Voodoo

2
Anthony Nicholson - Tell Me A Bedtime Story - Space Station

3
The Sylvers - The Sylvers - Pride

4
J Dilla - Safety Dance - Stones Throw

5
Webster Lewis - Barbara Ann - Epic

6
Nick Holder - Sometimes I'm Blue - !K7

7
Irakere - El Tata - Areito

8
Taylor McFerrin - Broken Vibes - Rude

9
Os Borges - Os Borges - EMI

10
The Godson - Analog Love - Rush Hour

[Dubstep/Drum & Bass ] by Tetsuji Tanaka - ele-king

1. Benga / Stop Watching/Little Bits | Digital Soundboy -main stream / post dubstep-


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 UKアンダーグラウンドでは、確実にダブステップが現在の舵取りを握っているわけだが、シャイFX主宰の〈デジタル・サウンドボーイ〉もその方向性をシフトしつつある......そのリリースをダブステップやファンキー中心に切り替えたのもそれを裏付けていると言えよう。源に、このままドラムンベースのみのリリースに限界を感じてきたのであろうことは、悲しいかな......世界中でそのシーンに対して起こっているわけだ。
 
 このレーベルのドラムンベースと言えば 、2008年の代表的な作品のひとつとして語られてるMCシステムの「ニアミス」がしばしあげられ、ディープ・コアなトレンドを作った作品でもあった。2007年〈クリエイティブ・ソース〉から発表された変則ディープ・アンセム、リンクスの"ディスコ・ドードー"によって現在のディープ・フロウなムーヴメントが本格化し、次世代のディープ・スター、コミックスやDJフリクション率いるショーグン・オーディオ・クルーなど、シーンを賑わせていき、現在を象徴する母体となったのである。ダブステップに押されているとはいえ、マーキー&スパイの"リフラフ"やホセ・ジェイムス"ウォリアー"のリミックスによっていちやく注目されたプロデューサー、ロックウェルの「ストーワウェイEP」など、トレンドを意識した無機質なピュア・ビートをレーベルに落としこんでいる。

 ここ最近の〈デジタル・サウンドボーイ〉のダブステップサイドのリリースはスクリーム、ブレイケージのダブステップ・リーダーやブリストルのTCと並ぶジャンプアップ・マスター、DJクリップズのUKファンキー・プロジェクト、レッドライト、などがある。
 そして、今回のベンガに続くのだが......その前に、7/30FUJI ROCK、7/31DBSにてスクリーム&ベンガが待望の再来日する。昨年、満員御礼となった2月の熱狂的なステージから早1年半、UKエレクトロニック・ミュージック界の代表的な存在にまで上り詰めた彼らの人気は世界中でさらに加速......もはや2010年代のダンス・ミュージックを牽引していくであろう彼らの多才なサウンドは、いまだ不確定かつ未知の変化に富んでいる。若さゆえの貪欲な吸収性がそうさせるのであろうが......日々、変化を好むUKエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、ダブステップ・オリジネーターたちが、ダンスフロア・アンセムなウォブリー・サウンドに嫌気がさし、ポスト・ダブステップを生み出した。またそこからすぐに枝分かれしていくのは、他のジャンルが同じような道を通ったように容易に想像できる。重要なのは、そこではなく、つまりどうような音楽性にダブステップが今後変わるのかであろう。さらにシンプルでミニマルなサウンドを追求していくのか、やはり若い世代によってダンスフロアの再燃が起こるのか、筆者は、ポスト・ダブステップ以降、おそらく初期のヘヴィーで硬質サウンドな状態に戻っていき、よりテクノ・インフルーエンスな作品が増えていくと思うのだが......1年後が楽しみだ。
 
 ベンガもまた現在のポスト・ダブステップの風潮に足を踏み入れつつあるのは、最近のリリースによって感じられる。スクリームの近日発売のニュー・アルバム『アウトサイド・ザ・ボックス』も然り。しかし、彼らはそのちょうど中間地点にいるサウンドで意欲的なチャレンジを続けていると言える。このシンプルで不確かなサウンドこそ彼らのテクニックであり、爆発的人気の秘密なのかもしれない。それをたしかめに数ヶ月後のリリースが控えているダブプレートの嵐を生のステージで体感すべきだ。

2. Instra:mental / End Credits | Nonplus Records-electronic / drumstep / post dubstep-

 どうしても毎回、原稿の随所で登場させてしまうポスト・ダブステップというサブジャンル。野田さんも本サイトの原稿で取り上げていたが、さまざまな音楽媒体で今もっとも注目され"旬"なムーヴメントであるのだが、現在のエレクトロニック・ミュージックの最先端は、やはりここにあるとまたしても感じる。以前、サウンド・パトロールでも紹介した〈ノンプラス〉、そして、インストラ:メンタルの今作、シリアルナンバー入り500枚限定10インチ「エンド・クレディッツ」 だ。チルアウト・ドラムンベース~バレアリック・サウンド~ディープ・ミニマル~ポスト・ダブステップを縦横無尽に駆け抜けるインストラ:メンタルだが、今日のダブステップ(アトモスフェリック・プロダクション側)発展を大きく彩る象徴的な必然変化、いわば"ドラムステップ"が、ここに存在すると言っていい。
 明らかにダブステップのオリジネーターたちとは交わらないサウンド・シンフォニーは、やはり出発点がドラムンベースだからであろう。ドラムンベースからの視点を持ってしても、時折不可解な印象(新感覚なテクノ・ステップいやエレクトロニカ・ステップ)を持ってしまう作品......そこが聴くものをより引き込みのめり込ませるのだ。日々シーンがネクスト・レヴェルへ向かうなか、新たなダウンテンポ・ミュージックに辿り着いた作品かもしれない。 デジタルが先行しつつあるシーンの現状にあって、この作品はアナログで聴くことを推奨したい。デジタルでは、感じ得れないそれが持っている調和のとれた"質感"が大いに発揮されているからだ。 

 その「エンド・クレディッツ」は、盟友Dブリッジとの共作によるミックスで新たな共同レーベル名〈オートノミック〉を冠にしたファブリックライヴ50に先行で収録されていた。このミックスは、全体的にメロウなラウンジ・テイストで見事なまでにドラムンベースとダブステップが、中間地点で融合したまったく新しいものになっている。その冠名にもなった〈オートノミック〉は、ポッドキャスト・シリーズとして好評を博し、次世代のロジカル・ステップとしてファブリック・ミックスへと繋がったのだ。そして5月にアナログ第一弾としてもスタートし、Dブリッジ、インストラメンタル&スクリームの何とも豪華布陣による「アカシア・アベニュー/デトロイド」を発表したのであった。
 先程、アナログで聴いてほしいといったが......この素晴らしい音は、アナログカット10インチの500枚限定品であるため、お早めに。この連載がアップされている頃には、すでに手に入らなくなってしまっているかもしれないが。
 それにしてもアナログは素晴らしいとあらためて感じた。さらに、〈ノンプラス〉の次のリリースはASC(エーエスシー)のアルバムへと続く......。

3. Komonazmuk / Dance Too (LEE JONES RMX) | Apple Pips

-tech dubstep / deep tech house-


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 インストラ・メンタルがドラムンベースとダブステップの境界を跨いでいるとすれば、このアップルブリム率いる〈アップル・パイプス〉は、テクノ/ミニマルとダブステップ/UKガラージを跨いでいる代表的なレーベルのひとつだと言える。 
 レーベルの1番は、マーティンからはじまり、アップルブリム&ペヴァーレリスト、T++、ラマダンマン、ブラックルス、インストラメンタル、アル・トーレッツ等々......いまから思うとポスト・ダブステップも予見していたラインナップで、レーベルの方向性がいまのトレンドを生み出したレーベルである。アップルブリムの音楽性は、得体の知れないブラック・マジック(黒魔術)のようなオカルト・ダブステップ〈スカル・ディスコ〉を通り、テクノ・ダブとポスト・ダブステップ/ガラージを融合した形が〈アップル・パイプス〉なのだ。近年のレーベル・リリースは、よりシンプルでミニマル・ライクな作品が圧倒的多数を締め、さらにトライバルでテック・ガラージな音楽性を推し進めるなど独自のポスト・ダブステップなサウンド形態を追求している。

 さて、コモナズムックだがアップルブリム同様ブリストルのアーティストで、2007年、ダブステップでデビューしている。が、彼のキャリアは、もっと古い。〈ムーヴィング・シャドウ〉、〈テック・イッチ〉、〈ハード・リーダース〉周辺のドラムンベース・レーベルでハード・エッジなドラムンベースをリリースしていた4人組、アイス・マイナスのひとり、ケイラン・ロマックスなのである。アイス・マイナス名義では、1998年~2004年まで活動後、コモナズムック名義にシフトし、ダブステップ・アーティストとして彼は成功を果たしたというわけだ。ドラムンベースで培われたダークでインダストリアル・ハード・エッジなテッキーサウンドを操り、トップ・プロデューサーとしてのし上がっていったのである。

 筆者のお気に入りは、ジェイクス主宰の〈ヘンチ〉より2008年発表された"バッド・アップル"だ。エレクトリックなシンセ群がオートメーション機能により右往左往するテクノ・トラックで、幅広く支持された彼の代表曲である。今作"ダンス・トゥー"でもテクノ・ダブとしても機能する重低音トラックにスライトリー・ダブなシンセがリヴァーブする漆黒のグルーヴでダブステップが本来持っているヘヴィな芯が感じられ、バッド・トリップを引き起こす。フリップ・サイドは、アップルブリムと〈AUSミュージック〉主するウィル・ソールとのコラボレーションでお馴染みのリー・ジョーンズがサポート。秀逸な4つ打ちのディープでダビーなテック・ハウスで、テクノ・シーンでもスピンしてほしい作品だ。

4. LV & Quarta 330 / Dong / Hylo / Suzuran(LV & Quarta 330 Remix)
| Hyperdub -electro dubstep-


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 ちょっと掲載が遅くなったが......6月のダブステップ会議パート2にて素晴らしいライヴを披露してくれた〈ハイパー・ダブ〉から、デトロイト新世代のカイルホールのリリースに続き、日本を発信源としたダブステップ・アーティスト、クオーター・330の作品を紹介しよう。

 リキッドでエレクトロなゲーム音シンセが代名詞な彼の作品だが、コード9がその才能を認めた唯一の日本人アーティストとして、数々の音源を〈ハイパー・ダブ〉からリリースしている。それをダイレクトにライヴ演奏で伝えているその手法も各方面から高い評価を得ている、まさに新世代を代表する日本人アーティストと言えるだろう。今回はLVとのコラボレーションだが、LVといえば、ラガでダビーなエレクトロ・ダブステップを傾倒したり、UKルーツ・シーンのヴォーカルをフィーチャーしたりと素材のオーガニック感を重視するアーティストとして知られる。両曲とも、両者の良さがちょうど真んなかあたりで細かく重なり合うダブステップらしさが生きたメランコリックなハイパーダブの模範的エレクトロ変則ビートと言ったところで、YMOやアフリカ・バンバータ辺りにインフルーエンスを受けているクオーター・330の音楽性が何だか妙に頷ける作風である。ポスト・ダブステップと言う流行など微塵も感じさせない彼らのオリジナル性が、コード9を虜にさせるのであろう。ブリアルがそうであったように。

 話が最初に戻るが、そのダブステップ会議パート2で、野田さんとディスクショップ・ゼロの飯島さんが、メイン・パーソナリティーで最新リリースの紹介や若手DJ/プロデューサーとの熱を帯びたトークを繰り広げられたようで好評を博した。これは私見だが、いまのシーンをダイレクトに伝えるならもうちょっと回数を頻繁にやってほしいと思う。画期的で素晴らしい企画であり、いまもっともホットなジャンルをみすみす放っておく手てはないだろう。ele-kingのようなアンダーグラウンド・シーンの"核"を突いているサイトと連動しているならさおさらだ。ローファーがインタヴューで話していたこと「最初のイヴェントなんか、20人ぐらいしかいなかったよ。そこにいまのダブステップ・オリジネーターたちがみんな居たけど」を日本でも再現できる最適なヴェニュー〈DOMMUNE〉もあるのだし......。

5. Ramadanman / Fall Short/Work Them | Swamp 81 -post dubstep-


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 野田さんとダブステップ界隈の話をすると必ずと言っていいくらいラマダンマンの話題になる。相当好きらしい......と言うか筆者もだが。〈ヘッスル・オーディオ〉主宰でポスト・ダブステップをリードしてきた重要人物だからなおさら注目しているのである。
 とにかく彼はいま、各方面からアプローチされまくっている。ダブステップ・シーンは言わずもがな、テクノ、ハウス、クラブジャズ、そしてドラムンベースの各主要なエレクトロニック・ダンスミュージック・シーンなどからだ。いろんなところで注目されるだけあって彼のプログラミング・スキルは、いたってシンプルながら多様性に耐えうる自身のフォーマットを有している。どのシーンに行ってスピンしても、"ハマる"曲を量産し、認められ続ける彼はある意味凄い。しかも20代前半のプロデューサーだからおそれ入る。なかには、味気ないと感じるものもあるが、そういう曲はテクノ・シーンでウケるし、ガラージ・テイストな変則2ステップみたいな曲はハウス・シーンでウケる。アシッド・ハウスなテイストもあるし、ブロークンビーツ、時折レイヴ・ジャングルなアーメンも組み込む。UKアンダーグラウンドの音楽性を掻き集め、集約したハイブリッドな才能を彼は持っている。
 
 このA面の"フォール・ショート"も確実にテクノ・シーンでも活躍できるDJユースなダブ・ファンクだ。逆サイドは、〈スワンプ81〉のオーナー、ローファーがDBS来日時にかけていたグライム風ヴォーカルをループしたルードボーイ感溢れるスワンプ・アンセムで、これまたインプレッシヴなバウンシー・トラックに仕上がっている。

 その〈スワンプ81〉のローファーと言えば、やはり〈DMZ〉が真っ先に浮かんでくるだろう......その〈DMZ〉から遂にリリースとなったマーラとコーキのユニット、デジタル・ミスティックズのファースト・アルバム『リターン・2・スペース』。おそらくマーラの単独制作によりアナログ・オンリーでリリースした初期DMZを彷彿とさせる重低音ダーク・スペイシー・トラックだ。本当に多くの人が待っていたアルバムで、叙情的なシンフォニーとアトモスフェリックな空間センスが解き放たれた傑作である。

 レゲエにインスパイアされているマーラが、レゲエ・セレクターの象徴であるダブプレート文化を守る数少ないDJとして、そのアルバムを彼らしくアナログ・オンリー(現時点では)でリリースしたことに敬意を表したい。デジタルやダウンロードでは得られないリアルな"物"がここに存在しているのだから。

6. Rregula & Dementia feat Miss Redflowe / Last Hope / Dizgo | Icarus Audio

-neuro funk / drum&bass-


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 個人的な話ではあるが、6月~7月は何かと不調であった。体調が良くなかったり、仕事で転機が訪れたり、DJブッキング、制作に追われ多忙がたたってそうなったのだが、この曲を聴いたお陰でかなり調子を取り戻した。久々に筆者好みのドラムンベースで爽快なランニング・チューンがリリースされたのである。

 レギュラ&ディメンティアは、オーストラリア出身のニューロ・ファンクを支持する若手有望株のプロデューサーだ。レギュラは以前、同じくオーストラリアのフェスタとのユニット、バッド・ロボットとして、2006年にドラムサウンド&ベースライン・スミスのメインストリーム・レーベル〈テクニーク>から「マスターズ・オブ・マイト/シーケル2」、〈ブラック・サン・エンパイアー〉から「フォーエヴァー」を発表し頭角を現す。その後、2007年(音楽性の違いによるのか?)ユニットの活動停止にともない、個人名義やディメンティアと組む機会が増し、いまの音楽スタイルに定着したのであった。

 オーストラリア、ニュージーランドのオセアニア地区は、ペンデュラム、コンコード・ドーン、ステート・オブ・マインドなどが独自の音楽性(ロッキン・サウンドやニューロ・ファンクのブームを作った)を打ち出し、UKやオランダに匹敵するドラムンベースが盛んな地域に発展させたのである。

 今作をリリースした〈イカロス・オーディオ〉だが、USの新鋭レーベルでレギュラ&ディメンティアが看板アーティストとして一翼を担っていると言えよう。A面でフィーチャーしたのは、ベルリンの紅一点、ミス・レッドフラワーとのコラボで、幻想的なヴォイスを披露している彼女は、DJ/プロデューサー/ヴォーカルもこなすマルチな才能を持ち、いまもっとも注目の女性ドラムンベース・アーティストだ。女性だからといって、まったく物怖じしないドライブ感溢れるニューロ・ファンク/サイバー・ファンクなDJで軒並みフロアをロックしているらしい......いつしか筆者も共演してみたいものだ。

 この作品の特質すべきは、ダブル・ドロップ(ロングミックスのブレンド状態)のときに出力される出音が並ではなく飛躍的に伸び、爆発的なドライヴ感が体験できるのだ。この状態を筆者は、"ドライビング・シンドローム"と呼んでいるのだが......いろんな曲でミックスを試した結果、驚くほどそれは良く聴こえるのである。やはりこれはフロアで体感して頂きたい。しかもアナログでないとこの出音は体感できないだろうことは、当然である。

Funki Porcini - ele-king

 昔......何年前だろうか、ヨーロッパを列車で旅したことがあった。長い時間をかけてアムステルダムからドイツを南に下っていく列車に乗ったとき、同じ席になった老人と話していたら、「ヨーロッパを旅するならイタリアに行け」と繰り返し言われたことがあった。「ドイツなんかにいることはないだろ。イタリアに行け」、彼はなかば呆れた顔で、その根拠について懸命に説いたものだった。結局、イタリアにはいまだに行ったことがないのだけれど、ファンキ・ポルチーニだったら迷うことなくイタリア行きの飛行機に乗っている。

 ポルチーニは、イタリア料理が好きな人ならよく知っているキノコの名前で、このイギリス人は実際にローマに住んだこともあって、自分の作品のいくつかの曲名にもイタリア語を使っている。イタリア好きのイギリス人がいても珍しいわけではない。昔、日本好きのベルギー人にフランスとベルギーの国境沿いで出会ったことがあるが、彼女は僕に日本の煙草の銘柄をいくつか喋り、いかに自分が日本について詳しいか自慢したものだったが、珍しさで言えばこっちだろう。

 芸術的な観点から言っても、ファンキ・ポルチーニはUKヒップホップ界においても珍しいタイプではない。トリップホッパーとして知られた彼の1995年のファースト・アルバム『ヘッド・フォン・セックス』、そして翌年の『ラヴ、プッシーキャット&カーレックス』(愛、カワイ子ちゃん、そして事故車)は、人生をシリアスに語る日本のヒップホップから見れば珍奇な......というか実にふざけた音楽かもしれないが、この当時のUKの連中はヒップホップからの影響とその情熱をまったくナンセンスでバカバカしい事柄に注いでいた。その最高の拠点が〈ニンジャ・チューン〉だった。

 〈ニンジャ・チューン〉が日本で売れないのはもう仕方がない、文化が違うとしか言いようがないと思っている。DJクラッシュの影響下で日本で盛りあがったことのあるアブストラクト系(つまり、欧米で言うところのトリップホップのことだが)と呼ばれた連中の音楽は、ファンキ・ポルチーニと同じ影響下(ブレイクビーツやドラムンベース、あるいはファンクやジャズ、等々)で生まれながら、しかしまあ、良くも悪くもシリアスだった。洒落の入り込む余地はなく、言葉は悪いかもしれないけれど、眉間にしわの寄った音楽だった。そういう音楽は日本では人に勇気を与える。ファンキ・ポルチーニを聴いたところで、まったく勇気なんて湧いてこない。

 ファンキ・ポルチーニは、極めてイギリスらしい展開なのである。ルーク・ヴァイバートやスクエアプッシャーなんかとも近い。言うなればブレイクビーツ・ミュージックの変化球だ。1999年の3枚目のアルバム『ジ・アルティメイト・エムプティ・ミリオン・パウンズ』(最終的に空の100万ポンド)は、音楽的には行き詰まっていたが、そこを風刺精神で乗り切ろうとしたところもイギリスらしい。そして、2002年の4枚目のアルバム『ファスト・アスリープ』によってファンキ・ポルチーニはそれまでの手法と決別し、ジャジーでアンビエント調の曲のなかに自分の将来を託したのである。微笑みを忘れることなく。

 8年ぶりに見るファンキ・ポルチーニの名前に喜びを覚える人は、5枚目のアルバム『オン』を間違いなく好きになるだろう。何も変わっていないし、まったく変わったとも言える。その本質は同じだが、音楽性はずいぶんと変わったのだ。そしてより良く変わったのだ。

 ムーグ博士へのオマージュ、"ムーグ・リヴァー"なる曲でアルバムははじまる。曲中では、ヘンリー・マンシーニの有名な"ムーン・リヴァー"のメロディが演奏される。ファンキ・ポルチーニらしく微笑ましいはじまりで、それはこのアルバム全体の楽天性を象徴しているようでもある。2曲目の"これは生きる道ではない"はフィルムノワール調のお約束通りのトリップホップだが、ファンキーなビートに優美なピアノ演奏が絡む"ベリーシャ・ビーコン"、あるいはクラスター&イーノを彷彿させる"取るに足らない午後"や"第三の男"といった曲はこのアルバムの目玉として特別な響きを持っている。とくに"第三の男"の上品なアンビエントはロマンティックでさえある。"明るい小さいもの"や"フェルナンド・デル・レイの魔法の手"といったジャジーな曲もアルバムに適度な活力を与え(その演奏が生演奏なのかサンプルなのか、明記されていない)、8年ぶりの新作がなかなかの名盤であることを保証づけている。10点満点で言えば、8点以上のできだ。

 このアルバムを聴いたところで勇気が湧いてくるわけではない。その代わりと言っては何だが、陶酔と微笑みが待っている。ワインを飲みながらキノコを食べよう。

interview with Anchorsong - ele-king


Anchorsong /
The Lost & Found EP(DVD付)

Lastrum

Amazon

 それは愚直なまでに直球な音楽のように思える――アンカーソングのことを教えてもらって、初めて聴いたときそのストレートさにたじろいだ。彼の音楽はテクノ、ハウス、ヒップホップのブレンドだが、ジャジーな曲をやろうがアシッディな曲をやろうが、アンカーソングの音楽はまったく直線的なのだ。
 それは複雑になりすぎたダンス・ミュージックが失ったものかもしれない。とにかく......、ジェイムス・ブレイクやアクトレスのような乱雑さが騒がれているこのご時世のエレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンにおいて、あるいはまたチルウェイヴの徒労感が人気を博しているような、そして他方では世界の終わりのような"憂鬱"が10代のあいだで大きな共感を得ているこの国において、彼の真っ直ぐさは例外中の例外と言える。
 アンカーソングは売れている。業界的にはほとんど無名に近いであろう彼の作品は、出せば1万枚以上を売っている。インストゥルメンタルのエレクトロニック・ミュージックとしては決して低い数字ではない。彼の作品は多くの耳を動かしているが、彼が集めているのは"若い"耳だ。
 ロンドンで暮らすアンカーソングは、この2年半、ご当地のクラブ・カルチャーに身を浸しながら、そのトレンドに左右されずに音楽を作っている。それも......愚直なまでに直球な音楽を、だ。それは情熱のほとばしりのようなものの具現化なのだろう。多くのリスナーを惹きつけている彼のライヴ・パフォーマンスを観ると、それがよくわかる。「オレのほうを見ろ」、と彼は言っているのだ。
 
 アンカーソングこと吉田雅昭が音楽活動をはじめたのはいまから6年前の2004年のことだった。MPCを使いながら、その場で打ち込みをしていくそのライヴ・パフォーマンスによって頭角を現してきた彼は、2007年5月にDJ三木祐司による〈Tailgate Recordings〉からデビュー・シングル「The Storytelling EP」を発表している。そしてそのわずか5ヶ月後の2007年の10月、アンカーソングは活動の拠点をロンドンに移すのだ。
 ロンドンでも彼は地道に活動を続けながらシーンの共感者(The Go! Teamからザ・シネマティック・オーケストラ、もしもしレコードのジェイムス・ユールまで)を増やしつつある。2009年にはセカンド・シングル「The Bodylanguage EP」を発表、続いて今年の6月に3枚目のシングル「The Lost & Found EP」を発表している。新しいシングルも、先の2枚と同様にロングセラーになりそうな勢いだ。
 ロンドンのキングスクロス駅の近くで暮らしている彼にskypeを使って話を訊いた。日本時間の午前9時、ロンドンは深夜の1時、ドイツとウルグアイの3位決定戦が終わってから3時間半後の取材だった。

日本にいたときにライヴの映像をYouTubeにアップしたんです。それを見つけたイギリスのジャーナリストが自分のブログに載っけてくれて。そうしたら世界中からメールが来たんですね。で、その人がロンドンに住んでいたことは知っていたので、こっち来てまずその人に連絡したんです。

ロンドンでは小さなバーからライヴをはじめたそうですね。

吉田:こっちでは小さなバーでもプロモーターがいるんですよ。だから、まずはプロモーターに話を通さなければならない。彼らに自分の作品を持っていって自分の場を確保するという手もあるんですけど、僕はそういうやり方ではなかったんです。

どうやってロンドンとのコネクションを作ったんですか?

吉田:日本にいたときに自分のライヴ映像をYouTubeにアップしていたんです。それをたまたま見つけたイギリスのジャーナリストが自分のブログに載っけてくれて。そうしたら世界中からメールが来たんですね。で、その人がロンドンに住んでいたことは知っていたので、こっち来てまずその人に連絡したんです。「こっちでライヴをやる機会はないか」「誰か紹介してもらえませか」みたいなメールを送ったんです。その人は、『ガーディアン』のジャーナリストだったんです。音楽のブログは趣味でやっていたことだったんですね。で、その人は「自分は直接、音楽業界を知らないけど、もういちどブログに載せて告知をしてみよう」と言ってくれて、「ライヴ場所を探している」ということをブログに載っけてくれたんです。そうしたらそれを通じてふたつライヴのオファーが来たんです。

それはいい話ですね。

吉田:とてもラッキーでした。

いまはそういうやり方で世界と繋がるっていうのもあるんですよね。

吉田:そうなんです。ライヴの映像をYouTubeにアップしたおかげで、ギリシャの人からもライヴのオファーがありましたから。それがロンドンに来る引き金のひとつでもあったんですよ。

で、ギリシャには行ったんですか?

吉田:はい。アテネで小さなイヴェントをやっている人だったんですけど。

アテネ、すごいですね。

吉田:YouTubeさまさまでしたね(笑)。

2007年?

吉田:2007年の10月ですね。

とはいえ、ロンドンで日本人が音楽活動するのはそう簡単なことじゃないじゃないですか。

吉田:かもしれないですね。

そういうなかで、ロンドンのライヴハウスで活動をしはじめて、いろんな共感者を増やしていくわけなんでしょ?

吉田:いやー、でもライヴをやる度にお客さんが増えていったわけではないですよ。ただ、最初にやったふたつのライヴを通して、そのイヴェントに来ていたプロモーターの人にいろいろ紹介してもらったり。それでその人の知り合いの知り合いにあってすそ野が広がっていったというか。

なんでロンドンに住もうと思ったの?

吉田:それまで東京で3年くらいやっていたんですね。東京でもそれなりに手応えはあったんです。だけど、ダンス・ミュージックの規模で言えばやっぱヨーロッパのほうがぜんぜん大きいし、違う国でやっても受ける自信はあったんです。そういった、さらなる飛躍を求めてロンドンに渡ったというのがまずあります。ただ、それ以上の理由としては......まあ、僕自身が音楽ファンなので、ポップスの歴史そのものを作ってきたイギリスという国に対する興味がありましたね。もともとロックが好きだったんです。ビートルズとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとか。そういう音楽を聴きながら育ってきたので、やっぱその国に対する強い好奇心はありましたね。

ビートルズとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとか......って、何年生まれですか(笑)?

吉田:そうですね(笑)。ただそれが受け継がれて、その遺伝子を持ったミュージシャンがたくさんいるわけですから。

まあ、そうですね。

吉田:クラブ・ミュージックに関しては最先端だと思うし、ひとりの音楽好きとして刺激を求めてきたというのはありました。

DJクラッシュみたいに逆輸入というか、海外で評価されて日本を見返すっていうカタチがあるじゃないですか。

吉田:明確に意識していなかったけど、あるかもしれないですね。ただ、僕のやっている音楽の日本での規模を考えると、3年活動してきてけっこう厳しいなというのもあったんです。

そうだね。J-POPやりながらとか、あるいは別の仕事で働きながらとかでもない限り、インストのエレクトロニック・ミュージックだけで食っていくって、現状の日本では厳しいからね。

吉田:僕のやっているような音楽(エレクトロニック・ミュージック)を聴いている人の数がこっちは圧倒的に多いんです。もちろん日本で活動してきたので、日本のリスナーのことはいつも意識してますけど、イギリスではこういう音楽を聴いている人の数が多いというのは魅力でした。

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アルバムはやっぱ、1枚通してナンボだと思っているので。最初から最後まで、ぜんぶ意味がある作品にしたいんですね。いま僕の手元にある楽曲では、まだそれができるレヴェルに達してないなと思っているんです。

先日、ele-kingでボノボの前座を務めたときの話を書いてくれたじゃないですか。3000人規模のあの会場の大きさやオーディエンスの写真を見ると、びっくりしちゃうからね。

吉田:とくにボノボみたいなアーティストは日本ではまだまだですよね。ああいう、チルアウト系と呼ばれるアーティストがあの規模でライヴをやってもお客さんがついてくるところがロンドンの音楽シーンの懐の深いところかなと思いますね。

サマー・オブ・ラヴを通過しているって感じがするよね。やっぱああいう音楽も業界全体で盛り上げていこうという気概は感じるものなの?

吉田:そうですね。だけど、やっぱそこはアーティストによって差は出ますけどね。実は昨日、デイダラスの前座をやったんですね。

おー。いいじゃないですか。

吉田:同じ音楽ではないですけど、アンダーグラウンドでエレクトロニック・ミュージック系という点ではボノボと同じじゃないですか。

しかもフライング・ロータスのレーベルだしね。

吉田:ですよね。しかもキャリアも長い。だから、集客を期待していたんですけど、ぜんぜんそうじゃなかったんです。

何で?

吉田:ロサンジェルスということなのか......、こっちで暮らしてて感じるのは、ひとりでラップトップでやっていることへの厳しさみたいなことなのかなと。バンドでやっている人とラップトップでやっている人とでは、明らかに見方が違うように思うんです。とくにお客さんの見る目が違いますね。

あー、それってイギリスっぽいのかも。ラップトップではお客さんのほうがライヴだと認めてくれないのかね。

吉田:そうかもしれないです。

アンカーソングはどのくらいのペースでライヴをやっているの?

吉田:月に2~3本、多いと4本ぐらいですか。

ライヴはじゃあ、けっこうやっているんだね。作品に関しては、イギリスのレーベルと契約しているわけじゃないんだよね?

吉田:そうなんですよ。そこがいまの課題なんです。自分の力不足っていうのもあるんですけど、だけどどのレーベルでも良いってわけじゃないし、出しっぱなしでノー・プロモーションのレーベルも見てきているので。

慎重にならざる得ない?

吉田:ですね。ないわけないんです。メールを送ってくれたレーベルもあったんです。でも、やっぱそこは考えてしまいますね。

アンカーソングはこれまでアルバムを出してないですよね。3枚ともepでしょ。これはどんな理由で?

吉田:ヴォーカリストを起用せずに、インストだけでアルバムを作りたいという目標があるんです。たとえばアルバム1枚、12曲、50分だとしたら、本当に最後まで飽きさせることなく聴いてもらえるアルバムを作ることはとても難しいと思うのです。僕自身、インストだけのアルバムで好きなアルバムとなると数えるほどしかない。考え過ぎかもしれないけど、作るんだったらそういうものにしたいんです。アルバムはやっぱ、1枚通してナンボだと思っているので。最初から最後まで、ぜんぶ意味がある作品にしたいんですね。いま僕の手元にある楽曲では、まだそれができるレヴェルに達してないなと思っているんです。

シングルでいろいろ試したいという感じなのかな?

吉田:自分の音楽性がまだガチっと固まっていないと思うんですよ。

「ザ・ボディーランゲージEP」がジャジーで、メロウなフィーリングのシングルだとしたら、最近出した「ザ・ロスト&ファウンドEP」はよりダンサブルになっていると思ったんですけど。この変化みたいなのは意図的なものなの?

吉田:いや、違いますね。たまたま入れたかった曲があって、それを軸に構成したらそうなっただけなんです。

ロンドンのライヴ活動の経験がフィードバックされたってわけではないんだ? あるいはロンドンのクラブ・カルチャーに触発されるとか。

吉田:こっちに来てからクラブに遊びに行く回数もかなり多いんですけど、正直、その影響を真正面から受けている感じでもないんです。ロンドンに来た最初の頃は、たしかにそういう気持ちもあったんですよ。自分の音楽性がこういうものだという確固たるモノがなかったですし、こっちに来て最先端のもの、モダンなものを取り入れたいという思いがあったんです。それでクラブに遊びに行くんですけど、2年半暮らしてみてわかったのは、ダンス・ミュージックのシーンのサイクルの早さですよね。いまはダブステップが流行の頂点にいるような感じになってますけど、先を見ている人たちからするとすでに廃れはじめているというようなことも言われているんです。

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僕がこっちに来てからの2年半だけでも、ダブステップが急成長して、そしていま下りはじめているのがよくわかるんです。最先端を追いかけていることの空しさも感じるんです。そのことは、僕がこっちに来てわかったいちばん大きなことかもしれないなと思うんです。

ロンドンは昔からそれがありますよね。だけど、ジェイムス・ブレイクみたいなのを聴いているとまた新しい波が来ているのかなというのも感じるんですけど。

吉田:はい、そうですね。ただ、これはシニカルな言い方かもしれないですけど、ダブステップはじきに終わると思うんです。ブリアルみたいな本当に突出した人たちは残っていくと思うんですけど......。変な話、いまレコード契約を狙っている人たちはみんなダブステップを作っていますよ。

それはそうだよね。ムーヴメントってそういうものだから。90年代のテクノのときだってそうだったし、シニカルというよりも「そういうもの」ってことだと思うし、それを土台にまた違う展開があるわけだしね。

吉田:そうですね。僕がこっちに来てからの2年半だけでも、ダブステップが急成長して、そしていま下りはじめているのがよくわかるんです。最先端を追いかけていることの空しさも感じるんです。そのことは、僕がこっちに来てわかったいちばん大きなことかもしれないなと思うんです。

なるほど。

吉田:それで僕は、モダンとレトロの狭間をいくような音楽を作りたいと思うようになったんですよね。周囲からジャンル名を与えられるような音楽もいいんですけど、僕はそういうのとはまた違う音楽を目指したいなと思うようになったんです。風化されない音楽を目標にしたいんです。いまでもクラブに頻繁に遊びに行っていますけど、自分が本当に感じることができた「これだ」というものは、そういうことです。

それは頼もしい話だね。

吉田:ただ、そう思えるようになったのも最近のことで、作品にそれが活かされるのは次からでしょうね。

最近のアンカーソングの音楽を聴いて、ロンドンの流行に左右されている感じは受けなかったし、わかる人ににだけわかればよいという閉鎖性も感じなかったけどね。もっと幅広く聴かせたいという気持ちは伝わったけど。

吉田:はい、そこはそうですね。

目標としているアーティストはいるんですか?

吉田:尊敬しているミュージシャンはたくさんいますけど(笑)。

尊敬しているのはミュージシャンを3人挙げてください。

吉田:ビョークと、DJシャドウと......。

ビョークというのはアンカーソングという名義を聞いたときにすぐわかった(笑)。

吉田:ビョークと、DJシャドウと......まあ、ビートルズですかね。

はははは。その組み合わせすごいね。ちなみに新作の「ザ・ロスト&ファウンドEP」というタイトルはDJシャドウの曲名から来ているの?

吉田:それは関係ないです。本当の意味は駅の落とし物の拾得所みたいな意味なんですけど、「無くしたモノが見つかる」というような意味と同時に、「ひとつの物語が終わって、また新しくはじまる」みたいなニュアンスもあるんです。

アートワークのリンゴの地球っていうのが面白いなと思ったんですけど。

吉田:それはデザイナーさんのアイデアです。いびつなカタチが良いっていうことで、時計とかも試したんですけどね。でも、結局、世界地図になったんですけど。削ったことでカタチが表れるというのも、「ザ・ロスト&ファウンドEP」というタイトルに重なっていいかなと思ったんです。

ところで、ライヴのあの派手なパフォーマンス、MPCを打ち込んで、鍵盤を弾きながらやっていくような生演奏にも近いスタイルは最初からだったんですか?

吉田:そうですね。ソロで初めてライヴをやったときから基本はあのスタイルでしたね。ただ、意図的にやったわけではないんです。僕はもともとバンドをやっていて、事情があってメンバーがいなくなったとき、「どうしようか?」と思ったんですけど、アコギ一本で歌うシンガーソングライターには興味がないし、ダンス・ミュージックをやりたいと思ったんです。そのとき、まずはライヴをやりたいと思ったんですね。で、自分にラップトップとターンテーブルは使わないという制限を課したんです。で、MPCは楽器っぽいなと思ったんですね。最初は部屋でヒップホップのトラックみたいなのを作っていたんです。そしたら、作っているプロセスそのものが面白いんじゃないかと気がついたんです。「これをそのままステージでやってみよう」って。

こんど(7月29日)DOMMUNEであのライヴをやってもらえるということで、とても楽しみにしています。

吉田:こちらこそ。

しかし、なんでロック好きがダンス・ミュージックをやろうと思うようになったんですか?

吉田:バンドが好きだったので、バンドを止めたときに音楽を止めようかと思いました。でも、結局、諦めきれなかったんです(笑)。

インストに目覚めたのは、やっぱDJシャドウが原因なの?

吉田:初めて聴いたインストものがシャドウっていうわけじゃないんですけど、シャドウの音楽がずば抜けてすごいと思えたんですよね。ライヴの良かったんですよ。インストの音楽を聴くようになって、ケミカル・ブラザースからエイフェックス・ツインまで、いろんなライヴを観に行ったんです。でも、どれも心の底から楽しめなかったんです。音楽はすごい好きなのにライヴが面白く思えないという、悲しみすら感じていたんです。でも、シャドウだけはライヴが良かったんです。『In Tune And On Time』というDVDを観ました?

いや、そこまで追ってないなぁ。

吉田:『ザ・プライヴェート・プレス』(2002年)の頃のツアー・ライヴを収めたDVDなんですけど、素晴らしいですよ。

シャドウでいちばん好きなのはどのアルバム?

吉田:『ザ・プライヴェート・プレス』が初めてリアルタイムで聴いたアルバムだったんです。いまは『エンドトロデューシング.....』が好きですけど。最初はサンプリング主体の音楽に憧れがあったんです。実際、「ザ・ボディーランゲージEP」の頃はまだそれを捨て切れていないんです。ただ、僕自身がレコード・コレクターではないので、その方法論では限界があるなとも思っていたんです。

アンカーソングの音楽は純粋なエンターテイメントなんですか?

吉田:エンターテイメントですね。もちろん個々の楽曲に意味はあるんですけど、それをリスナーに押しつけたくはないんですよね。伝えたいモノはないです。

※7月29日、AnchorsongはDOMMUNEにてライヴ演奏を披露します。 7時からトークショー。9時からLIVE:Anchorsong(FEAT. サイプレス上野)+ DJ: MIGHTY MARS & 三木祐司 (T-SKRABBLE DJ'S)

Chart by JETSET 2010.07.05 - ele-king

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1

THE BACKWOODS

THE BACKWOODS S/T »COMMENT GET MUSIC
DJ Kentのソロ・プロジェクト、The Backwoodsのデビュー・アルバム!ハウス~バレアリック~ディスコなど様々なジャンルを通過し、新たなダンス・ミュージックへと昇華させた12曲を収録!限定特典つき!!

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SBTRKT & SAMPHA BREAK OFF »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆無国籍トライバル仕立てのアーバンUKソウル/UKG最新型トラックスが誕生!!DiploやSwitch、Sindenらからも引っ張りダコ状態の覆面トライバル最前衛UKG天才SBTRKTが、噂の新鋭Samphaとのタッグ名義で名門Rampデビュー!!

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BEAUTIFUL SWIMMERS

BEAUTIFUL SWIMMERS BIG COAST »COMMENT GET MUSIC
極上の80'sサウンドを振り撒くアノ2人組の新作12"が到着。今作もやはり...!?口あんぐりな素晴らし過ぎる80'sシンセ・サウンドを展開してくれています! 素材はレトロながら仕上がりは激フレッシュな全3曲を収録です。

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ROBERT DIETZ HOME RUN »COMMENT GET MUSIC
Cadenzaから遂にRobert Dietzが登場!!Cecille Numbers、Running BackそしてAir Londonと錚々たるレーベルで活躍する気鋭のクリエイター、Bobert DietzがいよいよCadebzaへも大抜擢!!やはりセンスがスバ抜けています。

5

DJ NOBU

DJ NOBU 011 E.P. »COMMENT GET MUSIC
Future Terror主宰"DJ Nobu"話題の12"が到着。お見逃し無く~!!ベルリンの聖地"Berghain"でのプレイも成し遂げ、さらに先日リリースされたAltzとの東西両雄対決においても素晴しい楽曲を披露したハード・コアDIY Party"Future Terror"主宰のDJ Nobuによる話題の漆黒盤がコチラ。Rawfila a.k.a. Kazuhiro主宰の"Grasswaxx Recordings"からの登場です。

6

DARKHOUSE FAMILY

DARKHOUSE FAMILY FAMILY TREES EP »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆Hudson MohawkeとJoy Orbisonがコラボレートしたような特大傑作1st.EP!!ウォンキーやニューディスコ、ダブステップ以降の最前衛ヒップホップの魅力を凝縮した超強力トラックx4と、レーベルメイトMr.DibiaseによるリミックスB2を搭載!!

7

CEO

CEO COME WITH ME »COMMENT GET MUSIC
話題沸騰★Tough AllianceのEricによるソロ。爆裂キラー・デビュー・シングル!!死にます!!Tough Allianceがスーパー・ロマンティック・ドリームに浸ったような素晴らしすぎるシンセ・ダンス・ポップ。両面ともに超グレイト。こんなの世界にコレだけです!!

8

J-WOW

J-WOW O DEDO EP »COMMENT GET MUSIC
なんとBird PetersonとSbtrktリミックスも収録。完璧過ぎる1枚が登場しました!!クドゥロ最強トリオBuraka Som Sistemaの1/3、J-WowことJoao Barbosaが、当店定番化したソロ・デビュー作"Klang"に続く特大ボムを完成っ!!

9

TIM TOH

TIM TOH NO TRACE »COMMENT GET MUSIC
Soulphiction主催Philpotからデヴューの若き才能による素晴らしい新曲!!Philpot発三連作"Join The Resistance"でその大器の片鱗を見せ付けたTim Tohですが、やはりこの男は本物ではないでしょうか。マジでTheo Parrishに匹敵するソウルを実感させる素晴らしすぎるヴォーカル物です。

10

OTHELLO WOOLF

OTHELLO WOOLF DOORSTEP »COMMENT GET MUSIC
ときめき風が吹き抜ける。Golden Silvers + Washed Outなインディ・A.O.R.・ポップ!!メチャクチャおすすめ★デビュー・シングル"Stand"が即完売となった新星Othello Woolf。超待望のセカンドは、さらに洒脱にポップに爽やかにキメるミラクル大名曲!!

[Drum & Bass / Dubstep] by Tetsuji Tanaka - ele-king

1. Alaska / Mesozoic Era | Arctic Music -drum & bass/ambient jungle-

 実は筆者の友人でもあるUKのナショナル・クラブ・シンガー、カースティ・ホークショウ(Kirsty Hawkshaw)に「必ずあなたが参加しているこのニュー・アルバムを紹介するよ。」と約束したので、トップで紹介させて頂く......知り合い云々でなくとも、必ず紹介していただろうが......"純粋"に、ただ素晴らしいコンテンポラリー・アートコアと位置づけられる傑作なのだから当然である。
 00年代に入り、すっかり馴染みが薄れてきたアンビエント/エレクトロニカを基調としたドラムンベース。90年代後半から爆発的にフロア思考が全盛を極め、多数の若手プロデューサーがそこに辿り着くよう目指していったので、そのような風潮になったわけだ。そのなかにあって当時、抽象表現的アンビエント/アブストラクトな作品を頑なに貫くアーティストが若手ながら存在した。その先駆者であるLTJブケム率いる〈グッド・ルッキング〉からのリリースによって名を馳せたパラドックス(Paradox)、そしてその変名アラスカである。アラスカ名義では実に4年ぶりのアルバムとなる今作は、2000年~2006年~2010年と紡いだトリロジーの最終章としてコンプリートされる。その集大成というわけだ。
 凍てつく地域で創造される音が、まったくもってここに表現されている。その感覚に触れるべく、まずは聴いて欲しい作品がこの「メソゾニック・エラ」だ。現在では懐古的になってしまった"アンビエント・ジャングル"だが、この作品の大半と言うか......レーベル〈アークティック・ミュージック〉のカラーである全体像が"それ"というわけだ。
 
 カースティとの繋がりもあって、以前、彼女から筆者にも紹介してもらったアラスカ/パラドックスことデブ(Dev Pandya)は、レーベルのディレクターも務めながら、〈Paradox Music〉〈Esoteric〉〈Arctic Music〉〈Outsider〉といった4つのレーベルを巧みに使いわけている。デブは、現代でも稀なドラムンベース・フィロソフィストである。
 さて、本作はちまたのドラムンベースで流行しているディープでミニマでいたってシンプルな作品とはまた一線を画したサウンド・スケープで、より音楽的で音響要素に富んだオリジナル・プロジェクトである。パラドックス名義の作品に顕著なアブストラクトなミニマル・フィロソフィック・アプローチとは、オポジットに位置している。凍てつくように、そして研ぎすまされた"北"の感性がメインラインとしてスケッチされ、盟友セバ<(Seba)との共作にも共通する北欧的アンビエント・コラージュが広がる。カースティとの共作「Sundog」のサブタイトルに(ー20 MIX)と加えられてるイメージ通りのサウンドである。
 ちなみにトラック/ジャケット・デザイン双方がこれほどアーティに連動している作品はドラムンベース界では希有で、エレクトロニカ/ポスト・ロックの感性にも近いとも言える。もしかしたら......これが......"ポスト・ジャングル/ドラムンベース"なのかもしれない。

2. Heist / Continental Drift | Metalheadz-drum & bass/darkcore-

 以前パーティ・リポートでお届けした今年2月の〈DBS〉で、ゴールディが自身のユニット、ラフィージ・クルー(Rufige Kru)の名曲"ビーチドリフタ"(Beachdrifta)をラストにスピンしたのだが......そのラフィージ・クルーのエンジニア/マニュピレーターがハイストである。ハイエナジーなジャンプアップ・サウンドをメイン・プロダクションとしながら、〈カリプソ・ミューザック〉(Calypso Muzak)、〈コーラボ・レコーディングス〉(Co-Lab Recordings)、〈ガンジャ・レコーズ〉などからリリース。さらにディープ・プロダクションでは、〈ホライゾンズ・ミュージック〉や〈インテグラル〉(Integral)などから数々のリリースによって活躍しているマルチ・プロデューサーだ。現在はゴールディの片腕としてメタルヘッズ全開のダーク・ベース・サウンドを受け継いでいる。
 先述した往年の名曲"ビーチドリフタ"の続編的な傾向が強い今作"コンチネンタル・ドリフト"は、ときを経てより繊細で滑らかなタッチで描かれたストリングス・アンサンブルである。叙情性を拡大し、幻想的に思い浮かべる浜辺をひた走る......そんな陶酔感覚を抱かせる。他にカップリングされている3曲も秀逸で、メタルへッズを地でいく代表的サウンド・ディレクション"ダークコア/ディープコア"が、現在のトレンドとともにオブラートに包みこまれ、混合したあと、生み出されているといったところだ。メタルヘッズはいまもなお衰え知らず"健在"である......。いや、"暗躍"と言ったほうが適切か......UKを代表するあのダーク・スター、ゴールディ主宰のレーベルなのだから。

3. Davip & Encode / Vamonos/High Technology |
Breed 12 Inches
-drum & bass/electric cyber-

 昨年、多様なアーティストのリリース・ラッシュを果たしたロシアからまたニューカマーが現れた。〈ホスピタル〉からの大ヒット・コンピレーション・アルバム『フューチャー・サウンド・オブ・ロシア』も記憶に新しい。エレクトロソウル・システム、サブウェイヴ、ボップ等々、寒い土地柄もあってか、北欧的感覚のディープ/エレクトロニカよりな作風を志すアーティストが多かった。が、今度はダンスフロア直系のエレクトリック・サウンドだ。彼ら、ダヴィップ&エンコードのようなサウンドがロシアでも台頭してきたのである。
 
 ブレイクスを主に扱うマッシュアップ・レーベル〈カット&ラン〉からのリリース(正確にはダヴィップのみのプロダクション)でも話題の彼らだが、今回は、ニューロ・ファンクをリードするクリス・レネゲード(Chris Renegade)主宰のレーベル〈リフテッド〉(Lifted)傘下となる〈ブリード・トゥエルブ・インチーズ〉からのリリースだ。このレーベルは、若手や新進気鋭のアーティストの受け皿的なレーベルと言ってよいだろう。現在のドラムンベース・シーンの動向から、まったく正反対の音楽性(サイバー/テック/エレクトロ・ステップ等々......)を貫いているこのレーベルに新たな期待を抱きたい。このようなサウンド、つまりロッキン・エレクトリック・サイバーは、先駆者ペンデュラムの成功が賛否両論を生んだにせよ、大いなる可能性があるサブジャンルであることに変わりはない。

 筆者がDJを務めた4月15日の〈DOMMUNE〉でこのような曲をプレイしたとき、率直に考えさせられたことがある。プレイ中の前半、つまりニュースクール・ドラムンベースをスピンしたのだが、正直、いまの進化したメインストリーム・ドラムンベースをどのように日本のクラブ・リスナーは捉えているのか、個人的にも非常に興味深かったのでトライしたのだが、賛否両論と言わざる終えない状況になった。その多くは懐古的ジャンルとして捉えられているのか、良くも悪くも、現在のドラムンベースの置かれてる状況が公の場ではっきり知ることができ、身をもって体験したことで勉強になり感謝したい。が、個人的見解で言えば、00年代に突入してからドラムンベースの取り巻く状況は、刻々と変化し、枝分かれしていった先、よりストイックでマニアックなものになっていった。そのことが日本のドラムンベース層が徐々に薄れていったひとつの原因ではないかと推測される。この時点で、各々のサブジャンルのコミュニティができあがり、他のジャンルの層と噛み合なくなったと言えるかもしれない。筆者はそのような日本でのドラムンベースの状況を「ドラムンベース失われた"00年代=ディケイド"」と呼んでいる。<DOMMUNE>での後半クラシック・ジャングルをプレイして反応が非常に良かったあたり、多くがそこで止まっているのだ。このことについては、また今後も触れていきたい。とにかく、シーンの活性化上、新しい世代にもどんどん聴いてほしいジャンルであり、我々がその素晴らしさを伝え続けなければならないと感じている。

4. Kyle Hall / Kaychunk/You Know What I Feel | Hyperdub -dubstep/detroit-


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 コード9が仕掛けるレーベルのポリシーは実に素晴らしい。カテゴリーに拘らず、つねに新しい音を追求しているからだ。自身のダークかつダビーなガラージで、ブリアルのような幻想なアンビエント・ダブステップ、はたまた、ゾンビーのような奇怪なダビー・エレクトロ、ビーツ界の巨人フライング・ロータス等々、このレーベルのヴァリエーションの豊かさはハンパない。そしてここにデトロイトからの新たなサウンドを〈ハイパーダブ〉に加わる。カイル・ホールである。

 カイル・ホールは、2007年デトロイトのアンダーグラウンド〈FXHE〉レコーズからの「プラスティック・アンバッシュ」でデビューしている。当時若干17才というから恐れ入る。2008年には早くも、自身のレーベル〈ワイルド・オーツ〉を立ち上げ、立て続けにデトロイト・ディープ・ハウスの傑作を送り出している。新世代のプロデューサーらしく、徐々にヨーロピアン・ナイズされたビートニクスやファンキーにも着手し、2009年リミキサーとしてダークスターの"Aidy's Girl Is A Computer"をリミックスする。美しくも繊細なハウスにディープ・ファンキーを掛け合わせたようなメランコリックな秀作となり、それで今作「 Kaychun k/You Know What I Feel」で〈ハイパ ーダブ〉からのシングル・デビューを飾ったのである。エレクトロ色が踏んだんなハイパーダブ・カラーを生かしつつ、デトロイト的宇宙観を前衛的に捉えたファンキー志向ビーツである。デトロイト経由から届いた〈ハイパーダブ〉、次は何処から届けられるのか楽しみである。

5. DJ G / Avoid The Noid/Duality | Pushing Red -dubstep/atmospheric/dub-

 サンフランシスコのダブステッパー、DJ Gだが、聴くたびに筆者のツボを付かれるプロデューサーだと思う。ミステリアスで空間系アトモスフェリックに展開したかと思えば、スライトリーなダビー色やスモーキーなハウスの要素を加えたプロダクションを出したり、あるいはトライバル・テッキーでミニマル・ライクなシリアス・ステップであったりと、とにかくパーカッシヴで重厚なダブステップをリリースしている。今回はアメリカのテキサスを拠点としている〈プッシング・レッド〉からのリリースで、テック・インフルーエンスなアトモスフェリック・ダブステップとディープ・ダブのカップリングとなった。〈プッシング・レッド〉と言えば、レーベル1番にリリースされた、サンフランシスコのジャス・ワンも素晴らしい。彼はディープ・ガラージや2ステップ色が強く、UKサウス・ロンドン志向の新世代ニュー・ガラージを提唱するひとりと言える。ジャイルス・ピーターソン主宰〈ブラウンズウッド〉からのジャズ・シンガー、ホセ・ジェームスの「Warrior」をサブトラクト(SBTRKT)とともにリミックスしている。今後もサンフランシスコから発信されるこの個性的なサウンドをこう位置づけよう。ローファーが語っていたこと、これが「ポスト・ダブステップ」であると。

6. Scuba/Dissident / Tense[D BRIDGE RMX]/Social Of Silver Skeletons [HEADHUNTER RMX] | Hotshore -dubstep/drum&bass/drumstep-

 ドラムステップ<DRUMSTEP>と言う新たな潮流が生まれつつあるのは、ご存知だろうか? ローファーは"ポスト・ダブステップ"について語っていたが、そのことはダブステップに限らず、ドラムンベースやUKガラージなどのリアル・アンダーグラウンド・ミュージックにも当てはまる。そこで先述したドラムステップだ。ちょうど、ドラムンベースとダブステップの中間のBPM、ビート・プログラミングなのだが、いかんせん、現時点では存続するかいなか、疑い深いくらい中途半端感が否めない。そのサポートしている中心にいるのが、〈テクニーク〉などからリリースしているダブ・ファンデーションやD・ブリッジ、コンシーケンスなどだ。
 今回、スキューバの〈ホットフラッシュ〉とDJクレバーの〈オフショアー〉が融合した〈ホットショアー〉から、D・ブリッジがスキューバの名曲"Tense"をドラムステップ風にリミックスし、カップリングにディシデントをヘッドハンターがリミックスするという豪華内容になっている。ドラムステップが、今後どのような道程を歩むのか非常に興味深く見守っていこう。そしてまたすぐUKから新たなサブジャンルが世界中に送り込まれるだろう。

7. Calibre / Tenopause/Discreet Dub | Deep Medi Musik -dubstep-

 ジョン・ケージを敬愛するカリバー。奇抜なインダストリアル・センスをサウンドデザインするプロデューサーで、すでに多くののドラムンベースの名曲を送り出している。昨年はドミニク・マーティン名義でのインディ・ロックやシネマティック音響/現代音楽を融合したアルバムを披露し、シーンに衝撃を与えている。
 
 カリバーもまたダブステップに度々足を踏み入れている。これはマーラの〈ディープ・メディ・ミュージック〉から2作目となるシングルなである。そのきっかけは、2008年9月20日の〈DBS〉、カリバーとマーラの初共演ではないだろうか。あの来日がカリバーのダブステップ制作のはじまりになったのである。これはなんとも嬉しい話だが、音のほうもサウンド・フィロソフィストでもある彼の才能が、ダブステップと言うフィルターを通しても違和感なく発揮されているというところがすごい。というか、彼の感性はダブステップのほうがより適合していると思うくらいだ。
 この12インチにおいてカリバーは、ドラムンベースでは踏み入れられなかった未解の領土を切り開いたようである。現在多様化が加速するダブステップのなかで、〈ディープ・メディ・ミュージック〉が持っている変わらない本来のダブステップの姿(サブベース主体のきわめてパワフルでシンプルなダビー・サウンド)が、ここに来て再認識されてきているようだ。
 いろんなものを吸収してきたハイブリッドなダブステップに、いま、転機が訪れてきているのは間違いない。そうしたシーンの動きのなかで自身のレーベル・カラーや音楽性を貫いているDMZクルー(マーラ、コーキ、ローファー)は、やはり格が違うと言うべきだろう。

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