「LV」と一致するもの

Alva Noto + Ryuichi Sakamoto - ele-king

 ジョージ・ルーカス監督のデビュー作『THX 1138』(71)は『1984』と並ぶディストピアの古典『すばらしい新世界』を下敷きにしたSF映画で、いまでは普通の演出だけれど、人工性を際立たせたセットにブイ~ンとかヒュウウウ~とかカチカチカチとかクリンクリンといったSEを流し続けることで観客を不安な気持ちに陥れ、機械文明に批判的な視点を与える作品だった。タルコフスキーなどのSF映画に大きな影響を受けたというカールステン・ニコライがとりわけ音楽との関連で言及する映画がこの『THX 1138』で、6Aus49名義のバンドが解散した後、96年からソロでリリースし始めたノト名義や00年から使い始めたアルヴァ・ノト名義の作品はまったくもって『THX 1138』の効果音をそのまま再現したものか、これにリズムを足した作品といえる。タイトルもそのことを指し示しているかのような『Prototypes』(00)から試しに何曲か聴いてみると、“Prototype 10”は不気味なトーンの持続、“Prototype 2”は不安が身体に染み込んでくるようで、“Prototype 6”は感情を表現することが許されない未来人の内面を描写しているといった感じだろうか(『Prototypes』は各曲にタイトルがなく、19年の再発盤で初めてナンバリングが施された。ちなみにルーカスの2作目は『アメリカン・グラフィティ』で、自動車のナンバーがTHX、3作目は『スター・ウォーズ』で、同シリーズの設定には1138という数字が随所で使われている)。


 僕がノト名義の曲を聴いたのは〈ミル・プラトー〉のコンピレーション『Modulation & Transformation 4』(99)が最初だった。これは同レーベルがドイツを中心に質が変わり始めた「エレクトロニカ」をいち早く包括的に紹介した編集盤で、マイク・インクのガス、ピーター・レーバーグ、マウス・オン・マース、テクノ・アニマル、トーマス・ケナーなど新たな時代の波に乗りきれた中堅やニューフェイスたちが36組も集められ、ドイツ以外では池田亮司の名前もあった。「エレクトロニカ」という呼称は一時期のもので、リスニング・テクノやラウンジ・リヴァイヴァル、あるいはグリッチやファウンド・サウンド(注)といったダンスフロアを意識しない電子音楽がいわば一本化されて、このタイミングで篩にかけられ、安直にいえばミュジーク・コンクレート・リヴァイヴァルがスタートを切った瞬間だと考えればいいだろう。そして、ここからマーク・フェル(SND)やミカ・ファイニオらが次の時代を切り開き、アルヴァ・ノトはフェネスやヤン・イエリネクと並んでシーンの代表格となっていく。01年にリリースされた『Transform』が早くも傑作である。シンプルなパルス音だけで構成された同作は『Prototypes』とは異なり、既成のリズムから波形をコピーして、そのパターンにグリッチを当てはめたものらしい。そう、“Module 4”や“Module 6”の音数の少なさときたら! これで腰が動いてしまうのだから最初は驚くしかなかった。“Module 7”などはヘッド・バンギングすら誘発しかねなかった(『Transform』の各曲も再発時のタイトル)。


 東京で初めてアルヴァ・ノトのライヴを観た坂本龍一はシュトックハウゼンを思い出したと語っている。90年代のテクノには少し距離を感じていたらしい坂本はニコライのサウンドにはすぐに親近感を感じ、池田亮司にニコライを紹介してもらったと同じインタヴューで続けている(池田亮司とニコライは当時、サイクロ.というユニットを組んでいた)そして、リミックスをオファーし、ニコライがこれに快く応じたことがすべての始まりとなる。この当時、坂本は「エレクトロニカ」を大量に買い込んでいる。どんな人でも1年に1日だけ卸売価格でCDを買うことができる店があり、僕も何度か利用させてもらったけれど、そこで「坂本さんが倉庫にあったCDを端から端まで買っていったんですよ」ということだった。レゲエが理解できず、坂本が諦めずに2年間もレゲエを聴き続け、ついに「わかった!」というエピソードが示す通り、坂本は熱心な勉強家で、自分への投資を怠らないタイプの音楽家なのである。僕が知っているミュージシャンの多くは人付き合いや音楽以外のことにお金を使い、「新しい音楽」を聴かない人が多い。どういうわけかブレイクした時点で「止まってしまう」のである。アルヴァ・ノトの周辺で何が起きつつあるのか。それを坂本が本気で知ろうとしていたことがこの話からは伝わってくる。90年代の坂本龍一は映画音楽家であり、オーケストラの指揮者であり、どちらかというとモダン・クラシカルの系譜に位置していた。そこから見える未来に坂本は大きく軌道修正を加えた。しかも、アルヴァ・ノトと坂本龍一による最初のコラボレーションは早くも『Transform』の翌年にリリースされている。『Modulation & Transformation 4』から数えても3年しか経っていない。

 ニコライは最初、坂本から渡された音素材のうちピアノの演奏に惹かれたという(坂本いわく、「ピアノの演奏は2%ぐらいで、残り98%のエレクトロニクス・ミュージックにはぜんぜん興味がもたれなかった(笑)」)。「坂本のピアノになかなか手を加えられなかったニコライは何度かツアーを重ねるうちに打ち解け、大胆にプロセッシングを加えられるようになった(大意)」という発言もあるので(前掲)、『Vrioon』では主にニコライがプロセッシングを担当し、それを土台にして2人で作業を進めるという過程を経たと思われる。『Transform』と較べると、同じくミニマリズム(音数が少ないこと)でありながら躍動感は極力抑えられ、アンビエント表現の比重が高い。リヴァーブをかけたピアノもレイヤーを重ねるよりはひとつの音が現れては消えるまでをじっくりと観察しているようで、間隔を長く取り、音が空間に染み渡るプロセスを強く意識させる。主観と客観を並走させているというのか、見事にスキゾフレニックというのか、ニコライによる機能的なグリッチと坂本のメランコリックなピアノは将棋の試合のようにお互いに間を詰め合い、離れては近づき、近づいては離れ、混じり合ってしまうことなく、静かなテンションを維持し続ける。冒頭に引いた『THX 1138』に喩えるとニコライが映像を担当し、坂本が役者の演技に相当するというか。これまでに何度も書いたことだけれど、『Vrioon』はなかなかの傑作である。京都の石庭で聴いたらどんな感じがするだろうと何度も想像してしまった。

 『Vrioon』を皮切りに『Insen』『Revep』『Utp_』『Summvs』と、5部作がすべてリマスターを施されて年内に再発される予定(タイトルの最初の文字を繋げると「V・I・R・U・S(ウイルス)」になる!)。奇しくも今年、プラスティックマンのエレクトロニクスとチリー・ゴンザレスのピアノという同じ組み合わせのコラボレート・アルバム『Consumed in Key』がリリースされている。リッチーもゴンザレスもパラノイアックなアプローチを取り、強迫的な展開が頻出するので、時代も違うし、方向性はまったく異なるものの、『Vrioon』とはあまりにも対照的で、続けて聴くと音数が圧倒的に少ない『Vrioon』の方が緊張感は高く、最初の音が鳴ると同時に透き通った景色の向こうに連れ去られていたことがよくわかる。『Consumed in Key』にあるのはコロナ禍の濁った感じや俗っぽさを諦めきれない猥雑さといったところで、そう考えると『Vrioon』には浮き世と憂き世を入れ替えたような形而上学的なセンスがあり、それこそシュトックハウゼンが抱いた「普遍への夢」が含められていると考えたくなってしまう。少年が歌う断片的なメロディにカチャカチャと電子音が絡みつく“Gesang Der Jünglinge”と同じとは言わないけれど、音がしない瞬間が多く、透き通るような感触には似通ったものがあることは確かだろう。アルヴァ・ノトのライヴを観てシュトックハウゼンを思い出したという坂本龍一の直観は、たぶん、正しかったのである。

*『Vrioon』のリマスター盤にはスペインの美術雑誌「MATADOR I: ORIENTE」に付けられたCD用に録音された「Landscape Skizze」がボーナス・トラックとして追加されている。

(注)「ファウンド・サウンド」とはフィールド録音のように楽器の演奏ではない音が音楽に使われていること、あるいはその音を出す物体(ファウンド・オブジェクト)のことで、「具体音」と意味は同じ。ジョン・ケージやシュトックハウゼンが手法として確立し、ピエール・アンリやブライアン・イーノがあまたの応用例を展開したのち、イーミュレイターやサンプラーの普及によって80年代以降はダンス・ミュージックでも広く応用されるようになった。「エレクトロニカ」の時期にはこれをダンス・ミュージックとは異なる文脈に戻す傾向が増え、とくにフェン・オバーグ(フェネス+ジム・オルーク+ピーター・レーバーグ)がその先頭に立った。

ダンスの夏へ - ele-king

 ダンス・ミュージックの良いところは、幅広い人にアプローチできるところであり、基本ピースなところであり、また、サウンドの実験場としても機能するところ。海の向こうは、いよいよダンスの夏を前に準備万端といった感じだけれど、日本はどうなるのでしょうか。先週末、ぼくは京都のイーノ展を観にいって、稲岡健とオキヒデ君と文字通り浴びるように呑んだ翌日、静岡に寄って、小さなクラブ〈Rajishan〉にて、CMTほか地元のDJたちがかけるハウスやテクノでダンスしました。当たり前だけど、音を身体に感じながら踊るって、いくつになっても楽しいよね。


Ron Trent presents WARM - What Do The Stars Say To You Night Time Stories /ビート

Deep House

 シティ・ポップが世界で大流行だって? いい加減なことを書いてしまう人がいるものだ。南米やアフリカのクラブでも、日本の70年代末〜80年代のポップスが種々雑多にかかっているならそう言えるだろうけど。つまりレゲトンやダンスホールのように、アマピアノのように。ぼくが知る限りでは、世界で大流行する音楽はだいたいダンス・ミュージックだ。ハウス・ミュージックは、そういう意味では30年前に世界で大流行した音楽のひとつで、いまでもこの音楽は老若男女問わずに踊らせてくれる。
 ロン・トレントは、1980年代なかばの彼が10代のときに作ったデビュー曲によって一世を風靡し、1990年代のシカゴ・ディープ・ハウスのもっとも輝かしい存在として影響力をほこったDJ/プロデューサーだ。トレントのような人は、ダンスフロアが歓喜の場であり、同時に魂を洗浄する場であることにも自覚的だった(彼の伝説的なレーベル名は〈処方箋〉=〈Prescription〉という)。ほとんど外れ無しだった彼が90年代に残した音楽は、いまでもその深さを失っていないが、トレントは年を重ねるなかで、柔軟に変化を受け入れて彼の音楽に磨きをかけている。
 今年49歳のベテラン・ハウス・プロデューサーの新作には、共演者として(驚くべきことに!)ヒューストン出身のクルアンビンがいる。そして、79歳のフランス人ヴァイオリニストのジャン=リュック・ポンティ、66歳のイタリア人ジジ・マシン、ブラジリアン・ジャズ・ファンクの大御所、アジムスのリズム隊=アレックス・マリェイロス(ベース)とイヴァン・コンチ(ドラム)がいる。トレントはこうした豪華ゲスト陣を的確な起用法をもってフィーチャーし、スムーズで快適なアルバムに仕上げている。大人のハウス・ミュージックだが、この音楽の奥深さに興味のある若い世代にも聴いて欲しい。


Joy Orbison - Pinky Ring / Red Velve7 XL Recordings

UK GarageTechno

 昨年アルバムを出したUKベース世代の人気DJによるキラー・チューン。いや〜、カッコいいです。もうすぐ限定で10インチも出るそうで、君がDJならゲットしよう!


Various Artists - The Assurance Compilation

AmapianoAfrobeatHouseTechnoBaile FunkGqom

 ベルリン在住のDJ、Jubaは欧米以外の国々で活動する女性DJの音源をコンパイルしてリリースした。ベトナム出身DJ/プロデューサーのMaggie Tra、ブラジル出身プロデューサーのBadsista、南アフリカ出身DJ/プロデューサーのDJ IV、台北出身のSonia Calico、ナミビア共和国出身のGina Jeanzなどなどによるマルチ・カルチュアラルなコンピレーションで、なおかつ女性アーティスト限定。これもまた、ブラック・ライヴズ・マター(創始者の金のスキャンダルには失望したが、しかしそれ)を引き金とした、ポスト植民地主義時代の大きな波(ムーヴメント)に乗って生まれた作品と言える。


Phelimuncasi - Ama Gogela Nyege Nyege Tape

GqomGhetto

 南アフリカのゴム3人衆。DJ MP3、DJ Scoturnといった以前からの仲間のほか、韓国のIDMアーティスト、 NET GALA。ダーバンのDJ Nhlekzinらも曲を提供している。激しいことこのうえないが、DJ MP3によるドローンの“uLalalen”には至福の境地が、NET GALAによる“ Dlala Ngesinqa”ではゲットーテック、DJ Scoturnによる“Maka Nana”ではヒプノティックなアフロ・ハウス……といった具合に、じつにヴァラエティー豊かな内容になっている。4つ打ちのキックドラムが入る“Kolamula Ukusa”も推進力がある曲で、ウガンダのアンダーグラウンド・シーンの勢いと濃密さをしたたかに感じる。ドミューンでイーノについて喋った翌日、浅沼優子とそこそこ呑んで、ネゲネゲ・フェス体験談を聞かされたばかりなんで、とくに。


Slikback - 22122

Experimental

 ケニアのクラブ・カルチャーにおける実験精神を負っているひとり、スライクバックによる最新作で、bandcampからは定価無しでゲットできる。なので、この機会にぜひ聴いて欲しい。彼のユニークな音楽の背後には、いろんなもの(テクノ、ノイズ、Gqom、グライム等々)があるのだろうけれど、咀嚼され、はき出されるサウンドはきわめて因習打破的だ。君が好む好まざるとに関わらず、彼のようなサウンドの挑戦者がいるからこそクラブ・カルチャーは風俗にならず、文化としての強度を保っているということもどうか忘れずに。


Dopplereffekt - Neurotelepathy Leisure Systems

Electro

 ドレクシア(最近弟がWavejumpers名義でシングル出しました)のオリジナル・メンバーだったジェラルド・ドナルドによるプロジェクトとはいえ、ドップラーエフェクトはデトロイト・エレクトロにおける異端だ。黒人男性と白人女性によるデュオによる電子音楽という点では、ハイプ・ウィリアムスの先達でもあるのだが、そのコンセプチュアルな作風においても先を行っていた。ただし彼らは少し風変わりで、ある種病的なテーマ(ファシズム、エロス、科学者、遺伝子学等々)を扱いつつ、それらはつねに冷酷なマシン・サウンドによって形作られている。新作においても、その美学が1995年からブレていないことが確認できるだろう。ドップラーエフェクトは非人間性=機械のなかにエロティシズムを見いだし、人工物と人間との融合を夢みているかのようだ。ドレクシアの感情をかき立てる激しさとは対極の、人気のない病院のような、静的でひんやりとした感触が広がっている。


Compuma - A View Something About

AmbientDubExperimental

 日本からは、欧米の物まねではない独自のセンスを持ったおもしろい表現者がポツポツと生まれるわけで、最近でいえば食品まつりなんかがそう。で、Compumaもまた、オリジナリティを持ったDJ/プロデューサーのひとりだ。食品まつりは、いちぶの欧米人から見ると横尾忠則のナンセンスなサイケデリアを彷彿させるそうだが、それに倣って言えば、Compumaは(京都のお茶の老舗店からCDを出しているし)千利休のダブ・ヴァージョンだ……というのは冗談です。が、彼には独特のダブ・センスがあって、それは派手にかまさないからこそにじみ出る魅力を持っている。その抽象化された音像と間の取り方は、じつに独特だ。
 Compumaのソロ・アルバム『A View』は、アンビエント、フィールド・レコーディング、ダブ、シンセサイザー音楽、エレクトロ、そういったものからヒントを得て作られた立体的かつ空間的な音楽で、題名が示すようにサウンドスケープ(音で描く風景)作品とも言えるのだろう。山っ気やエキセントリックな要素はまったくない。その代わりここには、強固な意志によって創出された「ゆるさ」というものがある。Compumaは息苦しいこの時代のなかで、みごとなシェルターを立ち上げているように見える。音素材自体は演劇のために制作されたものだという話だが、そうした予備知識を抜きに聴いてぜんぜん楽しめるし、さすがベテラン、抽象的であるがゆえになんど聴いても飽きない。


Overmono - Cash Romantic   XL Recordings

Techno

 とりたてて目新しくはない、でも、とにかくカッコいい。こういうトラックを聴くとオーヴァーモノがUKのダンス・シーンで幅広く支持されているのが理解できる。ミニマルなテクノにソウルフルなヴォーカルが若々しい感性によってミックスされる。いかにもUKらしいトラックというか、君がDJでテクノが好きなら、フロアの熱を上げたいとき、これをスピンすれば間違いないよ。


Petronn Sphene - Exit The Species

No Wave RaveExperimental

 以前紹介した衝撃のジ・エフェメロン・ループの変名によるなかばガバの入ったハードコア・レイヴ・アルバム。日本は、梅雨が終われば参院選かぁ。サマー・オブ・ヘイトにならなければいいけれど……。とまれ。この音楽、ダンスフロア向きかどうかは議論の余地がありますが、ライヴハウスで暴れたい人にはコレでしょう。

 今年の夏はダンスの夏になる……だろうと、勝手に思ってました。いや、本当になるんじゃないかな。渋谷のContactも夏までは営業しているようだし、どうか、コロナの影響も最小限に、ダンスの夏になりますように。

Zettai-Mu “ORIGINS” - ele-king

 大阪の KURANAKA a.k.a 1945 が主催するロングラン・パーティ《Zettai-Mu》あらため《Zettai-Mu “ORIGINS”》の最新回が6月18日(土)@NOON+CAFE にて開催される。2020年以降の度重なる延期を乗り越えてきた同パーティだが、今回 KURANAKA は「30th Anniversary Historic Set」を披露するほか GOTH-TRAD、D.J.Fulltono、ntank と、豪華な面子が集合する。ぜひ足を運びましょう。

Zettai-Mu “ORIGINS"
2022.6.18 (SAT)
OPEN/START. 22:00 -

KURANAKA a.k.a 1945
[ 30th Anniversary Historic Set ] (Zettai-Mu)
GOTH-TRAD
(Back To Chill/DEEP MEDi MUSIK/REBEL FAMILIA)
D.J.Fulltono
(Booty Tune Records/Exit Records/Tekk DJ'z Crew)
??????
ntank (MAVE)
HARUKI
ランプ (sabato)
Vis (PAL.Sounds)
Ascalypso
PACONE
Somae'369
ZTM SOUND SYSTEM (Main Floor)
369 Sound (2nd Area)
and YOU !!!

at NOON+CAFE
TEL : 06-6373-4919
ADDRESS : 大阪市北区中崎西3-3-8 JR京都線高架下
3-3-8 NAKAZAKINISHI KITAKU OSAKA JAPAN
WEB SITE : https://noon-cafe.com
ZETTAI-MU WEB SITE:https://www.zettai-mu.net/news/2206/18/
FB EVENT : https://www.facebook.com/events/739754973706169

OPEN/START. 22:00
ADV. 1500yen (要予約)
DOOR. 2000yen
UNDER 23. 1500yen
※1D別*入場時に1DRINKチケットご購入お願い致します。

【予約登録リンク】
https://noon-cafe.com/events/zettai-mu-origins-yoyaku-6
※枚数限定ですので、お早めにご購入ご登録お願い致します。LIMITED枚数に達した場合、当日料金でのご入場をお願い致します

【新型コロナウイルス感染症拡大防止対策】
・マスク着用での来場をお願いします。
・非接触体温計で検温をさせて頂き、37℃以上の場合はご入場をお断り致しますので、予めご了承ください。
・店内の換気量を増やし、最大限換気を行います。

【お客様へご協力のお願い】
・以下のお客様はご来場をお控え頂きますようお願い申し上げます。
・体調がすぐれないお客様
・37℃以上の発熱や咳など風邪の症状があるお客様
・くしゃみや鼻水などによる他のお客様にご迷惑をかけする可能性があるお客様
・ 60歳以上の方のご入店をお断りしています。
・お年寄りや体の弱い方と同居するなど生活を共に行われている方のご来場はお控えください。
・体調がすぐれないとお見受けするお客様がいらっしゃいましたら、スタッフがお声がけさせて頂きます。

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GOTH-TRAD

様々なアプローチでヘビーウェイト・ミュージックを生み出すサウンド・オリジネイター。
2001年、秋本"Heavy"武士とともにREBEL FAMILIAを結成。"METMORPHOSE"でのデビューライブを皮切りに、Fuji Rock Festivalなど多くの国内フェスに出演。 2007年までに5枚のシングル、3枚のアルバムをリリースする。 ソロとしては、2003年に1stアルバム『GOTH-TRAD I』を発表。国内でソロ活動を本格的にスタートし、積極的に海外ツアーも始める。2005年には、自作楽器・エフェクターを駆使した、実験的な2ndアルバム『The Inverted Perspective』をリリース。同年11月にはMad Raveと称した新たなダンス・ミュージックへのアプローチを打ち出し、3rdアルバム『Mad Raver's Dance Floor』を発表。
『Mad Raver's Dance Floor』に収録されたタイトル「Back To Chill」が、ロンドンのDUBSTEPシーンで話題となり、2007年にUKのSKUD BEATから『Back To Chill EP』を、DEEP MEDi MUSIKから12"『Cut End/Flags』をリリース。8カ国に及ぶヨーロッパツアーの中では、ロンドンの伝説的パーティー"DMZ"にライブセットで出演し、地元オーディエンスを沸かした。以降、海外を中心にリリースを続け、ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニア等、毎年、世界中でコンスタントにツアーを重ねる。2012年には待望のアルバム『New Epoch』をDEEP MEDi MUSIKからリリースし、Fuji Rock Festival 2012に出演。2009年~2014年にかけて、数々の欧米のフェスティバルにも出演してきた。 2015年、再びダブプレートのカットを始め、完全にVinyl OnlyのDJスタイルにシフトする。
アンダーグラウンドシーンで注目を集めるノイズコアバンド"ENDON"のリミックスを手がけ、5月にMerzbowのリミックスとのスプリット12"が、Daymare Recordingsよりリリースされる。12月には、日本が世界に誇るバンド"Boris"とのコラボレーションイベント"Low End Meeting"を代官山UNITにて開催し、共作"DEADSONG"を披露。 サウンドシステムを導入した、超重低音かつ実験的なアプローチのライブが話題となった。
2006年より始動した自身のパーティー"Back To Chill"は、2014年11月にREDBULL MUSIC ACADEMY TOKYOとスペシャルイベントを開催し、Back To Chillレーベルとして初となるコンピレーション"MUGEN"をリリースする。 記念すべきBack To Chill10周年を迎えた2016年、Boris、Dalekとの共作を収めた4thアルバム"PSIONICS"のリミテッド・ダブプレートバージョンを、特別会員限定でリリース。2017年4月には、台北のKornerにて、Back To Chill初の海外公演を開催した。
2018年9月、ヴォーカリスト"Diesuck"とノイズアーティスト"Masayuki Imanishi"と共に2017年に結成した新ユニット"EARTAKER"の1stデビューアルバム"HARMONICS"が、U.A.E.の気鋭レーベル"Bedouin Records"よりリリースされ、その新たなサウンドに注目が集まる。

A unique producer with a unique style, Goth-Trad has emerged from the Japanese electronic scene in the last decade as one of the most arresting artists from his generation. ‘The Sound Originator,’ Goth-Trad creates remarkable dance music with an abstract approach. Goth-Trad’s music career started in 1998. He soon formed Rebel Familia in 2001 with Takeshi ‘Heavy’ Akimoto (ex-member of Dry & Heavy) while continuing to work on his own. From abstract electronica to noise, from dub and reggae to jungle and rave music, grime to dubstep, Goth-Trad has always experimented and in the process developed his own unique style: blending influences and delivering music that is constantly evolving.
Between 2001 and 2004 Goth-Trad grew his notoriety on the Tokyo underground and went on his first European tour. He also released his first album, Goth-Trad I, and opened for The Mars Volta during their 2004 Japanese tour. His second album was released in January 2005, titled The Inverted Perspective it focused on the improvisational live style he had been developing in previous years and which he would continue to refine to this day. In March he played in Korea and in the summer established a new style called Mad Rave. ‘Mad Rave’ is Goth-Trad’s own take on dance music, refined and musically distilled through years of work.
This led to his third album, Mad Raver’s Dance Floor released in November 2005. Over 10 tracks the album condenses more than 10 years of dance music into an amalgamation of styles which flows seamlessly. The release tour for the album travelled to Berlin, Paris, Metz, London and 8 Japanese cities.
It was with this third album that Goth-Trad would finally break into the international market during 2006 thanks primarily to one track - Back To Chill - which would soon become synonymous with the Japanese dubstep scene. Inspired by the grime sounds he’d heard in London in previous years, Back To Chill also became the name of Goth-Trad’s monthly dubstep night in Tokyo - set up in 2006 - and saw a release on the UK label Skud Beats, his first official single on a non-Japanese label. At the same time Goth-Trad embarked on his fourth European tour, where he met with dubstep pioneer Mala from Digital Mystikz, at the seminal dubstep night FWD>>. This meeting led to Goth-Trad being signed to Mala’s Deep Medi Musik label and become a fixture of the international dubstep scene, which from 2006 onwards grew at an exponential rate and Goth-Trad soon became one of the genre’s most recognised and loved international artists.
From 2007 onwards Goth-Trad received increased support, respect and interest from across the dubstep and electronica scenes worldwide with people like The Bug, Kode 9, Blackdown, Juju and Skream all playing his music and sharing stages with him. Mary Ann Hobbs was also an early supporter on her Breezeblock show on BBC Radio 1.
Goth-Trad released his first 12” single for Deep Medi Musik in 2007, Cut End. That same year he also released a new Rebel Familia album, includ- ing collaborations with legends Arie Up and Max Romeo. He continued to tour extensively in Japan as well as starting more regular European tours where he appeared at the legendary DMZ dances among others. His eclectic and varied live show made him a firm favourite of European audiences and he has toured Europe every year since 2007.
In 2008 he released singles on both Skud Beats and Soul Jazz Records and for the first time he toured China in April. At the same time he continued to grow the Back To Chill nights in Tokyo providing a platform for the burgeoning Japanese dubstep scene. Over the coming years the night would see new Japanese talent added to the resident line up and play host to both local and international guests.
From 2009 to 2011 Goth-Trad continued to tour in Europe, Japan and Asia and released singles on Deep Medi Musik as well as remixes for European and Japanese artists leading to the Babylon Fall EP in late 2011, the precursor to New Epoch his fourth album. New Epoch was released on Deep Medi in early 2012 and marked Goth-Trad as one of the most important voices in dubstep. The album received praise from around the world with the UK’s FACT Magazine heralding it as one of the best dubstep albums of the year.
With New Epoch marking yet another milestone in Goth-Trad’s career, the Japanese one-man army - as Kode 9 once referred to him - is set to continue on his unique path. Always charting new territories while staying true to what motivates him: making good and honest music that reflects the world around him.
After the release of New Epoch, Goth-Trad embarked on his worldwide tour across Europe, US and Asia including many Festivals such as Coachella, Fuji Rock, Outlook Festival, and Lockdown (Natherlands) to name a few. During the tour Goth-Trad was involved with various projects including the Dubspot workshop in New York and a project in Japan called “Z-Machines”, where he was asked to produce a piece of music for the first ever Robot Band. In the UK Fabric, invited him to play and also asked Goth-Trad to provide a mix for the event, around this time Goth-Trad was asked to remix Danny Scrilla and Lea Lea, Goth Trad showed his new direction on both remixes, especially “Lea Lea - Black Or White (Goth-Trad Remix)“ awarded 3rd place on XLR8R’s Best of 2013 : Top Downloads.
Alongside producing and touring, Goth-Trad still runs Japan’s most famous bass driven club night, Back To Chill in Tokyo city every month, inviting the newest local producers to play alongside the scene’s for runners such as The Bug and Kode9.
Not only do Goth-Trad and his team organize and curate the event with cutting edge, stunning visuals but Goth-Trad also provides the sound pressure with his very own soundsystem. In 2014 he collaborated with Red Bull Music Academy Tokyo for “Back To Chill - A Red Bull Music Academy Special Party” which invited American sludge metal band “The Body”. In November 2014, he started his own Back To Chill label.
In 2015, GOTH-TRAD found a dubplate cutting studio “Was Alchemy” near his house, and he restarted cutting dubplates. As can be seen from his approach like the remix for Japanese noise core band “ENDON” and a collaboration with Heavy Rock Band “Boris”, his music was becoming more alternative. In 2016, his Back To Chill night had the 10th Anniversary, and he released very limited Dubplate & USB digital album “PSIONICS”. He featured “Boris” and American Experimental Hiphop MC “Da¨lek” on the limited dubplate.

★ GOTH-TRAD WEB SITE --- https://www.gothtrad.com
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★ BACK TO CHILL WEB SITE --- https://backtochill.com


KURANAKA a.k.a 1945 (ZETTAI-MU from Japan)

Born in Kyoto, Japan. He is a descendant of the temples of the one of the most famous Buddhist monk in Japan history, the initiator of the Buddhist incantation chanting, drumbeating, and dancing (origin of the Bon festival dance).
 He makes full use of his 11 faces and 1000 arms to continue to be the beacon of peace and revolution, from his underground performances in Japan. His riddim to be combined with his open minded instruments that build-up upon, the Super heavyweight bass that goes back and forth with the whole body, with dub effects that of a beast, letting the floor dance madly with joy.  He is a Dub. Jungle and Sound system music pioneer who has been the undisputed leader in the genres for about 30 years. He has performed at over 2000 gigs, and has organized more than 500 Dances until now. He has organized w famous and important Dance in Japan "Zettai-Mu" began in 1995 (Bay Side Jenny, Namura Shipbuilding, Noon, Liquidroom, Unit, Yellow, Eleven, AIR, Rockets, Motherhall, Quatro, Circus, Open Air and more) it will be 25th anniversary 2020!! and then "Outlook Festival Japan" (ageHa Studio Coast, Sound Museum Vision and more) also "Exodus Island " "A Taste Of Sonar (its first time in Asia Sonar Festival)" "International Dub Gathering Jahpan" as well. He performs about 100 gigs a year for more than 25 years, and tour pilgrimages more than 50 times including Japan, Asia, UK, Europe , British London, Spain "International Dub Gathering" "Outlook Festival" and then active in the Asian countries including Beijing, Shanghai, Hong Kong, Korea, Taiwan, the Philippines, Vietnam, Thailand etc in recent years. and also He did use Sound System for Bass music first time in japan.
 Kuranaka (a.k.a 1945) also has been hugely successful with festival appearances throughout Japan, such as the Fuji Rock Festival, Rainbow 2000, Asagiri jam, Metamorphose, Earth Dance, Saturn, Dommune, Nagisa, Mai Music Festival , Outlook Festival and Sonar Festival. such as art museums (Yokohama Art Museum , Kyoto Museum of Art , London ICA etc), the Valley and seaside, Club Hall of city, the Gap of Building and the top of Desk, and the Your Ears.
and then He declined the offer of contract from many major label of japan also world. chose this way staying normal.
 Kuranaka has also toured Japan with Dub Reggaes such as Lee perry, Jah shaka , Aba shanti-i , Mad professor , Zion Train , Adrian Sherwood , Dennis Bovell etc. then Drum and Bass / Jungles such as Roni size Reprazent, Congo Natty, Shy fx, Andy C and many. More then he play with Daftpunk , James Blake , Darren Emarson Underworld , Ash Ra Tempel , Atari Teenage Riot and many more in First visit japan show. he also Performed Flyng Lotus , Battles , The Orb , Smith&Mighty , Cold cut Ninja Tune etc. ofcouse he also with Japanese Acts such as Boredoms, Dj Krush , Audio Active , Tha Blue Herb , Dry&Heavy , Oki dub ainu , Goma , Goth-trad and many more.
 He perform live set with "Kazufumi Kodama" of Japanese reggae originator from Mute Beat. also Didgeridoo player "Goma" and then The controversial product "the Constitution of Japan" developed by a combination with "Shing02" for two International Art Festival (Yokohama Triennale, Kyoto Parasophia) It was created and released for one year.
 He also creates and plays music with Heavy (Dry&Heavy, Rebel Familia), Ao (Dry&heavy), Goma (didgeridoo), Coba (Accordion), NHK Koyxen, E-da(ex.Boredoms), Iccihie (ex.Determinations) , Tokona-x etc. He released (suchas) DJ Spooky , DJ Vadim also The Bug as the name of "MOU", which is the pioneer Future Beat Music "Electlic Lady Land" from the well-known German's "Mille PlateauxI" Moreover, as the name of "Kuranaka", he attended compilation of "Kyogen" with Calm, Shing02 and so on. Furthermore, as the name of "1945", he released featuring alongside ex-Dry&Heavy's bassist, "Akimoto Heavy Takeshi". also released Mixs called "TIGHT" from "Entotsu Recordings". He(and his Live CDs) amassed the sold out sales including all the titles. As a remixer, he sends deep world, dissembles and reconstructs masterpieces done by On-U Sound (UK) Audio Active , Rebel Familia, Churashima Navigator, Original Love, Jun-Gold (Tha Blue Herb Recordings) and so on. The strong beats with the message is down to earth and very sensitive but mighty sense of "Past", "Now", and "Future". We are fighting against the monsters of our own creation. Remember 1945, Peace one love Harmonic future !!
 Japanese written "クラナカ" also his name in long time ago. and then "The Kaoss Pad" used habitually all over the world is.. Delay, Reverbe, Siren.. It was developed by him. and the his model "Siren Machine" thats using Mala (Digital Mystikz) also The Bug etc.  The message carried out from his strong beat, reaches those of whom both legs are grounded to our earth, is delicate, yet, powerful.. the 21st century taiko drummer, waves his flag to peace and love for a harmonic future. Somewhere, now today.

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D.J.Fulltono

大阪を拠点に活動。レーベル〈Booty Tune〉主催。2014年に発表したEP『My Mind Beats』は、米国の音楽メディア『Rolling Stone』年間チャートに選出。ポーランドの『UNSOUND FESTIVAL 2016』出演。2019年、dBridge主催レーベルEXIT Recordsより “Before The Storm EP” をリリース。
シカゴのジューク・フットワークサウンドを、自身のルーツであるミニマルテクノ的な感性でミックス。また、CRZKNYとのプロジェクト〈Theater 1〉や、Skip Club Orchestraらとの〈Draping〉等、160BPMに拘りながら日本発進の独自スタイルを追求している。

Footwork/Juke DJ and Track Maker. from Osaka Japan
DJ/track maker DJ Fulltono comes from the Kansai region, Japan. He runs a label “Booty Tune”. Host of a party “SOMETHINN”. A prolific writer of Juke/Footwork for international medias. Based in Juke / Footwork , his voracious style includes Ghettotech, Electro, Chicago House, and so on. He provides Planet Mu and Hyperdub with privilege DJ MIX CDs. In the mix for Concept Radio, a Spanish web magazine, He pursues Techno-style Juke. In May 2015, he released his 6th EP “My Mind Beat Vol.02. The first one,”My mind beats vol.1”was selected ““20 Best EDM and Electronic Albums of 2015” by the media in US ” Rolling stone ” and that obtained an evaluation from the fan in the world.

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ntank

2000年さいたま市生まれ、京都在住。 自身のパーティMAVEを京都West Harlemにて主宰。日本各地からゲストを招聘し、ダンスミュージックを主軸にバラエティあるパーティとなっている。 様々なジャンルを横断しながら自由に駆け抜けるプレイを得意としている。 また、大阪や神戸等の関西圏だけでなく名古屋や、東京など様々なエリアにてプレイを重ねている。

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Cremation Lily - ele-king

 火葬された百合、クレメーション・リリィ。そんな不思議な名を持つユニットの新作がリリースされた。

 ロンドンを拠点とするクレメーション・リリィ(Cremation Lily)は、ゼン・ズイシゴ(Zen Zsigo)のソロ・プロジェクトである。彼は電子ノイズとシューゲイズの両極を往復するようなダーク・アンビエントを展開してきたアーティストだ。「火葬された百合」という名のとおり、どこか冥界を感じさせるムードのサウンドでもある。ゼン・ズイシゴの音には生と死の結晶がある、とはいささか大袈裟な物言いだろうか。
 くわえてゼン・ズイシゴはイギリスの現行のカセットテープ・カルチャーの重要人物でもある。ゼン・ズイシゴはクレメーション・リリィのほかにも、フォーエイジズ(Four Ages)、ライブモーケット(Livimorket)、ライフ・イン・ザ・ダーク(Life In The Dark)、ウィンター・オービット(Winter Orbit)名義/プロジェクトなどでもリリースを重ねてきた。現行ノイズ・アンビエント・アンダーグラウンド・カルチャーを、みずから主宰するカルト・レーベル〈Strange Rules〉をベースに、多数の名義を使いわけて、リゾーム状の活動を展開してきた人物なのだ。
 クレメーション・リリィとしては、〈Strange Rules〉からの多くのリリースをはじめ、ヘルムが運営するレーベル〈Alter〉からも音源(アルバム)をリリースをしてきた。個人的には〈Alter〉から2018年からリリースされた『In England Now, Underwater』、セルフリリースで発表された2020年の『More Songs About Drowning』にはかなりハマった記憶がある。
 初期作品では2017年に〈Strange Rules〉からリリースされた夢幻的なダーク・アンビエントの傑作『The Processes And Instruments Of Normal People; Trying And Failing, Falling And Water Running』などが強く印象に残っている。このレビューを書くたびに久しぶりに聴き直したが、今聴いても圧倒的な世界観/音響を実現しているように思えた。

 そして2022年、サンフランシスコの実験音楽レーベル〈Flenser Records〉から8作目のアルバム『Dreams Drenched in Static』がリリースされた。〈Flenser Records〉のレーベルカラーを実に体現した分類不能な作品でもあった。
 そう、この『Dreams Drenched in Static』は、ポスト・クラブ・ミュージック、ドローン、ノイズ、モダン・クラシカル、アンビエント、シューゲイズ、インダストリアル、ドゥーム、ブラックゲイズなどのサウンドが融解したエクストリームなサウンドなのである。

 『Dreams Drenched in Static』は全10曲によって構成されたアルバムだ。ミニマルなピアノ曲“Barely Remembered”で幕を開け、2曲目“Dreams Drenched In Static”、3曲目“Wavering Blood”では電子音のシャワーが光のようにトラックに降り注ぎ、粉々に破壊されたビートが断続的に鳴り響く。変調された「声」は歌の痕跡のようにそこにある。
 4曲目“I'm Done (Indefinite Light) ”以降は、刺激的な電子ノイズと沈み込むようなムードが共存しながらも、夢と現実の境界線が曖昧に溶け合ってしまうような音楽を展開する。5曲目“Body on a Lake ”は静謐なムードのなかダーク・アンビエントとヴェイパー・ウェイヴが入り混じるようなサウンドだ。6曲目“Moonlight Doses”は、月夜に鳴る壊れたオルゴールのごとき優美なアンビエント曲である。
 ここまで聴くと分かってくるように、このアルバムは、2曲目と3曲目では暴発する電子ノイズが湧き上がるエクストリームなトラックが展開されるのだが、次第に内省的なムードの曲調に変化していく構成になっている。絶頂へと至る快楽ではなく、夢のなかに彷徨うようなプラトー状態が続くとでもいうべきか。ノイズを基調にした音楽でこれは稀なことだ。いわばアンチ・クライマックスとでもいうようなアルバム構成なのである。
 シューゲイズ・ノイズ・アンビエント・R&Bとでもいうべき異形のトラックである7曲目“Selfless”では、ジャンルの領域が溶けだし、音楽と音の境界線が崩れ、心と知覚に雪崩こんでくるサウンドを生成する。崇高にしてジャンク、グリッチにして神秘的なムードがたまらない。8曲目“Overflowing Velvet Tide”ではギター・ノイズ的な音響によって生成されるアンビエント・トラック。9曲目“I Need To Stop Blaming Myself”は、7曲目と同様にアンビエント・R&B・シューゲイズとでも形容したい音楽性を展開するだろう。
 そしてアルバム最終曲にして10曲目“In Pain, Surrendering”はふたたび浮遊感のある白昼夢のようなピアノ主体の曲である。白昼夢から始まり、ふたたび新たな白昼夢へ。実に見事なアルバムの構成といえよう。
 
 以上、全10曲。ここに収録された楽曲たちは、いわば聴き手の意識を別領域へと連れて行ってくれるようなサウンドだ。電子音とノイズが横溢し、ヴォイスとメロデイが「音楽の残骸」のように掠れた音を発している。
 サイケデリックでヘヴィ。トリッピーでチル。シューゲイズでグリッチ。さまざまな音が溶け合うクレメーション・リリィの最新作は、まさに「エレクトロニカ」と「ロック」と、「アンビエント」と「シューゲイザー」と「電子音響」と「実験音楽」が、波打ちぎわで消え去っていくような音を発している。まるで覚醒と夢のあいだを彷徨するような音響空間だ。「静電気を帯びた夢」という言葉そのものアルバムといえよう。

Pervenche - ele-king

 ele-king books でもデザインでお世話になっているお二方が所属する東京のギター・ポップ・バンド、1995年から活動をつづける Pervenche(ペルヴァンシュ)がなんと、2001年のファースト・アルバム以来となる2枚目『quite small happiness』をリリースする。20年前からつくりためてきた楽曲に加え、ボブ・ディランとピーター・アイヴァースのカヴァーも収録。レーベルは〈KiliKiliVilla〉、8月8日発売。「小さな幸せ」とのことで、どんな音楽が鳴っているのか楽しみだ。

40年後の遠い渚、もしくはノース・マリン・ドライブ
ポストパンク以降脈々と流れ続けた地下水脈、変わらぬ気持ちによって濾過されたピュアなサウンドが2022年の東京にひそかに湧出
ヴエルヴェッツ発ポストパンク経由ギター・ポップゆきの静かでながい旅

『quite small happiness』
 2001年リリースの1stアルバム『subtle song』から20年を経ての2ndアルバム。1stアルバム収録曲から3曲をリアレンジ、2001年当時から創り貯めた曲からセレクトした7曲にBob DylanとPeter Iversのカバーを含めた計12曲を収録。タムもしくはスネアだけのミニマムなリズムセクションの上にクリーントーンのギターとイノセントなボーカルによる、ポストパンクのビックバンから飛散した胞子の一粒。「The Velvet Underground III」の仄暗さと暖かさ、「Young Marble Giants」の孤独と癒し、「The Beat Happening」の先鋭と静謐、「Florist」の哀しみと優しさ。これら彷徨う魂に触発された、実験性と優しさが同居したフォークロック・アルバム。
 セルフプロデュースによるDIYレコーディングでの制作。元800cherriesのタカハシマサユキによるレコーディングとミックスはリビングにチューブアンプを持ち込んでライブ録音したような親密でいて蒼い炎のゆらめきを思わせる音像。皆さんの新たなスタンダードに加えてもらえたら、そんな小さな幸せを期待してこの作品をお届けします。

Pervenche
『quite small happiness』

8月8日発売
KKV-138VL
LP+CD
3,850円税込

収録曲
Side-A
1. Be Long
2. Cat Horn(Good Night)
3. Blue Painting
4. I'll Keep It With Mine
5. Simple Life
6. Out of The Room
Side-B
1. We Surely Become Happy
2. I Think So
3. Miraculous Weekend
4. Fade Away
5. Quite Small Happiness
6. What's New

Pervenche
1995年、Clover Recordsの創設者であるサイトウマサトのバンドPeatmosとして活動を開始し、1997年からPervencheへ改名。1998年のフランス・ツアーを経て、2001年に1stアルバム「subtle song」をリリース。800 cherriesのタカハシマサユキを加えたラインナップで2016年から活動を本格的に再開し2ndアルバム「quite small happiness」を制作。タムもしくはスネアだけのミニマムなリズムセクションの上に蒼い炎のゆらめきを思わせるクリーントーンのギターとイノセントなボーカル。Feltなどのポストパンクに触発された実験性と優しさが同居したフォークロックバンド、もしくはフォークの影響を受けたYoung Marble Giants。

LPと同時発売のCDは2枚組でリリース、2010年に録音した未発表プロトバージョン。
1stアルバムからのミッシングリンク『Another Quite Small Happiness』にプレ・ペルヴァンシュ Peatmosの音源を収録。

Disc 1 収録曲
01. Be Long
02. Cat Horn(Good Night)
03. Blue Painting
04. I'll Keep It With Mine
05. Simple Life
06. Out of The Room
07. We Surely Become Happy
08. I Think So
09. Miraculous Weekend
10. Fade Away
11. Quite Small Happiness
12. What's New

Disc 2 収録曲
Pervenche - Another Quite Small Happiness
01. Simple Life
02. Quite Small Happiness
03. Cat Horn(Good Night)
04. Out of TheRoom
05. Mess
06. Blue Painting
07. Earl Gray Tea
08. What's New
Peatmos - Watching Us With Archaic Smile
09. earl grey tea
10. many suns
11. to my little friends
12. mad cow disease
13. mess
14. picnic
15. d'yer wanna dance with kids
16. out of the room
17. blue painting
18. play the wind

Syd - ele-king

 想像してみてほしい。このミュージシャンは2017年にソロ・デビュー作『Fin』で称賛を浴び、母体であるジ・インターネットでは翌年『Hive Mind』をリリース。バンドでのツアーを成功のうちに終わらせ、評価を盤石のものとした。さて、2作目のソロ・アルバムの制作に着手しよう。情熱的な恋愛、自らが渦中にいるその恍惚としたクリエイティヴィティを作品にも投影するのだ。アルバム・タイトルは『In Love』でどうだろう。いかにも愛に満ちた作品ができ上がるはずだ。

 しかし、状況は一変する。2020年にパンデミックがはじまる。突如として大失恋を経験する。さて、制作は道半ば、『In Love』どころではない。この絶望のなかでどうやって創作活動に打ち込めばよいのだろう。もう投げ出したい。癒されたい。仕方ないので読書をしよう。エクササイズに打ち込もう。少しずつ、前に進んでいこう。そうやって、音楽をまた生み出していこう──。

 これはシドの身に降りかかった事実としての出来事であり、いかに今回の作品がパーソナルな苦しみのなかで感情のアップダウンに振り回されながらもなんとか完成を迎えた、苦難の末の産物かがわかるだろう。結局今作は『Broken Hearts Club』というタイトルに落ち着き、失恋にどっぷりと浸かったリリックやヴォーカルが随所で感じられる。けれども今作が興味深いのは、ただ内省に向かうだけでないその一歩先までもが表現されている点だ。つまり、シドは吹っ切れているのである。

 『Fin』で披露されたスタイリッシュでドープなトラップ~モダンR&Bの手つきは、今作ではあまり顔を覗かせることはない。戦略的にジ・インターネットとは異なるスタンスが宣言された前作と比較し、『Broken Hearts Club』ではもっとオーガニックで飾らないシドのグルーヴを聴くことができる。開き直ったとも言うべきこのパフォーマンスは、リスナーの期待を良い意味で裏切るだろう。実際、私も一聴してやや動揺し、その後すぐさま大笑いしてしまったのだ。R&Bシンガーにしては “歌い上げる” ことに禁欲的であり、渋く抑制された歌唱にそのアイデンティティを認識していた者も多いだろうに、今作ではとにかく感情の揺れが激しい。“CYBAH” のド派手にエコーするドラム──プリンスのような官能的なファンク・トラック!──へと絡みつく心地良くアトモスフィリックな歌。“Tie the Knot” のミニマルなビートにさりげなく添えられる控えめなフロウ。“Fast Car” の刻まれるダンサンブルなリズムに乗る爽やかな声。しかも、この曲は終盤に大仰なエレキギター・ソロが炸裂し、80’s モードが極まる。前作では絶対に聴けなかったであろう、ベタでストレートな芸当だ。

 ロドニー・ジャーキンスがプロデュースに入った “Control” はまさしくアリーヤやブランディを彷彿とさせるし、“Getting Late” は不穏な固いベースが敷かれたホラー・タッチを匂わせる。“Out Loud” の牧歌的でヘルシーな空気感はケラーニとの良き関係性が伝わってくるようだ。特筆すべきは “Goodbye My Love” で、「泣かずに歌えるようになるまで時間がかかった」と本人が述べるこの曲はもはや「歌が感情に乗っている」と称してよいくらいにエモーションが渦巻いている。

 散漫といえば散漫なのだが、それら激しい起伏を “アリ” にしてしまうシドの等身大の息づかいが作品全体を包みこみ、不思議な統率力を発揮している。技術やトレンドといった前作に投影されていた要素から一歩進み、キャラクターから醸し出される人間味が立っているからだろう。ゆえに、プロデューサー/シンガーとしてこれまでシドに抱かれていたエッジィなパブリック・イメージは、恐らく良い意味で更新/拡張されるに違いない。“Goodbye My Love” で「We had too put ourselves first for once(=私たちは一度だけ自分自身を優先しなければならなかった)」と歌うシドは、これまでで最も “自らのために” 『Broken Hearts Club』を作り上げ、歌っている。その身軽さは創作行為において尊ばれるものであり、事実 “Fast Car” で鳴る豪快なギター・ソロも、“Goodbye My Love” で音の波に耽溺する繊細な歌唱も全てがシドそのものであって、彼女はもう演じることを必要としていない。この素朴さこそがいまのシドの魅力なのだ。

 グループの中枢を担うこの人物の前進は、恐らくジ・インターネットにも新たなヴァイブスを与えるに違いない。難しい顔をして頭で考えて聴くよりも、音に身をゆだね、陽射しを浴びながら聴くべき作品であろう。将来ディスコグラフィを振り返った際に重要な分岐点になっているに違いない注目すべき新たな一手、その幸福で柔らかな揺らぎをつかむべく──。

[参考]
https://www.wmagazine.com/culture/syd-internet-broken-hearts-club-new-album-interview
https://uproxx.com/music/syd-interview-broken-hearts-club/

interview with Seiji Rokkaku - ele-king

 六角精児は、たたずまいそのものが表現として成立する稀有な役者である。面構えにも、声にも、なにげない仕草にも、苦難続きの人生(今年6月で還暦)で蓄積されたすべての経験が体内でどろどろに混ざり合い発酵したような匂いがまとわりついている。猥雑にして崇高なエロスを湛えたその匂いを、あるいは “ブルース” と呼ぶ者もいるだろう。

 そんなブルースマンが、このたび初めてのソロ・アルバム『人は人を救えない』を発表した。無類の音楽好きの六角は、これまでもシンガー・ソングライターとして精力的に活動を続け、六角精児バンド名義での2枚のアルバム『石ころ人生』(2014年)、『そのまま生きる』(2019年)や下田逸郎とのコラボ・ワーク『唄物語/緑の匂い』(2017年)など、何枚もの音楽作品をリリースしてきた。シンガーとしての卓抜した技量があるわけではない。ポップ・スター的容姿に恵まれているわけでもない。音楽好きな個性派俳優の余技とみなされることだってあるだろう。だが彼の歌は誰にも似ていないし、誰の耳にも確かなひっかき傷を残す。快・不快は別にして。その歌が波乱に富んだ還暦男の人生そのものだから。その歌が素っ裸だから。

 『人は人を救えない』は、日本のフォーク/ロック系の名曲をカヴァしたコンセプト・アルバム(ラストの1曲だけは六角のオリジナル)だが、そのほとんどが70年代の、しかもかなりレアな作品で占められている。若林純夫 “雪の月光写真師” とか休みの国 “追放の歌” といった曲をカヴァする俳優がいたなんて、そしてそれがオリジナル・ヴァージョン以上にリアルに響くなんて、私は想像もできなかった。

 このアルバムを企画し、選曲作業でもイニシアティヴをとったのは、音楽マニアの間では70年代から伝説的に語られてきたレコード・ショップ、パイドパイパーハウスのオーナー長門芳郎氏である。そして、すべてのアレンジを手掛けるなど全体の音作りを仕切り、演出家として六角の歌を支えたのは、キーボード奏者の谷口雄氏(元・森は生きている)だ。「この数十年、僕がずっと聴きたかった作品が生まれた」という長門の言葉は、六角や谷口の気持ちも代弁しているはずだ。

 けっしてスマートではない。もちろんオシャレでもない。しかし六角精児の武骨な歌は確かに、私の胸にまっすぐに届き、深く強く響いている。


向かって左からパイドパイパーハウスの長門芳郎、六角精児、サウンド・プロデュースを手がけた谷口雄

自分で手さぐりで見つけてくるってのが大切だと思うんですよ。僕もそういう考え方で音楽を選んできて、今、アメリカン・ルーツ・ミュージックとかブルーグラスが心地良くなってる。

音を聴いて以降、今日の取材日がこんなに待ち遠しかったことも珍しいです。傑作ですね。

六角:いやあ、嬉しいなあ。最初、嫁さんに聴かせたんだけど、振り返ったら、まともに聴いてなくて、せんべい食ってましたから。大丈夫かな? って心配してたんですよ。いいのか悪いのか、自分ではわからないですからね。

長門:音は去年(2021年)暮れには完成していたけど情報解禁はこの3月だったので、周囲の反応もわからなかったしね。

自分ではわからないってのが、六角さんの魅力の大きなポイントだと思うんですよ。つまり、「俺はかっこいいことをやってるんだ」って自意識がまったくない。それがこのアルバムの良さでもあるし、六角さんの本質でもあると思います。

六角:僕はただ、アメリカンなアルバムにしたいなということぐらいしか考えてなかった。すごく信頼している音楽好きの友達に① “やつらの足音のバラード” と⑤ “各駅停車” を聴いてもらったら「これはいい、アリメカンだな、楽しみだ」と言ってもらえてホッとしましたが。

谷口:猫のオリジナル・ヴァージョンだと8ビートだった⑤ “各駅停車” は西海岸路線でやってもいいとは思ったんですけど、そのままだと平坦になってしまうなと、リトル・フィートやポール・バターフィールドのラインでアレンジしてみたんです。

最初聴いてすぐにこのアルバムはフライング・ブリトー・ブラザーズや初期イーグルス、ポコといったサザン~ウェスト・コーストのアメリカン路線で攻めたんだろうなと思いました。それにしても、一曲目が『はじめ人間ギャートルズ』のテーマ曲 “やつらの足音のバラード” ってのが驚きで。

六角:あれによって、アメリカンだという全体の方向性を提示したつもりです。

とにかく選曲がいいですよね。歌い手としての六角さんの身体の中で一番響く言葉とメロディだけを厳選したんだなと。どの曲もオリジナル以上に六角さんの曲になっていると思います。選曲はみなさんで話し合って?

六角:そうです。あと、もう一人、昔タワーレコードで働いていた北爪啓之さんと。元々、彼と長門さんが僕のソロ・アルバムを作りたいと言ってくれたんです。それで皆で選曲を始めたわけだけど、僕は僕で自分の歌いたい曲がありますが、僕が歌ったらどうなるんだろう? 楽しいんじゃないか? というような曲もみなさんがちょっとずつ持ち寄ってくれた。そこには長門さんや北爪さんの思い入れもあったりするわけで。それを全部アレンジしてくれたのが谷口さん。そのアレンジによって、ここでの自分の方向性が改めて決まった感じでした。一連の流れが芝居稽古のようなものですね。

人がお作りになられた曲なので、いい加減にはできない。自分なりの物語をちゃんとひとつ持たないといけない。役者だったらどうだろう? とか、より客観的に向き合ったりもしました。

準備段階での候補曲は全部でどれくらいあったんですか。

長門:30曲近くありました。すべて日本のフォークやロックの曲です。そこから11曲を選び、六角さんのオリジナル曲⑫ “お前の町へ” で最後をしめるという形にしました。

日本のフォークやロックのカヴァーだけをやることは最初から決まってたんですね。

長門:うん、そういう気持ちがありました。ただ、若い世代の谷口くんはオルタナ・カントリーなど新しい音楽にも詳しいし、六角さんもブルーグラスやカントリーなどへの造詣が深いので、ただのフォーク・カヴァー・アルバムにはならなかったというわけですね。

そもそも、長門さんと六角さんのつきあいはいつ頃からなんですか。

六角:僕は一方的に40年前から存じ上げてました。浪人時代、代々木ゼミナールの帰りによくパイドパイパーハウスに寄っていたから。

長門:2013年、NHKの『仕事ハッケン伝』というドキュメンタリー番組で、六角さんは2週間くらい渋谷タワーレコードで働いたんですが、その時の指導役が北爪さんでした。そして、同じ渋谷タワーレコード内で2016年にパイドパイパーハウスが復活したんですが、その時のタワー側の担当も北爪さんでした。「六角さんは若い頃にパイドパイパーハウスによく通っていたそうですよ」と北爪さんから聞き、ご本人にお会いしたのが2017年かな。

その時点では、六角精児バンドのデビュー・アルバム『石ころ人生』(2014年)は聴いていましたか。

長門:大好きで、パイドでも売ってました。普通には流通していない、六角さんと下田逸郎さんのコラボ作品『唄物語/緑の匂い』(2017年)とかもご本人から仕入れていたし。六角さんにはこれまでに4回ほどパイドでもインストア・ライヴもやってもらうなど、ここ数年、かなり密な関係でおつきあいさせていただいてるんです。

六角:『石ころ人生』は今も売れ続けているんですよ。NHKの僕の番組「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」で流していることもあって。おかげで2枚目のアルバム『そのまま生きる』(2019年)もほぼはけました。6000枚作ったんだけど。

長門さんは六角さんの歌のどういうところに惹かれてアルバムを作りたいと思ったんですか。

長門:はたから見ると、僕はフォーク系じゃなく、AORやソフト・ロック系のイメージが強いようだけど、実は昔からフォークのアルバムを作りたいと思っていたんです。フォークの人たちとは70年代初期からいろいろつきあいがあったし。でも、フォークのアルバムを作りたいと思ってもなかなかいないんですよね、自分で聴いてみたいと思う人が。で、六角精児バンドのアルバムを聴いた時「あっ、六角さんしかいないな」と思い、北爪さん経由で六角さんに提案したわけです。

六角さん自身も、バンドの作品とは別に、自分のソロを作ってみたいという思いはあったんですか。

六角:自分のソロ作品を作りたいとは特に思ってなかったんですが、2017年にその話が来た時はすごくうれしかったです。長門さんとだったら、是非一緒にやってみたいなと。長門さんの仕切りで、日本の昔のフォークを自分の肉体で歌ってみたらどうなるのか……六角精児バンドでやるのとはかなり違うと思ったのでワクワクしました。

その時点ではまだ六角精児バンドの2作目『そのまま生きる』(2019年)は出てないわけですが、『そのまま生きる』と並行してこのソロ・アルバムも作ったわけですか。

六角:そうです。全然違うアルバムになると思ったので、まったく問題なく。

長門:実際の選曲作業が始まったのが2018年で、レコーディングはコロナのせいで延び延びになって、去年の10月でした。

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僕は芝居とリズムは密接な関係にあると思ってます。セリフには概ね理想的なリズムがあって、それをニュアンスと共に頭の中で考え、肉体を通して表現を試みる、そして相手役などから違うリズムを貰ったりしつつ、新たに構築していく。

全体のアレンジ/サウンド・プロデュースを谷口さんに依頼したのも長門さん?

長門:そうです。ただのフォーク・アルバムにしたくないと思った時、アレンジャーは谷口くんが適任だなと。

谷口:2017~18年くらいのけっこう早い段階にお話をいただきましたね。

長門:谷口くんはすごく研究熱心で、暇があればレコード屋に行ってるし、話がツーカーで通じる。スワンプからウッドストック系、シンガー・ソングライターものまでなんでも。最初にデモ・テープを作った時は、全ての演奏だけでなく、歌も谷口くんが自分で入れたんだよね。

谷口:そう、全部歌いました。だから実際はもう一枚作ってるんですよ(笑)。

六角:で、僕はそのカラオケ版を聴きながら、歌の練習をしてましたね。

録音現場での演奏は、ハウス・バンドのような固定メンバー(谷口雄/KB、江上徹/AG、宮下広輔/Steel G、伊賀航/B、増村和彦/Dr)でおこない、プラスでいろんなゲストを呼んでますが、六角精児バンドの江上徹さん以外はすべて谷口さんが連れてきた感じ?

六角:江上さんは、僕というよりは長門さんが是非と。

谷口:鈴木茂(EG)さん、鈴木慶一(EG)さんには長門さんからお声がけいただきました。

六角:あと、僕がブルーグラスの人を呼んでほしいと谷口さんに頼んで。

谷口:サボテン楽団(Banjo)くん、井乃頭畜音団のヒロヒサカトー(Mandolin)くん、それから宮下広輔くんあたりは、僕の周りでもとくにカントリーやブルーグラスに造詣が深いので、ピッタリでした。演奏はもちろん、空気感や人柄も含め、最高のメンバーが集ってくれたと思います。

宮下さんのペダル・スティールは全体を通して、かなり効いてますよね。

谷口:いいですよね。宮下くんが弾くことで、オルタナティヴな感覚が作品に加わったと思います。彼と、森は生きているのバンドメイトだった増村和彦くん(Dr)は真っ先に決めたんです。

若林純夫の④ “雪の月光写真師” とか中塚正人の⑪ “風景” とか、かなりレアな曲も入ってますよね。

六角:どちらも長門さんがリストアップした曲です。若林純夫さんという人が歌っている “雪の月光写真師” なんて曲、そんな音源どこにあるの? って感じだったんだけど、たまたま自分の家に「春一番コンサート」の73年のライヴCD『春一番コンサート・ライヴ '73』があったのでちょっと聴いてみたら、その曲が入ってたんですよ。「おお、これか」と(笑)。「あの曲をまた聴きたい、やってほしい」って長門さんに言われたから、これは絶対入れようとまず最初に思った。“風景” もそういう感じで。

“風景” は、まさにフライング・ブリトーみたいな感じですね。

六角:“風景” はいろんな人のヴァージョン(ディランⅡ、センチメンタル・シティ・ロマンス、斉藤哲夫など)がありますからね。歌っていることはすごいシンプルなんだけど、音楽として楽しめるのはこういうものなんだと今回改めて思いましたね。バンド・サウンドとして実に楽しい。最後の自分の曲 “お前の町へ” は別として、オープニングで “やつらの足音のバラード” を出し、“風景” でしめることで、アメリカンなアルバムなんですよと言い切っているわけです。

選曲だけでなく曲順でもアルバム・コンセプトを主張したと。

六角:あと鈴木慶一さんの⑥ “スカンピン” は、全員一致で「これは、六角さんが歌うべきだ」って。これ、僕か? 使っているコードもいつもの自分の雰囲気とは違うんだけどなと思いましたが(笑)。

オシャレなメジャー7thとか(笑)。やっぱり歌詞の内容ですよね。酒焼けした六角さんの声も貧しさ溢れる歌詞にぴったりはまる感があるし。

六角:長門さんからお願いして鈴木慶一さんにも参加していただいて。そういう意味でも長門さんがいなければこの曲はできませんでしたね。

休みの国の⑦ “追放の歌” は、特にアレンジが好きな曲です。冒頭の生ギターが効いてますよね。

六角:あのヨレがいいよねえ。しかも非常にドライで。

谷口:ありがとうございます。岡田拓郎くんをガット・ギターで呼べるのは僕くらいだろうと(笑)。彼もグリニッチ・ヴィレッチ周辺や〈Folkways Records〉ものはもちろん、コンテンポラリーなフォークへの理解が深い人なので、そのあたりを発揮してもらえればなと。ミックスではちょっとバーバンク・サウンドっぽさも狙ってもらいました。実は、伊賀さんにお願いしてウッド・ベースを2本重ねてもらっています。ギターよりベースの方がトラック数が多いんですよ。

長門:休みの国の高橋照幸さんは、当時カイゾクって呼ばれていて、青山店時代のパイドの社友というか身内のような感じでした。パイド初代店長の岩永正敏さんが照幸さんと仲良くて。照幸さんはパイドにしょっちゅう来てました。だから六角さんがこれは是非歌いたいって言ってくれて、すごく嬉しかった。

芝居は、ご縁があってやらせていただいている仕事だけど、本当に好きなものはやっぱり音楽なんですよ。

六角さんがギターを弾いているのは高田渡の② “告別式” 1曲だけですが、もっと弾きたいとは思いませんでしたか。

六角:いや、今回はとにかく歌をちゃんとやりたかったですからね。

長門:歌はねえ……早川義夫さんの⑩ “この世で一番キレイなもの” が特にいいよね。

うん、あれはちょっと泣きそうになりました。

六角:僕も自分で泣きそうになりましたもん。

谷口:しびれるレコーディングでした。

ヴォーカリスト六角精児の真骨頂というか。

六角:最初、どうやって歌えばいいかわからなかったんですけどね。他の曲に関してもそうだけど、谷口さんがデモ音源のサウンドをすごくしっかり作ってくれてたので、そこに乗っかって、自分なりの表現が工夫できたんだと思います。演奏陣もそう。だから、せーので全部一発で録音できたんですよ。

谷口:僕は今回はまず演奏メンバーを決めていたので、当て書きといいますか、アレンジも「この人だったらこうやってくれるだろう」って感じで作っていったんです。メンバーはレコーディング本番で初めて全員顔を合わせたんですが、当て書きでアレンジをしたおかげか、プレイヤーも自分の色を出しやすかったみたいです。皆さん本当にすんなり現場の空気に入ってくれました。

六角:役者が台本を読んでセリフを覚えてくるようなもんですよ。各人が練習してきて、それでせーのでやってみるとこんなふうになるんだと。

六角さんの歌もバンドと一緒に録ったんですか。

谷口:そうです。全部一緒。ほぼ一発OKだった。ダビングも必要最低限に留めました。

六角:なんか遊んでいたら全部できちゃった感じでした。リハとかしないでできちゃうのか、音楽の人ってすげえなって(笑)。

長門:レコーディングが本当に楽しくてね。スタジオでプレイバックを聴いて拍手が起こったり。昔、シュガー・ベイブやティン・パン・アレイほかたくさんのレコーディングに立ち会ったけど、そんなことは初めてでした。

録音スタジオが「studio 土の上を歩く」とクレジットされていますが、これはどういうスタジオですか?

谷口:僕が普段からお世話になっているシンガー・ソングライターで、今回は⑫ “お前の町へ” でアコギを弾いてもらっている笹倉慎介さんが作ったスタジオです。

クレジットを見た時、スタジオ名までこのアルバムらしいなと思ったんですよ。今作にも入っている “各駅停車” じゃないけど、飛ばさないで、自分で地面を歩いてひとつひとつ手探りでものを掴んでいくってことだけが今は信用できるというか、かっこいいものじゃないかとずっと思っていて。この作品はそれをすごく体現しているし、このスタジオ名も作品に合わせて勝手につけた名前かなと、それくらいぴったりだと思った。

谷口:たまたまです(笑)。古いビルの一室で、笹倉さんが自分で防音の施工をして、ひとつずつ作ったんです。僕もお手伝いして。そういう手作りの雰囲気も含めてぴったりだなと思い、ここで録音したんです。

六角:何がいいかってのは本当に人それぞれなわけだけど、今おっしゃったように、自分で手さぐりで見つけてくるってのが大切だと思うんですよ。僕もそういう考え方で音楽を選んできて、今、アメリカン・ルーツ・ミュージックとかブルーグラスが心地良くなってる。自分の好きな音楽がいい塩梅で合わさった音作りをバンドがやってくれて、そこに僕が気持ちよく乗っかれたって感じがします。長門さん以下、関わった人たち全員が音楽のことをよく知っている。やっぱりそこが一番良かったなと。「これはこういう感じ」だと言ったら、皆がそれを即座に理解してくれる。俳優の世界にはその世界ならではの言葉があって、それでやりくりしているわけだけど、まったく違う形で自分の好きなことができるのは、なんて幸せなんだろうと思います。

音楽に対する六角さんの情熱は本当にすごいなと、今回改めて思いました。俳優さんでここまで音楽に通じている人は、六角さんと松重豊さんぐらいじゃないですか?

六角:今日ね、実はここに来る前、松重さんと対談をしてきたんですよ(笑)。うん、松重さんは確かに詳しいですよね。僕がいろんな音楽を聴き始めたのは中学生の頃で、そこからどんどん広がっていったんですが、20代半ば以降は劇団での活動が大変になったりして、正直、音楽はあんまり聴かなくなっちゃったんです。で、40才過ぎたあたりからまた熱心に聴き始めて、いろいろ掘り下げていった感じです。

谷口:さっき話に出てた『仕事ハッケン伝』で、最後に六角さんがアルバム10枚選んだんですが、そこにニール・カサールが入ってたんですよ。うおっ、すげえと思って。テレビからニール・カサールという名前が聞こえるなんて、しかも俳優さんが推してるって。

改めて、選曲についてですが、今回カヴァした11曲以外に、リストアップされていたものにはどんな曲があったんですか。

谷口:あがた森魚さんとか。

六角:斉藤哲夫 “悩み多き者よ” や細野晴臣 “ろっか・ばい・まい・べいびい” もありましたね。

長門:あと僕が出していたのはダッチャの “26号線” という曲。1973年に1枚だけアルバムを出していたシンガー・ソングライターです。

六角さんが、これだけは絶対に歌いたいと主張した曲は?

六角:けっこうありました。① “やつらの足音のバラード”、② “告別式”、⑤ “各駅停車”、⑨ “女の証し”、あと⑩ “この世で一番キレイなもの” などですね。その他は長門さん、谷口さん、北爪さんの推薦です。特に、休みの国の⑦ “追放の歌” は北爪さんが絶対に入れてくれと。人から選んでもらったものを自分で具体化する楽しさ、それって芝居に通ずるところがあります。僕にとっては芝居より楽しいですよ。

結局、最後、自分のことは自分の力でなんとかするしかない。だけど、その時にふと素敵な音楽があって、それを聴いたことで自分を奮い立たせることはできるかもしれない。この音楽にはそういう気持ちが込められているんです。

自分のバンドで歌うことと、今回みたいにシンガーに徹することの違い、難しさみたいなものはありましたか。

六角:六角精児バンドとして何かを表現するっていうのは、やっぱりバンド全体での表現ですから、自分の中ではわりとおおらかさがつきまとうんです。「これくらいでいいよね」みたいな。今回の場合は自分のソロですから、それを自分でどう歌うかというのに直面しなければならないんですよ。良い意味でも悪い意味でも、バンドというごまかしがきかない。どうすればいいか、どうしたいのか、自分の中で判断しなくちゃいけない。

つまり、責任が分散しないと。

六角:その責任と判断を、谷口くんにもらったデモのカラオケで歌いながら少しずつ自覚していった感じですね。で、スタジオでの本当の演奏になった時、自分が思っていたことばかりじゃなくて、バンドと融合するためにはどうしたらいいかと。そこは役者と似てますね。

シナリオをもらって、その段階で自分でいろいろ考えるわけだけど、実際の現場では相手がいて、その場で表現も変わってくる。

六角:そこで相手がくれる力を、一回ちゃんと自分なりに受け止めて出す、それがレコーディングですね。でも、自分がやりたいことの筋立てだけはしっかり考えておかなくちゃいけなかったので、まあ簡単に言うと、わりとしっかりやりました(笑)。人がお作りになられた曲なので、いい加減にはできない。自分なりの物語をちゃんとひとつ持たないといけない。役者だったらどうだろう? とか、より客観的に向き合ったりもしました。

亡くなった志村けんさんはソウルやファンクなどの音楽に精通してて、身のこなしや演技そのものにソウルやファンクのビートが影響していたと思います。六角さんの表現にも何がしかの音楽的影響がありますか。

六角:そうですね、僕は芝居とリズムは密接な関係にあると思ってます。セリフには概ね理想的なリズムがあって、それをニュアンスと共に頭の中で考え、肉体を通して表現を試みる、そして相手役などから違うリズムを貰ったりしつつ、新たに構築していく。呼吸もリズムの変化によって全然変わってきますから。

つまり、六角さんの演技や身のこなしそのものが音楽的だと言っていいと。

六角:自分はそういうふうに思っています。でもまあ、芝居は、ご縁があってやらせていただいている仕事だけど、本当に好きなものはやっぱり音楽なんですよ。でも、才能の問題があるし。自分としてはあまり大きな形で参加はできないけど、寄り添うことができればと思っています。

最後に、アルバムのタイトルについて。自分でつけたそうですが、そこに込めた意図を教えてください。

六角:自分で救えってことです。

自分は自分でしか救えないと?

六角:そうです。人は人を救えない。ただ、人からもらったもので心を支えて、自分でなんとかすることはできるじゃないですか。そんなささやかな支えになれるアルバムであってほしいなと。

それは、これまでの、山あり、谷あり、谷あり、谷ありみたいな人生がかなり影響してる言葉ですよね?

六角:ですね。結局、最後、自分のことは自分の力でなんとかするしかない。だけど、その時にふと素敵な音楽があって、それを聴いたことで自分を奮い立たせることはできるかもしれない。この音楽にはそういう気持ちが込められているんです。決して乱暴な言葉ではない、これは人への、ある意味励ましなんです。

六角さんの過去のインタヴューで、すごく感銘を受けた言葉がありました。ご自身の生きるうえでの信条を聞かれて、六角さんが「許す、忘れる」と答えてて。六角さんの演技も今回の歌も、すべてこれだよなと。

六角:忘れる力です。そして、人も自分も許す。

そう、これは「許す」アルバムなんですよ。後ろ向きのように見えるけど、聴き終わると前向きな気持ちになっている(笑)。一歩ずつ歩いている。

六角:後ろ向きな感じがするけど、けっして死なない、と。人は人を救えない。まずは自分の心を開かなくちゃ。

Black Country, New Road - ele-king

文:イアン・F・マーティン(訳:江口理恵)

 音楽をコミュニケーションの行為として考えるとき、私たちはそのプロセスの半分にしか思いを致していないことが多い。アーティストに伝えたいことがあり、それを音楽でリスナーに伝えると、その成功は受け手側にも共感を呼び覚ますことができるかどうかで測られる。しかし、コミュニケーションは双方向性のプロセスであり、録音というデッド(死んだ)な(ライヴとの対比として)メディアが、生きているリスナーと対話するには、それとは異なる難儀な類のコミュニケーションが必要になる。

 ブラック・カントリー、ニュー・ロードのコミュニケーションは、微細な観察からなる個々のディテールが、印象主義的な全体像を構成する、断片のコラージュで表現されている。これらの物語の断片を読み解くもっとも直観的な方法は、音楽の喜びのうねりや、押し寄せる嘆き、親密さに伴う押しつぶされるような痛み、喪失による靭帯の引き裂きにより、正確な意味が流れ去るような場面があっても、ときおり言葉に焦点を合わせて音色を追っていくことだ。また、細部を掘り下げることで、その他の物語が直線的ではなく、繰り返されるイメージを通して、聞きなれた言葉が馴染みのない方法で繰り返し使用され、再び現れた文字のシルエットなどが、まるで秘密の言語のようなヒントとして、かすかに浮かび上がってくる。

 2021年のバンドのデビュー盤『For the First Time』では、数年にわたり段階的に積み上げられてきたイメージやアイディアと、反復する音楽の主題や歌詞のアイディアが導入されては引き戻され、より大きなピースが傾き、互いにぶつかり合いながらも、一緒に織りあげられたものだ。それは、スリリングで多様性に満ちたリスニング体験をもたらし、高い完成度にもかかわらず、異なる条件の元で書かれた作品を見事なシミュレーションで一貫性を持たせた、寄せ集めのようなコレクションだった。これに続く新作では、ブラック・カントリー、ニュー・ロードがそのプロセスをより統制しやすくなっているのは必然であり、具体的な意味は不透明なままでも、表面下で煮えたぎるようなディテールは、より豊かで複雑に感じられる。

 具体的な解釈なしに自由に音楽が飛翔するなか、“Haldern” のような曲では、ときに感情を打ち砕くような音色を繰り出す。“For the First Time” をとても面白いものにしている繊細なユーモアは、いまは脱退してしまったヴォーカリスト、アイザック・ウッドの、もの悲しさや神話的なものと、陳腐で軽薄なものとを並走させながら、揺れ動く感情で、決して声のトーンを崩さないという驚くべき才覚によるもので、音楽のなかでも未だ重要な存在となっている。“Bread Song” では、「私のベッドでトーストを食べないで」という家庭内のリアリズムから、「この場所は誰のものでもない、パンくずのためのものでもない」という聖書のような語り口へと巧みに転換し、“The Place Where He Inserted the Blade” では、料理の比喩と思われるものを通してワイルドな感情の極限の狭間を揺れ動く。

 日常から形而上、時代劇からSF的な未来へと、時空を超えて飛び交う語り口は、我々をコミュニケーションの問題へと立ち返らせる。その非常な不透明さ、断片化、ほのめかされた相互関係は、リスナーが意味を選択して光を当て、自らの物語を書くことにより、聴くことをクリエイティヴなコラボレーションという行為に変えるのだ。ズームアウトして眺めてみれば、『Ants from Up There』には、ふたりの人間が、ある種の親密な関係を築こうと努力をするが、大きな痛みを与えあった後、引き裂かれて破壊的な傷が残るという喪失の物語がみつかるだろう。少しズームインしてみると、おそらくそこには、フィリップ・K・ディック風のポスト・モダニズムの、混乱した大人たちが、自分たちの肉体に不確かさを覚え、ライトセーバーや宇宙船、ウォーハンマー40,000といった子供時代のゲームなど、過去の残滓を使って自分たちや世界を理解しようと藻掻く物語も存在する。そこには、語り手のビリー・アイリッシュ(歌詞に何度も登場する)や、チャーリー・XCXのようなポップ・スターとフロイト的なパラソーシャル(パラセクシュアル?)な関係を築いたり、ポップ・ミュージックそのものが BC,NR の世界の混沌とした断片を繋ぎ合わせる共通の土台を形成したりしているという儚い物語も埋め込まれているのだ。繰り返し登場する超音速旅客機、コンコルドのイメージは繋がりの象徴なのだろうか? スピードと混乱の象徴? 恋人? 失われた未来? 他の何か、もしくは上記のすべてか?

 しまいには、バンドが書いた物語を聴いているのではなく、バンドが並べた断片と、それらが繋がるかもしれないという彼らが残した示唆をもとに、自分自身で描いた物語を聴いている気分になる。次に聴くときには、また異なる物語を書いているかもしれない。このアルバムの死んだプラスティックに綿密にマッピングされた分岐路の庭を消化する正味期限の限界があるだろうが、それまでは、『Ants from Up There』は、魅力的で、辛辣な面白さで、時に感情的に落ち着かない会話の相手になってくれることだろう。

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written by Ian F. Martin

When we think about music as an act of communication, we’re often only thinking of only half the process. The artist has something to communicate, and through their music they transmit that to the listener, with success measured by their ability to summon up those same feelings at the receiver’s end. Communication is a two-way process though, and how a dead (as opposed to live) medium like a recording is able to create a dialogue with a living listener is a different and more difficult sort of communication.

Black Country, New Road communicate in collages of fragmentary images in which granularly observed individual details make up an impressionistic whole. The most instinctive way to navigate these pieces of story is to follow the tone, letting the words occasionally fall into focus even as the precise meaning swims away in the music’s swells of joy, washes of mourning, crushing pain of intimacy and tearing ligaments of loss. Dig into the details, though, and other stories glimmer into light in a less linear fashion, through recurring images, familiar words used repeatedly in unfamiliar ways, silhouettes of returning characters revealed, all through hints like a secret language.

On the band’s 2021 debut “For the First Time”, images and ideas that had been built up piecemeal over several years were woven together with recurring musical themes, lyrical ideas introduced and brought back, even as the larger pieces lurched apart and crashed against each other. It made for a thrilling and diverse listening experience, but as fully-formed as it felt, it was still a collection of pieces written under different conditions and then fashioned, albeit masterfully, into a simulation of coherence. With this follow-up, it’s inevitable that Black Country, New Road would be a bit more in control of the process, and the interconnected details simmering beneath the surface feel correspondingly richer and more intricate, even if specific meanings remain just as opaque.

Even as the music flits free of tangible interpretations, they sometimes hit emotionally devastating notes on songs like “Haldern”. The subtle sense of humour that made “For the First Time” so much fun is still a key presence in the music too though, with now-departed vocalist Isaac Wood having an incredible knack for juxtaposing the mournful and mythic with the banal and frivolous, without ever breaking the teetering-on-the-brink emotional tone of his voice. On “Bread Song” the narration flips tone dextrously from the domestic realism of “Don’t eat your toast in my bed” to the Biblical “This place is not for any man / Nor particles of bread”, while “The Place Where He Inserted the Blade” swings between wild emotional extremes all through what seems to be the metaphor of cooking.

The way the narration leaps from mundane to metaphysical, from historical drama to sci-fi future, blurring time and space, all brings us back to the question of communication. That very opaqueness, fragmentation and hinted interconnections makes the very act of listening an act of creative collaboration as the listener writes their own stories by selecting and highlighting meanings. Zoom out and there’s perhaps a story of loss in “Ants from Up There” — of two people who struggle to connect, cause each other tremendous pain even as they find their way into some sort of intimacy, and who leave a devastating wound when they tear apart. Zoom in a little and there’s perhaps also a Philip K. Dick-like postmodernist story of confused adults, uncertain in their own flesh, struggling to make sense of themselves and the world using the lingering ghosts of the past — the light sabers, starships and Warhammer 40,000 games of childhood. There’s a story nestled in there too of the narrator’s Freudian parasocial (parasexual?) relationship with pop stars in the form of Billie Eilish (who makes recurring appearances in the lyrics) and Charli XCX, as well as perhaps the fragile way pop music itself forms a common ground of connection between the chaotic fragments of BC,NR’s world. Is the recurring image of the Concorde supersonic airliner a symbol of connection? Of speed and confusion? A lover? A lost future? Something else or all of the above?

By the end, you are no longer listening to a story written by the band but to one you’ve written yourself out of the pieces they’ve laid out and suggestions they’ve left for how they might connect. And the next time you listen, you may have written a different story. There is probably a limit to how long you can do so before you’ve exhausted the garden of forking paths mapped out on the album’s dead plastic, but in the meantime “Ants from Up There” makes for a fascinating, wryly funny and often emotionally uncomfortable conversational partner.

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文:Casanova.S

僕には二度目の別離の夏を迎える余裕はない
この階段は、君の古い写真に繋がっているだけなんだ
“Concorde”

君は自分を必要とする世界を恐れているんだろう?
だから地元の人と仲良くすることはなかった
だけど君はそのツルでゆっくりと僕を縛り付け、どこにも行けなくした
“The Place Where He Inserted the Blade”

 2nd アルバムの発売直前にヴォーカル/ギターのアイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニューロードから脱退することが発表された。僕は彼の書く歌詞と少し硬い歌声が大好きだった。ナイーヴな自己憐憫を重ねるような歌詞、音として紡がれる言葉たち、ひとつの言葉が他の言葉と結びついてイメージを形作りそうして意味をなしていくアイザック・ウッドのスタイル。彼は 1st アルバムで「Black Country」という言葉を繰り返し用いて、ヴォーカルが起こした性的トラブルを告発されたことで解散することを余儀なくされたナーヴァス・コンディションズから続くブラック・カントリー・ニューロードの物語を描き出した。ケンブリッジの10代の新人バンドがデビューするという最初の記事が出たタイミングでの告発、一曲も残す事なくバンドは終わり、時間が過ぎて、残されたメンバーはそれぞれに失意を抱えながらもバンドを続けることを決意した。そうして隅っこでギターを弾いていたアイザック・ウッドの前にマイクが置かれ、本来それを担当するはずだった人間の代わりに彼が歌いはじめるようになった。「だからきっとある意味で/いつだって僕はゲストだった」 1st アルバム収録曲のヴァージョン違い、“Track X (The Guest)” に追加された「ゲスト」というこの言葉はウッドのソロ・プロジェクト ザ・ゲストにひっかけた言葉なのだろうが、ナーヴァス・コンディションズの解散後にはじめたこの活動がいまのアイザック・ウッドのスタイルを形作った。そこで彼は初めて詞を書き唄い、そうして自分自身をゲストと呼んだ。

 ウッドにとってナーヴァス・コンディションズとはどんな存在だったかのか? それは 1st アルバムを聞けばわかるのかもしれない。起きてしまったことに対する後悔と自己憐憫、少しの希望、アルバムの全ての曲は同じ方向に向かって流れ、それが「Black Country」という言葉によって繫がれる。「僕は何にも学んじゃいない/2018年に失った全てのことから/彼女はまだどこかで僕らを待っているって気がしてならないんだ/水を綺麗に保つために僕たちが作ったものの下に隠されて」。7インチのヴァージョンから変更された “Athens, France” のように象徴的な言葉を差し込み(2018年はナーヴァス・コンディションズが解散した年だ)、ウッドはアルバムの曲を連結し、全体で大きなイメージを作りあげた。ここで唄われる「彼女」とはナーヴァス・コンディションズのことを指していて「Black Country」という言葉も同じものを意味しているのではないか? アイザック・ウッドの歌詞はそうやって想像する余地を残していく。「向こうで Black Country が待っているんだ」。そう繰り返し唄われる “Science Fair”、「Black Country の地面から僕らが作りあげたもの」「穏やかに過ごすために僕たちが作り上げたもの」。“Opus” では比喩的にブラック・カントリー・ニューロードの結成の物語が綴られる(ブラック・カントリー・ニューロードはサウス・ロンドンシーンのパーティのはじまりに間に合わなかったバンドだ。本来ならばナーヴァス・コンディションズかここに参加しているはずだった)。1年前のリリース時のインタヴューでサックス奏者のルイス・エヴァンスが語っていたように 1st アルバムはある時期の彼らを切り取ったものだったのだろう。傷ついた仲間たちが再び集い、そうしてまた歩き出そうとする決意の物語、ウッドは自分たちのバンド名から後付けで言葉に意味を付与し、その最初の物語、失われてしまったナーヴァス・コンディションの未来の姿を終わらせようとした。余裕なんてどこにもなく、スリルと狂気と不安がそこに漂っているような、1st アルバムはそんなアルバムだった。

 この 2nd アルバムはどうだろう? 破裂してしまいそうだったヒリついた空気が消え去り、記憶を静かに呼び覚ますような、優しく慈しむような、ここではそんな音楽が奏でられている。1st アルバムとはもう別のバンドになってしまったと言ってもいいくらいに。あるいはゆっくりと時間をかけて自分の中に潜む感情を理解しようとしているかのような。最初のアルバムで感情の変化や亀裂を描いていたギターやサックスの音がこの 2nd アルバムでは感情を優しく導いていくようなものに変わり、舞台の上でセリフをまくし立てているようだったウッドのヴォーカルはメロディをゆっくりと口ずさむようになった。それは1年前にインタヴューで見せていたあの仲間同士のリラックスした雰囲気で、ポップ・ソングを愛する、もしかしたらこれがバンドの本来の姿だったのかもしれない。「ネクスト・アーケイド・ファイアになれたら……基本的にはそれがゴールさ」 冗談とも本気ともとれるようなジョークを飛ばすアイザック・ウッドの、おそらくはそれこそがサングラスをかけフォンジーに変身しステージ立つ必要のなかった世界のブラック・カントリー・ニューロードの姿だったのだろう。『Ants From Up There』にはそんなバンドの魅力が詰め込まれている。

 ウッドはこの 2nd アルバムでもイメージを結びつけるキーワードような言葉を用いてそれぞれの曲を繋ぎアルバム全体で一つのテーマを描き出そうとしている。「コンコルド」は曲のタイトルになっているし、「ビリー・アイリッシュ」も複数回出てくる。「クランプ」は彼らをつなぎ止める留め金で、それは “The Place Where He Inserted the Blade” において自らを縛り付けどこにも行けなくするツタや彼らを結ぶタグ、長い糸としても表現されている(おそらくそれは僕たちが絆と表現するものなのだろう)。曲をまたぎ何度も歌詞に登場する「コンコルド」という言葉はケンブリッジ郊外にあるダックスフォード航空博物館を訪れた共通の思い出が元になっているとドラムのチャーリー・ウェインが明かしているが、アルバム3曲目である “Concorde” においてのこの言葉はおそらくコンコルド効果を意味するものでもある。このまま引きずっていてもろくな事にはならないと理解していながらも、それでもこれまでにあった出来事をなかったことにはできない。思い出は美しく自らを縛り付ける。クリエイティヴ・ディレクター、バート・プライスが手がけた 1st アルバムのプロモーション(インターネット上のフリー素材を用いたスタイル)から、メンバー自身が子供の頃に書いた絵を使ったプロモーションに変化していることからも彼らがノスタルジックな思い出をこのアルバムのテーマにしていることがうかがえる。このアルバムは思い出を抱えそれに縛り付けられながらもそこから歩みを進めようとするアルバムなのだ。

 インタヴューの中で彼らは今作では歌詞だけではなくサウンド面でもリンクさせようと曲作りの段階で考えていたとも語っている。ルイス・エヴァンスは「今回は、曲を作っている時に他の曲のことを考えながら作った感じ。アルバムの曲順も曲作りの時点で考えながら曲を作っていったんだ」と語り、メイ・カーショウも「全てをリンクさせることを意識していた」と話す。その言葉通り、1分足らずの短いイントロから繫がれる “Chaos Space Marine” にはその後の曲を紹介するティーザーのようにアルバムの中の要素が断片的に織り込まれている。グランドピアノの音に明るく優しいサックス、何度もタメが入って展開し、メロディを唄うウッドの口からはコンコルド、ビリー・アイリッシュ、掘ってしまった穴と次々と後続の曲を示唆するような言葉が出てくる。パーソナルな領域にゆっくり踏み込むような “Bread Song” はチャーリー・ウェインのドラムによってエモーショナルさを一気に加速させ、その手法は “Haldern” や “Snow Globes” にも取り入れられている。それは匂いや色、言葉や音、一見関係がない事柄が他の何かを思い出すきっかけとなるような記憶の仕組みによく似ていて、楽曲に繋がりと広がりを生み出している。おおげさに言うとひとつの曲の中に実際には鳴っていない他の曲の音、あるいはイメージが埋め込まれているような感じだ。そうしてそれがオーバーラップしてくる。表面的な言葉や音は必ずしもそれ自体を意味しているわけではなく、その時々で違った意味が顔出す。僕はこれこそがブラック・カントリー・ニューロードの魅力なのだと思う。彼らは曲単位ではなく塊としてアルバムを意識している。もっといえばアルバムとアルバムとの関係性も意識しているのかもしれない。

 このアルバムはとても内向きなアルバムだ。ライヴで演奏するために作られた楽曲が収められた 1st アルバムと違い、ライヴのできない状況下で作られたこの 2nd アルバムの曲たちはアルバムに収録されるために作られた。最初にあったのは “Basketball Shoes” でこの曲を出発点にしてこのアルバムは作られたという。全てのテーマが “Basketball Shoes” の中にあり、逆に辿ってアルバムの最終曲であるこの曲にまた帰って来る。初期に「チャーリーXCXについて夢を見た」と唄われていた箇所が「コンコルドが僕の部屋の中を飛び回る/家の中をズタズタにして」と変更され、アルバムの中を飛び回る「コンコルド」のイメージを強化する(それはまたしても僕たちを縛り繫いでいく)。「僕がしてきたことの全てはドローンを作ることだった/僕らは残りを唄う」 曲の中でウッドがそう伝える通りに、このアルバムでは他のメンバーの声も聞こえてくる。“Chaos Space Marine” を彩るコーラスに “Good Will Hunting” で響く歌声、“The Place Where He Inserted the Blade”、そして “Basketball Shoes” の重なる声、それらがエモーショナルに心を震わせる。これも 1st アルバムでは見られなかった特徴だ。

 このアルバムのレコーディングはバラバラではなく一つの部屋で同時におこなうライヴ・レコーディングの手法がとられたようだ。ロンドンから離れ船でワイト島に渡り3週間滞在し、寝食を共にしてアイデアを出し合い意見を交わす。時にはフットボールに興じたり、みなで屋外レストランに出かけたり、地元のパヴを巡り映画を見たり。ルイス・エヴァンスは 1st アルバムのインタヴューで冗談まじりに「音楽より仲間の友情の方が大切さ」と語っていたがこのスタンスは2nd アルバムでより顕著に表れている。プロデューサーは立てたくなかったし、ロンドンでのレコーディングもしたくなかった、それは激動の時代を経てもう一度自分たちと向き合う為に必要なプロセスだったのだろうか? ロンドンから離れた場所、海を渡ったイタリアの観光地を思わせる非日常の世界、そのスタジオの中で彼らはお互いに向き合い、観客抜きの自分たちの為だけのライヴをおこなった。サウンド・エンジニアのセルジオ・マッショッコ(最終的には彼がプロダクションを担当することにもなった)とワイト島のレコーディングスタジオのエンジニアのデイヴィッド・グランショウのふたりの手を借りて、2nd アルバムはそうやってでき上がった。だからこのアルバムはより彼らの内面に迫ったものになっている。ある意味で彼らだけで完結している閉じた世界のアルバムなのだ。バンドが大きくなっていく過程において閉じた世界だけでは成立しなくなる、自分たちを取り巻く世界が目まぐるしく変わっていく、だからこそ彼らは原点に立ち返りそこから再び始めようとした。美しく慈しむようなこのアルバムのサウンドは、ノスタルジックであると同時に、「コンコルド」の思い出を糧に前へ進もうという意志と明るい希望が感じられる。あたかももう少し自分たちのバンドをやってみるよというメッセージが込められているかのように。

 アイザック・ウッドの脱退の発表からそこに新たな響きが付け加わってしまったのかもしれないが、それでもこの 2nd アルバムにはレコーディングされた当時の希望がそのまま封じ込められている。だから悲しくは響かない。1年後、3年後や5年後、これから先、きっと繰り返し聞くことになるアルバムには思い出が積み重ねられていく。音楽はそうやって時間を重ね、“Snow Globes” に出てくるキャラクター、ヘンリーがそうしたように記憶の壁にかけられるのだ。アルバムのアートワークに描かれている飛行機はどうしてコンコルドではないのだろう? 頭にそんな疑問が浮かぶが、でもそんなことは些細な問題なのかもしれない。アルバムを取りだしてジャケットを眺める。その飛行機の模型からコンコルドのことが思い出されて、針を落とす前にはもう頭の中に曲が流れ出している。このアルバムはやはり記憶と連想のアルバムなのだ。美しく感傷的で希望に溢れるブラック・カントリー・ニューロードのこの 2nd アルバムはきっと頭の中、記憶の部屋に残り続けることだろう。この先バンドがどんな風になっていくのかわからないが、でもいまはこの素晴らしいアルバムが作り上げられたことを嬉しく思う。

Jazzanova ×〈Strata〉 - ele-king

 いま、70年代ブラック・ジャズ再評価の波が来ている。〈Black Jazz〉や〈Tribe〉といったスピリチュアル・ジャズ・レーベル作品のリイシューにボックスセット……そして今度は〈Strata〉の番。1969年にデトロイトで設立された〈Strata〉(注意:ギル・スコット=ヘロンなどで有名なNYの〈Strata-East〉ではない)は、セオ・パリッシュやジャイルス・ピーターソンなどからも称賛されているジャズ・ファンク~ソウル・ジャズのレーベルだ。
 その〈Strata〉音源をジャザノヴァがカヴァー、再創造した1枚がリリースされる。題して『ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト』。4月20日発売。
 ジャザノヴァとは90年代末にベルリンで結成されたDJ/プロデューサー集団で、当時のクラブ・ジャズ~フューチャー・ジャズを代表するグループ。〈Strata〉の名曲たちがどのように生まれ変わるのか──これは楽しみ。

ジャザノヴァ/ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト

1960年代後半にケニー・コックスによりデトロイトで創立されたインディペンデント・ジャズ・レーベル、〈STRATA〉は1969年~1975年の僅か6年の活動だったにもかかわらず、近年セオ・パリッシュからジャイルス・ピーターソンを筆頭に多くの音楽ファンやレコード・ディガー達から賛美を浴び、伝説的なレーベルとして知られている。

Kon & Amir の片割れで、レコード・ディガー、DJとして有名な DJ Amir が立ち上げた〈180 Proof〉がケニー・コックスの妻、バーバラ・コックスの協力を得て〈STRATA〉の過去カタログを再発するプロジェクトがスタート、そして彼はベルリンでジャザノヴァと出会い、 〈STRATA〉のカタログを使ったアルバム・プロジェクトを発案、ジャザノヴァは同レーベルのカタログ中の傑作11曲を厳選して再構築を試みた。

〈Strata〉のコミュニティーとシンパシーを感じたジャザノヴァは、常に進化を続ける創造性豊かなユニットであり、1995年に志が同じのDJやプロデューサーらからなるオリジナル・ メンバー5名からスタート、彼等はバンド・プロジェクトへと発展しライヴ活動を開始、その流れの中でジャザノヴァとDJアミールが出会ったのは運命であり意気投合した彼等はこの世紀の大プロジェクトを完成へと導いた。

本作は単なるカヴァー・アルバムではなく、彼等が長年培ったDJとしてのリミックス感覚 と、ライヴ・バンドとしての感性を融合させ、現代に蘇らせる事に成功した。例えば、 Lyman Woodard Organization “Creative Musician” は新鮮なアフロビートのテンポのア レンジを盛り込み、同バンドの名曲 “Saturday Night Special” では新らしい解釈の現行ファンクを提案している。同時に元々モータウンのバック・バンドとして活躍したミュージシャンが多数在籍していた〈STRATA〉らしいジャズとソウル・ミュージックのハイブリッドなサウンドはジャザノヴァと出会う事によりモダンでエクレクティックなジャズ・サウンドへと昇華する事に成功した。

ジャザノヴァ ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト
Jazzanova Strata Records - The Sound of Detroit

TRACKLIST
1. Introduction - Amir Abdullah aka DJ Amir
2. Lost My Love - Jazzanova feat. Sean Haefeli
3. Creative Musicians - Jazzanova feat. Sean Haefeli
4. Joy Road
5. Face at My Window - Jazzanova feat. Sean Haefeli
6. Root In 7-4 Plus - Jazzanova feat. Sean Haefeli
7. Inside Ourselves
8. Beyond The Dream - Jazzanova feat. Sean Haefeli
9. Saturday Night Special
10. Orotunds
11. Scorpio’s Child
12. Loser - Jazzanova feat. Sean Haefeli
13. Creative Musicians (Waajeed Remix) Bonus Track
14. Creative Musicians (Henrik Schwarz Remix) Bonus Track

BBE MUSIC / 180 PROOF / STRATA / OCTAVE-LAB OTLCD2600
税抜定価:¥2,300+税
2022年04月20日(水)
形態:CD

創造的再生が、時代とジャンルを超えた!
JAZZANOVA による STRARA RECORDS の再解釈は、極上の音楽体験を与えてくれる。
DJ感覚とバンド・サウンドとリスニング・ミュージックの理想的なハイブリッドが完成!!
沖野修也(Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextet)


"As a longtime Jazzanova head I expect nothing less than prime grade A quality musical excellence and this go round is absolutely no different. It comes with a lush maturity, evolved growth & envelope pushing all the while remaining true to their mission of making creative music from their hearts. Go Jazzanova!" - Ahmir 'Questlove’ Thompson
大昔からのジャザノヴァの大ファンとして、彼らからは超一流な品質の音楽の卓越性他ならない完成度を常に期待しており、この新作も全くいつも通り変わりはない、最高品質な作品に仕上がっている。本作にはまた彼らの豊富な成熟ぶり、進化した成長と限界に挑む姿勢が大いに盛り込まれながら、彼らの心の奥底から来ている音楽創造の姿勢に対する使命に忠実であり続けている姿を明確に表している。ジャザノヴァ、頑張れ!
-Ahmir 'Questlove' Thompson(THE ROOTS)

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