「LV」と一致するもの

mixCD"swim in"発売中
https://tmblr.co/ZnHH9xWlBSX7

2012/12/28(FRI) Swim in @GRASSROOTS
Haruka , Jyotaro , Tsukasa , Tomoharu

2012.12 CHART


1
SIGHA - SCENE COUPLE / BROOD - Hotflush

2
Anthony Parasole & Phil Moffa - Atlantic Ave - The Corner

3
XAMIGA - Kermit's Day Out - Rush Hour

4
Julius Steinhoff - So Glad - Smallville

5
Mikkel Metal - Fron - Semantica

6
SIGHA - Living With Ghosts - Hotflush

7
The Fantasy - Secret Mixes Fixes Vol. 14 - Secret Mixes Fixes

8
Black Dynamite - City To City EP - Tenderpark

9
Arttu - Tune In - Royal Oak

10
Dance - Still / Ha - Blank Mind

NEON INDIAN - ele-king

 ネオン・インディアン......チルウェイヴから登場した人気者です。彼がDJとして来日します!!! SK8THINGたちと一緒にDJパーティです。インディ・キッズからクラバーまで、幅広く楽しめるでしょう。
 とくにファッション(服)やデザインが好きな人、お洒落が好きな人、快楽主義者のあなたは注目してください。夢見る80sのシンセ・ポップやイタロ・ディスコなんかで踊りましょう。自分を着飾ることはまったく正しいことです。ちょっとここ数年の東京にはなかった夜になりそうですね。

PROM launching party "PROMNITE"

DJ:
NEON INDIAN <https://neonindian.com/>
SK8THING (C.E)
KIRI (YES/REVOLVER)
AVERY ALAN + SEM KAI (PROM)
TETSUYA SUZUKI (honeyee.com)
MR.TIKINI

日時:12月15日(土)
開場:9PM
場所:Le Baron de Paris (南青山) https://www.lebaron.jp/map/

Supported by PHENOMENON, Mr.GENTLEMAN, Revolver

Door Price:¥3.000 w/ 1Drink
RSVP Price:¥1.500 w/ 1Drink

www.tokyoprom.com>にてRSVPフォームを通してお名前とメールアドレスを登録していただければ半額の1,500円にて入場案内させていただいております。

vol.5 『Hotline Miami』 - ele-king

 みなさんこんにちは。一年は早いもので、もう年末です。海外ゲーム市場も10月~12月はホリデー・シーズンといって、その年の目玉を中心に、数多くのゲームが集中的にリリースされる時期です。当然ゲーマーとしてもいまは一年でいちばん遊びまくる時期。それもあってこれから数回は新作を連続で紹介していくことになりそうです。

 今回ご紹介するのは10月にPCゲームとして発売された『Hotline Miami』。知り合いに薦められて遊んでみたのですが、これがすごく良かった。ゲームプレイ、物語、ビジュアルや音楽ともに文句なしで、今年遊んだなかでも屈指の満足度でした。ただ暴力表現が激しい作品なので、そういうのが苦手な人は注意です。

 この『Hotline Miami』は区分としては前回ご紹介した『Fez』と同じくインディーズのゲームなのですが、『Fez』がいわばインディーズ内におけるメジャーな立ち位置なのに対し、本作はインディーズ内においてもマイナーな存在と言えるでしょう。かくいう自分も本作を開発した〈Dennaton Games〉なんて知らなかったし、同スタジオの中心人物のひとり、“Cactus”ことJonatan Söderström氏のことももちろん知りませんでした。

  Cactusはスウェーデンで活動するゲーム・クリエイター。猛烈な多作ぶりで知られており、その数なんと40作以上! とはいえ、それらには一般的な意味での作り込みは皆無で、とにかくワン・アイディアのプリミティヴなゲーム・デザインをそのまますばやく形にすることを信条にしているのだとか。彼の公式HPを訪れると、荒削りのドットと極彩色で形成されたゲームの数々に触れることができます。


Cactusの過去作の映像。後の『Hotline Miami』につながるセンスを感じさせる。

 もっともこれまでの知名度はインディーズ・ゲーム界でも知る人ぞ知るという感じで、大舞台に出てくることはなかったようです。しかし今回の『Hotline Miami』の開発では、かつて上記映像にもある『Keyboard Drumset Fucking Werewolf 』をともに作ったDennis Wedin氏と合流し、〈Dennaton Games〉を設立。パブリッシャーにDevolver Digitalを据えて、満を持しての商業デビューを飾ったのです。

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■現代に蘇った暴力ゲーム

 そんな経緯から生まれた『Hotline Miami』は、これまでの下積みの厚さを感じさせるすばらしい出来栄えです。とくに過去作で多々見られた極彩色のエフェクトと偏執的な作風が、「80年代風サイコスリラー」というコンセプトに結実しており、その明快さが全体の完成度の高さにつながっていると言えます。今回はそれをさらに暴力表現、ゲームプレイ、物語の3点に噛み砕いて見ていきましょう。

 ゲームのタイプとしては8ビット・スタイルの見下ろし型のアクション・ゲームで、ひたすら敵を倒していくだけのシンプルなもの。この部分だけ抜き出して見れば、凡百のレトロ調インディーズ・ゲームと大差ありません。しかしながら血出まくり・惨すぎ・殺しまくりな猛烈なヴァイオレンス表現は近年見ない異質なもので、さらに眩いネオンやゆらゆら揺れるエフェクト、それにハイテンションな音楽が加わると、その体験はまさにサイコ或いはドラッギーという形容詞で言い表す以外にない強烈なものとなります。

ゲーム序盤の様子。ハイスピードで展開されるゲームに血とネオンと音の洪水。

 このような作風を見て真っ先に思い出すのが、かつて〈Rockstar Games〉が開発した『Grand Theft Auto: Vice City』か、あるいは『Manhunt』という作品。とくにタイトルからして物騒な『Manhunt』はスナッフ・フィルムの都市伝説をゲーム化した作品で、残虐な方法で敵を殺せば殺すほど高得点が得られるという狂った内容。シチュエーションから映像表現、ゲーム性まで『Hotline Miami』が影響を受けていることは明らかです。


『Manhunt』より。いままさに人を狩らんとするところ。ここから先はグロ過ぎるのでお見せできません!

 少し話が逸れますが、この手の作品は暴力ゲームと呼ばれ、ひと昔前までは少数ながらつねに存在していたジャンルです。しかし発売されるたびに世界各国で発禁処分になったり、ゲームは犯罪を助長する云々の論争の槍玉に挙げられたりと、なにかと物議をかもすジャンルでもありました。

 ここにはゲーム表現の限界や、超えてはならない倫理の壁といった命題がつねにあり、単なる愉快犯的な作品もあれば(大半はそれなんだけど)問題提起的な側面を備えた作品も存在して、独特の熱さがあったのです。ただ近年はそういった従来の事情とは別に、元々のニッチさが開発規模の巨大化の割に合わなくなってきたという商売上の問題から、廃れてきてしまっているように思えます。

 〈Rockstar〉もいまでこそ落ち着いた感がありますが、かつては『Manhunt』にしろ『Grand Theft Auto IV』以前の同シリーズにしろ、容赦ないセクシャル&ヴァイオレンス表現の常習犯だったのです。ただ〈Rockstar〉の場合はそんな暴力表現のなかに、いまの作風にも見られるセンスの良さが共存していて、それが独特の魅力やブランド性をかたち作っていました。

 『Hotline Miami』はそんな途絶えつつある文脈の上に立っている作品です。パッと見こそ荒削りの8ビット調ですが、それでも過剰な暴力は確かに表現されており、むしろ見た目の抽象性があらぬ想像力を掻き立てさえします。そして数々のエフェクトと音楽、80年代風で妙にハイ・テンションな雰囲気が織り成すインモラルなクールさは、まさにかつての〈Rockstar〉を引き継いでいると言えましょう。

■目くるめく殺しのルーティン・ワーク

 暴力ゲームと呼ばれるものは、実際のところそのセンセーショナルさに頼ってゲーム性をおざなりにしてしまったり、暴力表現の必然性の証明、ゲーム・プレイとの一致という部分で問題を抱えることが多いです。しかし『Hotline Miami』はその命題に、たしかな完成度と巧妙なトリックで応えています。

 本作のゲーム・ルールについて改めて説明すると、これは建物内にいる敵を倒していくアクション・ゲームで、プレイヤーは敵の落とした近接武器や銃器をとっかえひっかえしながら殲滅を目指します。具体的な様子は前項の映像にあるとおりで、幕間の日常シーンを含めても1ステージ3分に満たない、非常にハイ・スピードでインスタントなゲーム性が特徴です。

 ただしそれはノー・ミスでクリアできればの話であって、よっぽど慣れた人でもないかぎり、まずゲーム・オーヴァーになりまくります。なにせ敵の攻撃はすべて一撃死。反応もはやいし、複数人固まっているのが普通なので、何も考えずに突っ込めば間違いなく死ぬし、考えてもやっぱり死ぬ。


殺っては殺られてまた殺って・・・

 なので、プレイヤーは幾度となくゲーム・オーヴァーになりながら敵の配置を覚え、パターンを構築してクリアを目指すことになります。こういうゲームを一般的には”覚えゲー”と言いますが、クリア時の達成感とゲーム・オーヴァーの連続によるストレスとのさじ加減が難しいゲーム・システムでもあります。

 しかし本作はチェック・ポイントの感覚が絶妙で、且つやられても本当に一瞬、0.5秒ぐらいでやり直せるのがうまいストレス緩和になっていますね。敵を倒すのが爽快なのも、リトライのモチヴェーションになってくる。

 また敵を倒すというシンプルな目的ながら、発見されずに近づくというステルス要素もあれば、見つかった後どう捌くかというアクション要素もあり、そのアクションも近接武器を使うか銃器を使うかで事情はまったく変わってきます。そして何よりこれらがハイ・スピードなゲーム・プレイのなかで渾然一体となっているのがとてもおもしろい。

 ステルスとアクションのハイブリット作品というのはいまではなんら珍しいものではありません。ただ僕がいままで遊んできた作品はどれも、敵に見つかるまではステルス、見つかった後はずっとアクションという具合に、両者の境界とゲーム・プレイの差異は明確に線引きされていました。

 しかし『Hotline Miami』にはそのゲーム・プレイがシフトする境界というものがありません。と言うよりも目まぐるしく変わりまくる。映像を見ていただくとわかりますが、敵への接近から攻撃までが本当に一瞬の出来ごとで、ステルスしている1秒後には殴り合いになり得るし、さらにその1秒後には倒した敵の銃を奪って遠方の敵を狙い撃っていることも普通にあるのです。これらが継ぎ目なくシームレス移行しつづけていくゲームというものは、いままでにない体験でした。

 当然、操作中はなかなかの忙しさになるので、パターン化が重要になってきます。敵を殺しまくっては殺されて、より最適なパターンを導き出すため、さらに殺して殺されまくる。殺されまくってイライラが募ろうとも、それさえも糧にして再び挑む。それだけの中毒性が本作にはあるのです。

 そしてこの何度もリトライをする、せざるを得ないゲーム・メカニックが、じつは本作の物語、ひいては暴力表現の正当化につながる巧妙なトリックにもなっているのです。

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■『Hotline Miami』はプレイヤーを道づれにする

 なぜ何度繰り返してでも殺しをつづけるのか、その果てに何を求めているのか、またなぜ何度も繰り返すことができるのか。これが『Hotline Miami』の物語における、重要なテーマになっています。

 本作の物語開始時の設定は、ガール・フレンドを殺された主人公が復讐のため留守番電話の謎のメッセージに従いながら、暗黒街の殲滅を行っていくというもの。しかし程なくして殺されたというガール・フレンドとの出会いの場面が出てきて(上記プレイ動画の後半)設定に矛盾を感じさせたり、中盤以降は日常パートで頻繁に幻覚が出てくるなど混迷の色を濃くしていきます。


ステージ前後に挟まれる日常パートはストーリーを読み解く重要な場面だ

 その末にどのような結末をたどるのかは、ネタバレになるのでここでは書くことはできません。しかしたしかに言えることは、主人公が終始抱いていた復讐願望に、何度リトライしてでもクリアしたいプレイヤーの願望が重ね合わせられている節があるということですね。

 要はプレイヤーは主人公の共犯者に仕立て上げらてしまうわけです。本作は主人公のことを最終的に哀れで空虚な存在として描いている。それはつまり、クリアを妄執するプレイヤーのことをも同様に断罪しているのです。否定しようにも、何度もリトライを重ね、その度に暴力が振るわれることを是認し、その末にクリアしたという事実が言い逃れを許さない。お前もこの主人公と同じ、妄執に生きる哀れな存在だ、このゲームの暴力に意味があろうがなかろうが、ここまでクリアした時点でお前に意見する資格はないんだ! という具合です。

 容赦なくプレイヤーの努力を踏みにじるこの結末は、かつての『BioShock』でAndrew Ryanに対峙する場面、あるいはもっと古い作品なら『たけしの挑戦状』でクリア後に「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」と言われることに匹敵するメタな手のひら返しと言えましょう。

 それでも、いやそれだからこそ、僕はこの作品の物語が好きなんです。プレイヤー自身を当事者として巻き込んでしまうこと。これはゲームでしか成立しないストーリー・テリングのひとつです。それも丁寧なお膳立てをしてプレイヤーに能動的に没入させるのではなく、プレイヤーの無意識に働きかけて気づいたときには取り込まれてしまっていた、という状況を作る。これは相当至難の技のはず。僕も本作の仕掛けに気づいたときには、これは一本取られたと、痛快な気分になりました。

■まとめ

 傑作です。恐らく暴力表現とゲーム・プレイがひとつでもわずかに欠けていたら、本作の物語は成立しなかったことでしょう。それは他ふたつの要素を個々に見ていった場合でも同じです。暴力表現、ゲーム・プレイ、物語の3本柱がそれぞれを絶妙に補完し合い、それが”80年代風サイコスリラー”としての総体を抜群の完成度でかたち作っています。

 いまさらですが唯一欠点らしきものを挙げれば、ステージ・クリア後に手に入るマスクや武器の性能がイマイチ差別化できていないことが挙げられますが、そんなの些細な枝葉の要素に過ぎません。根幹のデザインが非常に優れているため、小技に頼らなくても十分すぎるほどおもしろい。この点は小技に頼りすぎで根幹が空っぽな最近のメジャー・ゲームはぜひ見習ってほしいところ。

 過激な表現の数々から、人をものすごく選ぶ作品なのは否定できませんが、最近の主流のゲームにはないアナーキーさを求めている人、または単純に完成度の高いゲームを求めている人に強くお薦め。このレヴューでひとりでも多くの人に興味を持っていただければ幸いです。



PLVS VLTRA - ele-king

 ブルックリン/フィラデルフィアを拠点としていたイーノンというバンドは2009年に力尽きた。日本での知名度の低さと反比例して海外で熱心にツアーを行っていた彼らを、ユーチューブに誰かがアップするライヴ動画で僕は毎日追いかけていた。しかし、ある日、動画のなかでドラマーが代わっていた。古くからいたドラマーのマット・シュルツは脱退し、ホーリー・ファックのメンバーとなっていた。イーノンはサポート・ドラマーを迎え入れるも、グルーヴを失い、やがて活動をやめてしまった。バンドとしての解散のアナウンスはなかったが、しばらくして、残った夫妻メンバーのジョン・シュマーサルとトーコ・ヤスダはそれぞれのインタヴューでバンドが終ったことを語っている。2010年に息を止めたシアン・アリス・グループ(現:オー)も似たような終わり方だった。

 この作品は、ベーシスト/ヴォーカリストとしてザ・ヴァン・ペルト/ザ・ラプス/ブロンド・レッドヘッド/イーノンといった数々のインディー・バンドを渡り歩き、現在はセント・ヴィンセントのバンド・メンバーである在米日本人トーコ・ヤスダの初のソロアルバムである。アメリカ在住の日本人がスペインの国章から引用した言葉を名義にし、オーストラリアのレーベルからギリシャの神殿のタイトルの作品をリリースしたことになる。このゴッタ煮の感覚はアルバムの音にも通じている。
 プロデュースは元ブレイニアック/イーノンのリーダー、そして現在はカリブーのバンド・メンバーであるジョン・シュマーサルが手掛けている。つまり、90年代と00年代のUSインディー・ロックの荒野を駆け抜けてきたイーノンのふたりが「テン年代」にあげる第一声といえるだろう。

 しかし、はたして、ここで聴かれる音は2003年頃のイーノンが示したインディー・ポップ的なるものの化石のように感じられてしまった。覚えやすいメロディを全編にわたり導くトーコのキュートなロリータ・ヴォーカルも、キャラクター性は強いがシンガーとしては弱いため、途中で食傷気味になってしまう。雑多な音が飛び交うバック・トラックにしても、飛び出す絵本のようにコミカルで収まりがよいのはイーノンの頃からさすがなのだけれど、脈絡がなく、むなしく過ぎ去ってゆく印象だ。どうも奇をてらおうとしているだけのポップソングに聴こえてしまう。てらうにしても2003年との明らかな変わり映えがほしい。得意の短調メロディは冴えわたっているので、本当にもったいない。
 「おもちゃ箱をひっくりかえすような」行為自体がクールだと言いにくくなってしまった。それはトーコ・ヤスダが、箱の中身も変わっていないというのに、おもちゃ箱をひっくり返すことに熟練してしまったがゆえである。何度ひっくり返してもまた同じようにおもちゃが配置される。

 あからさまにピート・ロックやJ・ディラである"サンキッストゥ"で打ち鳴らされるヒップホップ・ドラムなどを聴くと、同時代を同郷(ブルックリン)でしのぎを削っていたはずのギャング・ギャング・ダンスによる2011年の楽曲"ロマンス・レイヤーズ"とどうしても比べたくなる。なるのだが、ギャング・ギャングが自分たちのサイケデリアにヒップホップを引きずり込んだようなオリジナルの姿勢がプラス・ウルトラには見つけられない。ただの模倣にとどまっている(ちなみに、この曲にはサン・ラ・アーケストラのダニー・レイ・トンプソンが参加している)。作中後半の"ライク・スパイス"には昨今のポスト・ダブステップ的なベース・ミュージックへのアプローチがあるのは、このアルバムの流れのなかではすこし意外だった。ただ、ヴォーカルが雑然としていてどうにもトラックを乗りこなせていない印象が生まれてしまっている。

 「PLVS VLTRA」=「PLUS ULTRA」とは、「より彼方へ」というラテン語で前進を意味するスペインのモットーであり、国章に記されている言葉だ。しかし、この音楽は未だに2003年をひきずっている。そのため、どうも自虐的なユニット名に聞こえてしまう。彼方(2012年)へ赴いているリスナーへ向けて「俺の屍を越えてゆけ」というようなメッセージなのだろうか? プラス・ウルトラも含め、みんなもうとっくに2012年にいるというのに。

 価値観を揺さぶられるような刺激的でサイケデリックな音楽がほしいのであれば、この作品にそれを望まない方がよいかもしれない。しかし、90年代~00年代を乗り越えてきたエキスパートなのだから、ニッチな場所にはまろうとすることなく、ぜひともトーコとジョンのコンビには新しく挑戦的でフレッシュな作品を聴かせてほしい。元イーノンではなく、ましてカリブーやセント・ヴィンセントのサポート・メンバーとして以上に、現役のトーコ・ヤスダとジョン・シュマーサルでいてほしい。どうしても、僕はファンとしてこの先ずっと期待し続けてしまうだろう。なにしろ、大人気になることもないまま90年代から地道にUSインディーで活躍していた(日本)人たちが、何度もバンドの解散を乗り越えて、音楽を止めてしまうことなく作品を発表してくれているだけでも喜ばしいのだから。ぜひぶっ飛んだ次作を。

DJ mew (恥骨粉砕) - ele-king

2012.12.15 恥骨粉砕@Star Pine's Cafe!!!!!
久々やります!皆様どうぞよろしくお願いします!
more info https://chikotsu-funsai.tumblr.com/
blog https://djmew.exblog.jp/

今秋のベストヒット 2012.11.07


1
Laid Back - Cosyland - Brother Music

2
Traxman - Itz Crack - PLANET MU

3
LV feat. Ruffest - Ultando Lwaka - Hyperdub

4
Junip - Howl - MUTE

5
blur - She's So High - EMI / PARLOPHONE

6
Jon Hassel - Toucan Ocean - Lovely Music

7
Coldplay - High Speed - EMI

8
DJ Krush - 蒼い雨 - Es.U.Es Corporation

9
Nick Cave & The Bad Seeds - Red Right Hand - Mute Records

10
DJ Rashad - Kush Ain't Loud - Lit City Trax

『清盛紙芝居』続編! - ele-king

大反響、金田淳子のあらすじザクわかり『清盛紙芝居』!!
噂のBSフジ新番組『世界の正義を探求するテレビ』での未使用部分をふくめ、続編を一挙大公開!
書き下ろしのグルーヴィーなナレーション・パートが加わって読み応え抜群、最終回までに押さえよう! (編集部)

前回までの『清盛紙芝居』(文章パート付き!) 

フジテレビ(BSフジ) 世界の正義を探求するテレビ 
放送日時 2012年11月 9日(金)24:00~24:55

ニコニコ生放送
オタク女子文化研究所「いまから『平清盛』」 ~「オタ女」的大河ドラマの愉しみ方~

ニコニコ生放送
BSフジ新番組・初打ち合わせ公開

紙芝居『平清盛』(番号と放送回とは一致していません)
»前回までの『清盛紙芝居』


16.平治の乱(1159)
 平治元年、清盛の留守をついて源義朝が朝廷を制圧。信西は清盛の助けを祈るも追手に発見され、自死を選んだのでございます。清盛は「これがお前の出した答えならば受けて立とう」と奮い立ち、急に賢くなって権謀術数を駆使し、ついに義朝を追い詰めます。賀茂川を挟んで見合った清盛と義朝は、次の瞬間にはふたりだけの異空間に飛び、壮絶な一騎打ちを繰り広げます。清盛に敗れた義朝は、源氏重代の太刀「髭切」を置いて去ったのでございます。


17.さらば強敵(とも)
 源義朝は手勢を従え東国へ落ちますが、追捕の手が及ぶと覚悟を決め、忠臣・鎌田正清と刺し違えて散ったのでございます。義朝の息子・頼朝は捕縛されておりましたが、この年若き頼朝の姿に、池禅尼(清盛の母)は病没したわが子・平家盛(清盛の弟)のおもかげを見出し、清盛に助命を嘆願いたします。清盛は、少年期から競い合った強敵(とも)=義朝をなくした悲しみに耐えつつ、頼朝に「髭切」を渡し、伊豆に流罪としたのでございます。


18.日本国の大魔縁
 さて保元の乱後、流罪となった崇徳上皇は讃岐で写経生活を送っておりましたが、後白河院に反省文を着拒されたり、息子が病死したりという、さらなる不幸に見舞われます。さすがの崇徳上皇も堪忍袋の緒が切れて魔物と化し、折から経文を運んでいた平家一門の舟にイオナズンを浴びせかけます。あわや海の藻屑、と思われた清盛ですが、夜明けとともに崇徳上皇の魔力は消え、ぶじ経文を奉納することができたのでございます。


19.ふたりはズッ強敵(とも)
 清盛と後白河院は微妙なツンデレ綱引きを繰り返しておりましたが、ここでキーパーソンとなるのが清盛の義妹・滋子でございます。滋子は後白河院と授かり婚(できちゃった婚)によって固く結ばれ、清盛との仲を取り持つのでございます。清盛が熱病に倒れたとき、後白河院は賀茂川の増水をものともせず見舞いに赴き、源義朝亡き後の清盛の「ズッ強敵(とも)」担当としての存在感を見せつけたのでございました。しかしこの蜜月ともいう時期に、清盛の体内ではすでに、亡き白河院の血、もののけの血がうずき始はじめていたのでございます。


20.平家にあらずんば
 福原に移り住んだ清盛は、長男重盛に平家の棟梁を譲りわたし、表の仕事をさせる一方で、裏の仕事を時忠に命じたのでございます。時忠は自分の甥である宗盛が平家の棟梁になるべしと主張し、重盛を追い落とそうとする、なかなかに曲者の男でございます。重盛は先例に基づく正しい采配を行いますが、時忠は「正しすぎる判断は間違っているのと同じ」と断じ、秀(かむろ)という少年団を使役して、平家に仇する者たちを闇討ちにするのでございました。しかしいささかやりすぎだと思っているのでございましょうか、「平家にあらずんば人にあらず」と言い放ったときの時忠の表情は、苦悶に満ちていたのでございます。


21兎丸ェ...
 大輪田泊の工期を何よりも優先するブラック企業=清盛は、人命をおろそかにし、腹心・兎丸と対立してしまいます。清盛の元を飛び出した兎丸は、秀に襲撃され、まるで募金のように赤い羽を全身に刺されて落命。兎丸組のあらくれたちはドスを持って清盛に詰め寄りますが、兎丸の魂が工事を見守ってくれるよねという謎の理屈でまるめこまれ、気づいたら大輪田泊も完成し、なんかいい話みたいになっていたのでございます。


22.鹿ヶ谷へ
 清盛と後白河院のかすがいであった滋子が病没すると、にわかにふたりの対立が明らかとなり、後白河院は「もうここへは来ない」と、マンションの鍵を置いて去ったのでございます。後白河院の近臣である藤原成親と西光も、清盛と延暦寺への恨みは根深く、ここに世にいう「ひみつのボーイズ・トーク@鹿ケ谷」が開催されるのでございます。

interview with Carnation - ele-king


CARNATION
SWEET ROMANCE

Pヴァイン

Amazon

 わたしは先日(といっても、取材のときの先日だから、いまからだと1~2ヶ月前になるのが、読者、関係諸氏にもうしわけありません)、今年リリースされたカーネーションの『天国と地獄』の「20周年記念コレクターズ・エディション」を聴き直して、彼らは、先鋭的であること、ロックであることが、当然のごとくポップでもあるということをやってのけた、音楽において稀有な、音楽ファンにとってはありがたいバンドだとあらためて思った。一回だけならそう珍しいことではない。ポピュラー・ミュージックの歴史はそれほど短いわけではない。そういったミュージシャンはいくらでもいる。ところがカーネーションは一回こっきりではない。
 "夜の煙突"のころからの彼らの足穂的な情景を喚起する力をコンテンポラリー・ブラックミュージックのグルーヴに乗せた表題曲で幕を開ける『Edo River』(1994年)、5人体制の強みをみせた『Booby』(97年)、リフレインが耳にこびりついてなかなか離れなかった『Parakeet & Ghost』(99年)の"Rock City"とか"たのんだぜベイビー"とか、あるいは音楽の思索を立体化した2000年の『Love Sculpture』など、彼の実験と実践は10枚あまりの音盤に刻まれてきた。もちろん、順風満帆だったわけではなく、作品には音楽中毒者の悩ましさもある。どうしたら、時代ととっくみあいながら聴く楽しみをつづけていけるのか、聴く側にそれをもたらし、音楽に返せるのか、と。それを追求する過程で、カーネーションは5人組からトリオになり、2009年1月の矢部浩志の脱退をもって、直枝政広と大田譲のふたり組になった。
 『SWEET ROMANCE』はその体制でつくった、『Velvet Velvet』以来となる、3年ぶり15枚目のアルバムである。彼らはふたりになったが、このアルバムには、大谷能生、岸野雄一、山本精一をはじめ、ゲストは多彩であり、張替智広の助演をボトムにしたバンド・サウンドは引き締まっている。
 つまり彼らはいまもなお、走りつづけている。先週は甲府にいた。来週は北陸だ。高地の秋は深く、日本海側はすでにもう肌寒い。そろそろ音楽の密度が空気を暖める季節である。
 みなさん、カーネーションをお聴きください。

レコードをつくるのはずっとやめたくないし、そういうことがなくなってほしくないっていうのはあるから。今回も、架空のA面、B面みたいな、そういうつくりにはこだわっているしね。そういうのがやっぱり楽しいよね。音楽について考えるにしてもね。そういうフックを効かせていかないとやっている意味がないと思うよね。

大田さんは『天国と地獄』から加入されたんですよね?

大田譲:そうですね。

『天国と地獄』を聴くと、カーネーションは渋谷系の前に渋谷系の完成形を提示していたということがわかります。しかも、いま聴いても古びていない。あの頃といまと、心境の変化というと、いきなりボンヤリした質問になっちゃいますが、そういうものはありますか? とくに大田さんは、カーネーション在籍20周年記念でもあるわけですし。

大田:あれがいちばん憶えているかな、カーネーションに入って最初のアルバムだし。

直枝政広:練習しまくっていたよね。

大田:そう。

直枝:何か見えない敵とずっと戦っていたね。競いあっていたっていうか。

大田:レコーディング前に合宿したからね。

直枝:2回ぐらい合宿したかな。

大田:2回に分けてトータルで2週間くらいやったんだよね、たぶん。レコーディング自体も合宿だった。伊豆のほうに行ってやったんだよね。だから、(メンバーで)ずっといっしょにいたんだよな?

直枝:うん、煮詰まってたね。

大田:まあ若かったからね(笑)。

直枝:僕らは、作品性という部分でも、つねに評価っていうのかな、正しい評価ってされてこなかったので「ちくしょー! ちくしょー!」って、なんとかおもしろいものつくろうってがんばっていたんですよ。

当時は正しく評価されていないと思っていたんですか?

直枝:まったく評価がなかった。湯浅(学)さんがはじめて『ミュージック・マガジン』で書いてくれて、当時はそれがいちばん好意的だったのかもしれないな。「青臭い」って書かれたんだけど、でも最終的にはいいっていうか、わかるよっていってくれたんですよ。あとは理解されていなかったので。『天国と地獄』だって、評価されるまで20年かかって、ジワジワと、なんとなくおもしろいアルバムあるよって浸透していったっていう感じですね。

理解しない音楽メディアに目にもの見せてやる、という気持ちはありましたか?

直枝:そう思っていた! いままったくそんなこと考えてないというか、逆に、もっとこう、抜けているかな。戦ってないね、そこは。

戦ってない?

直枝:批評みたいなところとは戦っていないということだね。たとえば、点数何点とか。「そんなところじゃないんじゃないか? 」っていうところはあるかもしれない。

逆に、いま自分たちにとっていちばん大切なものっていうのはなんだと思いますか?

直枝:やっぱりやり続ける以上は、純度とか気持ちの問題なんじゃないかな。

透徹したというか、バンドというものを客観的に眺めた上で、何をなすべきか、わかってやっているというのが今回の作品には感じられますね。

直枝:ありますか?

そう思いました。自己愛的なものでもなくて、かといって、皮肉めいているわけでもなくて、適度な距離感で自分たちと外を見ている感じがあると思いました。レコード文化がたとえば終焉を迎えるかもしれない時期にあって、まだそういうことがアルバム作品としてできるっていうのがちょっとした希望のような感じに思いましたね。すばらしいと思いました。

直枝:レコードをつくるのはずっとやめたくないし、そういうことがなくなってほしくないっていうのはあるから。今回も、架空のA面、B面みたいな、そういうつくりにはこだわっているしね。そういうのがやっぱり楽しいよね。音楽について考えるにしてもね。そういうフックを効かせていかないとやっている意味がないと思うよね。

『UTOPIA』を去年だして、間髪置かず『SWEET ROMANCE』の制作に入ったんですか?

直枝:いや、しばらくは迷っていましたね。去年の震災以降、スケジュールが立てにくくなっちゃって、動きにくくなっちゃったところがあったので、アルバムの制作の予定は一回ストップしたんですよ。それで、『UTOPIA』っていうミニ・アルバムにして、一回ちょっと考えてみようっていう。それでようやく、今年の3月くらいに曲出しがあらためてはじまって、5月からレコーディングで。『UTOPIA』は先行ミニ・アルバムだったんですが、そのわりに間が空いたっていう感じですね。

そのストップしたのは心情的な事情ですか?

直枝:そうですね。去年は心情的なものはとても大きかったので。どうなんのっていう。

でもそれもどこか新作には反映されてますよね?

直枝:もちろん、(前作『Velvet Velvet』からの)ここ3年くらいの流れで、葛藤みたいな心理的な揺れみたいなものは絶対あると思う。でも、それがよくなったとかそういうことじゃなくて、全部同じで、何も変わってないっていうことは、俺はもう理解してるっていうか、そのなかで大きく見ていくっていう感じになっていると思うんですよね。

まさにそうですね。現状は簡単に変えられないにしても、そのなかで自分をもってやっていかざるをえないっていうことですよね?

直枝:ある覚悟とかいうところもあるのかもしれない。開き直りというか。

ハラがすわった感じですか?

直枝:うん、泣くとこは泣くよっていう。正直に。

酸いも甘いも辛いも苦いも噛みしめているところが『SWEET ROMANCE』には出ていますよね。

直枝:そういう意味では、つい昨日じゃなくて、もうちょっと離れたところからつづけて流れを見ていかないと、形にならない。もしかして、3年っていい空白だったかもしれないです。じゃないときつい作品になったかもしれない。20年前の曲を今回、入れてみたり、10年前にまだ形になってなかったコード進行がどっかにあったり、大きな流れでやっていかないと動かない、すごく難しいデリケートなパズル・ゲームをやっていた気がしますね。

いま流行をそれほど気にすることはなかった?

直枝:全然ないね。逆に、気持ちいいものっていうところでアナログ・レコーディングっていうものを捉えていったんですよ。「ああ、俺たち、アナログといい感じに出会っているね」というかね。すごく運命的な、奇跡に近い出会いだと思った。そこを大切にしていきましたね。だからいろんな人と出会って、混ざりあって、ひとつの作品にしてくっていうことがとっても楽しかったし、新鮮に響いたんですよ。誰もやっていないものっていうよりは、どこにもないものっていう。なにか決まりきってないものとか、わけのわからないグシャとした何かとか、そのいろんな感覚が混ざりあう、そのスリルみたいなものがよかったですね。

矢部さんが辞められたときに、バンドとして、ドラマーがいなくなるのはどうなんだろうというのを、いちファンとしてはとっさに思いましたが、心配をよそに、その空白さえうまく作用したっていう感じですね。

直枝:そうですね、作用していますね。

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ある覚悟とかいうところもあるのかもしれない。開き直りというか、泣くとこは泣くよっていう。正直に。


CARNATION
SWEET ROMANCE

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おふたりになって、何か変わったことはありますか? 音楽というより、バンド内の関係性の面で。

直枝:ますますなにかこう、言葉でないところで交流してるよね?

大田:まあ、(そのことについては)いままでもあんまり意識をしてきてないからね。なんだろう、細かいところまで話し合ってやんなきゃいけないバンドじゃないんですよ。いままでもそういうところもなかったし、まあ、直枝くんがどう考えているかは、俺はわからないけど。俺は(カーネーションは)話し合いながら民主的にものをつくっていくバンドだとは思ってないからいいんですよ。敷いてもらったレールの上を走っていればいい。それに乗っかっていっしょにやれるのがバンドで、イヤになったら降りるしかないんだから、それはそれでしょうがない。だから、あんまりいろんなこと考えないほうが気が楽だと思いますね。

そうはいっても、スタジオやライヴの現場でそれまでと違ってきたところはありますよね。

大田:うーん、どうなんだろうな......。でも音出しているときには、そんなに意識をしないかな。やっぱりさすがにね、あのドラムがなくなったわけだから、違いはありますよ。だけど、まあ結局はカーネーションの曲をやるんだから、そしたらまあ自分が弾けるベースを弾くしかないし、歌をちゃんと聴かせるしかない。だからバンドですよ、ふたりでも(笑)。まあ最低限の人数じゃないですか? ふたりって。

『SWEET ROMANCE』の制作はスムーズでしたか?

直枝:スムーズだったよね。すっごい順調。

つくっているときの楽しさみたいなものがすごく伝わるアルバムですよね。

直枝:アナログ・レコーディングの、あまり直しが効かない、なんか制約される感じがまたよかったっていうかね。

レコーディングのときはふつうに順録りだったんですか?

直枝:そうそう。データでドンカマとかパーカッションとか、ガイドのリズムになるトラックとかを入れてやっていました。それを聴いて「せーの」で演るんですよ。俺ら、だいたいレコーディング用のリハーサルをしないで、いきなりスタジオなんですよ。そこでセッティングして、音決めして、「じゃあ練習!」そしたら「録音しよう!」って。で、アッという間に仕上げる。

そんなに簡単にいくものなんですか?

大田:なんかそれでいけるようになってきたよね?

直枝:なんかいけるね。

アレンジもアイデアをどんどん試していくということですか?

直枝:基本的にデモ・テープのアイデアみたいなものを聴いといてもらって、それぞれが解釈してもらう形ですね。それでいい感じになればいいかなっていう。

そこにゲストの方々も、そのつど、録る曲ごとにきていただくということですね。

直枝:そうです。ピアニストの方とかにきていただいて。

岸野(雄一)さんもスタジオにいらっしゃったんですか?

直枝:岸野くんは現場にいっかい見にきましたね。それでいっしょにコーラス歌って、帰っていきました(笑)。あと、彼は自分の家で"Bye Bye(Reprise)"という曲をミックスしてくれたんですよ。

"Spike & Me"には大谷(能生)さんをラップとサックスでフィーチャーしていますね。DCPRGとか〈Black Smoker〉から出した『Jazz Abstractions』とか、大谷さんは最近よくラップしていますよね。

直枝:かっこつけるよね(笑)。大谷くんは露骨にかっこつけるんですけど、本当にそういうかっこつける人たちがいいなって思うんだ、俺(笑)。そういうことってなかなかできないからね。そういう人たちは時間をかけて積み上げてきてるから。どう見せるかって考えてきてるでしょ?

見せると同時に、どう見えるかということにも自覚的かもしれないですね。『SWEET ROMANCE』は基本的に全曲を直枝さんが作詞/作曲されていて、ラップをやった大谷さんは作詞でクレジットされていますが "Bye Bye"でミントリ(岡村みどり)さんに編曲を依頼されたのは何か理由があったんですか?

直枝:3年前に岸野くんの誕生日ライヴ(岸野雄一は毎年、1月11日の誕生日に渋谷O-Westでライヴを行っている)にカーネーションが誘われたことがあるのね。そのときに岡村さんと知り合って、宮崎貴士くんと岡村さんと3人で夜ステーキを食べる会みたいな感じで集まって遊んでいたんですよ。そのうち、ファイルとかやりとりしたりして、いつか何かできたらいいですねみたいな話をしていて、それで今回、これは絶対お願いしようと思ったんですよ。岡村さんなら、歌をすごく理解してくれるという自信があったから、内容のことに何もふれずに「お任せします」って渡したんですよ。

曲を、ですか?

直枝:いや歌詞です。歌詞を理解してくれたんです。

それはすばらしいですね。

直枝:俺はあとはなにもいいませんから、その感じでやってくださいって。もう伝わっているはずなんで、ディテールやイメージはあえて伝えませんでした。感じたままやってもらえればいいので、と。

アナログでいえばA面の最後にあたる"Bye Bye"からB面の頭の"Gimme Something, I Need Your Lovin'"への流れが、涙が出ちゃいそうなくらいいいですよね。あと本当、大田さんの歌がすごくよかった。

直枝:すっげー評判いいのよ、大田くん(笑)。

やっぱりそうですよね! 大田さんが歌う"未来図"から"遠くへ"の流れも最高でした。大田さんは"未来図"をご自分で歌うとなったときどう思いました?

大田:まあとにかく歌えと。つくるから歌え、と。「はい」って渡されました(笑)。

XTCのアルバムなんかでも、コリン・ムールディングが1曲歌ったりするじゃないですか。わたしはあれがすごい好きなんですよ。

直枝:最高ですよね。大田くんは、コリンの役割なんですよ。リンゴ・スターじゃないからね。

ハハハハ。

大田:あと、スティーリー・ダンのデイヴィット・パーマ。ファーストで、1曲歌ったりしているじゃない? あのへなちょこさ。なにこの歌みたいなさ。ああいう歌が大好きで(笑)。わざわざ呼んできたヴォーカリストなのにへなちょこじゃん。じつはそういうところ目指したいと思っていたんだよね。

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バンドで、すぐ反応してくれる人たち、俺の考えたフレーズをいっかい噛み砕いてすぐ吸収してもらえて、すぐ表現できる人たちがいるから進むんだと思うんですよ。エンジニアさんも含めて、みんなが反応し合って、みんなで高め合っているから、気持ちいいんだよね。


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さっきの見せ方の話にもつながるんですが、弱い部分を滲ませながら、それでもかっこつけてみせるのが、非常に効いていて、これをライヴの後半に聴いたらさぞや感動するだろうって、そんなことまで想像しました。そこから"遠くへ"につながるのが白眉だと思いました。

直枝:ありがとうございます。

これが比較的、全体的に抜けてるというか、自然に出てきた曲たちがあるべきところに並んでいるアルバムっていう。

直枝:そうですね。3年のあいだ、もしくは10年、20年、それくらいの考えみたいなものがずっとつながってきて、ここに結実しているんですけど。

つながっているっていう感じはありますか?

直枝:ずっとつながっているんです。このアルバムはそのくらいの長い時間で成り立っていて、かつ、俺はこうじゃなきゃいけない、ああじゃなきゃいけないっていう思いが、いま、あまりないんですよ。そのままやりゃいい、なんも考えるなっていうところにいるので、曲順なんかも考えてないかもしれない。だからそれは流れっていうか、奇跡なんですよ、ある意味ね。

それはでも、やろうと思ってできることではないと思いますが。

直枝:うーん、たまたまそうなったっていうかね。だから、とてもいい状況だったんじゃないですかね。緊張感もあって、本当に作業進めなきゃいけなくて。あと、いろんなスケジュール調整も自分でやったりして、きつかったんですけど、でもそのかわりスタジオにいる時間が幸せなときだったっていうのかな、こんなに楽しいスタジオはないなっていうくらいだった。このくらい自分が楽しいと思えなきゃウソだっていうのも最近ようやくわかってきた。雑務はやるけど、スタジオではこのくらい楽しんでいいんだなって。過去は追いつめてたっていうかね。責任をへんに背負おうとしたところがあったから。

大田:カーネーションのスタジオはむかしはピリピリしていたから。そういう時間がものすごく長かったじゃん?

直枝:長かったね。

大田:ここ何年の変わりようはすごいですよ、やっぱり(笑)。ライヴとかだと、メンバーがどんどん減ってきて、本当は自分の責任が多くなっていくじゃない? でもスタジオなんか見ていると、意外に逆をいってるというか、責任をそんなに背負っているように見えてこないというか、見ていると前より全然楽にできているのよ。

じゃあ昔はもっとカチッとつくっていたんですね。

直枝:そうそう! むかしは1ミリでも狂っちゃダメみたいな。俺のイメージはこうなんだからダメだよ! って怒って灰皿蹴飛ばしたり、そういう世界ですよ。最悪ですよ(笑)。

それは緊張感ありますね(笑)。 

大田:そんなにいうんだったら、わかった! やり直すよとかいって、ずっとベース弾いていたからね。朝まで直しとかやっていたよ、レコーディングってこういうもんなんだなって思いながらも、しょうがねーなって(笑)。

直枝:ほんとうに『Velvet Velvet』のあたりから、僕らは解放されてきていますね。いろんな人との交流みたいなものがとても自然になってきて、作業が楽しめるようになった。みんなも信頼してきてくれるし、それを理解してくれてやってもらえているのがいちばんいいのかなって。

大田:そうだね。結局言葉でいっぱい説明しないで済む人が自然にきてやってくれてるから。

それはこれだけ活動してきて、これだけのクオリティの作品を出し続けているからだとも思いますよ。たとえば、わたしたちの世代はカーネーションを十代のときに聴いているわけだから、その世代の血肉になっているんだと思います。それは教育とかそういうことじゃないですけど、音楽、あるいは文化はそういうことでまわっていくとも思いますし。

直枝:そういう循環のなかにいるんだろうな。

いると思いますね。

直枝:それはね、少しずつ結びついてきているんだよ。閉じ込められた状況から、どこかカギ外したっていう瞬間があったのかもね。僕らが楽になって、まわりももっと入りやすくなっている。これからもっとそうなってくるかもしれないし。

バンドがあって、アンサンブルをよくして、曲をよくして、自分たちでがっちりやっていかなきゃいけないっていう状況から変わったんでしょうね。

直枝:なんかね、もっと大切にするポイントが増えたっていうか、もっと重要なこともある、もうひとつ、なにかやり方があるよというか、柔らかくなっているのかもしれないですね。

柔らかさというのは、なんか柔和になったっていうのとはまたちょっと違うんですよね。

直枝:違いますね。考え方というか。それはね、ドラムの張替(智広)くんもそうなんですけど、大田くんとか、曲の理解能力がすごく早いので、立ち止まらなくていい、ストレスのなさがいい効果を与えていて、プレッシャーはあるんだけど、スピードだけは落とさねーぞっていう意地がそれぞれにあるから、気持ちいいんですよね。

打てば響く?

直枝:そうそう! で、俺はひとりで音楽ができるとは思ってないから。イメージはつくれるけど、それやろうとしたらね、ソロ・アルバムで5ヶ月かかりました(笑)。それでも人の助けが必要だったですから。だからこういうバンドで、すぐ反応してくれる人たち、俺の考えたフレーズをいっかい噛み砕いてすぐ吸収してもらえて、すぐ表現できる人たちがいるから進むんだと思うんですよ。エンジニアさんも含めて、みんなが反応し合って、みんなで高め合っているから、気持ちいいんだよね。これ、ほかだったらムリじゃないかなって思いますね(笑)。ムダに遊ばないからね。

まあでも音楽のなかに遊びはいっぱいありますよね。

直枝:そうそう(笑)。

まあ、でもそういうようなバランスというか、まさにチーム・カーネーションみたいなものができあがっているところのなかもしれないですね。

直枝:今回はチームというよりも、バンドは怪物みたいなもの、それでいいんじゃないかなって思いましたね。

カーネーションは直枝さんのバンドというより、直枝さんの手を離れていっている?

直枝:だんだんそうなってるかもしれない。どんどん勝手に進んでいる感じがするので。

自分もこう、カーネーションに助けられているという感じがありませんか?

直枝:うん。参加してくれている人たちみんなに助けられているし、外側の、ジャケットまわりの仕事とか、いろんなことに対してもそうで、やっぱりこっちがいい具合にテンションを高めたり緩やかになったりしながら、なんとなくできてくるんですね。そういうのを楽しんでますね。

そういう時期というか、誰かとめぐり会って、別れもあるでしょうけど、それは完全な別れではなくて、またどこかで出会うかもしれない予兆を孕んでいる。そのニュアンスが『SWEET ROMANCE』にはすごく出てると思いました。

直枝:あとこういうアルバムを聴いた誰かが、「こんなアルバム作りてーな!」って思うような流れとか、あったらいいなと思いましたね。そういうマジックがあればいいなって。

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チームというよりも、バンドは怪物みたいなもの、それでいいんじゃないかな。


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楽曲に目を移すと、毎回そうなんですが、今回もやはりヴァリエーションに富んでいる。

直枝:幅みたいなものが出てきちゃいますね。あんだけ、音楽を聴いてるとね(笑)。

ところが、『天国と地獄』の頃のように、それを引用、素材として使うというよりも、もっと滲みだしてくるような感じで、そのリスナー体験がでてきているような気がしました。

直枝:うん、ちょっと笑えるようなところはありますけどね。体験なんでしょうがないんですよね。それを自分は通ってきているっていう意識はつねに忘れないようにしていますし、音楽に対してはいつも感謝していますよ。

ハハハハ。

直枝:リスペクトは、それはもうありますから、キーワードとしてかき出せばいくらでもありますよ。

その厚みですよね(笑)。

直枝:とてつもないね(笑)。わかりやすいところでこうやって人と音楽のキーワードについて話はしますけど、「それだけじゃないんだよなー」っていうのもいつもあって、そこが難しいところですね。そこから外れたいって思いも一方ではありますから。だけど、他者の音楽を好きになっていくこと、聴きつづけること、そういう作業は忘れたくないね。「俺は俺」それだけになりたくはない。自分に溺れないためにも。

文章にも書かれていましたもんね、「ひとりよがりになってるか、なっていないか」っていうのは。

直枝:あれはいろんな意味でとれますけど、ほんとうにそういうところもありますよね。

カーネーションの言葉が喚起する情景がわたしは大好きなんですが、『SWEET ROMANCE』の歌詞について、これまでと変化はありますか?

直枝:歌詞については深く考えないようにはしていました。この3年間のなかで曲が生まれて、そのうねりに身を任せればいいかなっていうところはありましたね。感情的になりすぎてはいないか、状況判断をしっかりしないといけない、デリケートな時期だから、とはもちろん思っていました。

デリケートだっていうのは震災のことをおっしゃっていますか?

直枝:感情が渦巻く時期だから、へたをすると、そういうことが歌に出てきちゃうんですよ。そこに溺れちゃうっていうことの怖さっていうのはなんとなく感じるので、言葉が武器にならないように、気をつけたところはありました。

直枝さんは歌詞を書くのははやいですか?

直枝:どうだろうな。決まるときはだいたいはスッといくんですけど、決まんないときは長いですね。今回は苦しみはあまりなかったですね。曲と詞がいっしょに出てきた曲がわりと多かったからかもしれない。

なるほど、わかりました! ツアーは10月からですが、ツアーの準備はもうそろそろやってますよね? ツアーにかける意気込みをうかがえればと思います。

直枝:いっぱい練習しますよ!

大田:今回は再現するのがなかなか大変だろうな。

直枝:だから再構築になると思うけどね。でも、そこはまた、決まったことはやらないんでね。どこか、毎回違うっていうかね。(了)

ツアー情報(2012年11月以降)

2012年11月9日(金)
富山・総曲輪かふぇ橙 (ACOUSTIC LIVE)
SPECIAL GUEST:小貫早智子
OPEN 18:30 START 19:30
前売:3,500円 当日:4,000円 (1ドリンク別)
(問)オレンジ・ヴォイス・ファクトリー 076-411-6121

2012年11月10日(土)
金沢AZ
SPECIAL GUEST:小貫早智子
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,000円 当日:4,500円 (1ドリンク別)
(問)AZ 076-264-2008

2012年11月11日(日)
名古屋TOKUZO
SPECIAL GUEST:大谷能生、小貫早智子
OPEN 17:00 START 18:00
前売:4,500円 当日:5,000円 (1ドリンク別)
(問)JAILHOUSE 052-936-6041

2012年11月17日(土)
札幌COLONY
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,000円 当日:4,500円 (1ドリンク別)
(問)WESS 011-614-9999

2012年11月18日(日)
旭川CASINO DRIVE
OPEN 18:00 START 19:00
前売:3,500円 当日:4,000円 (1ドリンク別)
(問)旭川CASINO DRIVE 0166-26-6022

2012年11月24日(土)
仙台enn 3rd
SPECIAL GUEST:ブラウンノーズ
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,000円 当日:4,500円 (1ドリンク別)
(問)GIP 022-222-9999

2012年11月25日(日)
石巻La Strada
SPECIAL GUEST:ブラウンノーズ
OPEN 18:00 START 19:00
前売:3,500円 当日:4,000円 (1ドリンク別)
(問)La Strada  0225-94-9002

2012年12月8日(土)
渋谷WWW
SPECIAL GUEST:梅津和時、大谷能生、小貫早智子
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,500円 当日:5,000円 (1ドリンク別)
(問)WWW 03-5458-7685

Chart JET SET 2012.10.29 - ele-king

Shop Chart


1

Greg Foat Group - Girl And Robot With Flowers (Jazzman)
11年のシングル、アルバムは一瞬で完売。エレガントでサイケデリックでグルーヴィーな独自の世界を進化させた話題の新作が登場です。即完売必至の1000枚限定プレス!!

2

Frank Ocean - Thinking About You (Unknown)
2012年にアルバム『Channel Orange』で公式デビューを果たしたR&bシーンの注目株Frank Oceanによる"Thinking About You"の5リミキシーズ! どれも原曲を生かしたナイスな仕上がり!

3

Martha High & Speedometer - Soul Overdue (Freestyle)
Vicki Andersonをカヴァーした大ヒット・シングル続く待望のアルバムは、ソウル/ファンク名曲の数々をカヴァー。

4

Egyptian Hip Hop - Syh (R&s)
鮮烈なデビューから早くも2年。遂に出たアルバムから500枚限定の7インチが登場!!

5

Kendrick Lamar - Good Kid, M.a.a.d City
玄人をも唸らせるフリースタイル・スキルを持つ若手ラッパーが、Cd/mp3音源でのリリースやDrake, 9th Wonder等の客演を経て、遂にAftermathからメジャー1stアルバムが投下されました!

6

Stepkids - Sweet Salvation (Stones Throw)
2011年の1st.アルバムが高い評価を得た西海岸の腕利きトリオ、Stepkids。年明けリリース予定のセカンド『Troubadour』からの先行12インチが到着です!!

7

Enzo Elia - Balearic Gabba Edits 3 (Hell Yeah)
Enzo Elia自身の主宰する要注目のイタリアン・レーベルから、ヴァイナル・オンリーで展開される大人気シリーズ"Barearic Gabba Edits"第三弾!

8

Beauty Room - Beauty Room ll (Far Out)
A.o.r.、ブルーアイド・ソウル、ソフトロックまで取り込んだ、洗練を極めた究極の都市型音楽が誕生!!

9

La Vampires With Maria Minerva - Integration Lp (Not Not Fun)
ごぞんじ100% silk主宰者Amanda Brownのソロ名義、La Vampires。当店超ヒットのItal、Octo Octaに続くコラボ盤は、ロンドンの女性クリエイターMaria Minervaがお相手です!!

10

Sir Stephen - House Of Regalia (100% Silk)
12"「By Design」が最高だったニュー・オーリンズの鬼才クリエイターによる8曲入りアルバム。アシッド・ハウス~ヒップ・ハウス~アーリー・90's・ハウスを極めた入魂の全8トラック!!

Sacred Tapestry - ele-king

Vektroid=Polygon WizardVektordrum=LASERDISC VISIONS=MACINTOSH PLUS=情報デスクVIRTUAL=FUJI GRID TV=INITIATION TAPE=ESC不在
 が与えられたとき、
Vektroid=〈NEW DREAMS LTD.
 が成り立つので、
〈NEW DREAMS LTD.〉=New Age-Psychedelic-Chillwave=Vaporwave
 であることより、
Vektroid=Vaporwave
 が言える。

 そう、ヴェイパーウェイヴとは、Vektroidを名乗る、アメリカ在住と思しき謎の人物による自作自演行為である。これが確かであるなら、ヴェイパーウェイヴは同時代の現象とはとても呼べないばかりか、小規模なアンダーグラウンド・コレクティヴでさえない。いわば偽装、詐術である。人がウェブ上に人格を持ちこんで以来、いわゆる「ネカマ」を標榜するユーザーが常に一定数、存在しているが、最初はそのような悪戯心からはじまったのであろうヴェイパーウェイヴも、少しずつ自らの意味付けを重くしていき、おそらくは自然な呼吸ができなくなってしまったのだろうと想像される。電子音楽史的には、ソロ活動者の伝統的な変名活動の一種と見るかもしれないが、この尋常ではないアカウント数は、ちょうどSNS上でサブ・アカウントや裏アカウントを取得し、陰口やエゴ・サーチ(ウェブ上自己検索)に耽る現代人の奇妙な分裂性、そしてそれを生む抑圧の構造に似ている。

 彼(彼女?)への追跡は、いまのところふたつの作品で行き詰まる。ひとつは、今年の5月に本人名義(Vektroid)でリリースされている『Color Ocean Road』で、同作のBandcamp上でのタグが、Vektroid(ヴェイパーウェイヴ)に関するほぼすべてのネタバレになっているが意味深だ。そして、いまさら隠すまでもないのか、最初からVektroid のSacred Tapestry名義であることが明記され、8月にSoundcloud上でのストリーミング・リリースとなった本作『Shader』が、〈NEW DREAMS LTD.〉という擬似レーベルの一応の区切りらしいのである。いわゆる「なかの人」であったVektroidが、このような撤退の素振りを見せている理由はいくつも推測される。悪ふざけでやっていたことが発見され、無視できない規模に広がってしまってビビッてしまったとか、単純に(超ニッチな規模とは言え)有名になってしまってウザくなったとか。もちろん、翻弄される私たちを見て、いまごろベッドの上で笑い転げている可能性もあるが......。

 この音楽に今日まで手を出さなかった人のために最低限のことを確認しておくと、ひと昔前の企業紹介ヴィデオの人畜無害なBGMを悪意でリミックスし、その残滓を無国籍でグロテスクなオフィス・カームとしてグチャグチャに混ぜ合わせたような産物だと思ってもらえばいい。ピッチ操作(スクリュー)された日本語音声や、意味が含まれているのか判断できない漢字の無作為なカット&ペースト、あるいは、使い古されたテレビ・コマーシャルの背景や古いコンピュータの起動音を引用したような痕跡も散見される。本作はその集大成とも言える内容だ。
 冒頭、日本の航空会社(?)のコマーシャル・ナレーションをスクリュー・ループさせた" LD・VHD "からはじまり、本作をヴェイパーウェイヴの作品と認識することが可能になる。だが、以降の曲でVektroid はそこを離れていく。続く"花こう岩 Cosmorama"では、動物の声や環境音などを散りばめつつ、"ドリーミー"以降、"移住"、"新たな夢 Spirited Child"では、最終的にはアンビエントに、互いに曲の区別がつかないくらい抽象的に、テンポ・ダウンしながらドロドロと覚醒していく。いわば前掲したタグのうち、new ageとpsychedelicがひたすら強調されていると言える。本作をヴェイパーウェイヴの終わり、そしてポスト・ヴェイパーウェイヴの始まりとするなら、その先にはさらに際どい世界への接近が待っているのかもしれない。
 ラストとなる"凍傷"は、ヴォイス・サンプルの操作という、一見、ヴェイパーウェイヴ的手法を悪乗りさせただけの音で、しかし私たちはそのような音でどこまでトリップできるのか、試しているようでもある(曲の後半部は凄まじい距離をゆらゆらと飛んでいく)。 かつてのヒッピーが目を付けた東洋の神秘主義と直結するのか、しないのか、分からないが、本作のサイケ趣味は相当の深度を行っていると言える。初期の活動で優先させていた、ある種のリラクゼーション・ミュージックとしての効用は、ここではサイケデリックの快楽主義に逸れているが、ロー・アートとしてのカウンター精神は引き継がれている。

 こうしたネタバレが済んだためか、「ヴェーパーウェイヴは終わった」と『Tiny Mix Tapes』が報じているが、これにはそれなりの根拠がある。2011年の11月以降、Polygon WizardとしてのYouTubeへのアップロードは途絶えているし、これ以降、〈Beer on the Rug〉からの有料配信/フィジカル・リリースが増えている一方で、本当に悪ノリしていたころのZIPファイルの削除がはじまっているのだ。目下、もっとも怪しいのはMEDIAFIREDやMIDNIGHT TELEVISION、COMPUTER DREAMSなどの「いかにも」な名義のアーティストだが、これらがどこまで繋がっているかは分からない。Vektroidの別名義かもしれないし、単なるフォロワーかもしれない。もっとも、ここまでやればどれだけ疑われても仕方がないとも言え、わざわざロシアのSNSであるvkにアカウントを取得した░▒▓マインドCTRL▓▒░が、今年の6月からヴェイパーウェイヴのネタバレ的投稿を続けているのも気にかかる。
 
 すべては気まぐれの愉快犯だったのだろうか? いか、仮にそうだとしても、ごく個人的な自己相対化の体験として、ヴェイパーウェイヴに出会って以降、それまで聴いていた音楽の聴こえ方がまったく違うものになってしまったことは強調しておきたい。ゼロ年代後期に『Pitchfork』が中心となって盛り立てたUSインディの音楽が、オルタナティブと呼ばれつつもどこか形骸化してしまったことを強引に暴き立てるような、問答無用の暴力性をそこに含意として感じたのだ。いわば、旧来の音楽環境が「本当に」荒廃したあと、つまり『Pitchfork』的なインディ音楽でさえも存続が危ぶまれるような季節が到来したときに、どのような音楽が立ち上がるのか、その最悪のシミュレーションを見せられているようなのだ。また、90年代の前半的な価値観に注がれる視線の向こうには、科学がまだギリギリのところで無邪気に、未来への希望として信じられていた頃の記憶を掘り起し、それをあえてディストピア的な反論として突き付け返しているようでもある。
 
 まったく......自分で書いておきながら、本当に妙な時代になったものだ。ヴェイパーウェイヴ----ウェブをシーンの中心に据えた最初の、小さな、そして本格的なこのアンダーグラウンド音楽は、ゼロ年代以降に生じた星の数ほどのマイクロ・ジャンル(音楽の部分的な傾向に依拠した曖昧な細分化カテゴリー)をめぐる2010年代以降の可能性、その示唆を多分に含んだ最初の衝撃(アンダーグラウンド2.0)だったと言える。
 残された〈Beer on the Rug〉を中心としたポスト・ヴェイパーウェイヴはこれからも展開していくにしても、同時代のムーヴメントやそれに代わる何かがどのように提起されるか、私はその一端を見た気がした。つまり、ある新しい音楽が「現象として面白い」という以前に、「本当に現象なのかどうかさえ分からないから面白い」ことがあり得るのだということを!
 もっとも、ヴェイパーウェイヴは多くの音源が2011年に流通し、その起源は音楽的にはJames Ferraroではないかと言われている。そうした文脈を踏まえた上での体系的な研究結果は、斎藤辰也君がいつか発表してくれるだろうが、個人的にはむしろ、本作におけるnew ageとpsychedelicの拡張路線の延長に立つ存在として、〈AMDISCS〉というレーベルに注目しているが、その話はまた今度。いまはただ、この悪趣味なサイケデリック・ミュージックの奥底に沈んでいたい。どこまでも、もっともっと深く。すべての音が溶け、その意味を失くしてしまうまで----。

Mediafired™ - ele-king

Mediafired™ - Pixies

"we had Pepsi™ sponsorship" misssequence(メディアファイアード™本人。上記動画のコメント欄にて)

 違法ダウソしてますか?™
 愉快なコマーシャル映像まで作られたオンライン・ストレージ〈メガアップロード〉は、違法ダウンロードの温床となっていたとされ、現在は閉鎖されている(https://www.megaupload.com/)。いっぽう、おなじく人気だったオンライン・ストレージ〈メディアファイアー〉は存続してはいるが、共有が違法と思われるファイルについては積極的に削除しているようだ。アーティスト名やタイトルとともに「mediafire」を入力してグーグル検索すれば音源ファイルが見つかりますよと友人に教えられたのは3年ほど前。いま同じことをしても、ダウンロードへのリンクは見つけづらい状況だろう。それが道理なのかもしれない。しかし、利用するか否かに関わらず、オンライン文化も全盛だというのに息苦しい出来事だなとも感じる。™

 メディアファイアード™ことジョアン・コスタ・ゴンサルヴェス(Joao Costa Goncalves)もポルトガルでそういった違和感をすこしは抱えているに違いない。今作『ザ・パスウェイ・スルー・ワットエヴァー』はあからさまに他者の著作物をカットアップして作られたものだ。素材となった曲を収録順に並べると、クイーンの“イニュエンドウ”/ヴァン・ヘイレンの“キャント・ストップ・ラヴィン・ユー”/インナー・サークルの“スウェット(アララララロン)”/ケイト・ブッシュの“嵐が丘”/バックストリート・ボーイズの“アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ”と、そうそうたる有名どころばかり――MOR(Middle Of the Road)的である。いずれも古い。商業的にも旬を過ぎたものであって、〈メディアファイアー〉にアップされていたとしてもちょっとイケてないではないか。™

 ビートルズやマイケル・ジャクソンをおなじように剽窃したジョン・オズワルドの『プランダーフォニック』との大きな違いとして、今作には過剰にエコーがかけられていることが挙げられる。これは、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパーティンによる『チャック・パーソンズ・エコージャムズVol.1』の、80年代のアダルト・コンテンポラリー(日本でいうAOR)やソウルの一節をループさせエコーの海に浸した手法「エコージャム」であり、「エコージャム」はタグの一種でもある(ちなみに、同アルバムの楽曲にダニエルがレトロな映像をつけたプロジェクト〈Sunsetcorp〉――斜陽企業がヴェイパーウェイヴの起こりだと思われる)。™

 今作でループさせられている一節一節は、ガンガンにエコーをかけられ、まるで巨大な聖殿に響き渡っているかのように祝祭的ですらある。景色はまるで真っ白で、鳩がパタパタと飛び立っていく画が見えるようだ。しかし、そんな演出とは対照的に、チョップとループのタイミングも展開も聴き手に心地よさを与えるものとはけっして言えないほど荒々しい。ピッチは原曲より低くされたりしながらも、スピードは上げられていたりする。祝祭的な響きをもちながらも、ポップソングがゾンビのように知性のないうめきを上げているようでもある。仕事中などにわけもなくなにかの歌の一節が脳内ループしてしまう体験に等しい。非常にストレスフルである。荒々しいが繊細に編集されている。ジェームス・フェラーロはポップ/ロックがリビングでつけっぱなしのMTVから垂れ流され平坦な環境音となり死んでいる様子を捉えたが、今作ではメディアファイアード™によってポップスがゾンビとして目覚め、リスナーに襲いかかってくる。™

 カセットのB面には「shit's cold / roam as you are」というサブタイトルがついているが、「私、キャシーよ!帰ってきたの。とても寒いから、窓から入れてちょうだい」と歌うケイト・ブッシュと、別れた恋人への未練を歌うバックストリート・ボーイズに対してメディアファイアード™が吐き捨てた言葉なのだろう。それらの曲名は“ピクシーズ”なんてバンド名がもろにつけられていたり、ソニックユースの曲名だったり、ニルヴァーナの“イン・ブルーム”の歌詞(“Spring Is Here”“Tender Age”)が引用されていたりする。俗なポップスに対して自分の趣味――すなわち自分にとっての聖(ノイジーなロック)をぶつけていく幼稚で原初的な対抗意識を演出している。™

 『ザ・パスウェイ・スルー・ワットエヴァー™』が『プランダーフォニック』のようなカルト的な支持を得ることはないだろう。なにしろ元ネタが基本的にcheezyでダサい懐メロからだ。しかし、それらはストレスフルな編集がなされているぶん原曲以上に印象的でもある。繰り返すが、編集は凝っている。最後の曲のアウトロでは飛行機が風を切る音が聞こえるが、これは“アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ”のミュージック・ヴィデオのイントロで挿入されている音だ。そう。つまり、そういうことだろう(I want it that way)。™

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