「LV」と一致するもの

第2回目:テイラー・スウィフト考  - ele-king

 彼女はすぐにショウを完売させて、チケットの販売窓口のプラットホームを圧倒する。彼女はファン文化を変えたと高く評価されている。そして、2023年――戦争、経済不安や地政学的不安に見舞われた12カ月間――『タイム』誌は彼女をパーソン・オブ・ザ・イヤーに選出した
 個人的な好みはさておき、私はいまだに混乱している。テイラー・スウィフトの何がそれほど革新的なのか? 誤解はしないでほしいのだが、彼女の人気が唖然とするほどとんでもないことはわかっている。その需要は非常に高く、Erasツアーでのチケット収入は一晩で1300万米ドルを超えたと推定されている。増殖しつつあるテイラー・スウィフトの研究者コホートを含む多くの専門家が、このスターの経済的な威力が彼女の文化遺産を証明するものだと指摘している。「彼女のErasツアーがもたらした経済効果は……前例のないものだ。彼女は文化的アイコンであるだけでなく、グローバル・エコノミー(世界経済)である」と、バージニア工科大学の学生担当副学部長、アリアナ・ワイアットは書いている
 が、しかし私がここで提言したいのは、テイラー・スウィフトの人気は彼女の持ち前のスター性を示しているものではなく、彼女が現代のメディア文化そのものであるのに加え、さらには彼女がメディアと適合してきた結果として人気を得ているのではないかということだ。つまり、ミュージシャンとして、そして現象としてのテイラー・スウィフトは、メディアとしてのポップへの畏敬の念が音楽としてのポップを凌駕していることを示していると。

I そう、私たちはメディアへの関心を、以前の主体への関心に変える必要がある。 これは、メディアが自分たちを旧来の世界の代替物にしてしまっていることへの論理的な答えなのだ!*1

 私たちは大好きなミュージシャンについて語られる無数のインタヴュー、ヴィデオやメッセージの掲示板に、タップするだけでアクセスできる時代(era)に生きている。私たちの誰もがそうであるように、メディアによって飽和状態になったイメージは、音楽ファンにとっては音楽そのものと同程度に(あるいはそれ以上に)重要になっている。そしてスウィフトは、ブロンドの髪で青い目をしたカントリー歌手からポップスに転向して成功した神童が、カニエ・ウェストのようないじめっ子体質の男や裏切り者の元カレのオンパレードに苛まれるという〝アメリカの恋人(American Sweetheart)〟の典型を呼び起こすことでパワフルなイメージを作り上げた。*2  彼女が楽器を演奏し、自分で曲を書く(あるいは共作する)ことも、真新しさという点において長年にわたって彼女の役に立っている。
 〝音楽〟という概念が〝ブランド〟の概念と結びついてしまったことで、ファンの消費パターンはより経済的にホリスティック(全体論的)なものとなった――とくにスウィフティーズにとっては、TSが創り出すすべてに対する彼らの熱狂が実際に〝ミクロ経済学ブーム〟を生み出している。最近の『ニューヨーク・タイムズ』の記事では、タフィー・ブロデッサー・アクナーが、テイラー・スウィフトの悪名高いファン集団の一員であるということには、どのようなことが伴われるのかを明らかにしている。

  最高レベルのスウィフティーであるということは、すべてのエネルギーを費やし、すべてを吸収するエヴイデンスと言う名の帝国へのアクセスが可能になることを意味する。それは、あらゆる質問への答えを持ち、謎が解決し、興奮して賢くなった気分になり、自分自身より大きなものに関わっていることを、スマホから顔を上げることなく感じることが可能になるということだ。

 つまり、基本的にファンであるということは、もはや音楽が好きということだけではない。スウィフティーズにとってそれは崇拝に近い。記事の著者は、彼女のライヴ・パフォーマンスについて下記のように述べている。

  厳粛なムードが漂っていた――スピリチュアル、と言ってもいい。私は夜明けに神殿の丘で祈りを捧げたことがある。聖書の祖先の墓で、震える嘆願者たちの中に立ったことも。身震いするほどの静寂の中、バチカンの奥深くの、さらに先の至聖所まで歩いたこともある。これは、(会場にいた)女の子たちの存在を除けば、まさにそのようなものだった。*3

 だからといってスウィフトの社会的な(かつ文字通りの)資本は、世界的な影響力の証拠なのだろうか。あるいは、過剰なメディアがポップ・スターをあらゆるレベルで崇拝できる神へと変えてしまったのか? おそらく両方の要素が少量ずつ含まれているのだろう。彼女の魅力のひとつは、『タイム』が「パーソン・オブ・ザ・イヤー」特集において「驚異的」とまで評したそのストーリー・テリングの才能にある。私もそれには同意する――そのストーリーが彼女のメディア上のペルソナである限りは。スウィフトが元友人や恋人(ケイティ・ペリー、ジョー・ジョナス、カルヴィン・ハリス、ジョン・メイヤー……)を暴露した音楽カタログの膨大さは有名だ。彼女は恋人に振られた話ばかりを歌っているわけではないが、その他の曲も大部分が自己を反映したもので、とくにメディアからの不当な描写について言及されることが多い。

 “Shake it Off”がすぐに思い浮かぶ。

  私は夜遅くまで出歩いている
  私の脳みそは空っぽ
  みんながそう言うの……
  私がデートばかりしている
  なのに誰とも長くは続かない
  みんながそう言うの……

 そして、“Mean”も。

  あなたは、寝返って
  ものすごい嘘と屈辱的な態度で
  私の欠点をあげつらった
  まるで私が気付いていないみたいに
  あなたをブロックするために下を向いて歩く
  もう二度とあなたを楽しませるつもりはないし
  私はもう一度、大丈夫な自分に戻りたいだけ

 彼女はまず主要なターゲットとなる聴衆を10代の苦悩を歌った曲で引き込んでから、尽きることのない自伝的な、ドラマティックな話題を提供して聴衆を虜にしてきた。そのようにして彼女は負け犬であると同時に女王としての地位を確立した。これは“Anti-Hero”の歌で見事に描写されている。

  私よ、ハーイ! 問題児の私だよ
  お茶の時間にみんなが同意するように
  私は太陽を直視できるのに、鏡を見ることはできない
  いつもアンチ・ヒーローを応援するのは、すごく疲れるだろうね

 説得力のある負け犬の物語でオーディエンスの情(パトス)に訴えかけると、皆が彼女を自分ごととして共感し始める! なんと賢いビジネス戦略なのだろう。これにより、スウィフトは両方のいいとこ取りができるようになった。彼女は〝誤解されている〟ものの、間違いなく今日生きている最大のポップ・スターであり、スタジアムでのショウの合間にフットボール・スターの彼氏のもとへプライベート・ジェット機で飛んでいく普通の女の子(エヴリーガール)だ。*4 ゴシップをめぐってのインタヴューにおける "信頼問題 "を抱えたスター、今回は誰のことを歌っているのかについてのジューシーな手がかりは、彼女のアルバムのために彼女が復活させたとされるヴァイナル上でも購入できる。*5
 いまではクリエイターが自伝からインスピレーションを得るのは普通のことだ(回顧録の筆者として自分も例外ではない)。これは、個人的なことが普遍的であるという逆説的な真実を表している。だが、テイラー・スウィフトの生活の特殊性は、我々庶民には決して親近感が持てるようなものではない。彼女が金持ちの出であることはよく知られており、家族は彼女の思春期に、音楽業界へ入るのに有利になるようナッシュヴィルに移住した。前出の『ニューヨーク・タイムズ』の記事によれば、その頃、彼女の友人たちが彼女抜きでショッピングモールに出かけていたという、〝少し死んでしまった〟出来事をきっかけに、急激に芽生えた彼女のアイデンティティーが結晶化し始めたという。銀のスプーンを持って生まれ、あきらかに有利なスタートを切った20年にもおよぶキャリアにおいて、その事件やいくつかの安っぽい失恋がリヴェンジの材料となっているのだろう。
 はっきり言うが、良い音楽を作るためにトラウマを持つ必要はないし、テイラー・スウィフトが不当な経験をしていないと言うつもりはない。メディアで活躍する女性として、彼女が男性であれば気にもされないようなことをいちいち詮索されてきたのは想像に難くない。*6 とはいえ、たとえばカニエ・ウェストがMTVアワードのスピーチで邪魔をしたとか、スーパーモデルのカーリー・クロスが彼女とはもうBFF(Best Friend Forever =ズッ友)ではいたくないと言ったことなどについて、私は限定的にしか共感できない。そもそもこのような問題を抱えること自体がじつに大きな特権なのだ。そして、私がスウィフトのカタログに欠けていると思うものは、そういうところからきている。つまり、真の才能から生まれたセンスと想像力で技巧を研ぎ澄まし、人生における残酷さで鍛え上げた鋼鉄のように洗練されたサウンドというような唯一無二のものが欠けている。それはルイ・アームストロングの、「私たちが演奏するのは人生そのものだ」という言葉が意味しているものだ。

II 情報過多に直面する私たちには、代替となるパターン認識が存在しない。*7

 さて、そろそろ音楽の話をしよう。正直に告白すると最初にテイラー・スウィフトの音楽を聴いたときの感想は、もしもチャットGPTに「Gapのコマーシャル・ソング用のサウンドトラックを作って」との指示を与えたら、できあがってきそうな曲、というものだった。それ以降、かなり真剣に時間を費やしてリサーチのために彼女のカタログを聴き込んだが、驚くことに、(いや、そうでもないか)私の印象は変わらなかった。
 スウィフトが全曲自作のアルバム(『Speak Now』 のように)をリリースしていることは称賛に値するし、彼女の音楽が〝キャッチー〟であることは認める。だが、メロディがおおむねモノトーン=単調音で(少し複雑な曲では、スリー・ノート)構成され、耳にこびりついて離れなくなり、頭から抜けなくなる(私は「You Need To Calm Down」を一度だけ、半分まで聴いただけで頭から消すことができなくなった)。彼女の曲の多くが瞬時に覚えられるほどシンプルで、いつまでも深く脳裏に焼き付いてしまい、彼女が何十年もの間、音楽を形成していくだろうと評価されるのも不思議ではない。
 だとしても、アルゴリズム的なメロディのセンスというものが音楽家の才能として称賛されるべきものなのだろうか? 真面目な話、私が聴いた限りでは(彼女のカタログの大部分ではあるが、網羅したというほどではない*8 )、ほとんどが1音から3音によるフックから成るものばかりだった。たとえば“Enchanted”では、メジャー・トライアド(長3和音)を上がっていき、コーラスで5度まで上がるだけ。“Cruel Summer”はほとんどがモノトーンで、文字通り1音でできており、コーラスでわずかにメロディックな企みが加えられている。“Welcome to New York”も“Blank Space”、“Maroon”他と同様にほとんどがモノトーンだ。ここには明らかに方程式が存在する。
 もういちど尋ねる。彼女は史上最高のソングライターの一人なのだろうか?  
 もちろん、いくつかの興味深い瞬間が味わえる作品もある。たとえば『Red』 でポップに転向したあとやそれ以前のギター演奏など。『Reputation』 と『Lover』、『Midnights』 といったアルバムにはそれぞれ独特の雰囲気があり、スタジオでの巧なプロデュースにより達成されたムードを醸し出している。ただ、古臭いと言われるかもしれないが、プロダクションの技術と音楽の革新性は別物だと思っている。だがその一方で、ことによったら私が他のポピュラー・ミュージックの達人たちを聴きすぎているだけかもしれない(ジャクソン5、大貫妙子、それから、伝統主義者だと思われるリスクを覚悟の上でいえば、ビートルズなど)。さらに、信頼できる語り手となるために、ここにカントリー・ミュージックのウィリー・ネルソン、ドリー・パートンにマール・ハガードの名も挙げておこう。
 私が言えるのは彼女の歌にはヒプノティックな性質があって、私などは狼狽させられるということだ。彼女の世界にいとも簡単に吸い込まれてしまう。これにはスウィフティーズも同意してくれるだろう。

III どのようなメディアにおいても、感覚を拡張して世界を満たすことによって、その領域に催眠術を施すような条件が作り出される。このことが、そのメディアが全体に及ぼす影響に、いかなる文化が過去を遡ってさえ、気付いていないことを証明している。*9 

 考えてもみてほしい。テイラー・スウィフトが人びとに喜びをもたらすのであれば、それは素晴らしいことだ。しかも、彼女の人気は、他のアーティストから何かを奪い取るものではなく、むしろ、彼女のSpotifyとの闘いは立派なもので、自分の地位を善のために使う完璧なやり方だった。私がここで強調したいのは、クリエイティヴの仕事というのは、本来、サイドビジネスであくせく働くことなく、その仕事を全うできるようになるということ。シングルマザーのもと、バーモント州の崩れ落ちそうな農家で、暖房費も稼げず、凍ったシャンプーを3分間のシャワーで解凍するような環境で育ち、ニューヨークでクリエイティヴなキャリアをスタートさせるのに狂ったように働く身としては、有名であることがいかに難しいかを、億万長者(おそらく)に一本調子のアンセムで愚痴られても、興味が持てないのだ。
 私はさらに、テイラー・スウィフトのブランドがある種の知的なチェックメイト[相手を打つ手がない状況に追い込む]のようになっていることを指摘しておきたい。もしテイラー・スウィフトの音楽を批判しようものなら、彼女自身を攻撃しているように捉えられる。もし、テイラー・スウィフト自身を攻撃するなら、その人はスウィフティーズが容赦なく攻撃するいじめっ子たち(meanies)の一人にされてしまうのだ。*10 どうやら、中立的な批評家になることは許されず、彼女の味方か敵かの、二択しかないようだ。この二分化が世界的なものかどうかはさておき、テイラー・スウィフトのブランドは「我々 対 彼ら」という音楽環境を作りだした。だが、率直に言って、いまの世のなかに必要なのが白か黒かの思考を増やすことだとは思えない。
 それにもっとも重要なのは、私がスウィフティーズではない人たちを認めるためにこれを書いていること。そう(イエス)、彼女のスーパー・スターダムは少なくともメディア漬けの現代を部分的には反映している。いや(ノ−)、しかしあなたがスウィフティーダムから外れたからといって、精神的なエクスタシーを逃しているわけではない。そして、そう(イエス)、――善の神さま、イエス――他の種類の音楽を好きでいることになんの問題はないのだ。挑戦的な音楽、真に革命的な音楽、現状を打破し、人びとを繋ぐことのできるサウンド。いち個人としての自分自身を発見させてくれる音楽——マーシャル・マクルーハン(本記事の、セクションごとの見出しの背景にいるメディア理論家)が命名した「電子情報環境における画一的な集団」の一人でも、 あるいは私なら「スワイフィー(Swifie)」と呼ぶかもしれないものの一員としてでもなく。

◆注

  • 1 マーシャル・マクルーハン :『カウンターブラスト』(ロンドン:Rapp&Whiting, 1969), 133
  • 2 スウィフトの自己プロデュースによるドキュメンタリーのタイトルでさえ、『ミス・アメリカーナ』と命名されている。
  • 3 私はこれには憤りを感じる。
  • 4 スウィフトは、自身が使用しない時は、プライベート・ジェットを頻繁に貸し出しているにも関わらず、データ報告書が歪められていると主張し、効果の怪しげな“カーボン・クレジット”を購入して自身の旅行数を相殺しているが、ここ数年で、もっとも二酸化炭素を排出するセレブだとされている。
  • 5 彼女のインスタグラムのコメントのタイム誌の記事へのリンクより引用。
  • 6 男性ミュージシャンが、露骨な女遊びでとがめられること、もしくは、あからさまには賞賛されないことがどれほどあるだろう?
  • 7 マーシャル・マクルーハン,前掲, 132
  • 8 彼女の多作家ぶりは尊敬する。
  • 9 マクルーハン, 前掲, 23
  • 10 公平を期すために。スウィフトはたまに、スウィフティーたちの悪行を注意する。元カレのジョン・メイヤーを攻撃しないように、などと。
  • 11 マクルーハン, 前掲, 142



Contextualizing Taylor Swift: A Gentle Reminder to Think For Yourself
By Jillian Marshall, PhD

She sells out shows so quickly it overwhelms ticket platforms; she’s credited with changing fan culture. And, in 2023 — twelve months marked by war, economic precarity, and geopolitical unrest — Time magazine named her Person of the Year.

Personal tastes aside, I’m still confused: what’s so revolutionary about Taylor Swift?

Don’t get me wrong— Swift’s popularity is awesome, in the literal, mind-boggling sense of the term. This woman is so in-demand that her estimated ticket revenue on the Eras tour surpassed thirteen million USD in sales per night. And many experts, including a growing cohort of Taylor Swift scholars, point to the star’s economic prowess as proof of her cultural legacy. “The economic impact that her Eras Tour… is unprecedented. She is not only a cultural icon, but also a global economy,” writes Ariana Wyatt, associate Dean of student engagement at
Virginia Tech University.

But I’m here to propose that Taylor Swift’s popularity isn’t indicative of her inherent star power; instead, Taylor Swift may be popular because of contemporary media culture itself, and the way she’s interfaced with it. In other words, Taylor Swift — as a musician and as a phenomenon — demonstrates how reverence for pop as medium has eclipsed pop as music.

I. Yes, we must substitute an interest in the media for the previous interest in subjects. This is the logical answer to the fact that the media have substituted themselves for the older world.1

We live in an era (pun intended) when countless interviews, videos, and message boards discussing the musicians we love are a tap away. Saturated by media as we are, image has become equally (if not more) important to music fans than music itself. And Swift has built a powerful one by invoking an American Sweetheart archetype2: young, blonde-haired and blue-eyed countryturned-pop music wunderkind bullied by meanies like Kanye West and a parade of backstabbing ex-boyfriends. That she played a musical instrument and wrote (or co-wrote) her own songs is also a novelty that’s served her well over the years.

With ideas of “music” now intertwined with the concept of a “brand,” fans’ consumption patterns have become more economically holistic— particularly for Swifties, as their fervor for all things TS actually creates “microeconomic booms.” In a recent piece for the New York Times,
Taffy Brodesser-Akner illuminates what membership in Taylor Swift’s notorious fan collective
entails:

Being a Swiftie at the highest level means access to an all-consuming, all-absorbing empire of evidence, where all the questions have answers, all the mysteries are solved, where you get to feel excited and smart and involved with something bigger than yourself without ever looking up from your phone.

So basically, being a fan isn’t just about liking music anymore; for Swifties, it’s closer to worship.
The author concurs when describing a live performance:

The mood was solemn — spiritual, even. I have prayed at dawn at the Temple Mount. I have stood among quivering supplicants at the graves of biblical forefathers. I have walked in trembling silence as I entered farther and farther into the inner sanctums of the Vatican. This was like that, except for girls.3

But is Swift’s social (and literal) capital evidence of universal appeal, or is it that media overload
has morphed pop stars into gods that we can worship on all levels?

Perhaps it’s a little bit of both. One aspect of her charm is her prodigious story-telling; in
their Person of the Year feature, Time magazine even called her penchant for it “extraordinary.”
I agree— so long as the story we’re talking about is her media persona. Swift’s musical catalog
exposing ex-friends and lovers (Katy Perry, Joe Jonas, Calvin Harris, John Mayor…) is famously
enormous. But while she doesn’t exclusively sing about jilted relationships, the bulk of her other
songs remain self-referential as well, particularly with regard to her unfair media portrayal.
“Shake it Off ” comes to mind:

I stay out too late
Got nothin’ in my brain
That’s what people say…
I go on too many dates
But I can’t make ‘em stay
That’s what people say…

Then there’s “Mean”:

You, with your switching sides
And your wildfire lies and your humiliation
You have pointed out my flaws again
As if I don’t already see them
I walk with my head down, trying to block you out
Cause I’ll never impress you
I just wanna feel OK again

So, after reeling in her target audience with songs about teenage angst, Swift has kept
them hooked with the never-ending drama of her autobiographical hot take. In doing so, she has
managed to establish herself as both an underdog and a queen. This is brilliantly portrayed on
“Anti-Hero,” where she sings:

It’s me, hi, I’m the problem, it’s me
At teatime, everybody agrees
I’ll stare directly at the sun, but never in the mirror
It must be exhausting always rooting for the anti-hero

What a clever business strategy: pull at your audience’s pathos with an underdog narrative so persuading that listeners begin to identify with identifying with you! This has enabled Swift has to enjoy the best of both worlds: she’s “misunderstood,” yet arguably biggest pop star alive today;
an everygirl who jets to her football star boyfriend between stadium shows4; a star with “trust
issues” about interviews who saves the best T — with juicy clues about who’s she singing about this time around — for her albums, which you can purchase on the vinyl she’s credited with reviving.5

Now, it’s normal for creatives to draw from autobiography for inspiration (as a memoirist, I’m no exception); it illustrates the paradoxical truth of the personal being universal. But the particularities of Taylor Swift’s life aren’t exactly relatable to us plebeians. It’s well-known that she comes from money, and that her family uprooted to Nashville during her adolescence to help her break into the music industry. It was around that time when, according to the aforementioned New York Times piece, Swift’s burgeoning identity began to crystallize after an incident when she “died a little”: her friends hung out at a mall without her.

Born with a silver spoon, I suppose that and some crappy breakups would constitute two decades of revenge fodder in a career kicked off with an indisputable head start.
To be clear, a person needn’t be traumatized to produce good music; I also don’t mean to say that Taylor Swift hasn’t experienced injustice. God knows that as a woman in media, she’s been scrutinized for things men get away with without mention.6 But my empathy is limited for, say, Kanye West interrupting an MTV awards speech or supermodel Karlie Kloss not wanting to be BFFs anymore. To have such problems is a mighty privilege indeed. And that’s what I find missing from Swift’s catalog: a sense of imagination, born of true grit, that sharpens craft and cultivates sound — tempered like steel the face of life’s brutality — that’s utterly unique.

What Louis Armstrong meant when he said, “What we play is life.”

II. Faced with information overload, we have no alternative but patternrecognition.7

Now let’s talk music.
I’ll come clean: my initial impression of Taylor Swift’s music was that it sounds like what ChatGPT might spit out if tasked with producing “soundtrack for a Gap commercial.” I have since clocked some serious time listening to her catalog in the spirit of research, but (un)surprisingly, my impression hasn’t changed.

I admire that Swift has released albums written entirely by herself (ala Speak Now), and I’ll acquiesce: her music is “catchy.” But with melodies more or less comprised of monotone (or, on more complex tracks, three-note) earworms, of course they get stuck in your head (I couldn’t turn “You Need To Calm Down” off in my mind after only listening to half the song one time). Many of her songs are so simple that they’re instantly memorizable, and get lodged in your brain so deeply so quickly that it’s no wonder she’s credited with shaping decades of music.

But is algorithmic melodic sensibility what were lauding as musicianship these days?

Seriously: from what I’ve listened to (a substantial portion of her catalog, but by no means exhaustive ), I really did hear mostly one to three note hooks. “ 8 Enchanted,” for example, just steps up a major triad, going up to a fifth for the chorus. “Cruel Summer” is mostly monotone — literally, one note — with some slight melodic intrigue added into the chorus.“Welcome to New York” is also almost entirely monotone, as is “Blank Space,” “Maroon,” and surely others: there’s clearly a formula here.

I ask again: one of the greatest song-writers of all time?

There are some interesting production moments that we can hear, though, particularly after she went pop with Red— and before that, of course, we got to hear her play guitar. The albums Reputation, Lover, and Midnights each have a distinct feel to them: moods achieved by clever production in the studio. Call me old fashioned, though, but production techniques are not the same thing as musical innovation. On the other hand, who knows? Maybe I’ve just listened to too many other masters of popular music (The Jackson 5, Taeko Ohnuki, and, at the risk of sounding like a traditionalist, the Beatles) — and country, for that matter, like Willie Nelson, Dolly Parton, and Merle Haggard — to serve as a reliable narrator here.

What I do know is that there’s a hypnotic quality her songs that I, for one, find unnerving. It’s a little too easy to get to sucked into her universe. Surely Swifties would agree with me there.

III. Any medium, by dilating sense to fill the whole field, creates the necessary conditions of hypnosis in that area. This explains why at no time has any culture bee aware of the effect of its media on its overall association, not even retrospectively.9

Look: if Taylor Swift brings people joy, that’s great. Plus, it’s not like her popularity takes away from other artists; in fact, I think her fight with Spotify was a noble one, and a perfect use of wielding her status for good. But I am here to emphasize that the creative’s work is never the work itself— it’s getting to the point where you’re able to do that work without toiling away at side hustles. So, as someone who grew up thawing frozen shampoo in three-minute showers (lest the well water ran out) because my single mom couldn’t afford to heat our ramshackle Vermont farmhouse — and hustling like a maniac in New York as I get my creative career off the ground — I’m not particularly interested in listening to some (estimated) billionaire complain in monotone anthems about how hard it is to be famous.

I’m also here to point out that Taylor Swift’s brand amounts to a kind of intellectual checkmate: if you criticize her music, then you’re attacking her. And if you’re attacking Taylor Swift, you’re one of those meanies who whom the Swifties will pile on, mercilessly.10 It seems that you can’t be a neutral critic; you’re either for her or against her. Whether this bifurcation was intentional or not is beside the point that Taylor Swift’s brand has created a musical environment of Us versus Them— and, frankly, the last thing our world needs right now is more black and white thinking.

Most importantly, I’m here to validate people who aren’t Swifties. Yes, her superstardom is at least partially reflective of our media-soaked times; no, you’re not missing out on spiritual ecstasy by opting out of Swiftiedom; and yes— good God, YES — it’s OK to like other kinds of music. Music that’s challenging, that’s truly revolutionary: sounds that challenge the status quo and brings people together. Music that makes you discover who you are as an individual— not as a member of what Marshall McLuhan (the media theorist behind these cool section headers) called “the uniform sphere of the electronic information environment” 11… or what I might call a “Swifie.”

1 McLuhan, 133.

2 Her self-produced documentary is even called Miss Americana.

3 I resent this.

4 Despite claiming that she frequently loans out her private jet, thereby skewing data reports, and offsets her own trips by buying dubiously effective “carbon credits,” Swift is thought to be the most carbon-polluting celebrity for years.

5 As quoted from her Instagram comment linking to the Time article.

6 How often are male musicians called out — or not overtly celebrated, for that matter — for blatant womanizing?

7 Marshall McLuhan, Counterblast (London: Rapp & Whiting, 1969), 132.

8 I admire her prolificness.

9 McLuhan, 23

10 To be fair, Swift will occasionally call out bad Swiftie behavior, like asking them to stop harassing her ex, John Mayor.

sugar plant - ele-king

 もともとはヨ・ラ・テンゴやギャラクシー500に影響を受けてスタートした日本のバンド、シュガー・プラント。90~00年代をとおしアメリカでも根強い人気をもち、その影響か、今日でもストリーミングでよく再生されているという。そんな彼らの98年作『happy』と00年作『dryfruit』がカセットでリイシューされる。前者は発売以来初のリマスタリング。発売は2月28日だが、レーベルのBandcampページでは『happy』のほうの先行配信がはじまっている(https://kilikilivilla.bandcamp.com/)。後者は18年のリマスター音源を使用し、内田直之によるダブ・ミックス2曲も収録。シューゲイズもポスト・ロックも横断するそのサウンドにいまあらためて注目したい。

[2月28日追記]
 続報です。なんと、sugar plantの6年ぶりの新曲が7インチでリリースされることになりました。「日本発オルタナティブ・メロウ・グルーヴ」との触れこみで、こちらも要チェックです。Bandcampページで試聴できます。予約はこちらから。

日本発オルタナティブ・メロウ・グルーヴ
sugar plantの6年ぶりの新曲が7インチでリリース!

sugar plant / blue submarine
5月16日発売
KKV-171VL
7インチ+DLコード
1,980円税込(1,800円税抜)
収録曲
Side A : blue submarine
Side B : flow

Bandcamp
https://kilikilivilla.bandcamp.com/album/blue-submarine
レーベル予約
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-171V

日本が誇るシューゲーザー、ドリーム・ポップのオリジネイター、sugar plantの1998年の名作『happy』が初のリマスターでカセット発売決定!

sugar plant / happy (2024 Remaster)
2月28日発売
KKV-169CA
カセット+DLコード
JANコード:4580015781454
2,200円税込
収録曲
Side A
1.happy
2.rise
3.butterfly
Side B
1.rainy day
2.stone
3.rise (A Reminiscent Drive Remix)

インディー、音響、ポスト・ロック、アンビエント、ディープ・ハウス、90年代からジャンルを超えたサウンドを紡いできたシュガー・プラント。現在Spotifyでの月間リスナーは常に30,000人を超え、アメリカを中心に海外での評価がまた高まっている。ここ数年のSlowdive、Mazzy Starの復活などシューゲーズ・サウンドの再評価とKhruangbinやBonobo、Cigarettes After Sexなどのメロー・グルーヴへの日本からの返答として静かに注目されている。
今回のカセット・リイシューは最高傑作と名高い1998年リリースの『happy』をリマスター、音の解像度が上がりさらに奥行きを増したサウンドとなっている。ボーナス・トラックとしてフランスのアンビエント・アーティストによる「rise」のリミックスを収録。

sugar plant / dryfruit (2018 Remaster)
2月28日発売
KKV-170CA
カセット+DLコード
JANコード:4580015781461
2,200円税込
収録曲
Side A
1.a rain desecration
2.simple
3.behaind the ear
4.thunder
5.dryfruit
6.a furrow
Side B
1.ten years
2.august
3.13
4.indigo
5.simple (dub)
6.a furrow (dub)

『dryfruit』はエンジニアに内田直之を迎え、削ぎ落とした演奏とシンプルなアレンジが独特の響きを持ち、より深い空間を感じさせる。リリース当時はサイケデリックなシャーデーと評され、ドイツのレーベルからヨーロッパ盤がリリースされた。オリジナルの発売時に限定で付けられた内田直之による2曲のダブ・ミックスも収録。

sugar plant
1993年に結成、インディー・バンドとして活動を開始。95年に1stアルバム『hiding place』を日米同時リリースし、以後すべての音源は海外でもリリースされている。同年には初のアメリカ・ツアーを行い、翌1996年にはアメリカでレコーディングした曲を含むミニ・アルバム『cage of the sun』をリリースし、同年アメリカでレコーディングと二度目のツアーを行う。そこでレコーディングされた『After After Hours』ではクラブ・カルチャーからの影響を反映した斬新なサウンドでインディー・ファンだけでなくポスト・ロックや音響派など幅広いシーンから支持され、アメリカのカレッジ・チャートで大きな評判となる。次作『trance mellow』ではよりディープなスタイルを追求しクラブ・シーンでも評判となり、この頃から野外レイヴやクラブ・イベントでのライブが増える。
1998年リリースの『happy』は前作の『trance mellow』との2枚組でアメリカ発売となり、3度目のUSツアーを行う。
2000年エンジニアにDry & Heavy、Little Tempoの内田直之をむかえたアルバム『dryfruit』をリリース、2002年にはドイツ盤も発売された。
2002年には松本大洋原作の映画『ピンポン』のクライマックス・シーンに「rise」がフルコーラスで使用され話題となる。
以後、マイペースにライブ活動を継続し2018年ついに18年ぶりのアルバム『headlights』をリリース。
Galaxie500やYo La TengoなどのUSインディーに大きな影響受けたロック・バンドとして活動を開始、当初からはっきりと海外志向があり実際すべての音源が海外リリースとなっている。3度にわたるアメリカ・ツアーではSilver ApplesやLow、Yo La Tengoなどとの共演も経験し当時まだ人気のあったカレッジ・チャートでは大きな評判となった。90年代中旬、日本のクラブ・シーンの黎明期をメンバーがその中心で体験したことによりバンドのサウンドもより広がりを見せ、ポスト・ロックや音響派の先駆けとしても評価は高い。

CALVIN B. RHONE - ele-king

□Peace Is Not The Word To Play

山崎:前回の続きになりますが、まずB面の1曲目から。

水谷:このネタはMFSBの「T.L.C. (Tender Lovin' Care)」ですね。

山崎:これもカッコいい使い方をしていますね。イントロの部分を分割してる感じはすごいですね。

水谷:ゆったりした部分を使っているのにこんな疾走感のある曲に仕上げている。

山崎:イントロのビートはMilly & Sillyの「Getting Down For Xmas」を使ってます。
原曲もめっちゃカッコいいクリスマス・ソングですね。

水谷:この鈴の入ったビートの感じはラージ・プロフェッサーはよく使います。

山崎:この鈴が入ると疾走感が倍増するというか、勢いが出ますね。

水谷:話が『Breaking Atoms』から脱線しますが、彼の手掛けたNASの「Halftime」でもこの感じを出してますね。そっちはAverage White Bandの「School Boy Crush」のビートですが。

山崎:De La Soulは「D.A.I.S.Y. Age」で同じ曲のギターのフレーズ入りを使ってますが、ラージ・プロフェッサーはよりネタ一発にならないような部分を使用し、そこに『Hair - The Original Japanese Cast Recording』の「Dead End」にフィルターをかけて重ねている。ここではベースラインを使用してますが、当時のサンプラーでできることを120%駆使してまとめる技がすごいですね。一つのトラックとして調和が取れています。

 

水谷:これはNASのデビュー・アルバム『Illmatic』リリース前の曲ですね。『Illmatic』にも入っていますが、『ゼブラヘッド』という映画のサントラに収録されている曲です。『Illmatic』についての解析もまたどこかでしましょう。

□Vamos A Rapiar

山崎:曲名はスペイン語ですね。意味は「ラップをしよう」です。

水谷:これはピート・ロックとの共作なんですよ。ピート・ロック主導のせいなのか、ネタをあまり重ねていないですが、ピート・ロックが活動を始めた初期の仕事です。

山崎:これはThe Three Sounds一発ですね。一番単純なサンプリング方法を使用した曲かもしれません。

水谷:ラージ・プロフェッサーは有名なネタであればあるほど原曲の形跡を残さないのですが、“分かりやすい”ネタをそのまま使っているのはこのピート・ロックとの共作だけ。でもピート・ロックもここでラージ・プロフェッサーから学びを得て、その後SP-1200(初期サンプラーの名機)の操作技術が向上するんですよ。

□He Got So Much Soul (He Don't Need No Music)

水谷:これはラージ・プロフェッサーにしては珍しい、ネタ一発な使い方の曲ですが、Lou Courtneyの「Hey Joyce」、1967年に7インチでリリースされた作品です。同時代ではこのネタを他に使っている人はいませんし、チョイスはずば抜けていますね。ここでも60年代ソウルをサンプリングしています。Main Sourceの特徴的な部分です。

山崎:確かに前述の「Vamos A Rapiar」と違って切り取り方にセンスを感じます。

□Live At The Barbeque

水谷:Melvin Van Peeblesの『Sweet Sweetbacks』のスキットのイントロからVicki Andersonの「In the Land of Milk and Honey」で始まる。

 

山崎:この始まり方も違和感がなく、スムースに切り替わる感じが印象的ですね。

水谷:この曲はもちろんこのイントロの使い方も凄いのですが、もっと衝撃的だったのはビートが実はBob Jamesの「Nautilus」だったって事なんです。

山崎:サンプリング・ネタとしては古くから有名な曲ですよね。

水谷:そうなんですが、普通はあの有名なイントロを使いますが途中のブレイクを使用しています。ここでも他の人のやっていることとは違う事をあえてやっている感じがある。ラージ・プロフェッサーのプライドが垣間見えます。

山崎:これは全然Bob Jamesってわからないですね。けど確かにこのブレイクはかっこいい。そこに目をつけるのはさすがです。

□Watch Roger Do His Thing

山崎:この曲はベースとオルガンは演奏していますね。ドラムはFunkadelicの有名なネタ曲、「You'll Like It Too」です。

水谷:このベースを弾いているアントンていう人がキーマンでして、本名、Anton Pukshanskyって言うんですけど、白人のロック系のエンジニアでレコーディング・スタジオの人だと思うんですけど、HIP HOP系では馴染みの深い人ですね。

山崎:確かにレコーディングのクレジットにも入っています。

水谷:この曲はアルバムリリースの前にシングルで出ているんですよ。その前に「Think」と「Atom」という曲のカップリング・シングルが89年にリリースされていて、これはわりとランダムラップに近いサウンドなのですが『Breaking Atoms』には収録されていません。で、90年にでたこの曲が2ndシングル(B面は「Large Professor」)で、これらは全てActual Recordsからリリースされています。このレーベルは Sir ScratchとK-Cutのお母さんが経営しているレーベルです。Main Sourceの活動はこのお母さんがかなり主導権を握っていたようで、息子でないLarge Professorはその部分で揉めたことが原因で脱退したようですが。

 

山崎:駆け足でBreaking Atomsの収録曲のサンプリングを解析しましたが、総じて言えるのは仕事が細かいってところですね。

水谷:ラージ・プロフェッサーはチョップ・サンプリングの先駆けかもしれません。チョップで有名なDJプレミアは、誰もラージ・プロフェッサーから影響を受けたって言っていないですが、時代を遡ると、この刻んだ感じはラージ・プロフェッサーが最初だと思います。そして重ねる技術や展開も上品で、音楽的です。

□Fakin' The Funk

水谷:それとラージ・プロフェッサー脱退前の超重要曲は「Fakin' The Funk」です。

山崎:映画『White Men Can't Jump』のために作られた曲ですね。レコードはそのラップだけを集めた『White Men Can't Rap』に収録されています。

 

水谷:『Breaking Atoms』のリリース後に(シングルも)出たのですが、メイン・ソースの到達点は前述のNASの「Halftime」とこの曲かもしれません。

山崎:メイン・ソース・ファンにも人気の曲ですね。

水谷:そうですね。この曲、Kool & the Gangの「N.T.」のサンプリングから始まりますが、「N.T.」の原曲を聴くとすごいところから取っているのがわかります。

山崎:普通に「N.T.」を聴いていてもそのまま流してしまいそうな部分ですが、ここをサンプリングしてループするとこんなにかっこいい。しかも一瞬使ってすぐに次のサンプル、The Main Ingredientの「Magic Shoes」に展開している。サンプリングって言わば既存曲のコラージュだと思うんですが、ひとつの曲として完成している。

水谷:常人ではできない組み合わせですよ。デタラメに組み合わせてもこんな曲は生まれない。この2つの組み合わせは簡単なようで、とてもハイレベルだと思います。もはや魔法です。

山崎:そして「Looking At The Front Door」でも触れましたが、やはりコーラスの使い方がうまい。

水谷:ラージ・プロフェッサーはこの後、メイン・ソースを脱退してしまうのですが、その直前に手掛けたのが『The Sceince』です。1992年の『The Source』に2ndアルバムのリリースについての記事が出たんですね。それを当時見て、気持ちが昂ったことを覚えています。でもお蔵入りになってしまった。

山崎:2023年のヒップホップ50周年に『The Sceince』がようやくリリースされた事は大きな話題になりました。そしてここでは「Fakin' The Funk」の別テイクが収録されていますが、ここではESGの「UFO」のイントロを使っています。この曲、ヒップホップのブレイクの定番曲で、回転数を45RPMから33 1/3RPMに下げて使用するのが、ヒップホップのセオリーですがその通りに使用しているのも良いですね(Ultimate Breaks & Beatsにもその回転数で収録されていることは有名)。

水谷:これを最初に聴いたときはテンションが上がりましたね。

山崎:シンプルな使い方ですが、その分ラップが前に出て、彼らはラップも素晴らしいことがよくわかります。

水谷:やはり全方位でレベルが高いんですよ、この頃のメイン・ソースは。もう後にも先にもこんなグループは出てこないかもしれません。

山崎:VGAでは『The Sceince』のテスト・プレスもごく少量ですが販売中です。このアルバムのサンプリング・ネタの解析も、いつかこのコーナーでしたいと思います。お楽しみに。


Main Source / Breaking Atoms
https://anywherestore.p-vine.jp/en/search?q=main+source


MAIN SOURCE / THE SCIENCE Limited Test Pressing
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5012/

Squid - ele-king

 ロックの死については、勝利のときも、嘆きのときも、度々宣言がなされてきたが、それはまだ死んではいない。何が起こったかといえば、ロックは、ポピュラー・カルチャーの中心としての立ち位置を失い、ジャズやカントリーのように、音楽の多数のニッチのひとつに落ち着きはじめ、ブランド志向のポップ・スターが利用する一連の記号や象徴となってはいるが、もはやスターたちが煌めく星座の中心に位置するものではなくなったのだ。

 これには多くの含みがあり、そのひとつが、威張って闊歩するようなロック・スターの伝統的な感覚は、ますます不条理に見えはじめていることだ。死んだ時代の寂しい遺物は、手に入れたパワーとシンボリズムにしがみつくが、それらが自らの指の間からこぼれ落ちるのを目にしながら、過去へと遠ざかっていく。

 スクイッドは、この立派で新しい世界には理想的なバンドなのかもしれない。ステージ上では5人がフラットな形で一列に並び、フロントマンにもっとも近いのは、歌うドラマーのオリー・ジャッジだが、その玉座は他のバンド・メンバーと同じ高さにあってそれ以上には上昇せず、どのメンバーも真の中心的な存在であることを示そうとはしない。ジャッジはロック・スターとしての存在感を、フリックするような軽いたたきや、華麗な身ぶりで表現するが、それも音楽の絶え間なく変化するダイナミクスに気を引かれて観客の意識がステージ上を行ったり来たりする瞬間に、通り過ぎてしまう。

 たまに音楽家が口にする、「音楽だけがすべてだ」という、用心深さからくる、回りくどい主張がある。それは決して真実ではないし、達成するのが不可能で矛盾した純粋さであるかもしれないが、おそらくスクイッドは、誰よりもこの主張が似合うバンドではないだろうか。彼らのライヴ・セットは、5人のメンバー全員がリズムを奏でることからはじまり、ベース、ドラムスとパーカッションに何層にも重なる強烈な焦点が当てられることで、観客の注意を、彼らが音響的にどのようなことをしていて、次の70分ほどをどう設定するかの役割を担っていることに向けさせる。徐々に役割分担が変わっていき、ひとつのセットでひとつの楽器に留まる者はおらず、ときには1曲中に2回、3回と楽器を持ち替えることもある。彼らは皆、自らをマシンの交換可能な部品として、ステージ上でのエゴよりも音楽に奉仕するのだ。

 絶えず繰り返される役割分担の変化による副次的な影響として、バンドにはもったいぶったロック・スターのフロントマンや、名人芸を披露するギター・ヒーローも存在しない。それは決して、このバンドが緊密なプレイをし、必要なときには爆発的な力を発揮することができないというわけではない。彼らは、その音楽性を売りにしているわけではなく、その激しさと、完全無欠に訓練された編成による、絶妙なバランスを売りにしているのだ。

 このことが、スクイッドを冷血なマス・ロックの音楽エンジンのように見せているとしても、UKで過剰なほどの宣伝がなされ、〈Warp〉のようなレーベルがバックにいるバンドにしては、限りなくクラブに近い体験ができるほど小さな会場に詰め込まれた観客からは、そのような反応は感じられない。オープニングでの強烈なリズムで観客を魅了したバンドは、一度も彼らに直接呼びかけることなく、ほぼセットを通して、彼らを乗せていく。かわりに、ダイナミックな変化とギア・チェンジを頼りに、錯乱したカーディアックスのヒステリックなプログ・パンクから、恍惚としたアンビエント・ウェーヴまでの広い範囲の先端に触れていく。スクイッドに、いわゆるロック・ヒーローのような役回りの者がいないことが、複雑で絶え間なく変化する音の波の中で、私たち全員を彼らとともに音楽に乗せていくのに役立つのかもしれない。ステージ上での集団的なダイナミズムは、私たちをロック・スターのキリストのような人物の受け身なフォロワーへと導くのではなく、ギャングとしてプレイしているゲームの中へと誘い込むのだ。

 もちろん、彼らのバンドとしての成功もその助けになっている。デビュー・アルバム『Bright Green Field』が、爆発するようなアイディアと音楽的な野心との間の、鋭さと厳しいコントラストの中で、自分たちのコントロールが効かないことを楽しむ若いバンドのサウンドだったのに対し、ニュー・アルバム『O Monolith』は、自分たちのツールをよりよく使いこなす(楽器とソング・ライティングの両方で)アーティスト集団であることをさらけ出している。ステージ上では、それが音楽の両極間で、そのつなぎの部分をほぼ感じさせずに観客を翻弄するというパワフルな才能へと転化される。曲たちは融合し、キャッチーなヴォーカルのリフレインは、実験的なシークエンスから飛び出し、インダストリアルな激しい鼓動の中からフックが立ち現れて、馴染み深い曲の到来を告げる。

 とはいえ、スクイッドは、いまでも全く “音楽だけがすべて” というわけでない。重要なのは、音楽が何をするかであり、彼らの場合は、衝撃的で、眩暈を起こすほどの強烈な、フィジカル(身体的)な体験を生み出すことなのだ。そして、スクイッドのメンバーが、派手なプレイをするのを控えたとしても、彼らは舞台裏に隠れて見えないような操り人形的なグループからはほど遠い。むしろ、彼らのパフォーマンスの多面的な相互作用は、マシンをより人間的で、歓迎され、より楽しく、孤独ではないものにしていく。それは、現代のロック・スターをも嫉妬させてしまうかもしれない。

Squid at Shibuya WWWX
on 27th November 2023

written by Ian F. Martin

The death of rock music has been proclaimed many times, either in triumph or lament, and it’s not happened yet. What has happened is that rock has lost its position at the heart of popular culture and started to settle into position as one of music’s many niches, like jazz or country — a set of codes and symbols for the brand-driven pop stars to draw from, but no longer a core part of that constellation of stars.

This has many implications, but one of them is that the idea of the rock star in the swaggering, traditional sense begins to look more and more absurd — a lonely relic from a dead age, grasping for a power and symbolism that is visibly slipping between his fingers, away into the past.

Squid might be a band ideally suited to this brave new world. Lined up onstage in a flat row of five, the closest thing they have to a frontman is singing drummer Ollie Judge, raised up on his throne only to the same elevation as his bandmates and no higher, and no individual member presents as a true focal point. Judge communicates his rock star presence, such as it is, in flicks and flourishes that blink past in a vanished moment as your attention flickers back and forth across the stage, tugged this way and that by the music’s constantly shifting dynamics.

There’s a cagey and circular claim that musicians sometimes make, that “it’s only about the music”. It’s never true, and might be an impossible and contradictory sort of purity to achieve, but Squid could perhaps make as good a claim as anyone. Their set opens with each of the band’s five members on rhythm, the intense and layered focus on bass, drums and percussion forcing the crowd’s attention onto the what they’re doing sonically and the role it plays setting up the next seventy minutes or so. Gradually, they begin to shift roles, no one sticking to a single instrument for the whole set, sometimes changing two or three times within a single song. They make themselves interchangeable parts of the machine, serving the music ahead of any onstage ego.

One side-effect of this constant shifting of roles is that, just as there’s no strutting rock star frontman, there’s no virtuoso guitar hero either. That’s not to say that the band aren’t tight, and explosive when needs arise, but it means that they don’t sell themselves particularly on their musicianship but rather on this fine balance of intensity and immaculately drilled organisation.

If this makes Squid seem like a cold-blooded math-rock musical engine, it doesn’t feel like that from the crowd, packed into a venue small enough to provide something as close to a club experience as you can get — at least for a band with such UK hype and a label like Warp behind them. Having hooked the audience in those opening, intensely rhythmical moments, the band carry them along for nearly the whole set without once stopping to address the crowd directly. Instead they rely on the dynamic changes and gear shifts, ranging from hysterical prog-punk that touches the deranged peaks of the Cardiacs to blissed-out ambient waves. Squid’s lack of anyone in any of the obvious rock hero roles might even be what helps them bring us all along with them through such complex and constantly-changing sonic tides, the collective onstage dynamic inviting us into a game they’re playing as a gang rather than leading us as passive followers of some rock star Christ figure.

Their own growth as a band surely helps too, though. Where debut album “Bright Green Field” was the sound of a young band delighting in the edges and harsh contrasts between their exploding ideas and musical ambitions, luxuriating in their own lack of control, new album “O Monolith” reveals a group of artists with greater command of their tools (both in instruments and songwriting). Onstage, that translates into a powerful ability to tease the audience between the music’s extremes while barely seeing the join. Songs merge together, catchy vocal refrains bounce off experimental sequences, and hooks emerge out of throbbing, industrial pulses to announce the arrival of familiar songs.

That said, Squid are still far more than “just about the music” because what matters is what the music does — in this case create an electrifying, dizzying and intensely physical experience. And while Squid’s members might shy away from showboating, they’re far from a group of puppeteers, invisible behind the scenes. Rather the multifaceted interplay of their performance makes the machine more human, more welcoming, more fun, and less lonely. A modern day rock star might even be jealous.

Xexa - ele-king

 ファッション・デザインのイヴァン・フンガ・ガルシアやヴィジュアル・デザインのアナ・カルヴァーリョと組んで “gnration” などの音楽を担当してきたゼクサに〈Principe〉がアンビエント・アルバムをオファー。ロック・ダウン中に制作されたミックス・テープ『Calendário Sonoro(サウンド・カレンダー)』やロンドンのギルドホール音楽演劇学校で学んでいた時期に作曲された “Clarinet Mood” など9曲が(英語でいうと)『シルヴァー・ヴァイブレーション』と題されたデビュー・アルバムにまとめられた。リスボンで育ったゼクサは〈Principe〉の存在は知っていたけれど、それほど詳しく知っていたわけでなく、レーベルの規模や影響力を契約してからじょじょに理解していったという。ポルトガルのカルチャー・サイト「A CABINE」でダニエル・デュケの質問に答えて彼女は「最初は信じられなかった。私は人に助けてもらったことがなく、なんでも自分でやりたいと思っていたけれど、仲間というものがいることを知った」というようなことを話している

 〈Principe〉がアンビエント・アルバムをリリースするというのは確かに目先が変わる。『Vibrações De Prata』を評して「〈Principe〉が投げたカーヴ」という表現も目には止まった。レーベル的にはブリープ・テクノからスタートした〈Warp〉が〈Artificial Intelligence〉を打ち出した時期に等しいのかなとも思う。ナイアガラのようにミュジーク・コンクレートやアンビエントに隣接した作品を出していたプロデューサーも〈Principe〉には在籍しているので驚くような飛躍ではないし、ゼクサ自身がアフロフューチャリズムを標榜しているので(「私にとってアフロフューチャリズムとは新しいアフリカまたはディアスポラの物語を創造することで構成されている」)、アンゴラ起源のクゥドロを世界に広めたレーベルとしては、とくに姿勢を変えたとも思えない。むしろ〈Principe〉がこの春にリリースしたDJダニフォックス『ANSIEDADE』や、アルゼンチンのサンタ・フエゴ『Umacaribe Hi-Res』など、クゥドロやクンビアがこのところ悲しい響きを過剰に運んでくるようになったことと考え合わせると、アフリカや南米のリズムに漠然と陽気な感性を求めるのも無意識にポスト・コロニアリズムを発動しているようなもので、ゼクサのような方向性を模索する方が合理的なのかもしれない。先のインタビューで「荒廃する世界で自分の音楽はどんな位置を占めているか」と訊かれ、「傲慢に聞こえるかもしれないけれど、私の音楽が慰めになることを願っています」と彼女は答える。「増大する社会的疎外と同調性という疫病を打破する手助けをしたい」と。

  “Libelula” は2台のシンセサイザーでトンボの羽の振動音を再現したもの。これにパーカッションを足すなどした “Nha Dêdê” や打楽器の比重を増した “Fragmented Breath” 。 “Assim” はエコーとリバーヴを多用し、同じ声のサンプリングに異なるエフェクトをかけて何度も繰り返し、 “Silver” でも声の加工がメイン。どれもぼんやりとしたイメージをドライに響かせるという共通項を持ち、そのような処理の仕方はやはりイーノを思わせる。様々なアフリカ音楽をコラージュした “Sisters Dancing” から “Prendes Nh'alma” は一転して子守唄のようなヴォーカル・ドローン。この曲は短くてすぐに終わっちゃうのが残念。 “SectionAudio” は坂本龍一みたいな破調のピアノに優雅なストリングス。ベルグハインやいろんなフェスでライヴ演奏もやるらしく、しかし、全体にクラブ・カルチャーの雰囲気はあまり感じない。アナログ盤のBサイド全体を占める “Clarinet Mood” は自分では吹けないというクラリネットの音を素材に不条理とファニーがせめぎ合うアブストラクな展開。これがなかなかに聞き応えがある。

 音楽理論を学んでも、それを自分のなかで発展させ、最終的にその外に出なければ学問は無価値だと彼女はいう。音楽学校で学んだ通りのことをやる気は一切ないとも。先のインタヴューを読んでいると新しいことをやることにかなりな執着があり、途中からはまるでジェフ・ミルズのインタヴューを読んでいるようだった。ゼクサが生まれたのはアフリカ大陸からは少し離れたサントメ・プリンシペ民主共和国という島で、15世紀にポルトガル人が上陸した時は無人島だったらしい(後に奴隷貿易の中継基地となり、1975年に黒人国家として独立。民主化したのは90年代)。この島の伝統が彼女の音楽にも強く影響しているらしい(具体的にはよくわからない)。でも、どちらかというと、彼女が18歳まで住んでいたリスボンで学んでいたという宝石や金細工という繊細な手作業が「催眠的」と評される彼女の独特な音づくりに多大な影響を与えているのではないだろうか(……しかし、年末はやたらと人に会うので、家に帰って聴くアンビエントが静かで本当にいいな~)。

CALVIN KEYS - ele-king

CALVIN KEYS - ele-king

Sylver Lee Cole - ele-king

L’Rain - ele-king

 ブルックリン育ちのミュージシャン兼キュレーターのロレインことタジャ・チークは、3作のアルバムを通じて、彼女が「approaching songness(歌らしさへの接近)」と呼ぶ領域間で稼働してきた。その音楽は、記憶と連想のパリンプセスト[昔が偲ばれる重ね書きされた羊皮紙の写本]で、人生のさまざまな局面で作曲された歌詞とメロディーの断片が、胸を打つものから滑稽なものまで、幅広いフィールド・レコーディングと交互に織り込まれている。それはつねに変化し、さまざまな角度からその姿を現す。ニュー・アルバム『I Killed Your Dog』の “Our Funeral” の冒頭の数行で、チークはオートチューンで声を歪ませて屈折させ、息継ぎの度に変容させていく。焦らそうとしているわけではなく、一節の中に複数のヴァージョンの彼女自身を投影させるスペースを作り出そうとしているのだ。高い評価を得た2021年のアルバム『Fatigue』のオープニング・トラックは、「変わるために、あなたは何をした?」との問いかけではじまっている。ロレインは確かな進化を遂げながら、その一方でチークは、これまでの作品において、一貫性のある声を保っているのだ。ループするギター、狂った拍子記号、糖蜜のようににじみ出る、心を乱すようなドラムスなど、2017年の自身の名を冠したデビュー盤でみられた音響的な特徴は、『I Killed Your Dog』でも健在だ。同時にロレインは、これまでよりも人とのコラボレーションを前面に打ち出している。今回は、彼女とキャリアの初期から組んできたプロデューサーのアンドリュー・ラピンと、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チャポトー=カッツの両者が、彼女自身と共にプロデューサーとしてクレジットされているのだ。チークが過去の形式を打ち破ることを示すもっとも明白なシグナルは、気味が悪くて注意を引く今作のアルバム・タイトルに表れている。『I Killed Your Dog』の発売が発表された際のピッチフォークのインタヴューでは、これは彼女の「基本的にビッチな」アルバムであり、リスナーの期待を裏切り、意図的に不意打ちを食らわせるものだと語っている。また他のインタヴューでは、最近、厳しい真実を仕舞っておくための器としてユーモアを利用するピエロに嵌っていることに言及している。これは、感傷的なギターとピッチを変えたヴォーカルによる “I Hate My Best Friends(私は自分の親友たちが大嫌い)” という1分の長さの曲にも表れている。(念のため、実際には彼女は犬好きである。)
 メディアは、ロレインの音楽がいかにカテゴライズされにくいかということを頻繁に取り上げている。だが、チークが黒人女性であり、予期せぬ場で存在感を発揮していることから、これがどの程度当たっているのかはわからない。その点では、彼女には他のジャンル・フルイド(流動性の高い)なスローソン・マローン1(『Fatigue』にも貢献した)、イヴ・トゥモア、ガイカやディーン・ブラントなどの黒人アーティストたちとの共通点がある。「You didn’t think this would come out of me(私からこれが出てくるとは思わなかったでしょ)」と、彼女は “5to 8 Hours a Day (WWwaG)” で、パンダ・ベアを思わせるような、幾重にも重ねられたハーモニーで歌っている(「この歌詞の一行は間違いなく、業界へ向けた直接的な声明だ」と彼女はClash Musicでのインタヴューで認めている)。
 『I Hate Your Dog』 では、チークがこれまででもっともあからさまにロックに影響された音楽がフィーチャーされているが、彼女のこのジャンルとの関係性は複雑なものだ。最初に聴いたときに、私がテーム・インパラを思い浮かべた “Pet Rock” について、アルバムのプレス・リリースにはこう書かれている──2000年代初期のザ・ストロークスのサウンドと、若い頃のロレインが聴いたことのなかったLCDサウンドシステム──これには、一本とられた。
 彼女の初期のアルバムと同じくシーケンス(反復進行)は完璧で、各トラックを個別に聴くことで、その技巧を堪能することができる。これは、トラックリストに散りばめられたスキットやミニチュアに顕著で、アルバムのシームレスな流れに押し流されてしまいがちだ。33秒間という長さの “Monsoon of Regret” は、微かな焦らしが入ったような、混沌とした曲であり、“Sometimes” は、アラン・ローマックスがミシシッピ州立刑務所にループ・ペダルをこっそり忍び込ませたかのような曲だ。
 “Knead Be” がアルバム『Fatigue』の言葉のないヴォーカルとローファイなキーボードによる1分間のインタールードで、ヴィンテージなボーズ・オブ・カナダのようにワープし、不規則に揺れる “Need Be” をベースにしている曲だと気付くには、注意深く聴き込む必要がある。この曲でチークは、そのトラックに沈んでいたメロディーの一節を、小さい頃の自分に、物事がうまくいくことを悟らせる肯定的な賛歌へと拡大した。ただ、その言葉(「小さなタジャ、前に進め。あなたは大丈夫だから」)はミックスの奥深くに潜んでいるため、歌詞カードを見ないと、何と歌っているのか判別するのが難しい。
 初期の “Blame Me” のような曲では、チークはひとつのフレーズのまわりを、まるでメロディーの断片が頭の中に引っかかってリピートされているかのようにグルグルと旋回する。『I Killed Your Dog』では、何度かデイヴィッド・ボウイの “Be My Wife” のようなやり方で、一度歌詞を最後まで通したかと思うと、またそれを繰り返して歌う。あらためて聴き返すと、彼女が足を骨折した後に書いたバラード調の “Clumsy(ぎこちない・不器用)” ほどではないが、歌詞は、その歌詞に出てくる問いかけ自体に回答しているかのように聴こえる。“Clumsy” では曲の最後に、冒頭で投げかけた問いへと戻る。「想像もつかないような形で裏切られたとき、(自分が足をついている)地面をどのように信頼しろというの?」
 彼女はまだ、答を探り続けているのかもしれない。
 終曲の “New Years’ UnResolution” は、チークがアルバムを「アンチ・ブレークアップ(別れに反対する)」レコードと表現したことを端的に表している。この曲でも、歌詞がループとなって繰り返されるが、今回はその繰り返しの中で、歌詞が大きく変えられているのだ。彼女はその言葉には、別れた直後と、かなりたってから、後知恵を働かせて書いたものがあると説明している。バレアリックなDJセットで、宇多田ヒカルの “Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-” と並べても違和感のない、ダブ風のキラキラと揺れる光のようなグルーヴに乗せて、チークは、陰と陽のような、互いを補いあう2つのヴァースを生み出している。

ひとりでいるのがどんな感じか忘れてしまった
雨を吐いて 雪を吐き出す。
日々は、ただ古くなっていく
何も持たないということがどんなものか知っている?
どんなものかは知らないけれど
あなたは今夜ここに来る?
私から電話するべきか あるいは無視するべき? 私は……する
恋をするということがどんな感じか忘れてしまった
太陽を飲み込んで 雪を吐き出す
日々は、古くはならない。
何かを持っているということがどんなことか知っている?
ふたりともそれを知っている。
ただ真っ直ぐに私の目を見て
あなたから私に電話するべきか あるいは私を無視するべき? あなたは……する

 彼女はいまや、人生を両側から眺めることができたのだ。


L’Rain - I Killed Your Dog

written by James Hadfield

Across three albums, L’Rain – the alias of Brooklyn-raised musician and curator Taja Cheek – has operated in an interzone that she calls “approaching songness.” Her music is a palimpsest of memories and associations, interleaving fragments of lyrics and melodies composed at different points in her life, with field recordings that range from poignant to hilarious. It’s constantly shifting, revealing itself from different angles. During the opening lines of “Our Funeral,” from new album “I Killed Your Dog,” Cheek contorts and refracts her voice with AutoTune, morphing with each breath she takes. It isn’t that she’s playing hard to get, more that she’s making space for multiple versions of herself within a single stanza.

“What have you done to change?” asked the opening track of her widely acclaimed 2021 album “Fatigue.” L’Rain has certainly evolved, but Cheek has maintained a consistent voice throughout her work to date. Many of the sonic signatures from her self-titled 2017 debut – looping guitar figures, off-kilter time signatures, phased drums that ooze like treacle – are still very much present on “I Killed Your Dog.” At the same time, L’Rain has become a more collaborative undertaking: She’s quick to credit the contributions of producer Andrew Lappin – who’s been with her since the start – and multi-instrumentalist Ben Chapoteau-Katz, both of whom share producer credits with her this time around.

The most obvious signal that Cheek is breaking with past form on her latest release is in the album’s lurid, attention-grabbing title. As she told Pitchfork in an interview when “I Killed Your Dog” was first announced, this is her “basic bitch” album, pushing back against expectations and deliberately wrong-footing her listeners. She’s spoken in interviews about a recent fascination with clowns, who use humour as a vessel for hard truths. In this case, that includes a minute-long song of gooey guitar and pitch-shifted vocals entitled “I Hate My Best Friends.” (For the record, she loves dogs.)

Media coverage frequently notes how resistant L’Rain’s music is to categorising, though it’s hard to say how much this is because Cheek is a Black woman operating in spaces where her presence wasn’t expected. In that respect, she has something in common with other genre-fluid Black artists such as Slauson Malone 1 (who contributed to “Fatigue”), Yves Tumor, GAIKA and Dean Blunt. “You didn’t think this would come out of me,” she sings on “5 to 8 Hours a Day (WWwaG),” in stacked harmonies reminiscent of Panda Bear. (“That line is definitely a direct address to the industry,” she confirmed, in an interview with Clash Music.)

“I Hate Your Dog” features some of Cheek’s most overtly rock-influenced music to date, although her relationship with the genre is complicated. According to the press notes for the album, “Pet Rock” – which made me think of Tame Impala the first time I heard it – references “that early 00’s sound of The Strokes and LCD Soundsystem that L’Rain never listened to in her youth.” Touché.

Like her earlier albums, the sequencing is immaculate, and it’s worth listening to each track in isolation to appreciate the craft. That’s especially true of the skits and miniatures scattered throughout the track list, which can get swept away in the album’s seamless flow. The 33-second “Monsoon of Regret” is a tantalising wisp of inchoate song, reminiscent of Satomimagae; “Sometimes” is like if Alan Lomax had snuck a loop pedal into Mississippi State Penitentiary.

It takes close listening to realise that “Knead Be” is based on “Need Be” from “Fatigue,” a one-minute interlude of wordless vocals and lo-fi keyboards that warped and fluttered like vintage Boards of Canada. Here, Cheek takes the wisp of melody submerged within that track and expands it into a hymn of affirmation, in which she lets her younger self know that things are going to work out – though her words of encouragement (“Go ’head lil Taja you’re okay”) lurk so deep in the mix, you’d need to look at the lyric sheet to know exactly what she’s singing.

On earlier songs such as “Blame Me,” Cheek would circle around a single phrase, like having a fragment of a melody stuck in your head on repeat. Several times during “I Killed Your Dog,” she runs through all of a song’s lyrics once and then repeats them, in the manner of David Bowie’s “Be My Wife.” Heard again, the words sound like a comment on themselves – no more so than on the ballad-like “Clumsy” (written after she broke her foot), when she returns at the end of the song to the question posed at its start: “How do you trust the ground when it betrays you in ways you didn’t think imaginable?” It’s like she’s still grasping for an answer.

Closing track “New Year’s UnResolution” – which best encapsulates Cheek’s description of the album as an “anti-break-up” record – also loops back on itself, except this time the lyrics are significantly altered in the repetition. She’s explained that the words were written at different points in time, both in the immediate aftermath of a break-up and much later, with the earned wisdom of hindsight. Over a shimmering, dub-inflected groove that wouldn’t sound out of place alongside Hikaru Utada’s “Somewhere Near Marseilles” in a Balearic DJ set, Cheek delivers two verses that complement each other like yin and yang:

I’ve forgotten what it’s like to be alone
Vomit rain spit out snow.
Days, they just get old.
Do you know what it’s like to have nothing?
I don’t know what it’s like.
Will you be here tonight?
Should I call you or should I ignore you? I will...
I’ve forgotten what it’s like to be in love
Swallow sun spit out snow
Days, they don’t get old.
Do you know what it’s like to have something?
We both know what it’s like.
Just look me in the eye.
Should you call me or should you ignore me? You will...

She’s looked at life from both sides now.

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