「LV」と一致するもの

Chart by Underground Gallery 2011.08.27 - ele-king

Shop Chart


1

UNDERGROUND RESISTANCE

UNDERGROUND RESISTANCE Galaxy 2 Galaxy (UNDERGROUND RESISTANCE) »COMMENT GET MUSIC
テクノ / ダンスミュージックという枠を遥かに超え、もはやブラックミュージックの歴史を語る上でも外すことが出来ない重要クラシック作品として、世界中の音楽ファンに愛され続けているURの代表作「Galaxy 2 Galaxy」が、ラベルを新たにし、リマスタリングされ待望のリイシュー!1993年に12インチ2枚組としてリリースされていた作品の中から、重要作品4曲が抜粋され12インチ化! テクノだけに留まらず、世界中ハウス、ジャズファンをも虜にし続けているクラシック中のクラシック「Hi-Tech Jazz」、コズミックなシンセの響きと、エモーショナルなメロディーで銀河旅行を体感出来る「Return Of The Dragons」、RED PLANETのテクノクラシック「STARDANCE」同様のフランジング・シンセと、倍音の効いたシタールの旋律が響く、ネイティブ・アメリカンの血を引くMAD MIKEの母の影響の下、製作された「Astral Apache」、「Hi-Tech Jazz」路線を更に突き詰めたジャズ/フュージョン・トラックで、メロディックなフルート・ソロと大胆な展開で繰り広げられた、このレコードのハイライトともいえる名曲「Star Sailing」の4トラック!

2

DEEP SPACE ORCHESTRA

DEEP SPACE ORCHESTRA Ghetto Science Institute Ep (Use Of Weapons) »COMMENT GET MUSIC
早くも AME、UNABOMBERS、OOFT!、RED RECK'EM、LUKE SOLOMON、JAZZANOVAらがプレイ中の話題作がコレ!アシッド・ハウスマナーなリズムに、オールドな音色を奏でるヴィンテージシンセ、子供によるヴォイスサンプル、パーカッションなどを交えた「Ghetto Science Institute」は、B1の LARRY HEARDライクな アーリー・シカゴ・ハウス・スタイル NEVILLE WATSONによる極上リミックスとの 2ヴァージョン。A2には どこか幻想的なムードを醸し出す鍵盤の音色が◎な「Vanishing Point」は、B2で イタリアのハウスプロデューサー MARCELL NAPOLETANOのリミックスとの 2ヴァージョン。どれも良いですよ〜。

3

YURI SHULGIN

YURI SHULGIN Flow Ep (Ethereal Sound) »COMMENT GET MUSIC
[Black Sunshine Recordings]からMISTANOMISTA名義でリリースされた2作品が高く評価された、タジキスタン生まれ、ロシア在住、ベース / ギター/ キーボード を自在に操るマルチ・ジャズ・プレイヤーYURI SHULGINが本名名義では初となる12イ ンチをリリース! 「Detroit Session」「Another Day」の2作品で、その実力を決定づけたマルチ・ジャ ズ・プレイヤーMISTANOMISTA aka YURI SHULGINの新作!今回もMISTANOMISTA名義の昨 品同様に、自身がプレイする生楽器をふんだんに取り入れた、本格派ジャズ・ハウス を披露したオススメの一枚!MOODYMANNの作品を思わせるようなライブフィールなイン トロから、流れるような美しいピアノでスタートし、中盤からフリーキーなトランペッ ト・ソロでスリリングな展開を魅せたA1「Cinematic Brooklyn」、ビートダウン・マ ナーなミッド・テンポ・グルーヴで、ソウルフルにキメたB1「What A Track」、シカ ゴ・ハウス的なアルペジオ・フレーズをバックに、フュージョン・ライクなシンセ・ ソロを流れるように浮かばせたオールド・スクーリーなB2「Flow」の3トラック、全 て◎!!やはりこの人、只者ではありません...。今回も完璧!オススメです

4

PSYCHEMAGIK

PSYCHEMAGIK Feelin Love (Psychemagik) »COMMENT GET MUSIC
DAVID CROSBYの 1stソロアルバム収録作「Orlenans」を使用した「Valley Of Paradise」が大ヒットを記録した、UKの注目新鋭デュオ PSYCHEMAGIKが、自身主宰レーベルから2作目となる新作をリリース。今回は、グラミー賞を獲得したことでも知られる PAULA COLEによる 96年リリースのアルバム「This Fire」に収録された「Feelin Love」と HAROLD MELVIN & THE BLUE NOTESによる76年リリースのスウィート・フィリー・ソウル「Wake Up Everybody」を極上バレアリック・リエディット!!どちらも美し過ぎる響きを持った鍵盤、ストリングスらのダヴィーな音色がとにかく気持ち良過ぎ。今回も限定プレスでのリリースとなっていますので、絶対にお見逃しのないよう、お早めのチェックをオススメします。大・大・大推薦!

5

LOVEBIRDS

LOVEBIRDS Honeybadger Ep (Teardrops) »COMMENT GET MUSIC
LOVEBIRDS新作、かなり良いです!ビートダウンマナーなA1、Steve Reich「Electric counterpoint」ネタのアコギ・ミニマルのA2、FIRST CHOICEネタのB1など、全て◎![Freerange]や[Winding Road]といった、モダン・ハウス・レーベルからの作品群でも人気を博すSEBASTIAN DORINGによるプロジェクトLOVEBIRDSの新作が、バレアリック・シーンでも知名度が高まったきた[Teardrops]からリリース!3曲入りのシングルなのですが、全ての曲が◎!ビートダウン・マナーなコード・シンセと、ブギー・ディスコ・ライクなサンプルを散りばめたA1、STEVE REICHの名作「Electric Counterpoint」をサンプリングした、ミニマルなアコースティック・ギターのアルペジオを軸に展開されるモダンハウスのA2、RON HARDYクラシックとしてもお馴染み、FIRST CHOICE「Let No Man Put Asunder」のグルーヴィーなディスコ・ベースを使用したB1など、捨て曲無し!

6

SKIRT

SKIRT Itmuts Remix (Horizontal Ground) »COMMENT GET MUSIC
T++ aka TORSTEN PROFROCKリミックス! [Horizontal Ground]の新作。詳細不明ながら、確実なリリースが続く、UKのミニマル/テクノ・レーベル[Horizontal Ground]の新作は前作に続きSKIRTが登場!GASやENOばりのアンビエンス・テクノ「In The Meadow Under The Stars」を、元[Chain Reaction]の実力派、ドイツのビートサイエンティストTORSTEN PROFROCK aka T++がリミックスしたA1をプッシュ! 音響的な響きを効かせながら転がるように配置されたウワ音が、ダブステップ/UK G的、ビートに絡む、繊細さとダイナミズムが共存した、流石のリミックス!文句なし!

7

SASCHA DIVE

SASCHA DIVE Jam Sessions #1 Remixes (Deep Vibes) »COMMENT GET MUSIC
大ヒットを記録した SASCHA DIVEの1stアルバム「Restless Night」からの12"リミックスカット。手掛けるのは NY[Sole Channel]を主宰する ALIX ALVAREZとフランスの人気レーベル[Real Tone]オーナーのFRANCK ROGER。 ファンキーにうねるベースラインにアップリフティングにシンセとSEを絡め、盛り上げるALIX ALVAREZによるA1、御大FRANCK ROGERによるコズミカルな空間性のあるデトロイ ティッシュなグルーヴが気持ちイイA2、オリジナルのグルーヴ感を再抽出し更に一捻じり加えたツール・トラックB1もかなり使えそう!

8

NICOLAS JAAR

NICOLAS JAAR Nicolas Jaar Edits Vol 1 (White) »COMMENT GET MUSIC
昨年突如シーンに現れ、早くもRICARD VILLAROBOSの後継者と囁かれる ブルックリン在住の新鋭 NICOLAS JARRが、NEW ORDER、NINA SIMONEの楽曲をハウス・リエディット!昨年リリースされた数枚のシングル、そして1stアルバム「Space Is Only Noise」が大絶賛され、英・ガーディアン紙で、RICARDO VILLALOBOS/APHEX TWINと比較されるなど、今後の活躍が期待される大型新人、ブルックリン在住の現役大学生 NICHOLAS JARR新作!今回はN.W古典としても御馴染み、NEW ORDER「Blue Monday」を、ダヴィーなエフェクトやよりエッジを効かせたトビ感で展開させたA1と、NINA SIMONEの名作「Feelin Good」をダブっぽい質感のあるディープハウスへ再構築したA2の2作を収録。限定プロモリリースとなってますので、是非お早めに!

9

THE MOLE

THE MOLE Extended Hug Ep (Fur Trade) »COMMENT GET MUSIC
カナダのミニマル・ディスコ・マスターTHE MOLE、久々の新作が、独[Fur Trade]からリリース!やっぱりMOLEはカッコイイです!いやらしくしつこい反復と、もったりしたロウ・ベースが織りなす、粘りのあるグルーヴは、THE MOLEの真骨頂!ファンキーでアップリフティングなトラックから、高度感の低いミニマル・ハウスまで、3トラック、全て◎![Playhouse]のLOSOULの"アノ"感じにも似た、中毒性のあるB2のトラックが、個人的にはイチオシです!

10

MOD.CIVIL

MOD.CIVIL Funktionen (Part 2) (Ortloff) »COMMENT GET MUSIC
フロートする電子音が有機的なグルーヴを奏でるディープ・テック・ハウス! テクノ〜ハウスを横断するディープなスタイルで今注目を集めるドイツ発のアングラ・ユニットMOD.CIVIL新作!! 地元ライプチヒ[Ortloff]からの「Funktionen」シリーズ第二弾となる今作ですが、彼ら独特のアプローチが今回も炸裂しています!!クリアーな音像で太く腰を掴むグルーヴにデトロイティッシュなシンセワークを絡め展開していくA1「C-Funktion」、フリーキーかつメランコリックにうねるビートにアブストラクトなボイス・サンプルを重ね上昇していくロウなテンションが素晴らしいA2「D-Funktion」、夜の森を彷徨っているかのようなナイティーなシンセ・ワークと虫の声ライクな電子音の粒子がうねりながら展開していくエレクトリック・ディープ・ナンバーB2「F-Funktion」と極めて音楽性に富んだディープ・トラック計4曲!

Chart by JAPONICA 2011.08.22 - ele-king

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1

ANDRES

ANDRES III MAHOGANI / US / 2011/8/13 »COMMENT GET MUSIC
独自のポジションからデトロイト産ハウス〜ヒップホップを発信する至宝ANDRESのサード・アルバム「III」緊急リリース!みんな大好き定番ネタ PHAROAH SANDERS"YOU GOT TO HAVE FREEDOM"使いのビートダウン・トラックA-1"BE FREE BABY"に始まり、ヒップホップ/ブレイクビーツ色の強いDJフレンドリーな好トラックが目白押し。。こんなANDRESの新作ホント待ってました!

2

PSYCHEMAGIK

PSYCHEMAGIK FEELIN LOVE / WAKE UP EVERYBODY PSYCHEMAGIK / UK / 2011/8/17 »COMMENT GET MUSIC
PSYCHEMAGIK、オウン・レーべルからのエディットEP第3弾。サンプリング・ソースとしてもお馴染みメロウ・ソウル・クラシック HAROLD MELVIN & THE BLUE NOTES"WAKE UP EVERYBODY"の冒頭の有名なピアノ・フレーズを中心にセミ・インスト的に仕上げたシンプル&ストレートなブレイクビーツ・エディットのB面がほん と最高スギ。グレイト!推薦盤。

3

SISTER SLEDGE

SISTER SLEDGE THINKING OF YOU (THEO PARRISH UNRELEASED HOUSE MIX) UNKNOWN / UK / 2011/8/17 »COMMENT GET MUSIC
説明不要の名曲"THINKING OF YOU"のTHEO PARRISHによる未発表ハウス・リミックスが緊急ホワイト・リリース!「UGLY EDITS」のお蔵入りテイク・・??その怪しすぎる体裁から謎は深まるばかりですが、巨匠によるクラシック・ナンバーのエディットというだけあって、こ れは外せない一枚となってます!

4

DJ DUCT feat. THE REGIMENT

DJ DUCT feat. THE REGIMENT BACKYARD EDIT PT.4 -DETROIT SESSION- THINKREC. / JPN / 2011/8/10 »COMMENT GET MUSIC
国内外から大きなリアクションを得たレアグルーヴ・エディット・シリーズ「BACKYARD EDIT」待望の第4弾はデトロイトの二人組ラップ・ユニット=THE REGIMANTを迎え原点でもあるヒップホップへと経ち帰るスペシャル・エディション。レアグルーヴ・エディットを基に、単なる90'S回帰と は一線を 画すスタイリッシュで硬派な良質ヒップホップ盤◎

5

TORN SAIL

TORN SAIL BIRDS REMIXES CLAREMONT 56 / UK / 2011/8/4 »COMMENT GET MUSIC
先頃、<CLAREMONT 56>よりリリースされ話題を呼んだデビュー12"「BIRDS」のリミックス盤が登場!スライドギターにハスキーなボーカルが哀愁を誘うウエストコース ト・ロック〜カントリー・ロックなオリジナルを世界中から注目を集めるCOS/MESと、UKハウスの大ベテランFRANKIE VALENTINEがリミックス!

6

ELZHI

ELZHI ELMATIC JAE B. GROUP / US / 2011/8/13 »COMMENT GET MUSIC
孤高のリリシストNASの大傑作ファースト・アルバムにして90'Sヒップホップを語る上では外せない超重要作「ILLMATIC」をSLUM VILLAGEのELZHIが同郷のファンクバンドWILL SESSIONSを従え並々ならぬリスペクトを込め忠実にカヴァーしてしまった強烈作、その名も「ELMATIC」、待望の2LP!

7

KOSS / HENRIKSSON / MULLAERT

KOSS / HENRIKSSON / MULLAERT ONE MULE ELECTRONIC / JPN / 2011/8/17 »COMMENT GET MUSIC
ご存知日本が誇る至宝KOSS a.k.a. KUNIYUKIとMINILOGUEの二人MARCUS HENRIKSSON & SEBASTIAN MULLAERTがタッグを組んでリリースするモンスター・アルバムからの先行12"。シーンの最前線を行く両者のプロダクション・カラーが微塵も損なう ことなく見事高次元で融合された次世代エレクトリック・ビートダウン・ハウス傑作に!

8

THE TORNADOES

THE TORNADOES EL SALVADOR WONDERFUL NOISE / JPN / 2011/8/10 »COMMENT GET MUSIC
ヒップホップ・グルーヴで刻まれるファンク・ビートにギター/ハープ/ヴィブラフォン、そして揺らめくホーンセクションが幽玄に絡み合うほんのり 黄昏なアブストラクト・ミッド・ジャズ・ファンク傑作"EL SALVADOR"。こちらオリジナルだけでも十分満足なところさらに本盤では微小ダブワイズ/SEによる味付けが施された"DUB"ヴァージョン、そし てMITSU THE BEATSによるボトム強化でのブレイクビーツ・エディットも収録の超充実内容!

9

CHICAGO DAMN

CHICAGO DAMN DIFFERENT WORLDS SIXTY FIVE / UK / 2011/8/4 »COMMENT GET MUSIC
<SIXTY FIVE>第7弾は<MERC>からのデビューで注目を集める新鋭CHICAGO DAMN!MARK E直系、ダビーでスモーキーなズッシリ重厚なビートにシャッフル気味のピアノ・ループでグルーヴィにぐいぐい引っ張り、ピアノブレイク〜ソウルフルな ヴォーカル・サンプルで一気に盛り上げるビートダウン・エディット傑作!

10

VOLTA CAB

VOLTA CAB HARD TO FIND EP ISM / UK / 2011/8/10 »COMMENT GET MUSIC
<DINER CITY SOUND>や<APERSONAL MUSIC>等、人気レーベルより作品を残すロシアの注目株VOLTA CAB。全編に渡り淡い空気感を放つディープハウス〜ビートダウン・ブギーを往来するソウルフル・スムーシー・トラックを披露する今作。イチオシは優しい エレピ・リフも好感触なソウル・ヴォーカルがグッと溶け込むスローモー・ブギー・ハウス最高峰"PLAY ON"、そして同路線の"MAGIC IN YOUR EYES"。

interview with Friendly Fires - ele-king


Friendly Fires
Pala

XL Recordings/ホステス

Amazon iTunes Review

 オルダス・ハックスリーといえば、自ら幻覚剤の実験台となって著述活動を続けたイギリスの作家で、ザ・ドアーズがバンド名に引用した『知覚の扉』が有名であるように、サイケデリックな60年代のサブカルにおいて広く読まれたひとりだ。
 UKのインディ・ロック・バンド、フレンドリー・ファイアーズのセカンド・アルバム『パラ』は、ハクスリーのユートピア小説『』の舞台となる島の名前から引用されている。そればかりか、このアルバムのオープニング・トラック"リヴ・ゾーズ・デイズ・トゥナイト"にいたっては、どう考えてもセカンド・サマー・オブ・ラヴへの記述がある。
 かつて、フランキー・ナックルズとジェイミー・プリンシプルのシカゴ・ハウスのクラシック"ユア・ラヴ"をカヴァーしたこの若いバンドは、これだけまわりの同世代の誰もがディストピアを描いている現代において、ほんとんど浮いているんじゃないかと思えるほど理想主義を強調する。いったいこの20代は何を想っているのだろう......僕は訊かなければならなかった。
 ヴォーカルとベースのエド・マクファーレン、ギターのエド・ギブソン、ドラムのジャック・サヴィッジ(彼はDJ活動もしている)が3人はワインを飲みながら話してくれた。

最近のインディ・ミュージックは、まるで『ピッチフォーク』に好かれるためにやってんじゃないかってくらい、知的で、ウィットに富んで、いろいろ複雑にしようとしているでしょ。そういう状況に対する僕なりのリアクションでもあるんだよね。

ダブステップ全盛の2006年に、よくシカゴ・ハウスのクラシック"ユア・ラヴ"をカヴァーしたなと思ったんですよね。ダブステップに支配されたUKでハウス......っていうのが驚きだったんですよ。

エド・マクファーレン:ハハハハ。

まわりから「何コレ?」って感じだったでしょ?

エド・マクファーレン:いや、わからないけど......あ、でも、直接ジェイミー・プリンシプルからメールもらったんだよ。

良い電話だった?

エド・マクファーレン:うん、とても。もう、それで気持ちが解き放たれたね。

あの曲を選んだ理由は?

エド・マクファーレン:歌詞が素晴らしいと思ったんだ。歌も良いし......、誠実で、直接的で、「僕には君の愛が必要」だなんて、そんなストレートなメッセージを歌う歌詞なんていまどきないだろ? しかも音的にも美しいし、切ないし、あれをダンス・ミュージックだと意識して聴いたわけじゃなかったんだ。だけど、あれをクラブで聴いたらきっとすごいんだろーなと思ってインスパイアされてカヴァーしたんだ。

へー、歌詞なんだね。

エド・マクファーレン:そうだね。あと、最近のインディ・ミュージックは、まるで『ピッチフォーク』に好かれるためにやってんじゃないかってくらい、知的で、ウィットに富んで、いろいろ複雑にしようとしているでしょ。そういう状況に対する僕なりのリアクションでもあるんだよね。僕はもっと......なんていうか、クラシカルなサウンドでも良いと思っているし、昔のメッセージはまだ生きていると思っているんだよね。

ダンス・ミュージックにどうして興味を持ったんですか? たとえば、アンディ・ウェザオールにリミックスを頼んだんでしょ? 

エド・マクファーレン:いや、アンドリュー・ウェザオールにお願いしたのはリミックスだけじゃないよ。実はいま共同で制作しているぐらいなんだよ。

ジャック・サヴィッジ:まだ完成してないけど、いっしょにスタジオに入ったんだよ。

アンディ・ウェザオールなんて僕らの世代のヒーローだけど、あなたがた若い世代なんかにしたら、もう忘れられた存在じゃないかとも思ってたんで。

エド・マクファーレン:アンドリュー・ウェザオールは僕らの世代(現在27歳)にとってもヒーローだよ! 実は何回もリミックスをお願いしているんだ。それで、ようやくそれが実現した!

ジャック・サヴィッジ:彼のDJセットも大好きだしね!

エド・マクファーレン:僕はもともとエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーみたいなエレクトロニック・ミュージックを聴いていたんだよね。ポスト・ロックとかさ、ああいう複雑な音楽とか、あと、クリス・クラークがベッドルームで音楽を作ってそれで生計を立てているとか、そういったことにすごくインスピレーションを得ていたんだ。10代の頃はそうした、いわゆる〈ワープ〉サウンドを聴いていたんだけど、やがてそうしたものにも飽きてきて、そのときにハウス・ミュージックに興味を持つようになったんだ。

そうだったんですね。

エド・マクファーレン:僕ら、みんな最初はインディ・ミュージックばっか聴いていたんだ。それでクラブに行くようになって、音楽に関して新しい体験をした。自分もそこに参加して聴くっていうか、ステージやミュージシャンを眺めるんじゃなくて、音楽だけを聴くっていう。それで音楽をインディ・ロックとは別の観点から見るようになった。ちょうどそういったきっかけのひとつが、アンドリュー・ウェザオールのロンドンのパーティだったんだよね。彼のイヴェントにはホントによく通ったな。

なるほどね。今回の『パラ』は、タイトル自体はハクスリーのユートピア小説からの引用ですが、アルバムのコンセプトには20年前のUKにあったレイヴ・カルチャー、セカンド・サマー・オブ・ラヴといったものに対するあたがた若い世代の複雑な感情が込められたものとして捉えていいですよね?

エド・マクファーレン:そうだね、僕はその時代のことを知らない。僕が重要だと思っているのは「いまを生きる」ってことなんだよ。僕がいま生きていて、そして僕のまわりで、人びとが微笑んで踊ってくれて、それでしかも一体感を感じてくれたら、それがひょっとして20年前のレイヴ・カルチャーだったんじゃないのかなと思う。

2011年から見て、あの時代の音楽文化のなかにはいまも有効だと思える事柄があると考えるんですね?

エド・マクファーレン:スピリット、とくにダンスさせるっていうところには共感があるし、そもそも僕らの音楽ってなんかの祝祭っていうか、お祭みたいな音楽なんだよ。

エド・ギブソン:あの時代のピアノ・コードなんかもすごく良いよね。ああいうのは自分たちと似ているなーと思う。

エド・マクファーレン:でも、僕らは、いろんな時代の音楽に影響されているんだ。どれか特定の時代の音楽に影響されているってわけじゃないんだよ。たとえば"ユア・ラヴ"は、いまダンスフロアでDJがかけたとしても絶対に良い曲だ。時代は関係ないと思っているんだ。

そうは言っても、"リヴ・ゾーズ・デイズ・トゥナイト(あの日々をいま生きろ)"の"ゾーズ・デイズ(あの日々)"は20年前のことでしょ?

エド・マクファーレン:過去への敬意をもっていまを生きようって意味でそういう言葉にした。あの曲の歌詞は、すごく複雑な意味をはらんでいるんだ。僕たちはもう、どんなことがあっても、ダンスの黄金時代に戻ることはできないっていう認識と、そして、いまはそれなりに喜ぶべきことだってある。あの時代に戻ることはできないけど、あの時代のアティチュードはいまも取り入れることができる。だから、「昔には戻れっこない」という一般論を実はディスってもいるんだ。いまを生きようっていうメッセージそれ自体が、あの時代のアティチュードとも重なるんじゃないのかな。そういうことを言いたいんだよ。

ジャック・サヴィッジ:たまに勘違いされるんだけど、あの曲はノスタルジーじゃないんだ。

エド・マクファーレン:そう......ホント、あの曲の歌詞はすごく考え抜いたんだ。さっき「昔には戻れっこない」という一般論をディスったと言ったけど、ホントは誰にも攻撃していないんだ。そういう、誰かを批判するような歌詞にはしたくなかった。過去への大きな思いもあるけど、でも、最終的には現在というものについての思いを伝えたかったんだよ。だから、ものすごく慎重に言葉を選んだつもりなんだけどね。

へー、そうだったんですね。言葉の選び方まではわからなかったけど、あなたがたの深いエモーションはしっかり伝わる曲だと思いますよ。

エド・マクファーレン:それは良かったよ。

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僕はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとムーディーマンを同じように好きで、同じように聴いている。インディ・ミュージックがダンスを受け入れたときの音楽も大好きだし、そういうときのギター・サウンドにも影響を受けている。


Friendly Fires
Pala

XL Recordings/ホステス

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実際、現在のUKはダンス・ミュージックの勢いがすごいですよね。ただ、あなたがたのようにピースなフィーリングを打ち出すようなものはそうないでしょ。

エド・マクファーレン:ピースって?

ダブステップ以降ってこともあるんでしょうけど、音的にはダークでディストピックなものが多いでしょう。20年前はバカみたいにスマイリーな感じが多過ぎたとも言えるけど(笑)。

エド・マクファーレン:そうだね。ホントにその通りだと思う。僕も20年前のあの感覚が大好きなんだ。人びとがいっしょに踊って、そして心から楽しんでっていう。すべてを忘れてダンスしているようなあの感覚がね。ダブステップも大好きだよ。いまはロック・バンドにしても、UKではダークな感覚がトレンドなんだ。スペイシーで、ソンバー(憂鬱)で、そういうのがいまはある種の流行なんだと思う。

ジャック・サヴィッジ:ポスト・ダブステップでも良いのがたくさんあるけど、じゃあ、実際にクラブに行ったときに、あれがダンスしやすいと思うかな。それが良い悪いってことじゃなく、総じて言えば、あんまダンスしやすいものだとは思えないし、それがいまのポスト・ダブステップでは顕著なような気がする。

なるほど。フレンドリー・ファイアーズはハウス・ミュージックのほうが踊りやすいと。そういえば、この取材の前まで、アラン・マッギーの取材をしていたんですよ。UKには〈クリエイション〉だとか〈ファクトリー〉だとか、インディ・ロックからはじまって、やがてアシッド・ハウスに影響を受けるインディ・ミュージックのレーベルがありましたよね。

一同:(何故か)ハハハハ。

エド・マクファーレン:ロック・バンドがエレクトロニクスを取り入れるってことが、ちょっと前にもあったよね。バンドによっては無理矢理やっている連中もいた。僕はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとムーディーマンを同じように好きで、同じように聴いている。インディ・ミュージックがダンスを受け入れたときの音楽も大好きだし、そういうときのギター・サウンドにも影響を受けている。

ジャック・サヴィッジ:アラン・マッギーやトニー・ウィルソンの時代は、インターネットもないし、選択肢が限られていた。ハウスが来たら、もうそれを強烈に真正面から受けるしかなかったんじゃないのかな。無視することなんかできない。絶対にそれを取り入れざるえなかったんだよ。ハウス・ミュージックの存在が大きすぎたんだ。いまは良くも悪くもインターネットの影響で、何かひとつだけに大きな影響を受けることはないでしょ。

まあね。過去のロック・バンドで共感できるバンドって何がありますか?

エド・マクファーレン:うーん、わからない......(笑)。要素要素で共感してて、ひとつだけ挙げることはできないし、たとえばポスト・パンクのバンドでもサウンド的には自分らと違っても好きなところがあるし、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのギター・サウンドからも影響を受けているけど、ぜんぜんうちらとは音が違うし......だからそれを言うのは難しいなー。

バンドで最初にコピーしたのって何?

エド・マクファーレン:いや、それはもう、くだらないポップ・バンド、グリーン・デイとかデフトーンズ(笑)。ホント、子供の頃、13歳だったから許してね(笑)。17歳のときには自分らでクラブに通うようになって、で、いまの原型が生まれた。ダンス・ミュージックをやろうとしてたよね。

フレンドリー・ファイアーズってすごく良い名前ですけど、どうして付けたんですか?

エド・マクファーレン:あんま面白い話じゃないんだけど、昔、〈ファクトリー〉にセクション25ってバンドがいたんだけど。

あー、知ってる。もろ〈ファクトリー〉系の暗いバンドだったような。

エド・マクファーレン:彼らのアルバムに入っていた曲名から取ったんだよ。

そうだったんだ(1981年の『オールウェイズ・ナウ』の1曲目)。

エド・マクファーレン:で、そのアルバムの2曲目に"ダーティ・ディスコ"って曲があって、同じ頃、その名前のバンドがデビューして、「ヤバイ!」って思ったんだけど、たぶん、いまはもういないと思う(笑)。

ハハハハ。それは笑えるね。そういえば、アラン・マッギーの時代はすごくドラッグにハマっていた時代でもあったんですが、彼はさっき「2011年で最高にロックンロールであるためには、なんもやらないでストレートな状態でいることだ」って言ってましたね。

エド・マクファーレン:えー、ホント! リバティーンズやベイビーシャンブルズを手掛けていたような人が(苦笑)......。

いやー、半分ジョークだとは思うんですけどね。

ジャック・サヴィッジ:リバティーンズやベイビーシャンブルズみたいなドラッグが肩書きになっているようなバンドもそうだけど、ドラッグ・カルチャーの影響を受けたバンドって、〈クリエイション〉だけじゃなくて〈ファクトリー〉にも多いよね。エイミー・ワインハウスにもそういうところがあった。そういう人たちって、輝いているときはすごいけど、その期間がすごく短いんだ。

エド・マクファーレン:でも、僕ら、アラン・マッギーから「君たちはア・サーティン・レイシオみたいだ」って言われたんだよね。自分としてはまったく似てないと思うんだけど(笑)。

たしかに、まったく似てないですね(笑)。どうも今日はありがとうございました!


※年内にはまた来日公演があるらしいです。楽しみです!

LV feat. Josh Idehen - ele-king

 ロンドンのアンダーグラウンド・ミュージックは、灰色の空の下の冷たいコンクリートに囲まれた都市生活における陶酔感を表すのがうまい。小学校4年生のとき、友だちと初日の出を見に自転車で海まで行こうと約束したことがあった。午前3時に大通りの交差点で待ち合わせたがいくら待っても友だちは来なかった。その通りにある街灯を見つめながらずいぶん長い時間待っていたら、いつしかその街灯に陶酔していた。それ以来、僕は街灯好きになった。これまでいろんな街灯を見てはうっとりしてきたわけだが、ロンドンのオレンジ色の街灯はとくに好みだ。昨年リリースされたLVのシングル「38」のアートワークには、まさにストリートを照らすそのオレンジの街灯がある。

 LVはロンドンの3人組のダブステップ・プロジェクトで、昨年、立て続けに発表した何枚かの12インチ・シングルによって注目を集めている。ジャーナリストのマーティン・クラーク(別名、ブラックダウン)が主宰する〈キーサウンド〉から発表した「38」をはじめ、〈ハイパーダブ〉からはクオルト330との共作、そしてそのファンキー路線が話題となった南アフリカのOkmalumkoolkatとの共作「ブームスラング」の2枚をリリースしている。また、〈ヘムロック〉からはアントールドとの共作「ビーコン」を出している(リミックスはマウント・キンビー)。
 本作『ルーツ』は、本国ではおよそ3ヶ月ほど前に〈キーサウンド〉からリリースされている(どういうわけか日本ではあまり見かけない)。ジョシュ・アイデヒン(Josh Idehen)は「38」にもフィーチャーされていたMCだが、『ルーツ』にそのシングルとのダブりはなく、収録された12曲すべてが新曲のようだ。

 ダンス・ミュージックにはトレンドがある。UKにおいてそれはビートに表出する。言うまでもなく、ここ3〜4年はブリアル直系の2ステップ・ガラージの発展型(ポスト・ダブステップと呼ばれるもののひとつで、ハウスのBMPで、裏打ちで再現したハウスのようなビート)がトレンドの主流になっている。この心地よさにいちどハマるとなかなか抜けられなくなるもので、個人的にはいまだにその手のビートでなければ快楽を感じられない。パーカッシヴでシャカシャカとした耳障りはデリック・メイの一部の作品とも似ていなくもないが、やはりここは、ジャストなビートではなく裏から追っかけてくるビートによるグルーヴが良いのだ。『ルーツ』を買った理由もそれだ......というかそれだけだ。そして、それだけでも自分には充分な理由となる。ジェームス・ブレイクのアルバムだって、あのベースがなければ好きになれなかった。
 『ルーツ』は、ブリアルの『アントゥルー』をやや軽めにした2ステップ・ガラージのビート、それに絡めたチョップド・ヴォイス、それからファンクのベースラインに特徴を持つ。M.I.A.(ないしはディプロ)のエレクトロ・パーカッションともに似たビートもあり、ダブからの影響もあれば、ダウンテンポもある。他人の耳にごり押しするタイプのビートではないが、多彩である。UKらしい雑食性のある音で、ジョシュ・アイデヒンのラップも初期のマッシヴ・アタックのように甘美かつダウナーな雰囲気を出している。そしてインナースリーヴには、地下道の写真と真夜中の裏通りの街灯の写真がある。手短に言えばブリアル・フォロワーだが、街灯好きにはたまらない1枚である。

interview with Ken Sumitani - ele-king


STEREOCiTI
Kawasaki

Mojuba Underground

Amazon

 シカゴ/デトロイト・フォロアー、ミニマル以降のモダン・ハウスのなかで、いま、世界中から注目を集めているDJ/プロデューサーがステレオシティの名義で知られている炭谷賢である。
 東京を中心にDJとしてキャリアを積んできたステレオシティは、2008年にスペインの〈ディープ・エクスプローラー〉から「Citifunk EP」でデビューすると2009年にベルリンのドン・ウィリアムスが主宰する〈モジュバ〉からリリースされた「Early Light」が早くもスマッシュ・ヒット、ローレンスやダニエル・ベルのプレイリストにもあがったその野太いキックのディープ・ハウスは、発売から2年以上たったいまも国内各地にあるクラブやDJバーで鳴り響いている。こうしたことは、消費が早いクラブ・ミュージックのなかでは珍しいことだ。
 今回〈モジュバ〉からリリースされたファースト・アルバム『Kawasaki』はステレオシティが生まれ育った街である川崎を走る列車のフィールド・レコーディングで幕を開ける。そしてシカゴ、デトロイトへの愛情のもとに作られた粗野で荒々しくも繊細なディープ・ハウスが続いていく。美しいサウンド・スケープをもったアルバムなら良く見かけるが、タイトル曲の"Kawasaki"も含め、しっかりとストーリーが展開されていくアルバムは近年では珍しい。
 アルバムは3.11以前に作られたものであるが、職人的な細部へのこだわりで丹念に作りこまれた楽曲は時代性を超越する強度を持ったものだ。そしてこのご時勢に3枚組みのLPをリリースしたところにも意気込みを感じる。DJの腕もたしかなもので、自分と白石隆之さんとWHYでオーガナイズしているパーティ〈Sweet〉にもゲストで出演してもらった。

全盛期の〈MANIIAC LOVE〉はぶっ飛んでて面白かったよね。"SLOWMOTION"とかもハマってたよ。ハード・ハウスのパーティとかで、麻布の〈Mission〉とかもたまに連れてかれたけど、けっこう嫌いじゃなかった。

METAL:国内盤CDのライナーを執筆しているのは白石隆之さん。デトロイティッシュ・サウンドの日本人プロデューサーでは草分け的な存在ですよね。

STEREOCiTI:白石さんのことは、実はそんな昔から知ってたわけじゃなくて......実際に会う前に、白石さんの方からMyspaceでコンタクトしてくれたことがあったんだけど、実際に顔を合わせたのは去年。安田くん(WHY)が紹介してくれたんだよね? その頃、白石さんが長野の〈Human Race Nation〉から出したリミックス(G.I.O.N./Jack Frost - Takayuki Shiraishi Remix)がすごい好きで。それで白石さんのアルバム『SLOW SHOUTIN'』(2002年/Pickin' Mashroom)を買って聴いたら「2002年の時点でこんなことやってた人がいたんだ」ってびっくりして、すごく好きになって。で、それから自分のDJでも白石さんの曲を使ったり、LOOPの〈Sweet〉にDJで呼んでもらったりとか、交流ができていった感じ。

METAL:アルバムの話に入る前に、音楽的な背景を聞いておきたいんですけど。

STEREOCiTI:もともとブラック・ミュージックはジャズから入って。ジャズっていうのは、モダン・ジャズね。高1のとき、最初にコルトレーン聴いて、そこからずっとジャズ集めてて。ジャズ聴いて、なんだろ......音楽の「間」みたいなのを最初に意識したのかな。ギターでバンドもやってたよ。前に〈Deep Explorer〉からリリースした曲では、自分でギター弾いてる。今回のアルバムではギターは弾いてないけど、"A day"って曲でベースを弾いてる。

METAL:最初はレゲエのDJだったんですよね。

STEREOCiTI:そうそう(笑)。ボブ・マーリーが好きで。若いとき横浜で働いてた頃に、まわりの人種もレゲエが多くて、みんなヤーマン、ヤーマン言ってる感じで(笑)。そういうなかで育ってたから自然とレゲエが好きになって、ジャマイカの煙たい空気感とか、ダーティーでヤバい感じにも憧れたし、その流れでレゲエのDJをやりはじめた。ダンスホールね。その後もっとモダンなビートが好きになって、その流れとレゲエがうまくクロスオーヴァーした感じが面白くて。その直後にちょうどアシッド・ジャズのムーヴメントがあって乗っかって、その後トリップホップって流れ(笑)。それは学校(桑沢デザイン研究所)に通ってた頃だったんだけど、その頃学校の友だちなんかと六本木の〈Juice〉(現在はBullet'S)でイヴェントはじめたの。で、その頃、人を踊らせる究極はやっぱりハウスにあるんじゃないかと思って聴きはじめたんだよね。でもその頃はよくわからないからもうテキトー。ニューヨークもシカゴもUKもごちゃまぜで。それで、自分の好みを追っていったら、その頃の音ではテクノがそうで。それでデトロイトとか聴いて、DJでテクノをやってる頃に、〈MANIAC LOVE〉に入っていった感じ。

WHY:テクノを最初にいいと思ったのも「間」みたいな部分なんでしょうか?

STEREOCiTI:いやぁ、超踊れる、ぶっ飛べるみたいな。単純なところだよ、ほんと。

METAL:その頃の決定的な、強烈なパーティ体験ってあるんですか?

STEREOCiTI:全盛期の〈MANIIAC LOVE〉はぶっ飛んでて面白かったよね。"SLOWMOTION"とかもハマってたよ。ハード・ハウスのパーティとかで、麻布の〈Mission〉とかもたまに連れてかれたけど、けっこう嫌いじゃなかった。90年代の、ただれたパーティ感は面白いよね。初期のパーティ体験がずっと地下だったから、クラブ・ミュージックにはずっと地下のイメージ持ってる。

WHY:それで〈MANIIAC LOVE〉の"CYCLE"でハウスのDJをはじめた頃から、いまみたいなスタイルなんですか?

STEREOCiTI:デモテープ聴いてもらって「いいね」って言ってもらったのはハード・ミニマルなんだけど、実際"CYCLE"ではじめた頃は、いまで言うテック・ハウス。「テック・ハウス」って言葉大嫌いなんだけど(笑)。〈Prescription〉とか〈Guidance〉、〈KDJ〉とかが好きで。その頃のセットはディープ・ハウス......いまとあんまり変わらない感じのディープ・ハウスからスタートして、〈Paper Recordings〉とか〈Glasgow Underground〉みたいなUKっぽいっていうか、ちょっとグルーヴがあったまった感じで山崎さん(Sublime)かWADAさんに繋ぐ、という感じ。

WHY:ブースで照明をいじりながらWADAさんがDJやってる姿を見ていて、DJのやり方を覚えたって言う話でしたけど。

STEREOCiTI:やり方っていうか、クセね。WADAさんのクセはついた。 1曲1曲EQ全部違うし、出音をちゃんと聴くってところとかそうだし。ミックスの仕方は自分とはちょっと違うんだけど、テクノのミックスってこうやってやるんだ、っていうのは、全部やっぱりWADAさんから学んだかな。

METAL:僕の場合なんですけど、WADAさんのDJを近くて見てて、EQ以外で学んだのはディスコDJのメンタリティなんですよね。客もよく見てるし。

STEREOCiTI:わかるわかる、本当そう。エンターティナーというか、あれがDJだよね。

METAL:使ってるネタ自体は大ネタってほとんど使わないんだけど、場の雰囲気に合わせた踊らせ方をする。

STEREOCiTI:そうだね、それは本当に俺も学んだところ。場の流れを作るというか、場を見てるよね。好きな曲をかけるだけ、っていうようなDJいるからね、やっぱり。

WHY:その"CYCLE"時代や、TAKAMORI.Kさんとやってた"Better Days"の頃は、本名のSumitani名義でDJしてたんですよね。"STEREOCiTI"と名乗る経緯、由来は?

STEREOCiTI:10年ぐらい前にシカゴに1ヶ月ぐらい滞在してたの。シカゴに友だちが住んでて、そこに泊まってたんだけど、そのアパートメントの裏庭の壁にスプレーで「STEREO CITY」って書いてあって。アーティスト名はそこから来てる。で、その友だちの実家がデトロイトで。ちょうどサンクス・ギビング・デイの頃で、実家に帰るっていうからデトロイトまで一緒に車でついて行って。

METAL:シカゴ~デトロイト、どうでしたか?

STEREOCiTI:その友だちはドラマーで、彼の仲間たちがダウンタウンに住んでて、その連中がみんなトラック作ってたんだよね。やっぱりダウンタウンてもともと危なくて、人なんかあんまり住んでない......そこにしか住めない黒人しかいない場所だったんだけど、若いアーティストがどんどん引っ越してきて暮らし始めてる時期だったんだよね。だから結構白人も多かった。デトロイトでは、IBEX(Tony Ollivierra......Neil Ollivierra=The Detroit Escalator Companyの実弟)も一緒に遊んでた。後でこっちで会ったら覚えてなかったけど(笑)

METAL:リクルーズとかも同じ一派ですよね。

STEREOCiTI:リクルーズはあの辺の大学生で、たしかダウンタウンからはちょっと離れたところに住んでたんだよね。

METAL:デトロイトで「第二世代以降」と呼ばれる人たちとの交流があって、彼らがそこで作っていた音楽が、自分の核になってきた部分ってあるんでしょうか。

STEREOCiTI:全然ない。リクルーズは「この人すげえなぁ」と思って研究したところも実はあるんだけど......曲は好きなんだけど、ああいう白人っぽいグルーヴは、自分のやりたいところではなかったんだよね。それよりも、ハウスにしても黒人がやってるもの。当時だったらリック・ウェイドやケニー(・ディクソン)、セオ(・パリッシュ)、あの辺のもっさりしたハウスのグルーヴが好きで。ゴスペルっぽいハウスとか、エディ・フォークスとか。いまは逆にデトロイトのハウスよりもテクノのほうが好きなんだけど。
 黒人のグルーヴが好きなんだよね。ファンクというか、ずれた感じ、粘ってる感じが好き。グルーヴに関しては、一時期ノー・ミルクと一緒にすごい研究してたんだよね。ここをこうズラすとこうなる、みたいな。ディスコとか聴いて、「なんでこのグルーヴが出るんだろう?」とか研究したよ。だから自分の曲もイーヴンっぽく聴こえても実はイーヴンじゃない。個人的な好みだけど、きっちりイーブンに貼っつけてるトラックとかは、聴いた瞬間ダメ。あとドラムマシンのイーヴンと、シーケンス・ソフトとかで置いたイーヴンは全然違うんだよね。ドラム組む時も、ドラムマシンのノリそのままで作りたい曲以外は、全部自分で細かく組んでグルーヴ作ってるから。そういう作業は好きかな。

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10年ぐらい前にシカゴに1ヶ月ぐらい滞在してたの。シカゴに友だちが住んでて、そこに泊まってたんだけど、そのアパートメントの裏庭の壁にスプレーで「STEREO CITY」って書いてあって。アーティスト名はそこから来てる。で、その友だちの実家がデトロイトで。


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METAL:じゃあアルバムの話に入ると、ファースト・アルバムのタイトルに「川崎」という、自分の地元の名前をつけたのは?

STEREOCiTI:ジャケにこんなでっかく「川崎」とかなってるから、そこをすごく押してるみたいになってるけど......最初このデザインが出てきたときはびっくりして(笑)。

METAL:自分のデザインじゃないんですか?

STEREOCiTI:違う違う。これは〈モジュバ〉のトーマス(Don Williams)のデザイン。「漢字はやだ」って言ったんだけど、「ヨーロッパでウケるから我慢しろ」って(笑)。だからジャケットの漢字バーン! に関してはホントは不本意なんだけど、タイトルを"kawasaki"にしたのにはそれなりの経緯や意味があって。なんだろう、自分の生まれ育ってきた場所や、昔から来た部分を、すごい引きずってる時期に作ったのね、アルバムの曲群を。作ってる途中で気付いたんだけど、地元に置いてきちゃったものっていうか、心残りもけっこうあったりして。すごい地元が嫌いで。ろくな街じゃないから。何もないし、文化もないし、良いところ何にもないから(笑)。早く出たいと思ってたんだけど、作った曲を後から見ると、どうしても「川崎」が色濃く出てしまっていたんだよね。

WHY:川崎が色濃く出ている部分って、どういうところなんですか?

STEREOCiTI:それは超個人的なところだから、実際に川崎っぽいかっていうとわからない。多感な時期を過ごした中で染みついた、拭えないものってことだね。それが、自然に吐き出されたビーツやメロディとかに表れていると思って。だから「これはちょっと、1回ケリをつけないとな」みたいに思って、そこでアルバムのタイトルを考えたときに自然と「川崎」って出てきた。「地元に恩返ししたい」とか「地元が好きだから/嫌いだから」とかじゃなくて、ただ自分の作品にそれがすごい出ちゃってたから、"kawasaki"っていうタイトルがいちばん自然にハマったっていうか。

METAL:川崎で生まれ育った自分が作った音楽だから"kawasaki"だっていうことですか?

STEREOCiTI:うん、本当にそんな感じ。アルバムタイトルに"kawasaki"ってつけることで、自分の中で収拾つかなかったいろんなものをうまくまとめられる感じがしたのね。だからタイトルはぶっちゃけ後付けで、川崎をイメージして作ったアルバムってことでは全然ないんだよね。だけど、さっきも言った川崎......それまでの自分ってことだけど、それが色濃く出すぎていたから、そこに収拾をつけたくて。例えばアルバム最後の"Day By Day"なんかはいちばん最近に作った曲なんだけど、この辺は自分で聴くと、ノスタルジックな感じがないというか、古い曲とはけっこう違ってて。

METAL:1曲目は、電車の音から始まりますよね。

STEREOCiTI:あれは貨物列車の音で、実家の近所の踏切で録音したの。南武線の浜川崎支線っていう、二両編成の路線があるのわかるかな? 一時間に一本しかない電車なんだけど、そこを貨物列車が一緒に走ってるのね。京浜工業地帯に貨物線が引き込まれてて、向こうで積んで、また出てきて、って、常に貨物が行き来していて。そのそばに住んでたから、地元にいるときは毎日毎日あの音を聞いてた。

METAL:で、電車の音にポエトリーが乗ってきますよね。どんな内容なんですか?

STEREOCiTI:川崎ってこんな街だよ、っていう。"This Town, it's Empty"っていう節があるんだけど、空っぽの街だよっていう。まぁ空っぽで何もないけど、子どもはどこでも同じように笑ってるし......っていうようなこと。だけどそれをみんなに知ってもらおうとは思ってなくて。自分で込められればよかったから、声を加工して、外人でも聞き取れないようにして。単純にイントロをつくりたかった、っていうのもあるし。

WHY:1970~80年代の川崎には公害訴訟とかありましたけど、子どもの頃は、公害問題も深刻だったんですか?

STEREOCiTI:いちばん深刻な時期は過ぎてたんだけど、ぜん息の子どもはまわりにいっぱいいたし。常に鉄粉が飛んでるから。空は毎晩真っ赤だしね。だから、日本鋼管(NKK。現・JFEエンジニアリング)で働いてる人のための町っていうか。経済においては、すごく重要な街ではあると思うんだよね。ただ日本の歪み......いま出ている放射能もそうだけど、公害問題ってのが、川崎にはもっと前からいまと同じようにあって。もっと辿ると戦争時代も、負けてるのに勝ってるぞ、って国がウソついててさ、ずっと同じだよね。

METAL:そういう視点は昔から持ってたんですか?

STEREOCiTI:昔は対して考えてなかったけど、単純に、大人になったらいろいろ考えるよね。

METAL:反原発デモにも参加してますよね。

STEREOCiTI:最近なかなか参加できないんだけど、やめちゃダメだよね。国に対してモノを言える機会ってそんなにないから、それをやめちゃいけないよね。効果もあると思ってる。やっぱり言っていかないと......日本人ってけっこう「言ってもしょうがない」って感じで、日本の腐った部分は変わんねえや、って諦めてる部分も多いと思うんだけどね。自分もそうだったし。でも発していかないとはじまらないからね。

WHY:アルバムは3.11の前にはできてたんですか。

STEREOCiTI:できてたね。

WHY:8曲目の"Downstream"って曲名、辞書で引いたら「使用済み核燃料の処理工程」という意味なんですけど、じゃあこれは偶然なんですね。

STEREOCiTI:ホント? それはちょっと、予言じゃない(笑)?

METAL:いやでも、あの曲の「闇」は僕も気になってましたよ(笑)。

STEREOCiTI:あれ、いちばんライヴ感っていうか、ノリで作った曲だよ(笑)。いちばんフロア向けっぽいかなと思ってるんだけど。"Downstream"ってのは、単純に水が川を流れていくようなイメージで。比較的最近作った曲なんだ。さっきも言ったように、アルバムの最後のほうはもう「川崎」からだんだん離れて、収束に向かってきたところなんだよね。今の気分に近い曲なんだ。ノスタルジックでもないし、メロディアスでもないし、もっと違う方向に向かってる。この曲でサンプリングしてるボイスはジム・モリソンなんだけど、これまた全然原発とは関係ないよね(笑)。

METAL:これ、ドアーズなんですか。

STEREOCiTI:うん。"An American Prayer"の最後の曲(An American Prayer/The End-Albinoni: Adagio)。オリジナルにレコーディングしたもの以外のボイスものは全部サンプリング。ネタ集みたいのはいっさい使ってなくて、サンプリングするってのは一応ポリシー。

METAL:デトロイト・エスカレーター・カンパニーの『Soundtrack[313]』が好きだっていう話があったじゃないですか。デトロイトのフィールド・レコーディングで作られたアルバム。

STEREOCiTI:あれはすごく好きだし、かなり影響を受けてるかもしれない(笑)。サウンド的にもだし、コンセプトとか、フィールドレコーディングの部分の印象とか。あれがダンス・ミュージックかというとまた微妙なところだけどね。俺の中でのデトロイトのイメージはあんな感じ。実際に行って感じた印象と近いね。

METAL:で、2曲目の"Expanses"からアルバム本編に入るわけですが、楽曲の構成は、基本的にはミニマル・テクノですよね。ハットの入り方にしろ、曲の展開にしろ。グルーヴはハウスと言ってもいいのかもしれないけど。同時に、サウンドスケープにはラリー・ハードに通じるような繊細的な部分もあって。そのふたつが核にあるのかな、と感じていたんですけど。

STEREOCiTI:ミニマル・テクノはあまり意識して作ったことないんだけど......逆にテクノ作りたいけどできない(笑)。自分が好きで聴いてて「こういうのやりたいな」って思ったのと、自分のやりたいように作ったら出てきた曲がまったく違ったのね。昔のムーディーマンみたいなざっくりしたのが作りたいのに、自分で作ってみたら音数も少なくて緻密な感じのものになってたり。だから「自分がやるのはこうじゃないんだな」って思った感じかな。

METAL:じゃあ、曲を作っていく工程で、今回のアルバムのような作風になった感じなんですか。

STEREOCiTI:いや、志向としては初めから。本当は初めからフロアで超機能するトラックとか作りたかったんだけど、うまく形にならなくて。で、生っぽい音を使ったりとか、自分で弾いた楽器と合わせて作ったりとかして、ようやく曲が完成するようになってきて。その辺が〈Deep Explorer〉から出したような曲だね。初期の曲はもっと生っぽいっていうか、ゆるいんだけど、本当はもっとエレクトロニックなのがやりたかった。で、だんだんその術を覚えてきたというか、作り方がわかってきて、いまみたいな作風になってきたって感じかな。

WHY:曲を作りはじめてから、楽曲が〈Deep Explorer〉からリリースされるまで、10年ぐらいのあいだがあるわけですよね。

STEREOCiTI:うん、ずっと曲作ってたけど、全然完成に至らなくて。なんでかっていうと、自分がいいと思う音楽のところまで、自分の曲を持っていくことができなかったから。

WHY:その10年のあいだ、どういう思いで曲を作り続けてたんですか。

STEREOCiTI:なかなか完成しないから「どうしたもんかな」ってずっと思ってて。いろんな人から「とりあえず完成させればいいんだよ」って言われたりしたけど、自分でいいと思わなかったら発表できないから、どこにも送ったこともないし。自分がさ、いろんな音楽を聴いてきて、いいと思う音楽と大したことねえなって思う音楽の差があって、自分のなかで「いい」っていうレヴェルまでいかない限り、自分で出す意味ないわけでしょ。中途半端で出す意味もないし。それなりにいろいろ聴いてきたわけだから、自分でやる以上は、自分のなかでOKを出せるレヴェルに行き着くまでは外には出せないな、っていう。でも微妙なラインで、「これどうなのかな? まぁ、いいと思うんだけどな」みたいなところで外に出し始めて、引っかかってくれたのが〈Deep Explorer〉やラス・ガブリエルで、「あ、これでいいんだ」みたいな。

METAL:まぁ、評価っていうのは、わからないですよね。

STEREOCiTI:音楽なんて、人に聴かせてナンボだから。自分だけのエゴで成り立ってるもんじゃないから、人の評価っていうのは大事なことだけど、自分のなかで、人に聴かせるだけのOKを出せない限りは外に出せないというか。そこまでに時間がかかったっていうことなんだよね。

METAL:自分の思うとおりに機材を使いこなせるまでにも、それなりの時間がかかりますよね。

STEREOCiTI:それもあるよね。まぁいまでも全部なんて使いこなせないんだけどね。

METAL:レイ・ハラカミさんなんかは、ひとつのソフトを、自分の身体として考えているっていう。

STEREOCiTI:そういうのはすごいと思う。ダンサーの表現みたい。

METAL:そう考えると、打ち込みと楽器演奏って、まったく変わらないんですよね。

STEREOCiTI:うん、それは変わらないと思う。自分の音楽ってディープ・ハウスみたいな感じでやってるけど、結局やってることはブルースだと思ってる。それを生っぽい、RAWな部分を前面に打ち出すんだったら生楽器やればいいわけなんだけど、もうちょっとロジカルなというか、構築的な部分でのブルースをやりたくて。あんまり機械的でもないし、かと言って生っぽくもないのがいいというか。1曲1曲に、必ず生っぽいっていうかライヴ感は残してる。一発で全部出して混ぜてって作るタイプではないから、そういう意味でのライヴ感はないんだけど、人間っぽさをどうしても入れないと気が済まないっていうか。フレーズ一発でも、そこに自分のソウルが投影されない限りは、いい曲できても「誰かの曲みたいだな」とか「かっこいいけど、なんか違うな」ってのは全部消しちゃうし。

METAL:アルバム聴いていても、曲自体にいっさい妥協がないですね。

STEREOCiTI:妥協はいっさいない。それは言い切れる。好かれる好かれないは別として、自分のなかでOK出せるところまではいってる曲しか出してないからね。本当にすごいなって思うアーティストがいっぱいいて、そこまではいけてないけど。生で弾いて表現できるのが理想なんで、そっちもこれからもっとやっていきたいし。

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川崎ってこんな街だよ、っていう。"This Town, it's Empty"っていう節があるんだけど、空っぽの街だよっていう。まぁ空っぽで何もないけど、子どもはどこでも同じように笑ってるし......っていうようなこと。

METAL:ブルースだと誰が好きなんですか。

STEREOCiTI:俺、ジミヘン好きなんだけど、もっとルーツ的なところでいうと、Tボーン・ウォーカーとか、ハウリング・ウルフとか......。

METAL:ロバート・ジョンソンは?

STEREOCiTI:ロバート・ジョンソンはねえ、好きなんだけど、自分の気持ちとはちょっと違うというか。ドラッギーだよね、あの人。アルバムを聴いてると、すごく暗ーいところに持ってかれる。やっぱり悪魔的というか(笑)。

WHY:その、闇に吸い込まれる感じって、賢さん(STEREOCiTI)の作品やDJの特徴だと思うんですけどね。アルバムでは"Expanses"が象徴してると思うんですけど......「心に影を落とす」っていう表現ありますけど、そういう感じでふっと暗くなる感覚って、世に溢れてる「ディープ・サウンド」のなかでも独特というか。さっき「ブルース」って言葉が出てきて、あぁ、あの暗さはブルースだったのか、って思ったんですよ。

METAL:これは白石さんの言葉なんですけど「闇の暗さの種類の違い」ってのがあって......。

STEREOCiTI:あ、それわかる。俺ね、モノ作るときとか、DJもなんだけど、「満たされない部分」ってのをすごい意識してて。その「足りない部分」をどう表現するかっていうのが自分も好きみたい。いっぽうではけっこう打算的な部分もあって、DJするときもそうなんだけど「人の記憶にどれだけ訴えるか」ってのをすごい意識してるんだけどね。

METAL:打算的ってことかわかりませんけど、アルバムのなかだと"A day"はすごくきれいな曲で、ローレンスが賢さんの曲を気に入ってるっていう理由が、これ聴くとすごくわかる感じしますね。

STEREOCiTI:これは代々木公園の曲なの(笑)。ちょうどあの辺住んでた頃に作った曲。昼間をイメージしてる曲ってあんまりないんだけど。映像的な音楽ってすごい好きだから、どうしても映像と絡めたくなるっていうか。例えば"Hotel Maroc"は、以前行ったモロッコの、華やかな表面の裏の、現地のベルベル人の私生活の土っぽいイメージで作った曲だし、"Klass"は、Naoki Shinoharaがやってる"klass"っていうパーティをイメージして作った曲。そんな風に、映像的なイメージから作ってる曲は多い。アルバム全体を通しての映像ってのは意識してないんだけどね。並べて気持ちのいい感じにしただけで。ただ最初の"kawasaki"と、最後の""Day By Day"は、全体の収拾をつけるために、イントロとアウトロで合わせて作ってる。やっぱりアルバムとして通して聴けるアルバムが好きで。アルバムとして成り立っていてすごい好きなのが、KDJの1stだったり、トータスの『TNT』とか。アルバムを通してひとつの世界観があるのを作りたかったんだよね。

METAL:白石さんなんかもまさにそういうタイプで、世界観、コンセプトの構築から入って、流れをつくって、っていうタイプですよね。

STEREOCiTI:俺はその逆。デザイナーだからかもしれないけど、元からある曲をどうはめていくか、どううまくまとめるかで映像やストーリーを作ったり、全体の辻褄を合わせていく感じなんだよね。まぁでも、深層に、芯に確実に流れている部分があるからまとめられるんだけどね。ホントにバラバラの曲たちではないからね。やっぱり自分で何百回も、死ぬほど同じ曲を聴きながら作ってて、それでもやっぱりいいな、何回聴いてもいいな、と思う曲だけを残してきたわけだから。

METAL:でもほんと、サウンド的、デザイン的な部分で取りざたされる作品は近年でもいろいろあるけど、こうしてコンセプトを立てて、しっかりストーリーテイリングされた作品ってのは、最近では珍しい種類のアルバムだと思うんですよ。

STEREOCiTI:そう言ってもらえるのも、自分がそういう映像的な部分が好きだし、ストーリーを作るのが好きだから、うまくデザインしてまとめただけで。さっき「打算的」って言ったのはそういう意味。

METAL:まぁでも、自身にとってもひとつのモニュメントというか、区切りというか。

STEREOCiTI:そうだね。いままでは後ろを見過ぎていたというか、これまでの精算に時間がかかっていたわけで。きちんと精算できたのかはわからないけど、一応の区切りにはしたいなぁと思っていて。

METAL:じゃあここから先は、まったく新しいことをはじめようと思ってる?

STEREOCiTI:そんなに理想があるわけでもないし、新しいことをやるぞ! みたいな気分ではないんだけど、単純に変わるだろうな、とは思ってる。

METAL:(唐突に、同席していたSTEREOCiTI夫人に対して)ステレオさんの曲は好きですか?

夫人:好きです。

STEREOCiTI:彼女のために音楽をやってるっていうのもあるから。アルバムのね、盤の内側にエッチングで文字が掘ってあるじゃない? 実はここにメッセージが入っていて。A面にしか入れてないし、これは言わなきゃ誰も気付かないと思うんだけどね。

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シーンを育てるっていう意識がクラブ側に薄いから人任せ......オーガナイザー任せ、外タレ任せになってるのをすごく強く感じる。そこは皆が協力して、いちばん変えていかなきゃいけないところだなぁと思ってて。

METAL:6月には、ベルリンとスウェーデンでDJしてきたんですよね。そのことも聞きたいんですけど。

STEREOCiTI:前回のベルリンは〈Panorama Bar〉だったけど、今回は〈Berghain〉の〈Garten〉でやった。夏だけ開ける野外スペースね。こっちでDon Williamsとやることが決まったんで、他にどこかヨーロッパでできないかな、と思っていろいろメールしてたら、前から好きだったスウェーデンの〈Aniara〉(レーベル)の連中が一緒にやろうって言ってくれて。街のなかのちょっとした森みたいなところで、彼らはそこで毎週のように野外パーティやってて。自分らでサウンドシステム持ち込んで、ビール買ってきて、告知してってスタイルで。その日も400人ぐらい集まったんだけど、それはすごい面白かったな。すごい雰囲気がよくて。彼らはドラッグもやらないからお酒だけで、ダーティーな感じはなくて、喧嘩もなくてピースフルで。最後のゴミ拾いまでクタクタになりながら一緒にやって。そういうの一緒にできたのがすごく。ノリも合ったし。
 ベルリンは2回目だけどとくにイエー! っていう感じじゃなくて、地元じゃないけど落ち着く場所みたいな感じだね。前に行ったときとは自分のDJの傾向も変わってきてる部分もあるんだけど、楽しくできたかな。前とは違って夏で、あったかいし、外だし、みんなゆるくて、ゴロゴロしてる人もいるし、コンテナのダンスフロアの中の人はガッツリ踊ってるし。今回は期間が短かったからあんまりいろんな場所は行けなかったんだけど、前よりも面白かった。ベルリンに対しては特別な感情はいまはなくて、すごい自然にすーっと入ってくる感じ。東京と全然似てないんだけど、すごく馴染むよね。電車はずっと走ってるしさ、俺らみたいな人にとってはパラダイスだよ。

METAL:ヨーロッパのパーティが東京と決定的に違う部分ってあるんですか。

STEREOCiTI:あのねぇ......(長考)。スウェーデンでいちばん感じたんだけど、ゲストを呼んだときのもてなし方が全然違う。めちゃめちゃもてなしてくれるっていうか、行った経験がある人はわかると思うんだけど、アーティストに対するリスペクトが全然違う。すっごいナイス。とにかく喜ばせようとしてくれるっていうか、メシにカネ払わせるな、とか。日本でももちろんあるけど、呼んだアーティストに対して、そこまでちゃんとアテンドしてる人ってなかなかいないな、って気がするんだけどね。逆に、気遣いが足りなかったような話の方をよく聞くからね。まぁでも、俺のまわりの人たちはそんなことないか。
 客の反応やパーティの雰囲気的にはそんなに変わらないと思うんだよね。ベルリンの連中に言うと「いや、日本とドイツは全然違う。ドイツの客は、キックが四つ打つのをずっときれいに続けてあげないとすぐ離れていっちゃう」とか言うけど......。

METAL:日本のDJのレヴェルって、別に低くないと思うんですけど。

STEREOCiTI:日本のレヴェルはね、高い! ドイツの連中がそうやって言うのも、俺は「いや、そうじゃないよ」ってすごい感じて。オーディエンスは本当に、おんなじなんだよ。ただDJが上手いか下手かなだけで。グルーヴちょっと変えてあげたりとか、展開つくってあげても、しっかりやればついてくるんだよ。日本に来る海外のアーティストがよく「日本人は耳がよくて、広くて、ノリもよくて」って言うじゃない? そうではないと思うんだよね。やっぱりそいつの腕次第だし。俺は、オーディエンスを見て「違わないな」ってすごく感じて。向こうが逆にシビアな部分もあって、オーガナイザー側は、〈Panorama Bar〉でもどこでも、遠くでずっと、客の動きも含めて見てるんだよね。それで良くないと、もう呼んでくれない。そういうシビアな部分はビジネス的にも確立されてるから、日本よりも勝負していかないとダメだろうなってのはある。でもオーディエンス側は全然変わらないよ。どっちも好きで聴きに行って踊ってる奴らなわけだから。

METAL:日本人のDJやトラックメーカーで、とくに注目してる人とかいるんですか。

STEREOCiTI:うーん......ひとり名前を出すといっぱい挙げなきゃいけなくなるからなぁ(笑)。誰だろうなぁ。みんないいからなぁ......。日本といえば、最近思うんだけど、クラブの看板パーティとかレジデントDJとか、クラブ側がDJが育てていくシーンってのがないじゃない? DJも決まった人を取っかえひっかえでさ。昔は「タテ枠」ってのがあって、金曜日は必ずこのパーティで、このDJで、ってのがあったんだけど。〈MANIAC LOVE〉の"CYCLE"にしてもそうだし。

METAL:箱やパーティが増えすぎたんですかね。

STEREOCiTI:やっぱり客が減って、クラブ側の経営自体が変わって、レジデントを育てる余裕がなくなったのかな。お抱えのパーティを持つよりも、いろんな客を入れて増やしていきたい、という発想が台頭したんだろうけど、クラブがいままさにやんなきゃいけないことは、レジデントを持つことだと思うんだよね。そうしないともう、客も離れてきてるし、単価も高いし、アーティストもどんどん日本から離れていってるし。シーンを育てるっていう意識がクラブ側に薄いから人任せ......オーガナイザー任せ、外タレ任せになってるのをすごく強く感じる。そこは皆が協力して、いちばん変えていかなきゃいけないところだなぁと思ってて。

METAL:僕も、震災後に〈eleven〉でIsolee、Adaとのパーティが流れて、その時にキヒラ(ナオキ)さん、RYOSUKEさん、KABUTOさん、YAMADA(theGIANT)さんを集めてパーティーやったんです。腕はこれでちゃんと入るような状態に持ってかないと、この先ないよねって。

STEREOCiTI:そうでしょ。外タレに頼り切ってるけど、曲がよくてもDJはそんな良くない人も多いわけでさ、日本人のほうがよっぽどいいんだし。日本人って輸入モノ好きだし、外タレだと人入るけど......って言ってもそんなに入んないけどね。でもドメスティックいいなってのはみんな気付いてるわけで。そこをもっとやっていかないと、先がないんですよ。やっぱり。クラブを、ある意味90年代みたいに戻していくというか、人を集めていくには値段も下げなきゃいけないし、DJのレベルも上げていかなきゃいけないし、クラブ側の意識ももちろん変えなきゃいけないし。それでこそオーディエンスがついてくるものだから。「オーディエンスが離れていっちゃった」ってそのせいだけにするものではなくて。怖いけど変えていかないといけない時期だと思うんだよね。
 ヨーロッパと同じことを日本もできるか、と言ったらそう単純な話ではないんだけど、やっぱり向こうは、エントランス・フィーは全部オーガナイザー側に返ってくるわけ。クラブ側はバーの収益だけで運営している。そういうシステムじゃないと、DJにはまずお金が入らないよね。DJにお金が入らないと、プロが育たないわけ。競争率が低いからレヴェルも上がらないよね。個々人はレヴェル高いのにいまひとつ勢いが出ないっていうのは、出てこれる場所がないからだよね。数ばっかり増えて、プロフェッショナルの意識が育たない。それがすごい致命的で。

METAL:DJっていうのは、本質的に必要経費がかかりますからね。もちろん、好きでやってるのが前提としてあるんですけど......。

STEREOCiTI:本当にそうで、そこにクラブが頼りすぎてる。もうちょっとアーティストが出てこれるシステムができないと。ギャラが1万、2万じゃどうにもなんないでしょ。でもやっぱりクラブ側も大変で、儲けが出てないからしょうがないんだけど。エントランスのフィーをDJ側に頼るんであれば、クラブ側はバーを工夫してもっと儲けようとかあってもいいけど、そういうの出てこないでしょ。もうちょっと切羽詰っていいと思うし。DJ側もDJ側でさ、もっと意識を高めてかないといけないと思うけどね。いままでのシステムがクラブシーンに定着しちゃってるから......。

METAL:経済市場の動きによって、そうならざるを得なかった部分もありますよね。

STEREOCiTI:そうそう、いちど保守的になっちゃったから、そこからなかなか抜け出せない。ひとつ思ってるのはさ、地方にいろんないいDJがいて、シーンもあるんだけど、彼らを東京に呼ぶのって難しいじゃない? 東京のDJが地方に出て行くことはあるんだけど、向こうの人をこっちに呼ぶシステムがあまりにもなくて、俺はそれをやりたいんだけど。やっぱり小箱とか中箱とかだとフィーの返りが少なくて、交通費とかギャランティーを出すのが、東京はすごい難しいんだよね。例えば〈LOOP〉の"SWEET"ぐらいの規模のパーティでもっと呼べればいいと思うんだけど。クラブはあまりお金を出せないし、こっちにも返りがないからお金を出せないし。それはやっぱり悪循環だし、日本全体が盛り上がっていかないよね。そこは何とかしたいな。

WHY:「『これぐらい集客が見込める』という裏づけがないから、地方からのゲストDJにはお金を出せない。外タレなら出せるかもしれないけど」という言い分ですよね。

STEREOCiTI:だってそれはさ、シーンがその人を紹介していかないと、人が入るようにならないわけでしょ。最初から入るわけないんだから。地価が高いっていうけど、もし地価が下がったらクラブがフィー下げるかっていうと、日本人の性格的にどうかなって思うけどね。

WHY:ベルリンはともかく、他の大都市と比べて東京の地価がそこまで突出して高いわけじゃないですもんね。

STEREOCiTI:そうそう。どこもそんなに安くないんだよね。それでも回してるからさ。じゃあ東京もお客を増やすためにはどうしたらいいかってことだよね。クラブ離れが激しい中で。野外ばっかりじゃん。まぁ夜中に遊ぶってこと自体がみんな......。

METAL:そこは僕強く言いたいんですけど、クラブで遊んでたほうが若くいられるんじゃないかと(笑)。

STEREOCiTI:夜遊びはたしかに老化防止になるね(笑)。俺もそう思う。

METAL:透さん、アゲイシさん、WADAさん、みんな若いですよね。DJやり続けてると、ああいうオヤジになれるって(笑)。

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俺、人の反応はもちろん見るけど、「あ、ノリ悪いからこっち行こうかな」っていうのはまずやらないし、そこで変えちゃうのは合わせすぎっていうか、それは違うと思っていて。


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WHY:話を戻すと、賢さんが自分でやってるパーティは〈KOARA〉の":::Release:::"だったり、〈OATH〉の"日本オシロサービス"だったり、エントランスフリーの箱が中心だというのは、現行のシーンの問題点を改善するための動きであるわけですか。

STEREOCiTI:そうだね。週末にパーティをやるのは大変だし、お金かかかるし、ってのもあるけど、みんなからもお金を多くとらないでパーティやりたいっていうのがある。自分らのまわりにいるいいDJ、トップのDJたちを、どれだけお金かけずに提示できるかっていうのがひとつのテーマで。それによってクラブ側も影響を受けてくれて、エントランスでそんなにお金とれないなっていう風潮になってくれたら、っていう希望があるんだよね。〈Room〉の"moved"も、本当はエントランスで1500円とればいいんだけど、1000円でやってる。だから上がりが少なくて、やっぱりなかなか地方のゲストを呼べないんだよね。"moved"は一緒にやってるmaakoが転勤でいなくなっちゃうから一旦休むんだけど、"moved"はせっかく育ててきたいいパーティだから、maakoが戻ってくるまでひとりでやっていこうかな、っていうのも実は考えてる。

METAL:ご自身の、DJとしての話も聞きたいんですよね。

STEREOCiTI:自分のDJを何なんだろうって考えるときはあるんだけど、自分でわかるのは......。

METAL:まぁDJって、その場その場ですよね。

STEREOCiTI:基本はそうだよ、もちろん。だけど自分の好みで選曲して持っていくわけで、その選ぶ作業は自分の世界なわけだよね。俺、「現場の雰囲気に合わせてどうこう......」っていうのは、ぶっちゃけ関係ないと思ってて。単純にそのとき、現場にパーッと入った空気感で組み立てていけばいいと思うんだ。俺、人の反応はもちろん見るけど、「あ、ノリ悪いからこっち行こうかな」っていうのはまずやらないし、そこで変えちゃうのは合わせすぎっていうか、それは違うと思っていて。何ていうかな......DJも人対人だから、自分のエゴを出しすぎちゃいけないんだけど、自分のエゴなしでは成り立たないよね。そのバランスがすごく難しいんだけど。

METAL:レコードを選ぶ段階も場のひとつというか。

STEREOCiTI:そうだね。その段階で想像してるわけでしょ。この場面ではこれを持ってって、こういう感じでいけばいいんじゃないかな、とか。そこを現場で崩しちゃうのは違うなと思っていて。流れ的に組んでいくのはもちろん現場だし、現場の空気で変わりはするしそこが醍醐味なんだけど。だから適当にレコードを詰めて持っていくってことはまずしないしね。俺、DJの前は1週間ぐらいかけて選曲するし。

WHY:さっきアルバムの話で出た「人の記憶に訴えかける」っていう部分、改めて聞きたいんですけど。

STEREOCiTI:それはすごいあって。計算してやってるっていうか「ここでこうすればみんな好きなんじゃないの?」みたいなのはDJみんなあると思うんだけど、そこをわかりやすく出していく部分はすごいあるかな。結局、打算的なんだよね。あんまわかりづらい感じにはしないというか。俺、自分ですごいDJわかりやすいなと思うしね。

METAL:そこ、悩みませんか? 自分のキャラが明確になってくると、自分に飽きてくる部分ってのがあって。でも人を引きつけていこうとするときに、他人から見た自分の個性ってのはどうしても意識する部分ってあるじゃないですか。

STEREOCiTI:俺は単純に、そのときの気分で変わるのね。自分のなかですぐ飽きるから、自分に正直にやっていっても、飽きないようにできるってのは自分の強みかもしれないね。あと、自分のDJは、他の人のDJよりブレがあると思っていて。ブレというか振り幅ね。その時の気分で凄い変えてくるから。なんか意表をつきたくなる、みんなが思ってないところに行きたくなるっていうのはすごいあるんだよね。

METAL:たしかに、"SWEET"に初めて出てもらったときも、あそこまでピッチを落としてくるとは思ってなくて。ああいう「ディープなハウス」っていう括りでやってるパーティで、いちばんピッチが遅いときにいちばん盛り上がるっていうのは面白かったですね。

STEREOCiTI:あれもさ、ただ遅くすればカッコいいと思ってやったわけじゃなくて、それでなおかつ盛り上げるつもりで行ったから。BPMは関係ないんだよ、ってところをやりたかったんだよね。それにあのときは白石さんの曲を中核にして組み立てたから。そのときそのとき、自分のなかでテーマを置いていくんだよね。自分のなかで楽しまないとつまんないから。DJも表現として楽しみたいっていう部分があって。

METAL:そういえば震災後は、すぐにDJに戻れたんでしたっけ。

STEREOCiTI:DJは、1週間ぐらいしてから〈Combine〉でストリーミングしたの。それはすごく評判よくて、みんな「癒された」とか言ってくれて。

METAL:僕らの場合、約1週間後の3.19に初めて、一緒に"SWEET"やってたSCANDALって奴のパーティでやったんですよ。そのときに「不安のなかで踊ること」っていうのが相当重要だったと感じたんです。

STEREOCiTI:それはすごい感じた。

METAL:ダンス・ミュージックだったり、芸術の本来的な意味合いがしっかりわかったというか。普段のクラブで「エロス」っていうものは感じるけど、タナトス、死っていうのを初めて意識したときに、「ダンス」っていうのがこんなにも重要なものとして認識できた時間は、いままでの日本になかったと思うんですよ。デトロイトやニューヨークのスタイルは僕ら模倣してきたけど、そういう場所にあった死生観......例えばデトロイトだったら友だちが撃たれて亡くなるだとか......。

STEREOCiTI:ニューヨークやシカゴにもHIV問題があったわけで。

METAL:そうそう。アメリカにはつねにそういう形で「死」が間近にあったんですが、日本人は初めてそこをしっかり認識できたというか。

STEREOCiTI:たしかに。そういうときに「生」の楽しみをより実感できたというか、本当にそれを求めたっていうのはあるよね。音楽でともに涙を流すというような。基本的に現場主義だから、それまでストリーミングにはあんまり興味なかったんだけど、震災後に「いま自分ができることをやりたいな」と思ったときにストリーミングがあって、初めてやってみよう、と。そこでストリーミングに対する意識が変わった。あれはやって良かったな。ある程度自分に影響力が出てきて、それをわかった上でやったから。自分のエゴとかいうことではなくて、何かできることを考えた時にね。

WHY:震災の影響で、オーガナイズしていたパーティも流れましたよね。

STEREOCiTI:まぁでも、それはしょうがないと思ってる。たまに起こるんだよ、こういうことって。生きてると。ていうか、まだ「3.11」は終わってないし。

WHY:じゃ最後に"kawasaki後"というか、最近のフェイヴァリット・レコードをいくつか挙げてもらえればと。

STEREOCiTI:夏っぽいので5枚選んだんだけどね。うち2枚は、エドガー・フローゼ(Tangerine Dream)。こっちはブラジルかどこかの映画のサントラ。観てないけどすごい下らなそうな映画だよね(笑)。今度、〈Jazzy Sport〉から出すミックスCDに入れてるのがこの辺で。Interiorsは知ってる? これ細野晴臣さんプロデュースで、メンバーの野中英紀さんっていう人が、後に細野さんとフレンド・オブ・アースっていうユニットをはじめるんだけど。結構、マルチプレーヤーが好きなんだよね。この鈴木良雄さんもベーシストだけど、打ち込みからピアノからベースから、全部ひとりでやってて。

METAL:やっぱりシンセには魅力を感じるんですか。

STEREOCiTI:そうだね。ジャズとシンセの融合とか凄い好きだし。

METAL:やっぱり、シンセの魅力がテクノの魅力っていう部分ってありますよね。

STEREOCiTI:うん、それは絶対そうでしょ。打ち込みの部分が好きだから、今ここにいるわけで。この清水靖晃さんもそうだね。全部自分で打ち込んで、弾いて。この"案山子"っていうアルバムも夏がテーマみたいで、"セミ取りの日 "とか"海の上から"とか、ジブリっぽくていいよね。......全然黒くないセレクトだよね(笑)。まぁ、もともと黒いものに影響を受けてる人たちではあるんだけど。本当に黒くてグルーヴィンなところには、いまはちょっと飽きちゃってるんだよね。そこから派生した、より自分と近いものに今は寄ってる感じ。

METAL:やっぱり、日本的な情緒感みたいな部分は絶対にあるんでしょうね。

STEREOCiTI:うん、それは歳とればとるほど出てきた。感じざるを得ないし、それを拒否しなくなってきた。自分のなかで受け入れられるようになってきたかな。

Chart by Underground Gallery 2011.07.30 - ele-king

Shop Chart


1

LEGOWELT

LEGOWELT Sark Island Acid Ep (L.I.E.S.) »COMMENT GET MUSIC
コレです!既にDJ HARVEY、TIM SWENNYがプレイ中のアシッド・チューン! [Crwme Organization]や[Clone]からのリリースでお馴染みの、アシッド・オールドスクール・マニア、LEGOWELTが、NYの注目アンダーグラウンドレーベル[L.I.E.S.]から新作をリリース!ジワジワと勢いを増してくるアシッドグルーブに、渦巻くように響くシンセやアトモスフェリックなコードを鳴らし、様々な表情を見せながらトリッピーに飛ばしてくる「Sark Island」、[Trax]からのVIRGO作品を彷彿とさせる、降り注ぐような幻想的なシンセを鳴らした「Backwood Fantasies」、太くドライブ感のあるグルーブにオルガンやクラシカルなシンセメロを響かせた「Sea Of Nuhuhu」の 3トラックを収録。ハウス、テクノ、アシッド好きは是非!

2

V.A

V.A In Loving Memory 4:4 | + Special 1 (Styrax) »COMMENT GET MUSIC
すごい凄い面子による、完璧なコンピレーション!何がなんでも買ってください! ポスト・デトロイト、ベルリン・ダブテックの影響下にて、アンダーグラウンドな活動を続けてきた[Styrax]から超スペシャルな4枚組コンピレーションが登場!2008年に超限定盤として2枚組でリリースされ、あまりの枚数の少なさに、日本まで入って来ていなかった幻のコンピレーション「In Living Memry4:4」が、更に2枚を加え、4枚組にヴァージョン・アップされて待望の再リリース!今回もプレス枚数は少なく、今後コレクターズ・アイテム化間違い無しのスペシャルな作品です!

3

V.A

V.A Fouke Le Fitz Waryn Ep (Crow Castle Cuts) »COMMENT GET MUSIC
限定300枚!夏っぽいギター・ソロが◎な、トロピカル・ディープ・ハウス!ビーチで聴きたい!!! あまり名の知られていないマイナーなレーベルですが、これは手放しでオススメ!ベルギー[We Play House]クルーが参加した前作が、コアなファンの間で話題を集めた、新興レーベル[Crow Castle Cuts]の最新作!特筆したいのは、その[We Play House]クルーでもあるMAXIM LANY & LEMARHKULARによる、サマー・フィール・ディープハウス!「Exotic Guitar」というタイトルに偽りのない、エキゾチックでトロピカルな印象を受ける、夏らしい開放感が満ちた、ギター・ソロが全面にFeatされた、心地良さ、爽快さは、ここ最近リリースされたハウスの中でも、ずば抜けています!B1に収録されたLUV JAMによる、柔らかい音で構成されたアンビエンス・ハウスも秀作!

4

ARTIST UNKNOWN

ARTIST UNKNOWN Analogue Solutions 007 »COMMENT GET MUSIC
CARL CRAIG「The Climax」、「Poi Et Pas」などの大ネタ使いながら、SLLEPARCHIVEやMIKE PARKER、GIORGIO GIGLIをも凌ぐような、かなり中毒性の高いドープ・スペーシー・ピプノ・ミニマルに! ローファイな質感で90年代のマニアックなテクノをエディットしながらどっぷりとその世界観にハメてくる[Analogue Solutions]の一連のリリースですが、今作もファンの期待にバッチリ答 える素晴らしい仕上がり!! ずっしりと重みのあるビートにヒプノティックに蠢きながらぐんぐん上昇していくスペイシーなシンセにエフェクティブに重なるボイス・サンプルがうねりながら展開していくキラー・トラックA1が◎!! これは使えます!

5

COS/MES & CHIDA

COS/MES & CHIDA 12 Inches For Japan (ESP Institute) »COMMENT GET MUSIC
先日のUKツアーも好評に終わった COS/MESとDJ CHIDA氏によるスプリットシングルが、LOVEFINGERSが主宰する要注目レーベル[ESP Institute]から限定レッドヴァイナル仕様にて緊急リリース。まず Side-Aでは、自身が数年前までに主宰していたハードコアパーティーアニマル'sパーティー「Dancaholic」の名前を引用し、同パーティーの最もコアな深くカオスな時間帯を表現したかのようなエレクトリック・ブギー・ハウス「Danca」。Side-Bには、同レーベルの看板的に活躍を魅せる COS/MESが、カリンバ風のシンセを鳴らしたオーガニックムード漂うパーカッシブ・トラックに、スピリチャルなコーラスを響かせた、壮大な世界観のあるアフロ・コズミックなディスコトラック「Hey Yah」。どちらもとにかく間違いありませんね~!

6

MILES

MILES Facets Ep (Modern Love) »COMMENT GET MUSIC
UK発人気ディープ・レーベル[Modern Love]新作はMLZことMILES WHITTAKERによる激ドープなインダストリアル・アバンギャルド・ミュージック!! まるで生き物のように意志を持った電子音が絡み合いながらカオスの様相を見せながら物凄いテンションで鼓膜に突き刺さる殆どノイズとノイズのぶつかり合いの末のフラットな地表へと導かれていかれる、そんな凄みを感じる一枚!!

7

LOUI$ - Magic Dance

LOUI$ - Magic Dance Pink Footpath (Blow Records) »COMMENT GET MUSIC
またもや UKよりカルト級にレアな1枚が原盤仕様にて復刻!!今回は 85年に[Blow Up Disco]からリリースされた LOUI$が手掛けるイタロディスコ「Magic Dance」。80'sシンセディスコ全開な イタイケなヴォーカルが堪らない Side-Aのヴォーカルヴァージョン「Magic Dance」も勿論悪くはないのですが、オススメは断然Side-Bに収録された同曲のインスト/ダブヴァージョン「Pink Footpath」。バレアリックなダヴィーなシンセ、哀愁のギターのカッティングリフが◎な、最高過ぎるコズミック・フュージョン・シンセ・ディスコ。オリジナルはホント見かけませんので、是非この機会をお見逃し無く!

8

V.A.

V.A. Twentyfour Ways (Smallville) »COMMENT GET MUSIC
LAWRENCE主宰、[Smallville]新作は、サンセット・ムード満載の、メロウ・ディープ・テック・コンピレーション12インチ!MR.FINGERSファンから、インテリジェンス・テクノ好きの方まで、オススメです! 往年のSTASISやB12辺りを彷彿とさせる、ピュアでエモーショナルな、アーリー・デトロイト・インフルエンス・トラックのC-BEAMS、ぼんやりと浮かぶ淡いコード・シンセと、柔らかいハウス・グルーヴがマッチしたCHRISTOPHER RAU、繊細なウワ音の響きが心地良い、ウォーミーなテック・チューンのBENJAMIN BRUNN、清涼感に満ちた空間処理が素晴らしいSMALLPEOPLE & RAUの4トラックを収録!

9

V.A

V.A Psychedlic Pernambuco (Mr. Bongo) »COMMENT GET MUSIC
またもや[Mr.Bongo]、本当に良い仕事をしてくれました!!今回は数年前の奇跡のアルバム再発も大きな話題を集めたLULA CORTESらを擁する、ブラジル北東部"レシーフェ"を中心とするムーブメント「サイケデリック・シーン」をリードしてきた、現地の伝説的レーベル[Rozenblit]に残される、サイケデリック縲怎tォーク縲怎Aシッド・ロックな名音源を全19トラック収録した、素晴らしすぎる内容のブラジリアン・コンピ・アルバム! 前述のLULA CORTESはもちろん、こちらも以前US[Time-Lag]からアルバムがリィーシューされていたMARCONI NOTARO、ミナス方面の方からも人気のフォーキーコンビ GERALDO AZEVEDO & ALcEU VALENcAらの作品を中心に収録。もし原盤で全てを揃えようと思うモンなら、余裕で「ン?十万」行くことは間違いありませんので、ブラジル方面のファンの方はとりあえずコレを押さえておいて何ら問題ないと思います!

10

GLOBAL COMMUNICATION

GLOBAL COMMUNICATION Back In The Box (Mix) (Nrk) »COMMENT GET MUSIC
2011年度 No.1ミックスCDとの呼び声が高い、テクノの歴史を知る為の資料としての価値もある2枚組! UKの名門レーベル[Nrk]が誇る"BACK TO THE 90'S"なミックスCDシリーズ「Back In The Box」の新作は、90年代初頭から活動する大ベテラン、テクノ/アンビエント史に燦然と輝く名盤「76:14」でも知られるTOM MIDDLETONとMARK PRITCHARDによるユニット・GLOBAL COMMUNICATIONが登場!とにかく収録曲の内容が濃いんです!DEERICK MAY、JUAN ATKINS、CARL CRAIGといった、パイオニア達のレア・トラックはもちろん、その初期デトロイト・テクノ影響下にて、一時代を作ったBARIL(exBLACK DOG/PLAID)、STASIS、AS ONE (KIRK DEGIORGIO)などの、インテリジェンス・テクノ勢の、今ではお目にかかることすら難しい貴重な音源が、フルに詰まった、テクノの歴史を知る為の資料としての価値もある、最高の2枚組!

David Sylvian - ele-king

 2年前のある日、湯浅学氏に電話した。
「湯浅さん、デビシルの新作聴きました?」
「聴いたよ、あれおもしろいね」
「演奏とシルヴィアンの歌はギリギリの絶妙な緊張関係にありますね」
「シルヴィアンはデレク・ベイリーといっしょにやってからなー。その影響かもな」
「でもちょっとなつかしかったスね」
「なにが?」
「『歯のはえたケツの穴』みたいじゃなかったですか? あのころ湯浅湾も即興ノイズをバックに歌ってましたよね」
「デビシルはあんなデタラメじゃないからな。......そういうこといったり書いたりすると、良識あるひとに怒られるか狂人あつかいされるから、いったり書いたりしないようにしようぜ」

 湯浅さん、もうしわけない。約束を破ってしまった。
 みなさんのおっしゃるとおりシルヴィアンの『マナフォン』はデタラメではない。
 ベイリー~カンパニーの圏域のフリー・インプロヴィゼイションと、コーネリアス・カーデューの――つまり現代音楽の――の系譜に連なるAMMのメンバーに、クリスチャン・フェネス、大友良英や中村としまるや秋山徹次などの日本の即興演奏家の演奏(そこには2000年代の日本の即興シーンの問題意識が反映されていたのはいうまでもない)をプロツールスのマトリクスに配置することで、ベイリーが固執したイデオム(ストック・フレーズ)から完全に自由な即興を、ハードウェアのメモリとソフトウェアのファンクションをかりて"作曲"に置き換えた『マナフォン』は音響(派)とダンス・カルチャーの挟み撃ちにあったアヴァン・ミュージックがメタな視点をふくむコンセプトを前景化しはじめた動きとも無縁でなかった。というより、『マナフォン』はそれらの命題に深入りすることなく、別の場所に回路を拓いたとみるべきで、その意味で、〈samadhisound〉以降のシルヴィアンの隠遁者めいたイメージに似つかわしい孤高をあらためて感じさせた。

 『マナフォン』の日本盤にはボーナス・トラックが1曲入っている。英国在住の日本人作曲家、藤倉大の"Random Acts Of Senseless Violence"のリミックスがそれだが、藤倉のヴァージョンはシルヴィアンの歌に複数の楽器が散発的に同期する、文字通りランダムな原曲にストリングスを加え、それぞれのエレメントを時空間上に再配置することで、全体を整理し直している。機能美を追究したリミックス=解体~再構築の図式ともちがう、変奏と呼ぶべき解釈がそこではおこなわれていたが、密室の作業を思わせるシルヴィアンのどこか切迫した原曲に較べ、藤倉の音楽は開かれている。シルヴィアンは他者の音を彼の歌に密着させたが、藤倉は外から音を操作した。このあざやかなコントラストはあたりまえのリミックスではほとんどあらわにならない。これに気をよくしたシルヴィアンはこの方法論を拡張し、作業は最終的に『ダイド・イン・ザ・ウール』にまとまった。"Random~"リミックスを再録したアルバムの半分は前作の"変奏"。のこりはアウトテイク(のリメイク)と新曲である。

「『マナフォン』のリミックスを作る考えは僕にはまったくなかった。『ブレミッシュ』に較べると、『マナフォン』を作るのは感情面ではるかに疲れることだったと言うと驚く人もいるかもしれない。完成した後に、また曲に向かう気持ちは残っていなかったし、『オンリー・ドーター~ブレミッシュ・リミキシーズ』の時と同じアプローチがうまく作用するとは思えなかった。『ダイド・イン・ザ・ウール』は漸進的に出現した」シルヴィアンはライナーノーツでこう語っている。
 シルヴィアンは気をよくしたわけではなかった。むしろ精も根も尽き果てていた。後につづく文章によると、漸進的にシルヴィアンを駆り立てたのは進行中の藤倉大とコラボレーションだった。そのとき、ポピュラー音楽史に独自の地位を確立したミュージシャンと、クラシックの作曲家の3年に渡る共同作業は数曲に実を結びつつあった。
 変奏はいずれも前作を更新している。目的がそもそもちがうのだろう。歌に弱音の即興の断片をオーヴァーラップさせた『マナフォン』のモンタージュ的な構造に『ダイド・イン・ザ・ウール』はフレームをあてはめている。1曲目の"Small Metal God"ですでに、『マナフォン』では音の素描ともいうべき簡素な即興が歌をとりまいていたが、『ダイド・イン・ザ・ウール』の藤倉大の変奏は音が明確な意味をもつと語るようである。意味とは体系であり、歴史とか学習とか、もっといえば歴史の学習とかをふまえた音であると、私は思う。依然、シルヴィアンと藤倉大の対比はあざやかである。そこに本作のもうひと組のコラボレーターであるノルウェイのエリック・オノレ&ヤン・バングのラップトップ・インプロヴィゼイションが加わるとコントラストに階調がうまれる。『マナフォン』の曲名に名前のみえる19世紀の詩人、エミリー・ディッキンソンの詩を歌った"I Should Not Dare""A Certain Slant Of Light"のポップな曲調はアルバムのフックでもあるが、モノクロームのアナーキズムといいたくなる手法で自身の音楽に静かに裂け目を作った前作を、優美に、しかし大胆に編み直した本作へ橋渡す役割を担っている。エリック&ヤンとの比較において藤倉のコントラストがいっそうきわだつのはシルヴィアンの慧眼というほかない。前作のオクラだしである"Anomaly At Taw Head"の60年代の武満徹を彷彿するエレメントを点在させた空間構成、"Snow White In Appalachia"のロマンティシズムといった動的な魅力はアルバムの中盤で顕著になる。最終的にそれは、ニューヨークでシルヴィアンと藤倉が行った二度目のセッションで録音した"The Last Days Of December"に落としこまれるのだけれど、バス・フルートの重音(マルチフォニックス)が軋むように低く唸り、弦のドローンが時間の後ろ髪を引くこの曲は単(淡)色の『マナフォン』の世界に色彩を加えた『ダイド・イン・ザ・ウール』の次の彼の方向性さえ照らすように思えてならない。

[Electronic, House, Dubstep] #8 - ele-king

1.Hype Williams - Kelly Price W8 Gain Vol II | Hyperdub


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 ハイプ・ウィリアムスが〈ハイパーダブ〉から12インチ・シングルをリリースすることがまず驚きでしょう。いくらダブという共通のキーワードがあるとはいえ、ダブステップとチルウェイヴが結ばれるとは......思わなかった。
 今年〈ヒッポス・イン・タンクス〉からリリースされたサード・アルバム『ワン・ネーション』は、レーベルが〈ヒッポス・イン・タンクス〉ということもあって、ドローンやアンビエントというよりはチルウェイヴ色が強く、しかも実に不健康そうな多幸感を持ったアルバムだったが、このシングルもその延長にある音楽性だ。まあ、〈ハイパーダブ〉もダークスターのようなエレクトロ・ポップを出しているくらいからだからなぁ。しかし......ハイプ・ウィリアアムスはこれでますます目が離せなくなった。アンビエント・ポップということで言うなら、A1に収録された"Rise Up"は最高の1曲だ。

2.LV & Message To Bears Feat. Zaki Ibrahim - Explode / Explode (Mothy's Implosion) | 2nd Drop Records


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 〈ハイパーダブ〉からのファンキーよりの作品やクオルト330とのコラボレーションで知られるダブステッパー、LV(先日、ファースト・アルバムを発表している)とブリストルのメッセージ・トゥ・ベアーズ(熊へのメッセージ)とのコラボレーション・シングルで、この後リミックス・ヴァージョンがリリースされるほどヒットしたという話で、実際にダンスフロアに向いている。ミニマル・テクノの4/4キックドラム、メンコリックなシンセサイザーのループとスモーキーな女性ソウル・ヴォーカルが浮遊するトラックで、ポスト・ダブステップというよりはヒプナゴジックなテクノである。

3.FaltyDL - Make It Difficult | All City Records


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 これはフォルティ・DLによる"ハウス"シングルだが、まるでヤズーがダブステップの時代に蘇ったような、エレクトロ・ポップと強力なダンスビートのブレンドで、ニューヨークらしいというか、しかしそれは彼がいままで手を付けていなかった引き出しのひとつを見せているようだ。
 B面の"ジャック・ユア・ジョブ"も力強いアッパーなビートの曲だ。リピートされる「ゲット・ユア・ジョブ(仕事を見つけろ)」という声はネーション・オブ・イスラムのルイス・ファルカンの声だが、それは90年代に人気のあったガラージ(歌モノの)ハウスのアーティスト、ロマンソニーの有名な"ホールド・オン"からのサンプルだと思われる。アイルランドのヒップホップ系のレーベルからのリリース。

4.The Stepkids, - Shadows On Behalf | Stones Throw Records


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 今年の9月にデビュー・アルバムのリリースが予定されている〈ストーンズ・スロー〉の大器。数か月前のリリースだが、昨今のソウル・ミュージックの復興運動における注目株なので紹介しておこう。まあこのレーベルが推し進めているジャズ、ソウル、ファンクにおける新古典主義のひとつと言ってしまえばそれまでで、感覚的に言えば、ザ・クレッグ・フォート・グループやギャング・カラーズ、あるいは〈エグロ〉レーベルとも共通する。綺麗なデザインがほどこされた透明のヴァイナルで、白地にエンボスのジャケも良い。

5.LA Vampires Goes Ital - Streetwise | Not Not Fun Records


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E王 アマンダ・ブラウンがついに三田格と!? というのはさすがにない。イタルは、〈100%シルク〉からソロ・シングル「イタルのテーマ」を発表しているダニエル青年によるプロジェクト名で、これはアマンダとのコラボレーション12インチ・シングル。パンク・ダブ・ダンスというか、彼女がダンス・ミュージックをやるとこうなるのだろう、危なそうな人たちがひしめく不法占拠した地下室における饗宴で、リー・ペリーがポップに聴こえるような過剰で砂嵐のようなダブ処理は相変わらずだが、ぶっ壊れたドラムマシンが暴走したようなアップテンポのビートは素晴らしい。それにしてもこのデッド・オア・アライヴのようなアートワークは......(笑)。

6.The Martian - Techno Symphonic In G | Red Planet

 今年も親分(=マイク・バンクス)はメタモルフォーゼにやってくるそうだ。あの男のことだから当然こんかいの日本の惨事についてはいろいろ考えているようだ。それで1年前に発表した火星人の6年ぶりの新曲がヴァイナルで登場した。タイトル曲はクラシック・デトロイト・スタイルで、B面1曲目に収録された"Reclamation(再生)"は題名からして東日本に捧げられているようにも感じられる。B面2曲目の"Resurgence "はじょじょにビルドアップテクノ・ファンク。

7.Vondelpark - nyc stuff and nyc bags EP | R & S Records

 ロンドンのバレアリック系チルウェイヴの2作目だが......実はまだレコード店に取り置きしたまま......。また次回にでも!

Various Artists - ele-king

 紙ele-kingのベース・ミュージック特集の飯島直樹さんの原稿には、このわずか半年のあいだにダブステップという言葉が消え、ベース・ミュージックという言葉に統一されつつある現状が書かれていたが、考えてみればダブステップというサブジャンル用語が登場してから、僕が知ってるだけでも8年は経っているので、まあ、そろそろ寿命なのかなという気がしないでもない。初めてダブステップという言葉を聴いたときは、それ以前の「スピード・ガラージ」や「2ステップ・ガラージ」という用語があまりにも短命だったがゆえに、ダブステップも同じ運命を辿ると思っていたから、いまはよくここまで拡大したものだと思う。ダブステップという言葉にはその出自である「2ステップ」と「ガラージ」が含まれているという点において良かったと思うが、さすがにこの1~2年における拡張された姿をみると、あれもこれもダブステップと括るには無理が生じてきているのも事実だ。とくにシーンにジョイ・オービソンのような、積極的に4/4のキックドラムを用いる作り手が出てくるとハウス・ミュージックとの境界がまず曖昧になる。そしてそれはこの音楽がいま間口を広げていることを告げている。ダブステップのごっついビートには、多くの女性が入って行きづらいという指摘がかねてからあったが、これなら貴婦人も踊れる。

 ロンドンの〈アウス・ミュージック〉を運営するウィル・ソウルは、もともとハウス・ミュージックの文脈にいた人で、その耳を惹きつけた新世代のプロデューサーが、ラマダンマン、アップルブリム、ジョイ・オービソン、そして最近ではジョージ・フィッツジェラルドといった連中である。このレーベルにおける大きな輝きのひとつはジョイ・オービソンの「The Shrew Would Have Cushioned The Blow」だが、ちょうど彼が〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉から出した目の覚めるような「Hyph Mngo」(2009年)に続いたこの12インチのタイトル・トラックは、あぶくのようなチョップド・アップ・ヴォーカルと波打つシンセ、そしてガラージを最小限の音数で表すビートとベースで構成されている。それから温かいアンビエント系のコードがクラクラするループのなかに途中から挿入されるという、極上のディープ・ハウスの質感とメソッドが応用されたトラックだ。シングルに収録されたもう1曲の"So Derobe"は――個人的にはもっとも気に入っているトラックのひとつだが――、シカゴ・ハウスのバウンスするベースラインとミニマル化した2ステップ・ビート、控えめなパーカッション、そしてアシッディなチョップド・アップ・ヴォーカルによって構成されている。それはハウシーだがハウスではなく、完璧なまでに〈ヘッスル・オーディオ〉と〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉にリンクしている。
 コンピレーション・アルバム『アウス・ミュージック・プレゼンツ・セレクテッド・ワークス』をもっとも特徴づけるのは、ラマダンマンとアップルブリムとの共作「Void 23 EP」に収録されたカール・クレイグによるエディット・ヴァージョンだろう。それはポスト・ダブステップがデトロイト・テクノと本格的に出会った記念碑的なトラックで、クレイグはこの若いダンス・ビートにメリハリを与え、勢いを強調している。
 また、レーベルの看板アーティスト、リー・ジョーンズのトラック"As You Like It"をリクルーズがリミックスしているが、それもこのレーベルの趣向を象徴している。それは......オールド・ファンにはお馴染みのペーパークリップ・ピープルにおける、あの長いイントロを経てあわてることなくアップリフティングしていくハウス・ミュージックで、途中から挿入されるジャズのコードのループといっしょにグルーヴが生まれていく......そうしたソウル・ミュージックの感覚こそが、ウィル・ソウルがもっとも愛するところである。
 アルバムには、他に〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉の主宰者スキューバ、それからラマダンマンのもうひとつの名義、ピアソン・サウンド、そしてオービソンに次ぐ期待の若手、ジョージ・フィッツジェラルドらの曲が収録されている。フィッツジェラルドの"Silhouette"の、ミュート気味のシンセのループによるイントロは、まあもろにアリル・ブリカというか、ウィル・ソウル自身のトラックにも共通するスタイルの、いわばデリック・メイ好みともいえる美しいアトモスフィアを持っているが、ミニマルなビートにはUKベース・ミュージックの痕跡がある。後半に重ねられるR&Bヴォーカルのスムーズなループはブリアルのようにスリリングではないが、しかしより多くの人には馴染みやすい軽やかさを持っている。それは〈アウス・ミュージック〉にとって大きな魅力なのだ。

Joseph Nothing Orchestra - ele-king

 ジョセフ・ナッシングといえば、いまをときめく〈プラネット・ミュー〉からデビューした、IDMにおける過激な異端児としてファンのあいだでは知られている。まあ、DOMMUNEのアタリ・ティーンエイジ・ライオットの番組で披露した彼のライヴをご覧になった方は、そのあたり、よくご存じでしょう。2001年にリリースされた彼の『Dummy Variations』(七尾旅人も1曲歌っている)は、いまではIDM~ブレイクコアにおけるもっとも重要な1枚として歴史的な評価を受けているが、それから10年後のいまもジョセフ・ナッシングは唯一無二のエレクトロニック・ミュージックの作り手として健在だ。
 ......で、ワールズ・エンド・ガールフレンドが主宰する〈Virgin Babylon〉からリリースされたジョセフ・ナッシング・オーケストラの『スーパー・アース』のリミックス・アルバム『スーパー・アース・リミックス』が、同レーベルと〈分解系レコーズ〉から共同リリースされた。しかも無料ダウンロードですよ! クリックせよ!

詳細: https://www.virgin-babylon-records.com/information/

分解系レコーズ : https://bunkai-kei.com/
Virgin Babylon Records : https://www.virgin-babylon-records.com/

Joseph Nothing Orchestra
super earth remixes

01march of the last battalion (for promise Go-qualia remix)
02.every beauty has its scum(yaporigami remix)
03.super earth(we're not alone mix)
04.Gliese581(iserobin remix)
05.EBE pt01(joseph nothing mix)
06.Gliese581(FutonDisco remix)
07.lullaby for a patient(joseph nothing mix)
08.Gliese581(joseph nothing remix)
09.Izsak-Delporte(DJまほうつかい remix)
10.a shine on your head(CDR remix)
11.halo23(joseph nothing remix)
Bonus Track
12.super earth(original)

Art work : タカノ綾
2011 Aya Takano/ Kaikai Kiki Co.,Ltd All Rights Reserved.

*Go-qualia
自ら新鋭ネットレーベル「分解系レコーズ」を主宰し、
その他多くのネットレーベルから楽曲/リミックスを発表。
アニメ・ゲーム等の現代を彩る文化を素材に分解、再構築し
新たなエレクトロニック・ミュージックの可能性に迫る。
楽曲の持つ美しさとある種のPOPさには定評があり
待望のCDアルバムをVirgin Babylon Recordsより今秋リリース!
自らのオリジナルな世界を新たに追求した意欲作となっている。
https://bunkai-kei.com/

*FUTON DISCO
ポップスユニット"オーラルヴァンパイア"のメンバーによるソロプロジェクト。
あくまでベッドルームテクノを受継ぐスタイルだが、
全ての情報や情念を布団の中で処理させようとした事が災いしクリーチャー化した。
布団の中で制作をし、布団の中でLIVEを行う。
https://auralvampire.com

*CDR
15歳の時から毎日のように作曲活動を続けているトラックメイカー。
ライヴでの他の追随を許さない発狂パフォーマンスがJoseph Nothingの目にとまり、2011年にJoseph Nothing Orchestraのメンバーとしてスカウトされる。
多作家であり、いままでに数百枚のCD-Rと5枚のCD、3枚の7インチ等をリリース。また、世界各国からのフリーmp3リリースも盛んである。
現在、自らのCD-Rレーベル「NEO RDC REC」運営中。
https://www.asahi-net.or.jp/~zr3a-tnmt/

*Yaporigami
1984年生まれ。山梨県出身。Brighton在住(英国)。
日本と英国を拠点に活動する電子音楽家"Yu Miyashita"によるソロプロジェクト。
これまでにHz-records, Symbolic Interaction、Merry Worksなどから作品をリリースし、国内外多数のコンピレーションアルバムに参加。
近年は"Yu Miyashita"名義の活動も精力的に行なっており、2011年5月には昨年復活を果たした名門レーベル"Mille Plateaux"から"Yu Miyashita"名義での1stアルバム"Noble Niche"をリリース。
ノイズ、グリッチといった素材を駆使し、Yaporigami名義ではビートのある作品、Yu Miyashita名義ではノンビート作品を生み出している。
https://www.underarrow.com

*iserobin
機材に囲まれたいがためにKORG Electribeを購入し音遊びを開始、現在に至る。
ダンスミュージックとあまり親和性の無いジタバタビートに胡散臭いメロディ。
ライブは主にごちゃ混ぜ系イベントにお呼ばれされてはハードシーケンサー+エフェクタ武装でジタバタ演奏を披露している。
https://iserobin.otherman-records.com/

*DJ まほうつかい
DJまほうつかいはターンテーブルを持っていないDJです。まほうのちからで音楽を作ります。MIX CD『世界の終わりmix』や自作のサントラ盤『イメージアルバム・ディエンビエンフー』、さらにX JAPANのコピーバンドなど、その音楽性は常に変化。相対性理論presents「実践III」や、フリージャズの聖地新宿PITINNなどで演奏を行う異端の音楽家。最新のプロジェクトはヘヴィメタルをエレクトロニカの文法で再構築した「Metaltronica」。2011年Joseph Nothing、蓮沼執太、芳川よしのらのリミックスを含むアルバム『Metaltronica』リリース予定。本業はマンガ家の西島大介です。
https://www.simasima.jp/

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