「LV」と一致するもの

interview with Avengers In Sci-Fi - ele-king

 ゼロ年代のダンスフロアのトレンドのひとつに「ロックで踊る」がある。2メニーDJsやエロール・アルカンらインディ・ロックとダンス・ミュージックのクロスオーヴァーを得意とするDJの活躍、そしてフロア・ユースフルな欧米のバンドたち―ーラプチャー、フランツ・フェルディナンド、クラクソンズなどーーの台頭がうながしたこの現象は、いまでは当たり前の光景となった。そのいっぽうで、ライヴハウスの現場におけるそれら海外のシーンと同調する形で生まれたインディ・パーティの多くは、ダンス・ミュージックに造詣が深いDJを招くなどして、そのクロスオーヴァーを試みた。その結果、ライヴ・バンドとDJの相互関係で独自のダンスフロアを形成するパーティもずいぶんと増えた。

 東京の新宿にあるライヴハウス〈MARZ〉を拠点とするマンスリー・パーティ〈FREE THROW〉は、レジデントである3人のDJをメインとしたパーティでありながら、月毎にゲスト・アクトとして若手のライヴ・バンドを招いて開催している。あまり知られていないことかもしれないが、いまをときめくテレフォンズやボゥディーズといったアイドル・バンドたちは、ここを拠点にして全国的な支持へと繋がっていった存在である。他にもミイラズやライトといったロック・バンドたちが多く出演するこのパーティでは、『ロッキングオン・ジャパン』や『ムジカ』などで特集されている日本のコマーシャルなバンドの曲から、『スヌーザー』でピックアップされている欧米のスノビッシュなインディ・バンドの曲まで洋邦/有名無名関係なく幅広くスピンされている。集まったオーディエンスは音楽的な隔たりを作ることなく、ダンスのステップを踏み、とても自由に楽しんでいる。こうした喜びに溢れたムードが、若手バンドのフックアップに繋がることはとても健康的に思える。そしてこのムードは、海外のインディ・シーンへの憧れを伴いながら、全国的なものへとなりつつある。


avengers in sci-fi / dynamo
ビクターエンタテインメント

AmazoniTunes

 今回の主人公は、その〈フリー・スロウ〉でも幾度となく演奏してきた3人組ロック・バンド、アヴェンジャーズ・イン・サイファイである。自らの音楽のコンセプトを「サイファイ・ミュージック」と名乗る彼らの、メジャーから初のフル・アルバムとなる『ダイナモ』がここに届けられた。
 このバンドは、コズミックなシンセサイザー、シューゲイジングなディストーション・ギターやフィードバック・ノイズを用いて、宇宙空間を遊泳するかのような、ファンタスティックなサウンドを特徴とする。そのダンサブルなビートからは、前述したロックとダンスのクロスオーヴァーからの影響が多分に感じられる。とはいえ、同じくダンサブルなロックを持ち味とする同世代のテレフォンズやサカナクションとはもちろん趣が違う......。アヴェンジャーズ・イン・サイファイの音楽には、よりドライヴ感の効いたパンキッシュなテイストもある。
 バンドのフロントマン、木幡太郎に訊いた。

クラクソンズは好きです。でも彼らは、ニュー・レイヴと括られてしまったことが損している部分ではありましたよね。だって、別に踊れないじゃないですか(笑)。それよりももっとフォーカスするべきなのは、フィジカルな部分よりも、あのホラーというかオカルトじみたゴシックSF的な世界観の部分で。メロディとかも新作は最高でしたね。

アヴェンジャーズ・イン・サイファイ印ともいえる、コズミックなサウンド・テクスチュアだったり、SFの世界を彷彿とさせる歌詞だったり、一貫した宇宙的な世界観というのはどういった経緯で生まれたのでしょうか?

木幡:物心ついた頃に『スター・ウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなSF映画を観て、そこから影響されたというのが大きいですね。『2001年宇宙の旅』とか、有名どころの作品を観たり。ジミー・ペイジのリフのような、いかにも「ギターです」みたいな、人間の血の匂いがするものよりも、血の通っていない雰囲気みたいなのが自分のなかでのストライク・ゾーンになっていったんですよね。昔、エレクトロニカとか、アンダーワールドやケミカル・ブラザーズのようなロック寄りのエレクトロニック・ミュージックにすごい惹かれていたときがあって。そのあたりのアーティストたちの世界観はSFと繋がりやすいというか。そういった趣味がごちゃまぜになった結果です。

2008年にリリースされた2ndアルバム『サイエンス・ロック』あたりから、宇宙をモチーフにした曲名や歌詞など、コズミックなムードがよりいっそう強まっていった印象があったのですが、自分たちならではの表現方法やカラーを獲得したという実感や自信などはありましたか?

木幡:SF志向や宇宙志向といった方向性は最初期から一貫していたものだったので、いくつかのリリースを経て、何かを自分のなかで獲得していったという意識はとくにないです。表層の部分の変化ぐらいですね。

歌詞に登場する、"サテライト・ハート"や"インターステラ・ターボ・フライト"といった、まさにSF的といえる言葉の数々は非現実観を煽ります。そういった言葉を選ぶ理由というのは?

木幡:カタカナの言葉を使うというのは、単純にSFテイストを盛り上げたいというのもあるんですけど、日本語英語というか、意味があるんだかないんだか定かじゃない言葉のほうが強いと、僕は思っているんですね。いかにも意味ありげなことをちゃんと日本語で歌ってみたところで強さがないというか、頭に入ってこないというか。

たとえば今回のアルバムでいうと、具体的にどの言葉ですか?

木幡:「ミディ・マインド/ホモサピエンス・ブラッド」とかはそうですね。メロディとの共生関係というか、メロディの抑揚を殺さずに音の響きの気持ち良さを表現したいので。意味ありげなことを延々と語り聴かせることよりも、ハードコア・バンドのヴォーカルがデカイ声で叫んだ瞬間に伝わってくるもの、そういった感覚を重視している部分があります。何より音をキャッチしてもらうことが目的なので。もちろん、自分では言葉はすべて整理されていて、語呂合わせのために使っているというわけではなく、どれも意味のある言葉なんですけども。でも、その言葉の意味を100パーセント自分と同じ捉え方をしてもらうために、こと細かく伝えようとしたところで、逆にキャッチすらしてもらえないんじゃないかという感覚を持っているんですよね。

日本語の音楽の多くは意味を大切にしていますよね。カラオケ文化というのも、思いっ切り、歌詞に自己投影する為のものですし。自分たちは、意味を伝えるよりも、音楽をやっているんだという意識の方が強いですか?

木幡:そうですね。多くのJ-POPは、歌詞だけで完結してしまっているものが多いなと思っていて。歌詞を読めばたしかにストーリーはわかるんですけど、メロディをつける必要はないなと。それなら詩の朗読をすればいいし、音楽である必然性はない。

あいだみつをで十分という(笑)。

木幡:歌詞を完結させるためにメロディを犠牲にしてしまっている音楽を腐るほど聴いてきたし、「何の為に音楽があるんだ?」という疑問や反感はすごくありましたね。

自分たちは音と言葉のイントネーションで楽しめるものを作っていきたいと。

木幡:やっぱりそれはありますね。僕らの楽曲のメロディと歌詞は、J-POPといわれるもののそれと比較したときに、それぞれの単体での完結度は低いと思うんですけど、そのふたつを組み合わせたときに、初めて言葉の意味がしっかり見えてくるというか。そうすることで、人の想像力が介入する余地を残しておきたい。バンドを始めた当初から、そういったものを目指しています。

総じてSF的な言葉が印象的ではありますが、今回のアルバムだと、たとえば"キャラバン"という曲では、「生はイージー/無常でファスト」「死はイージー/途上でロスト」というラインがあったり、人の生命や所業は諸行無常だという世界観も描いていますよね。

木幡:今回のアルバムでは、自分たちがこれまでに表現してきた非現実的な世界のなかに、現実的な世界観も盛り込んでみたかったんですね。「生と死」や「愛」といった要素も意識的に取り入れてみたんですけど。聴く人が自己を投影する余地も作ってみたかったという。「宇宙」や「未来」といった言葉からは、何となく、あまり人間が存在している感じがしないんですけど、宇宙のなかで人間が生活している感覚というか、そういった世界観を今回は意識的に描いてみました。

ダフト・パンクは好きですか? 彼らには"ロボット・ロック"という曲があって、近未来では人間の血を感じさせないロボットこそが、純粋無垢を象徴するものに成り得ている、という世界観を描いていますよね。そういったイメージとちょっと近いものを感じたのですが。

木幡:ロボットが感情を持つというシチュエーションはすごく好きですね。映画で役者が涙を流している場面があったとして、そこに入り込めない自分がいたりするんですけど。ロボットに感情が宿るというシチュエーションは、逆にリアルに感情が伝わってくることがあります。

[[SplitPage]]

もちろん、ロックが若者のあいだでヒップなカルチャーではなくなっている現状や、必ずしもロックが必要とされていない現状への危惧だったり、そういったフラストレーションはありますけど。でも、そういった意味合いよりも、わけのわからないパワーを彷彿とさせる言葉として捉えてもらいたい。

ダンサブルなロックを持ち味とする同世代のバンドとして、テレフォンズやサカナクションがいますよね。テレフォンズは「アイ・ラヴ・ディスコ!」というフレーズが象徴的ですが、とにかく「アゲる」という意味で、享楽的な世界観をアッパーに描いています。それと比べてサカナクションは、より繊細な表現を持ってして心象風景を叙情的に描いています。音楽的に彼らは近い存在だろうし、意識することもあると思うのですが、そういった同世代のバンドたちが並ぶなかで、自分たちはどういった表現をしていきたいですか?

木幡:もちろん、彼らのことは意識はしていますけど、本質的なところでいうと、いっしょかどうかはわからないですね。僕らの音楽はダンス・ミュージックではないと思っているので。ダンス・ミュージック由来の素材を使っているんですけど、もうちょっと料理の仕方がパンク・ロック的というか。エレクトロニック・ミュージックのアーティストたちって、あの機材で何をしているかというのがいい意味で可視化されづらいじゃないですか。そういった感覚で、僕らはプレイを見せるために存在しているというよりも、純粋に音楽として存在していたい。そうすれば自然と音楽の面にフォーカスされるというか。ロック・バンドというと、プレイの面が見え過ぎてしまって、音楽面がぼやけるというのは感じていたりしたので。テレフォンズやサカナクションがダンス・ミュージックの要素をどういった意味合いで取り入れているかまではわからないですけど、僕らはダンス・ミュージックのフィジカルな部分よりも、もうちょっとメンタルの部分というか、宇宙的な感覚だったり近未来的な感覚だったり、そういった部分に惹かれるところがあって。

なるほど。

木幡:なぜ自分たちがダンス・ミュージック由来のビートを使っているかというと、いま、現時点で、それがもっとも未来的なイメージを喚起させるのに最適だと考えているからです。例えば、ビートルズのドラムをサンプリングするよりも、ダフト・パンクのドラムをサンプリングする方が、音の響きとして未来を彷彿させられるじゃないですか。なので、必ずしも踊らせることを目的にそれをセレクトしているわけではないです。手段として咀嚼している感じです。

とくに大きな影響を受けたミュージシャンはいますか?

木幡:強いて挙げると、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャー、ケミカル・ブラザーズあたりですかね。エイフェックス・ツインとスクエアプッシャーはエキセントリックな部分にフォーカスされがちですけど、メロディが綺麗な部分に惹かれます。ケミカル・ブラザーズは音楽的にはフィジカル過ぎてそれほど好きじゃなかったりするんですけど、あのモロにSFな世界観がドンピシャで好きだったりします。

バンドではなくて、打ち込みに専念しようと考えたことはありますか?

木幡:自分がエレクトロニック・ミュージックに没頭した時期に、そういったノウハウがあればやっていたかもしれませんけど、当時、単純に打ち込みやPCの知識が全然なかったんですよね。自分が手を出せるのはエフェクターやシンセサイザーぐらいだったので、バンドに活かしました。

日本人で共感を持てるミュージシャンはいますか? 抽象的な言葉を並べて風景を喚起させるという点において、手法的にはナンバー・ガールに近いとも思ったのですが。

木幡:音楽性はまったく違いますけど、ナンバー・ガールはすごい好きです。世界観がカッチリしていますよね。聴いていると、酔っぱらいが転がっている新宿が頭に浮かんできたり。

海外で共感を持てるミュージシャンはいますか? これもまた自分の推測ですが、SFファンタジーを描いているという点において、感覚的にはクラクソンズやレイト・オブ・ザ・ピアに近いとも思ったのですが。

木幡:クラクソンズは好きです。でも彼らは、ニュー・レイヴと括られてしまったことが損している部分ではありましたよね。だって、別に踊れないじゃないですか(笑)。それよりももっとフォーカスするべきなのは、フィジカルな部分よりも、あのホラーというかオカルトじみたゴシックSF的な世界観の部分で。メロディとかも新作は最高でしたね。

では、共感する部分は多かったと。

木幡:ニュー・レイヴ全般にいえることですけど、このムーヴメントって、言葉が先行していて、音楽的な共通点はほとんどなかったじゃないですか。でも、70~90年代の音楽をすべて包括しながら、レトロなテイストもありつつ、プロディジーやアタリ・ティーンエイジ・ライオット、プライマル・スクリームのような、デジタル志向の先鋭的なロックの要素もあったりして。そういった歴史の積み重ねを踏まえた上での、前向きな未来志向があるところに惹かれました。その前のニューウェイヴ・リヴァイヴァルは、個人的にあまり受け付けなかったんですよね。どれもギャング・オブ・フォー過ぎるというか。あまりにも焼き直し過ぎなところがあって。ラプチャーとか。

クラクソンズと比べられることはよくありますか?

木幡:ニュー・レイヴの日本版みたいに言われたこともありますけど、最初期から僕らの音楽を聴いてくれている人は、そういうことは言わないですね。

現在と初期を比べて、音楽性はそれほど変わっていない?

木幡:基本的には宇宙的な世界観はずっと自分たちのこだわりですけど、最初期はもうちょっと音楽的にドロドロしていました。妙にプログレやサイケに惹かれていた時期もあったので。ピンク・フロイドとか。でも、最初はそのジャンル名、「プログレッシヴ」や「サイケデリック」という言葉のインパクトにとにかく惹かれていたので、ピンク・フロイドが本当にいいなあと思いはじめたのは、実はけっこう最近だったりします。

アルバム終盤の"スペース・ステーション・ステュクス"では、そういった影響も滲み出ていますよね。一大スペース・ロック的な。

木幡:まさにそうです(笑)。

ピンク・フロイドはどの時期の作品が好きですか?

木幡:『原子心母』あたりから"クレイジー・ダイアモンド"までとか。『ザ・ウォール』も好きですけど。シド・バレットに関しては、ピンク・フロイドというよりも、彼は別物って感じなので。

曲はどうやって作っているんですか?

木幡:最初は僕が弾き語りで作ります。まず歌のメロディがあって、曲の方向性やリズムは大体こんな感じだというのを伝えて、そこから3人でセッションしながらアレンジの細部を詰めていくといった感じです。

エイフェックス・ツインにしてもピンク・フロイドにしても、スタジオのエンジニアリングの技術というのが大きいですけど、そういったレコーディングには興味はありますか?

木幡:もちろん興味はありますし、やってみたいとは思うんですけど、どうしてもひとりの作業が主になってしまうじゃないですか。エンジニアとのやり取りがメインになってしまったり。それよりも、大まかな方向性がぶれない限り、セッションから生まれる偶然の方が自分にも驚きを与えてくれるし、エキサイティングだと感じています。

『サージェント・ペパーズ~』や『ペット・サウンズ』のような、世界観を追求する為にスタジオ・ワークで作ってしまう作品にはあまり興味がない?

木幡:仕上がる音が大体想像出来てしまうんですよね。自分の予想を裏切る仕上がりでないと、120パーセントの満足感は得られないのではないかと思うんですよ。

バンドならではの意外性や、セッションしたときの偶然性に賭けたいと。その辺りもクラクソンズと近いかもしれないですよね。

木幡:そうですね。スタジオ・ワークによってバンドのフィジカル性が失われるのも嫌なので。宇宙的な世界観を追求したり、精神世界を表現する余りに、ドローンが延々と20分流れるものとかになってしまうと、自分が考えるロックの理想と離れてしまうので。自分たちの世界観を追求しつつ、フィジカルの強さも同時に追求していきたいというのが命題です。

ライヴ映像も拝見させて頂いたのですが、"ホモサピエンス・エクスペリエンス"という曲で、「セイヴ・アワー・ロック」という言葉を叫んでいるのが印象的でした。そのまま訳すと「自分たちのロックを守る」ですが、これはどういったメッセージなんでしょうか?

木幡:叫んだときに強く響く言葉だと思っていて。これはメッセージというよりも、何よりも言葉の強さからパワーを感じてもらいたい。もちろん、ロックが若者のあいだでヒップなカルチャーではなくなっている現状や、必ずしもロックが必要とされていない現状への危惧だったり、そういったフラストレーションはありますけど。でも、そういった意味合いよりも、わけのわからないパワーを彷彿とさせる言葉として捉えてもらいたい。自分にとってのロックの理想は、わけのわからないパワーを感じさせるものなので。

interview with Gold Panda - ele-king


Gold Panda / Lucky Shiner
E王 Yoshimoto R&C

AmazoniTunes

 フライング・ロータスの『パターン+グリッド・ワールド』を聴いてひとつ思うのが、「ああ、この人は本当に自分が真似されているのが我慢ならないん だな」ということだ。『ロサンジェルス』以降の、自分のイミテーションたちと距離を置きたくて仕方がない、という思いがヒシヒシと伝わってくる (笑)。取材のなかでも、"グリッジ"や"ウォンキー"といった言葉に対する彼の嫌悪はハンパない。フライング・ロータスのファンの方々にはあの手の言葉を使 わないほうが身のためである......と言っておこう。
 で、"グリッジ"や"ウォンキー"っぽいサウンドからはじまるのがゴールド・パンダの『ラッキー・シャイナー』である。そして、そうした"いまっぽさ"から はじまるそのアルバムは、しかし、面白いようにそこから離れていく。『ロサンジェルス』以降のグリッジ・リズム、あるいはダブステップ以降のビートを追っ ていたヘッズ諸君は、途中で迷うだろう。「違うじゃねーか」と思うだろう。そこで停止ボタンを押す人間も少なくないかもしれない。
 が、むしろその"いまっぽさ"から離れていったときのパンダの音楽を楽しめる人は、何か新鮮な、新しい場所に辿り着けるだろう。どんどん登っていったら 突然視界が開ける。心地よい風が吹き、草原が広がっている。あたりを見回してもまだ誰もいない。『ラッキー・シャイナー』はそういう作品である。

ジェームス・ブレイクやマウント・キンビーは僕よりも若い世代で、影響もR&Bやヒップホップからで、僕とは違うんだ。彼らはデジタル世代だけど、僕はまだアナログに影響を受けている世代だし、ラップトップで音楽を作ることに何かまだ変な感じがする世代なんだよ。僕の音楽はもっとシンプルだ。

ゴールド・パンダという名前にしたことを後悔していない?

パンダ:している。最初はゴールドで後悔して、いまはパンダで後悔した。動物系の名前がすごく多いから。そういうハイプなものから離れていたいから、ちょっと後悔しているんだ。

いやね、この『ラッキー・シャイナー』、ホントに僕は好きなアルバムで、知り合いと会ったりすると「最近、何が良かった?」って訊かれるじゃない。そのときに、「ゴールド・パンダ」って言うと、知らない人だと「ゴールド・パンダ?」って、なんか複雑な表情をされることがあるんだよね。ゴールド・パンダって響きに、ユーモラスで可愛らしいイメージがあるからだと思うんだけど、ダーウィン(パンダの本名)の音楽は基本的にはシリアスな音楽じゃない。

パンダ:恥ずかしい。

だから、ゴールド・パンダという名前からこの音楽を想像するには、ちょっと距離があるんじゃないのかなと。

パンダ:そうだね。でも、いま名前を変えちゃうと、何々......(元ゴールド・パンダ)って長くなっちゃうから、もう変えられないんだよ。

なるほど。ところで『ラッキー・シャイナー』は前回の『コンパニオン』発表後に作ったんですか?

パンダ:いや、去年のクリスマスにはほとんどできていたんだよ。でもまだ気に入ってなくて、で、今年の4月から6月にかけて新しい曲を入れて、完成させたんだ。

"ユー"が最初にシングル・リリースされたのはダーウィンの意志なの?

パンダ:もちろん。

〈ゴーストリー・インターナショナル〉から何か言われたんではなくて。

パンダ:すべて僕の意志だよ(笑)。

そうか。

パンダ:オープニングにパワフルなトラックが欲しいと思っていたんだ。それで、まあ"ユー"だろうと。

『ラッキー・シャイナー』は"ユー"ではじまって、"ユー"で終わるんですけど(日本盤はボーナストラックが収録)、曲のタイトルもとても面白い。小説の章立てみたいに読めますよね。だからコンセプト・アルバムなのかなと思って。

パンダ:そう、歌詞はないけど、小説のようにコンセプトがあり、テーマがある。アルバムとはそういうものだと思うから、

で、僕なりにストーリーを推理したんですけど。

パンダ:ふーん。

今回のコンセプトは、恋人の話じゃないかと。

パンダ:トラックのいくつかはそうです。女性に対する歌もあるし、他の人への思いもあるし、実はパーソナルな話で統一されている。

9曲目の"アフター・ウィー・トークト"がすごく淋しい曲でしょ。これを聴いたときに「ああ、ダーウィンはきっと失恋したに違いない」と......

パンダ:何(笑)?

そう思いました(笑)。

パンダ:違うよ。それにはふたつ意味があって、ひとつは、実はフィル(サブヘッド、前回のインタヴューを参照)についてなんだよ。

あー、そうなんだ。

パンダ:6曲目の"ビフォア・ウィー・トークト"とともに対になっている。

うん、なってるよね。

パンダ:以前、eBayでヤマハのキーボードを安く買ったんだ。フィルはバンを運転してくれて、僕と一緒にそのキーボードを取りに行ってくれた。旅する感じでドライヴしてね。車のなかでフィルとずっと喋りながらドライヴしたんだ。そのキーボードのみで作ったのが"ビフォア・ウィー・トークト"と"アフター・ウィー・トークト"なんだよ。で、キーボードはどんどん壊れていってしまうんだけど、壊れていったときに出てきたカスカスの音がドラム・サウンドみたいに聴こえて、だから、それをドラムに見立ててみた。いずれにしても、そのキーボード一台で作った曲なんだよ。

なるほど、面白いアイデアだね。とにかく、曲の背景にはいろんなストーリーが隠されているんだね。

パンダ:その2曲も、フィルへの思いだけではなく、僕たちの日常生活のなかの"話す前(ビフォア・ウィ・トークト)"のハッピーな感覚と、"話した後(アフター・ウィ・トークト)"の寂寥感のようなものを意識しているんだ。だから"アフター・ウィー・トークト"は淋しいんだ。

失恋じゃなかったんだね。

パンダ:違う。

では、アルバムのはじまると終わりが"ユー"なのは何で?

パンダ:より人間の関係性を意識したって言えると思う。実は"ユー"という言葉は出てこないんだけど、音が"ユー"と聴こえるから、そう付けたというのもある。あと、イントロとアウトロじゃないけど、アルバムのブックエンドのようにしたかったんだ。だから、最初と最後をそうした。最初の"ユー"はとても力強い"ユー"で、最後は......まあ、エンディングらしく。

何か隠していることはないですか?

パンダ:はははは。たぶん、いっぱいあると思う。

はははは。あのね、すごく良いアルバムだと思うんだけど、音が、ダブステップ全盛の現在のUKからするとかなり異端というか、流行の音ではないよね。シーンの音に対する目配せはどの程度あるの?

パンダ:マウント・キンビーは知ってる?

まだ知らないんだよね。

パンダ:ダブステップから来ているんだけど、ものすごくUKっぽい音。R&Bやヒップホップに影響されているようなね。

ジェームス・ブレイクみたいな?

パンダ:そう。ジェームス・ブレイクやマウント・キンビーは僕よりも若い世代で、影響もR&Bやヒップホップからで、僕とは違うんだ。彼らはデジタル世代だけど、僕はまだアナログに影響を受けている世代だし、ラップトップで音楽を作ることに何かまだ変な感じがする世代なんだよ。僕の音楽はもっとシンプルだ。

[[SplitPage]]

僕も一時期はフライング・ロータスがとてもクールに思えて、『ロサジェンルス』みたいなビートを作ろうと腐心したこともあったけど、あまりにもその亜流が多いし、僕自身も飽きてしまった。だって、ダブステップの連中だって、多くがフライング・ロータスの物真似じゃないか。

プラグインを使って、わけのわからないものにしているような。

パンダ:彼らはインターネットからコンピュータ・ゲームから、いろんなものから影響を受けている。電話しながら音楽を作れる世代なんだよ。だから彼らの音楽はより複雑になってきているんだろうね。

じゃあ、ちゃんといまのシーンをわかっていて、今回の音にしたんだね。

パンダ:新しい音楽にはつねに興味を持っている。僕も一時期はフライング・ロータスがとてもクールに思えて、『ロサジェンルス』みたいなビートを作ろうと腐心したこともあったけど、あまりにもその亜流が多いし、僕自身も飽きてしまった。だって、ダブステップの連中だって、多くがフライング・ロータスの物真似じゃないか。だったら僕は違うところに行こうと思って、もっとエレクトロニックでミニマルなところを目指したんだよ。古いモノをまた聴き直しているんだよね。

そこは意識してそうなったんだね。

パンダ:今回も、そして次作も、『ロサジェンルス』ビートからはどんどん離れるよ。

ハハハハ。逆に言えばフライング・ロータスはそれだけすごいからね。

パンダ:それはもちろん。"ユー"はちょっと、いかにもいまっぽいウォンキー・テクノな感じを出しているでしょ。でもよく聴けば、BPMもそうだけど、ビートはもっとストレートなんだ。他のトラックでも、似たようなことはしていない。

僕が『ラッキー・シャイナー』を聴いて思い出したのがエイフェックス・ツインの『アンビエント・ワークス』だったんだよね。90年代初頭のエレクトロニック・ミュージックを思い出した。

パンダ:エイフェックス・ツインと言われるのはとても嬉しい。彼の音楽や、あの頃のエレクトロニック・ミュージックは、より感情が反映されて、よりメロディが重視されていた。しかしいまの音って、いかにクレイジーかってところを競っているように思えるんだ。いかにクレイジーなビートを作るかってところが強調され過ぎている。僕はそうじゃなくて、エイフェックス・ツインのように感情を表現できる音楽を作りたいんだよ。

まあ、クレイジーなビートも面白いけどね。

パンダ:エイフェックス・ツインもまさにクレイジーなビートも作っているけど、それだけじゃない。メロディもちゃんとあるでしょ。

2曲目の"ヴァニラ・マイナス"以降も、かならず良いメロディがあるよね。

パンダ:うん、すごく意識したから。僕は"ビート"というよりも"ソング"を目指したんだ。歌詞がなくても"歌"、頭に残るような"歌"を意識した。

あとは......ジャケット・デザインもそうですけど、マルチ・カルチュアラルというか、エキゾティムズみたいなのも意識しているでしょ。インドの楽器を使ったりしているし、内ジャケットに写っているこのおばさんの写真も......これ?

パンダ:僕のおばあちゃんの写真。

えー、そうなんだ。

パンダ:インド人で、名前がラッキー・シャイナー。

えー、そういうことなんだ!

パンダ:スペルを変えているけどね。

エセックスに住んでいるの?

パンダ:住んでいる。

キューバの人かと思った。

パンダ:80歳の誕生日に行ったポルトガルで撮った写真だよ。

へー、それで"クイッターズ・ラガ"や"ユー"もインド音楽をチョップしてたんだね。言われてみればダーウィンもインド系の顔してるもんね。

パンダ:鼻とかとくにね。

[[SplitPage]]

おばあちゃんは英語を話せなかったし、おじいちゃんはヒンドゥー語を話せなかった。それなのにふたりは恋に落ちて結婚した。それがすごく大きい。もちろんおばあちゃんとおじいちゃんはまだ一緒にいるし、そういう環境で育ってきているから、僕にとっては"結婚"ってすごく良いものに思える。


Gold Panda / Lucky Shiner
E王 Yoshimoto R&C

AmazoniTunes

今回のアルバムとおばあちゃんの関連性について話してください。

パンダ:おばあちゃんの関係している曲は3曲あるけどね。"ペアレンツ""マリッジ""インディア・レイトリー"ね。

とくに"マリッジ"は良い曲だよね。

パンダ:自分にとって"結婚"はまだ考えられないんだけどね。ただ、おばあちゃんは英語を話せなかったし、おじいちゃんはヒンドゥー語を話せなかった。それなのにふたりは恋に落ちて結婚した。それがすごく大きい。もちろんおばあちゃんとおじいちゃんはまだ一緒にいるし、僕のファミリーで結婚した人たちはいまもずっと一緒にいるんだ。そういう環境で育ってきているから、僕にとっては"結婚"ってすごく良いものに思える。僕はまだ結婚しないけど。

まあ、若いからね。

パンダ:若くない。もう30歳だよ(笑)。

じゃあ、このスリーヴ・デザインは?

パンダ:そこはおばあちゃんは関係ない。それは僕自身でデザインした。古いレコードのカヴァーをつなぎ合わせて作ったんだよ。だから、レコード盤の跡が見えるでしょ。

ああ、ホントだ。

パンダ:音楽も古い音源や古い機材で作っているし。

そういえば、イギリスでの評判もずいぶんと良いみたいだね。新聞(インディペンデント紙)の日曜版の表紙まで飾ったなんてすごいじゃないですか。

パンダ:とても変な気持ちだよね。

しかも「Next Big Thing」という見出しでしょ。

パンダ:うーん、ホント、変な気持ち。お母さんが喜んでくれたのが良かったけど。

しかもこの音楽をいま発表するのって、"賭け"っていうか、まあ、挑戦でだったわけでしょ?

パンダ:そう、なんでこんなに評判になっちゃったのか、自分でもわからないんだけどね。

とくにUKに住んでいたら、あれだけダブステップが盛りあがっているんだから、もっとウォブリーなベースがあるようなさ......。

パンダ:ね、僕の音楽にはベースがないでしょ。

だよね。それを考えると勇気のある挑戦だったと思うんですけどね。

パンダ:僕はただ他の人と同じことをしたくないだけで、勇気があるというのか、もしくはただのバカなのか......。

はははは。ホント、でもチャレンジだったんだよね?

パンダ:うん、そう。だけど、もし評判が悪かったら......ってことを考えると......。

だから"ユー"を最初にシングルにしたのも、すごく意識的にやったんじゃないんですか? 東京でもあのシングルは評判になったんですよ。ただし、"ユー"はいまの流行との接点がある曲だったからね。

パンダ:次のステップというのはすごく意識した。過去の作品で自分で誇りを持っていたのが"バック・ホーム"と"クイッターズ・ラガ"だったし、その2曲を発展させて、しかもインドの感覚をちょっと混ぜてって。

そして、2曲目以降がダーウィンがホントに聴かせたかった音楽が展開されている。とくに2曲目から4曲目の流れが良いよね。3曲目がまたおかしいよね。あれ、ギターのサンプリング?

パンダ:違うよ。あれは僕が弾いているの。自分をサンプルしたんだよ。

チューニングも狂っているし、子供がギターを触っているのかと。

パンダ:ギターのことをぜんぜん知らないからね。

アヴァンギャルドだね(笑)。

パンダ:はははは。才能がないだけ。

でも、すごく好きだよ、"ペアレンツ"っていうそのギターの曲。

パンダ:シャッグスって知ってるでしょ。

はいはい、60年代末の。

パンダ:あれに影響されたんだ。

なるほどね。

パンダ:弾けなくてもやればいいんだと、彼女たちが教えてくれたんだ。

では、最後にダーウィンがもっとも興味のある音楽を訊いて今回の取材は終わりにしましょう。

パンダ:そんなに変わってないよ。レーベルで言えば〈ラスター・ノートン(Raster-Noton)〉。アーティストで言えば坂本龍一も一緒にやっているアルヴァ・ノト(Alva Noto:カールステン・ニコライのプロジェクト)。この人はホントにすごいと思う。どうやって作っているのかまったくわからない。もうひとつはブルックリンのレーベルで〈12K〉。ここから出ているのもすごく良いね。

Kazuhiro Abo - ele-king

最近美味しかった音楽(順不同)


1
DJ Nate -Da Trak Genious -Planet Mu

2
Funkineven - Heart Pound -Eglo

3
Mange Le Funk -I Still Want You(Gramophonedzie Remix) -OXYD

4
Rune And Jerome Sydenham -Aqua Boogie -Avocado

5
Dyno -Robottino -Hell Yeah

6
The Backwoods -Midnight Run -Ene

7
Planetary Assault Systems -GT (James Ruskin Remix) -Mote Evolver

8
okadada - Fictional Dawn -Maltine Records

9
Ice Dynasty -Fresh (GUNHEAD REMIX)

10
韻踏合組合 -前人未踏 -IFK Records

tomad - ele-king

Chart by JAPANICA 2010.09.02 - ele-king

Shop Chart


1

BLAST HEAD

BLAST HEAD IN WATER DISCO RUDIMENTS / JPN / 2010/9/1 »COMMENT GET MUSIC
高揚感/疾走感を掻き立てるベース・ラインにフルート、サックス、パーカッション等がワイルドに絡み合いトライバル感覚溢れるアフロ・ファンクな 激烈ダンス・グルーヴ"IN WATER DISCO"はアルバム中でもハイライトとなっていた一曲でほんとヴァイナル化を待ち望んでいた方も多いのでは!?そして本盤はさらにC/Wにマルチ・プ レイヤー=GLYN BIGGA BUSHによるアフロ・ブレイクビーツ・リミックスを収録!こちらもオリジナル・ヴァージョンのテンションそのままにクロスオーヴァーした土着的な鳴りを 響かせる絶品リミックスに!

2

HOLGER CZUKAY

HOLGER CZUKAY PERSIAN LOVE CLAREMONT 56 / UK / 2010/8/24 »COMMENT GET MUSIC
クラウト・ロックの伝説グループCANのベーシストであり、バンド解散後も活発なソロ活動を続けきたHOLGER CZUKAYが1979年にリリースした傑作アルバム「MOVIE」に収録、美しいギターの旋律と短波ラジオから流れてきたコーランやノイズをテープ・コ ラージュしたこの曲は、日本でもかつて、あのスネークマンショーの「戦争反対」に収録されたり、「サントリー・ウィスキー角」のCMに使われて大 ヒットした一曲。今回もゴールド・ヴァイナル&特色印刷ジャケという豪華仕様!

3

BING (a.k.a. カジワラトシオ)

BING (a.k.a. カジワラトシオ) DISCOTECA MAHAMID SLEEPING BUGZ / JPN / 2010/8/29 »COMMENT GET MUSIC
<SLEEPING BUGZ>が新たに贈る新ミックス・シリーズ「A NIGHT FOR STRANGERS」第1弾にBING(a.k.a. カジワラトシオ)が登場です!前2作とは対照的に実験的であり、また好奇心に溢れたタイトル通り「STRANGERS」の為の音楽をリリースするという当 シリーズ。70~80'Sあたりのロック、ディスコ、エレクトロに辺境グルーヴなどを、独特の空気感を放ちつつじっくりと煮込んでいくような、、そんな燻し銀ミックス・ワークで知らず知らずのうちにどっぷりとハメられてしまう危険な一枚!凄過ぎます!

4

DJ NATURE

DJ NATURE FOGGY MONDAY MORNING / FEELING LIKE A WOMAN GOLF CHANNEL / US / 2010/8/17 »COMMENT GET MUSIC
<GOLF CHANNEL>よりまたまたどヤバイ新作2タイトルが緊急リリース!お得意のエレピやサックス・ソロ等が軽やかに鳴り響き全体を通し淡いジャズ・ヴァイブスが覆うディープ・ジャズ・ハウス"FOGGY MONDAY MORNING"は清涼感とドス黒さが同居したくそヤバイ一発に!そしてC/Wにはパーカッションにマリンバ、フルート等が織り成す土着的ビートダウン・ グルーヴ"FEELING LIKE A WOMAN"を収録!

5

DJ NATURE

DJ NATURE EVERYONE / NEIGHBOURHOOD NOVELTY GOLF CHANNEL / US / 2010/8/17 »COMMENT GET MUSIC
<GOLF CHANNEL>よりまたまたどヤバイ新作2タイトルが緊急リリース!ポエトリー風のサンプルを配しディスコ/ヒップホップ感覚での展開に中盤のトランペット・ソロがまた違った側面で渋味を効かせるジャジー・ブラック・ハウス"EVERYONE"!C/Wは躍動的なベース・ラインにメリハリのあ るキック/ハットで構成されたトラック上にエレピやヴォイス・サンプルのエフェクティブな演出が随所に光るこちらも至高のブラック・ジャズ・ハウ ス"NEIGHBOURHOOD NOVELTY"!

6

SYLVIA STRIPLIN

SYLVIA STRIPLIN GIVE ME YOUR LOVE UNIVERSAL SOUND / UK / 2010/8/30 »COMMENT GET MUSIC
黒人女性ジャズ/R&Bヴォーカリスト=SYLVIA STRIPLINのROY AYERSプロデュースによる81年リリースの唯一のソロ・アルバム「GIVE ME YOUR LOVE」が重量盤2LPでオフィシャル・リイシュー。ディスコ・クラシック"GIVE ME YOUR LOVE"をはじめ、サンプリング・ソ-スとしてもお馴染み、最近ではERYKAH BADUがまんま使用したメロウ・クラシック"YOU CAN'T TURN LOVE AWAY"等、全編に渡りROY AYERSサウンドとSYLVIA STRIPLINのヴォーカルとが抜群の相性で織り成す80'Sディスコ傑作盤です!

7

CRUE-L GRAND ORCHESTRA

CRUE-L GRAND ORCHESTRA (YOU ARE) MORE THAN PARADISE INCLUDES THEO PARRISH REMIX CRUE-L / JPN / 2010/8/13 »COMMENT GET MUSIC
CRUE-L GRAND ORCHESTRAの来るサード・アルバム「CRUE-L GRAND ORCHESTRA III」収録曲でもあるPORT OF NOTES"(YOU ARE) MORE THAN PARADISE"のカヴァーをTHEO PARRISHがビートダウン・リミックス!原曲のサウダージな質感を残したまま見事ダンス・トラックへと昇華させたグレイト・ワークス(しかも2ヴァージョン収録!)で今後全国各地のフロアを彩ること請け合いの逸品です!DJ HARVEYも絶賛、2010年を代表するビッグ・リリースです!

8

SAGARAXX

SAGARAXX FLOATING POINT RUDIMENTS / JPN / 2010/9/1 »COMMENT GET MUSIC
世界規模での広がりと進化をし続けるエレクトロニクスにフォーカスしたビート・ミュージックを中心に、あくまでDJ視点によりセレクト/ミックス を施した本作。決して派手にはならず、さりげないミックス・ワークによりしっとりとクールな空気感を演出し、最後までぶれることなく保たれる芯の 通ったグルーヴ感が覆う、まさにセレクトされた楽曲郡を完全に自分の世界観の中で昇華してしまった傑作と呼ぶに相応しいスゴすぎる作品!マスタリングは盟友でもあるお馴染み京都の才人KNDが担当です!

9

GILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BAND

GILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BAND ROFOROFO FIGHT (LOUIE VEGA REMIXES) BROWNSWOOD / UK / 2010/8/20 »COMMENT GET MUSIC
モダン・キューバン・ミュージックの傑作コンピレーション「HAVANA CULTURA」収録のGILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BANDによるFELA KUTI"ROFOROFO FIGHT"のキューバン・ジャズ・カヴァーをさらにLOUIE VEGAがサルサ・テイストで軽快なダンス・ナンバーへとリミックスした逸品!程よいBPM、テンションで展開するまさに場所を選ばずオールタイムで使え る至極のリミックス・ワークです!

10

七尾旅人 × やけのはら

七尾旅人 × やけのはら ROLLIN' ROLLIN' P-VINE [JPN] / 2010/9/2 »COMMENT GET MUSIC
アーバン・メロウ最高傑作"ROLLIN' ROLLIN'"奇跡の再発!先頃リリースされたアルバムが話題を集めている両雄、七尾旅人とやけのはらによる奇跡の名曲"ROLLIN' ROLLIN'"が待望の再プレス!今回は前回未収録のリミックスも3VER.収録!そしてジャケットはもちろん、菱沼彩子(東京BITCH)!前回も瞬 く間に市場から姿を消しましたが、今回も初回限定生産なので激レア化間違いナシ!

Den (Trapez / Op.disc) - ele-king

Summer 2010(alphabetical order)


1
Cassy - Seteachotherfree - Perlon

2
La Pena - La Pena #7 - La Pena

3
Lb/Ko - Fre/Dad - Pup Music

4
Mark Henning & Den - La Galaxia Llorona - Trapez Ltd

5
Melchior & Pronsato - Puerto Rican Girls - Smallville

6
Now This Is Congo - Tribal Gathering - Sacred Rhythm

7
STEREOCiTI - Cosmoride - Mojuba

8
STL - Traveling Dubs And Echoes - Echocord

9
Various Artists - The Helping Hand - House Is The Cure

10
Yaya - Ca Na Negretti - Carnibal

Sonic Weapon (AUDI.) - ele-king

Hot Music Chart 4 Summer 2010


1
Ben Mays - Summer Afternoon - Voodoo

2
Anthony Nicholson - Tell Me A Bedtime Story - Space Station

3
The Sylvers - The Sylvers - Pride

4
J Dilla - Safety Dance - Stones Throw

5
Webster Lewis - Barbara Ann - Epic

6
Nick Holder - Sometimes I'm Blue - !K7

7
Irakere - El Tata - Areito

8
Taylor McFerrin - Broken Vibes - Rude

9
Os Borges - Os Borges - EMI

10
The Godson - Analog Love - Rush Hour

[Dubstep/Drum & Bass ] by Tetsuji Tanaka - ele-king

1. Benga / Stop Watching/Little Bits | Digital Soundboy -main stream / post dubstep-


iTunes Store

 UKアンダーグラウンドでは、確実にダブステップが現在の舵取りを握っているわけだが、シャイFX主宰の〈デジタル・サウンドボーイ〉もその方向性をシフトしつつある......そのリリースをダブステップやファンキー中心に切り替えたのもそれを裏付けていると言えよう。源に、このままドラムンベースのみのリリースに限界を感じてきたのであろうことは、悲しいかな......世界中でそのシーンに対して起こっているわけだ。
 
 このレーベルのドラムンベースと言えば 、2008年の代表的な作品のひとつとして語られてるMCシステムの「ニアミス」がしばしあげられ、ディープ・コアなトレンドを作った作品でもあった。2007年〈クリエイティブ・ソース〉から発表された変則ディープ・アンセム、リンクスの"ディスコ・ドードー"によって現在のディープ・フロウなムーヴメントが本格化し、次世代のディープ・スター、コミックスやDJフリクション率いるショーグン・オーディオ・クルーなど、シーンを賑わせていき、現在を象徴する母体となったのである。ダブステップに押されているとはいえ、マーキー&スパイの"リフラフ"やホセ・ジェイムス"ウォリアー"のリミックスによっていちやく注目されたプロデューサー、ロックウェルの「ストーワウェイEP」など、トレンドを意識した無機質なピュア・ビートをレーベルに落としこんでいる。

 ここ最近の〈デジタル・サウンドボーイ〉のダブステップサイドのリリースはスクリーム、ブレイケージのダブステップ・リーダーやブリストルのTCと並ぶジャンプアップ・マスター、DJクリップズのUKファンキー・プロジェクト、レッドライト、などがある。
 そして、今回のベンガに続くのだが......その前に、7/30FUJI ROCK、7/31DBSにてスクリーム&ベンガが待望の再来日する。昨年、満員御礼となった2月の熱狂的なステージから早1年半、UKエレクトロニック・ミュージック界の代表的な存在にまで上り詰めた彼らの人気は世界中でさらに加速......もはや2010年代のダンス・ミュージックを牽引していくであろう彼らの多才なサウンドは、いまだ不確定かつ未知の変化に富んでいる。若さゆえの貪欲な吸収性がそうさせるのであろうが......日々、変化を好むUKエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、ダブステップ・オリジネーターたちが、ダンスフロア・アンセムなウォブリー・サウンドに嫌気がさし、ポスト・ダブステップを生み出した。またそこからすぐに枝分かれしていくのは、他のジャンルが同じような道を通ったように容易に想像できる。重要なのは、そこではなく、つまりどうような音楽性にダブステップが今後変わるのかであろう。さらにシンプルでミニマルなサウンドを追求していくのか、やはり若い世代によってダンスフロアの再燃が起こるのか、筆者は、ポスト・ダブステップ以降、おそらく初期のヘヴィーで硬質サウンドな状態に戻っていき、よりテクノ・インフルーエンスな作品が増えていくと思うのだが......1年後が楽しみだ。
 
 ベンガもまた現在のポスト・ダブステップの風潮に足を踏み入れつつあるのは、最近のリリースによって感じられる。スクリームの近日発売のニュー・アルバム『アウトサイド・ザ・ボックス』も然り。しかし、彼らはそのちょうど中間地点にいるサウンドで意欲的なチャレンジを続けていると言える。このシンプルで不確かなサウンドこそ彼らのテクニックであり、爆発的人気の秘密なのかもしれない。それをたしかめに数ヶ月後のリリースが控えているダブプレートの嵐を生のステージで体感すべきだ。

2. Instra:mental / End Credits | Nonplus Records-electronic / drumstep / post dubstep-

 どうしても毎回、原稿の随所で登場させてしまうポスト・ダブステップというサブジャンル。野田さんも本サイトの原稿で取り上げていたが、さまざまな音楽媒体で今もっとも注目され"旬"なムーヴメントであるのだが、現在のエレクトロニック・ミュージックの最先端は、やはりここにあるとまたしても感じる。以前、サウンド・パトロールでも紹介した〈ノンプラス〉、そして、インストラ:メンタルの今作、シリアルナンバー入り500枚限定10インチ「エンド・クレディッツ」 だ。チルアウト・ドラムンベース~バレアリック・サウンド~ディープ・ミニマル~ポスト・ダブステップを縦横無尽に駆け抜けるインストラ:メンタルだが、今日のダブステップ(アトモスフェリック・プロダクション側)発展を大きく彩る象徴的な必然変化、いわば"ドラムステップ"が、ここに存在すると言っていい。
 明らかにダブステップのオリジネーターたちとは交わらないサウンド・シンフォニーは、やはり出発点がドラムンベースだからであろう。ドラムンベースからの視点を持ってしても、時折不可解な印象(新感覚なテクノ・ステップいやエレクトロニカ・ステップ)を持ってしまう作品......そこが聴くものをより引き込みのめり込ませるのだ。日々シーンがネクスト・レヴェルへ向かうなか、新たなダウンテンポ・ミュージックに辿り着いた作品かもしれない。 デジタルが先行しつつあるシーンの現状にあって、この作品はアナログで聴くことを推奨したい。デジタルでは、感じ得れないそれが持っている調和のとれた"質感"が大いに発揮されているからだ。 

 その「エンド・クレディッツ」は、盟友Dブリッジとの共作によるミックスで新たな共同レーベル名〈オートノミック〉を冠にしたファブリックライヴ50に先行で収録されていた。このミックスは、全体的にメロウなラウンジ・テイストで見事なまでにドラムンベースとダブステップが、中間地点で融合したまったく新しいものになっている。その冠名にもなった〈オートノミック〉は、ポッドキャスト・シリーズとして好評を博し、次世代のロジカル・ステップとしてファブリック・ミックスへと繋がったのだ。そして5月にアナログ第一弾としてもスタートし、Dブリッジ、インストラメンタル&スクリームの何とも豪華布陣による「アカシア・アベニュー/デトロイド」を発表したのであった。
 先程、アナログで聴いてほしいといったが......この素晴らしい音は、アナログカット10インチの500枚限定品であるため、お早めに。この連載がアップされている頃には、すでに手に入らなくなってしまっているかもしれないが。
 それにしてもアナログは素晴らしいとあらためて感じた。さらに、〈ノンプラス〉の次のリリースはASC(エーエスシー)のアルバムへと続く......。

3. Komonazmuk / Dance Too (LEE JONES RMX) | Apple Pips

-tech dubstep / deep tech house-


iTunes Store

 インストラ・メンタルがドラムンベースとダブステップの境界を跨いでいるとすれば、このアップルブリム率いる〈アップル・パイプス〉は、テクノ/ミニマルとダブステップ/UKガラージを跨いでいる代表的なレーベルのひとつだと言える。 
 レーベルの1番は、マーティンからはじまり、アップルブリム&ペヴァーレリスト、T++、ラマダンマン、ブラックルス、インストラメンタル、アル・トーレッツ等々......いまから思うとポスト・ダブステップも予見していたラインナップで、レーベルの方向性がいまのトレンドを生み出したレーベルである。アップルブリムの音楽性は、得体の知れないブラック・マジック(黒魔術)のようなオカルト・ダブステップ〈スカル・ディスコ〉を通り、テクノ・ダブとポスト・ダブステップ/ガラージを融合した形が〈アップル・パイプス〉なのだ。近年のレーベル・リリースは、よりシンプルでミニマル・ライクな作品が圧倒的多数を締め、さらにトライバルでテック・ガラージな音楽性を推し進めるなど独自のポスト・ダブステップなサウンド形態を追求している。

 さて、コモナズムックだがアップルブリム同様ブリストルのアーティストで、2007年、ダブステップでデビューしている。が、彼のキャリアは、もっと古い。〈ムーヴィング・シャドウ〉、〈テック・イッチ〉、〈ハード・リーダース〉周辺のドラムンベース・レーベルでハード・エッジなドラムンベースをリリースしていた4人組、アイス・マイナスのひとり、ケイラン・ロマックスなのである。アイス・マイナス名義では、1998年~2004年まで活動後、コモナズムック名義にシフトし、ダブステップ・アーティストとして彼は成功を果たしたというわけだ。ドラムンベースで培われたダークでインダストリアル・ハード・エッジなテッキーサウンドを操り、トップ・プロデューサーとしてのし上がっていったのである。

 筆者のお気に入りは、ジェイクス主宰の〈ヘンチ〉より2008年発表された"バッド・アップル"だ。エレクトリックなシンセ群がオートメーション機能により右往左往するテクノ・トラックで、幅広く支持された彼の代表曲である。今作"ダンス・トゥー"でもテクノ・ダブとしても機能する重低音トラックにスライトリー・ダブなシンセがリヴァーブする漆黒のグルーヴでダブステップが本来持っているヘヴィな芯が感じられ、バッド・トリップを引き起こす。フリップ・サイドは、アップルブリムと〈AUSミュージック〉主するウィル・ソールとのコラボレーションでお馴染みのリー・ジョーンズがサポート。秀逸な4つ打ちのディープでダビーなテック・ハウスで、テクノ・シーンでもスピンしてほしい作品だ。

4. LV & Quarta 330 / Dong / Hylo / Suzuran(LV & Quarta 330 Remix)
| Hyperdub -electro dubstep-


iTunes Store

 ちょっと掲載が遅くなったが......6月のダブステップ会議パート2にて素晴らしいライヴを披露してくれた〈ハイパー・ダブ〉から、デトロイト新世代のカイルホールのリリースに続き、日本を発信源としたダブステップ・アーティスト、クオーター・330の作品を紹介しよう。

 リキッドでエレクトロなゲーム音シンセが代名詞な彼の作品だが、コード9がその才能を認めた唯一の日本人アーティストとして、数々の音源を〈ハイパー・ダブ〉からリリースしている。それをダイレクトにライヴ演奏で伝えているその手法も各方面から高い評価を得ている、まさに新世代を代表する日本人アーティストと言えるだろう。今回はLVとのコラボレーションだが、LVといえば、ラガでダビーなエレクトロ・ダブステップを傾倒したり、UKルーツ・シーンのヴォーカルをフィーチャーしたりと素材のオーガニック感を重視するアーティストとして知られる。両曲とも、両者の良さがちょうど真んなかあたりで細かく重なり合うダブステップらしさが生きたメランコリックなハイパーダブの模範的エレクトロ変則ビートと言ったところで、YMOやアフリカ・バンバータ辺りにインフルーエンスを受けているクオーター・330の音楽性が何だか妙に頷ける作風である。ポスト・ダブステップと言う流行など微塵も感じさせない彼らのオリジナル性が、コード9を虜にさせるのであろう。ブリアルがそうであったように。

 話が最初に戻るが、そのダブステップ会議パート2で、野田さんとディスクショップ・ゼロの飯島さんが、メイン・パーソナリティーで最新リリースの紹介や若手DJ/プロデューサーとの熱を帯びたトークを繰り広げられたようで好評を博した。これは私見だが、いまのシーンをダイレクトに伝えるならもうちょっと回数を頻繁にやってほしいと思う。画期的で素晴らしい企画であり、いまもっともホットなジャンルをみすみす放っておく手てはないだろう。ele-kingのようなアンダーグラウンド・シーンの"核"を突いているサイトと連動しているならさおさらだ。ローファーがインタヴューで話していたこと「最初のイヴェントなんか、20人ぐらいしかいなかったよ。そこにいまのダブステップ・オリジネーターたちがみんな居たけど」を日本でも再現できる最適なヴェニュー〈DOMMUNE〉もあるのだし......。

5. Ramadanman / Fall Short/Work Them | Swamp 81 -post dubstep-


iTunes Store

 野田さんとダブステップ界隈の話をすると必ずと言っていいくらいラマダンマンの話題になる。相当好きらしい......と言うか筆者もだが。〈ヘッスル・オーディオ〉主宰でポスト・ダブステップをリードしてきた重要人物だからなおさら注目しているのである。
 とにかく彼はいま、各方面からアプローチされまくっている。ダブステップ・シーンは言わずもがな、テクノ、ハウス、クラブジャズ、そしてドラムンベースの各主要なエレクトロニック・ダンスミュージック・シーンなどからだ。いろんなところで注目されるだけあって彼のプログラミング・スキルは、いたってシンプルながら多様性に耐えうる自身のフォーマットを有している。どのシーンに行ってスピンしても、"ハマる"曲を量産し、認められ続ける彼はある意味凄い。しかも20代前半のプロデューサーだからおそれ入る。なかには、味気ないと感じるものもあるが、そういう曲はテクノ・シーンでウケるし、ガラージ・テイストな変則2ステップみたいな曲はハウス・シーンでウケる。アシッド・ハウスなテイストもあるし、ブロークンビーツ、時折レイヴ・ジャングルなアーメンも組み込む。UKアンダーグラウンドの音楽性を掻き集め、集約したハイブリッドな才能を彼は持っている。
 
 このA面の"フォール・ショート"も確実にテクノ・シーンでも活躍できるDJユースなダブ・ファンクだ。逆サイドは、〈スワンプ81〉のオーナー、ローファーがDBS来日時にかけていたグライム風ヴォーカルをループしたルードボーイ感溢れるスワンプ・アンセムで、これまたインプレッシヴなバウンシー・トラックに仕上がっている。

 その〈スワンプ81〉のローファーと言えば、やはり〈DMZ〉が真っ先に浮かんでくるだろう......その〈DMZ〉から遂にリリースとなったマーラとコーキのユニット、デジタル・ミスティックズのファースト・アルバム『リターン・2・スペース』。おそらくマーラの単独制作によりアナログ・オンリーでリリースした初期DMZを彷彿とさせる重低音ダーク・スペイシー・トラックだ。本当に多くの人が待っていたアルバムで、叙情的なシンフォニーとアトモスフェリックな空間センスが解き放たれた傑作である。

 レゲエにインスパイアされているマーラが、レゲエ・セレクターの象徴であるダブプレート文化を守る数少ないDJとして、そのアルバムを彼らしくアナログ・オンリー(現時点では)でリリースしたことに敬意を表したい。デジタルやダウンロードでは得られないリアルな"物"がここに存在しているのだから。

6. Rregula & Dementia feat Miss Redflowe / Last Hope / Dizgo | Icarus Audio

-neuro funk / drum&bass-


iTunes Store

 個人的な話ではあるが、6月~7月は何かと不調であった。体調が良くなかったり、仕事で転機が訪れたり、DJブッキング、制作に追われ多忙がたたってそうなったのだが、この曲を聴いたお陰でかなり調子を取り戻した。久々に筆者好みのドラムンベースで爽快なランニング・チューンがリリースされたのである。

 レギュラ&ディメンティアは、オーストラリア出身のニューロ・ファンクを支持する若手有望株のプロデューサーだ。レギュラは以前、同じくオーストラリアのフェスタとのユニット、バッド・ロボットとして、2006年にドラムサウンド&ベースライン・スミスのメインストリーム・レーベル〈テクニーク>から「マスターズ・オブ・マイト/シーケル2」、〈ブラック・サン・エンパイアー〉から「フォーエヴァー」を発表し頭角を現す。その後、2007年(音楽性の違いによるのか?)ユニットの活動停止にともない、個人名義やディメンティアと組む機会が増し、いまの音楽スタイルに定着したのであった。

 オーストラリア、ニュージーランドのオセアニア地区は、ペンデュラム、コンコード・ドーン、ステート・オブ・マインドなどが独自の音楽性(ロッキン・サウンドやニューロ・ファンクのブームを作った)を打ち出し、UKやオランダに匹敵するドラムンベースが盛んな地域に発展させたのである。

 今作をリリースした〈イカロス・オーディオ〉だが、USの新鋭レーベルでレギュラ&ディメンティアが看板アーティストとして一翼を担っていると言えよう。A面でフィーチャーしたのは、ベルリンの紅一点、ミス・レッドフラワーとのコラボで、幻想的なヴォイスを披露している彼女は、DJ/プロデューサー/ヴォーカルもこなすマルチな才能を持ち、いまもっとも注目の女性ドラムンベース・アーティストだ。女性だからといって、まったく物怖じしないドライブ感溢れるニューロ・ファンク/サイバー・ファンクなDJで軒並みフロアをロックしているらしい......いつしか筆者も共演してみたいものだ。

 この作品の特質すべきは、ダブル・ドロップ(ロングミックスのブレンド状態)のときに出力される出音が並ではなく飛躍的に伸び、爆発的なドライヴ感が体験できるのだ。この状態を筆者は、"ドライビング・シンドローム"と呼んでいるのだが......いろんな曲でミックスを試した結果、驚くほどそれは良く聴こえるのである。やはりこれはフロアで体感して頂きたい。しかもアナログでないとこの出音は体感できないだろうことは、当然である。

Funki Porcini - ele-king

 昔......何年前だろうか、ヨーロッパを列車で旅したことがあった。長い時間をかけてアムステルダムからドイツを南に下っていく列車に乗ったとき、同じ席になった老人と話していたら、「ヨーロッパを旅するならイタリアに行け」と繰り返し言われたことがあった。「ドイツなんかにいることはないだろ。イタリアに行け」、彼はなかば呆れた顔で、その根拠について懸命に説いたものだった。結局、イタリアにはいまだに行ったことがないのだけれど、ファンキ・ポルチーニだったら迷うことなくイタリア行きの飛行機に乗っている。

 ポルチーニは、イタリア料理が好きな人ならよく知っているキノコの名前で、このイギリス人は実際にローマに住んだこともあって、自分の作品のいくつかの曲名にもイタリア語を使っている。イタリア好きのイギリス人がいても珍しいわけではない。昔、日本好きのベルギー人にフランスとベルギーの国境沿いで出会ったことがあるが、彼女は僕に日本の煙草の銘柄をいくつか喋り、いかに自分が日本について詳しいか自慢したものだったが、珍しさで言えばこっちだろう。

 芸術的な観点から言っても、ファンキ・ポルチーニはUKヒップホップ界においても珍しいタイプではない。トリップホッパーとして知られた彼の1995年のファースト・アルバム『ヘッド・フォン・セックス』、そして翌年の『ラヴ、プッシーキャット&カーレックス』(愛、カワイ子ちゃん、そして事故車)は、人生をシリアスに語る日本のヒップホップから見れば珍奇な......というか実にふざけた音楽かもしれないが、この当時のUKの連中はヒップホップからの影響とその情熱をまったくナンセンスでバカバカしい事柄に注いでいた。その最高の拠点が〈ニンジャ・チューン〉だった。

 〈ニンジャ・チューン〉が日本で売れないのはもう仕方がない、文化が違うとしか言いようがないと思っている。DJクラッシュの影響下で日本で盛りあがったことのあるアブストラクト系(つまり、欧米で言うところのトリップホップのことだが)と呼ばれた連中の音楽は、ファンキ・ポルチーニと同じ影響下(ブレイクビーツやドラムンベース、あるいはファンクやジャズ、等々)で生まれながら、しかしまあ、良くも悪くもシリアスだった。洒落の入り込む余地はなく、言葉は悪いかもしれないけれど、眉間にしわの寄った音楽だった。そういう音楽は日本では人に勇気を与える。ファンキ・ポルチーニを聴いたところで、まったく勇気なんて湧いてこない。

 ファンキ・ポルチーニは、極めてイギリスらしい展開なのである。ルーク・ヴァイバートやスクエアプッシャーなんかとも近い。言うなればブレイクビーツ・ミュージックの変化球だ。1999年の3枚目のアルバム『ジ・アルティメイト・エムプティ・ミリオン・パウンズ』(最終的に空の100万ポンド)は、音楽的には行き詰まっていたが、そこを風刺精神で乗り切ろうとしたところもイギリスらしい。そして、2002年の4枚目のアルバム『ファスト・アスリープ』によってファンキ・ポルチーニはそれまでの手法と決別し、ジャジーでアンビエント調の曲のなかに自分の将来を託したのである。微笑みを忘れることなく。

 8年ぶりに見るファンキ・ポルチーニの名前に喜びを覚える人は、5枚目のアルバム『オン』を間違いなく好きになるだろう。何も変わっていないし、まったく変わったとも言える。その本質は同じだが、音楽性はずいぶんと変わったのだ。そしてより良く変わったのだ。

 ムーグ博士へのオマージュ、"ムーグ・リヴァー"なる曲でアルバムははじまる。曲中では、ヘンリー・マンシーニの有名な"ムーン・リヴァー"のメロディが演奏される。ファンキ・ポルチーニらしく微笑ましいはじまりで、それはこのアルバム全体の楽天性を象徴しているようでもある。2曲目の"これは生きる道ではない"はフィルムノワール調のお約束通りのトリップホップだが、ファンキーなビートに優美なピアノ演奏が絡む"ベリーシャ・ビーコン"、あるいはクラスター&イーノを彷彿させる"取るに足らない午後"や"第三の男"といった曲はこのアルバムの目玉として特別な響きを持っている。とくに"第三の男"の上品なアンビエントはロマンティックでさえある。"明るい小さいもの"や"フェルナンド・デル・レイの魔法の手"といったジャジーな曲もアルバムに適度な活力を与え(その演奏が生演奏なのかサンプルなのか、明記されていない)、8年ぶりの新作がなかなかの名盤であることを保証づけている。10点満点で言えば、8点以上のできだ。

 このアルバムを聴いたところで勇気が湧いてくるわけではない。その代わりと言っては何だが、陶酔と微笑みが待っている。ワインを飲みながらキノコを食べよう。

interview with Anchorsong - ele-king


Anchorsong /
The Lost & Found EP(DVD付)

Lastrum

Amazon

 それは愚直なまでに直球な音楽のように思える――アンカーソングのことを教えてもらって、初めて聴いたときそのストレートさにたじろいだ。彼の音楽はテクノ、ハウス、ヒップホップのブレンドだが、ジャジーな曲をやろうがアシッディな曲をやろうが、アンカーソングの音楽はまったく直線的なのだ。
 それは複雑になりすぎたダンス・ミュージックが失ったものかもしれない。とにかく......、ジェイムス・ブレイクやアクトレスのような乱雑さが騒がれているこのご時世のエレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンにおいて、あるいはまたチルウェイヴの徒労感が人気を博しているような、そして他方では世界の終わりのような"憂鬱"が10代のあいだで大きな共感を得ているこの国において、彼の真っ直ぐさは例外中の例外と言える。
 アンカーソングは売れている。業界的にはほとんど無名に近いであろう彼の作品は、出せば1万枚以上を売っている。インストゥルメンタルのエレクトロニック・ミュージックとしては決して低い数字ではない。彼の作品は多くの耳を動かしているが、彼が集めているのは"若い"耳だ。
 ロンドンで暮らすアンカーソングは、この2年半、ご当地のクラブ・カルチャーに身を浸しながら、そのトレンドに左右されずに音楽を作っている。それも......愚直なまでに直球な音楽を、だ。それは情熱のほとばしりのようなものの具現化なのだろう。多くのリスナーを惹きつけている彼のライヴ・パフォーマンスを観ると、それがよくわかる。「オレのほうを見ろ」、と彼は言っているのだ。
 
 アンカーソングこと吉田雅昭が音楽活動をはじめたのはいまから6年前の2004年のことだった。MPCを使いながら、その場で打ち込みをしていくそのライヴ・パフォーマンスによって頭角を現してきた彼は、2007年5月にDJ三木祐司による〈Tailgate Recordings〉からデビュー・シングル「The Storytelling EP」を発表している。そしてそのわずか5ヶ月後の2007年の10月、アンカーソングは活動の拠点をロンドンに移すのだ。
 ロンドンでも彼は地道に活動を続けながらシーンの共感者(The Go! Teamからザ・シネマティック・オーケストラ、もしもしレコードのジェイムス・ユールまで)を増やしつつある。2009年にはセカンド・シングル「The Bodylanguage EP」を発表、続いて今年の6月に3枚目のシングル「The Lost & Found EP」を発表している。新しいシングルも、先の2枚と同様にロングセラーになりそうな勢いだ。
 ロンドンのキングスクロス駅の近くで暮らしている彼にskypeを使って話を訊いた。日本時間の午前9時、ロンドンは深夜の1時、ドイツとウルグアイの3位決定戦が終わってから3時間半後の取材だった。

日本にいたときにライヴの映像をYouTubeにアップしたんです。それを見つけたイギリスのジャーナリストが自分のブログに載っけてくれて。そうしたら世界中からメールが来たんですね。で、その人がロンドンに住んでいたことは知っていたので、こっち来てまずその人に連絡したんです。

ロンドンでは小さなバーからライヴをはじめたそうですね。

吉田:こっちでは小さなバーでもプロモーターがいるんですよ。だから、まずはプロモーターに話を通さなければならない。彼らに自分の作品を持っていって自分の場を確保するという手もあるんですけど、僕はそういうやり方ではなかったんです。

どうやってロンドンとのコネクションを作ったんですか?

吉田:日本にいたときに自分のライヴ映像をYouTubeにアップしていたんです。それをたまたま見つけたイギリスのジャーナリストが自分のブログに載っけてくれて。そうしたら世界中からメールが来たんですね。で、その人がロンドンに住んでいたことは知っていたので、こっち来てまずその人に連絡したんです。「こっちでライヴをやる機会はないか」「誰か紹介してもらえませか」みたいなメールを送ったんです。その人は、『ガーディアン』のジャーナリストだったんです。音楽のブログは趣味でやっていたことだったんですね。で、その人は「自分は直接、音楽業界を知らないけど、もういちどブログに載せて告知をしてみよう」と言ってくれて、「ライヴ場所を探している」ということをブログに載っけてくれたんです。そうしたらそれを通じてふたつライヴのオファーが来たんです。

それはいい話ですね。

吉田:とてもラッキーでした。

いまはそういうやり方で世界と繋がるっていうのもあるんですよね。

吉田:そうなんです。ライヴの映像をYouTubeにアップしたおかげで、ギリシャの人からもライヴのオファーがありましたから。それがロンドンに来る引き金のひとつでもあったんですよ。

で、ギリシャには行ったんですか?

吉田:はい。アテネで小さなイヴェントをやっている人だったんですけど。

アテネ、すごいですね。

吉田:YouTubeさまさまでしたね(笑)。

2007年?

吉田:2007年の10月ですね。

とはいえ、ロンドンで日本人が音楽活動するのはそう簡単なことじゃないじゃないですか。

吉田:かもしれないですね。

そういうなかで、ロンドンのライヴハウスで活動をしはじめて、いろんな共感者を増やしていくわけなんでしょ?

吉田:いやー、でもライヴをやる度にお客さんが増えていったわけではないですよ。ただ、最初にやったふたつのライヴを通して、そのイヴェントに来ていたプロモーターの人にいろいろ紹介してもらったり。それでその人の知り合いの知り合いにあってすそ野が広がっていったというか。

なんでロンドンに住もうと思ったの?

吉田:それまで東京で3年くらいやっていたんですね。東京でもそれなりに手応えはあったんです。だけど、ダンス・ミュージックの規模で言えばやっぱヨーロッパのほうがぜんぜん大きいし、違う国でやっても受ける自信はあったんです。そういった、さらなる飛躍を求めてロンドンに渡ったというのがまずあります。ただ、それ以上の理由としては......まあ、僕自身が音楽ファンなので、ポップスの歴史そのものを作ってきたイギリスという国に対する興味がありましたね。もともとロックが好きだったんです。ビートルズとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとか。そういう音楽を聴きながら育ってきたので、やっぱその国に対する強い好奇心はありましたね。

ビートルズとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとか......って、何年生まれですか(笑)?

吉田:そうですね(笑)。ただそれが受け継がれて、その遺伝子を持ったミュージシャンがたくさんいるわけですから。

まあ、そうですね。

吉田:クラブ・ミュージックに関しては最先端だと思うし、ひとりの音楽好きとして刺激を求めてきたというのはありました。

DJクラッシュみたいに逆輸入というか、海外で評価されて日本を見返すっていうカタチがあるじゃないですか。

吉田:明確に意識していなかったけど、あるかもしれないですね。ただ、僕のやっている音楽の日本での規模を考えると、3年活動してきてけっこう厳しいなというのもあったんです。

そうだね。J-POPやりながらとか、あるいは別の仕事で働きながらとかでもない限り、インストのエレクトロニック・ミュージックだけで食っていくって、現状の日本では厳しいからね。

吉田:僕のやっているような音楽(エレクトロニック・ミュージック)を聴いている人の数がこっちは圧倒的に多いんです。もちろん日本で活動してきたので、日本のリスナーのことはいつも意識してますけど、イギリスではこういう音楽を聴いている人の数が多いというのは魅力でした。

[[SplitPage]]

アルバムはやっぱ、1枚通してナンボだと思っているので。最初から最後まで、ぜんぶ意味がある作品にしたいんですね。いま僕の手元にある楽曲では、まだそれができるレヴェルに達してないなと思っているんです。

先日、ele-kingでボノボの前座を務めたときの話を書いてくれたじゃないですか。3000人規模のあの会場の大きさやオーディエンスの写真を見ると、びっくりしちゃうからね。

吉田:とくにボノボみたいなアーティストは日本ではまだまだですよね。ああいう、チルアウト系と呼ばれるアーティストがあの規模でライヴをやってもお客さんがついてくるところがロンドンの音楽シーンの懐の深いところかなと思いますね。

サマー・オブ・ラヴを通過しているって感じがするよね。やっぱああいう音楽も業界全体で盛り上げていこうという気概は感じるものなの?

吉田:そうですね。だけど、やっぱそこはアーティストによって差は出ますけどね。実は昨日、デイダラスの前座をやったんですね。

おー。いいじゃないですか。

吉田:同じ音楽ではないですけど、アンダーグラウンドでエレクトロニック・ミュージック系という点ではボノボと同じじゃないですか。

しかもフライング・ロータスのレーベルだしね。

吉田:ですよね。しかもキャリアも長い。だから、集客を期待していたんですけど、ぜんぜんそうじゃなかったんです。

何で?

吉田:ロサンジェルスということなのか......、こっちで暮らしてて感じるのは、ひとりでラップトップでやっていることへの厳しさみたいなことなのかなと。バンドでやっている人とラップトップでやっている人とでは、明らかに見方が違うように思うんです。とくにお客さんの見る目が違いますね。

あー、それってイギリスっぽいのかも。ラップトップではお客さんのほうがライヴだと認めてくれないのかね。

吉田:そうかもしれないです。

アンカーソングはどのくらいのペースでライヴをやっているの?

吉田:月に2~3本、多いと4本ぐらいですか。

ライヴはじゃあ、けっこうやっているんだね。作品に関しては、イギリスのレーベルと契約しているわけじゃないんだよね?

吉田:そうなんですよ。そこがいまの課題なんです。自分の力不足っていうのもあるんですけど、だけどどのレーベルでも良いってわけじゃないし、出しっぱなしでノー・プロモーションのレーベルも見てきているので。

慎重にならざる得ない?

吉田:ですね。ないわけないんです。メールを送ってくれたレーベルもあったんです。でも、やっぱそこは考えてしまいますね。

アンカーソングはこれまでアルバムを出してないですよね。3枚ともepでしょ。これはどんな理由で?

吉田:ヴォーカリストを起用せずに、インストだけでアルバムを作りたいという目標があるんです。たとえばアルバム1枚、12曲、50分だとしたら、本当に最後まで飽きさせることなく聴いてもらえるアルバムを作ることはとても難しいと思うのです。僕自身、インストだけのアルバムで好きなアルバムとなると数えるほどしかない。考え過ぎかもしれないけど、作るんだったらそういうものにしたいんです。アルバムはやっぱ、1枚通してナンボだと思っているので。最初から最後まで、ぜんぶ意味がある作品にしたいんですね。いま僕の手元にある楽曲では、まだそれができるレヴェルに達してないなと思っているんです。

シングルでいろいろ試したいという感じなのかな?

吉田:自分の音楽性がまだガチっと固まっていないと思うんですよ。

「ザ・ボディーランゲージEP」がジャジーで、メロウなフィーリングのシングルだとしたら、最近出した「ザ・ロスト&ファウンドEP」はよりダンサブルになっていると思ったんですけど。この変化みたいなのは意図的なものなの?

吉田:いや、違いますね。たまたま入れたかった曲があって、それを軸に構成したらそうなっただけなんです。

ロンドンのライヴ活動の経験がフィードバックされたってわけではないんだ? あるいはロンドンのクラブ・カルチャーに触発されるとか。

吉田:こっちに来てからクラブに遊びに行く回数もかなり多いんですけど、正直、その影響を真正面から受けている感じでもないんです。ロンドンに来た最初の頃は、たしかにそういう気持ちもあったんですよ。自分の音楽性がこういうものだという確固たるモノがなかったですし、こっちに来て最先端のもの、モダンなものを取り入れたいという思いがあったんです。それでクラブに遊びに行くんですけど、2年半暮らしてみてわかったのは、ダンス・ミュージックのシーンのサイクルの早さですよね。いまはダブステップが流行の頂点にいるような感じになってますけど、先を見ている人たちからするとすでに廃れはじめているというようなことも言われているんです。

[[SplitPage]]

僕がこっちに来てからの2年半だけでも、ダブステップが急成長して、そしていま下りはじめているのがよくわかるんです。最先端を追いかけていることの空しさも感じるんです。そのことは、僕がこっちに来てわかったいちばん大きなことかもしれないなと思うんです。

ロンドンは昔からそれがありますよね。だけど、ジェイムス・ブレイクみたいなのを聴いているとまた新しい波が来ているのかなというのも感じるんですけど。

吉田:はい、そうですね。ただ、これはシニカルな言い方かもしれないですけど、ダブステップはじきに終わると思うんです。ブリアルみたいな本当に突出した人たちは残っていくと思うんですけど......。変な話、いまレコード契約を狙っている人たちはみんなダブステップを作っていますよ。

それはそうだよね。ムーヴメントってそういうものだから。90年代のテクノのときだってそうだったし、シニカルというよりも「そういうもの」ってことだと思うし、それを土台にまた違う展開があるわけだしね。

吉田:そうですね。僕がこっちに来てからの2年半だけでも、ダブステップが急成長して、そしていま下りはじめているのがよくわかるんです。最先端を追いかけていることの空しさも感じるんです。そのことは、僕がこっちに来てわかったいちばん大きなことかもしれないなと思うんです。

なるほど。

吉田:それで僕は、モダンとレトロの狭間をいくような音楽を作りたいと思うようになったんですよね。周囲からジャンル名を与えられるような音楽もいいんですけど、僕はそういうのとはまた違う音楽を目指したいなと思うようになったんです。風化されない音楽を目標にしたいんです。いまでもクラブに頻繁に遊びに行っていますけど、自分が本当に感じることができた「これだ」というものは、そういうことです。

それは頼もしい話だね。

吉田:ただ、そう思えるようになったのも最近のことで、作品にそれが活かされるのは次からでしょうね。

最近のアンカーソングの音楽を聴いて、ロンドンの流行に左右されている感じは受けなかったし、わかる人ににだけわかればよいという閉鎖性も感じなかったけどね。もっと幅広く聴かせたいという気持ちは伝わったけど。

吉田:はい、そこはそうですね。

目標としているアーティストはいるんですか?

吉田:尊敬しているミュージシャンはたくさんいますけど(笑)。

尊敬しているのはミュージシャンを3人挙げてください。

吉田:ビョークと、DJシャドウと......。

ビョークというのはアンカーソングという名義を聞いたときにすぐわかった(笑)。

吉田:ビョークと、DJシャドウと......まあ、ビートルズですかね。

はははは。その組み合わせすごいね。ちなみに新作の「ザ・ロスト&ファウンドEP」というタイトルはDJシャドウの曲名から来ているの?

吉田:それは関係ないです。本当の意味は駅の落とし物の拾得所みたいな意味なんですけど、「無くしたモノが見つかる」というような意味と同時に、「ひとつの物語が終わって、また新しくはじまる」みたいなニュアンスもあるんです。

アートワークのリンゴの地球っていうのが面白いなと思ったんですけど。

吉田:それはデザイナーさんのアイデアです。いびつなカタチが良いっていうことで、時計とかも試したんですけどね。でも、結局、世界地図になったんですけど。削ったことでカタチが表れるというのも、「ザ・ロスト&ファウンドEP」というタイトルに重なっていいかなと思ったんです。

ところで、ライヴのあの派手なパフォーマンス、MPCを打ち込んで、鍵盤を弾きながらやっていくような生演奏にも近いスタイルは最初からだったんですか?

吉田:そうですね。ソロで初めてライヴをやったときから基本はあのスタイルでしたね。ただ、意図的にやったわけではないんです。僕はもともとバンドをやっていて、事情があってメンバーがいなくなったとき、「どうしようか?」と思ったんですけど、アコギ一本で歌うシンガーソングライターには興味がないし、ダンス・ミュージックをやりたいと思ったんです。そのとき、まずはライヴをやりたいと思ったんですね。で、自分にラップトップとターンテーブルは使わないという制限を課したんです。で、MPCは楽器っぽいなと思ったんですね。最初は部屋でヒップホップのトラックみたいなのを作っていたんです。そしたら、作っているプロセスそのものが面白いんじゃないかと気がついたんです。「これをそのままステージでやってみよう」って。

こんど(7月29日)DOMMUNEであのライヴをやってもらえるということで、とても楽しみにしています。

吉田:こちらこそ。

しかし、なんでロック好きがダンス・ミュージックをやろうと思うようになったんですか?

吉田:バンドが好きだったので、バンドを止めたときに音楽を止めようかと思いました。でも、結局、諦めきれなかったんです(笑)。

インストに目覚めたのは、やっぱDJシャドウが原因なの?

吉田:初めて聴いたインストものがシャドウっていうわけじゃないんですけど、シャドウの音楽がずば抜けてすごいと思えたんですよね。ライヴの良かったんですよ。インストの音楽を聴くようになって、ケミカル・ブラザースからエイフェックス・ツインまで、いろんなライヴを観に行ったんです。でも、どれも心の底から楽しめなかったんです。音楽はすごい好きなのにライヴが面白く思えないという、悲しみすら感じていたんです。でも、シャドウだけはライヴが良かったんです。『In Tune And On Time』というDVDを観ました?

いや、そこまで追ってないなぁ。

吉田:『ザ・プライヴェート・プレス』(2002年)の頃のツアー・ライヴを収めたDVDなんですけど、素晴らしいですよ。

シャドウでいちばん好きなのはどのアルバム?

吉田:『ザ・プライヴェート・プレス』が初めてリアルタイムで聴いたアルバムだったんです。いまは『エンドトロデューシング.....』が好きですけど。最初はサンプリング主体の音楽に憧れがあったんです。実際、「ザ・ボディーランゲージEP」の頃はまだそれを捨て切れていないんです。ただ、僕自身がレコード・コレクターではないので、その方法論では限界があるなとも思っていたんです。

アンカーソングの音楽は純粋なエンターテイメントなんですか?

吉田:エンターテイメントですね。もちろん個々の楽曲に意味はあるんですけど、それをリスナーに押しつけたくはないんですよね。伝えたいモノはないです。

※7月29日、AnchorsongはDOMMUNEにてライヴ演奏を披露します。 7時からトークショー。9時からLIVE:Anchorsong(FEAT. サイプレス上野)+ DJ: MIGHTY MARS & 三木祐司 (T-SKRABBLE DJ'S)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59