Home > Regulars > Random Access N.Y. > vol.23:インディのクリスマス・キャロル- christmas caroling by the music tapes
ザ・ミュージック・テープスとは、ジュリアン・コースターのひとり遊園地バンドだ。彼は、ニュートラル・ミルク・ホテル、オリヴィア・トレマ・コントロール(エレファント6集団)などさまざまなバンドでも活躍している。
ジュリアンのライヴは、彼の家に招かれ、手厚くもてなしをされ、体全体がほっこり温まり、お腹いっぱい満足して帰る、というように、とても幸せなひとときを約束してくれる。彼のルーツがジプシーということもあるが、これが彼の本来の姿なのだ。彼自身がすでに遊園地なのである。
以前にも書いたことがあるが、私がアセンス(エレファント6集団の拠点地)に滞在していた頃、彼とザ・ミュージック・テープスの活動について面白い会話をしたことがある。彼の夢は、ザ・ミュージック・テープスの遊園地(オービタル・ヒューマン・サーカスという)を背負って世界中でパフォーマンスをしたいというものだ。ザ・ミュージック・テープスのパフォーマンスを見た人にはわかるが、ノコギリ、巨大メトロノーム、自動オルガンなど、彼の演奏を手助けするゲストが目白押しする(もちろん本物の人間もいる)。
そしてホリディ・シーズンになると、「エレファント6のホリディ・サプライズ」(彼らの1stアルバムに入っている曲名でもある)という名を冠してのツアーが、オリヴィア・トレマ・コントロール、エルフ・パワー、ジャービルズ、オブ・モントリオールなどエレファント6のバンド集団がいっせいに集まって毎年のようにおこなわれる。ミュージック・テープスのクリスマス・キャロルもここ何年間の定番になっている。
ミュージックテープスが、キャロリングして欲しい家にお邪魔して、クリスマス・エンターテイメントをお届けする、いわゆるクリスマス版の移動遊園地である。今年は12月2日のシャーロットからはじまり、アセンス、ラリー、ワシントンDCエリア、フィラデルフィアエリア、NYエリア、NYアップステイト、マサチューセッツ、ロードアイランド、ニューイングランドなどを訪れる。自分の家に、クリスマス・キャロルをデリバリーしてくれるなんて、何よりも嬉しいクリスマス・プレゼントだ。
キャロリング場所の詳細は、招待を依頼した人にシークレットに知らされる。みんながみんないけるわけではない(人の家なので制限もある)。内緒で、ジュリアン(ミュージックテープス)にニューヨークは、どこに行くのか聞いてみると、リストが送られてきた。場所はブルックリンのみ3箇所。マンハッタンからの依頼もあったらしいが、すでに締め切ったあとだった。
行ったことのない家に音楽を聴きに行くなんて変な気分だ。私は、ニューヨーク日程の最終(11:30スタート)に参加した。
場所はブルックリンの下の方、フォトグリーンと呼ばれる地域だ。アドレスの場所に着くと「ミュージック・テープス、この番号に電話して」と張り紙がある。電話するとゲートまでホストが迎えに来てくれた。今日のホストは、プラットインスティチュートに通う男子学生で、この家も学生寮らしい。
とてもクラシカルな木目調の建物で、螺旋階段、アンティークなエレベーター、地下室、表には庭があり、私が昔、留学していたスポケーンの学生寮を思い出した。1階と2階に生徒が住み、3階は校長先生夫妻が住んでいるという。
家のなかは、すでに人が集まってホット・トッディ(ウイスキーとレモンティ)を飲んだり、クッキーを焼いていたり、ホーム・パーティになっている。入口でドネーションとして5ドルを払う。「どうやってこのショーを知ったの」といろんな人に訊くと、「ルームメイトが行くから」、「ホストの友だち」、「ミュージック・テープスのファン」......といった具合に、みんなそれぞれだった。まあとにかく私には、若い世代がミュージック・テープスを好きでいることが心強かった。
11時30分の予定だったが、彼らが到着したのは1時間後、さらにセットアップなどで、はじまったのは午前1時を回っていた。地下の部屋はあっという間に50人ぐらいで埋まっている。ひとつ前のキャロリングに参加していた人もそのままついて来てて、前のショーの様子など話していた。
ねずみの鐘部隊、歌う雪だるま、電動(?)オルガン、シンギング・ソウ、バンジョー、ツリー、キャンドル、テープレコーダー、色んな物に囲まれて、キャロリングはスタート。ニット帽、赤のセーターのジュリアンが、ここにきてくれた人に感謝の意を込めて語りはじめる。毎年やっているこのキャロリング・ツアーについて、1年のなかでいちばん好きなツアーで、この瞬間がどれだけ大事か、さらには人間という種類、木や自然ついて......。
シンギング・ソウを手に持ちながら語るジュリアンのひと言ひと言にみんな反応し、笑い、驚いている。ジュリアンが観客とのコミュニケートを大切にし、どれだけ好きでやっているかが伝わってくる。手品師、サーカス、チンドン屋などの要素がすべて入った混合のエンターテイメントだ。
今日のメンバーはジュリアン、ロビー、イアンの3人。これが現在のミュージック・テープスのメンバーだ。ジュリアンはシンギングソウ、バンジョー、オルガン、歌など中心で、イアンはシンギングソウ、オルガン、バンジョー、テープレコーダー、鈴など、実はもっとも重要な役割をしている。ロビーはホーン隊で、曲に色を添えてくれる。
曲ごとにパートも人もすべて交代し、ある曲は3人、ふたり、ひとり、さらには、雪だるまとオルガンとの共演だったり、ネズミの鐘部隊が登場したり、アメリカの定番のホリディ・ソングがテープでループされ、それに彼らが音を乗せていったり、ホリディ・ソングを振り付きで歌ったり、音楽のショーというか、「ミュージックテープス」のショーとしか表現できない、完璧なエンターテイメントだった。夢のなかのいるようで、まわりを見てもみんな笑顔だった。
終わった後、ジュリアンにいくつか質問してみた。
■今日は、とっても楽しませてもらいました。日本ではキャロリングという習慣が浸透していないし、私も実際は経験したことがないのですが、今日のショーを見て何となく理解できました。キャロリングについて、少し説明してもらえますか。
ジュリアン:キャロリングは、クリスチャンの伝統行事で、クリスマス前に、教会、路上、家などで歌われてる。クリスマス後や12月前におこなわれるとバッドラックなので、いつもこの時期なんだ。
■このキャロリング・ツアーは今年で何回目ですか。私は、2年ぐらい前に、初めてミュージック・テープスがこんなことをやっていると噂にききました。
ジュリアン:6年目だよ。僕らは他にララバイ・ツアーもやってんだ。これならホリディ・シーズン関係なくできるからね。
■どのようにこのキャロリング・ショーをお知らせしているのですか。私は、『ブルックリン・ヴィーガン』に載っているのをみたのですが。
ジュリアン:レーベル(マージ・レコード)のウエブ・サイトとか、音楽系の媒体(ピッチフォークなど)。2週間前ぐらいに『ブルックリン・ヴィーガン』に記事が載ったんだけど、そこから招待の依頼数が激増したよ。僕らのレーベルはシャーロットだから、今年はそこからはじめた。
■行く都市はどのように決めるのですか。今回はイーストコーストのみのようですが、1日につきいち都市ですか。
ジュリアン:本当はこの時期にヨーロッパにいるはずだったんだけど、キャンセルになって、今回のツアーができることになった。僕はそのほうが嬉しいからいいんだけど(笑)。今年はイースト・コーストのみだけど去年は全米を回って全部で2ヶ月ぐらいかかったよ。すでにクリスマスを過ぎて、クリスマス・キャロリングではなくなちゃったけど(笑)。毎日、家から家へ移動するから、場合によるけど、例えば広い都市、サンフランシスコなどは、オークランドやサンフランシスコと2日やったよ。
■もし私の家に招待するなら費用はいくらかかりますか。招待を受ける決め手は。あと泊まるところはどうしているのでしょうか。
ジュリアン:キャロリングで、何処何処に行くとアナウンスをしてから、各地から招待を受け、何件回れるかルートを組んで決めていく。毎日数軒回って、大体最後の場所で泊まって行くよ。カウチで横になったりして、そして朝になったらロードに戻るんだ。費用はドネーションと泊まる場所でOK。
■今年のツアーはいかがですか。
ジュリアン:今年は少なくて12日間ぐらい。と言っても12日で1日3回公演するんだから、けっこうな数だよね。レーベルのあるシャーロットからはじまり、アセンスに戻り、イーストコーストというルートだよ。今日の最初の場所は、とても小さなレイル・ロードのアパートで、機材を運ぶときに横になって通らなければならなかったり、蝋燭をあっちの窓やこっちの戸棚などいろんなところに置かなければならなかったり。それぞれのショーは全然違うし、これが毎回違う家に行く醍醐味なんだよね。いつも、どんなショーができるのか楽しみだよ。
今日の(最後)場所はとてもいいね。地下のスペースが広いし、50人ぐらい入ったんじゃないかな。普通の家はそんなに入らないからね。ホストに聞いたらプラットの寮で、校長先生夫妻が上の階に住んでるとか。あまり大騒ぎできないけどね。
来年は日本にも来てもらえないでしょうかねー。
関連リンク:http://www.brooklynvegan.com/...