Home > Regulars > Random Access N.Y. > vol.56:ファーザー・ジョン・ミスティは注目です!
ショー尽くしの夏、野外フェスも一通り終り、と油断していると、もうこの季節。10月といえばカレッジ・ミュージック・マラソン(CMJ)、今年で33回目を迎える。1ヶ月前あたりから来るメディアからのメールはほとんどCMJショーケースへのお誘い。オープンバー、フリーショー、フリーなんとか、とにかく人に来てもらおうと、エージェンシー、メディアの攻撃は後を絶たない。バンドは朝から晩まで1日数回プレイするのが当たり前。サヴァイヴァル・ガイドまで出る始末。
オフィシャル・ショーだけでも1400ものパフォーマンスがあるのに、それに乗っかるアンオフィシャル・ショーも多い、それだけをピックアップした記事まである。
2013のハイライトはディスメンバメント・プラン、コートニー・バーネット、ジョアンナ・グルサム、ホワイト・デニムあたり。
著者のハイライトは
1. ファーザー・ジョン・ミスティ(ex.フリート・フォクシーズ)
2. リアル・エステイト
3. エレノア・フレイドバーガー
4. ヤマンタカ//ソニック・タイタン
5. パルベアー
6. ヤック
■10/15(火)
1日目、バッジをピックアップにジャドソン・メモリアル・チャーチへ。朝一(10時頃)に行ったが、アーティスト、レーベル、プレス、一般客が途切れなく来る。大きなスポンサーはチャンピオンで、会場に何体かマネキンがディスプレイされていた。ソニックビッズ(sonicbids.com)、サウンド・エクスチェンジ(soundexchange.com)、メール・チンプ(mailchimp.com)他、アヴェニューライヴ(avenuelive.com/claim)、ミュージック・グルー(musicglue.com)、カオティカアイボール(kaoticaeyeball.com)、インディゴーゴー(indiegogo.com)などのスポンサーのブースがある。フルバッジは$549、学生は$325。
夕方に、リヴィングトン・ホテルのペントハウスでのパーティにお邪魔した後は、近場のマーキュリー・ラウンジへ。前日チャイナ・タウンのバーで見たノーノーノー(スウェーデンの女の子)を偶然キャッチ。ドアガイまでがノーノーノーのニット・キャップを被っている。ブルックリンに戻り、ミュージックホール・オブ・ウィリアムスバーグへ、トゥルー・パンサー・ショーケースを見に行く。着いたらちょうどエンプレス・オフが始まったばかり。2(男/女)シンセに1(男)ドラム、女の子がグライムス/チャーチスみたく、シンセをプレイしながら歌う80年代ドリーミー・シンセ・ポップ。
次は、ロスアンジェルスR&Bシンガー、ケレラが登場。最近リリースしたミックス・テープ『カット4ミー』がピッチフォークで良いレヴューを得ていたので、興味はあったが、90年代のポップをより現代的に、よりミニマルにした、DJと彼女(歌)のみのシンプルなセットは、この会場では小さすぎるかな。
今日のハイライト、グラッサーの登場。メンバーは、グラッサーことキャメロンとアジア人の女の子がドラム、鉄琴などシルバー系の音を出す。プロジェクターが左にひとつとバックにひとつ(ふたつとも違う映像を映す)。青い空、シルバーのうねりなど曲ごとに映像が変わり、ドラムが和太鼓な感じとビョークを思わせるヴォーカルが重なり、日本昔話(!)のテーマ曲のようなエキゾチックさを醸し出す。
この日のショーケースで、3バンドみたが、偶然か全て女の子が中心だった。カメオに戻り、ハンターズを見る。『ヴィレッジ・ボイス』の表紙を飾るなど話題になっていたが、ブロンディとヤーヤーヤーズを足した感じで曲の印象は特になし。
■10/16 (wed)
2日目、ブルックリン・ボウルへラヴ・ライフを見に行く。セレブレーションのカトリーナ・フォードの昔のバンドか、と思ったら、全く違うUKのバンドで、あまりピンと来なかった。人はかなり入って、他の都市でもソールドアウトが続出らしい。うーむ。
ニッティング・ファクトリーに移動し、コラムでも紹介した、ミシェル率いるパナシェ・ショーケースへ(panacherock.com)。目当ては、ヤマンタカ//ソニック・タイタン。カナダのバンドだが、Cポップ、Jポップ、プログレ、ヘヴィ・メタル、インダストリアルなどがミックスされ、鬼+歌舞伎のメイクアップで羽織姿のメンバーもいる。かなりミステリアスだが、ライヴではメンバー6人、シアトリカルで、シューゲイズで、白の羽織を着たメンバーを見て、ヘヴィメタルな能を見ている気分になった。
■10/17(thu)
3日目は、ピーツ・キャンディズ・ストアからはじめる。ライオット・アクト・メディア(riotactmedia.com)のハッピーアワー・パーティへ行くが、バンドを見逃す。トレスが終わったところだった。そのまましばらくハングアウト。285ケントに移動しパナシェ・ショーケースを見に行く。スピーディ・オーティスを見たかったが、CMJパスはソールドアウト。
隣のグラスランズで、ゴリラvsベアのパーティ(gorillavsbear.net)がおこなわれていたので、そっちをチェック。欲張ってまた隣のディス・バイ・オーディオへビーツを見に行くと「CMJじゃないけど」と言われる。DIY会場はCMJは関係なく大体通常営業なのだ。
マンハッタンに戻り、バワリーボールルームへリアル・エステイトを見に行く。いつ見ても、隣のお兄さんな感じが全く嫌味がないが、それでいて演奏も歌もタイト。もうすぐリリースされる新作からの曲が多かったが、昔の曲になるとみんなでシンガ・ロング。
ベースプレイヤーが終始喋り「みんな乾杯!」とウイスキーをボトル飲みする。メンバーもビールを何度もお代わりする(ステージで)。
■10/18(fri)
4日目、そろそろマラソンも疲れてきた。人でいっぱいのローワーイーストサイドを抜け、ダムダム・ガールズのドラマー、サンドラのバンド、シスを見にディランシーへ。ニューウェイヴィーなグラム・ロック。
バワリーボールルームへ、2013CMJのスポンサーであるチャンピオンのショーケース、エレノア・フレイドバーガーを見る。観客は30歳後半~の男性多し。「今日は3回目の曲もあるわよ」、「私の3つの好きなもの、チャンピオン、ハイロード・ツアリング、CMJ」などCMJを意識したMC。サイケデリックなベルべットのブルージャケットに、柄シャツ、ジーンズ、カウボーイブーツがハマるのは彼女ぐらい。ベースの女の子とのハーモニーも美しく、相変わらずパティ・スミスのような圧倒的存在感を醸し出していた。
マーキュリー・ラウンジにヤックを見に来る。ギタープレイヤーはラテン系、ギター・ヴォーカルは、短髪の白人、ドラマーはフワフワ・ヘアの白人、ベースは日本人女子。メインのヴォーカルが抜けたらしいが、それを感じさせないほど演奏もタイトで、イーノンっぽく男女が交互にヴォーカルをとる。ドライヴィンで90年代なジャングリー・ギターポップ。
■10/19(sat)
5日目、最終日である。ブルックリン・ヴィーガンのショーケースは行かない訳にはいかない。CMJで見たかったバンドがほとんど揃ってるし、オープンバー(セイラー・ジェリーラム)に、エナジーバーやチップスも無料。前日にオープンした新しい会場のベイビーズ・オール・ライトへ。広い!
今日の目当ては、この日に発表されたスペシャルゲストのポールベア。アーカンソー出身のヘヴィ・メタル・バンド。ロングヘアーと髭な硬派な4人組で、どこから集まったのか、前の方は男しかいない。昼からみんなきまってる。このショーケースの客は、2タイプに分かれる。バンドを見に来る客、ハングアウトしたい客、後者は多分一日中いる。
その後、スーパーチャンクのマック・マクコーガン、メアリー・ティモニー(ワイルド・フラッグ)のニューバンドのエックス・へックス、そして今回のCMJでバズなジョアンナ・グルーサムなどなど続くが、次へ進む。
CMJの最後に最高のショーを見た。元フリート・フォクシーズのドラマーの、ジョシュア・ティルマンのソロ、ジョン・ファーザー・ミスティ。たったひとり、アコースティック・ギターと声だけで、最初から最後まで、全く飽きなかった。セットには、コート・ラック、マイク、テーブルにワインボトルとグラス、ラウンジーなライトアップ。ジャケットをきたティルマンが、巨大なバニーの頭を被った女子を連れて登場。彼女を椅子に座らせ、脇に置いていたギターをかかえる。彼女は、セットの間ずっと座っている。彼は、香水とタキシードが似合うダンディさで、声はニュートラル・ミルク・ホテルとRケリーを足し、カントリー、ブルーグラス、ロックな曲調。ショーはWebキャストされていたのだが、曲の途中で、アイフォンの等身大が彼の前にセットされる。「ウェブキャストを見ている人に、これをアイフォンで写真に撮って送り、受けた人がまた写真に撮って送って!」と煽り、テーブルのワインをグラスに注ぎ、そのままワインを垂れ流したり、コートを脱いで、コートラックにかけたり、何かと芸がある。
観客からヤジが飛んでも、「今日はスパイシーな観客だな」と飄々とし、「CMJ期間にプレイするのははじめて。ヘヴィ・メタル・バンドと会場をシェアできるのを光栄に感じるよ」「CMJ? 長い間知らなかったよ。コーポレートの宣伝だろ?」とブラック・ユーモアも飛ばす。チューニングしているあいだも「おっとWebキャストされてるからな」とエンターテインメントにこと欠かない。音楽ショーというかコメディーショーのようで、日本人にも分かりやすいクリアな発音にも助けられた。
ちなみに前座が、ケイト・バーランドというコメディアンだったのだが、彼女もアコースティク・ギターをいれたセットで、コメディ&ミュージック・ショーは新しいトレンドになるかも。まわりはいままでの観客と違い、ゴージャス系の女子が多い。さすが香水(イノセンス・バイ・ミスティ)をプロデュースするだけある。
この後、ブルックリン・ヴィーガンにジョアンナ・グルーサムを見に行く予定は切り上げ、ミスティの余韻に浸ったCMJ最終日だった。長いマラソン終了。
いろいろ言われるCMJだが、NYにいると避けて通れないのが事実。PR関係なく良い物をピックアップし、できるだけ生の情報を提供するには、何を信じるか。多すぎる情報に飲まれないように、実際足を運び、自分の目で確かめていきたい。