Home > Regulars > Random Access N.Y. > vol.91:DIY音楽会場の危機
このコラムは、NYの音楽情報をお届けしているのだが、最近のネタはどこの会場がクローズした、など肩落ちする話題が多い。
●vol.61:ウィリアムスバーグの終焉
●Vol. 71 RIP DIY
どこかがクローズしても、ある所で何とかやって行くのがNYなのだが。
●vol.85:変わりゆくNY、新たな胎動
2016年末だけでも、マンハッタンで唯一お気に入りだった会場、ケーキ・ショップ(11年)、ロジャーズ・シスターズのメンバーがやっている、酔いどれバンドマンの集まるバー、ダディーズ(15年)、アートギャラリー/会場のシークレット・プロジェクト・ロボット(現在の場所で5年、トータル18年)、ベイビーズ・オール・ライト(http://babysallright.com/)がやっているマンハッタン会場エルヴィス・ゲストハウス(2年)、イート・レコーズもレギュラーDJをしていた近所のダイブ・バーのオーバー・ザ・エイト(3年)など、DIYのお気に入りが次々とクローズしている。その度にまわりから「はー」というため息を聞き、まるで大統領選挙後のバーの光景と化すのだ。希望が見えない。
DIYスペースは、長く持って3年。早いところでは1年以下でクローズする。そのいちばんの原因は家賃の高騰。大家さんが、同じディールで更新してくれない。個人企業/アーティストには、到底太刀打ち出来ない値段を提示される→アーティストはそこを立ち去る→その後に大企業が入る→周りにコンドミニアムが建つ→中流化の人々が引っ越し、スポーツジムやネイルサロンが開店、アートシーンは死滅。その繰り返しがいまも続いている。
そして、3/9にはNYのDIY会場ではもっとも長い(8年)シェイ・スタジアムがクローズを余儀なくされた(http://www.brooklynvegan.com/shea-stadium-temporarily-shutting-down-again-relocating-shows/)。
シークレット・プロジェクト・ロボットと並んでDIY会場の老舗の彼らがクローズするのは、ブルックリンDIYシーンを応援する我々にとっては相当なショックだった。まだ何もなかったブッシュウィックに8年前にオープンしたのだから、彼らの先見の目は正しかった。一時的に休止とあるが実質上、いまの場所でやっていくのは難しいだろう。
彼らによると、地方官庁からの抑圧が増え、いままでと同じやり方でショーを続ける事が不可能ということ。キチンとした許可を取らなければならないが、それを取るには巨額なお金がかかり、いまの状態では無理なので(一時)クローズするとのこと。
その翌日NYのデブラシオ市長が、「NYの音楽業界では小さい音楽会場が危険に晒されてる」(http://www.brooklynvegan.com/de-blasio-administration-releases-report-on-nyc-music-industry-finds-small-venues-to-be-at-risk/)、という記事を発表した。
これは、明らかにシェイのことを受けてで、NY市長が言うから相当なものである。いつもどこがが閉まっても、「シェイだけは」という希望があったから。
残りは、ラフトレードやマーキュリー・ラウンジなどの、バワリー・プレゼンツ系列とブルックリン・ボウル、ニッティング・ファクトリーのチェーンのみとなってしまう。バワリーはこの夏、ブルックリン・スティールという大会場をブッシュウィックにオープンするし、このままでは、ブルックリンからはDIY会場がなくなってしまうのでは、という考えが横切る。
ただ、我々には強い味方、DIY隊長のトッドP(http://www.ele-king.net/columns/regulars/randomaccessny/002015/)がいる。彼の会場、マーケット・ホテルも、シェイと同じ理由でクローズし、長い準備期間(5年)を経て、2016年に再オープンした。彼は、トランス・ピコズ(http://www.thetranspecos.com/)という会場もリッジウッド(ブッシュウィックとクイーンズのボーダー)にオープンし、DIY隊長の存在感を示してきた。シェイも彼と同じように、立ち向かうことができると良いのだが。
今NYに存在する音楽DIY会場は
Alphaville
C'mon everybody
Footlight
The gateway
The glove
Gold sounds
Gutter
Matchless
Muchmore's
Silent barn
St. Vitus
Sunnyvale
Union pool
こう見ると、まだまだシーンは健在に見えるが、自分たちのクリエーションを提示するのが難しくなってきているのはたしか。キャバレーやギャラリーなどでパフォーマンスをするアーティストもいるが、実際は、許可を取らないでやっている場所が多く、その多くは、手入れが入りクローズに持っていかれる。これからは、合法音楽スペースとバー/ギャラリーの住み分けがはっきりしてきそうだ。余談だが、自分のウィリアムスバーグの家も、追い出されそうになり(17年経った後に!)只今裁判の真っ最中。NYで生活するのは大変だと、シェイのクローズで考えさせられた1日だった。
Yoko Sawai
3/11/2017