ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Bruce Springsteen ——ブルース・スプリングスティーンの未発表アルバムがボックスセットとしてリリース
  2. Seefeel - Quique (Redux) | シーフィール
  3. Twine - New Old Horse | トゥワイン
  4. 別冊ele-king VINYL GOES AROUND presents RECORD――レコード復権の時代に
  5. Jefre Cantu-Ledesma - Gift Songs | ジェフリー・キャントゥ=レデスマ
  6. interview with Nate Chinen 21世紀のジャズから広がる鮮やかな物語の数々 | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  7. Black Country, New Road - Forever Howlong | ブラック・カントリー、ニュー・ロード
  8. Jane Remover ──ハイパーポップの外側を目指して邁進する彼女の最新作『Revengeseekerz』をチェックしよう | ジェーン・リムーヴァー
  9. Shintaro Sakamoto ——すでにご存じかと思いますが、大根仁監督による坂本慎太郎のライヴ映像がNetflixにて配信されます
  10. Conrad Pack - Commandments | コンラッド・パック
  11. interview with Yukio Edano つまり……下からの政治とはいったい何なのか  | 枝野幸男、インタヴュー
  12. Cosey Fanni Tutti ——世界はコージーを待っている
  13. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  14. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  15. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  16. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ
  17. interview with Black Country, New Road ブラック・カントリー・ニュー・ロード、3枚目の挑戦
  18. Colloboh ——ナイジェリア生まれのモジュラー・シンセサイザーの魔術師がこのGW中に初来日
  19. Whatever the Weather - Whatever the Weather II | ホワットエヴァー・ザ・ウェザー
  20. Eyed Jay - Strangeland | イアン・ジックリング

Home >  Regulars >  Random Access N.Y. > vol.101:USインディにおける手作りのフェスの良さ

Random Access N.Y.

Random Access N.Y.

vol.101:USインディにおける手作りのフェスの良さ

沢井陽子 Jul 20,2018 UP

 NYではガバナーズボールやパノラマなどビッグなバンドが出演する音楽フェスティヴァルが絶賛開催中だが、今回はペンシルヴェニア州のスプリング・ヒルファームへ、手作りの素敵なミュージック・フェスティヴァルに行った。NYから車で約3時間、ここは Mirah の家族が所有するファームである。

 Mirah は、マイクロフォーンズなど多くのバンドとコラボレートし、〈Kレコーズ〉から何枚も作品を出しているシンガーソングライター。今回の出演アーティストは Mirah の友だちがほとんどで、Tara Jane O’Neil、Rebecca Gates (ex. The Spinanes, Decemberists)、Kimya Dawson (ex. the Moldy Peaches)、Fleabite (mem. Aya Neko)、Diane Cluck、Lonesome Leash (ex. Dark dark dark, Hurray for the riff riff)、Death Vessel、TubaFresh などなど計17バンド。
 広い牧場には馬、鶏、羊などがいて、池では泳ぐこともできる。数々の簡易トイレが設置され、夜はキャンプ・ファイアがあり、バンドもお客さんもそれぞれテントで寝る。40歳以上と子供が多く、若者はほとんどいなかった。200人ほどの参加なので、3日間いると自然に顔も覚えてしまった。



 ファームで取れた果物や野菜などを使った、健康的な食事も朝昼夜と提供される(キヌア、ビーツサラダ、タイカレー、パンケーキなど)。アルコールはコンブチャとアップルサイダーで、他は持ち込み。
 皆さん大人なので、アルコールを飲んで大騒ぎをする人もいない。
 料理担当、掃除担当の人もいて、みんなでお皿を洗ったり、なんだか合宿みたいだった。
 昼は池で泳いだり、ハンモックで読書したり、ヨガをしたり、かなりのリラックスぶり。このフェスでは財布を持たなくていい。

 ライヴはアコースティック・セットが多く、最近のトレンドの逆行をいくインディ音楽好きのものだった。演奏中も長いテーブルはそのままで。座って見てもいいし、前でかぶりついてみるのも良し。
 Mirah は、フェスに来たみんなにお礼を言った。そして、彼女のお父さんが音楽を聞かせてくれたおかげでいまの自分があると語った。
 最後の“Energy”と言う曲では、Tara、Chanell (TubaFresh)、Maia がステージに上がり、一緒に演奏した。それが泣いているように聞こえたでの、後で聞くと、彼女のお父さんが危篤状態だったそうだ。数日前に意識が戻り、彼女のステージを見にきたという。彼は車椅子に乗って、ブランケットに包まれ、Mirah を見ていた。
 8回も日本に行っている Tara Jane O’neil は、余裕にウィットに富んでいて、ギターだけなのに、とても安定感があった。Shondes というバンドの Eli と一緒に、REMの“You Are The Everything”をカヴァーした。今後はトータスのドラマー、John Herndon とツアーを回るそうだ。
 ブルックリンの Fleabite は、Aya Neko のメンバーが被っていて、パンクでファジーなロックンロールを奏でた。Death Vessel は、バンドで見るのは初めてで、コントラバス、キーボード、美しいハーモニーなどが加わり、インディ・ブルーグラス風の曲がより光っていた。知ってるバンドもあらためて見ると、また印象が変わる。周りの環境と Mirah の人徳が、このフェスをスペシャルなものにしていた。

 音楽と自然に包まれ、コマーシャル感のまったくないフェス。キャンプファイアを見ながら、大切な物を感じた夜だった。


Mirah & Todd (主催者)

Random Access N.Y. - Back Number

Profile

沢井陽子沢井陽子/Yoko Sawai
ニューヨーク在住20年の音楽ライター/ コーディネーター。レコード・レーベル〈Contact Records〉経営他、音楽イヴェント等を企画。ブルックリン・ベースのロック・バンド、Hard Nips (hardnipsbrooklyn.com) でも活躍。

COLUMNS