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Random Access N.Y. > vol.92:アメリカ南部のインディ・ロック- Deerhunter, Eleanor Friedburger , Jock gang @ Warsaw 5/21
Elf power, Sunwatchers @ Baby's all right 5/27
May 30,2017 UP
この2週間の間に、アトランタとアセンスのバンドを2回観た。どちらも15年以上活動しているベテランで、サウンドも違えば、スタイル、お客さんも違うのだが、アメリカのサウスに住み、音楽を作り続ける彼らについては感じることがある。
アトランタのディアハンターは、キングス・オブ・レオンとのツアーのオープンで大忙しの合間に、自分たちがヘッドライナーのショーを行った。共演は、同じアトランタのロック・バンド、ジョック・ギャングと、元フェアリー・ファーナシスのエレノア・フライドバーガー。
会場は、ブルックリンはグリーンポイントにあるワルシャワ。
この会場は、ポーリッシュ・ナショナル・ホーム(公民館のような役割)の一部にあり、ポーリッシュ・ビール、ピエロギやキルバサなどのポーリッシュ・フードが食べられる。NYに居ながら、ポーランドの雰囲気が楽しめるわけだ。500規模のこの会場、当日はソールドアウトで、20代から40代までのピンポイントな層でいっぱい。みんな目をキラキラさせていた。
さて、ステージに大きなキャンバスを設置し、キャップを被り、サスペンダーをし、まるでペインターないでたちの、ディアハンターのブラッドフォード・コックスが登場する。その後、エレノア・フライドバーガーが登場し、アカペラで歌を歌いはじめる。ブラッドフォードが好きな曲を、エレノアが歌い、その間に彼が絵を描くと言う新スタイルを展開。パステルカラーを使い、抽象的な絵を描く間、エレノアは歌い続ける。子供の音楽番組を見ているようだったが、物販テーブルには、ブラッドフォードの絵もキチンと売っていた(大$20、中$10、小$5)。
この日のディアハンターは、かなりご機嫌だった。「NYに来たら、ついつい喋っちゃうんだよね」と言いながら、ブラッドフォードはどんどん飛ばす。この日は、ツインピークスの放送の日だったというのに(アメリカ人には大切な日なのだ)、僕らのショーに来てくれてありがとう──という言葉からはじまり、彼が初めて人前で演奏した曲が(何かのコンテスト)、ツインピークスのテーマ曲で、結局落選した、と喋った。「嘘だと思うなら、お母さんに聞いてみて」、と彼は本当にお母さんに電話する。お母さんも、初めは「??」な感じだったが、いかにブラッドフォードのことを愛しているか喋り、「あなたのことも好きだけど、あなたのファンはみんな好きよー」などと言って、会場を沸かせた。
そんなアットホームな雰囲気のなか、古い曲と定番曲を混ぜ、びっちり2時間加速。彼らのショーは長い。最後の「nothing ever happened」ではお約束の20分程のジャムがをやって美しく終了。
彼らはニュー・アルバムを出して、すでに4回ほどNYに来てるが、同じセットリストであろうがなかろうが、会場はつねにシンガロングするお客さんで溢れている。次も見たくなるバンドなのである。
ブラッドフォードの突拍子もない行動が、良くも悪くも気になり、そのヒヤヒヤ感を求めているのかも知れないが……
エルフパワーはアセンスで、ローファイ・サイケ・ロックを1995年から続けるベテラン・バンド。5月に13枚目(!)のアルバム『Twitching in Time』をリリースしたばかりだ。
この日はメンバーも一新、胸キュンなハーモニーと安定した演奏は非の打ち所がなかった。R.E.Mやニュートラル・ミルク・ホテルとのツアーでは大会場で演奏した彼らにとって、ベイビーズは小さい会場だが、お客さんの声援が届く距離が心地良さそうだった。
お客さんは、30代から50代までくらいの落ち着いた年齢層だったが、最後の方で、次のパーティのお客さんが紛れこんで(20代前半)、ノリノリで踊っていた。
エルフパワーの曲にはまったくブレがなく、その変わらなさが、ホッとさせてくれる。1曲1曲、丁寧に説明するアンドリューは、淡々としているようで、筋の通った、熱い思いも感じさせる。
「NYに戻って来れて嬉しい。この会場は、ショーは見たことあるけどプレイするのは初めて。いい会場だね」とご機嫌だった。
23年間バンド活動を続け、いまでもこれだけ新鮮に、新しい音楽を作り続けることが出来る。アセンスという場所が関係しているのかも。まわりには有能なミュージシャンばかりで、常に創造的になれるし、NYのような甘い誘惑もない。
オープニングのサン・ウォッチャーズは、元ダークミート、NYMPHのメンバーで構成される驚異のメンバーで、エルフパワーとはアセンス繋がり。サックスやギターをドライヴさせ、ジャジーでエチオピアンな、圧巻インプロを打ち鳴らすグループは、サックスとキーボードを同時に弾いたり、タイ・ギターが登場したり、実にテクニカルである。音楽は激しいのだが、個人個人はおっとりしていて、NY在住だがアセンスな雰囲気を保ち続けている、稀な存在だ。
サウスの生活は、NYに比べるととてもスローで、コミュニティも小さく、毎日同じバーへ行き、同じ人に会う。もしくは、引きこもってひたすら音楽を作る。どちらのバンドにも言えるが、この生活とNYとのギャップが今回のステージ・パフォーマンスに表れているのかも、と思った。
自分も生活したことがあるのだが、彼らの生活は本当にスローで、ひとつのことをするのにNYの3倍はかかる。何もしていない時間も多い。でも、これが彼らのパフォーマンスや音楽に、大いに活かされている。時間を感じさせないし、手を抜かない、無駄だと思うところまで考え抜かれている。そんな彼らが作る音楽だから、私たちは気になってしょうがないのだろう。
来週はまた別のアセンスのバンド、ミュージック・テープスがブルックリンでショーをする。