ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  2. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  3. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  4. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  5. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  6. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  7. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  8. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  9. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  10. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  11. Nídia - Nídia É Má, Nídia É Fudida  / Elza Soares - End Of The World Remixes
  12. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  13. Aphex Twin ──30周年を迎えた『Selected Ambient Works Volume II』の新装版が登場
  14. Mark Fisher ——いちどは無効化された夢の力を取り戻すために。マーク・フィッシャー『K-PUNK』全三巻刊行のお知らせ
  15. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  16. Holy Tongue - Deliverance And Spiritual Warfare | ホーリー・タン
  17. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  18. Godspeed You! Black Emperor ——ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーがついに新作発表
  19. Sam Kidel - Silicon Ear  | サム・キデル
  20. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat

Home >  Regulars >  Random Access N.Y. > vol.108:インディの行方

Random Access N.Y.

Random Access N.Y.

vol.108:インディの行方

沢井陽子 Dec 28,2018 UP

 12月も半ばになると、どこもホリディ・パーティ真っ盛りで、毎日のようにパーティがある。先週末アーティスト友だちのロフトスタジオのパーティに行ったら、40人ぐらい来ていて、バンドも3組出るという豪華なパーティだった。来ていた人は、ほとんどミュージシャン、アーティストで、隣で見ていた人が次々とステージヘ。ミュージシャンは機材を全て持ち込んでセットアップして、それが終わればまたそれを持ち出す。ドラムセットもスピーカーもだ。彼らは大変なのである。こう考えると、エンターテイメントをありがとう、とチップも弾みたくなる。
 私が好きだったのはアイルランドのコークに住む女の子、M.Sea。アルドス・ハーディングを思い起こす、力強く、表情豊かで、そして切なく美しい音楽。自分の祖母、ウィスキー、ガチョウなど身の回りの事を歌う彼女に、あっと言う間に引き込まれた。来月にはアイルランドに帰ってしまう彼女を見れたのは偶然。グリーンポイントのバーのオーナーがパーティに来ていて、早速3日後に、彼女のギグを組んでいた。NYマジック。
http://www.mseamusic.com

 週明けの月曜日には、〈カナイン(Kanine)〉のホリディ・パーティがあった。〈カナイン〉は2002年にスタートしたブルックリンを代表するインディ・レーベルで、『NY: Next wave』(2003)というコンピレーションで、NYのローカルバンドを紹介し、グリズリーベア、チェアリフト、サーファー・ブラッド、ビヴァリー、エターナル・サマーズ、ザ・ブロウ、グルームスなどをリリースしている。〈カナイン〉のバンドは、90年代のギターポップを引き継ぎ、この日のハニー・カフ、タリーズもハッピーでお行儀の良いギター・ポップ。エターナル・サマーズのニコルのソロは、ガイデッド・バイ・ヴォイシーズのメンバーがギターを弾いていたり、元ESのマネージャーがサックスを吹くなど豪華。ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのキップの新しいバンドThe Natvralは、ジージャン、ジーンズという服装が90年代ギターポップを象徴していて、音楽も懐メロに聞こえた。
http://kaninerecords.com


Brooklyn vegan DJ (7 inch)


〈カナイン〉のパーティで踊るオーディエンス

 ライヴ・ショーは、レコードとは違う楽しみ方ができる。バンドやまわりからのエナジーを感じたり、何が起こるかわからない、ライヴ感がワクワクさせてくれる。いまどきレアなCDJを使ってギターポップで踊るという15年前にタイムスリップした気分にさせてくれる〈カナイン〉は、世間がどうであれ、自分の好きな音楽に徹底している。だからコアなファンがいるのだろう。


Honey cutt


Nicole Yan (eternal summers)


Tallies

 ライヴといえば、最近Mitskiをブルックリン・スティールという大会場で見た。2018年度のベスト・アルバムで多くのメディアの上位に入っている彼女は、DIYアーティストからメジャーに飛躍した、2018年旬のアーティストといえる。じっさいソールドアウトの会場は、シンガロング、声援をおくるファンで埋め尽くされていた。そしてMitskiは穏やかに「私の作品を評価してくれてありがとう」とファンに答える。


Mitski @brooklyn steel

 ライヴを見るとたいてい気分が高揚するものだが、Mitskiのショーでは心にポッカリ穴が空いたような気分になった。ショーは悪くなかったどころか完璧だった。メディアのバズ(ピッチフォークは2018年のベスト・アルバムに選んでいた)や、まわりの圧倒的な声援、DIYアーティストだと思っていた彼女の変化に自分がついていけなかっただけなのかもしれない。2018年の傾向として女性が強いという動き(me tooムーヴメントなど)があったが、Mitskiはバッチリハマった。ひとりのかわいいアジア人女性が「be the cowboy」という男性的なタイトルのアルバムを出し、孤独感やダークサイドを歌い(この時代ハッピー・ソングなんて誰も求めていない)、共感を得るのは納得できる。みんな不安で何かにすがりたいし、彼女を自分たちのロールモデル的に見ているのだろう。彼女を支持して自分も楽になりたい……たしかに一般ウケしそうなキャラではあるけれど、これってアメリカの選挙に似てませんか、と。少数派は都会で、大多数は田舎にいる。田舎の方が人口が多いから、それがアメリカ代表になる。


 2018年はメディアによって、ベスト・アルバムがバラバラだった。普通なら同じようなアーティストが上位になるのに、あるメディアで上位に入っているものが、別のメディアでは50位にも入っていなかったりする。それだけ情報は豊富で、選択の多い時代なのだろう。

Random Access N.Y. - Back Number

Profile

沢井陽子沢井陽子/Yoko Sawai
ニューヨーク在住20年の音楽ライター/ コーディネーター。レコード・レーベル〈Contact Records〉経営他、音楽イヴェント等を企画。ブルックリン・ベースのロック・バンド、Hard Nips (hardnipsbrooklyn.com) でも活躍。

COLUMNS