Home > Regulars > Random Access N.Y. > vol.115 : 1年に1度のアシッド・マザーズ・テンプル- Acid mother temple/ Yamantaka//Sonic titan @Market Hotel
沢井陽子 Apr 22,2019 UP
日本のサイケデリック・ロック・バンドのアシッド・マザーズ・テンプルは、1年に1回、4月になるとNYに帰って来る。それはもう春の恒例行事となりつつある。で、今年はDIYスペースの元祖マーケット・ホテルに帰って来た。
マーケット・ホテルは、2008年にブッシュウィックにオープンしたDIYスペース。アートのシーンがウィリアムスバーグからブッシュウィックに移動する最中に生まれている。ライトニングボルト、DMBQ、アニマル・コレクティヴ、ブラック・ダイスなど数々のゼロ年代以降のバンドがそこでプレイした。当時は、「とりあえずマーケット・ホテルに行ってみるか」という感じで、ミュージシャン、アーティストたちの交流の場でもあった。同所は2010年、NYPD(ニューヨーク警察)から閉鎖に追い込まれるというピンチを迎えてもいるが、しかし合法的に経営するためビルディングを大掛かりに改装。そして、2015年に再オープンするという根性を見せた。いろんな問題を乗り越えている同所を経営しているのは、この連載ではお馴染みのDIYマスター、トッドP(http://www.ele-king.net/columns/regulars/randomaccessny/002015/)。
ちなみに、マーケット・ホテル再オープンのこけら落としは、アルバム『No citIra to Love』リリース時のスリーター・キニーだった。そのときは、久しぶりに熱いモッシュがブッシュウィックに戻ってきた。ウィリアムスバーグのシーンが終わって、DIYに陰りが出てきた頃だったので、マーケット・ホテルの再オープンは新しいDIY時代の幕開けを意味してもいた。
その伝説の場所でアシッド・マザーが観れるのは完璧でしょう。マーケット・ホテルのおさるのサインに迎えられ、数々の物販を横目に(最近の物販の種類の多さには目を見張る)フロアに行くと、キチンとしたバーがあり、ステージからは相変わらずJMZの電車が丸々見える。
オープニングは、カナダのヤマンタカ//ソニック・タイタン。柔道着を着て歌舞伎メイクをしているアジアン・ルーツのグループ。太鼓やティンシャ鈴などの打楽器を織り交ぜ、フライングVのギター、犬の遠吠えのようなヴォーカルなど、ドラゴンボールのメンバーがバンドを組んだらこうなるのかもというパフォーマンスだった。
「thank you for waiting. Good evening」というKawabataさんの挨拶があって、アシッド・マザーズ・テンプルの演奏がはじまった。SCRAAAEEEOWSCRRRRRWEAAAHEEEEEEEEとバカテクのギターを中心に、ドラム、ベース、シンセによる爆音洪水。スリリングなノイズが怒濤のように続く。たまに入るJyonson tsuのチャンティングなヴォーカルが泉の様な役割をする。
とはいっても、ノイズ一辺倒ではない。機械のようなドラムソロからグルーヴ感あるベース・ソロ、そしてギター、シンセと、どんどん音を重ね、それぞれのメンバーの凄腕さも見せてくれる。彼らのライヴはエンターテイメントでもある。それぞれの音が合わさって、アシッド・マザーの半端ない宇宙の威力が爆発していた。
アシッド・マザーはもう何回も見ているが、今回のライヴは、いままで見たなかでもいちばんまとまりが良かった。音がひとつひとつ明確に聞こえてくる。以前のライヴでは昔からのファンが多かったが、今回は場所のせいもあるのか若い人が多かった。隣りの男の子と話すと、彼は21歳で、「僕のだちが絶対見た方がい、ってチケットを買ってくれたんだ」という。こんな感じで、SNSばかりであまり外に出ない世代の若い人たちがDIY文化に戻って来ている。物販にも長い行列ができていたし、バンドも嬉しそうだった。
今回のNYライヴは、彼らは46日間のツアーにおける半分(27日)ぐらいのところ。この後もまだアメリカを回っていく。いずれにせよアシッド・マザー・テンプルのライヴは何が何でも行くべきものだ。ただし、耳栓は忘れずにね。