「LV」と一致するもの

Black Country, New Road - ele-king

文:イアン・F・マーティン(訳:江口理恵)

 音楽をコミュニケーションの行為として考えるとき、私たちはそのプロセスの半分にしか思いを致していないことが多い。アーティストに伝えたいことがあり、それを音楽でリスナーに伝えると、その成功は受け手側にも共感を呼び覚ますことができるかどうかで測られる。しかし、コミュニケーションは双方向性のプロセスであり、録音というデッド(死んだ)な(ライヴとの対比として)メディアが、生きているリスナーと対話するには、それとは異なる難儀な類のコミュニケーションが必要になる。

 ブラック・カントリー、ニュー・ロードのコミュニケーションは、微細な観察からなる個々のディテールが、印象主義的な全体像を構成する、断片のコラージュで表現されている。これらの物語の断片を読み解くもっとも直観的な方法は、音楽の喜びのうねりや、押し寄せる嘆き、親密さに伴う押しつぶされるような痛み、喪失による靭帯の引き裂きにより、正確な意味が流れ去るような場面があっても、ときおり言葉に焦点を合わせて音色を追っていくことだ。また、細部を掘り下げることで、その他の物語が直線的ではなく、繰り返されるイメージを通して、聞きなれた言葉が馴染みのない方法で繰り返し使用され、再び現れた文字のシルエットなどが、まるで秘密の言語のようなヒントとして、かすかに浮かび上がってくる。

 2021年のバンドのデビュー盤『For the First Time』では、数年にわたり段階的に積み上げられてきたイメージやアイディアと、反復する音楽の主題や歌詞のアイディアが導入されては引き戻され、より大きなピースが傾き、互いにぶつかり合いながらも、一緒に織りあげられたものだ。それは、スリリングで多様性に満ちたリスニング体験をもたらし、高い完成度にもかかわらず、異なる条件の元で書かれた作品を見事なシミュレーションで一貫性を持たせた、寄せ集めのようなコレクションだった。これに続く新作では、ブラック・カントリー、ニュー・ロードがそのプロセスをより統制しやすくなっているのは必然であり、具体的な意味は不透明なままでも、表面下で煮えたぎるようなディテールは、より豊かで複雑に感じられる。

 具体的な解釈なしに自由に音楽が飛翔するなか、“Haldern” のような曲では、ときに感情を打ち砕くような音色を繰り出す。“For the First Time” をとても面白いものにしている繊細なユーモアは、いまは脱退してしまったヴォーカリスト、アイザック・ウッドの、もの悲しさや神話的なものと、陳腐で軽薄なものとを並走させながら、揺れ動く感情で、決して声のトーンを崩さないという驚くべき才覚によるもので、音楽のなかでも未だ重要な存在となっている。“Bread Song” では、「私のベッドでトーストを食べないで」という家庭内のリアリズムから、「この場所は誰のものでもない、パンくずのためのものでもない」という聖書のような語り口へと巧みに転換し、“The Place Where He Inserted the Blade” では、料理の比喩と思われるものを通してワイルドな感情の極限の狭間を揺れ動く。

 日常から形而上、時代劇からSF的な未来へと、時空を超えて飛び交う語り口は、我々をコミュニケーションの問題へと立ち返らせる。その非常な不透明さ、断片化、ほのめかされた相互関係は、リスナーが意味を選択して光を当て、自らの物語を書くことにより、聴くことをクリエイティヴなコラボレーションという行為に変えるのだ。ズームアウトして眺めてみれば、『Ants from Up There』には、ふたりの人間が、ある種の親密な関係を築こうと努力をするが、大きな痛みを与えあった後、引き裂かれて破壊的な傷が残るという喪失の物語がみつかるだろう。少しズームインしてみると、おそらくそこには、フィリップ・K・ディック風のポスト・モダニズムの、混乱した大人たちが、自分たちの肉体に不確かさを覚え、ライトセーバーや宇宙船、ウォーハンマー40,000といった子供時代のゲームなど、過去の残滓を使って自分たちや世界を理解しようと藻掻く物語も存在する。そこには、語り手のビリー・アイリッシュ(歌詞に何度も登場する)や、チャーリー・XCXのようなポップ・スターとフロイト的なパラソーシャル(パラセクシュアル?)な関係を築いたり、ポップ・ミュージックそのものが BC,NR の世界の混沌とした断片を繋ぎ合わせる共通の土台を形成したりしているという儚い物語も埋め込まれているのだ。繰り返し登場する超音速旅客機、コンコルドのイメージは繋がりの象徴なのだろうか? スピードと混乱の象徴? 恋人? 失われた未来? 他の何か、もしくは上記のすべてか?

 しまいには、バンドが書いた物語を聴いているのではなく、バンドが並べた断片と、それらが繋がるかもしれないという彼らが残した示唆をもとに、自分自身で描いた物語を聴いている気分になる。次に聴くときには、また異なる物語を書いているかもしれない。このアルバムの死んだプラスティックに綿密にマッピングされた分岐路の庭を消化する正味期限の限界があるだろうが、それまでは、『Ants from Up There』は、魅力的で、辛辣な面白さで、時に感情的に落ち着かない会話の相手になってくれることだろう。

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written by Ian F. Martin

When we think about music as an act of communication, we’re often only thinking of only half the process. The artist has something to communicate, and through their music they transmit that to the listener, with success measured by their ability to summon up those same feelings at the receiver’s end. Communication is a two-way process though, and how a dead (as opposed to live) medium like a recording is able to create a dialogue with a living listener is a different and more difficult sort of communication.

Black Country, New Road communicate in collages of fragmentary images in which granularly observed individual details make up an impressionistic whole. The most instinctive way to navigate these pieces of story is to follow the tone, letting the words occasionally fall into focus even as the precise meaning swims away in the music’s swells of joy, washes of mourning, crushing pain of intimacy and tearing ligaments of loss. Dig into the details, though, and other stories glimmer into light in a less linear fashion, through recurring images, familiar words used repeatedly in unfamiliar ways, silhouettes of returning characters revealed, all through hints like a secret language.

On the band’s 2021 debut “For the First Time”, images and ideas that had been built up piecemeal over several years were woven together with recurring musical themes, lyrical ideas introduced and brought back, even as the larger pieces lurched apart and crashed against each other. It made for a thrilling and diverse listening experience, but as fully-formed as it felt, it was still a collection of pieces written under different conditions and then fashioned, albeit masterfully, into a simulation of coherence. With this follow-up, it’s inevitable that Black Country, New Road would be a bit more in control of the process, and the interconnected details simmering beneath the surface feel correspondingly richer and more intricate, even if specific meanings remain just as opaque.

Even as the music flits free of tangible interpretations, they sometimes hit emotionally devastating notes on songs like “Haldern”. The subtle sense of humour that made “For the First Time” so much fun is still a key presence in the music too though, with now-departed vocalist Isaac Wood having an incredible knack for juxtaposing the mournful and mythic with the banal and frivolous, without ever breaking the teetering-on-the-brink emotional tone of his voice. On “Bread Song” the narration flips tone dextrously from the domestic realism of “Don’t eat your toast in my bed” to the Biblical “This place is not for any man / Nor particles of bread”, while “The Place Where He Inserted the Blade” swings between wild emotional extremes all through what seems to be the metaphor of cooking.

The way the narration leaps from mundane to metaphysical, from historical drama to sci-fi future, blurring time and space, all brings us back to the question of communication. That very opaqueness, fragmentation and hinted interconnections makes the very act of listening an act of creative collaboration as the listener writes their own stories by selecting and highlighting meanings. Zoom out and there’s perhaps a story of loss in “Ants from Up There” — of two people who struggle to connect, cause each other tremendous pain even as they find their way into some sort of intimacy, and who leave a devastating wound when they tear apart. Zoom in a little and there’s perhaps also a Philip K. Dick-like postmodernist story of confused adults, uncertain in their own flesh, struggling to make sense of themselves and the world using the lingering ghosts of the past — the light sabers, starships and Warhammer 40,000 games of childhood. There’s a story nestled in there too of the narrator’s Freudian parasocial (parasexual?) relationship with pop stars in the form of Billie Eilish (who makes recurring appearances in the lyrics) and Charli XCX, as well as perhaps the fragile way pop music itself forms a common ground of connection between the chaotic fragments of BC,NR’s world. Is the recurring image of the Concorde supersonic airliner a symbol of connection? Of speed and confusion? A lover? A lost future? Something else or all of the above?

By the end, you are no longer listening to a story written by the band but to one you’ve written yourself out of the pieces they’ve laid out and suggestions they’ve left for how they might connect. And the next time you listen, you may have written a different story. There is probably a limit to how long you can do so before you’ve exhausted the garden of forking paths mapped out on the album’s dead plastic, but in the meantime “Ants from Up There” makes for a fascinating, wryly funny and often emotionally uncomfortable conversational partner.

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文:Casanova.S

僕には二度目の別離の夏を迎える余裕はない
この階段は、君の古い写真に繋がっているだけなんだ
“Concorde”

君は自分を必要とする世界を恐れているんだろう?
だから地元の人と仲良くすることはなかった
だけど君はそのツルでゆっくりと僕を縛り付け、どこにも行けなくした
“The Place Where He Inserted the Blade”

 2nd アルバムの発売直前にヴォーカル/ギターのアイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニューロードから脱退することが発表された。僕は彼の書く歌詞と少し硬い歌声が大好きだった。ナイーヴな自己憐憫を重ねるような歌詞、音として紡がれる言葉たち、ひとつの言葉が他の言葉と結びついてイメージを形作りそうして意味をなしていくアイザック・ウッドのスタイル。彼は 1st アルバムで「Black Country」という言葉を繰り返し用いて、ヴォーカルが起こした性的トラブルを告発されたことで解散することを余儀なくされたナーヴァス・コンディションズから続くブラック・カントリー・ニューロードの物語を描き出した。ケンブリッジの10代の新人バンドがデビューするという最初の記事が出たタイミングでの告発、一曲も残す事なくバンドは終わり、時間が過ぎて、残されたメンバーはそれぞれに失意を抱えながらもバンドを続けることを決意した。そうして隅っこでギターを弾いていたアイザック・ウッドの前にマイクが置かれ、本来それを担当するはずだった人間の代わりに彼が歌いはじめるようになった。「だからきっとある意味で/いつだって僕はゲストだった」 1st アルバム収録曲のヴァージョン違い、“Track X (The Guest)” に追加された「ゲスト」というこの言葉はウッドのソロ・プロジェクト ザ・ゲストにひっかけた言葉なのだろうが、ナーヴァス・コンディションズの解散後にはじめたこの活動がいまのアイザック・ウッドのスタイルを形作った。そこで彼は初めて詞を書き唄い、そうして自分自身をゲストと呼んだ。

 ウッドにとってナーヴァス・コンディションズとはどんな存在だったかのか? それは 1st アルバムを聞けばわかるのかもしれない。起きてしまったことに対する後悔と自己憐憫、少しの希望、アルバムの全ての曲は同じ方向に向かって流れ、それが「Black Country」という言葉によって繫がれる。「僕は何にも学んじゃいない/2018年に失った全てのことから/彼女はまだどこかで僕らを待っているって気がしてならないんだ/水を綺麗に保つために僕たちが作ったものの下に隠されて」。7インチのヴァージョンから変更された “Athens, France” のように象徴的な言葉を差し込み(2018年はナーヴァス・コンディションズが解散した年だ)、ウッドはアルバムの曲を連結し、全体で大きなイメージを作りあげた。ここで唄われる「彼女」とはナーヴァス・コンディションズのことを指していて「Black Country」という言葉も同じものを意味しているのではないか? アイザック・ウッドの歌詞はそうやって想像する余地を残していく。「向こうで Black Country が待っているんだ」。そう繰り返し唄われる “Science Fair”、「Black Country の地面から僕らが作りあげたもの」「穏やかに過ごすために僕たちが作り上げたもの」。“Opus” では比喩的にブラック・カントリー・ニューロードの結成の物語が綴られる(ブラック・カントリー・ニューロードはサウス・ロンドンシーンのパーティのはじまりに間に合わなかったバンドだ。本来ならばナーヴァス・コンディションズかここに参加しているはずだった)。1年前のリリース時のインタヴューでサックス奏者のルイス・エヴァンスが語っていたように 1st アルバムはある時期の彼らを切り取ったものだったのだろう。傷ついた仲間たちが再び集い、そうしてまた歩き出そうとする決意の物語、ウッドは自分たちのバンド名から後付けで言葉に意味を付与し、その最初の物語、失われてしまったナーヴァス・コンディションの未来の姿を終わらせようとした。余裕なんてどこにもなく、スリルと狂気と不安がそこに漂っているような、1st アルバムはそんなアルバムだった。

 この 2nd アルバムはどうだろう? 破裂してしまいそうだったヒリついた空気が消え去り、記憶を静かに呼び覚ますような、優しく慈しむような、ここではそんな音楽が奏でられている。1st アルバムとはもう別のバンドになってしまったと言ってもいいくらいに。あるいはゆっくりと時間をかけて自分の中に潜む感情を理解しようとしているかのような。最初のアルバムで感情の変化や亀裂を描いていたギターやサックスの音がこの 2nd アルバムでは感情を優しく導いていくようなものに変わり、舞台の上でセリフをまくし立てているようだったウッドのヴォーカルはメロディをゆっくりと口ずさむようになった。それは1年前にインタヴューで見せていたあの仲間同士のリラックスした雰囲気で、ポップ・ソングを愛する、もしかしたらこれがバンドの本来の姿だったのかもしれない。「ネクスト・アーケイド・ファイアになれたら……基本的にはそれがゴールさ」 冗談とも本気ともとれるようなジョークを飛ばすアイザック・ウッドの、おそらくはそれこそがサングラスをかけフォンジーに変身しステージ立つ必要のなかった世界のブラック・カントリー・ニューロードの姿だったのだろう。『Ants From Up There』にはそんなバンドの魅力が詰め込まれている。

 ウッドはこの 2nd アルバムでもイメージを結びつけるキーワードような言葉を用いてそれぞれの曲を繋ぎアルバム全体で一つのテーマを描き出そうとしている。「コンコルド」は曲のタイトルになっているし、「ビリー・アイリッシュ」も複数回出てくる。「クランプ」は彼らをつなぎ止める留め金で、それは “The Place Where He Inserted the Blade” において自らを縛り付けどこにも行けなくするツタや彼らを結ぶタグ、長い糸としても表現されている(おそらくそれは僕たちが絆と表現するものなのだろう)。曲をまたぎ何度も歌詞に登場する「コンコルド」という言葉はケンブリッジ郊外にあるダックスフォード航空博物館を訪れた共通の思い出が元になっているとドラムのチャーリー・ウェインが明かしているが、アルバム3曲目である “Concorde” においてのこの言葉はおそらくコンコルド効果を意味するものでもある。このまま引きずっていてもろくな事にはならないと理解していながらも、それでもこれまでにあった出来事をなかったことにはできない。思い出は美しく自らを縛り付ける。クリエイティヴ・ディレクター、バート・プライスが手がけた 1st アルバムのプロモーション(インターネット上のフリー素材を用いたスタイル)から、メンバー自身が子供の頃に書いた絵を使ったプロモーションに変化していることからも彼らがノスタルジックな思い出をこのアルバムのテーマにしていることがうかがえる。このアルバムは思い出を抱えそれに縛り付けられながらもそこから歩みを進めようとするアルバムなのだ。

 インタヴューの中で彼らは今作では歌詞だけではなくサウンド面でもリンクさせようと曲作りの段階で考えていたとも語っている。ルイス・エヴァンスは「今回は、曲を作っている時に他の曲のことを考えながら作った感じ。アルバムの曲順も曲作りの時点で考えながら曲を作っていったんだ」と語り、メイ・カーショウも「全てをリンクさせることを意識していた」と話す。その言葉通り、1分足らずの短いイントロから繫がれる “Chaos Space Marine” にはその後の曲を紹介するティーザーのようにアルバムの中の要素が断片的に織り込まれている。グランドピアノの音に明るく優しいサックス、何度もタメが入って展開し、メロディを唄うウッドの口からはコンコルド、ビリー・アイリッシュ、掘ってしまった穴と次々と後続の曲を示唆するような言葉が出てくる。パーソナルな領域にゆっくり踏み込むような “Bread Song” はチャーリー・ウェインのドラムによってエモーショナルさを一気に加速させ、その手法は “Haldern” や “Snow Globes” にも取り入れられている。それは匂いや色、言葉や音、一見関係がない事柄が他の何かを思い出すきっかけとなるような記憶の仕組みによく似ていて、楽曲に繋がりと広がりを生み出している。おおげさに言うとひとつの曲の中に実際には鳴っていない他の曲の音、あるいはイメージが埋め込まれているような感じだ。そうしてそれがオーバーラップしてくる。表面的な言葉や音は必ずしもそれ自体を意味しているわけではなく、その時々で違った意味が顔出す。僕はこれこそがブラック・カントリー・ニューロードの魅力なのだと思う。彼らは曲単位ではなく塊としてアルバムを意識している。もっといえばアルバムとアルバムとの関係性も意識しているのかもしれない。

 このアルバムはとても内向きなアルバムだ。ライヴで演奏するために作られた楽曲が収められた 1st アルバムと違い、ライヴのできない状況下で作られたこの 2nd アルバムの曲たちはアルバムに収録されるために作られた。最初にあったのは “Basketball Shoes” でこの曲を出発点にしてこのアルバムは作られたという。全てのテーマが “Basketball Shoes” の中にあり、逆に辿ってアルバムの最終曲であるこの曲にまた帰って来る。初期に「チャーリーXCXについて夢を見た」と唄われていた箇所が「コンコルドが僕の部屋の中を飛び回る/家の中をズタズタにして」と変更され、アルバムの中を飛び回る「コンコルド」のイメージを強化する(それはまたしても僕たちを縛り繫いでいく)。「僕がしてきたことの全てはドローンを作ることだった/僕らは残りを唄う」 曲の中でウッドがそう伝える通りに、このアルバムでは他のメンバーの声も聞こえてくる。“Chaos Space Marine” を彩るコーラスに “Good Will Hunting” で響く歌声、“The Place Where He Inserted the Blade”、そして “Basketball Shoes” の重なる声、それらがエモーショナルに心を震わせる。これも 1st アルバムでは見られなかった特徴だ。

 このアルバムのレコーディングはバラバラではなく一つの部屋で同時におこなうライヴ・レコーディングの手法がとられたようだ。ロンドンから離れ船でワイト島に渡り3週間滞在し、寝食を共にしてアイデアを出し合い意見を交わす。時にはフットボールに興じたり、みなで屋外レストランに出かけたり、地元のパヴを巡り映画を見たり。ルイス・エヴァンスは 1st アルバムのインタヴューで冗談まじりに「音楽より仲間の友情の方が大切さ」と語っていたがこのスタンスは2nd アルバムでより顕著に表れている。プロデューサーは立てたくなかったし、ロンドンでのレコーディングもしたくなかった、それは激動の時代を経てもう一度自分たちと向き合う為に必要なプロセスだったのだろうか? ロンドンから離れた場所、海を渡ったイタリアの観光地を思わせる非日常の世界、そのスタジオの中で彼らはお互いに向き合い、観客抜きの自分たちの為だけのライヴをおこなった。サウンド・エンジニアのセルジオ・マッショッコ(最終的には彼がプロダクションを担当することにもなった)とワイト島のレコーディングスタジオのエンジニアのデイヴィッド・グランショウのふたりの手を借りて、2nd アルバムはそうやってでき上がった。だからこのアルバムはより彼らの内面に迫ったものになっている。ある意味で彼らだけで完結している閉じた世界のアルバムなのだ。バンドが大きくなっていく過程において閉じた世界だけでは成立しなくなる、自分たちを取り巻く世界が目まぐるしく変わっていく、だからこそ彼らは原点に立ち返りそこから再び始めようとした。美しく慈しむようなこのアルバムのサウンドは、ノスタルジックであると同時に、「コンコルド」の思い出を糧に前へ進もうという意志と明るい希望が感じられる。あたかももう少し自分たちのバンドをやってみるよというメッセージが込められているかのように。

 アイザック・ウッドの脱退の発表からそこに新たな響きが付け加わってしまったのかもしれないが、それでもこの 2nd アルバムにはレコーディングされた当時の希望がそのまま封じ込められている。だから悲しくは響かない。1年後、3年後や5年後、これから先、きっと繰り返し聞くことになるアルバムには思い出が積み重ねられていく。音楽はそうやって時間を重ね、“Snow Globes” に出てくるキャラクター、ヘンリーがそうしたように記憶の壁にかけられるのだ。アルバムのアートワークに描かれている飛行機はどうしてコンコルドではないのだろう? 頭にそんな疑問が浮かぶが、でもそんなことは些細な問題なのかもしれない。アルバムを取りだしてジャケットを眺める。その飛行機の模型からコンコルドのことが思い出されて、針を落とす前にはもう頭の中に曲が流れ出している。このアルバムはやはり記憶と連想のアルバムなのだ。美しく感傷的で希望に溢れるブラック・カントリー・ニューロードのこの 2nd アルバムはきっと頭の中、記憶の部屋に残り続けることだろう。この先バンドがどんな風になっていくのかわからないが、でもいまはこの素晴らしいアルバムが作り上げられたことを嬉しく思う。

Jazzanova ×〈Strata〉 - ele-king

 いま、70年代ブラック・ジャズ再評価の波が来ている。〈Black Jazz〉や〈Tribe〉といったスピリチュアル・ジャズ・レーベル作品のリイシューにボックスセット……そして今度は〈Strata〉の番。1969年にデトロイトで設立された〈Strata〉(注意:ギル・スコット=ヘロンなどで有名なNYの〈Strata-East〉ではない)は、セオ・パリッシュやジャイルス・ピーターソンなどからも称賛されているジャズ・ファンク~ソウル・ジャズのレーベルだ。
 その〈Strata〉音源をジャザノヴァがカヴァー、再創造した1枚がリリースされる。題して『ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト』。4月20日発売。
 ジャザノヴァとは90年代末にベルリンで結成されたDJ/プロデューサー集団で、当時のクラブ・ジャズ~フューチャー・ジャズを代表するグループ。〈Strata〉の名曲たちがどのように生まれ変わるのか──これは楽しみ。

ジャザノヴァ/ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト

1960年代後半にケニー・コックスによりデトロイトで創立されたインディペンデント・ジャズ・レーベル、〈STRATA〉は1969年~1975年の僅か6年の活動だったにもかかわらず、近年セオ・パリッシュからジャイルス・ピーターソンを筆頭に多くの音楽ファンやレコード・ディガー達から賛美を浴び、伝説的なレーベルとして知られている。

Kon & Amir の片割れで、レコード・ディガー、DJとして有名な DJ Amir が立ち上げた〈180 Proof〉がケニー・コックスの妻、バーバラ・コックスの協力を得て〈STRATA〉の過去カタログを再発するプロジェクトがスタート、そして彼はベルリンでジャザノヴァと出会い、 〈STRATA〉のカタログを使ったアルバム・プロジェクトを発案、ジャザノヴァは同レーベルのカタログ中の傑作11曲を厳選して再構築を試みた。

〈Strata〉のコミュニティーとシンパシーを感じたジャザノヴァは、常に進化を続ける創造性豊かなユニットであり、1995年に志が同じのDJやプロデューサーらからなるオリジナル・ メンバー5名からスタート、彼等はバンド・プロジェクトへと発展しライヴ活動を開始、その流れの中でジャザノヴァとDJアミールが出会ったのは運命であり意気投合した彼等はこの世紀の大プロジェクトを完成へと導いた。

本作は単なるカヴァー・アルバムではなく、彼等が長年培ったDJとしてのリミックス感覚 と、ライヴ・バンドとしての感性を融合させ、現代に蘇らせる事に成功した。例えば、 Lyman Woodard Organization “Creative Musician” は新鮮なアフロビートのテンポのア レンジを盛り込み、同バンドの名曲 “Saturday Night Special” では新らしい解釈の現行ファンクを提案している。同時に元々モータウンのバック・バンドとして活躍したミュージシャンが多数在籍していた〈STRATA〉らしいジャズとソウル・ミュージックのハイブリッドなサウンドはジャザノヴァと出会う事によりモダンでエクレクティックなジャズ・サウンドへと昇華する事に成功した。

ジャザノヴァ ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト
Jazzanova Strata Records - The Sound of Detroit

TRACKLIST
1. Introduction - Amir Abdullah aka DJ Amir
2. Lost My Love - Jazzanova feat. Sean Haefeli
3. Creative Musicians - Jazzanova feat. Sean Haefeli
4. Joy Road
5. Face at My Window - Jazzanova feat. Sean Haefeli
6. Root In 7-4 Plus - Jazzanova feat. Sean Haefeli
7. Inside Ourselves
8. Beyond The Dream - Jazzanova feat. Sean Haefeli
9. Saturday Night Special
10. Orotunds
11. Scorpio’s Child
12. Loser - Jazzanova feat. Sean Haefeli
13. Creative Musicians (Waajeed Remix) Bonus Track
14. Creative Musicians (Henrik Schwarz Remix) Bonus Track

BBE MUSIC / 180 PROOF / STRATA / OCTAVE-LAB OTLCD2600
税抜定価:¥2,300+税
2022年04月20日(水)
形態:CD

創造的再生が、時代とジャンルを超えた!
JAZZANOVA による STRARA RECORDS の再解釈は、極上の音楽体験を与えてくれる。
DJ感覚とバンド・サウンドとリスニング・ミュージックの理想的なハイブリッドが完成!!
沖野修也(Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextet)


"As a longtime Jazzanova head I expect nothing less than prime grade A quality musical excellence and this go round is absolutely no different. It comes with a lush maturity, evolved growth & envelope pushing all the while remaining true to their mission of making creative music from their hearts. Go Jazzanova!" - Ahmir 'Questlove’ Thompson
大昔からのジャザノヴァの大ファンとして、彼らからは超一流な品質の音楽の卓越性他ならない完成度を常に期待しており、この新作も全くいつも通り変わりはない、最高品質な作品に仕上がっている。本作にはまた彼らの豊富な成熟ぶり、進化した成長と限界に挑む姿勢が大いに盛り込まれながら、彼らの心の奥底から来ている音楽創造の姿勢に対する使命に忠実であり続けている姿を明確に表している。ジャザノヴァ、頑張れ!
-Ahmir 'Questlove' Thompson(THE ROOTS)

Daniel Villarreal - ele-king

 シカゴのオルタナ・ラテン・バンド、ドス・サントスの一員でもあるパナマ出身のドラマー/パーカッショニスト、ダニエル・ ヴィジャレアルが初のソロ・アルバムを発売する。シカゴの新たなキーパーソンになっているという彼のアルバムには、ジェフ・パーカーら当地の面々とLAのミュージシャンたちが参加。ラテンのリズムを活かした極上のグルーヴを堪能したい。

ダニエル・ビジャレアル(Daniel Villarreal)
『パナマ77(Panama77)』

発売日:【CD】2022/5/25

大注目!! シカゴのオルタナ・ラテン・ジャズバンド、Dos Santos(ドス・サントス)のメンバーで知られるパナマ出身ドラマー/パーカッショニスト Daniel Villarreal(ダニエル・ ビジャレアル)が待望のソロアルバムを完成させた。ラテンのリズムに導かれるグルーヴ溢れるサウンドは必聴。日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様のCDでリリース!! ジェフ・パーカー参加!!

Recorded in Chicago and Los Angeles featuring:
Daniel Villarreal - drums & percussion,
Elliot Bergman - baritone saxophone & kalimba,
Bardo Martinez - bass guitar & synthesizers,
Jeff Parker - guitar,
Kellen Harrison - bass guitar,
Marta Sofia Honer - violin & viola,
Kyle Davis - rhodes piano & synthesizers,
Anna Butterss - double bass & bass guitar,
Aquiles Navarro - trumpet,
Nathan Karagianis - guitar,
Gordon Walters - bass guitar,
Cole DeGenova - farfisa & hammond organs

ダニエル・ビジャレアルは、現在のシカゴのシーンを支える最重要ドラマー/パーカッショニストだ。パナマ出身で、異色のラテン・バンド、ドス・サントスのメンバーであり、DJでもある。ジェフ・パーカーら、シカゴとLAのミュージシャンたちと共に、ラテンのリズムを掘り下げて最上のグルーヴとドリーミーなサウンドスケープに包まれる、真に融和的な音楽を作り上げた。(原 雅明 rings プロデューサー)

アルバムからの先行曲 “Uncanny (Official Video)” のMVが公開されました!
https://www.youtube.com/watch?v=JNUaLAYPURM

アーティスト:Daniel Villarreal(ダニエル・ビジャレアル)
タイトル:Panama77(パナマ77)
発売日:2022/5/25
価格:2,600円+税
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC87
フォーマット:CD(MQA-CD/ボーナストラック収録予定)

* MQA-CDとは?
通常のCDプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティの音源により近い音をお楽しみいただけるCDです。

Official HP:https://www.ringstokyo.com/danielvillarreal

The Weather Station - ele-king

 まず、アルバム・タイトルが美しい。「なぜわたしは星を見上げるのか?」。そんな呟きからはじまる音量の小さなピアノ・バラッド “Stars” で、歌い手の彼女、タマラ・リンデマンは幼い頃に母親と見上げた暗い夜空を思い出す。そして今夜、何かに打ちひしがれている「わたし」は、どうして宇宙の美に圧倒されねばならないのか自分に問いかけるのだ。曲中ではそれが2020年になる直前の夜の出来事だったことが明かされるが、この曲を聴いてその豊かな静けさに魅了されるわたしたちは、パンデミックが訪れる以前の世界がどのような姿をしていたか思い出せないままに、暗い空に光る星を探すことになるだろう。

 昨年リリースされたアルバム『Ignorance』をエレキングで紹介しそびれたことを残念に思っていたので、本作を機会にザ・ウェザー・ステーションの存在を取り上げたい。ザ・ウェザー・ステーションはカナダはトロント出身のタマラ・リンデマンを中心とするフォーク・バンドで、実質彼女のソロ・プロジェクトを拡大してきたものだと言っていいだろう。ジョニ・ミッチェルの子どもたちのひとりとしてリンデマンは2000年代終わりごろから抑制の効いたオーセンティックなフォーク・ソングを発表してきたが、2017年のセルフ・タイトル作『The Weather Station』の頃から如実に音楽性を拡張することになる。その実が結ばれたのが室内管弦楽とジャズの要素を大きく導入した『Ignorance』だ。
 僕はまずリード・シングルの “Robber”(https://youtu.be/OJ9SYLVaIUI)に圧倒された。ツイン・ドラムとストリングスがダイナミックに呼応すると、それが躍動し、リンデマンはハスキーで落ち着いた歌声を聴かせる──「わたしは泥棒をけっして信じない」。これはカナダの植民の歴史を背景にした言葉で、同時に現代の強欲な資本主義も射程に入れている。ここに怒りと苛立ちはあるのだが、それらはあくまで優美に、穏やかに、最終的には気分が高揚するジャジーなフォーク・ロックとして表現される。PJハーヴェイの『Let England Shake』ほどコンセプチュアルではないにせよ、自国の歴史に対する疑問をあらわにしながら、そのエモーショナルなエネルギーを抑えられなかったフォーク・ソング集という点では共通している。環境破壊に混乱する歌、グローバルな格差のなかで生きることを仄めかす歌、殺伐とした都市で生活することの疲れを鳥への憧れに託す歌……リンデマンは、現代の社会で起きていることに心を痛めている自分を晒しながら、しかし、アップリフティングなバンド・アンサンブルを一身に背負ってメロウなメロディを温かくパワフルなものへと、ものの見事に昇華する。

『How Is It That I Should Look At The Stars』は『Ignorance』と同時期に作曲された楽曲が収められたアルバムで、終始デリケートできれいなピアノ・バラッドが並べられている。この2作は相互補完的な位置づけにあるという。躍動感に満ちた『Ignorance』を思うと『How Is It That~』はずいぶんスロウで控えめな作品だが、リンデマンの囁きながらも音程をしっかりと取る歌声の魅力と聴き手を陶酔させる叙情的な演奏は変わらない。掠れる声の余韻まで聞かせる “Marsh” にはじまり、木管楽器がそこに淡い色を添えると、“Endless Time” ではよくコントロールされたピアノの演奏がそれ自体で時間の感覚を忘れさせる。本作ではジャズと室内楽が持つ静謐なムードばかりが丁寧に扱われ、メゾピアノのバラッドがあまり主張せずに現れては消えていく。気に留めていなければ聴き逃してしまいそうな小さな歌たち、しかしよく耳を澄ませば身体の深いところまで降りていく歌たちだ。
 ここではリンデマンはオンラインで繋がったコミュニケーションをオフにして、時間の流れについて考えたり、カササギを見つめながら人生の不可解さにたじろいだり、そして子どもの頃に星を見上げた記憶を反芻したりしている。男声とのデュエットとなる “To Talk About” で彼女は、そんな自分は「怠惰だ」という。「わたしは怠惰だ、わたしは愛について話したいだけだから」と。僕がこの歌に思わず息を呑んでしまうのは、自分にも身に覚えのあることだからだ。すべてのタスクを無視し、世界で起きている恐ろしいことも忘れ、愛についてだけ考えたいときがあることを。この歌たちは、そんな怠惰さを肯定も否定もせずに、ただゆっくりと浸るものとして立ち上げてみせる。

 社会の不平等に異議を唱えることも、社会から少し離れて内省的な詩を綴ることも、長くフォーク音楽が果たしてきたことで、リンデマンはまさに現代のフォーク・シンガーとしてその両方をエレガントに実践する。“To Talk About” でリンデマンは最後に「この世界にあるのは愛だけではない」と囁くのだが、だからこそわたしたちは、ときには小さな音に耳を傾け、ニュースを消して夜空に浮かぶ星の輝きを探さねばならない。

Maya Shenfeld - ele-king

 〈Thrill Jockey〉が興味深い電子音楽家/作曲家のアルバムをリリースした。ベルリン在住のマヤ・シェンフェルトの『In Free Fall』である。
 マヤ・シェンフェルトは現代音楽の作曲家で、クラシックのギター奏者でもあるのだがパンク・バンドでギターを演奏するなど、多岐にわたる音楽活動をおこなっているようだ。現代音楽の領域ではモダンな電子音楽を追求しており、インスタレーションや作曲作品などを通して、電子音合成と有機的な音を越境させるような音楽を生み出している。
 本作『In Free Fall』は、マヤ・シェンフェルトのデビュー・アルバムであり、最初の集大成であり、電子音楽方面での作曲方法が追求されているアルバムである。このアルバムには実験的な電子音楽、オーセンティックでミニマルなシンセ・サウンド、映画音楽的なトランペットとシンセのアンサンブル、電子音響ドローンなど、いくつもの手法が駆使されている。しかしサウンドが乱雑になったり、無意味にカオティックになったりすることはない。端正だが緊張感もあり、どこか風が吹くような自由さもある。私にはこのバランスの良さが『In Free Fall』の魅力のように思える。

 『In Free Fall』には全7曲が収録されている。1曲め “Cataphora” は Kelly O'Donohue のトランペットと電子音のアンサンブルによる曲だ。折り重なる音は洗練されており、まるで映画音楽のような流麗な展開を聴かせる。同時に音と音のレイヤーには和声を超えるような構造にもなっており、音楽と実験の領域を無化する楽曲となっている。この曲における電子音と有機的な音の交錯は、まさに本作の方法論や表現を象徴するものである。ちなみにどうやらカテリーナ・バルビエリとのレジデンスの間に書かれた曲のようだ。
 シンセ・ウェイヴ的なシーケンス・サウンドで始まる2曲め “Body, Electric” でも後半になるとクラシカルなアンサンブルへと変化する。続く3曲め “Voyager” ではエモーショナルなシンセサイザー・サウンドが全面的に展開され聴き手を電子音の深い海に誘うサウンドスケープを生成していく。どこか映画『ブレードランナー』のヴァンゲリスを思わせる曲だ。
 この2曲を経て、エンプティ・セットのジェームズ・ギンズバーグをプロデューサー/コラボレーターに迎えた4曲め “Mountain Larkspur” に至る。レコードではA面のラスト曲となるこの曲は、わずか2分50秒のほどのトラックではあるもののアルバムを代表する1曲といっても過言ではない。ベタニエンユース合唱団の幽玄な合唱は、ベルリンにある1902年の廃プールでリハーサル・収録した録音したものだという。その録音にギンズバーグとシェンフェルトが電子的な加工を施し仕上げた。いわばアルバムA面のエンディング的曲であり、アルバム前半を総括する幽玄なトラックともいえる。
 続く5曲め “Silver” は硬質なサウンドによるドローン作品であり、その透明な質感の音響がとにかく美しい。この曲も2分50秒ほどのトラックだが、粒子のように美しいミニマルなドローンの中に込められた音の変化や情報量が凄まじく、深く聴き込んでいくと時間を超越するような感覚を覚えるほどだ。どこかビー・ジェー・ニルセンのドローンを思い出しもする。この曲はレコードではB面1曲目に当たるので、アルバム後半のはじまりを告げるトラックともいえよう。
 そして6曲め “Sadder Than Water” は、3曲め “Voyager” と対になるようなシンセ・アンサンブル的な楽曲だ。7分20秒というアルバム最長の曲だが、静かなエモーションが巧みな曲構成に誘導されるように、隅々にまでうごめいていて、まったく飽きることのない仕上がりである。
 アルバム最終曲 “Anaphora” は、アルバム冒頭の “Cataphora” と対になっているような曲だ。“Cataphora” で実践された管楽器的なアンサンブルの追求とでもいうべきか。この曲で『In Free Fall』は、まさに「Anaphora=首句反復」の名のごとく反復し、円環を描くようにアルバムは終わる。むろん円環といっても閉じているわけではない。その静謐な中に点描のように置かれる音たちは、まるで上昇するように世界にむかって開かれているのだ。

 アルバムを通して聴くと、まさに電子音楽の新古典主義とでも形容したくなるほどの出来栄えであった。全曲で36分というミニマムな収録時間であっても、形式にとらわれず、しかし形式を軽くみることもなく、自由に、開放的に音楽の実験と作曲を試みている、そんな印象を持ったのだ。長く聴ける普遍的な電子音楽作品ではないかと思う。

Black Jazz Records - ele-king

 70年代スピリチュアル・ジャズを代表する3大レーベルのひとつ、オークランドの〈Black Jazz〉。かつてジャイルス・ピーターソンやMUROがミックスし、セオ・パリッシュがコンピを編んだことでも知られるこのレーベルのラインナップには、ずらりと名作が並んでいる。このたび、それら20枚すべてを収納したボックスセットが販売されることになった。専用ボックスには全アルバムのアートワークやシリアルナンバーが掲載されるとのこと。これはとんでもないアイテムだ。

3大スピリチュアル・ジャズ・レーベルの一つ、“Black Jazz Records”のLP BOXをVINYL GOES AROUNDにて限定販売。

〈Strata East〉や〈Tribe Records〉と並び、70年代を代表する3大スピリチュアル・ジャズ・レーベルの一つ、〈Black Jazz Records〉。

レーベルはオークランドを拠点とし、1971年から1975年にかけて20枚のアルバムをリリースしました。この珠玉の名作を最新リマスター音源で復刻。
VINYL GOES AROUNDのサイトで全てのLPをボックスセットで販売いたします。

ボックスは20枚全てのLPが収納できるサイズで作られており、裏面には全アルバムのジャケットが掲載、シリアルナンバーも記載します。また過去に制作したポスターのデッドストックも封入。15セットの限定販売となります。

[THE STORY OF BLACK JAZZ RECRODS 予約ページ]
https://vga.p-vine.jp/exclusive/

[商品情報]
アーティスト:V.A.
タイトル:The Story of Black Jazz Records
価格:¥79,200(税込)(税抜:¥72,000)
フォーマット:LP×20枚
★シリアルナンバー付き
★15セット限定販売
※期間限定受注(~2022年3月28日まで)
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※商品の発送は 2022年5月中旬ごろを予定しています。

[収録タイトル]
・GENE RUSSELL『New Direction』(PLP-7146)
・WALTER BISHOP JR.『Coral Keys』(PLP-6997)
・DOUG CARN『Infant Eyes』(PLP-7169)
・RUDOLPH JOHNSON『Spring Rain』(PLP-7133)
・CALVIN KEYS『Shawn-Neeq』(PLP-7132)
・CHESTER THOMPSON『Powerhouse』(PLP-7155)
・HENRY FRANKLIN『The Skipper』(PLP-7137)
・DOUG CARN Feat. THE VOICE OF JEAN CARN『Spirit Of The New Land』(PLP-6996)
・THE AWAKENING『Hear, Sense And Feel』(PLP-6998)
・GENE RUSSELL『Talk To My Lady』(PLP-7136)
・RUDOLPH JOHNSON『The Second Coming』(PLP-7761)
・KELLEE PATTERSON『Maiden Voyage』(PLP-6775)
・WALTER BISHOP Jr.『Keeper Of My Soul』(PLP-7760)
・THE AWAKENING『Mirage』(PLP-7200)
・DOUG CARN Feat. THE VOICE OF JEAN CARN『Revelation』(PLP-7170)
・HENRY FRANKLIN『The Skipper At Home』(PLP-7199)
・CALVIN KEYS『Proceed With Caution!』(PLP-7781)
・ROLAND HAYNES『2nd Wave』(PLP-6780)
・CLEVELAND EATON『Plenty Good Eaton』(PLP-6787)
・DOUG CARN『Adams Apple』(PLP-7782)

WDsounds発、2021年いろんなベスト - ele-king

 どの年もどの日も特別な時間であると思う。コロナ禍が続くなかでもそれが変わらないことを私たちは知っている。2021年を振り返りそのTHE BESTを自らの言葉で綴ることはその時間を少しだけ自分のものにしてくれると思う。そんな「THE BEST 2021」。

・RIVERSIDE READING CLUB

* 保坂和志『残響』
 去年いちばん繰り返し読んだ一冊。これは世界を小説にしか出来ないやり方で描いた作品だ。という考えに2回目の途中くらいでたどり着いたのだけど、その後に読んだ作者の“創作ノート”には全然そんなことは書かれていなくて、ぶちあがると同時に、別の文脈で書かれていた「だって、世界ってそういうものだからだ」という一文に完全に納得した。そこまで含めて、Best読書2021。 ( ikm )

* CHIYORI × YAMAAN “MYSTIC HIGH”
 2021年。前年に続きとにかく大変な1年だったけれど、どんな状況下でも『パーティー』はそこにあり続けた。決して楽な環境ではなかった中で「それを今やる意味」。その意味は各々で消化され、細胞となり、それはどんなウィルスにも侵食することはできない精神の強力な抗体となった。
 そして、個人的にはそれを象徴するかのような曲が「Mystic High」収録の「I'm So High」。第五波で緊急事態宣言真っ只中の夏、BUSHBASHで行った自主企画でCHIYORIが「新曲です!」と言ってYAMAANとの共作を披露したときからすでにアンセムだった。透明感のあるボーカル、柔らかな上音に浮かび上がるハットの軽快さ、さまざまな音の重なりがゆらゆらと波が起こし体全体を包んでいくような感覚。あぁ、ここはもうすでに水の中なのかもしれない。母のお腹で眠る赤ちゃんはこんなあたたかくてきもちいいのだろうか。重力から解放されてふわふわと永遠に踊っていられるような、そんな感じだった。
そして、パーティー明けに惨劇の森から大絶賛され、瞬速でBushmindはremixを製作。心地よいゆるやかな波はremixによって化け物のような大波に進化した。どちらも良さがありまくる。それからremixがパーティーで流れようになると、どこの場所でもその日一番の盛り上がりとなり、キラキラと魔法がかかったように輝き出した。フロアは一瞬で波に飲み込まれ、引き込まれていく感覚にゾワゾワと鳥肌が立つ。このような感覚は今まで味わったことがなく、やはりこの曲こそ2021年の私が体験したダンスフロアの象徴に他ならなかった。
※一曲についてしか書けませんでしたが「Mystic High」は全編を通して衝撃的に素晴らしいアルバムです ( Mau Sniggler )

* rowbai “Dukkha”
 HYDRO BRAIN MC’s加入以降、ほんの幾つかのバースとほんの数回のライブで一躍チームのエース格に躍り出た我らがKuroyagiによる客演が圧倒的に素晴らしい。
 取り分け事態を本邦だけに限定するとたかだかスキルの話にしても、ほとんどのラッパーが彼のちょっとしたおふざけにすら足元にも及ばない状況の中、本作で繰り広げられるゴン攻めに至り、俺も含めてここに展開されたラップアートを正確に理解できている人が果たしてどれだけいるのか? 取り分け2曲目の「Gōma」に於ける今更初期のLil Yachty的バブルガム感を引用しつつ、その背後に1977年のSuicideの幻影さえもがチラつく白昼の落雷のようなすっとぼけた覚醒感で"ぶっ殺死!!"(© 冨樫義博先生)をパフォームする、このコロナ禍のディストピアにこそ相応しい破格のエンターテイメントにとりあえず一回全員蹴散らされたらいい。また、本作のオーナーrowbaiが自身で手がける、透過性と不透過性とその裂け目を縫うようにして這い進むヒビ割れた磨りガラスのようなbeatとあくまで静謐なボキャブラリーの中に"激痛"("激情"ではなく)を宿したwordは、"ポスト〇〇"的なタームでは解析しきれない明らかなる切断面を開陳し、現在、SSWという言葉が置かれた位置座標を立体的に浮かび上がらせている。同二人のコンビネーションによる前作、rowbai & Kuroyagi / "nothing"と併せて普通に必聴。
 まるで逆境を跳ね返すかのように友人たちが傑作を量産した2021年の中でもBESTの一つ。この作品の所為で暫く他のが聴けなくなって超迷惑でした! ( Phonehead )

・.daydreamnation.( iiirecordings )

1. SPECTRE “THE LAST SHALL BE FIRST (CD)”
 SPECTREをBGMに自分が好きなことをする。有限の時間の中で聴く音楽、最高のものをききたい。2021年この音楽に乗りながら色々なことをやりました。ヒップホップでありながら完全にそれを超えていて、説明不可能な領域まで振り切ったビートにしびれました。WORDSOUNDはミュータント。ミックスがSCOTTY HARDさん、マスタリングはTURTLE TONE STUDIO NYC.で音最高。ぜひCDで。 DJKATAWAからの贈物。ZOZNT PROBLEMDUBBERS CLASSIC. ありがとうございます。

2. NECESSARY (Necessary Intergalactic Cooperation) “VOLDSLOKKA (CD)”
 夜に何か作業をする時に聴いていました。NICはバンドサウンドの枠をこえたリズム・演奏・ダブすべてがかっこよくてミックスもキレキレです。SWANS/PRONG/teledubgnosisのTed Parsonsさんのドラムビートがくらいます。大好きなグルーブ感。ミックスはGodflesh/JesuのJustin K. Broadricさん、マスタリングがTURTLE TONE STUDIO NYC.で音質最高です。ぜひCDで。

3. 吉村弘 “PIER & LOFT (VINYL)”
 再生して終わるまでの間に、今までの自分ぜんぶを包み込んで許されたような気持ちになりました。やわらかくて、やさしくて。聴く度にたいせつなことを思い出しています。シンセサイザーのやさしい音と演奏。この作品に出会えてうれしいです。レコードのマスタリングをしたSinkichi君(KOZA BC STREET STUDIO)からの贈物。ありがとうございます。

・HANKYOVAIN

1. J.COLUMBUS feat.ERA “BEST COAT”
本作の最後でPHONEHEADが登場した事は私にとって2021年最大の衝撃であり、目白と守口が確実に繋がっていると実感した特別な出来事となった。
楽曲の素晴らしさについては、リリース時に添えられたikm君の愛を感じる解説文を読んでみてほしい。

2. SATO “トワノアス”
本作の7インチ・レコード化計画に携われたことは私にとって2021年の貴重な経験となった。京都で音楽活動を続けるSATOが「高瀬川」と「永遠の二人」について歌う本作は、瑞々しく輝く普遍性と、それと相反するような愛の儚さや危うさを感じさせる名曲である。

3. HIRANO TAICHI “BLINDING LIGHTS”
今1番アルバムの発表を待ち焦がれているシンガーソングライターの名曲。
この曲を初めて聴いた時、演奏が始まって歌声が入ってきた瞬間に「この人本物や」と感動してすっかり心を打ち抜かれてしまった。

・BUSHBASH

柿沼実(BUSHBASH)

*  MEJIRO ST. BOYZ “BLOWING BUBBLE FOREVER”
 J.COLUMBUS,Phonehead,HANKYOVAINで構成される"MEJIRO ST. BOYZ"が11月にリリースしたBLOWING BUBBLE FOREVER。
この曲によってBUSHBASHの行ってきた事を新しいフェーズに移動させる事ができたと思う。悩みや存在し続ける問題や壁のようなもの、それらがなんでありどう向かっていくかという事。希望や一時的な逃避ではない確実な揺るぎない"現実"が歌われる事で足元を再確認し、抽象的でない"未来"を生み出す一端になる広がり続ける大気の様な、そして果てしない強靭さを兼ね備える音楽。
時代が変わり続けても何処かに射し続ける光みたいに在り続けるCLASSIC。一音目からの音、聴こえるリリック、そして結成の経緯と皆の佇まいや会話、存在。全てがMSBでとてつもなくEMPOWERしてもらってます。LIFETIME BEST。シャボン玉を吹き続けよう。

* RAMZA ”Pure Daaag” AIWABEATZ ”pearl light - Rain”
 BUSHBASHのレーベルからリリースさせて頂いたRAMZA君のMIX CDとAIWABEATZ君の7inch。リリースという行為の中にある一つひとつのやりとり、多くの人の協力などが積み重なってできた素晴らしい作品。
2020年3月からの出来事や交差していく人や物事の中で自然/必然というような流れでスタートできたBUSHBASH LABELは狭くなっていた視野を壊してくれるものでした。その中でもこの2作品はなるべくしてなったというか極自然な流れで形作られていったものであり、どちらもこの時代性を反映しつつも左右されない芯が通った内容で、BUSHBASHとして考える大切な物事を忘れず、地に足をつけるという意志を紡いでくれているような気がしています。
この2作品から生みでたイメージが繋がって今後もリリースしていく予定の最高の作品がありますので楽しみにしていてください。
喉元を過ぎて熱さを忘れた後は熱さを感じる喉元すらなくなると思います。

* 惨劇の森 "緊急事態新年会 + 歳末大感謝無礼講大祭"
 2021年の始まりと暮れに執り行って頂いた2大祭。期せずしてこちらもずっと考え続けた場所としての在り方や考えを体現してもらえた夜。どらちも悪化の一途を辿る世の中の状況の中で行われましたがプリミティブであり美しい、笑顔が絶えない時間で、"音楽"ってものを考えた時に最初に受けた衝撃からこれから朽ち果てるまでの間に何がしたい/できるか、という疑問の答えに身をもって提示してくれたような惨劇の森(DJ Abraxas / Bushmind / Ko Umehara / Phonehead)とACID EXILE、そして集まって頂いた皆さんに敬意を表します。
物凄くシンプルに音楽の最高さ/カッコよさを感じさせてくれて新しい楽しみ方やワクワクする事が増えて行くと共に、惨劇の森による大祭で挟み込まれた2021年という年に感じた希望や手応えは身体に刻み込まれて突き動かしていく。
 2022年も多くの人が集まりそれぞれの尊厳を奪われず、自由な楽しみ方で過ごせる場所と時間を創っていきたいと思います。
 新たな変化と少しずつ明けていく夜の確信として此処に記します。

・DISCIPLINE

* Scowl “How Flowers Grow”(SHV(KLONNS))
* Team Rockit “Bahamut Zero”(LSTNGT )
* Ellen Arkbro ”Sounds while waiting”(Keigo Kurematsu)
* Sozorie “Paper Ruins”(1797071 (Ms.Machine))
* OPERANT “Traumkörper”(Golpe Mortal)
* セーラーかんな子 “Kanna-chan/Hachi-chan”(CVLTSL4VE (#SKI7))
* Sega Bodega “Romeo”(Ray Uninog (#SKI7))
* George Crumb - Music For a Summer Evening :The Advent(TIDEPOOL (IN THE SUN))
* Telematic Visions 2 “watch?v=7QklmysU_o4Ku”(富烈)

 こういう機会を頂いて改めて振り返ってみると、2021年もコロナ禍によって生活の色々を縛られ続けた1年だったけど、そんな中でも各地で新しい物語が絶え間なく紡がれていたと思う。バラバラに散らばっていた点と点が邂逅を果たし、そして同時に永遠に捨て去るべきものが何なのかも分かった。
 Disciplineは根底にHARDCORE PUNKの精神を持ちつつも特定のジャンルや言説に依拠しない(或いは出来ない)個人の集合体。それぞれがそれぞれの視座を持ちつつも、同じMOODと怒りを共有していると思う。メンバーのみんながそれぞれ選んだ曲たちはジャンルも世代も国籍も異なるけど、それぞれの「2021年」を映し出す鏡。大きな潮流としての「時代」ではなく、引き裂かれながらも「今」という切断面まで持続させてきた個人史。全部通して聴いてみると、世界がどんなに酷くなってもまだ少し明日を楽しみに出来る、ような気がする。( tSHV )

・CHIYORI × YAMAAN

YAMAAN

* Hegira Moya audio visual set at Curiosity Shop “Hidden Meadow” 29th May 2021
 5月の明け方5時くらいにライヴ配信されていたHegira Moyaさんの映像作品。
Hegiraさんが旅先や日常の中で撮りためた映像と音を夜明け前の時間帯に配信で見るのは、不思議で印象的な体験でした。

* CHAMO TEU VULGO MALVADÃO “MC Jhenny (Love Funk) feat MC GW, DJ KOSTA22”
 偶然聴いたこの曲をきっかけに現行のバイレファンキにはまりました。
「ンチャチャ」の基本的なリズムを変わった音で置き換えていたり、音数が極限まで少なかったり、斬新な音遊びをしている曲が多くて面白いです。
この曲はどことなくDJ FUNKなどに通ずる感じもします

* Mio Fou ”Mio Fou”
 ムーンライダーズの鈴木博文さんと美尾洋乃さんのアンビエント感あるポップスのユニット。
84年の盤なのですが、昨年の夏頃にとてもはまって繰り返し聴いていました。素晴らしい作品です。

CHIYORI

 2021年は旦那との初アルバム、CHIYORI × YAMAAN「Mystic High」のリリースができました。多くの時間を制作に費やしましたが、その間に起きた熱い思い出やハマったものを選りすぐりました。きっと間接的に制作にも活かされていたと思います。

* ポータブルスピーカーレイヴ
 コロナ禍による時短営業で行くあてが無くなった時用に、ポータブルスピーカーをいつでも持ち歩いておいて、広場、川辺や海岸などでスピーカーを鳴らして友達と踊りまくったり、曲について語り合う、という遊び方にハマりました。スピーカーがボロかったので友人が誕生日に新しいのをプレゼントしてくれたのも嬉しかったな。また暖かくなったら始めよう。

* ドキュメンタリー映画「寛解の連続」ツアー
 スタッフとして東京や関西3館の映画館上映を光永惇監督や主人公の小林勝行、他スタッフや配給さんたちと回りました。皆んな快楽主義な所があるのでノリが合うし、その反面、社会福祉への高い意識や強い想いに、とても影響を受けました。人間味溢れるこの映画と、幅広い文脈でのトークショーや様々な出会いによって、随分心が自由になれたし視野が広がったと思います。その小林勝行の3rdアルバムも2021年マストな衝撃作でした。

* OGGYWEST
 2021年1番ハマったラップグループは、西荻を拠点とし2016年結成後コンスタントに作品を発表し続けているOGGYWEST。
オギーの魅力に気付いてしまった日から、全作品隈なく聴き込みました。クオリティの高い心地良いトラップな上、よく歌詞を聴くと生活感や妄想癖に溢れた絶妙なユーモアセンスがツボ過ぎて中毒になりました。ファンが高じてリリパでDJさせもらえたのはとても光栄でした。粗悪ビーツさんとの新作「永遠」も最高!

・MASS-HOLE

2021年よく聞いたアルバム。

* Benny The Butcher×Harry Fraud “The Plugs I Met 2”

 すごく聞きました。佐井さんのクリアランス話を聞いて、地球が丸いことを知りました。salute WDsounds、P-VINE!!


* All Hail YT×Cedar Law$  “Player Made”
 let me rideのカヴァーから気になってて、cedar君とつながってんだーってびっくりした。
albumはなんていうかラグジュアリーな感じが最高に気持ち良い。誰か全曲翻訳頼みます。dj shoe曰く、次はVICASSOがクルらしい。

* Issugi×Dj shoe “Both Banks”
 82s屈指のhardest mcとgroove mixing masterのalbum。
近くにこういう音楽があるってことは幸せなことだ。これからも曲を作って遊んで行きたい。

2022年はまずbeat tapeを。そして、自分のepを仕込んでます。dirtrainとしてはbomb walker,mac ass tigerの作品とrandy young savageというコンピalbumを出します。あと、松本に店開きます。

・今里 ( STRUGGLE FOR PRIDE / 不死身亭一門 / LPS )

敷居を高くしていないとご飯が食べられない人達のお茶碗を、夜な夜な割っていく作業に従事しています。

1. NAKATANI “HUNGRY&ANGRY ”
どのような状況下でも、人は学べるという事を教わった。

2. LRF “THE ANTI-VAX PUNK SONGS E.P “
LRFは常に、「説得力」という言葉の意味と強さを体現してくれている。

3. “IT LOOKS TO A LIFE FORWRD 12/4 “
修正ペン界の巨匠による名言と、悪意に満ちたセレクトの出演者の紹介写真を用いたフライヤーで知られる、毎年末に行われる好企画。a.k.a. 大阪大忘年会。
みんなが口を揃えて「RIGIDが素晴らしかった」と言っていた。定期的に開催されている “ JUICYちゃん “ と併せて、機会があったら是非、足を運んでみるべきだと思う。

 2021年が始まって間も無く、金山さんに呼んで頂いてSOCORE FACTORY でレコードをかけた。たくさんの英雄達にお会いして、多くの逸話とずっと知りたかった問い(大洞さんWORKSについてや、当時どうやってSTA-PRESTを入試していたのかetc. ) の答えを手に入れて、様々な最高級の音楽を耳にして完璧な時間を過ごした。だから2021はとても良い年。昨年お世話になった皆様、本当にどうもありがとうございました。2022も毎日レゲイの話しようぜ!!

Bonobo - ele-king

『Fragments』の仕上がりがすこぶるよい。せっかくなので作者であるボノボの進化の過程をふりかえってみよう。
 ボノボことサイモン・グリーンが英国南部のブライトンに生まれたのは1976年、前年には CAN がこの地でおこなったライヴの模様が先日出た未発表のライヴ盤『Live in Brighton 1975』でつまびらかになったが、まだ生まれてもいないサイモンは当然その場にいあわせていない。他方で長ずるに音楽の才能を開花させ20代前半には地元のクラブ・シーンを中心に頭角をあらわしはじめたグリーンはミレニアム期に地元の〈Tru Thoughts〉のコンピにクァンティックらとともにボノボ名義で登場、2000年には同レーベルから『Animal Magic』でアルバム・デビューもかざっている。くすんだジャズ風の “Intro” にはじまり、個性的な組み立てのビートが印象的な “Silver” で幕をひく全10曲は、形式的にはブレイクビーツ~ダウンテンポに分類可能だが、細部のモチーフがかもしだすエスニシティやトリップ感とあいまってラウンジ的な風合いもただよっている。むろんすでに20年前のこととてサウンドにはなつかしをおぼえなくもないが、いたずらにテクノロジーに依存しすぎないグリーンの音楽的基礎体力が本作を時代の産物以上のものに仕立てている。その3年後、ボノボはこんにちまで籍を置く〈Ninja Tune〉から2作目の『Dial 'M' For Monkey』をリリース。ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』をモジったタイトルがあえかな脱力感をさそう反面、スピードに乗せた場面転換は本家もかくやと思わせるほどスリリング。フルートやサックスの客演、サスペン仕立ての設定もあって、前作よりもジャズのニュアンスがせりだしているが、そのジャズにしても、キレよりもコク重視のハードバップ風味だった。

 管見では、ワイルドな表題の上記2作をもってボノボの野生期とみなす。形式的にはダウンテンポという先行形式に範をとって自身の立ち位置を定めるまでの期間とでもいえばいいだろうか、母なる森から音楽シーンという広大な平原にふみだそうとするボノボの冒険心を感じさせる黎明期である。むろんそれによりボノボの歩みがとどまることもなかった。むしろ野生期の記憶をふりはらうかのようにボノボの歩幅は伸張していく。前作から3年後の2006年の『Days To Come』──「来たるべき日々」と名づけたサード・アルバムはその例証ともなる一枚といえるだろう。サウンドは機材環境を刷新したかのようにクリアさを増し、アルバムも全般的にみとおしがよくなっている。とはいえボノボらしいオーガニックさは減じる気配なく、グリーンはみずから演奏する生楽器のサウンドや民俗楽器のサンプル・ソースとデジタル・ビートを巧みに組み上げている。ヴォーカリストの起用も本作にはじまるスタイルであり、インド生まれのドイツ人シンガー、バイカと同郷のフィンクを客演に招き、現在につながるスタイルの完成をみた。その基軸はなにかといえば、種々雑多な記号性とそれにともなうサウンドの多彩さと耳にのこるメロディといえるだろうか。サイモン・グリーンのセールスポイントはそれらを提示するさいのバランス感覚にある。クンビアであれアフロビートであれ、ベース・ミュージックであれ、ボノボはそれらをフォルマリスト的にもちいるのではなく、響きに還元し自身の声として構成する。グリーンはアーティストであるとともに第一線で活躍するDJでもあるが、ボノボのカラーはDJカルチャー以降の音楽観の反映がある。2006年の『Days To Come』、次作となる2010年の『Black Sands』ではサウンドのデジタル化がすすんだせいでその構図はより鮮明になっている。これをもって私はボノボの技術革命期と呼ぶが、このころはまた作品の評価とともにボノボの認知度が高まった時期でもあった。
 呼応するように『Black Sands』でボノボはミックス作を発表しフルバンドでのツアーにものりだしていく。グリーン自身も、このころを境に拠点をブライトンからニューヨークに移し、余勢を駆るかのごとく制作入りし2013年にリリースした『The North Borders』では “Heaven For The Sinner” にエリカ・バドゥが客演するなど話題に事欠かなかった。作風は彼女が参加したからというわけではなかろうが、ニューソウル~R&B風の流麗さと、ダブステップ以後のリズム・アプローチをかけあわせてうまれた2010年代前半の空気感をボノボらしいリスニング・スタイルにおとしこむといった案配。さりげない実験性とくっきりした旋律線がかたどるフィールドはボノボの独擅場というべきものだが、その領域はクラブのフロアとリスニング・ルームの両方にまたがっているとでもいえばいいだろうか。没個性におちいらない汎用型という何気に難儀なスタイルを確立したのが『The North Borders』であり、本作をもって私はボノボの認知革命期のはじまりとする。ものの本、たとえば数年前の大ベストセラー『サピエンス全史』では認知革命なる用語をもって「虚構の共有による人類の発展」と定義するが、サピエンスではなくボノボをあつかう本稿においては「創作上の発見による音楽的な飛躍」となろうか。これはサイモン・グリーンの内面の出来事ともいえるし、ボノボの音楽が私たちにもたらすものともいえる。この場合の認知はかならずしも意識にのぼらないこともあるが、2013年の『The North Borders』以降、2017年の『Migration』、最新作の『Fragments』とこの10年来のボノボの3作が認知革命期におけるボノボの長足の進歩を物語っているのがまちがいない。
 とりわけ「断片」と題した新作『Fragments』ではこれまでの方法論の統合、それもボノボらしい有機的統合をはかるにみえる。

 『Fragments』は “Polyghost” のミゲル・アトウッド・ファーガソンによるポール・バックマスターばりの流れるようなストリングスで幕をあける。場面はすぐさま題名通り陰影に富む “Shadows” へ。この曲に客演するUKのシンガー・ソングライター、ジョーダン・ラカイをはじめ、『Fragments』には4名のシンガーやかつてグリーンがプロデュースを担当したアンドレヤ・トリアーナのヴォイス・サンプルなど、12曲中5曲が歌もの。その中身も、シルキーなラカイから “From You” でのジョージの雲間にただようようなトーン、〆にあたる “Day By Day” でのカディア・ボネイのポジティヴなフィーリングにいたるまで多彩かつ多様。それらの要素を最前から述べているグリーンのバランス感覚ともプロデューサー気質ともいえるものが編み上げていく。『Fragments』という表題こそ認知革命期らしく抽象的だが、むろんその背後にはこの数年のグリーンの経験と思索がある。ブライトンからニューヨーク、ニューヨークからロサンゼルスへ、拠点を移しツアーに明け暮れたこの数年の生活が導くインスピレーションは2017年の『Migration』に実を結んだが『Fragments』における旅はそれまでとは一風かわったものだった。というのも2019年にはじまった『Fragments』の制作期間はパンデミック期とほぼかさなっており、物理的な移動はままならなかった。この期間グリーンはあえて都市を離れ、砂漠や山、森などの自然にインスピレーションをもとめたのだという。そのようにして時機をうかがう一方で、リモートによるコラボレーションもすすめていったとグリーンは述べている。シカゴの歌手で詩人のジャミーラ・ウッズとコラボレートした “Tides” もこのパターンだったようだが、アトウッド・ファーガソンの弦、ララ・ソモギのハープ、グリーンの手になるリズム・セクションとモジュラー・シンセが一体となり、潮のように満ち引きをくりかえすこの曲はアルバム中盤の要となるクオリティを誇る。しからば制作の方法は作品の質に関係ないのかと問えば、そうではないとボノボは答えるであろう、生き物が環境の変化に適応するように音楽家が制作環境に順応することはあっても、音楽が進化の過程を逆行することはないと。
 進化とはいつ来るとは知れない未来へ向けて手探るようになにかをすることであり、不可逆の時間(歴史)の当事者として現在を生きつづけることでもある。アンビエントやノンビートにながれがちな昨今の風潮をよそに、ダンス・ミュージックにこだわった『Fragments』の12の断片こそ、ボノボの次なる進化の起点であり、その背後にはおそらくサイモン・グリーンの音楽という行為へのゆるぎない確信がある。

年明けのダンス・ミュージック5枚 - ele-king

 新年あけましておめでとうございます! 2022年も音楽についてたくさん書いていきたいと思います。2021年は、僕の力量不足ゆえ(単に怠けている日もある)に書けなかった作品がいくつもあった。今年は全て書く勢いでやるということで、そこを抱負に精進します。ということで新年一発目のサウンドパトロール、よろしくお願いします。


SW2 & Friends - Hither Green Glide / For The People | GD4YA

 EL-B の運営する〈GD4YA〉は、UKガラージのダークな側面を好む人ならチェックすべきレーベル。彼自身、90年代からいくつかのレーベル(Not On Label のホワイト盤も多数)からアングラでダークなUKガラージを提供してきたDJ。もちろん、〈GD4YA〉のサウンドはその焼き回しではなく、現代版へきちんとアップデートされており、さらにハズレもあまりないときた。今作は、〈Rhythm Section International〉などからリリースを重ねる FYIクリス、エズラ・コレクティヴの鍵盤奏者として知られるジョー・アーモン=ジョーンズなどが参加。あのダークなUKガラージの音(〈Tempa〉の『The Roots Of Dubstep』を聴くと良し)を踏襲しつつ、南ロンドンにおけるハウスとジャズの視点も加えている。かなり面白い。

Instinct – PAUSE LP | Instinct

 「UKガラージのダークな側面」なんて書いたので、こっちも紹介しないわけにはいかない。バーンスキ(Burnski)による、UKガラージ専用のインスティンクト名義でリリースされたフルレングス。連番でいくつかの12インチを出しており、それらをまとめたのが『PAUSE LP』。5番に当たる「Pstolwhip」は最高にオシャレなUKガラージで大好きだけど、今作には未収録……。流行り(?)の音数少なめでカラッと乾いた質感のUKガラージ・ビートがずっと続く、素敵な10曲入りLP。ベースは効いていてダークさはあるけど、なぜか凄くオシャレに聴こえる。個人的ベスト・トラックの “Apache” はサンプリングかと思うが、実弟によるヴォーカルのピッチをいじったもの。12インチの集成なのでそれぞれのツール感は否めないが、それでも聴きやすくまとまっていると感じた。

WILFY D & K–LONE - VITD004 | Vitamin D Records

 K-ローンといえば、ファクタと運営するロンドンは〈Wisdom Teeth〉でよく知られている。が、Wilfy D とコラボレーションした今作は、言ってしまえばらしくない、スイートでソウルフルなUKガラージに仕上がっている。“Str8 Up” なんて最高なチャラ系UKガラージでかなりのお気に入り。そもそも、90年代におけるUKガラージというジャンルにはかなり売れ線の曲もあって、そこそこチャラい側面があることを思い出させられる。ちなみに Wilfy D のほうは、自身の〈Vitamin D Records〉や〈Dansu Discs〉などでリリースしつつ、ブリストルのレコード店&レーベルの〈Idle Hands〉のスタッフとしても働いている模様。いま挙がったのは全てUKにおける現行のレーベルで、全てかっこいいので合わせてチェックしよう。

Joy Orbison - red velve7 | TOSS PORTAL

 2021年の個人的なハイライトのひとつ、それはジョイ・オービソンの『Still Slipping Vol.1』だった。本当にカッコ良かった。サウンドがカッコ良いのは当たり前だけど、何よりも「そこにい続けて……、もちろんいまもそこにいる」その姿勢がカッコ良いのだ。この曲は、ジョイ・Oによって突如ドロップされた未発表曲のうちのひとつ。ジャケは彼の祖母で、西ロンドンで音楽系のパブを祖父とふたりで経営していた方なのだそう。曲のリリースに際したインスタのポストによれば、「まだ始まったばかり」だと。これからも彼の動向には目が離せない。

Blawan - Woke Up Right Handed | XL Recordings

 相変わらず、〈XL〉のこのシリーズは良いリリースが多い。去年は LSDXOXO による猥雑なゲットー・ハウス「Dedicated 2 Disrespect」が最高だったし、その前だとジョンFMの「American Spirit EP」も良かった。そしてブラワンからの「Woke Up Right Handed」も、これまた半端じゃない一撃だった。数あるフライト(2019年は340回もあったそう!)に嫌気がさし、いまは拠点とするドイツで酪農により多くの時間を割いているそう。このEPから出てくる音がそんな生活から生み出されたものなんて……。“Under Belly” のホラーめいた異様なサウンドが酪農生活によるものだとは、にわかには信じかたいよね。

Andrew Weatherall - ele-king

 ロンドンのレーベル〈Heavenly〉が、ウェザオールのリミックスを集めたコンピレイションをリリースする。『Heavenly Remixes Volumes 3 & 4 (Andrew Weatherall Remixes)』と題されたそれは2022年1月28日にリリース、16曲が収められている。
 セイント・エティエンヌやベス・オートン、ダヴズなどのリリースで知られる同レーベルだが、創設者のジェフ・バレットがウェザオールのマネージャーを務めていたこともあり、両者の関係は長くつづいた。今回の編集盤はウェザオールが〈Heavenly〉のために提供してきたリミックス音源を集めたもので、必聴のセイント・エティエンヌ “Only Love Can Break Your Heart (A Mix of Two Halves)” をはじめ、マーク・ラネガンやグウェノー、コンフィデンス・マンなどが収録されている。フォーマットはLP、CD、配信の3種類。ウェザオールの魂に触れよう。

https://ffm.to/heavenlyremixes3-4

Heavenly Remixes 3: Andrew Weatherall volume 1

1. Sly & Lovechild - The World According to Sly & Lovechild (Soul of Europe Mix)
2. Mark Lanegan Band - Beehive (Andrew Weatherall Dub)
3. Flowered Up - Weekender (Audrey Is A Little Bit More Partial Remix)
4. Gwenno - Chwyldro (Andrew Weatherall Remix)
5. Saint Etienne - Only Love Can Break Your Heart (A Mix of Two Halves)
6. Confidence Man - Bubblegum (Andrew Weatherall Remix) 08:19
7. Espiritu - Conquistador (Sabres Of Paradise No.3 Mix)
8. The Orielles - Sugar Tastes Like Salt (Andrew Weatherall Tastes Like Dub Mix Pt.1 - Live Bass)

Heavenly Remixes 4: Andrew Weatherall volume 2

1. audiobooks - Dance Your Life Away (Andrew Weatherall Remix)
2. Saint Etienne - Heart Failed (In The Back Of A Taxi) (Two Lone Swordsmen Dub)
3. Doves - Compulsion (Andrew Weatherall Remix)
4. TOY - Dead an Gone (Andrew Weatherall Remix)
5. Confidence Man - Out The Window (Andrew Weatherall Remix)
6. LCMDF - Gandhi (Andrew Weatherall Remix II)
7. Espiritu - Bonita Mañana (Sabres Of Paradise Remix)
8. Unloved - Devils Angels (Andrew Weatherall Remix)

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