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Random Access N.Y.

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vol.30:時代は変わる――2012年のインディを語ろう!

沢井陽子 Mar 12,2012 UP


photos : Erez Avissar

 いまから約10年前の話――。ブルックリンのインディ・ミュージック・シーンからは、ヤーヤーヤーズ、ザ・ラプチャー、ザ・ストロークス、ライヤーズ、アニマル・コレクティブ、TVオン・ザ・レィディオなどが登場した。彼らはメディアから「ニューウェイヴ、ポスト・パンク再来」など言われた。そしてそれはずいぶん盛り上がった。
 が、現在は、10年前のハイプとは違う盛り上がりがある。あるバンドは活動を続け、あるバンドは解散した。2012年、再結成するバンドも多い。USアンダー・グラウンド・シーンはひと回りした。10年前に戻っている。
 こうしたブルックリンのインディ・シーンを支えている重要なひとりに、トッド・パトリックがいる。DIYバンドのフレキシブルなアイディア、それを露出できるプラットフォーム、それらを作り、DIYシーンを面白く泳がせているのがトッド・Pと呼ばれる彼である。
 ブルックリンのインディ・ミュージック好きなら、彼の名前を知らない人はいない。トッド・Pは、10年以上前か、DIYバンドを精力的にサポートしつつ、斬新的なブッキング・スタイルで、バンド/オーディエンスから圧倒的な信頼を得ている。そのなかにはDIYからメジャーへ飛躍したバンドも少なくないが、彼がブッキングすれば、ヤーヤーヤーズ、ライヤーズ、アニマル・コレクティブ、!!!、ライトニング・ボルトといったバンドも違う角度から見ることができる。新しいブッカーをサポートし、オール・エイジのイヴェントが載った新聞(ショー・ペーパー http://showpaper.org/)を発行し、バンドにスタジオを貸し出し、2012年3月は、ガールズなども出演する、メキシコでのフェスティヴァル(http://thenjunderground.com/
http://www.brooklynvegan.com/)をオーガナイズするなど、常に新しいチャレンジを続けている。
 今回はトッド・Pに、10年前と現在のUSアンダーグラウンドシーン、デジタル音楽、インターネットとDIY音楽の関係、彼のブッキング姿勢とDIYにこだわる理由、未来の音楽シーンなどを訊いた。

チケットはクレジットカードで、オンラインで買うし、家を出る前にバンドのMP3をチェックしてからショーに行く。前売りチケットが売り切れになるショーの客は、シーンのなかでも最高に保守的な人びとが中心だ。面白くも楽しくもない。

まず自己紹介をお願いします。どのように音楽に関わって、どのようにブルックリンでショーをブッキングしはじめたのか教えてください。

トッド・P:こんにちは、僕はトッド・パトリック。2001年、ニューヨークに引っ越してきて、その秋からショーをブッキングしている。その前にはオレゴン州のポートランドで、オール・エイジの会場を運営していた。その前は、大学に行ったオースティンでバンドをしながら、ショーをブックしていた。ショーをブックしはじめたのは、僕が見たいバンドが、その町では見れなかったから。

私は、まだマイティロボットという、伝説的なブルックリンのロフト・スペース兼アーティスト集団がいた時期から、あなたのことを知っているのですが、その頃からいろんなオーガナイザーが育ってきましたよね。

トッド・P:その通り。2000年初期にあたりには、フィッツ(ツイステッド・ワンズ)、ラス・ウエアハウス、ラピッド(カイルとタリ)、BJワルシャウ(パーツ・アンド・レイバー)、セス・ミスターカ、ハッピー・バースディ・ハイドアウトなど、たくさんのオーガナイザーがいたけど、彼らはずいぶん前に引っ越したり、やめてしまった。その頃にオーガナイザーの世代交代をみたし、幸いにも止まることなく、少なくても十分な人がニューヨークでショーをオーガナイズしているし、10年前とは違って、ショーは年ごとに増えている。

■あなたがブルックリンでショーをブックしはじめたときと比べて、現在のアメリカのアンダーグラウンド・シーンはどのように変化しましたか?

トッド・P:インターネットのおかげでサブカルがレヴェルアップしたよ。人びとが前と同じようなことを実践していない。「アンダーグラウンド・ミュージック」という言葉が昔と同じ意味で使われるのかもわからないけど、まだ評価のはっきりしない驚くべき小さいバンドがいて、彼らのショーを隠れた、ぎりぎり合法でない場所でブックする大きなコミュニティがあるのは事実なんだ。インターネットでたくさんのモノを得られるのは良いし、現在生まれるバンドは音楽的影響のある広いパレットに露出するのが簡単で、それが音楽を面白くしている。
 インターネットの最初の見込みは、情報と考えの真実の分配を民主化する乗り物だった。プロモーター、バンド、レーベルが、彼らの利益のために(いつも変化するが)、インターネットをどのように使うか、実務知識があるなら、昔は「アンダーグラウンド」と社会から疎外されていたバンドとオーディエンスがコネクトするのは今は簡単だ。インターネットが持つ/持っていた、アーティストとオーディエンスを直接コネクトするというすべての約束や可能性は、よくも悪くは多すぎる情報、人びとの注意の主要なルートである企業支配にかかっている。さらにインターネットは人びとにアイデンティティのいち部として「アンダーグラウンド・ミュージック」におく価値を縮小した。ゆえに「アンダーグラウンド・ミュージック」の好みとシーンのコミュニティは、疎外からの救命ボートやメインストリームへの不満ではなくなってしまったし、そういうひとたちにとっては、音楽は生活のなかでさらに意味のないものになっている。

2012年は、バンドやレーベルはCDやMP3ではなく、レコードやカセットテープをリリースしているし、アンダーグラウンド・ミュージックシーンは原点回帰しているように見えますが......

トッド・P:たくさんの人がインデペンデントな録音物などの「モノ」が存在し、それを手に入れることが難しかった時代を懐かしんでいる。昔の小さなシーンが持っていたより密接した感情の延長としてのモノだよね。レアレコードはなくなったものへの懐かしさの明示だし、バンドやシーンの人びとはバンドを、彼らが不明瞭で良い状態のままに残しておきたいんだ。言えるのは、バズ・バンド(=バンドをメジャーへ押し上げ、もてはやさせる)文化は良いバンドをダメにし、彼らにつまらない2枚目のアルバムを作らせる。僕は人がなぜ良い音楽を秘密にしておきたいかがわかる。ヴァイナル・レコードやテープは部屋の見栄えを良くするし、ツアー・バンドやレーベルから直接買える「物」である。だいたいね、デジタルで音楽を売っても金は儲からないんだ。

さらに、フリート・フォクシーズのようなブルージーでシンガーソングライタースタイルの60年代から出てきたようなバンドやキャッチーでシンプルなポップ・ソングをプレイするガールズなどがいて、実際彼らがアメリカや日本では2011~2012年を代表する「成功」したバンドになっていますよね。

トッド・P:僕は良いポップ・ソングが好きで、こういった50~60年代のAMラジオや7インチ・シングルに登場するような、1曲ヒットを人々が追うような「シングル・バンド」文化が戻ってくるのを見るのは嬉しい。だけど、ほとんどのこういうバンドは他に曲がなく消えて行く。残念ながらインディ・レーベル、ブッキング・エージェンシー、ブログ、プレス業界の経済状況は、キャッチーな曲が書けて、少なくとも3年はハイプなレコードが作れるインディ・ロッカーに頼り切っている。産業や物事のトーンがわからないビジネスマンの圧力、オーディエンスの神経を苛立たせるように、快楽に飽きた偏狭な姿勢がインディ有名人の主流階層を作る。それらはすべて一貫した良質の「ヒット」音楽を作れるインディ・バンドに、事実上、不可能な状況を作っているんだ。

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Profile

沢井陽子沢井陽子/Yoko Sawai
ニューヨーク在住20年の音楽ライター/ コーディネーター。レコード・レーベル〈Contact Records〉経営他、音楽イヴェント等を企画。ブルックリン・ベースのロック・バンド、Hard Nips (hardnipsbrooklyn.com) でも活躍。

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