「OTO」と一致するもの

Chart by UNION 2010.09.10 - ele-king

Shop Chart


1

EYヨ

EYヨ Sky Size Sea TBA / JPN / »COMMENT GET MUSIC
昨年リリースの『Cassette Acid Garage Punk Mix』に続きメタモルフォーゼ先行リリースとなったこの1枚はEYEさん本人が言うようにDJ光光光の延長線上に位置する1枚。ジャンルとかではなくて、好き放題にキャンバスからはみ出したようなアーティスティックな選曲をコラージュ的にミックス、使われているトラックが生命を帯びとても躍動的。定位置を決めて聴くことが許されないこの振りの広さを、是非手にして体験してみてください。

2

CMT

CMT Observacion Astronomica BLACK SMOKER RECORDS / JPN / »COMMENT GET MUSIC
毎回本当に「作品」と呼べるミックスを放つCMTがBlack Smokerから新作をドロップ。洞窟の奥深くで鳴り響く反復ビートに意識も時間もがゆがめられるような「ロウなグルーヴを」ベースに、緊張と弛緩を繰り返すハメな展開に圧倒されるばかり。それだけではなくドラマティックなギミックも散りばめ、エンディングで解き放たれる様は映画のよう。渦巻く宇宙をイメージさせるアートワークと内容がバッチリはまっています。

3

CALM / カーム

CALM / カーム Drive To Home Daylight Edition MUSIC CONCEPTION / JPN / »COMMENT GET MUSIC
「メタモルフォーゼ~フェスの帰りに聴ける気持ち良い音」をコンセプトに、昨年大好評を得た「清流」に続き今年もディスクユニオン限定でCALMのミックスCDがリリース!!昨年のコンセプトを踏襲した、「帰路に向かう車の中」をダイレクトに表現。様々な音の嗜好を持った車内みんなの好みを全て満たすかのような、様々なジャンル・新旧を織り交ぜ拾い上げて表現。疾走感と心地よいオーガニックな生音、程よく散りばめられたシンセがいかにも選曲師Calmらしい。タイムレスに楽しめる傑作コンピミックスの誕生です!

4

RICK WILHITE PRESENTS

RICK WILHITE PRESENTS Vibes New & Rare Music RUSHHOUR / JPN / »COMMENT GET MUSIC
Theo ParrishやMoodymannと共にデトロイトのアンダーグラウンドシーンを築き上げてきた3 ChairsのRick Wilhiteが監修、アーチスト個々が持つソウルを余すことなく注ぎこんだハウス・コンピレーションアルバムがここに完成した。多くのフォロワーを生み出すデトロイト・シカゴのアンダーグラウンドハウスの「今」をいち早く体感すべく、各アーチストの新作をセレクトした珠玉の一枚だ。

5

JACKSON 5 & HENRIK SCHWARZ

JACKSON 5 & HENRIK SCHWARZ Dancing Machine Remixes MOTOWN / GER / »COMMENT GET MUSIC
極少ロットで初回プレスは瞬く間に完売。既に各方面でプレイされ、入荷の問合せもものすごい頂いていた1枚が再プレス!ヒプノティックなビートと生音の絶妙なミックス感と存在感、さすがと思わせられる仕事ぶりに感服!!!オフィシャルプロモですのでお早めに!

6

NDF

NDF Since We Last Met DFA / US / »COMMENT GET MUSIC
VILLALOBOSリミックス!DFAから、意外にもBRUNO PRONSATOとSERGIO GIORGINI(BIRDS & SOULS)による・ユニット・NDFのデビュー作が登場! アコギやフルートなどが散りばめられた夏向きの清涼感溢れるチルアウト・ミニマルがすばらしい! B面には御大VILLALOBOSによるヒプノティックでモノトーンなリミックスを収録した話題盤!

7

MODESELEKTOR/MODERAT

MODESELEKTOR/MODERAT 50 Weapons Of Choice #2-9 FIFTY WEAPONS / UK / »COMMENT GET MUSIC
RadioheadのThom Yorkeからファンだと公言され多方面でブレイクしているModeselektor、またそのModeselektorとApparatのユニットModeratの音源をミステリアスなホワイト盤でリリースするFifty Weaponsから750枚限定盤コンピレーションCD。Boysnoize RecordsからもリリースするSiriusmo、鬼才Shackleton(Skull Disco)、Torsten Profrock(exe. Monolake)のユニットT++、M.I.A.のリミキサーSBTRKTなど豪華なメンツが名を連ねる1枚。

8

MR RAOUL K FEAT.WAREIKA

MR RAOUL K FEAT.WAREIKA Le Triangle Peul BAOBAB MUSIC / GER / »COMMENT GET MUSIC
強力盤!ASH RA直系のサイケデリック・トリップ・ミュージック!自身のレーベルBAOBABからリリースされた凄い一枚。得意とする、生音フューチャーのトライバルなHOUSEトラックに、ミニマルなフレーズとサイケなギターがかまされるMANUEL GOTTSCHINGバリの展開!ギターのブルージーなメロディーとか本家なみにカッコいい!

9

DANJEL ESPERANZA

DANJEL ESPERANZA In The Bottle BACKDOOR BEAUTY / GER / »COMMENT GET MUSIC
ドイツ最深部、自身のレーベルBACKDOOR BEAUTYからDANJEL ESPERANZAの新作。深海、または宇宙空間を漂うようなドローンが根底をうごめく中、独創的なグリッチ音がリズムを構成する全3トラック。深い時間に効果を発揮する中毒性高いGROOVE。DANJELの個性・地下ドイツシーンの感覚が爆発している注目の1枚。

10

PATRICE SCOTT

PATRICE SCOTT Deep End SISTRUM / US / »COMMENT GET MUSIC
Ron HardyやDerrick Mayに影響を受け80年代にキャリアをスタートさせたデトロイトのアーティスト・Patrice Scott。現在絶好調のレーベルSISTRUMを運営し、その作品はヨーロッパでも人気が高い。先日待望の初来日も果たし、今最も勢いに乗ってるアーティストの一人といえるだろう。本作は渋谷クラブミュージックショップのリニューアルを記念しての独占入荷。ハウシーで深い鳴りをかます力強いグルーヴを是非チェックしてみてください。

DJ Shibata - ele-king

夏を惜しんでパーティが続くテンションで選びました


1
Mijangos - Music & Soul - Junior London

2
Sare Havlicek - Dreams In Light(Ray Mang Dub) - Nang

3
El Chavo - Hola Muneca - Vinyl Vibes

4
Unknown - Dri - Ricardo And Luciano

5
Coyote - Moving feat.Nesreen Shah - International Feel

6
Dreamhouse feat.Ceasar - Jump & Prance - White Label Recordings

7
Nelue - Pierced Heart(LSB Remix) - Lovemonk

8
Martyn - Minilub - Ostgut Ton

9
Sparkling Experiences - Hardswing Vision - Basenotic Records

10
Diesel & Jarvis - Maringa - Moton

Kazuhiro Tanabe(mokmal sound, orbit) - ele-king

最近のお気に入りです


1
Erykah Badu - Out My Mind, Just In Time - universalmotown

2
Daniel Mehihart - Deep Crazy Synth (Minilogues Dismantling The Storm Remix) - WIR

3
Abultnapper - Almost Nothing (Patrick Chardronnet Remix) - Audiomatique Recordings

4
Julia Biel, Stimming, Ben Watt - Bright Star (Sunset Mix) - Buzzin' Fly Records

5
Cio D'or - Goldbrokat - Prologue

6
Peter Van Hoesen, Donato Dozzy - Talis - Curie Recordings

7
Bird Show - Two Organs & Dumbek - Kranky

8
Kuniyuki Takahashi - Ocean Waves (Minilogue Pulsating The 3rd Remix) - mule electronic

9
Mirko Violi - Pelican (Yakine Remix) - Catwash Records

10
DENPUN - Mirage Land - dplab.

ele-king - ele-king

Current Top 10 Chart


1
Candy Claws - Hidden Lands - Twosyllable

2
Julian Lynch - Mare - Old English Spelling Bee

3
Emeralds - Does It Look Like I'm Here? - Editions Mego

4
Actress - Splazsh - Honest Jon's

5
The Stamps - Wizard's Sleeve, etc(12") - Mexican Summer

6
Gold Panda - Lucky Shiner-Notown/Yoshimoto

7
Digital Mystikz - Return II Space - DMZ

8
Baths - Cerulean - Anticon

9
High Wolf - Shangri L.A. -Moamoo/Artunion

10
Donovan Quinn & The 13th Month - Your Wicked Man - Soft Abuse

Toshiyuki Goto - ele-king

TG's Recent Chart 2010


1
Staffan Linzatti - Absence Of Waypoints - Rrygular

2
Adam Port & Sante - Faire Des Siennes - Rockets & Ponies

3
Carl Craig - At Les "Remix" - Tronic

4
Meadow - Low Volume "Remix" - Fof???

5
The Bayaka Citizens - Electric Africa - Sacred Rhythm Music

6
Stephen Brown - Stress Free - Music Man Recording

7
Mos Dub - Mos Dub EP - Unknow

8
Phace + Misanthrop - From Deep Space - Neosignal

9
6th Borough Project - Slow Down Baby - Instruments Of Rapture

10
Agoria - Grande Torino - Infine

 ぼくがロマンの語り手になり切れない部分は、つまりロマンがしばしば語り手の自己肯定を前提にして、ナルシズムに陥りやすいからで、対立物を内包するとくずれてしまう性格をもっているからだ、という気がする
寺山修司(唐十郎との対談『劇的空間を語る』76年3月)

 これは丑三つ時に見た奇天烈な夢の話
 夢の中で夢が夢であると自覚したばかりに
 私は私と分裂した悲しき性に
 汝の半身を探し闇の中
志人"ジレンマの角~Horns of a Dilemma~"


 現在の志人の凄みとは、00年代初頭にヒップホップ・グループ降神のラッパーとして日本語ラップ・シーンに鮮烈に登場してから約10年間、悩み、懊悩し、思想や価値観やラップのスタイルを劇的に変化させながらも決して歩みを止めなかったからこそ獲得できた代物だと思う。


志人 / ジレンマの角 EP ―Horns of a Dilemma EP―
Temple Ats

 今回、志人のシングルはアナログでリリースされている。もしかしたら、「お、久々のリリースじゃん」と思う人もいるかもしれないが、実は昨年も、家族を主題にした「円都家族~¥en Town Family~」というシングルをポストカード・レコードという特殊なレコードでリリースしている。さらに、今回のアナログにも収録された、志人が志虫という名でいくつもの虫に成り代わり物語を紡ぐ(宮沢賢治の『よだかの星』を彷彿とさせる)"今此処 ~Here Now~"とDJ DOLBEEのインストを加えた増補盤を懐かしの8cmCDという形態で発表してもいる。
 それらは、失われていくメディアに焦点を当てるという企画の一環で、ダウンロード配信など、急激に変化する昨今のメディア環境に対する彼らなりのレスポンスなのだろう。志人らが主宰するインディペンデント・レーベル〈Temple ATS〉のアートワークの要である画家の戸田真樹の絵も含め、手作りの「モノ」を残すことへの強いこだわりが感じられる。
 "今此処"のクレイアニメーションのMVなどが収められた『明晰夢シリーズvol.1』やポエトリー・リーディングのイヴェントに飛び込みで参加する志人の姿を撮影した『森の心』といったDVDもひっそりと世に出回っている。また、「ジレンマの角 EP」に収められた"夢境"のクレイアニメのMVは秋に、NHKで放映される予定だという。ヒップホップ・シーンから遠く離れた場所で、彼らは変わらず自分たちの活動を続けてきたのだ。
 そして、"ジレンマの角"をリード曲とするアナログも〈Temple ATS〉のHPで購入すると、特典としてCDとポストカードが付いてくるという仕組みになっている。ラップ入りの曲が3曲、インストが2曲収められているが、すべてのトラックを担当したのはDJ DOLBEEで、音楽的に言えば、エレクトロニカ、アンビエント、ヒップホップとなるだろうか。とはいえ、何をおいてもやはり特筆すべきは志人のラップの圧倒的なオリジナリティである。

 "ジレンマの角"は、志人が、無実の思想犯、警察官、裁判官、医者、看守、死刑執行人、囚人、ガーゴイルなどに扮し、国家権力に囚われ死刑を宣告された主人公と思しき、野蛮思想に侵されたとされる無実の思想犯を中心に展開するストーリーテリング・ラップで、まるでATG映画のような重苦しいムードに満ちている。意図的に劣化させたノイジーな音質はまさにATG映画のざらついた映像のようで、その世界観は大島渚が死刑制度をテーマに撮った映画『絞死刑』を連想させる。危険な香りを漂わせながら、鬼気迫るラップを披露する、一聴して率直に「ヤバイ!」と思わせる志人は久々だ。
 このアナーキーな感覚は、2005年にリリースされたアナログでしか聴くことのできない"アヤワスカ"以来だろう。ちなみに僕は、三島由紀夫、チェ・ゲバラ、ジミヘン、ジャニス・ジョプリン、サン・ラ、バスキアといった過去の文学者や革命家やミュージシャンらの名前をリリックに盛り込み、路上の怒りが渦を巻きながら天空に舞い昇り優しさに変わっていく、麻薬的な快楽の潜むこの曲が、志人の作品のなかでも1位、2位を争うぐらいに好きだ。

 リーマン フリーター ディーラー 
 ブリーダー Dremaer ハスラー やくざ 
 Jasrac シャーマン ターザン 
 ターバン巻くサーバント 
 We are Music Mafia have No Fear 
 FREEDOMを作り出し 救い出すビーナス 
 Winner Loser Who is the Luler(ママ) in this earth?
 I ask You やさしく言う まさしく 君だ
"アヤワスカ"

 ◆無実の思想犯
 そうだ あのとき私は確かにアナーキーな連中とばかりつるみ
 社会からは脱藩人よばわり 盛り場の話題はいつも中身無き冗談か
 国家権力から逃れる方を夜長に語りあかした
 空が白むまで 朝もやが稲妻で 引き裂かれて行くのをただ睨むだけ
 気が付けばそこにはもう誰もいなくなって
 周りには口を尖らした どたま来たお巡りが

 ◆警察官A......「野蛮思想に冒された犯罪人よ じたんだ踏もうが時間だ
 お前にもう夢を見る権利は無い」

 逃げなきゃ 後ろ手に回される 絞め縄
 二メーターはある権力者達に上から押さえつけられ
 あっという間に 前後塞がり 暗がりに砂を噛み
 不渡りつまはじきものの姿に
"ジレンマの角"

 "アヤワスカ"にも近い部分はあるが、"ジレンマの角"は明確に戯曲という形式が採られている。が、しかし、この曲は紛れもなくラップ・ミュージックとして成立している。この2曲に関して言うと、苛烈さという点において、ソウル・ウィリアムズやマイク・ラッドなんかと同じ匂いを嗅ぎ取ることができる。
 いずれにせよ、日本でこんな芸当をやってのけるラッパーを志人以外に僕は知らない。詩人が朗読しているかと思えば、役者のセリフ回しのような語りに切り替え、一瞬ラガ調の声音でかましてみせたりもする。志人のとどまることを知らない自己内対話のエナジー放出するために必然的に発明されたスタイルなのだろう。

 「私」への深い疑念からくるラップへの苛烈な欲求、言い換えれば、近代的自我の解体への欲望と言えるかもしれない。近代的自我に亀裂を入れて、その危うさや不確定さを炙り出そうとするのは、志人の表現の底流にあるもので、我を忘れるほどの限界状態から真実を手繰り寄せるために志人はラップの技術を鍛え、進化させ、ときに驚異的な速度に身を任せているように思える。
 まるで千手観音の手が、五感に物凄い勢いで襲いかかってくるような変幻自在のラップには、聴く者の視覚や聴覚などの感覚を統一させる力を感じる。それはいわば明確なトリップ体験であり、個々の枝分かれした感覚のその奥にある根源的な感覚に触れてしまうような、共感覚の稲妻に打たれる経験である。志人のラップのスピードは共感覚へ到達するための、未来を生み出す生命力に溢れた速度である。
 ことばは生きものである、ということを志人は全身を楽器にすることで体現し、また彼のラップを聴く者はそのことを全身で痛いほど感じることになる。志人は日本語のラップ表現を意味と音声と物語の構成といったいくつかの点において、明らかに次元が違うところまで持って行ってしまった。韻を踏むことでイメージを膨らませ、物語を予期せぬ方向へ転がし、ことばとことばの連なりがまた新たなイメージを喚起させる。

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 「とりたて何の理由も無いですが、鳥だって色んな色を持っているはずなのに
 どうして僕はこんなに真っ黒で小汚ねー色をしているんでしょう?」と問いかける
 「お日様の様にどうしたら成れるの あの真っ赤っかな色に成りたかったんだ
 時たま邪な気持ちを残したお星様に聞いてもさっぱり分からなんだ
 名前も知らないカラスが一匹飛んで来たとき
 浜辺の白波 黒く汚れたこの身を洗い
 何万年後も流れ星追い 嫌がってもやがて年老いる僕らは
 今までのままこれからのカラーを探して どんくらい根比べ重ねてどんぶら大海原
 日溜まりの中で暗闇を焼き払い給え 名前の無い僕は
 猛スピードでモスグリーンに曇った街を行くモスキート
 もう救い様の無い都市はホスピタル 夜の持つ魅了に取り憑かれたヒーローは
 次の朝、ポルノスターになりました
 アスリートの吹かすウィード
 唐墨色に染まる空のオリオン座に恋をした少女は
 君の心なら全てお見通しさ ってな具合にカラカラとただ笑うんだ
"私小説家と黒カラス"(『Heaven's恋文』)

 「ことばの偶発的な干渉=共鳴の自由を許す」(今福龍太)とでも言えようか。ことばとことばの隙間に壮大な冒険への扉を無数に用意し、そして、どの扉を開けるかは、そのラップを聴く人間次第なのである。志人は日本語ラップ界のダダイストであり、モダン・ビートニクの詩人である。そんな形容さえ、僕はまったく大袈裟に思わない。
 2002年に降神がCDRによるデビュー・アルバム『降神』を発表した後、志人のフォロワーが大量に現れたが、「THA BLUE HERB以降」や「SHING02以降」という日本語ラップの歴史認識が仮に成立するのであれば、間違いなく「志人(降神)以降」というのも成立することになる。まあ、誤解されないように一応書いておくが、それは商業的成功という意味ではなく、あくまでも芸術的観点から考えた場合である。


photo by 新井雅敏

 ところで、『降神』の2曲目を飾る、ファンのあいだではクラシックの呼び声も高い"時計の針"の最後で、「血染めの鉢巻き絞めて印税もらって勝ち負け気にして死んでろ 特に お前と彼等」と、商業主義に走るBボーイたちを唾を吐きながらディスしていたことを思えば、ある時期から志人は随分優しくなった。いまは口が裂けても「死んでろ」と言い切ることはないだろうし、「hate=憎しみ」の感情をあからさまに表に出すこともなくなった。
 何が原因でそうなったかは知らない。年齢のせいもあるだろう。デビュー当時の降神には感じられなかった友愛をいつからか率直に表現するようになった。初期の攻撃性や狂気を愛したリスナーは戸惑ったに違いない。だから、もちろん降神や志人をずっと追い続けているファンはいるだろうが、一方で、彼らのリスナー層は変わっていっているように思える。
 実際のところ、僕もある時期、志人のラップとことばを素直に受け入れることができなかった。何年か前、湘南の江ノ島の海の家だったと思うが、志人のライヴをオレンジ色の夕陽が深い闇に沈まんとする美しいロケーションのなかで観たことがある。具体的には思い出せないが、志人が放った自然回帰やエコロジーや友愛のことばは、僕にはあまりに無垢なことばに聴こえ、愕然としたことがある。正直、最後まで観ていられなかった。

 「それは、お前が偏屈で心が汚れているんだよ」、ということであればむしろ話は早いが、しかし、似たような感想を持つ人間は少なくないということだ。いや、これは本当にきわどく、危うい現代的な問題なのである。
 僕は志人というラッパーが、宇宙の真理や自然の偉大さを考えもなしに漠然とペラペラと喋るスピリチュアリズムかぶれの軽薄な人間などではないことをよく知っている。豊かな知性と感情と表現力を持つラッパーであることを知っている。裏を返せば、そんな志人であっても、いまの時代に自然回帰やエコロジーという切り口から平和を訴えることは、共感と同じぐらいの拒絶を引き出してしまう困難さがあるのだ。それぐらい自然回帰やエコロジーというのは、一筋縄ではいかないものだ。
 その意味で、「野は枯れ 山枯れ 海は涸れ すきま風が吹き 国は荒れ果てた 放火魔に 連続殺人 原子力発電所 核戦争 終わらせよう 今日からでも 君は地球さ 地球は君なのだとしたら」というリリックから穏やかに滑り出すアンビエント的な"夢境~Mukyo~"の平和主義は、果たしてリスナーにどう受け止められるだろうか。
 ともあれ、"ジレンマの角"、"今此処"、"夢境"といったまったく異なる表情の曲を1枚のアナログに収めたことには意味があるだろう。それが志人の懐の深さでもある。これは取って付けたフォローではなく、真実だ。

 そしてまた、志人の豊穣さの底を支えるものにはノスタルジアがある。それは単に幼年時代や少年時代や過去を懐かしみ感傷に浸るということではなく、人間の奥深くにある記憶を呼び覚まさせるようなノスタルジアのことだ。それはどこか稲垣足穂の「宇宙的郷愁」と相通じるし、あるいは、志人が思想的にも、芸術的にも大きくインスパイアされたであろう寺山修司の土俗的な、ある種屈折したノスタルジアを思い起こさせもする。
 "今此処"や"夢境"にももちろん滲み出ているが、2005年に発表したファースト・アルバム『Heaven's恋文』に収録された"LIFE"はとくに、ノスタルジアを結晶させた、豊かな色彩感覚に彩られた名曲である。KOR-ONEによるファンクとソウルの感性が映えるトラックも本当に素晴らしい。

嫌というほどに見た現実に疲れては/まぼろしの公園でいつもひなたぼっこLIFE

忘れかけたユーモアというものや/君にとってとっても重要な日々の匂いや色は、
街で見かけたチンドン屋/なびかせた黄色いハンカチーフ
やさしくなった自分をふと思い出すのさ/
どこもかしこも/立ち止まる足場も無く/暇も無く/芝も無い/
僕の居場所を探し出そう/この 都会に お帰り
LIFE

 しかし、こればっかりは歌詞の引用だけでは伝えられないものがあるので、聴いて感じてもらうしかない。他にも、日本の庶民的な家庭を描いているようだが、よく聴くと、現実と虚構が入り組んでいて、どこかズレが生じている"円都家族"の奇妙なノスタルジアも面白い。
 詳述は避けるが、『Heaven's恋文』のあるスキットでは、実際に寺山の映画のワンシーンが引用されている。それは、インテリ批判とも読める志人らしい軽妙なやり口で、その映画を観た人間から言わせると、「ああ、そこなのか!」と膝を打ちたくなるような風刺の効いた場面を拾っている。
 ただ、志人に寺山修司や稲垣足穂や宮沢賢治といった過去の芸術家や詩人の影を感じたとしても、志人がやっていることは、当然過去の意匠の焼き回しではないし、ましてや懐古趣味や権威主義、または衒学趣味とは程遠いものだ。
 「いまの時代がいちばん面白いと言わせたい」というのは、かつて志人が放ったことばだが、その情熱の炎がいまだ燃え盛っているということは、この新しいアナログを聴いても実感できる。さきほど、異なる表情の3曲を1枚のアナログに収めたのが懐の深さだと書いたのは、対立物を内包しながらもロマンを語ることはできる、ということに志人が挑戦しているように思える故である。

 さて、最後に、志人の刺激的な今後について書いておこう。まず、そのうち志人と渋さ知らズとの共演(競演)があるかもしれないという噂が耳に入ってきている。また、MSCのTABOO1のファースト・ソロ・アルバムにゲスト・ラッパーとして参加する予定だが、"禁断の惑星"と名付けられたSF風の曲のバックトラックを制作したのは、なんとDJ KENSEIである。さらに、〈アンチコン〉とも縁の深いカナダのラッパー、BLEUBIRDと録音した数曲は、おそらく日本のヒップホップ・シーンに小さくない衝撃を与えることになるだろう。そして願わくば、ごく少数しか流通しない(させない)「ジレンマの角 EP」の楽曲が、なんらかの形でより多くの人に届くようになればと思う。まあ、ということで、志人の今後の展開を楽しみに待とう。

YUMMY (DONUTZ) - ele-king

ウォームアップで使いたい新選ハウス10


1
Taylor - Noob - On The Edge

2
Solid Groove - Throwing Stones - Dubsided

3
Santos - San francisco - noir music

4
Culoe De Song - Inspiration - MULE MUSIQ

5
Steal Vybe and Leslie Carter (Chris's Bangin Da Instrumental) - I Got You - Steal Vybe

6
Dubbel Dutch - Throwback - Palms Out Sounds

7
Switch - The Lights - Unknown

8
Rune RK - Oje - Arti Farti

9
Satoshi Tomiie - Back To Basics (Motorcitysoul Remix) - Saw

10
Yummy - Blue Glass Friend Park - common ground recordings

ryo of dextrax(dxtx-music) - ele-king

Summer Tune★


1
Idan K & the Movement Of Rhythm - pau do berimbau feat. Juares dossantos & Axum - Unknown

2
Devendra Banhart - White Reggae Troll - XL

3
7 samurai - Havana Strut - GAMM

4
Ronnie Richards - Jammin(soca houz dub) - Jaxx

5
Overproof Sound System - The Model - BANGERS R MASHED

6
Jebski - Oval (Kinka Tribal Wind Remix) - Master Of Life

7
Dave Angel - Patrice - Apollo

8
Yosuke Ikeda - By The Roots - Rain's Image

9
Bobby Womack - So Many Sides Of You - Motown

10
Dextrax - E-glez - Bodyshower

DJ NOZAKI(PRIMO ONLY/NO JERKY NO CHICKEN) - ele-king

CHART


1
Led Zeppelin - Remaster 4 Track Sampler - Atlantic

2
Holger Czukay - Ode To Perfume / Fragrance - Claremont 56

3
Rasta Instante - Avec L'effroy Able Pecqre - Better Days

4
DJ Kent - Cozmo - Balance

5
Tomoki Tsukamoto- Primind - Ssoundchannel

6
Lenny Kravitz - The Circus Single Collection- Virgin

7
Die Dominas - S/T - Fabrikneu

8
Akira Sakata - Tenoch Sakata - Better Days

9
Unknown - 1,2,3 - Sunshine Sound

10
Mick - Macho Brother - 10" of Pleasure

RYOTA TANAKA - ele-king

KYOTO INDIE CLUB CHART


1
Mystery Jets - Serotonin - Rough Trade

2
Turntable Films - 2steps - Second Royal

3
The Samps- The Samps - Mexican Summer

4
Duck Sauce - Greatest Hits - Fool's Gold Records

5
Onra- Long Distance - All City Records

6
V.A. / PDXTC / High Score AndI

7
ポチョムキン / おてもやんサンバ FEAT. 水前寺清子, MICKY RICH & ポチョムキン / Face The Music

8
Kings Go Forth - The Outsiders Are Back - Luaka Bop

9
Kisses- Bermuda - Moshi Moshi

10
王舟 / 賛成 / 鳥獣虫魚
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114