「OTO」と一致するもの

Ichiro Tanimoto - ele-king

 パンデミック以降の東京の地下シーンで絶大な支持を集める新世代のトランス・カルト・クルー〈みんなのきもち〉の中心人物であるIchiro Tanimotoが、デビュー・アルバム『Solace From The Sun』を発表する。7038634357などの作品を輩出した中国・上海発のインディペンデント・レーベル〈Genome 6.66 Mbp〉より3月16日にリリース。

 『Solace From The Sun』はIchiro Tanimotoが音楽家を志す契機となった2020年に端を発し、4年の制作期間とともに自身の揺れ動く心情や混乱のなか掴んだ美学を14曲に託した意欲作。アルバム・タイトルの「solace=慰め」とは、あらゆる失意や苦難を洗い流すかのような朝焼け──レイヴやパーティの最後に全身を包むあの朝日──にインスパイアされて名付けられたとのこと。トランス・ミュージックでありながらほぼ全編がビートレスという構成も特徴的で、2010年代にかけて局所的に発展したウィッチ・ハウス、デコンストラクテッド・クラブやハイパーポップの源流とされるバブルガム・ベースが再発掘したSupersawサウンドの美しさに迫る内容となっている。

 世界的なトランス・リヴァイヴァルの潮流に乗っているようで、決してそうではない二面性が感じられるベッドルーム発のイマジナリーなクラブ・ミュージック、あるいはパンデミック禍がもたらしたアンビエント・ミュージックの突然変異体とでも言えるだろうか。そんなIchiro Tanimoto率いる〈みんなのきもち〉は、3月から5月にかけて台北、愛知、東京、シンガポール、北京、上海、成都、深圳を巡るアジアツアーを敢行することも発表しており、また同クルーのレーベル・ラインである〈Mizuha 罔象〉においても複数のリリースが控えている。

 COVID-19の影が世界を覆ったころ各地に撒かれた次世代の萌芽は、ポスト・コロナの時代を迎えたいま確実に花を咲かせはじめているようだ。

Ichiro Tanimoto – Solace From The Sun

Tracklist

01. New Dawn
02. Under The Same Sky
03. Sun Chorus
04. Lost Weekend (Spring)
05. 洗心
06. Green Sky
07. Yamatsumi
08. Still Air
09. 白夜 Midnight Sun
10. Lost Weekend (Winter)
11. Cave ft. Silént Phil
12. The Final Attempt Against Oblivion, 7 Minutes Before The Sunrise
13. Sunday Morning At Shibuya Crossing
14. A Worse Tomorrow

Artwork by Kazuma Watanabe (みんなのきもち)
Mastered by Lorenzi
Label: Genome 6.66 Mbp
Release Date:
Format: Digital

https://ichirotanimoto.bandcamp.com/album/gnm034-solace-from-the-sun

“JAPANESE DUB” Talk&DJ - ele-king

 ダブの時代です。みんなでダブを聞きましょう。というわけで、タイムリーなイベントがあります。日本を代表するレコーディング&ライヴのダブ・エンジニア、内田直之。活動開始から30年を超えて今もなお進化を続ける内田のDUBミックス、その創作の秘密を紐解くイベント。2時間に及ぶロングトークでは内田がミックスを担当した音源を聴きながらこれまでの活動を振り返る。また、DJタイムでは内田が自身の音源のみでセルフミックスを行う大変貴重な機会となる。元浅草(稲荷町)にある上質な音響空間として定評のあるミュージック・バー&カフェの102で、内田の奏でるDUBの響き、その真髄に迫る。

Motoasakusa102 3rd Anniversary
“JAPANESE DUB” Talk&DJ vol.1 内田直之編

出演:内田直之(LITTLE TEMPO,OKI DUB AINU BAND)
会場:Motoasakusa102 
   東京都台東区元浅草4-4-15
日程:2024年3月13日(wed)
開場:18:00/開演19:00(終演22:00)  
料金:¥2500- (1drink)/¥3200-(1drink+カレーセット)
チケット購入方法:完全予約制(igaken102@gmail.comへイベント参加記載の上、メールにてお申し込み下さい)

Schedule
19:00-21:00 内田直之Talk&Interview
21:00-22:00 DJ Time
23:00 Close

Presented by: Motoasakusa102


内田直之
1972年埼玉県出身。1992年よりレコーディングスタジオに勤務し、録音技術を学ぶ。その傍ら日本のRoots Rock Reggaeバンドの草分けであるDRY & HEAVYのDUBエンジニアとして活動を始める。メンバーとしてバンドに参加しライブを重ねていく中で、独学でライブPA技術を身につける。LITTLE TEMPO、OKI DUB AINU BAND、FLYING RHYTHMS 等、複数の国内DUBバンドにメンバーとして参加し、日本のDUB MUSICを発展させるべく、日々研鑽を重ねている。

 スクエアプッシャー4年ぶりのオリジナル・アルバム『Dostrotime』はだいぶ破壊的だ。高速かつアシッディなブレイクビーツが爆発する先行シングル曲 “Wendorlan” が好例だけれど、アナログ機材を使用し原点回帰的な側面をもった前作『Be Up A Hello』(2020)における、素朴に音と戯れるような楽しみからは一気に反転、「電子音の暴力」なんてことばさえ思い浮かぶ。この激しさは前々作『Damogen Furies』(2015)と近い。ブレイクコア・リヴァイヴァルが起こっている昨今、こうしたアグレッシヴなスタイルはタイムリーではあるものの、彼はなぜあらためてこのような方向性を選びとったのだろうか。

 近年、アーティストの口からスクエアプッシャーの名が発せられるのをときおり見かけるようになった。筆頭は、エレクトロニックなダンス・ミュージックの分野で今日もっとも注目すべき存在といえるほどの活躍をみせているロレイン・ジェイムズだが、エレクトロニックの領域のみにとどまらず、モーゼス・ボイドJD・ベックといったジャズ・ドラマーまでもが彼の名を口にするようになっている。
 スクエアプッシャーはエイフェックス・ツインマイク・パラディナス同様、90年代のアンダーグラウンドなUKレイヴ・カルチャーから生まれたジャングル~ドラムンベースのスタイルに触発されたひとりなわけだけれど、その最大の個性は本人が凄腕のベーシストでもある点だろう。生楽器を軸にしたジャズ作品『Music Is Rotted One Note』(1998)はじめ、彼はその特技を活かしこれまでじつに多彩な音楽をつくりつづけてきた。そうした演奏家ならではの独特のセンスがもしかすると今日のジャズ・ミュージシャンたちに刺戟を与えているのかもしれない。
 吹き荒れる『Dostrotime』の電子の嵐のなかには、プレイヤーとしてのジェンキンソンの存在を随所で感じとることができる。たとえば疾走するビートのうえで彼らしい泣き節が炸裂する “Enbounce” では、ギターによるものとおぼしきフレーズがねじこまれてもいる。似た発想は “Holorform” でも試みられているし、アシッドぶりぶりの “Stromcor” でうなりまくる低音はジェンキンソンのプレイヤーとしての力量をあらためて見せつけるものだ。ドリルンベース・タイプの曲も気を吐いていて、“Duneray” や “Domelash” からは彼のルーツともいうべきジャングルへの愛を再確認することができる。振りかえれば一昨年の来日公演時、彼はデジタルなサウンドでさえもベースを用いて鳴り響かせていたのだった。あの日の曲目は未発表のものが多かったけど、ひょっとするとそのとき披露されていたのが本作のプロトタイプだったのかもしれない。
 全体的にアグレッシヴであるからこそ、逆に、もっとも耳に残るのは冒頭・中盤・最後に配置されたギターの独奏だったりもする。こちらは技巧の披露というよりも聴き手の感情に揺さぶりをかける、穏やかでセンティメンタルなタイプの演奏だ。この手の曲が収録されるのはたぶん、ベース1本でステージに立つ様をとらえたライヴ盤『Solo Electric Bass 1』(2009)以来、オリジナル・アルバムとしては『Just A Souvenir』(2008)以来ではなかろうか。戦闘的な曲と心休まる曲とのこうした同居は、まもなく20周年を迎える00年代スクエアプッシャーの代表作『Ultravisitor』(2004)を想起させもする。

 しかしまあなんでこれほど荒々しいのだろう? おなじく凶暴だった『Damogen Furies』には、当時の世界情勢にたいする怒りがこめられていた。では新作『Dostrotime』はなににたいして腹を立てているのか。
 ここ10年ほどに限ってみても、スクエアプッシャーはアイディアやコンセプトの面においてさまざまな試行錯誤を繰り返してきた。架空のバンド(2010/2017)、ロボットによる演奏(2014)、ソフトウェアの開発(2015)、ブレグジットにたいして世界各地のアーティストたちとの連帯を試みる「国境なきMIDI」(2016)、睡眠導入ヴィデオのサウンドトラック(2018)、クラシック音楽家への楽曲提供(2019)、レイヴ・カルチャーがふたたび注目を集めるようになった時代に実体験者として当時の気持ちを振りかえること(2020)、あるいはファースト・アルバムのリイシュー(2021)。
 新作のもうひとつのポイントは、リリース形態がCD、LP、ダウンロード販売のみである点だ。今回ジェンキンソンはみずからアートワークやTシャツのデザインまで手がけている。だからストリーミング・サーヴィスの排除をメッセージとして受け止め、深読みすることも可能だ。たとえばワン・タップ/ワン・クリックで音楽を流しっぱなしにすること。アルゴリズム(それは大企業の利益最大化に貢献する)による誘導に身をゆだねること。どの曲をいつどのタイミングで再生しどこで止めたか、監視されること。『Dostrotime』がもつ破壊的パワーはそうした聴き方にたいする考察をリスナーに促しているともいえるのかもしれない。
 かつて「テクノロジーに使われてしまう」ことを懸念していたジェンキンソンだ。このアルバムで彼は、音楽を聴くことが能動的な行為でもあることを思い出させようとしているのではないか。スクエアプッシャーのサウンドや演奏力が幾人かの後進たちのインスピレイション源となったように、『Dostrotime』の問題提起もまた、よりよい未来をのぞむ新たな世代への遺産となっていくにちがいない。

スクエアプッシャー自身による『Dostrotime』各曲解説 >>

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スクエアプッシャー自身による『Dostrotime』各曲解説

 トム・ジェンキンソンみずからによる『Dostrotime』の解説が到着しました。アルバム収録の12曲すべてについて本人が説明してくれています。以下、特別に日本語訳を掲載。読みながら聴いて理解を深めましょう。[編集部・3月8日追記]

1) Arkteon 1
この曲はロングスケールのエレクトリック・ギターを使って演奏した。僕は、より明瞭で伸びのある音が出る、レギュラー・タイプのエレクトリック・ギターの方が好きなんだ。サウンドは、ピエゾ・ピックアップ(※1)とマグネティック・ピックアップをミックスしたもので、Eventide H8000(※2)を使ってカスタム・プロセス録音したんだけど、今回はイコライザーとリヴァーブを少し加えた。

(※1)「ピエゾ・ピックアップとは、圧電素子を使ったピックアップのこと。エレクトリックアコースティックギターに多く使われている」(出典:https://www.digimart.net/spcl/agwords/piezo_pickup.html
(※2)Eventide H8000:「長年の実績からなるベストアルゴリズムを、高いオーディオパフォーマンスで提供するEventideのフラッグシップモデル」(出典:https://shop.miyaji.co.jp/SHOP/ka-r-072716-wa03.html

2) Enbounce
このトラックは、ヤマハCS-80やローランドV-シンセXT、ローランドTB-303のベースライン、そしてローランドTR-909とTR-707のパーカッションなど、さまざまなハードウェアのライヴ・ミックスダウンからはじまった。ギターはディストーションを与えるため、“Arkteon 1” と同じセットアップを使ってオーヴァーダブされ、一方で弦の曲がったところにリング・モジュレーション(※3)を加えるカスタム・モノシンセを作動させた。このマテリアル(素材)は、元々BBC『Daydreams』(※4)のサウンドトラックのために作られたものから引用された。

(※3)「主にシンセサイザーやエフェクターにおいて、金属的な非整数次倍音を含むサウンドを生み出すセクション(または機器)のこと」「2種類(以上)の入力に対しそれぞれの周波数の和と差を生み出すことで、ベルなどの金属的な非整数次倍音を含むサウンドを生み出すことができる」(出典:https://info.shimamura.co.jp/digital/support/2019/04/130104
(※4)BBC、子ども向け番組『CBeebies』のコーナー。

3) Wendorlan
“Wendorlan” は、2014年に『Damogen Furies』を制作するために使用したシステム4(と僕が呼んでいる)(※5)を進化させた、デジタル・システムで制作された。「Wendorlan 10月16日、日曜日」のヴォーカルは、1993年に放送されたロンドン・アストリアでのレイヴのための海賊ラジオ広告からとったもの。映像の終わりには、「“タリスマン・レッドはそれが未来への突破口だと思ったと言った” と沈むイカダの上でデヴィッド・ボウイが歌った」というテキストが流れる。これは、このビデオが完成する少し前に見た夢の中の出来事を描写している。

(※5)システム4:編集を一切おこなわずにリアルタイムでオーディオを生成すること、オーディオのマルチトラッキングも、ステムも、編集も、素材の手直しもない独自のソフトウェア・パッチのこと。

4) Duneray
この曲は『Be Up a Hello』の制作中に作ったカスタム・ゲート・リヴァーブを使っている。これは言うまでもなく、“Vortrack (Fracture Remix)” で聴くことができるんだけど、この曲はそのすぐ後にローランドTB-303(ここでは音色の多様性とポリフォニー(※6)のためにRoland SH-101と組み合わせている)を使って録音した。パーカッションが止まると、コンプレッション・スウェル(※7)がシンセ音の減少とともにバックグラウンド・ノイズを浮かび上がらせ、音源のハードウェアな側面が最後にはっきりと聴こえる。

(※6)「ポリフォニーは、複数の独立した声部(パート)からなる[……]多声音楽を意味する」(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ポリフォニー
(※7)「真空管(特に整流管と出力段にあるもの)が高い出力レベルで動作中に大きな負荷がかかった際に、回復しフルパワーに戻るのにかかる時間を指」す(出典:https://line6.jp/model-citizens/dave-hunter-whats-behind-the-sag-bias-and-bias-x-controls-in-helix-amps/)。

5) Kronmec
このトラックではメロトロンのサンプルが使われ、交互コードは微分(微調)音程(※8)でピッチアップ(調整)されている。モノシンセのベース・サウンドは、TB-303のコピーをプログラムするために僕がパートタイムで続けている取り組みの最近のイテレーション(反復)(※9)で、明らかに柔軟性を高めている。これを試したことのある人なら誰でも、矩形波に近似させるのが難しいことに同意すると思うが、パルス(波の)幅でピッチに相関したヴァリエーションを使うのは有効だ。これは、オリジナルの機械では不可能だが、ここではパルス幅が0%に向かってプッシュされているのを聴くことができる。

(※8)microtonal interval:微分音(びぶんおん)とは、音楽において半音より小さな音程を用いることで、「微小音程」とも呼ばれる。また、西洋の慣習的な調律である、1オクターブあたり12等分された音程以外の音程を使う音楽も含まれる。言い換えれば、マイクロトーンは、平均律で調律されたピアノの「鍵盤の間」にある音と考えることができる。
(※9)イテレーション:「プログラミングで終了条件に達するまで一定の処理を繰り返すこと」(出典:http://pubspace-x.net/pubspace/archives/9447)。「一連の工程を短い期間で何度も繰り返す、開発サイクルの単位」(出典:https://lychee-redmine.jp/blogs/project/tips-iteration/#:~:text=イテレーションは、「一連の工程,がしやすくなります。)。

6) Arkteon 2
この曲は “Arkteon 1” と同じセットアップを使用しているが、ギターは違う方法でチューニングされている。規則的なE-A-D-G-B-E(標準的なチューニング)を基本としており、トップのEは規則的なピッチ(音の高低)でチューニングされているが、そこから下に続く弦は微分音程(前述)を増やしてチューニングされている。特定の陽性波のところで強制的に静止させるため、トレモロ・ブリッジにGクランプを付けることにより実現した。演奏には不便だが、効果はあった。

7) Holorform
このセット(アルバム)で最も古いトラックで、オリジナル・ヴァージョンは2018年に録音され、その後昨年リミックスされた。例えば『Just a Souvenir』収録の “The Coathanger” と同じアプローチでまとめられている。基本的な手法は、インストゥルメンタルの演奏(この場合はギター・ソロ)を取り込み、段階的に処理を加え、調子を合わせて進行させることで、ライヴではありえないほど複雑かつ正確にエフェクトをコントロールするというものだ。このアプローチを推し進める確固たる意志は、僕がどのようにある種の未来的なSF音楽性(どのように音楽を作るか)を思い描いているかである。

8) Akkranen
この曲の出発点は、〈No U-Turn〉レーベルの『Torque』に収録されている “Droid” でデチューン(離調)(※10)された形で使われている有名なレイヴスタブ(※11)だが、エド・ラッシュやその類のミュージシャンが作るミニマル・アプローチを踏襲することはできなかった。他のハードウェア・ベースの作品と同様、2トラックに直接録音したので、リアルタイムの調整を一発でうまくまとめる必要があった。“Duneray” と同じゲート・リヴァーブ(前述)とTB-303の組み合わせを使っていて、特に、適切な瞬間にリヴァーブが際立つようにフィルターを正しく微調整することが不可欠だった。

(※10)デチューン:「電子音楽で、音高を微妙にずらした音を重ねて響きにふくらみを持たせること」(出典:https://eow.alc.co.jp/search?q=デチューン
(※11)「単一のスタッカート音符やコードで形成された、音楽に強いエッセンスを加えるサウンド。特にレイヴスタブとは、KORG M1のピアノ音源など著名なシンセサイザーの音色をサンプリングした、レイヴ・ミュージックに特有のもの」(出典:https://raytrek.net/dtm/voices/10min_dtm/03/

9) Stromcor
この曲はライヴで演奏するのがとても楽しくて、ベース・シュレッドが恥ずかしげもなく多少施されているが、スタジオ・レコーディングにはライヴ演奏とは異なる部分がある。“Arkteon 1” のギターに使用されたのと同じH8000のセットアップで処理され、独自に修正したMusic Manの 6弦ベースを使って録音されたのだけど、今回はH9ペダルによるリング・モジュレーション(前述)とワウペダルがフィーチャーされている。イントロではTR-909が外付け振幅エンベロープを通して処理されているのが聴こえる。

10) Domelash
“Akkranen” と同様、〈No U-Turn〉のパラノイド・ミニマリズムのヒント(影響)がこの曲をスタートさせるが、最終的にはマキシマリズムに辿り着く。“Wendorlan” と “Stromcor” にも使われている、僕が数年かけて少しずつ作り上げたカスタム・シーケンサーを使用している。とりわけこのシーケンサーは、メイン・テンポからシーケンスを切り離すことができ、その間もその切り離しをコントロールすることができるのだが、それは、冒頭部分のブレイク・プログラミングではっきりと聴くことができる。さらにカスタムのゲート・リヴァーブも全体を通して使われている。

11) Heliobat
“Arkteon 1” のロングスケール・ギターもフィーチャーされているこの曲のために、さまざまなハードウェアが少しずつ慎重にチューニングされ、プログラムされた。メロディの一部にSH-101が聴こえ、ヤマハFS1Rがポリフォニックのかなりの部分を生み出している。イントロ部分では、メジャーサード(長3度)が(イコール・テンペラメント(等分調律 、平均律)ではなく)対応するルート音(根音:コードの土台となる音)の整数比になるようなピッチ・イントネーション(※12)の形式が使われている。

(※12)ピッチ・イントネーション:「基準の音の音程の高低のことを「ピッチ」というのに対して、それぞれの音の音程の高低のことは「イントネーション」とい」う(出典:https://suiso-gaku.com/ピッチとイントネーションの違い/)。音楽におけるイントネーションとは、ミュージシャンや楽器の音程の正確さのことである。

12) Arkteon 3
この曲は、チューニングも含めて “Arkteon 2” と同じセットアップを使っている。当初はギター演奏の伴奏用に他の楽器を使うつもりだったが、最終的にはソロ曲としての方が理にかなっていると思った。“Arkteon 4” という曲もあるのだけれど、どういうわけかこのアルバムには合わなかった。何時間もかけてシグナル(信号)ルーティングやケーブルの配置、演奏ポジションなど、邪魔になるような原因を排除したにもかかわらず、ポーズ(休止)では50hzメイン(主電源)のハム(ズーという音)が聞こえる。他の “Arkteon” 曲とともに、この曲はライヴで忙しかった夏の後、22年秋に録音された。

翻訳:近藤麻美

 GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが初めて監督をつとめた映画『i ai(アイアイ)』。現代の若者へ向けた力強いメッセージが込められた同作が、3月8日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほか全国各劇場にて順次公開される。
 これを記念し、オリジナル・グッズの発売も決定。パンフレット、Tシャツ、ステッカー、パーカー、ライターなど豊富なラインナップで、各劇場ではもちろん、レーベル〈十三月〉のオンライン・ストア(https://jsgm-online.stores.jp/)でも販売される(一部の商品・劇場を除く)。なおオンライン・ストアでは、本日2月29日(木)18時より先行予約受付が開始される。
 また同時に、登場人物たちにフォーカスしたショート動画も公開されている。第1弾は、主人公に大きな影響を与える人物の恋人。以降、他のキャラクターの動画も順次公開されるそうだ。詳細は下記よりご確認を。

予告編

マヒトゥ・ザ・ピーポー初監督作
新星・富田健太郎と、森山未來、さとうほなみ、永山瑛太、小泉今日子ら
実力派俳優陣が集結した新たな青春映画の誕生!

GEZANのフロントマンで、音楽以外でも小説執筆や映画出演、フリーフェスや反戦デモの主催など多岐にわたる活動で、唯一無二の世界を作り上げるマヒトゥ・ザ・ピーポーが初監督を務め、第35回東京国際映画祭<アジアの未来部門>に正式出品され話題を呼んだ映画『i ai』。マヒト監督の実体験をもとに、主人公のバンドマン・コウと、コウが憧れるヒー兄、そして仲間たちが音楽と共に過ごした日々が綴られていく青春映画が誕生した。

主人公コウ役には、応募数3,500人の大規模オーディションから抜擢された新星・富田健太郎。そして主人公の人生に影響を与え、カリスマ的な存在感を放つヒー兄役には、映画だけでなく舞台やダンサーとしても活躍する森山未來。さらに、コウとヒー兄を取り巻く個性豊かな登場人物たちに、さとうほなみ、堀家一希、永山瑛太、小泉今日子、吹越満ら多彩な実力派が顔をそろえた。
マヒト監督の紡ぐ“詩”と、キーカラーでもある“赤”が象徴的に使われる、寺山修司を彷彿させる独特の映像美が融合した本作。この純文学的な味わいの作品を撮影カメラマンとして支えたのは、木村伊兵衛写真賞受賞の写真家・佐内正史。そして、美術に佐々木尚、衣装に宮本まさ江、劇中画に新井英樹など、監督の思いに共鳴したカルチャー界の重鎮たちが集結。また、ヒー兄がフロントマンを務める劇中バンドのライブシーンで、実際の演奏を担うのは、監督をはじめとするGEZANのメンバーたち。ライブハウスの混沌と狂乱が臨場感たっぷりに描かれる。

映画オリジナルグッズ発売決定!!
さらにキャラクター別ショート動画公開!第1弾はさとうほなみ演じる「るり姉編」

この度、映画の公開を記念したオリジナルグッズの発売が決定!全72ページの豪華パンフレットには、キャストのロングインタビューほか、撮影の日々を綴ったプロダクションノート、燃え殻や寺尾紗穂が寄稿したコラムを収録。写真家の水谷太郎と山本光恵によるスチル写真も多数収められている。さらに、主人公コウが組んでいるバンド“THIS POP SHIT”のバンドTシャツや、本作では撮影カメラマンとして参加している写真家の佐内正史のスチルがデザインされているパーカー、鈴木ヒラクが手がけた映画ロゴが配置されたステッカー3種ほか、劇中でもキーカラーとなる“赤”を基調としたグッズが揃う。公開初日3月8日(金)より各上映劇場および、レーベル・十三月のオンラインストア(https://jsgm-online.stores.jp/)にて販売開始予定。
また、公開まで1週間となり、キャラクター別ショート動画が解禁となった。第1弾として公開されたのは、さとうほなみ演じるヒー兄の恋人るり姉の横顔が画面に大きく映し出される「るり姉編」。どこか憂いを含みながらも、真っ直ぐに一点を見つめる姿からは、るり姉の芯の強さを感じさせる動画となっている。今後、映画公式のXとInstagramにて、永山瑛太が演じる久我ほか、登場キャラクター別のショート動画が順次解禁予定。ぜひチェックしてほしい。

▼映画『i ai』オリジナルグッズ 販売概要
3月8日(金)より、各上映劇場および「十三月オンラインストア」から販売開始。(一部商品・劇場を除く)
オンラインストアでは、映画の公開に先駆けて2月29日(木)18時より先行予約受付を開始。
「十三月オンラインストア」URL: https://jsgm-online.stores.jp/

▼映画『i ai』オリジナルグッズ アイテム一覧

■パンフレット 1,500円(税込)
【収録内容】全72ページ
マヒトゥ・ザ・ピーポー(監督・脚本)インタビュー/富田健太郎&森山未來インタビュー/燃え殻、寺尾紗穂によるコラム/森直人によるレビュー/プロダクションノート/監督が明かす映画『i ai』のQ&A/写真家・水谷太郎と山本光恵によるスチールなど

■Tシャツ「umbrella Long-T」【サイズ:M/L/XL】5,500円(税込)
Logo:鈴木ヒラク/Photography:吉本真大/Design:石原ロスカル

■Tシャツ「THIS POP SHIT T」【サイズ:M/L/XL】4,500円(税込)
Logo:STANG/Design:石原ロスカル

■ステッカー【全3種】各種400円(税込)
Type-A | Logo:鈴木ヒラク/Design:石原ロスカル
Type-B | Photography:水谷太郎
Type-C | Logo:鈴木ヒラク/Photography:山本光恵/Design:石原ロスカル

■「あいあい」ライター【カラー:red/white】各種300円(税込)
Logo:STANG

■パーカー「i ai Logo Hoodie」【全3種/受注生産・オンライン限定】各種12,000円(税込)
Type-A | Color:red/Photography:佐内正史
Type-B | Color:black/Logo:鈴木ヒラク
Type-C | Color:white/Logo:STANG

■GEZAN『i ai ORIGINAL SOUNDTRACK』 3,000円
アーティスト : GEZAN
タイトル : i ai ORIGINAL SOUNDTRACK
レーベル : 十三月
発売日 : 2024年3月8日(金)
CAT NO : JSGM-61
フォーマット : CD/DIGITAL
URL:https://gezan.lnk.to/iai_soundtrack

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【STORY】
兵庫の明石。期待も未来もなく、単調な日々を過ごしていた若者・コウ(富田健太郎)の前に、地元で有名なバンドマン・ヒー兄(森山未來)が現れる。強引なヒー兄のペースに巻き込まれ、ヒー兄の弟・キラ(堀家一希)とバンドを組むことになったコウは、初めてできた仲間、バンドという居場所で人生の輝きを取り戻していった。ヤクザに目をつけられても怯まず、メジャーデビュー目前、彼女のるり姉(さとうほなみ)とも幸せそうだったヒー兄。その矢先、コウにとって憧れで圧倒的存在だったヒー兄との突然の別れが訪れる。それから数年後、バンドも放棄してサラリーマンになっていたコウの前に、ヒー兄の幻影が現れて……。

【CREDIT】
富田健太郎
さとうほなみ 堀家一希
イワナミユウキ KIEN K-BOMB コムアイ 知久寿焼 大宮イチ
吹越 満 /永山瑛太 / 小泉今日子
森山未來

監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影:佐内正史  劇中画:新井英樹
主題歌:GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
プロデューサー:平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
美術:佐々木尚  照明:高坂俊秀  録音:島津未来介
編集:栗谷川純  音響効果:柴崎憲治  VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
衣装:宮本まさ江  衣装:(森山未來)伊賀大介  ヘアメイク:濱野由梨乃
助監督:寺田明人  製作担当:谷村 龍  スケーター監修:上野伸平  宣伝:平井万里子
製作プロダクション:スタジオブルー  配給:パルコ
©STUDIO BLUE(2022年/日本/118分/カラー/DCP/5.1ch)

公式サイト
公式X
公式Instagram

3月8日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開

Jeff Mills × Jun Togawa - ele-king

 先日お伝えしたように、戸川純が出演するジェフ・ミルズによる舞台作品『THE TRIP -Enter The Black Hole-』が4月1日に上演されるわけですけれども、そのサウンドトラックから先行シングルが発売されます。ジェフ・ミルズと戸川純のダブルネームによる “矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Edit)” は3月13日、Apple MusicおよびiTunesにて先行リリース。ちなみに明日2月29日、J-WAVE「Grand Marquee」にて初オンエア予定とのことです。いったいどんな音楽に仕上がっているのか、楽しみにしていましょう。以下、詳細です。

ブラックホールの先に響く、未知の音の世界 -
ジェフ・ミルズと戸川純の究極のサウンドトリップ
「矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Edit)」が3月13日
Apple Musicにて先行配信!
J-WAVE「Grand Marquee」にて2/29(木)初オンエア!

ジェフ・ミルズと戸川純が描く一大ブラックホール・スペクタクル
4月1日(月)に東京・新宿にて行われるジェフ・ミルズ総指揮、宇宙の神秘に迫る舞台芸術作品『THE TRIP -Enter The Black Hole-』のサウンドトラックから、日本の音楽シーンにおいて圧倒的な存在感を放つレジェンド、戸川純がシンガーとしてフィーチャーされる「矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Edit)」が3月13日(水)にApple Music及びiTunesにて先行発売される。
ジェフ・ミルズと戸川純の世界観が有機的に溶け合い結晶化、今までのジェフ・ミルズのイメージからも解き放たれたバンドサウンドかつミニマルな浮遊感溢れる楽曲となっている。戸川がボーカルを務めるバンド、ヤプーズの山口慎一、ヤマジカズヒデも録音に参加。メロディの作曲には同バンドのライオン・メリィもクレジットされている。

J-WAVE「Grand Marquee」にて2/29(木)初オンエア!
「矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Edit)」が2/29(木) J-WAVE「Grand Marquee」(16:00 - 18:50) にて初オンエアする事が決定!
https://www.j-wave.co.jp/original/grandmarquee/

『THE TRIP -Enter The Black Hole-』お得な前売りチケットのエントリー締切迫る!
4月1日(月)ZEROTOKYO(新宿)にて行われるCOSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』のお得なオフィシャル前売りチケットのエントリーは3月1日(金)10時まで
https://l-tike.com/thetrip/

タイトル:「矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Edit)」
アーティスト:ジェフ・ミルズ, 戸川純
リリース日:
 2024/3/13 0時(JST)Apple Music及びiTunesにて先行配信
 2024/3/20 0時(JST)その他の配信・サブスクリプションサービスにて配信
ダウンロード価格:¥255(税込)
販売元:AXIS / U/M/A/A
配信、ダウンロード予約はこちらから
https://lnk.to/jmjt_contradiction

<楽曲クレジット>

ボーカル:戸川純
ギター: ヤマジカズヒデ
キーボード:山口慎一 
プログラム、シンセサイザー:ジェフ・ミルズ

作詞:戸川純
作曲:ジェフ・ミルズ
歌メロディー作曲:ライオン・メリィ

<歌詞>

13度目の宇宙の旅で
闇が突如として現れた
吸い込まれては途中で浮かぶ
永遠の孤独がわたしを襲う

でも何故だろう わからないけれど
向こうに突き抜けるという説も
信じたくない自分もいる
何故ならわたしは人間だから
人間は矛盾しているから
わたしは1人の人間だから
矛盾している生き物だから

13度目の宇宙の旅で
闇が突如として現れた
吸い込まれては途中で浮かぶ
永遠の孤独がわたしを襲う

でも何故だろう わからないけれど
向こうに突き抜けるという説も
信じたくない自分もいる
何故ならわたしは人間だから
人間は矛盾しているから
わたしは1人の人間だから
矛盾している生き物だから

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プロフィール
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JEFF MILLS(ジェフ・ミルズ)
1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。
現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ”のパイオニア的存在として知られている。代表曲のひとつである「The Bells」は、アナログ・レコードで発表された作品にも関わらず、これまで世界で50万枚以上のセールスを記録するテクノ・ミュージックの記念碑的作品となっている。
また、音楽のみならず近代アートのコラボレーションも積極的に行っており、フリッツ・ラング監督「メトロポリス(Metropolis)」、「月世界の女(Woman in the Moon)」、バスター・キートン監督「キートンの恋愛三代記(The Three Ages)」などのサイレントムービー作品のために、新たにサウンドトラックを書き下ろし、リアルタイムで音楽と映像をミックスしながら上映するイベント、“シネミックス(Cinemix)”を精力的に行なっている。
そしてポンピドーセンター「イタリアフューチャリズム100周年展」(2008年)、「Dacer Sa vie」展(2012年)、ケブランリー博物館「Disapola」(2007)年など、アートインタレーション作品の展示活動といった、数々のアート活動が高く評価され、2007年にはフランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章シュヴァリエ(Chevalier des Arts et des Lettres)を授与され、その10年後となる2017年にはフランス政府よりシュヴァリエよりさらに高位なオフィシエの称号を元フランス文化大臣のジャック・ ラングより授与された。
日本での活動も多岐に渡り、2013年、日本科学未来館館のシンボル、地球ディスプレイ「Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)」を取り囲む空間オーバルブリッジで流れる音楽「インナーコスモス・サウンドトラック」はジェフ・ミルズが作曲。現在もその音楽が使用されている。
近年、コロナ禍中に、世界の若手テクノ・アーチスト発掘支援のためThe Escape Velocity (エスケープ・ベロシティ)というデジタル配信レーベルを設立。既に60作品をリリースしている。
https://www.axisrecords.com/

JUN TOGAWA(戸川純)
1961年、新宿生まれ。歌手・女優。ゲルニカを経てソロ名義で『玉姫様』、『好き好き大好き』、ヤプーズとして『ヤプーズ計画』、『ダイヤルYを廻せ!』などをリリース。近作は、『ヤプーズの不審な行動 令和元年』。映画『釣りバカ日誌(1~7)』などに出演。『いかしたベイビー』では監督、脚本、主演。舞台に『三人姉妹』、『グッド・デス・バイブレーション考』など。TOTOウォシュレットのCM出演も評判を呼んだ。著作に『戸川純の気持ち』、『樹液すする、私は虫の女』、『戸川純全歌詞解説集 疾風怒濤ときどき晴れ』、『ピーポー&メー』『戸川純の人生相談〜どうしたらいいかな、純ちゃん〜』(山口慎一と共著)などがある。
https://twitter.com/juntogawaoffice

【イベント情報】

COSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』
参加アーティスト:JEFF MILLS(音楽)、COSMIC LAB(映像)、戸川純(歌唱)、梅田宏明(振付)、FACETASM 落合宏理(衣装デザイン)

世界最高峰のDJにして、デトロイトテクノのパイオニアであるジェフ・ミルズ。1980年代よりテクノやミニマルミュージック、近年ではオーケストラなどとの音楽を通じて独自の宇宙観を表現してきた現代アーティスト。

そのジェフ・ミルズが2024年に挑む新たな舞台芸術作品とは?
宇宙への旅、未知なるブラックホール、その先にあるものとは?
音楽、映像、歌、ダンスで宇宙の神秘に迫るコズミックオペラの誕生!

2024年4月1日(月)に東京・新宿の「ZEROTOKYO」にて、ジェフ・ミルズは日本で最も革新的なビジュアル・チームと評されるCOSMIC LABと共同制作によるライブ・オーディオビジュアル作品『THE TRIP -Enter The Black Hole-』のワールドプレミアを開催します。

本公演は音楽、映像、ライティング、そして歌とコンテンポラリーダンス、衣装デザイン、すべてにおいてジェフ・ミルズ総指揮のもと各分野のコラボレーターを迎え入れ、5つの理論的なシナリオで宇宙の神秘に迫ります。

総合演出、脚本、音楽はジェフ・ミルズ。その宇宙観/思考をCOSMIC LABが映像演出で拡張します。また、音楽シーンにおいて圧倒的な存在感を放つ戸川純がシンガーとして参加するほか、コレオグラファー(振付)にはコンテンポラリーダンス〜デジタルアートと領域横断的な表現で世界的評価の高い梅田宏明、各出演アーティストの舞台衣装は日本を代表するブランド〈FACETASM〉のデザイナー落合宏理が手がけます。

ブラックホールに向けての宇宙の旅で何が起こるのか、そのテーマを探求できることをとても楽しみにしている。テクノが創造された本当の理由がここにある。 - ジェフ・ミルズ

もし私たちがブラックホールの中に入ることができたらどうなるのか? ブラックホールの反対側には何があるのだろうか? ジェフ・ミルズは今回の舞台芸術作品を通して、さまざまな理論的可能性の中で、宇宙とブラックホールの疑問について探究します。

これまで誰も体験したことのない聴覚と視覚に訴えかけるパフォーマンスは、ステージ上だけでなく会場全体を宇宙として捉え、観客を音と光の演出で包み込み、ブラックホールへと導きます。DJでもライブでもなく、ジェフ・ミルズとCOSMIC LABによる宇宙を題材とした総合舞台芸術、世界初のコズミックオペラです。

『THE TRIP』は、2008年にフランス・パリで初めてのパフォーマンスが行われ、日本では2016年に東京・浜離宮朝日ホールにてCOSMIC LABの映像演出によって作品が拡張されました。今回はブラックホールをテーマにした全く新しい作品となり、今後数年にわたって進化を遂げる壮大なプロジェクトの始まりとなります。

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開 催 概 要
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名 称:
COSMIC LAB presents
JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』
チケットはこちらより
https://l-tike.com/thetrip/

会 場:
ZEROTOKYO(新宿)

日 程:
2024年4月1日(月)
第1部公演: 開場 17:30 / 開演 18:30 / 終演 20:00
第2部公演: 開場 21:00 / 開演 21:45 / 終演 23:15 ※第2部受付は20:30

出 演:
Sounds: JEFF MILLS
Visuals: C.O.L.O(COSMIC LAB)
Singer: 戸川純
Choreographer: 梅田宏明
Costume Designer: 落合宏理(FACETASM)
Dancer: 中村優希 / 鈴木夢生 / SHIon / 大西優里亜

料 金:

【2月28日(水)22時まで ※枚数限定】
ローチケ先行前売り入場券 9,000円

【2月29日(木)0時〜3月1日(金)10時 ※枚数限定】
オフィシャル先行前売り入場券 9,000円

【3月1日(金)発売開始】
一般前売り入場券 11,000円

主 催:
COSMIC LAB

企画制作:
Axis Records、COSMIC LAB、Underground Gallery、DEGICO/CENTER

プロジェクトパートナー:
FACETASM、株式会社フェイス・プロパティー、日本アイ・ビー・エム株式会社、一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会、株式会社TSTエンタテイメント、AlphaTheta株式会社

オフィシャルサイト:
https://www.thetrip.jp

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THE TRIP -Enter The Black Hole- 告知映像
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国内向けティザームービー(Cosmic Lab YouTubeチャンネル)
https://youtu.be/cfLH5CGwvuw

海外向けティザームービー(Axis Records YouTubeチャンネル)
https://youtu.be/22HQelKAF0w

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総合演出 / 音楽担当のジェフ・ミルズよりメッセージ
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2009年の「THE TRIP」開始以来、テクノロジーは大きくエキサイティングに進化し、その結果、没入型パフォーマンスの質は大きく向上した。それにより、より広大なテーマを探求することができるようになった。

次回のTHE TRIP公演では、「ブラックホール」を取り上げる。ブラックホールという現象は、光さえも外に出ることができないほど重力に引っ張られる宇宙空間の場所である。重力が強いのは、物質が小さな空間に押し込められたからだ。これは星が死にかけたときに起こる。

なぜこのテーマなのか:

それは、私たちの宇宙は、別の宇宙にあるブラックホールの特異点(シンギュラリティ)から分岐した可能性があるという、心躍る仮説があるからだ。私たちはブラックホールの中に住んでいるわけではないが、私たちの宇宙がブラックホールから生まれた可能性を否定するものでもない。

なぜそれが重要なのか:

もしそうなら、時間と空間はブラックホールの物理性に従うことになるからだ。つまり、私たちは常にブラックホールに向かってスパイラルしていることになる。

しかし、もし私たちがブラックホールの引力に耐えて、その中に入ることができたらどうなるだろうか?

ブラックホールの反対側には何があるのだろうか?

「THE TRIP -Enter The Black Hole-」と題されたマルチ感覚パフォーマンスを通して、ブラックホールに向けての宇宙の旅で何が起こるのか、そのテーマを探求できることをとても楽しみにしている。

- ジェフ・ミルズ

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主催 / 映像演出担当のC.O.L.O(COSMIC LAB)よりメッセージ
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我々は何処から来て、何処に向かって進んでいるのか?

2016年にジェフ・ミルズと浜離宮朝日ホールに集まった人々との「THE TRIP」を経て、COSMIC LABのミッションは意識を拡張させること、つまりその為のヴィジュアル空間装置の開発と表現の追及だと確信が深まった。

人の意識を生み出す脳と宇宙の構造は似ているという説がある。もし宇宙が誰かの脳なのであれば、宇宙を探究することは、精神を探究することなのかもしれない。

ニューロンと銀河のアナロジー。意識と宇宙のフラクタル。

今作品は、宇宙の最果てブラックホールへの旅であり、精神の最深部を探究するライブ・エクスパンデッド・シネマである。

8年の時を経て進化したヴィジュアル装置と最上級の音響設備がインストールされたZEROTOKYOに、ワールドプレミアとして、一夜限りの総合芸術が出現する。

- C.O.L.O(COSMIC LAB)

interview with Tei Tei & Arow - ele-king

 いわゆるコロナ禍が一旦の終わりを迎えた2023年以降、ここ日本においてもナイト・ライフは復活を果たし、東京という手狭な都市には平日・休日を問わず多種多様なパーティが溢れかえっている。ただし、その姿形は2019年以前のものとは一変したようだ。

 2020年──世界中のクラブ、ライヴ・ハウスが閉鎖され、ほとんどの人が自室に縛り付けられていた、パンデミックの時代。しかし、そんな苦況でもアンダーグラウンドの水面下では新たな動きが同時多発的に発生していた。それこそがいま、2020年代の新たなクラブ・シーンを形成した発端であり、抑圧されたユースの底知れないフラストレーションと真っ直ぐな音楽愛を熱源に燃え盛っている「クラブ・オルタナティヴ」ともいえるムーヴメントなのだ。

 ラッパーが、DJが、バンドが、ひとつの空間上で交差し連帯する。シーン、ジャンル、界隈、リアル、フェイク、そんなしがらみはどうでもいい。とにかく、見たこともない景色と聴いたことのない音楽を浴びよう、場所がなければ作ろう、場所が失われることを食い止めよう。そうやって自然なクロスオーバーが各所で発生していった。そんな流れも2024年のいま、さらなる変容を遂げつつある気配がする。

 吹けば飛びそうな小さな火種をアンダーグラウンドで守り続けた立役者は枚挙に暇がないが、今回はコロナ前夜にコレクティヴ〈XPEED〉を立ち上げ、現在は(こちらもコロナ禍に誕生した)新宿のクラブ・SPACEでスタッフを務めるDJ/オーガナイザーのAROW亜浪(CCCOLECTIVE)と、中国から日本に移り快活にサイケデリック・ワールドを探検するTEI TEI(電気菩薩)の2名を証言者として迎え、コロナ禍のこと、それ以前のこと、そして未来についてざっくばらんに語った。聞き手はNordOst名義で2021年にDJとしてのキャリアをスタートしたパンデミック世代の音楽ライター・松島です。

どんどん自分でヤバいパーティ作ってみよっかな~って! 見たことないパーティ作りたいよ。(TEI TEI)

改めて振り返ると、TEI TEIちゃんは2021年のシークレット・パーティ「愛のテクノギャルズ」でデビューしてから大活躍ですね。

TEI TEI:2021年の6月ね!

TEI TEIちゃんが主催してるパーティ〈電気菩薩〉をはじめたのはいつのこと?

TEI TEI:2022年の終わりごろぐらい。だからいま1年ぐらいやってきた感じになるかな。

亜浪:1年しか経ってないんだ! スピード感ヤバいね。

サイケデリック・トランスから入って、いまはミニマル・テクノ的なアプローチになってるのもTEI TEIちゃんの面白いところで。

TEI TEI:でも、サイケから入って別の感じになっていったDJって多いと思うよ?

亜浪:その印象はあるかも。〈Liquid Drop Groove〉っていうレーベルをやってるYUTAさんのDJが好きなんだけど、インタヴューを読んでると「最初はトランスから入って、そのあとヒプノティック・テクノやミニマルに移ってった」って話をしてたし。

なるほど、そうなんだ。「サイケデリック」って冠してないジャンルにサイケ感を見出して、そっちに行くようになるってことなのかな? よりトリッピーな音を求めて。

亜浪:ちょっと大人になって……みたいなね。

2020年から今年で4年目になって、3年以上経ってるわけで。そうすると自然とみんな大人になってくだろうし、趣味も変わるしね。亜浪も、いまもう一度2020年11月に主催したシークレット・レイヴ〈PURE2000〉をやるのは難しいでしょ、初期衝動的なヴァイヴスのままだと(笑)。

亜浪:そうだね、絶対無理(笑)。

やっぱりあのレイヴに自分はすごく影響されて、DJやってみようかなと思ったきっかけでもあったし。TEI TEIちゃんはその頃からもう日本にはいたんだっけ?

TEI TEI:私、けっこう日本に来てから長いよ。もう8年ぐらいかな。最初は全然音楽のことわからなくて、「愛のテクノギャルズ」に出る前もそんな感じで。ageHaのサイケのパーティとか、富士山の麓のレイヴとかでなにも知らないけど遊んでて、誘われたからDJやってみたの。もう、本当に運命だと思う、私と音楽って(笑)。

ジャンル問わず、アンダーグラウンドと呼ばれるシーンで連帯が生まれやすかったのがコロナ禍だったよね。バンドとかラップのフィールドで活動してる人もそうだし、同じようなことがダンス・ミュージックの場でも起きていたなっていう。(亜浪)

コロナ禍で生まれた新しいクラブの動きを「ハイパー」みたいな言葉で総括することもあるけど、TEI TEIちゃんと電気菩薩はそういうシーンとは近くて遠い、よりアンダーグラウンドな場所にいたってことなのかな。僕らはあの時期、限られた遊び場を求めて自然と合流していった、というか。パンデミックがなければ、いまこうして3人で座談会をするなんて機会もなかったと思うし。具体的には2020年から2022年ぐらいまでかなと思う、シーンに点在してた人が一箇所に集まってた時期っていうのは。

亜浪:ジャンル問わず、アンダーグラウンドと呼ばれるシーンで連帯が生まれやすかったのがコロナ禍だったよね。それはライヴ・ミュージック、つまりバンドとかラップのフィールドで活動してる人もそうだし、同じようなことがダンス・ミュージックの場でも起きていたなっていう印象が強いかな。

いまはもうみんな、古巣とか実家みたいなところに戻っちゃった印象もあるけどね。

亜浪:でも、一度できたつながりが完全に消えるっていうのは、やっぱありえないからさ。たとえばシーンは全然違うけど、バンドのAge FactoryとラッパーのJUBEEがAFJBってバンドをはじめたりとか。あれはコロナがなかったら実現されなかった動きだと思うし、そのタイミングでメンバーもDJやビートメイクをはじめたりしてて。ああいうタイプのバンドがここまでミクスチャー的に動いていく、っていうのはほぼなかったんじゃないかな? もちろん、その背景にはオカモトレイジ君の〈YAGI〉みたいなパーティが入口の役割を果たしてくれてる、っていうのもあるだろうけど。

コロナ禍の時期ってとにかく表現の場が失われてみんな追い込まれてたから、既存のこだわりとか固定観念を超えた違う手段を見つける必要もあったしね。遊びに行く側も音の出る場所がなくて飢えてたところがあるし。亜浪が最初に〈XPEED〉を立ち上げたのは2019年ぐらい?

亜浪:うん、19年の10月ぐらい、コロナ前夜だね。幡ヶ谷のForestlimitからはじまって。

幡ヶ谷Forestlimit、中野heavysick zeroとかの、ライヴ・ハウス性も持ったクラブではじまったんだよね。

亜浪:そうだね、でも次第にクラブのなかだけでやるのも違うな、って思って野外でやったのが2020年の〈PURE2000〉だった。

〈PURE2000〉は、その前に同じ川崎のちどり公園でやってた〈SLICK〉の初回で体験したことに感化されて開いたレイヴだったんだよね。

亜浪:そう、〈SLICK〉の初回にめっちゃ感動して、「これを俺らでもやりたい!」って気持ちだけで動いてた(笑)。〈SLICK〉の7eさんたちに「どうやってここを借りたんですか?」とか、ゼロから質問させてもらったりして。本当に初期衝動的な感じ。

だからこそ今年の5月に電気菩薩が川崎・ちどり公園でレイヴをやるっていうのは結構感慨深いものがあって……(笑)。

亜浪:たしかにね!

TEI TEI:ありがと(笑)。そろそろDJのブッキングもしようと思ってる。やるのは24時間!

24時間やり続けるんだ!(笑)。

TEI TEI:フロアは2個ね。海側のエリアは使えないみたいなんだけど、見るだけの休憩スペースみたいにしようかな。まだ細かいことは決まってない、これからね。


2月、club asiaでおこなわれた〈電気菩薩〉のパーティ。提供:電気菩薩


2023年ごろからはベッドルームでDJソフトを触ってた子たちが集まる場としてのクラブ、っていう小さなパーティが急増した印象があって。「クラブの文脈を知らずに、フレッシュな感じでクラブを使って遊んでる」みたいなね。(亜浪)


電気菩薩のメンバーってどうやって増えていったの? TEI TEIちゃんのほかにインドネシアから来たDIV☆ちゃんと日本人のzoe、ハイテックやダーク・サイケのDJをやってるMt.Chori君、あとはダウンテンポで渋めのプレイをするOwen君(Beenie Pimp)と、パーマネントなDJは5人ぐらいだけど。

TEI TEI:メンバーは……じつは私、めちゃくちゃ適当な人だから、最初は友だちの感じで誘ってた(笑)。DIV☆ちゃんとは最初そんなに喋ってなかったけど、私のパーティに毎回来てくれてたから。zoeちゃんは私のすっごい仲いい友だちで、Chori君とはめちゃ会うんだけど、実はいまでもそんなに喋ったことなくて。Owenは私が派手なルックの子が好きだから誘ったの!(笑)

Owen君はドレッドで不良っぽいスタイルだけど選曲のセンスとかが激渋で、そういうギャップも込みでカッコいいよね。一周して、「派手さ」よりも「渋さ」をカッコいいと考えてそうな人もクラブには増えてきてる気がする。

亜浪:たしかに。新しいものは一旦拡がるところまで拡がったかな、って感じもあるし。ハイパーポップを飲み込んだ新しい音楽の流れにはまだ新しい余地はあるんだけど、もうすぐ天井が見えそうな雰囲気っていうかね。

トラップやドリル以降、日本語ラップのシーンがものすごく大きくなったのとかも関係してそうだよね。草の根的なクラブ文化と交わらなくても独立して存在できちゃうから。

亜浪:あと、コロナが明けたと言われてからすごく感じたのが、クラブの健全なイメージがさらに色濃くなったな、ってこと。自分がちゃんと東京のシーンを観測できてるのはここ7、8年ぐらいのことだけど、最初ヘルシーな感じで遊びに行けてたのが〈CYK〉のパーティとか〈YAGI〉とかで、そのあたりが入口として機能してた印象。行ってなかったけど〈TREKKIE TRAX〉とかもそういう感じだったんじゃないかなと思う。で、2023年ごろからはベッドルームでDJソフトを触ってた子たちが集まる場としてのクラブ、っていう小さなパーティが急増した印象があって。「クラブの文脈を知らずに、フレッシュな感じでクラブを使って遊んでる」みたいなね。これはこれでめちゃくちゃ面白い状況だな、とも思うけど。

一回コロナでそれまで続いてた流れが断絶したから、また新しい文脈がゼロからでき上がりはじめてるってことだよね、いまは。

亜浪:〈みんなのきもち〉とかにもそういう感じがあるかも。

彼らには独特のテック美学みたいなものがあって、先にブレインダンス的な快楽性があってから身体性にアプローチしてくような感じが強いからね。

亜浪:歴史のなかで見ていくと、縦の流れから生まれたというよりは横のつながりから自然発生的に生まれたような動きだよね。

ある種のデジタルな価値観って、いまのメインストリームな感覚になってってる気がする。だから逆にそうじゃないものを求めて、よりアンダーグラウンドで渋い感覚のあるところに向かっていくような動きもカウンター的に生まれてるのかな?

亜浪:まあ、パンデミックを経て明らかに絶対数も増えたからね。海外の人がまた入ってこられるようになってからは本当に爆発的な増え方をして、無数のパーティが毎週、毎日いろんな場所で開かれるようになったし。(コロナ期の)パーティへの飢餓感みたいなものは薄れたような気がするけどさ。


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CCCOLECTIVE #7 AROW open to lastにおけるアニメーション作家/イラストレイターのZECINによるライヴ・ペインティング。提供:CCCOLECTIVE


私たちを支えてくれたのは、もちろん日本のみなさんもそうだけど、やっぱ中国の子たち。小紅書(RED)っていう中国のインスタグラムみたいなアプリにめちゃ載せてたら、中国には電気菩薩みたいなレベルのテクノ~トランスのパーティが全然ないみたいで、文化服装学院とか東京モード学園に来てる留学生がめっちゃ多くて。(TEI TEI)

コロナ禍を経てTEI TEIちゃんとか僕とか、フレッシュな感じでクラブに面白さを見出していろいろとやってたら知らない間にDJになってたようなタイプも結構いるしね。まだ初心者マークが付いてるつもりだったけど、そうじゃなくなったのかも。単純にこの3人とも出演機会が増えたし。

TEI TEI:でも私、そんなにやってないよ。去年は66本ぐらい?

亜浪:いや、それも多い部類に入るんじゃない(笑)。

TEI TEIちゃんはとくに、一回一回がすごく大規模だったりしそうだし。

TEI TEI:野外とか多いし、そうかも。

亜浪:1回の出演で2、3日とか拘束されるわけだし、自分の持ち時間とかも多いだろうしね。

持ち時間でいうと、やっぱり東京のクラブの場合、文脈と一度切り離されたからこそショート・レングスのセット、40分以下みたいなスタイルが増えたっていうのはありそう。

亜浪:その辺の動きをSPACEのスタッフとして見てて思うのが、短いスパンでタイムテーブルを詰め込んでいくようなスタイルには課題もあるなってことで。もともとは箱ないしオーガナイザーからブッキングされて、フロアにいる人たちを楽しませて、お酒が出る雰囲気を作るような「職業としてのDJ像」があったと思うんだけど、ショート・レングスなパーティだとそこの部分が欠けてることもあるじゃん、ホームパーティ的なものの延長にあるコミュニティ的な動き方というか。コミュニティが大きくなるにつれて、それなりにしっかりした規模感のヴェニューでも通用するようになっていくと思うんだけど、そういうアプローチが通用する場っていうのはやっぱり限られるから、中の人たちのライフステージが変わっていくなかでプレイヤーの人口もまたグッと落ち込むんじゃないかな、って危惧してる。

結局のところ、現状遊びに来てくれてる人たちが飽きてしまったら終わる動きではあるし、それはたしかに課題かもね。

亜浪:もちろん否定するわけじゃないんだけど、それで経営的に成り立っているヴェニューもいまは少なくないわけで、縦の歴史的な結びつきが希薄だといつか破綻しちゃうんじゃないか、っていうのが心配。だから、さっき言ってた「渋い」じゃないけど、職人的な感じの強度にもフォーカスしていって、どちらも横断できる感性を育める土壌が作れたらクラブの経済圏と一緒に発展していけるんじゃないかな、って思うんだけど。

自分がまさに、最初期は過去育まれてきた文脈に一切目を向けないような感じだったからわかるなあ……いまは考え方を変えて、料理人とか職人みたいな気持ちでDJに臨むようになったけど。

亜浪:たとえばVENTなんかわかりやすいけど、あそこには下手なことができない空気感があるじゃん、出る側もやる側もテクノやダンスフロアの美学を尊重してるっていうか。撮影禁止だったり、一応ドレスコードがあることもあったり、と。雰囲気へのフィット感って、やっぱプレイヤー側はある程度意識すべき要素だよね。

最初はしがらみにしか感じられなかったんだけど、1~2年ぐらい経ってやっとTPO的なものがいかに大事か気づいた、遅すぎたけど。遊びに行く側としても、やっぱりそういうこだわりとか美学みたいなものが強く伝わる場所にいたいなって思うし。電気菩薩はそこのこだわりがすごく強そう。

TEI TEI:最初は西麻布のTrafficぐらいの規模でやってて、けどもうひとつ違う道を歩きたいな、って思ってclub asiaやWOMBを貸してもらったりして。私たちを支えてくれたのは、もちろん日本のみなさんもそうだけど、やっぱ中国の子たち。小紅書(RED)っていう中国のインスタグラムみたいなアプリにめちゃ載せてたら、中国には電気菩薩みたいなレベルのテクノ~トランスのパーティが全然ないみたいで、文化服装学院とか東京モード学園に来てる留学生がめっちゃ多くて。その子たちの友だちもいまは旅行でめっちゃ日本に来てるから一緒に遊びに来てくれるし、メッセージもめっちゃ来るの、「最近おすすめのパーティはある?」って。小紅書の私のフォロワーはそんなに多くないんだけど、中国のクラバーの子たちはみんな電気菩薩を知ってくれてたの。先週上海のPLAYGROUNDってクラブが私を呼んでくれたりもしたし、アジアではフレッシュなものとして見られてるのかなあ。

つまり、中国ではいま、まさにコロナ禍真っ只中の東京みたいな感じでみんな音に飢えてるような感じなのかな。熱気がすごそう!

TEI TEI:中国、実際いま電子音楽みたいなものがすごく流行ってると思う。ちょっと遅いけど、波が来てる感じ。中国で有名な『NYLON CHINA』って雑誌も、私たちのことをインタヴューしてくれたし。こういうことをやっている人は、まだ中国にはいないみたい。

亜浪:日本のDJも中国、台湾あたりにガンガン行ってるし、そういうアジアとの繋がりも今後強まっていけばいいね。

もしかするとこれから、2年半前のTEI TEIちゃんみたいに電気菩薩とかのパーティに感化されて、新しくDJになったり、音楽を作ったりする人もどんどん増えそうかなと。ただ楽しく遊んでただけなのに、そうやって道ができていくっていうのは嬉しいことだし、希望ですね。

亜浪:そういう動きはいろんなところで起き続けてそう。音楽に限らず、東京って狭くて広い街だから。クラブ・シーンってひとくくりにするにはあまりに広大すぎるし。

そのなかでも、よりアンダーグラウンドで音楽とクラブを本当に好きな人が集まってる場にやっぱり惹かれるよね。コロナ禍の異様な熱量ってやっぱり、現場への飢餓感があったからだと思うし、逆にいまは飽食の時代というか。これだけパーティが増えたのは素晴らしいことだけど、その分いろいろな場所を足で探さなくても自分にフィットする環境がすぐ見つかっちゃうから、広すぎるシーンの一角しか捉えられなくなっていくのかな、とか懸念があって。

亜浪:飽食の時代か(笑)。そういえば、自分の周りのクラバーは今年カウントダウン・イベントとかにも全然行かず思い思いに過ごしてたし、ある程度遊んできた我々世代はもうお腹いっぱいって感じなのかもね。

今年を堺に次のタームに突入しそうだよね。好きなものに飽きてきたら自然と自分で作ったり、別の場所を探したりするようになると思うし、ここ数年のトレンドが肌に合わなかった人は流れを変えたいと思ってるはずだし。

TEI TEI:私も、ちょっと飽きてきた(笑)。でも飽きたから、どんどん自分でヤバいパーティ作ってみよっかな~って! 見たことないパーティ作りたいよ。

そういえば、亜浪は新宿のSPACEで働いてどれぐらい経つんだっけ? 2021年のオープンから今年で3周年になるけど、新宿二丁目エリアに近くて繁華街と少し距離がある立地の感じとか、流れる音楽の多様性とか、ポップなデイ・パーティとディープなナイトタイムが共存してる感じとか、個人的には幡ヶ谷のforestlimitの次ぐらい好きな場所になりつつあるんだけど、そんなクラブでスタッフとして過ごしてみてどうだったかな。

亜浪:もうちょいで1年かな。感想か……疲れた!(笑)。単純に夜勤って体力的な消耗がヤバくて、遊びに行く感じとはまた違う話でさ。もちろんやりがいはあるけどね。あと、パーティを観るときの視点が良くも悪くも変わったかな。裏方の人の表情とかを観てその日がどういう雰囲気かを察せるようになったり、パーティの構成要素を隅から隅までチェックするようになったり。いままではタイムテーブルとかフライヤーの質感とかがパーティを構成する主要素だと思ってたけど、PAのオペレーションや箱の導線とか、いろんな物事が複雑に混ざりあってムードができてるんだな、ってことも知れた。

オーガナイザーがこだわってる部分が人それぞれで異なるからこそ、同じクラブでも日によってまったく違う景色が広がってるっていうのはあるかも。もちろん統一感がある場も最高だけど、同じ空間でおこなわれる表現で空気が一新されるような場所ってやっぱ好きだな。電気菩薩はその点、世界観づくりにすごくこだわってる印象なんだけど、どうでしょう。

TEI TEI:電気菩薩は、もう本当に出てくれる人が自由にやりたいことをやってほしい感じ。私、すごく適当な人だよ(笑)。毎回いい空間ができてることにすごいびっくりしてるぐらいだし。前回はSMパフォーマンスのお姉さんが出てくれて、私はどんなパフォーマンスなのかあんまり知らなかったんだけど、ロウソクを垂らしたりとかしてて(笑)。でもなんか、それも電気菩薩っぽかった。不思議!


2月、club asiaでおこなわれた〈電気菩薩〉でのダンス・パフォーマンス。提供:電気菩薩

電気菩薩は、もう本当に出てくれる人が自由にやりたいことをやってほしい感じ。前回はSMパフォーマンスのお姉さんが出てくれて、ロウソクを垂らしたりとかしてて(笑)。(TEI TEI)


電気菩薩に誘われた人たちが、無意識的にその空間に寄り添うようなパフォーマンスを寄せるでもなく自然体でやってくれてる、ってことなのかな。それってすごく理想的なパーティでカッコいい……。

TEI TEI:ね(笑)。いい空間が毎回ちゃんとできあがってくれて、ほんとにすごいなって思う。最初のころから出てくれてる友だちとかも、どんどんいい感じになってくれてるし。すっごい嬉しい!

パンデミックが一応終息して思ったのが、配信イベントとかの時期を経てVJや映像みたいなヴィジュアル面での表現とか、音以外のクラブを構成する要素の地位が上がったかもな、ってことで。アーティストと音が絶対的、みたいな力関係が崩れたような気がするんだよね。

亜浪:それは良いことだったかもね。フライヤーデザインだったり、会場のポップアップとか展示だったり、いままでサブ扱いされてた要素とその作り手も出演者だよ、ってパーティは少しずつ増えてってるような気がする。というか、そもそもDJも裏方であって、空間それ自体をみんなで作り込んでく、っていうのがクラブ像として昔からあったわけだし、若い世代のシーンも徐々に然るべき形に洗練されてってるのかな、とも。

尊重されるべきはフロアそのもの、というかね。自分含め、ライヴがなくなったからクラブに行きはじめたって感じのお客さんが多かった時期は、やっぱりDJもライヴ・アクトのような感じで観に行く人が多かったと思うんだけど、それだけじゃないっていうのは多くのユースが理解しはじめたのかな。

亜浪:いま(2023–2024)の感じがクラブ原体験になってる人たちが長く遊び続けてくれるかどうかの分かれ目って、自分の好きな物事以外の領域に、いかに興味を持ってもらえるかってことだなと思ってて。私がSPACEで毎月の最終水曜にやってる〈CCCOLECTIVE〉のブッキングは、とにかく人を見て決めてるところがあるんだよね。「この人とこの人がいたらこういうお客さんが楽しんでくれそうだな」っていうのをなんとなく予想して、そこと交わってないけど相性が良さそうなアーティストたちを違うフィールドからそれぞれ呼んでみて、出演者にもお客さんにも刺激を与えられたらいいな、って感じで。ただオルタナティヴな場所を目指すんじゃなくて、未来に繋がっていくようなパーティにしたい。


CCCOLECTIVE #7 AROW open to lastにおける空間演出。提供:CCCOLECTIVE

ただオルタナティヴな場所を目指すんじゃなくて、未来に繋がっていくようなパーティにしたい。(亜浪)


本当の意味でハブになるような場所を作ってくれてるわけなんだ。

亜浪:うん、交わってなさそうで交わってなかったところを繋いでいきたい。

いま各シーンで起きてることは、距離こそ近くても足がかりがないから今後ますます離れ小島みたいな感じになっていくんじゃないかな、ってちょっと心配してて。だから、そこに橋を架けてコミュニティ同士に連帯が生まれていけばいいな、と願うばかりです。音楽が好きで、クラブが好きなのはたぶんみんな同じだし、別に現場的な物事が好きじゃなくても、「ちょっといいかも」って思ってもらえたらいつかは合流できるはずだよね。

 

プロフィール

AROW 亜浪(CCCOLECTIVE)

DJ/オーガナイザー。新宿SPACEスタッフ。旧名Ken Truth時代にはSUPER SHANGHAI BAND、Usのフロントマンとして活動し、ロックとクラブ/レイヴ・カルチャーを横断するコレクティヴ〈XPEED〉を2019年に立ち上げ、2020年代の新たなオルタナティヴを創り上げた。2021年に改名し、現在はDJを主としたパフォーマンスを展開する。
2022年末に始動した〈CCCOLLECTIVE〉は、有機的な繋がりを持ったオープンな共同体を通じ、参加者に精神の自由をもたらすことを目標として掲げている、自由参加型のクリエイティヴ・プラットフォーム。これまで『Orgs』と題したパーティを昨年12月に下北沢SPREAD、今年4月には代官山SALOONにて開催。また、2023年8月からは毎月最終水曜日の深夜に新宿SPACEにて同名を冠したパーティを定期開催中。シーンを牽引するアーティストらを招き、実験と邂逅の場の構築を試みている。
https://www.instagram.com/917arow/
https://www.instagram.com/cccollective22/

TEI TEI(電気菩薩)

中国・北京より日本・東京にやってきたヒプノティック・サイケ・ギャルDJ。サイケデリクス表現を通過し、現在はテクノを主とした先鋭的でディープな音楽をジャンルレスにプレイ。母国文化や仏教的な美学など、汎アジア的な感覚をカオティックに表現するパーティ〈電気菩薩〉主宰。Re:birth、Brightness、EN Festival、ZIPANG Festival、和刻など全国各地の大規模野外レイヴに出演する傍ら、日々首都圏のディープなクラブ・シーンに硬質な華を咲かせている。
https://www.instagram.com/teitei08056/
https://www.instagram.com/denki.bodhisattva/

ドキュメンタリーに伝記映画、ライヴ映画など、近年ますます秀作が公開されている音楽映画を一挙紹介!

3月公開の『モンタレー・ポップ』とフェス映画の系譜

インタヴュー
ピーター・バラカン──音楽映画祭を語る
大石規湖(映画監督)

『ムーンエイジ・デイドリーム』『ストップ・メイキング・センス』などのロックの映画を中心に、『サマー・オブ・ソウル』や『白い暴動』、『自由と壁とヒップホップ』といった社会派音楽ドキュメンタリーまで、近年盛り上がりを見せる音楽映画の秀作・傑作を大紹介!

目次

巻頭特集 『モンタレー・ポップ』
Review ポップ・カルチャー史のエポックとなった伝説のフェス──『モンタレー・ポップ』 柴崎祐二
Column フェス映画の系譜 柴崎祐二

Interview
ピーター・バラカン さまざまな場所、さまざまな音楽──音楽映画祭をめぐって
大石規湖 「そこで鳴っている音にいかに敏感に反応できるか」

Review
マニアも驚かせた大作ドキュメンタリー──ザ・ビートルズGet Back』とビートルズ・ドキュメンタリー映画 森本在臣
断片の集成から浮かび上がる姿──『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・ デイドリーム』とデヴィッド・ボウイ映画 森直人
説明の難しい音楽家──『ZAPPA』 てらさわホーク
微笑ましくも豊かな音楽とコント──『フランク・ザッパの200モーテルズ』 てらさわホーク
伝記映画の系譜──『エルヴィス』ほか 長谷川町蔵
トム・ヒドルトンが演じるカントリーのレジェンド──『アイ・ソー・ザ・ライト』 三田格
ザ・バンドを語る視線──『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』 柴崎祐二
今こそ見直したい反時代性──『クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル トラヴェリン・バンド』 柴崎祐二
ヴェルヴェッツを取り巻くNYアート・シーン──『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』『ソングス・フォー・ドレラ』 上條葉月
1984年と2020年のデヴィッド・バーン──『ストップ・メイキング・センス』『アメリカン・ユートピア』 佐々木敦
メイル兄弟とエドガー・ライトの箱庭世界──『スパークス・ブラザーズ』 森直人
パンクが生んだ自由な女たち──『ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード』 上條葉月
セックス・ドラッグ・ロックンロールに明け暮れた栄枯盛衰──『クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』 杉田元一
アウトロー・スカムファック(あるいは)血みどろの聖者に関する記録『全身ハードコア GGアリン』+『ジ・アリンズ 愛すべき最高の家族』 ヒロシニコフ
改めて注目を集めるカルト・クラシック──『バビロン』野中モモ
甦る美しき革命の記録──『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』 シブヤメグミ
帝王の孤独──『ジェームス・ブラウン ~最高の魂(ソウル)を持つ男~』三田格
総合芸術としてのヒップホップ──『STYLE WARS』 吉田大
壁の向こうの声に耳を傾ける──『自由と壁とヒップホップ』 吉田大
ショーターの黒魔術に迫る──『ウェイン・ショーター:無重力の世界』 長谷川町蔵
ジョン・ゾーンのイメージを刷新する──『ZORN』 細田成嗣
ルーツ・ミュージックのゴタ混ぜ──『アメリカン・エピック』 後藤護
シンセ好きの夢の空間──『ショック・ドゥ・フューチャー』森本在臣
フィジカル文化のゆくえ──『アザー・ミュージック』 児玉美月
愛のゆくえ──『マエストロ:その音楽と愛と』杉田元一
徹底した音へのこだわりによるライヴ映画──『Ryuichi Sakamoto: CODA』『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK : async』 杉田元一
失われた音楽が甦る瞬間──『ブリング・ミンヨー・バック!』 森本在臣
スペース・イズ・ザ・プレイス —— 渋サ(ワ)知らズと土星人サン・ラーが出逢う「場」──『NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇』 後藤護
生きよ堕ちよ──『THE FOOLS 愚か者たちの歌』森直人
コロナ禍におけるバンドと生活──『ドキュメント サニーデイ・サービス』 安田理央
天才の神話を解いて語り継ぐ──『阿部薫がいた-documentary of kaoru abe-』 細田成嗣
坂道系映画2選──『悲しみの忘れ方 documentary of 乃木坂46』』『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』 三田格
勢いにひたすら身を任せる──『バカ共相手のボランティアさ』 森本在臣

Column
政治はどこにあるのか 須川宗純
ポリスとこそ泥とスピリチュアリティ──レゲエ映画へのイントロダクション 荏開津広
映画監督による音楽ドキュメンタリー 柴崎祐二
歌とダンスの(逆回し)インド映画史 須川宗純

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お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『ele-king cine series 音楽映画ガイド』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

表紙
誤 大石紀湖
正 大石規湖

P/A/D/O MASSACRE - ele-king

 オンライン上でもオフライン上でも陰惨な出来事ばかりが否応なしに目に入り込む日々が続く2020年代、僕はせめてもの救いを求めて毎週のようにクラブの扉に手をかけるようになった。
 パンデミック期──具体的には感染者が日本で最初に確認された2020年1月16日から2023年5月8日(偶然にも自分の誕生日だった)まで──に、どうやって「密かに営業していた場所」を発見したかについてはまた別の機会にいつか記すとして、僕はこの時期に人生そのものがグリッチする不思議な体験を通過し、いまはDJとライターの二足のわらじを履くワーキング・プアとして生活を続けている。
 といっても、別にそんなことは特別な話でもなんでもなく、この世界で暮らすあらゆる人がウイルスの流行を機に自身の生活や価値観を見直さざるを得なかったのがここ数年のこと。音楽とはすなわち人の血の通った、生きることと密に結びついている営みだから、シーンを取り巻く環境や価値観、それらを包括する景色も社会不安とともに一変したのが「アーリー・2020s」の混乱期だったのではないかなと思う。

 もちろん、そのなかで出会った物事のすべてが絶望的だったわけではなく、パンドラの箱の底に希望が残されていたように、鬱屈とした日々を支えてくれる出来事や人びとに何度も邂逅した。僕は希望を、幡ヶ谷の〈FORESTLIMIT〉(フォレストリミット)というクラブと、そこで毎週水曜日に開かれる〈K/A/T/O MASSACRE〉(カトーマサカー)というデイ・パーティで見つけた。2010年にディープで暖かみのある実験的なサウンドが鳴らされる場として立ち上げられたこの小箱は、インディペンデントな美学とともに粛々と営業を重ねながらつねに進化を続ける稀有な空間だ。風営法にまつわる事情でナイトライフが窮地に立たされれば深夜営業をいち早く取りやめ、コロナ禍で追い詰められれば配信スタジオにその姿を切り替え、音楽と人の営みを信じ抜き、どうにか今日も存続し続けている。

 〈K/A/T/O MASSACRE〉は、そんなフォレストリミットで2014年ごろからほぼ毎週水曜欠かさず開催されているウィークリー・パーティ。今年で10周年を迎え、その開催総数は460回超。ジャンルやシーン、国境をも問わず毎週まったく違った景色を見せてくれる、東京のアンダーグラウンドなクラブ・シーンを活性化し続ける催しだ。このパーティでは、その日デビューを飾る新人とシーンの中枢を担うアーティストがひとりの音楽を愛する人間として並列に交わり、階層のないフラットなフロアがつねに提供され続けている。今回はそんな〈K/A/T/O MASSACRE〉とアナキズムを掲げるポスト・パンク・バンド PADO のコラボレーション企画について記録していく。

 〈P/A/D/O MASSACRE〉と題された本回を主導した PADO は、ロシアン・ドゥーマー・ミュージックやポスト・パンク、ノー・ウェイヴなどの影響下にあるスリーピース・バンド。現在制作中のファースト・アルバムは「資本主義に対する無気力な抵抗」をテーマとしており、鬱屈とした社会へ明確なアゲインストを掲げている。PADOは本回を開催するにあたって掲げたステートメントのなかで、

アナキズムとは詰まるところ、「隣人が私の家の柵を修理してくれている時、隣人のためにカレーを作り、隣人がカレーを作ってくれた時は、隣人の子に本を与え物語を読み聞かせる」ことである。

 と宣言している。人と人との間にあるはずの慈愛による相互扶助を信じてみようよ、というシンプルながら力強い発信で、その意志を実践すべく当日フォレストリミットでは現金だけでなく物々交換によるグッズの取引がおこなわれていた。

 もちろん、言うまでもなくクラブの運営やパーティの開催という営みは、それがどのような形であっても「資本主義の内側」でおこなわれる。本当の意味で(資本主義の)「外側」に達しうる音楽の営みは、フリー・エントランスもしくはドネーションを頼りに無許可でおこなわれるスクワット・レイヴぐらいだろう。それでも、どうにかして資本主義という壁の外側を目指すことはできないのか? という挑戦的な意志が明確に示されていて、僕はその姿勢に賛同を示す意味でも手元のドリンク・チケットを物販のライターと交換してみたりした。エントランスの横にはフリー・物々交換ブースもあり、こちらには最初何冊かの本やアクセサリーが置かれていたが、終わりごろには数枚のレコードなどに変わっていた。それは美しい移ろいだと思う。

 今回の出演者は PADO のほか、ライヴに東京で血の匂いとともに独立独歩の活動を続けるハードコア・パンク・バンド moreru を迎え、DJにはコレクティヴ〈XPEED〉のファウンダーを努め、コロナ禍のユース・レイヴ〈PURE2000〉を手掛けるなど2020年代シーンの潮流をいち早く形成した AROW(亜浪)、インドア・クィア・レイヴ〈Ximaira〉や脱構築ネオ・ゴスパーティー〈魑魅魍魎〉などを主催する deadfish eyes、クィアネスに連帯するレイヴ〈SLICK〉を運営する Mari Sakurai、「Trance cult gov-corp」を自称するレイヴ・クルー〈みんなのきもち〉が出演した。「レイヴ」「自主性」「孤立」などのエッセンスを共通項として集った面々の多くはフォレストリミットとも縁深い存在であり、幡ヶ谷の地下室に自然と集まるうちに気づけば自身がDJブースに立っていたという出自を持つ、パンデミック世代の表現者たち。明確な意思表示はなくとも、現状への異をそれぞれが唱えているようなラインナップが集う、記録的な日となった。

 オープンを飾ったのは deadfish eyes の90分セット。BPMこそハイだがつねにダウナーでゴシックな空気感が漂っており、本回への強い想いを感じさせるアクトだった。鬱屈とした怒り、美学、信念がロング・セットのなかに凝縮されたような。
 続く AROW はハイピッチなBPMを引き継ぎつつ、徐々に自身のメイン・フィールドであるダブ・テクノ~ベース・ミュージックへとフロアを引きずりこんでいく。各アクトがコロナ禍以降のユース層からたしかな支持を得ていることもあり、前衛的で粘り気の強いサウンドとダークな雰囲気に反し次から次へと人が押し寄せてくる。

 60分後、moreru のアクトに切り替わったタイミングでは会場のドアが閉まらなくなるほどギャラリーで溢れ返り、もはやライヴを鑑賞するというより熱気の渦に飲まれるしかない状況に達していた(2010年代の中頃、高円寺スタジオドムに200名以上が集っていた GEZAN 主宰のイベント〈セミファイナルジャンキー〉の匂いを思い出すような)。平日のデイタイムにここまでの熱狂が自然と生まれる、という意味でもやはりマサカーは特別な場所だと改めて感じた。
 moreru の出番が終わり、カオティックな熱狂を引き継ぐのは、アンダーグラウンドに軸足を置きつつオーヴァーグラウンドな領域にもその手腕で自由に行き来するDJ・Mari Sakurai。テクノを軸にさまざまなジャンルを横断してきた東京のクラブ・シーンを彩る才人であるが、とくに2020年代以降始動した〈SLICK〉などを入口にユースからの厚い支持も集めている。根底にパンキッシュなマインドを持つ氏はテクノを主軸にゲットーの香りが漂う危険なエレクトロなどを織り交ぜ、一旦人の引いたフロアのムードを巧みに再構築していき PADO のライヴへとバトンを渡す。

 主役である PADO のライヴは硬質なサウンドに怒りや悲哀を忍ばせつつ、あくまでも粛々と演奏を続けることに徹していたことが印象的だった。エンタメ的な仰々しさ、演じることをあえて廃し、それでもなお立ち現れる情感を表現しているように。そもそもドゥーマー・ミュージックとはインターネット・ミームから生まれた概念で、そこにはDOOM=破滅、死、悲運といった抑鬱的なニュアンスが横たわっている。絶望感をもってして、それでも希望を伝えていくために必要なのは虚像ではなく、フロアや日常生活と地続きである、という実像をさらけ出すことなんだろうか。
 そして、ラストを飾ったのは〈みんなのきもち〉によるロング・セット。今回は複数の構成員のなかから、主導者・Ichiro Tanimoto と新鋭・Shu Tamiya の2名によるB2Bが4時間以上にわたって披露された。かつて、僕はさまざまな電子音楽を「トランス美学」的な解釈で届ける彼らにただひとつ欠けているものがあるとすれば、それはユートピアでもディストピアでもない「ただの現実」と向き合うための生々しさだろうな、と密かに思っていたけれど、ユースは加速度的に成長する。〈みんなのきもち〉という集団は、すでにヴァーチャルな世界観に収まりきる存在ではないことを、長尺のなかで自然と証明するような地に足のついたプレイだった。ストロボライトの眩い光のなか、トランシーな音像のテクノを主としたセレクトでフロアの身体性を呼び起こし、最後にはユーフォリック、あるいはエピックなトランス美学へと立ち返っていく。

 と、いう流れで音が止まったのは翌日木曜、午前4時過ぎごろのこと。音楽が止めば後は朝食でも摂りながら始発を待ったりするのが普通のことだろうけど、それでも残った数十人は決して帰ろうとしない。それこそが〈K/A/T/O MASSACRE〉、観客もアーティストも極限まで消耗し、あとに残るのはボロボロになりながらも音楽を笑顔で求める幸せなフロア・ゾンビたち。結局、僕を含めた数名のDJによってパーティは2回戦、3回戦とおこなわれていき、すべてが終わったのは朝7時半ごろだった。ラストこんな夜が人知れず平日にずっと繰り返されていて、数えきれないほど多くの人びとになにかを与え続けている。そして、なにかを与えられた我々も、次に訪れる人びとへバトンを渡し続ける。音楽は人の血が通った営みであり、それはどれだけ巨大であろうと、どれだけ微細であろうと同じなはず。そう信じていたい、という人は、ぜひ一度フォレストリミットへ足を運んでほしい。この場所こそが真にフラットなダンスフロアである、ということは、ドアを開けたらわかるはず。

downt - ele-king

 ポスト・パンデミックのライヴハウスから新しい風が吹いている。2021年結成、以後精力的にギグを重ね、リリースされるEPは次々と即完、徐々にその存在感を増しつつある東京の3ピース・バンド、downtがついにファースト・フル・アルバムを送り出す。題して『Underlight & Aftertime』、3月6日発売。今後新たなオルタナティヴ・ロックの道を切り拓いていくにちがいないかれら、その大いなる第一歩をしっかり頭に焼きつけておきたい。
 なお、昨年の紙エレ夏号には彼らのインタヴューを掲載しています。ぜひそちらもチェックをば。

downt 1stフルアルバム『Underlight & Aftertime』の発売が3/6に決定!
先行デジタル・シングルとして本日より「Whale」の配信もスタートいたしました。

オルタナ、エモ、インディーロック、もはやカテゴライズはいらない存在感でジャンルの境界線を風通しよく越えて拡がり続けるdownt。2024年遂に1stフルアルバムリリース決定! 精力的なライブ活動や海外アーティストとの共演を経て、大作『13月』で見せた新機軸をさらに深化・アップデートさせた、世界基準のバンド・サウンドが今ここに!

今新作には、終わりからの始まりを告げるような推進力を持った先行シングル曲「Whale」(ウェイル)、そして、儚さと揺るぎのない力を秘めたバンドとしてのあらたな新機軸と確かな予感を感じさせた8分を超える大作シングル『13月』に加え、その先に向かうバンドの新たなステージを見せつける新曲たち、さらに、処女作『downt』に収録の「111511」「mizu ni naru」「AM4:50」といった、ライヴでは既に定番となっている曲も新たに録音し収録。2023年を通じて行ってきた精力的なライヴ活動、そして数多くの海外アーティストとの共演を経て、シーンにおける存在感を急上昇させてきたdownt。バンド初となる待望のフルレングス・アルバムをもって、日本、そして世界の音楽シーンに殴り込みをかける!

2021年の結成以来東京のライブシーンを中心に活動し、一躍エモ、オルタナのライブハウスシーンにて注目を集める存在になったdownt。『SAKANA e.p.』のリリースやFUJI ROCK FESTIVAL ’22“ROOKIE A GO-GO”への出演、UKのレーベルDog Knightsからの編集盤レコード『Anthology』のワールドワイドでのリリース(即完売)等、その名を各所に響かせた2022年。そしてSYNCHRONICITYやMINAMI WHEELといった大型サーキットへの出演、ゲシュタルト乙女(台湾)、Grrrl Gang(Indonesia)、Pswingset(US)、deathcrash(UK)といった多くの海外アーティストとの共演、バンドとしての新機軸を見せた大作『13月』のリリースとその活動にさらに広がりを見せた2023年。年月と共に着実にステージを上げてきた彼らの待望となるフルアルバム『Underlight & Aftertime』が、ついに3月にリリース決定。

downt / Underlight & Aftertime
■1st Full Album:2024.03.06
Release 品番:PCD-25384 / 定価:¥2,750(税抜¥2,500)

[Track List]
01. underdrive
02. Whale
03. AM4:50
04. prank
05. Yda027
06. 煉獄ex
07. mizu ni naru
08. 8/31(Yda011)
09. 紆余
10. 111511
11. 13月

[LIVE INFO.]
〈ツアー〉
"downt Release Show"

03.22(金)東京・新代田LIVE HOUSE FEVER
03.30(土)名古屋・新栄シャングリラ
03.31(日)大阪・心斎橋LIVE HOUSE Pangea

〈フェス〉
SYNCRONICITY’24
4.13(土)& 4/14(日)渋谷(都市型フェス)
*downtの出演は4/13(土)

[Profile]
2021年結成。富樫ユイ(Gt&Vo)、河合崇晶(Ba)、Tener Ken Robert(Dr)の3人編成。 東京をベースに活動。
緊迫感のある繊細且つ大胆な演奏に、秀逸なメロディセンスと情緒的な言葉で綴られ、優しく爽やかな風のようで時に鋭く熱を帯びた歌声にて表現される世界観は、風通しよくジャンルの境界線を越えて拡がりはじめている。
同年10月1st「downt」をリリース(CD&CT共に完売)。 翌年6/22に新作EP「SAKANAe.p.」をリリース、そして7/21より東・名・阪のリリースツアーを開催し全公演SOLD OUTに。7/22には1stとEPの編集盤レコード「Anthology」をリリース(即完)。
2022年夏は、初の野外フェスとしてFUJI ROCK FESTIVAL ’22“ROOKIE A GO-GO”のステージをはじめ各所の野外フェスへも出演し、大勢の初見のオーディエンスを前に、強く印象づけるライブパフォーマンスにてそれぞれの会場を沸かし虜にさせた。
2023年1月より自主企画「Waste The Momonts」をスタート。第一回目は1/15(日)下北沢 SHELTERにて明日の叙景、第二回目は3/25(土)にSubway Daydream、そして6/7にバンドとしての新機軸となる8分半超の大作「13月」を含む、今年初の新作『III』をリリースし、リリースに併せ自主企画・第三回目は6/10(土)下北沢SHELTERにてDENIMSを迎え開催し3公演チケットは全てSOLD OUTに。
春より、IMAIKE GO NOW、SYNCHRONICITY、hoshiotoなど各地サーキット、野外フェスへも出演、夏に向けてもYATSUI FESTIVAL、そしてGFB‘23 つくばロックフェスほかへの出演。Pswingset(US)、Football, etc.(US)、soft pine(Thailand)、ゲシュタルト乙女(台湾)、Grrrl Gang(Indonesia)はじめ、deathcrash(UK)、motifs(singapore)など海外アーティストとの公演も精力的に行っている。

2024年3月1stフル・アルバム「Underlight & Aftertime」リリース決定。3月より東名阪をまわるツアー「downt Release Show」開催予定。

downt official:
https://twitter.com/downtband
https://www.instagram.com/downt_japan/

R.I.P. Wayne Kramer(1948 - 2024) - ele-king

 ぼくの世代でMC5といえば、たとえばザ・KLFの大ヒット曲 “What Time is Love” でサンプリングされた “Kick Out the Jams” の冒頭のMCだったりする。「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ**カー!」。もっともこれは、ザ・KLFの前身ザ・JAMsにひっかけた洒落でもあるわけだが、それはそれとて、このフレーズが60年代カウンター・カルチャーのもっとも威勢が良く、もっともぶっ飛んで、もっとも有名な掛け声であることは間違いない。だいたいこれは、音楽史上最初に録音された「マザーフ**カー」であり 「フ**ク」であるという名誉から、リリースからしばらくして問題の部分は「ブラザーズ&シスターズ」に差し替えられている。いまspotifyでアルバムを聴いたらそっくりそこがカットされていた。「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ★★カー!」、もともとは「いつまでもジャムってんじゃねぇよ」という意味だったが、当時のオーディエンスがこれを「邪魔物を蹴散らせようぜ、クソ野郎ども」と解釈し、転じて「好き勝手やったるぜい」という革命の合言葉になったのだ。

 1948年、デトロイトの労働者階級(電気技師の父と美容師の母のあいだ)に生まれたウェイン・クレイマーが10代で友人となったギタリスト仲間のフレッド・"ソニック"・スミスといっしょに、ロックンロールとブルースとフリー・ジャズの影響を受けたバンド、モーターシティ5すなわちMC5を結成したのは1965年のことだった。マネージャーはホワイト・パンサー党の党首にして反体制の申し子、大麻解禁論の先駆者ジョン・シンクレア、ウェイン州立大学でのMC5とサン・ラーのジョイント・コンサートを企画したあの男である。
 いまとなってはMC5は、作品よりもバンドを取り巻く物語のほうが有名なバンドのひとつになっているのかもしれない。同じ時代のデトロイトの、史上もっとも素晴らしいロック・バンドのひとつに数えられるザ・ストゥージズと違って彼らは政治的だったし、売れなかったし、リアルタイムではあまり評価もされなかったようだし、クレイマーにいたってはドラッグの売買に手を染め5年ほど刑務所のお世話になったりとか、とてもじゃないが順風満帆な生涯とはいえなかった。だが、庶民の怒りに火を付けるような扇動的なそのギター・サウンドには、ザ・ストゥージズとは違った魅力があったのもたしかだ。それに「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ**カー!」、これこそ本来のアナキズム宣言である。ようするに、「俺たちは支配されない権利を主張する」とこのバンドは高々と言ったのだ。そして、こんな連中が愛されないほど世界はまだ冷めていない。プライマル・スクリームがセカンド・アルバムでエミュレートさせたMC5、2008年にはメルトダウン・フェスティヴァルで共演し、そのライヴ盤(『Black To Comm』)も出しているのだからほんとうに好きだったのだろう。他にもある。デイヴィッド・ボウイの “Cygnet Committee” で「キック・アウト・ザ・ジャムス」が歌われていることや、ザ・クラッシュの “Jail Guitar Doors” (シングル「Clash City Rockers」のB面曲)がウェイン・クレイマーのことを歌っていることをぼくが知ったのは、もう、ずっとずっと後のことだった。

 ロック通のなかには1970年のセカンド・アルバム『Back in the USA』のほうが良いという意見もあるが(ニック・ロウ、モーターヘッドはこのアルバムを賞賛している)、ぼくはMC5の傑作は1968年のデビュー・アルバム『Kick Out the Jams』だと思っている多数派のひとりだ。アルバムを聴いていると燃えてくるし、安ウィスキーの力も加われれば暴動を起こそうという気持ちにだってなるかもしれない。MC5にとってのサイケデリックとはひとりで夢想することではなく、書を捨て街に出ることで、羽目を外し、生きたいように生きることことだった。あの轟音ノイズ・ギターは、やったるぞぉぉ、うぉぉぉという雄叫びだったし、しかも、うぉぉぉ、くそったれ、好きなようにやったるぜい、というだけのアルバムでもなかった。ここにはデトロイト出身のブルースマン、ジョン・リー・フッカーも歌った(60年代デトロイトの暴動に関する)戦闘的なブルース曲 “Motor City is Burning” もあれば、アルバムの最後にはサン・ラーのカヴァー曲 “Starship”もある。ロックにおける極めて初期形態の雑食性が萌芽しているのだ。ファンカデリックがその初期において影響を受けないわけがない。デトロイト・テクノ繋がりをいえば、ポール・ランドルフ(いちおうデビュー・シングルは〈プラネットE〉、デビュー・アルバムはムーディーマンの〈マホガニー〉というベーシスト)が、デトロイトが生んだもうひとりのロックの最重要人物、アリス・クーパーの2021年のアルバム『Detroit Stories』にてウェイン・クレイマーとほとんどの曲で共演している。またクレイマーは、収監中の人びとに楽器と指導を提供する非営利団体〈ジェイル・ギター・ドアーズUSA〉のエグゼクティヴ・プロデューサーとしても活動していた。彼が故郷デトロイトへの愛情を忘れたことはなく、2002年にエミネムの半自伝的映画『8 Mile』を観たときには、 「これは俺の息子だ!」と反応したという。
 まったく聴いたことのない人は、まずは“Kick Out the Jams”のオリジナル・ヴァージョンを大・大・大音量で聴くこと(できればスピーカーで、近所迷惑になるくらいの音量で)。もう1曲選ぶとしたら、ぼくはプライマル・スクリームとの共演でも演奏している、アルバム未収録のガレージ・ブルース・ロック “Black To Comm” (ベスト盤に収録)を挙げたい。

 偉大なるウェイン・クレイマー、2月2日に膵臓癌のため逝去。文字通りの激動の75年の生涯、ほんとうにお疲れ様でしたと言いたい。

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