「OTO」と一致するもの

 春の宵、アンビエントに身を委ねましょう。イルハ、オピトープの伊達トモヨシが、3月末から4月にかけてツアーをします。東京、京都、鎌倉と、全9公演が予定されています。ちなみに京都では旅館、鎌倉では光明寺で開催されます。電子音楽、とくにそれがダンスを志向しないもの、アンビエントなものであるならば、ゆったりとした環境で楽しみたいものですが、この公演はうってつけです。ちょっとの冒険心があれば、きっと、素晴らしい音楽体験を得られます。
 テイラー・デュプリー──〈12K〉という今日のアンビエント・ミュージックのシーンでもっとも重要なレーベルのひとつを主宰する男、そしてみんな大好きステファン・マシュー──信頼すべきドイツの音響アーティストも同行します。会場によっては、Asuna、Toshimaru Nakamura 、Tetuzi Akiyamaなどなど、ユニークなアーティストも多数出演。下のスケジュール表を見て下さい。そして、ぜひ、この機会にどうぞ!

 来る2014年3月末、4月に初来日となるStephan Mathieu, Federico Durand,そして盟友 Taylor Deupreeを迎えて、東京・鎌倉・京都ツアーがついに実現!!

 ドローン/アンビエントミュージックシーンの最重要人物たちとともに、日本からはILLUHAをはじめ、まさにシーンのド真ん中に位置するミュージシャン達が勢揃い!!
 今回で第六回目となる「Kualauk Table」主催による、お寺で荘厳音響に包まれる音楽イベントも、今回は規模拡大につきド級の会場とサウンドシステムでお出迎えします!!

 ツアー中はどの会場ともそれぞれ異なったコンセプトで開催され、どれも見逃せないイベントになること間違いなし!!!

■ツアー日程■

3/28 (金) 東京 青山 CAY (主催:CAY)
予約 4000円+1drink / 当日 4500円+1drink
詳細・予約:https://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1052.html
open 19:30 start 20:00 close 22:00
出演
Melodia(Tomoyoshi Date + Federico Durand)
Ichiko Aoba
プラネタリウム演出:大平貴之

3/29 (土) 東京 水道橋 Ftarri
予約 2300円 / 当日 3000円 限定30名
https://www.ftarri.com/suidobashi/
open 19:00 start 19:30 close 22:00
出演
Melodia(Tomoyoshi Date + Federico Durand)
ILLUHA
Asuna + Opitope

3/30 (日) 吉祥寺 Tone (主催:flau)
料金:3,000円(ダンディゾンのパン + ドリンク付き)
詳細・予約:https://www.flau.jp/events/crosss6.html
Open 19:00 Start: 19:30
出演
Grand Slavo
Federico Durand

4/2 (水) 東京 水道橋 Ftarri
予約 2500円 / 当日 3000円 限定30名
https://www.ftarri.com/suidobashi/
open 19:00 start 19:30 close 22:30
出演
Toshimaru Nakamura + Ken Ikeda + Tomoyoshi Date
Federico Durand + hofli
Makoto Ohshiro + Satoshi Yashiro

4/5 (土) 京都 きんせ旅館
予約 4000円 / 当日 5000円 / 翌日との2日通し券 7000円 限定60名
https://www.kinse-kyoto.com/
open 16:00 start 16:30 close 19:00
出演
Stephan Mathieu + Taylor Deupree
Federico Durand
ILLUHA
Live PA:sonihouse

4/6 (日) 京都 きんせ旅館 〜Day 2〜
予約 4000円 / 当日 5000円 / 前日との2日通し券 7000円 限定60名
https://www.kinse-kyoto.com/
open 16:00 start 16:30 close 19:00
出演
Stephan Mathieu + Federico Durand
Taylor Deupree + ILLUHA
Stephan Mathieu solo
Live PA:sonihouse

4/10 (木) 東京 青山CAY 〜the Scent of Legend〜
予約 3800円+1drink / 当日 4500円+1drink 限定200名
https://www.spiral.co.jp/shop_restaurant/cay/
open 19:00 start 19:30 close 22:00
出演
Stephan Mathieu + Taylor Deupree
Federico Durand + Opitope
ILLUHA
照明演出:渡辺敬之

4/12 (土) 鎌倉 光明寺 〜Live at 光明寺 Fes〜
予約 3800円 / 当日 4500円
https://park16.wakwak.com/~komyo-ji/html/keidai.html
open 12:00 start 13:00 close 18:00
出演
Stephen Mathieu + Taylor Deupree + ILLUHA
Toshimaru Nakamura + Tetuzi Akiyama
Ken Ikeda + sawako
Melodia + Tetsuro Yasunaga
Tsutomu Satachi + Yusuke Date
Live PA:Flysound

4/13(日) 東京 中目黒 みどり荘 〜SPEKK Party〜
予約 3200円 / 当日 4000円 限定35名
https://midori.so
open 12:30 start 13:30 close 19:30
出演
Stephan Mathieu + Toshimaru Nakamura
Taylor Deupree + Federico Durand + ILLUHA
Tetuzi Akiyama + Ken Ikeda + Chihei Hatakeyama
Minoru Sato (m/s, SASW) + ASUNA


■来日アーティストプロフィール■

<Stephan Mathieu>

https://www.bitsteam.de/

 独ザールブリュッケン在住の音楽家、美術講師。90年代にはSTOLのインプロドラマーとしてKITTYYO等からリリース。その後、ソロ活動に専念、Hapna, Headz, Ritornell, Lucky Kitchen, Fallt, Orthlorng Musork, Cronicaなど世界中のレーベルから リリース。またEkkhard EhlersやJohn Hudakともコラボレーション作品を発表。とりわけFULL SWING名義でOrthlorng Musorkからリリースした「Full Swing Edits」(2001年)は、彼のドラムをDSP処理でリアルタイム加工し断片化させたもので、当時画期的なその手法は高い評価を得た。さらに最新作の短波ラジオのリアルタイム・プロセッシングをテーマにした” RADIOLAND”(Die Schachtel)は、英国の名門ショップBOOMKATが選ぶ2008年のトップ 100レコードの栄えある第一位に選ばれる。2008年からはVirginalシリーズという偉大な 現代音楽家に敬意を表し、彼らの楽曲をVirginalというルネッサンス時代のキーボード、グラモフォンで演奏している。

試聴:https://soundcloud.com/schwebung/maison


<Taylor Deupree>

https://www.taylordeupree.com

 テイラー・デュプリーは1971年生まれ、ニューヨーク、ブルックリン在住で、サウンド・アーティスト、グラフィック・デザイナー、写真家として活動。1997年1月1日、彼は、デジタルミニマリズムと現代様式に焦点をあてた音楽レーベル「12k」を設立。
 2000年9月には協力者のリチャード・シャルティエと12kのサブレーベルとして、コンセプチュアルかつウルトラミニマルな電子音響、そして音と静寂とリスニングアートとの関係性を探究するレーベル、LINEを設立。
 デュプリーは、Prototype 909, SETI, Human Mesh Dance,Futique(1992-1996)など過去のテクノ・アンビエントのプロジェクトを含め、多くの評論的賞賛と評価を得ており、数多くのレコーディング実績と確かなディスコグラフィを持っている。また、彼のデザインワークは世界中のレーベルの多くの作品で見ることができ、日本やイギリスで多くのデザインブックも出版されている。

試聴:https://soundcloud.com/12k/dreams-of-stairs


<Federico Durand>

https://federicodurand.blogspot.jp

 マレーシアのmu-nestコンピに参加後、SPEKKからのファースト・アルバムが全世界で大ヒット。英Home NormalやルクセンブルクのOwn Records,米Desire Path Recordingなど世界中のレーベルから矢継ぎ早に新作をリリースする傍ら、OptiopeのTomoyoshi DateとのMelodia、Nicholas SzczepanikとのEvery Hidden Colorなど注目アーティストとコラボレーションも活発に行っている。
 基本は電子音楽ながら、日常や山で採取したフィールド・レコーディングやギターなどの楽器音をさりげなく取り込む作風で常に有機的で温かい質感を有している。アルゼンチンのアーティストに多く見受けられる、その情調感をもった楽曲はここ日本でも人気が高く、アールグレーの紅茶が大好きと語る素朴な人柄同様、どこかキュートで優しい味わいが特徴である。

試聴:https://soundcloud.com/federicodurand/adormidera-preview


INNA (LifeForce / mixer) - ele-king

今年はLife Force21周年、mixer10周年ですのでいろいろおもしろいパーティを企画しています。
3/29には初来日のLivity SoundのAsusuを迎えて、原宿のスタジオ会場、2フロア、Asadaサウンド、Mixerのインスタレーション空間でスペシャルなパーティがあります。ぜひ遊びにきてください。

3/29 Life Force "Flower War"
@Sad Cafe Studio Harajuku
DJ: Asusu(Livity Sound from Bristol),
Shhhhh, MaNA, Inna, Cossato, pAradice, Ginji
more info- https://lifeforce.jp

inna soundcloud- https://soundcloud.com/innamixer

Inna "On Repeat" Feb2014 Chart


1
Hazylujah - How Can You Hide From What Never Goes Away - Meda Fury
https://soundcloud.com/meda-fury/sets/hazylujah-how-can-you-hide

2
Charles Cohen - The Middle Distance - Morphine Records
https://soundcloud.com/experimedia/charles-cohen-the-middle

3
Archie Pelago - Lakeside Obelisk - Archie Pelago Music
https://soundcloud.com/archiepelago/ap003-archie-pelago-lakeside

4
Vtgnike - Dubna - Other People
https://soundcloud.com/experimedia/vtgnike-dubna-shop-excerpts

5
Georgia - Like Comment - Meakusma
https://meakusma.bandcamp.com/album/like-comment

6
Joakim & Bambounou - Fructose EP - Sound Pellegrino
https://soundcloud.com/soundpellegrino/sets/joakim-bambounou-fructose-ep

7
SH2000 - Untitled Works - Volking Music
https://volking.biz/

8
Co La - Soft Power Memento - Hands In The Dark
https://soundcloud.com/experimedia/co-la-soft-power-memento-album

9
Rachael / DJ Sotofett - Okada/So-Phat Riddimix Is Junglized - Hotline Recordings
https://www.youtube.com/watch?v=nC1wPnZgtUI

10
Chapelier Fou - Protest (Dimlite's re-ça va pas Remix) - Ici D’ailleurs Records
https://soundcloud.com/dimlite/protest-remix

11
Metome - Objet - Schist
https://metome.bandcamp.com/album/objet

第5回:占われたい女の子 - ele-king

 もうすぐ小学生になる長女は、小学生女子のご多分にもれず占いの本に夢中です。子ども向けの占い本は、いまも昔も赤・ピンク系の装丁で、男児向けのものはいっさい見あたりません。中身も昔と変わらず「あなたは心があたたかい人気者ね」といった謎のお姉さん口調の性格診断を中心に、ラブ運、友達運といった人間関係、そして将来の職業が並びます。一方、同じ年頃の男の子が執心していることといえば、努力・友情・勝利のフィクションや、ゲームのパラメータ上げでしょうか。まわりからどう見られているかによって人生が決まると信じている女児と、個人の努力でパラメータを上げれば友情も職業も(美女も?)ゲットだぜ! と信じている男児。小学生にもなると大人と変わらないネ……とお母さんはなんとなく酸っぱい気持ちになります。


子ども向けの占い本の数々

 とはいえ、「将来の職業」欄の変遷は、大人目線でみると案外おもしろいものです。私が子どもだった80年代の占い本では、保母、美容師、看護婦、教師、お菓子屋さんといった昔ながらの女性的なお仕事に、ファッションデザイナー、イラストレーター、音楽家、マンガ家、作家、タレント、女優といった華やかな(でも食べていくまでに成功するのはなかなか大変な)職業が並んでいるのが定番でした。ところが2007年刊行の『キラキラ人相&手相うらない』(ポプラ社)では、「株をはじめたら大金もちになるかも!?」という生々しい指南が登場。もっとも新しい2013年10月刊行の『ハッピー&ラッキーうらない入門』(小学館)には、「あなたはふつうの社員。会社のためにコツコツとがんばる人だよ」と、女性総合職が浸透しつつも正社員になるのも一苦労な現状を踏まえ、リアルなアドヴァイスを下してくれます。また「コンピュータプログラマー」「医者」「研究者」といった、かつての占い本にはなかった理系職が普通に挙げられています。「パティシエ」「ゲームクリエイター」「料理研究家」「ショップ店員」「起業家」が多いのもイマドキです。複数の本で「公認会計士」が挙げられているのは、勝間和代の影響でしょうか。

 世の趨勢に合わせてヴァラエティ豊かになっていく「将来の職業」欄ですが、時代を超えて共通していることがあります。「専業主婦」がほとんど出てこないのです。どの占い本も、「家事が得意なあなたには専業主婦がおすすめ。子どもの手が離れたらパートで家計を助けるといいわ」「母性あふれるあなたには、子どもをたくさん産んで大家族を仕切る肝っ玉母ちゃんがぴったり」などとは言いません。「将来の夢はお嫁さん」という人はいつの時代も一定数いるはずなのに。おそらくこれは、主婦業はだれにでもできることだと思われているのが原因なのではないかと思います。「あなたには他の人にはない特別な才能がある」と女児の気持ちをアゲる占い本には不向きなのでしょう。が、バカにされがちな家事も、やってみるとそれなりに才覚がものを言う作業だったりします。カレー一つ作るにも、骨からダシをとって3個のタマネギを飴色にしてトマト缶を煮詰めて作るカレーと、ルーの箱書きの通りに作るカレーとではだいぶ違います。もうちょっと尊敬してくれてもいいんじゃないの……?

 そんななか、「いま、アメリカでは専業主婦がかっこいい!」とする書籍が翻訳されたと聞きました。その名も『ハウスワイフ2.0』(エミリー・マッチャー著、森嶋マリ訳)。さっそく購入して読んでみると、ところどころアレ? と首をひねる点が。 「典型的な専業主婦が大勢いるとわかったのだ」として例示されているのは、ひとり暮らしのアパートで野菜を育て、ジャム作りをしている博士課程在学中の33歳独身フェミニスト女性、郊外の自宅の裏庭で鶏や蜂、野菜を育てつつ料理も裁縫もする大学院卒の28歳独身男性、自宅でコンピュータ関連の仕事をしながら精子提供で子供を3人以上生み、ホームスクーリングで育てようともくろむ高学歴レズビアンカップルの3組。誰一人として専業主婦じゃなくないですか? むしろビッグダディ? 「典型的な専業主婦」の部分は、原文を見ると“New Domesticity types”とありました。また、「この流れを、“ハウスワイフ2.0現象”と呼ぶことにした」は、原文では「I call this phenomenon "New Domesticity"」となっています。どうやら原著のキーフレーズは「ハウスワイフ2.0」というより、 “New Domesticity”であるようです(原著の副題にもこのフレーズが使われています)。

ハウスワイフ2.0
日本版としてリリースされた、『ハウスワイフ2.0』(文藝春秋)


日本版の表紙は自己啓発風ですが、原著の表紙はセルフレームのメガネ女子がキュート!

 “New Domesticity”の例として他に登場するのは、家庭菜園、編み物、手作り石鹸、重曹掃除、天然成分の洗剤、レトロな器、自家製パン(およびそのための小麦粉挽き)、保存食作り、自家製ヨーグルト、オーガニック食、米粉マフィン、手作り子供服、古着のリメイク、自然育児(アタッチメントペアレンティング、スリング、マタニティヨガ、自宅出産、長期間の母乳育児、オンデマンド母乳、布オムツ、オムツ無し育児、胎盤サプリ、ベビーマッサージ、ホリスティック栄養学、木製玩具、アンチ予防接種)、代替療法、地産地消、家のリフォーム、脱サラして田舎で農業、自作陶器のネット販売。IT関連の仕事をしながら料理ブログを開く20代男性や、稼ぎを地産の食材につぎ込む30代独身キャリアウーマンも紹介されています。僭越ながら私が“New Domesticity”の訳語として日本語の似たような言葉をあてはめるなら、「暮らし系」といったところでしょうか。上記のような生活を紹介し、「ていねいな暮らし」「シンプルライフ」を謳う『クウネル』『天然生活』『かぞくのじかん』といった“暮らし系”雑誌類が日本の女性誌コーナーの一画を占めるほど増えたのも、21世紀以降の出来事です。

 『ハウスワイフ2.0』には、ライオットガール・ムーヴメントに憧れ、彼女たちがポスターや音楽テープを手作りしているところから手芸や裁縫に行き着いたというハンドメイド界のカリスマ女性が登場します。また編み物入門本『Stitch 'n Bitch』を出版したフェミニズム雑誌『Bust』の編集長デビー・ストーラーは、女がしてきたことを見下すのはフェミニズムではないと訴えています。そういえば日本でも、男性中心の古本界で二束三文で売られていた『女の手仕事』『暮しの手帖』系の古本に価値を見いだした若い女性たちがネット古本屋を立ち上げるのがブームになったことがありました。オルタナティヴ・カルチャーの渦中にいた女性たちが、昔ながらの女の手仕事が軽視されていることに違和感を覚え、その復権を目指すところも、日本の暮らし系に通じるところがあります。

 暮らし系は女性が中心とはいえ専業主婦に限った話ではなく、おもに高い教育を受けたクリエイティヴな層に担われているように、アメリカの「“New Domesticity”も、高学歴女性(と少なからぬ男性)が牽引するムーヴメントであるようです。『ハウスワイフ2.0』では、不況による就職難、家庭と両立できない長時間労働や女性に冷淡な企業文化への失望、環境への意識、大量消費社会への忌避感情などがその燃料となっていると分析しています。女性の高学歴化に比して社会進出が難しく、女性の家事負担が大きい国と言えば、日本もアメリカに負けていません。日本で暮らし系が流行るのも(それがわざわざ現象として取り上げられないほど自然に浸透しているのも)道理です。「女ならやって当たり前」で、決まったやり方以外は許されない──誰にも顧みられない家事育児はつらいけど、自分の趣味をいかしてインターネットで褒められたりスキルを共有できる家事育児は楽しい。この感覚、私にも覚えがあります。日本との違いは、“New Domesticity”に走る世代(20~30代)の親はウーマンリブ世代で、仕事にかまけて家事育児をないがしろにした母親への反発が根っこにあるということ。子供にかまいすぎる日本の“毒親”とは対照的です。いずれにしろ、理念を追求しすぎる極端な親は子どもにとっては迷惑なものなんですね。気をつけていきたいところです。

 同書は、元新聞記者の著者が“New Domesticity”な多数の男女にインタヴューして得た豊富な事例をもとに、多面的にDIY・インディペンデント・ムーヴメントの意味を説き明かそうと試みているジャーナリスティックな書籍です。時におしゃれなライフスタイル・ブログへの素朴な憧れを吐露するものの、掃除洗濯嫌いを自称し、仕事が生きがいだと語る著者の視線は一貫してシニカル。日本版の版元のコピーにあるような「キャリア女性の時代は終った。いまこそ新しい主婦になろう」と、むやみに女性間の対立を煽る内容ではありません。それどころか、社会での女性の発言権を確保するために女性も働きながら子育てできる社会にすべきだと主張し、労働者階級を含めた働く母親への社会的サポートの薄さを手厳しく批判しています。また、ほとんどの人はハンドメイドで身を立てるのは難しく、Etsy(※)で売る程度の収入では離婚したら生活していけないのだから、経済的な自立は誰にとっても重要だとも。そもそも著者がこんな本を書けるのも、キャリアがあればこそです。男性の育児休暇の取りにくさ、掃除機やトースターといった家事おもちゃが(ピンクとパープルの)女児向けばかりであることにも警鐘を鳴らしています。でも、著者の意図を汲んで「いま、アメリカでDIY・インディペンデント・ムーヴメントが熱い理由」と喧伝したところで、注目が集まることはなかっただろうとも思います。『ハウスワイフ2.0』が話題になったのは、とりもなおさず女性間の対立を煽る体裁でパッケージングされているからでしょう。女性のライフスタイルを云々するエッセイは、おおざっぱに女性をラベリングする内容であればあるほど話題を呼び、売り上げを伸ばしてきました。結婚しなければ「負け犬」で、子どもを産まないと「オニババ」、そうならないためには「小悪魔」にならなくちゃ。もう魑魅魍魎だらけです。
※アメリカで人気の販売サイト。ユーザー間でハンドメイドの商品を売買できる。(編注)

 「自分が何者で、どうふるまい、どんな大人になるべきなのか」を教えてもらいたがる小学生女児たちがピンクの占い本を読みふけるように、大人の女性たちも「女のライフスタイル本」に走り、メディアは大げさに取り上げます。この『ハウスワイフ2.0』も日本版のタイトルのせいか、読まれもしないうちからその手のエッセイ本と勘違いされ、「高収入の夫に養われてロハス生活なんて」などと一部で揶揄されているようです(同書に登場する専業主婦の多くは中産階級。中には布をトイレットペーパー代わりに洗って使い回すエクストリーム節約術を駆使する人も!)が、優雅なロハス主婦だったとしてもいいと思うんですけどね。なぜ女性の選択ばかりがやり玉に挙げられ、注目されるのでしょうか。

 おそらく社会も、そして女性たち自身も、女性にも自我や欲望があり、その欲望に従って人生を選びうるのだという事態に慣れていないのです。私たちの母親世代には、人生の選択肢などほぼなかったのですから。そして世にあふれる「無垢な美少女」「尽くす母親」といった自我や欲望を持たぬ女性を理想像として描き出す作品の数々。そうした文化に触れるうちに自我や自分の能力への自信、承認欲求などの欲望を恥じるように刷り込まれた女性たちは、「自分は客観的に見て何に向いていて、本当は何をしたいのか。そのために何をするべきなのか」を突き詰めて考えることが怖くなり、「何をすれば叩かれないのか」「何を選べば“正解”なのか」を教えてくれる本にすがりたくなる。これでは自分と異なる選択をした同性が幸せそうにしているたびに不安になってしまいます。たぶん問題は、結婚するかしないか、働くか働かないか、子供を産むか産まないか、どちらが正しいのかということではなく、自分の欲望におびえ、何を欲しているかにちゃんと向き合えないまま大人になってしまうことなんだろうと思います。「子ども産まないと叩かれちゃうの? 心折れそうだから産むわ~」というまるで主体性のない理由で子どもを産んだりしている私がこんなことを言うのもなんですが(結果オーライでよかったです……!)。

 無垢な女性像を内面化しないで。自分の欲望におびえないで。二女の母として我が子たちにはそう伝えたい。しかしその前に、私自身が、「公務員など安定した仕事につきそう。ハデさはないけどマジメだから、結婚あいてにはぴったりね」と貪欲に彼の将来を品定めする女児向けの占い本におびえている場合ではないのかもしれません(でも、怖い!)。



ギークマム 21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア
(オライリー・ジャパン)
著者:Natania Barron、Kathy Ceceri、Corrina Lawson、Jenny Wiliams
翻訳:星野 靖子、堀越 英美
定価:2310円(本体2200円+税)
A5 240頁
ISBN 978-4-87311-636-5
発売日:2013/10 Amazon

GET ACTION - ele-king

 ちょっと自分の話をする。
 ぼくは1975年生まれで、89年ごろにバンドブームの直撃を受けて音楽に興味を持った。ブームが去るのは早かった。坪内祐三『昭和の子供だ、君たちも』によれば90年3月までだったそうだ。ブームを支えた高校生たちが卒業すると同時にブームも終了したということで、ぼくが高校に上がるころにはもう終わっちゃっていたということである。
 ブルーハーツ(当時)の真島昌利は92年リリースのソロ・アルバム『Raw Life』発売時に「バンドブームが終わって、けっきょく日本はチャゲアスじゃねえか!」と発言している。よく言われることだが、あれは「バンドブーム」であって「ロックブーム」ではなかったのだ(功罪あって、収穫も多かったとは思いますが)。
 それでも自分はブームが去ってからもしつこくロックを聴きつづけ、とくにボアダムス界隈とパンク~ハードコアに夢中になる。なんといっても90年代のパンク・シーンはすごく盛り上がっていた。
 ぼくが大学時代に初めて結成したバンド(少年ナイフのコピーバンドでした・笑)のギタリスト(「T君」としておこう)とはもともとラモーンズやジョニー・サンダースが好きということで意気投合したのだが、その後はけっこう違う方向に進み、ぼくはノイズとかファストコア/パワーヴァイオレンスにどっぷりハマり、T君はガレージやパワーポップのほうに行ったのだった。そんな彼に教えてもらったバンドのひとつが、この映画で取り上げられたティーンジェネレイトだったのである。
 静岡出身のレコード・マニア、Finkが兄のFifiとともに結成したのが前身バンド、アメリカン・ソウル・スパイダーズ(ASS)。映画は兄弟が故郷を訪ねるところからはじまる。ひょっとしたらここに出てくるレコード屋やライヴハウスには野田編集長も通っていたのかな、とか、なんて思いながら観るのも楽しいかと。
 ストゥージズ~MC5的なガレージ・ハードロックを演奏するASSは、バンドブームの日本には居場所がなく、最初から海外のレーベルにデモテープを送り海外に演奏の場を求めていく。バンドブームとそのあとの空洞化したシーンにあって、90年代には続々と海外に活動の場を求めるバンドが増えていくのだが(ゼニゲバとかメルト・バナナとか)、なかでも彼らは周囲に先駆けていた部類だと思う。
 ヴォーカリストが活動拠点をアメリカに移すためにASSを脱退、バンドはそのままFinkがヴォーカルとなってTeengenerateと名前を変えるとともに、音楽性もよりシンプルなロックンロールへと変更。映画の中では「あんまり練習しなくてもいいような音楽」なんていう表現がされている。
 基本的にはパンク・バンドにカテゴライズされることの多い彼らだが、50年代のロカビリー、60年代ガレージ~プロト・パンク、ブリティッシュ・ビート~モッズ、NYパンクに77パンク等々と続くロックンロールの歴史すべてを取り込んだその音楽は、〈Crypt Records〉の名コンピ『Back From the Grave』シリーズなどに端を発するロウファイ(サンフランシスコ周辺などの奇天烈なバンド群を指すケースもあるが、この場合はガレージ・パンク系)のムーヴメントとも時を同じくし、世界的な評価を得てバンドの大躍進がはじまるのである。
 以後、映画のキャッチコピーにもあるように結成からわずか3年のあいだに「年間海外ツアーおよそ80本、総制作楽曲73曲、世界10か国から音源発売」――解散までのバンドの勢いはおそらく本人たちにもよくわからぬまま駆け抜けたという感じだろう。
 そして本作にも登場するThe5678'sやJackie & The Cedrics、ギターウルフ、Supersnazzといったバンドたちもけっして後を追ったというわけではなく、それぞれ独自に海外で熱い支持を得ており、それが逆輸入されるような形で国内のシーンも盛り上がっていくことになる。規模は小さかったかもしれないが、その熱さは「DOLL」の誌面などから傍目にも伝わっていた。
 結局バンドは93年から95年末までという非常に短い期間で突然の解散を迎える。「そんなに短かったんだ」という感じもするが、あの頃はいまと密度が違ったというか、1年がもっと長かったような気がする(自分が暇な大学生だったからかもしれないが)。ちなみに解散間際のライヴ映像には、最前列かぶりつきで盛り上がっているT君が映り込んでいて感慨深いものがありました。

 今回の映画を監督したのは映画館〈シアターN〉の支配人として数多くのロック・ドキュメンタリーを世に出してきた人物であり、さすがにツボをおさえた王道のドキュメンタリーに仕上がっている(もちろんバンドへの強烈な愛とリスペクトあってのものだ)。
 よくもまあこんな映像が残っていたな、というライヴ映像の数々はもちろんどれも超かっこいいのだけれど、やはり中心となるのはFinkとFifiの兄弟をはじめ、元メンバーたちのコメント。とくにベースのSammyのいい意味でくだけた発言の数々には試写室でも笑いが起きていた。
 そして周辺人物たちの人選もツボを押さえている。個人的にとくに重要だと思うのは、当時おそらく日本で唯一このシーンをしっかりと伝えていたライターの関口弘(少なくとも紙メディアでは、氏が「DOLL」や「クロスビート」に寄稿していたレビューがほぼ唯一の情報源だったんじゃなかろうか)。ギターウルフをはじめ、先述したような同時代・同シーンのバンドマンたち、それに個人的には高円寺のレコード店BASEの飯島氏がアメリカで目撃したエピソードがものすごくぐっときたので実際に観てみてください。ぼくはあそこでちょっと泣きました。

90年代半ばというインターネット普及前、レコード店が現場でありメディアだった時代である。ガレージもハードコアも毎週のように面白い7インチ・シングルがたくさんリリースされていて、お店に通うのがすごく楽しかったのだ。おかげでいまでもぼくは7インチというメディアがいちばん好きですね。というか実際いまでもレコード屋は現場でありメディアなのだけど、忘れられがちだ。
そして「90年代中盤のライヴハウスのおもしろさ」というのは個人的にも大事なテーマなのだが、その感じをすごくよく伝えるドキュメンタリーである。もっと大事なのは、ティーンジェネレイトはすでになくとも、Fifi率いるFirestarter、Fink率いるRaydiosという最高のロックンロール・バンドが健在だということ。ロックンロールというのは50年代から、ときにレッテルを貼りかえられながら連綿と続いているのである。

3/15(土)~3/28(金) 新宿シネマカリテにて連日21:00より
2週間限定レイトショー!

Photo by Masao Nakagami (TARGET EARTH)

幻のロック・バンド“TEEN GENERATE”のドキュメンタリー映画が2014年3月、公開! なんと監督は日本でもっとも多くのロック映画を上映しつつも2012年に閉館となった映画館、〈シアターN渋谷〉の元支配人・近藤順也さん。本当にかっこいい音楽を知ってもらいたいという思いだけで作られた映画『GET ACTION!!』が、今週末より〈新宿シネマカリテ〉にて限定レイトショー!

公式サイト https://www.get-action.net/

■映画『GET ACTION!!』公開記念イベントin新宿シネマカリテ
☆3/15(土) 初日舞台挨拶
ゲスト:Fink、Fifi、(以上TEENGENERATE)、近藤監督
☆3/18(火)「あの頃僕らは最前列にいた!」
ゲスト:TSUNEGLAM SAM(YOUNG PARISIAN)、近藤監督
☆3/21(金)「音楽ドキュメンタリーはどこへ行く!?」
ゲスト:樋口泰人(映画評論家、boid主宰)、川口潤(映像作家)、近藤監督
☆3/22(土)「90年代初めのUSツアーってこんな感じでした!」
ゲスト:TOMOKO(SUPERSNAZZ)、Fifi、近藤監督
☆3/27(木)「間もなく公開終了! ズバッと総括!」
ゲスト:Fifi、近藤監督

さらに、クロアチアで世界最速上映決定!
本作の公開発表と同時に欧米の様々な国から上映への問い合わせがあり、中でも最も早い問い合わせがあったのが、何とクロアチア! サッカー以外に馴染みの薄い国ではありますが、今年で8回目を迎える“FILM FESTIVAL DORF”から熱心な誘いを受けました。聞くところによるとプログラム・ディレクターが94年のヨーロッパ・ツアーでスロヴェニアにて彼らのライヴを観ているというTEENGENERATEの大ファン! 上映は現地時間3/8(土)の17:00~ということで世界最速上映となりました! 世界で最初の上映がクロアチアというのもTEENGENERATEらしいエピソードではないでしょうか!?

カタコト - ele-king

 カタコトって何者? 快速東京のメンバーがいるとかいないとか?
 YANOSHITの言葉を借りれば「♪カタコトのカは快調~/カタコトのタは体調/カタコトのコは好調~/カタコトのトはトウチョウ~?」(“Man In Da Mirror”)とのことで、あるいは『bounce』誌のインタヴューによれば「カタコトっていうのは概念なんですよね。いわば宗教……ですよね」(MARUCOM)とのこと。ううん? まあ彼らがそう言うのであればそういうことなのだろう……。

 とにかく。カタコト、超待望のファースト・アルバムである『HISTORY OF K.T.』をプレイすれば、このヤングでギャングなボーイズが何者かなんてことはどうでもよくなってしまう。『HISTORY OF K.T.』はとんでもなくゴキゲンでグルーヴィで──もっとも重要なことに、底抜けに楽天的だ。
 だってこのご時世に「♪安心なのさ/安心なのさ/安心なのさ/安心なのさ~」(“からあげのうた”)なんてだれが歌えるのだろう(とはいえもちろん「こんなループに乗せて歌う日本の平和な音楽」というアイロニカルな一節は無視すべきではない)? ふざけたおしすぎて意味不明で笑かしてくれる謎のブックレットやスキットにはいったいどんな意味が? ……つまり、カタコトにしか表現できないへんてこな抜けの良さ=大衆性が、アルバムにはぎゅうぎゅうに詰まっている。
 元気の良さとふざけっぷりはティーンだった頃のオッド・フューチャーの悪ガキどもと同じくらいだ。でもカタコトは露悪的な猟奇趣味じゃない。というよりは、橋元さんが書いているように(https://www.ele-king.net/review/live/003305/)「コミカルな妖怪たち」あるいはオバケみたいな「はっきりした正体不明さ」でもって肯定的な開放感をめいっぱい呼び込んでいる。

 “Man In Da Mirror”にはビースティ・ボーイズとB級ホラー映画が、VIDEOTAPEMUSICを迎えた“リュックサックパワーズ”にはローファイと裏山の冒険が、“G.C.P”にはファンクとパンクが、“魔力”にはサイケデリックと超能力が、“からあげのうた”には童謡が、“Starship Troopers”にはアシッド・フォークと昆虫採集が、“ピアノ教室の悪魔”には学校の怪談とゲームボーイがそれぞれひしめきあっている。そして、どの曲にも映画と食べ物とヒップホップへの愛が詰まっている。それは、何かの間違いでそういったものをぜんぶ洗濯機に投げ込んで回してしまって、ぐっちゃぐちゃのかっちかちのぴっかぴかの一塊の何かとして取り出されたような、ストレンジで強引なラップ・ロックとして形成されている。

 もちろん僕らをそわそわさせるあの名曲“まだ夏じゃない”も、ゴキゲンでキュートなお宝探し冒険譚“Gooonys”もパワーアップして再録されている。とくに“Gooonys”は最高だ。カタコトというバンドをよく表している。
 YANOSHITはここで「心が未だにTeen-age/もしかしたらと思った大人が大冒険」なんてヴァースをぶちかましていて、RESQUE-Dのフックは「鎖繋がれてるモンスター」「悪餓鬼6人集めて映画にすれば大人が感動する」といった具合だが、果たしてカタコトはティーネイジャーの心を持った大人なのか、それとも「悪餓鬼」なのか、はたまた鎖に繋がれた「モンスター」なのか? もしも「モンスター」だったとしたら大変だ。いまに鎖をぶっちぎって僕らに襲いかかってくるかもしれない……。

 『HISTORY OF K.T.』は愉快痛快な一撃だ。スチャダラパーとRIP SLYMEの王座を奪うのは、もしかしてカタコトなんじゃないの? そんなことまで想像させるだけのポップネスとユーモアがきらきらと炸裂している。

 筆者は昨年5月末に、5年半に渡って住み続けたこの街を離れて東京に移住したのですが、7ヶ月ぶりに訪れたイギリスでは大荒れの天気が続いていました。各地で浸水の被害が深刻になっているようで、少し心配もしていたのですが、ロンドン市内はいつものように活気に満ちていて、毎日のように吹き荒れている暴風についても、こんなの普通と言わんばかりに平然と生活していました。

 おそらく今、ロンドンで暮らすミュージシャンたちはもちろんのこと、多くのオーディエンスがこの街のシーンのトレンドが変わりつつあるように感じていると思います。
 僕がこの街に引っ越して来た2007年末頃には、ダブステップという音楽がアンダーグラウンドの枠を飛び越えて、既に広く浸透しはじめていました。それからほどなくして、似て非なる音楽として『ポスト・ダブステップ』と呼ばれる音楽が注目されるようになり、日本でもお馴染みのJames BlakeやBurial、それにいまやシーンの中心人物のひとりでもあるJamie xxを擁するThe XXといったアーティストたちの成功により、そのムーヴメントはお茶の間にまで浸透し、いまや大手スーパーやデパート等でそういった音楽を耳にすることが珍しくなくなりました。トレンドの移り変わりの早さがよく取沙汰されるロンドンにおいて、これほどの規模でこんなにも長く続くとは誰も予想していなかったに違いありません。

 実際にはそういった音楽の需要はまだたくさんあるようで、星の数ほど存在するインディー・レーベルからは、毎日のように新人アーティストによる作品が発表されています。XLの傘下であり、SBTRKTなどを擁する〈Young Turks〉のような広く知られたレーベルにおいても、FKA TwigsやKoreless等、トレンドの最新型と形容されるようなアーティストたちがデビューを果たしています。しかしながらまた違った動きを見せているレーベルもたくさんあり、Grimesの初期作品を発表していた〈No Pain In Pop〉などがいい例で、Forest SwordsやKaren Gwyer、それに最近〈WARP〉に移籍したPatten等、カテゴライズが難しいアーティストをたくさん抱えつつも、そのどれもが耳の早いリスナーたちから支持を得ています。

 シーンがそういった移り変わりの兆しを見せる一方で、現場事情、つまりロンドンのクラブシーンは以前と変わらず元気な印象を受けます。Dance TunnelやBirthdaysのような小さなクラブ、それにCafe Otoのようなライブミュージック中心のハコなどが多数存在するDalstonというエリアでは、週末の夜には通りがキッズたちで溢れ返っています。またTheo ParrishやFloating Pointsらがレジデントを務め、ビッグなシークレットゲストが度々登場することで知られるPlastic Peopleも、相変わらず根強い人気を誇っています。

 そんな中、2月8日(土)に現在EUツアー中のShigetoのロンドン公演が開催され、僕はオープニングアクトとして出演させてもらいました。会場となったElectrowerkzは、Angelという東京の代官山のような趣の町にあって、巨大なウェアハウスを改造して作ったような、どことなく漂うインダストリアルな雰囲気が特徴です。チケットは発売からほどなくしてソールドアウトとなり、キャパ300~400人ほどの会場は早い時間から数多くのヘッズで賑わっていました。

 先手である僕は21時30分にオンステージ。久々のロンドン公演ということもあり、事前にしっかりと準備をして臨みました。最近は70年代のアフロビートやハイライフといった音楽をよく聴いていて、その影響を反映させた楽曲を中心にセットリストを組んだのですが、新曲群には特に熱の入ったレスポンスをオーディエンスからもらって、確かな手応えを感じることができました。1時間に渡るセットで、絶え間なく大きな歓声を送ってもらって、やっぱりこの街のオーディエンスが好きだなぁと、改めて思いました。

 DJによる転換を挟み、いよいよ主役のShigetoが登場。彼がステージに上がるやいなや、大きな歓声がフロアから沸き起こり、期待度の高さを既に物語っていました。ShigetoはBrainfeederのアーティスト勢にも通じるような音楽性で、数多くのヘッズ達から支持を得ている注目プロデューサーであると同時に、実はかなりの敏腕ドラマーでもあります。
 余談ですが、以前はレーベルメイトでもあるSchool Of Seven Bellsというバンドのドラマーを務めていて、日本での初公演は彼らのものだったそうです。彼のライヴセットは、そのドラマーとしてのスキルを大いに活かしたもので、ラップトップでエレクトロニックな部分をコントロールしつつも、そこに生ドラムでのダイナミックな演奏を重ねることで、音源で聴くことのできる、メランコリックで抑制されたビートとは大きく違った一面を見せてくれます。
 集まったオーディエンスたちも、彼がドラムを激しく叩く時に、より大きな歓声を上げていたように思います。唯一残念だったのは演奏中にラップトップが2度に渡ってクラッシュし、演奏が中断されてしまうアクシデントがあったことですが、そのアクシデントを生ドラムの演奏でカバーする彼に、オーディエンスはより大きな歓声を送っていました。
 アクシデントはあったものの、終わってみればエレクトロニック系のライヴらしからぬ熱気が会場に満ちていて、誰もがそれを大いに楽しんだのがはっきりと伝わって来ました。

 DJを含んで、総出演者が計3人というとてもコンパクトな夜ではありましたが、エレクトロニックな音楽をライヴで楽しむというコンセプトが、とても良い形で実現された夜だったと思います。
 シーンがこの先どのように変化していったとしても、現場で生の音楽を楽しむというロンドンのオーディエンスのスタンスは決して変わらず、アーティストたちがその期待に応えることで、また新たな何かがが育まれていくのだろうと思います。

 この国のファンクと歌謡曲の水脈の豊かさ、ことばのしたたかさと毒々しさ、社会を低い地点から観察するあたたかいアイロニー、したたる哀愁、洗練された諧謔精神、そして心とからだをじっとりと侵食してくるグルーヴ。僕はその日、面影ラッキーホール改めOnly Love Hurts(以下、O.L.H.)が表現する、それらすべてに激しく興奮し、心を打たれた。たまらなかった。
 いまだにあの日のライヴのことを思い出すと、胸がざわつき、ニタニタしたり、真顔になったりしながら、人に語りだしたくなる。小器用に格好つけるだけでは到達できない次元に彼らはいた。僕は久しく忘れていた、いや、忘れようとしていた感覚を思い出し、その感覚を肯定する気持ちになれたことを、O.L.H.に感謝しなければならない。

 ヴォーカルのaCKyのいかがわしくも愛らしい風貌とニヒルなMC、哀愁が滲み出した歌ときわどい歌詞と物語は、そこら中に転がっている、なんでもなくどうしようもないけれど、何かではある人生の寄せ集めそのものだった。公序良俗からはみ出してしまう気質。aCKyの存在と表現は、そういう抗し難い気質と性分としか言いようのないものからできているように思えた。 
 じゃがたらもビブラストーンもリアルタイムで体験できず、口惜しい思いをしている、遅れてきた世代のジャパニーズ・ファンク・フリークや、喉の奥に魚の小骨が引っかかったような、社会に対する違和感を抱えながら毎日をやり過ごしているぐうたらな不満分子は、O.L.H.を聴いてライヴに行くべきだと声を大にして言いたい。
 純愛、背徳的な愛、不幸な愛。ふしだらな性、性の悦楽。都会と田舎。渋谷のクラブの喧騒と場末のスナックの倦怠。階級、貧困、身体障害。ドラッグ、DV、児童虐待……。ヴォーカルのaCKyが取り上げる、こう書くとずいぶんと重たいテーマすべてを貫くのは、意地悪くもあたたかい人間観察と情熱的ニヒリズム、スケベ心、黒人音楽――ソウル、ファンク、ジャズ、R&B、アフロ――と歌謡曲への偏愛とその探求だった。

 うん、どうにもこういう書き方では、O.L.H.のいち側面を伝えているだけになってしまう。O.L.H.の華やかなステージングまでは伝えられない。なんてったって、O.L.H.は派手で、愉快で、ダンサンブルな集団なのだ。会場をバカ騒ぎさせて、笑いながら泣かせる演奏と歌をキメるプロなのだ。トランペット、サックス、トロンボーンを縦に横に動かすキュートな振り付けと艶やかな女性コーラス隊ふたりのキレの良いダンスの対比などは見事なもので、その光景はなんとも贅沢だった。会場の一体感というものに、胡散臭さを感じなかったのも久しぶりだった。
 主役のaCKyは、ピンク色のスーツとハット、薄いスモークがかかった妖しげなサングラスをかけて登場した。スーツはおそらくダブルだった。違ったかもしれない。とにかく、全身、眩しいまでのショッキング・ピンクだった。映画『ワッツスタックス』で観ることのできるルーファス・トーマスと初期・米米クラブのカールスモーキー石井と70年代のNYのギャングスタかピンプをミックスしたようなファッションといでたちだった。華やかなアーバン・ライフに憧れる地方出身者を戯画化しているようにも見えたし、まさにあのファッションがO.L.H.のリアリティとも感じられた。いや、どちらが真実だとかはどうでもいい。ウソとホントの境界線をぼやかしているのが、aCKyとO.L.H.の本質ではないかと思うからだ。

 生々しい物語をときにひっくり返る声で咽び泣くように歌い、セクシーな女性コーラス隊が空間を広げ、最高にグルーヴィーでエロティックな演奏を高いレヴェルでびしっとキメ、本物なんてクソ喰らえ! と舌を出す。スライもダニー・ハサウェイもディアンジェロも山口百恵もPファンクもモーニング娘。も、彼らがやるとすべてが素晴らしくいかがわしくなるのだ。ギター2人、ベース、ドラム、パーカッション2人、キーボード、コーラスの女性2人、サックス、トランペット、トロンボーン、そしてヴォーカルのaCKyという強力布陣から成るその日のO.L.H.がやったのは、そういう高度な芸当だった。
 “今夜、巣鴨で”、それから、まさにじゃがたらの“でも・デモ・DEMO”を彷彿させるアフロ・ファンク“温度、人肌が欲しい”へと展開するオープニングで一気にたたみかけると、aCKyはMCでギャグを連発した。「俺の方がヒップホップ育ちだよ」「ソールドアウトにはなれないけど、イル・ボスティーノにはなれるかな。イル・ボスティーノに失礼かwww」などなど。そして、“必ず同じところで”ではオールドスクール風のラップをかました(O.L.H.のドラマーは元ビブラストーンの横銭ユージだ)。その後も、ヒップホップ・ファンを意識したサーヴィス・トークは止まらなかった。

 そう、僕はここでもうひとつ大事なことを書かなくてはならない。その日の対バン相手は、田我流擁する山梨のヒップホップ・クルー、スティルイチミヤだったのだ。ある酔客のウワサによると、この対バンは、田我流のラヴ・コールによって実現したという。が、真相はわからない。いろんな幸運が重なったのかもしれない。とにもかくにも、O.L.H.の前にライヴをしたスティルイチミヤもまた、小器用に格好つけるのではなく、アウェイの雰囲気を楽しむように、山梨ローカルのバカ騒ぎをみせつけていた。
 デーモン小暮のようなメイクのMr.麿が歌謡曲から持ち歌までを絶唱しまくり、最後に田我流が、「新曲です」と言って、カラオケなのか、その曲をサンプリングしたトラックなのか、H Jungle with T「WOW WAR TONIGHT」の荒れ狂うビートの渦のなかでノリノリになって、大盛り上がりするパフォーマンスに至っては、見る側の気持ちも恥ずかしさを通り越して、爽快の域に達するほどだった。O.L.H.に対抗する俺たちのやり方はこれだ! という、この組み合わせにふさわしい、言うなれば、じつに潔い世代間闘争がくり広げられていた。黒人ができないドメスティックな方法論で音とことばを練磨することで、精神まで黒人化していくという逆説は、じゃがたら、ビブラストーンからOLH、そして田我流までが実践してきた共通テーマのように思えた。

 スロー・バラード、スウィート・ソウル、しっとりとしたジャジーな演奏から、猛烈なディスコ・ファンクへ。つねにいかがわしさを漂わせながら進んだO.L.H.の大人のナイト・ショーのボルテージはアンコールで最高潮に達した。袖から上下ピンクのスウェットで戻ってきたaCKyは、アンコールの2曲でステージ上で激しく飛んだり跳ねたり、踊りながらして服を脱ぎ捨て、最後はピンクのブリーフ一枚になり尻をむき出しにして、お客をこれでもかと煽り、去って行った……。もう最高だった。僕はことばを失い、ウーロンハイが空になったカップを口に咥えて、できる限り大きな拍手をO.L.H.に送ったのだった。
 
追記:この日、Jポップ/歌謡曲セットのDJで出演したセックス山口が、中森明菜のラテン・ナンバー“ミ・アモーレ”から槇原敬之のニュー・ジャック・スウィング“彼女の恋人”へと見事につないだ瞬間、僕はわおっ! と飛び上がり、彼がジャパニーズ・ファンクのなんたるかを全身全霊で表現していると思ったものだ。あの日の素晴らしいプレイをMIXCDでぜひ聴きたい!


Only Love Hurts


stillichimiya


SEX山口


#2 泉まくら - ele-king

泉まくらとヒップホップ

 ご存知の方も多いかと思うが、泉まくらはヘッズだ。

泉:当時好きだった人が餓鬼レンジャーとラッパ我リヤのCDを貸してくれたんですよ。それが日本語ラップを好きになったキッカケですね。中高生の頃は吹奏楽部にいたんですけど、日本語ラップはわたしがそれまで聴いてきたどんな音楽とも違っていて、とにかくカッコよかった。

 僕が彼女に興味を持ったのは「わたしは日本語ラップを愛している」という主旨の発言を何かのメディアで読んだときからだった。

泉:とはいえクラブに行ったりはしませんでした。苦手なんです。わたしはCDを集めて、1曲の中で山田マン(ラッパ我リヤ)が何回韻を踏んでいるか数えたりするようなタイプ(笑)。ラップにはいろんな魅力があるけど、わたしが好きなのはガシガシ韻を踏むところ。韻踏(合組合)とかMSCとかも大好きです。ヒップホップには「like a ~」って表現が多いですよね。あれって普通のポップスにはあまり出てこない表現だと思うんですよ。ああいう表現って、明らかに韻を踏むための言葉選びですよね。それがダジャレみたいでダサいって人もいるけど、わたしにはカッコいいものに思えました。

 彼女が作り出す音楽や雰囲気は、ステレオタイプな日本語ラップのイメージと到底結びつかなかった。

泉:賞とかは一回も獲ったことはないですけど、昔から小説を書いていて。物語的な起承転結はあまりなくて日常の機微みたいなことを書いていました。だいたい同年代か少し年下の女の子と男の子の話が多いですね。“balloon”の歌詞はわりと自分が書いている小説に近いかも。小説的な世界観を表現するという意味で、日本語ラップの文字数の多さもわたしにとってすごく魅力的でした。あと、ラップだと普通の日常のなかにあるどうでもいいことや、テレビに出てる人たちの何気ない一言がパンチラインになり得るんですよ。なんでもない日常を韻を踏んで歌うことで、いくらかの人にグッときてもらえるのはすごく楽しい。

泉まくら “balloon” pro.by nagaco

 泉まくらを発掘したレーベル〈術ノ穴〉を主宰し、自身もトラックメイカー・デュオFragmentとして活躍するKussyは彼女をこう評す。


泉まくら
マイルーム・マイステージ

術の穴

Review Tower HMV iTunes

Kussy(Fragment):作品を制作する上でアーティスト自身のバックボーンがとても大切だと思うんです。泉はヒップホップがどういうものかということを感覚で理解しているのが大きい。ラップを使って表現する人は多いけど、彼女はヒップホップとしてのラップで表現するんです。たとえば、EVISBEATSさんがトラックを作ってくれた“棄てるなどして”って曲があるんですけど、このタイトルは雑誌から取ったものらしいんですよ。

泉:家に「部屋を片づけましょう」みたいな冊子があったんですよ。そこに「部屋は定期的にいらないものを棄てるなどして~」みたいな文章があって。その「棄てるなどして」が引っかかったんですよね。漢字も含めてそれをそのままサンプリングして、リリックを書き上げていきました。

 トラックメイカーが膨大なレコードの中から使えるブレイクを探してループを組み上げていくように、彼女は目に映るあらゆる言葉から使えるフレーズを探して、リリックを書く。

泉:(韻を)踏みたいけど、ダサくなるのは嫌。だからいまのスタイルになったんです。べつにわたしのヒップホップ愛は、みんなに伝わらなくてもいいんです。けど、誰かが「あれ!?」って気づいてくれたらおもしろいかなって。

泉まくらというプロジェクト

 日本語ラップの何が泉をそこまで惹き付けたのだろう?

泉:昔から自分に自信を持てなかったんです。プライドが高いわりに何かをできるわけでもなくて、とりたてて容姿がいいわけでもない。それに小学校の頃、上級生にちょっといじめられたりもして、徐々に「自分には何もないんだ」って思うようになったんです。でも、中高でやってた吹奏楽はけっこういい感じで。練習もすごいして、部員の中では誰にも負けないくらい演奏できるようになってました。音楽ならやれるんじゃないかって気にもなってたんです。だから、高校を卒業したら音楽の学校に行きたかった。そしたら、親に反対されて。「お前、音楽学校なんかに行って将来どうするんだ?」って言われたときに、何も言えなかったんですよ。いま思えば、親に反対されて諦めるくらいだから、そのときは「音楽でのしあがっていく」なんて意識はなかったでしょうね。その程度のものだったんです。でも当時のわたしにとって、それは挫折でした。音楽の道が断たれてしまったことで、また自信のない自分に戻ってしまったんです。それで高校を卒業して親に言われるがままに就職しました。ちょうどその頃に日本語ラップと出会ったんです。
 ヒップホップを聴いていると自分が強くなれたような気がして。自信を持てないその頃のわたしは、ずっとヒップホップを聴いてました。でもそのときは自分がラップするとは思ってなくて、このまま普通に働いて、貯金して、みたいな感じで人生を過ごすのだろう、と感じていたんです。でも、途中でそういう生活のなかにいることに対して、疲れちゃったんですよ。わたしは自分ががんばっていることが目に見えた形で残らないと嫌なタイプで。仕事をしているときはそういう部分で結構無理をしていました。そしたらふとした瞬間に「わたしはなんのためにこれ(仕事)をやっているんだろう?  何が楽しいんだろう?」って思っちゃって。そしたら精神的にガタっとくずれちゃって。認められないとダメと思っていたというか、誰かがいいって言ってくれないと自分のやっていることは正しくないんだ、足りないんだって思いがあって。だからラップをはじめた頃も人にとやかく言われるのが本当に嫌でした。いまはもうそうでもないですけど。もちろん「いい」って言ってもらえれば嬉しいですけどね。でも、そのことで一喜一憂はしない。

 では学生時代の泉まくらはどんな人物だったのだろう。深いカルマを背負った人間だったのだろうか?

泉:ぜんぜん(笑)。吹奏楽部では副部長してたし、誰とでも喋れるわけじゃないけど普通に明るくて友だちもいっぱいいました。でも大事な場面で人と合わせられないというか。たとえば、ここはあなたが「うん」と言えばすべて丸く収まりますよ、みたいなシチュエーションで「うん」と言えないことが多い(笑)。でも、なんかそれでも許されるような気がしたのがヒップホップだったかな。ヒップホップはなんでもありじゃないけど、なんていうか楽しめそうっていうか……。ありのままを許容してくれるような感じがしました。

 そんな彼女がラップをはじめたのは、友人の何気ない一言だったという。

泉:ラップ自体はずいぶん前からやってみたいと思っていたけど、思っていただけというか。「いいなー、いいなー。男の人はいいなあ、こんなことができるのかあ。カッコいいなあ」ってずっと思ってたんですよ(笑)。でもそういう思いをふつふつと溜めていただけで、なにも動いてはいませんでした。そしたら友だちが「やりたいんだったら、まず録ってみるといい」ってインスト集をくれたんですよ。そのインストに合わせてラップをはじめたのがきっかけですね。2011年かな。

 彼女が日本語ラップに見ていたカッコよさと、彼女のラップのカッコよさは明らかに異なる。本人いわく「ふつふつと溜めていた」思いはラップをはじめることで発露されたのだろうか?

Kussy:泉が最初に書いた曲はファースト・アルバムの『卒業と、それまでのうとうと』にも入っている“ムスカリ”って曲で。アルバムではオムス(OMSB)くんにトラックをお願いしているんですが、原曲はBLACK MILKのインストに泉がラップを乗せているんです。その曲なんかは、リリックがめちゃくちゃハードで(笑)。この子はトラックありきなんですよ。リリックはトラックからインスパイアされて書いているんです。

泉:いまのわたしのスタイルから考えると“ムスカリ”はぜんぜん違いますよね(笑)。鬱々とした思いは自分のなかにあったんだけど、“ムスカリ”を作ったことでそれが膿として出ちゃったというところはあるかな。でも、自分としてはそういうハードな曲が「もういいや」ってなってるわけじゃなくて。最初にもらったBLACK MILKのインストからインスパイアされたものがたまたまそういうかたちだったんですよ。そして次にもらったトラックがたまたま“balloon”だったというだけです。あのトラックでハードなことをするのも違うし。本当にわたしのリリックはトラック次第なんですよね。

 では、“ムスカリ”以降の曲は自身のパーソナリティが反映されたものなのかと訊くと……。

泉:自分としてはけっこう「作ってる」イメージですね。ドキュメントというよりは小説に近いというか。自分の感じたことももちろんあるけど、それは全体の20%くらい(笑)。トラックを聴いて感じたテーマを自分の頭の中で膨らませていって、わたしだったらこういうときにどう考えるか、どういう景色が見えるのかって考えてリリックにしていきます。そこに伝わりやすい言葉を選ぶ作業を足す。

Kussy:泉は“balloon”で才能が開花したんです。そのトラックを作ったのがnagacoってプロデューサーでした。彼が泉の才能を引き出したんだと思います。だから『卒業~』も『マイルーム・マイステージ』もメイン・プロデューサーはnagacoで行こうっていうのがみんなの共通認識でした。でも全部nagacoが手掛けてしまうのも、つまらないじゃないですか。だから泉のそういう資質も鑑みて、MACKA-CHINさんやEVISBEATSさんのようなヒップホップ寄りの人から、kyokaさんみたいなエレクトロニカ寄りの人までいろんなプロデューサーと組ませてもらって、彼女のいろんな引き出しを開けてもらおうと思ったんです。そういう意味では「泉まくら」はみんなの共同プロジェクトみたいな部分もけっこうあるんですよね。

泉:今回のアルバムはたしかにバラエティに富んでいて、ラップもいわゆるまくら節みたいなものはないと思うんです。でも、それはひとりの人間のできることがひとつじゃないのと同じように、トラックを聴いたときに思い浮かぶこともひとつじゃないから、まくら節みたくならないのは、わたしとしては当然のことだと思っています。

MACRA-CHIN

 しかしコラボレーション作業は口で言うほど簡単なものではないようだ。

泉:“真っ赤に”の制作は本当に大変でした。いままでいちばん悩んだ曲かもしれない。あんなふうに「ずっちゃちゃずっちゃ」って鳴るビートをわたしはいままで聴いたことがなくて。「どうしてくれようか?」みたいな感じでしたね……。

Kussy:MACKA-CHINさんからまくらの声がああいうラヴァーズっぽレゲエ風のビートに合うんじゃないかと。

泉:でもMACKA-CHINさんから来たトラックのファイル名が「MACRA-CHIN」(まくらちん)ってなってたんですよ(笑)。それ見たら「頑張ろう」って思えて、タイトルをMACKA-CHINさんと「まくらちん」から連想して「真っ赤に」にしたんです。そこからいろいろイメージを膨らませていきました。

 赤はとても女性的な色だと思っていた。ルージュやマニキュア、そして生理。どろどろとして女性の情念のようなものが込められているリリックかと思っていたが、ふたを開けてみれば元ネタはMACKA-CHINがつけたかわいらしいファイル名だった。

泉:たしかにいろんなトラックをもらえるのは嬉しいですよ。わたしはつねにトラックと1対1で向き合ってたいんです。それを続けた結果、いまのようになったというか。“新しい世界”みたいなトラックと“真っ赤に”みたいなトラックをいっしょにもらえるラッパーって少ないと思うし。わたしがそういうふうにもらえるっていうことは、「できるだろう」って思ってもらえてるのかなって。だからわたしとしてはつねに柔軟でいたいんですよ。「これはわたしの感じじゃない!」とかっていうよりも、いろいろなことを試して楽しみたい。

Kussy:泉はいま、いろんなビートをもらって、「こんなのが書けたんだ!」みたいな感じで自分のなかのいろんな才能に気づいている段階なんです。でも、唯一書けかったのは食品まつりってトラックメイカーのビートで。『160OR80』にも参加していた人でジュークのトラックなんです。泉は楽譜が読めるぶん、ジュークの変則的なビートは苦労するみたいで。いまも挑戦している最中なんですけど。

泉:聴いてるぶんにはカッコいいんですけどね(笑)。そこに自分が入ると思うと、なかなか……。

 泉の挑戦はいまも続いている。

マイルーム・マイステージ

 『マイルーム・マイステージ』というタイトルを聞いたとき、これはCDを出す以前の彼女のことなのではないかとわたしは思った。自分の部屋をステージに見立てて、「強くなれるヒップホップ」に憧れながら、コツコツとラップを録り溜めているような。

Kussy:たしかに彼女は「部屋感」のある人というか、引きこもり感のある人ですからね(笑)。レコーディングも自分の部屋でやってるし。

泉:でも引きこもっているかと訊かれれば、いまのわたしは意外とそうでもないんですよね。精神的にまいっていた時期は、「やっとベランダに出られた」みたいな状況だったこともあったんですが。

 アルバムの冒頭でも宣言される『マイルーム・マイステージ』というコンセプトはどのように生まれたのだろうか?

Kussy:『マイルーム・マイステージ』というコンセプトを最初に決めて制作をはじめたわけではないよね。

泉:あのコンセプトに関しては、何曲かリリックができて、その歌詞を読んでいて「あたしはいま部屋にいるんなだな」って感じたんです。そこから「マイルーム」というキーワードを思いつきました。でも「マイルーム」だけだと、あまりに限定的な気がしたので、何かないかなと思って考えて「マイルーム・マイステージ」という言葉に行き着いたんです。しかも、アルバム冒頭の朗読は最後に入れましたし。最初はラップのアカペラにしようって考えてたんですが、「これからこういう感じでやりますよ」っていうのが伝われば朗読でもいいのかなって思って、あの感じにしたんです。

 ドキュメントではなくあくまでフィクション。大島智子のヴィジュアル。彼女のリリック。ヴァラエティに富んだサウンド。『マイルーム・マイステージ』は作品として完成されている。

Kussy:僕の中では構成とかアルバムの長さとかのバランスは完璧ですね。

 オルタナティヴなヒップホップ・アルバムに仕上がった『マイルーム・マイステージ』。彼女は自分がプレイヤーになったいま、日本語ラップのシーンを意識したりするのだろうか?

泉:どっちでもいい……。

Kussy:でも「泉まくらはJ-POPじゃん」って言われるのも寂しいでしょ?

泉:そうですね。とは言え、自分がどう観られたいとかっていうのもぜんぜんないです。つねに全力でやれば誰に何を言われようとも大丈夫かなって。でも、「泉まくらはラップしなくていいじゃん」とか、「アイドルみたいな女の子ラッパーになればいいじゃん」とかって言われることもあると思うんですけど、そこは意地っていうか。わたしは音楽がやりたいわけであって、アイドル的な存在になりたいわけじゃないんですよ。「やっぱりイケてる女子になれない」っていう自分のスタンスが、わたしはけっこう気に入ってる(笑)。

Kussy:自分のイメージとしては、いまの泉まくらを保ちつつ進化してポップ・シーンにまで届くようにすればいいかなと思っているんです。いま、泉はアニメの仕事をしていて、菅野よう子さんとmabanuaさんと曲を書いてるんです。レーベルの僕らとしてはできるだけ、彼女にたくさんの可能性を作って、そこから彼女自身の新しい引き出しを開けてもらえればと思っています。そういえば昨日、イラストをやってもらってる大島智子からメールがあったんですよ。彼女が“candle”で初めて前向きな女の子が描けましたって内容で。これは彼女が楽曲から自分の違う引き出しを開けてもらったってことだと思うんですよ。そういう意味でも泉くらっていうのはみんなにとってのプロジェクトであり作品なんですよね。関わっている全員が楽しんでいて、本当にすごくいい状態です。

泉:……本当ですか!?  知らなかった。嬉しいな。

会場限定発売!
toe / collections of colonies of bees ジャパン・ツアー2014 記念Tシャツ完成!
*各会場のみでの販売になります。数に限りあり!お早目にどうぞー!

まずtoe と collections of colonies of bees (以下コロちゃん)のカップリング・ジャパン・ツアーは2009年に行なわれ、更に言うとコロちゃんの全身バンドであるpeleは02年に来日しtoeと共演。更に更に「toe//pele」、そして「toe//collections of colonies of bees」名義でスプリット・シングルもリリース。そしてコロちゃんの最新アルバム『SET』の解説をtoeの山嵜廣和氏が執筆していて……と、この二バンドは本当に仲良し。そしてお互いをリスペクトし合っている訳です。そんな友情が本当に眩しいカップリング・ジャパン・ツアーが再びみなさんの前で始まってしまいます。繰り広げられる抱擁の嵐にみなさんも号泣するに違いない!ハンカチ持ってお越しください。

【toe】

 もはや説明不要。日本が世界に誇る最高のインストゥルメンタル・バンド。2000年に結成され、そのアグレッシヴかつエモーショナルかつダイナミックかつ繊細なサウンドで世界中のファンを虜に。昨年行われたアメリカ・ツアーはもちろんソールドアウトを連発。
https://www.toe.st/


【collections of colonies of bees】

 今なおポストロックのスタンダードとして君臨しているミルウォーキーの伝説的バンド、peleのサイド・プロジェクトとしてスタート。pele解散後に本格的始動し、これまでに6枚のアルバムを発表、更に二度の来日も。pele直系のポップでシャープなロック・テイストと、エレクトロ~ミニマル・アプローチ、そしてシューゲイズなエッセンスまでもがマッチしたインストゥルメンタル・サウンドは唯一無比。ちなみに主要メンバーはBon IverとのプロジェクトVolcano Choirでも大回転中。
https://www.collectionsofcoloniesofbees.net/




ライヴとの連動シリーズ、「Beckon You !!」 スタート!!!!
作品を購入→ライヴに行ったら会場でキャッシュ・バックしちゃいます!!


注目のアーティストを中心に作品とライヴを連動させちゃうのがこの「Beckon You !!(来て来て〜おいでおいで〜の意)」シリーズ。
1/22リリース、collections of colonies of beesの最新アルバム『SET』貼付のステッカーを公演当日にお持ち下さい。その場で500円をキャッシュバック致します。もちろん前売り券でも当日券でもオッケーです!


ele-king presents
toe / collections of colonies of bees Japan Tour 2014

3/4(火) 渋谷TSUTAYA O-nest (03-3462-4420)
adv 4,500yen door 5,000yen (without drink)
open 18:00 start 19:00
*2014.2.11~チケット発売
チケットぴあ(Pコード:P:223-557)
ローソンチケット(Lコード:70044)
e+

3/5(水) 名古屋APOLLO BASE (052-261-5308)
adv 4,500yen door 5,000yen (without drink)
open 19:00 start 19:30
*チケット発売中
チケットぴあ(Pコード:P:223-442)
ローソンチケット(Lコード:46308)
e+

3/6(木) 心斎橋Music Club JANUS (06-6214-7255)
adv 4,500yen door 5,000yen (without drink)
open 18:00 start 19:00
*チケット発売中
チケットぴあ(Pコード:P:223-509)
ローソンチケット(Lコード:52170)
e+


*各公演のチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netでも受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をメールにてお知らせください。当日、会場受付にて予約(前売り)料金でのご精算/ご入場とさせていただきます。


主催・制作:ele-king / P-VINE RECORDS
協力:シブヤテレビジョン ジェイルハウス スペースシャワーネットワーク 
TOTAL INFO:ele-king / P-VINE RECORDS 03- 5784-1256
event@ele-king.net
www.ele-king.net


toe、collections of colonies of beesも出演!!

Booked!
https://booked.jpn.com/index.html

3/8(土)新木場STUDIO COAST(03-5534-2525)
toe / cero / mouse on the keys / ROTH BART BARON / NINGEN OK /
collections of colonies of bees(US) / ペトロールズ / LAGITAGIDA /
YOLZ IN THE SKY / グッドラックヘイワ / Climb The Mind / VIDEOTAPEMUSIC /
STUTS / THE OTOGIBANASHI’S / DJみそしるとMCごはん / Slow Beach
……and more

*こちらの公演は「Beckon You !!」対象外となります。

日本先行発売!!
コレクションズ・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズ 『セット』


PCD-20291
定価2,000yen(without tax)
Release:2014.1.22
解説:山嵜廣和(toe)


1. G(F)
2. E(G)
3. B(G)
4. C(G)
5. D(F)
6. F(G)

ele-king Help wanted - ele-king

 たしか2009年の秋から冬に変わる頃、ワタクシは自宅の台所のテーブルにノートパソコンを置いて、宇川直宏の電話の指示に従いながらオープンしたのが、web ele-kingでございます。懐かしいですね、まだDOMMUNEがオープンする前でした。そこからなんとか、いろいろな人たちの助けや、いろいろな世代との出会いもあって、こうしてやってこれているわけであります。まだまだ理想には遠いと思ってはいますが、はじめた頃に比べたらずいぶん幅広く読まれるようになったと実感しております。
 さて、それでweb ele-kingはじまって以来の、スタッフ募集です。デスク業務です。ワタクシと橋元の机に挟まれながら作業しなければならないという、おそろしい環境ですが、とにかく音楽の話が好き、文章を読んだり書いたりするのが好き、CDやレコードを買うのが好き、音楽メディアと編集業務に興味がある人、そして気持ちがある人、待っております。編集部の菅村君から「ファッションやアート、ライヴ好きの方もヨロシク!」とのことです。とはいえ、おそらく皆様が思っている以上に地味な仕事ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。(野田) 


【職種】
デスク

【仕事内容】
書籍・WEB編集補助業務
(資料作成及び発送、データ入力、原稿整理、画像整理)

【求めるキャリア・スキル・応募資格】
・基本的なPC操作
・基本的なWORD、EXCEL操作
・幅広く音楽に興味をお持ちの方
・基本的なPhotoshop、Illustrator操作できる方、優遇。

【雇用形態】
アルバイト(学生歓迎 ※大学生以上)

【勤務地】
東京都渋谷区 本社

【交通】
JR線 「渋谷」駅より徒歩6分

【勤務時間】 
週2~5日(月~金)10:00~18:00(原則)

【給与】
時給 870円以上

【待遇条件】
交通費全額支給 (学生の場合は通学定期の経路外を支給)
試用期間2ヶ月

【休日休暇】
完全週休2日制(土・日)、祝日、夏季・年末年始休暇

【募集人員】
若干名

【応募方法】
履歴書(写真添付、Eメールアドレス明記)及び職務経歴書(書式自由)を同封の上、下記宛先までご郵送ください。
※好きな音楽等も明記ください。

【書類送付先】
<郵送>
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町21-2 池田ビル2F
株式会社 Pヴァイン 人事担当宛て
※履歴書在中の旨、ご明記下さい

<メール>
job@p-vine.jp のアドレス までお送り下さい。

【応募締切】2014年2月10日
※書類選考の上、面接対象者のみ、当社より締め切り後2週間以内にご連絡いたします。
※応募書類はご返却いたしません。ご了承下さい。
※応募書類につきましては今回の採用選考にのみ使用し、同意なくそれ以外の目的に利用したり、第三者に提供する事はございません


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