「OTO」と一致するもの

Baths、オフショット! - ele-king

 いよいよツアーは来週から!
 バスは最初の来日の折からラップトップとサンプラーを駆使するスキルフルなライヴを行っていたが、あのドリーム感の裏側に、デイデラスに見初められ、〈ロウ・エンド・セオリー〉でのDJを務められるスキルがあるということは重要なポイントだ。もしかすると、セカンド・フル『オブシディアン』から聴きはじめたファンは、彼のそうした側面をあまりご存知ないかもしれない。ぜひ、ライヴ映像なども探してみるといいだろう(https://www.tugboatrecords.jp/)。
 そして見応えある彼のショウをさらに楽しむために、彼の愛すべきキャラクターもあわせてご紹介しよう。


初来日の際に真っ先に向かった〈ポケモンセンター〉前でのもの。
バスは日本のアニメが大好き!
来日の際は〈三鷹の森ジブリ美術館〉にも執着するとのこと。
Lovely Bloodflow”は『もののけ姫』の世界のイメージなのだとか。

2度めの来日では、奈良の鹿が見たかった――。
シカ耳は新しかったね。
ご当地キャラ感も出ています。


今回のヨーロッパツアーを終え、休暇中の写真。
温泉にいったようです。
ちょっと痩せたのかな?

来日情報はこちら。
各公演のゲストも注目アクトばかりだ。
SeihoとBaths対決@京都も、編集部はみんな観にいきたかった! Madeggまで観られるんだから、行ける人はぜひこの機を逃さないように! 放射される熱量が強すぎてハコが発火してしまうんじゃないだろうか。

LAが誇る若きビートメーカーBaths来日公演!!
Tugboat Records presents Baths Live in JAPAN 2013

■12/13(金) 名古屋池下CLUB UPSET
OPEN / START 24:00
ADV ¥4,200 / DOOR ¥4,700(共にドリンク代別)
Act:Baths, DE DE MOUSE + his drummer (Akinori Yamamoto from LITE)
DJ: I-NiO, sau(otopost), LOW-SON(しろー + オクソン)
VJ: Clutch
[Buy] : 9/7(土曜)〜
チケットぴあ(P: 211-365)
ローソンチケット(L: 41184)
e+(https://eplus.jp)
※名古屋公演はオールナイト公演ですのでIDをご持参下さい。

■2013.12.15(日) 京都メトロ
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV¥4,000(+1Drink)/DOOR¥4,500(+1Drink)
Act:Baths,Seiho,Madegg
[Buy] : 発売中
チケットぴあ(P: 208-539)
ローソンチケット(L: 59065)
e+(https://eplus.jp)
前売りメール予約→ticket@metro.ne.jpでも受け付けています。
前日までに、公演日、お名前と枚数を明記してメールして下さい。
前売料金で入場頂けます。

■2013.12.16(月) 渋谷WWW
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV¥4,500(+1Drink)/DOOR¥5,000(+1Drink)
Act: Baths,Taquwami,Sodapop (anticon. Label Manager)
[Buy] :発売中
チケットぴあ(P: 208-502)
ローソンチケット(L: 79947)
e+(https://eplus.jp)


12月の素敵な悪夢をBathsとともに - ele-king

名門〈アンチコン〉から2枚のアルバムをリリースし、フライング・ロータスやデイデラスにつづく血統書付きの才能として注目されてきた「LAビート・シーンの鬼っ子」、バスが、3たびの来日を果たす。 ジブリを愛してやまないこの「大きな子ども」は、子どもなんかよりよっぽど奔放で、ドリーミーで、センチメンタルで、おそろしいほど感情豊かだ。その大きくうねるエモーションの帆布を満帆に張って、めくるめくノイズと旋律を放射していく彼のパフォーマンス、その異形のドリーム・ポップを、あなたはいちど目撃せねばならない。 どことなく浮つく12月の夜の空気を、バスの音はいっそうそわそわとふくらませることだろう。黄色や赤や青の光。オーナメントのシルエット。白い息。凍える梢。その奥に広がる夜空から、バスの魔法はちらちらと降ってくる。そしていつしか激しく吹きすさぶだろう。

各公演を彩るアクトも強力! 名古屋ではDE DE MOUSE + his drummer (Akinori Yamamoto from LITE)、京都ではSeihoとMadegg、東京ではTaquwami(とお馴染みアンチコンのsodapop!)、いまをときめく国内勢がバスと掛け算する、心地よくも濃密な時間を楽しもう。

LAが誇る若きビートメーカーBaths来日公演!!
Tugboat Records presents Baths Live in JAPAN 2013

■12/13(金) 名古屋池下CLUB UPSET
OPEN / START 24:00

ADV ¥4,200 / DOOR ¥4,700(共にドリンク代別)
Act:Baths, DE DE MOUSE + his drummer (Akinori Yamamoto from LITE)
DJ: I-NiO, sau(otopost), LOW-SON(しろー + オクソン)
VJ: Clutch

[Buy] : 9/7(土曜)〜
チケットぴあ(P: 211-365)
ローソンチケット(L: 41184)
e+(https://eplus.jp)

※名古屋公演はオールナイト公演ですのでIDをご持参下さい。

■2013.12.15(日) 京都メトロ
OPEN 18:00 / START 18:30

ADV¥4,000(+1Drink)/DOOR¥4,500(+1Drink)
Act:Baths,Seiho,Madegg

[Buy] : 発売中
チケットぴあ(P: 208-539)
ローソンチケット(L: 59065)
e+(https://eplus.jp)
前売りメール予約→ticket@metro.ne.jpでも受け付けています。
前日までに、公演日、お名前と枚数を明記してメールして下さい。
前売料金で入場頂けます。

■2013.12.16(月) 渋谷WWW
OPEN 18:00 / START 18:30

ADV¥4,500(+1Drink)/DOOR¥5,000(+1Drink)
Act: Baths,Taquwami,Sodapop (anticon. Label Manager)

[Buy] :発売中
チケットぴあ(P: 208-502)
ローソンチケット(L: 79947)
e+(https://eplus.jp)

DJ Yogurt (Upset Recordings) - ele-king

DJ Schedule
11/22(Fri.)@中野・Heavy Sick Zero
11/24(Sun.)@新木場・Studio Coast(Rovo and System7 Live/Opening DJを午後4時から)
11/30(Fri.)@三軒茶屋・Cocoon
12/4(Wed.)@渋谷・En-Sof
12/7(Fri.)@新宿・Be-Wave(19時-24時開催)
12/13(Fri.)@代官山・Unit
12/19(Thu.)@笹塚ボウル(りんご音楽祭・忘年会。19時-23時開催)
12/20(Fri.)@渋谷・Sundaland Cafe(19時-24時開催)
12/26(Thu.)@原宿/千駄ヶ谷・Bonobo
12/29(Sun.)@代官山・Unit
1/10(Fri.)@神戸
1/11(Sat.)@大阪
1/12(Sun.)@京都
1/18(Sat.)@高円寺・CAVE

HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial

2013年11月4日、5日の二日連続で恵比寿Liquid Roomで開催されたElectronic Music Of Art Festival Tokyo・・・
略してEMAF TOKYO 2013で自分はオープニングで50分間DJした後、その後のlive actが交代する間の「転換タイム」にもDJして、結局夕方4時から夜10時の間に計6回のDJをやりました。
このイベントはその名のとおり、基本的には電子音楽が流れ続けるイベントで、自分もこのイベント出演の為に選曲を色々と考えて、普段の週末のクラブプレイとは一味違う、「4つ打ち以外の曲だけをDJプレイする」コンセプトでDJしました。
これが自分でも新鮮で、一部のお客さん達の間でも好評だったので、当日に実際にかけた曲の中から、かけた順に10曲選んでコメント付きで公開します。
読みながら、音を聴いてもらって、当日の雰囲気が少しでも伝わったら・・・!


1
Synkro - Disappear - Apollo
お客さんが少しずつダンスフロアに来始めたPM4時半頃にPlay。
2013年に12inch2枚組"Acceptance EP"の1枚目B-1としてReleaseされた、Acoustic GuitarとElectricな音をセンス良く融合させた曲で、打ち込みだけどオーガニックな雰囲気も感じさせて、メロウなところもある曲。
R&S傘下のAmbient/Electronic Label、Apolloのここ数年のReleaseは気になる曲、興味深い曲が多い印象があり、自分にとって、Releaseする曲はなるべく一度は聴いてみたいLabelのひとつ。
https://youtu.be/-IvMw2DqP1Q

2
Lord Of The Isles - Nustron - Little Strong
2013年Release、"Galaxy Near You Part1"12inchのB-2に収録の"Nustron"は、前半は美しいAmbient、中盤にGroove感が強まって踊れそうなリズムに変化しながらも、後半は再びAmbientに戻る構成も面白く、この日は早い時間からお客さんが来つつあったので、フロアがやや賑やかになってきた時間にAmbientとAmbientの間に挟んで、ちょっと刺激を加える感じでPlay。
https://youtu.be/7BjLQovXkdY

3
Bola - Glink - SKAM
Autechre に作曲方法を教えたとも伝えられているDARRELL FITTONのユニット=Bolaが、Autechreと関係の深いマンチェスターのレーベルSKAMから1998年にReleaseした1stアルバム"Soup"の1曲目。自分はこの曲は90's electronicaを代表する名曲の一つと思ってて、Bolaの曲の中で一番好きな曲でもあったり。
https://youtu.be/pbtfx0h4pnc

4
Four Tet - Sun Drums And Gamelan - Domino
2005年にU.K.の人気レーベルの一つDominoからReleaseされた12inchのB-2に収録。
強烈にFunkyなDrum BreakbeatsのGroove上を、ガムランや笛等がミニマルに響く、ワールドミュージックとクラブミュージックの融合が産んだ傑作。
EMAF初日は自分の2度目のDJ時に既にダンスフロアがほぼ満員で、フロアのテンションが予想していたよりも高い印象を受け、Aoki TakamasaさんのliveもかなりDance Grooveを打ち出したliveになるのでは、と考えて、早い時間からテンションを上げていきました。
https://youtu.be/P7VuxbQB8bw

5
2562 - Intermission - When In Doubt
2011 年に12inch2枚組"Fever"の1枚目B-1に収録。PM4時に自分のDJで始まったEMAF2013も、3度目のDJを始める頃にはPM6時半 に。このあたりでDanceを念頭に置いた選曲でDJを始め、Aoki Takamasaさんのlive後、自分のDJ一発目にこの2562のDub Stepを。
https://youtu.be/aC2BzXUi1Ic

6
Beaumont - Rendez-Vous - Hot Flush Recordings
2012年にReleaseされたPost Dub Step良作。
MellowでJazzyな感覚も漂いつつ、リズムはDub Stepを通過した鋭さを感じさせるGrooveが心地良い。
自分にとっては多くのDub Stepがあまりにもメロデイーを軽視している気が多少していたので、この曲のようなメロディーが美しいDub Stepは待ってました、という感じ。
Hot Flushは他にもメロウな感覚が漂うPost?Dub StepをReleaseしていて、この数年すっかり注目のレーベルに。World's End Girlfriendのlive前、4度目のDJではDub Step~Post Dub Step多めな選曲でDJ。
https://youtu.be/qTn76STVKgQ

7
Throwing Snow - Clamor - Snowfall Records
1分22秒以後のメロデイーとリズムの絡みが生み出す高揚感がとてもカッコよく、2分36秒以後にはバイオリンのメロディーもミニマルに入ってきて、フツーのDub Stepとは二味違う豊穣な音楽性を感じさせるPost Dub Stepの良曲。
https://youtu.be/OAvbyO5q-hs

8
Lapalux - Close Call / Chop Cuts - Brainfeeder
World's End Girlfriendのlive直前に自分がDJ Playしたのがこの曲。
Ninja Tuneのサブレーベルから2012年冬に出た12inch"Some Other Time"のB-2に収録。
これが最新型の歌ものPOPSの理想形と思ったりすることもあるほど好きな、一応「歌もの」曲。エフェクトの使い方が強烈。
https://youtu.be/NIiRPmNmSLg

9
Divine Styler - Directrix(Indopepsychics Remix) - Mo'Wax
EMAF2013を主催したPROGRESSIVE FOrM主宰のnikさんは、以前にはDJ KENSEIさん、D.O.I.さんと3人で"Indopepsychics"という音楽制作ユニットを組んでいて、この2000年作は彼らがノリに乗っていた頃の傑作Remix。
自分がDJ光君と出会った2003年~2004年頃に、光君がよくDJ Playしていた「光クラシック」の1曲。2013年に聴いてもカッコいいと思う。
https://youtu.be/nkJIKH1GW7Y

10
Hauschka - PING(Vainqueur Remix) - Fat Cat
いよいよ大トリのCarsten Nicolai(Alva Noto)のlive直前、自分の6度目のDJの最後にかけたのが、Fat Catから2012年にReleaseされた12inchのAA面に収録の、Dubby Abstruct Electronic Grooveの傑作。
Basic Channelフォロワーの中で一番Basic Channelの感覚を理解しているんじゃないかと思う事もある、Vainquerの最近作をLiquid Roomのメインフロアで爆音で鳴らして、Carstein Nicolaiの登場へ・・・
https://youtu.be/YP7LclEsMWs

MARK E - ele-king

Mark E Japanツアー
11.22(金) 名古屋 @ Club JB’S
Info: Club JB’S https://www.club-jbs.jp
名古屋市中区栄4-3-15 丸美観光ビルB1F TEL 052-241-2234

11.23(土/祝) 東京 @ AIR
Info: AIR https://www.air-tokyo.com
東京都渋谷区猿楽町2-11 氷川ビルBF TEL 03-5784-3386

Running BackからBlack Country RootsというEPが先日リリースされました。
https://www.juno.co.uk/products/mark-e-black-country-roots/506311-01/

Merk Music:
https://mercmusic.net
https://twitter.com/mark_e_merc
https://www.facebook.com/pages/MERC/124366710936688

THE BLACK COUNTRY ROOTS CHART


1
Tony G - Simple Dreams - infinite juju

2
Glbr & Sotofett - Foliage - Versatile

3
Young Marco - In the Wind - Rush Hour

4
KDJ - Imotional Content - TP Deep remix - JDRecords

5
Mount Kimbie - You took your time - Warp

6
Roc & Kato - Jungle Kisses -eLegal

7
Mark E - Black Country Roots - Runningback

8
Pat Methany - Are you going with me - GU remix - white

9
Black Rox 1 - Black Rox

10
Frak - Matador

 アイスランドは、ビョークやシガー・ロスの出身地というぼんやりしたイメージしかなかったのだが、行った人誰に聞いても「最高!」と言われる。毎年10月末から11月にかけて首都レイキャヴィックでおこなわれる、新しい音楽の祭典、アイスランド・エアウェイヴスに初参加した。
 今年は10/31~11/3。過去には、シンズ、ラプチャー、TV・オン・ザ・レィディオ、ファットボーイ・スリム、クラクソンズなど、ヨーロッパやアメリカからバンドが参加している。
 NYからは約6時間。時差も5時間なので、西海岸に行くのと変わらない。15年前に初めてSXSWに行ったときと同じような新鮮な感情が生また。

 エアウェイヴスは、著者が知っているCMJやSXSWなどのアメリカのフェスティヴァルと違い、質が格段に良い。家族経営な感じが好印象で、まだ世の中に知られていない新しいバンドをいろんな所で発見できる。
 飛行機はアイスランド・エアを利用したのだが、音楽プレイリストに「エアウェイヴス」があり、スケジュールのフライヤーがもれなく乗客に配られる。パーティへのお誘いも、「どう、エアウェイヴス楽しんでる?」などの10年来の友達相手のような気さくな招待状。現地の人に聞くと、この期間は特別で、これでもか、というぐらいショーを見て、浴びるほどお酒を飲むらしい。
 空港に朝の6時に着き、水が飲みたいと思ったら、水の隣に普通にビールが売られ、周りを見ると、待っている人もビールを飲んでいる。エアウェイヴスが終わった次の日、レコード店に人を訪ねて行くと、「彼は今日飲み過ぎでお休み」と言われた。エアウェイヴス休暇は公認なのか?

 「朝の4時、5つのクラブに行き、10の良いバンドを見て、15人の新しい友だちを作り、20回恋に落ちた。自分は疲れ、おかしくなってる。家に帰るつもりが、アフターパーティを探してる。ここにいることが信じられないし、すでに来年また来る計画をしている。今日はまだフェスの一日目だというのに」(https://icelandairwaves.is/about/
 というエアウェイヴスの文句がそのまま当てはまる。マジックとしか思いようがない。
 レイキャビックという町は、NYのウィリアムスバーグぐらいの大きさしかなく、どこでも徒歩30分以内で歩け、フェスティヴァルにはもってこいの町である。イギリスの標準時を使い、人口は約32万人でその1/3がレイキャヴィックに住んでいるという。自然がとても美しく、着いた日に、山がピンク色に染まっていたり、寒そうな山肌を見たとき、新しい土地を意識した。

 まずはハーパというハブになっている会場でリストバンドをピックアップ。リストバンドと一緒にもらえるギフトバッグのなかには、ブルーラグーンのスキンケアグッズ、66northのニットキャップ、gullビール、reykaウォッカ、アイスランディック・チョコレート、オパル・キャンディなどのアイスランドの代表グッズが入っている。これだけでも十分アイスランド気分。

 エアウェイヴスは、公式のショーでなく「オフヴェニュー」と呼ばれる場所でのショーが昼間からあり(これだけでも十分好きなバンドが見れる)、この5日間は朝から晩まで、バンドは5~10のショーをし、DJともなると1時間おきに違う会場でプレイする強者もいた。
 シアトルのカレッジラジオKEXPはCMJやSXSW、スペインのプリマベラなどで、いつも良いメンツを集めてパーティをするので、今回もたくさん行ったが、ラインナップは地元アイスランド・バンドも含め極上だった。まったく違う会場で偶然発見したバンド、Kithkin(シアトル出身)も、後からKEXP関連だったこともわかる。

 エアウエイヴスは、時間厳守だ。時間になると、きっちり次のアクトがはじまるし、演奏時間も大体20~30分ぐらい。次のバンドまでも余裕があるので、セットチェンジの間にもうひとつ別のショー行って帰って来れる。会場がそれぞれ近いのもよい。

 以下ずらーっとレポート。カタカナ表記に直せない会場はそのままアルファベットで残し、バンドの後に表記のない物は地元のアイスランド・バンド。

11/1(fri)
5:30 pm
サマリス(Samaris)
@アイスランドエア@スリップバリン(icelandair at slippbarinn)

 最初に行った会場はスリップバリン。夕方5時だというのに外にラインが出来、ようやく入るも身動きが取れない。入口でウエルカムシャンパンを頂きステージ前へ。
 サマリスは、クラリネット(女)、ヴォーカル(女)、エレクトロニクス(男)という変わった編成。ダウンテンポ・エレクトロニカと大胆なパーカッションビートを取り入れ、ビョークのような深く唸るようなヴォーカルが乗る。その結果、古代的で現代的、非現実なサウンドにダークでエイリアンな雰囲気を醸し出す。時差ぼけも吹き飛び、ステージ前でかぶり付きで見た。ヴォーカルのJófríðurは、パスカル・ピモンというバンドを双子の妹と組んでいて、こちらはアイスランドのオルヴォワール・シモーヌという感じ。
https://icelandairwaves.is/artists/samaris/

6:00 pm
ハーミゲルヴィル(Hermigervill)
@アイスランドエア@スリップバリン(icelandair at slippbarinn)

 一緒に行った友だちが「この次のアクトもいいよ」というので残ることにする。アイスランド・エアの機内で配られたスケジュールのカヴァー/エアーウェイヴのWEB表紙の男の子、ハーミゲルヴィル。
 「ハイ、マイフレンド!」とテルミンを演奏しはじめ、そのままユニークなライブ・エレクトロサウンドへ。彼の前にずらーっと並んだ、エレクトロニカ機材を器用に操り、会場で一番楽しそうに踊っているのが彼。最高のダンスフロア! まだ6時! 聞くと彼もバーンドセンレトロ・ステフソンなどのアイスランドの著名バンドにも参加している。アイスランド、すでにヤバい。
https://icelandairwaves.is/artists/hermigervill/

8:00 pm
ムーム(Múm)
@Fríkirkjan

 教会でムームのショーがあると聞いて、行ってみると人数制限で入れない。教会の前には人だかり。周りをうろうろしてみると、ガラス張りの窓から少し中が見える。同じことをしている人と「見たいよね~」と話しながら、ステージのすぐ横の窓から覗くと、グランドピアノやアップタイトベースが見え、音も聞こえるので、ナイス! と思ったが、寒すぎて10分で退散。アイスランドでビョークと同じぐらい名前が知られている彼らは、エレクトロニック・グリッチ・ビートとエフェクト、伝統的、非伝統的な楽器を特徴とし、厳かな場所でのショーが似合うバンドだ。
https://icelandairwaves.is/artists/mum/

8:50 pm
ロウ・ロアー(Low roar, アイスランド/アメリカ)
@イドノ(Iðnó)

 ブルックリンの知り合いミュージシャンから紹介してもらったバンド。かなり大きな会場で、前に行くのに苦労するが、3人のミュージシャンが誰も手を付けないジャンルを開拓する。エレクトロポップ、美しいフォークソングのシンプルな定番アレンジに、ミニマルトーンやドローンにポストパンク要素を混ぜ合わせた、新古が出会うアイディア。
https://icelandairwaves.is/artists/low-roar-isus/

11:00 pm
オマー・ソウレイマン (Omar Souleyman, シリア)
@ハーパ・シルファバーグ(Harpa Silfurberg)

 シリアの伝説、オマーさん。CMJでも見逃したので、今回は是非見たかった。1994年にデビューし、最近まで海外では知られていなかった彼だが、すでに500以上のスタジオ・レコーディングとライヴ・カセット・アルバムがあリ、いまではボナルー、サマーステージ、グラストンベリー、ATPなどのフェスティヴァルの常連。定番のアラビック・ヴォーカル・スタイルとエレクトロをミックスし、世界中の人たちを踊らせている。ハーパ(会場)で一番列が出来ていたのも彼。アイスランドでタンクトップになれたのも、ここの観客のノリの良さが桁違いだからか。
https://icelandairwaves.is/artists/omar-souleyman-sy/

11:30 pm
ゴート(Goat, スウェーデン)
@ハーパ・ノルデュロス(Harpa Norðurljós)

 ハーパの隣の部屋へ移動し、スウェーデンの覆面バンドを見る。これも今年5月にプリマベラに行った友達から絶対見たほうが良い、とお墨付きを頂いていた。スウェーデンのコーポロンボロと言われる村出身で住民がブーズー教信者である。全員覆面で、クリスチャン服装で、目に痛いほどカラフルで、ステージプレゼンス、すべてすごいが、演奏のうまさと、フロントの女の子2人の、何か(ブーズー教呪い?)に取り付かれたようなダンスで、崇拝精神さえ芽生える。
https://icelandairwaves.is/artists/goat-se/


11/2 (sat)

4:00 pm
キスィキン (Kithkin, アメリカ)
@ヘルマー・スクエア(Hlemmur Square)

 たまたま、通りかかった会場で発見したバンドはシアトル出身。ハイパーなリズミック・シンセとトライバル・ドラム、カオティック・ギターに、前に前に出るシャウト・ヴォーカル。ベースとドラマーが一緒にスティックを持って、叩き合うパフォーマンスは、インテンスでエネルギッシュ。ベーシストはスピーカーの上に乗って飛び降りたりした。
https://icelandairwaves.is/artists/kithkin-us/

4:00 pm
シーシーアイ(Sisy ey)
@ ジョア(jor)
 と呼ばれる、3人女子はアン・ヴォーグのようなディスコ・エレクトロ・ヴォーカル・グループ。通りかかった洋服屋で、ウィスキーショットが振る舞われ、子供も一緒に踊っている。女性3人女子とDJ。彼女たちの美しい声と新しいジャンルをミックスし、世界でひとつしかない面白い才能を開拓している。アイスランドの女の子は、みんな声が深くて芯がしっかりしている。ビョークみたいなユニークな歌手は、ここには多数いるのだろう。
https://icelandairwaves.is/artists/sisy-ey/

5:00 pm
サミュエル・ジョン・サミェルソン・ビッグバンド(Samúel jón Samúelsson Big Band)
@ラッキーレコーズ(Lucky Records)

 KEXにムームを見に行ったのだが、多すぎて入れず。そのまま待つのもなんなので、近所のラッキー・レコーズに行くと、ちょうど彼らがプレイしていた。レイキャヴィックのアフロファンク・バンド、14人は、みんな思い思いの派手衣装(メインガイは、黄色と緑と青の幾何学模様)で、狭いレコード屋を占領(何せ大人14人!)。トニー・アレン、ジミ・テナーなど、国際的アーティストとコラボレートしている彼らのショーは、ホーンがメインでおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ。子供が一番喜んでたかな?
https://icelandairwaves.is/artists/samuel-jon-samuelsson-big-band/

6:30 pm
ロックロ(Rökkurró)
@KEX

 ムームは見れずだったが、1時間後に戻ってくると、KEXPがロックロを紹介しているところ。5年間このエアウェイヴスを中継し、たくさんの素晴らしいバンドに出演してもらえて嬉しいと。ヴォーカルのクリスティンはティアラをつけ、キーボードの女の子はガイコツの手を自分の手に付けちょっとハロウィン気分。メランコリックなセレナーデは、自国の寒く荒廃した景観を奮起させるが、壊れやすく滑らかなヴォーカルでユニークな暖かみも浸透させる。ムームやオラファー・アーナルド(見逃した!)ともツアーをともにし、2枚目のアルバムは日本盤もリリースされている。
https://icelandairwaves.is/artists/rokkurro/

7:10pm
キラ・キラ(Kira Kira)
@ハーパ・カルダロン(Harpa Kaldalón)

 おさげの女の子クリスティンがキラキラ。遊び心あるビーツやエクスペリメンタル・ポップが、ダーティ・メロディや、雷のようなベースラインを作る。彼女は、エレクトロ音楽やアートのエクスペリメンタル集団/レーベル、キッチン・モータースの設立メンバーでもある。今回のライヴは彼女と3人の男の子編成。トランペッター2人とトロンボーン。ドローンなエレクトロニックスとホーン隊の音は、サウンドトラックのようで、心地の良い映画館のようなソファーと会場の暖かさで夢の中へ。
https://icelandairwaves.is/artists/kira-kira/

8:00 pm
ユリア(Ylja)
@ハーパ・カルダロン(Harpa Kaldalón)

 アイスランドのジプシー・バンド? 女の子2人がアコースティックギターとヴォーカル。つま弾きギターにハーモニーの綺麗な子守唄が合わさり心地よすぎ。この会場は眠りたい人にもってこい。ギターの男の子は、英語が出来なくてごめんと謝り倒してたが、飛行機の中でも聞いたのを覚えていた。耳に優しいバンドで、エアウエイヴスは、良い物はどんなジャンルでもカヴァーしている、とまたひとつ勉強。
https://icelandairwaves.is/artists/ylja/

9:00 pm
マック・デマルコ (Mac Damrco, カナダ)
@ハーパ・シルフバーグ(Harpa Silfurberg)

 最近のキャプチャード・トラックスの5イヤーズ・フェスティヴァルにも出演していた、すきっ歯がかわいいカナダ出身の22歳。個人的には、エアウエイヴスで見たかったバンドの上位。彼のキャラが最高で、ヴィデオもCDもすぐに虜になる。ユリアが終わって会場がすぐ上なので移動が便利。歌いすぎて、声がガラガラしていたが、最上のロックンロールで、客とのコール・アンド・レスポンスも最高!最後には「サーフィンしていい?」と丁寧に断った上、ガツンと客にダイブ。ベースとギタリストのコミカルなぼけ突っ込みも受ける。
https://icelandairwaves.is/artists/mac-demarco-ca/

11:00 pm
ゴールドパンダ(Gold Panda,UK)
@レイキャヴィック・アート・ミュージアム(Reykjavik art museum)

 ゴールド・パンダ、たったひとりの男の子がこんなにも多くの人を踊らせるのは凄い。宇宙、サイケデリック、インド・テイストな映像も合わさり、ステージに彼がいるだけで、何か惹きつけるものがたしかにある。ブロック・パーティ、サミアン・モービル・ディスコなどからリミックスのリクエストが来るなど、国際的に活躍するエレクトロ・アーティスト。オマーさんの次に、一番長く列に並んだ(外だったので寒かった!)アーティスト。この時に、ビョークが後ろを歩いていくのを見る。地元なのだなと。
https://icelandairwaves.is/artists/gold-panda-uk/

0:10 am
サヴェージズ (savages, UK)
@レイキャヴィック・アート・ミュージアム(Reykjavik art museum)

 ここに入る時に、かなり列に並んだが、実はゴールド・パンダでなく、サヴェージズ狙いだったのかな。いままでで最前列に一番カメラマンが多く、後ろの人が見えないので、3~4曲後カメラ規制が入ったぐらい。CMJでも何でも彼女たちのハイプは凄い。エモーショナルなトラッシュ・ロックで、最後には客の上にダイブしたり、一番前の客の波にもまれながらそこに立って歌ってた。ワイルドで生々しく、顔をパンチされたような臨場感がある。
https://icelandairwaves.is/artists/savages-uk/

1:00 am
ゾラ・ジーザス(Zola Jesus,アメリカ)
@Gamla Bíó

 ドアの規制がとても厳しい会場で、水も持ち込めなかった。彼女もキャプチャード・トラックスからのお勧め。ファッション雑誌から出て来たような格好の彼女と、ヴァイオリン、ギター、ベース、ドラム。ロシアン・アメリカンシンガーのゾラ・ジーザスは声がとても深く地底の底まで響きそう(そして何かを呼びそう)。フィーバー・レイやエックス・エックスなどとツアーを共にしていると聞いて納得。ここも映画館のように椅子がありシート制。最後を締めるには、もってこいのパフォーマンスだった。
https://icelandairwaves.is/artists/zola-jesus-us/


11/3(sun)

4:00 pm
シャイニー・ダークリー(Shiny darkly, デンマーク)
@ラッキー・レコーズ (lucky records)

 またお気に入りのレコード屋に戻ってきた。デンマーク出身の22歳の男の子の4ピース。ニックケイヴやイアン・カーティスに影響を受けたダーク・ナルコティック・ロック。しかもルックスも良い。シアトルのKEXPやLAのKCRWなどが取り上げているのも納得。
https://icelandairwaves.is/artists/shiny-darkly-dk/

5:00 pm
キスィキン (Kithkin, アメリカ)
@ラッキー・レコーズ (lucky records)

 昨日偶然に見たシアトルのバンドが次だったので、そのまま居残る。昨日の方が印象は強かったが、すべてのセットが見れ、今回エアウエィブスで一番の収穫かもとニヤニヤする。ベースとドラム(立ちドラム)がヴォーカルで、このエネルギーはただ者ではない。

6:30 pm
ハーミゲルヴィル (Hermigervill)
@KEX

 一番最初に見たお気に入りDJをリピート。エアウエイヴスの顔だけあり、これぞアイスランドのDJ。「みんな、エアウエイヴス楽しんでる?僕はこれが最後のショーだよ」と客とのコミュニケートも最高。ラップトップでビートを作りながら、テルミンを操り、キーボードを弾き、一番忙しく、一番楽しそう。

11:00 pm
ティルバリー(Tilbury)
@ガンミリ・ガウクリン(Gamli Gaukurinn)

 一瞬ダウンしたが、またショーに戻ってくる。ドラマティックでダークでビタースイート、という文句のバンドなのだが、ラフなTシャツ、ボタンダウン姿、どこにでもいそうなお兄ちゃん5人組。60年代ギターと80年代のダークシンセと新しいエレクトロを足し、ディビット・リンチの映画に出てきそうな、と形容されるが、誇張しすぎかな。ショーの後、気さくにしゃべってくれた。
https://icelandairwaves.is/artists/tilbury/

0:00 am
モーセズ・ハイタワー(Moses hightower)
@ガンミリ・ガウクリン(Gamli Gaukurinn)

 エアウェイブス最後のバンドは地元のモーゼス・ハイタワー。大人な雰囲気を醸し出す70年代のブルー・アイド・ソウル。2008年に「レッツ・メイク・ベイビーズ」というシングルでアイスランド・リスナーの注意を引いたらしいが「みんなが親戚」というアイスランドなので、今回のフィナーレに相応しい。メンバー(ホーン隊)キャラかぶり過ぎで、ダン・ディーコンがメンバーに4人いるかと思った。
ショーが終わっても、もちろん誰も帰らない。そのままバー/DJパーティへと変わる。
https://icelandairwaves.is/artists/moses-hightower/

 他にもマムットマックなど、見たいバンドはたくさんあったがすべて見切れず、体がもう一体欲しかった。エアウェイヴスは、バンドを発見するだけでなく、レイキャビック、アイスランドの素晴らしさの発見でもあった。人が親切で、エアウェイヴスが終わった後にもうひとつライヴに行ったのだが、そこではシガーロスのメンバーが普通に飲んでいて(しかも著者は見れなかったクラフトワークのショーの帰り!)、一緒に朝まで遊んだりした。その後レイキャヴィックを出て地方に行く機会もあったが、広大な自然、アメリカでも日本でも見たことのない空の色は言葉で言い表せないほどだった。
 最後に、レコード店で発見したアイスランドのダブ・エレクトロバンドのオイバ・ラスタは、CDを聞いたらはまり、最近毎日聞いている。この寒いアイスランドで、なぜラスタ・バンドなのか。9人という大所帯のバンドは今回見れなくて残念だが大丈夫、すでに来年来る準備をしているから。

 すべてのラインナップはこちら。
https://icelandairwaves.is/line-up/

 こちらはキスィキンと一緒に旅をしたKEXPのレポート。良い写真がある。
https://www.cityartsonline.com/articles/iceland-airwaves-festival-frozen-fairytale-island

 ここからは七尾旅人NYショー

 七尾旅人さんの初のNYショーが10月29日~30日に行われた。 こちらがスケジュール
 10/29 (tue) at Pianos 7pm $8
 w/ Diane Coffee (Foxgen) and Deradoorian (ex Dirty Projectors)
 158 ludlow street
 New York, NY 10012
 212-505-3733
 https://www.ticketweb.com/

 10/30 (wed) @ Cake shop 8 pm $10
 w/ Greg Barris and The Forgiveness, Eartheater, Bodega Bay
 152 ludlow street
 New York, NY 10012
 212-253-0036
 https://facebook.com/events/401758796619436

 公式2日はどちらもローワーイースト・サイドの会場。クラブとインディ・ロックな別々の顔を持つ会場のピアノスケーキショップ。それぞれ違うセットと対バンで、2日連続で見る価値は十分。ショーの後、ブルックリンでのオファーを2つ頂いたので、結果的に良かったし、違うタイプの観客にもアピールできたと思う。

10/29 (火) @ ピアノス

 NYではかなり早い7時にはじまる。
 共演バンドは、フォクシジェンのドラマーのディアン・コーヒー、元ダーティ・プロジェクターズのメンバーだったエンジェルのデラドーリアン。
 https://www.pianosnyc.com/showroom/diane-coffee-10292013

 この日は旅人さんが希望していたドラマーのライアン・ソウヤーとの共演。

 ライアンはボアドラムでも日本に行ったり、リィス・チャザムの200ギターの唯一のドラマーとして参加したりしている。
 https://www.villagevoice.com/2009-08-04/voice-choices/rhys-chatham/
 前日に彼が参加する新しいバンド、ヒッギンス・ウォーター・プルーフ・ブラック・マジック・バンドを押し掛け、ぎりぎりで出演許可を頂いた。

 7時過ぎに登場し、英語の音声で本人の紹介。衣装は羽織に下駄。“星に願いを”、“オーモスト・ブルー”など2~3曲弾き語りの後は、ライアン・ソウヤーが登場。後は、めくるめく宇宙戦のようなインプロの嵐。旅人さんはエフェクトを駆使し、歌い、動き回りながら、ライアンとのプレイを心から楽しんでいるように見える。それに煽られ、オーディエンスの熱気も上昇し、演奏が終わった後は、拍手が鳴り止まなかった。リハーサルもないのに、この絡みは、はじめて会ったとは思えない。ライアンも終わった後は珍しく上機嫌で、「次もプレイする事があれば誘ってね、いやプレイできなくても見に行くよ。」と。次のデラドーリアンもディアン・コーヒーも、「今日は旅人とプレイできて嬉しい」とステージで賞賛していた。

10/30 (水) @ケーキショップ

 ハロウィンが次の日ということもあり、コスチュームな人もいる。出演は旅人さんを入れて4バンド。
 ボデガ・ベイはまだ結成して4ヶ月という新しいアート・ロック・バンド。ベースとドラマーの女の子が(ハーフ)日本人、ギター&ヴォーカルが白人、ギターがラテン系という、いかにもブルックリンなバンド。
 アース・イーターはガーディアン・エイリアンのアレックスのソロで、ガーディアン・エイリアンのファンである著者は楽しみだった。ロシア~東欧な雰囲気のコスチュームにゴス系メイク、黒リップ、バンジョー弾き語り。彼女自身がアート作品である。このショーの後、旅人さんは、3日後のガーディアン・エイリアンのショーに参加しないか、というオファーを頂く。
 https://eartheater.org

 グレッグ・バリスは、NYのコメディアンで、普段はハート・オブ・ダークネスというバンドを率いるが、今回はフォーギヴネス名義で登場。「ハローレディス・アンド・ジェントルマン、グレッグ・バリーーーース!!!」の声を合図に大暴走が続く。メンバー全員が一曲ずつヴォーカルを取り、コメディあり、客とのコール・アンド・レスポンスありで会場を盛り上げる。
 gregbarris.com

 11時に七尾旅人さんの登場。今日は完全にソロ。昨日来たお客さんもちらほら見えた。何日間か前に亡くなったNYの偉大なミュージシャン、ルーリードの「ウォーク・オン・ザ・ワイルド・サイド」の日本語カバーも披露し、1曲1曲拍手喝采を誘った。英語がしゃべれなくてごめん、と日本語でMCをしたり、予定時間をオーバーしても演奏が続き、旅人さんがNYで表現したかった物、思い、などが痛いほどオーディエンスに伝わってきた。
 ふたつのオフィシャル・ショーの後、会場とバンドからふたつのオファーがあり、ひとつはライアンと三味線奏者(!)のトリオ、ひとつはガーディアン・エイリアンのショーにヴォーカル参加した。
著者は残念ながら、参加できなかったので(アイスランドにいた)、本人の感想がその都度、ツイッターでつぶやかれているのでご参考に。
 https://twitter.com/tavito_net

 フライヤーをたくさん撒いたり、共演バンドとも、たくさん話をしたが、みんな旅人さんとプレイできたのは素晴らしい経験だったとのこと。何でも自分で行うDIYなアメリカなので、実際来てプレイしてみないとはじまらない。今回はよい例だと思う。ライアンやその他のミュージシャンと旅人さんのショーの前の告知
 https://www.brooklynvegan.com/archives/2013/10/japanese_artist.html

 小さな子どもたちが親から離れ、ちょっとした冒険に出る。生まれて初めて親から離れ、ひとりで大仕事を終えて誇らしげな顔で戻ってきた我が子を、親は号泣して抱きしめる……幼児持ちにとっては世界でいちばんスリリングなロードムービーといっても過言ではないテレビ番組『はじめてのおつかい』(日本テレビ)。いつもは子どもの人権に配慮した作りになっているのですが、今年の1月14日に放送されたあるおつかいは、なかなかにハードなものでした。

 お使いに出されるのは、まだ足取りもおぼつかない3歳の女の子。家から遠く離れた2軒(うち1軒は混雑した量販店)のお使いという過酷なミッションに当然応えられるわけもなく、道に迷って泣いて帰ってくる。つれなく追い返そうとする母親。娘に対するものとは打って変わったねこなで声で5歳の息子を呼び、「○○く~ん、途中まで送ってあげてくれる?」。まだお使いをしたことがないという5歳の兄は、威張って妹を送り出す。妹のお使いの内容のうちひとつは、兄のおやつを買ってくるというもの。まわりの大人たちの助けで兄のおやつをどうにか買い、量販店にたどり着いた3歳の女の子は、大人たちでごったがえす店内で突き飛ばされ、尻餅をつき、疲れ果ててその場で眠ってしまう。けなげにも3時間かけておつかいを終えた女の子を、お母さんはそっけなくねぎらうだけ。あれ、感動の抱擁は? 号泣は?

 「虐待じゃないか!」ええ、みなさんそう思いますよね。私もあやうくクレーマーと化すところでした。しかし最後に大人になった彼女が歌手デビューしたという映像が映り、そのおつかいが21年前に撮影されたものであることがわかると、「ああ、そういえば昔の女の子の扱いってこうだったワ」と、妙に納得してしまう自分がいたのでした。

 女の子を男の子と同様に大事に育てる。この風潮は当たり前のように見えて、少なくとも庶民の世界ではさほど長い歴史のあるものではありません。現代女児文化は、女児の扱いの変化を措いては語れないでしょう。1970年代の女児育児書のベストセラーをいま読み返してみると、「女の本分は家事育児であるから、子供ができたら仕事はやめるべき」「女の子が知識をひけらかしたらかわいげがなくなるので厳しく注意せよ」「夫に文句を言われても言い返さずに「本当に気がつかなくてごめんなさい」と謝る妻に育てなくてはならないので、女の子が高慢な態度をとったらことあるごとに指摘するべきである」「女の子は清潔と貞節を教えよ。白以外の下着は女性には不適切である」などという内容でのけぞってしまいます。いまこんな育て方をしたら(特に娘の退職や下着の色を勝手に決めたりしたら)、「毒親」呼ばわりは必至です。とはいえ、女性のロールモデルが従順な妻/母のみで、婚家に従わなければ路頭に迷うしかなかった時代、現代育児の主流であるところの「自主性の尊重」や「褒め育て」なんてもってのほかだったのかもしれません。

 女児の扱いの変遷は、女児のネーミングからも見て取られます。明治安田生命保険の生まれ年別女性名ランキングを見てみましょう。幼くして子どもが亡くなることの多かった大正時代には「千代」「千代子」「久子」などの長寿を祈る名前が、昭和初期には「幸子」「節子」「信子」「孝子」「貞子」などの貞節を重んじる名前が、高度成長期には「由美子」「久美子」「明美」「真由美」などの美しさを意識した名前がトップ10に入るなど、そのときどきの世相に合わせた意味をもつ名前が流行するのですが、1980年代中盤からちょっとした異変が。「麻衣」「彩」という、文字上の意味だけでは親の願いをくみ取ることが難しい名前が上位に登場するようになったのです。「麻衣」という名前に、「麻の衣類のように吸湿性が高いが保湿性には乏しい女の子になってほしい!」といった願いが込められているようには思えません。期待されているのはきっと、「麻」という漢字がイメージするさわやかさと、「まい」という語感のかわいさ。2000年以降はイメージ重視の傾向に拍車がかかり、「さくら」「葵」「陽菜」「萌」「優花」などの植物名を盛り込んだ名前が全盛になります。21世紀に入っていきなり植物大好き人間が増えたとも考えづらいので、植物のかわいらしく優しいイメージを我が子に投影してのことでしょう。女児名に使われる人気漢字ベスト25を見ると、「愛、菜、花、心、美、奈、結、莉、優、音、咲、希、乃、彩、陽、子、桜、香、羽、衣、那、紗、里、梨、葵、華」となっており、やはり植物、布系強し。末尾に付けるとかわいい語感になる「那」「奈」「菜」「乃」も人気です。また、皆さんご存じのとおり「難読名前」「キラキラネーム」と呼ばれる個性的すぎる漢字遣い・読み方の名前も増えてきました。語感や字面のイメージが優先されるようになったのは、少女マンガに親しんだ世代が親になったせいもあると思います。例えば大島弓子の1970~80年代の作品のヒロイン名を書き出してみると、なずな、衣良、いちご、黄菜(きいな)、鞠、果林、杏子(あんず)と、現代の名付けセンスを先取りしたものが多いのです。少女マンガのヒロインの要件は、どのようにふるまっても愛されうるかわいさと、主人公を張るに足る個性的でワン・アンド・オンリーの存在であること。私たち現代の親も、娘に同じ事を期待しています。もはや女児は量産型の家事要員でも、嫁に出すまで貞節を守らせる交換財でもありません。自ら芽を出し世界に一つだけの花を咲かせるまで親が水をせっせと運んでやる、愛護されるべきかわいらしい存在なのです。

 女の子の個性や自主性が尊重され、かわいがられるようになったこと自体は、良い傾向であるには違いありません。娘がピンクのグッズを好むなら買ってあげたい。自分みたいに紺や茶色のお下がりを着て怒鳴られてばかりいた抑圧的な娘時代は送らせたくない。お気に入りの服を着た娘を思う存分かわいいと褒めてあげたい。そう思うお母さんは、決して少なくないでしょう。


デコ盛りネイル……。(左『ぷっちぐみ』2013年1月号、右『キラ★プリ』vol.7)

 しかし娘にねだられて購入したピンクずくめの女児雑誌をめくっているうちに、ふと思うのです。幼児向けの雑誌ですら、ファッション、コスメ、アイドルなどの情報がちりばめられている。こんな小さなうちから「女は見た目が重要」という価値観を内面化して大丈夫なんだろうか。かわいいかわいいと育ててきて、もちろんそこには性的な含みはないけれど、世間的には「かわいい」というのは容姿を含めた性的な価値の高さを意味しているわけで、つまり性的役割の重さに絶望する娘時代を過ごしたはずの私も、知らず知らずのうちに我が娘に別の重たい性的役割を押しつけていることになってやしないだろうか。キラデコ好きという趣味は尊重してあげたいけど、親としては別の価値観も提示する必要があるのでは……。

 またも私は考え込み、キラデコ好きな娘のために夜ふかししてLEDが光る折り紙作りに励んでしまうのです。


そういうことじゃないって、わかってはいるんですけど。


ギークマム 21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア
(オライリー・ジャパン)
著者:Natania Barron、Kathy Ceceri、Corrina Lawson、Jenny Wiliams
翻訳:星野 靖子、堀越 英美
定価:2310円(本体2200円+税)
A5 240頁
ISBN 978-4-87311-636-5
発売日:2013/10 Amazon

踊れないヤツこそ〈エレグラ〉へ! - ele-king

橋元:さてさて、〈エレグラ〉初心者たちによる〈エレグラ〉ワクワク対談、お送りしたいと思います。達人の方々には「ふーむぅ?」という感じで生あたたかく見守っていただくことにいたしまして、逆に「普段クラブとかダンス・イヴェントはちょっと……」っていうベッドルーマーの方たちには「エレグラ楽しいかも!?」という発見をひとつでもお届けできたら幸いかなと。じゃあまず、竹内くんは昨年初参加ということでしたね。どうでしたか?

竹内:あらためて昨年の後日談を読んできたんですけど、完全に脳ミソが痺れて残念な感じの人になってる(笑)。あれはいまからでも修正したいくらいですね。

橋元:知らないよ(笑)。

竹内:まあ、いまになって冷静に振り返ると、電気グルーヴに頭からガツンとやられて、フォー・テットにもう一歩のところで乗り切れなかった、というのがひとつのポイントでした。その後遺症か、今年は〈FUJIROCK FESTIVAL '13〉でのThe XX、その後のジェイミー・XXのDJ、それに先日のディスクロージャーのライヴがとにかく素晴らしく感じられて、数年前まで「こんな単純な4 / 4に乗れるか!」とか言っていた人間が、まんまとハウス・ビートに踊らされてしまった、という個人史の流れがあります。

橋元:ははは、それも知らないけど! でも、いま「ハウス・ビートに踊らされてしまう」というのはリアリティかもしれないですね。編集部でも90年代ハウスのリヴァイヴァル状況についてはよく話題に上がります。

竹内:でも、自分もけっこうひねくれているので、じゃあ、ディスクロージャー的な無制限にアッパーな空間に毎日、毎週、通いたいかと言うと、どうやらそうでもないなと。とすれば、今年はやっぱりファクトリー・フロアを楽しみにせずにはいられないです。あのストイシズム!

橋元:むしろ緊縛されたい、みたいな? 彼らはユニークですよね。踊るインダストリアルというか、逆に硬直させられるような攻撃性もあって。昨年、企画盤『JPN』のリリースもあってとても鮮やかな印象を残しましたが、今年はついにフル・アルバムが出ました。まだまだ旬だよね。

竹内:反復動作という行為そのもののなかにすでに快楽、報酬が含まれているというか。それを教条的に追い求めるとミニマルの引き伸ばしにしかならないだろうし、もしかすると昨年、フォー・テットに乗り切れなかったというのはこのあたりがキーな気もするんですが、ファクトリー・フロアに関してはポップ・フィールドに片足を残したままその禁欲的な道を進んでいる。そこが危うくも魅力的だし、でもそれって、〈DFA〉がこの10年でオファーしてきたダンス・ミュージックの本質じゃないかと思うんですよね。だからもう、期待しかない。橋元さんは、今年は来るでしょう?

橋元:うん、行きますよ。踊るぞー。

竹内:棒読み(笑)?

橋元:脳で踊るの。〈エレグラ〉はそういう子も浮かない、いいイヴェントっていうイメージです。竹内くんこそ踊れるの? あ、緊縛されたいのか。

竹内:緊縛を少しずつ解いていく感じです、僕の場合は。それで、ステージのピークと自分のピークが同期する瞬間が何回かあればいい、みたいな。ちょっとカッコつけました(笑)。メンツ的には、何が楽しみです?

橋元:やっぱりジェイムス・ブレイク、ファクトリー・フロア、それからノサッジ・シングと真鍋大度×堀井哲史×比嘉了も楽しみですよ。ある意味では昨年のアモン・トービン枠みたいな? 先端的な映像表現と音楽とのコラボレーションですね。詳しくはないけど、さすがに彼らの手がけた「Perfume Global Site Project」とか、ノサッジ・シングの“イクリプス / ブルー”のオフィシャル・ヴィデオ(エレグラの公式ページでも観られます)なんかは観ていて。両方とも一瞬で「あ、あれだ!」ってわかる強い作家性がありますよね。



人体をスキャンして、リアルタイムでその情報を解析して映像を投射していく、みたいな感じなのかな。生身の舞踏とMMDの踊りとかの間みたいな印象なんだけど、「身体性を解体して云々……」みたいな野暮ったい批評はあんまりなくて、素朴な叙情性に訴えかける感じとか、一見ヴァーチャル志向なようでいて、むしろ生身の身体表現を加速させる感じとかは、ノサッジ・シングはもちろん、ハドソン・モホーク、バス、ティーブスみたいな〈ロウ・エンド・セオリー〉周辺の若い世代――感情豊かでドリーミーなヴァイブを持った人たちにすごく合ってると思うんです。

竹内:なるほど。これがエモーショナルだというのは感覚として分かります。これは見逃せない感じかも……。

橋元:うん、楽しみですね! ふつうに「アレ観れるんだ!?」ってワクワクしますよ。アモン・トービンとかの映像表現とかは、やっぱちょっと腕組みしながら観なきゃいけないのかなーみたいに思うところもありますが、たぶんこっちは、現在形のアートとしてのリアリティとか説得力に加えて、アトラクション要素も期待できる気がする。

竹内:アモン・トービンは、ここだけの話、腕組みとかしちゃってましたからね、僕の場合。目に意識が集中しちゃって。もちろん、会場は盛り上がってましたけど。さて、〈DFA〉、身体性という流れで言えば、やっぱり!!!(チック・チック・チック)でしょう。2007年ごろに、「いま聴くべきはLCDサウンドシステムか、!!!か」みたいな議論があったの、覚えてます? 当時、影響力のあるライターのなかではとにかく!!!が人気だったわけです。

橋元:そうなの? たしかに両方ともロック・リスナーから愛されたダンス音楽ですね。「ダンス×パンク」とか言ってたの懐かしい。ポスト・パンク・リヴァイヴァルの文脈でも語られてましたね。でも資質がぜんぜん違うから、どっちっていうの難しいなあ。好き嫌いの問題に回収されそう。粋の魅力と、野暮の魅力。

竹内:!!!って、ハードコア/パンク/ファンクという、言い様によってはもろにアンチ・ディスコな人たちに見えたわけですよ。もちろん、ディスコの素養も最初からありましたけど、僕くらいの歳だとやっぱり『ミス・テイクス』の印象がデカくて。“オール・マイ・ヒーローズ・アー・ウィアドーズ”などに象徴されるサイケデリック・ロック・グルーヴ。「ニューヨークのヒップたちって、こんな感じなのかなー」みたいな(笑)。そんなPファンク主義者たちが、メンバーの脱退などを経て、〈DFA〉とも絡みながら少しずつマシナリーなディスコ/ハウスへと向かっていく。これは、キャリアの積み方としてすごくドラマティックですよね。新作、なんせタイトルが『THR!!!ER(スリラー)』ですから。彼らには最高のパーティ・タイムを期待!!

橋元:ふむ。じゃあ、ジェイムス・ブレイクはどうですか。2011年の初来日の模様と感動はいまでも語り草ですが、もう“CMYK”の季節ではないし、今年はセカンド・アルバムの後にすでにいちど来日公演を行っていますね。そりゃ“CMYK”とか“アンラック”とか観たいけどさ。

竹内:うーん、変な話、フェス的には絶対に必要な2曲ですが、僕は逆にやってほしくない(笑)。〈FUJIROCK FESTIVAL '13〉でのThe XXがすごかったのは、マジで全曲、アレンジをハウス寄りにアップデートしていたからです。ジェイムス・ブレイクもいま、ヒップホップやハウスのエッセンスを別プロジェクトも込みでどんどん咀嚼しているし、お馴染みの曲をやるにしても、あれくらいの大胆さをむしろ期待したいかなー。あと、ファースト・アルバムの最大のリファレンスのひとつは、ボン・イヴェールの『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』でもあったわけですけど、セカンドはもはやアントニー・ヘガティと言うか、彼のシンガーとしての勝負作でもあったんだろうと思いますね。

橋元:それは大事な話なんじゃないですか。「ポスト・ダブステップ」の代名詞としての彼も重要ですけど、実際にあれだけの人気を下支えしているのは歌だと思います。すばらしいシンガーですよね。すごく白人的だけど、ブルー・アイドってニュアンスでは断じてない、間違いなく現代のソウル。

竹内:みんなで、棒立ちで歌を聴き入ったりして(笑)。で、踊りたい人は“Voyeur”がドロップされるのを期待することになると思うのだけど、もっと普遍的に言っても、このディケイドにもっとも期待される才能のひとつとして登場した男が、いまどんな風にビートを操り、あるいは僕らをどう踊らせるのか、これは現場に行かないとわからないでしょう!

橋元:6月はどんな感じだったんでしょうね。わたしは「ビートを磨きすぎてビートがなくなった」みたいな話が大好きなんですけど、ジェイムス・ブレイクがマジのア・カペラをやったらどうなるか観てみたいな。今年は歌の年ですしね。ケレラもふくめて、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルやらインクやらオート・ヌ・ヴやら、いわゆる正道じゃないところでもR&Bがとってもおもしろくなってる。

***

橋元:さて、ベテラン勢はどうでしょう。ジャングル再燃という機運のなかリリースされたマシーンドラム『ヴェイパー・シティ』も、ダブステップとかジュークとかがきっちり噛み砕かれながら、チルウェイヴ後の耳にとっても馴染む心地よさがあって、さすがというか、楽しみですよね。いまシーンで鳴っているいろんな要素がパラフレーズされている感じ。

竹内:あえて意地悪な言い方をすると、流れの読み方がすごいというか。ジャングルとジュークをあそこまで洗練させ、しかもこのタイミングで、どことなくアンビエント風に鳴らすというのは、ちょっと真似できないでしょうね。声ネタの細かい飛ばし方なんかも、いまっぽい。通算参加回数一回の人間に言わせれば、これがいちばん一番〈エレグラ〉らしいアクトな気がするなあ。

橋元:そしてセオ・パリッシュは何度も観ていらっしゃるという方も多いことでしょう。フェスだとついついショーケースみたいな感じで、より若く新しい存在に目が行きがちですが、彼にかぎっては普通にメインという方も多いはず。ジェイムス・ブレイクなんかはいちばん喜んでいるんじゃないでしょうか。とっても尊敬してるんだよね? 初めてのわれわれは勉強っていう意味でも見ねば様です。ミネバ様です。

竹内:モードセレクターとかトゥー・メニー・ディージェイズもですね。ざっくりした言い方ですけど、どちらも「ジャンル関係なしにとにかく雑食する」みたいな、いまとなってはあえてそう自覚するまでもない越境めいた感覚で人気を博したのだと思います。だからこそいま、どんなステージを踏むのか、逆に興味ありますよね。

橋元:ソウルワックスとか懐かしい。ロックの人も相性のいいステージが期待できますよね。お祭り感もたっぷりと味わえそう。そして、シャーウッド&ピンチ。わたし〈オン・ユー(On-U)〉体験は、紙ジャケがババって出たときにちょっと聴いた、ってくらいしかないんです。やっぱりダブとかわかんないと、うちらは青くさいっていうか、生っちろいままなのかな? ごめんね、勝手に「うちら」ってくくっちゃったけど(笑)。ダブとかレゲエって文物と思ってない? わかってないがゆえに。

竹内:「自分とは世界が違うっしょ」みたいな先入観を、もしかしたら必要以上に内面化してるかも。でも、これで開き直っちゃうと三田さんとかに「それヤバいよ」って言われるだろうしなあ~。結果、うやむやになるという(笑)。

橋元:まあいっか。〈エレグラ〉で変わろうぜ。関係ないですけど、以前たまたま行ったジュークのイヴェントがすごくよくって、それは初心者をたのしく動かせてくれようとする気遣いがある会で、じんわり感動したんですよ。何事も先鋭化すると排他的な雰囲気が生まれるものだと思うんだけど、そこでは遊びに加えてくれようとする感じ、遊びの輪を広げようとする感じがすごくあって、運動神経ないけど楽しかったんです。これぞオープン・マインドというか、これは遊びなんだっていう基本が、本当の意味で徹底されていると感じました。

竹内:橋元さんがジュークって、めっちゃいい話ですね!!

橋元:そういう意味では、シャーウッド&ピンチの『ザ・ミュージック・キラーEP』はすごくオープン・マインドで、それは達人だからこその幅なのかもしれないですけど、ダブやレゲエを知らなくても楽しいんじゃないかと思います。もちろんピンチ(ブリストルのベース・カルチャーの立役者)の役割も重要で、そもそも凝り固まらない作風の方ですよね? 〈オン・ユー〉にもわりと小さい頃から馴染んでいたそうで、とても敬意ある、だけれど風通しのいいEPでした。録音とはぜんぜん違うはずだし、ライヴの方が本当というコラボだと思うので、これはマストではないでしょうか。ジャケのSpotifyを揶揄するようなデザインも、そういうことですよね。

竹内:じゃあ最後に、全体的な雑感なんですけど、昨年のラインナップと比べて規模が収縮したんじゃないかという声もあると思うのですが、それは単純に数を比べた場合ですよね。このイベントの歴史をざっと振り返ってみると、むしろこれくらいが適正規模なんだと言った方が適切かもしれない。数が絞られる分、より濃密な時間を過ごせる予感がしています。ビッグ・ネーム過ぎる大御所は出ないわけだし、全体的に海外の若手~中堅アクトが中心になっている。しかも、その多くは今年アルバムをリリースしている面々ですよね。厳選された現在形。事前の期待値で言えば、だから、僕は昨年よりも楽しみかな!

橋元:しゃっ。ele-kingは今年も物販やりますので、みなさんどうぞ遊びにきてくださいね。

yone-ko - ele-king

 yone-ko(ヨネコウ)がベルリンから一時帰国し、盟友のdj masdaとジャパン・ツアーをおこなっている。
 yone-koはベルリン在住の日本人DJ/プロデューサー。1990年代のテクノを入口に、やがて“グルーヴ・マスター”ダニエル・ベルとの出会いをきっかけとして、ミッド・テンション&ロング・トリップ、いわゆるハウス・グルーヴのミニマル・ダンス・ミュージックを究めていく。
 yone-koはセットのなかでいつだって、音数を抑えたディープ・ハウスや柔らかいテクノ、とりわけそのなかでも「踊ること」に適したトラック、それでいてどこか一癖のあるトラックを選んでいく。それらを、より気持ちよく踊るためのやり方で的確にミックスしていく。そうやって構築される、いつまででもダンスフロアで過ごしたくなるようなムードをあるダンサーは「セクシー」だと評し、ある酔っ払いは「いい塩梅」だと微笑む。2010年には「Raw Beats Required EP」のヴァイナル・リリースもあったが、なにしろyone-koは、彼がこれまでにプレイしたダンスフロアにこそ深く愛されるDJである。

 yone-koは2011年秋にドイツに渡るまでは、東京を拠点に活動していた。dj masdaらとともに主宰する〈CABARET〉は、やがてダニエル・ベルをはじめとする欧州のトップ・アーティストをたびたび招く評判のパーティとなり……いや、ここが重要なのだが、〈CABARET〉は海外アクトを「招くことそれ自体」ではなく、そうした欧州の強豪たちがyone-koやdj masdaと一緒にプレイすることを毎回楽しみにしているパーティだそうだ、それぐらいのハイ・クオリティ・パーティだそうだ……というところで全国に広く知られることとなったのである。なお現在の〈CABARET〉には元フューチャー・テラーのKABUTOも合流している。そういえばこの8月には、ベルリンのクラブ〈Club der Visionaere〉にて、現地在住のyone-koとIORI、日本からdj masdaとGONNO、4人の日本人DJによるパーティというのもあった。yone-koらは、これまでなかった形の海外⇔日本のダンス・ミュージック・ホットラインを築きつつもあるのかもしれない。

 そしてyone-koは、東京に来る前は静岡にいた。かつて野田努が“Crazy Nights in Shizuoka”と題して綴ったある夜の、さらに10年前の静岡のクラブ・シーンだ。yone-koとdj masdaの出会いも静岡だが、それ以前、彼はDJをはじめた頃に、この土地にクラブ・シーンを作った数々の顔役たちと出会ってもいる。そしてyone-ko自身が「その経験が、いまDJとしてすごく重要なものになっている」と言う。そこでこのインタヴューはyone-koを静岡時代から知る、〈Luv&Dub Paradise〉主宰のHakka-kこと五十嵐慎太郎にお願いした。

ディスコ寄りの文化、水商売系の文化を静岡のクラブで感じていて。なんかこう、『レコードかけたいからDJやってるんだ』というのとはまた違う感じの空気があったんですね。クラブへのそういう入り方が、今の自分のDJにも相当繋がってるんですよね。

五十嵐:初めて会ったのは静岡で、そのときヨネは大学生だったんだよな。元々の出身はどこなの?

yone-ko:愛知県です。西尾市の米津町というところで、ものすごい田舎なんですけど。19歳ぐらいで静岡に出てきて。

五十嵐:それが何年?

yone-ko:1999年ですね。

五十嵐:大学に入る頃にはもうDJはやってたの?

yone-ko:高2の時にターンテーブルを買いました。でもクラブではやったことなくて、静岡に出て、〈NO.3〉で初めてクラブでDJをやりました。『僕もパーティやらせてください』って言って。

五十嵐:その頃はどんなのが好きだったの?

yone-ko:テクノへの入りは電気グルーヴの『VITAMIN』で、DJをはじめた頃はハード・ミニマル。

五十嵐:アーティストでいうと?

yone-ko:ジェフ・ミルズ、田中フミヤさん、ジョーイ・ベルトラムとか。あとメッチャ好きだったのが、『NO FUTURE系』ってあったじゃないですか。クリスチャン・ヴォーゲルとか、サブヘッドとか、ニール・ランドストラムとか、デイヴ・タリダとか……まあいろいろいますけど、そこら辺がメチャメチャ好きでしたね。

五十嵐:なるほどね。実は当時、俺、ヨネのことは結構印象深くて。静岡のレコード屋でたまーに会うぐらいだったんだけど。ちなみにいまいくつになったよ?

yone-ko:34ですね。

五十嵐:34か。俺はぎりぎりディスコを知ってる世代じゃん? だからDJっていうのは水商売上がりかとか街の不良なあんちゃんとか。どっちかというと不良の匂いが漂ってる感じの人がDJになるっていう時代だったわけよ。最初はね。それからDJブームも相まっていろんな人たちがDJをやるようになったんだけど、ヨネはなんかこう、端正な顔つきで眉毛も凛々しくて(笑)、これは勝手なイメージで悪いんだけど、優等生的なイメージの子だったんだよ。言葉遣いも丁寧だし、礼儀も正しいし。その頃、ヨネから見てDJってどういうものだったの?

yone-ko:僕、高校を出てすぐ静岡に来たので、当時、静岡以外では名古屋のクラブに何回か遊びに行ったぐらいなんですけど……名古屋はどっちかというとその頃の僕寄りというか、テクノって面白いな、って言ってDJにハマって、みたいな空気があったんですけど、静岡はクラブとかレコード屋が不良ばっかりだなって(笑)。

五十嵐:お前は逆にそう思ってたんだ(笑)

yone-ko:それで僕、ほんとにいまつくづく、静岡でDJはじめてよかったなと思うんですよ。

五十嵐:そのわけは?

yone-ko:まさに五十嵐さんが言ったディスコ寄りの文化、水商売系の文化を静岡のクラブで感じていて。そうするとクラブの現場というものにも、『DJがお客さんを楽しませる場所だ』『お客さんがお金を払って来てる場所だ』という感じで、なんかこう、『レコードかけたいからDJやってるんだ』というのとはまた違う感じの空気があったんですね。クラブへのそういう入り方が、いまの自分のDJにも相当繋がってるんですよね。
 その頃のことで自分的に印象に残ってるのが、石野卓球さんが静岡でやったときに、僕もDJやらせてもらったんです。お客さんがいっぱい入ってるなかで。……で、僕、その時、好きな女の子がいたんですね(笑)。その日に遊びに来てくれてたんですけど、その子に向けたような感じでDJしまして。

五十嵐:うわ! さぶっ(笑)!

yone-ko:で(笑)、そのDJ終わった後に、ブッキングしてくれたDJ KATSUさんが……「まぁ、みんなお客さんとして来てるんだから、みんなの方を向いてやらないとな」って、一言で。

五十嵐:それは、素晴らしいアドバイスだね。

yone-ko:それが結構ガツンと来て。なんかそれはもう、いまでも印象深いんですね。それがダンスフロア全体を見てDJしよう、と思うようになったきっかけだと思います。

五十嵐:それで大学を卒業して東京に行くじゃない? 東京に出てどうだった?

yone-ko:まずレコ屋がいっぱいあっていいな、と(笑)。クラブもデカいし、いっぱいあるし。東京ではサラリーマンやってたんですけど、仕事終わって渋谷に出てレコード買いに行ったり、平日も会社にレコードと私服も持って行って、仕事が終わったら駅のトイレで着替えてDJしに行く、とか(笑)、そういう生活でしたね。

五十嵐:ダニエル・ベルと一緒にやったりするようになったのも、東京に出てからだっけ?

yone-ko:〈CABARET〉でダン・ベルを招待するようになったのは、2004年ぐらいになってからですね。ダンのDJを初めて聴いたのは〈新宿リキッド・ルーム〉で、卓球さんがやってた大晦日のマラソン・パーティ(2001年12月31日)なんですけど。その日のシークレット・ゲストがダン・ベルだったんですよね。ダニエル・ベルって、それまでは名前ぐらいしか知らなかったんですけど、その2時間でぶっ飛ばされて。

五十嵐:そのときはどんなプレイだったの?

yone-ko:そのときはですね、一言で言うと「なんかヘンな音がいっぱい詰まったテクノっぽい音をハウスのような流れでかけて、お客さんをひとつの高みまで持っていってニュー・イヤーを迎えた」みたいな(笑)。一緒に行ってた友だちと「この2時間は何だったんだ!?」ってなって。

五十嵐:要するに変態的な音だけど、フロアを一体化させる技術が凄かったってこと?

yone-ko:たぶん、自分が好きな要素が詰まってたんじゃないですかね。まず変な音が好きだし。なんかピチュピチュ、ピチャピチャした音とか好きなんですけど(笑)、それをものすごく繊細な流れでまとめてくる。それまではハードな音が好きで、どっちかというとパンチやインパクトで攻めるみたいなDJでずっと踊ってきたので、自分が聴いたことのなかったスタイルというか。やっぱり僕、入りがテクノだったんで、完全にハウスだとその頃はちょっと好みから外れちゃうところがあったんですけど、変な音満載で、しかもハウス的な流れを作ってガッチリ持って行くというのが、自分的にはかなり新しかったんですよね。

五十嵐:ユーモアの要素も必要だしな。

yone-ko:そうなんですよ。いま思うといろんなものをかけてて。リカルド・ヴィラロボスからモーリス・フルトンからメトロ・エリアから。だから、選曲にもやられましたね。〈CISCO〉で言ったら全店を回ってるんじゃないか、みたいな感じで(笑)。だからそのときに『あの人がかけてるレコードはどこら辺を掘れば売ってるんだろう?」みたいな話にもなり。それまではレコード屋さんに行ったらいつも同じコーナーだけ見て終わる、みたいな感じだったんですけど、それからはいろんなコーナーを見て、探すようにもなりましたね。

五十嵐:で、その後、ザ・サフラジェッツ(The Suffragettes)でも作品を出したじゃない。ヴァイナルで。あれ何年だっけ?

yone-ko:2006年ぐらいですね。ミニマル全盛期というか。まあ、あれは全部ソウ・イナガワ君が作ってたんですけどね。

五十嵐:俺もその頃、静岡から東京に戻って、高橋透さんのマネージャーをやるようになったんだけど、何年かした頃に、透さんのところにさ、〈Strictly Rhythm〉の20周年のMix CDのオファーが来てさ。2009年~10年かな。俺はその時に「昔のものをただミックスするよりは、日本のトラックメイカーがすごい熟してきていたから、その皆に〈Strictly Rhythm〉の音源をリエディットしてもらって、それを透さんにミックスしてもらおう」というアイディアを出したわけ。その候補は何人か挙がったんだけど、絶対決めてたのがヨネコウだったんだよ。

yone-ko:なるほど。

五十嵐:で実際にオファーして、いいものを作ってくれたんだけど、覚えてる?  開局して1週間ぐらいの〈DOMMUNE〉にも出てもらったんだよね。

yone-ko:覚えてますよ、もちろん(笑)。でもあれは結構、いま思うと、『自分がやるんだったらあんな感じにしないといけない』みたいなのがちょっとあったかもしれないですね。他のやり方もあったかな、といま振り返ると思います。

五十嵐:全然、俺としてはよかったけどな。俺はね、〈Strictly Rhythm〉の20周年企画盤って聞いたときに、透さんがニューヨークに行ってた時代から時を経ての日本のDJカルチャーの成熟、つまりトラックメイカーに限らず、日本でクラブ・カルチャーに携わる人たちが世界に通用するんだってことを表現したかったんだよ。ヨネはあの当時、自分の心境としてはどんな気持ちだった? それこそダン・ベルとの交流もあったりしてさ、自分たちのプレイとか作品が、海外のものに決して引けはとらないという意識はあったんじゃないの?

yone-ko:えっとですね、正直なところを言うと、「少なくともDJに関してはありました」というところですね。DJに関してはですね、ずっと、外タレの人が来ても、いろんなところから「日本の誰々のほうがいいよね」とか、結局パーティ終わってもそういう話がしょっちゅうだったので。そういう気持ちはありましたね。

五十嵐:だよね。もちろん海外の『超一流』のDJはいるんだけどね。

yone-ko:そうそうそう。いやもう、いま考えると、世界にはもう、素晴らしいDJがメチャメチャいっぱいいるんですけど。

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やっぱり、ベルリンのクラブは音がデカいのと、日本に比べると低音、下の部分をより出そうとしているんですね。だから低音で引っぱっていく感じに絶対なっていきますね、DJは。下の部分をいかに操って、お客さんを引っぱっていくかみたいな。

五十嵐:ただもう、あまりにも海外至上主義的な考え方は古いっていう時期にさしかかってたと思うんだ、あの時期は。それを表現したかったというのがあったので、その時にヨネと一緒にやらせてもらったというのは、俺的には感無量だったんだよ。
 それでヨネともこれからガッチリやっていけるかな、という流れで、〈GODFATHER〉の10周年で静岡で一緒にやったよね。その時に、ヨネと一緒にゲストでお願いしたのがTHE KLO。クロ君も静岡に住んでた時期があったし。それも俺的には、高橋透、MOODMAN、ヨネコウ、クロ君、とすごくいい流れで、ハウスとテクノの交流地点がつくれたと思う。そんな時に『3.11』があったんだよ。それで自分のパーティでさえも手がつかなくなっちゃったから、それ以降、ヨネとのセッションも少し遠のいてしまったんだよね。ヨネコウにとってどうだった? 「3.11」って。

yone-ko:僕、〈テクニーク〉にいたんですよ、地震があったとき。因果な話だな、と思うんですけど、自分でも(笑)。店でレコードを見てたら地震が来たんですけど、運がいいことに〈テクニーク〉の前って駐車場で、渋谷でもビルがちょうどボンと抜けてるところだったから、とりあえずそこに避難して。
 で、地震が収まった頃にもう一回レコードを見に戻ったらまた地震が来たんで、今日はもうやめよう、帰ろうと。

五十嵐:「3.11」はどう受け止めたの? その後のことも含めて。

yone-ko:自分の価値観が大転換、みたいな出来事でした。完全に。東京だから、目の前で大勢の人が亡くなったりとか、そういうのはなかったですけど、それでも充分、衝撃的で。そのときに〈テクニーク〉から出て、周りの高いビルがユッサユッサ揺れてるのを見て、「世界の終わりってこういう風に来るのかしら」みたいに思ったり……。でも本当に何が大転換したかというと、モノへの興味、モノを持つことへの興味がいきなりなくなったというか。

五十嵐:わかる。

yone-ko:僕、マンガがめちゃめちゃ好きで、『ガロ』とか〈青林堂〉のとか、マンガもいっぱいコレクションしてたんですけど、『漂流教室』と『さくらの唄』だけ残して、全部売りましたね。それも最後は三軒茶屋の〈ORBIT〉に寄贈した気がしますが。もともとサブカル大好きで『危ない1号』とかも読んでたんですけど(笑)、なんかこう、『モノを持ってるだけで嬉しい』みたいな気持ちがあんまりなくなったというか。身軽なほうがいい、と激しく思いましたし。自分のなかのモノ中心の価値観に転換が起きたのは、結構でかかったですね。
 例えば、地震のときも渋谷から帰るんですけど、渋谷も結構パニックなわけですよ。コンビニとかも人が溢れかえってて。車とかも、道路にヒビが入って通れないから、とりあえず一時停車してたりして。なんかこう、「みんな一人一台車とか持ってるけど、ちょっと道路にヒビが入っただけで、車って人の手に負えなくなるんだな」っていう風に思っちゃったりとか。
 あと「いまを大切に生きよう」とも思いましたね。だってレコードを見てたら突然ビルがユッサユッサ揺れるようなことが起きることもあるわけでしょ? みたいな。生きてたらこの瞬間に全精力を注ぎたい、みたいな感じで。本当にすごい、転換期でしたね。やっぱり。

五十嵐:で、その後しばらく経ってからヨネが俺に電話くれて、「ドイツに行きたい、移住しようと思ってる」と。そのときはどんな気持ちだったの? なぜドイツに行こうと思ったの?

yone-ko:行こうとバシッと思ったのは、2010年の10月から11月にかけて、初めてベルリンでDJをさせてもらったんですよ、いくつか。海外で初めてDJしたんですけど。それで、ベルリンに〈WildeRenate(ウィルドレナーテ)〉というクラブがあるんですけど、そこのハロウィン・パーティでDJをさせてもらったときに……お客さんパンパンですよ。基本ベルリンのクラブってどこもパンパンなんですけど、そのパンパンなところで、外人さんが自分のDJでめちゃめちゃ踊ってるのを見て、「これはちょっと、こっちで1回ガッチリやってみたいな」と。そのときのインスピレーションは結構デカいかもしれないですね。

五十嵐:でも、日本では定職もあったわけじゃない?

yone-ko:ありましたね、はい。

五十嵐:そこで踏み切るときの心情というかさ。なんかあったわけ?

yone-ko:それはありました、もちろん。わりと僕、人生は石橋を叩いて渡るタイプで(笑)、ちょっと冷静に考えてみたんですね。でも、ふたつの選択肢を天秤にかけてみたら……ひとつは東京で40歳、50歳とかで、ずっと仕事を続けながらDJをしている自分。それと、一度海外に渡っちゃって、思い切りやってみる自分。そのふたつを「どっちがエキサイトするかな」と天秤にかけてみたらもう、心に引っかかりは全くなく、いまこうしてベルリンにいます、という感じですね。

五十嵐:不安はなかったの?

yone-ko:不安ですか? うーん……その頃不安があったかどうかという気持ちは……覚えてないですね。ていうか、何か新しいことに踏み出せば、例えばいま持ってる定職というのはなくなるかもしれないんだけども、絶対何か新しいステージは待ってるだろうな、と。それは例えばお金が入ってくる方法にしても、いままでとは全然違う何らかの方法が見つかったりとか、そういうステップがあるんだろうなと思ってたので。むしろ、東京での生活をずっと続けるほうがずっと不安でしたね、たぶん。このループがずっと続いていく不安というか。

五十嵐:東京で暮らす不安といえば、「3.11」の原発事故に関することも、日本を離れる理由にはあった?

yone-ko:それは正直、僕はなかったですね。さっき言ったように、2010年の10月末に10日間ベルリンに滞在していまして、その時点である程度決心してました。それ以前にもベルリンには何回か旅行していて、初めての海外旅行もベルリンだったんです。けど、2010年に10日間滞在したときに初めて、ベルリンに住んでいる日本人の家に遊びに行ってみたり、街をゆっくり見てみたんですね。それで、その10日間のうちにすでに、(ベルリン在住ライターの)浅沼優子さんに「ベルリンってどうやったら住めるんですか?」っていう相談をしてたような気がしますね。だから震災っていうのは、全く個人的なところなんですけど……背中を押されたというか。

五十嵐:元々決めてたところを、タイミング的にって感じかな?

yone-ko:そういうことになっちゃいましたね、結局は。

五十嵐:ヨネは覚えてないと思うんだけど、ヨネがドイツに行く前に電話くれて、実はそのときに、俺はいまの話は聞いてるの。で、俺がちょっと嬉しかったのは、そのときにヨネは「日本人DJとして海外に行って生活できるんだ、という姿を見せられれば、それはそれでひとつの勇気を見せられるのでは、ということを提示できたら嬉しい」と。「提示したい」という大それた言い方ではなくて、「提示できたら嬉しいな」という言い方をしたんだよ。俺はそれ、すごい覚えてて。ヨネはそれ、覚えてる?

yone-ko:はい、その話をしたのは覚えてますよ。

五十嵐:その言い方がすごく印象深かったんだよ。「俺が見せつけてやる!」とかじゃなくて、自分は好きなことをしたい、思ったとおりに動く、と。ただ、もしそれで誰かが感銘を受けてくれたら嬉しいな、という言い方をしてさ。

yone-ko:ただいまはもう、「提示できたら嬉しいな」という風にも思ってないんです。実際にベルリンで暮らしてからの気持ちの変化でもありますが、いま考えているのは、もう少し肩の力を抜いて、自分自身に焦点を当ててやっていこう、ということだけですね。僕が「こういう風に受け取ってほしい」と思っても、結局、どう受け取るかは見る人次第ですし。

五十嵐:実際、ドイツに行って何年になった?

yone-ko:10月で2年ってところですかね。

五十嵐:実際、DJはどうなの? やれてるの?

yone-ko:やれてますね。もちろん日本でやってたときみたいに、毎週末のようにという感じじゃないんですけど。そもそも〈CABARET〉でベルリンのDJをちょいちょい招待してたので、その横のつながりから誘ってもらったり、というところから始まってるので。それでやらせてもらってますね。とくに夏はベルリン、パーティがめちゃめちゃ多いですし。自分のDJはベルリンの人にも受けるんだな、という手ごたえを感じた経験もありますし。

五十嵐:じゃあ、当初の目的もある程度達成できてるんだ?

yone-ko:ただ、今回の日本ツアーを終えてまたドイツに戻ってからのミッションは、ベルリンでの生活の基盤をよりしっかりしたものにしていくことですね。それも、ベルリンでの生活を通じて思っていることです。

五十嵐:ヨネが行った後も、IORI君とか移住してるでしょ?

yone-ko:うちに泊まってました(笑)。

五十嵐:そういうコミュニティも形成されてるわけ?

yone-ko:日本人同士でってことですか?

五十嵐:こっちの仲間もだし、DJ仲間として、生活する上でもDJする上でも励みになるような。

yone-ko:励みは、めちゃめちゃある街ですね、こっちは。刺激が……いいインプットがめちゃめちゃ多いというか。

五十嵐:要は日本での活動、日本で培ったネットワークが活きてるということなんだ。

yone-ko:もちろんそれは、ものすごく活きてますね。サラリーマンでの生活もメチャメチャ活きてると思いますよ。

五十嵐:ていうのは例えば?

yone-ko:なんですかね、対人関係を構築するための基本的なところというか。結局やっぱり、横のつながりってすごく大事だったりするので。具体的にこれだ、っていうのではないんですけど、サラリーマンの生活も、東京でやってたDJも、パーティも、全てが役に立ってるというか。

安田:いちばん最初にベルリンに移るときっていうのは、先にベルリンに住んでる友だちのところに泊まったり、っていうところからはじめたんですか?

yone-ko:いちばん最初は、友だちが紹介してくれた、グルジア人の女の子2人組の家の一部屋を貸してもらって泊まりましたね。で、そこに1ヵ月住んで、そこから日本人の友だちのところに移らせてもらって、で、何ヵ月か泊まらせてもらって……ビザはある程度貯金があれば取れるというのが定説なんですけど、家探しがやっぱりハードなんですよ。いいエリアは人気もあるし。だからそれで友だちのところに泊まらせてもらって、じっくり家探しをさせてもらって、という感じですね。

五十嵐:いまのベルリンはどうなの? 日本にいるとどうしても〈BERGHAIN〉の動きがメインでアナウンスされることが多いんだけど、ヨネから見て、いまのベルリンのシーンはどう? いまこういう現象が起きている、こういう面白い動きが起きている、とかさ。もちろん自分の見た範囲で。

yone-ko:そうですね。やっぱりテクノ/ハウスの街っていうところが相当強いかな、と思うので、僕にとっては天国みたいなところなんですけど(笑)、それは正直、僕が『LOUD』誌とか読んでた1995、96年ぐらいからすでにそういうテクノ/ハウスの街なんで。それはずっと変わんない流れとしてある感じですよね。でも、そのなかでもハウスっぽいのもあれば、テクノっぽいのもあって、ディスコっぽいのでゲイの人たちが無茶苦茶踊ってるパーティもあったりとか。面白いですよ、やっぱり。有名どころ以外にもオモロいよねっていうところはありますし。音もバッチリ出ていたりとか。どこが、というよりも用途によっていろんなところで遊べる感じですね。新しいクラブができたっていうのはこの2~3ヵ月は僕は聞いてないですけど、〈BAR25〉がまたオープンするとか、そういう話は常にあるんですよね。個人的にはやっぱり、〈BERGHAIN〉、〈PANORAMA BAR〉は最高に面白いですね。とくに〈BERGHAIN〉の、時間の感覚が全くなくなる感じとか。

安田:実際にベルリンでDJをやるようになって、向こうの印象というか、手ごたえはどうでしたか?

yone-ko:まずですね、ベルリンに来てから、自分のDJスタイルも結構、少しずつ変わってきているとは間違いなく思うんですよ。それはもう絶対、影響を受けるのは間違いないので。
 やっぱり、ベルリンのクラブは音がデカいのと、日本に比べると低音、下の部分をより出そうとしているんですね。だから低音で引っぱっていく感じに絶対なっていきますね、DJは。下の部分をいかに操って、お客さんを引っぱっていくかみたいな。やっぱりベルリンのDJさんはずっとそういうところでやってるので、その操作の仕方が上手い人はかなりいますね。下の方がドッシリしてずっとセットが進んでいく、みたいな。

五十嵐:それってまさしく、〈PARADISE GARAGE〉だよな。俺らの時代でいうと。

yone-ko:そうなんですか。

五十嵐:やっぱボトム。キックとベースラインで操っていくというか。要するに下半身だよね。下半身からまず踊らせるっていうような。

yone-ko:あの、やっぱりですね、ドイツに行ってからDJをやって、1、2回、ガッチリハズした時もあったりして。

五十嵐:うん。

yone-ko:求めてる音の帯域がこうじゃないんだな、っていうのは結構、勉強させてもらってます。いろんな人のDJを聴いて。「なるほどね、こういう風にやるとお客さんはいなくならないし」みたいに。

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僕は根底には「DJというのはお客さんを楽しませるものだ」というのはかなりあるんで、それに対して迷いがないということです。

五十嵐:ベルリンで、精神的に変わったことはある?

yone-ko:それもたぶん、メチャメチャあると思います。ベルリンは本当に、DJもですけど、絵を描く人、写真家の方、いろんなアーティストが世界中から集まってるので、「どういうのが好き/どういうのが嫌い」とかじゃなくて、みんな「自分」なんですよ。「自分らしいことを、自分100%でやる」みたいな。
 その姿勢、そういう人たちを見てると、なんて言うんですかね、「自分ってこういうものだと思ってた、その自分のワクを外していく楽しさ」に気付いてしまった、みたいな(笑)。自分はこうじゃないといけないんだ、とか、そういうのまだまだ自分にもあると思うんですね。けど、まずそういうワクが自分にあるということに気付いて、そこから外れていく楽しさというか。

五十嵐:それはでも、大きい出来事だろうなぁ。あのさ、ワクがあったことに気付いたならば、それを超えることの怖さもあると思うんだよ。ドイツにいるとその怖さを感じさせない、っていうことでもあるのかな?

yone-ko:そういうところもあるでしょうね、多分。他人からの評価を気にしてないというか。でもそれは、傲慢だとか、礼節がないとか、そういうこととは全く違う話だと思っていて。自分が表現しているものに対して『自分はこうなんだ』と、そこに対して全く迷いがない。そういう人たちをいっぱい見ているんで。

五十嵐:じゃあ、さっきの話に戻っちゃうんだけど、静岡でDJ KATSUさんから「フロアを見ろ」と言われた話ね。それって、「自分以外のことも考えろ」という意味でもあると思うんだよ。そことは相反することはないの?

yone-ko:個人的な感覚としては、相反するということはないです。その、なんていうか……僕は根底には「DJというのはお客さんを楽しませるものだ」というのはかなりあるんで、それに対して迷いがないということです。

五十嵐:なるほど、なるほど。それはそれでプロフェッショナルな考え方だね。

yone-ko:そうですね。例えば、DJブースに立ったら自分の世界のセットを1個ガンッ! ってやることに迷いがなければ、それはそれで全然アリというか。
 だからもう、いろんな「自分らしいことをやってる人」がいっぱい居すぎるから、批評する気も失せてくるんですよ(笑)。「俺はあれが好きだ、俺はあれが嫌いだ」っていうのがだんだんなくなってくるんですよ。で、そういう批評をしなくなっていくと、相当気持ちよくなっていくんですよ(笑)。だって、「こうじゃないといけない」っていうところから離脱するわけですから。
 ただ、僕、いろんな人のいいところを見て、それをありがたく吸収させていただくことが多くて。それは、自分で自分のいいところだなと思ってる部分なんですが(笑)。だから、いろんな人のいい部分をありがたく吸収しまくれる環境にいる、ってことですね。

五十嵐:いまベルリンに行って2年か。その間、盟友と言っていいマスダ(dj masda)が日本に残って〈CABARET〉をやって、元〈FUTURE TERROR〉のKABUTO君が〈CABARET〉に合流して。カブト君がこの前、「俺は〈CABARET〉に参加してまた面白くなった」みたいな話をしてたの。さっきのヨネの話にもつながるんだけど、同じテクノのなかでもいろんなスタイルの違いがあって、例えばマスダやヨネのお客さんにプラスして、カブト君のお客さん、もちろんそれぞれが持ち寄る音、それらがいい感じで化学反応を起こしていて、いますごく〈CABARET〉が楽しい、っていう話をカブト君がしていてさ。そういう、日本では〈CABARET〉にいい流れができつつある、っていう現状ね。それはヨネ、ベルリンでどう感じてる?

yone-ko:最高ですね。

五十嵐:最高だよな。

yone-ko:最高ですね(笑)。あとは今後、ベルリンでもサミー・ディー(Sammy Dee)がやってる〈Anita Barber〉っていうBar兼クラブで〈CABARET〉を開催していく企画もあるので、さらに面白くなっていくと思いますね。

五十嵐:最高という以外ないよな。それで〈CABARET〉はこないだ、レーベルとして第1弾のシングルを出したじゃない? あれにはヨネはどういう関わり方をしてるの?

yone-ko:実際にレーベルのマネジメントをやってるのマスダさんと、そのレーベル1番でリリースしたプロデューサーのソウ・イナガワ君です。ただ、ふたりともずっと知ってる仲なので、マスダさんから音源をもらって聴いたりしながら喋ったりとか、僕はそれぐらいなんですね。ただ、これは微妙な感覚なんですけど、マネジメントには直接関わってないんですけど、自分のレーベルだっていう感覚はあるんですよ(笑)。ひとつの大きいまとまりとして、自分たちがやってるものなんだ、っていう。だからフル・サポートするし、みたいな。

五十嵐:で、ヨネがベルリンに移住して、レーベルとしての〈CABARET〉が始動して、という流れがあって、いよいよこの10月から、日本でのツアーがスタートすると。なんかこう、期するものはないの? 移住してから初めてだろ?

yone-ko:実は今年2月にもシークレットDJとして北海道と〈CABARET〉でやらせていただいたんですけど、ちゃんとアナウンスして、DJやりに帰るのは初めてで。正直、それまではあんまり帰る気にもならなかったんですよ。なんかこう、やっぱり「ベルリンで何かを成し遂げた自分」として帰りたい気持ちがあったんですね。でもそれも結局、「自分ってこうじゃないといけないんだ」みたいなところがあったと思うんですよね。いま考えると。
 でも前回、北海道と東京でDJさせてもらったときに、「あ、なんかこんなに、自分のDJを聴きたいと思ってくれてた人がいたんだ」みたいな感じになり。「じゃ、もっとDJしに来ます!」みたいな。なんて言うんですかね、固く考えてた自分がいたんですけど、もうちょっと解けよう、と。
 なので、次はちゃんとアナウンスしてDJやらせていただこう、ということでの、今回のツアーです。ただ、それをやるんだったら、自分がワクワクするやり方でやりたいなと思ったんですよ。で、その時浮かんだのが「そういえばマスダさんと一緒に全国を回ったことないよな」ということだったんですね。それがキッカケみたいなものですね。いちばん信頼できるDJですし、マスダさんと一緒だったら間違いないだろう、と思ってます。

五十嵐:なるほどね。内容的になんか、考えてるものとかあるわけ?

yone-ko:ないですね(笑)。いまの自分のなかで最新の「いま自分はこうなんですよ」というものをやるだけ、って感じですね。でも自分がDJをやるときには「今日の場所ってこういう場所で、こういうお客さんで」っていう要素が根底に必ず入っているので、「自分のなかでいまこういう感じなんだ」っていうのと、その場でしかない感じが合わさってくると、自分でも「こういうのやろう」って決めれないというか。

五十嵐:「いろんな人のを吸収するのが得意なんです」っていう話をさっきしてたじゃない。だからすごく楽しみなんだよね、俺。いろんな空気やエッセンスを吸収してきて。場所はどこを回るの?

yone-ko:正確な情報はあとでまた流させてもらいますけど、まず北海道からはじまって、静岡、東京、名古屋、大阪、京都、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄、他にもいくつか交渉中、とそんな感じですかね。

五十嵐:素晴らしいね。今回、日本でもいろいろ回るけど、そこにかける思いみたいなのもある?

yone-ko:あの、海外に住んだ経験のある人にはある感覚なのかもしれないですけど、日本から一度出ると、日本に対して滅茶苦茶興味が沸いてくるんですよ。日本で行ったことないとこいっぱいあるし、食べ物もメチャメチャ美味しいですし。だから今回はいろんなところに行ってみたいな、と。せっかく期限を決めて帰るんで。「日本再発見の旅」みたいな感じですね。

五十嵐:日本人DJの素晴らしさも再発見する可能性がある、ということだよね?

yone-ko:そうですね。すごい、いいDJさんいっぱいいると思うので。それはずっと昔からそう思ってたことですけど。

五十嵐:それをそっちにも伝えてほしいという気持ちも俺にはあるので。

yone-ko:ただ、ベルリンのお客さんは、クラブが居酒屋みたいな感じでそこら中にあるから、割とテキトーなところもあるんですけど、テキトーに見えて、やっぱり反応が正直なんですよね。ハマればめっちゃ踊るし、ちょっと外せば人がいなくなったりするし。毎週のように相当いいのを聴いてるから、何でもいいって感じではなく、やっぱり耳は肥えてますね。クラブのスタッフも、いいDJをやると「お前、次いつやるんだ?」みたいな感じになりますしね。一味違うのを見分ける嗅覚は、お客さんもクラブのスタッフもかなり研ぎ澄まされてるんじゃないかと思います。

安田:で、その〈CABARET〉のyone-koとdj masdaによる全国ツアー、知ってる人はもちろん楽しみに遊びに行くと思うんですけど、そうじゃない読者向けに、〈CABARET〉ってどんなパーティなのかを説明してほしいんですが。いつからやってるんでしたっけ?

yone-ko:やってるのは、1999年頃からやってるはずですね。ソウ・イナガワ君とサクライ君(Sackrai)とケイスケ・コンドウ君(Keisuke Kondo)っていう3人もやってたんですけど、その3人はいまはパーティの運営には携わってなくて、いまは実際にはマスダさんがメイン・オーガナイザーとしてやってる感じですかね。
 僕らがやってるパーティっていうのは……DJをやってる人たちは音楽バカで、レコードオタクみたいな人たちなんですけど、あくまでクラブ・パーティとしてのフィジカルな楽しみを忘れないというか。パーティとして、一晩いい音楽でみんなが踊れるような空間をつくる、っていうのは結構やってましたね。ずーっとブレないで、基本的なコンセプトとしてずっと持ってるのは、例えばゲストを呼ぶにしても、自分たちがいま聴きたいと思う人たちを招待しようと。それは、自分たちが聴きたいと思う人が自分たちのパーティでDJやったら、自分たちもそのパーティが滅茶苦茶面白いから、っていう。

安田:それこそベルリンからも、以前からいろんなゲストを呼んでますよね。

yone-ko:はい、ダニエル・ベル、キャシー(Cassy)、あとファーベン(Farben)のライヴとか、他にもたくさん。基本〈UNIT〉でやってたんですけど、最近は〈SALOON〉でもはじめて。いわゆるビッグ・バジェットではないんだけど、この人いいからみんなに紹介したい、みたいな人をもうちょっとカジュアルに招待できるような場づくりを〈SALOON〉でやってます。今年6月にはベルリンからビン(Binh)、2月にはエリ・ヴァーヴェン(Eli Verveine)を招待してやりましたね。どっちもすごくいいDJです。カッコいいです。

安田:レコードだけじゃなくて、DJのプレイそのものも紹介したい人たちがいるってことですね。

yone-ko:でも基本は「遊んでる」ところがあるかもしれないですね。少なくとも僕は、ですけど(笑)。「自分のパーティでこの人聴きたくない?」みたいな。

安田:今回のツアーは〈CABARET〉のメンバーで回るんですか?

yone-ko:いや、今回〈CABARET〉というワクは全く設けてなくて、僕とマスダさんでのツアーということで。静岡大学で出会った僕とマスダさんが初めて一緒にツアーやります、みたいな(笑)。

五十嵐:だいぶかかったなぁ!

yone-ko:だいぶかかりましたね。13年越しぐらいですね(笑)。面白いのがですね、マスダさんがここ2ヵ月ぐらいヨーロッパに居て、ベルリンにも居て、当然マスダさんのDJを聴いたり、一緒にDJするタイミングも結構ありまして。ちょっと前、日本にいる頃は、お互い同じところを掘ってるかな、っていうところがちょっとあったんですけど、いまはだいぶもう、どっちも違う方に行ってるな、みたいな。いい意味で。同じレコードを持っててもお互い違う面をかけてる、みたいなのが自然に(笑)。

五十嵐:それはヨネがさっき言ってたみたいな、自分の違う面をそれぞれがいろんな意味で発見しはじめてるっていうことなのかな?

yone-ko:そうですね。影響を受けたものはありがたく、それとして頂いて、その上で自分らしい方向に向かってるのが、お互い出てるんじゃないですかね。だから今回ふたりで回るのも面白いと思います、かなり。

五十嵐:感慨深いね。

yone-ko:そうですね。マスダさんとは、それぞれの目指してるところがお互いにわかってる、みたいな関係でもあるので。

安田:dj masdaさんについても、ちょっと紹介してほしいんですけど。

yone-ko:マスダさんと知り合ったのはですね、マスダさんはイギリスに何年か留学してたんですよ。で、イギリスから帰ってきてうちの大学に編入してくると。で、まだ1999年とか2000年とかなんで、その頃、DJやってる人がいたら、それだけで噂になるような時期だったんですよ。だから、「なんかイギリス留学から帰ってきたDJが編入してくるらしい」って……。

五十嵐:それだけで当時の静岡なら有名人だよな(笑)

yone-ko:それで会ってみたい、と思って。で、会って、「マスダさん、うちでミックス録りに来ませんか?」とか話して。最初はそんな感じですね。その時はマスダさん、ドラムンベースかけてました。で、その頃、“WinMX”とか“SoulSeek”のファイル交換ソフトがめちゃめちゃ流行ってたじゃないですか。静岡に居ながらにして、世界中のありとあらゆるライヴ音源がバンバン聴ける、みたいな。僕はそれにかなりハマってて。それで、ダン・ベルの現場録音音源を落としてきて、「すごいDJを聴いたんだよ」みたいな感じでマスダさんに渡して。で、マスダさんも「すごいね、この人」みたいな感じで、そこから4つ打ちに行き出したんじゃないかな、というのが記憶としてありますね。そこから静岡で一緒にパーティやったり。マスダさんもその後東京に住み出すんですけど……そうそう、マスダさんは大阪でもパーティやってたんですよ。〈鶴の間〉っていうクラブで。

安田:〈鶴の間〉でもやってたんですね。

yone-ko:そう、〈quop〉っていうパーティをやってたんですよ。ダン・ベルもだし、スティーヴ・バグとか、ジョン・テハダとか、ユスタス・コンケ(Justus Kohncke)とか、そこら辺のヨーロピアンな面々を呼んでやってたんです。そのパーティも相当凄くて。現場叩き上げ系ですね、マスダさんは。

五十嵐:ヨネがいちばん信頼が置けるDJなんだね。他に何か聞きたいことない? ヨネもなんか言っておきたいことない?

yone-ko:そうですね、インタヴューとしては趣旨から外れるかもしれないんですけど、僕、「3.11」以降、政治のことを結構考えてたというか、例えば反原発デモにも自分なりのスタンスで参加したりしてたんですけど、ベルリンに来てちょっとしてから、一度、政治的な話題は一切見ないようにしたんですね。たぶん、ベルリンでの自分の基盤も全然できてないところだったから、一度、目をそらしたかったんでしょうね。で、とあるきっかけがあってまた見るようになったんですけど、それがこないだの参院選が終わってからで。申し訳ないことに。

五十嵐:いいと思うよ。そういうのは誰に強制されることでもないし。でも、改めて見てみて、どう思った?

yone-ko:あのですね、正直に言っちゃうと、震災以降のこのモヤモヤ感はリアル・マトリックスの世界にいるようだな、と思っちゃってて。本当はそうだと思ってたものが、実はそうではなかった世界に暮らしてる感じ。こっちに来てから結構時間ができて、本をいろいろ読むようになったんですよ。それで世界のいろんなカラクリに気付いたときに思ったのが「自分の目の前の現実をちょっとでも面白くするには、ちょっとでも素敵なものにするにはどうしたらいいのか」ということを、少なくとも考えながら生きよう、と。

五十嵐:いま重要なことを言った。俺はそれがDJやパーティの存在意義だと思うんだよね。

yone-ko:うん、うん。

五十嵐:やっぱり喜び、楽しみって重要なことだと思うんだよね。さっき「楽しませることに迷いがない」っていうヨネの言葉があったけど、それって重要なことなんじゃないかと思う。

yone-ko:本当そうですよね。自分のなかでもいくつかステップがあるんですよ。ベルリンに引っ越そうと決めた後に地震があって、形あるものはいつかは無くなるっていう当たり前のことに気付いたりとか。それで、自分にとって本当に大切なことは自分の人生を生きることだ、て考えるようになったり。
 僕らがやっている音楽についても、ちょっとありきたりな言い方かもしれないですけど、テクノやハウスって言葉がない分、聴き手が勝手に楽しんでいい、聴き手に完全に委ねられる音楽ですよね。その気持ちよさって相当デカいし、そういう音楽だから伝えられることがあるはず。社会への不安やモヤモヤを感じる時代だからこそ、自分自身、音楽やパーティの大切さを再認識しているし、「それでも音楽って素晴らしいんだよな」というところが、震災後のクラブで感じていることですね。自分としては。

五十嵐:パーティの会場ではいいイマジネーションを与えられるように心がけたいよね。

yone-ko:そうですよね、それは。やっぱり愛ですよね。愛の表現手段としての音楽。

五十嵐:来たね。100%同意だな。ツアーの成功を祈ってます!  また静岡でも一緒に飲みたいね。

◆dj masda and yone-ko tour 2013◆

11/23(Sat) Synchro@Jakata Shizuoka/静岡
https://www.jakata.jp/event.php?m=201311&eventid=139

11/30(Sat) HIdden Project@桜坂G Okinawa/沖縄
https://www.facebook.com/events/522198644531618/

12/13(Fri) CABARET@SALOON Tokyo/東京
https://www.unit-tokyo.com/saloon/

12/15(Sun) SundaySunset@Oppa-La Enoshima/江ノ島
https://oppala.exblog.jp/

12/20(Fri) TBA@Bar Timeless Kagoshima/鹿児島
https://timeless099.com/

12/21(Sat) TBA@TBA Miyazaki/宮崎

12/22(Sun:Before Holiday) Tokoton Nacht@Provo Sapporo/札幌
https://provo.jp/

12/25(Wed) Houz' Proud People@Metro Kyoto/京都
https://www.metro.ne.jp/index.html

12/28(Sat) Next Level@somewhere in Osaka/大阪

More dates tba……

◆yone-ko(solo)DJスケジュール◆

11/8(Fri) Cross Mountain Night@Womb Tokyo/東京
https://www.womb.co.jp/#!/calendar/2013/11/08

11/22(Fri) Fonon@Mago Nagoya/名古屋
https://club-mago.co.jp/

More dates tba……

そう、あのマイルスだ。 - ele-king

 今年観ておきたいものが、また! 〈モダン・ラヴ〉にマイルス・ウィッテイカーあり。デムダイク・ステアやアンディ・ストットがもたらした、まだまだ冷めやらないあの冷たい熱を、モノクロームの夢とともに!

確かな耳を持ったスキモノ達を唸らせるパーティーUBIK。Demdike Stare、Pendle Coven名義で知られるMiles a.k.a. MLZ (Modern Love, UK)が孤高の3時間セットを披露してくれます。伝説のパーティーALMADELLAで幾多のクセモノと対峙してきたKEIHIN (Maktub)と自身のレーベルDepth of Decayからファーストアルバムを7月にリリースしたRyo Murakamiが渾身のライヴセットで迎撃します!!

■UNIT / root and branch presents UBIK
FRIDAY 8th NOVEMBER 2013 @ DAIKANYAMA UNIT

featuring DJs: Miles a.k.a. MLZ / Demdike Stare / Pendle Coven (Modern Love - UK) 3 Hours Set, KEIHIN (Maktub)
Live: Ryo Murakami (Depth of Decay)

Open/ Start 23:00
¥2,000 (Before 24:00), ¥2,500 (w/ Flyer), ¥3,000 (Door)
Information: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com
You must be 20 and over with photo ID.

Miles a.k.a. MLZ (Modern Love - UK)
MilesことMiles WhittakerはModern Loveの古参ユニットPendle Covenの1人として、またMLZ(現在はMilesと表記)として、そしてSean CantyとのプロジェクトDemdike Stareとしてマンチェスターの超優良レーベルModern Loveから数多くの作品をリリースしている。より実験的でマニアックな作品をSuum Cuique名義で、また世界的大ブレイクを果たしたAndy StottとMillie & Andreaとして、Modern Love傘下のサブ・レーベルDaphneからリリースしている。MilesのDJセットは広範囲なエレクトロニク・ミュージックのスペクトルを縦横無尽に網羅、UKテクノ~シカゴ・ハウス~デトロイト・テクノ~90年代初頭のジャングルやブレイクビーツ~ミュージック・コンクレート~シンセウェーヴ~ノイズなどを最先端のエレクトロニク・ミュージックと共に昇華させMIX、ジャンルを超越しながら過去と未来を交錯させ常にダンス・フロアにインパクトを与え続けている。そのプレイは世界各国のトップ・クラブの現場で絶賛されている。

KEIHIN (Maktub)
1998年頃より本格的なDJ活動を開始。 プレイスタイルはHARDかつDOPE。過去に【POWWOW】【Flower of Life】【Future Terror】【SUN】【RAW LIFE】など、国内最重要パーティーでプレイ。2005年sumisonicとのスプリットMIX-CD『Straight,No Chaser』を発表。そのノイズ~インダストリアル~ジャングル~ディープハウスを横断するワンアンドオンリーな内容は一部の熱狂的な支持と多数の好評を博す。2007年3月にHONCHO SOUNDから2nd MIX-CD『Delight of a change』をリリース。 この時期からすでにダブステップからテクノを繋ぐ、現在のシーンを予見したかのようなNEXT FUTURE感ある内容に好セールスを記録。2008~2013年まで、RILLA、Yusaku ShigeyasuとTECHNOxDUBSTEPとその先にあるFUTURE MUSICを見据えたパーティー【ALMADELLA】を開催。ジャンルを問わず国内外の先鋭的なアーティストを招聘。DOPEな世界観と音楽的なユニークさ、実験的でありながらダンスミュージックの本質を見失わないパーティーとして認知され、毎回壮絶な夜をオーディエンスの脳裏に刻みつけた。2009年8月パーティーから派生したレーベル【ALMADELLA】からパーティー終盤の空気を再現した3rd MIX-CD『ALMADELLA am4:00』を発表。そして2012年3月DUBSTEPを軸にした意欲作4th MIX-CD『This Heat』をリリース!!【ALMADELLA】の発展的解散後、さらに自身の音楽性を掘り下げるべく、現在新パーティー【Maktub】を主宰。進化し続けるオリジナルスキル&スタイルを武器に全国各地の夜を激しく揺らすONLY 1 DJ。

Ryo Murakami (Depth of Decay)
現在は大阪在住。Baud、Styrax等各国からのリリースとPan Recordsの運営。2013年には自身のレーベル”Depth of Decay"を始動し、ファーストアルバムを7月にリリースした。


工藤キキのTHE EVE - ele-king

 NYって89%がアーティストまたはミュージシャンで構成されているのでは? と思うほど出会った人みな口を揃えて、アーティストまたはミュージシャンと名乗る。いま思い返してみると、東京で「ミュージシャンです」とキッパリ名乗っていた友だちってどれ位いたかな? こっちだとバーテンダーをしながら、別に仕事を持ちながら音楽を続けている人がほとんどだけど、こちらが引くほど自分がミュージシャンであるという自意識が強い。

 私がいま住んでいるローワーイーストサイドだとお店の地下がスタジオになっているところも多く、ブルックリンだと大きなビルの地下に小さく仕切られたスタジオが詰っているところもあって、ミュージシャンたちはシェアをしながら時間があるとスタジオに籠っているみたいだ。だからか? いわゆる有名じゃなくてもテクニックやセンスある人だらけだから、ラッキーであることも才能のうちなんだと思うこともしばしば。この街で音楽で有名になるのはホントにハードルが高いんだろうなと常々感じる。
 これがNYのミュージシャンの日常と言ってしまうとかなり語弊があると思うけど……ミュージシャンの友だちとハングアウトするときは決まって誰かの家やルーフで溜まってビール片手にYoutubeでヒットした遠いアフリカでアップロードされたサイケデリックな民族音楽、エチオピアのラジオ番組なんかを聴いたりしている。定番の〈Sublime Frequencies〉や〈Awesome Tapes from Africa〉なんかもまだまだチェックしているし、もはや絶滅寸前またはトランスフォームして生まれ続けているオーパーツなビート、例えばサハラ砂漠のジミヘンことグループ・ボンビーノのような未開の地のまだ聴いたことがないメロディラインを何時でも追い求めている気がする……。
 そんなわけで普段から友だちのバンドのショウに行くことも多い。そこにはいままでこのコラムで紹介してきたようなナイトクラビングやダンスミュージックの世界とはまた違ったレベルの陶酔できるグルーヴがあるからだ。そして今回とりわけ、ぜひ声を大にして言いたいのが……Black DiceはいまだにNYで一番のバンドだ。 

Photo by Joe DeNardo

 NYには星の数ほどバンドがあって、日本でもNYのバンドがたくさん紹介されていると思うけど、結成16年になったこのエクスペリメンタル・ノイズバンド、Black Diceはいまだに見逃せないショウをしている。つい先日の11月2日にウィリアムズバーグの285Kentでのショウですら、モッシュピットができ、ダイブまで巻き起こり、Black Diceの古い友人たちですら「BDの歴史のなかでも最高のショウ!!!」と誰もが興奮冷めやらぬ特別な夜だった。ちなみに対バンは話題の若手エクスペリメンタル・ヒップホップ・グループ、RATKING。
 個人的には長い間ボアダムスとかぶるイメージがあったけど、この2013年に私がBlack Dice のショウとメンバーのひとりEric Coplandのソロは欠かさず通っていると聞いたら、東京の友だちはきっと驚くかもしれない。けど、いま私が知っているNYのバンドは誰も彼らを越えられないと思うぐらい本当に素晴らしい。

 ご存知の通りBlack Diceは90年代後半から活動をスタートし、初期はポスト・ハードコア、ノイズ色が強くライヴ中にエリックが客に殴りかかっていたというバイオレンスな話しもきいたが、2013年あいかわらず彼らは筋金入りのローファイであり基本はジャンクなサウンドのジャムセッション。MCはナシ、ジャンルがなんだか、このビートはどこからきたのかとか考えている余地なしの爆音のアヴァンギャルドなエレクトロニック・コラージュ、歪んだギターノイズ、EricとAaronのフリーキーなヴォーカル、ジャンクでスカムだけどダビーですらある。彼らだけが生み出せるポップなメロディラインはダンスできる機能もある。そしてライヴ中のEricがフリークアウトすればするほど(まさに白目を剥いて、まさにタコの様な形相になればなるほど……!)ライブはヒートアップ。だいたい1時間に及ぶ演奏は、いつも突然のカットアウトで幕を閉じるが、その瞬間の覚め方をもう一度体験したいがために再び通ってしまう。Ericのソロも同様、シンセとヴォーカルというシンプルなステージだけど、ヒューマンビートボックスさながらのヴォーカルが独自のグルーヴを生み出していて、それがまた素晴らしい。ちょうど新しいソロ・アルバム『Joke in the Hole』が〈DFA〉からリリースされたので是非チェックしてほしい。

Photos (monochrome) by Barbara Soto

 冒頭で話した、ミュージシャンの友だちたちが常に新しいビートを探しているように、それこそバンパイア・ウィークエンドにはじまり、アニマル・コレクティブ、ギャング・ギャング・ダンス、サン・アロウとザ・コンゴスがコラボレーションをするなど、同時代の多くのミュージシャンたちがアフリカン・ビートや第三世界のサイケデリックからインスピレーションを受けていると感じるけど、Black Diceだけは違う。
 アメリカ人の友だちが言っていたのは、他のミュージシャンが外に意識を向けているなか、Black Dice ほど”アメリカ”のトラッシュ、サイケデリックといった暗部に頭を突っ込み続けていることがモチベーションになっているバンドもいないそうだ。
 彼らのスピリチュアルはチェダーチーズやバドワイザー、ピーナッツバター、ボングウォーターに宿っているアメリカーナの精霊にあるというのは、なにか頷ける。ギターのBjorn Copelandはヴィジュアル・アーティストとしても活動をしていて、つい先日までJack Henry Galleryでソロショウをやっていたけど、その作品を見てもジャンクヤードから引っ張りだしてきたかのようなトラッシュ感に満ちあふれたものだった。

 Black DiceもEric CoplandもNYでも頻繁にショウはしない。やるといってもBushwickのSecret Project Robotや、Death By Audio など規模は大きくなくても旧知のリラックスできるヴェニューでショウをすることが多く、2012年に『Mr. Impossible』がリリースされた時にはツアーに回っていたみたいだけど、大きなフェスにでるとか、大きなベニューでやりたそうな向上心のようなもの? はまったく感じさせない。3人でブルックリンの薄暗い地下のスタジオに籠りえんえんとMade in USAのスカム・カルチャーを吸い込みトリップし続けている、2013年になってもそれは変らない。
 そんなわけでショウを見るたびに東京の友人たちにも今のBlack Dice を見せたいと思いつつ、他のNYのミュージシャン、例えばMick BarrとかWhite Magic(現在はLAベースだけど)、Highlifeがいまだに日本に呼ばれたことがないのがホントに信じられない……絶対好きになると思う東京の友人たちの顔が眼に浮かぶ。

Photo by KIKI
Black Dice https://blackdice.net/


Eric Copland




Mick Barr


White Magic

White Magic-Nightmares from Larry Unrein on Vimeo.

Highlife


Film by Joe DeNardo

BLACK DICE for Pitchfork Weekly from Joe DeNardo on Vimeo.

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