「OTO」と一致するもの

interview with Simi lab - ele-king

 神奈川県は相模原を拠点とするヒップホップ・ポッセ、シミラボはまだオリジナル・アルバムを出していない。が、しかし、彼らが2009年12月にYouTubeに何気なくアップした1本のミュージック・ヴィデオの衝撃だけで、彼らを現時点でele-kingに紹介するのには十分であると確信している。
 シミラボは突如として現れた異邦人たちである。これはある意味でメタファーであるが、そうでないとも言える。彼らの存在はわれわれが生きる社会の常識や固定観念に揺さぶりをかけているようにさえ思える。たかがヒップホップ・グループと侮ってはいけない。

 "WALKMAN"と名付けられた曲のMVには、ふたりの黒人男性のラッパーとラテン系と思しき女性ラッパー、そして小柄な東洋系の男性ラッパーが登場する。と、何の情報もなかった僕は最初そう認識した。妖しげなミニマル・ファンク・トラックの上で4人全員が日本語でラップしている。それが英語訛りの日本語なのか、それともネイティヴの日本語なのか。それさえ判別がつかなかった。4人ともおそらく20歳かそこそこだろうと思った(いくつかの思い違いはインタヴューで明らかになる)。
 部屋のなかで愉しげにラップし、コンビニに買い物に出かけ、夜道を颯爽と歩く。ただそれだけの、おそらく彼らのなんの変哲も無い日常を捉えたチープな映像だったが、この国の現実の速度に自分の感覚や想像力が追いつけていないことをまざまざと思い知らされた気がした。いったい彼らは何者なのだろうか? シミラボの瑞々しくユーモラスな音楽――奇妙なファンクネスが漂うトラック、変則的でリズミカルなラップ、人を煙に巻くようなリリック、それらには特別な輝きがあり、未知の可能性を秘めていることは間違いなかった。


QN From SIMI LAB
THE SHELL

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 2010年7月に〈ファイル〉からリリースされた、シミラボのリーダー的存在のQNのソロ・デビュー・アルバム『THE SHELL』も素晴らしかった。また、今年の3月にリリースされる予定の、アース・ノー・マッド(QNのトラックメイカー名義)のファースト・アルバム『Mud Day』の仮ミックス段階の音源を聴いたが、これはきっとさらにユニークな作品となって完成することだろう。"WALKMAN"はこのアルバムに収録される。グループとしてのアルバムも今年出す予定だという。
 正直言えば、僕はシミラボについてまだ上手く言葉にできていないでいる。しかし、答えを急ぐ必要はない。まずは彼らの話を聞こう。今回、取材に参加してくれたのは、ディープライド(DyyPRIDE)、マリア(MARIA)、QN、オムスビーツ(OMSB`EATS)、ハイスペック(Hi`Spec)の5人だ。シミラボとして初となるロング・インタヴューをお送りする。

シミラボのひとりひとりがマイノリティの世界で生きてきた人たちで、世界や社会を外から細かいところまで見てた人たちだと思うんです。この歳にしてはわかりきっちゃってる部分もある。もともとマイノリティだったものが集まって化学反応が起こったんだと思う。


QN

"WALKMAN"のMVを観て、シミラボに興味を持ったんです。まず「何者なの?」というのがあって。肌の色も性別もいろいろだし、しかも、みんな、日本語でラップしている。HPを見ても全貌がつかめないし(笑)。トラック、ラップ、リリック、すべてが斬新だと思いました。これまでにないユニークなスタイルを持った人たちが現れたことに興奮したんです。

マリア:うんうん。

新代田の〈フィーヴァー〉のライヴにも行きました。で、とにかく会って話したいと思ったんです。今日はみなさんの音楽的、人種的ルーツも含めてじっくり話を訊ければと思ってます。まずはひとりひとり軽く自己紹介からお願いできますか。

QN:そういうのはやっぱディープライドからじゃない。

ディープライド:いま21歳です。親父はアフリカのガーナの人です。

お父さんはどういう経緯で日本に来たんですか?

ディープライド: 曾じいさんが、1960年にガーナ大使館が建つときにはじめて日本に来たガーナ大使一行のひとりだったんです。親父はじいさんにその話を聞いてて、20歳から10年間エジブトで家庭教師をしたあと日本に来たらしいです。オレがまだ小さくて両親がいっしょだった頃、親父は現場仕事、工場、英会話教師をやってたみたいです。寝ないで働いてたって聞きました。最近、ガーナに不動産を買ったらしく、そろそろ帰るみたいですね。

お母さんは日本人の方ですか?

ディープライド:そうです。

ディープライドくんは日本生まれ日本育ち?

ディープライド:横浜生まれのちらほら育ちって感じっす(笑)。中学時代はオレのねぐらは押し入れでしたね。引きこもってました。ドラえもんみたいなもんです。CDプレイヤーと漫画を持って、押し入れにこもってずっと音楽を聴いてたりしてた。映画のサントラ集とか。その頃から、リリックじゃないけど、殴り書きはしてました。そこからラップを歌い出すまでに2、3年ぐらいかかってる。兄貴がDJやってて、親父が昔のR&Bとか聴いてたから、ラップとか音楽をやるようになったのはそういうのもあるかもしれない。

引きこもってたんだね。

ディープライド:押し入れのなかにこもってばかりだったオレが行けるような高校は私立で3つぐらいしかなかったから、定時制に行くつもりだったんだけど、母ちゃんが「昼間の学校に行けよ」って言ってくれて、頭の弱い高校になんとか入れてもらいましたね。卒業してからは普通に仕事してて、ラップをはじめたのは1年半前ぐらいです。

最初にガツンとやられた音楽はなんだった?

ディープライド:はじめて自分で買ったCDが50セントの『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』でしたね。試聴して言葉じゃ説明できないぐらい食らって、CD買ったんですよ。あとからいろいろ調べて、50セントの逆境に立ち向かう姿にも感銘を受けて。50セントは自分のなかにあった反骨精神に火を付ける引き金になったと言っても過言ではないと思いますね。ほんとに衝撃だった。

なるほど。まずはそんなところで、次はマリアさんお願いできますか。

マリア:22歳です。お父さんはアメリカ人でお母さんは日本人です。小学生のときにぜんぜん友だちがいなくて。日本の学校に通っていたから、米軍にも友だちがいなかったんです。

お父さんが米軍の人なんですか?

マリア:そうです。私の出身は青森の三沢基地で、そこから横浜にある根岸の米軍基地のPハウスに引っ越しました。基地のなかにティーン・センターみたいな10代の子たちが集まる施設があったんです。みんなの溜まり場みたいなところ。友だちはいなかったんですけど、そこでいつも映画とか観たりしてました。米軍のなかには白人のハーフより黒人のハーフが多くて、みんなヒップホップとかR&Bを聴いてて、小4ぐらいのときにスヌープ・ドッグの"ザ・ネクスト・エピソード"が出たんですよ。

うんうん。ドクター・ドレの曲だ。

マリア:そう、あれをみんな超かけてて。密かにカッコイイなって思ってたんですよ(笑)。小学校から中学校に上がっていくに連れて、自分から音楽を聴くようになって、高校に入ってはじめてブッダ・ブランドを聴いたんです。ニップスのラップを聴いたときに、日本のヒップホップってこんなカッコイイんだってはじめて実感したんですね。自分もラップしようと思ったのは15歳のときです。だから、やりはじめてからはけっこう長いです。高校に入ってからはヒップホップはどういうルーツで来ているかにすごく興味が沸いて、ファンクとかソウルを聴くようになって、いまは自分なりにいちばんカッコイイと思うやり方をしてます。

歌も歌ってますよね?

マリア:そうですね。デバージやアイズレー・ブラザーズなんかのソウルも好きだし、やっぱりブーツィー・コリンズは外せないですね。エアロスミスやマリリン・マンソンみたいなロックも好きです。あとは、アーハの"テイク・オン・ミー"とかクラウデッド・ハウスの"ドント・ ドリーム・ イズ・ オーヴァー"とか、ビリー・ジョエルも外せないですね。気持ちに残る爽やかなメロディが好きなんで、歌も少しやってる状態ですね。

なるほど。

マリア:ヤバい! チョー緊張する! 

お互いどんどんツッコミ合っていいですよ。

ディープライド:マリアはジャーマンの血も入ってるでしょ。

マリア:うちの父親がアメリカとドイツのハーフですね。

ディープライド:親父がハーフなの?! じゃあ、マリアはクォーターなのか。

マリア:そう。まあ、ハーフでもクォーターでもなんでもいいんだけどさ!

ディープライド:でも、言っとくけど、クォーターがいちばんモテるからね。

一同:ハハハハハッ!

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アメリカと日本のハーフです! 小さい頃に離婚して親父はいないんですけど、結婚したときに挨拶がてらに日本に来て住み着いたんだと思います。親父の仕事は足が臭かったんで土木だと思います。ちなみにいまはアメリカの従兄弟の家に居候してて、シャブ中らしいです(笑)。


OMSB'Eats

では、QNさん、お願いします。


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QN:僕はいま20歳で、母ちゃんはよくフィリピン人に間違えられる日本人です(笑)。親父は普通の日本人です。僕のルーツはなによりうちの姉ちゃんで、姉ちゃんがヒップホップが好きですごい聴かされてました。中学ぐらいで何を思ったか、吹奏楽に入ったりもしました。あと、オレ、事故にあって、かなり重症だったんです。生存確率が50%の事故で脳みそがいまでも右だけ腫れてるらしいんです。みんなにそれを話したら、「だから、QNって音楽的にすごいんだね」って。喜んでいいのかなんなのか。自分の才能には事故にあったことがでかいのかなって思ってますね。

ディープライド:よかったんじゃない!

QN:あと、気づいたら、自分がマイノリティっていうか少数派であることのほうが似合ってるんじゃないかなって思いはじめて。3人ぐらいで風呂行こうよって言って、けっきょく15人ぐらいで行くことになったときとか、じゃあ、オレ行かないって。

マイノリティってそういうことか(笑)。

QN:みんな行くならオレいいやって。

天邪鬼なところがあるんだね。

QN:そうっすね。オレの世代はやっぱエミネムがでかくて。『8マイル』があったし、流行ってました。みんながエミネム聴くなら、オレは他の聴こうって。それでスティーヴィー・ワンダーとか、そっちに行きました。

ラップやトラックを作りはじめたのはいくつぐらいですか?

QN:DJは中学3年のときにはじめました。親父の仕事先を手伝って、溜まった金でターンテーブルを買いました。それから2年後ぐらいに自分でトラック作るようになって、ラップするヤツもいないし、ラップもしようかなって。自分でやったほうが調子がいいなって。

最初はひとりではじめたんだね。

QN:そうっすね。中学の頃に仲良かったヤツをむりやり「やるぞ!」って誘ったけど、そいつは野球部で忙しくて。

オムスビーツ:いま、あいつはギャルちゃんとよく遊んでるけどね!(笑)

ハハハ。じゃあ、次はオムスビーツさんにお願いしますか。

オムスビーツ:21歳です。アメリカと日本のハーフです! 小さい頃に離婚して親父はいないんですけど、結婚したときに挨拶がてらに日本に来て住み着いたんだと思います。親父の仕事は足が臭かったんで土木だと思います。ちなみにいまはアメリカの従兄弟の家に居候してて、シャブ中らしいです(笑)。義理の父親がいるんですけど、そっちのほうが付き合いが長いしマトモなんで、父親って感じですね。

そうなんだね。

オムスビーツ:僕はもともと音楽とか嫌いだったんですよ。小さい頃、親が車でヒップホップを爆音で流してて、「音、下げろよ!」とかずっと言ってました。当時、ビギーが流行ってたから、『レディ・トゥ・ダイ』の"ギミ・ザ・ルート"のフレーズをよく覚えてますね。

へー、すごい小さいときですよね。

QN:子供のころ、オムスビーツがなにかを聴いて踊ってる写真があるよね?

オムスビーツ:MCハマーでしょ。あ、違う、R・ケリーだ!

ませた子供だねー。それも親が持ってたCDだったの?

オムスビーツ:そうですね。R&Bで踊ってました。あんま音楽とかどうでもよかったんですけど、中学の頃に地元の神奈川TVで『サクサク』っていう音楽番組がやってて、そこで紹介されるインディーズ・ロックが面白くなって。

たとえば、どういうバンド?

オムスビーツ:木村カエラが司会の番組だったんですけど、いきものがかりとかが出てましたね。その流れでヒット・チャートの音楽が好きになった。

親がヒップホップを聴いてたことにたいする反動があったの?

オムスビーツ:いや、反動ではないと思います。中学の頃にエミネムの"ルーズ・ユアセルフ"と"ウィズアウト・ミー"が流行ってて、それを聴いて「ヤバイ!」って思いましたよ。それから親が持ってるCDをパクりはじめた。『レディ・トゥ・ダイ』を聴いて、「あれ?! これ聴いたことあるな」って。当時はビギーより2パックのほうがリスペクトされてて、やんちゃな中学生Bボーイは2パックが好きだったから、ビギーを貸しても「微妙だな」って言われてた。でも、オレはビギーが好きだった。高校になって、ひたすら親のCDをパクって聴いてましたね。

QN:悪いね。

オムスビーツ:高校になってバイトをはじめて、やっと自分でCDを買うようになった。それからサウスに行きました。スリー・シックス・マフィアが"ステイ・フライ"を出して爆発寸前の時期ぐらいにそれのスクリューを聴いてた。ああ、気持ちいい~って。

マリア:ヤバイね。

オムスビーツ:それで、オレ、DJやるわってなって、高2ぐらいのときにタンテを買った。そのときに『ソース・マガジン』もゲトって。MFドゥームとマッドリブのマッドヴィレインってあるじゃないですか? あれをジャケ買いしてすごく良かったから、それぐらいからサウスが抜けてきた感じですね。

それからラップを自然にやるようになったんですか?

オムスビーツ:いまもシミラボのメンバーにいるDJアット(ATTO)っていうヤツと高校の頃に知り合って、よく遊ぶようになった。そしたら、たまたま知り合った、前はシミラボのメンバーだったマグってヤツと3人で音楽やりたいってなったんです。マグのフリースタイルを見て、自分もラップしたいと思って、その3人でIDBってグループを作りました。そいつらと〈サグ・ダウン〉(神奈川の相模原を拠点とするヒップホップ・ポッセ、SDPのパーティのこと)に遊び行ったときに、QNが当時やってたイヴェントのフライヤーを配ってて、オレがそれに遊びに行ったんです。それでなんか気が合って、オレとマグとアットとQNと当時いたヤツらでシミラボができたんです。

シミラボ結成の話はまたあとでじっくり訊こうと思いますが、最後にハイスペックさん、よろしくです。

ハイスペック:23歳です。父親と母親は純日本人です。

一同:フフフフフッ。

どうしたの?

ハイスペック:いや、オレ、いつもメキに見られるんで。

メキ?

ハイスペック:メキシカンの血が入ってるんじゃないかって。

ああ、掘りが深い顔してますもんね。

ハイスペック:だから、あえて純日本人だって言ったんです。自分が中1、2ぐらいのときに兄貴がDJをはじめて、オレもヒップホップを聴くようになりました。ちょこちょこターンテーブルを触らせてもらうようになって、そこから興味持ちはじめたのが高校入ってぐらいからですね。高校の文化祭で人の曲を使ってラップしたりして、高校卒業したら自分たちでちゃんとやりたいなって。

最初はどういう音楽だったんですか?

ハイスペック:湘南乃風とかですね。

オムスビーツ:レゲエじゃん。

ハイスペック:最初にはまったヒップホップはウェストサイドでしたね。『アップ・イン・スモーク』が流行ってて。卒業してグループ作って、自分もMCやる予定だったけど、DJがいなかったから、オレがDJやることになった感じです。ライヴも1回しかやってないんですけど。

で、いまはシミラボのメインバックDJですよね?

ハイスペック:そうです。オレが本厚木のほうでイヴェントをやってて、そのときにいっしょにやってた友だちがジョーダンを誘ってきて。

オムスビーツ:ジョーダンじゃわからないだろ!

ハイスペック:あ、オムスビーツのことです。

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私が横須賀のクラブでディープライドをカッコイイなって思って逆ナンしたんですよ。でも、彼女がいたからそのときは諦めて。そのあと、私は1年ぐらいアメリカに行ってて、帰って来て久しぶりにディープライドと遊んだんです。「お前、まだ音楽やってるか? オレ、ヤバいヤツらと知り合ったんだよ」ってディープライドが言うから、いっしょにQNの家に遊びに行ったんです。


MARIA

さっきも少し話が出ましたけど、シミラボが結成された経緯を教えてもらえますか。


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オムスビーツ:やっぱりQNが中心でしょ。

マリア:まず私が横須賀のクラブでダン......、あ、ディープライドをカッコイイなって思って逆ナンしたんですよ。でも、彼女がいたからそのときは諦めて。そのあと、私は1年ぐらいアメリカに行ってて、日本に帰って来て久しぶりにディープライドと遊んだんです。「お前、まだ音楽やってるか? オレ、ヤバいヤツらと知り合ったんだよ」ってディープライドが言うから、いっしょにQNの家に遊びに行ったんです。そこではじめてみんなと会ったんだよね。

クラブとかで知り合ってじょじょに形成された感じだ。みんな同じ地元や学校ではない?

一同:ぜんぜん違います!

高校のころからクラブに遊びに行ってたんですね?

ディープライド:ぜんぜんしてましたね。

クラブのIDチェックとか厳しかったから大変だったんじゃない?

オムスビーツ:厳しかった。

QN:うん、厳しかったよ。

マリア:でも、六本木はぜんぜん厳しくなかったよ。

ディープライド:マリアは女だからだよ。

オムスビーツ:しかも、マリアは老けてるし。

マリア:うるせーよ!

ディープライド:女だと甘いよね。男だと目くじら立ててさ。「わかってんのかよ!」って怒られるけど、女の子だと入れる。

どんなところに遊びに行ってたんですか?

ディープライド:みんなけっこう違うんだよね。この3人(QN、オムスビーツ、ハイスペック)が軽くまとまってる感じで、このふたり(マリア、ディープライド)は遊んでた場所がまたちょっと違いますね。

QN:渋谷のクラブでDJするときも普通にIDチェックされて、顔が若いからライヴがあるのに入れないって言われたりしてた。

3人が遊んでたクラブとふたりが遊んでたクラブの違いはどういったところにあるの?

ディープライド:クラブやジャンルで違いをうまく説明できないけど、オレは当時ウェッサイどっぷりだったから、横浜が多くて、都内なら六本木でした。高校時代はずっと昔のウェッサイばっかり聴いてたから。それ以外は音楽として興味ないぐらい。イージー・E、アイス・キューブ、スヌープ・ドッグ、ほんと西ばっかりでしたね。20歳ぐらいになってから、ルーツ・レゲエとかウェッサイの元ネタになってるファンクやソウルを聴くようになりましたけど。

オムスビーツ:オレがはじめて会ったとき、ディープライドはアフロだったよね。

マリア:私がナンパしたときもアフロだった。

QN:そのときスティード乗ってたよね。あれでヘルメット被るんだって。

ディープライド:2年間もアフロをすきもしないで、伸ばし放題だったから。いまの髪の毛の7倍ぐらいあった。当時は地下への階段を転げ落ちるぐらい飲んで、綺麗なお姉さんと遊ぶことしか頭になかったです。というか、当時はそれが最高の現実逃避の処世術でしたね。

マリア:私は普段六本木なんですけど、友だちがすごく黒人が好きで米軍の近くの横須賀のクラブに行ったときがあったんです。そこで、「めっちゃイケメンじゃん」と思った人がいて、それがディープライドだった。あのときはまわりの女がみんな敵に見えましたね。

ハハハ。シミラボは気づいたら出来上がっていた感じなんだね。

マリア:ほんとそうだよね。

オムスビーツ:やっちゃおうよって。

マリア:"WALKMAN"のPVもノリで撮ったしね。QNが「このパソコンでPV作れるぜ」って言ってて、じゃあやろっかってなったんだよね。

"WALKMAN"が話題になったことについてはどう思ってる?

オムスビーツ:もういいかなって(笑)。"WALKMAN"のイメージが付いちゃってるとイヤだ。他にもいろんなこともできるのに。

QN:逆にイメージ付いてるからそれを壊したときのインパクトがあるよ。

あれはいつ作ったんですか?

QN:去年の冬だからもうすぐ1年経つよね。

マリア:もう1年経ったよ!

どんな反応がいちばん多かった?

QN:ポンっといきなりアップされたから、まずこの人たちは誰? みたいな反応ですよね。

マリア:具だくさんだしさ。わけわかんない色が集まってるから、何系みたいな? ヒップホップなのはわかるけど、こいつら日本語話せちゃうんだって反応もあった。

QN:感想で「日本語でラップするガイジンのPV」みたいのがあった。

一同:ハハハハハッ!

英語は話せるの?

マリア:私しかしゃべれない。

自分のネイティヴの言語は日本語?

ディープライド:そうです。ネイティヴって意味ではマリアもそうかもしれないし。

マリア:日本語ですね。

オムスビーツ:英語が嫌いになりそうだよ。

ディープライド:恨んだこともあるよ。

オムスビーツ:あるある。

それは「英語を話せるんだろ」って見られるから?

オムスビーツ:そうそうそう。ガイジンにも日本人にもそう思われるから。

いちいち説明しなくちゃいけないよね。

オムスビーツ:そう、とにかくめんどくさかったですね。

マリア:やっぱりハーフとして生まれると英語が話せないってほんとにコンプレックスだよね。私ももともとも聴くぐらいしかできなくて、アメリカに行ってはじめて話せるようになった。

QN:それは純日本人のオレが見ても感じたね。ディープライドはとくにそういうのを意識してる部分があるし。

ディープライド:意識し過ぎちゃいました(笑)。

オムスビーツ:オレはそれも通り過ぎて、どうでもよくなっちゃった。

QN:そういう意味では開き直ってるオムスビーツと先に知り合ってたから、マリアやダン(ディープライド)と知り合ったときにぜんぜん違和感なく入っていけた。

マリア:だからよかったのかもね。

QN:オムスビーツなんてうちにはじめて遊びに来たときに......

オムスビーツ:納豆食ったもんね!

一同:ワハハハハハッ!!

QN:旨そうに納豆食ってるから、「あ、こいつ日本人なんだ」って。

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オレは当時ウェッサイどっぷりだったから、横浜が多くて、都内なら六本木でした。高校時代はずっと昔のウェッサイばっかり聴いてたから。それ以外は音楽として興味ないぐらい。イージー・E、アイス・キューブ、スヌープ・ドッグ、ほんと西ばっかりでしたね。


DyyPRIDE

"WALKMAN"が話題になったとき、驚く反面、当然だろうなって気持ちもあった?


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オムスビーツ:まあね! みたいな。

QN:ぶっちゃけ、"WALKMAN"でこれだけ話題になって、「これでいいの?」っていうのはあった。

オムスビーツ:それはあったよね。

マリア:これからだよね。

QN:ぜんぜんまだスタートしてない。

「こいつら何者だ?」というのもあったけど、やっぱりトラックとラップが格好良かったからここまで評判になったんだと思いますよ。

マリア:それはQN様様だと思いますよ。はじめてあのトラックを聴いたとき、私はニヤニヤして帰ったもん。

オムスビーツ:ほんとにー?!

マリア:ほんとだよ。私はDJじゃないけど、それなりに幅広いジャンルを聴いてるし、ヒップホップはとくに深く聴いてるから、QNのあのトラックは間違いないと思った。

これまでとは違った何かを感じましたね。

マリア:タイム感ですかね。

:そうそうそう。

ディープライド:なにそれ?

マリア:なにそれじゃないよ。いまさら言うなよ!

オムスビーツ:マリア、説明して!

マリア:普通の人は普通に歩くじゃない。うちらはちょっとつまずいてる感じ。

上手い表現しますね。

ディープライド:みんな変わってるんだよね。すべての感覚が変わってる。そうとしか言いようがないよね。普通の人がラップしてもありがちなラップにしかならないけど、良くも悪くも変わってるんだと思いますよ。

QNくんは、ソロ・アルバムもそうだったけど、すごくオープンマインドな感覚で音楽を作ってますよね。アフロ・ファンク・テイストのトラックやソウルフルなR&Bテイストの曲やGファンク風の曲があったかと思えば、一方で"WALKMAN"みたいのも作るし。

オムスビーツ:QNに会うたびに、「これがヤバイんだよ!」ってCDを持って行ってたし、QNがうちに来たときはCDの山をごっそり貸してましたね。

QN:ごっそりね。

オムスビーツ:そういうのが何束かあるよね。

そこにはどんなCDがあったんですか?

QN:う~ん、なんだろう? たとえば、エドガー・アレン・フローとか。具体的には忘れちゃったけど、オムスビーツと知り合う前は「90年代がヤバイ!」ってずっとDJプレミアのビートとかばっかりにやられてて、最近のメインストリームなんてヒップホップじゃねぇって感じだった。

オムスビーツ:デム、マザーファッカー!

QN:っていう感じだったんですけど。オムスビーツがカンパニー・フロウとかリヴィング・レジェンズを聴かせてくれた。オムスビーツが「ヤバイ」って言ってるから、とりあえず、オレも「ヤバイ」って言うようにしてた。

ディープライド:ハッハッ!

オムスビーツ:「あぁ、知ってる、知ってる」って。

QN:こいつがヤバイって言ってるなら、聴きこもうっていうのはあった。マッドヴィレインもオムスビーツから教えてもらった。

マリア:"WALKMAN"に関しては、オープン......なんでしたっけ? 

オープンマインドですね。

マリア:そう。QNは決め付けることをしないで何でも聴くから。昭和のアニメのサントラを聴いてたり。

オムスビーツ:フォークも聴くしね。

マリア:ヒップホップの人があまりしない聴き方って言ったらおかしいかもしれないですけど、昭和の日本的なエッセンスも混ぜてるから、こういう妖しい雰囲気が出てくるんだと思う。

中古で昔のCDやレコードを買ったりもしてるんですか?

QN:ずっとしてますね。中学からDJやってたから。高校に入ったらみんなバイクとか車に興味を持つところなんですけど......

ディープライド:オレとかね。

QN:オレは、「そのマフラー、2スト? 4スト?」とかそれぐらいしかわからないから。

オムスビーツ:それぐらいわかれば十分でしょ。

QN:とりあえず、金があったらレコード買ってましたね。

音好きだったんだね。

QN:みんなと同じことをやりたくないっていうのがあったんです。

そこも天邪鬼だったんだ。シミラボがいまのシミラボとして精力的に活動し始めたのはここ1年ぐらいと考えていいのかな?

オムスビーツ:シミラボはとっくにあったけど......

ディープライド:いまの形で活動しはじめたのは1年ぐらい前っすね。

QN:そうだね。ここ1、2年だね。"WALKMAN"はマリアとダンがいてこそだよね。

オムスビーツ:絶対そうでしょ。

QN:最初のほうは「マリアとダンは最近入ったばかりで関係ないでしょ」みたいな感じだったけど。

ディープライド:そんなに!

QN:いや、ちょっといまの話は盛ったけどさ。いまとなってはマリアとダンがいなければ、あそこまで話題になってないよ。それはほんとに思う。この4人っていうのがやっぱりでかかった。

でも、まだまだいろんなメンバーがいるらしいですね。

QN:この3倍ぐらいはいますね。

マリア:いる。

オムスビーツ:いるいる。しかも強いよね。

なんかウータン・クランみたいな感じだね。

QN:最初はそんなことを考えてましたね。

オムスビーツ:2軍とか作りたいよねって。ウータンは3軍、4軍までいるからね。

マリア:へ~。

ところで、シミラボっていう名前の由来はなんですか?

QN:クルーとしても、音楽としても"染み渡る"という意味からきてますね。友だちだけでもないし、家族でもない。「just a simi lab」という感じですね。でも、家族ぐらいの絆なのかもしれないし。

ディープライド:結束しようとし過ぎてないからそこがいいと思いますね。

ラップや歌やトラックを作ったり、音楽をやるのはエネルギーのいることじゃないですか。表現欲求はどこから出てくるんですか?

ディープライド:もちろんヒップホップをカッコイイと思ってたけど、2、3年ぐらいひきこもってたときにいろいろ書いてて、ラップはその延長ですね。ラップは自分のなかのものを吐き出す術ですね。どうせ紙に書いたものがあるなら、ヒップホップが好きだし、ラップをやろうと思いました。

マリア:私はもともとソウルとかロックも好きだったし、詩もよく見てたんです。自分も音楽で人を動かせたらいいなって気持ちが強い。それではじめたのが大きいです。とくにいまなんか仕事もバリバリやってるから、音楽をやるのはエネルギーがす~ごいいるんです。ちょっと仕事で疲れてるから、QNのところに行くの今日は止めておこうと思ってると自分はそのレヴェルで止まってしまって、まわりが成長していくっていう現状があって。でも、みんなと会うことで刺激を受けて、いいものを作ろうって思える。みんなのことをどんどん好きになれるし。仕事は大変ですけど、エネルギーを使う価値があると思ってます。

QN:フフフフフ。

マリア:なに笑ってんの! いますごいいい話してるのにさ!

QN:思い出し笑いしちゃった(笑)。「みんなのことをどんどん好きになれる」って言ったからさ。最初は、ジョーダンは超ブサイクだし、オレはぜんぜん愛想のないヤツみたいなことをマリアは言ってたから。

オムスビーツ:お前、そんなこと言ってたの!

マリア:アハハハハッ!

オムスビーツ:超ブサイクか~。

マリア:最初はしょうがないじゃん。

オムスビーツ:ああ、オレは超ブサイクだよ! あ~、泣ける。

マリア:それは表向きだけだよ。でも、なんか、みんなと会ってるうちに見慣れてきた。いまとなってはみんなめっちゃ好き!

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最近、英語を勉強してて、再来年ぐらいから英語でラップしようと思ってますね。ディープライドと話したんだけど、日本語訛りの英語がカッコイイってヤツがいるかもしれないじゃんって。日本語訛りの英語のフロウがあっちでヤバイじゃんってなるかもしれないし。


DJ HI'SPEC

みんな仲が良いね(笑)。やっぱ、ヒップホップや音楽をやる悦びってみんなで集まって何かを作ることだったりする?


QN From SIMI LAB
THE SHELL

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マリア:それはすごいある。

オムスビーツ:でも、集まるけど、何かを作ろうってなかなかつながらないんだよ。

マリア:でも、いまは何かをやろうってなってるでしょ。

オムスビーツ:そうだね。ここ最近だよね。

遊びの延長線上でやっている感じ?

ディープライド:オレはそんなのないな。遊びじゃない。オレはさっきも言いましたけど、自分のなかから出てくる炸裂した脳細胞を処理していますね。他のみんなは違うかもしれないけどね。

『Mud Day』に入ってる"Madness Lab"のディープライドくんのラップで、「あっしの故郷はエイジアの極東/ジャパニーズ・ソサヤティ/(中略)こんな僕なんてほっといてちょうだい/さもなきゃ包丁から飛び出しナイフ」という歌詞があるじゃないですか。そこで表現しているのは疎外感ですか?

ディープライド:いや、劣等感ですね。

QN:第三者的にダンを見る限りだけど、ほんとに最初オレらと知り合ったときは、自分から言葉が漏れてくる感じがした。

ディープライド:そうだね。

QN:でも、ここ最近のラップを聴いてると、そこを脱してやっとラップっていうひとつの表現方法を楽しみはじめてる感じが伝わってくる。

ディープライド:前まで自分の腕を切ってたりしてて、「お前はもう死んだほうがいい」っていう声がずっと聞こえてた。

マリア:ほんとヤバかったよ。

ディープライド:そうなると、物とかがすべてゆがんで見えるんですよ。自分の意識が夢を見てるだけみたいな。そういうときに言葉しかなかったんですよ。

劣等感を感じてしまう理由はなんだったんですか?

ディープライド:それはさっきも話したけど、日本語しかしゃべれないことをバカにされることとか。あと、家族のなかでハーフが自分だけなんですよ。兄弟はいるけど、ハーフはオレだけで、自分が不自然な存在に思えるんです。なにが普通なのかがわからなくなったりしてた。劣等感はそういうところから来てるんでしょうね。どんなに真面目にやっててもお前は普通じゃないと言われるし。

QN:ダンがそういうこと言うのはほんとに冗談じゃないから。そういうことですごい共感しちゃう部分もあるし、ぜんぜんついていけない部分もある。

オムスビーツ:ダンの話を聞いてると、オレはそういうことを何も考えてなかったなって思う。

QN:いまはいっしょかもしれないけど、ぜんぜん違う世界を生きてきたんだなってことが伝わってくる。ダンはほんとに大変な思いをしてきたんだろうけど、ある意味僕らからしたら魅力的な経験をしてるとも思う。

オムスビーツ:毎日、そういうこと話されるのはいいけど、花金とかにあって、そういうこと話されるのは楽しい。

QN:たしかに毎日だと勘ぐるもんね。オレも精神的に病んでるときは、ダンが言った「普通なんてないよ」っていう言葉に1週間ぐらい考えさせられたりする。

マリア:だから、ラッパー・ネームがDyyPRIDEなんですよ。

たとえば、"WALKMAN"や"知らない先輩"にはいい意味で生意気な態度が出てると思ったんですよ。年功序列や世間の常識に媚びてないというか、媚びたくないっていう気持ちが強く出てるなって。

QN:シミラボのひとりひとりがマイノリティの世界で生きてきた人たちで、世界や社会を外から細かいところまで見てた人たちだと思うんです。絶対そうでしょ? ある意味冷たい部分もあったりするだろうし。この歳にしてはわかりきっちゃってる部分もある。もともとマイノリティだったものが集まって化学反応が起こったんだと思う。

マリア:ひとりひとりの家庭の事情もあったし。普通に育ってきたらマイノリティの考えなんて生まれなかったと思うんですよ。やっぱりそれなりにラフな道のりがあったから。人からいろんなことを言われたり、客観的に自分を見ることが多かった。

シミラボのHPのプロフィールやMVを観ると、観る側を煙に巻こうみたいな感じもするんだけど、あれは意識的にやってる?

QN:いや、HPに関して言えば、オムスとオレが遊びでやってるだけですね。

マリア:私も知らない。

QN:自分で自分の解析するのもあれですけど、オレはけっこう物わかりがいいんじゃないかなって思う。オレ自身、すごい人生を歩んできたわけではないし、こんなに変わった人たちといっしょに同じレヴェルで会話できたり、同じ遊びができるのは......。

ディープライド:でも、QNは天才バカボンだよね。バカと天才は紙一重って言うじゃないですか。スゲェ変な言葉使いをするし、右に行くと思ったら、左に行くような感じがある。人がわからないようなイメージを持ってて、立体映像を見ているような脳みその持ち主なんですよ。

シミラボってシリアスな部分とユーモアの部分のバランスがいいですよね。今日の話を聞いてても思ったけど。真面目にふざけてる感じがあるというか。

ディープライド:真面目にふざけてるっていい言葉ですね。

ところで、日本のヒップホップはそんなに聴いてきたわけではないんですか? やっぱ海外のもの?

マリア:私は洋楽が普通だったから、日本の曲はまじダセェって思ってました。カッコイイと思ったのはXジャパンぐらいだった(笑)。それもおかしな話なんですけど。やっぱりニップスにすごく影響されました。他にはジブラとかドラゴンアッシュとか。あと、スケボーキングのラップがすごい好きでよく聴いてました。どういう日本語のラップがカッコイイんだろうって観点で日本語ラップを聴いてました。

QN:オムスやオレやハイスペックは、敏感とまでは言えないけど、日本のヒップホップ・シーンにある程度アンテナを張っていて、マリアやディープライドがオレらの知らない音楽を持ってくる感じですね。

なるほど。これからの展望は何かありますか? 人生的にも音楽的にも。

QN:全体的に将来こうしようっていうのはあるのかな?

マリア:あんまりないかな。私、女だし。

オムスビーツ:意味わかんないよ。

QN:ハイスペックはどう? 今後どうしたいかいちばん訊いてみたいよ。

ディープライド:ハイスペック、YO!

QN:2年後は?

ハイスペック:日本だけじゃなくて、広い世界でやりたいとはほんとに思います。日本だけだと人も少ないし、世界で考えたら、オレらの音楽を気に入ってくれる人はもっとたくさんいるわけで。

QN:人によっては「なに言ってるんだよ!」っていう人もいるかもしれないけど、「見てろよ!」って感じですね。2011年はディープライド、アース・ノー・マッド、オレのEP、シミラボのアルバム、あとはハイスペック、オムスビーツ、アース・ノー・マッドのミックスCDを出すつもりです。日本でシミラボの地位をがっつり上げて、再来年ぐらいから本気で世界的なプロモーションができればなって。マリアは英語しゃべれるしね。

ディープライド:英語しゃべれちゃうしね!(笑)

マリア:六本木のガイジンに"WALKMAN"を聴かせたりすると、「オー、ナイスビーツ!」とか言うし。

オムスビーツ:ソー・クール・メ~ン!

マリア:向こうのみんなにも受け入れられるものがあると思う。実際、日本人も洋楽の意味ってわかってなかったりするから、日本語が他の国の人にわからなくてもいいものができれば浸透していくと思うし。

QN:最近、英語を勉強してて、再来年ぐらいから英語でラップしようと思ってますね。ディープライドと話したんだけど、日本語訛りの英語がカッコイイってヤツがいるかもしれないじゃんって。日本語訛りの英語のフロウがあっちでヤバイじゃんってなるかもしれないし。

マリア:そうだよ。

QN:フィリピン人がUSでデビューしたり、韓国人だって英語でラップしてるじゃん。

ファー・イースト・ムーヴメントなんていまアメリカで凄いでしょ。

マリア:ヤバイっすよね。

QN:日本っていう環境でほとんど英語が話せないのもすごいまずいことだし、英語で言いたいことを表現できれば、地球規模の音楽として評価されることもあるだろうし。そこらへんはオムスビーツのビートにしても、マリアの歌にしても、ディープライドの表現にしても、ガイジンに劣ってるかって言ったら、通用する自信はかなりあるので。

マリア:自信があったからここまでやってこれたしね。

ディープライド:オレは他にもやりたいことがいっぱいありますね。映画を撮りたいと思ってるし、自分自身の本も書きたい。

ディープライドくんにとってラップは表現方法のひとつなんですね。表現欲求がまずさきに溢れ出てくる感じだ。

ディープライド:そうですね。言葉でつながっていきたい。

QN:じゃあ、ハイスペック最後に一言!

ハイスペック:トラックも作っていきたいっすね。そこをどんどん前に出していきたい。みんなのライヴをしやすいように、バックDJもやっていきますけど。

ディープライド:自分もちゃんと目立ってくれないとね!

マリア:そうだよ。

オムスビーツ:脱ぐぐらいしないと!

BITCHFORK - ele-king

 『ゼロ年代の音楽――ビッチフォーク編』がいよいよ発売されます。ビッチとは何者か? ――女とポップ・ミュージックの抵抗をめぐる冒険の書......というつもりで作りました。以下、目次を載せますので、どうぞよろしくお願いします!


photo by Yasuhiro Ohara

■contents

02 Foreword
そんなビッチ殺っちまえよ――本書はいかにして生まれたか    
野田 努

07 Bitch Talk 01
もうひとつの、しかし極めて重要な物語――ボヘミアン・ガールの系譜
五所純子×水越真紀×田中宗一郎×野田努 (司会・構成 三田格)

46 Column 01
私たちの革命――ライオット・ガールというムーヴメント
大垣有香

54 Column 02
強きもの、汝の名は弱さ――ジンライムのお月さまは「ひどい乗り方」を許していたんだ
水越真紀

57 Bitch Talk 02
ノー・ウーマン、ノー・クライム―― ヒップホップ文化に見る性について
RUMI×磯部涼×二木信  
オブザーバー 水越真紀(司会・構成 野田努)

83 Column 03
ビッチの領分――ミソジニー論争への一考察
新田啓子

91 Column 04
Bガールの逆襲 Return Of The B-GIRL
二木 信

95 Bitch Talk 03
コギャルの出て来た日 ――消費社会がもたらす女性の変化
湯山玲子×三田格  オブザーバー 野田努 (司会・構成 松村正人)

120 Interview  戸川純、インタヴュー
たぶん、女にしか書けないことを、と思ったんじゃないかな。「バーバラ」にしても女にしか出来ないことと思った。(取材:水越真紀)

128 Column 05
安室奈美恵はいつ死んだのだろう
五所純子

135 BITCHFORK DISC REVIEW
CLASSIC 1955-1999/00'S 2000-2010
(磯部涼、大垣有香、野田努、橋元優歩、二木信、松村正人、水越真紀、三田格)

188  Column 05
律はビッチ!
三田 格

DJ DUCT (THINKREC.) - ele-king

2010年ベストディスク


1
Erykah Badu- New Amerykah Part Two: Return of the Ankh - Motown

2
Mochilla Presents Timeless - Suite for Ma Dukes - Mochilla

3
Moody - Ol' Dirty Vinyl - KDJ

4
Black Milk - Album Of The Year - Fat Beats

5
Nick Speed - Speed of Sound - Underground Resistance

6
Flying Lotus - Cosmogramma - Warp Records

7
Jeff Mills - The Drummer Part2,3 - Purpose Maker

8
9dw - rmx - ENE / CATUNE

9
Soft vs DJ Duct - Loop Segundo - NNNF

10
DJ Duct - Backyard Edit Pt.2,3 - THINKREC.

#9:Flashback 2010 - ele-king

 先日『NME』が20もの音楽メディアによるアルバム・オブ・ザ・イヤーの集計を発表した。対象となったのは『NME』をはじめ『ピッチフォーク』、『ガーディアン』、『ローリング・ストーン』、『スピン』、『Q』、『モジョ』、『アンカット』ほか、ブルックリンで圧倒的に支持されている『ステレオガム』やUKのウェブマガジン『ドローンド・イン・サウンズ』、あるいは超メジャーの『MTV』などなど、主にロック系のメディア。

1. Arcade Fire - The Suburbs
2. Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy
3. LCD Soundsytem - This Is Happening
4. The National - High Violet
5. Beach House - Teen Dream
6. Vampire Weekend - Contra
7. These New Puritans - Hidden
8. Deerhunter - Halcyon Digest
9. Big Boi - Sir Lucious Left Foot: The Son Of Chico Dusty
10. The Black Keys - Brothers
11. Robyn - Body Talk
12. Yeasayer - Odd Blood
13. Caribou - Swim
14. John Grant - Queen of Denmark
15. Joanna Newsom - Have One On Me
16. Sufjan Stevens - The Age Of Adz
17. Janelle Monae - The ArchAndroid
18. Drake - Thank Me Later
19. Sleigh Bells - Treats
20. Ariel Pink's Haunted Graffiti - Before Today

 自分の好みはさておき、まあ納得のいく20枚だ。ちなみに僕の個人的なトップ10は以下の通り。

1. Beach House -Teen Dream
2. Darkstar - North
3. 神聖かまってちゃん-みんな死ね
4. Gold Panda - Lucky Shiner
5. Emeralds - Does It Look Like I'm Here?
6. Oneohtrix Point Never - Returnal
7. Factory Floor - Lying / A Wooden Box
8. M.I.A. - /\/\/\Y/\
9. Gayngs - Related
10. Mount Kimbie - Crooks & Lovers

 ビーチ・ハウス以外は『NME』が集計した20枚に入っていないけれど、好みで言えば、ビッグ・ボーイ、ドレイク、ジャネール・モネイ、カリブー......ジョアンナ・ニューサムとディアハンターとアリエル・ピンクに関しては今作がとくにずば抜けているとも思えなかったけれど、もちろん嫌いなわけではない。アーケイド・ファイアーの3枚目は実は最近になってようやく聴けたが、過去の2枚に顕著だった重さはなく、いままででもっとも親しみやすい音楽性だと感じられた。このバンドに関して言えば、対イラク戦争の真っ直なかに発表した反ネオコンの決定版とも言える『ネオン・バイブル』によって、音楽と社会との関わりを重視する欧米での評価を確固たるものにしている。こういうバンドがいまでも一目置かれるのは、欧米の音楽ジャーナリズムが音楽に何を期待しているかの表れである。
 そう、アルバム・オブ・ザ・イヤーとは、その作品の価値や誰かのセンスを主張するものではなく、ジャーナリズムがいまどこに期待しているのか、という観点で読むと面白い。そのセンで言えば、僕にとって2010年に興味深いのはカニエ・ウェストとジーズ・ニュー・ピューリタンズだ。どちらも個人的には好みではないけれど、僕がふだん読んでいるメディアではどこも評価している。おかしなもので、LCDサウンドシステムがいくら評価されても気にもとめないというのに、気にくわないと感じているカニエ・ウェストとジーズ・ニュー・ピューリタンズが高評価だと気になるのだ。
 以下、『ピッチフォーク』、『NME』、『ガーディアン』のトップ10を並べてみよう。

Pitchfork
1. Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy
2. LCD Soundsystem - This is Happening
3. Deerhunter - Halcyon Digest
4. Big Boi - Sir Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty
5. Beach House - Teen Dream
6. Vampire Weekend - Contra
7. Joanna Newsom - Have One on Me
8. James Blake - The Bells Sketch EP/ CMYK EP/ Klavierwerke EP
9. Ariel Pink's Haunted Graffiti - Before Today
10. Titus Andronicus - The Monitor

NME
1. These New Puritans - Hidden
2. Arcade Fire - The Suburbs
3. Beach House - Teen Dream
4. LCD Soundsytem - This Is Happening
5. Laura Marling -I Speak Because I Can
6. Foals - Total Life Forever
7. Zola Jesus -Stridulum II
8. Salem - King Night
9. Liars - Sisterworld
10.The Drums - The Drums

The Guardian
1. Janelle Monae- The ArchAndroid
2. Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy
3. Hot Chip - One Life Stand
4. Arcade Fire - The Suburbs
5. These New Puritans - Hidden
6. Robyn - Body Talk
7. Caribou - Swim
8. Laura Marling - I Speak Because I can
9. Ariel Pink's Haunted Graffiti - Before Today
10.John Grant - Queen of Denmark

 カニエ・ウェストのアルバムでまずはっきりしているのは、それがヒップホップのフォーマットから離れていること。「イントローヴァースーフックーヴァースーフックーアウトロ」といった公式をチャラにして、膨大なサンプル(60年代のサイケデリックからゴスペルまで)によって新しい何かを生み出そうとしている......ある種のプログレッシヴな音楽と言えよう(実際プログレだろ、あれは......と僕は思ってしまったのだが)。僕や二木信のような保守的なブラック・ミュージック・リスナーの裏をかいているアルバムとも言えるし、そしてこれはジーズ・ニュー・ピューリタンズへの評価とも重なることなのだが、欧米の音楽ジャーナリズムが知的興奮を知らないチンピラにはもう期待していないということでもある。そしてそれでも(カニエ・ウェストの対極とも言える)ビッグ・ボーイが愛されているのは、暴力性というものに何のロマンスも見てはいないということでもある。まあ、要するにそれだけマッチョイズムと暴力性を日常的に身近に感じているからだろう。

 日本の音楽シーンに関しては、2010年は面白かったと思っている。それはポップ・フィールドにおける相対性理論と神聖かまってちゃんのふたつに象徴されるだろう。どちらもインテレクチュアルなポップで、2010年の日本に対する両極端の、際だった態度表明と言える。つまり、かたやナンセンスでかたやパンク、かたや"あえて抵抗しない"でかたや"とりあえず抵抗してみる"というか......そして好むと好まざるとに関わらず、時代は更新される。僕にとって興味深かったのは、神聖かまってちゃんへの表には出ない嫌悪感だった。それは僕が中学生のときに見てきたセックス・ピストルズやパンクに寄せられた嫌悪感、RCサクセションに寄せられた嫌悪感と見事にオーヴァーラップする。何か、自分の理解や価値観の範疇からはみ出したものが世のなかの文化的な勢力として強くなろうとするとき、それを受け入れる人と拒絶する人にはっきり分かれるものだが、同じことがいま起きているようだ。そして、気にくわないというのは、それだけ気にしているということでもある。(笑)

 エメラルズに関しては、面白いことに『ドローンド・イン・サウンズ』が1位にしている。こうしたチャートの見方というのは、「ではエメラルズを1位にするようなメディアは2位以下を何にするのだろうか」という点にもあるのだが、2位がザ・ナショナルで3位がデフトーンズというのはがっかりした。シューゲイザー好きな編集部のなかの偏執的な編集長があるときエメラルズで壮大なトリップをしてしまったのかもしれない。もちろん、多くの場合は個人的な経験が大切であって、『ガーディアン』の読者が言うように「メディアが選ぶトップ20をわれわれが聴かなければならないという義務はない」わけだが、話のネタとしては大いにアリなのだ。その年何が良かったのかについて話すことは、音楽ファンにとっては楽しみのひとつである。

#3 "アガる音を求めて" - ele-king

2010/11/20
Soundcrash Presents
"プラッド vs レッド・スナッパー"@KOKO, London

 〈ワープ〉の重鎮、プラッドとレッド・スナッパーをヘッドラ イナーに据えたパーティにて、サポート・アクトのひとりとして出演しました。
 この日トップバッターとして出演したのは、〈ニンジャ・チューン〉から 1stフルアルバム を発表したばかりのエスクモ。レーベルメイトであるアモン・トビンを彷彿とさせるグリッチサウンドを基軸としながらも、ダブステップやウォンキーといった、現在のUKアンダーグラウンドシーンにも共鳴するビートを鳴らす彼の音楽は、ここロンドンでも多くのリスナーの耳を惹きつけはじめています。彼のパフォーマンスはその音楽性に負けず劣らず個性的なもので、 ラップトップをメインにしながらも、マイクを通してその歌声を惜しげもなく披露したり、缶ジュースの開栓音やペットボトルを握りつぶす音をその場でサンプリングしてループさせるなど、ライブならではの演出がたくさん用意されていて、彼を観るために早い時間から来場していた大勢のオーディエンスを 湧かせていました。


来日も果たしたエスクモ

 続いて登場したのは、来年2月に同じく〈ニンジャ・チューン〉から 2ndアルバムの発表が予定されているリーズ出身のバンド、ステイトレス。かつてのトリップホップを彷彿とさせるビートに、美麗なメロディ が絡むそのスタイルはDJシャドウをして「過去数年に耳にしたもののなかで、もっとも完璧に近い音のひとつ」と言わしめ、ヴォーカリストであるChris Jamesは実際にDJシャドウの3rd アルバム『The Outsider』の数曲で、その歌声を披露しています。当日はギター/ヴォーカル、ベース、ドラム、そしてラップトップの4ピースバンドとして出演し、先行シングル「Ariel」を含む、来るフル・アルバムに収録され る楽曲の数々を披露していました。グリッチーでダークでありながらも、ロック・バンドとしてのダイナ ミックなサウンドも同時に期待できる彼らのサウンドは、今年20周年を迎えた〈ニンジャ・チューン〉が提示する、新たな方向性を象徴していると言えるかも知れません。


盛りあがるオーディエンス

 午後11時30分、僕は3番手として出演しました。今回はとくにゲストを迎えず、基本のスタイルであるソロとして演奏しました。よくも悪くも、僕はどのイヴェントに出演しても、音楽的にアウトサイダーになることが多く、前後の出演者との流れを考えてセットリストを組むことが多いのですが、この日は文字通りの異種混合ラインナップで、とくにそういった必要がなかったため、個人的にいま現在モチベーションの高い曲のみをチョイスして演奏しました。必然的にミニマルをテーマにした新曲群が大半を占めたのですが、フロアからの好意的なリアクションに、大きな手応えを感じました。


いつものように熱演するアンカーソング

 ヘッドライナーとして先陣を切ったのはレッド・スナッパー。かつてはいかにも〈ワープ〉のアーティストらしい、ミニ マルでエレクトロニックな音楽性を標榜していた彼らですが、現在はウッドベース、サックス、ギター、ドラム、エレクトロニクスという5人編成のバンドとして活動しており、音楽的にはテクノというよりは、プログレッシブなジャズに近いと言えます。メンバーの平均年齢は40代前半~後半といったところです が、彼らの若干渋めの演奏に対しても、フロアを埋め尽くした若いオーディエンスはとても素直に反応していました。


ダブルベースが目印のレッド・スナッパー

 深夜1時半、もう一組のヘッドライナー、プラッドの登場。アンディ・ターナー、エド・ハンドレイのふたりによるユニットは、10年以上に渡って〈ワープ〉から作品を発表し続けているほか、メンバーがそれぞれ他名義で方向性の異なる作品を発表したり、日本でも2006年に『鉄コン筋クリート』にサウンドトラックを提供したりと、その活動は多岐に渡ります。当日は巨大なデジタル・コンソールをステージに持ち込み、それを2台のラップトップでコントロールするという大がかりなものでしたが、セット内容はフロアを意識したミニマルなテクノに終始し、最 高潮を迎えたフロアのオーディエンスは一心不乱に踊り続けていました。


つねに最高のエレクトロニック・ミュージックを演奏するプラッド

 そしてこの日のトリを飾ったのはルーク・ヴァイバート。別名儀のワゴン・クライストとしての作品を含め、非常に多作なこ とで知られる彼は、〈ワープ〉と〈ニンジャ・チューン〉の両方から作品を発表している数少ないアーティストのひとりです。かのエイフェックス・ツインをして、「尊敬できる数少ないアーティストのひとり」と言わしめたりと、少しインテリジェント気味のテクノやブレイクビーツをトレードマークとしている彼ですが、当日はすっ かり酔いが回ったオーディエンスの気分を察してか、自身の曲はいっさい披露せず、ミニマルなテクノにベタベタのサンプリングネタを絡ませるという、いかにも明け方のクラバーたちが喜びそうなセットで、大いに盛り 上げていました。


貫禄充分のルーク・ヴァイバート

 音楽性という面では、一見あまり一貫性のないラインナップでは あったものの、蓋を開けてみれば興行的には大盛況で、耳の肥えた週末のロンドンっこの間では、音楽性うんぬんよりも、「アゲてくれる音ならなんでもいい」という、とても健康的でオー プンマインドな姿勢が共有されているのだということを、改めて気付かせてくれた夜でした。

NOOLIO a.k.a. Norio Shimizu (PART2STYLE) - ele-king

SKA & SHUFFLE 十選


1
Mungo's Hi Fi and Marina P - Divorce A L'italienne - Scotch Bonnet

2
Soothsayers Horns - Ganja Free - Universal Roots

3
Longsy D - This Is Ska (Rydem Wiv Acid Mix) - Warlock

4
Mule Train - Devil's Shack - Lamb Star Records

5
The Tchiky's - Oide - Rudiments

6
Natacha Atlas - Hayati Inta (Mickey Moonlight Remix) - Mo'Zik Records

7
Stevie Wonder - Higher Ground - Motown

8
Cirillo Pres. Trio Dubbales - Shalla Balla - White

9
Thomas Fehlmann - The Road - Kompakt

10
Dub Insurgent - Caballo Bounce - Near & Far Records

神聖かまってちゃん
ワンマンライヴ2010
- ele-king

 喧嘩したり骨折ったりパソコン壊したり途中で終わったりやる曲を決めてなかったり、ざっくばらんかつスキャンダラスな無法地帯であるやに漏れ聞いていた神聖かまってちゃんのライヴもリキッドルームでのワンマンということで、アルバム発売日の12月22日に早くも仕事納めを終えたつもりで出かけたが、知り合いには会わなかった。やっぱまだ仕事納める日じゃなかったんだな......。

 2曲続けて演奏されるということがない。1曲終わると何かしゃべり、次の曲をの子が決めてmonoに伝え、それをmonoはなんとか秘密裏にメンバーだけに伝えようとするのだが、monoのジタバタをあっさり無視しての子はマイクでこれからなにを演奏するかを呟いたり宣言したりする。2番目にやった"あるてぃめっとレイザー"を何度も初めてのように提案するの子にそれはもうやったからと説得しつつ、その繰り返しで進むライヴは、けれども別にほのぼのアットホームというわけではない。ギクシャクもしていないが、花壇や曲がり角や風鈴や洗濯物に気を取られながら、気になるたびに座って覗き込んでまた歩き出す散歩のようにいつの間にか進んでいる。

 男性客の多さが意外だった。パンクというジャンルではたいてい、怒りは他者に向かうことが多いだろう。反戦や政治のことでなくても、情けない自分がいれば必ずその対照に何らかの他者がいて、自分の内面への言及もその他者を意識したものになる。けれどもの子の詞に他者の存在はほとんどない。ひたすら内心の描写が続き、しかもそれを変えたい、変えようという願望も明確には表されてはいない。
 神聖かまってちゃんのライヴの雰囲気は、このの子の詩の世界を具現化したもののように思える。多くの若い男性客がバンドのなにに惹かれているのかは分からないが、ここでだけは他者のいる世界を抜け出し、自分を変えたいなどと神経をすり減らすこともなく、かといって非現実的な希望や"あるべき自分像"を押し付けられるようなストレスにさらされることもない。

 それから私は初めて観た神聖かまってちゃんのそのライヴで、なによりもの子という〈ヴォーカリスト〉を発見した、と思った。CDでは絶妙なバランスで整理され、美しく、爽快なまでに「完璧」と思えるほどのバランス感覚で施されているミックスが、当然だがライヴではある程度は混沌とする。そんな行儀がいいとは言えない空間で、意図的な混沌が塊と広がりのせめぎあいでフロアを包み込もうとしている。
 細い体でバイセクシャルの雰囲気をもつロックンロール・ヴォーカリストというのは珍しい存在ではない。ミック・ジャガーにイギー・ポップ、マーク・ボランとかジョニー・ロットンとか忌野清志郎とかね。の子はその系譜にいるとてもステージ映えのするヴォーカリストだ。曲間のMCというのはきっとけっこう難しいんだろう。でも煽るMC(例えば清志郎)であれ畏まるMC(例えばどんと)であれ、長話であれ小咄であれ愚痴であれ、気取っていても素顔を見せても、「板(ステージ)」についているMCとついていないMCがあるだけで、それは最初からかなり運命づけられているように思う。22日のの子はAラインのシャツがさらに華奢なシルエットを際立たせ、さながら、えー、森のこびとのようだった。そして1000人を前にしてそのファンタジックなパンク・ヴォーカリストはまるごと板についていた。

 そもそもが穿ち過ぎだったと言われるかもしれないが、音程を変えて女性のような声を使うのは、CDを聴いているときには、そのまま性別不明感、あるいはバイセックスを表すものとして聴こえていた。けれどもステージから発せられるの子の声は少し違って聴こえたのだった。熱いがなり声が突然平坦、あるいは冷淡なつぶやきに転換することもそうだが、そうした独特なヴォーカルの変化は、CDで聴こえていたような、例えばことにジェンダーを含んだ多重人格的なキャラクターの使い分けのようなものとしてではなく、の子というひとりの人格としてのヴォーカリストのつながりのある心象表現として届いてきた。両者の違いはけっきょくのところ些細なことでもあるが、歌の届き方の点で私はずいぶんと違った印象を受けた。

 数個の人格がさまざまな感情や気分を持っている、いわば小さな社会があるのではなく、あくまでもひとりの人間のなかにそれだけ複雑な感情や気分が去来するのだということを生々しく突きつける。激しく、まっすぐに。なぜだろう。ひとつには、ライヴならではのミックスで制御からはみ出してくる地声の存在感があったかもしれない。そしてなにより「板」に着くヴォーカリストの説得力があったと思う。

 後半、の子の声はますますよく出てくるようになっていった。"いかれたニート""怒鳴るゆめ""ねこラジ"、そしてただでさえヴォーカルが多くを語る"いくつになっても"と、"しょっちゅう座り込みながらの散歩"というペースは少しも変わっていないのに、気持ちは耳は目はまっすぐにステージに、の子に貼り付いたままになっていく。"東京では初めて"だし、ちゃんとできるか自信がないと言ってはじめた"いくつになっても"はたしかに歌詞は間違っていたけれど、神聖かまってちゃんの、の子の、具体的な形としてではないにしても、過去から未来までのその心象風景にちらちら揺れる光や影を見晴らすように強く迫るものがあった。

 その後の"天使じゃ地上じゃちっそく死"から本編ラストの"学校に行きたくない"までは、気ままに曲を選んでいるようでいて実は明晰に考えてるんじゃん! と確信したくなる圧倒的な構成となった。の子が、会場の終焉予定時刻を牽制するようにアンコールの延長をほのめかす気持ちも分かる気がするほど、彼の"声"はまだまだこれから、って言っていた。

DJ WADA (Sublime) - ele-king

2010/12/14現在のチャート


1
Moodymanc - Seedz - Tsuba

2
Scuba - Tracers (Deadbeat Remix) - Hotflush recordings

3
Steevio - Ty (Deep Mix) - Mind Tours Records

4
Alexi Delano - Un Do Me - Leena Music

5
BCR Boys - The Myth - Perc Trax

6
Grischa Lichtenberger - Calipso - Raster-Noton

7
Martyn - Left Hander - 3024

8
Scuba - Lights Out - Holtflush Records

9
James T Cotton - Take Care of The Incompleted and The Sick - Ghostly International

10
Margaret Dygas - See You around - Non Standard Prodaction

DJ FUKUBA (Smoker, Gallery, Junk) - ele-king

ティーンエイジなボクのハートに深い爪痕を残した愛しの10曲 "ディスコ編"


1
Leif Garrett - I Was Made For Dancin' - Atlantic

2
Claudja Barry - Boogie Woogie Dancin'Shoes - Chrysalis

3
Skatt Bros. - Walk The Night - Casablanca

4
Gazebo - Lunatic - Quality

5
Philip Bailey&Phil Collins - Eazy Lover - CBS Sony

6
Magazine 60 - Don Quichotte - Baja

7
Evelyn Thomas - High Energy - TSR

8
Expose - Point of No Return - Arista

9
Lime - Unexpected Lovers - TSR

10
Mary Jane Girls - In My House - Motown

interview with Eskmo - ele-king


Eskmo / Eskmo
Ninja Tune / ビート

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 絶えず拡大するポスト・ダブステップという宇宙のなか、グリッチもいま、新たなフェイズに突入している。フライング・ロータスの『ロスアンジェルス』を契機に、たとえばグラスゴーではウォンキー(グリッチとダブステップとチップチューンとの出会い)が生まれ、そしてサンフランシスコからはエスクモが登場した。自らをエスクモと、実に寒そうな名前を名乗る青年、ブレンダン・アンジェリードは比較的温暖なサンフランシスコを拠点とするトラックメイカー/プロデューサーである。彼はグリッチとアンビエント、IDMをシャッフルする。そして暗く幻想的でミニマルなビートによって、ある種のサイケデリック・ワールドを描いている。それはJ・ディラではなく、フォー・テットやボーズ・オブ・カナダに近い。
 ブレンダン・アンジェリードが音楽活動をはじめたのは、10年前の話だ。アモン・トビンらに影響を受けながらニューヨークでIDMスタイルの音楽を発表していた彼は数年前にサンフランシスコに引っ越している。そして、2009年に自主制作で発表したEP「ハイパーカラー」が〈ワープ〉の運営する配信サイト「ブリープ」で絶賛されると、フライング・ロータスが主催するパーティ〈ブレインフィーダー〉に出演を果たし、その評判を高める。
 そして昨年から今年にかけて〈プラネット・ミュー〉からは〈4AD〉系の霊妙さを孕んだ「レット・ゼム・シング(Let Them Sing)」を発表、さらにまた〈ワープ〉からはスプリットで、スワンが歌う天文学の歌をフィーチャーしたゴシック調のR&B「ランド・アンド・ボーンズ(Lands And Bones )」をリリースしている。この2枚のシングルで評判をさらに高めて、去る10月には〈ニンジャ・チューン〉から「人間と機械の境界線をぼやけさせるような音楽」とBBCに評されたアルバム『エスクモ』を発表している。
 取材に現れたブレンダン・アンジェリードは、実におっとりとした、清楚な佇まいの青年だった。

ロンドンのアントールドやジェームス・ブレイク、スキューバ、あと〈ヘッスル・オーディオ〉(ラマダンマンらが主宰するレーベル)やピンチ、彼らにはシンパシーを感じるよ。アントールドは最近知ったばかりなのだけど、彼は本当に素晴らしい。

ザ・レジデンツのTシャツを着ていますね!

エスクモ:彼らの『エスキモー』(1979年)というアルバムがすごく好きなのだけど、僕の「エスクモ」という名前はそこからインスピレーションを受けているんだよ。

ああ、なるほど!!

エスクモ:アルバムのなかで、シャーマンが氷の下に入るためにおまじないをして、氷の下に入って、まだそこから出てくるっていう曲があるのだけど、そういったシャーマニックな部分であったり、アイデアが面白いと思うんだ。彼らのコンセプトである、ポップなものを捻って何かを作るっていうやり方に、すごく共感しているよ。

彼らの作品はどれもコンセプチュアルなものですが、あなた自身の音楽もそうであると思いますか?  DJカルチャーやクラブ・ミュージックの文脈とは、また違うところにあるものだと思いますが。

エスクモ:今回のアルバムでは、レジデンツにシンパシーを感じたりする自分のパーソナルな部分と、エンタテインメントな部分、それはDJでみんなを喜ばせることであったりするのだけど、それらを上手く同居させることが出来たんじゃないかなと思っているよ。そういったことを僕は意識してやっているから、ある意味ではコンセプチュアルなものなのかもしれないね。でも、レジデンツからクラブ・ミュージックまでまたいで好きなのは、僕にとってはとてもナチュラルなことなんだ。うーん、上手く伝わるといいのだけど。

レジデンツのTシャツを着ているトラックメイカーなんて、なかなかいないと思いますけどね(笑)。

エスクモ:今日のステージを観てもらえば、もっと上手く伝わると思うな!(笑)。

そういえば、エイフェックス・ツインが初めて日本でDJをしたときに最初にかけたのはレジデンツなんですよ。

エスクモ:ワオ、それはナイスだね!

いまはサンフランシスコを拠点に活動しているんですよね。

エスクモ:うん、そうだよ。

〈ロウ・エンド・セオリー〉や〈ダブラブ〉など、あなたの地元であるUS西海岸のローカルなコミュニティから生まれたアンダーグラウンド・ヒップホップからの影響は勿論あると思うのですが、あなたの作るトラックからは、UKのグラスゴウのハドソン・モホークやラスティのような、ダブステップ以降のトリッキーなビートとの共振も感じられました。US西海岸とUKを繋ぐビートが出てきたことに、とても興奮したのですが。

エスクモ:正直に言うと、それがどういった経緯で生まれてきたのかは、僕にも上手く説明ができないんだ。普段は特定のジャンルの音楽を聴いているわけではなくて、フォークも聴くし、ジャズも聴くし、もちろん新しいビート・ミュージックも聴いているし。ただ、君が指摘したように、僕らウエスト・コーストとUKのシーンは通じ合っているところあると思う。具体的にどうというわけではないのだけど、マインドやアティテュードは近い気がするな。それはニューヨークのシーンにはないことだと思うんだ。

UKでシンパシーを感じるアーティストはいますか?

エスクモ:ロンドンのアントールドやジェームス・ブレイク、スキューバ、あと〈ヘッスル・オーディオ〉(ラマダンマンらが主宰するレーベル)やピンチ、彼らにはシンパシーを感じるよ。アントールドは最近知ったばかりなのだけど、彼は本当に素晴らしい。基本的に、僕が好きになったりマインドが近いなと思うのは、アッパーなものより、土台がちゃんと固められた落ち着いたものなんだ。


photo : Masanori Naruse
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僕がサンフランシスコに引っ越した理由のひとつは、「レッド・ウッド」という木が生えている森があるからなのだけど、そこに入ると多くのインスピレーションをもらうんだ。自分の音楽のアイデアはそこで生まれることもよくあるし、自然から受け取るものはたくさんある。


Eskmo / Eskmo
Ninja Tune / ビート

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あなたの作るトラックは、コズミックな音色のシンセを使いながら、下地にはトライバルなビートを敷いていたりしますよね。そういった相反するものが混ざり合うことで生まれるサイケデリックな世界観が面白いなと思いましたが、それはひとつのコンセプトであったりしますか?

エスクモ:そういったサウンド・テクスチュアに関しては、とくにテーマやコンセプトがあるわけではなくて、あれは自分のなかから自然と出てきた、自分にとってフィットすると思えるカタチなんだ。君が言った、テクノロジックなものとナチュラルなものを組み合わせる手法にしてもそうで、さっきもレジデンツとクラブ・ミュージックの話をしたけど、一見、まったく異なったものを組み合わせることに興奮を覚える人間なのかもしれない。この電話の音のように(と言って、近くに置いてあった電話をガチャガチャといじる)、フィールド・レコーディングもたくさんしているのだけど、デジタルとアナログを組み合わせることも、自分にフィットする手法だと思っているよ。

アルバムのなかにはヴォーカル・トラックも多くありますが、こういったシーンのなかでは珍しいですよね。

エスクモ:昔から自分の声はよく録っていたのだけど、いままでは、あくまでサンプリングのネタというか、曲のなかでチョップアップして使うためのひとつのマテリアルぐらいでしか考えていなかったんだ。でも、今回のアルバムでは「ネクスト・レヴェルに行かなければ」という気持ちが強くあって、こういった挑戦をしてみたんだよ。とは言っても、実際に自分の歌声を録るのは正直怖い部分もあったし、みんなに「ゲゲーッ!」って引かれるんじゃないかって、すごく冷や冷やした。だって、僕のいるシーンには、そんなことをやっている人はいなかったしね。でも、とりあえずそういったことは忘れて、自分のパーソナル部分に向きあって、いま、自分が何をしたいのか、何をしなければいけないのか、自分のなかの意識に正直に従って作っていくことにしたんだ。

なるほど。

エスクモ:仮に自分が音楽を作っていなかったとして、他の何かのアーティストだったとしても、自分がつねにやらなければいけないことは、ネクスト・レヴェルに行くことだと思うんだ。他人がどう思うかで自分に制限をつけてしまうのは絶対によくないことだから、とりあえず、自分がどう見られるかは置いておいて、自分が正しいと思うことに挑戦してみたんだよ。

もしかすると、自分はトラックメイカーというよりも、シンガー・ソングライターだという気持ちが強かったりしますか?

エスクモ:そうだね、ごく最近になってそう思いはじめたところだよ。

先ほどあなたもアントールドやジェームス・ブレイクのようなポスト・ダブステップのアーティストの名前を挙げていたように、いま、エレクトロニック・ミュージックのシーンは大きく変化している真っ直なかだという印象を受けます。そして、どこに向かっていくのかわからないという面白さがありますよね。自分たちがいるシーンについてはどう考えていますか?

エスクモ:いまのエレクトロニック・ミュージックのシーンはとても健康的だよね。健康的だからこそ、ドラスティックに変化し続けているわけだろうし。だからこそ、今後どうなっていくかっていうのは僕にもわからないのだけど、ジェームス・ブレイクもやっているように、ヴォーカルを取り入れたトラックがこれからどんどん増えてくるんじゃないかな。R&Bの要素を取り入れたり。

今年の夏にUKでは、マグネティック・マンの"アイ・ニード・エア"がヒットしました。もしかしたら、次はあなたのいるシーンからこういったアンセムが生まれてくるのでは、と思ったのですが。

エスクモ:正直なところ、マグネティック・マンは名前ぐらいしか知らなくて、そこまで追いかけていないんだ。家でエレクトロニック・ミュージックを聴くときは、静かなものを聴くことが多いね。ススム・ヨコタのような。昔はアッパーなものも多く聴いていたけど、最近は少し疲れてきちゃったみたいで。

音楽以外で影響を受けているものはありますか?

エスクモ:僕がサンフランシスコに引っ越した理由のひとつは、「レッド・ウッド」という木が生えている森があるからなのだけど、そこに入ると多くのインスピレーションをもらうんだ。自分の音楽のアイデアはそこで生まれることもよくあるし、自然から受け取るものはたくさんあるね。あとは家族や彼女、あ、昔の彼女も含むのだけど、そういった人間関係が音楽を作るときのインスピレーションに繋がることも多いね。

「レッド・ウッド」を求めてサンフランシスコに移住したというのは、あなたのロマンティストとしての資質がそうさせたのか、それとも、スピリチュアルなものに対する好奇心が大きかったのか、どちらでしょうか?

エスクモ:どっちもだね。スピリチュアルな部分にも惹かれたし、僕にはロマンティストな部分もあると思う。あと、これはすごく生活感のある話だけど、ご飯も美味しいし、過ごしやすい気候だしね。

リリックのなかでも、そういったスピリチュアルな部分であったり、ナチュラルな部分が描かれていて、幻想的なものが多いなと思ったのですが、それはあたなの出自であったり、トラックとの相互関係でそういったリリックを書くようになったのでしょうか?

エスクモ:リリックのテーマは大きく分けて、コンセプチュアルなものとごくごくパーソナルなもののふたつだね。"ウィ・ガット・モア"、"カラー・ドロッピング"、"ムーヴィング・グロウストリーム"、"マイ・ギアズ・アー・スターティング・トゥ・トレンブル"の4曲はコンセプチュアルなもので、他の曲はすべてパーソナルなことを歌っている。"ゴールド・アンド・ストーン"はその両方の要素があって、これは錬金術師のことを歌っている。"マイ・ギアズ・アー・スターティング・トゥ・トレンブル"は完全にコンセプチュアルなもので、ロボットを造る科学者がいて、彼が造ったロボットが誕生するときに科学者自身も誕生する、つまり、自分の生を実感するという内容だね。その反対に、パーソナルなことを歌った曲では、家族との関係であったり、コミュニケーションについて歌っているんだよ。

アルケミーなものに興味を持ったきっかけというのは何なのでしょうか?

エスクモ:自分にとって大きかった最初の影響は、15歳のときにハマったマジックかな。マジックと言っても、手品のマジックではなくて、魔法のマジックのほうなのだけど、あの頃はマジックについて書かれた本を沢山読んでいたね。あとは、自分が置かれている環境から常々影響を受けていると思う。悲しい出来事があれば、自分のマインドや身体をはじめ、いろいろなことが変わっていくだろうし。マインドが自分を変えていくのではなくて、環境が自分を変えていくものだと思っているよ。

では、あなた自身の音楽は、リスナーにどういった影響や効果を期待していますか?

エスクモ:具体的なものはないのだけど、それぞれがいろいろなことをそこから感じ取ってもらえればいいな。ミュージック・ヴィデオに関しても、こう受け取ってもらいたいという具体的なものはないのだけど、観て聴いた人がそこでモチヴェーションを感じてくれたり、何かをスタートするきっかけになれば幸いだね。


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日常生活ではよく音楽を聴く方ですか?

エスクモ:iPodのような携帯プレイヤーで聴くことはほとんどないかな。例えば、いまみたいに日本に来ているときは、見るもの聞くものに驚くことがたくさんあり過ぎるしね。家ではよく聴いているけどね。

最近は何をよく聴いていますか?

エスクモ:ミュー(Mew)やビーチ・ハウスをよく聴いている。ビーチ・ハウスはとくにシンパシーを感じるな。ナイス・ナイスみたいなバンドも好きだよ。

この度〈ニンジャ・チューン〉からアルバムをリリースする運びとなりましたが、その前に今年は〈ワープ〉からのスプリットと、〈プラネット・ミュー〉からシングルをリリースしていますよね。

エスクモ:とても光栄だし、本当にラッキーだと思っている。〈ワープ〉から一緒にスプリットをリリースしたエプロムとは本当に仲が良くて、よく一緒にサイクリングをしているよ。僕はバイクには疎いけど、彼は本当にクレイジーなぐらい詳しいんだ(笑)。サンフランシスコのシーンは、ロサンゼルスより規模が小さいから、大体みんな知り合いなんだ。よくみんなで一緒に遊びに行くしね。

動画サイトであなたのライヴ映像を観たのですが、ラップトップを操作しながらマイクを握って歌っていたのには驚きました。今日のライヴでもあなたの歌は披露されるでしょうか?

エスクモ:もちろんだよ! 最近は自分の歌声以外にも、その場でフィールド・レコーディングしたものをサンプリングしてループさせて使っていたりもするから、その辺も楽しみにしていてもらいたいね。きっと面白いライヴを見せれると思うよ。


photo : Masanori Naruse

 その後のライヴでは、宣言通り自らの歌声を披露したり、フィールド・レコーディングやサンプリング&ループを駆使して、トリッキーなパフォーマンスを見せてくれた。彼のような「フライング・ロータス以降」のサイケデリックと「ハドソン・モホーク以降」のウォンキーの両方の影響下にあるモダンなグリッチ・ホップはいま、冒頭でも書いたように、突然変異を見せながら世界中のあちこちで増殖しつつある。舞台はUSとUKのみならず、フィンランドやスウェーデンの北欧のシーン(何と言ってもスクウィーの本場)、オランダ、あるいはスペインの〈ローファイ・ファンク〉とも共振しながら突き進んでいる。
 以下、この秋以降にリリースされた、シーンを象徴する5枚セレクトした。これらの作品をきっかけ深くディグして頂ければ本望です。

Post Glitch & Wonky

Rustie / Sunburst EP Warp

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UKでウォンキーの総本山と言えば、このラスティやハドソン・モホークらが所属するグラスゴウのアート・コレクティヴ〈ラッキー・ミー〉(https://www.thisisluckyme.com )だろう。この集団は、彼らのような新進気鋭のトラックメイカーをはじめ、アメリカン・メンのようなポスト・ロック・バンドから、グラフィック・デザイナーやフォトグラファーなどファイン・アートのクリエイターまで、多数のアーティストよって構成されている。ラスティとハドソン・モホークのふたりがすでに〈ワープ〉からデビューを果たし、〈ラッキー・ミー〉としても今年の6月にバルセロナで開催された〈ソナー〉にてショウケースをおこなっている。
1曲目"Neko"は、猫が膝の上でゴロニャンと狂ったように転がり回る姿が目に浮かぶ、珍妙なロウビット・サウンドを聴かせる。80~90年代のヴォデオ・ゲーム・ミュージック(実際に彼の曲のタイトルには「ピカチュウ」という単語が使われていたりする)と最新鋭のモダンR&Bを掛け合わせ、プレイステーションのコントローラーでチョップアップとスクリューを繰り返したかのような、子供の悪戯じみた彼のエクストリームっぷりは、予想の出来ない無邪気さという点でハドソン・モホークを上回っている。

Machinedrum / Many Faces Lucky Me

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〈ラッキー・ミー〉から1枚ご紹介。彼らは地元グラスゴーのシーンのみならず、ブルックリンのマシンドラムのような、北米の稀代なトラックメイカーまでもフックアップしている。マシーンドラムことトラヴィス・スチュアートは、これまでにもマイアミのエレクトロニック・ミュージック・レーベル〈メルク〉よりアルバムを数枚リリースしている。ヴォーカルのカットアップによってメロディアスなビートを作り上げる独特の手法から、グリッチ・ホップ黎明期の裏の顔として、プレフューズ73らと並べて評価されている。 〈ラッキー・ミー〉からのリリースとなったこのEPでは、心機一転、シルキーで煌びやかなエレクトロ・ファンクから、下世話なベースラインが耳を惹くバウンシーなフィジェット・ハウス、つんのめるほどアッパーなゲットー・ベースまで、新たな挑戦が数多く見られる。このEPの直後には、ニューヨークの〈ノームレックス〉からアルバム『ウォント・トゥ 1 2?』がリリースされている。こちらはヴォーカルを多数フィーチュアしたメロディアスなトラックが多く締めている。

Daedelus/Teebs / Los Angels 6/10 All City

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グリッチ・ホップのイノヴェイター、デイダラスと〈ブレインフィーダー〉のティーブスによるスプリット10インチ。アイルランドのアンダーグラウンド・ヒップホップ・レーベル〈オール・シティ〉(オンラーのアルバム『ロング・ディスタンス』が最高)によるこのスプリット・シリーズでは、これまでにもデイム・ファンクやトキモンスタ、P.U.D.G.E.らが未発表の新曲を提供している。タイトルの通り〈ロウ・エンド・セオリー〉周辺の「いま」を切り取った最新のレポートとなっている。どちらもウエスト・コースト特有の煙っぽいサイケデリアが特徴的だが、よりアトモスフェリックでティーブスなそれは、まるで地下室の煙が天高く浄化されていくかのように、眩しいほどに乱反射を見せている。

James Pants / New Tropical Stones Throw

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ここ数年の〈ストーンズ・スロウ〉は、デイム・ファンクやメイヤ・ホーソンなど、70~80'sのスモーキーなソウル/ファンクをモダンに刷新するホットな新人たちを立て続けに送り続けてきたが、このエレクトロ・ブギーの王子ジェイムス・パンツもそのうちのひとり。このEPでは、エキゾチックな音色のホーンやマーチング・ドラムをサンプリングしたり、ガムランのビートを取り入れることで、無国籍ビートを生み出すことに成功している。他にもフットワークのような細かいハイハットのフレーズがあったり、キャスパやラスコなど〈サブ・ソルジャーズ〉周辺のトラックメイカーが得意とする、ウォブリーなベースラインが強烈なロッキン・バーストな曲があるが、彼はDJも相当狂っているようで、この支離滅裂なビートこそ持ち味と言える。

Slugabed/Ghost Mutt / Donky Stomp EP Donky Pitch

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ブライトンの新興レーベル〈ドンキー・ピッチ〉によるスプリットEP。スラッガベッドはすでに今年の春に〈プラネット・ミュー〉からデビューを果たしている。そのロウビットの電子音でカラフルに彩られたコミカルなエレクトロ・ファンクは、〈ランプ〉周辺のロウビットなダブステップ/スクウィー好きのビート・ジャンキーを中心に評価が高かった。ゴースト・マットはこのEPで初めて知った存在だが、まるでメロウな歌モノR&Bをアイコニカがリエディットしたかのような、セクシャルでメロディアスな輝きがある。

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