「OTO」と一致するもの

2012年には他にも良い音楽がたくさんあったぜと、なんと、おとぎ話と踊ってばかり国がベスト10を送ってくれました! 俺にも言わせろ「2012年のベスト・アルバム」です!

有馬和樹(おとぎ話)

おとぎ話やってます。有馬和樹と言います。31歳です。2012年の10枚と言われたので、選びました。順不同。1年で3枚アルバム出しちゃうようなTY SEGALLが好きです。青葉さんとホライズンは、日本の音楽表現の可能性を広げてくれたと勝手に思ってます。とか、いろいろ毎日考えてます。1月23日に、おとぎ話の新しいアルバム「THE WORLD」が発売されます。いつもに増して不思議なアルバムです。今年は映画の撮影があったり、いつもに増して不思議な活動になりそうなので、たのしみです。

https://otogivanashi.com/

1. TY SEGALL - TWINS
2. TY SEGALL & WHITE FENCE - HAIR
3. TY SEGALL BAND - SLAUGHTERHOUSE
4. 青葉市子 - うたびこ
5. ホライズン山下宅配便 - りぼん
6. CONVERGE - ALL WE LOVE WE LEAVE BEHIND
7. THE SHINS 「PORT OF MORROW」
8. TAME IMPALA - LONERISM
9. Grimes - Visions
10. King Tuff - King Tuff

下津光史(踊ってばかりの国)

どーも、踊ってばかりの国の下津です。マヤの予言通り新世界になったわけだし、世界を変えるのは一人一人の意識だと思うので、皆さんも心のドアを少し開け、風通しの良い一年にしましょう。若輩者がすいません。年男です。24歳、B型、既婚者です。

1. Dirty Projectors - Swing Lo Magellan
2. Alabama Shakes - Boys & Girls
3. Franc Osean - Channel Orange
4. Lana Del Ray - Born To Die
5. Mala - Mala In Cuba
6. おとぎ話 - サンタEP
7. 青葉市子 - うたびこ
8. Kindness - World You Need A Change Of Mind
9. Grimes - Visions
10. Jack White - blunderbuss

SEKITOVA - ele-king

Sekitova - Premature Moon And The Shooting Star
Zamstak

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 ele-kingの創刊は1995年1月、編集部を作ったのは1994年の秋、初めて友だちとクラブ・イヴェントを企画したのが1993年で、当時の僕はターゲットとする読者やオーディエンスの年齢層を訊かれたらはっきり「17歳」と答えていた。17歳に読んで、聴いて欲しい。企画書にもそう書いた。17歳、セックス・ピストルズの曲名にもあるし、大江健三郎の短編にも「セブンティーン」がある。
 セキトバは、昨年、17歳にしてデビュー・アルバム『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』を発表したDJ/プロデューサーである。「1995年生まれの高校生トラックメイカー兼DJ」として騒がれてしまったようだが、彼のバイオを知らなくても、いや、知らないほうがむしろ『PREMATURE MOON~』を素直に楽しめるんじゃないかと思う。スムーズなグルーヴも心地よいが、繊細なメロディ、アトモスフェリックな音響の加減も魅力的で、デトロイトのジョン・ベルトラン風の優しいアンビエント・テイストもあれば、クルーダー&ドーフマイスター風のダウンテンポからスクリュー、お茶目な遊び心もある。その多彩な曲調、お洒落さ、そしてバランスの良さを考えると、ホントに17歳なのかと信じられない。が、彼は間違いなく、日本のクラブ文化の未来の明るい星のひとつなのだ。
 元旦生まれなので、数日前に18歳になったばかりのセキトバへのメール取材である。


何歳から、どのようなきっかけでハウス・ミュージックを作っているんですか?

SEKITOVA:はじめてDTMを触ったのが14歳の頃なんですけど、その頃はテクノやハウスよりもエレクトロをよりたくさん作っていました。理由は「ディストーションをかけるだけでなんかそれっぽい音が出たから」っていう安直なものなんですけれど。逆にテクノやハウスなんかは音をつくるのがとても難しかったので僕にはなかなかつくれませんでした......。当時はちょうどDigitalismやJunkie XL、Justiceなんかが情報として得やすかったのでそこからエレクトロやその周辺の影響を受けたということもありますね。
 年月を重ねるうちに技術があがってきて、自分のやりたいことが徐々に思い通りに出来るようになってきたので、じゃあ自分のやりたかったことをやってみようって意気込みで始めたのが現在のスタイルです。

子供の頃、ピアノなど、楽器を習っていたんですか?

SEKITOVA:4歳か5歳の頃から10歳の辺りまでまさにピアノを習っていましたが不真面目すぎてまったく上達しませんでした。当時は音楽よりサッカーに夢中で、ピアノ=女々しいと思っていたくらいですし。
 そこからは楽器を習ったりすることだとかは今日までまったくないですね。ただ学校でたまにあった民族音楽を聴く授業はとても好きでした。東南アジアやアフリカのダンサンブルなものがとくに好きで間違いなくいまの僕はそこから影響を受けている部分があります。

たくさんの音楽を聴いているようですが、ご両親からの影響ですか?

SEKITOVA:両親のほかに母方の祖父がジャズの好事家だったり、トラック制作をはじめた頃知り合った人たちにとてもライブラリがあったり周りからの影響はとても強いと思います。
 中学の頃には友だちの母親から立花ハジメやkyoto jazz massiveだとかのCDを貸してもらったりしてました。昔から音楽だけに限らずなにかと大人と接する機会が多かったわけです。
 またインターネットの発達で、年代や距離の障壁がより薄くなっていたことも大きな要因の一つですね。なにせいまはとても簡単にレアトラックにアクセスできる時代ですから。
 あ、もちろんテクノディフィニティヴも買いましたよ!

あ、ありがとうございます! 機材は何を使っているんですか?

SEKITOVA:けっこう驚かれるのですが、GaragebandというDAW(DTM)をつかっています。iMacに最初から入っているソフトウェアで、手軽に遊び始めてからずっとこれですね。最近ではほかの有料DAWも色々使ってみたりしたのですが中々慣れなくて・・・。
Garagebandをシーケンサーとして利用してそこに様々なプラグインやソフトシンセを導入する形でやっています。ハード機材が一切ないので2013年はまずMIDIキーボードを入手するところから始めたいです。

DTMはどうやって学びました?

SEKITOVA:「曲を作ってるうちに出来るようになっていく」というパターンがいちばん多いですね。どうしてもわからないときはインターネットの知恵を借りたりもしますが基本的に面倒くさがりなのでDTM上でだらだらしながら解決策を探す感じです。たまに○○が上手だなんて言われたりもするんですが僕自身技術なんてほとんど勉強したことがないので褒められても言われてる本人はよくわからなかったりします。

レコードとCDではどちらが好きですか?

SEKITOVA:どちらもいいところがあるので難しいですね......。というかあまり対立させるものでもないのでは、と思ったりもします(あるいはもう対立させて語ってもしょうがないのでは、という考え)。
 レコードはやっぱりかっこいいです。よく音質を語る際に「レコードの音には温かみが~~~」なんて言われますが、視覚的にもけっこう温度を持っていると思います。アナログDJの動作なんかはそれだけでヴィジュアライザ要素を果たしてしまうくらいにかっこいいです。
 CDは取り扱いの手軽さが良いですね。手軽ゆえにいろいろ工夫が出来たりして、それを考えるのも楽しいです。レコードショップのドッシリ感も好きなのですが、CDショップでたくさんのCDがズラッと無機質に並んでいるのもテクノ感があって素敵です。

少し前、20代前半の連中に取材したとき、テクノに興味持ってクラブに行っても「30過ぎたおっさんとおばさんしかいなかった」と言われたことがありました。欧米では若年層がメインですが、日本では違います。だから、もし自分がいま20歳前後だったら同じことを思ったかなーと思います。逆に言えばセキトバ君のような若い人がよくテクノを作っているなーと思ったんですが、この音楽のどこが魅力だったんですか? セキトバ君にとってのハウスやテクノの魅力をがんがんに語って下さい!

SEKITOVA:そもそもの話になっちゃうんですけど、僕はテクノをつくってるつもりなんです。DJをするときも作った曲にもどこかしら「ハウス」の文字が入ってしまう僕ですが、ハウスのなかにとてもテクノを感じる曲が好きだし、自分で作るときにも常に頭のなかにはテクノへの憧れと尊敬があります。だから、音的にはハウスかもしれないし、どちらかに言いきっちゃうならばハウスなんですけど、実際ハウスを作っているつもりっていうのはあまりないんです。
 僕が好きなテクノっていうのはその曲やアーティストの思想や哲学をついつい深読みしたくなってしまうようなもので、その思想や哲学を理性で考えさせてくれるのではなく、もっと直感的なところで感じさせてくれるものです。

自分と同世代の人たちにもハウスやテクノを聴いて欲しいと思いますか?

SEKITOVA:常々思っています。

セキトバ君の世代では、たぶん、洋楽を聴いている子すら少ないと思うのですが、音楽の趣味が合う人はいますか?

SEKITOVA:お察しの通り、同じ年代のDJやアーティストでもなかなか僕の好きなテクノ、ハウスについて一緒に同じ価値観から一晩明かせるような人はいないですね。当然学校にもまったくいないです。僕はポップスやほかのジャンルの音楽にあまり抵抗はないので、こちらから話を合わせることはできるし、話に困ったりすることってそんなにないんですけど、やっぱり自分のいちばん好きなところの話をもっと同世代としていきたいです。

自分と同世代や自分に近い世代の音楽って、どんなイメージを持っています?

SEKITOVA:これは難しい質問......。というのも音楽を聴くときにあまり年齢を気にして聴いたりはしない(文脈を踏まえて聴く時には勿論必要な情報にはなってきますけど)ので、イメージって言うイメージが特にないんですよね......。
 基本的に僕らの世代はもう時代やジャンル関係なくいろんな音楽を聴ける環境なので、いろんなルーツを持ってる人がいて面白いなぁとは思います。

DJはどういう場所でやっているんですか?

SEKITOVA:すごく真面目に答えるなら風営法をなぞりながら「そもそもクラブとはなにか」ってところから説明をしないといけないのですが、長くなるので、まず先に省略して答えるなら「DJセットがあって、それなりに音が出るところ」ですね。大阪や関西もそうですが、東京でプレイする機会もそれなりにあって、月に一回とかそのくらいのペースで東京に出てきています。現場でDJをやる前はよくustreamなどインターネットでもやっていました。

IDチェックがあるようなクラブに行けない年齢なわけですが、ハウスやテクノで踊るのも好きなんですよね? 

SEKITOVA:むしろそれがいちばん好きです。

ダブステップ以降のベース・ミュージックだは好きになれなかったんですか? 

SEKITOVA:詳しくはないですけど、けっこう聴いたりしますし、嫌いではないです。好きな曲もいっぱいありますよ。ただ長時間聴くのはやっぱり辛いですね。

とくに影響を受けたDJ /プロデューサーがいたら教えてください。

SEKITOVA:Dave DK、Kink、Tigerskin、Robag Wruhme、Christopher Rau、ADA、Henrik Schwarz
 ほかにもたくさんいるんですけど、いつも必ず頭に出てくるのは彼らです。

80年代や90年代に対する憧れはありますか?

SEKITOVA:これは説明が難しいんですけど、懐古主義的、再興的な意味での憧れは全然ないんです。あくまで自分の理想のサウンドを追求する過程で90年代や80年代の環境や音や世界観が必要になってくるって感じで。だから「80年代や90年代あるいはそれ以前に残されたもの」に憧れはあっても、時代そのものにはあまり憧れはないです。これから後世に憧れられるような時代を僕が作っていけたら素晴らしいですね。

IDMやエレクトロニカにいかなかったのは、やっぱりダンス・ミュージックが好きだからですか?

SEKITOVA:そんなことないですよ、って思ったけれど、やっぱりそうかも知れないですね。もちろんエレクトロニカもすきですが、それ以上にダンス・ミュージックが好きです。エレクトロニカのような技術をもってダンス・ミュージックのなかに分解再構築が出来ればまた理想のサウンドに一歩近づくので、そう言う意味ではこれからもどんどん制作手法としてIDMやエレクトロニカの研究は続けていきたいです。

テクノ以外でよく聴く音楽、これから追求してみたい音楽ってありますか?

SEKITOVA:もっと漠然に「趣味」として最近はヒップホップとか、そういう音楽に興味を持っています。仲の良い知り合いにbanvoxってエレクトロのアーティストがいるんですが、彼がとてもヒップホップに詳しくて、そこから情報をいつも得ています。もちろん音楽としても僕の好きなアーティストもBPMが遅くなっていく過程でヒップホップの要素を入れていったり、もともとヒップホップ上がりだったりなんて事もよくある話になってきたので、これからどんどん聴いていきたいです。

やっぱマルチネ・レコーズの存在は大きかったですか?

SEKITOVA:とても大きいですね。明確な目標のひとつとしても、自分のなかでのトピックとしても、計り知れない大きさがあります。マルチネのサウンドって手広いようで絞られていて、僕がそのなかにいるかどうかって言うと微妙な話なんですが、そのどれもがいろいろな方向に手を伸ばしていて、なおかつ一定以上のクオリティがあってとても影響をうけています。マルチネ主宰のtomadさんなんかはいつも次の一手が気になる存在だし、彼からも大きな影響を受けていますね。

自分の作った音楽を同級生に聴かせることはありますか? その場合、どんな反応がありますか?

SEKITOVA:限定して言えば、むしろはじめは僕の曲を聴いてくれるのなんて親しい男友だちのふたりだけでしたよ。それ以外はネットにあげてもまったくビューなんて伸びませんでしたし。その彼らがいまだに僕の曲を喜んで聴いてくれるのが「SEKITOVA」にとってもっとも嬉しいことのひとつです。彼らはいつも「すごい」と褒めてくれますが、まぁそれは身近な「僕」の事を知ってくれているからこその評価だと思っています。

 本題に戻って答えると、ほか不特定多数の同級生らに自分の音楽を聴かせることはこれまでまったくないですね。僕の名前は龍生って言うんですけど、SEKITOVAと龍生ってある意味では別人というか、なんというかそう言う感覚があって、普段龍生として接している人にSEKITOVAとしての一面を見せる事に違和感が結構あるんですよ。その逆の場合はそうでもないんですけどね。

曲名はどんな風に決めますか?

SEKITOVA:大体の場合は曲から連想するか、いいなと思った言葉をメモっておいてそこから想起して曲を作るか、です。どうしても出てこない時はツイッターとかで呼びかけてもらった答えからつけたりする場合もあります。
 どの場合も基本的に曲を作ってる時間と同じくらい曲名に時間がかかります。曲の世界観をイメージしてその世界の人やモノになりきってインスピレーションを沸かす事がよくあるんですが、たまに親とか姉に見つかって奇異の目でみられます。

アルバムのタイトル『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』にはどんな意味がありますか?

SEKITOVA:もともと自然現象の名前にしようと思ってたのもありますが、僕のなかで「ノスタルジー」ってなんだろうって考えてたら、だんだん思考がそれちゃって、感傷に浸れるような世界ってなんだろうってことを考えるようになり、そのとき直感で出てきたのが思わず背筋が伸びるような、冬の朝の澄んだ青空に出る月だったんです。いわゆる昼の月というモノなんですけれども。それがビビッときてpremature moonとつけました。あとはさっきも書きましたけど名前が龍生なのでそこから音をとって英訳してshooting starとつけました。

アルバムの水墨画は何を表しているのでしょうか?

SEKITOVA:「空間」です。これは水墨画という手法に対してなんですけど。絵になったときに浮き上がってくる滲みであったり、基本的には白と黒の2色なんだけれども、濃淡によってとても表情豊かで眩しすぎるほどにその世界観を表してくれるところに、イーヴンキックのミニマルやダブ、そしてテクノの美学と通ずる所を感じて、という具合です。僕の好きな音楽の「空間」を絵画手法的に表すと、水墨画になるなぁと思ったんです。

DJ/トラックメイカーとしての将来の夢を教えてください。

SEKITOVA:良くも悪くも国内市場が大きくて、ガラパゴス化してしまっているが故の弊害がたくさんある音楽シーンに一石を投じられる存在になれればと思います。
 あと、DJとトラックメイクで生きていきたいです。もちろんセルアウト用の大衆主導のものじゃなくて、僕の好きな音楽だけを作り続けて。いろいろな考えがあるとは思いますが、大衆主導の音楽をつくったり、そういうDJしかしないのは、結局どこどこ勤めのサラリーマンと変わんないじゃんって気持ちがあって。もちろんそう言う人たちのことは本当にすごいと思いますし、サラリーマン自体のことも凄いと思っていますし、存在の必要性もわかっていますが、「僕が音楽で生きていくなら」、常にこちらから提示するアーティスティックな方向性でありたいです。
 そしていまの日本ではそういう生き方が尋常じゃなく難しいし、僕のやってるジャンルなら尚更も良い所なので、そう言う所のインフラ整備というか道も僕が作っていきたいなと思っています。
 ......という野望を達成するにはまだまだ実力も経験も足りなさすぎるので、そこをあげていく事が当面の目標です。

ありがとうございました! 最後に、オールタイムのトップ10 を教えてください。

1. Dave DK - Lights and Colours
2. Akufen - Fabric 17
3. Tigerskin - Torn Ep
4. Daft Punk - Alive 2007
5. Dr.Shingo - Nike+ Improve Your Endurance 2 / initiation
6. Chet Baker - Albert's House
7. MAYURI - REBOOT #002
8. Penguin Cafe Orchestra - Penguin Cafe Orchestra
9. Muse - H.A.A.R.P
10. Underwater - Episode 2

 厳選しすぎると10もいかず、ちょっと基準を緩めるとたちまち10どころか50、60となってしまって、この項目だけ1週間くらい悩んだのですが、やっぱりシンプルに思いついた順から答えていこうということで、こんな感じになりました。たぶんまだまだ経験が足りないのだと思います......。なのでトップ10というか、ここに書いてないものでも好きなのはたくさんあります。

 1はもう言わずもがな、僕が数少ない神と崇めているDave DKのアルバムです。彼はこのアルバム以外にもとても良い曲をたくさん作ってて、どれも本当に好きで、僕にとてつもない影響を与えています。

 2はAkufenによる名門FabricからのDJ MIX。
 Akufenといえば"Deck The House"がとても有名で、僕もそこから入ったんですが、こっちを聴いて本当に鳥肌が立ちました。もとより僕はクリック系の音数が少ないテクノやハウスが好きだったのはあるんですが、そこにグルーヴの概念を痛烈に刻み込んでくれたのは間違いなくこのアルバムです。

 4はおそらく中学2年生の頃、もっとも聴いたアルバムかもしれません。もともと僕が音楽なんて何も知らなかった頃に親が家でよくかけてたのが彼らの伝説的なアルバム、『Discovery』でした。そういう経緯もあってDaft Punkはどのアルバムもとても好きなんですが、その好きな曲たちがこの1枚に凝縮されてるのがたまらないです。ライヴ盤なので生のグルーヴがあるのが本当に良いです。もちろん出てる音はエレクトロニック・ミュージックに基づいた電子の音で、途中途中のアレンジも事前に仕込んだものとはわかってはいるのですが、それでもお客さんのあげる歓声の熱気や空気感から、最高に生のグルーヴが僕に伝わってくるんです。

 7は小学生の頃よく親がかけてました。その頃はうるさくて嫌いだったんですが、あるとき自分から指を伸ばして聴いてみたら、なにかが違って聴こえた感じがしました。ほんとに衝撃というか、いままで意識せずに聴いてきた音楽たちが、その瞬間にすべて脳内でつながった感覚をいまでもよく覚えています。このアルバムのバイオによるとMAYURIさんはセカンド・サマー・オブ・ラヴをリアルタイムで経験していたそうですが、僕にとってのサマー・オブ・ラヴは、間違いなくこのアルバムです。ちなみにこれに入ってるChester Beattyの"Love Jet"ネタのトラックはマジで超ヤバイです!

SEKITOVA
1995年、元旦生まれの高校生トラックメイカー兼DJ。14歳の頃よりDTM でのトラックメイク、16歳でDJとしてのキャリアをスタートさせる。2011 年にはインターネット・レーベル『Maltine Records』よりEP をリリース。その認知度をより深めた。初期には幅広いジャンルの制作を行っていたが次第にルーツであるミニマルテクノやテックハウスにアプローチを寄せるようになる。中でも昨年末にsoundcloudにて発表したアンビエンスなピアノハウストラック『Fluss』は大きな評価を得て、日本のみならずドイツなど本場のシーンからも沢山のアクセスを受けた。DJとしても歌舞伎町Re:animation、新宿でのETARNAL ROCK CITY Fes. への出演など大規模イベントへのブッキングも増えており、これからの活動に期待が寄せられる。

https://sekitova.biz
https://iflyer.tv/SEKITOVA
https://soundcloud.com/SEKITOVA
https://twitter.com/SEKITOVA
https://twitter.com/SEKITOVA_INFO

 明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

 2013年最初は、去年の11月にアクシデント(ハリケーン・サンディで家から出れず、自力で歩いて行った。往復4時間!)で、初めて行った、ファースト・サタデイズをレポートする。
ファースト・サタデイズは、その名前の通り毎月最初の土曜日にブルックリン・ミュージアムで行われるイベントで、スポンサーはターゲット。入場料からアトラクションすべてがフリー。
https://www.brooklynmuseum.org/visit/first_saturdays.php


ブルックリン・ミュージアム外観

 前回は、そこでブルックリン・バンドのSavoir Adore(サヴォア・アドア)を観たり、展示作品やシアター上映も体験でき、一日いても飽きず、もういちど行きたくなるイヴェントである。

 今回のメイン・バンドはDas Racist (ダス・レイシスト)のheemsのソロ。その他、東ヨーロッパのジプシー・ミュージック、ダンス・パフォーマンス・アート、ヒップホップ・ワークショップ、アートの新しい見せ方、「ウォール街を占領せよ」についてのトークなど、盛りだくさん。
筆者の目当ては、Prince Rama(プリンス・ラマ)とLez zeppelin(レッズ・ツェッペリン)。


本イヴェントのフライヤー

 プリンス・ラマは美人姉妹によるサイケデリック・アートなブルックリン・バンド(https://princerama.tumblr.com/)。レッズ・ツェッペリンは、レッド・ツェッペリンの女の子カヴァー・バンド(https://www.lezzeppelin.com/)。
残念ながらプリンス・ラマは逃してしまったのだが、レッズ・ツェッペリンのパフォーマンスに圧倒され、すべてがぶっ飛んでしまった。実際のレッド・ツェッペリンを観たことがないのでとやかく言えないのだが、理解できたのは、ツェッペリンの音楽を男女の壁を超えて最もパワフルに、情熱的に表現したのが、彼女たちであるということだ。


終演後のレッズ・ツェッペリン

 この現代において、パンタロンである。ソバージュである。ヘソ見せである。フラワー・チルドレンである。王道を行く音楽は、観客(+子供たち)にとどまらず、ミュージアム中の人たちをトリコにし、至るところでダンスに狂喜している集団が見えた。終わった後の取り巻きの多さもさすが(警備員も総出)。小さな女の子3人が、「あなたたちみたいなロック・バンドになりたいです!」とみんなで挨拶に行っていたのが微笑ましかった。これぞ、正しいロック・バンドの姿。


4Fからの眺め

 ミュージアムのなかを散策すると、4Fまで、展示物やペインティング、家一軒のミニチュアなど、目の保養、発見で有意義な時間を過ごせ、4Fからは吹き抜けの3Fが見え、ダンス・パフォーマンスを観ることもできるので、ミュージアム鑑賞だけでも十分楽しい。人が多すぎるのと、ドリンクが高い(缶のハイネケンが$6!)のが難点だが、フリーだし、月1回の娯楽として大いに利用させていただきたい。こんなイヴェントを開催してくれるブルックリン・ミュージアムとターゲットに感謝。


展示されたスケートボード

 さて、2013年。スポンサーの助けを借りて娯楽を提供しながら、DIYの本拠地はよい方向に動いている。
サイレント・バーン(https://m.facebook.com/silentbarn)が再オープンし、マーケット・ホテル(https://markethotel.org/)もそれに追いつく勢い、さらにブルックリンのブッキング王、トッド・Pも新しい会場をブシュウィックにオープン予定。2013年もいろんなDIY音楽情報他、ランダムにお届けできるように走り回る予定ですので、サポートよろしくお願いします。

Christopher Owens × Sintaro Sakamoto - ele-king

 親愛なる読者のみなさま、明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。さて、以下の対談は、昨年12月上旬の、雨も降る肌寒い夜にやったものですが、2013年はふたりの素晴らしい新作ではじまります。どうぞ、お楽しみください。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
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 クリストファー・オウエンスがツイッターで呟いた、「坂本慎太郎に会いたい!」という一文を読んで、興奮した。もしこのふたりの対談が実現したら......という思っていた矢先だった。
 人生とは本当に面白い。編集長から、「再来週クリストファー・オウエンスが来日するんだけど、菊地君はガールズのこと超大好きだったよね。こないだのSXSWでもガールズ見たっていったよね? 取材やらない?」と電話がかかってきた。ガールズを解散後の最初のアルバム『リサンドレ』(1月9日発売予定)のプロモーションのための来日だという。ちょうど、坂本慎太郎も新しいシングル「まともがわからない」(1月11日発売予定)のリリースを控えている! 
 そして、この企画はトントン拍子で実現へと進んだ.....んだけれど......取材当日、まさかの「クリストファー・オウエンスが飛行機に乗り遅れました」という連絡......まじっすかーーーー(笑)!
 しかし、この企画に関わったみんながふたりの対談を望み、日程を調整してくれたおかげで中止は逃れた。
 2012年の寒い雨の夜、取材場所に到着するとクリストファーは部屋で待っていた。取材する我々ひとりひとりに丁寧に挨拶&「ごめんなさい」を言いながら、そして、時間通りに坂本慎太郎が入ってくると、彼の笑顔は最高潮に達するのであった......。

山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本慎太郎さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

ではさっそくですが、はじめさせていただきますね。

クリストファー・オウェンス:あの、最初の日から変更になってしまって本当にごめんなさい......。

坂本慎太郎:ああ、全然大丈夫です。

そもそも今回は、クリストファーさんが坂本さんに会いたいということで実現した対談なのですが、まず、クリストファーさんはどういったきっかけで坂本さんを知ったのですか?

クリストファー:えっと......、ガールズはアメリカでは〈マタドール・レコード〉からリリースしてたんだけど、ガールズを脱退してソロになったときに、僕は1年契約を結びたかったんだよね。でも〈マタドール・レコード〉はそれが嫌だって言ってきたから、〈ファット・ポッサム〉へ移籍したんだ。っで、〈ファット・ポッサム〉はアザー・ミュージックのレーベルもやっていて、僕がソロ・アルバムを作るときに、彼らがリリースしているレコードを僕の家に一箱ドンと全部送りつけてくれて、その山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。でも唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

坂本:センキュー・ベリー・マッチ。

ちなみに、坂本さんはクリストファーさんのことをご存知でしたか?

坂本:いや全然知らなくて(笑)、いまの海外の新譜とかをチェックすることがあんまりないので、ガールズも全然知らなくて、今回この対談の話をいただいて、過去の作品を送ってもらって、それではじめて

おっ! ではガールズなどの作品も聴いていただいたということですか?

坂本:はい、聴いてきました。

どうでした!?

坂本:ああ、良かったですよ(笑)。

では、クリストファーさんは、具体的に坂本さんの音楽のどういったところにグッと惹かれましたか?

クリストファー:僕、いまのインディってあんまり好きじゃないんだ。いわゆるシューゲイズ・リヴァイヴァルとか、エレクトロニック・ポップの流行とかね。もともと昔ながらのクラシックなロックンロールとか、ポップ・ミュージックが好きなんだけど、『幻とのつきあい方』を聴いたときに、テイストっていうか、趣味が最高によくて、本当にパーフェクトなアルバムだと思ったよ! アレンジがものすごく好きだし、演奏もよくて、品のあるアルバムだと思ったね! おかしいのは、歌詞が全然分からないのにこんなに惹かれて、歌詞がなくても成立する、ジャズを聴くような感覚で聴きまくったんだ。とにかく、このアルバムのプロダクションが大好きで、ハーモニカのソロなんかはいままで聴いたなかでも最高のものだったし、コンゴとか、サックスとか、フルートとかも最高! あと、バック・ヴォーカルもすごい好きで、実際そのことについていろいろ聞こうと思ってたくさんメモをとってきたんだけど......(恥ずかしそうにメモをバッグから取り出す)。

はははははは。今日はいくつか質問を考えてきてもらったということですね(笑)。

クリストファー:うん(笑)。

"詞"というものが少なからずインパクトを与える坂本さんの音楽を、海外のミュージシャンがこう評価しているのに対してどう思いますか?

坂本:えっと、自分は20年くらいバンドをやってきて、それを解散したあとこのアルバムを作ったんですけど、ひとりで部屋にこもって、いちばんそのときに作りたかった曲を作って、自分では気に入ったものが出来たんですけど。うーん、まあ外国ではウケないと思ってたんで

(笑)

坂本:普通の音楽っていうか、地味だし、すごいこだわってるのが微妙な部分なんですけど、そういうのが伝わるのかなっていうのがあったので、そういう言葉が分からない外国の人が気に入ってくれてるっていうのはすごい嬉しかったです。

おふたりの新しい音源を聴かせていただいたのですが、それぞれ聴き比べてみると、かなり似た部分があるような気がしました。

野田:うん、ソング・ライティングというか、中心にあるのが歌っていうところがまず似てるかなっていう。

クリストファー:偶然ながら、はじめてサックスとかフルートを使ったアルバムだったから、坂本さんのアルバムを聴いたときは「ワォー!!!」って感じだったよ(笑)! でも同時に全然違ったアルバムだとも思うね。だって坂本さんの音楽はすっごいファンキーだけど、僕は全然ファンキーじゃないからね(笑)。

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自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

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(笑)。ではさっそくですが、せっかく質問を考えてきてもらったということで(笑)。

クリストファー:オーケー(笑)。もういくつか答えてもらっちゃったんだけど、まずは、今日は本当にありがとうございます! じゃあ、えっと、最初の質問は(メモをめくる)............。僕は詞っていうのものが大好きだから、歌詞は僕にとってすごく大きなものなんだけど、たとえば、僕セルジュ・ゲンズブールが大好きでよく聴くんだけど、歌詞自体フランス語で何を言ってるのかわからないから、単純に音楽性に惹かれてるんだよね。んで、坂本さんの場合は、歌詞ってものがどのくらい重要で、僕は果たして、英語に翻訳したものをちゃんと読むべきなのか、それとも読まないでもいいのかっていう。

坂本:そうですね、えーと、自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、自分でやるときはなんでもいいっていうわけじゃなくて、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。

(笑)

クリストファー:オーケー(笑)、トライしてみるよ!

坂本:すごく日本語をロック・サウンドとかにのせるっていうのが難しいって長いあいだ言われてて、けっこうダサイ感じになっちゃったり、失敗してる例がいっぱいあるんですけど、そこをなるべく上手くやろうっていうふうにやってきた感じで。まあ、自分はなんかアジアのロックとかそういうわけ分かんないロックを聴いて楽しむ感じがあるんですけど、自分のレコードもそういう感じでいいです。

(笑)

クリストファー:もうすでに日本語のロックンロールとしてサウンドを楽しんでるけど、もちろん歌詞の意味もわかったらいいなって思ってね。そういうチャンスがあれば誰か訳してくれないかなーって思ってるよ。あと、女の子のバック・ヴォーカルもすごく気に入ったんだけど、クレジットを見たら三人の名前が書いてあって、そこにはそのうちのひとりがそのなかのリーダーだって書いてあったんだけど、実際のアレンジとしては坂本さんが全部バック・ヴォーカルを決めて、彼女たちに頼んだのか、それともある程度オープンな状態で彼女たちにやってもらって、彼女たちがアレンジをやった部分があるのか、それと、そのリーダーってクレジットされてる女性が誰なのか知りたいんだけど。

坂本:えっと、リーダーはなくて、リーダー............えっと

クリストファー:アレンジみたいなところに名前がひとりクレジットされてたと思うんだけど、彼女が友だちなのか、どういう人なのか気になって......えっと、たぶん、ジュンコ・ノギさん?

坂本:えっと、3人は同じ曲では歌ってなくて、曲によってひとりが何個も歌って、重ねて。えっと...(資料を見ながら)、1曲目と8曲目はそのノギさんがアレンジも考えて歌ったんですけど、その他の曲は僕が考えたラインを他の人に歌ってもらいました。

クリストファー:ノギさんは友だち? 他にどんな活動をしてるの?

坂本:ママギタァっていうバンドをやってて、今日持ってくればよかったんですけど、2月にアルバムを出して、僕のレーベルからリリースしました。僕がベースを弾いて、出しました。

クリストファー:アー! オーケー! 聴いてみる!!

坂本:持ってくればよかったですよ。

クリストファー:ハーモニカの人も友だち?

坂本:ハーモニカの人は、はじめて会った人なんですけど、初山博という年配のベテランのジャズの人で、ビブラフォンとクロマチックハーモニカなんかの名手と言われている人を紹介してもらって。

クリストファー:僕も今回ちょっと年上のジャズ・ミュージシャンの人を紹介してもらって一緒にやったから、似たような経緯だね。

坂本:そうですか。

クリストファー:えーっと、よし、オーケー、じゃあビッグ・クエスチョン。「スゴイ・クエスチョン!」(とっても緊張しながら)。

おお(笑)?

クリストファー:坂本さんは、他の人のアルバムをプロデュースしたことってありますか? 

坂本:うーん、まだやったことないですねー。

クリストファー:でも興味を持たれることはありますか? えっと、つまり、その............、僕のレコードのプロデュースをやってくれることってないかな?

坂本:うーん、ちょっと、いや、そうですね、あのー(苦笑)。

一同:(笑)

坂本:いや興味はあるんですけど、あんまり軽く言っちゃうとすごいあれなんで(笑)

クリストファー:オフコース! ここで「イエス」って言ってもらうつもりはないから大丈夫だよ。自分のアイデアとして思いついて、可能かどうか聞いてみたかったんだ。

坂本さんは、salyu x salyuなどで詞を提供されていたりするので、坂本さんがクリストファーさんに日本語の曲を提供して、それをクリストファーさんが実際に日本語で歌ったら面白いかもですね(笑)。

一同:(笑)

クリストファー:オーケー(しっかりsalyu x salyuをメモ用紙に書く)、じゃあ次の質問ね。僕はこの何年かのあいだ、ずっと日本でツアーをやりたいと思っているんだ。東京と大阪だけじゃなくてね、日本の小さな町なども廻りたいと思ってる。でもなかなかそれが実現しなくて......。アメリカとかヨーロッパなんかは10代のバンドがそうやってインディペンデントなツアーをずっと廻ったりして、それを観た更に若いキッズたちがバンドを作ったりしてるんだけど、日本はどうなのかな? あと、実際に僕がそれをやることの意味とかっていうのも気になるんだけど...

坂本:いいと思いますよ。日本のバンドも皆やってますね。車で運転して、小さい町に行くっていうのは皆やってるし、まあ、すごく狭いので、アメリカ・ツアーよりも全然楽だと思いますよ。

僕がはじめてガールズを聴いたときって、僕はまだ18歳とかで、もちろん僕も英語の歌詞が全部わかるわけではなかったんですけど、フィーリングだったり、どこかで同じ気持ちを共有できた気がして、すごく助けられました。なので、それは是非実現してもらいたいですね!

クリストファー:イェー! ティーンエイジャー! じゃあ、これが最後の質問ね。クラシック・ジャズは好きですか? モダンじゃないジャズ・ミュージック。

坂本:全然詳しくないですね。嫌いとかではないんですけど、いままで聴いてきてないので、よくわからないかなー。

クリストファー:何枚か僕が好きなレコードを送ったら聴いてくれる? 最近なぜかジャズをすごい聴きはじめてね。いきなり一つ大きな世界が開けたみたいにインスピレーションを受けてるんだ。もしかしたら興味を持ってくれるかなって思って聞いてみたんだけど。

坂本:たとえばどういうの?

クリストファー:コルトレーンとか、チャーリー・パーカーとか、マイルス・デイヴィスとか、チェット・ベイカーみたいな本当にスタンダードなやつ。細かいのは僕も全然知らないんだけど、最近聴きはじめて本当に気に入ってるんだ。

坂本:その辺の有名なところは、一応昔聴いたんですけど、他のジャンルを買うのに忙しくて、ジャズはまだ追求してないので、他が終わったら聴いてみます。

(笑)

坂本:でもチェット・ベイカー・シングスはヴォーカル・アルバムとして、昔から本当に好きです。

クリストファー:クール! 僕もだよ。えっと、これで一応終わりなんだけど、とにかく、素敵なアルバムと、今日という機会を作ってくれて本当にありがとう!

坂本:ありがとうございます。

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最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
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ではせっかくなので、逆に坂本さんがクリストファーさんに聞きたいことってありますか?

坂本:最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?

クリストファー:ゲンズブールは昔から僕のアイドルで、すごい影響を受けてるんだけど、あまりにも偉大でクールな人だから僕と比較は出来ないよ(笑)。『メロディ・ネルソンの物語』は映画のサウンド・トラックっていう側面がかなり大きいよね。そこは僕のアルバムと違うところだけど、あのレコードも、ひとりの女性のキャラクターっていうのが中心にあって、それに基づいたレコードだから似てる部分もあると思うし、もっと大きな意味での影響はいままでものすごく受けてきたはずだよ。

坂本:あと、出身はサンフランシスコですか?

クリストファー:うん。

坂本:サンフランシスコは行ったことがないんですけど、知り合いのミュージシャンの話では凄い面白い場所で、世界で一番狂ったところだって聞いてるんですけど、いまのサンフランシスコの音楽のシーンっていうか、自分が所属しているシーンみたいなものがあるのか、もしくは孤立してひとりでやってるのかっていうのが気になったんですが。

クリストファー:音楽シーン自体はあるよ。ヘヴィーなガレージ・ロックとかサイケデリック・ロックとかね。皆友だちだし、僕は彼らの音楽が大好きなんだけど、音楽性としては、僕は孤立していて、彼らと違った音楽をやっているっていう感覚は少なからずあるかな。

坂本:なんかそういう実験的な、アヴァンギャルドなシーンとか、パンクのシーンがあるのかなって思ったんですけど、歌をメインでやられているので、ライヴとか普段どういうところで、どういう感じでやってるのかなと思ったんですよね。

クリストファー:ガールズのときはもうちょっとロックンロールなショーをやっていたんだけど、今回のアルバムに関してはこれまでのライヴとはまったく違うような感じだね。カーテンがあって、座席があって、画が飾られているような、古くて小さい劇場で、アルバムを最初から最後まで演奏するような感じ。

サンフランシスコでは、日本の音楽がどれくらい浸透していて、実際にどれくらい聴かれているんですか? 

クリストファー:サンフランシスコ自体はとっても大きな日本人街があるし、そこで音楽を売っているお店もあるから、アクセスしようと思えば出来るんだけど、僕も最近は新しい音楽を追いかけたり、どんどん掘り起こしていったりしなくなったから、日本の音楽は全然知らないんだよね。たぶん、坂本さんのレコードも、送られてこなかったら聴いていなかったかもしれないし、なかなかそういう機会はないかもね。

じゃあ、坂本さんがクリストファーさんに「この日本のアーティストは絶対聴くべきだ!」っていうをここで教えるのはどうですか?

クリストファー:イェー!!! やろう!!!

(笑)

クリストファー:実は今回の来日でいくつか変わったレコードを買ったんだけど、えっと、ぴんからトリオとか(笑)。

一同:おお(笑)!!

クリストファー:あと坂本九とかね。テレビでたまたまやってたから買ったんだけど(笑)。

坂本:どういうのが好きなんですか? というか、どういうのが聴きたいの?

クリストファー:うーん、僕のレコードに近いっていうか、日本の伝統的なフォークみたいな、歌ものの影響を感じられるロックとかポップとか。あとは女性のバック・コーラスがいいやつと、ゆらゆら帝国に似ているものも聴きたいな。

坂本:そのママギタァを持ってくればよかったんですけど(笑)。

一同:(笑)

坂本:最近自分が買ったのだと、八代亜紀がジャズ歌ってるやつ。あれは日本の古い歌も入ってるし、いま売ってるので、いいかもしれないですけど。

クリストファー:クール!

坂本:なんでしたっけ? あ、『夜のアルバム』だ。さっき古いジャズって言ってたから、日本の歌謡曲みたいな感じでぱっと浮かんだんですけど。うーん、でもいっぱいあるなぁ。じゃあ、なんか今度まとめて送ります。

クリストファーさんは、コーネリアスをご存知ですか?

クリストファー:まだちゃんと聴いてことはないんだよね。名前は聞いたことあるんだけど。今回たくさん取材を受けたんだけど、どこかの雑誌で見た気がする。

先ほど言っていた、salyu × salyuは、コーネリアスの小山田圭吾さんという方がアルバムをプロデュースされていて、そこに坂本さんが詞を提供されてるんですよ。

クリストファー:サウンズ・グッド!!!! ありがとう、聴いてみるよ。

では、あと少しで今年も終わってしまいますが、お互い、今年1年を振り返っていかがでしたか?

クリストファー:ふーーーーー。

(笑)

クリストファー:とってもクレイジーだったよ。ガールズを脱退したのが大きくて、僕にとっても辛い決断ではあったんだけど、でもそうしなきゃいけなかったんだ。すごくパーソナルなこともいくつか起こったし、はじめてソロ・アルバムも作った。本当に目まぐるしい1年だったね。

坂本さんはいかがですか?

坂本:僕はなんにもない、抑揚のない1年でしたね。

一同:(笑)

来年は、何か動き出したりはしないんですか?

坂本:動かないですね。まあ音楽はずっと家で作ると思うんですけど。淡々と作業する感じで。

次のアルバムも自分のタイミングで出す感じですか?

坂本:そうですね。凄いことは何も計画したりはしてないですね。

クリストファーさんは?

クリストファー:まず、またここに戻って来ること。あと、本当に日本をツアーするっていうのは大きな目標だね。このアルバムをリリースしたら、アメリカとヨーロッパでツアーをやる予定なんだけど、日本に関しては東京が出来るかなっていう状況で......。本当はさっきも言ったように、いろんなところでライヴをやりたいんだけど、何かそのためのアイデアとかってないかな?

坂本:僕はライヴやってないのであれですけど、精力的にライヴやってるいいバンドと友だちになって、車に乗せてもらって、ギター持って、やればいいと思います。

一同:(笑)

でもそれはメディアが頑張らなくていけない部分でもあると思うので、僕も頑張ります!

坂本:ちなみに『リサンドレ』の日本盤出るんですか?

〈よしもとアール・アンド・シー〉さんから出ます。

坂本:じゃあレーベルの人がブッキングしてくれますよ。

クリストファー:やらせます!!

本当に今日のこの対談が、お互いの何かのきっかけになればといいなーと、素直にそう思います。僕は坂本さんのライヴにも期待していますので。

坂本:ああ、そうですか。

クリストファー:とにかく僕はこのアルバム(『幻とのつきあい方』)の大ファンだから、いつか「僕と一緒にやりませんか?」って本当に連絡するかもしれないけど、そのときはよろしくお願いします!

坂本:あ、はい(笑)。

最後に何か言いたいことありますか?

クリストファー:えっと、坂本さんと一緒に写真撮っていいかな(笑)?

一同:(笑)


 坂本慎太郎の独特な間合い、滅多に表情を変えない、独特な佇まいと、初恋の人に会うようなクリストファー・オウエンスのあからさまにウキウキしている感じとの対照的なふたりが面白かった。あらためて、良い音楽は国境を越えることを知った。
 最後に、クリストファー・オウエンスの傑作『リサンドレ』についても触れておこう。インタヴュー中の彼の表情にも、自由を手に入れた嬉しさと自信が垣間見れたが、『リサンドレ』は、本当にトレンドなど無視して作った、ただの、素晴らしいポップ・アルバムだ。「さあまたはじめよう、前に進まなくちゃ」と、"ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン"からはじまる『リサンドレ』は、対談中でも触れているように、女の子との出会いと別れが描かれている。セルジュ・ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』のようなフィクションが語る真実がある。

 個人的に2012年は本当にいろんなことがあった。大学を正式に辞めて、イヴェントやって、糞みたいなバイトで貯めたお金でアメリカ行って、上半期は本当に活動的だった。下半期は何もやらなかった。僕も前に進まなくちゃ。そう思っているあなたも、ぜひ『リサンドレ』を手にとって聴いて欲しい。彼は、2013年はあなたの街のライヴハウスにもやって来るかもしれないし。

 撮影が終わってもふたりは名残惜しむように話している......。「今度は新宿のゴールデン街で飲みながら話しましょう」と坂本慎太郎。クリストファーも目をキラキラさせながら「いいね」と言う。「それか、思い出横町とか」、「うんうん」とクリストファー......。編集長にあとで聞いたら、この手の対談で、ちゃんと質問までメモってくるような人はわりと珍しいとのこと。お互いのリスペクトがわかる、良い雰囲気の良い対談だった。

 そんわけで、2013年も音楽を聴きまくりましょう!

お正月の5タイトル! - ele-king

 お正月は何を聴きますか? 元旦からお仕事のかたも、例年にまして長い休暇を取られているかたも、おせちとテレビに飽きたらちょっとご参照ください! ライター陣を中心にお正月に聴く5タイトルを挙げてもらいました。ele-kingのお正月はこんなふうです。
 読者のみなさん、今年もありがとうございました。2013年もどうぞよろしくお願いいたします!

木津毅
1. Bon Iver / For Emma, Forever Ago / Jagjaguwar
2. My Morning Jacket / At Dawn / Darla
3. The National / Boxer / Beggars Banquet
4. Iron & Wine / The Shepherd's Dog / Sub Pop
5. The Tallest Man on Earth / The Wild Hunt / Dead Oceans

僕は半分ほどがアラサー女子の成分でできている人間なので、クリスマスに限定のケーキ(今年は〈ピエール・エルメ・パリ〉のフロコン・アンフィニマン・ヴァニーユ)を買い、ワインを飲み、浴びるようにクリスマス・ソングを聴いて年末には燃えつきるので、正月はみなさまと同じくだらけることに決めております。さすがに年始からスプリングスティーンを聴いて、アメリカについて想いを馳せたりはしません。ということで、正月ぐらい、いい男たちのいい歌を聴いて、甘いひとときを過ごしたいです(これは寂寥感ではない)。冬のいい男は、木こり系ですね。

倉本諒
1.Ash Pool - Cremation is Irreversible
2.Law Of The Rope / Crown Of Bone ‎- Law Of The Rope / Crown Of Bone
3.Rev. Kriss Hades - The Wind of Orion
4.Peste Noire ‎- Les Démos
5.Burzum - Filosofem

正月など大嫌いだ。そもそもお節や懐石料理等の常温で食す料理が好きではないし、公共機関をなどの都市機能の能率は低下のためもろもろの事情が遅れつづけるし、 実家も都内にあるため帰省することも別段珍しいわけでもない。そもそも長い極貧生活の中で脂肪を失ったエクストリーム・モヤシ体型の僕にとっていまは一年で最もしんどい時期なのだ。 でも北欧の冬に比べればマシだよねーってことでブラックメタルだけのアンチ祝賀タイトルです。Burzumしかノルウェイじゃないけど。みんなこれを聴きながらコタツに入り、猫の頭頂にみかんなどを載せてニヤニヤしながらアラン・ムーアのフロム・ヘルでも読みましょう。

斎藤辰也(パブリック娘。)
1. John Lennon / Instant Karma(『Lennon Legend: The Very Best Of John Lennon』収録) / Capitol
2. レミオロメン / エーテル / ビクターエンタテインメント
3. ブランキー・ジェット・シティ / 幸せの鐘が鳴り響き僕はただ悲しいふりをする / EMIミュージックジャパン
4. Hot Chip / One Life Stand / Parlophone
5. Zomby / Nothing / 4AD

「ああ、やってやろう!」の気分で満ち溢れている1位。冬はさむいけどワクワクするし春も近いということを思い出させてくれる2位。冬の寒さは身体にきびしい、そして人間は人間に厳しいのだと思い知らされる3位。冬リリースだった思い出もあり、静と動の往来でときを過ごしたい4位。ふざけんな、僕はもうなにも信じない......という気持ちが呼び覚まされるような5位。

竹内正太郎
1.SHINGO☆西成 / スプラウト / リブラ
2.電気グルーヴ / ドラゴン / キューン
3.neco眠る / エンガワ・ボーイズ・ペンタトニック・パンク / デフラグメント
4.サニーデイ・サービス / ムゲン / ミディ
5. PR0P0SE / プロポーズ / マルチネ

編集から依頼のメールがあってからというもの、暇を見つけてはCDラックの前をウロウロしたり、iTunesのライブラリーをキョロキョロしているのだが、正月の気配がまったくしない。なんてこった。わたしは、こんなにも正月と無縁な音楽ばかりを聴いてきたのだ......。辞退しよう。そう思った。それ以前に、「そもそも正月と音楽ってなんか関係あんの?」という負け惜しみ的な疑問を抱いたところ、「でも、一見まったくの無関係な二者に補助線を引くのがライターというものじゃないですかあ」という橋元編集の神の声が降ってきたので、ええいと瞬発的に選んだのがこの5作品。①のあまりにもデカい愛と温かい音。②から④は気持ちのいいポップスを何も考えずに。⑤は単に最近のお気に入り。(あれ、正月あんまり関係ない......)。ひとつだけ言うなら、普段、自分が聴いている音楽と、お茶の間に受け入れられている(ということにされている)ポップス/歌謡曲との距離を嫌でも考えさせられるのが、この年末年始というシーズンの個人的なお約束だったような気がします。みなさま、よいお年を。来年もよろしくお願いします!

橋元優歩
1. Pantha du Prince / Black Noise / Rough Trade
2.M. Geddes Gengras / Title Test Leads / Holy Mountain
3. AKB48 / AKB48 in TOKYO DOME~1830mの夢~スペシャルBOX / AKS
4.吉松隆 / NHK大河ドラマ《平清盛》オリジナル・サウンドトラック 其の二 /日本コロムビア
5.Inc. / 3EP / 4AD

1と5は、帰省の新幹線で。越後湯沢からは特急になるんですが、裏日本の雪原とPanthaの相性は半端ないです。Inc.も薄墨色のR&Bというか、余白がきわだつ音使いやビート感覚が、新幹線の静かなスピードをさらに加速し、窓外を叙情的なエンドロール風に変換してくれるはず......。ベストウィッシュ。よい旅を。

2は大掃除用。経験的に4つ打ちは掃除に向かないです。そしてアンビエントだと床拭きのときなんとなくへこむ。サン・アローとコンゴスのあれのもうひとりの重要人物、ゲングラスさんソロのこのタイトル・トラックは、そのあいだをすばらしく埋めてくれます。3拍めに鍵がある。

3はガチで正月休みにと思い。4は最終回の余韻をまだひきずっているため。現時点で4は未購入ですが、ボカロver.とうわさの"遊びをせんとや"は本作収録。しかし "タルカス"・ブームこなかったですね! クラウトロックがヤングに絶大な影響力を及ぼしているのに対し、ブリティッシュというかシンフォニック系はまったくスルーされている印象です。作中ではとてもキマっています。

本年もありがとうございました。

Photodisco
1.Def Leppard / Animal / Mercury
2.THE WiLDHEARTS / Just In Lust / Eastwest
3.FIREHOUSE / Here For You / Sony
4.Dizzy Mizz Lizzy / Find My Way / EMI
5.SKID ROW / Monkey Business / Atlantic

正月、実家に帰省し、何か音楽を聴こうかなと思うと、いつも聴く音楽は、東京に送っているため、実家のCDラックを見ると、ジャンルで言うところのHR/HMが多く、正月は、HR/HMで年を迎えることが定番となっております。
正月は年の初め、学生時代、初めて影響を受けたHR/HM。
"初心忘るべからず"的なトラックを選びました。

ほうのきかずなり(禁断の多数決)
1.岡本太郎 / 芸術と人生 / NHKサービスセンター
2.The Flaming Lips / Race For The Prize / Warner
3.Lou Reed / Walk on the Wild Side / RCA
4.Prefab Sprout / The Best of Prefab Sprout : A life of Surprises / Sony
5.友部正人 / はじめぼくはひとりだった / 友部正人オフィス

新年を迎えるにあたって気持ちを引き締めるため、まずは岡本太郎の声と言葉を聞くようにしています。太郎の言う「芸術は爆発だ!」という言葉がとにかく大好きで、リップスの『レイス・フォー・ザ・プライズ』はまさに大爆発サウンド。「安全な道と険しい道で迷った場合は険しい道を選べ」と、太郎の言葉にもあるように、ルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」を聴いて新年から気を引き締めます。

NaBaBa
1.Dishonored (Bethesda Softwork発売 Arkane Studios開発 / 対応機種Xbox360・PS3・PC)
2.Hotline Miami (Devolver Digital発売 Dennaton Games開発 / 対応機種PC)
3.Far Cry 3 (Ubisoft発売・開発 / 対応機種Xbox360・PS3・PC)
4.Hawken (Meteor Entertainment発売 Adhesive Games開発 / 対応機種PC)
5.Thirty Flights of Loving (Blendo Games発売・開発)

気がつくともう年の瀬ですが、ゲーマー的にはこの年末年始が色々な意味で年間最大の狙い時。Steam等のデジタル販売サイトでは破格の大規模セールが行われるので絶好の買い時ですし、社会人にとっては腰を据えてゲームに打ち込める、数少ない機会でもあります。

そんなわけで最近発売された作品の中から、とくにじっくり遊びたいものを中心に5つほど取り上げさせていただきました。

『Dishonored』は以前連載でも取り上げさせていただいた『Deus Ex』をルーツとした作品。多層構造のマップを自分なりに攻略できる戦略性の高さに、様々な特殊能力を駆使した今時の即興性が組み合わさったゲーム・デザインが特徴で、永らく途絶えていた一人称ステルスゲームを見事現代に復活させました。Viktor Antonovが手がけたアートワークも素晴らしく、個人的に今年のGame of the Yearは本作に決まりです。
https://www.youtube.com/watch?v=-XbQgdSlsd0

『Hotline Miami』は連載の方でも取り上げたのでいまさら言うことはありませんが、それでもなおお薦めしたい一押しタイトルです。シンプルな内容ながらゲームデザイン、ストーリー、ヴィジュアル、音楽と全ての要素が調和していて、ひとつとして無駄がない。ゲームとして卓越していると共に、表現作品としても非常に質が高いと思っています。続編の開発も発表され今後も楽しみな作品ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=6OJ51PG0swE

『Far Cry 3』は名作『Far Cry』と迷作『Far Cry 2』に続くシリーズ3作目のゲリラ戦FPS。ジャングルを舞台に賢い敵AIを相手にゲリラ戦を挑んでいくコアのコンセプトはそのままに、前作のわざとなのかと思うくらいの要素の無さを改善し、いろいろな遊びを詰め込み順当な進化を果たしています。南国の島が舞台で一見すると明るい雰囲気ですが、その実『地獄の黙示録』を下敷きにしているのであろう、全能感の暴走をテーマにしたストーリーにも注目です。
https://www.youtube.com/watch?v=CFll8IVLMVw

『Hawken』はMechを操縦して戦うのが特徴のオンラインFPS。まず何よりもインディーズ離れしたアートワークのレベルの高さが注目点で、マシーネンクリーガーを彷彿させるMechがガシャンガシャン言いながら戦う、ある意味そのロマンが全てと言ってもいい作品。基本プレイは無料なのもお薦めしやすい点ですね。現在オープンベータテスト中で、ゲームバランスは正直まだ詰め切れていない印象ですが、ここから完成度が上がりもっと化ける事を期待しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Is9nujmgPBo

『Thirty Flights of Loving』はたった15分で終わる、じっくりとは全く正反対のゲーム。主観視点でのストーリー・テリングのみに特化しており、その意味でゲームと呼ぶべきかどうかも疑わしいですが、表現されているものは既存のゲームに対する明確なアンチテーゼです。過度な演出やいっさいの説明を廃し、行間を読ます内容なのがユニーク。この手の作品のマスターピースにまでは至っていませんが、ひとつの試みとしては興味深い。同梱される前作『Gravity Bone』と併せてお薦めの作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=5y1P2BUCeuc

これらのなかの一部は、今後連載の方でも詳細なレヴューをしていきたいと思っていますのでお楽しみに。それでは来年もよろしくお願い致します。

野田努
1.Le Super Biton National De Segou / アンソロジー / Kindred Sprits/カレンティート
2.パブリック娘。 / 初恋とはなんぞや / 自主
3.ジェイク・バグ / ライトニング・ボルト / ユニバーサル
4.Sex Pistols / Never Mind The Bollocks / Virgin
5.Echo And The Bunnymen / Crocodiles / Korova

 20代~30代は、毎年、年末年始はクラブ・イヴェントをハシゴしたものだが、子供が生まれてからは、そういう生活から足をあらったので(子供を女房や親に預けて遊びにいける身分ではないため)、40代以降はもっぱら実家でテレビを見ながら親兄弟たちと会話しているという極めて平凡な時間を過ごしている。
 大晦日は実家の掃除を手伝って、年越しソバを食べて、年が変わったら近所の寺で除夜の鐘の叩いて、お参り。それから寝て、起きて、雑煮を食べて、清水エスパルスが天皇杯の決勝戦に残っていたなら最高だったのだが......しかし、どこのチームであろうと、元旦の1時からはサッカーを見ている。

 それから女房の実家に挨拶に行って、安倍川で凧を上げたり、地元の友だちに会ったりとか、年末年始はなんだかんだで忙しいので、音楽を聴いている時間はない。まあ、強いて思案するなら、コスモポリタンたる小生は、年末年始はなるべくワールドな感じで迎えたいといったところか。シュペール・ビトン・ナシオナル・ド・グゼーはここ数年ヨーロッパに再発掘されたマリのバンドで、新年を迎えるにはほどよい陽気さ、清々しさがある。まだ一度しか聴いてないし、実家でしっかり聴き直したい。
 それから何を聴こうかな......。考えてみれば、実家には自分のレコードもない。芸能人が出ているような番組を見ることもない。たまには音楽を聴かない生活も新鮮だ。他には、山を登ったりとか。読書したりとか......。

 もし自分がいま独身か未婚で、東京に住んでいる人間だったらクラブに行って4つ打ちを浴びていたんだろう。元旦の明け方にそのまま明治神宮まで行っていた頃が、遠い昔のことにように思える。

 他に......正月に聴きたい音楽を考えてみる。まずはゆとり世代の最終兵器、パブリック娘。の「初恋とはなんぞや」だ。そして、シングル曲というものの魅力、シングル主義の面白さをあらためて証明したジェイク・バグの「ライトニング・ボルト」。そして、自分を見つめ直すという意味でセックス・ピストルズの『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス』も聴いてみたい。もう1枚は、訳あってこのところ聴きまくっているエコー&ザ・バニーメン。その理由は来年明かしましょう。
 それではみなさん良いお年を。

松村正人
1.倉地久美夫 / 太陽のお正月 / きなこたけ
2.高橋アキ、クロノス・クァルテット / ピアノと弦楽四重奏曲(モートン・フェルドマン) / Nonesuch
3.前野健太 / オレらは肉の歩く朝 / felicity
4.The KLF / Chill Out / KLF COMMUNICATION
5.Kraftwerk / Autobahn / Vertigo

 私は十二歳の元旦に車に轢かれ、ラッキーにもほんの半歩の差で死ななかった。それがどうも心的外傷になったようで、外にいると死ぬ気がするから正月は出歩かない。カウントダウンにも初詣にも行かない。せめて神社に行ければ、モータリゼーションがこの世から消えてなくなりますようにと祈れるのに。ただ私はじっとしているだけだが、そんなとき部屋に流す音楽は揺らぎがすくないほうがいいのだけれども、どこかに歪みを求めてしまうのは反復強迫なんスかね。

三田格(関東連合
1.シー・シー・シー(クラークス)
2.ヨー・ヨー・ヨー・ヨー(スパンク・ロック)
3.ウー・ウー(イシット・ムジーク)
4.ガ・ガ・ガ・ガ(RCサクセション)
5.ツ・ツ・ツ(カビヤ)

おおお。

内田学 a.k.a. Why Sheep?
1. ベートーベン / 交響曲第9番『合唱』 フルトヴェングラー&バイロイト(1951 バイエルン放送音源) / EMIミュージック・ジャパン
2. U2 / Where the Streets Have No Name(約束の地) / Universal International
3. Ashra(Manuel Gottsching )/ Sunrain / EMI Europe Generic
4. 佐野元春/ヤング・ブラッズ/エピックレコードジャパン
5. モーツアルト/クラリネット協奏曲(演)ベニー・グッドマン、ミュンシュ&ボストン響、ボストン・シンフォニー四重奏団 /Sony Classical Originals

クリスマスで燃え尽きてしまうので、とくに正月を意識して音楽を聴くことはないんだけど、第九で年またぎは儀式化してますね。ちなみに23時9分10秒あたりから第一楽章をスタートすると、年越しした瞬間に第四楽章の「歓喜の歌」の冒頭のコントラバスが静かに聴こえはじめますのでぜひお試しを! 最後のモーツアルトのしかもベニー・グッドマンのクラリネット協奏曲は毎年正月に父がかけてたから。なぜか理由は知らないが......。あ、そういえば僕は元旦生まれなんでした。

2012 Top 20 Japanese Hip Hop Albums - ele-king

 2012年の日本のヒップホップ/ラップのベスト・アルバム20を作ってみました。2012年を振り返りつつ、楽しんでもらえれば幸いです!!

20. Big Ben - my music - 桃源郷レコーズ

 スティルイチミヤのラッパー/トラックメイカー、ビッグ・ベンのソロ・デビュー作。いま発売中の紙版『エレキング Vol.8』の連載コーナーでも紹介させてもらったのだが、まずは"いったりきたりBLUES"を聴いて欲しい。『my music』はベックの「ルーザー」(「I'm a loser baby so why don't you kill me?」)と同じ方向を向いている妥協を許さないルーザーの音楽であり、ラップとディスコとフォークとソウル・ミュージックを、チープな音でしか表現できない領域で鳴らしているのが抜群にユニークで面白い。

Big Ben"いったりきたりBLUES"

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19. LBとOTOWA - Internet Love - Popgroup

 いまさら言う話でもないが、日本のヒップホップもフリー・ダウンロードとミックステープの時代である。ラッパーのLBとトラックメイカーのOTOWAが2011年3月にインターネット上で発表した『FRESH BOX(β)』は2ケ月の間に1万回以上のDL数を記録した。その後、彼らは〈ポップグループ〉と契約を交わし、フィジカル・アルバムをドロップした。「FREE DLのせいで売れないとか知ったこっちゃない/これ新しい勝ち方/むしろ君らは勉強した方がいいんじゃん?」(『KOJUN』 収録の「Buzzlin` 2」)と、既存のシーンを挑発しながら、彼らはここまできた。ナードであり、ハードコアでもあるLBのキャラクターというのもまさに"いま"を感じさせる。

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18. Goku Green - High School - Black Swan

 弱冠16歳のラッパーのデビュー作に誰もが驚いたことだろう。そして、ヒップホップという音楽文化が10代の若者の人生を変えるという、当たり前といえば、当たり前の事実をリアルに実感した。money、joint 、bitchが並ぶリリックスを聴けばなおさらそう思う。そうだ、トコナ・XがさんぴんCAMPに出たのは18歳の頃だったか。リル・諭吉とジャック・ポットの空間の広いゆったりとしたトラックも絶妙で、ゴク・グリーンのスウィートな声とスムースなフロウがここしかないというところに滑り込むのを耳が追っている間に最後まで聴き通してしまう。

Goku Green"Dream Life"

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17. Zen La Rock - La Pharaoh Magic - All Nude Inc.

 先日、代官山の〈ユニット〉でゼン・ラ・ロックのライヴを観たが、すごい人気だった! いま東京近辺のクラブを夜な夜な盛り上げる最高のお祭り男、パーティー・ロッカーといえば、彼でしょう。つい最近は、「Ice Ice Baby」という、500円のワンコイン・シングルを発表している。ご機嫌なブギー・ファンクだ。このセカンド・アルバムでは、ブギー・ファンク、ディスコ、そしてニュー・ジャック・スウィングでノリノリである。まあ、難しいことは忘れて、バカになろう!

Zen La Rock"Get It On"

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16. Young Hastle - Can't Knock The Hastle - Steal The Cash Records

 ヤング・ハッスルみたいなユーモラスで、ダンディーな、二枚目と三枚目を同時に演じることのできるラッパーというのが、実は日本にはあまりいなかったように思う。"Spell My Name Right"の自己アピールも面白いし、日焼けについてラップする曲も笑える。ベースとビートはシンプルかつプリミティヴで、カラダを震わせるように低音がブーッンと鳴っている。そして、キメるところで歯切れ良くキメるフロウがいい。もちろん、このセカンド・アルバムも素晴らしいのだけれど、ミュージック・ヴィデオを観ると彼のキャラクターがさらによくわかる。2年前のものだけど、やっぱりここでは"V-Neck T"を。最高!

DJ Ken Watanabe"Hang Over ft.Young Hastle, Y's, 十影, Raw-T"

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15. MICHO - The Album - self-released

 フィメール・R&Bシンガー/ラッパー、ミチョのミックステープの形式を採った初のフル・アルバム。凶暴なダブステップ・チューン「Luvstep(The Ride)」を聴いたとき、僕は、日本のヤンキー・カルチャーとリアーナの出会いだとおののいた。さらに言ってしまえば......、ミチョに、初期の相川七瀬に通じるパンク・スピリットを感じる。エレクトロ・ハウスやレゲエ、ヒップホップ/R&Bからプリンセス・プリンセスを彷彿させるガールズ・ロックまでが収められている。ちなみに彼女が最初に発表したミックステープのタイトルは『恨み節』だった。凄まじい気合いにぶっ飛ばされる。

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14. D.O - The City Of Dogg - Vybe Music

 田我流の『B級映画のように2』とはまた別の角度から3.11以降の日本社会に大胆に切り込むラップ・ミュージック。D.Oは、「間違ってるとか正しいとか/どうでもいいハナシにしか聞こえない」("Dogg Run Town")とギャングスタの立場から常識的な善悪の基準を突き放すものの、"Bad News"という曲では、「デタラメを言うマスコミ メディア/御用学者 政治家は犯罪者」と、いち市民の立場からこの国の正義を問う。"Bad News"は、震災/原発事故以降の迷走する日本でしか生まれ得ない悪党の正義の詩である。ちなみに、13曲中8曲をプロデュースするのは、2012年に初のアルバム『Number.8』)を完成させ、その活躍が脚光を浴びているプロダクション・チーム、B.C.D.M(JASHWON 、G.O.K、T-KC、LOSTFACE、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH)のJASHWON。

D.O"悪党の詩"

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13. Evisbeats - ひとつになるとき - Amida Studio / ウルトラ・ヴァイブ

 心地良いひと時を与えてくれるチルアウト・ミュージックだ。タイトルの"ひとつ"とは、世界に広く開かれた"ひとつ"に違いない。アジアに、アフリカに、ラテン・アメリカに。元韻踏合組合のメンバーで、ラッパー/トラックメイカーのエビスビーツは、4年ぶりのセカンドで、すべてを優しく包み込むような解放的な音を鳴らしている。彼にしかできないやり方でワールド・ミュージックにアプローチしている。鴨田潤、田我流、チヨリ、伊瀬峯之、前田和彦、DOZANらが参加。エビスビーツが自主でリリースしているミックスCDやビート集も素晴らしいのでぜひ。

Evisbeats"いい時間"

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12. BRON-K - 松風 - Yukichi Records

 これだから油断できない。年末に、SD・ジャンクスタのラッパー、ブロン・Kのセカンド・アルバムを聴けて本当に良かった。こういう言い方が正しいかはわからないが、クレバの『心臓』とシーダの『Heaven』に並ぶ、ロマンチックで、メロウなラップ・ミュージックだ。ブロン・Kはネイト・ドッグを彷彿させるラップとヴォーカルを駆使して、日常の些細な出来事、愛について物語をつむいでいく。泥臭く、生々しい話題も、そのように聴かせない。オートチューンがまたいい。うっとりする。長い付き合いになりそうなアルバムだ。

BRON-K"Matakazi O.G."

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11. Soakubeats - Never Pay 4 Music - 粗悪興業

 新宿のディスク・ユニオンでは売り切れていた。タワー・レコードでは売っていないと言われた。中野のディスク・ユニオンでやっと手に入れた。これは、トラックメイカー、粗悪ビーツの自主制作によるファースト・アルバムである。「人生、怒り、ユニークが凝縮された一枚」とアナウンスされているが、怒りとともにどの曲にも恐怖を感じるほどの迫力がある。 "ラップごっこはこれでおしまい"のECDの「犯罪者!」という含みのある叫び方には複数の意味が込められているように思う。シミラボのOMSBとマリア、チェリー・ブラウンは敵意をむき出しにしている。"粗悪興業モノポリー"のマイク・リレーは、僕をまったく知らない世界に引きずり込む。ちょっと前にワカ・フロッカ・フレイムのミックステープ・シリーズ『Salute Me Or Shoot Me』を聴いたときは、自分とは縁のないハードな世界のハードな音楽だと思っていた。このアルバムを聴いたあとでは、音、態度、言葉、それらがリアリティを持って響いてくる。そういう気持ちにさせるショッキングな一枚だ。

粗悪興業公式サイト

10. AKLO - The Package - One Year War Music / レキシントン

 「カッコ良さこそがこの社会における反社会的/"rebel"なんです」。ヒップホップ専門サイト『アメブレイク』のインタヴューでアクロはそう語った。アクロが言えば、こんな言葉も様になる。2012年に、同じく〈One Year War Music〉からデビュー・アルバム『In My Shoes』を発表したSALUとともに、ひさびさにまぶしい輝きを放つ、カリスマ性を持ったトレンド・セッターの登場である。日本人とメキシコ人のハーフのバイリンガル・ラッパーは初のフィジカル・アルバムで、最高にスワッグなフロウで最新のビートの上をハイスピードで駆け抜ける。では、"カッコ良さ"とは何か? 最先端のUSラップを模倣することか? その答えの一つがここにある。

AKLO"Red Pill"

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9. ECD - Don't Worry Be Daddy - Pヴァイン

 このアルバムのメッセージの側面については竹内正太郎くんのレヴューに譲ろう。"にぶい奴らのことなんか知らない"で「感度しかない」とリフレインしているように、ECDは最新のヒップホップの導入と音の実験に突き進んでいる。そして、このアヴァン・ポップな傑作が生まれた。イリシット・ツボイ(このチャートで何度この名前を書いただろう)が、サンプリングを大幅に加えたのも大きかったのだろう。USサウスがあり、ミドルスクールがあり、エレクトロがあり、ビッグ・バンド・ジャズがあり、"Sight Seeing"に至ってはクラウド・ラップとビートルズの"レヴォリューション9"の出会いである。

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8. Kohh - Yellow T△pe - Gunsmith Productions

 Kohh & Mony Horse"We Good"のMVを観て、ショックを受けて聴いたのがKohhのミックステープ『Yellow T△pe』だった。「人生なんて遊び」("I Don`t Know")、「オレは人生をナメてる」("Certified")とラップする、東京都北区出身の22歳のラッパーのふてぶてしい態度は、ちょっといままで見たことのないものだった。しかし、ラップを聴けば、Kohhが音楽に真剣に向き合っているアーティストであることがわかる。シミラボの"Uncommon"のビートジャックのセンスも面白い。また、"Family"では複雑な家庭環境を切々とラップしている。"Young Forever"でラップしているのは、彼の弟でまだ12歳のLil Kohhだ。彼らの才能を、スワッグの一言で片付けてしまうのはあまりにももったいない。

Boot Street Online Shop

7. Punpee - Movie On The Sunday Anthology - 板橋録音クラブ

 いやー、これは楽しい! パンピーの新曲12曲とリミックス3曲が収録された、映画をモチーフにしたミックスCDだ。パンピーのポップ・センスが堪能できる。"Play My Music"や"Popstar"では、珍しくポップな音楽産業へのスウィート・リトル・ディスをかましている。そこはパンピーだから洒落が効いている。もうこれはアルバムと言ってもいいのではないか。ただ、このミックスCDはディスク・ユニオンでの数量限定発売で、すでに売り切れているようだ。ポップ・シーンを揺るがす、パンピーのオリジナル・ソロ・アルバムが早く聴きたい!

diskunion

6. ERA - Jewels - rev3.11( https://dopetm.com/

 本サイトのレヴューでも書いたことだけれど、この作品はこの国のクラウド・ラップ/トリルウェイヴの独自の展開である。ドリーミーで、気だるく、病みつきになる気持ち良さがある。イリシット・ツボイがプロデュースした7分近い"Get A"が象徴的だ。"Planet Life"をプロデュースするのは、リル・Bにもトラックを提供しているリック・フレイムだ。エラの、ニヒリズムとデカダンス、現実逃避と未来への淡い期待がトロリと溶けたラップとの相性もばっちりだ。インターネットでの配信後、デラックス版としてCDもリリースされている。

ERA feat. Lady KeiKei"Planet Life"

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5. 田我流 - B級映画のように2 - Mary Joy Recordings

 「ゾッキーヤンキー土方に派遣/893屋ジャンキーニートに力士/娼婦にキャバ嬢ギャルにギャル男 /拳をあげろ」。ECDを招いて、田我流が原発問題や風営法の問題に真正面から切り込んだ"STRAIGHT OUTTA 138"のこのフックはキラーだ。これぞ、まさにローカルからのファンキーな反撃! そしてなによりも、この混迷の時代に、政治、社会、個人、音楽、バカ騒ぎ、愛、すべてに同じ姿勢と言葉で体当たりしているところに、このセカンド・アルバムの説得力がある。ヤング・Gのプロデュースも冴えている。まさに2012年のラップ・ミュージック!

田我流 "Resurrection"

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4. キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者 / Pヴァイン

 キエるマキュウは今作で、ソウルやファンクの定番曲を惜しげもなく引っ張り出して、サンプリング・アートとしてのヒップホップがいまも未来を切り拓けることを体現している。そして大の大人が、徹底してナンセンスとフェティシズムとダンディズムに突っ走った様が最高にカッコ良かった。「アバランチ2」のライヴも素晴らしかった! ここでもイリシット・ツボイのミキシングがうなりを上げ、CQとマキ・ザ・マジックはゴーストフェイス・キラーとレイクウォンの極悪コンビのようにダーティにライムする!

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3. MC 漢 & DJ 琥珀 - Murdaration - 鎖GROUP

 ゼロ年代を代表する新宿のハードコア・ラップ・グループ、MSCのリーダー、漢の健在ぶりを示す事実上のセカンド・アルバムであり、この国の都市の暗部を炙り出す強烈な一発。漢のラップは、ナズやケンドリック・ラマーがそうであるように、ドラッグや暴力やカネや裏切りが渦巻くストリート・ライフを自慢気にひけらかすことなく、クールにドキュメントする。鋭い洞察力とブラック・ユーモアのセンス、巧みなストーリー・テリングがある。つまり、漢のラップはむちゃくちゃ面白い! 漢はいまだ最強の路上の語り部だ。長く現場を離れていたベスの復帰作『Bes Ill Lounge:The Mix』とともに、いまの東京のひとつのムードを象徴している。それにしても、このMVはヤバイ......。

漢"I'm a ¥ Plant"

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2. QN - New Country - Summit

 QNは、この通算三枚目を作る際に、トーキング・ヘッズのコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』から大きなインスピレーション受けたと筆者の取材で語った。そして、ギター、ドラム、シンセ、ベース、ラッパーといったバンド編成を意識しながら作り上げたという。ひねくれたサンプリング・センスや古くて新しい音の質感に、RZAのソロ作『バース・オブ・ア・プリンス』に近い奇妙なファンクネスがある。そう、この古くて新しいファンクの感覚に未来を感じる。そして、今作に"新しい国"と名づけたQNは作品を作るたびに進化していく。

QN "Cheez Doggs feat. JUMA"

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1. OMSB - Mr."All Bad"Jordan - Summit

 凶暴なビート・プロダクションも楽曲の構成の独創的なアイディアも音響も変幻自在のラップのフロウも、どれを取っても斬新で面白い。こりゃアヴァンギャルドだ! そう言いたくなる。トラックや構成の面で、カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』とエル・Pの『Cancer for Cure』の影響を受けたというが、いずれにせよOMSBはこの国で誰も到達できなかった領域に突入した。そして、またここでもミックスを担当したイリシット・ツボイ(2012年の裏の主役!)の手腕が光っている。シミラボのラッパー/トラックメイカーの素晴らしいソロ・デビュー作。

OMSB"Hulk"

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 さてさて、以上です。楽しめましたでしょうか?? もちろん、泣く泣くチャートから外したものがたくさんあります。いろいろエクスキューズを入れたいところですが......言い訳がましくなるのでやめましょう! 「あのアルバムが入ってねえじゃねえか! コラッ!」という厳しい批判・異論・反論もあるでしょう。おてやわらかにお願いします!

 すでにいくつか、来年はじめの注目のリリース情報が入ってきています。楽しみです。最後に、宣伝になってしまって恐縮ですが、ここ10年弱の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした拙著『しくじるなよ、ルーディ』も1月18日に出ます。2000年から2012年のディスク・レヴュー60選などもつきます。どーぞ、よろしくお願いします!

 では、みなさま良いお年を!!!!


webstar外観

 2012年の終わりは、マドンナがツアーしたり、ローリング・ストーンズが再結成したり、ジェイ・Zが、ブルックリンのバークレイ・センターで8日連続公演(!)をしたり(ランダムですいません)と賑やかだが、インディ界でも、スペシャルなナイトが重なった。インディのなかでも長く続けている、尊敬すべきバンドがふたつ。もちろん、どちらもソールド・アウト。

 まずは、オブ・モントリオール。1997年に結成してからすでに11枚のレコードをリリースしている。ハード・ワーキンなオブ・モントリオール=ケヴィン・バーンズは、10月に、未発表コンピレーション『ドーター・オブ・クラウド』をリリースした。ニール•ヤングの『イクスペクティング・トゥ・フライ』のカヴァーを含む、アルバム未発表曲17曲。古い順に入っているので、順番に聴くと音楽的な変化もわかるし、彼のスタイルが見えてくる。今回のショーは、メンバーが6人に減り(ピーク時は10~15人ぐらい)、パフォーマーも4人と、コンパクト化していた。


オブ・モントリオール

 観客は若く、パーティー好きな様子の人たちが多かったが、その横で40前後のジャストな世代もたくさんいた。以前より年代が上がったように感じる。ケヴィンは、刺繍の入った白のボタン・ダウン・シャツにアニマル・プリントのレギンス(途中で、アニマル・プリント•シャツになり、アンコールではスカイ•ブルーのブラウス、ショート•パンツ、ブーツ! そして最後は裸)、ギターのBPはツタン・カーメンの仮面をかぶり、キーボードのドッティは、フリンジ付きドレス、それぞれ白を基調とした衣装だった。
 馬が出たり、墓が出たり、演劇スタイルに定評がある彼らのショー。内容は相変わらず、うまく鋭くクラフトされたエンターテインメント。今回は、歌の最中に、白布をまとったパフォーマーが登場し、彼らの体に映像が映されたり、細長い風船を、客席に伸ばして、観客を風船だらけにしたり、マシーンで紙吹雪をばら撒いたり、ケヴィンが肩車で登場したり、ピエロになったり、キーボードを弾いたり、大道具を片付けたり、パフォーマーの七変化がすごかった。見事なチーム・ワークである。


オブ・モントリオール with レベッカ・キャシュ

 新しかったのは「女性ボーカルが欲しかった」、というケヴィンのリクエストから実現したコラボレーション、レベッカ・キャシュをフィーチャーした曲“フェミニン・エフェクツ”。シフォン•ロング・ドレスのレベッカと、ケヴィンとのデュエットで、場をドラマティックに盛り上げる。個人的には、ソランジェ(ビヨンセの妹)とのデュエット“セックス・カーマ”が好きだったが、女性ヴォーカルが入ると、まったく違うかたちになる。ショーが終わり、アンコールの間さえもパフォーマーによる余興がなされる。隙のないフル・エンターテインだ。ソールド・アウトのショーとは、こういうことなのだ。


ナダ・サーフ

 ソールド・アウトといえば、今年の初めにレヴューしたナダ・サーフ。12月14日、2デイズ公演の一日めに行った。前回と同じ会場の、バワリー・ボールルーム。もともとニューヨーク出身の彼らは、20年のキャリアがあり(1993年結成)、このホーム・カミング・ショーは、2日ともソールド・アウト。何とも感慨深い。

 オープニング・バンドは、ヴァージニア出身のエターナル・サマー。〈カナイン・レコーズ〉からアルバムを出し、ミックスにザ・レイヴォネッツのメンバーや、ダムダム・ガールズのプロデューサーが関わっているのも納得の、インディ好きサウンド。ギター&ヴォーカルの女の子(チャイニーズ・アメリカン)、ヘビメタ風のドラマー(ピザ・パイ・オア・ダイとロゴの入ったメタルTシャツが印象的)、笑顔が素敵なおかっぱ(男)ベース・プレイヤーと、メンバーの個性もいい。ハイライトは、ガイデッド・バイ・ヴォイシィズのカヴァー曲で、いまはメンバーでもあるダグ・ジラードがゲスト登場。ナイス・サプライズ。ノイズまみれになりながら、4人が目を見合わせてのフィニッシュは圧倒。ステージの袖から、ナダサーフのメンバーも覗いていた。


ナダ・サーフ

 ナダ・サーフのショーがはじまる前に、マシューからこの日のお昼に起こった惨事、コネチカットでの銃乱射事件についての追憶があった。彼らは、ボストンから戻る最中で、目と鼻の先でこんな痛ましい事件が起こるとは......。ツアー・エピソードに交えて、ガン・コントロールについての呼びかけもあった。

 今年の1月に7枚目のアルバム『ザ・スターズ・アー・インディファレント・トゥ・アストロノミー(星は天文学に無関心)』をリリースし、バワリー・ボールルームでプレイ、今年最後を締めくくるショーがまた同じ会場で、しかもホーム・タウンのNYにてソールド・アウト。オブ・モントリオールもそうだが、ソールド・アウト・ショーの裏には、並大抵以上の努力がある。音楽が好きなのはもちろん、それ以上に、彼らを応援したくなる何かがある。こんなに長く続けられることの理由をマシューに訊くと、「理由はいたってシンプル。3人でプレイするのが本当に好きなんだ。家賃が払えて、ショーができる状態であれば、やめる理由はない。10人以上観たい人がいれば、プレイするよ」と。ちなみに彼らは、20年間メンバー・チェンジをしていない。どれだけこのバンドが好きなのかがわかる。観客はけっして若くなく、男性が多い。普通に「彼らの高校時代の同級生」と言ってもおかしくないほど、圧倒的に同世代からの人気が高い。新曲、古い曲、ヒット曲を交じえ、ポップで、耳に優しく、胸がキュンとする感覚が蘇る。長年やっているだけあり、3人の息はピッタリだが、黙々とギターを弾くダグ・ジラードが、バンドに新しい風を与えているのは間違いない。マシューも、「もうトリオでプレイするのが考えられないくらいオーガニックだし、音楽的に、自転車からバイクになったよう」というぐらいの惚れ込み。アンコールには、メジャー時代ヒット曲の“ラッキー”もプレイ。本当なら避けたいこの曲を、いまの曲とミックスできるところに、彼らの吹っ切れを感じた。


物販の様子

 よいことも悪いこともあった一年だったが、締めくくりのショーがオブ・モントリオールとナダ・サーフということで、個人的な2012年をよく表しているように思う。

 みなさま、よいお年をお迎えください。

初音ミクの『増殖』 - ele-king


HMOとかの中の人。(PAw Laboratory.) - 増殖気味 X≒MULTIPLIES
U/M/A/A Inc.

初回盤 通常盤


 初音ミクによるYMO『増殖』のカヴァー・アルバム、『増殖気味 X≒MULTIPLIES』が今週リリースされる。プロデューサーは、初音ミクを筆頭としたボーカロイド文化の黎明期から活動し、現在もシーンを支えつづける“HMO とかの中の人。(PAw Laboratory.) ”。2009年に発表された『Hatsune Miku Orchestra 』につづく第2弾ともなる作品であり、前作にましてコンセプチュアルなこだわりと細部への作りこみが徹底されている。そうした点をひとつひとつ照らし出すことで、本作はさらにユニークにかたちを変えるだろう。また双方の「増殖」のニュアンスが持つ興味深い差異についてもあきらかになるはずである。今回は元ネタであるYMO『増殖』との比較をおこないながら、本作のおもしろさ、YMOのおもしろさ、そしてボカロ文化のおもしろさに迫る座談会をお届けしましょう。YMOを知らないあなたにも、初音ミクがわからないあなたにも!


YMOか、スネークマンショーか

小学生でスネークマンショーのファンになったってひとはすごく多いですね。遠足のバスのなかでみんなでかけて聴いたと。(吉村)

――まずはみなさんのYMO体験から、簡単におうかがいしたいと思います。世代的には三田さんと吉村さんがいちばん聴いていらっしゃると思いますが、さやわかさんはいかがですか?

さやわか:僕は小学1年とか2年とか、ほんとに子どもだったんですよね。74年生まれなんですが、音楽を聴いていちばん最初にかっこいいなと思ったのが、YMOとかで。

三田:そうなんだ?

さやわか:そうなんですよ。まあ最初は“ハイスクール・ララバイ”とかを聴いて、「こういうものがあるんだ」っていうのが最初なんですが。

三田:(笑)なるほど~。

さやわか:子供ですからね。その後に“ライディーン”とか聴いて、かっこいいなっていう感じですよね。だから、『増殖』ぐらいになると、もうなんとなく知ってるんですよね。しかもちょっとギャグが入っていておもしろおかしいし、従兄弟の家に行ったら置いてあるくらいのポピュラーなものだったんですよ。とくにこれは、ジャケットもダンボールとかついててかっこいいじゃないですか。おもちゃっぽい、ガジェットっぽいというか。だから子ども心に憧れのある盤ではありましたよ。

三田:久住昌之がつけた歌詞、知ってる?

さやわか:「テ・ク・ノ~、テクノライディ~ン~」(空手バカボン“来るべき世界”の歌詞)じゃなくてですか(笑)?

三田:「僕は~きみが好きなんだよ~」って(笑)。

さやわか:はははは! ともかく、そんな感じですね。YMO初期から中期に行くぐらいの感じの、ちょっとおもしろおかしいんだけれども、とんがっててかっこいいみたいな感じ、ポップさがある感じがすごく好きだったなあ。印象的だった。だんだん大人になってくると中二病的な気持ちで「中期ぐらいがいいよね」みたいなことを言い出すんですけど(笑)。でも、最終的には『増殖』くらいがすごく好きですね。子供の頃の憧れもある、ポップで、おもちゃっぽい感じ。

三田:ポップっていうか、勢いがあるときだよね。

さやわか:まさにそうですね。やりたい放題感があるわけじゃないですか。

三田:僕は高校生だったけど、吉村さんは?

吉村:僕は中学生でしたね。何年か前にスネークマンショーの本を書いて、そのときにすごくリサーチしたんですけれども、小学生でスネークマンショーのファンになったってひとはすごく多いですね。遠足のバスのなかでみんなでかけて聴いたと。

さやわか:懐かしいな。いま思い出しましたよ。2コ上の従兄弟がスネークマンショーのテープをいっぱい録って持っていたんですよね。僕はそこから入っていって、スネークマンショーのオリジナル盤みたいなものもどんどんテープに録って、友だちと貸し借りしました。スネークマンショーがやっぱりおもしろいんですよね。

三田:今回の野尻さん(※)にプレッシャーをかけてるわけですね(笑)。

※野尻抱介。『増殖』オリジナル盤にはスネークマンショーによるコントが数編収録されているが、『増殖気味 X≒MULTIPLIES』では野尻氏の脚本によって2012年現在を反映する内容に書き換えられている。

さやわか:はははは! いやいやでも、今回の野尻さんのやつも、時代性があるというか、よかったじゃないですか、最後のやつとか。

吉村:スネークマンショーのほうは、けっこう校内放送でかけて怒られたとか、そういうエピソードがいっぱいある。

三田:小学校で?

吉村:小学校、中学校で。モノマネもよくやったみたいですよね。たとえばKDD(『増殖』収録のコント)とか英語じゃないですか。小学生だったら意味はわからないんだけど、言葉やセリフのリズムとか声の質とか、すごくおもしろく聞こえちゃうんですね。そういうマジックがあった。

三田:じゃあけっこう共有文化なんだ? クラスメイトの。

吉村:そうですね。YMOよりもスネークマンショーって感じですね。

さやわか:そうなんですね。僕はもう、嘉門達夫とかといっしょに聴いたような気がしますよ。そういうレベルの出来事ですよね、小学生にとっては。

三田:あー、なるほどね。僕は逆に、YMOはダメだったんだよね。ちゃんとそのとき買って聴いたのは『BGM』だけで。流行りものの勢いに負けて、7インチは全部買ってたんだけどね。だからいまだに『テクノデリック』を聴いてない。

一同:(声を揃えて)マジすか!?

三田:そうそう。

さやわか:そんなことがあり得るんですね。

三田:いまだに抵抗があって。なんでかって言うと、先にクラフトワーク聴いてるんだよ。父親がヨーロッパ土産で『トランス・ヨーロッパ・エクスプレス(ヨーロッパ特急)』の7インチ買ってきてくれて。で、その頃に聴いてる音楽ってクリームとかだから、はじめて『トランス・ヨーロッパ・エクスプレス』を聴いて、もう何が起きたかわかんない! っていう衝撃があったわけだよね。何がどうなっちゃったんだろ、と思って。それでその次の年に“ライディーン”を聴くと、「子どもっぽいなー」っていうね(笑)。なんか真剣になれないんだよね。

さやわか:はははは! でもまあ、そうですよね。フュージョン感が。

三田:だけど、『BGM』がよかったんで、もうちょっと聴いてみようかなと思ったときに、『増殖』も知ったんだよね。だからこの作品には愛着があって。

さやわか:あ、そうですか? 『BGM』から戻っていく感じですか?

三田:そうそう。だから“ビハインド・ザ・マスク”を知らなかったのよ、全然。だいぶ経ってから“ビハインド・ザ・マスク”聴いて、いまではいちばんが“ビハインド・ザ・マスク”かな。そんなとこです、僕のYMO体験というのは(笑)。『増殖』はでも、リアルタイムで聴かないと、体験としての差が大きいよね。

さやわか:『増殖』はリアルタイムで?

三田:うん。『増殖』と『BGM』だけはそれなりに愛着があるね。でも、去年だったか、坂本龍一さんがDOMMUNEに出た後の打ち上げで、僕、ポロっと「“タイトゥン・アップ”のなかのセリフで「酒飲め、坂本」ってありましたよね」って言ったら怒られたんだよね。「違うよ!」って。「Suck it to me, Sakamotoって言ってるだろ!」って。30年以上勘違いしてた(笑)。しかし、そんなに怒るかなって(笑)。

さやわか:はははは! でもそうやって空耳するくらいの気軽さでみんなの耳に入ってくるような影響力がありましたよね。

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ふたつの「増殖」

いまの初音ミクって、初音ミクというぼんやりとした中心のようなものに向かって、全員が違うものを作っているってところがおもしろいので、その違いをはっきりと出してるジャケットだなと。(さやわか)


――その『増殖』を初音ミクでカヴァーしたアルバム、『増殖気味 X≒MULTIPLIES 』が今月リリースされるわけですが、ここからは両者を比較しながらお話をうかがっていきたいと思います。アレンジ、プロダクション、コンセプトに加え、楽曲やコント・パート、仕様そのものの再現性についてなど、たくさんの比較ポイントがありますよね。

 また、そもそもYMOが『増殖』をリリースした背景にあるものと、現在の初音ミクを取り巻く風景とを比べながら見えてくるトピックもあるかと思います。初音ミクはちょうど発売から5年が経って、いろいろな意味でかなり一般化された段階を迎えてもいますので、そのあたりもふくめておうかがいしていきましょう。

 まずは、ぱっと気づいた相似点、相違点からご指摘いただけますか?


さやわか:時期的にはおもしろいですよね。YMOが上り調子というか、わっと人目を引きつつおもしろおかしいことをやっていた頃と、初音ミク5周年、それこそファミマなんかで商品が売られるようになったタイミングで、同じものが出るっていうのは。ほかにも5周年ということで初音ミクがらみの企画はありますが、『増殖』のカヴァーというのは、目のつけどころとしていいかもなって思いましたね。

 で、相似というよりもむしろ相違する部分なんですけど、ジャケットの絵がいいですよね(笑)。初音ミクの姿が、全部同じじゃないんです。全部違ってるんですよ。

三田:色校を見たときにジグソーパズルを作ろうって言ったんですよ。

さやわか:うん、それいいじゃないですか。『増殖』のジャケットって、いかにも当時のテクノ的な考え方として、「同じものがいっぱいある」っていう意味を持たされていたじゃないですか。もちろん個々の人形に微々たる違いはあるんだけれども、その違いが微々たるものであるというほうに意味を見出すのは、いかにも当時のテクノ的な考え方に思えますね。ところがいまの初音ミクって、初音ミクというぼんやりとした中心のようなものに向かって、全員が違うものを作っているってところがおもしろいので、その違いをはっきりと出してるジャケットだなと。

三田:『増殖』の意味が違ってたと思って。オリジナルのジャケット・デザインは、当時で言ってた右傾化みたいなムードへの批評性を持ってたと思ったんだけど、今回のは初音ミク自体の増殖性をパラフレーズしてる感じだと思って。まあ、いまのほうがよっぽど右傾化してるんだけど、もうパロディになるレベルの右傾化じゃないから(笑)。そういう違うはあるかなって。

さやわか:そうですね。そういう意味では、その右傾化的なものをさらりと流してしまっているような、なんというか軽やかさがあるわけですよね。

三田:軽やかさ(笑)。

さやわか:だって『増殖』のジャケは、こんなふうな表現で来られるからには、どう考えてもメッセージ性が高いわけじゃないですか。

三田:僕が当時覚えてるのは、年配の人たちに拒否反応があったよね。

さやわか:ああ、そうなんだ。

三田:筑紫哲也なんかが右傾化に対していろいろ言ってたタイミングでもあったから。

さやわか:これ(『増殖気味』)はそういうことじゃなくて、かわいいキャラクターがいろんな表情を取っているっていうことに完全に置き換えているので、そこがおもしろいなと思いました。


ボーカロイドは政治性を嫌うか


やっぱりスネークマンショーのパロディなんだから、もうちょっと強く毒みたいなものを出したほうがいいんじゃないかなという気持ちもある。あの雪山のコントも、もしスネークマンショーがやってたら、津波とかになるんじゃないかな。(吉村)


吉村:いまの話と共通するんですけど、『増殖』のときはコントのギャグに70年代末の世相がすごく反映されてるじゃないですか。今回のは、3.11後のいまの世相っていうのがまったく反映されてない。逆にそれはすごいことだと思って。

 これは自分のなかでまだ解釈が分かれてるんですけれども、そうしたテーマを中途半端に出すよりはいいのかなっていう気持ちと、やっぱりスネークマンショーのパロディなんだから、もうちょっと強く毒みたいなものを出したほうがいいんじゃないかなという気持ちと。あの雪山のコントも、もしスネークマンショーがやってたら、舞台は雪山じゃなかったと思う。

さやわか:何? 戦場とか?

吉村:津波ですよ。津波で取り残された人とかに設定したと思う。

三田:ああー、なるほど。やっぱりそこは意図的に回避されてると?

吉村:そう、ちゃんと考えて避けられているんだというのはわかるんですけど、そのへんが違うな、と思いますね。

三田:なるほどねー。

さやわか:社会性みたいなものをあえて排除してるということですよね。でも、初音ミク自体が政治性とそもそも接続されにくい、スタンスを固定しにくい存在としてあったわけじゃないですか。それに、メインで聴いている層が小・中・高ぐらいのはずなので、いまは彼らにとって政治的なものっていうのが、自分たちの問題として扱われていないんじゃないかということがある。そして、政治に興味がある大人たちにとってみれば、今度は初音ミクが彼らに届いていない。

三田:でも、小説を読むかぎり、このコントを書かれた野尻抱介さんというのは、国家は意識しているし、政治性を感じさせないという作風ではないけどね。僕の印象からすればやや楽観的な国家観ではあると思いますけど、まったくそういうものを排除するわけではない。「一般意志2.0」とか急に出てくるんだけどね。

吉村:たとえ左であれ右であれ、そういう政治性みたいなものを出すとリスナーから拒否されるみたいなことはあると思います?

さやわか:うーん、どうでしょう。

三田:でも、それは巧妙なやり方があるような気もするけど。野尻さん自身はこの『南極点のピアピア動画』(ハヤカワ文庫JA)も『ふわふわの泉』(同)もテーマが増える、増殖するってことだったので、テーマ的にはぴったり合ってるはずなんですよ。でもコントにあんまり反映されてなかったなって。小説のほうと全然キャラが違うんで、あれ? みたいには思った。

吉村:そのあたりをすごく考えてこれになったとは思うんですよ。

さやわか:たぶんそうでしょうね。

三田:やっぱり子どもを意識したのかねえ?

さやわか:そうじゃないんですか。単純に、聴いて楽しいって感じですよね。とくに聴いていて思ったのは、ニコ動(ニコニコ動画)ユーザーのなかでも、どっちかと言うとクリエイターよりちゃんとリスナーに向けて作られているように感じましたけどね。

三田:YMOの『増殖』を聴いたときに思ったけど、やっぱりギャグは一回性のものでさ。何回も聴くものではないよなと感じたんだけど、『増殖気味』のほうは「いいボカロもあれば悪いボカロもある」のネタとかさ、けっこう何回聴いてもおもしろい(笑)。

さやわか:はははは! その違いは何なんですか(笑)?

三田:何なんだろうな(笑)。あれがいちばん好きで、あればっか聴いてる。

さやわか:それは強力なメッセージ性とか、そういうものを持ってないからかもしれない。

三田:なんだろうね。

さやわか:空気系じゃないけれど、ゆるっと、ふわっとして重みがなく、なんとなく聴いて笑っちゃえるみたいな。

三田:『デス・プルーフ』(クエンティン・タランティーノ監督)以降、女のおしゃべりが気になってるからかもしれない。女が集まってしゃべってるのって妙にインパクトがあるよね。『ハッピー・ゴー・ラッキー』(マイク・リー監督)とか、最近だと『東京プレイボーイクラブ』(奥田庸介監督)っていう映画のなかで、風俗嬢がしゃべるシーンにすごい破壊力があるんだけど、ちょっとそれに通じるものを感じちゃって(笑)。

さやわか:キャラソン(キャラクター・ソング)CDにちょっと似たノリがあっておもしろかったですよね。途中に寸劇が入る系の。『増殖』は曲とギャグが交互に入ってますよという構成のアルバムなんだけど、『増殖気味』は、初音ミクを中心としたキャラものだなって思いました。

吉村:そうか、主役がはっきりしてるんですね。

さやわか:そうですね。


オリジナルはいい加減な仕様? 『増殖気味』の楽しい仕様

僕はsupercellのイメージがいまだに強すぎるのかもしれないですけど、初音ミクってロックっぽい曲がかなり多い気がするんですよね。合成音声だからといって、エレクトロニカみたいなものがさほど目立つわけでもないように思うんです。(さやわか)

三田:コントの脚本が野尻さんになったのは、アーティストの意向? じゃあやっぱり『ピアピア動画』(『南極点のピアピア動画』)が大きいのかな。これは明らかに初音ミクをモチーフにしてるし、ニコ動をテーマにしたSFだったから。野尻さんは、ニコ動でも投稿したり、いろいろされてるんだっけか。尻Pだっけ?

さやわか:そうそう。そういう意味でも『増殖気味』は、ニコ動的な文脈もYMO的なものもちゃんとわかって作ってるってことですよね。全体的に凝りようもすごい。そうだ、インナーがちゃんと野球場になってるんですよね(※)。そんな感じでYMOへのいろんなオマージュがある。

※もともとは後楽園球場のジオラマを用いていたが、最終的にはエポック社から初代野球盤を借りて撮影されている。

吉村:(初音ミクが)入りきらないのがいいね。乗りきらない。

さやわか:これはYMOのほうと楽しさが全然違いますよね(笑)。『増殖』のほうは、なんというか強さのある表現としてやっていたんだけど。

三田:たしかにね。ヴィジュアルってすごいなあ。

さやわか:すごいですね。レイアウトも同じなのに。野球盤はいい仕事してますね。

吉村:YMOって、この頃はまだ匿名バンドっていうところがあったと思うんですね。

三田:ああ、なるほど。

吉村:誰が坂本さんで誰が高橋さんですか? みたいなこともあったぐらいで。ようやくこの頃にフジテレビとかの歌番組にはじめて出たぐらいかな。まだ一般的には匿名だったんですね。

さやわか:あ、そうなんだ?

吉村:スネークマンショーをやってるのがYMOの3人と思われてた時代。伊武さんと細野さんの声が似てるのもあるんですけど。

三田:ああ、なるほどね。さすがにそれはなかったな。そう思ってた?

さやわか:それは思ってなかったですね。スネークマンショー単体で、ちゃんと別の活動があるわけじゃないですか。

三田:そっか。小学生でそれを認識してるってすごいね(笑)。

さやわか:ははは(笑)。だからけっこうそれを認識するくらいには、ちゃんと好きだったんですよ(笑)。

吉村:『増殖』って、意外といい加減に作られたもので。「いい加減」って言うとあれだけど、制作に時間がなかった。売れてる間に何かアルバムを出したいけれど、モノはないからどうしようっていうね。このヴィジュアルも、フジカセットの広告をそのまま引用したもので、ポスターをそのまま使ってるんですよね。


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ニューウェイヴ路線への分岐点となった『増殖』

(初音ミク現象の)全体像なんてわからないでしょうね。中心もないし。そういうところのおもしろさではある。(三田)


吉村:あと、スネークマンショーのほうから、ニューウェーヴに寄せてくれという要望があった。 フュージョンじゃなくてね。それはかなり大きいですね。

三田:ああ、そうなんだ?

吉村:スネークマンショーのプロデューサーの桑原茂一さんも、それがうまくハマったんだっておっしゃってましたね。(高橋)幸宏さんが仲良くて、その頃ずっとスカとかの話をしてたんだと思います。YMOサイドからアルバムにコントを収録したいって話が来たときに、最初はイヤだったそうなんですよ。やっぱりちょっと、フュージョンのイメージが強くて。

三田:僕と同じでちょっとイヤだったんだ(笑)。ていうか、『BGM』は完全にニューロマンティックスになっちゃうじゃない? あのニューウェーヴ路線は、そのときのスネークマンショーのおかげで導かれたってことなんだ?

吉村:そうそう。それとヨーロッパ・ツアーをやったっていうのもありますね。スティーヴ・ストレンジ(ヴィサージ)のクラブに行ったりとか。

三田:ミック・ジャガーが入り口で追い返されたクラブですね。オールド・ウェイヴは帰れと。

さやわか:じゃあ初期の頃は、電子音楽でありつつも、あくまでフュージョン感のあるものをやるっていう部分にこだわりがあったんですかね?

吉村:いや、初期は引っ張られたんだと思いますよ。やっぱり時代はフュージョンの時代で。〈アルファ〉はフュージョンの会社みたいな位置づけもあったから、そこで何かやるってなったときに、YMO直前に幸宏さんもサディスティックス、教授もKYLYNをやっていたわけだし。

さやわか:なるほど。

吉村:『増殖』を出す前の秋にヨーロッパ・ツアーに行ってますね。これは有名な話ですけれど、ロンドンのヴェニューでYMOがライヴをやったら若いパンクスのカップルが踊りだして、教授も「俺たちかっこいいかもしれない」と思ったという。それがでかいと思います。ニューウェーヴに行く上で。

三田:それは聞いたことがあるかもしれない。パンクスが踊るんだ? 僕はこの頃、新宿のギリシャ館に通ってたけど、YMOがかかると全員同じフリでステップを踏むんですよね。こういう......いまだに覚えらんないけど。

さやわか:はははは!

三田:僕は高校生でね、大人のお兄ちゃんお姉ちゃんたちがやってるのがほんとに覚えられなくて。やったことある? YMOさえかからなければ自由に踊れるのに、YMOがかかるとつまはじきだったのよ(笑)。

一同:

吉村:でもブラック・ミュージック系だといまもそんな感じじゃないですか? ソウルとか。

三田:いや、ステップっていうか、振り付けがかっちり決まってるんですよ。僕のあの当時のカルチャーの印象から言うと、ピンクレディーといっしょ。同じ振りをみんなでしなきゃいけないっていう。

さやわか:ああー。でもディスコ文化ってけっこう同じ振りやってる印象ありますけどね。

吉村:もうオタ芸みたいな感じ?

三田:いや逆に、その頃は振りから解放された時代でもあったんですよ。前の流れとしてチッキンとかブギがあって、次にバンプってのが来た。74~5年はそういうリズムでしたね。で、その次にパンクが来て、自由に踊れるぞって思ってたらYMOのせいで全員同じ動きになっちゃって、「ちょっと待ってくださいよ」っていうところがあって(笑)。いまだにトラウマだもん。

吉村:たまたまそのディスコがそうだったんじゃないの(笑)?

三田:いやいや、僕それが、YouTubeとかで上がらないかなと思って(笑)。結局覚えられなかったからさ。そしたら3、4年前に何かの雑誌で、そのフリを全部解説するっていう記事が載ってたことがあった。

吉村:タケノコ族から流れてきたんじゃない?

三田:あのね、そう、フリは完全にタケノコ族といっしょでした。でも、実際のタケノコも見に行ったけど、やっぱりそれよりはもっとメカニックなものなんだよね。あのときほら、ドナ・サマーってさ、いちばんの衝撃は音楽じゃなくてロボット・ダンスだって言われたんだよね。当時ワイドショーとかでも、例の“アイ・フィール・ラヴ”がかかったときに、とにかく視聴者がいちばん驚くのはあのロボットのようなダンスだっていう報道なんかがあったわけよ。そのあたりにちょっとリンクしてるYMOの動きだったと思うんだけど。......すんごい瑣末な話(笑)。

一同:

X氏:YMOも初音ミクも、海外公演で大きな注目を集めるほどの社会現象を引き起こしたという点には共通したものがありますよね。でも音楽以外の部分に焦点を当てた評価であることも多いため、たとえばYMOは世間の反応やレコード会社に対して反抗していくことにもなります。『増殖』やその後の作品には、そうした傾向がより如実にでてきます。タイトルや楽曲の方向性などを見れば明らかですよね。海外から帰ってきてみれば、それまでは思いがけなかったような、そうした状況に直面することになってしまった。その点は、初音ミクの開発者として知られる佐々木さんの状況とも平行しているように思うんです。初音ミクというものが、ご本人が想定した以上の規模や、方向性に転んでいったというところ。僕はそのへんを重ねて見てしまうんですよね。


打ち込みのイメージにズレをもたらすプロデュース

初音ミクが出てきてほんの1~2年の頃って、もはや作家性みたいなものはなくなっていくんだ、キャラクター文化こそ最強、みたいなことがけっこう言われていたと思うんですね。でも最近は、初音ミクみたいなものが、じつは創作のプラットフォームとなりつつあるというか、結局は個々のクリエイター、プロデューサーの姿が見えてくるようになった。(さやわか)

――さらに『増殖気味』のほうの音についてもおうかがいしましょう。または、楽曲の再現性・非再現性において、何か企んだ部分があるなと思われたところを教えてください。

さやわか:ぱっと聴いて最初に思ったのは、「やけにギターの音が鳴ってるな」ってことなんですけど(笑)。

三田:ロックっぽいよね。

さやわか:そうなんですよ。で、僕はsupercellのイメージがいまだに強すぎるのかもしれないですけど、初音ミクってロックっぽい曲がかなり多い気がするんですよね。合成音声だからといって、エレクトロニカみたいなものがさほど目立つわけでもないように思うんです。

三田:それは年齢層の問題なんじゃないの?

さやわか:そうなんですかね? そっか、そういうこともあるかもしれない。でも、それと同じようにこのアルバムも、1曲目からきちんとギターを立てて、タテノリ感もきっちり来るような音楽にしているんだなとは感じました。

三田:1曲目はRCサクセションの“よォーこそ”みたいに感じたけどね。それは僕にそう聴こえるだけなのか、狙ったのか、ちょっと訊いてみないとわからないけど。

さやわか:なるほど。

吉村:打ち込みくささをあえて消してるのはすごく感じましたね。

三田:消してるところまで行ってますか?

吉村:僕は消してると思うな。このアルバムを作ったHMO とかの中の人。(PAw Laboratory.) の好きなYMOっていうのは、たぶんもっと打ち込み打ち込みしたYMOでしょう?

さやわか:たぶんそうですよね。

吉村:それをあえて消してるなって感じですよね。で、そっちのほうがいまの時代に合ってる気がする。

三田:華やかだしね、アレンジも。

さやわか:かといって人が歌う、単純にパンクなりロックのアルバムとして『増殖』のカヴァー・アルバムを出すわけじゃなく、あくまで声は初音ミクであって人間じゃない、っていうところがいまっぽいなと思いながら聴きましたね。

三田:2作の差ってことだと、僕はほとんど違和感がなかったな。自分の記憶のなかの『増殖』だという気がしたね。

さやわか:ああ、そうです? 『増殖』ってこんな感じだったんですか。

三田:なんか、あんま変えてないようなふうに聴けた。

吉村:歌詞は変えてないの? “ナイス・エイジ”とか。

――変えていないとのことです。“タイトゥン・アップ”の一部だけ変わっているそうです。

吉村:それは聴き取れなかったな。あと、『増殖』には入っていない“デイ・トリッパー”と“体操”が収録されている。まあ、“体操”はボーナス・トラックか。そういえば、マイケル・ジャクソンの遺作アルバムにYMOのカヴァーが入ったりしておもしろかったですけどね。ああいうブラック・ミュージックに行ったりするような可能性は、まだこの頃のYMOにはあった。

三田:“ビハインド・ザ・マスク”を『スリラー』に入れようとしたけど、曲の権利も売れといってきたので、坂本さんが断ったやつですね。

吉村:そうそう。あとはアメリカの音楽番組『ソウル・トレイン』に出演したりとか。繰り返しになるけど、そういう、ニューウェーヴ路線へ向かうことになった分岐点にあるのがこのアルバムだから。

初音ミクV3をいちはやく! (※現在開発中の、Vocaloid3エンジンを使った初音ミク英語版βバージョン)


ふつうのアニメなんかを題材に二次創作が広がるときって、エロ・グロ・ナンセンスが爆発するじゃない? 遡るべき一次創作があるときに、二次創作というのは無制限の領域を得るけど、初音ミクみたいな二次創作しかないものっていうのは、逆に爆発できないわけだ?(三田)


さやわか:なるほど。あと、さっきの生っぽい音、という話で思い出したんですけど、この作品で使われてる初音ミクの声が、ボーカロイドのヴァージョン3のライブラリなんですよ。

三田:......? 詳しいな。

さやわか:これがけっこう大事なことなんです。ボーカロイド3(現在開発中の、Vocaloid3エンジンを使った初音ミク英語版βバージョン)の初音ミクを使ったCDが出るのって、ほとんど初めてじゃないですか? いままではみんなヴァージョン2のものを使っていて、「初音ミクの声」と言えばあれだという共通了解があります。でも、最近ボーカロイド自体がヴァージョン・アップして、すごく人間に近いものが作れるようになったんですよ。このアルバムではそのヴァージョン3用に作られた初音ミクの声を使ってるので、かなり生で歌っているように聴こえるんですよね。みんなが知ってる、あのケロケロした初音ミクの声じゃない。藤田(咲)さんもこのアルバムには参加してますけど、一瞬どっちの声かわからなくなるくらいのクオリティを感じさせますね。ヴァージョン3用の初音ミク発売って、未定ですか? まだ世に出てないよね?

三田:へえー。じゃ、これしかないの? その新しい初音ミクとしては。

――商業で用いられているのはこれしかないそうです。担当の方によりますと、ファミリーマートでのキャンペーンの際に“ナイス・エイジ”のシングルを切って、それをユーチューブに上げたところ、海外でちょっとした論争が起こったともいいます。まず、「ミクの英語版ができたのか」という反応。それから、「でもこの発音はどうなの?」という反応。で、それに応えて「いや、これは日本のタカハシユキヒロという人の発音のモノマネをしてるんだ。だからこれで問題ない」というYMOマニアの見解。

さやわか:あははは! ソフトウェア的な限界なのか、YMOの真似をしているからこうなってるのか、という論争なんだ? それはね、でも、思った! というか、やっぱりモノマネなんだ。日本人がたどたどしく英語で歌いました感を、きっちり演出しようということなのか。

三田:そっか。30年たっても日本人の英語は変わらんということなのね(笑)。

さやわか:はははは!

吉村:自民党が悪いって橋下が言うよ。

一同:


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中心なき増殖、ボカロ文化のおもしろさ

ドロドロした表現が社会性に向かわないっていうのは、空気でしょうね。この文化を支えている人たちの。まあ、将来はわかんないですけど。(吉村)

さやわか:初音ミクって、海外の人気もすごくありますね。ただ、海外での受け入れられ方っていうのは、初音ミクを固有のキャラクターとして見るようなところがあります。

三田:ニコ動(ニコニコ動画)で観ておもしろかったんだけど、日本の子どもが初音ミクで騒いでいる映像を、世界中の子どもにみせるっていう動画。世界中の子どもが拒否反応を起こしてるんだよね。実体のないものに夢中になっている意味がわからなくて、ブラジルの子とか韓国の子とかがほんとに引いてるわけ。僕はそれまであんまり初音ミクに興味がなかったんだけど、あれを観たときに、おもしろいのかも! って思ったんだよね。考えが変わりましたよ。

さやわか:いいですねー。海外という話で思い出しましたけど、海外のファンの人たちって、いまだに初音ミクをあるひとつのアニメのキャラのように勘違いして捉えていることが多いんですよ。日本ではいまやこの『増殖気味』のジャケットが象徴するように、中心の存在しないものとして捉えられ、楽しまれていますよね。ライヴとかでも、「本体の存在しないものをセガの技術がいかに動かすか」みたいなことを醍醐味として楽しむ傾向がある。存在しないけど、でも、みんなでがんばって盛り上げる。そういう構造ですよね。

三田:で、盛り上げれば盛り上げるほど世界の子どもたちが引くんですよ(笑)。

さやわか:「存在しないものをなぜ盛り上げているの?」と思ってしまうんでしょうね。アイドルにも近いところがあります。アーティストとして圧倒的な価値のない、発展途中にあるものを、どうして全力を注いで盛り上げようとするのか。

吉村:テクノの方面ではどうなんですか? 初音ミクを使用したりするのは。

三田:ミクトロニカとかミクゲイザーとかはあるらしいですけどね。でも浮上してこない。

さやわか:音楽的には何をやってもいい世界になっているからいろんな人がいるし、年齢層も幅広い。間口が広いというか、懐が深いというか。

三田:全体像なんてわからないでしょうね。中心もないし。そういうところのおもしろさではある。

さやわか:そう。 そのあたりの感覚が、このアルバムのジャケットなり、そもそも『増殖』を選んでカヴァーすることなりにきちんと表れていて、とても批評性があると思った。おもしろいですよね。

三田:うんうん。それで言えば、前作から『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』を飛ばしてこのジャケットにきたのは、ハマりだなと思った。

吉村:うん。ぴったりきてますよね。

さやわか:たぶん作品としては、元ネタのYMOの『増殖』を知っていて、YMOをどういうふうに昇華してるのかな? という玄人筋が買っていくものだと思うんですよ。でも、この描かれているイラストとか、ねんぷち(ねんどろいどぷち)とかに惹かれて買って、「かわいいなー」って思っているだけの人、元ネタがあるだなんてことに気づかずに聴くような人もいていい。ボーカロイドはそのぐらい広い文化になっているとも思うんですね。大人は「いやー、YMO聴いてくれてうれしいよ」とか思ってるかもしれないけど、子どもはとくにそんなこと気にしてない。

三田:姪がふたりいるんだけど、反応がみごとに逆なんですよ。妹は元ネタを教えてあげるとそれに関心を持つ。だけどお姉さんは元ネタがあるということについて目をふさぐんだよね。

さやわか:ああー、嫌がる?

三田:無視する。ふたりとも初音ミクが大好きだから、ご飯食べててネギを残したりしたときに「それでも初音ミクのファンか」って言うと、食べる。

さやわか:いいねー! いい話じゃないですか。

三田:そのぐらい好きなんだけど、......なにを言おうと思ったか忘れた(笑)。まー、この作品の反応は知りたいよね。

さやわか:元ネタを気にする人もいれば、気にしない人もいる。そのふたつともが許容されるぐらいの世界にはなっていますよね。

吉村:非常に正しいですよ。このオリジナルの『増殖』にしたって、当時買ってた人の90パーセントは、流行だから買ったというだけで。YMOだから買うとか、彼らが好きだから買うというのはまだない時期です。それがないからこそヒットしていたというか。

三田:アーチー・ベルのカヴァーだ! って言って買ってる人はいない。

吉村:ははは。そう。

さやわか:うん、それでいいんだと思うんですよ。

ボカロ文化における作家性の問題

今年くらいからなのかな、(初音ミク関連の)市場が本当に大きくなって、YMOとか関係なく、ただ素朴にブックレットについてるマンガを読んで「かわいー」って言ってるだけの人も普通にいられるような広さを得ましたね。(さやわか)


――初音ミクを通して、いち作家としての強い個を出してくるようなタイプのプロデューサーさんというのはいないんでしょうか? 先ほどからのお話は、絶えざる集合知的なプロデュースと、絶えざるその淘汰によって初音ミク像とその作品が成立している、というふうに集約できると思います。そのとき、本作のクレジットに「HMOとかの中の人。」と記載されることにはどのような意味があるのか。これは彼のアルバムなのか、初音ミクのアルバムなのか。そして、初音ミクを用いながら強い個を打ち出してくる作家というのはいるのか。音楽批評誌の興味として、その点についてお聞かせいただければと思います。

三田:うーん、それは作品との距離感によっても変わってくると思うな。このアルバムは、僕は初音ミクのアルバムとして聴けるけど、たとえばアレンジの方法なんかにもっと入り込んでいくというようなかたちで、この人の作家性に寄っていくリスナーはいると思う。この作家がミクを離れたときに、それでもついていくファンがいるかどうかというところはそれぞれの作家によりますよね。

さやわか:初音ミクが出てきてほんの1~2年の頃って、もはや作家性みたいなものはなくなっていくんだ、キャラクター文化こそ最強、みたいなことがけっこう言われていたと思うんですね。これからはみんながキャラクターに奉仕して、ひとりひとりの作家ではなくて、集合知的なものだけが機能していくんだと。でも最近は、初音ミクみたいなものが、じつは創作のプラットフォームとなりつつあるというか、結局は個々のクリエイター、プロデューサーの姿が見えてくるようになった。
 以前、ぽわぽわPさんのインタヴューか何かを読んだときに、彼が「初音ミクやボカロ文化のおかげで僕らにも注目が集まってる」って言ってたんですよね。それってもう、考え方が変わってますよね。以前は、「僕らはもう要らないんだ」「キャラがかわいく存在できてればそれでいいよね」って世界になるという話だったのが、そうじゃなくなってきてる。たぶん、初音ミクを一次創作的なキャラクターだと思っている海外の人とか、まだ初音ミクがどういうものかわかっていない日本人は、そのことに気づいてないと思いますね。もちろん初音ミク自体もかわいいし、単体で力のあるキャラクターなんだけど、その後ろからちゃんと人間が出てこれるようなシステムになってきてはいるんだと思う。これは言ってみればニコ動全体がそうで、たとえばヒャダインとかも完全にいまは固有名として出てきていますよね。

三田:そうなると、僕はよくは知らないからわかんないけど、強く自分を出しすぎて嫌われる人っていうのもいたりするの?

さやわか:それはもちろん、いますね。普通のプロデューサーといっしょで、我が強すぎてよくない、みたいなことはあるんですよ。

三田:それは作品の出来、不出来ではなくて、自分を出しすぎるという点への批判なの?

さやわか:両方ですかね。やっぱり、初音ミクをこういうふうに使わないほうがいいよねって部分はあるわけじゃないですか。

三田:たとえばどういう使い方がだめなの?

吉村:これは規約だけど、エロとか。あと下品なものとかは許容されないよね。

三田:じゃあ、たとえば『けいおん!』でもなんでも、ふつうのアニメなんかを題材に二次創作が広がるときって、エロ・グロ・ナンセンスが爆発するじゃない? 遡るべき一次創作があるときに、二次創作というのは無制限の領域を得るけど、初音ミクみたいな二次創作しかないものっていうのは、逆に爆発できないわけだ?

吉村:本物がないからこそ、心のなかで規制されるというかね。『けいおん!』なら本物の『けいおん!』があるものね。

三田:そうそう。

さやわか:初音ミクはそもそものストーリーがないので、エロみたいな要素が成り立ちにくいっていうのもありますね。そういう絵を描いている人もいるんだけど、ピンナップ的なものになっちゃうんですよ。

三田:初音ミクの一生を考える人も出てくるでしょうね。

さやわか:それもまたひとつの物語のパターンとして回収されるんでしょうね。“初音ミクの消失”とかってそういう曲じゃないですか。

三田:この『増殖気味』をさ、でも初音ミクの名義で出すことはできないんだよね?

さやわか:それは......どうなんだろう、うまいこと話を通せば可能なんじゃないかなあ。『初音ミクの消失』とかもミクという名前とイラストを使って発売されていたし。

吉村:新興宗教が使ってたりしないのかな? そういうの、出てくると思うんだけど。

さやわか:ははは! もし昔に初音ミクがあったら「しょーこーしょーこー」とか歌わせるのが、あったかもしれないですね。

三田:ははは、いまは全然そういうふうな発想が浮かばなかったけど、でも時期が少し前だったらそう思ったかもねー。

さやわか:うん。でも、いまはそういう政治的なものや社会性みたいなものは排除されているわけですね。

三田:じゃあ、ほんとに、ちょっと言葉は悪いけど消毒されちゃってるんだね。

さやわか:このジャケットにしても、「ちっちゃいものがいっぱいあってかわいい」とだけ感じられる世代がいるんなら、よかったねって話でもありますけどね。

吉村:サエキけんぞうさんが、ゲルニカのカヴァーをやったりしているじゃないですか。ああいうドロドロしたものを初音ミクに歌わせるってなると、どうなりますかね。

さやわか:初音ミクでドロドロっていうと、それこそ中二病というか、切ない青春の痛み、あるいはリストカッター的なモチーフを歌ったやつがあるんじゃないですか?

三田:そんなの、ボカロだったらいっぱいあるよね。

さやわか:そう、そういうドロドロ感は多いですよね。そこでプロテストソングをやろうということにもならないし。

三田:そこはわからないな。姪なんかのボカロの消費の仕方を見ていると、やっぱり物語消費なんだよね。

さやわか:ボカロの歌詞ってどんどん物語化してるわけじゃないですか。

三田:それで小説も書いたりするわけでしょ。と考えると、いま言ってたようなドロドロの限界ってないと思うな。

さやわか:なるほどね。

吉村:ドロドロが社会性に向かわないっていうのは、空気でしょうね。この文化を支えている人たちの。まあ、将来はわかんないですけど。

三田:サッカーのサポーターみたいなものということ?

さやわか:ああ、似てるかもしれないですね。

三田:また言葉が悪くなってしまうけど、どこかきれいごとなところがあるじゃない。

さやわか:アイドル文化にも似てるかもしれないですね。「俺らの支えている初音ミクをうまいこと使えよ」という漠然とした空気があって、その基準がどこかにあるわけじゃないけれど、やろうと思ったことのなかで最大公約数的なところを押さえないといけない。うまいこと使わなかったらファンから「俺だったらもっとうまくやれるよ」って言われて嫌われる。(笑)。ただ、重要なのは、その「俺だったら」というのが本当にできてしまう。それはアイドルにはできない、ボカロ文化ですよね。

吉村:非常にいいツールですよね。すばらしいと思う。

さやわか:観客だったはずの人が、いつのまにか作り手に反転してしまう。それが一瞬で起こりますから。

吉村:今回だったら『増殖』のカバーをやるという選択。 何を歌わせるかというところに個が宿るわけじゃないですか。

さやわか:初音ミクで『増殖』やったらいんじゃね? みたいな話から、じゃあこういうパッケージでやって、こういう見せ方をして、さあ受け入れられるかみたいに、作品が生み出されて評価されるための連想がさっと広がっていきやすい。もちろん、だからこそ評価される作品を作るのはとても苦労すると思いますけど。

吉村:かなり難しいことですよね。アイディアはすぐに浮かぶけど。実際にそれをいいものにするのはものすごく大変なことで。

さやわか:それこそ今回の野尻さんのように、政治性を入れるか入れないかとか、微妙なポイントを突いていかなければならないことになりますよね。

三田:でも、次がないよね、HMO.......。

一同:


三田:“体操”やっちゃったし、“胸キュン”(“君に、胸キュン”)やっちゃったし。『B-2ユニット』かな。

吉村:歌がないよ。

三田:ああ、そうか。戦メリ(“戦場のメリー・クリスマス”)とかできないのかなー(笑)。あれならデヴィッド・シルヴィアンが歌うヴァージョンがあるからさ。

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コント、芸人、アニメ声優

姪なんかのボカロの消費の仕方を見ていると、やっぱり物語消費なんだよね。(三田)

吉村:そうだ、YMOファンにこれ言っとかなきゃね。『増殖』でギターを弾かれた大村憲司さんの息子さんが、この作品のギター弾いてるんだよ(大村真司)。安室奈美恵や土屋アンナとかのサポート・ギターをやってる人なんだけど、MIDNIGHTSUNSっていうバンドでも活動していて。お父さんの曲"Maps"のカバーとかだと、高橋幸宏がドラム&ヴォーカルで参加してるヴァージョンもあったりするんですよね。

三田:さっきからみんなギターって言ってるのは、それなんだ。

吉村:そう。あとは曲だけじゃなくて、ちゃんとコントが入っているのもいい。『増殖』をカヴァーしようというのは、度胸がありますよ。お笑いのバナナマンっていうのは、スネークマンショーが好きだからつけたコンビ名だっていうのを聞いたことがありますけど、それ自体もすごく度胸のいる命名だと思うんですよね。

三田:そうなんだ、「雨上がり決死隊」はRC(サクセション)だしね、お笑いにはニューウェーヴ文化が投影されてるんだね。

さやわか:この次はあれですよ、スーパー・エキセントリック・シアターにいくっていう方向もありますよ。お笑い要素をもっと強めていく(笑)。

三田:そっちに行くか。

――『増殖』におけるコント/芸人さんという軸にアニメ声優さんを対置させているわけですが、このあたりはどうでしょう?

三田:いや、うまいとしか言えない。詳しくないし。

さやわか:いや、うまいですよね。

吉村:テクニカルな問題としても、この男の声優さんもめちゃくちゃうまいし、伊武さんぽい。

さやわか:伊武さんぽい(笑)。それいいですね。しかし声優さんのレベルが高くなりつづけていますよね、昨今は。声優さんはいまや水樹奈々なんかでもそうですが、オリコンで1位を獲っちゃうわけですからね。そのへんのアイドルっ子とかより技量があったりするし、演技はうまいし、かわいかったりもするし、すごいですよね。

三田:さっき言った姪っ子たちも、ボカロの元ネタに興味を持つ子のほうは仮想現実系なんだけど、興味持たない子のほうは声優追っかけなの。

さやわか:ああー、リアルを追ってるわけですね。

三田:二次元だけでいいとは言うんだけどね。小学生の頃からAKBとかバカにしてて。

吉村:そういうYMO知らない人に聴いてみてほしいよね。その感想をききたい。

三田:その可能性はある作品ですよね。

さやわか:うん、いまそういうふうに動いているマーケットなので、そこがいいですよね。


橋下が初音ミクを好きかどうか問題

オリジナルの『増殖』が持っていた右傾化への批評という点について言えば、いまの文化というか、安倍政権的なものが持っているニュアンスに対して、こういう相対的な文化の楽しみ方がカウンターになっていってほしいかなとは思う。(三田)

安倍とか橋下とか石原とか経団連の米倉とか、初音ミクを嫌いだと思うんだ。本能的に嫌悪しそう。だからさ、あいつらの嫌いなことをやれば正しいんだ。(吉村)


さやわか:僕、初音ミクもので80年代とかのカヴァー・アルバムを作ること、あるいはおっさん世代がかつて好きだったような曲を初音ミクにやらせて、「いやー、これを初音ミクがやるなんて!」って言って盛り上がることなんかが、以前はあんまり好きではなかったんですよね。上から押しつける感というか、若い世代に対して「俺たちの与える豊かな音楽をお前ら聴けよ。初音ミクとか言ってるけど、これこそが音楽だよ!」みたいな意図も感じるので。でも、今年くらいからなのかな、市場が本当に大きくなって、そういうあり方が成立しなくなったと思うんですよ。YMOとか関係なくて、ただ素朴にブックレットについてるマンガを読んで「かわいー」って言ってるだけの人も普通にいられるような広さを得ましたね。まあ、薄まったというか、拡散したというか。

三田:それこそ正しい『VOW』の道ですよ。

さやわか:ああ、そうそう! それでいいと思うんですよ。『VOW』だけ読んでた人はべつに『宝島』という雑誌にどんな意味があったかなんて考えないわけで。その自由さがいいですね。一方で、うるさいおっさんもちゃんと包摂されるというか、排除されないところもいいなと思います。

吉村:どこまで遡るのかな。ニューウェーヴ、70年代歌謡とかまではあるとして、演歌とかあるのかな。

三田:演歌なんてありそうだけどね。

さやわか:あるでしょう。ニコ動にいけば、思いつくものは何でもあるという気がします。インターネットそのものくらいの感覚で「何でもある感」がありますね。初音ミクのあり方自体が、とりあえず音楽的には何をやってもいいというふうに許してくれているので。ただ、そのことによってエッジーな音楽表現が相対化されるようなところもあります。端的に言えばパンクとかメタルとかやってる人もいますけど、様式美が印象づけられるだけで、シリアスな攻撃性とか強度は全然ないんですよね。なくていいというか。

三田:まあ、僕は『けいおん!』の“4分33秒”(ジョン・ケージ)を観たときに、もう次は何もない! と思ったけどね。

さやわか:あはははは!

三田:あれは......じーっと聴いちゃったよー(笑)。

さやわか:そういうものも許されるけど、全部が相対化されたマップの上に置かれるから、体制的でない音楽をやりたい人たちにとってはやりにくい場所だと思うけど、その状況を楽しめる人にとってはいい。

三田:オリジナルの『増殖』が持っていた右傾化への批評という点について言えば、いまの文化というか、安倍政権的なものが持っているニュアンスに対して、こういう相対的な文化の楽しみ方がカウンターになっていってほしいかなとは思う。

さやわか:いや、ほんとそうですよね。僕も今日はそう思いましたよ。カウンターとして立つならそこしかあり得ないというか。

吉村:安倍とか橋下とか石原とか経団連の米倉とか、初音ミクを嫌いだと思うんだ。本能的に嫌悪しそう。だからさ、あいつらの嫌いなことをやれば正しいんだ。

さやわか:あははは!

三田:橋下はわかんないけどね。あの人のマネジメント・ポリティクスみたいなもので言うと、外貨を稼げそうなものは応援するような気もするけど。

さやわか:橋下が初音ミクを好きかどうか問題(笑)。

三田:いや、侮れないよ橋下は(笑)。でもそういう色気を見せる政治家が出てこないのは不思議だよね。ロンドン・オリンピックでさ、ダニー・ボイルがイギリスの労働者階級のカルチャーを引っぱってきてすごく評価されたわけでしょ。だけど、石原慎太郎がこれまでやってきたことを鑑みたときに、東京オリンピックで何ができるかと考えると、まずサブ・カルチャーは全部そっぽを向くよね。いったいどこのどんなアニメが彼に協力してやるんだって話ですよ。結果ものすごく伝統を強調したオリンピックになるでしょうね。ロンドンの真逆になるのは必定。そういうときに、どうしてこういうものを味方につけたほうが有利だって考える人がいないんだろうって、不思議なんだよね。麻生とか、まー、いたけど。

さやわか:それはね、実はまさに今日ここに来る前に歩きながら考えてたことなんですよ。単純に言えば、そうしたサブカルを支持する層の人たちが投票に行かないから、味方になる必要を感じないんだろうなって思います。ネットを見てても「若者が投票に行かないと、未来は大変なことになるよ」とは書いてあるわけじゃないですか。いま若者と呼べる人間の割合っていうのは日本の総人口のなかで30パーセント以下で、さらにそのなかの半数以下しか投票に行かないとなれば、もうマイノリティとして黙殺されることになりますよ、とか書いてある。あるいは投票者の平均年齢が50代半ばの人たちだから、その人たちに有利な社会になっちゃいますよ、みたいなね。
 でもこれからさらに高齢化が進んでいくんだったら、いちいち若者のためを考えずに世界が作られていってしまうのは当然だとも思うんですよ。もちろん、それはいいことじゃないんですが。そして考えたくないですが、いま若者に味方をしようとしているサブカル側の人も、もしかして年をとれば、自分たちより若い世代の人たちやそのカルチャーを軽視して、圧迫ようとするかもしれない。


メディアとしての初音ミク

初音ミクには、音楽を運んでくる運び屋みたいな側面があるわけですよね。「音楽を聴きたい」と思ったときに、とりあえず初音ミク関連のものならネット上にたくさんある。ニコニコ動画とかに行けば、それが人気順で出てきたりもする。(さやわか)


――一方で、在野のプロデューサーさんたちの音楽的な力量が、かなりハイ・クオリティな完成度を見せつつあるなかで、ふつうのJポップのようにボカロ作品が機能しはじめてもいると思うんですが、ポップスとして見たときにいかがですか?

さやわか:三田さんはどうですか? そもそもJポップとしてこういうものを聴いたりするんですか?

三田:うーん、聴くっちゃ聴くけど(笑)。姪の観てる横で、「ふーん」って。

さやわか:ははは。そうか、じゃあ音楽として評価するというところまでは全然いかないわけですね?

三田:モノサシがいっぱいあるからね。消費の仕方も一種類じゃないからなあ。

さやわか:今年なんかだと、ジョイサウンドのチャートの3位とかが初音ミクだったりするわけで。タダだからっていう事情もあるとは思いますけど、若い人のなかだとふつうのポップ・アーティストみたいな存在にもなってるわけですよね。初音ミクはキャラクターに過ぎないわけだからそれはおかしな話だと思うかも知れないけど、じつは言ってみれば音楽を運んでくる運び屋みたいな側面があるわけですよね。「音楽を聴きたい」と思ったときに、とりあえず初音ミク関連のものならネット上にたくさんある。ニコニコ動画とかに行けば、それが人気順で出てきたりもする。

三田:まあ、メディアってことだよね。初音ミク自体が。

さやわか:そうですね。まさに。

吉村:昔だったらJ-WAVEをかけとくところが、いまは初音ミクを追っていればなんとなくいまの音楽もわかるし、それぞれポップだし、仕事もはかどるし。

三田:ラジオとして使っていると。

吉村:ラジオであり、テレビであり。

三田:なんか、アンディ・ウォーホルの感想とかきいてみたいよね(笑)。でも、それは一方では閉じた部分でもあって、そこから出ていくことも大事だとは思うけどね。

さやわか:そう、だからカヴァー・アルバムをやるのは、そのための意味があるのかなと思いますね。言ってみれば、『増殖』というアルバムが、ここで再発見されてるわけじゃないですか。僕らには当然のものでも、いまの人や、僕らとは違っていた人々にとってみれば、こういう作品があったのかと知るきっかけになる。

吉村:そういえば、初音ミクって、まだWindows専用なんですか? 僕はWindows専用だってところがよかったんじゃないかなと思ったんですよね。最初からMacがあったら、もっとみんな小洒落たものを作ろうとして失敗したと思うんですよね。

一同:ああー(笑)。

さやわか:クリエイター志向なね(笑)。それはそうですよね。最近のニコ動的な環境を支えている人たちって、MacよりはWindows的な......なんだろう、大衆性があるというか。絵を描くのに使ってるソフトとかも、サイ(SAI)とかね。

吉村:なんか、Macユーザーだと、(スティーヴ・)ライヒのカヴァーとかさ。

一同:

三田:マリア・カラスを歌うとか。

さやわか:あははは!

吉村:自己満足で終わってしまうというか。

さやわか:昔から音楽創作系のコミュニティってネット上で何度も作られているんだけど、なぜそれがうまくいかないかというと、作り手の自己満足的になりがちだったからじゃないでしょうかね。それに対してなぜニコ動などが成功したかというと、ボカロを用いた表現のほうは、そのキャラをどう使うかということが先にあって、音楽性は後についてくる。音楽的には好きなことをやらせてもらって、要は初音ミクって人をタテとけばいいんでしょ? っていう部分があったと思うんですよね。そもそも、音楽より先にネタとしての消費をされたところがカギだったと思うんです。でも、それは必ずしも「作り手が前に出ない」ということをネガティヴに捉えるべき感覚ではないんですよ。そういうものだったから音楽が流通したんだと証言しているアーティストがいっぱいいます。

三田:やっぱり、だからメディアなんだってことだよね。

さやわか:そうですね。音楽だけやっているコミュニティはお互いの音楽を褒め合って終わりになってしまう。けれどニコ動の場合には初音ミクをどれだけうまく見せるかというので、ランキングの上位に行くためにみんな切磋琢磨すると。それをやりたくない人ももちろん一方にはいるわけだけど。

三田:ほんとに、YMO知らなくて、これを初めて聴いたという人のレヴューを読んでみたいよね。ヴィジュアルやらコンセプトやらいろいろあって。

さやわか:ひょっとしたらYMOとは坂本龍一が所属するグループだということを知らないで聴いている人もいるかもしれない。

吉村:坂本龍一という名前すら知らない人が聴いている可能性もある。

さやわか:「坂本って、反原発とかの人かー」みたいな(笑)。音楽が若者の第一の文化として出てこない時代ですし、坂本龍一を知らないことは十分にありえますね。

三田:よし、じゃ姪に聴かせてみる!

エレグラ後日談! - ele-king

木津:お疲れ~! まあ乾杯しましょう!(プシュッ)

竹内:お疲れさまです!(プシュッ)

木津:いやあ、盛り上がったねー。とにかくひとが多かったよね。

竹内:多かったです。正直、あんなにいるとは思わなかった。

木津:僕も。かと言って、ある特定のアクトだけに集まったって感じでもなかったよね。

竹内:なかったですねー。とにかく若い印象を受けましたよ。ほとんどが20代に見えました。

木津:たしかにねえ。僕はもっともっと若い世代も来てほしいけど、それでも20代が多かったことは確かやね。ちょっと最初から振り返ってみようか。けっきょく最初以外、ほぼ別行動やったね。

竹内:別でしたね。序盤でいうと、まずはアモン・トビン、とてもアーティスティックだったのですが、なんだかスイッチが入らない感じがして......

木津:そういうひともけっこういたみたいだけど、IDMの極北として見れば、僕はあれぐらいやってくれて良かったかなと。


AmonTobin photo by Masanori Naruse

竹内:なるほど。なので、僕は中抜けしてDJケンタロウでスイッチ入れました(笑)。

木津:ああ、そうなんや? いや、ていうかその前に、コード9でスイッチ入ったでしょう! ジャングル、ダブステップってこれまでの音もあるけど、ジュークもかけるし、とにかく熱い。あと、トゥナイトの"ハイヤー・グラウンド"とかね。

竹内:あれは盛り上がってましたね! 代官山で観た〈HYPERDUB EPISODE 1〉でもそんな感じで、後半はジューク祭りだった記憶があります。

木津:やっぱりいまのアンダーグラウンドの、熱気のあるところを変わらずしっかり追ってる感じがしたなあ。

竹内:でも、フットワークしてるひとはあまり見かけませんでしたね。20代が多かったのは間違いないけど、ある意味、そのなかでもフットワークがひとつの境界にもなっていたかもしれない。

木津:境界って?

竹内:ちゃんと練習を積まないと踊れないステップですからー。あ、もちろん、僕も踊れないです。ちょっとだけ教えてもらったことはあるけど(笑)。

木津:まあね。でも、前回僕が言ったような醍醐味がいきなりコード9で炸裂したってことですよ。ジュークを聴いたことのないひとが、そこで出会うっていうね。これから踊りだすひともいるよ、きっと(笑)。だから、トップ・バッターがコード9は良かったなあ。

竹内:そして、次にアモン・トビン?

木津:すごかったよ。音はメタリックでハード、で、映像もまあ、柔らかいところはほとんどなく。僕にとっては、ある種のマゾヒスティックな快感を刺激される体験かなあ。あと、現代アート的なとっつきにくさみたいなもの自体を楽しむっていう。ちょっと倒錯しているけどね(笑)。対照的に、DJケンタロウはアゲアゲだったって?

竹内:アゲアゲでした。フロアにひともあまりいなかったから、伸び伸びやっていましたよ!

木津:それはいいね。DJクラッシュも、僕はもっともっとストイックなものを想像してたんだけど、けっこう激しくて。でも、チャラくはならない絶妙さが良かったなあ。

竹内:こっちも、あの夜の入り口にはちょうど良かったです。でも、なにせ次の電気が......

木津:来た(笑)! これは語ってもらわないと。

竹内:ハロー! ミスターモンキーマジックオーケーストラ!

木津:からはじまったんやっけ?

竹内:です。もー、最高だった。開催前の対談で、いろいろ牽制球を投げていたじゃないですか、僕。でも単純がいちばん気持ちいいというか、自分のなかの批評性が死滅するのを感じました。

木津:竹内正太郎から批評性が奪われたら、読者とか、ツイッターのフォロワーの間に衝撃が走るんじゃない(笑)?

竹内:だって、ミリオン、スコーピオン、インマイブレイン、なんですよ!

木津:どういうこと(笑)?

竹内:ミリオン、スコーピオン、インマイハウス、なんです!

木津:ははは(笑)。じゃあ、開催前の対談で、電気は浮いてるよねって話、してたやん? でも、竹内くんのダントツのベスト・アクトなわけであってさ、あそこで電気だけが表象していたものっていうのは何?

竹内:うーーーん、つまり......。いや、なんだろうなあ......。

木津:批評性を取り戻して(笑)!

竹内:だめです! 頭の中がサソリでいっぱいです(笑)!

木津:はっはっは。まあ、これは竹内くんが馬鹿になれた記念日やね。

竹内:まあ、ひとことで言うなら、アホなことを真剣にできるアホさというか、それはすごいと思いました。

木津:ああでも、それはわかる。僕はその時間帯、スクエアプッシャーを観たんやけど、IDM周辺がちょっと厳しいのは思ったかな、正直なところ。

竹内:なるほど。あまり気分じゃなかったという?

木津:うん。僕みたいに、アモン・トビンでマゾヒスティックな快感を得る変態は別として、狂気じみたことをやっていても、やっぱりどこかが賢しく思えてしまうというかね。

竹内:でも、それが求められた時代があったわけですよね。何が変わってしまったのか?

木津:ビートがさらに多様化してるってことは、快感のあり方もさらに多様化してるってことだから。IDMみたいなものの快感のあり方が、ちょっと定型化してしまった感じはあるかも。スクエアプッシャーも、すごく安定した内容だったと思うし、面白かったけど、〈ソナー〉でLEDヴィジョンのプレイはいちど観たからねえ。最後にやったベース・プレイが、もっと有機的にそこにハマれば、さらに良くなるとは思ったかな。

竹内:なにかを突き破りたいもどかしさの象徴なのかもしれませんね、そのベースは。その点、フォー・テットなんですけど、僕は前回の対談の締めに、「彼のキャリアの軌跡って、いまの若いリスナーが通った道ともかなり近い気がするんですよね」と言っています。

木津:うんうん。

竹内:つまり、ポストロック~IDM/エレクトロニカ~ダブステップ周辺の領域からダンスへと。でも、電気の後だったせいか、少し慎重すぎるように思えました。4つ打ちがところどころ出てきて、高揚の兆しが見えるのですが、寸止めで消されてしまうという。

木津:そうか。でも、だから、竹内くんが言ってた「こんな単純な4/4に乗れるか!」ってタイプのひとが、じゃあ4/4をやるときにどうするか、って話でしょう?

竹内:まさにそう。だから所詮、僕はガリガリ君だったわけです(笑)。あと、当たり前すぎてあれなんですけど、家で聴くのとああいう会場で聴くのとでは、全然ちがったと。

木津:なるほどねえ。でも、フォー・テットの寸止め感も、新しい快楽なのかもよ?

竹内:たしかに。会場からは、悶える声が漏れていましたよ。ソフトMの世界でした(笑)

木津:またSM(笑)。ただ真面目な話、ああいうハウスのあり方っていうのはジェイミーXXなんかに受け継がれてるし、可能性があるものだとは思うよ。だから、フロアという現場でそれがどういうものになっていくかってことを期待したいかなと。そういう意味で、僕のベストはトゥナイトだったなあ。

竹内:聞かせてください。

木津:まずね、BPMが遅いのがいいと思った。ヒップホップと同じぐらいか、ちょっと速いぐらい。重心が低くて、ほんとヒップホップ的なグルーヴ感が保たれつつ、上モノはハウシーなきらびやかさがあったりでね。すごくいまっぽいレイヴ感だなあと思った。で、「そうか、トゥナイトって"今夜"って意味や」と思ってジーンときて(笑)。

竹内:いいですね! その流れでいくと、ロータスは気持ちよく入れました?


FlyingLotus photo by Tadamasa Iguchi

木津:フライング・ロータスは、フロアの期待度が高かったから緊張した(笑)。

竹内:緊張(笑)?

木津:いや、トゥナイトのときのフロアのざっくばらんな感じと明らかに違ったから。やっぱカリスマなんだなあと。で、音はけっこうエレクトロニックだったね。やっぱ新作のモードだったんだ。

竹内:ですね、BPMもほとんど上げずに、やはりヒップホップくらいだったと思います。

木津:うん、でも、やっぱりあのサイケデリック感はすごい。エレガントだけど、それが壊れそうなスリリングさがつねにある。

竹内:それでいて、「トキヨー!」と何度も煽ってましたよね(笑)。

木津:うん。いつかみたいに、「カメハメハー」じゃなくて良かった(笑)。あと、ケンドリック・ラマーをかけたよね? あれに野田さんが超感動したらしく、その話は次号の紙エレキングの座談会でもトピックになってる。まあ、いまこの話をすると広がりすぎるから、次号『vol.8』を読んでねってことで。

竹内:うおー、宣伝を盛り込んできた(笑)!

木津:ははは(笑)。でもああいう、いまのポップ・シーンで起こってることを自分のコスモスに混ぜていくっていうのは、ロマンティックだなあと思ったかな。

竹内:確かに。ちなみに、その裏でやっていたのはオービタルとウェザオールです。オービタルは途中まで観ていたのですが、電気とオービタルに挟まれたフォー・テットが不憫に思えるくらい、こちらもアゲアゲでした(笑)。

木津:なるほどね。でもオービタルは、僕は昔からぜんぜん肯定派で。とくにいま聴くと、すごく朴訥な古き良きテクノに聴こえるというかね。

竹内:そうです。だから、彼らが呼ばれた意味は絶対にあったと思います。なんていうんですかねえ、あのアガる感じ、なぜ人がクラブに集まるのをやめないのか、ちょっとだけ分かった気がしました。

木津:おお! 竹内正太郎がクラブに近づく日が(笑)! 

竹内:ついに......26年越しの(笑)。

木津:それで言うと、ウェザオールは超カッコ良かったよねえ。オールドスクールなテクノを、頑固一徹にやる感じ。

竹内:でも、保守的な風には見えなかったなあ。

木津:そうそう!

竹内:逆に、僕がテクノを知らないせいか、どことなく全体の雰囲気に通底していたヒップホップの気配よりは、はるかに新鮮でした!

木津:なるほど、それは面白い意見だね。ウェザオールの場合は、精神性でブレないってことかなと。ほんとセクシーだったよー。これは見た目の話ね!

竹内:ここで見た目の話に戻った(笑)。

木津:で、マーク・プリチャードとトム・ミドルトンで結局朝まで踊ったと。ここでも、ジュークかけてたねー。マーク・プリチャードみたいなベテランがちゃんとかけるっていうのは、文化として生きてる感じはあるね。さっきのウェザオールの話と逆だけど。

竹内:変わっていく、変わらないもの、なんですかね。

木津:それが両方あるのがクラブ・カルチャーの面白いところのひとつだね。さて、本格的なオールナイトのイヴェント、初体験を総括するとどうですか?

竹内:楽しかったです、今日をずっと引き伸ばしていく感じ、今日と明日の境目をなくしていく感じというか......。

木津:まあ、気がつくと朝になってるからね(笑)。

竹内:時間が経つのが本当に早かった!

木津:僕、あと3時間は踊れると思ったよ。若い世代もたくさん来てたし、次に繋がる感じはしたよね。

竹内:僕はまた行きますよ。というか、他のイヴェントももっと遊びに行きたいなと。

木津:はっはっは。だからさ、ほんとに気軽に来ればいいのに、って話ですよ。

竹内:本当に。誰も、シリアスな理由を引っ提げて来てる風はなかったですよね。

木津:そうそう。楽しまないと、「今夜」をね。

竹内:ははは。やはり、「トゥナイト」だと(笑)。いい夜でした!

Gerry Read - ele-king

 『テルマエ・ロマエ』のヒットは発想がグローバルだったから......だそうである。インドネシアにはあと10年以内にセヴン・イレヴンが1000件はできるらしい。ブロック経済の行方を占うようにしてオランドーが提案したユーロ債はメルケルに一蹴され、市場=帝国に立ち向かう超民主主義をジャック・アタリは提唱するw。とにかくありとあらゆるものが国境を越えてノマド化するなか、なぜか「選挙権」だけがグローバル化しない。ある人が一国だけの経済に収まっていないのはもはや明白なのに、取引先の政権に対して何ひとつ影響力を行使できないというのは、まるで婦人参政権が与えられる以前の女性たちのようなものではないのかw。ジョージ・ブッシュが再選される際、ラルフ・ネーダーに投票するよう呼びかけたトム・ヨークに対して、モービーはイギリス人がアメリカの民主党票を割るような発言をするなとクレームをつけたことがある。つまり、国外から他の国の政治状況に影響を与えることが可能なランクとそうでないランクがこの世界には存在するということである。この不平等を是正し、グローバリズムを徹底させたいのなら、他国の政治状況に対しても投票が可能となる制度を構築するしかない。たとえば世界中のあらゆる人が外国への投票を一定票有し、それを外部要因としてパーセンテージを設定することで、一定の影響力とするわけである。日本との取引を進めたい中国の貿易業者が石原の対立候補に入れるとか、ジンバブエから安い労働力を輸入したい南アの企業はムガベを応援するとか(ちょっとブラック過ぎるか)。これぞグローバリズムではないだろうか。世界市場=帝国の完成ではないだろうか。ネタニヤフやベルルスコーニを失脚させたいと考える人たちが世界中に一定数いれば、圧制に対するストッパー要因にはなるだろうし、アメリカ軍もいちいちアラブ界隈に出かけていって面倒を引き起こす機会も減るだろう(つーか、シリアにも派兵しなかったアメリカはホントに病気かも)。あるいは、ブラジルのようにトービン税を導入した国だけ、こうした権利を認めるというのはどうだろう。攻め型と守り型の経済国家がジグソー・パズルのように入り組んだ世界が出来上がり、金田淳子が「人類皆BL」と書かれた旗を振るのである! ああ、ウゴ・チャベス! そうよ、ユーリヤ・ティモシェンコ! 投資マネーで突き刺して!

 冗談はさておき、BNJMNの快挙に続いて、ベース・ミュージックからハウスへと越境を果たしたジェリー・リードの1作目(これが言いたかっただけでした......)。昨年、ダーク・アークから「パターンズ」でデビューした弱冠19歳のリードは〈ランプ・レコーディングス〉が新たにスタートさせた〈4thウェイヴ〉から矢継ぎ早に5枚のシングルをリリースし、〈セカンド・ドロップ〉からの「ルームランド」にはディスタルによるリミックス盤も加えるなど、早くも新しいセンスのオン・パレード状態となっている。なかでは、どこからどう説明していいのかわからない"ウイ・アー"(スケベは見るべし→https://www.youtube.com/watch?v=TfV-Te608bA)を差してディスクショップ・ゼロの飯島さんはこともあろうに「粗さとしなやかさが同居する黒グルーヴ」と手短に片付けているけれど、ガラージにもミニマルにもダウンテンポにもダブステップにも聴こえるダンス・ミュージックのグローバリゼイション状態(なんだそれ)として聴かせ、日本からは消えうせた未来をハウス・ミュージックの前方にあっさりとつくり出していく。また。今年に入って(20歳になって)温故知新の総本山と化してきた〈デルシン〉からの"イエー・カム・ダウン"ではエイフェックス・ツイン"ヴェントリン"をハウスにアレンジしたような不思議なパーカッション・グルーヴが編み出され、最新シングルとなる「ライノ」ではジャム・シティを意識したようなインダストリアル・テイストも取り入れられていた。そして、そのどれも採録されていないファースト・アルバムにはさらに洗練された作風が並べられ、いままでになかったスウィング感があちこちから滲み出し("ギボン"や"クロール"を聴いてジャイルズ・ピータースンが放って置くとは思えない)、"ビー・プッシン(シー)"を筆頭にジュークをハーフで聴かせているような粘っこいグルーヴが腰にまとわりついて離れない。セクシーである。新井将敬に聴かせてやりたかった......(ウソ)。無法松の暴れ太鼓をアンチ‐Gがイタロ風にリミックスしたような「メイク・ア・ムーヴ」、スクリッティ・ポリッティをベース化したら......という想像がはたらく"ギヴ・マイセルフ・トゥー・ユー"、ムーディマンを思わせる"レッツ・メイク・イット・ディーパー"(実際、ピッチフォークはリードをムーディマンやフライング・ロータスと比較している)、デリック・メイをセオ・パリッシュでかち割ったような"ムーヴィング・フォワード"。どれをとってもいかにも新世代である。若い。新しい。ひゃっホー。

 Quench and anger on the other side of the graciousness of Hashimoto, a sense of loneliness rising from a gap of tranquility Kizu-kun, the day it was made to feel quite exhausted. (by 田中宗一郎) *ツイッターより英訳して無断転載

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