「OTO」と一致するもの

vol.1:2009年のニューヨーク - ele-king

 ニューヨークはブルックリンの〈スーパーコア・カフェ〉〈ハートファスト〉よりお届けです。最初なので、少し自己紹介をします。

 〈スーパーコア〉は、ブルックリンのウィリアムスバーグにあるカフェ、レストラン。〈ハートファスト〉は、〈スーパーコア〉が運営するレコード・レーベルで、イヴェントを企画したり、ピクチャー7"w/DVDシリーズ(ライアーズ、アップルズ・イン・ステレオ、オブ・モントリオール、フェイク・メール・ヴォイス(TV・オン・ザ・レィディオのTundeのソロ)等をリリースしています。

 〈スーパーコア〉には、ナダ・サーフ、フリー・ブラッド、TV・オン・ザ・レィディオ、レ・サヴィ・ファヴ、イエーセイヤー等々、近所に住んでいるバンド連中が集まってはお喋りしたり、仕事をしたりする、いわば憩いの場所になっています。面白いことに、みんな仕事は家でもできるのに、わざわざカフェにやって来てはラップトップを開き、たまに通りかかる友だちに挨拶したり、コーヒーを飲んでいます。


USA is a monster last show @ market hotel

 カフェのまわりには、彼らもよく演奏しているライヴ・スペースがたくさんあります。大きい会場から〈ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグ〉、〈ブルックリン・ボウル〉、〈パブリック・アセンブリー〉、インディ系では、〈グラスランズ〉、〈ディス・バイ・オーディオ〉、〈ブルアー・フォールズ〉等々。ウィリアムスバーグと言うエリアには、カフェ、レストラン、本屋、洋服屋などもたくさんあります。

 まわりのバンドの人たちはフレンドリーで社交的な人が多く(無口かと思えば、しゃべってみると止まらなかったり)、自分たちの家でショーをオーガナイズしたり、空き地を陣取ってパーティを開催したりもします。バンドをやりながら、自分でバーやレストランを経営したり、グラフィック系の会社、アート・ギャラリー、コミック・ショップなどを経営していたりしている人たちです。音楽を軸としながら、いろんな分野で活躍する多才な人が多く、DIY精神が大きいのが特徴と言えるでしょう。

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Williamsburg water front park

Williamsburg fashion week @ glasslands

 また、例えばフリーのショーでもやりっ放しではなく、バンドの人たちにはドネーションとしてお金が入るようになっているし(多くの場合は)、同じようにニューヨークでは地下鉄ミュージシャンがたくさんいるのだけれど、良いと思ったらみんなきちんとドネーションをします。エンターテイメントには"お金"と言う物差しによる評価がある、この辺がとてもニューヨーク的というか、チップ社会のアメリカを良く表しているように思います。ショーに行っても自分が好きでなかったら途中で帰ったり、直接「何がだめだったか」など具体的なコメントをもらうし、反対に良かったら、すぐに「何々が良かった!」などの反応もある。そんな感じで、何回でもショーに足を運びます。いろんな意味でシビアだけれど、良いことをしていたらきちんと評価される、それゆえどんな時代でも何かが起こっている町なのでしょう。

 2009年もまた、ニューヨークのバンドが大活躍した年でした。思いつくだけでも、たくさんの名が挙がります。ダーティ・プロジェクターズ、アニマル・コレクティブ、グリズリー・ベアー、MGMTなどの活躍は目覚ましかったし、個人的にはサンティ・ゴールド、ホワン・マクリーン、ソニック・ユース、TV・オン・ザ・レィディオが印象に残っています。ニューヨーク以外のバンドでは、オブ・モントリオール、ライアーズ、リッキー・リーを良く聴いた。

 新しい所では、ALのアトラス・サウンド、LAのガールズ、ウエーブス、ダムダム・ガールズ、ヘルス、ギャングリアンズ、ニューヨークのトーク・ノーマル、ティース・マウンテン、リーズ・ア・パワーズ、リアル・エステイト、ベア・イン・ヘヴン、ドラゴンズ・オブ・ジンズ、ハード・ニップス......等々、キリがありません。


Fake Male Voice @ glasslands

 とにかく現在のシーンは、マイスペース、フェイスブック、ツイッターからiphoneなどのテクノロジーの登場も含め、確実に新しい局面を迎えて、新しい盛り上がりをみせていると言えます。なにしろ......いままでレコード屋に行って購入しないと聴けなかった音楽がいまではMP3で簡単に聴ける。試聴するのもクリックひとつ、それが好きだったら1曲単位で購入できる(1曲でそのバンドを評価するのもどうかと思うが)。家から一歩もでなくて良い。いままでレコード屋に行ってフライヤーをチェックしたり張り紙を見たりしてライヴ情報を得ていたのが、emailはもちろん、テキストメッセージやフェイスブックなど、どんな所からでも流れるように情報が手に入るようになりました。情報がありすぎて、どれを取るか、どれを捨てるか迷っているうちに、結局どれにも行けなかったりとか、自己管理が大切になってきます。だから逆に言えば、意思がなく、情報に流され、友だちに流され、本当に見たいモノや聴きたいモノをいとも簡単に逃してしまうこともあります。好む好まざるに関わらず、これがいま私が生きている世界です。そしてだからこそ、みんながカフェに何となく集まってくる、そんな状況に繋がっているのかもしれません。

 こちらでたったいま生まれた音楽が、遠く離れた日本でもすぐに聴くことができて、ライヴ映像も見ることができるのはすごいことです。ただし、やはりどうしても、実際その場所に行って生で体験することは特別な感動があります。それがひょっとしたら、ニューヨークと日本の音楽シーンの活気の温度差にも表れているのかもしれません。それでもできるだけ、その温度差を埋めていけるように、ここニューヨークからダイレクトに情報をお伝えしていきたいと思います。

Top 10 Albums of 2009 by Yuko Sawai
1. Sonic Youth/ The Eternal (Matador)
2. Dirty projectors/ Bitte Orca (Domino)
3. N.A.S.A./ The Sprit of Apollo (Anti-)
4. Juan Maclean/ The Future Will Come (DFA)
5. Lightning Bolt/Earthly Delights (Load)
6. Pylon/ Chomp More (DFA)
7. Health/ Get Color (Lovepump United)
8. Simian Mobile Disco/ Temporary Pleasure (Wichita)
9. Talk Normal/ Sugarland (Rare book room)
10. Fuck Buttons/ Tarot Sport (ATP)

いろのみ - ele-king

 東京・吉祥寺と京都を拠点に「電子文化の茶と禅」をコンセプトに活動する電子音楽レーベル〈涼音堂茶舗〉。ネーミングの強烈さだけでも忘れがたい「アンビエント茶会」とか「サクラチルアウト」といった異色のクラブイベントを行なったり、寺院や温泉でのイヴェントなど、クラブという空間から離れても機能する電子音楽をさまざまなかたちで追及してきたこのユニークなレーベルは、snoweffect(レーベル主宰メンバーを含む)やFiro、PsysEx、OTOGRAPH、Coupieをはじめ、各地に点在するアーティストたちのネットワーク的な機能を果たしていると言えるだろう。決して大きな動きではない。しかし、それは明らかになにかとてつもない地平に接近しつつあるのではないか、と、ここ数ヶ月の間にやっと彼らの存在を知ってあわてて追跡を開始したばかりのぼくは、そう感じているのである。

 彼らの現時点での最新リリースとなるのがこの「いろのみ」という、ピアノとギターによるデュオ・ユニットの4作目である。まず、この「いろのみ」という文字から、さまざまな連想が行なわれるだろう。「色のみ」なのか。「色の実」なのか。「い・ろのみ」なのか。「Hilonome」なのか。カタカナでもなく、漢字でもなく、アルファベットでもなく、シンプルなひらがな表記がいい。MySpaceの彼らのプロフィールによれば「季節のさまざまな色の実を鳴らす」ことをコンセプトにしているというが、まさにこのユニット名こそが、無数の色を内包したこの音楽の特質を本質的に表したすぐれたものだと思える。

 柳平淳哉のピアノと、磯部優のギター(およびラップトップ/エフェクト)が紡ぎ出す柔らかな音楽が描くもの、それはタイトルからも想像できるように(ubusunaは、漢字で書けば産土、つまり生まれた土地を守護する神であり、それは郷土意識と強く結びつく)、自然主義音響的なものと言えるが、ぼくがこのアルバムを聴いていて思い出した音楽があった。それはドイツにおいてシンセサイザーによる(後年はアコースティック・ピアノ)自然神秘主義音響を追求したフローリアン・フリッケによるPopol Vuhである。

 フリッケの音楽観は、初期はドイツの陰鬱な森を思わせるもので、それが徐々に独自の宗教的な概念を加えていくことで、初期の名盤「Hosianna Mantra(1972年)を生み出すことになるのだが、彼の持つ自然に対する感覚、また宗教に対する概念は、ヨーロッパにおいてはきわめて普遍的なものでもあった。フリッケは2001年に他界したが、少なくとも彼らは21世紀に入るまでアップ・トゥ・デイトな活動を続けていたのも、そうした理由ゆえであっただろう。いろのみの音楽を聴いていると、四季の移り変わり、山の緑の色が変化していく様、海辺の波の様相の移ろいなどが表現されているようにも感じられるが、それは当然のことながらフローリアン・フリッケが描き出す自然音響よりもより親密な響きを帯びている。あちこちに聴かれる細やかなエフェクト、左右にちりばめられたピアノの点描的な響きが、われわれの目の前に常にありながらも気づくことのなかった風景を、改めて思い出させてくれるのだ。

Chart by LOS APSON? 2009.12 - ele-king

Shop Chart


1

ORANGE SUNSHINE

ORANGE SUNSHINE BULLSEYE OF BEING MOTORWOLF / Leaf Hound / 12月 »COMMENT GET MUSIC
1970年春にレコーディング?されるも2007年までお蔵入りし、1stプレスはジャケなし黒ラベルでLTD.300リリースされたが即完売。続いてこの2ndプレスが、A面別ミックス(A1.中盤にシタールのチャンネル/A2.のアウトロにディレイが差し込まれた程度)でジャケありLTD.300でリリースされたのですが、ある事情でその後出回らずにいたブツ。

2

AXEL KRYGIER

AXEL KRYGIER PESEBRE Los Anos Luz Discos (ARG) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
現代アルゼンチン音楽シーンのキーパーソンにして、'10年代以降のメジャーもアンダーグラウンドも関係ない、ポップも実験行為すら乗り越えた、パラレルな時間を楽しむ為の音楽の在り方を示唆するアクセル・クリヒエール待望の!充実の!4作目。

3

CHUCHO VALDES TRIO

CHUCHO VALDES TRIO JAZZ BATA & TEMA DE CHAKA Malanga / 12月 »COMMENT GET MUSIC
その後、ラテン・ファンク集団イラケレを率いることになるチューチョ・バルデースが、1973年に発表した豊潤な意欲作にして異色作!革命後キューバン・ジャズの出発点とも言える記念碑的アルバムがコレなんです!!!!! ジャケット、オリジナルのアートワークでリリースしてほしかったなぁ?。

4

HUGO FATTORUSO

HUGO FATTORUSO CAFE Y BAR CIENCIA FICTIONA SJAZZ / 12月 »COMMENT GET MUSIC
一聴してみて今作は地味かな、、、なんて思わせるのですが、いやいやどうしてどうしてっ!!! 聴き込むほどに愛聴盤になってしまう一枚です!!! 前作の言葉どうりの→NEW ROOTSなカンドンベ大傑作「emotivo」のような熱いリズム太鼓隊との掛け合いはここにはありませんが、ソロ・ピアノを中心とした熟れたインプロバイズに触れることが出来ます!!! 歳を取ってしてもなお、決して枯れることにおもむきを置いていないフレッシュな息吹に勇気づけられます!!! Shhhhhお気に入りのドラムがユルい四つ打ちを打つ"LA PARTIDA"なんかも収録しています。

5

GRUPO FOLKLORICO Y EXPERIMENTAL NUEVAYORQUINO

GRUPO FOLKLORICO Y EXPERIMENTAL NUEVAYORQUINO Concepts In Unity Clave Latina / 12月 »COMMENT GET MUSIC
あのダンス・クラシックス名門レーベル=SAL SOULのサルサ部門からからオリジナル・リリースされた、SAL SOULダンス・サウンドのルーツ、キューバやプエルトリコの音楽(グアグアンコー/アバクア/グアヒーラ/プレーナ/マスルカ etc.)を全面に押し出した、'70s N.Y.のストリート・サウンド!ハード・サルサ(デスカルガ)隆盛期、名盤中の名盤!!!!! メンバーに名を連ねたのは、エディー・パルミエリの門下生アンディ&ジェリー・ゴンサーレス。彼らと共に後、キップ・ハンラハンのアメリカン・クラーヴェの中心アーティストとなるミルトン・カルドーナ。コンフント・リブレのドン、マニー・オケンド。アルセニオ・ロドリーゲスのバンドでも活躍したチョコラーテ・アルメンテロスなどなど、伝統音楽の進化系を都市で楽しむ為のチャレンジ・バイブスで塗り替えた、言葉どおりの実験NEW ROOTS的ラテン・サウンド!!!!!

6

HIKARU

HIKARU for life dub / 12月 »COMMENT GET MUSIC
BLAST HEADのDJ HIKARUが一番最初にリリースした、幻のフェイバリット・レゲエ/ダブMIX盤!!!!! 次から次へとイイ感じの名曲が繰り出される大スイセン作!!!!! ライフ・ダブ→島と都市でみがかれたナイス・バイブが充満してます!!!!!

7

HIKARU

HIKARU To Home CD / 12月 »COMMENT GET MUSIC
DJ KeNsEi、三重eleven.のAPOLLOとの吉祥寺スターパインズカフェでやった「ゆるいツアー」で初売りしソッコー売り切れてしまった、ブラストヘッドのHIKARUによる幻の名作人気MIX CDが、やっとで復活!!! お待たせしました!!! ぜったい買い逃さないで下さい!!! 「ゆるいツアー」用にMIXしただけあって全編まった?り&ほっこ?りとナイス・バイブが隅々まで充満しています!!! ほんと飽きのこないHIKARUの魅力満点の大スイセン・ロングセラーMIX!!!

8

ALTZ

ALTZ Get It Down ! ALTZMUSICA (JP) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
ライブやDJでの活躍はもちろん、WOODMAN主宰のRARE BREEZE、山辺圭司の時空レーベルからリリースを軸に、BEAR FUNK(UK)、DFA(US)、LUNAFLICKS(NORWAY)といった海外からのリリースでも人気。リミキサーとしても引っ張りだこのアルツが、自らレーベルを始動!第1弾は、アルツ本人の新曲となる3 TRACKS EP!! 12インチ、アナログ・リリース!

9

DU BARTAS

DU BARTAS Fraternitat! L'autre distribution (FRA) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
高音質で強烈なリズム・サウンドが登場!!! 録音状態がほんと素晴らしく、音の粒立った大勢の太鼓隊が目の前に出現します!!! クラブ・プレイもまったく問題なくイケル大スイセン盤!!! これかかったら踊るしかないでしょ!!! これで踊らなかったら、まったくもって音楽インポだぞっ!!!

10

戸張大輔

戸張大輔 ドラム BUMBLEBEE (JP) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
やっぱ、とんでもなく素晴らしい!!!!! ロスアプが、初期のカセットテープ時代から追っかける孤高の音楽家!戸張さんの待ちわびていた新作!!!!! '09年の辺境音楽を探究してきた耳にも、やたら新鮮に響くこの極プライベートなギターと声のみの音楽は、今年の着地点なのだっ!!!!! そしてこれを聴くと「永遠の時」の住人なのだっ!!!!! ここへ立ち戻り、また辺境探索へと旅立てばいいのさ。。。いろんなことがあっても、ここに戻ってくればだいじょうぶだよ。。。

第1回 FULXUS - ele-king

1 終わりなき日常のフルクサス〈序〉

 フルクサスを語り尽くすためにはゆうに一冊の束のある本を書かなければならないわけで、野田さんも無体なことをいう。私はアートの専門家ではないが、フルクサスは運動のピークを60年代なかばと仮定するとそこから30年ちかく経った94~95年にはワタリウム美術館で、04年にもうらわ美術館で同名の『フルクサス展』が開催され、コレクションをもつギャラリーや地方の美術館でもフルクサスは定期的に回顧されてきて、現在も水戸芸術館でヨーゼフ・ボイス(をフルクサスと見なすかどうかには異論もあるだろうけど)の展覧会が来月末まで行われていて、妻の実家が水戸であるので正月をはさんだ里帰りのついでにみることもあるとおもっているが、この20年間のフルクサスにまつわるトピックに興味をひかれ、じっさい足を運びもした。時代はやっぱりいま(だに)フルクサスなのか? 私はそれを考えはじめるまえにフルクサスのはじまりを考えたい。

  フルクサスの中心にはジョージ・マチューナスがいた。彼は1931年、リトアニア人の父とロシア人の母の間にリトアニアのカウスでリトアニア名、ユルギス・マチウーナスとして生まれたが、一家はソ連軍の侵攻を逃れドイツへ、その後父の職を求めアメリカに渡った。ディアスポラのようにして居着いたアメリカで彼はグラフィック、建築と音楽、美術史を学び、美術史を研究する傍ら、有史以来の芸術様式や学派、人物名を図解したチャートの制作をこころみた。マチューナスは50年代のポロックやマーク・ロスコらの抽象表現主義、つづくラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズらのネオ・ダダの活動に罹患したように、運動をたちあげアート業界への参入を考え、61年にそれから半世紀が経とうとするいまでも私たちをなにかと幻惑&困惑させるひとつの言葉を見いだした。

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FULXUS!

  フルクサスとは「流れる」「浄化する」「下剤をかけ(排泄す)る」といった複数の語義をもつ便利な言葉であり、フルクサスという集団の活動の本質を伝える(マチューナスはフルクサスの理念を「マニュフェスト」にさえまとめた)ように見せかけ、その反面技法やスタイルを意味せず、アーティストが作品を作品化するまでの意識の流れをそのまま放りだしたり、説明もなく課程を見せつけるようなものである。私は、当時は、いや、現在でもフルクサスはフルクサスそのものが延命させてきたと同語反復的にいわざるをえない。コンセプチュアル・アート、ミニマリズム、シミュレーショニズムなら意味はわかるが、フルクサスの場合はそこに属したといわれるアーティストの活動の累積からおのおの解釈するしかなく、曖昧模糊とした全体の輪郭が歴史的位置づけを拒むことになった。それはまるで音楽を言語に移しかえるときのバグを私におもわせる。事後的な作品の歴史的位置づけやデータや周辺情報や他作品との類似を書かずにむきだしの音楽を論じつづけるのはことのほかむずかしい。音楽の外にでれば音楽は止んでいて、そのただなかにいたときの感覚は霧が晴れるようにしだいに消える。私は感覚の断片をかき集めとりあえず書くのだけど、それが音楽とピッタリ重なることはない。フルクサスの流動性と音楽はその意味で似ている。


新しいアルバムを発表し、去る11月には素晴らしいライヴを披露した小野洋子もフルクサスだった。
Photo by Kiyoaki Sasahara (c) YOKO ONO 2009

 マチューナスはフルクサスの宣言のなかでそのことを謳ってもいた。「音楽的であること」彼はフルクサスはアートだけでなくパフォーミング・アート(「イヴェント」と呼ばれた)や詩や舞踏に音楽を併置したインターメディア主義をその言葉で宣し、「的」を加えることで音楽のもつ時空間性を彼らの活動に担保した。もちろんジョン・ケージの影響は多分にあった。誰もが知っている「4'33"」をデヴィッド・テュードアがウッドストック・ホールで初演した52年の4年後、ウェスト・ヴィレッジのニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチでケージが講座をもったとき、その生徒には「ハプニング」を最初にはじめたアラン・カプローがいて、前述の「インターメディア」の概念を提唱したディック・ヒギンズや、フルクサスの中核でありながら繊細でミニマルな質感の作家だったジョージ・ブレクトや一柳慧もいて、その一柳慧の妻だった小野洋子はマチューナスが61年に経営に乗りだし、のちに破綻したAGギャラリーですでに展覧会を開き、彼女は彼女のロフトでラ・モンテ・ヤングのコンサートを開催してもいた。三章からなり、三章すべてに「休止」とだけ指示したケージの「4'33"」は沈黙と生活音と音楽の境界線をとりはらった名作だと、私は「4'33"」とデュシャンの「泉」の両方をわかりやすく述べた文章を中学二年の国語の教科書で読んで驚いたが、のちにフルクサス・メンバーとなる彼らにはケージの思想は驚異だったろう。また勇気づけられもしただろう。ビートルズはもうデビューしていて、アートの価値観をゆさぶる動きが日々起き、オーネット・コールマンが『ジャズ来るべきもの』を経て61年の『フリー・ジャズ』でのちのムーヴメントの一の矢を放ち、それに反応した弁護士だったバーナード・ストールマンは〈ESP-Disk〉を設立しフリージャズの狂騒が地下から街角にあふれ、64年のジャズの十月革命に実を結んだ60年代前半、ポスト・モダンを間近に控えた最後の前衛の時代に彼らはNYの地霊に守れて、巨視的なケージの「神」(ニコ動用語と本来の語義の中間のニュアンスです)の目に映らない些末なアイデアをナンセンスかつスピーディかつマッシヴでありながらバラバラな手法で貫き、貫きとおす行為そのものを作品として投げだしたのだった。

 その精神的支柱はケージだったが大立て者はやはりマチューナスだった。マチューナスは60年代はじめ、ヨーロッパを中心にキュレーターとしていくつかの国際展を企画しながら、62年ドイツのヴィスバーデン市立美術館で行った「フルクサス国際現代音楽祭」で、彼の二番目のアンソロジーのタイトルとしてあたためていたフルクサスの名称をはじめて使った。その展覧会は欧州各都市を巡回し、主旨に共鳴したアーティストを巻きこんでいった。NYに戻ったマチューナスは彼のロフトをフルクサスの本部とし、活発に活動をはじめた。

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「マチューナスが住んでいたロフトは、キャナル・ストリートに面した五階建ての建物の二階でした。奥行きのある細長いスペースは三つに区切られていて、大通りに面したフロント・ルームは、何人かのメンバーが仕事部屋として自由に使っていたようです。(中略)真ん中の部屋はフルクサス・ショップと呼ばれていて、マチューナスが出版したフルクサスの作品が整然と並べられていました(中略)
  一番奥の部屋がマチューナスの住まいで、日本贔屓の彼は、畳を敷いて小綺麗に暮らしていました」 (塩見允枝子『フルクサスとは何か 日常とアートを結びつけた人々』フィルムアート社)

 マチューナスはここを拠点にビジネスに打って出ようと目論んでいたといわれるがはたしてそうだろうか。彼のやろうとしたことは、セレブリティがアートを所有し投機マネーが市場に流れこんだ数年前のアート・ビジネスを彷彿させる面もあるが売れることを考えればフルクサスより手堅いものがあったはずで、彼はむしろ商売を度外視した理想主義者だった。共産圏を逃れながら、アーティストによる共同体をつくる幻想を終生抱きつづけた。小杉武久や刀根康尚らとのグループ音楽の一員であり、64年に渡米しフルクサスに参加した塩見允枝子の前掲書にもマチューナスのアーティストに対する献身的なエピソードは多い。それを読むとマチューナスが怜悧なビジネスマンだとはおもえない。皮肉やジョークをスカトロジックにまき散らしたフルクサスはとりとめもなく狂ったようにみえたが、作品ひとつひとつは芸術のイディオムに依拠しない作家たちの意思の強さがあった。すくなくともマチューナスにはアーティストへの畏敬の念があった。畏敬の念というより憧れだろうか? 私はマチューナスの胸のうちをおもうと、彼がアーティストになりたかった気持ちを感じ、切なくなる。アーティストになるには他のフルクサス・メンバーがやったように作品をつくり、日常に亀裂を入れるような考えをもたらせばいいはずだったが、しかし、60年代のNYは悠長に作品をつくるにはおもしろすぎた。マチューナスはそうせずに、彼らの作品を浴びることで日常が綻んでいくような感覚を愛した。

 その意味で彼はデザイナーだったのだろう。デザインをうちに「編集」を含む。散らばった要素を一定の制約の下に集めて配置することで、デザインは姿を現す。塩見允枝子の先に引用した文章の二番目の「中略」に「ウィークデイの昼間は、彼はアップタウンのデザイン事務所で働いていた」とあるから彼はじっさい商業デザイナーで生業を立てていたからというばかりではない。また作品を商品化した「フルクサス・キット」のロシア構成主義をどこか彷彿させる意匠をさしてそういっているわけでもない(そのモダンでオシャレなデザインがリヴァイヴァルの要因のひとつではあるとおもうけど)。デザインは配置するだけでなく、要素になにかを足したり引いたりすることで、効果を与えるから、デザインしないデザインというものもあるし、過剰なデザインもある。それは中平卓馬が「デザインするとはほとんど"やる"ことである。それはほとんど"都市と創り、革命を遂行する"と同義である」(『見続ける涯に火が... 批評集成1965-1977』オシリス)と指摘した通りである。カメラマンである中平は同書でまたこうも書いている。「カメラを通じてぼくらが世界と対決してゆく、そのプロセスこそ世界なのだ」私はカメラをアートに置き換えれば、それはフルクサスそのものだとおもう。作品と世界の関係を決着させず、経過として未来にもちこすこと、それをインターナショナルかつインターメディアに実践し、統合すること。私にはいま、同じく商業デザイナー出身で大衆消費社会をモチーフに洗練した形式を完成させたウォーホルがファクトリーを通じて映像(『エンパイア』の撮影に参加した「アンダーグラウンド・フィルム・アーカイヴス」のジョナス・メカスはマチューナスと同じリトアニア出身で旧知だった)や音楽(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)をはじめポップ・カルチャーの諸要素を接合した方法論より、マチューナスのフルクサスのこの歪なアンサンブルの方が、むしろ音楽的に響き合ってくる。

Chart by Newtone Records 2009.12 - ele-king

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1

PEVERELIST

PEVERELIST Jarvik Mindstate PUNCH DRUNK / UK / 2009/12/7 »COMMENT GET MUSIC
レコ屋ROOTED RECORDS、レーベルPUNCH DRUNKを運営、来日DJでぶっとばされたPEVERELISTの作品集。遂に作品としてリリースされた「Bluez」や「Jarvik Mindstate」など傑作揃いです。緻密に構成された曲群の驚くまでの完成度、誰にも似ていないオリジナリティー、SHACKLETON「Three Eps」に並び劣らぬ今年のダブステップ・ベスト・アルバム候補。

2

AXEL KRYGIER

AXEL KRYGIER Pesebre LOS ANOS LUZ DISCOS / ARGENTINA / 2009/12/3 »COMMENT GET MUSIC
音 響派から、デジタル・クンビア勢も賞賛するアルゼンチンのストレンジポップ奇才中の奇才アクセル・クリヒエール待望のニューアルバム!DJ SHHHHHのコンパイルの「ウニコリスモ」でもオナジミのロス・アニョスからのリリース。クンビア、タンゴ経由のスペイン語圏の音楽と、エレクトリック なトリック、ダブ、ロックン・ロール等など様々な要素をごった煮、ポップで多彩なサイケデリック音楽劇場。

3

ALEJANDRO FRANOV

ALEJANDRO FRANOV Digitaria NATURE BLISS / JAP / 2009/12/3 »COMMENT GET MUSIC
ファナ・モリーナを手がけたことでも知られ、「音楽の妖精」と呼ばれる、アルゼンチン音響派の素晴らしい才能アレハンドロ・フラノフの新作アルバム!

4

FINDLAY BROWN

FINDLAY BROWN Versus EP THIS IS MUSIC / UK / 2009/12/7 »COMMENT GET MUSIC
LOVEFINGERS/LEE DOUGLASの新ユニットSTALLIONSがプロデュースしたFINDLAY BROWNの新作。おすすめは、なんといっても90年代初頭から活動するフランスの奇才LYNCHMOBこと BRENDAN LYNCHによるリミックス!DAVID BYRNEがSOCAやったみたいなトロピカルな折衷具合が面白い!やりたい放題のダブ・インストビーツもお見逃し無く!

5

FRANCOIS KEVORKIAN, MORITZ VON OSWALD

FRANCOIS KEVORKIAN, MORITZ VON OSWALD Recomposed Remixes DEUTSCHE GRAMMOPHON / 2009/12/2 »COMMENT GET MUSIC
クラシック音楽の名門ドイツ・グラモフォンからリリースされた、 MORITZ VON OSWALDとCARL CRAIGが、カラヤン指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音源をテクノ再構築したアルバム「Recomposed」のリミックス。NYC DISCO/HOUSEの歴史を生きる大御所FRANCOIS KEVORKIANとMORITZのコラヴォレート。

6

BUILD AN ARK

BUILD AN ARK Love Pt.1 KINDRED SPIRITS / 2009/12/2 »COMMENT GET MUSIC
西海岸のヒップホップやジャズ、先鋭的なエレクトロニクスがクロスする素晴らしいシーンの要人CARLOS NINOを中心に、TRIBEのPHIL RANELINやNIMBUSのNATE MORGAN、DERF REKLAW(PHARAOHS)といった70sスピリチュアル・ジャズ・レジェンド達が名を連ねるスペシャルユニットBUILD AN ARKの新作!

7

KND

KND Live Output JAPONICA / JAP / 2009/12/2 »COMMENT GET MUSIC
DJ KENSEI、井上薫、GoRoとのユニットFinal Drop、京都のカリスマ・バンドSOFT、そしてオーガニック・インストゥルメンタル・ユニットaMadooのメンバーとして活躍、エンジニアとしても、Dachambo、Nabowa、Coffee &Cigarettes Band、Based On Kyotoをはじめ、多数の作品に関わってきた京都の才人、KNDによるライブ音源。

8

aMadoo

aMadoo Abstract Ital Rhythm 自主制作 / JAP / 2009/12/2 »COMMENT GET MUSIC
関西を中心に活動する京阪神混血オーガニック・インストゥルメンタル・ユニットaMadooによる新たなライブ音源!ゆったりとはじまるイントロから徐々に宙空を舞うような音とグルーヴの渦に引き込まれます!

9

DJ YOGURT & KOYAS

DJ YOGURT & KOYAS Strictly Rockers Re:chapter 25 -harvest Dub Beats 70's To 00's Mix EL QUANGO / JAP / 2009/11/21 »COMMENT GET MUSIC
アンビエントから、ダンサブルなテクノ/ハウス、スィートなR&Bまで、様々なスタイルのプレイをしながらも、独特の空気感を持っていてパーティー好きに幅広く支持されるDJ YOGURTとその盟友KOYAS氏が、レゲエ/ダブをキーワードに非レゲエDJ感覚の自由で面白いDJミックスを提供しているStrictly Rockers シリーズに登場!

10

NICOLAS COLLINS

NICOLAS COLLINS Devil's Music EM RECORDS / JAP / 2009/12/18 »COMMENT GET MUSIC
ジョン・オズワルドも影響を受けたというサンプリング・ミュージックの異端児NICOLAS COLLINS。アウトサイダーなミニマル・ミュージック!ATOM TMや最近のCARL STONEみたいな事を、サンプラーAMラジオ等を使ったDIYなアティチュードで、80年代に既にやっていた!ライナーノーツ、体裁も素晴らしいEM RECORDS渾身のリリース!

CHART by JAPONICA 2009.12 - ele-king

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1

KINGDOM☆AFROCKS

KINGDOM☆AFROCKS イチカバチカーノ JAPONICA / JPN / 2009.12.15 »COMMENT GET MUSIC
ライブハウス/クラブ?野外フェスまで数多くのイベントに出演、その熱いライブパフォーマンスが全国のダンスミュージック・フリークスの間で注目を集め、あのアフロ界の重鎮トニー・アレンも太鼓判を押す日本最強アフロバンド、キングダム☆アフロックス待望のファースト・シングル!京都発BASED ON KYOTOのプロデューサーDAICHIによるリミックスも収録!

2

aMadoo

aMadoo Abstract Ital Rhythm - / JPN / 2009.12.2 »COMMENT GET MUSIC
関西を中心に活動する京阪神混血オーガニック・インストゥルメンタル・ユニットaMadooによる新たなライブ音源が到着。以前リリースされ話題を集めたライブ盤"Tayu-Tau"と同じく、aMadooにとってホームとも言える京都の奥座敷的アートスペース"Battering Ram"でのライブをCD化!今年6月、自身らで主催したパーティー『Abstract Ital Rhythm (A.I.R)』での演奏を収録。

3

KND

KND LIVE OUTPUT JAPONICA / JPN / 2009.12.2 »COMMENT GET MUSIC
DJ KENSEI、井上薫、GoRoとのユニットFinal Drop、結成16年目に突入した京都のカリスマ・バンドSOFT、そして京阪神混血オーガニック・インストゥルメンタル・ユニットaMadooのメンバーとして活躍する関西アンダーグランド・シーンの大本命、KND(SOFT/aMadoo)による初のソロ・ライブ音源!

4

YOLANDA

YOLANDA AFRO RAT/AFRO SALAD SEX TAGS AMFIBIA / GER / 2009.11.29 »COMMENT GET MUSIC
北欧のド変態レーベルSex Tags Amfibiaより、ノルウェー発オブスキュア・ファンクバンドYOLANDAによる激ヤバ・サイケ・アフロ・トラックが到着!パーカッションの軽やかな鳴りとサイケデリックなギターの音色を軸に展開させた脱力アフロ・サイケ"Afro Rat"、ダビーなギターの音色とコズミック・スペイシーなSEを響かせた"Afro Sakad"と、ともに70年代のプログレッシブ・サウンドを彷彿とさせるような仕上がり!

5

V.A.

V.A. ORIGINALS VOL.4 CLAREMONT 56 / UK / 2009.11.17 »COMMENT GET MUSIC
PAUL MURPHYことMUDDが主宰するバレアリック・ディスコ人気レーベルCLAREMONT56より、同レーベルの大人気コンピレーション・シリーズ第4弾が到着!ロンドンのクラブ・シーンで長きに渡りDJとして活躍するMatthew Burgess & JolyonGreenによる本作は、バレアリック、オブスキュア・ロック、ディスコ、ハウス・クラシック等々時代を越えた名作の数々が幅広くコンパイルされた傑作コンピ!

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SAVAS PASCALIDIS

SAVAS PASCALIDIS THE FINAL PHASE SWEATSHOP / GER / 2009.12.6 »COMMENT GET MUSIC
LEN FAKI主宰のFIGUREや、GIGOLO、LASERGUNといった人気レーベルよりリリースするべテラン、SAVAS PASCALIDISのスマッシュ・ヒット作を最凶アシッド・ハウサーABE DUQUEがリミックスした注目作!鳴り響くサイレンシンセにアシッディなエレクトロ・シンセ、パンピン・トラック、ダークネスなポエトリーを絡めたインパクト絶大の高濃度アシッド・ハウスを展開!

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COTTAM

COTTAM COTTAM 3 COTTAM / UK / 2009.11.17 »COMMENT GET MUSIC
相変わらずのボトムへヴィなビートにヴォイス・サンプルとウワネタのエフェクト処理具合が高揚感抜群のビートダウン・トラックのA面、軽快なギターリフとアフロ・テイストな尖ったビートにヴォーカル・サンプルをダブ処理で巧みにトばしながらビルドアップしていくB面、共に HIPHOP?CROSSOVER?HOUSEファンまでをも射止める絶品2トラック収録!今作もやっぱりハズシなしで最高!内容抜群&極少量限定プレス!

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SE62

SE62 WALL RIDE HOMETAPING IS KILLING MUSIC / UK / 2009.12.3 »COMMENT GET MUSIC
ファットなビートが淡いウワネタ・サンプルに包まれながらビルドアップしていくレアグルーヴ感溢れるブギー・ディスコ・トラック"WALL  RIDE(EDDIE CREMIX)"は後半にかけてのAQUARIAN DREAM/YOU'RE A STAR"ネタの温かいジャジーなリフで高揚感をグっと際立てる好ナンバー!B面"THE TAPE"はKDJ、THEOPARRISHにも通じる透明感のあるローズ・コードと共にグルーヴィなビートの打ち込みが進行する絶品ビートダウン・グルーヴ!

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SAN SODA / RAOUL LAMBERT

SAN SODA / RAOUL LAMBERT BLUE EP WE PLAY HOUSE / BEL / 2009.12.8 »COMMENT GET MUSIC
ヒップホップをルーツに持ちKDJ、THEO PARRISHに多大な影響を受けたというSANSODAによる"KAIZEN"はREVEVGE、MARK Eらにも引けを取らない絶妙なウワネタ・ループとボトムへヴィなビートで迫る絶品ビートダウン!そしてRAOUL LAMBERTによる" 3 SECONDS"は高揚感抜群のビート構築に激スモーキーなループ・サンプルがハマり過ぎた、こちらもハンパ無く格好良いビートダウン・トラック!

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TRUS'ME feat. DAM-FUNK

TRUS'ME feat. DAM-FUNK BAIL ME OUT FAT CITY / UK / 2009.12.3 »COMMENT GET MUSIC
TRUS'MEの2ndアルバムからの先行7inchは今最も旬と言えるこの組み合わせで贈る爽快ブギー・ディスコ!分厚いベースとドラムが交錯するデトロイティッシュ・グルーヴにDAM-FUNK自身のヴォコーダープレイも冴え渡るUKとLAの鬼才同士による化学反応によって生み出されたハイブリッド・ブギー・ナンバー!気合の片面プレス、超限定仕様レッド・カラーヴァイナル!

STICKY - ele-king

 「下から眺める 景色は最低だね」("MAKE MONEY TAKE MONEY"より)。日本のヒップホップ・シーンにおける所謂ハスラー・ラップ・ブームを牽引した川崎を拠点とするグループ、SCARSから、SEEDA、BAY4K、BESに続いて独り立ちするSTICKYは、記念すべきファースト・アルバムを、道端に唾を吐き捨てるような、そんな苛立った調子ではじめる。「彼女のウツ病と親の離婚/身内の不幸も重なりBAD/誰もいない場所 オレだけの世界/オレの帰る場所はどこ」(BES feat.STICKY"ネバギバ"より)。その名を好き者の間で一躍有名にしたのはBESの『Rebuild』に提供したこの救いようのないラインだった。果たして、それから1年強、完成したアルバムは大方の期待通り、ひたすらダークでダウナーなストーナー・ラップに仕上がっている。そこには、ハスラー・ラップのパブリック・イメージと違ってヴァイオレンスな描写もクライム・ストーリーもほとんどない。その代わりに鳴り響くのが、延々と続くバッド・トリップめいた世間に対する恨み辛みと、他人に対する勘ぐり、そして自己嫌悪である。「落ち着かねぇFUCK/金が戻ってくるのは何時になる/目を閉じると不安が襲うし/目を開けると現実となる」("MAKE MONEY TAKE MONEY"より)。「取り戻せない 時間と金/苦しむ また苦しむ/穴埋めの為の労働/苦しむ また苦しむ」("LOST"より)。「見たい夢がある/現実は社会の底辺に」("タマには..."より)。「誰も信用できねぇよ/誰かを信用したいよ でも」("FEEL MY PAIN"より)。その通層低音となっているのは、『Where's My Money』というタイトルが象徴しているように、自分は搾取されているという感覚であり、それは今、この国の階層の2極化が進むと共に増えつつある被害者意識を持った若者たちの無言の叫びをはっきりと代弁している。しかし、このアルバムが、和製フーリガン=所謂ネット右翼の連中とは違って少しだけ救いがあるのは、そのストレスを発散するために自分より弱い人間を叩くのではなく、夢と仲間をもう一度、信じてみようという素朴な価値観からやり直そうとしているところだ。鬱々としたこの作品は、後半、地元川崎の荒れた光景を描いた"同じ環境 違う場所"、崩壊した家庭に育った少年時代を振り返る"FEEL MY PAIN"、ハスリングの果てに入れられた堀の中での瞑想"終わりなき道"といった流れで底の底まで辿り着き、ラスト・ソング(そいつは、奇しくもUSのストーナー・ラッパー、Kid Cudiのヒット曲と同じタイトルを持っている)で音楽とホーミーに導かれるようにゆっくりと浮上しはじめた瞬間、バッサリと終る。「この苦しみから抜け出す/THUG MANSIONから抜け出す/MY BLOCK 苦しみで病む/THUG MANSION オレなら抜け出せる」("DAY-N-NITE"より)。それは、決意のようにも、気休めのようにも聴こえるが、STICKYがこの言葉にまで辿り着いた過程を思うと感動せざるを得ない。

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