「OTO」と一致するもの

HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS - ele-king

 先日不失者の2デイズ・ライヴ情報をお伝えしたばかりだが、また新たなニュースの到着だ。
 2016年、灰野敬二が若手の実力派たちと結成したロック・バンド「HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS」。同バンドで灰野はヴォーカリストに徹し、自身の原点たるロックンロールやR&B、ソウルやジャズを英語で歌い、精力的にライヴをこなしてきた。その音源は昨年、ロンドンの Cafe Oto からデジタルでリリースされているが、きたる5月11日、待望のスタジオ・アルバムがリリースされる。
 また、6月15日には渋谷WWWにて同作のリリース記念ライヴが開催。チケットの販売は明日から。ご購入はお早めに。

灰野敬二率いるリアル・ロック・バンド、HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS待望のスタジオ・アルバム、5/11リリース。6/15に渋谷WWWにてリリース記念ライヴを開催。

これだけがロック。私が言うロックという言語を、古文書の封印が解かれていくように開示する。――灰野敬二

1970年に前衛ロック・バンド、ロスト・アラーフのヴォーカリストとしてデビュー、1978年に不失者を結成、それ以来ソロのほかに滲有無、哀秘謡、Vajra、サンヘドリンなど、多様な形態で活動し、国際的に高い評価を受ける音楽家・灰野敬二。

常に「今」を追求しつづけている灰野が、川口雅巳(Kawaguchi Masami's New Rock Syndicate)をはじめ若手実力派ミュージシャンとともに2016年に結成したロック・バンド、HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKSの待望のスタジオ・アルバム。

録音はアナログ・レコーディングで定評のあるGOK SOUNDにて、エンジニアにバンドが絶大な信頼を寄せる近藤祥昭を迎えて行われた。

灰野がヴォーカリストに徹し、自らの原点といえるロックンロール、R&B、ソウル、ジャズ、そして日本の曲も英語で歌うという明確なコンセプトを打ち出し、精力的にライヴ活動を展開、2021年にイギリスのレーベルから配信でライヴ音源がリリースされ好評を得た。

ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ドアーズ、ボブ・ディラン、ザ・フーなどの名曲が、徹底的に解体・再構築され、曲の“本性”がむき出しになった究極のリアル・ロック。その衝撃は世代を問わず幅広いロック・ファンにアピールするでしょう。

6月15日に渋谷WWWにて本作のリリース記念ライヴを開催。リアル・ロックを体感してほしい。

HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
灰野敬二 HAINO KEIJI vocal, harp
川口雅巳 KAWAGUCHI MASAMI guitar
なるけしんご NARUKE SHINGO bass
片野利彦 KATANO TOSHIHIKO drums

[リリース情報]
アーティスト:HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
Title: You’re either standing facing me or next to me
タイトル:きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか
レーベル:P-VINE
フォーマット:CD
商品番号:PCD-28048
価格:定価:¥3,080(税抜¥2,800)
発売日:2022年5月11日(水)

収録曲
01. Down To The Bones
02. Blowin' In The Wind
03. Born To Be Wild
04. Summertime Blues
05. Money (That's What I Want)
06. Two Of Us
07. (I Can't Get No) Satisfaction
08. End Of The Night
09. Black Petal
10. Strange Fruit
11. My Generation

フォーマット:LP
商品番号:PLP-7849
価格:定価:¥4,180(税抜¥3,800)
発売日:2022年9月7日(水)
完全限定生産

収録曲
A1 Down To The Bones
A2 Blowin' In The Wind
A3 Born To Be Wild
A4 Summertime Blues
B1 (I Can't Get No) Satisfaction
B2 End Of The Night
B3 Black Petal
B4 Strange Fruit
B5 My Generation

[ライヴ情報]
HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
出演:HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
日程:2022年6月15日(水)
会場:渋谷WWW
時間:開場18:30 開演19:30
料金:前売¥4,000(税込/ドリンク代別/全自由)
チケット一般発売:4月2日(土)10:00 e+にて
問い合わせ:WWW 03-5458-7685
https://www-shibuya.jp

灰野敬二が若手実力派ミュージシャンとともに結成したロック・バンド「HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS」。灰野がヴォーカリストに徹し、自らの原点といえるロックンロール、R&B、ソウル、ジャズ、そして日本の曲も英語で歌うという明確なコンセプトを打ち出す。

2021年にはロンドンのCafe Otoからデジタルリリースし好評を博したそのバンドの待望のスタジオ・アルバム「You’re either standing facing me or next to me」が5月11日P-VINEからリリース、リリース記念ライブを6月15日に開催する。

ロックの衝撃がここにある、本当のロックを聴きたい人は、集まれ。

https://www.fushitsusha.com

Ryoji Ikeda - ele-king

 昨年の『music for installations vol.1』に続き、新たに池田亮司によるインスタレーション音楽集『vol.2』がリリースされることになった。本人の主宰する〈codex | edition〉から。16枚の作品写真をまとめたカードセット『fragments vol.1』も同時発売。いずれも999部限定とのこと。また、4月16日より開催される弘前れんが倉庫美術館での展示会場では、先行発売も予定されている。詳しくは下記をチェック。

Ryoji Ikeda
music for installations vol.2
fragments vol.1

池田亮司によるインスタレーション作品の音源集第2弾『music for installations vol.2』と、16枚の作品写真をまとめたカードセット『fragments vol.1』 をcodex | editionから同時リリース。
それぞれ限定999部、2022年3月31日(木)からプレオーダー開始。

音そして視覚的要素、物理や数学的なアプローチを用いて人間の知覚能力やテクノロジーの臨界点に挑むような作品を様々な形態で発表し続けているアーティスト/作曲家の池田亮司。『music for installations vol.1』『superposition』に続き、codex | edition から『music for installations vol.2』を2022年4月22日(金)に限定999部でリリースする。先のリリースと同じくCDとブックレットのセットで、ブックレットには収録曲の図版を数多く掲載。

同時に発売する『fragments vol.1』は、池田によって厳選された作品写真を収録した16枚のカードセット。こちらも限定999部で、特製のボックスに封入されている。
セットには世界各地の美術館での作品展示風景や、《test pattern [times square]》や《A [for 100 cars]》といった大規模プロジェクトのインスタレーションビュー
などが含まれている。

また、4月16日(土)から開催する弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市)での池田の大型個展に合わせ、同ミュージアムショップmuseum shop HIROSAKI MOCAにて、一般発売に先がけ展覧会のオープニング日より先行発売を行う。

music for installations vol.2 [cd+booklet](2022.4.22 リリース)
*8トラック収録(全71分)のCDと96ページのブックレットのセット 
*限定999部、エディションナンバー入りカード付き 
*デジタル音源も同日リリース

fragments vol.1 (2022.4.22 リリース)
*特製ボックスに16枚のカード(189 x 124 mm)を封入
*限定999部、エディションナンバー入りラベル付き

【プレオーダー】
3月31日(木) 18時(JST)よりcodex | editionのオンラインショップにてプレオーダー開始

【先行発売】
4月16日(土)より弘前れんが倉庫美術館のミュージアムショップ「museum shop HIROSAKI MOCA」にて先行発売実施

【展覧会情報】
2022年度 展覧会[春夏プログラム]「池田亮司」展
会期:2022年4月16日(土)-8月28日(日)
会場:弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市吉野町2番地1)
https://www.hirosaki-moca.jp

------------

music for installations vol.2
アーティスト Ryoji Ikeda
タイトル music for installations vol.2
レーベル codex | edition
品番 CD-004
税込価格 5,500円
発売日 2022年4月22日(金)
(デジタル音源も同日リリース予定)

トラックリスト
1. the planck universe [micro] (2015)
2. the planck universe [macro] (2015)
3. point of no return (2018)
4. data.anatomy (2012/2019)
5. supersymmetry [experience] (2014)
6. supersymmetry [experiment] (2014)
7. code-verse (2018)
8. data-verse (2019‒20)
合計収録時間:1:11:46

------------

fragments vol.1
アーティスト Ryoji Ikeda
タイトル fragments vol.1
レーベル codex | edition
品番 PC-001
税込価格 4,950円
発売日 2022年4月22日(金)

作品リスト
datamatics [prototype‒ver.2.0]
data.tron [8K enhanced version]
data.flux [12 XGA version]
test pattern [100m version]
test pattern [times square]
supersymmetry [experience]
supersymmetry [experiment]
the planck universe [micro]
the planck universe [macro]
the radar [rio de janeiro]
the radar [fondation vasarely]
the radar [shanghai]
A [continuum]
A [for 100 cars]
db

RAINBOW DISCO CLUB 2022 - ele-king

 音楽好きによる音楽好きのための楽園のような野外フェス、レインボー・ディスコ・クラブ(以下RDC)。パンデミックに見舞われた2020年は配信で、2021年はスピンオフ企画「RDC “Back To The Real”」として川崎のちどり公園にて開催、コロナ禍においてもすべての音楽好きとともに素敵な空間を作ってきたRDCだが、2022年はついに東伊豆へカムバックを果たす。

 Chari Chariによるアンビエント・ライヴ、DJ Nobu×Sandrien、瀧見憲司、Kuniyuki×寺田創一×sauce81によるライヴ・セッションといった日本を代表する面々はもちろん、最新作『Chameleon』が話題になったアンソニー・ネイプルズ、紙エレ年末号でハウスのベストに挙げたモーター・シティ・ドラム・アンサンブル(Danilo Plessow)、そしてなんとデトロイトの重鎮ムーディマンといった海外勢も出演する。

 今年からは、グループや23歳以下のための各種割り引きチケットも充実。この機会に、東伊豆の大自然に生まれる3日間の音楽コミュニティへぜひ足を運ぼう。

開催概要

名称:
RAINBOW DISCO CLUB 2022

日時:
2022年4月29日(金・祝)9:00開場/12:00開演~5月1日(日)19:00終演

会場:
東伊豆クロスカントリーコース特設ステージ(静岡県)

出演:
DJ / LIVE (A to Z):
Antal
Anthony Naples
Chari Chari (Ambient Live Set)
CYK
Danilo Plessow (MCDE)
DJ Nobu × Sandrien
GE-OLOGY
Kenji Takimi
Kikiorix
Kuniyuki × Soichi Terada × sauce81 (Live Session)
Licaxxx
machìna (Live)
Monkey Timers
Moodymann
Ron Morelli
Satoshi & Makoto (Live)
Shhhhh
Sisi
Sobriety
Torei
Tornado Wallace
Wata Igarashi (Live)
Yoshinori Hayashi

VISUAL:
REALROCKDESIGN
KOZEE
VJ MANAMI
kenchan

LASER & LIGHTING:
YAMACHANG

料金:
通し券:20,000円
通し券(23歳以下):13,000円
キャンプ券:4,000円
駐車券:4,000円
グループ通し券(4枚1組):72,000円
※チケット購入ページの注意事項をよくお読みください。

オフィシャルサイト:
https://www.rainbowdiscoclub.com

BudaMunk & Jansport J - ele-king

 ISSUGI5lack とのタッグでも知られる日本の鬼才ビートメイカー、BudaMunk と、ナズ作品への参加などでも注目を集めるLAのプロデューサー、Jansport J が手を組んだ。日米それぞれの現行シーンを盛り上げるビートメイカー同士による新作ジョイント・アルバムには、日本からは ISSUGI や仙人掌、Mr.PUG、Daichi YamamotoKOJOE らが、USからはブルーやデヴィン・モリソン、イラ・J らが参加、じつに強力な1枚に仕上がっている。タイトルは『BudaSport』、発売は8月3日。チェックしておきましょう。

日本をベースに活動し、世界にその名が知られているDJ/ビートメイカー、BudaMunkとNasやHit-Boyらの作品への参加で注目を集めているLAのビートメイカー、Jansport Jによるジョイント・プロジェクト『BudaSport』がリリース! 日本からISSUGIや5lack、仙人掌、Mr.PUG、Daichi Yamamoto、KOJOEら、USからBluやDevin Morrison、Illa J、Like(Pac Div)、Thurzらが参加!

◆ Sick Team、Green
Butterとしての活動や自身のソロなど数々のプロジェクトのリリースに留まらず企業CMの音楽を担当する傍ら、さらに深いアンダーグラウンドな動きも活発化させ活動の幅を広げ、Delicious VinylやFat Beatsから作品をリリースするなど日本だけではなく海外のシーンへも多大な影響を与えているDJ/ビートメイカー、BudaMunk。LAを拠点にソウルフルなビートを軸に自らのプロダクションスタイルを確立し、NasやHit-Boy、Benny The Butcher、Freddie Gibbs、Bluなどメジャーからアンダーグラウンドまで様々なラッパーへビートを提供するだけでなく自らの名義でも作品をリリースしているプロデューサー、Jansport J。このふたりによるTYO to LAなジョイント・プロジェクト『BudaSport』がリリース。
◆ 本作はJansport Jが来日した際にBudaMunkと行なったセッションを中心に全てが両者のコラボレーションによるものであり、BudaMunkとJansport Jに所縁あるアーティストが日米から集結。日本サイドからはSick TeamのISSUGI、5lackを筆頭に仙人掌、Mr.PUG、Daichi Yamamoto、KOJOE、GAPPER、OYG、Ume、LafLife、USサイドからはKendrick Lamar作品への参加で知られるLike(Pac Div)やDr. Dreの最新作への参加も話題なThurzを始め、BluやDevin Morrison、Illa J、Slim Jeff、Quadryが参加している。

[商品情報]
アーティスト: BudaMunk & Jansport J
タイトル:  BudaSport
レーベル: King Tone Records / All Attraction, No Chasin’/ Jazzy Sport / P-VINE, Inc.
仕様: CD / LP(完全限定生産) / デジタル
発売日: CD・デジタル / 2022年4月20日(水)
LP / 2022年8月3日(水)
品番: CD / PCD-94110
LP / PLP-7846
定価: CD / 2.640円(税抜2.400円)
LP / 3.850円(税抜3.500円)

[TRACKLIST]
01. Intro (tonite!)
02. Old School, New Design ft. Blu & ISSUGI
03. Make it Happen ft. 仙人掌 & Mr.PUG
04. Callin’
05. Spice ft. Illa J, Devin Morrison & Daichi Yamamoto
06. Can’t Hide It
07. Susy ft. Slim Jeff & Ume
08. Pretty Eyes
09. All Praise Due ft. Like & 5lack
10. Jungles
11. 21’til ft. Kojoe & Thurz
12. PipeLine ft. LafLife
13. Whereva You At ft. Quadry & Ume
14. Tell The World
15. 未来への希望 ft. OYG & GAPPER

[BudaMunk / Profile]
新宿生まれ。96年にLos Angelesに渡り、在住中にビートを作り始める。2006年に帰国後Sick Team、Green Butterとしての活動や、自身のソロなど数々のプロジェクトをJazzy Sport、Dogearからリリース。企業CMの音楽を担当する傍ら、さらに深いアンダーグラウンドな動きも活発化させ活動の幅を広げてきた。現在も国内、海外のアーティストとのセッション、ビートメイクを繰り返し、USのDelicious VinylやFat Beatsからリリースするなど日本だけではなく海外のシーンへも多大な影響を与えている。

[Jansport J / Profile]
LAを拠点にソウルフルなビートを軸に自らのプロダクションスタイルを確立するJansport J。Nas、Hit-Boy、Benny The Butcher、Dom Kennedy、Freddie Gibbs、Bluなど、メジャーからアンダーグラウンドまで様々なラッパーへビートを提供するプロデューサーであり、自らの名義でも2008年のデビュー以降、多数のソロアルバムやビートテープを発表している。2008年にはデビュー作となるミックステープアルバム『The Carry-On Experience』をリリース。その後もビートテープやミックテープを数々発表しながら、様々なアーティストの作品へプロデューサーとして参加し、2014年にはLAの名門レーベル・Delicious Vinylからアルバム『The Soul Provider LP』をリリース。その後作品は毎年のように更新され、2018年末から12ヶ月連続で計12本のビートテープをデジタルリリースするという偉業も成し遂げる。2020年以降もその勢いは止まることなくソロアルバムやコラボレーション作品のリリースを重ね、今年発表されたNAS『King’s Disease II』ではHit-Boyと共に2曲をプロデュースするなど、Jansport Jの溢れ出るクリエイティビティの熱は止まること知らない。

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO - ele-king

 アンビエントの巨匠として知られるブライアン・イーノは、ヴィジュアル・アーティストでもある。
 ニューヨーク時代の1979年、トーキング・ヘッズとのレコーディング中にヴィデオカメラを入手した彼は、その後『中世マンハッタンの誤った記憶』『木曜の午後』といったヴィデオ作品を残している。しかし固定された表現に満足しないイーノは以降、サウンド面でもヴィジュアル面でも「ジェネレイティヴ(自動生成)」な表現を探求することのできるインスタレーションにも大いに力を注いでいくことになる。
 かくして『静かなクラブ』『未来は香水のようになるだろう』『凧物語』『スピーカーの花々』『7700万の絵画』などなど、かれこれ30年以上にわたり世界各地でさまざまなインスタレーションが展示されてきた。日本でも1983年のラフォーレ赤坂をはじめ、2006年のラフォーレ原宿など、これまで五度展覧会が開催されている。
 そして2022年。日本でのひさしぶりの展覧会が決定した。会場は京都中央信用金庫旧厚生センター。会期は6月3日から8月21日。空間全体を用い、その場だけの音と光の変化を体験することができるのはインスタレーションならではの魅力。今回は彼のアート活動の中核をなす『77 Million Paintings』と、日本初公開となる『The Ship』のインスタレーションが展示される。とくに後者を体験できるのは非常に嬉しい。
 ブライアン・イーノのアートの神髄に触れることができるこの絶好の機会、逃す手はない。

ヴィジュアル・アートに革命をもたらした
ブライアン・イーノによる音と光の展覧会
BRIAN ENO AMBIENT KYOTO
開催決定

会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター
会期:2022年6月3日(金)~8月21日(日)

ありきたりな日常を手放し、別の世界に身を委ねることで、 自分の想像力を自由に発揮することができるのです ━━ブライアン・イーノ

ヴィジュアル・アートに革命をもたらした英国出身のアーティスト、ブライアン・イーノが、コロナ禍において初となる大規模な展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」を開催します。

会場は、築90年の歴史ある建築物「京都中央信用金庫旧厚生センター」を、建物丸ごとイーノのアートで彩ります。

本展では、ブライアン・イーノによる音と光のインスタレーションを中心に展開します。

音と光がシンクロしながら途絶えることなく変化し続け、その空間のその時に、観客の誰もが違う体験をすることができる、音と光による参加型の空間芸術です。

芸術家としての活動のみならず、アンビエント・ミュージックの創始者であり、環境問題にも早くから取り組んできたイーノが、世界的文化都市の地で、どのようなメッセージを発するのか。ぜひご注目ください。

【開催概要】
タイトル:BRIAN ENO AMBIENT KYOTO(ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト)
会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター
住所:京都市下京区中居町七条通烏丸西入113
会期:2022年6月3日(金)~8月21日(日)
開館時間:11:00~21:00 入場は閉館の30分前まで
チケット:
[前売り]
平日 / 一般 ¥1,800 専・大学生 ¥1,300 中高生 ¥800
土日祝 / 一般 ¥2,000 専・大学生 ¥1,500 中高生 ¥1,000
前売り購入サイト:https://www.ambientkyoto/tickets
[当日券]
各200円増 小学生以下無料

主催:AMBIENT KYOTO実行委員会(TOW、京都新聞)
企画・制作:TOW、Traffic
協力:α-station FM KYOTO、京都METRO、CCCアートラボ
後援:京都府、京都市, ブリティッシュ・カウンシル、FM COCOLO
機材協賛:Genelec Japan、Bose、Magnux、静科
特別協力:Beatink、京都中央信用金庫
公式ホームページ:
https://ambientkyoto.com
Twitter. https://twitter.com/ambientkyoto
Instagram. https://www.instagram.com/ambientkyoto
Facebook. https://www.facebook.com/ambientkyoto

石橋英子 - ele-king

 素晴らしい音楽や映画、あるいは書物というのは、思いも寄らなかったところに入り込み、硬直した視野を押し広げてくれるものだ。石橋英子の『The Dream My Bones Dream』には、いち個人が日本史の靄のかかった奥に潜り込んでいくという点において、村上春樹の『ねじまき島クロニクル』を彷彿させるところがあった。だからといって、彼女が濱口竜介監督の、傑出したこの映画のサウンドトラックを引き受けることになったわけではないだろう。ようやく時間が持てたので、ぼくは『ドライブ・マイ・カー』を観た。そして3時間後には、しばらく席から立てないほど打ちのめされた。エンドロールでかかる石橋英子の曲は、車がギアチェンジしたことさえわからない滑らさをもって、しかし映画の深い余韻をしっかりと引き受けている。
 
 石橋英子は、このサウンドトラックを2曲に集約させている。表題曲“Drive My Car”、映画においてもっとも印象的なチェーホフからの引用を曲名とした“We'll Live Through The Long, Long Days, And Through The Long Nights(長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう)”。アルバムには、この2曲をもとにした合計10ヴァージョンが収録されている(*)。とはいえ、10曲といっても差し支えないくらいに、個々それぞれ違っている10作品でもあるのだが、日々ひっきりなしに往復する車と同じように、それぞれの楽曲にもアルバム全体にも反復性がある。また、劇中でかかっている多くは、おそらく楽曲の断片で(まだ一度しか観ていないので、正確なところはわからない)、石橋英子のサウンドトラックは映画の音をそのまま再現しているわけではなく、それらをもとにひとつの独立したアルバム作品として再構成しているようだ。
 映画は静かにゆっくりと、一見なんの変哲もない日常のなかで、登場人物たちそれぞれが個々の悲しみを打ち明けていく。自分に何が起こっているのか理解することそのものが困難な、いつ日常がひっくり返っても不思議ではない不安定な(村上ワールドでたびたび描かれている)日々において、安定しているのは登場人物みさきの運転ぐらいなものとなっている。変わりない時間軸といっしょに、残酷なまでに変わっていく時間軸が併走し、ドライブする車がいつの間にか車線変更するように映画はそのどちらかを走っている。こうした微妙なニュアンス、さりげない場面の意味的な移り変わりを、石橋英子(そしてジム・オルークと山本達久をはじめとする演奏者たち)は、ゆったりとスウィングするリズムとさまざまな表情の小さなメロディ、効果的なサウンドコラージュと起伏に富んだストリングス、そして電子音による音数少ないテクスチュアによってじつに巧妙に表現したと思う。主人公の家福が演劇の稽古で、役者たちに台詞を(下手に感情を込めずに)棒読みにするよう徹底させるシーンがある。感情は自分が勝手に与えるものではなく、言葉のほうから与えられるものだということなのだろうけれど、この音楽も似ている。情緒を押しつけるのではなく、それは聴き手のうちなるところから生まれるべきだと、それが主張を控えたこの音楽の主張だろう。
 
 石橋英子は特定のジャンル作家ではない。いろんなスタイルでたくさんの音楽を作っている。先鋭的な実験音楽から親しみやすいポップス、ジャズからアンビエントまで。そうした彼女の多彩なところも、本作ではうまくまとまっているんじゃないだろうか。優雅で美しいピアノが旋回する“Drive My Car”の(Misaki)、サウンドコラージュとサティ風のピアノによる同曲の(Cassette)。山本達久の趣あるドラムと茫洋とした電子ドローンをフィーチャーする“We'll Live Through 〜”の(SAAB 900)ヴァージョンは、実験音楽家としての石橋英子の面目躍如で、さらにドローンに徹した(Oto)ヴァージョンの寂しげな静寂もぼくには面白いし、ミニマルな“Drive My Car”の(The Truth, No Matter What It Is, Isn't That Frightening/真実はそれがどんなものであれ、それほど恐ろしいものではない)などはクラスター&イーノによるプロト・アンビエントを彷彿させる。
 こうした抽象的な楽曲があるいっぽうで、小気味よいリズムとメロディを主体とした“Drive My Car”の(The Important Thing Is To Work/大切なのは仕事をすること)、そしてストリングスの音色を活かした“We'll Live Through 〜”のオリジナル・ヴァージョンは、ギリギリのところである種ロマンティックな雰囲気を引き起こしている。曲の後方でジム・オルークのギターがざわついている“We'll Live Through 〜”の(And When Our Last Hour Comes We'll Go Quietly/そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう)は、アルバムのクローザーに相応しい。昼も夜も休まることなく、クライマックスに向けて走り抜けていくようだ。が、しかし走っても走っても、カフカの『城』のように終着点はない。いや、ここはサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』のように、と書くべきか。
 
 本作は、2021年の夏に出たアルバムだが、ぼくが聴いたのはわりと最近で、レヴューを書くために映画を観に行こうと思い、ようやくそれが叶ったことでいまこうして書いている。映画を観た人と観ていない人では、このサウンドトラックの受け止め方が違うのは当たり前だ。これは観た人の感想文であって、観ていない人がこの音楽をどう聴くのかはわからない。ぼくはこのアルバムが気に入っているし、ここ最近は、ぼくが移動するときのサウンドトラックにもなっている。まあ、ぼくはもっぱら歩く人ですけど。
 
 
(*)つい先日発売されたCD版にはボーナストラックとして新たに2曲が追加されている。1曲は“Drive My Car”の(Hiroshima)、もう1曲は“We'll Live Through 〜”の(different ways)。前者はミニマルなピアノ演奏による曲で、後者は『ミュージック・フォー・エアポーツ』寄りの、複数の電子ドローンがそれぞれ循環する美しいアンビエント・ミュージックになっている。

FEBB - ele-king

 4年前に急逝した Fla$hBackS のラッパー/プロデューサー、FEBB。生前手がけていたという幻のサード・アルバム『SUPREME SEASON』がなんと陽の目を見ることになった。残されたPCから発見された全16曲を収録、アナログ2枚組とCDのフィジカル限定で、デジタルでのリリースは予定されていない。これは要チェックです。

FEBBが生前に最後まで手がけていた幻の3rdアルバム『SUPREME SEASON』が完全限定プレスの2枚組アナログ盤、CDのフィジカル限定でリリース。

2018年2月15日に急逝したFEBBが生前に最後まで手がけていた幻の3rdアルバム『SUPREME SEASON』がリリース。デジタルでリリース済みの“SKINNY”や“THE TEST”の7インチにカップリングされた"FOR YOU”など一部既出の楽曲やGRADIS NICEとの『SUPREME SEASON 1.5』でリミックス・ヴァージョンが収録されたりしているものの、これが本人が纏めていたオリジナル音源での3rdアルバム。
 FEBB自身のパソコンから発見された全16曲のオリジナルデータにマスタリングを施し、ご家族と協議の上リリースすることとなりました。客演としてMUD(KANDYTOWN)が唯一参加となっています。(本来は全17曲ですが"DROUGHT"はMANTLE as MANDRILLのアルバムに収録されたため本作には未収録)
 アートワークは名盤『THE SEASON』と同じくGUESS(CHANCE LORD)、マスタリングはNAOYA TOKUNOUが担当。
 本作はアルバムとしてのデジタル・リリースは予定しておらずフィジカル限定となり、アナログ盤は帯付き見開きジャケット/完全限定プレスで一般販売。同じく完全限定プレスのCDやTシャツ等のマーチャンダイズはP-VINE
SHOP限定での販売となり、詳細は追ってアナウンスになります。
(Photo: Shunsuke Shiga)

[商品情報]
アーティスト: FEBB
タイトル:  SUPREME SEASON
レーベル: WDsounds / P-VINE, Inc.
発売日: 2022年5月25日(水)
仕様: 2枚組LP(帯付き見開きジャケット仕様/完全限定生産)
品番: PLP-7778/9
定価: 4.950円(税抜4.500円)

[TRACKLIST]
A-1 SUPREME INTRO
A-2 DRUG CARTEL
A-3 THUNDER
A-4 FOR YOU
B-1 CITY
B-2 DANCE
B-3 RUSH OUT
B-4 $AVAGE
C-1 F TURBO
C-2 FOR REAL THO
C-3 ELOTIC
C-4 NUMB feat. MUD
D-1 REALNESS
D-2 LIFE 4 THE MOMENT ( SKIT )
D-3 MOTHAFUCK
D-4 SKINNY

talking about Hyperdub - ele-king

 2021年のエレクトロニック・ミュージックにおいて、こと複数のメディアで総合的に評価の高かった2枚に、アヤの『im hole』とロレイン・ジェイムスの『Reflection』があり、ほかにもティルザの『Colourgrade』とか、えー、ほかにもスペース・アフリカの『Honest Labour』もいろんなところで評価されていましたよね。まあ、とにかくいろいろあるなかで、やはりアヤとロレイン・ジェイムスのアルバムは突出していたと思います。この2枚は、ベース・ミュージックの新たな展開において、10年代のアルカそしてソフィーといった先駆者の流れを引き寄せながら発展させたものとしての関心を高めているし、そしてまた、〈ハイパーダブ〉という21世紀のUKエレクトロニック・ミュージックにおける最重要レーベルの新顔としての注目度の高さもあります。ロンドン在住の現役クラバー、高橋勇人と東京在住の元クラバー、野田努がzoomを介して喋りました。

■アヤとは何者?

E王
Aya
im hole

Hyperdub/ビート

高橋:先週はコード9に会いましたよ。

野田:なんで?

高橋:イースト・ロンドンのダルストンにある〈Café Oto〉というヴェニュー。大友(良英)さんや灰野(敬二)さんがよくやってる。

野田:うん、わかる、日本でも有名。Phewさんの作品も出してるよね。

高橋:そこでアヤがインガ・コープランドの新名義ロリーナと対バンしたんですよ。

野田:くっそー、その組み合わせ、最高だな。

高橋:インガ・コープランド、とくにハイプ・ウィリアムスって、ある種、ダンス・ミュージック以外にも注目しはじめた第二期〈ハイパーダブ〉を象徴するアーティストですよね。

野田:そう、いまハイプ・ウィリアムスの話からはじめようと思ってた。高橋くんって、(マーク・)ロスコの原画って見たことある?

高橋:テート(・モダン)で見たことあります。

野田:あの抽象表現絵画って絵葉書とかになってたりするけど、原画はものすごく巨大で。

高橋:ウォール・ペインティングですもんね。

野田:あの原画の前に立ち尽くすと、圧倒的なものを感じるんだよね。俺はドイツの、たしかデュッセルドルフで原画を見たんだけど、しばらくその前から動けなかったぐらい圧倒された。ハイプ・ウィリアムスのライヴは、自分が21世紀で観てきたなかでいまだベストなんだけど、そのときのハイプ・ウィリアムスのライヴは、言うなればジャングルやベース・ミュージックの抽象絵画だったんだよ。

高橋:なるほど。

野田:抽象化されたベース・ミュージック。そのときのライヴは、壮絶な電子ドローンからはじまったの。サブベースありきのね。もし、“ドローン・ダブ” なんて言葉があるとしたら、あれこそまさにそんな感じだった。それで最初にアヤを聴いたとき、ハイプ・ウィリアムスの続きがここにあると思ったんだよ。ほら、冒頭の電子ドローン、あれを大音量でちゃんとしたシステムで聴いたら、近いモノがあると思うし、電子的に変調された声もそう。

高橋:ははは、そうなんですね。僕にとってハイプ・ウィリアムスとは〈ハイパーダブ〉からの『Black Is Beautiful』ですよ。あのイメージが僕には強い。だから、サンプリングを重視したすごく変なポップ・ミュージックって印象です。

野田:そうだよね。コンセプチュアルでメタなエレクトロニカだよね。とくにその後のディーン・ブラントは音楽そのものを偽装する奇妙でメタなポップ路線に走るけど、あのときのライヴは、言葉が通じない日本人に対してサウンドで勝負したんだよな。そこへいくと、アヤは詩人であり、言葉の人でもある。しかしそのサウンドがあまりにも斬新なんだ。ちなみにさ、アヤってどこから来た人なの?

高橋:経歴を説明すると、出身は北イングランドのヨークシャー。いまって若手のアンダーグラウンドのミュージシャンでも、大学で音楽を勉強している人がすごく多いじゃないですか、ロレイン・ジェイムスとレーベルの〈Timedance〉を主宰しているブリストルのバトゥと彼のレーベルメイトなんかもそうだし。アヤもそうで、音楽大学でミュージック・プロダクションを勉強して、そこで出会ったティム・ランドというランドスライド(Landslide)名義でドラムンベースを作っていた先生に出会うんですよ。その人からアヤはアルカやホーリー・ハードンなどについて学んでいる。

野田:えー、大学でアルカを学ぶって。日本じゃ考えられない(笑)。

高橋:(笑)それがウェールズの大学で、アヤはそこからマンチェスターにいった。そこでベースやUKガラージのシーンへと入って、〈NTS〉マンチェスターとかその周辺の人たちとやっていた。で、『FACT Magazine』のトム・レア元編集長がはじめた、ロンドンの〈Local Action〉レーベルがあって、現行のベース系だけど、ダブステップよりもUKガラージとかから派生している、フロアで機能するようなレーベルです。そういったコミュニティにいたのがアヤ。そこではまだ、ロフト名義でやってた。

野田:ロフト名義のころから注目されてたの?

高橋:詩のパフォーマンスもやってはいたけど、リリースでは音がメインでしたね。ちなみに、トム・レアやその周辺のベース・ミュージックと日本でつながってるのはdouble clapperzのSintaくんとかじゃないかな。

野田:Sinta、素晴らしいな。

高橋:トム・レアってすごく敏腕ディレクターで、新しいことをいろいろやってる。いわゆるEDM的なものではない、カッティング・エッジなベース・ミュージックをロンドンから発信していた。そのなかのひとつとして、ロフトも注目されていた感じです。ロフトはブリストルの〈Wisdom Teeth〉からもリリースしていて、アンダーグラウンドのベース・ミュージック新世代のひとりとして認知されていましたよ。

野田:話が飛んじゃうけど、いまブライアン・イーノの別冊を作っているのね。60年代から70年代って、イギリスはアートスクールがすごかった。アートスクールという教育機関が、70年代のUKロックに影響を与えていたことは事実なんだけど、きっと、いまはそれが大学なんだね。

高橋:まあ、アートスクールが大学ですからね。ブレア政権時代に、いわゆる昔の職業専門学校みたいなのが大学になったりしている。その大学改編の一環で、それまでのアートスクールが大学になっているんじゃないかな。いわゆる美大みたいな感じに。

野田:なるほど。それでアルカについて教えたり、Abletonの使い方を教えたりしてるんだ。そりゃあ面白いエレクトロニック・ミュージックが出てくるわけだな(笑)。ブライアン・イーノがアートスクール時代の恩師からジョン・ケージや『Silence』、VUなんかを教えてもらったようなものだね。

高橋:似ているかもしれない。それこそ僕の在籍しているゴールドスミス大学はジェイムス・ブレイクの出身校ですからね。


Photo by Suleika Müller

野田:話を戻すと、アヤの『im hole』は2021年出たエレクトロニック・ミュージックではいちばん尖った作品だったよね。

高橋:尖ってましたね。

野田:しかもあれって、ベース・ミュージックだけじゃなく、ドローンやアシッド・ハウスとか、いろんなものがどんどん混ざっている。ハイブリットっていうのはまさにUKらしさだし、まあいつものことなんだけど、アヤのそれは抽象化されているんだけど、巧妙で、リズムの躍動感が抜群にかっこいいんだよ。

高橋:僕の好きな曲は4曲目の“dis yacky”です。

野田:あー、わかる、あのベースが唸るやつね(笑)。アルバムを聴いていって、あの曲あたりから踊ってしまうんだよ。部屋のなかで。

高橋:基盤にグライム、ダブステップとジャングルが入ってる。曲の作り方がほかの人とぜんぜん違います。ちなみに、アヤはもともとドラマーでリズム感がめちゃくちゃいいんです。あれって普通に聴くとダブステップと同じようなスピードなんですよ。でも、うしろで鳴ってるのが五連付のドラムロールで、その音だけ、だいたいBPMが170でジャングルと同じなんです。で、アヤはそのBPM170をエイブルトンで設定して作っているんだけど、普通に音楽を聴くときはダブステップやグライムで主流のBPM140で聴こえる。つまりポリリズムですよね。普通はそうやって凝り過ぎるとIDMっぽくなるというか、フロアではシラケちゃったりする。けれどアヤはそこのバランスがうまい、ぜんぜんサウンドオタクっぽく聴こえない。

野田:なるほど、たしかに。

高橋:僕はそこにある種の、ポリリズムとある種のクィアなアイデンティティの相関関係みたいなものがあるんじゃないかと思った。クィア・サウンドとはこれまでにない音を作り出す、それまでのサウンドの境界線をプッシュするというか。そこでポリリズムもリズムの多重性と考えられないかなと。ちなみにアヤ自身はトランスウーマンで、自分のジェンダー自認は女性って公表しているので、その自認がクィア、つまり男性でも女性でもない、というわけではないんですけどね。ただ彼女の生き方には、そういったクィア性はみてとれる。そういった表現をサウンド・テクスチャ―から感じるプロデューサーはいるけど、リズムでやってる人はそこまでいないような気がする。

野田:クィア・サウンド……、なるほどね、それっていま初めて聞いた言葉だけど、面白いね。だって、ハウスはゲイ・カルチャーから来ていて、やっぱりあのサウンドにはその文化固有のエートスが注がれているわけで、最近のエレクトロニック・ダンス・ミュージックでおもろいのは、気がつくとクィアだったりするんだけど、同じようにその独特なノリやその文脈から来ているテクスチュアがあるんだろうね。

高橋:10年代でいえば、〈Night Slugs〉なんかがクィア・シーンではすごい人気ですけどね。

■ソフィーの影響はでかかった


Photo by Suleika Müller

野田:アヤは〈ハイパーダブ〉がフックアップしたの? 

高橋:これはスティーヴ・グッドマン(コード9)がロフトのライヴに感銘を受けて、〈ハイパーダブ〉から出したとインスタグラムで言ってました。まずポエトリー・リーディング、詩のパフォーマンスがすごいとも言ってた。そしてあのサウンドテクスチャー。

野田:〈ハイパーダブ〉の資料によると、アヤはクィア文化に対しても批評的なことを言ってるよね。それも俺、興味深く思っててさ、自分がクィアでありながらクィア文化に対しても批評的であるということは、それが「LGBTQであるから評価するのは間違っている」ということだよね?

高橋:そうです。つまり、クィア文化そのものを批判しているんじゃなくて、そこに向けられる言葉に懐疑的なんです。「LGBTのサウンドはこうでしょ、LGBTのアーティストに求められるものはこうでしょ」、といったものを完全に拒否した音楽です。

野田:逆に言うと、それはジェンダーの認識がすごく成熟に向かってるということでもあるのかね。

高橋:そういう見方もできるかもしれません。だからこそかもしれないけど、リリックのなかでクィアなアイデンティティを全面にだすより、単純に自分が感じている日常的なこと、たとえば自分はヨーク出身で、マンチェスターを経由していま音楽をやっているとか、そういうことをうまい言葉遊びで表現してる。だから必ずしも、クィアやLGBTを取り巻く言説に対する批判だけにとどまらないアティチュードが面白いんですよ。

野田:言い方を変えれば、ジェンダーを超えたところで評価してほしいってことだよね。

高橋:もちろん。アヤはソフィーからの影響が強いアーティストなので。

野田:あらためて思うけど、ソフィーはホント、でかいなぁ。

高橋:ソフィーなんてでてきた当初、誰がやっているかさえわからなかったじゃないですか。でも、ブリアルとぜんぜん違うのはメディアとかにもでていて、ソフィーが顔をだすまえ、つまりアルバム『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』を出す前、インタヴューを受けても顔を隠して声も変えたりしてた。

野田:まさにそれはアヤもやってることだよね。

高橋:そう。〈NTS〉のラジオでもずっとやってた。ソフィーの影響だと思う。このアルバムにはソフィーが死んだ数日後に作ったという“the only solution i have found is to simply jump higher”という曲が入ってます。僕が買った『im hole』の本の謝辞にも「ソフィへ、すべての永遠の満月を(To SOPHIE for every full moon forever)」って書いてある。ポスト・ソフィーっていい区切りになりますよ。サウンド・ミュータントを追求するアルカやフロアで革新性を求めた〈Night Slugs〉もすごく影響力があるけど、ソフィーがやったハイパーポップがもっと重要みたいです。アヤとロレイン・ジェイムスはふたりともソフィーの影響下にありますからね。

野田:ああそうだね、ロレインも。


Photo by Suleika Müller

高橋:去年、僕が感動したDJは、ロレイン・ジェイムスが〈NTS〉でやったソフィーへのトリビュート・セット。あれは素晴らしい。ソフィーの楽曲だけじゃなくて、そのカバーもミックスしていて、みんなのソフィー像が浮かび上がってくるみたいなんです。 LGBTコミュニティに属するアーティストの紹介と言う意味でも、〈ハイパーダブ〉も頑張っていますね。クィア・アーティストとか、マージナルなアイデンティティの人をよくだすようになった。サウス・アフリカのエンジェル・ホ(Angel-Ho)とか。

野田:ところでアヤのライヴってどうだった?

高橋:2回観てますけど、去年のライヴ・ハウスみたいなとこでやったのは、黒いパーカーを着てステージにあらわれて、体を使ったボディ・パフォーマンスがすごかった。本人はスケボーもやっていて運動神経がすごくいいんです。

野田:あれで運動神経がいいなんて、ちょっと反則だ(笑)。

高橋:なんて言えばいいのかな……、ソフィーやアルカも、ライヴをやってるときってけっこうシリアスな感じになるんですね。でもアヤはそういう感じではない。どんなにシリアスになったときでも、アヤはお客さんとジョークを交えたコミュニケーションを取ることを忘れない。

野田:北部の人たちは、昔からロンドンのお高くとまったところに対抗意識を持ってるんだよ。

高橋:ありますね(笑)。うまく言えないんだけど、すごくイギリス人っぽいユーモアを持ったひとです。だからアルバムからは想像できないけど、すごくフレンドリーです。じょじょに曲が進むとパーカーを脱いで、すごくかっこいい衣装になってダンスしまくる、みたいな。その日はちょうど、アルバムにも参加してるマンチェスターのアイスボーイ・ヴァイオレットもMCでステージに現れました。アイスボーイのジェンダープロナウンは「They/Them」で、男性と女性でもないことを自認していますね。

野田:はぁ……(深くため息)、いまコロナじゃなきゃ、日本でもきっと見れたんだろうなぁ。君がうらやましいよ。じゃ、ロレイン・ジェイムスのことを話そう。彼女は〈ハイパーダブ〉が見つけたんじゃなく、ロレインが海賊ラジオに出演したとき、これは〈ハイパーダブ〉が契約しなきゃだめだろってリスナーが騒いで、で、〈ハイパーダブ〉が契約したっていう話を読んだんだけど。

高橋:たしかに。ロレインは同じ世代からの信頼がすごく厚いプロデューサーなんです。オブジェクト・ブルーというロンドンのプロデューサーや、ロレイン・ジェイムスのフラット・メイトで、〈Nervous Horizon〉を運営するTSVIと彼女は仲がいい。みんな非常にスキルフルで影響力のある作り手たちです。そういったロンドンのコミュニティがあるのは面白いですよね。

野田:面白い話だね。そういうのは日本からはぜんぜんわからないよね。

高橋:オブジェクト・ブルーさんは日本語が母国語のひとつだし、『ele-king』で日本語圏に向けて取り上げるべき人ですよ。最近ではジェットセットでもレヴューを書いてたな。彼女はレズビアンであることを公言していて、昔Twitterには自分のことをテクノ・フェミニストと呼んでいてかっこいいなと思いました。

野田:へー、それも興味深い。

高橋:そういうコミュニティからロレイン・ジェイムスがでてきてるっていうのは、ひとつありますね。いわゆる団体というよりも、友だちって感じですけど。

野田:ロンドンって再開発して物価が上がってボヘミアン的なアーティストが住めないって聞くから、もう新しいものは生まれないって思ってた。そういうわけじゃないんだね。

高橋:そんなわけでもないですよ。たしかにブレグジットの影響でボーダーは前ほど自由ではないけど、音楽シーンにインターナショナルな感じはあるかな。TSVIはイタリア人なので。ヨーロッパから人がたくさん集まってる。ベルリンみたいな雰囲気もあります。

[[SplitPage]]

■ロレイン・ジェイムスの内省

E王
Loraine James
Reflection

Hyperdub/ビート

野田:そのロレイン・ジェイムスなんだけど、彼女の『Reflection』、俺はアヤ同様に、昨年ものすごく気に入ってしまってよく聴いたんだよね。ドリーミーで、内省的なところにすごく惹かれたよ。ロンドンに住んでる人とは、日本はだいぶ状況が違うから聴き方も違っているのかもしれないけど、いまロンドンはプランBでもって、すべてのクラブは解禁されて、マスクなしでみんな騒いでるわけでしょ? でも日本はまったく違うのよ。年末年始に久々にリキッドルームやコンタクトに行ったけど、当然マスク着用で、基本、みんな静かに踊ってる感じ。日本はさ、なんか陰湿な社会になっていて、相互監視がすごくて、その場で注意されるんじゃなく、ネットで批判されたりするんだよ。で、まあ、久しぶりにクラブやライヴハウスに行くとやっぱ楽しいんだけど、でも、いつまでこうやって、マスク着用で静かに踊ってなきゃならないんだろうかって思うと、途方に暮れるんだよね。だから相変わらずひとりでいる時間も増えたりで、内省的にならざるをえないというか、むき出しのエネルギーみたいなものより、内省的なものにリアリティを感じちゃう。俺の場合はロレイン・ジェイムスはそこにすごくハマった。それにアヤとは違ってロレインのほうがメロディックじゃない?

高橋:まあ、そうですね。

野田:メロディがはっきりしていて、そういう意味ではポップともいえる。

高橋:アヤはどっちかというと、リズムの実験。

野田:そうだね、あとテクスチュア重視。ロレインもリズムはこだわってるけど、メロディのところでは対照的かもね。あとさ、ロレインって、紙エレキングでインタヴューさせてもらったんだけど、ほかのインタヴューを読んでも、すごく誠実そうな人柄が伝わってくるじゃん? IDMは大好きだけど、ベタなポップスもけっこう好きってことも言うし。俺はレコードで買ったけど、レコードには歌詞カードがちゃんと入っている。彼女はファーストがすごく騒がれて、で、がんばりすぎて鬱になってしまって、だから決してドリーミーな言葉ではないんだろうけど、でもサウンドはドリーミーなんだよね。悲しみから生まれた音楽かもしれないけど、悲しい音楽ではない。

高橋:パワフルでエネルギッシュな音楽ですよね。

野田:あるイギリスのライターが書いたレヴューで共感したのが、「この音楽は絶望から生まれたかもしれないけど、もっとも絶望から遠ざかってもいる」みたいなね。

高橋:そういう意味で〈ハイパーダブ〉にいままでなかった音楽ですよね。ロレイン・ジェイムスは顔が見えるというか。そういうパーソナルな部分がでている。〈ハイパーダブ〉は「ハイパーなダブ」ですからね。音の実験みたいなところ。ロレインそういう意味で〈ハイパーダブ〉の新しい章のはじまりかもしれない。僕はファースト『For You and I』に漂っている、あの自分の生まれ育ったノースロンドンをサウンドで振り返る感じがすごく好きです。

野田:ブリアルを輩出したレーベルだから、やはり匿名性にはこだわってきたんだろうし。

高橋:〈ハイパーダブ〉は2004年にはじまったわけだから、もうすぐ20年近くになりますね。

野田:最初はカタカナで「ハイパーダブ」って書いてあったんだよね。サイバーパンク好きだから。

高橋:そうですよね。クオルタ330とか、いまも食品まつりとか日本人のも出し続けてますね。

野田:食品さんが〈ハイパーダブ〉から出したのはいちファンとして嬉しかったな。


Photo by Suleika Müller

■〈ハイパーダブ〉とレイヴ・カルチャー

野田:〈ハイパーダブ〉には、レイヴ・カルチャーをリアルタイムで体験できなかった人たちがレイヴ・カルチャーを再評価するっていうところがあるじゃない?

高橋:そうかな?

野田:そうじゃないの?

高橋:たしかにコード9の後輩とも言えるゾンビーやブリアルは、本人たちも言っているようにレイヴを直接経験していないですよね。でもコード9、スティーヴ・グッドマンは1973年生まれのレイヴ世代ですよ。それこそグラスゴー出身で、レイヴに行ってた。そしてエジンバラ大学で哲学を勉強して、それからウォーリック大学に移って、そこでニック・ランドとセイディー・プラントが教鞭を取っていて、マーク・フィッシャーなんかもいた。いま頑張って訳してるマーク・フィッシャーの『K-PUNK』にも書いてあるんですけど、CCRUのなかでひとつ共有されていたのは、ジャングルは哲学化する必要なんかなくて、最初から概念的だったということだと、そうマーク・フィッシャーは言ってます。

野田:〈ハイパーダブ〉って、ブリアルとコード9がそうだったように、すごくメランコリックだったでしょ。それってやっぱり、1992年はもう終わったという認識があったからだと思うんだよね。

高橋:たしかに。

野田:ノスタルジーとメランコリックは違っていて、ノスタルジーは過去に囚われている状態だけど、メランコリックは過去は終わってしまったという認識からくるものでしょ。彼らのメランコリーって、そういう意味で過去を過去と認め明日を見ていたというか。それをこの20年くらいのあいだ実践してきたのがすごいなと。

高橋:面白いのは、コード9は自分のことをジャングリストっていうけれど、彼はいちどもストレートなジャングルを作ったことはないですよね。しかも、やっぱり最初にコード9が注目されたのはダブステップのシーンであったわけで。かといって、ダブステップの曲ばかり作っていたかといえばそうではなくて、UKファンキーを作ったりとか、そういうこともやってた。いま彼のプロダクションは、フットワークの影響が強い楽曲がメインですね。

野田:そのときどきの変異体に柔軟に対応しているよね。でもずっと通底しているのはジャングルから発展したベース・ミュージックだよね。

高橋:それはあります。彼がいうように、〈ハイパーダブ〉はサウンドの伝染していくウイルスで、形が変わってもジャングルの要素は残っているんでしょうね。DJではコード9はいまも直球のジャングルをかけてます。

野田:ま、UKアンダーグラウンドのブルースであり、ソウルみたいなものだしな。ちなみにUKのレイヴおよびジャングルをリアルタイムで経験してる音楽ライターって、日本では俺とクボケン(久保憲司)だけだと思うよ。これ自慢だけど。

高橋:〈ハイパーダブ〉のレーベル・カラーとしてスティーヴ・グッドマンが最初から明言してる重要なことなんですけど、自分たちはIDMみたいな音楽は出さないと言ってます。彼はもっとシンプルなダンス・ミュージックのフォーマットに惹かれているのであって、いわゆるIDMとされる音楽の表現形態とは離れてると。

野田:レイヴ・カルチャーってのはラディカルだったけど、大衆文化のなかにあったからね。業界のエリートが集まってやってたものではないから。

高橋:たぶんスティーヴ・グッドマンが考えているのは、いわゆるIDMみたいに複雑なことをやらなくても、常にそのなかに、あえていうなら哲学的でコンセプチュアルな可能性は秘められているというか。そこの価値転換みたいなことを〈ハイパーダブ〉は実践としてやっているのではないかと。コード9と同世代のリー・ギャンブルが数年前に〈ハイパーダブ〉に移籍したときはびっくりしたけど、彼のレーベル〈UIQ〉にもそれを感じるかな。リー・ギャンブルの〈ハイパーダブ〉の作品はすごく複雑でコンセプチュアルで、僕にはIDMに聴こえるんですが(笑)。

野田:ブリアルが新しい作品をだして話題になってるけど、タイトルが「Antidawn」だよね。

高橋:造語ですね。

野田:そう、「反夜明け」って造語。それって明るいものに対する反対みたいな、否定的なニュアンスで受け取られてるよね。でもね、レイヴ・カルチャーってことを思ったとき、レイヴの真っ只中では誰もが「夜明けなんて来るな」と思ってるんだよ。だから、必ずしも「Antidawn」は否定的な言葉ではないとも思ったんだよね。

高橋:なるほど。アンダーグラウンドの世界が終わらない、というか。野田さんって『remix』で、日本で唯一ブリアルにインタヴューしている人ですよね。

野田:まあ、電話だけどね。

高橋:あれすごく面白くて。彼が音楽の比喩として使っているのが、公園とかにある石を裏返すと虫が元気にうごめいてると。クラブ・ミュージックはそういうものだと、太陽が当たらないほうが元気だろ、と。こういうことをしゃべる人なんだって(笑)。

野田:そうそう(笑)。彼はほんとうにアンダーグラウンド主義者だよね。

[[SplitPage]]

■〈WARP〉や〈Ninja Tune〉との違い

E王
Burial
Antidawn

Hyperdub/ビート

高橋:「Antidawn」をどういうふうに聴きました?

野田:あれって日本にいるほうがリアリティを感じるよね。クラブに行きたくても昔のようには行けないじゃない。リズムがないってことはそういう状況の暗喩なわけで。

高橋:あれはロックダウン中に作られた音楽ですよね。個人的なことを話すとロックダウン中に、僕は散歩をたくさんしていた。クラブに行けない状況で、ヘッドホンをしながらパーソナルに聴く状況が増えた。その雰囲気にかなりぴったりですよね。レヴューでも書いたけど、僕はこの続きを聴きたいなって思わせる音楽だと思いました。

野田:スタイルとしてはサウンド・コラージュだよね。風景を描いている音楽。

高橋:野田さんは〈ハイパーダブ〉をずっと紹介してきたけど、いままでのUKレーベルの〈Ninja Tune〉や〈WARP〉との違いって何だと思いますか?

野田:そのふたつのレーベルはセカンド・サマー・オブ・ラヴの時代に生まれたってことが〈ハイパーダブ〉との大きな違いだよね。ただし、リアルタイムでレイヴやジャングルを経験するってことはそのダークサイドも知るってことで、あとからジャングルを形而上学的に分析することはできるだろうけど、あの激ヤバな熱狂のなかにいたらなかなかね……。

高橋:そういえば、野田さんは〈fabric〉から出たコード9とブリアルのミックスのことを形而上学的だって書いてましたね。

野田:で、ジャングルと併走して白人ばかりでドラッギーなトランスのシーンもあったし、だからあの時代(1992年)に〈WARP〉が“AIシリーズ”をはじめたことは、当時はものすごく説得力があったんだよね。IDMに関しては、その言葉はオウテカやリチャード・ジェムスもみんな嫌いで、だから90年代は“エレクトロニカ”って呼んでいたんだよ。そして、ではなぜ〈Ninja Tune〉や〈WARP〉がジャングルに手を出さなかったかと言うと、ひとつは、すでにレーベルがいくつもあった。〈Moving Shadow〉であるとか、4ヒーローの〈Reinforced〉であるとかゴールディーの〈Metal Heads〉であるとか、そういうオリジネイターに対してのリスペクトもあったし、でも、その革命的な音楽性に関してはドリルンベースなどと呼ばれたようなカタチで取り入れているよね。あと、ジャングル前夜のベース・ミュージックって、それこそブリープの元祖、リーズのユニーク3だったりするんだけど、そこと〈WARP〉は繋がってるじゃん。もともとシェフィールドのレコ屋からはじまってるわけで。そこに来てシカゴやデトロイトのレコードを買っていた連中が音楽を作るようになっていって、レーベルがはじまった。

高橋:それに対して、〈ハイパーダブ〉はウェブ・マガジンとしてはじまってるんですよね。その読者がブリアルであって、そこからいろいろつながった。そういう意味で、ゼロ年代のある種のインターネット音楽のパイオニアみたいなところもあったんじゃないかな。

野田:たしかにね。レコ屋世代からネット世代へってことか。

高橋:そういえば、スティーヴ・グッドマンは現実の政治性を全面にだす感じではなく、むしろ冷ややかに離れて見ていた印象があったんです。自分のイベントでは「ファック、テレザ・メイ」とMCで言っているのを見たりしましたけど(笑)。でも最近、ブラック・ライヴズ・マター以降の彼の言動をみると、〈ハイパーダブ〉がいまのブラック・ミュージックを世界に出すうえでのハブというか、ブラック・ミュージックを意識的に紹介していくことをひとつの重要な点として考えているってことをソーシャルメディアで公言しているんです。フットワークもそう。〈ハイパーダブ〉の00年代後半の功績のひとつとして、イギリスにフットワークを広く紹介した。

野田:それは〈Planet Mu〉でしょ。

高橋:〈ハイパーダブ〉と〈Planet Mu〉のふたつですね。〈ハイパーダブ〉はDJラシャドをだしてますから。また、〈ハイパーダブ〉から紹介されて以降、ラシャドはジャングルに興味を持つようにもなる。そういう相互関係も生まれてくる。コード9はいまもフットワーク・プロデューサーをどんどん紹介している。あと最近ではさっきのエンジェル・ホを出したり、南アフリカのゴム(Gquom)やアマピアノを紹介したり。西洋中心主義に陥いることなく、そういう音楽を意識的に紹介している。そういう意味で食品まつりを出したのも面白いですよね。

野田:〈ハイパーダブ〉はイギリスではどんなポジションなの? 

高橋:先日用があってブライトンに行ってレコ屋を覗いたんですが、「Antidawn」のポスターがメジャーなアーティストと並んでました。

野田:やっぱブリアルは別格だよね。でも、当然あの作品に対する批判はあるでしょ? あれだけ極端で、思い切ったことやっているわけだから。

高橋:ダンス・ミュージックじゃない点で、少し物足りなさを感じる人はいますね。あとはやってることがまえとそんなに変わってないから、もっと違うことをやればいいんじゃないかとか。そのまえにいくつか12インチをだして、そちらはダンサブルでいままでにないアプローチもあったから、そっちの続きが見たいって人も多いですね。

野田:そりゃまあ、そう思う人が多いことはわかる。

高橋:僕はロックダウン中、ダンス・ミュージックと同じくらいアンビエントもフォローするようになっていて。いわゆるアンビエント・サウンドのなかでも、すごくパーソナルな方向というか、そういうひとたちが増えたと思うんですよね。デンシノオトさんもレヴューを書いてますが、アメリカのクレア・ロウセイってひとはアンビエント音楽のうえで、すごくパーソナルなエッセイを朗読したり、すごく作り手の顔が見える音楽をやっている。

野田:ああ、なるほど。たしかにパンデミック以降、アンビエントの需要が拡大したのは事実で、「Antidawn」はブリアルにとってのアンビエント作品という位置づけもできるよね。

高橋:ロンドンの視点で言うと、コロナで休止しちゃったけど、エレファント・アンド・キャッスルの高架下にある〈Corsica Studio〉ってライヴ・ハウス/クラブで〈ハイパーダブ〉は「Ø(ゼロ)」というイベントを月イチでやってました。最初の回がコード9のオールナイト・セットで、さっき言ったインガ・コープランド、ファンキンイーブンやジャム・シティも出ていた回もありました。〈ハイパーダブ〉からリリースはしていないけど、ロンドンで活動しているプロデューサーをコード9がフックアップしていたんです。そういうブッキングは、彼ひとりでやるのではなく、たとえばシャンネンSPという黒人の女性のキューレーターと一緒にやっていたりする。ロンドンのダンス・シーンにはいろんな人種がいるわけだけど、その文化を意識的に紹介することも面白いと思いました。

野田:ポスト・パンク時代の〈ON-U〉みたいなものだね。俺さ、昔のレイヴ・カルチャーを思い出すとき、自分の記憶で出てくるのが、女の子の穴の空いた靴下なんだよね。これは91年にロンドンのクラブに行ったときの話で、当時のクラブはコミュニティ意識が強かったから、ひとりで踊っているとよく話しかけられたんだよ。「どっから来たの?」とか「何が好きなの?」とか。で、なぜかそんときある青年と仲良くなって、明け方「いまから家に来ない?」ってことになって、昼過ぎまで数人で車座になって紅茶を飲んで音楽を聴いたんだけど、そこにいたひとりの女の子が穴の空いた靴下を履いていたんだよね。それが俺にとってのあの時代のロンドンのクラブ・カルチャーであり、レイヴの時代の象徴というか、良き思い出だね。要するに、気取ってないし、牧歌的だったんだよ。

高橋:いまは牧歌的な感じではないかな……。日本とは比較できないオープンな感じはもちろんあるけど。

野田:じゃあ27歳くらいの俺がふらっと来て、そのまま誰かの家に行ったりすることっていまでもあるのかな?

高橋:それは僕もたまにありますよ。それこそ、ele-kingでレヴューを書いた2016年の〈DeepMedi〉の周年パーティのあと、ダブステップ好きの人と知り合って、その人の家で二次会しました(笑)。ブリアルかけたり、アンビエントかけたり。

野田:ああ、よかった。それ重要だよね。

高橋:でも、〈ハイパーダブ〉は牧歌的ではないですよね。もっと音楽そのものが持ってる凶暴な感じというか、サウンド・テクスチャ―であったりポエトリーの表現がつながるんだとか、いかに音そのものでサイエンス・フィクションのような、いわゆるウィリアムギブスンやJ・G・バラードを読んでるときの感じが蘇ってくるんじゃないかとか、そういうことですからね。

野田:そこが〈WARP〉や〈Ninja Tune〉との違いなんじゃない? そのふたつは幸福な時代に生まれたレーベルであって、〈ハイパーダブ〉はロンドンが再開発されていて、そのあと911もあって、荒野の時代に生まれたレーベルってことだよね。

HYPERDUB CAMPAIGN 2022
https://www.beatink.com/products/list.php?category_id=3

Trilogies - Mars89 episode 1 - ele-king

 レコード店「Disc Shop Zero」の店主、飯島直樹氏が永眠してはや2年、今年の2月で3回忌を迎える。彼の功績に敬意を表しつつ、彼が志した低音の美学とその広大なヴィジョンを継承すべく、2月11日(金)渋谷のContact Tokyoにて、飯島氏がオーガナイーザーでもあったポッセ〈BS0〉がパーティを企画する。「Disc Shop Zero」に行ったことがない人も、ぜんぜんウェルカム。足を運んで、力強いベースを感じて欲しい。

断片化された生活のための音楽 - ele-king

※以下のイアン・F・マーティンによるコラム原稿は、web掲載した〈ラフトレード〉インタヴューと同様、別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』のなかの小特集「UKインディー・ロック/ポスト・パンク新世代」のために寄稿されたものである。今日の状況を知るうえでもシェアすべき原稿なので、ここに再掲載します。

Music for fragmented lives
断片化された生活のための音楽
イアン・F・マーティン(江口理恵・訳)
written by Ian F. Martin / translated by Rie Eguchi


ザ・スミスの再来とも言われ文学性が評価されているフォンテインズ D.C. by Vinters Pooneh Ghana

 UKは混乱した、幸せではない場所だ。貧困の拡大、ナショナリズムの高まり、ブレグジットから、選挙民が絶望しながら受け入れた狭量な保守主義まで、大量の新聞の見出しは何かがとんでもなく間違っていること、つまり、孤独な国がパニックに陥って自分自身を抱きしめ、粉々になり、断片となって崩れて行く様子をはっきりと示している。
 しかし、このような目に見える衰えの兆候の裏には、目に見えにくいたくさんの不安が隠れている。とくに若者にとっては劇場型のブレグジットによる玄関払いを喰らって、様々な機会が閉ざされるという感覚は、緊縮財政や21世紀の資本主義の不安定な労働条件のなかでもう長いこと続いてきたことだ。ミュージシャンたちにとっては業界が少数のデジタル・インフラの所有者たちのまわりで合体し、音楽がプレイリストのための、哀れなほどの報酬のコンテンツになり下がり、ブレグジットによって引き起こされた欧州ツアーへの財政的、官僚的な障壁もまた、閉ざされた扉のひとつだ。
 2019年9月、私はUKをエンド・オブ・ザ・ロード・フェスティヴァルのために訪れた。エンド・オブ・ザ・ロードは英国のインディーズ・フェスティヴァルの最高峰で、爽やかな、またはメランコリックなシンガーソングライターからアフロビート・オーケストラ、ジェンダーフルイドなグラム・エレクトロニカまで、様々なアーティストが出演する混沌とした世界のなかの芸術的でリベラルなバブルのような心地よさがある。しかし、2019年に印象に残ったのは様々なテントやステージから聴こえる音から立ち昇る怒りと、激しい無秩序ぶりだった。カナダのクラック・クラウド、アイルランドのフォンテインズD.C.から、ワイヤーのようなヴェテラン勢がエネルギーに満ちた音を立て、ビルジ・ポンプの粗い、惑わせるように旋回するリフ、Beak>のクラウトロック的なミニマリズム、そしてスリーフォード・モッズの意気揚々とした凱旋のヘッドライナー・セットなど、これらの、またこれ以外のアーティストたちの演奏もポスト・パンク的な緊張感と角のあるスレッド(糸)のようなものに貫かれていた。
 この日ラインナップされていた若手の有望株のなかでも、斜めからのポスト・パンク的なアプローチをする4つのバンド、ゴート・ガール、スクイッド、ブラック・ミディとブラック・カントリー・ニュー・ロードが話題になっていた。2年後、彼らが代表する奇妙で興味深い世代の新しいブリティッシュ・ミュージックが育ってきているが、彼らが実際に何を代表しているのかを特定するのは難しい。
 音楽史のなかで特定の時代に結びついたタームである、レンズの役割のようなポスト・パンクは、ここで起こっていることの幅を説明するには充分ではないように感じる。これらのバンドは少なくともブレヒトやワイルの伝統にまで遡る部分を持ち、エクスペリメンタル・ロック、No Wave、カンタベリーのサイケデリック・シーン、クラウトロックなど、すべての〝ポスト~〟のジャンル(ポスト・パンク、ポスト・ハードコア、ポスト・ロック)にまで貫かれ、同時にキャプテン・ビーフハート、ジズ・ヒート、ザ・カーディアックス、ライフ・ウィズアウト・ビルディングス他の挑戦的なインディヴィジュアルに活動するアーティストたちにも及んでいるのだ。
 しかし、ポスト・パンクをより抽象的に、パンクがイヤー・ゼロの基点からの短い爆発で残した断片をくし刺しにして繋ぎあわせる、音楽を取り戻すプロセスだと考えるならば、今の若いバンドたちは文化的な瓦礫をふるいにかけて規範を過激に覆された後にそれを理解しようとする点で、同じような立場にあるようだ。しかし、パンクの時代とは違い21世紀の文化的な混乱は、若者のカルチャーからではなく、政府と資本主義の構造そのものから来ており、ポスト・パンクや、〝ポスト・パンクド(嵌められた)〟の若いミュージシャンたちは、切断され、断片化された自分たちの置かれている環境下で、扇動者ではなく、犠牲者となっている。
 断片化された、断絶的な感覚は、多くの新しいブリティッシュ・ミュージックのなかから聴こえてくる。
 ブラック・ミディの音楽の突然の停止や開始、トーン・シフトの多用、1920年代から直近にいたるまでの100年にわたる時間軸から受けた影響などから、それを聴きとることができる。彼らは音楽業界が資金援助をするパフォーミング・アーツの専門学校、ブリット・スクールの卒業生で、学校が提供する施設で実験ができただけでなく、音楽史を学んだことで広い視野にたって音楽を探究する恩恵を受けている。バンド自身もこの背景が与えてくれた特権を痛感しているようで、自分たちが受けた音楽教育を遊び心と小さな喜びを感じながら活用している。
 ロンドンのバンド、ドライ・クリーニングの素晴らしいデビュー・アルバム『New Long Leg』には断絶を意味するような、もっとダウンビート(陰気)な感覚がある。控えめだが、微妙にゴツゴツした音をバックに、ヴォーカルのフローレンス・ショーが毎日を無為に過ごしている人の日常の疲れて断絶した、サンドイッチを食べる気力もない、何かを経験することに意義が感じられないという一連のスナップショットをため息交じりに歌う。シニフィアン(意味しているもの)とシニフィエ(意味されているもの)の間にある皮肉なギャップ──「あなたは、あれほど汚い裏庭をもつ歯医者を選ぶか?」とアルバムのタイトル・トラックで問いかけ、「選ばないと思う」と応えている。
 ブラック・ミディの折衷主義とドライ・クリーニングの倦怠感はまったくの別物に見えるかもしれないが、根無し草のような感覚を共有している。それは、どんなに教育を受けて意識を高めても、自分のしていることでは何も変わらないという無力感や権利の剥奪といった形をとることがあり、敗北の雰囲気のなかにも解放感が感じられたりする。誰も自分のしていることに関心がないのなら、やりたいことを好き勝手にやっていいという免罪符を持っているという感覚だ。
 やたらと個々のバンドの意図を決めつけたりするのは危険だが、リスナーとしてはこの世代のバンドの音楽の多くが英国の生活を貫く断絶感と共鳴しているように感じる。ゴート・ガールは政治的なものと生活での体験をさりげなく結び付け、スクイッドは無数の方向にむかって半狂乱で爆発し、シェイムは「自分のものではない世界」に向かって怒りを燃やし、優れたザ・クール・グリーンハウスは皮肉たっぷりの不条理な物語を延々と反復される2音のみのギター・ラインに乗せて表現している。それぞれのやり方で、世界を前にして笑ったらいいのか、泣いた方がいいのかがわからないリスナーの不安と心の急所に触れているのだ。


2021年はセカンド・アルバム『Drunk Tank Pink』も出したユーモアと勢いのシェイム by Sam Gregg

 これらのバンドはすべて、何らかの方法で自分たちを取り巻く断片的な世界を理解しようとしている。たとえ、その不条理さに浸って楽しむためだけであったとしても。多くの批評家がザ・フォールの影響の高まりを指摘しているが、それはある意味、ザ・クール・グリーンハウスのトム・グリーンハウスが2020年のDIY誌のインタビューで指摘したように、安易な比較ともいえる。「みんな自分たちをザ・フォールと比較するし、その理由もわからなくはない。それは妥当な比較だとは思うけれど、ザ・フォールはあまりにも多くのバンドに影響を与えてきた存在で、まるでラップのレコードをグランドマスター・フラッシュと比較するようなものだ。彼らはその道のゴッドファーザーだけど、ラップはとても豊潤な世界で、いまはみんながラップの要素を使ってたくさんのことをしているのが現実だ」
 彼の言うとおり、ザ・フォールの語りかけるようなヴォーカルと反復するクラウト=パンクのリズムは、本当にあらゆるクリエイティヴな方法で用いることのできるシンプルなツールである。ドライ・クリーニングやヤード・アクト、ドゥ・ナッシング、ガッド・ホイップとビリー・ノーメイツは皆、インディー系の言語を様々な方法で表現している。そしてこのラップとの比較が面白いのは、最近のインディー・ギター・バンドが注力していること、つまりヒップホップが伝統的に得意としてきた──人生における混乱を物語に織り交ぜて意味を持たせる──ことを表現するため、このゆるいヴォーカルの構造がじつにパワフルな方法になりうるからだ。ザ・クール・グリーンハウスはこれらの物語を音楽の中心に据えている。ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、道にはぐれた生活のスナップショットを話し言葉による物語として、複雑で騒々しいマリアッチとスリント風のアレンジに織り込んでいるのだ。正式な意味での物語とは言えないかもしれないが、我々は皆、このような断片的な物語をソーシャル・メディアで創造し、フィードに流れてくるノイズを構造化された物語としてではなく、本能的に、感情の質感を読み取っている。
 物語は空間のなかにも存在する。「ブラック・ミディの前で、君に愛していると告げた」と、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのアイザック・ウッドは〝Track X〟のなかで情景を描写するように言っているが、冗談のようでありながら、おそらくライヴ会場などの物理的な空間の重要性についても言及しているのだ。断片的な命を一か所に集めて観客がシェアできる経験を創りだすと同時に、バンドたちが共に発展して繋がっていく場所のことを。ブラック・ミディやスクイッドの曲の多くは長尺で、8分強あるものが多い。これらのバンドは、分割してSPOTIFYのプレイリストに組み込まれるための最適さは持ち合わせていない。彼らは、一度の機会にすべてを体験するためにあるバンドなのだ。
 独立系の会場がバンドの成長に欠かせないインフラであるとすれば、レーベルもまた役割を担っている。ブラック・ミディ、ゴート・ガール、スクイッドにブラック・カントリー・ニュー・ロードは皆、〈Speedy Wunderground〉レーベルのプロデューサー、ダン・キャリーとの繋がりを持つ。自宅のスタジオで、1日で7インチ・レコードを録音し、ミキシングしてマスタリングするキャリーの作業工程は、自発的でエネルギーにあふれた時代感覚を捉えているし、シングルを非常に限定的にしかプレスしないというレーベルの抜け目のないポリシー(フラストレーションはたまりそうだが)が、〈Speedy Wunderground〉のリリースを期待の高まるイベントにしているのだ。キャリーのような人びとの重要性はカルチャーのなかのノイズをふるいにかけ、新しい、エキサイティングなものに焦点を当て、我々が断片的なもののまわりに物語を組み立てることが可能になることにある。〈Rough Trade〉、〈Warp〉、〈Ninja Tune〉や〈4AD〉のような、影響力があって、いまも独立系であり続けるレーベルの存在がこれらのバンドを次のレヴェルに押し上げて、彼らの物語をさらに幅広いところへ届けることを確約するのだ。
 これらのバンドはいずれも、いま、UKで騒がれている豊富な人材のそろった幅広いポスト・パンク層の表面をなぞっているに過ぎない。ガールズ・イン・シンセシスやEsの怒りに満ちたスラッシュから、ハンドル、スティル・ハウス・プランツの実験的ミニマリズム、薄汚れたインディ・アート・パンクのカレント・アフェアーズとウィッチング・ウェイヴズ、心にとり憑く崇高なナイトシフトまで、周囲の混乱や断絶、断片化にもかかわらず、いや、だからこそ、UKから驚くほど豊かな音楽的なクリエイティヴィティが生まれているのだ。
(初出:別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』2021年7月刊行)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114