「OTO」と一致するもの

[Drum & Bass / Dubstep] by Tetsuji Tanaka - ele-king

1. Zinc / Killa Sound [Skream RMX] [Heavy Feet RMX] | Bingo Bass

1. Zinc / Killa Sound [Skream RMX] [Heavy Feet RMX] | Bingo Bassジンクvsスクリームの強力タッグが復活した! 2006年にダブステップ浮上のきっかけになった大ヒット・トラック"Midnight Request Line"のリミックス以来、久々のコラボレーションが実現。まさにキャッチー・フロア・アンセムの登場だ。いまやすっかりダブステップ界のトップに上り詰めたスター・プロデューサーのスクリーム、そしてDJジンクのほうも前作のときとは状況が違う。ジンクと言えば、今はエレクトロ・ハウス/UKファンキー/クラック・ハウスを牽引するベース・レジェンドである。そして、今回のコラボレーションによって生まれたこの作品は、前作の流れを汲みつつ、しかししっかりと現在のトレンドも注入したもので、シンプルだがまったく新しいパーティ・トラックである。これによって、"クラック・ダブステップ"が生まれたと言えよう。
  ジンクがドラムンベースの創作を中断して1年以上の歳月が過ぎたわけだが......現在ベース・シーンでは恐ろしいぐらいのスピードで刻々と進化を遂げている。忘れもしない。衝撃的かつエポック・メイキングな出来事だった。2008年の11月22日、筆者もレジデント出演している〈DBS〉にて、12周年を祝う、「Mega-Beat Sessions」によるDJジンク再来日だった。
  巷では、「ジンクが最後のドラムンベース・セットをやる」、「UK最先端の4つ打ちジャンルも回す」、「クラック・ハウス? なんだ??」等々......大きな話題を集めたものだった。刺激的な用語と新しいジャンルによる新しいムーヴメントを予感させ、もちろん大観衆を集めた大盛況なアニバーサリー・パーティとなった。実のところ、筆者はジンクのプレイ時間と〈SALOON〉でもろに被ってしまい......残念ながら目の当たりできなかったのだが、いろんな人に取材してみたところ、賛否両論を巻き起こす興味深いものとなった。で、受け入れられたのかって? 答えは当然イエスである! 時代の最先端を走る"クラック・ハウス"。ベースラインから派生したUKファンキーよりの"4つ打ちジャンル"が日本のジャングリストにも受け入れられた瞬間だった。
  その挑戦的な試み、興味深いこの出来事は、当時かなり興奮したことをよく憶えてる。〈Bingo Beats〉が初期のレーベル・コンセプトである2ステップやガラージなどのハーフステップ主体だった90年代末に、いまにして思えば現在のスタイルの青写真がある。ジンクの変名ジャミン〈Jammin'〉の「Kinda Funky」、「Go DJ」やジンク名義の「138 Trek」などハーフステップ・ガラージ・アンセムなどはその代表だ。
  現在、ジンクのクラック・ハウス布教活動は大きな形で実を結んでいる。現在のトレンドであるエレクトロやフィジェット・ハウスのシーンにまで波及する大きな波を起こしている。彼の先見性にはまったく脱帽である。
  そして今年の4月17日、〈DBS〉にて待望の再来日を果たすことが決定した。今度はドラムンベース界のレジェンドではなく、ベースマスター・レジェンド、DJジンクとして最高のクラック・ハウス・セットのみならず、日本仕様の〈DBS〉限定セットを披露してくれるはずだ。各地の大型フェスや大箱をロックしているそのセットをいまから楽しみに準備しておこう。だてそれは、正真正銘のUKパーティ・チューンを体感できる貴重な日になるのだから!

  さて、もうひとりの大物プロデューサー、スクリームだが、今年に入って立て続けにリミックス・ワークをリリースしている。アーバン・ダブステッパー、シルキーの「Cyber Dub」のウォブリー・リミックスや〈Non Plus〉からインストラ:メンタルのディープ・アトモスフェリック・ドラムンベース「No Future」を[Skreamix]としてウォブリー・ダブステップに昇華したカッティング・エッジ・アンセムなど......これは昨年2月にベンガと再来日した際、ダブプレートとしてバック2バック・プレイしたのを記憶している。しかも彼らのような言わば"若手"DJ/プロデューサーが全編レコードによるアナログ・プレイであったのは予想外のことで、衝撃的な嬉しい出来事であった! UKではいまだ古き良きダブプレート文化がちゃんと若手にも受け継がれている。アナログの素晴らしさ、貴重さが再認識されたセットでもあった。もちろん筆者も、それを継承するアナログ・オンリー3台セットであるのは言うまでもない!
  そして来る2月13日〈DBS〉にてドラムンベース界の皇帝、ゴールディーが再来日する。とともに、スクリームの実兄、ハイジャック〈HIJAK〉が初来日! ダブステップの最高峰〈FWD〉、〈DMZ〉でレジデントを務めるシーンのパイオニアのひとりである彼のダブステップ・イズムを体感できる貴重な日になるだろう。

2. Seba & Kirsty Hawkshaw / Joy (Face To Face) | Secret Operations

2. Seba & Kirsty Hawkshaw / Joy (Face To Face) | Secret Operations  こ、これは! 聴いた瞬間そう思った......背筋を走り抜けた衝撃の余韻がいまでも感覚として残っている。いったい何だろう......この感覚は......鳥肌が止まらない。いま、執筆しているときでも残っている。頭から離れないコードのメロディ。もしかしたら巡り会ったのかもしれない。自身が思い描く最高の曲の地点に限りなく近い作品に......ひとつ言えるのは、明日から向こう1年いや2年、自身のDJバックに"必ず" 入ることが決定したことだ。
  "セバ"〈Seba〉ことSebastian Ahrenberg。スウェーデン出身である彼のプロデューサー起源は、〈Good Looking〉のサブ・レーベル〈Looking Good〉から1998年にリリースされた「Connected/Catch The Moment」だった。当時はアートコア全盛、オリジナリティ溢れるコズミック・アートステッパーとしてLTJブケムが見出したひとりである。この後、〈Good Looking〉の契約アーティストとしてアートコアの傑作アンセム「Planetary Funk Alert/Camouflage」を1998年、「Soul 2000/Waveform」を1999年に発表する。
  とくにこの時期の筆者のお気に入りは「Soul 2000」だった。流麗なエレピの旋律から始まる序章......そこから呼応するシンセの冷たくも気高い響きに美しくはまる高速ビーツ。すべてのサンプルが絶妙に当てはめられた、これぞまさにパーフェクト。1995年から聴きはじめたドラムンベースで初めてそう思った曲が「Soul 2000」だった。そして、それを超える衝撃、完成度を誇る作品が今回リリースした「Joy (Face To Face) 」だ。セバの、北欧ならではの寒くも美しく共鳴する深層深い作曲センスは、ひと言で表せば"天才技"だ。
  ヴォーカルとして共演しているカースティ・ホークショウ(Kirsty Hawkshaw)は、ロンドン出身のシンガーソングライター。90年代にテクノよりのポップ・バンド、オーパス・スリーのメンバーとして活躍していた。バンド解散後、ソロとして主にクラブ・シーンのヴォーカルとして、さまざまなアーティストと共演している。コラボレーションでとくにヒットとなったDJティエスト〈DJ Tiesto〉とのトランス・アンセム""Just Be"やプログレッシブ・ブレイクス・ユニット、ハイブリッド"〈Hybrid〉の「All I Want」、「Blackout」などが有名だ。ドラムンベースのシーンにおいては、主にセバのセルフ・レーベル〈Secret Operations〉からのリリース、彼のプロデュース・パートナー、パラドックス(Paradox)との共作、はたまたエレクトロ・ステップ/トランス・ドラムンベースのパイオニア、ジョンビー(John B)との「Connected」など幅広く活躍している。その艶やかかつ幻想的な起伏を生む高揚感溢れるヴォーカルは、クラブ・シーンに欠かせない存在として現在も各方面からオファーが絶えない。とにかく彼女は人気ヴォーカリストである。
  さて、「Joy (Face To Face) 」の解説だが、オープニングの寂しげなバック・トラックからオートメーションによりじょじょに入ってくる高速ブレイクビーツ、トランスのエッセンス溢れるサンプルを叙情的に組み込み、妖しげなレイブ・ベースラインを絶妙に注入する。その後、スライトリー・トランス的サンプルの音数を増やしながらファースト・ブレイクへの到達でカースティのヴォーカルの感情とベースラインが最高潮に達するエピック・リエディット。これが、少しづつ進むごとに深みを増して、深海の奥地で繰り広げられているレイヴと言ったところで、曲が終わった後にも入り込んだ残響感が心の芯まで残り、決して離れない。
  自身はこれを待っていた。何度も聴きながら、そういう結論に行き着いた。この境地に辿り着く作品と出会えてこの上なく幸せであり、このふたりの偉大なクリエーターが今後もこの境地を何度も更新し続けてくれることを期待する。

#2:アナキストに煙草を - ele-king

アナキストに煙草を ――そう、やっているあいだはたしかに楽しかった。が、それも家に戻って自分たちの姿をテレビで見るまでの話で、私に関して言えばテレビがポイントだった。(略)革命はテレビで報道されなければならず、このショーにおいて我々はベトナム平和運動という派手なテレビ・コマーシャルに登場したエクストラに過ぎなかった。現在このことを私はいたってシンプルに要約できる。「もし我々が1968年の反米デモから何かを学ぶ取ったとすれば、デモは何の役にも立たないということである」
 が、私の思考はもう少し深く及んだ。ポスト・マクルーハン時代に生まれたカルチャーの俗物たる私は、(略)自分に他にもっとやるべきことがあるとわかっていた。私は単に大衆のひとりでいるのではなく、大衆に向けたコミュニケーションによって貢献すべきだった。新聞、雑誌、映画、テレビ、ロックンロールのレコード。こういうものこそが変革の武器になるんだ。
       ミック・ファレン著『アナキストに煙草を』(赤川夕起子訳)

 フォーガトン・パンク――僕がこの連載にこんな題名を付けたのは理由がある。この言葉を見つけたのは『ガーディアン』の記事のなかだった。忘却されたパンク――なんて言葉だ、そしてある意味、なんて言い得ているんだ。

 実に長いあいだ、僕はかれこれ30年以上も「パンク」というタームはつねに素晴らしいもの、自分のアイデンティティとしては非の打ち所のないもの、そしてそれはタイムレスに輝けるコンセプトであると信じてきた。おめでたい話だが、さすがにこれだけ生きているとそれが万能ではないことが気がついてくる。むしろ「パンク」という言葉に嫌悪を抱いている人は少なくない。クラブ・シーンにおいても「パンク」嫌いの人に会ってきた。しかしそれだけならまだいい(それがゆえに「パンク」なのだから)。僕は......ひょっとしたら今世紀においてそれは、本当にパンク=役立たずの言葉になっているのではないかと思うようになった。僕が15歳の頃は「パンクが好き」であるということは、それは市街戦に臨むゲリラ戦士の合い言葉のような響きを持っていた。異教徒たちの暗号だった。ティーンエイジャーにとっての秘密のパスワードだった。われわれはそこに「punk」と打ち込みさえすれば良かった。しかし、ポスト・モダニストが闊歩する現代においてパンクの反抗とはある種のジョークになりかねない......そんな悪夢が襲い、真夜中に布団から飛び起きる。

 とはいえ、考えてみれば、日本には青春パンクというジャンルがある(磯部涼の得意ジャンルだ)。そしてまた......日本のパンクは「政」よりも「性」に強いコンプレックスを抱いてきたフシがある。大江健三郎の有名な「セブンティーン」ではないが、スターリンにしてもじゃがたらにしても、電気グルーヴ(パンクではないが)にしても銀杏ボーイズにしても、ステージで全裸になった経験を持ち、またそういう人たちは売れている。ザゼンボーイズにしても「抑えきれない性的衝動」だし。

 もっともストゥージズやヴェルヴェッツをその起源とするなら、パンクに「性」のオブセッションがあったことは事実だ。セックス・ピストルズというネーミング......、ピアッシングしたジェネシス・P・オリッジ......。が、それと同等に彼らのパンクは「政治的」でもあった。そこへいくと日本は「性」や「性愛」に偏っているように見える。ピューリタニズムとは違ったカタチで、「性」が抑圧されているからなのだろうか、それとも近代以前の日本が「性」に寛容だったことの記憶がそうさせているのだろうか......。セックス・ドラッグレス・ロックンロール......そしてこんな書き出しからはじまるこの原稿は、まったく別のところにワープするのであった。 [[SplitPage]]

 「それは決して責任逃れというわけではなく、たんにより人生に近いレヴェルで......」とミック・ファレンは書く。昨年末から今年の1月にかけて彼の著書『アナキストに煙草を』を読んでいる。60年代末のロンドンにおいて、ロバート・ワイアットに"プロト・パンク"と評されたザ・デヴィアンツのリード・ヴォーカリストであり、アンダーグラウンド新聞『IT』の編集者および〈UFOクラブ〉スタッフ、ホワイト・パンサー党英国支部結成や数々のデモ活動を経て、そして70年代は『NME』の記者となり、やがて小説家になった人物による英国カウンター・カルチャー史――いや、帯の言葉が言うように「カウンター・カルチャー風雲録」である。

 「たんにより人生に近いレヴェルで......」、ファレンがボブ・ディランについて綴ったこのフレーズが読みながら頭にこびりつき、そして読み進むにつれてそれが僕のなかで光明になった。何か、ほんのわずだが答えに近づけたような気がしたのだ。「そうか! それだ! そうだろ!」と......(ビールを何缶も飲みながらそう思っただけなので、まあ、たかが知れているだろうが)。

 まずは簡単に本書の紹介をしよう。カウンター・カルチャーにおける痛快な回想録というのは、自分でもずいぶん読んできたように思う。好奇心があったし、若い頃は憧れもあった。ケン・キージーのようなヒッピーからアメリカの新左翼、ないしはイルカ語を話せうるというグレゴリー・ベイトソン、CIAのLSD調査に関する記事まで。しかし考えてみればその舞台はつねにアメリカで、イギリスにおけるそのスジの翻訳物はたいしたものが出ていない。まずはそういった観点から言っても『アナキストに煙草を』は興味深い。〈UFOクラブ〉においてシド・バレットがいかに超越した王様であったのか、いかにぶっ飛んでいたのか、こういった細かいエピソードは僕には嬉しい限りだし、他にも心温まる話がたくさんある。ローリング・ストーンズが大麻で逮捕されたとき大麻解放のデモ行進まであったとか、キース・ムーンがピーター・セラーズと一緒に皮のコートにナチのヘルメット姿でクラブにやって来た話とか、1972年のアルバム『ホワット・ア・バンチ・オブ・スウィーティーズ』においてまったく素晴らしいアートワークを誇る、ホークウィンドとともに当時のロンドン・アンダーグラウンドの脅威として記憶されるピンク・フェアリーズについての文章が読めるだけでも僕は嬉しい。

 もうひとつこの本で面白いのは、イギリスにおける60年代の左翼運動と音楽との関係が詳細に描かれていることだ。ハチャメチャだがパワフルで、イギリスらしい政治的抵抗が満載である。さらにもうひとつ、伝説のバンド、ザ・デヴィアンツのバイオグラフィーとしても読める。このバンドは、ピンク・フロイドがサイケデリックと左翼運動のお化け屋敷から逃げ出してしまったため、それを一身に担ってしまったというなんとも業の深いバンドでもある。MC5に対するロンドンからの返答とも言えるかもしれない。実際に深い交流があったわけだし、ウェイン・クレイマーが警察のおとり捜査にひっかかり逮捕されたときにもファレンは居合わせている(それはとても悲しい話だ)。

 そしてさらにさらにもうひとつ、ファレンが音楽ライターであり『NME』の記者だった経歴もあるので、イギリスのポップ・ジャーナリズムが何故ああも面白いのかというところの秘密を垣間見ることもできる。70年代後半のパンクの時代から『NME』の黄金時代を築いたニック・ローガンが、酒を浴びるように飲み、ドラッグをお菓子のように貪りながら路上やライヴ会場で暴れ、そして左翼系の出版物に関わっていたファレンをよくもまあ編集部にヘッドハンティングしたものだと感心する。セックス・ピストルズの登場を受け入れる体制はメディアの側でも準備が進んでいたのだ。

 そんなわけで、この本は多様な側面を持っている。読む人によってひっかかる箇所も違ってくるだろう。僕なりに大枠を言えば、UKポップ・カルチャーにおける「音楽、政治、ドラッグ」の話だ。

 政治の話で言えば、この文章の冒頭にファレンが自らの経験を踏まえた上で導き出した言葉――「もし我々が1968年の反米デモから何かを学ぶ取ったとすれば、デモは何の役にも立たないということである」――は印象的で、人によっては挫折を意味する敗北的な告白に思われるかもしれないが、しかし偉大なるギル・スコット・ヘロンとは真逆の理論「革命はテレビで報道されなければならない」は、ポップ・カルチャーといういかがわしい産物のなかにいかようにしてその企みを放り込み、より多くの人間をその気にさせるかという魂胆、そしてそれを面白がってやろうという気概が隠されている。これはおおよそイギリスのポップ・カルチャーのみが執拗にこだわっているところで、いまでも彼らはそのアティチュードに疑いを持っていない。マッシヴ・アタックやポーティスヘッドにしても、あるいはゴリラズにしても、あるいは......自らを左翼だと主張する二木信には是非とも聴いてもらいたいマニック・ストリート・プリーチャーズにしても。

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 もうひとつ僕の感想を言えば、まあ......、最近はたいてい缶ビール(大量に家に積まれている)を飲みながら読んでの感想なので、たいそうなことではないのだけれど、先述したように、「より人生に近いレヴェル」から綴られるという"言葉"についてだ。ザ・クラッシュもザ・スペシャルズも、自分の人生に照らし合わせながら言葉を吐いているだけだとも思えるし、ここ10年における日本のラッパーの面白さもそれに尽きるのだ。

 以下、少し長いが本書において重要な箇所を引用してみる。

 ――が、かと言って、何らかの形で強制的な平等化がおこなわなければならないと考えた人間に、私はたいして共感を覚えないのである。それはあまりにも安易な道であり、もっとも極端な形では、ポル・ポトとクメール・ルージュによって採用された方法だった。彼らはイヤー・ゼロを宣言し、すべての人間を極度に悲惨で貧しく無学な農民に貶め、その未来に狂喜しない者を皆殺しにしたのである。すべての人間を平等に悲惨な状況に追い込むことを目指すいかなる革命にも、私は大きな懸念を感じる。(略)心の奥底で私は俗物なのである。個人の権利と自由について情熱的な関心を抱いてはいるが、同時に人生が提供してくれるものを享受することに目がない。まわりにある本や音楽やヴィデオテープが好きだし、12年もののスコッチ、ヴィンテージ・ワイン、上質なチーズ、イチゴとクロテッド・クリーム、晴れた午後に飲むカクテル、グスタフ・クリムトの絵画やヘルムート・ニュートンの写真を愛し、ドラッグも手に入る限り最上のものを選ぶ。美しく奔放な女性に魅かれ、彼女たちが私に魅かれることもたまにある。血統書付きの猫や金魚や日本のアニメが大好きだ。
(略)が、同時に私はカネに対する執着心が全然ない。まったく非商業ベースの独創的なアイデアを追求するために、赤貧でもやっていけるだろう。が、共産党員やナチ幹部や議長にそうしろと言われたからといって、不味いペーストを塗ったトーストで食いつなぎ、白黒テレビを見ながらセメダインを嗅ぐ生活はしたくないのだ――

 ザ・ストリーツがファースト・アルバムでやったことと言えば、リズラとプレステとクラブ三昧の「俗物」である自分の日常を語ることでしかなく、しかしそれがゆえ重要な指標になりえたとも言える。あの頃はセカンド・サマー・オブ・ラヴの残滓もまだあったし、自分をふくめてポップ・カルチャー全体が"ムーヴメント"=大きな物語というオブセッションを抱えていた。数年前に三田格と宇川直宏の〈マイクロオフィス〉で続けていたトークショーのテーマも「ムーヴメントのなさ」がテーマだったし、先日の田中宗一郎とのトークショーでもこのことは話題になった......というよりさんざん迷子になりながら、結局のところこのことについてアーでもないコーでもないと話してきたように思っている。一部の方々には後ろ向きな考えであると思われたかもしれないけれど、僕はものすごーく前向きに、とりあえずいまは、そんなもの(大きな物語)にこだわらなくても良いじゃないかと話したつもり。あるいは、もしそれをこれからまた新しく話すのなら、くどいようだけれど、「より人生に近いレヴェル」からはじめたいと思っている。要するに、地に足が着いた言葉で。

 それともうひとつ興味深いと感じたことがある。ファレンがセックス・ピストルズにおいてもっとも感心したのが(史上初めてイギリス訛りでロックンロールを歌ったことと)、そして例のアメリカ・ツアーの最後のステージでジョニー・ロットンが吐いた有名な台詞――「Ever get the feeling you've been cheated?」(だまされていたという気分を味わったことがあるかい?)――だったということ。それがファレンのような古典的なモダニストからすれば「ポスト・モダンの狡猾な詐欺」に見えたという、これもまあ、当たり前と言えば当たり前の話か。ジョニー・ロットンだって一生懸命だったし、大変だったんだろう。しかし当時のロットンが覚えた「だまされた」という感覚は、セックス・ピストルズそれ自身が持っていたポスト・モダニズムに由来する。それはセンセーショナルに売り出されたピカピカの商品でもあったのだ。そして、商品であることを自ら止めたのがポスト・パンクなのだから、あの時代とのアナロジーで語られる現在のシーンを嘆くのもどうかと思う。

The Deviants
The Deviants
Disposable

 さて、冬の3時半は日の角度から言って夏の6時半だ。稲垣足穂のように黄昏に生きる人間として、また今日も冷蔵庫を開けて缶ビールでも出すか......。忘れられたパンクのひとつであるザ・デヴィアンツの『ディスポーザブル(使い捨て)』でも聴きながら......。

 最後の最後にもうひとつ引用。

 ――もし革命の最初の構想が個人を解放して自分の夢を追い、自分の可能性を追求する自由を与えることだとすれば、その革命がたちまち夢を制限して、可能性を阻む場合、何を達成できるのだろうか? この葛藤に身を投じることはアーティストの義務かもしれないが......(略)。

 葛藤がそのまま音に出ているのが、例を挙げれば、そう......もう言わなくてもわかるでしょ、彼ですよ、彼。ファレンの翻訳を僕に教えれてくれたのも彼だった。

CHART by STRADA RECORDS 2010.01 - ele-king

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1

RADIOHEAD

RADIOHEAD I LOVE TO KEEP(10inch) SENSEI PLATES(US) / 2010/1/8 »COMMENT GET MUSIC
Master KevとTony LoretoがRADIOHEADをリミックス!SHELTER系の作品を彷彿とさせる黒いパーカッション・ビートがカッコいいディープなヴォーカル・チューンに仕上がっています!ビート・トラックも収録!

2

JOE CLAUSSELL

JOE CLAUSSELL WITH MORE LOVE SACRED RHYTHM (US) / 2009/11/20 »COMMENT GET MUSIC
A面には13分超の「With More Love Dance Version」を収録!Joeらしい骨太で疾走感のあるビートと軽快なリムに、哀愁漂うエモーショナルなギターソロが秀逸!多くのミュージシャンが参加していることで「生」ならではの力強さが前面に押し出された抜群のインスト!Body&SOULではこの1枚に収録されているDance Versionと限定Box Setに収録されるエクスクルーシヴVersionを立て続けにプレイ、終盤に差し掛かった時間帯にクラウドを音に酔いしれさせたことの記憶に新しい作品!B面にはMenrtal Remedy名義でリリースした傑作「The Sun The Moon Our Souls」の限定CDに収録されていたEntreaty」と「Kotu Rete (atmospheric reprise)」の2曲をカップリング!

3

HOMEWRECKERS

HOMEWRECKERS NOT MY BUSINESS CIRCUS COMPANY(GER) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
DAVID MANCUSOがヘビープレイした「HOME WRECKERS REWORK」も記憶に新しいドイツの三人組HOMEWRECKERSの新作がCIRCUS COMPANYから登場!ざっくり言うと「気だるく妖しい男性ボーカルの乗ったミニマル・テック・ハウス」なのですが、じわじわ加速していくような展開の巧さ、フロア栄え抜群の硬質&極太ファンキーなシンセ・ベース、幻想的&シリアスな上ものなど、絶好調時のCARL CRAIGを思わせる圧倒的とも言えるサウンド・クオリティーの高さは必聴ものです。B面2曲目では同レーベルよりDAVE AJUがリミキサーとして参加

4

MICHEL CLEIS

MICHEL CLEIS LA MEZCLA-REMIX EP feat.TOTO LA MOMPOSINA MOSTIKO(EU) / 2010/1/26 »COMMENT GET MUSIC
Luciano率いるCadenzaよりリリースされ2009年度を代表する空前の大ヒット作となったMichel Cleis「La Mezcla」のリミックス12インチがベルギーのMostiko傘下のBelgian House Mafiaから登場!ディープ・ハウス・ファンならベテランCharles Websterのミックスは必聴!DefectedからCopyright、BPitch ControlからPaul Kalkbrenner、Roog & Greg Electronics主催のDJ Roog、とハウス&テクノの実力派がリミキサーとして集結した充実の一枚!

5

GUILLAUME&THE COUTU DUMONTS

GUILLAUME&THE COUTU DUMONTS THE PUSSY SHEPHERD MUSIQUE RISQUEE(GER) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
OSLOやCIRCUSCOMPANY等からのリリースでもお馴染みGUILLAUME & THE COUTU DUMONTSがAKUFEN主宰のレーベルMUSIQUE RISQUEEから12インチをリリース!パーカッション系トラックが得意な彼らですが、今作では黒くグルーヴィーなディープ・トラック「Raw」がオススメ!ソウル~ファンク系のヴォーカル、コーラスのサンプリングもカッコイイ!

6

V.A

V.A PRIME NUMBERS EP E11 PRIME NUMBERS(UK) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
Trus'meが主宰するこのレーベルからの新作12インチはMr.Scruff & Kaidi Tatham、Motor City Drum Ensembl、Andresら3組のアーティストを収録したEP!中でも人気絶頂のMotor City Drum EnsembleによるB1が最高!突進する黒いグルーヴ感がたまりません!

7

I:CUBE

I:CUBE FALLING EP VERSATILE (FR) / 2010/1/20 »COMMENT GET MUSIC
フランスの人気レーベルVERSATILEからI:CUBEが12インチをリリース!オススメはB面に収録されている「Un Dimanche Sans Fin」!グルーヴィーなダンス・クラシック調の洗練されたインスト・チューンです!

8

NICO PURMAN

NICO PURMAN RHAPSODIES VAKANT (GER) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
CurleやMule ElectronicからもリリースしているアルゼンチンのクリエイターNico Purmanの12インチ!図太いベースにアフロ的なパーカッションが入ったB面「Funk Forest」がグッド!テック・ハウスと呼ぶには黒すぎるサウンドがカッコイイ!

9

V.A

V.A REMAKE MUSIQUE VOL.4 REMAKE MUSIQUE(FR) / 2010/1/20 »COMMENT GET MUSIC
フランスの注目レーベルREMAKE MUSIQUEからの第4弾EP!パーカッシヴ&トライバルな使えるハウス・トラックを中心に人気クラシックGrace Jones「La Vie En Rose」のエディット的作品なんかも収録!

10

TRUS'ME

TRUS'ME IN THE RED(W-PACK) FAT CITY(UK) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
2ndアルバム!ソウルやジャズ、ハウス、ブギー等が渾然一体となった黒いサウンドが圧巻!AMP FIDDLERやPAUL RANDOLPH、LINKWOOD、PIRAHANAHEADらも参加した大充実盤です!

Charts by JAPONICA 2010.01 - ele-king

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1

AMAZIAH

AMAZIAH SLOWLY CLAREMONT 56/UK / 2010/1/4 »COMMENT GET MUSIC
大人気CLAREMONT 56の人気コンピ"ORIGINALS"最新第4弾に収録されていたスローモーなロッキン・ディスコの大傑作、AMAZIAH"SLOWLY"を片面一曲仕様で収録した限定10インチが入荷!全世界300枚、しかも国内ではジャポニカ独占少量入荷というレア化必至のアイテムです!これは見逃せませんよ!

2

MARK E

MARK E WHITE SKYWAY UNDER THE SHADE/UK / 2010/1/14 »COMMENT GET MUSIC
MARK E新作!A面収録の"WHITE SKYWAY"は持前のへヴィなビートとグイグイと持っていかれる抜群のビルドアップ感を兼ね添えたスペイシーなビートダウン・トラックを披露!相変わらずいいとこ取りなウワネタ・サンプルのミニマル感もばっちりです!B面にはこちらもスペイシーなジャジーなリフに包まれながら進行する高揚感がたまらないディープ・ハウス・トラック"NOCTURN"を収録!

3

KINGDOM☆AFROCKS

KINGDOM☆AFROCKS イチカバチカーノ JAPONICA/JPN / 2009/12/20 »COMMENT GET MUSIC
ライブハウス/クラブに野外フェスまで数多くのイベントに出演、その熱いライブパフォーマンスが全国のダンスミュージック・フリークスの間で注目を集め、あのアフロ界の重鎮トニー・アレンも太鼓判を押す日本最強アフロバンド、キングダム☆アフロックス待望のファースト・シングル!今年リリースされたファースト・アルバムが日本全国、海外でも話題を呼んでいるBASED ON KYOTOのプロデューサーDAICHIによるリミックスも収録!

4

COFFEE & CIGARETTES BAND

COFFEE & CIGARETTES BAND ELECTRIC ROOTS 001 ELECTRIC ROOTS/JPN / 2009/12/24 »COMMENT GET MUSIC
BIRDSは定番ブレイク"EDWIN BIRDSONG/RAPPER DAPPER SNAPPER"をベース・サンプルに、小気味良いリズムで進行するドラムが重なりあうブレイクビーツ~ニュー・ディスコ・トラック!ヘヴィ・ドラムに 80'Sなヴォイス/シンセ・サンプルを随所に入れつつ巧みなドラムの抜き差しで展開をつけるヒップホップ・トラック"HEAVY SWING"、ビートダウン・マナーなビート構築にウワネタ・ループがハマる全方位対応型クロスオーヴァー・トラック"JAMS"と、どれも隅々までC&C BANDの細かい拘りが行き届いた全3トラック収録!

5

V.A.

V.A. TTJ EDITS #26 TTJ/FRA / 2009/12/25 »COMMENT GET MUSIC
RICHARD VILLALOBOSが2006年にPLAYHOUSEよりリリースした37分超えの長編大作クラシック"FIZHEUER ZIEHEUER"の元ネタを天才TODD TERJEがリエディット。乾いたパーカッションとフリーキーなフォーン、トランペットが織り成すオリエンタルな世界観を、原曲の雰囲気を壊すことなく相変わらずの抜群のセンスで展開させています。これは何が何でも押さえておきたい!

6

UNKNOWN

UNKNOWN ANGOLA -/FRA / 2010/1/11 »COMMENT GET MUSIC
ヒットを連発する"DAI"シリーズより、またも強力な一枚が到着しました!CARLCRAIGのリミックスが大きな話題を集めたCESARIA EVORAの大名曲"ANGOLA"を大胆使用!今でも耳にするエスニック/アフロの傑作ディープ・ハウスを使用し見事にダンサンブルなトライバル・ハウスに仕上げた傑作トラックです!今回も間違いなく話題となりそうですよ!

7

SETENTA

SETENTA APARIENCIAS HOT CASA/NL / 2010/1/14 »COMMENT GET MUSIC
パリのラテン・ディスコ・ファンク・バンドSETENTAによるクロスオーヴァー・サウンド全開の最高すぎる7inch!ラテン/ブラジリアンなジャズ・ファンク~ディスコ風味の"APARIENCIAS"はギターやエレピ、パーカッションによるトロピカルな味付けいい塩梅な爽快グッド・ナンバー!B面には疾走感溢れるパーカッシヴ・ビート、ラテン~アフロ・ヴォーカルとが爽快感を際立てるラテン・ジャズファンク・ディスコ"SONRISA"を収録でこちらもかなりいい出来です!

8

SCOTT FERGUSON

SCOTT FERGUSON EVOLUTION OF A REVOLUTIONARY EP FERRISPARK/US / 2010/1/11 »COMMENT GET MUSIC
デトロイト近郊ハイランドパークを拠点に、マニアックなディープ・ハウス作品をリリースしてきた人気を集めてきたベテランSCOTT FERGUSONの新作が到着!GIL SCOTT-HERON"THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED"のアジテーションを使用し、エモーショナルな漆黒のアーバン・ディープ・ハウスを展開!大推薦ビート・ダウン!

9

SLOW MOTION REPLAY

SLOW MOTION REPLAY THINK BETTER / RAGGED MUSTANG SOUL SOURCE/JPN / 2009/12/15 »COMMENT GET MUSIC
THE CHAMP×"THINK TWICE"とベタに大ネタを組み合わせながらもイナタさや違和感が全くなく逆に洗練されたタイトなグルーヴを織り成す超絶マッシュアップ・ブレイクスに仕上がった"THINK BETTER"!そしてB面にはアフロ・ジャズ傑作"CURTIS AMY/MUSTANG"を下敷きにし、ラグドなビートにグルーヴィなジャズ・アンサンブルで迫るジャジー・ブレイクビーツ"RUGGED MUSTANG"を収録!

10

KEZ YM

KEZ YM BUTTERFLY EP YORE / GER / 2009/12/14 »COMMENT GET MUSIC
KEZ YM新作!!THEOやKDJにも通じるスペイシーなシンセ・コードに黒光りした声ネタを被せたデトロイティッシュ・ディープハウス"BRIDGE TO BRIDGE"やピッチダウン・ハウス・トラック"LOW TIDE"等収録ですが、中でもやっぱりレアグルーヴ感に重点を置いた生な質感が最高すぎるブレイクビーツ・ハウス"BUTTERFLY"がとび抜けてます!!日本人離れしたこの黒い感覚やばいです。

Shop Chart


1

MARK E

MARK E Mark E Works 2005-2009 MERC / UK / 2010/1/6 »COMMENT GET MUSIC
RE-EDIT、NU DISCO、BEATDOWN。2000年代の潮流となった新しいHOUSEの形が産んだ、天才プロデューサーMARK Eのベスト盤にして1STアルバム。JISCO、RUNNING BACK、GOLF CHANNELやCREATIVE USEからの覆面プロジェクトの音源まで収録した「BEST」の名に恥ない選曲。低音のグルーヴが毎回素晴らしく、個人的にも彼の作品はオススメです!!!

2

RYO MURAKAMI

RYO MURAKAMI Lost It EP PANRECORDS / GER / 2009/12/26 »COMMENT GET MUSIC
今、日本人MINIMAL│TECHNOプロデューサーの中で、一番脂が乗っている男といえば、このRYO MURAKAMI!!! 練られた上で配置されたであろう、モダンなシンセと音ネタ使いのバランスはベテランの域。ヴァイナルならではの硬質でメタリックなリズムと相まってフロアでは相当鳴ります。LEROSA(OSTGUT、APNEA)REMIXを収録し、こちらもっ絶妙なテンションでGOOD!!!!

3

JPLS

JPLS Depths MINUS / CAN / 2009/12/19 »COMMENT GET MUSIC
RICHIE HAWTINのアナザーサイド、PLASTIKMAN直系、「DEEP FROM DARK」スタイル全開のアルバム!! 軽快なリズムが利いたトラックを多くリリースするMINUSの中で、最も異質。ノリのいい、ミニマル・テクノからは相当離れた暗すぎる質感を施されたトラック群が並ぶ作品。隣室から蹴られない程度に音量を上げて、焼酎でも飲みながら、暗い部屋で聴くのにオススメです。

4

VILLALOBOS

VILLALOBOS Contempt PLAYHOUSE / GER / 2009/12/22 »COMMENT GET MUSIC
VILLALOBOSのPLAYHOUSEからのリリース作が一挙再発!!! この機会に全部買っとくのがコレクターとしてのマナーなんでしょうが、個人的にはコレをPUSH!! ヴァイナルの端から端まで目一杯溝を使い、繰り返しの美学を刻み込んだ15分ver.と22分ver.を収録。オリジナル・リリースは、LADOMAT2000から'95年(!)。早すぎです。どうかしてます。

5

SPACE RANGERS

SPACE RANGERS Keep On Movin' EDWIN BERG / US / 2009/12/28 »COMMENT GET MUSIC
「D-Train / Keep On」と、「New Jersey Connection / Love Don't Come Easy」をRE-EDIT!名曲D-Train"Keep On"のDUB VERSIONの流麗なピアノ部分からの展開はオリジナルでは3分弱しかないのでたいてい2枚使いが主流ですが、これは見事なEDITで使い勝手のいい1枚です!

6

MARIO BASANOV

MARIO BASANOV Apres 4 FUTURE CLASSIC. / AUS / 200912/26 »COMMENT GET MUSIC
リトアニアの新鋭クリエイター、Mario Basanovによる傑作です!!オリジナルは朝方に似合うドリーミーシンセポップ。それをEskimoからの2枚のシングルが大ヒットしたDowntown Party Networkがリミックス!ドリーミーな世界観全開の仕上がり!

7

SOCIAL DISCO CLUB

SOCIAL DISCO CLUB Acid Town HANDS OF TIME / UK / 2010/1/12 »COMMENT GET MUSIC
ポルトガルのSOCIAL DISCO CLUBのNEW!!LIPS"FUNKY TOWN"使い?というよりEDITという趣ですが、これが見事な仕上がり!ACID HOUSEなボトムに印象的なシンセを見事に合わせ、決して上げネタとしての使用ではなく、ぐいぐいと引っ張っていくという感じの構成がお見事!

8

V.A.(MANMADE SCIENCE FT. JOHN THROWER,SOULPHICTION,PHLEGMATIC...)

V.A.(MANMADE SCIENCE FT. JOHN THROWER, SOULPHICTION, PHLEGMATIC...) Motorsoul Vol. 1 PHILPOT / GER / 2009/12/26 »COMMENT GET MUSIC
「ポスト」デトロイト、ディープハウスのレーベルとして、ここ数年注目を集めるドイツのレーベルPHILPOTが2005年にリリースしたコンピレーションのデッドストックを発見!!!! 説明不要SOULPHICTIONや、その変名JACKMATE、MANMADE SCIENCE、ベテランTODD SINESやMOLEなど実力者のみが集う良質のアンダーグラウンド・ハウスコンピレーション!!!

9

DJ QU

DJ QU Party People Clap DECONSTRUCT MUSIC / US / 2009/12/14 »COMMENT GET MUSIC
NY地下シーン「台風の目」的存在のLEVON VINCETが運営するDECONSTRUCTからの、絶品インダストリアル・ハウス。DJ QUによるTRACKをLEVON VINCET、JUS ED等がREMIXしたWパック。全トラックの硬派っぷりに惚れ惚れしますが、ANTHONY PARADSOLE & FRED P による、"沼系ACID HOUSE" REMIXがイイ!!!

10

YOUANDME

YOUANDME Ornaments Symphony ORNAMENTS / GER / 2009/12/15 »COMMENT GET MUSIC
未だ詳細不明ながら、マニアを中心に信頼の広がりを見せる「ORNAMENTS」が初のCDをリリース。YOUANDMEよる、レーベル音源をMIXしたオムニバスといった体裁ながら、渋くダブ要素と硬質なインダストリアルなサウンド・メイキングでまとめられたクールな楽曲郡は、家で聴いても、何ら損なわれることはないです。限定333枚のスチール缶ケース。お見逃し無く。

vol.2:ポップ・アップ・ショップ~NYE - ele-king

 12月後半からニューヨークはとても寒くなり、大雪、ブリザードの日もあった。それでもホリデーなので気分はそわそわしがち......そんな最近のニューヨークでよく話題になるのがポップ・アップ・ショップだ。




インサウンド・デザイン・ストア(ポップ・アップ・ショップ)

  不況のせいか、最近は街に空きスペースを見かけるようになった。ポップ・アップ・ショップとは、期間限定でそのスペースを利用する方法で、洋服屋は在庫を裁くためにサンプル・セールをしたり、ホリデー向けのイヴェント会場になったりする。道を歩いていると、こんな場所にこんなに面白そうなお店が......というような場面によくあたる。私が長年(といっても5年ぐらいだけれど)このシーズンになると、通っているのが、Wired store。ホリデー・シーズンになると、ポップ・アップ・ショップとして登場する。最新の電子機器を体験できたり、ギフトに最適なグッズを売っていたり、音楽を聴けたり......とにかくここはいるだけで楽しめる、カッティングエッジでテクノロジー・デザインなスペースだ。ノリータ、ソーホーなど、年によっていつもヒップな場所に出現する。今年は、ミート・パッキング。

  インディ系オン・ラインショップとして知られるイン・サウンドも、ホリデーの期間だけギャラリー・スペースをポップ・アップ・ショップとしてオープンする。売られている物は普通のレコードではない。シルク・スクリーンのポスター、ポータプル・プレイヤー、Tシャツ等々、ギフトよりの物ばかりだ。サイトを見ても最近はCDやレコードよりもグッズに力を入れているような気がする。音楽はダウンロードだからだろうか。

  さらに興味深かったのが『ナイロン・マガジン』、『バースト』、『Lマガジン』、『フレーバー・ピル』等々のメディアや音楽関連のショー・ペーパーがオーガナイズした〈スコア! イズ・ア・ポップ・アップ・スワップ〉と言うイヴェントだ。ブルックリンのサード・ワードという場所で開催されたこれは、洋服、音楽、アート関連品、本、DVD、メディア、家庭用品、家に眠っている要らない物を持ちより寄付することで成立する。会場に入ると、そこにあるものは何でも持っていってOK。洋服のコーナーはまるで戦場のように、新しい物が来るとすぐさまなくなる。フリーだと欲張っていろんな物を手に入れようとしがちだけれど、人が要らないと思うものは、やっぱり要らない。こうすると、本当に必要な物が見えてくる。自分たちがいかに要らない物をたくさん持っているかを思い知らされるというわけだ。今の世のなか、無い物は無いというほどモノに溢れている。エコだエコだと騒ぐ前に、まずは自分の身の回りをシンプルにすることから2010年ははじめようと思う。

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 それではNYE、代表的なイヴェントを以下に挙げてみる。
  パティ・スミス& ハー・バンド@ バワリー・ボールルーム
  ディスコ・ビスケッツ @ ノキア・シアター
  MSTRKRFT (3 am set)@ ウエブスター・ホール
  フィッシャー・スプーナー @ フィルモア・ニューヨーク・アット・アー・ヴィング・プラザ
  デトロイト・コブラ @ マーキュリー・ラウンジ
  アンティバラス @ ニッティング・ファクトリー
  パッション・ピット (DJ set)@ ピアノス
  スクリーミング・フィメールズ、トーク・ノーマル、フランキー・アンド・ジ・アウツ、CSCファンク・バンド @ ケーキ・ショップ
  ティーム・ロベスピア @ ブルアー・フォールズ
  エクセプター @ モンキー・タウン
  ゴールデン・トライアングル @ グラスランズ


〈ケーキ・ショップ〉での物販物

トーク・ノーマル

スクリーミング・フィメールズ

 モンキー・タウンがクローズするので気になるところだが、今回は、わざわざ橋を越えて〈ケーキ・ショップ〉に行く。目的は、トーク・ノーマル、スクリーミング・フィメールズ、フランキー・アンド・ジ・アウツ、CSCファンク・バンド。ちなみに、フランキーは元ヴィヴィアン・ガールズ、クリスタル・スティルズ、現ダム・ダム・ガールズのドラマーで、CSC・ファンク・バンドは、元USA・イズ・ア・モンスターのメンバーのバンドだ。カウントダウンはスクリーミング・フィメールズ。

  トーク・ノーマルは、ブルックリンのバンド(女の子2人)で、2009年にファースト・アルバムを発表して、ソニック・ユースやティーン・エイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークス、ライトニング・ボルトなどとも共演をしている。ダークで、ヘヴィーなギターリフと、変則なドラムビートと女の子ヴォーカルのノスタルジックなスクリーミングを特徴としている。ゴースト・パンクとでも形容しようか......。

  スクリーミング・フィメールズはスリーター・キニーとピクシーズを足して2で割ったような感じ。ニュージャージーはニュー・ブルンスウィック出身で、自分たちで300もののショーをブッキングし、去年はデッド・ウエザーやダイナソーJr、アークティック・モンキーズのオープニングも務めた。それでカウントダウン――彼らは11時55分過ぎに登場し、「ニューイヤー? 誰が気にするの?」といいながら、さっさと演奏をはじめてしまった。おいおい......なので、0時になったときは、演奏の真っ最中だった。1曲目が終わって時計を見たら12:02amだった。なんともあっけない2010年の幕開け......。でもこの10年を表すのには、こんなラフな感じが合っているのかも。

  いろんな場所でのカウントダウンの様子を聞いた。ニューヨークといえばタイムズスクエアだが、何でも30日に爆弾騒ぎがあったらしく、バックパックを持っている人は誰も入れなかったとか。結局何もなかったのだけど。

  そんな訳で、2010年無事にあけ、今日も動いている。何が起こるか、わくわくしながら、リアルなミュージックシーンをお伝えできていれば嬉しい。

Girls - ele-king

 ガールズの『アルバム』というアルバム。まったく"検索"に向いていない。なんでこんなネーミングなんだ? 検索されたくない? だとしたらその気持ちはよくわかるけど。

 これは、サンフランシスコのソングライター、クリストファー・オウエンスとプロダクション及びスタジオ・ワークを担当するチェット・Jrホワイトの二人組のファースト・アルバムだ。クリストファー・オウエンスは、俳優リヴァー・フェニックスが子供時代を過ごしたことでも知られるヒッピー系カルト教団、チルドレン・オブ・ゴッドで「外界から隔離されながら世界中を放浪」しながら育ったのだという。この教団では信者獲得のための売春がおこなわれていたと言われ、子どもたちも性的虐待を受けていたという。元フリートウッド・マックのギタリスト、ジェレミー・スペンサーもメンバーだというその教団で、各地を移動しながら大道芸で音楽とバスキング(投げ銭)を覚えた。16歳になったクリストファーは、俗世間から隔離されたその生活から脱出、テキサス経由でカリフォルニアにたどり着き、パンクとドラッグ漬けのありふれた青春を開始したという。そこで恋人と二人で音楽をはじめたものの、失恋。新しく組んだ相棒がJRホワイトだった。
 という凄みのあるエピソードはしかし、『アルバム』からはまったくうかがい知ることは出来ない。

 80年代初頭のブリティッシュ・ニューウェイヴ、たとえばエルビス・コステロや、フリッパーズ・ギターが多大な影響を受けた"ギターポップの神様"と言われるオレンジ・ジュースを思わせるサウンド、メロディ、そしてヴォーカル・スタイル。とくにメロディはどの曲も「これは何のカヴァーだっけ?」と思いたくなるほど、懐かしく親しみのあるものに聴こえる。
 基調はR&Bとロックンロールで、モータウン調の"Ghost Mouth"やオーティス・レディングを彷彿させるものもある。"Big Bad Mean Motherfucker"では、ジーザス・アンド・メリーチェーンのようなリヴァーブをかけたギター、英米の音楽誌で高い評価を受けて今ではプレミアムがついているファースト・シングル"Hellhole Ratrace"はエルビス・コステロのようで、"Lauren Marie"ではサーフィン・サウンドのディック・デールのようなトゥワンギー・ギターと、過去の音楽が寄せ集められているとも言えるし、きらめいているとも言える。年長者なら「なつかしい」と感じるのではないか。ほとんど著作権への挑戦とも言えるほどのこうした寄せ集めへの評価が、「パクリ」ではなく高い評価を得るようになっていることは興味深いできごとだ。

 クリストファーはチルドレン・オブ・ゴットで体験したヒッピー思想に基づく文化を否定することなく、自分のものとしているのかもしれない。ただ、その歌詞の多くは、カリフォルニアでの生活で起きる小さなエピソードをモチーフにしていて、ラリってしゃべる友達同士の他愛ない話や希望のない愚痴、思うようには行かない恋なんかがストーリー性豊かに歌われている。このアルバムのテーマは「ハートブレイクとデザイア」だと彼は語っている。ヒッピーの親世代が作り上げたサイケデリックとスピリチャルの培養箱を出た彼は、そこで得たすべてを捨てるのではなく、新たに足を踏み入れた俗の世界でも60年代風=ヒッピー風なライフス・タイルを続け、漠然とした夢はあっても、いわば永遠につづくかのような取るに足らないような生活の、取るに足らない出来事へと向ける視線にはやさしいものがある。

 とても面白いと思うのは、曲によってまったく異なるクリストファーのヴォーカルスタイルだ。とてもすべてを一人のボーカリストが歌っているとは思えない表現力だ。この音楽が好きな人は、ぜひともヴィンセント・ラジオ( VincentRadio.com https://vincentradio.com/ )のベイビー・レコーズのコーナーをお聴きください。

Flashback 2009 - ele-king

写真左:旅人&やけのはら。七尾旅人は年明け早々の1月9日に恵比寿リキッドルームでライヴあり。
写真右:モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ。こちらは七尾の前日の1月8日に恵比寿リキッドルームでの来日ライヴが決まっている。

  整合性というのはつねづね僕のテーマのひとつである。が、気が変わるのは人間の性分であるし、だいたい雑誌というのはせっかちだ。2009年のベストを選ぶのに、早いところでは11月前半にその締め切りを言い渡される。12月初旬に売られるからだ。だから下手したら最後の2ヶ月はその年から除外されることになる。2ヶ月もあれば、人間、恋に落ちることもあるだろうし、死にたくなることだってある。運命を変えるには充分な時間だ。こういうとき、webは良い。本当に年末になって、それを書くことができるのだから。

 2009年は自分にとって、僕の長いようで短い人生の平均値を基準に考えた場合、ずば抜けて最低レヴェルの経験をするという忘れがたい年となった。非常ベルは鳴りだし、事態は臨界点に達した。デヴィッド・クローネンバーグの映画に放り出され、未知の絶望を感じするほか術がなかった。事態が信じられなかった......なんて惨めな! ときに自虐的で、まるで『地獄の季節』の最初の10ページのような呪いに満ちた茫洋たる暗黒大陸においても、僕にとって幸いだったのは、信じるに値する友人知人が何人もいたことだった。ありがたいことだ。

 いまこれを書きながら、僕はイギリスのプロト・パンク・バンドとして知られるザ・デヴィアンツのリーダーであり、『NME』の名物ライターでもあったミック・ファレンの著書『アナキストに煙草を』を読んでいる。ちなみにこの素晴らしい本を、こともあろうかこのご時世に刊行している「メディア総合研究所」は、他にもここ数年、『アメリカン・ハードコア』や『ブラック・メタルの血塗られた歴史』といったとんでもなく喜ばしい本を出している。このように、政権が代わっても思ったよりアッパーにはならない世のなかにおいて、貴重な光を届けてくれている稀な出版社だ。で、そう、60年代のカウンター・カルチャーから70年代のパンクにいたるまでの現場感覚に満ちたその『アナキストに煙草を』読みながら、僕はどこの国においてもいつでも同じことは同じなのだなと確認したことがある。そのひとつ、60年代の回想の下りだ。「特筆すべきは、我々全員の頭の中を独占していたひとつのこと、すなわち自分の人生がこれからどうなっていくのか、何が起こるのか、そういう類のことはほとんど話題に上がらなかったことである。地球の未来について語ることはあったかもしれないが、自分個人の未来について話すことはめったになかった。この点において我々は、十年以上経って出現するパンクと似ていた」(赤川夕起子訳)

 まったく......僕のまわりにいる連中はたいがいそうだ。個人の人生の未来など、考えていないわけではないだろうが、まず語らない。それがゆえに勝ち負け社会の確固たる敗者として生きているのかもしれない。我々は結局のところ「政治理論などほとんどどうでもよかった。それが我々の魅力であり同時に没落した原因」(前掲同)だった。

 しかし......、ところが僕はこの夏、自分の将来――といっても半年後だが――についていろいろ考えた。せこい未来だけれど、事態は思ったより深刻だった。さすがに考えざる得なかった。ど、ど、ど、どうしようか? と妻に訊いた。し、し、静岡に帰ろうかな? 僕は焼き鳥を焼いている自分を想像した。臆病な僕はしばらく妻の顔を直視できなかった。が、妻は、考えてみれば僕のようなデタラメな人間と結婚するくらいであるから、それなりの覚悟はできていたのかもしれない。まあ、そんなわけで、ずーっと家にいるようになって肩身の狭い思いをすることはなかったけれど、とりあえずできる仕事はぜんぶした。5歳の息子は「なんで仕事いかないの?」と訊いたが、「これが仕事だ」と言った。

 河出書房新社の阿部さんのおかげで1冊の本を作ることもできた。三田格、松村正人、磯部凉、二木信というひと癖もふた癖もあるライターと一緒に作った『ゼロ年代の音楽――壊れた十年』という本だ。「壊れているのはお前だろ!」と言われそうだが、それはまったくその通りで、しかしそうした個人の属性とはまた別の次元で、我々はこのゼロ年代の音楽ついて語り、書いた。150枚のアルバムも丁寧に紹介した。僕は編集者としてバランスを整えようと努めたが、結局はいくぶん偏ってしまった。それは二木信がネプチューンズやミッシー・エリオット他3枚のレヴューを辞退したからではなく、まあ著者全員が偏執的といえばそうだし、言い訳すればそもそも時代がそういう時代である(断片化されている)、と僕はその本のなかで解説した。欠点もあるが、それを補うほどの長所もある本が完成した(1月末に刊行します!)。

 つまりそんな事情もあって、僕は12月のある時間を集中的に、ゼロ年代というディケイドについて頭を使い、スケジュール管理に神経をすり減らしていたので、クリスマスのこの時期、正直言えば2009年という1年についていまさら強い気持ちがあるわけではない。たしかに2ヶ月前まではあった。が、いまはもう薄れてしまったのだ。

 僕は11月上旬に『EYESCREAM』誌でまずそれをやって、半ば過ぎに『CROSSBEAT』誌でアンケートに答え、続いて『SNOOZER』誌の特集に参加した。ところがこの2ヶ月は年末ということもあってやけにバタバタしていた。清水エスパルスは悪夢の5連敗を喫して、坂道をゴロゴロ転がった。僕はそれにいちいち打ちひしがれている暇もなく、原稿を書いて書きまくって、そして音楽を聴いていた。

 10月30日にユニットでiLLのライヴを見終わった後そのままクワトロで湯浅湾のライヴに行って、11月に入って2本のトークショーをこなし、静岡でDJ(もどき)をやって、七尾旅人のライヴに行って、新宿タワーレコードでXXXレジデンツの発売記念トークショーを宇川直宏とやった。12月は〈ギャラリー〉に踊りに行って、中原昌也のライヴに行って、で、その数週間後に毛利嘉孝の司会で中原昌也と東京芸大で話した。そしてそれから......久しぶりに"締め切り"という名の絶対的概念に苦しめられた。もちろんこの2ヶ月、僕はこの「ele-king」に情熱を注ぎつつ、と同時に、いま平行して作っているアーサー・ラッセルの伝記本の編集もしている(これがまた面白いのよ)。ここに記したすべてが僕にとって刺激的で、思考の契機となる。

 そしてこの数ヶ月というもの、僕は自分でも信じられない量の音楽を聴いている。まだ文字にしていないものを含めると自分の限界まで挑戦したと言っていい。寝ている時間と人と会っている時間以外は、ほとんど聴いていた。僕の長いようで短い人生の平均値を基準に考えた場合、ずば抜けて最高レヴェルの密度だろう。もうそうなると、2009年を回想することなど、ホントにどうでもよくなってくる。

 せっかくなので、いくつか気になったことを書き留めておく。2009年の最高の曲のひとつは七尾旅人+やけのはらによる"Rollin' Rollin'"だ。奇しくも、東京NO1ソウルセットとハルカリが90年代のバブルな感覚を懐かしむように"今夜はブギーバック"をカヴァーするかたわらで、"Rollin' Rollin'"は"現在"を表現した。この曲の良さは水越真紀さんがレヴューで書いている通りだと思う。つまりこれは、この10年、バブルな思いとは無縁だった世代の素晴らしい経験が凝縮されたアーバン・ソウルだ。

 RUMIの3枚目の『HELL ME NATION 』もこの2ヶ月で好きになったアルバムだ。彼女は、このハードタイム(厳しい時代)を生きる女性のひとりとしてのリアリズムを追求する。30歳という自分の年齢まで歌詞にしながら、彼女の意気揚々とした姿はこの国の女性アーティストたちが手を付けてこなかった領域に踏み入れているように思える。とても元気づけられる作品だ。もしクレームを入れるとしたらジャケのアートワークだけ。それ以外はほぼパーフェクトだ。ラップものでは、他にも何枚か素晴らしいアルバムに出会えた。『EYESCREAM』にも書いたが、S.L.A.C.K.は最高だ。言葉も音も良い。そこには不良少年の毒と清々しさの両方がある。2009年に彼は発表した2枚、『MY SPACE』と『WHALABOUT』はどちらとも良い作品だ。出勤や登校で異様なテンションを発する朝の駅に、遊び疲れた身体を引きずりながら友だちや恋人と一緒にいた経験がある人ならこの音楽を身近に感じるだろう。疎外者たちのメランコリアだ。ファンキーという点ではTONO SAPIENSが良かった。嗅覚の鋭い連中が集まる下高井戸のトラスムンドやSFPの今里君、あるいは磯部涼が絶賛するSTICKYはまだ聴いていない。

 SFPも、4曲だが新録を発表した。リリース元の〈Felicity〉は、もともとはポリスターでフリッパーズ・ギターやコーネリアス、〈トラットリア〉をやっていた櫻木景という人物だ。例の「Rollin' Rollin'」も〈Felicity〉からのリリースで、いわば90年代前半の渋谷系に思い切り関与していた人間がいまこうして七尾旅人やSFPを出しているところが"いまの時代"を物語っていると言えよう。

 とまれ。僕は、いまこの日本にはふたりの強力なパンクがいることを知っている。真の意味での反逆者と言ってもいいし、彼らはこの国の"自由"の境界線を探り当てているという点においてパンクなのだ。そのひとりは中原昌也。彼はいわば、映画『If...』のマイケル・マクドウェルで、グレアム・グリーンが『ブライトン・ロック』で描いた17歳のピンキーだ。いずれ校舎の屋根に上って散弾銃をぶっ放すかもしれない。そしてもうひとりがSFPの今里。SFPの「Cut Your Throut」は興味深い作品で、ここがイギリスなら〈リフレックス〉や〈プラネット・ミュー〉から出ていてもおかしくない。SFPのハードコアは、いまとなっては誰もが思い描けるようなハードコア・サウンドで統一されていない。ポスト・モダン的にスキゾフレニックに展開されている。「Cut Your Throut」にはラウンジとサイケデリックとノイズコアが同居しているが、そういう意味でSFPはこのシングルで新しい領域に踏み入れたと言える。当たり前だがハードコアやパンクとは様式(スタイル)ではない。サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』もまたハードコアであるように。

 電気グルーヴが彼らの20周年を祝うアルバムを発表したのも2009年だった。これを書いているたったいま(12月25日)も、僕の5歳になる息子は電気グルーヴの「ガリガリ君」を聴いている。僕が奨励したわけではない。能動的に、しかも繰り返し何度もだ。「2番がちょっと恐いんだよね」と感想を言っている。ちなみに「2番」とはオリジナルの次に入っている別ヴァージョンのこと。まあ、電気グルーヴにしてもクラフトワークにしても、何が素晴らしいかと言えば、あの罪深きトランス性によって3歳児から40歳児までをも興奮させるところだ。この年代になってわかることだが、それはエレクトロニック・ミュージックの"強み"のひとつだ。石野卓球からは、90年代に彼が体現した危うさはなくなってしまったけれど(誰も彼を責められない、あのまま突っ走っしることなんか誰にもできない)、彼の芸は円熟の領域に入ろうとしている。『20』を聴きながら、僕はそう思った。

 2010年にはマッシヴ・アタックの5枚目のオリジナル・アルバムが待っている。ヴァンパイア・ウィークエンドのセカンドも控えている。自分たちがいまどの方向性を選べばいいのか理解しているという意味において、どちらも良い内容だった。時代の空気は変わろうとしている。日本の音楽も面白い方向に転がっていくかもしれない。

 

■Top 25 Albums of 2009 by Noda

1. Atlas Sound / Logos(Kranky/Hostess)
アニコレがビーチ・ボーイズならこちらはビートルズ。毒の詰まったポップ。
2. S.L.A.C.K. / Whalabout(Dogear Records)
21世紀の薬草学におけるビートと日常生活のささやかな夢。
3. Girls / Album(Fantasy Traschcan/Yoshimoto R and C)
素晴らしきバック・トゥ・ベーシック。ここにも夢と星がある。
4. Volcano Choir / Unmap(Jagjaguwar/Contrarede)
ポスト・ロック時代の山小屋のロバート・ワイヤットといった感じ。
5. Major Lazer/Guns Don't Kill People...Lazers Do(V2 /Hostess)
ダンスホールにおけるスラップスティック。
6. Animal Collective / Merriweather Post Pavilion(Domino/ Hostess)
サイケデリック・ポップとエレクトロニカの華麗な融合。
7. The XX / XX(Young Turks/Hostess)
アリーヤとヤング・マーブル・ジャイアンツとの出会い。
8. V.A. / 5 Years Of Hyperdub(Hyperdub/Ultra Vibe)
アンダーグラウンド・サウンドにおける最高のショーケース。
9. Mortz Voon Oswald Trio / Vertical Ascent(Honest Jon/P-Vine)
『ゼロ・セット』から26年。1曲目を聴くだけで充分。
10. Grizzly Bear / Veckatimest(Warp /Beat)
ポール・サイモンが『キッドA』をやった感じ。"Two Weeks"は最高。
11. Micachu / Jewellery(Accidental / Warnner Music Japan)
批評精神に満ちたポスト・モダン・ポップのレフトフィールド。
12. Flying Lotus / L.A. EP CD(Warp/Beat)
レフトフィールド・サウンドにおける期待の星。
13. Rumi / Hell Me Nation(Pop Group)
リアリズムと世俗的だが素晴らしいファンクネス。
14. Bibio /Ambivalence Avenue(Warp/Beat)
エクスペリメンタル・ヒップホップの甘い叙情詩。
15 鎮座DOPENESS / 100% RAP(W+K東京LAB /EMI)
植木等とラップとダンスホールの出会い。
16. Moody /Anotha Black Sunday(KDJ)
アンダーグラウンド・ブラック・ジャズ・ファンク・ハウスの底力。
17. Dominic Martin / The Annual Collection(BeatFreak Recordings)
ジャングルの知性派によるエレクトロニカ・ポップ。
18. Toddla T/Skanky Skanky(1965)
モンティ・パイソンによるダンスホールといった感じ。
19. Speech Debelle / Speech Theory(Big Dada/ Beat)
取材してがっかりしたが、良いアルバムだと思う。
20. Fuck Buttons / Tarot Sport(ATP/Hostess)
スタイリッシュかつダンサブルに変貌。次作で化けるでしょう。
21. Dirty Projectors / Bitte Orca(Domino / Hostess)
NYのアート・ロックのお手本のような1枚。
22. Antony and the Johnsons / The Crying Light
(Secretly Canadian / P-Vine)
現代のディープ・ソウル。EPのみの"Crazy In Love"も最高。
23. 2562 / Umbalance(Tectonic /AWDR/LR2 )
ダブステップにおけるフューチャー・ファンク。
24. Juan Maclean / The Future Will Come(DAF / P-Vine)
ヒューマン・リーグ・リヴァイヴァルを象徴する作品。
25. Beak> / Beak (Invada /Hostess)
ポーティスヘッドによるクラウトロック賛歌。

 深夜の12時をまわった頃だ。ブースでは替わったばかりの二木信がフォクシー・ブラウンが歌うレゲエをプレイして、そらからもう一発、ダンスホールに繋ぐ。僕はマイクを持ってDJを紹介。闇のなかからヤジが飛ぶ。ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ! よく知っている声......と思ったら高橋透さんが荒声を上げながらDJブースの前までやって来る。そして、その晩初めて会う二木に向かって「営業DJしてんじゃねーぞ、おら!」とでかい声でピシャリ。ひぇ~、そんなこと言わないでやってよ、透さん......。11月22日、ここは静岡市両替町。リアル・アンダーグラウンド、〈rajishan〉。

 それは21日の夜からはじまった、クラブ〈FOUR〉の4周年を祝うパーティだった。二日目のその晩はスペシャルということで〈rajishan〉と〈FOUR〉との共同開催となった。何故ならアンドリュー・ウェザオールがやって来る。〈エレクトラグライド〉のために来日していた彼は、翌日静岡まで来てくれたのだ。僕といえば、当初の予定ではイギリスの生んだ偉大なインディー・レーベルの祝祭に向かうはずだったけれど、躊躇なく予定を変更した。地元のパーティに参加することにしたのだ。

 時間を戻そう。21日の夜......えーと、7時過ぎぐらい? 両替町の裏通りにある〈PERCEPTO RECORD〉に二木を連れて行く。店内には、メルツバウ、ヘア・スタイリスティックス、ECDなんかのCDが壁にずらっと並んでいる。そして棚にはソウル・ミュージックとパンクの中古盤がごっそりある。全国の物好きな連中にはすっかり有名なこのユニークなお店を経営するのは、アイデア・オブ・ジョークの森川アツシさんだ。僕が初めてストラグル・フォー・プライド(SFP)のライヴを観たのも、森川さんが静岡で企画したイヴェントだった。あのときSFPはECDと一緒に静岡でライヴをやった。たしか......2003年の5月だ(清水エスパルスがジュビロ磐田に惨敗した夜だった)。

PERCEPTO RECORD〉はいまでも"ハート・オブ・オルタナティヴ"だ。僕はたちは......やけのはらのこと、中原昌也のこと、ドリアン君のこと、七尾旅人のこと等々、いま身近にある素晴らしい音楽について話した。「ローリン・ローリン」はもうとっくに売り切れてしまったんですよ、と彼は言った。いま追加注文分を待っているんです。へぇー、すごいね、あれは本当に良い曲だよね。うん、すごい良い曲。「ローリン・ローリン」は口ずさんでしまえるほど聴いている。やけのはらのパートを暗記するほどに。

「来年は、やけのはらとドリアンを静岡に呼びたいんだよね」と森川さん。それは良い、見たい! 中原昌也も呼ぼう! とか、テキトーなことを言っている間に、二木はお店にあった得体の知れないインディー盤を2枚買った。

次はのだやにGO! 二階の座敷には、その晩のゲストとして東京から来てくれたDJ NORIさんがいた。今年DJ生活30周年を迎えた大ベテランだ。そして、〈Luv & Dub Paradise〉を主催する五十嵐慎太郎とその仲間たち――市内で服屋〈NEWPORT〉を営む三ヶ尻吉伸君、〈FOUR〉を切り盛りする海野隆之君、〈Luv & Dub〉を手伝うDJ Rumy、で、二木も一緒になっておでんを貪り、ビールを飲んだ。

 きっとどこの町にも音楽好きがいる。ダンス・ミュージック好きが何人か集まればパーティがはじまる。DJが生まれ、クラブがオープンして、クラバーがやって来る。より多くのアルコールが消費され、より多くの汗とより多くの小便が流され、より多くの水が飛ぶように売れる、より多くの夢とより多くの虚無が生まれる......静岡もそうだ。
 この15年以上ものあいだ、静岡のクラブ・シーンは他のどの町とも同じように、良いときも悪いときもあった。最悪なこともあれば最良のこともある。その町でいちばんのDJはその町を仕切る......などという幻想がこのシーンを支配したこともあった。派閥ができて、仲違いも生まれた。いろんな試練が小さな町の小さなシーンを襲った。

 どこかで聞いたような話だろう? でもね、静岡のような小さい町は少なからずそうした影響から逃れられない。いろいろ大変なことが起きる......面倒な事態に巻き込まれる......ところが、町の音楽好きは自分たちがやってきたことを止められない。過去の努力が報われることを信じているというよりは、本当にそれぐらいしかやりたいことがないからだ。犬が走ることを止めないように......いや、この喩えはよくない。

 とにかく、その曲がりくねった歴史のなかで、シーンの開拓者として、あるいはテクノDJとして初期からずっとそこにいるDJ KATSUは、昨年、10年ものあいだ地元のDJ連中やDJ予備軍たちに12インチを配給し続けていたレコード店〈MASSIVE RECORD〉を失った。シーンは動揺した。涙した人もいれば失笑した人もいた。それでもおおよそは親身になっていた。が、新しくはじめたクラブも思うようにいかなかった。静岡、大丈夫?などと東京の関係者たちが囁いた。大丈夫だ、静岡ではテクノとサッカーは信仰なのだ。たぶん。

 同じようにシーンの初期からいる五十嵐は、10年前に自分の店を失い、彼の歯も失っている。それでも懲りずにパーティを続けている。3年前に家族の事情によって静岡を離れ、東京を拠点にするようになったいまでも、五十嵐は静岡と東京を往復する。僕は長いあいだこの男の正体がわからなかったが、いまは理解しているつもりだ。DJ KATSUについても、ある程度は。

 DJ KATSUと五十嵐――ふたりとも長くシーンに関わりながら、それなりの代価を払ってきた。必要以上に手痛い目にも遭っている。タフと言えば本当にタフな連中だ......というか、高くを望まなければなんとかなるのだ。ま、いっか。それでなんとかやっていける。だから(......と言っていいのかどうか)静岡には他にも面白いDJやクラバーが何人もいる。みんなに共通しているのは、町に対する愛情と遊びへの飽くなき追求心だ。それが彼らを町に出させる。この町のミュージック・ラヴァーが週末を部屋で過ごすことなど、まず許されない。
 
 二木がおでんを食べているその前で、僕はビールをがぶ飲みしていた。21日の晩、そうしなければならない理由が僕にはあった。個人的な理由であり、共同体的な理由でもある。その日の午後、静岡のサッカー競技場では、清水エスパルスが公式戦4連敗を喫した。これでリーグ戦3位以内の望みも途絶えた。試合内容も希望を持てるものではなかった。この敗戦はサポーターをしたたかに打ちのめし、土曜日の夜のアルコールをうながした。チクショー、今夜は飲むぜ、二木! と言ったところで、話は盛りあがらないので、僕は二木を〈rajishan〉に連れて行くことにした。

 〈rajishan〉......それは静岡で暮らすミュージック・ラヴァーにとって"帰る家"だ。ここではDJ NOBUがまわし、ヨーグルトもALTZもDJ HIKARUも、あるいはイルリメも、とにかくこの国の腕の良いDJ連中がこの小さなハコでまわしている。バーのカウンターにはディスチャージのレコード(1984年のベスト盤『Never Again』)がいつまで経っても飾られている。このハードコア・バンドは自分たちのジャケに何度かサッチャーの顔を引用したものだけれど、その本当の意味をあの頃の僕はわかっていなかった。もちろんいまは骨身に染みてよくわかる。つまり、それほど彼らは"痛めつけられていた"のだ。「Life is like a pubic hair on a toilet seat」――「人生とは便座の上の陰毛のようだ」、ディスチャージはこう言ったものだった。「sooner or later you get pissed off」――「遅かれ早かれ、うんざりするときがくる」

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 その晩は〈SCUBA〉というパーティで、ブースには若い女性DJがいた。思わず鼻の下を伸ばす二木に冷や水を浴びせるかのように、彼女はハードなダブステップやグライムを繋ぐ。いま流行のハウシーなダブステップなんかではない。重たくてラウドなダブステップだ。格好いいね~。二木と一緒にしばらくその場にいることにした。「これって爆音で聴くとパンクだね~」などと話しながら踊った。ダブステップやグライムの魅力のひとつは、パンキッシュなハードさにある。クラブで聴くとそれがよくわかる。あのゴリゴリしたベースラインが、抑圧された感情をえぐってくるようなのだ。激しく身体を揺らしている二木を見ながら、僕はそう思った。

 それから僕たちは〈FOUR〉に行くことにした。〈rajishan〉から〈FOUR〉まで歩いて1~2分。夜の町をゆっくり歩きながらクラブに着くと、DJはちょうどSHOさんからNORIさんに替わるところだった。SHOさんもNORIさんや透さんと同じように、この国のオリジナル世代のひとりだ。1986年、NORIさんと透さんがNYに行ったその年、六本木の〈玉椿〉で働いていた五十嵐にハウス・ミュージックの洗礼を浴びせたDJのひとりでもある。

 SHOさんからNORIさんへ、オリジナル世代がブースに並ぶと、フロアの温度は否応なしに上がる。NORIさんがまわしはじめると、いたるところから叫び声、そしてクラッカーが鳴る。4周年オメデトー! NORIさん30周年オメデトー!などという雄叫びがハウスのビートに合間に聞こえてくる。その「オメデトー」は心の底からのオメデトーだ。

 東京のゴージャスなクラブに慣れた人がここに来たら肩すかしを食らうかもしれない。なんじゃこりゃ? これがクラブ? そう言うかもしれない。そんなヤツはさっそと帰ってくれ。地方の小さな町で、資本の後ろ盾もなくクラブを続けることは並大抵のことではない。というか、とてもクラブ営業だけではまわしていけない。海野君も昼間は他の仕事をしながら、夜は〈FOUR〉に顔を出す。まったくのDIY、まったくのインディペンデント・クラブ。このクラブのスタッフのひとりには、DJのCITYBOYがいる。彼は元々は東京の子で、働きながら都内でDJをやっていた。数年前、転勤で初めて静岡にやって来た彼は、町のシーンが気に入ってしまい、永住を決めた。それから会社も辞めて、いまは〈FOUR〉のスタッフのひとりとして働いている。

 NORIさんのパーカッシヴなハウスに身を任せながら〈FOUR〉で踊っていると、海野君から静岡のヒップホップ・チーム〈SUGAR CRU〉のメンバーを紹介された。二木も一緒ということで、いろいろと自主制作のCDをもらった(その音源についてはいずれ二木が紹介してくれる)。彼らは、その晩、最近両替町にできたヒップホップの小屋〈VIGO Black〉でイヴェントがあることを教えてくれた。〈VIGO Black〉のことは、実はSFPの今里君から聞いていた。この夏、今里君が静岡に行ったときに行ったそうだ。

 二木を連れて、〈VIGO Black〉に出向いた。そこは〈FOUR〉からほんの1~2分の、市内の小さな歓楽街のど真ん中にある。入口にはヒップホップらしい雰囲気が、集まってくる子たちからビシビシと溢れている。着ている服、年齢(若い!)、歩き方、そして音楽......。僕と二木はすっかり圧倒されながらこの文化の真っ直中でしばらく佇んでいた。「すげー、いいクラブでしたよ」と今里君は言っていたが、本当にそうだった。

 〈FOUR〉に戻ると、バーのあたりは夜の王族たちで溢れかえっていた。クラバー、町の顔役......ごっそりいる。DJ KATSUも来ていた。彼に会ったのは久しぶりだったので、いろいろ話したかったのだけれど、僕の口は重たくなっていた。「また店をやりますよ!」と、静岡のベテラン・テクノDJは頼もしい言葉を叫んでいた。そうか、それはすげーな、マジでがんばってくれよ。それにしたって......七転び八起きというか、このヴァイタリティは......。それともこれはレス・イズ・モアということなのだろうか......。

 ここのクラブ・シーンでは有名な話だが、DJ KATSUと五十嵐はある種のライヴァル同士だ。フランキー・ナックルズとロン・ハーディのようなものだ......と言ったら怒られるだろう。本当に哲学の違いなのかもしれないし、ただの意地の張り合いかもしれない。大方の見方としては、いまとなっては大した話じゃない。DJ KATSUがテクノなら五十嵐はハウスだが、それはマクロで見れば、カレーが好きかハヤシが好きかの違い程度だ。もちろん、小さな町ではどうしても週末の客を取り合うことになってしまう......。しかし、いまはそんなことを言っている場合じゃない。そうだろ! と我々はここ数年、何回も〈rajishan〉で話している。背中を丸めながらカウンターに並んで、いい歳した連中が酒臭い息を相手の顔に吹きかけながらムキになっているわけだ。

 話は変わるが、静岡のような小さな町の利点は、意見が違うヤツとも同じ場所にいざる得ないということだ。え? どういうことかって? つまり、東京みたいな大きな町では、会いたくないヤツとは会わなくて済ませることができる。しかし、小さな町では行く場所が限られているのでそうはいかない。とりあえず遭ってしまうし、一緒にやっていくしかない。もはや家族みたいなもので、共存するしかない。こうして地方特有のバレアリック感が育まれるのだ。

 二木は、僕の高校の同級生である森藤の家に泊めてもらうことになった。この年になって、高校の同級生でいまでも一緒に踊ってくれるヤツはもう森藤ひとりしかいない。淋しい話だが、46という年齢を考えれば妥当かもしれない。ちなみにこの男は、10年前は週末になると夜ひとりで高速を飛ばして西麻布の〈Yellow〉まで行って、朝まで踊って、そして朝日を浴びながら静岡まで帰ってくる生活を続けていた男だ。そう、彼は心底ダンス・ミュージックが好きなのだ。
 森藤は奥さんと一緒に〈FOUR〉まで迎えに来てくれた。もちろんただ来ただけではない。しっかり踊っていった......。
 そして午前3時過ぎ。僕は、二木をよろしくね~と言ってから〈FOUR〉を後にして、ひとりで夜の町を歩いて家に帰った。どうやって帰ったのかはあまり記憶にはないのだけれど......。

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 22日の夜8時、場所は再びのだやの座敷。透さんとDJのWang-Gung、地元のDJのYamada、そして五十嵐、海野君、あるいは二木と一緒に食べて、ビールを飲んでいた。透さんは前日に神戸でDJをやってその足でそのまま静岡へ、Wang-Gung君は江ノ島の〈OPPA-LA〉でDJをやってそのまま静岡へ、というふたりともご苦労なスケジュールだ。Wang-Gung君はデトロイト系のパーティでよくまわしている。働きながら好きでDJをやっている。この国の多くのDJと同じように。
 で、しばらくすると......なんとまあ驚いたことに、ムードマン一家が入ってきた。ムードマンに会ったこと自体が久しぶりだった。この一家は、三重の〈Eleven〉に参加して、そのまま静岡に寄ったという。急遽その晩〈FOUR〉でまわすことにしたそうだ。いやー、恐れ入る。彼らはどんな小さなパーティでも呼ばれれば行くのだろう。大雑把に言って、どこまでも音楽を愛するこういう人たちが、この国のクラブ・カルチャーのもっとも美しい場所を支えているに違いない。そういう意味で、ここはまだシーンの純粋さが保たれている......と、思っていたら、東京から下北沢〈SLITS〉店長だった山下直樹さんまで登場。ウェザオールのDJを聴きに高速バスに乗ってきたそうだ。で、地元の先輩で「両替町ブリストル化計画」を目論むKAKEIさんもやって来る。座敷に上がるなり第一声は「どうしたのよ、清水!」、ああ、ようやく僕と話が通じる人が来た。「いや、もう、健太は限界なんですかね?」、「すぐそういうこと言ってはダメだよ~」とKAKEIさん。なんの話かって? 清水エスパルスの話ですよ!

 10時を過ぎた。みんなでクラブに行く。まずは〈rajishan〉へ。

 〈rajishan〉では、五十嵐――DJネームはHakka-K(歯がないので)がすでにプレイしている。彼のキャラを物語るように、どっぷりと濃厚なハウスで攻めている。それから五十嵐より20も若いDJ Rumyにバトンタッチする。濃厚なハウスからセクシーなハウスに替わるとフロアからは思わず安堵のため息が漏れた......ようだった。
 12時からは二木の番だ。1時からは僕だ。酔いを醒ますためにウーロン茶をがばがば飲む。フロアでは地元のテクノDJ、YSKが暴れている。「清水どうしちゃったんだよぉぉぉぉ!」と彼は叫んでいる。そう、YSKは、地元の若手を代表するテクノDJであり、生活における軸ってもんを知っている男でもある。彼の叫びは僕の叫びでもある。奥ちゃんもいた。奥ちゃんもDJで、自分でもパーティを主催したり、DJ NOBUを静岡に呼んだりしている。〈FUTURE TERROR〉があるときは千葉まで行っている。
 役者が揃ってきた。暗闇の奥からは透さんの鋭い眼光が光り、DJ KATSUの姿も......、だんだん気合いが入ってきたので、僕は思わずマイクを握る。そして先述したようにしっかり二木を紹介してやった。「DJ Rumyさん、そして東京からやって来た二木信です!」

 久しぶりのDJは緊張する。レコードは前日の夜に慌てて選んできた。忙しくて選曲している時間がなかった。テキトーだったが、最初の曲を何するかだけはけっこう悩んだ。ビリー・フューリーの甘いバラードにするべきか、それともジニアスにするべきか。ジニアスはオール・トゥモロウズ・パーティのドキュメントタリー映画の試写に行って、もっとも感動したアクトだった。あのオルタナの祭典において、ウータン・クランの最年長者は特別な存在感を発揮していた。あらためて格好いいと思った。
 さあ、なにからはじめよう。二木の横に並んで考えた。ふと、数年前ここで初っぱなにアニマル・コレクティヴの"ザ・ソフテスト・ヴォイス"をかまして客にドン引きされた記憶が脳裏をかすめる。思わず、バッグから「リキッド・スウォーズ」を探した。そして、かけた。それから何をかけたのかは、書かない。neco眠るの「Dashi Culture」のALTZミックスは受けたよ。ありがとう、宮城。......それはまあともかく、今回は、自分のミックスの致命的なまずさを誤魔化すためにMCをやることにした。「えー、次の曲はですね、僕が今年いちばん気に入っているシングルです」とか言いながら、ブリアルをかけるわけだ。はははは。何やってんだか......。

 僕の次はKAKEIさんだ。KAKEIさんはずいぶんとエクスペリメンタルな選曲だった。彼がDJをしているとビートインクのスタッフに連れられてアンドリュー・ウェザオールがやって来た。前日の〈エレクトラグライド〉でウォッカを飲み過ぎたらしく、僕と同じ年のDJはホテルで休んでいたそうだ。が、ウェザオールは容赦ない握手攻めに遭い、そして背中をまるめて〈FOUR〉に向かった。僕もウェザオールの後を追って〈FOUR〉に行った。
 〈FOUR〉では透さんがまわしている。ファンキーなテクノがフロアを盛り上げる。ボーダーシャツを着たウェザオールがブースに入る。そして"孤独な剣士"は、いかにも彼らしいエレクトロ調のイルなミニマルをミックスする。あれほどミニマルは嫌いだと主張していた二木もフロアで踊っている。ま、いっか。
 しばらく踊ってからドリンクを買いにバーに行くと透さんがいた。「二木君、DJにとってもっとも大切なものは何かわかるか?」、ゴッドファーザーのひとりはバカでかい声で若い音楽ライターに問いかける。「何でしょう?」「それはな......」、二木の目をじっと見つめて話している。「スケベ心だよ!」、80年代のNYのアンダーグラウンドを経験しているこのベテランは、いきなり本質をぶつける。二木の顔がこわばっている......。
 議論に熱中するふたりをよそに僕はふたたびフロアへ戻る。いやー、こんなに踊ったのってすげー久しぶりだ。楽しいね! そう思いながら......あれ、そういえば、一緒に来たはずの我が妻はどこへ? クラブ内を探し回ったがどこにも見あたらない。〈rajishan〉にでも行ったのかな?
 踊りながら、どんどん気になってきたので、ミニマルで踊る二木を強引に連れ立って〈rajishan〉に行く。時間は......たぶん、4時前だろう。

 〈rajishan〉ではいつの間にか五十嵐がまわしている。仕方ない、しばらく彼の濃厚なハウスを浴びるよう。しかし......うー、さすがにもう飲めないな......でも、レッドアイを一杯。カウンターにいるミックンもすっかり音にハマっているようだった。気がつくとDJの石川君がいる。いつの間に二木がまわしている。そしてKAKEIさんとのバック・トゥ・バックがはじまる。店内にはムードマンの姿が......。
 ミックン、もう一杯レッドアイを......で、このあたりから記憶が途切れていく......森藤もいたな......たしか......。気がつくとソファーの上で寝ていた。
 やばいやばい。「野田、もう一回、〈FOUR〉行かねーか?」......誰だ? 森藤か? わかった、待てよ、行きますよ......DJは二木とKAKEIさん。二木がヒップホップをかけるとKAKEIさんは実験的なダビーな音で返す。うー、頭のなかがどうにかなりそうだ......。それから〈FOUR〉に行ってもう一杯。悪徳の液体が身体から感覚を奪っていく......って、何をいまさら......もうとっくにそうだった。DJはまだウェザオールで、相変わらず彼はエレクトロ調のミニマルだった。ドッチー・ドッチー・ドッチー・ドッチー......フロアで東京からやって来た友人たちに遭う。おお、藤井君じゃないか、すげーな、みんな......俺は......もうダメかも......付き合いの悪い男だと思わないでくれ......胃のなかから生暖かいものが喉のあたりまで上がってくる......もうこれ以上フロアにいてはならない......地獄のような虚無感が襲ってくる、悪魔のように容赦なく......トイレの前には人が並んでいる......五十嵐にひと言断って店を出る。
 通りをふらついてコンビニに入って、お茶を買うかどうか考えた。考えても無駄だった、財布は妻が持っているのだ。自分のレコードバッグ、衣類がどこに置いてあるのか記憶を辿った......。あとは記憶力と逆流したがる胃酸とどっちが速いかの勝負だ......。そ、そう、じ、じ、じ、じぃぃぃぃ人生とは......。


 
 翌日の昼過ぎ、五十嵐から電話。「お疲れで~す! あのさ、あの後、〈rajishan〉でムードマンと透さんのバック・トゥ・バックがはじまっちゃってさ、もう最高! すごかったよ!」......48時間マラソンを完走したばかりのランナーは元気な声でそう言った。そうか、それは良かった。本当に良かったよ......お疲れさま、みんな......それから永遠のルーディーたち......。
 今回の話はこれでおしまい。これはきっと日本のいろんな町に転がっている話。こんどはキミが、キミの言葉でキミの町について語ってください。よろしくな、頼むよ。


 
 ダンス・カルチャーは街の夜に欠かせない光景となった。(略)昼の明るい光がいまだにかなえられない理想郷の夢を見ながら、夜は光り、揺らめき続けている。
         ――ティム・ローレンス『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』

Flashback 2009 - ele-king

DJはいまや渡り鳥のように全国をまわっている。吟遊詩人のように旅を続ける。まるでフウテンの寅さんのように列車に揺られている。ベテランDJの高橋透が、1年を回想する!

1976年からDJ活動をはじめ、1980年にNYへ移住、1981年に一時帰国、〈椿ハウス〉、〈玉椿〉、〈CLUB-D〉などの80年代を代表する箱のメインDJを務める。1985年にNYへ戻り、DJとして活動する。1989年に帰国。その後も芝浦〈GOLD〉でのレジデントをはじめ、数多くのクラブ、パーティに関わる。現在は宇川直宏、MOODMANと主催するディープ・ハウスパーティ〈GODFATER〉のひとりとして活躍。ミックスCDとして『GODFATHER 10th ANNIVERSARY SPECIAL MIX VOL.1』、また自身の半生を綴った著書『DJバカ一代』がある。

  有名アナログ店舗の相次ぐ閉店にはじまり、日本のクラブ・シーンを長年牽引してきた老舗クラブ〈YELLOW〉のクローズ、音楽専門誌やカルチャー誌の激減など、2008年から2009年にかけてクラブ・シーンを取り巻く環境が大きく変化し「この先この業は大丈夫なのか?」って考えさせられた年初めではありましたが、終わってみれば「さほど心配する必要がなかったのか」って、例年通り数多くのパーティーが各地で開催されていたし、仲間内でのいつも通りのパーティ談義やイヴェントの評判を直接聞いたりネットで見たりね。今年の後半にはメディアもクラブもアナログ店も来年に向けて活発な動きがあることも知り、例の「サイバーノリピー事件」を除いては少しもネガティヴな状況じゃないのかな、っていうのが実感です。

  2009年を振り返ると、個人的には長年行きたかった沖縄を初体験できたことがまず嬉しかった。呼んでくれた友人ミーパンやリュウジ君クルーに熱く迎えられ、数ヶ月前から仕込んでくれたという特設のダンスフロア、ブースの前に設えられた銀色に光り輝く鳥居には沖縄の熱いエネルギーを感じさせられた。他にも、広大な庄内平野の田んぼのなか、看板もネオンも何も無く営業を続ける知る人ぞ知る山形屈指のアンダーグラウンド・パーティ〈ハーモニー〉"も相変わらずコアなクラウドだった。瀬戸内海の荒波が打ち寄せるファンキーなロケーションで毎年お盆に開催される姫路〈彩音〉も忘れるわけにはいかない。GODFATHERとしては3年連続で出演、年々進化し続けている。そして......DJ WADAくんと行った群馬桐生〈レベル5〉が10周年というのははっきり言って驚かされた。坂田頑張ってるわ! GODFATHERで最多出場を果たしている博多〈デカダン・デラックス〉に至ってはなんと21周年! 凄いのひと言だ。博多のクラウドは今年もタフだったしね(ナベさん、西やんありがとう)。初登場させてもらった神戸〈トゥループカフェ〉も16周年、楽しくプレイさせていただきました。で、青山〈ループ〉が14周年(望っチャン、花チャン、スタッフ全員お疲れ様)。野田さんの実家〈のだや〉を皮切りに〈ラジシャン〉と〈フォー〉でスタートした静岡〈フォー〉の4周年では静岡パワーを見せられた感じ。五十嵐&海野くんお疲れさまでした。文田に行けなかったのは残念だったけれど! 

  とにかく2009年はレギュラー参加しているパーティやイヴェントのほか、初めて呼ばれるクラブやパーティも多くて、たくさんの人たちとの出会いやその地域のダンス・ミュージック・ファンに僕のプレイを体感してもらえたこと、音楽好きが集まる小さなバーからライヴ・ハウス・パーティまで数多くのダンス・ミュージック・ファンと素晴らしい時間を共有できたことが最高に楽しかったし、嬉しかった。もちろんすべてのパーティに全力投球してきたし、それが自分の使命であり、自分にとってもっとも幸せなことだなと今年関わったすべての人に感謝しています。

  ここ数年、新たに生まれた店が多いことや無事に○周年を迎える店も多く、日本のクラブ事情を見る限り、バブル期の派手さは無いけれど着実に新たなアンダーグラウンド領域に入ってきているような気がして、これからまた面白くなりそうな感があります。だいたい僕が虜になったダンス・ミュージックの世界はそんなに簡単に無くなるはずはないだろうし、ヨーロッパでもアメリカでも基本的にはメディア以外何も変わってないと思います。その証拠にダンス・ミュージックのデータ配信ビートポートなどはますます元気だし、それは配信される音楽の多様性を見てもうなずけるでしょう。

  だから僕はダンス・ミュージックの先行きに関して何の心配もしてないし、来年以降がますます楽しみになっているくらいですから。僕らができることはまだまだあるように思うし、チャレンジすることもいっぱいある気がして、ワクワクしていますね。宇川くん野田さんタッグが『エレキング』のネット配信をそろそろスタートする予定もあるし、JEYPEGの修平くんたちはネットラジオで面白いことやっているようだし、マンハッタン・レコードもネットでの動きを活発にすると聞いて、新たな時代に突入しているんじゃないかなって強く感じます。

  ずいぶん長いこと海外に出ていないなーって最近思うのですが、よく考えてみると、とくに行かなくても国内で満足させられているのかな~て、つまり昔ほど海外への憧れが無くなってしまったということです。海外が遠かった当時と比べ、ネットで海外と日本の時差が無くなった今日、当然と言えば当然でしょうが、何年か前から自分の感覚がディスカバージャパンになっていることも作用しているようです。歳かもしれませんが、たぶん70年代に憧れたアメリカや80年代に憧れたニューヨークより、現代は日本のほうが面白いことをやっているんじゃないかってね、もちろんダンス・ミュージックの配信ではヨーロッパものが俄然多く、音楽を通じてヨーロッパの活気を知ることはできますが、それでもそこへ行って滞在したいという気にあまりならないんですね。それよりも日本人として、日本のダンス・ミュージック文化を大事にしようと思うのです。僕にとっていまは日本がピッタリくるというか、居心地よくなっているのかもしれません。

  僕は日本の歴史が大好きで、これまでずいぶんと歴史小説を読みあさってきました。とくに史実に基づいた物語が好きで、なかでもお気に入りの作家は司馬遼太郎です。歴史小説を読んでみて日本の優れた歴史上の人物に出会う度に、日本人として生きるということに魅力を感じて、この二度と来ないいまという時代のなかで日本人のためになるオリジナルな生き方をしたいって考えるようになっているのです。生意気なことを言うようですが、これも歳のせいかも知れません。

  いずれにしてもダンス・ミュージックの世界は経済に関係なく、確実に前を向いているから2010年は2009年よりも必ず面白くなるはずだし、僕らひとりひとりがそうしなくてはいけないって思っています。踊るという行為は、人類が誕生したはるか昔から受け継がれて来た尊い文化で、お祝いごとや悲しい出来事が起こる度に人間は踊ることで喜びを分かち合い、悲しみを発散してきたんです。僕らの時代になって、サブカルチャーとしてディスコが流行し、若者の心を捉えていまに至っていますが、これは世界的な潮流でもあるし、僕らにとって重要な文化なんです。僕はDJという職業に出会えたことは本当に幸せだと思っています。なぜならば皆がハッピーになれる時間を作り出せる側にいるからです。踊らせること、楽しませることが何よりも好きだからなんです。

  真剣にこの文化に取り組んでいる側からすれば、ノリピー事件は怒って当たり前の残念な出来事で、一般社会から見れば同じに見えるかもしれませんが明らかに異なる文化を作り出してきているはずです、それももう何年ものあいだです、でも世界には、黒服とV.I.Pと軟派がセットになったお金の匂いがするキラキラしたディスコ文化というのが僕らの世界と平行してずうっとあるし、そこへ集う人たちも多いという事実もあります。言ってみればそれもひとつのディスコ文化と言えるから比較はできませんが、心情的には一緒にしてほしくないわけです。

  ちょっと横道にそれましたが、2009年全般を考えると、クラブ・シーンにとっては過渡期だったと思います。各地のクラブにとっても厳しい年であった事は否めませんが、それでも僕らと同じようにダンス・ミュージック文化が大好きな人たちがこの日本には多いという事実がこの1年で確認できたし、実感しました。2010年も楽しみましょう。

Top 20 of 2009 by Toru Takahashi

1 Sharam / She Came Along feat Kid Cudi -Sharams Ecstasy Of Ibiza Mix- (DCI)
2 Destination Danger / Du Rififi Au Katanga(Circus Company)
3 Argy / What Time Is It (These Days)
4 Jona / Freefall (Resopal Schallware)
5 Fuse / Dimension Intrusion -Layo Bushwacka Fuze Remix-(Plus 8 Records)
6 Crash Course In Science / Flying Turns(From Jupiter)
7 Danny Fiddo、Affkt / P oints -Mathias Kadens Chalet De Verano Remix-(Barraca Music)
8 Will Saul_Tam Cooper / Where Is It ? feat Ursula Rucker -Lazersonic Remix-(Simple records)
9 Marc Houle / Single Cell -Original Mix- (Minas)
10 Luna City Express / Diamonds Pearls(Moon Harbour Recordings)
11 Guy J / Ballroom Sians Vernacular Mask Remix (Bed Rock Records)
12 dOP / The Dust -dOP Mix-(Enliven Music)
13 Collabs, Chris Liebing, Speedy J / Magnit Express feat Speedy J & Chris Liebing (Electric delaxe)
14 Michel Cleis / La Mezcla feat Toto La Momposina (Strictly Rhythm)
15 EP1 B2 / Hauntologists (Hauntologists )
16 Mirko Loko / Tahktok (Cadenza)
17 Seth Troxler / Panic Stop Repeat ! ( Spaxtral Sound)
18 Alexi Delano / Adjust the Frequency (Clink)
19 LosUpdates,RicardoVillalobos / Driving Nowhere_Audio George Remix(Nise Cat Records)
20 Michael Jackson / Heal The World

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