「OTO」と一致するもの

DJ Doppelgenger - ele-king

 「高校生の時に初めて会ったけど当時からめちゃくちゃコスリが上手くて埼玉ではかなり名の知れたDJだったなー。俺らがサンプラー叩いてライブやってた時はスクラッチで参加してもらってたし、JAR-BEATのコンピやキリコのハクレンでもコスってもらった。破天荒な奴で......」と書かれているフラグメントのKussyのブログを発見。DJドッペルゲンガーは、15歳のときに見た「さんぴんキャンプ」を契機に、日本のヒップホップを好きになって、DJになっている。20歳になってからはバックパックを背負って世界旅行。そして、4~5年前、ゴス・トラッドを通じてダブステップを知って、すっかりベース・ミュージックに魅せられてしまったようだ。先月、彼はデビュー・アルバム『パラダイム・シフト』を自主制作でリリースしたばかり。
 さて、DJクラッシュ~ゴス・トラッドという流れのなかで登場したDJが、いったいどんな音を作るのかは興味深い話である。それは90年代から2010年代へと繋がるホットラインとも言える。もっとも、DJクラッシュの全盛期とはくらべものにならないくらい時代はハードだが、DJドッペルゲンガーのアルバムには、彼なりの時代との向き合い方が刻まれている。真面目な、良いアルバムである。

 ダブステップへと向かった理由が、その音の強度、破壊力だったと言うだけあって、ダイナミックな音が展開されている。と同時に、ベッドルームで作ったというよりも旅して作ったという感覚がリズミックな音に出ている。ダブステップ......とは言うものの、ビートはポリリズミックで、メロディからは東南アジア、ときにはカリブ海も感じるが、ある種の無国籍なフィーリングが全体を貫いている。そうした漂泊している感覚は、このアルバムの魅力となっている。
 まあ、破壊力......とはいえ、全体的に荒々しく、ハードなわけではなく、繊細な曲もちらほらある。"bashon island"を聴いているとアシッド・ハウスを聴きながらミクロネシアの島々の上をボートで走っているような気分になる。"core"のようなアンビエントにも可能性を感じるが、他方では、1曲目の"in the world"なんかはゴス・トラッドへのオマージュかとも思えるほど似たものを感じる。

 DJドッペルゲンガーは、大宮を拠点に日本全国を横断している。「自分がダブステップDJをやりはじめて4年ぐらいなんですけど、それだけでも全然変わってきてますよ」と、彼はここ数年の日本のシーンについてこう語る。「その当時、ダブステップのパーティなんて〈Drum&Bass Sessions〉か〈Back to chill〉ぐらいしかなかったですし、DJも全然少なかった。いまでは小さい規模でもダブステップのパーティが各地で出あるし、リスナーも増えてますし、シーンは確実に認知されてきていると思います。地方もどんどん盛り上がってきてますし、地方でも自分で曲を作ってそれを中心にDJ、パーティしているカッコいいクルーが出てきたりで、これから先もっと面白いシーンができてくると思います」
 地元の大宮では彼は、2年以上、〈MAMMOTH DUB(マンモスダブ)〉という名のパーティを継続中。「東京から電車で30分、近いですけど東京とは全然違うんですよ」と、彼は地元の魅力について言う。「良い意味で地方的っていうか、パーティを楽しもうっていう特別意識と、地元ならではの結束がリンクして、それが良いグルーヴを作るんですよね。制約やルールもないからいいですね。勝手にTシャツ作ってきたり、ステッカー作ったり、デコ作ったり、ブログ作ったり、みんなが参加しながら楽しくひとつのパーティを作っていくってスタイルが......」
 以下、彼の6月までのスケジュール。お、6/9は〈ラジシャン〉だね!
 
 5月19日(土) MAFALi cafe (沖縄)
 5月25日(金) The Dark Room (福岡)
 5月26日(土) Cheerz (小倉)
 5月27日(日) 2110 (熊本)
 6月2日(土)  JUNGAL(富山)
 6月9日(土)  Rajishan(静岡)
 6月15日(金) JIGSOW(熊谷)
 6月30日(土) 444 quad(大宮)

satol (cold dark / madberlin) - ele-king

cold dark : https://www.colddark.info/
madberlin : https://madberlin.com/
soundcloud : https://soundcloud.com/colddarkmadberlin
beatport : https://www.beatport.com/artist/satol/140790

be dead gone


1
Nujabes - Blessing It - Hydeout Production & Tribe

2
Uyama Hiroto - Stratus - Hydeout Production & Tribe

3
Dj Krush - Kemuri - Mo Wax

4
The Blue Herb - 時代は変わる - THA BLUE HERB RECORDINGS

5
Goth Trad - Sublimation - Deep Medi Musik

6
FaltyDL - Regret - Hotflush Recordings

7
Satol - Biocritical - Cold Dark

8
Satol - Impressionable - Cold Dark

9
Satol - You Know Where - Cold Dark

10
Satol - Isla De Pascua - Cold Dark

YAMADAtheGIANT (STTH / Mesopelagic) - ele-king

Chart


1
Sai - Flash Back - Pan Records

2
Warren Suicide - Moving Close (Apparat Remix) - Shitkatapult

3
Private Taste - First - Automatic

4
Hartmut Kiss - Water Games (Eelke Klejin Remix) - Definition

5
Dapayk & Padberg - Fluffy Cloud - Stil Vor Talent

6
Kresy - Lords of Percussion - HVN011

7
Jerome Moussion - Artman - Resyonator

8
ITSNOTOVER - Late at Night - Itsnotover

9
Roland Klinkenberg - Down South - Dieb Audio

10
Fumikazu kobayashi - Drink Psychedelic Session - Groove Life Records

Jesse Ruins, Mop Of Head, Teeth - ele-king

 4月27日、この日は久しぶりのオールナイトのイヴェントにそなえ、夕方に起床。野田さんとの打ち合わせを終えた後、急いでタワーレコード新宿店に向かい、タワーレコード新宿で行われた、平賀さち枝さんの公開レコーディングに参加。最後までいたかったのだが、時間が来たので再度渋谷に移動。小雨が降るなか、渋谷から代々木公園に向かい、突き当たりの通りを右に曲がったところに本日のお目当ての会場、〈UNDER DEER LOUNGE〉はティースのメンバーが意気揚々と談笑をしていて、主催者やイヴェント・スタッフが忙しなく事前の打ち合わせをしいるのが見えた。200人くらいは入るであろう会場の内装はとてもお洒落で、会場スタッフの多田さんにお話を伺ったところ、普段はジャズやファンク、R&Bなどのアーティストをブッキングしているとのこと。「でもジャンルに縛られないで、気軽にいろんな方が来れる空間になればと思ってます」と多田さんは語る。本日は「STYLE BAND TOKYO」と「TOKYO INDIE」というふたつのイベヴェントが合同で企画したもので、アーティストやDJを見る限り、ダンス系のアクトが多いため、これは面白い空間になりそうだなあと期待が膨らむ。少しくつろいでいるとティースのメンバーが僕のところにやって来たので挨拶をして、いくつか気になっていた質問をしてみた。


さっそくですが、日本に来るのは初めてですか?

TEETH:うん、ずっと来たかったから私たち自身すごくエキサイトしてるよ。

すでに大阪や名古屋をツアーしてきて、本日が東京ですが、日本のシーンにはどういう印象を持ちましたか?

TEETH:私たちみんなジェシー・ルインズが大好きなんだよね。あと大阪のHappyってバンドも良かったし、あと、あの名前が凄く長い......えーっと......

Psysalia Psysalis Psycheですか?

TEETH:そう! Psysalia Psysalis Psyche! 彼らも良いよね! 私がすごく思ったのはイギリスのインディから影響を受けてるイメージがあって、ジョイ・ディヴィジョンとかザ・リバティーンズとか、音楽だけじゃなくって、ファッションからも影響を受けてる印象があるかな。

STYLE BAND TOKYOやTOKYO INDIEはこれまでいろんなアーティストを海外から招聘してるんですが、こういうイヴェントについてはどう思いますか?

TEETH:面白いと思うよ、東京は本当にエネルギッシュだし、今回はバンドにとっても良いチャンスや経験になると思うね。

Bichesのブレイクが「いまのイギリスのシーンには何もない」とSXSWで僕と話している時に言っていたのですが、TEETHの方々は現在のイギリスのシーンについてはどう考えていますか?

TEETH:実は私たちも去年アメリカに拠点を移したんだよね。私たちの場合はそこまでネガティヴなものじゃないんだけど、実際イギリスのバンドがアメリカや他の国に移るケースは増えていて、元々いた場所に属さなくなってきてはいると思う。

それは単純にアメリカのシーンや、他の場所に新しい価値を見いだしているからなんでしょうか?

TEETH:イギリスのシーンというよりか、問題はレーベルにあると私は思っていて、イギリスのレーヴベルってインディ、インディ、しすぎてるっていうか、難しいんだけど、アメリカのレーベはイギリスまで縛られていないし、シーン自体も解放的なのは否めないかな。

でも細かい部分にフォーカスすればたくさん良いバンドやアーティストもいますよね。

TEETH:それは間違いなくそうで、それがひとつのシーンとしてうまくまとまれなくて、いまは難しい状況が続いてるんじゃないかな。

TEETHの方々が現在共感できるバンドとやアーティストはいますか?

TEETH:(僕のメモ帳を奪って必死に書き出す) Gross Magic 、Astrid Monroe 、Unicorn Kid 、Curtis Vodka 、Bottoms 、Extreme Animals
 ......あたりかな。イギリスだったら以前一緒にやったFactory Floorとか最高だね。ユウキはBo Ningenとも知り合いなんでしょう? 私はギターのコウヘイと仲が良いし、彼らも好きだよ!

最後にTEETHのバンド名の由来を教えて貰っていいですか?

TEETH:ノーリーズンだよ(笑)

ありがとうございます、ライヴ楽しみにしてます!


 会場の準備も整いはじめ、オープンの時間になり、お客さんも入ってきた。夜中の1時少し前、いちばん最初のアクト、ジェシー・ルインズが登場する。演奏がはじめる前、ジェシー・ルインズのメンバーも認めていたが、正直な感想を言うと、演奏を含め、ライヴ・パフォーマンス自体にはまだ未完な部分がたくさん垣間見れたライヴだったように思える。それでもメロディーセンスは間違いなくたしかなもので、エフェクトを抑えたヴォーカルも効果的で、かつシンセサイザーの音のなかに顔を覗かせる甘いヴォーカルが素敵だ。
 サウンド自体もどこかノスタルジーを感じさせるラインが至るところに散りばめられ、ドリーミーでかつロマンスに溢れている。会場も息を飲んで彼らを見つめる様子がとても印象的だった。ジェシー・ルインズはアメリカで僕が現地のリスナーに質問されたり、いろんなところで注目されているのも事実で、今後いろんな方法をライヴで試して、形にしていって欲しいと強く思った。

 ジェシー・ルインズが終わり、転換DJが会場を盛り上げるなか、次に登場したのは2年連続でFUJI ROCK出演を決めたモップ・オブ・ヘッド。小刻みにグルーヴを創出するギターとドラムが会場に鳴り響き、それに加わるようにシンセサイザーの重いビートが押寄せる。展開の速い演奏に僕はすっかり踊らされ、とても興奮した。会場全体も熱気に包まれていく。
 バンドの基盤にはダブステップやドラムンベースをからの影響もうかがえるが、ロックやポップなどいろんな角度からのアプローチも面白い。サウンドだけでなく、ブラーの「Song 2」のギターのリフを曲の途中に入れたり、遊び心のある。とにかく、彼らのエネルギッシュなパフォーマンスには好感が持てた。
 というわけで、この日のベスト・アクトはモップ・オブ・ヘッド。彼らの言葉によれば「人間が限界の状況で奏でるループが生み出す歪み、そこから生まれる快感」を追求すべく、ライヴではPCに頼らない演奏をする。今後が楽しみなアーティストだ。

 本日のトリ、ティースが会場に現れる。モップ・オブ・ヘッドの上をいく爆音ビート。そしてエフェクトをかけまくったヴェロニカの攻撃的なヴォーカルが炸裂し、ストロボが会場をより一層刺激的な風景に変貌させる。メンバーの衣装もタイツやチャイナドレスなど奇抜で、どこかスライ・ベルズを彷彿とさせた。
 インタヴュー後に彼らのパフォーマンスについて触れたとき、ヴォーカルのヴェロニカは「どんな会場でも楽しいステージになればそれでいい」と言っていたのを思い出した。ライヴ終盤、オーディエンスをたくさんステージに上げて楽しそうに歌う彼女を見て何か僕まで嬉しくなった。

 今回のような、人気のある〈もしもしレコーズ〉からのバンドと日本のバンドとの共演は、海外のインディ好きな子たちと日本のオルタナティヴなシーンとが出会う場所になる。未来を感じる素晴らしい企画だと思うので、「STYLE BAND TOKYO」や「TOKYO INDIE」にはこれからもどんどんやって欲しい。
 この日のオーディエンスは若い層が大半を占めていた。外国人も目立っているなか、最終的にみんなで盛上がった。その様子がとても微笑ましかった。すべての演奏が終わり、落ち着きを取り戻す会場で、僕は、Craft SpellsやBeach Fossilsなどが出演していたSXSWでの一夜を思い出していた。その日の渋谷でのライヴは、僕をあの広大な場所に連れ戻し、不完全のまま終わってしまったあのときを埋めてくれた。それぐらい興奮した夜だった。

About - ele-king

■About
私たち『ele-king』は、音楽の話が大好きです。おそらく1日中、音楽や本や映画、ときには文化や政治の話で盛り上がっています。
音楽ならたいてい何でも好きですが、主に扱っているのは、ユニークで個性ある音楽です。インディ・ミュージックとクラブ・ミュージック、エレクトロニック・ミュージックが得意ですが、ポップス、実験音楽、ほかにも好きなモノはたくさんあります。新しい音楽にも古い音楽にも節操なく興味があります。
平日は毎日、音楽作品のreviewが更新されています。他にも話題のミュージシャンへのインタヴュー記事、ライヴのレポート、著述家によるコラム、DJの紹介、本の紹介、音楽チャート、意味のない戯言や問題提起など、ときには共感を呼び、ときにはヒンシュクを買いながら、平均的にはとても良いリアクションをもらっています。批評への脅迫観念にとらわれていることがあるかもしれませんが、基本的にすべては愛情を込めて書いています。


■Contact
Phone:03-5784-1256(編集部)
Fax:03-5784-1254
Email:info@ele-king.net

ele-kingでは読者からのレヴューも募集しています。
数ヶ月ぐらいリリースがずれている作品であっても、
「私のほうが良いレヴュー書いたるわい」という方や
「自分も書きたいっす」という方は、文字数1000字以上で書いて送ってください。
基本的には新譜ですが、再発盤でも受け付けます。
「これはたしかに面白いわ~」と、採用された方には紙ele-kingの最新号、
クラブで声をかけてくれたらビールを一杯おごるなどのプレゼントを考えたいと思います。


■Advertise
『ele-king』への広告はとても素晴らしいアイデアです。私たちにはいろいろな企画/アイデアがあります。ご興味のある方はいつでもメールなりご連絡をください。
Email:adinfo@ele-king.net

  • Writers

Washed Out/Memory House @ Highline Ballroom 4/22/2012
Here We Go Magic @ Knitting Factory 4/26/2012

Photo by Dan Catucci

 4月21日のレコード・ストア・ディの翌日(ブラック・ダイス、フォー・テットなどのゲストが1時間毎に出演した、アザー・ミュージックには、2ブロックを超える長い行列ができた。)ウォッシュト・アウトをハイライン・ボール・ルームに見に行った。この場所はマンハッタンのミート・パッキング・エリア(ちょっとしたファンシーエリア)にあり、ジャズ、フォーク、R&B、ワールド・ミュージック、インディ・ロックなど(4月のカレンダーはスザンヌ・ヴェガ、レイチェル・ヤマガタ、チック・コレア、アタリ・ティーンエイジ・ライオットなど)、ジャンルはバラバラ、ベテランから新人まで出ている。近くの観光名所ハイライン・パークから名前がつけられた、700人を収容できる比較的新しい会場だ。
 私はウォッシュト・アウトについては、この日までノーマークである。チルウェイヴという言葉くらいは知っているが、自分がよく見に行くバンド(エンターテイン重視で、フレンドリーなバンド)にはあまりないタイプだ。チルウェイヴには、いろんな評価があるだろう。だから、ウォッシュト・アウトに関しては「いまの時代を表す新世代の音だろう」という知識だけでライヴを見て、自分がどう感じるか興味あった。
 ショーはソールド・アウト(翌日のブルックリンでのショーもソールドアウト!)。少なくとも700人がチケットを前もって買っている、つまり評価が高い、期待も高まる。

 オープニングはウォッシュト・アウトと同じ〈サブ・ポップ〉にサインした、オンタリオ出身のデニースとエヴァンのドリーミー・ポップ・デュオ、メモリー・ハウス。女の子(デニース)の穏やかで、湖にこだまするようなヴォーカルが乗り、憂さ、そしてストリングスの音がせつなく響く音楽だ。個人的にはオ・レヴォワール・シモーヌのエリカ嬢(ソロが出ました!)を彷彿させるが、可愛い女の子が見れるというだけでもテンションはあがる。
 なのに、会場に到着すると、ちょうどメモリー・ハウスが終わったところだった。がっかりしながら、せめて物販だけでもと物販テーブルに行く。ドットのワンピースの女の子がいたので、「今日のショーはどうだった?」と尋ねて見ると、彼女はその本人! デニース。とっても気さくに今日のショーのこと、ツアーのこと、ギアーを盗まれてしまったこと(!)などを話してくれた。近くで見るとより可愛い。

 そして、ウォッシュト・アウトに戻る。ジョージア州出身のアーネスト・グリーンのプロジェクト、きちんとしたバンド編成でのライヴだ。

 セッティングに20分あまりを要し、照明が落ちたところでメンバーが登場する。フロントにシンセが3台、左からアーネスト、ブレア(アーネストの奥さん)、ベース・プレイヤー(キーボードもプレイ)、そして後方いち段上がったところにドラマー。アーネストは白のパリッとしたボタンダウンシャツに黒のパンツというシンプルな出で立ち。観客は「ウォッシュト・アウトがプレイするよ。これ行かないといけてないでしょ」とでも吹聴しそうな(?)、20台前半のパーティ好きが大半を占めている(大体バドライトを飲んでいるか、ここぞとばかり、ファンシーなカクテルをオーダーしている)。いちばん前で見ていたので、後方はあまり見えなかったが、フロントのいち部の観客がノリノリなのはよく見えた。
 アーネストはiPadを一時も(どの曲でも)離さず、キーボードを弾き、トラックを進める。ベースとドラムはずっしりお腹に響くが、シンセの音は儚く、ノスタルジックな夢心地で頭のなかを駆け巡る。そんな浮遊中に、「どう、そっちは、元気?」と、曲間に突然、アーネストが観客を煽ったりするから、どこまでが夢でどこまでが現実なのか、はっとさせられてしまう。
 ウォッシュト・アウトのニュー・アルバム『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』は、パンダ・ベアの『パーソン・ピッチ』に影響を受けている。ライヴノスタルジアなダンシーなシンセを展開する。新しいけど古めかしく、実験的要素のなかにハーモニーやコーラス部分もあり、観客をダンスさせる......たしかにパンダ・ベアのアルバムにも共通する、クールな音楽が好きな、新世代感覚を持った音楽で、「ちょっと懐かしいけど新しい」という感覚を持っている。そして、これは何でもミックスするいまの時代を表してもいる。
 全体的に気だるく、ドラマティックで、内に秘めた音楽、これこそがチルウェイヴなのだろう。曲間に「ヘイ! 気合いれてダンスしよう!」などと煽りを入れたり、キャラクターあるベースとドラムをいれ、バンドのバランスを保っているのは、彼自身のなかに表面には出さないが、ものすごく熱い「ダンス・パンク」精神が息づいているからだろう。

https://www.brooklynvegan.com/archives/2012/04/washed_out_play_1.html


Here we go magic w/glass ghost @ knitting factory 4/26(thu)


HERE WE GO MAGIC Photo by Dan Catucci

 こちらも新世代バンド(と著者が解釈)、ヒア・ウィ・ゴー・マジック。5月8日に新しいアルバム『A Different Ship』が発売されるので大忙しだ。彼らは1年前にも野外で見ていてほんわりするバンドという印象だった。以前の曲は、ウォッシュト・アウトに通じるところ(浮遊感、シンセ音)も多々ありなのだが、新しいアルバムはよりポップでトロピカル、暖かい。チル(ウォッシュト・アウト)とトロピカル(ヒア・ウィ・ゴー・マジック)ならちょうど良い。
 このニュー・アルバムにはエピソードがある。2010年、彼らは、グラストンベリー・フェスティヴァルでお昼前にプレイした。彼らのコンディションは悪い(前の日にほとんど寝ていない)、お客さんもほとんどが二日酔いというシチュエーションのなか、いちばん前にいたふたりだけがノリノリだった。それがレディオヘッドのトム・ヨークとプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチ。これがきっかけでナイジェル・ゴッドリッチが、このアルバムをプロデュースすることになった。

 シングル曲「How Do I Know」は、私がよく聴いているカレッジ・ラジオでもヘヴィーローテーションで、シンプルなギター、ヴォーカル、ドラム・コンボで、クルクル回るシンフォニーが心地よい日当たりの良いトラック。いちど聴くと「おっ、またかかっているな」と、ついつい口ずさんでしまう。

 この日もウォッシュト・アウトと同じくソールドアウト。観客は、みんな彼らの友だち(?)かと思うほど、彼らのことをまるで自分のことのように一生懸命話していた。いちばん前には、カメラを一時も離さないノリノリなメンバーの両親がいた。
 メンバーは、白を基調した衣装で登場。少し緊張も感じられたが、演奏がはじまるとリラックスし、良く見せようとすることもなく、自分たちにできる精一杯を出し切っているように見えた。それが好感度の秘訣なのかもしれない。ラ・ラ・ライオット、ガールズあたりと被るところが多々あった。
 "How Do I Know"はラストから2番目に演奏した。ここまで、ほとんどMCのなかったメインガイのルークが、「今日は来てくれて本当にありがとう、あと2曲演奏します」と丁寧に言った。

 ウォッシュト・アウトは彼らの両親の世代には理解し難いかもしれないが、ヒア・ウイ・ゴー・マジックはどの世代でも受け入れる包括力がある。メンバーのキャラ、演奏力(少し音を外したりするのがまたいい)、応援したくなる要素が満載だ。アンコールでは観客一緒にハンド・クラップしたり、昔の曲を出してきたり盛り上がり、最後はギターのディストーション音、ノイジーサウンドが白く続いたあと、ピタリと終了した。

 ウォッシュト・アウトとヒア・ウィ・ゴー・マジック。行った場所がマンハッタンとブルックリンという決定的な違いもある、来ている観客も違っただろう、一緒にプレイするのは、フェスティヴァル以外にないだろうが、このふたつのバンドはなぜか私のなかでリンクしている。共通点がたくさんあるというわけでもなく、正反対でもない。そして互いに新しい音を生み出そうとする新世代の代表で、同世代からの支持を得ている。

Chart by Underground Gallery 2012.04.27 - ele-king

Shop Chart


1

Onomono

Onomono Onomono_ep_0506 (onomono.jp /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
過去2作品は、予約のみで完売してしまい、市場には殆ど出回らず、一部オークションでは既にプレミアさえ付き始めている、某有名トラックメイカーの変名テクノ・プロジェクト"onomono"待望の第三弾が遂にリリース!ALVA NOTOのような高周波が響くマイクロ・ミニマルを思わせるイントロから、一気に捻れたアシッド・シンセが走りだし、気がつけば"onomono"ワールドへ誘われているA面の「onomono_05」、ヘビーウェイトなイーブンキックに、金属的な響きを効かせたノイジーウワ音が巧みな変化を繰り返しながらドープに展開していくB面「onomono_06」の2トラックを収録。手も足も出ない完璧なミニマル・テクノ!今回も凄まじいです...。

2

MM/KM aka Mix Mup/Kassem Mosse

MM/KM aka Mix Mup/Kassem Mosse 6 Track Mini LP (The Trilogy Tapes/lp) / »COMMENT GET MUSIC
リリース前から、一部、耳の早いコアなファンの間で話題を集めていた注目ユニットのデビュー・ミニ・アルバムが、超少量入荷! UKのカセット・レーベル[The Trilogy Tapes]が贈るヴァイナル作品第三弾は、[Mikrodisko]などからリリース経歴を持つMIX MUPと、ベルリンの奇才KASSEM MOSSEによるユニットMM/KMのデビュー・ミニ・アルバム!ダブステップ /ベース・ミュージック、テクノ、ディープ・ハウスなど、全ての要素が混在する、実験的なアンダーグラウンドなディープ・トラック集!既に本国UKをはじめ、ヨーロッパでは入手困難な状況になっている、稀少な作品です。

3

Vinalog

Vinalog Lost Patterns (Relative /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
未だ、はっきりとした詳細がつかめない独[LiveJam Records]関連ですが、傘下レーベルの中でも一際個性を放っている、UGヘビープッシュのロウ・ハウス・レーベル[Relative]の新作は、レーベルの中心人物JOHN SWINGのプロジェクトVINALOGのNew12インチ! やっぱりVINALOGカッコイイです!別格ですね!ねっちょりとしつこいくらいにループされる、もっさりしたディスコ・グルーヴで、じわりじわりとハメ込んで行く、スモーキーなロウ・ハウスを展開したA1、ストレートなTR-909グルーヴにネジ曲がったベース・ラインとサイケデリックなウワ音でロックするA2、ジャズ・ピアノ・サンプルがループするB2など、かなり癖の強いハウス・作品が4トラック収録。今回も限定盤です。再入荷が難しいレーベルですので、気になる方はお早めに

4

Infiniti aka Juan Atkins

Infiniti aka Juan Atkins The Remixes - Part 1 (Tresor /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
TV VICTOR / THOMAS FEHLMANNリミックス! 90年代初頭から、常に最前線を走る、老舗中の老舗レーベル、ベルリンの 名門[Tresor]、記念すべき250番(凄い!)を記念した、スペシャル企画は、デトロイト・テクノのオリジネーター、JUAN ATKINSがINFINITI名義にてリリースした過去作品のりミックス! 第一弾となる今作は、98年に[Tresor]からリリースされたアルバム『Skynet』に収録されていた楽曲「Walking On Water」と「2Thought Process」の2曲を、クラウトロック・バンドNO ZEN ORCHESTRAとして活動してた事でも知られる、ジャーマン・テクノ / エレクトリック・ミュージック界の大ベテラン、UDO HEITFELD aka TV VICTORと、3MB名義でJUANとのコラボも行った事がある大御所THOMAS FEHLMANNがリミックス!

5

BMG & Derek Plaslaiko

BMG & Derek Plaslaiko Is Your Mother Home? (Interdimensional Transmissions /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
90年代から活動するデトロイトのカルト・エレクトロ・ユニットECTOMORPHが主催する、[Interdimensional Transmissions]の新作は、そのECTOMORPHのメンバーでもあるBMGと、デトロイトのローカルDJ DEREK PLASLAIKOとのコラボレーション。 ここ最近は、エレクトロから路線変更して、面白いリリースが増えてきていた[Interdimensional Transmissions]レーベルですが、今回も是非注目して頂きたい、オールド・スクーリーなテクノ・トラックを披露しています。ローランドの各種リズムマシーンのむき出しのビートを軸に、繊細な電子音が絡んだミニマル・テクノ集!ドイツのTOBIAS.辺りのアナログ・テクノが好きな方なら間違いありませんよ!

6

Tom Trago

Tom Trago Use Me Again (Rush Hour /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
2010年リリースのディスコ・キラーをCARL CRAIGが再構築!CARL CRAIG本人が以前からプレイしていた、あのヴァージョンが待望の12インチ・カット! ここ数年、[Rush Hour]がフックアップしているアムスの新世代アーティストTOM TRAGOが、2010年にリリースした12インチ「Voyage Direct - Live Takes」に収録され、CARL CRAIG本人も以前からプレイしていた、ブラックディスコ/ビートダウン・チューン「Use Me Again」が、そのCARL CRAIGの手により再構築されて12インチ化! リリース当時から現在まで、CARL CRAIGやRADIOSLAVEなどが、ことあるごとにプレイし続けているディスコ・ハウス「Use Me Again」、スリリングなストリングスとアップリフティングなディスコ・グルーヴが超アガるキラー・チューン。この曲をCARL CRAIGが、強烈なエフェクトを効かせ、空間をねじ曲げた、ドラッギーなディスコ・ハウスへリエディット!マジで最高ですよ!

7

Idjut Boys

Idjut Boys One For Kenny (Smalltown Supersound /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
LINDSTROM、MUNGOLIAN JETSET、TODD TERJEなど、重要アーティスト達がリリースしてきた、名門[Smalltown Supersound]の新作は、遂に満を持して大御所IDJUT BOYSが登場! 昨年日本で先行リリースされ話題となった、IDJUT BOYSキャリア初のオリジナル・アルバム「Cellar Door」より、昨年惜しくも他界してしまった、UKのKENNY HAWKESに捧げた楽曲「One For Kenny」が待望の12インチ化。ビートダウン風のブギー・ダブ・ディスコ・グルーブに、盟友 PETE Zによる、サイケ & ダヴィーなシンセ、BUGGE WESSELOFTによる可憐な鍵盤が絡みあう、めちゃくちゃカッコ良い、ミッド・ディスコ・チューン!アルバムの中でも一際人気の高い1曲だっただけに今回のアナログ・カットが嬉しいという方も多くいることでしょー。しかも 45回転、重量盤プレスで音も良し。DJのみならずとも、コレは要チェックです!全世界500枚限定!

8

Pepe Bradock

Pepe Bradock Imbroglios 1/4 (Atavisme /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
フランスを代表するアーティスト、ビートダウンを基調にしながらも、規格を超えたオリジナルなハウス・サウンドで大きな支持を得ているPEPE BRADOCK が、前作 「Path Of Most Resistance」以来、約3年ぶりとなる新作をリリース!今後、パート4までリリースが予定されている「Imbroglios」シリーズの第一弾。ビートダウン的なムードを持ちつつも、より実験的でアバンギャルドな雰囲気があって、奇才ならではのディープ・ハウス作品が4曲収録。ジャジーなサンプルを巧みに操った「Katoucha?」がイチオシですが、全曲濃いですよ!流石PEPE BRADOCK!

9

V.A

V.A I'M Starting To Feel Okay Vol. 5 Pt. 1 (Endless Flight /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
東京[Mule Muziq]のサブレーべル [Endless Flight]から、毎年恒例となっているレーベル・コンピレーション・シリーズ「I'm Starting To Feel Okay」第5弾からの12インチ・カット! ここで特筆すべきは、文句なしにMOVE D!リバース・フレーズを巧みに交えた、ミニマル・ディスコ作品で、テンションやグルーヴ、展開や鳴り、全てが完璧!この作品だけの為に買っても損はありませんよ!保証します!その他にもアムステルダムのニュースターJUJU & JORDASHによる、マッド&ピプノなアシッド・テクノや、TERRE THAEMLITZ aka DJ SPRINKLESによる淡い色彩感覚とライトなグルーヴが素晴らしいフローティング・ハウスが収録されていて、全曲◎な内容!これはお見逃しなく!オススメです。

10

Madteo / Shake Shakir

Madteo / Shake Shakir Kassem Mosse / Marcellus Pittman Rmx (Meakusma /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
ANTHONY "Shake" SHAKIR / KASSEM MOSSE / MARCELLUS PITTMANリミックス! 先日JOY ORBISONが新レーベルからリリースされたばかりの最新作「Bugler Gold Pt.1」が、UKを皮切りに欧州で大きな話題を集めている、N.Yはブルックリンの奇才MADTEOの楽曲を、デトロイトの大ベテランTHONY "Shake" SHAKIR、[Workshop]からのリリースでお馴染みのベルリナーKASSEM MOSSE、そして、THEO PARRISHやMOODYMANNと共に、3CHAIRSのメンバーとしてもお馴染みのMARCELLUS PITTMANがリミックス!

Grouper、青葉市子、ILLUHA、en、YusukeDate - ele-king

 午後5時半、曇の日の弱い光が臨済宗のお寺の本堂の障子越しからぼやっとはいってくる。畳の上の黒い影になった100人ほどの人たちは、本陣をぐるりと囲んでいる。竜が描かれている天井の隅にある弱い電灯が照らされているアメリカのポートランドからやって来た女性は、980円ほどで売られているようなカセットテレコが数台突っ込まれたアナログ・ミキサーのフェーダーを操作しながら、膝に抱えたギターを鳴らし、歌っている。時折彼女は、テレコのなかのカセットテープを入れ替える。そのときの「がちゃ」という音は、彼女の演奏する音楽よりも音量が大きいかもしれない。本陣の左右、ミキサーの前にふたつ、そして本堂のいちばん隅の左右にもスピーカーがある。その素晴らしく高性能なPAから流れるのは控えめだが耳と精神をを虜にする音......この風景の脈絡のなさは禅的とも言えるだろう。が、たしか我々は、その日の昼の1時からはじまったライヴにおいて、ある種の問答のなかにいた。我々はなぜ音楽を聴くのだろうか......そして、ここには禅的な答えがある。聴きたいから聴くのだ。聴いたら救われるとか、気持ちよくなるとか、自己肯定できるとか、自己啓発とか、頭良くなるとか、嬉しくなるとか、とにかくそうした期待があって聴くのではない。ただ聴きたいからただ聴く。そう、只管打坐である。

 禅宗は、欧米のオルタナティヴな文化においてつねに大きな影響のひとつとしてある。ヒッピー、フルクサス、ミニマル・ミュージック、あるいはレナード・コーエン......僕が好きな禅僧は一休宗純だ。戒律をやぶりまくり、生涯セックスし続けた風狂なる精神は、日本におけるアナキストの姿だと思っている。まあ、それはともかく、僕は会場である養源寺に到着するまでずいぶんと迷った。1時間もあれば着くだろうと高をくくって家を11時半に出たのだけれど、会場は商業音楽施設ではない。結局、こういときはiphoneなどのようなインチキな道具は役に立たず、八百屋の人やお店の人に尋ねるのがいちばん正確に場所に着ける。ふたり、3人と訊いて、ようやく僕は辿り着けた。
 谷中、そして団子坂を往復しながら、着いたのはYusukeDateのライヴの途中だった。1時を少し過ぎたばかりだと言うのに、本堂の1/3は人で埋まっていた。
 YusukeDateの弾き語りは、アンビエント・フォークと呼ぶに相応しいものだった。アンビエント・フォーク? 安易な言葉に思われるかもしれないが、歌は意味を捨て音となり、ギターは伴奏ではなく音となる。それは、ここ数年のフォークの新しい感性に思える。僕は畳に座りながら、少しずつその場のアトモスフィアにチューニングして、そして次のenのライヴのときにはほぼ完璧にチューニングできた。〈ルート・ストラタ〉を拠点にするふたりのアメリカ人によるこのプロジェクトは、ひとりが日本語が堪能で、日本語の軽い挨拶からはじまった。
 enのひとりは日本の琴の前に座り、もうひとりは経机の上のミキサーの前に座っている。いくつかのギターのエフェクター、そしてミキサーの上には数台のカセットテレコが見える。琴の音が響くなか、無調の音響が広がる。畳の上には子連れの姿も見え、子供はすやすやと眠っている。曲の後半では、カセットテレコを揺さぶり、音の揺れを創出する(なるほど、だ)。また、カセットテレコについたピッチコントロールを動かしながら、変化を与え、曲のクライマックスへと展開する。

 セットチェンジのあいだ、僕は本堂の下の階で飲み物を売っている金太郎姿の青年からビールを買って、次に備える。1杯300円のビールは良心的な価格......なんてものではない。この日のコンサートへの愛、音楽集会への愛を感じる。

 次に出てきたILLUHAは、今回の主宰者というかキューレター的な役目の、伊達伯欣とコーリー・フラーのふたりによるユニットで、すでにアルバムを出している。伊達は、古い、捨てられていたという足踏みオルガンの前に座って、フラーはギターを抱えながら、ミキサーの前に鎮座する。ミュージック・コクレートすなわち具体音──このときはドアがきしむ音だったが──が静寂のなかを流れると、ILLUHAのライヴはゆっくりをはじまる。オルガンの音が重なり、やがて、完璧なドローンへと展開する。
 enとも似ているが、具体音を活かしたパフォーマンスは彼らのそのときの面白さで、そしてメロウなギターの残響音そしてハウリングは、ドローンはラ・モンテ・ヤング的な瞑想状態を今日的な電子のさざ波、グラハム・ランブキンらの漂流のなかへとつないでいる。
 enのライヴにも感じたことだが、ひと昔前(IDMから発展した頃)のドローンは、猫背の男がノートパソコンを睨めているような、お決まりのパターンだった。が、この日はenもILLUHAもアナログ・ミキサーを使い、そして、パソコンもどこかで使っていたのかしれないが、ついついiPadを表に出してしまうような味気ないものとは違っていた。デジタルやソフトウェアに頼らず、そしてアイデアでもって演奏する姿は、これからのアンビエント/ドローンにおいてひとつの基準になるかもしれない。
 また、こうした「静けさ」を主張する音楽において、ほとんど満員と言えるほどの若いリスナーが集まったことは注目に値する。「ライヴ中に寝てしまったよ」とは通常のライヴにおけるけなし言葉だが、この日のライヴにおいては「眠たくなる」ことは賞賛の言葉だった。本堂という木の建造物における音の響き、畳の上での音楽体験という環境や条件も、この新しいアンビエントの魅力を浮彫にしていた。

 青葉市子は、その評判が納得できる演奏、そして佇まいだった。本堂の障子の外から子供の泣き声が聞こえると、彼女はその"音"を聞き逃さず、「あ、泣いている」と言う。その瞬間、我々は、そこでジョン・ケージのその場で聞こえる音も音楽であるというコンセプトを思い出す。彼女は、オーソドックスなフォーク・スタイルだが、しかし、彼女の素晴らしいフィンガー・ピッキングによる音色は、音としての豊かさを思わせる。曲が終わるごとに、まだ20歳そこそこの若い彼女は、「足を伸ばしたり、リラックスして聴いてくださいね」とか「空気入れ替えませんか」とか、気遣いを見せながら、「こういう手作りのコンサートでいいですね」と素朴な感想を言った。その通りだと僕も思った。

 リズ・ハリス(グルーパー)は、大前机の上の、でっかいアナログ・ミキサーの前にテレキャスターを持って胡床に座った。黒いパーカー、黒いジーンズ、そして足下にはペダル、エフェクター(ボーズのディレイ、オーヴァードライヴなど)がある。それまで出演してきた誰とも違って、何の挨拶もなく、何台かのテレコに何本かのカセットテープを入れ、それぞれ音を出す。リハーサルかと思いきや、音は終わらず、そのまま、いつの間にか、彼女の曇りガラスのような独特の音響が本堂のなかを包み込む。前触れもなく、それははじまっていた。
 マニュピレートされたテープ音楽が流れるなか、彼女はギターを弾いて、音をサンプリング・ループさせ、歌とも言えない歌を重ねる。ギターの残響音をループさせると、彼女はギターを置いて、そしてテープを入れ替え、ミキシングに集中する。いつからはじまり、そしていつ終わったのかわからないようにリズ・ハリスは音量をゆっくり下げる......。しばし沈黙。マイクに近づき、たったひと言「サンクス」(それがこの日、公に彼女が話した唯一の言葉だった)......大きな拍手。

 この日のライヴは、この賑やかな東京においては、本当に小さなものなのだろう。ハイプとは1万光年離れたささやかな音楽会だ。が、このささやかさには、滅多お目にかかれない豊かな静穏があった。そして、いま、音楽シーンにもっとも求めらていることが凝縮されていたように思えた。300円のビール、美味しい!
 この日は、2000円で、お客さんをふくめ誰でも参加自由な打ち上げもあった。青葉市子さんは、自ら率先して、料理を運んでいた(若いのにしっかりした方だ)。こうした音楽集会のあり方は、最初期のクラブ/レイヴ・カルチャーを思わせる。
 なお、グルーパーは、日本横断中。名古屋~京都~金沢、そして都内では4/30に原宿の〈VACANT〉でもある。その日は、CuusheやSapphire Slowsも出演。たぶん、まだ間に合うよ。
 最後に、蛇足ながら、ライヴが終了後、リズ・ハリスに30分ほど取材することができました。結果は、次号の紙ele-kingで。

青葉市子 - ele-king

 4月8日、桜も満開に近づき、代々木公園ではお花見を楽しむ人たちに溢れるなか、僕は原宿の〈VACANT〉で定期的に開催されている青葉市子さんの独奏会に参加してきた。〈VACANT〉は原宿から連想されるそれとは大きく異なる、木と鉄をコンセプトにした、一種原宿から切り離された内装と、アットホームな空間が魅力的なフリースペースで、イヴェント・スペース、アート・スペース、ギャラリーなどの他にも、ショップやカフェも展開している。

 会場に入り、客席を見渡し、あらためてこの1年での変化にまず驚く。僕がはじめて青葉市子さんの演奏を見たのは去年の震災前の新宿タワーレコードのインストア・イヴェントで、当時お客さんも30人程度だったのに比べ、当日は100人近くのお客さんが集まり、以前よりも世代が分散されている事にも気づく(先日行われた新宿タワーレコードのインストア・イヴェントも数多くの人が集まっていた)。

 日が暮れ出しはじめた夕方の18時頃、ひっそりと会場に姿を現し、「こんばんわ」のひと言を言い終え、深く息を吸い込み、そして青葉市子さんの演奏は静かにはじまった。白いワンピース、クラシックギター、楽譜、いままでと変わらない風景も立ちこめるなか、彼女自身の変化にもじょじょに気づかされていく。演奏が続くなか、音と空間が交わり、声にも表情が見えはじめてきた頃、どこかあどけなさが残る印象の裏に、見えない自信と演奏を楽しんでいるさまが垣間見れ、当時僕が見た彼女のそれとは大きく異るものを感じさせられた。しかし、いままでと変わらない線の細い、しかしどこか力強い、声という楽器が奏でる音色と、優しく包み込むように奏でられるギターの音色が情景を鮮やかにし、透き通るまばゆい音の風景にお客さんたちは彼女の世界を旅し、深く入り込んで行く。目をつむって音を聴く人。何か答えを見つけるように深く考え聴き込む人、笑みがこぼれ、彼女を幸せそうに見つめる人、表情もさまざまだ。一部が終わり、二部が少しあいだを開けて開始される。

 途中のMCでは七尾旅人さんのカヴァーを少し披露したり、細野晴臣さんの"悲しみのラッキースター"(デイジーホリデイでも以前披露)、この日のために用意した妖怪人間ヴェムの曲などを披露。演奏中の間や、アレンジ、即興性、遊び心のある空間の演出などにもこの1年で培ってきた良い意味での余裕が感じられた。演奏も終盤に差し掛かり、サード・アルバム『うたびこ』からの楽曲、"奇跡はいつでも"、"ひかりのふるさと"を披露。いままで異なっていた表情もこの場面ではたくさん目をつむって聴き込んでいる様子が多く伺えた。ここで僕は以前彼女が演奏中のMCで、こんな難しい時代だからこそ、こういう場では自分を解放して欲しいと言っていたのをふと思い出した。
 アンコールを含む2時間弱の演奏全てが終わり、彼女は「終わりです」とだけ言い残し、ひっそりと独奏会は幕を閉じた。青葉市子さんの音楽は僕らの意識のなかに内在する音や感覚であって、こんな時代だからこそ信じたい、そして触れて欲しい音だなとつくづく思った。終了後、久しぶりに会う彼女にいくつか質問をしてみた。


お疲れさまです。

青葉:ありがとうございます。

いくつか質問していくのでよろしくお願いします。まず、〈VACANT〉で演奏会を開かれてますけど、〈VACANT〉を選ぶ意味とか理由とかありますか?

青葉:うーんと、なんというか、堅すぎず、緩すぎず、っが良いかなと。以前はクラシックホールなどで演奏していたんですけれど、自分がどういう場所で演奏したら良いのか当時は定まってなかったんですね。この期間いろんなところで演奏して、〈VACANT〉さんでも演奏させて貰った時に凄く音の響きが良くて、それで木で作ってあるから何か温かい音になるかなと。お客さんにも皆こう、ちゃっと椅子に座るんじゃなくて、伸び伸びしてもらいたくてここを選びました。

演奏中のMCでたまに同世代の方が今日はたくさん来てくれて嬉しいとおっしゃてたりするじゃないですか、青葉さんの周りには細野(晴臣))さんや、小山田(圭吾)さん、七尾(旅人)さんなど、比較的年上が多い気がするのですが、平成生まれだという意識とか自覚みたいなものはあったりしますか?

青葉:うーん、それは全然ないですね。ただやっぱり同じ時代を同じように成長しながら生きてきた人達と自分の音楽を共有できることはとくに嬉しいなとは思っています。

なるほど。

青葉:刺激を受けた時期が同じ人たちってやっぱり勘が鋭いというか、言いたい事をすぐキャッチしてくださったりしますし。でも平成生まれとして意識をして活動をする、みたいなことはとくにないです。

今日もたくさんいろんなアーティストさんの楽曲をカヴァーしてましたね(当日は細野さん、ユーミンさん、七尾さんなどをカヴァー)。去年の夏にお話したとき、あんまり意識して自分から音楽を聴かないっておっしゃってたのが凄く印象的だったんですが、あれ以降その意識とか変わったりしましたか?

青葉:変わってないですね。この曲を聴こうみたいなことがあんまりなくて。これはたぶん言っちゃいけないことなのかもしれないんですけど、貰ったCDとかもあまり聴かないんです。私は生で鳴ってる音が一番好きで、CDとかは、そこで鳴っているもの、という感覚しかどうしてもなくて。うーん、これは凄く難しいんですけど、私は目に見えないもの、例えば会話とかその場でしか起こらないもの、ライヴもそうですよね。そういうものが好きです。

今日の演奏でもすごく感じたことなのですが、以前よりも今おっしゃっていた、その場でしか起こらない、例えば即興性、MCなんかもそうなんですけど、青葉さん自身以前より楽しんで取り組んでいるのが凄く印象的で。

青葉:多少上手になったのかなとは思いますけど(笑)、うーん、そうだなあ、臨機応変の力っていうのは場数を踏んで、ちょっとは出来るようになってきたかなとは思うけれど、こう来たらこうしようみたいなのは全然考えてないです。

ずっと僕個人的に気になってたことがあって、SOUNDCLOUDに、Joe Meekみたいな打ち込みのエレクトロの曲とかをアップしてらっしゃるじゃないですか、ああいう曲をこれからもっと全面に押し出して、例えばアルバムに入れてみたり、ライヴでも取り入れてみたりとかは考えてたりはしないんですか?

青葉:おお、凄い。それどんなライターさんにも訊かれたことなかったです(笑)。アンテナが凄いですね。

やった(笑)!

青葉:実はそういうのは凄く興味があって、なんでもできるものはやりたいので、できればいいなーとは密かに思ってます。あれはMacのガレージバンドで適当に遊んだだけなんですけど(笑)。ちゃんと機材も揃えたいんですけど、まだお金が......(笑)。

そういうものは小山田さんとかたくさん持ってると思うので借りたらいいと思います(笑)。

青葉:ふふふふふ(笑)。小山田さん、要らないものがあればください(笑)。

そういうセットでも小山田さんとか、細野さんとかとライヴで絡めたら面白そうですね。新しい世界が広がりそうで。

青葉:私もそう思ってます。出来る事は全て取り入れたいと思ってるので。エレキギターとかもいつかまた使ってみたいなあとも思ってるので、是非楽しみにしててください(笑)。

なおさら今後も期待ができそうですね。楽しみにしております。お疲れさまです、以上です。短いインタヴューでしたが、今日はどうもありがとうございました。

青葉:なんかひっかき回されてすごく面白かったです(笑)。話を聞いてて、事務的な人が多いなかで、いまみたいなスタイルはとても楽しいし、そのスタイルを変えないで頑張って欲しいです。

は、はい! ありがとうございます(笑)。僕と世代がまったく一緒ですし、初めてのインタヴューが青葉さんで本当に良かったです。僕自身もすごく取り組みやすかったです。本当にありがとうございました。


 僕は去年行われた青葉さんとアミーゴさんが企画をしたイヴェントから、青葉さんをひとつの目標としてここまで頑張ってきたので、こういう形での再会は信じられないくらい嬉しくて、帰り道震えが止まらなかったです。

 青葉さんはこの演奏会の翌日、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」への出演を発表。僕ももっともっと頑張らなくてはと強く思った。〈VACANT〉でのライヴは来月の5.12(土)も開催予定。素敵な空間で、彼女が言う、生の音はたしかに鳴っています。是非会場へ!

Mouse On Mars - ele-king

 1990年代生まれのリスナーが何曲か聴いたら、モードセレクターの曲をハドソン・モホークやフライング・ロータスがリミックスしたんじゃないかと勘違いするかもしれない。いやしかし、そのきめ細かいトリックに「おや」と思うだろう。マース・オン・マーズ(MOM)の6年ぶりのお茶目なIDM、〈モードセレクター〉のレーベルからのリリースとなるそれは、ラップトップのソフトウェアによるグリッチの効いたファンクが耳に残る。
 グリッチ――「不具合、予期せぬ事故、誤った電気的信号、電流の瞬間的異常」は、1990年代のドイツのエレクトロニック・ミュージックにおいて発展した一種の技だと言える。それは「失敗の美学」に基づいて、オヴァルを発端としながら、ドイツにおけるIDM/エレクトロニカというクラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者によって磨かれているが、MOMもそのいち部だった。MOMが初めて来日したとき、彼らがファンだったという中原昌也と対談をしてもらったが、話は「どうやってあの音を出しているのか?」という話題で沸騰した。MOMは、まずはテープで録音して、そのテープをグチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込むんだよと、秘密を明かしてくれた。このような微妙なユーモアがヤン・ヴェルナーとアンディ・トマのIDMにはある。
 MOMは、90年代なかばの最初の2枚のアルバムをインディ・ロック系の〈トゥ・ピュア〉からリリースしていることが物語るように、彼らにはたしかにクラウトロックの申し子のようなところがあり、先述した通りの「クラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者」だが、結局のところクラブ・ミュージックとの関わりを完璧に絶っているわけでもないように思える。MOMは、反動的なセクト――ある種のエリート意識で、オウテカがもっとも気を遣っていたところ――にとらわれた時期があったのかもしれないけれど(とはいえ、ヴェルナーとオヴァルによるマイクロストリア名義の作品は魅力的だった)、ポップを見失ったことはない。たとえオヴァルとともにロンドンの由緒あるバービカン劇場にてシュトックハウゼンの"少年の歌"を演奏したとしても......。

 この手の「捻り」に個人的に久しく接していなかったからだろうか、10枚目のスタジオ・アルバム『パラストロフィックス』を初めて聴いたとき、僕にはMOMがあらためて新鮮に思えた。このアルバムは、喩えるなら、クラフトワークの『コンピュータ・ワールド』やサイボトロンの、いわば80年代的なエレクトロをラップトップのなかで「グチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込んだ」ような強烈なファンクネスを感じる。"The Beach Stop"は本当に心地よい曲だ。人工的な女性のささやき声、フレンドリーのようでいて、穏やかに歪んでいくサウンドスケープ......初期の2枚に顕著だった無垢な遊び心は18年目経ったいまも健在で、その芸当は緻密になっている。
 ビートが際だっている"Metrotopy"や"Wienuss"、"Polaroyced"のような曲には可笑しさ、巧妙さ、そして強力なエネルギーがある。グルーヴィーなのだ。しかしリスナーは"Cricket"や"Baku Hipster"のような曲に含まれている悪意にも気をつけなければならない。パンキッシュな"They Know Your Name"は、マーク・E・スミスとのヴォン・スーデンフェッド名義による『トロマティック・リフレクションズ』(2007)を思い出すが、MOMはリスナーにとってつねに「いい人」であるとは限らない。批評的だし、彼らにはハードコアな側面、IDMにありがちな「やり過ぎ」たところもあるし、はっきり言えばからかいもある。それでも"Chord Blocker, Cinammon Toasted"や"They Know Your Name"には、知性派の嫌らしさを感じさせないぐらいのファッション性があるのだ。少なくもぐったりと疲れているときにお薦めできる音楽ではないが、不思議なことに、たっぷり睡眠を取った翌朝に聴くと「よし、やるぞ!」という気持ちになれる。ホント、不思議なことだが。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114