「OTO」と一致するもの

interview with Jazzanova - ele-king

ビットとバイトからなる世界に生きている
一緒になれるのはネットの世界だけ "アイ・ヒューマン"

 ジャザノヴァとは、温かきジャズやソウル、そして最新のエレクトロニックの激突だった。たとえば、ジャズなど生楽器によるヴィンテージな音楽、ドラムンベースのような打ち込みによるクラブ・ミュージックを並行して聴いてきた僕にとって、ある時期までそうしたふたつのジャンルは別モノとして接していたが、1997年に登場したジャザノヴァは、生音を好む耳とクラブの耳との交流をうながした。
 ジャザノヴァは、もともとはサンプリング主体の音楽だったけれど、たしかにそこには最初からライヴ感と臨場感があった。15年も前にリリースされたデビュー曲「Jazzanova EP」は、生とエレクトロニックの混合、ヴェンテージと最先端を組み合わせがある。ドイツらしくバウハウス調のデザインにパッケージされたそれは、クラブ・ジャズの新境地を切り開いた名盤として知られている。
 彼らの初期の影響はアメリカのヒップホップ(ATCQやジャングル・ブラザース)だが──そこがベルリンのテクノ一派とは違っている──、彼らにはセンスがあり、なによりも勤勉さと緻密さとテクニックがあった。やがて、ジャザノヴァはヨーロッパのジャズとマスターズ・アット・ワークやデトロイト・テクノをミキシングした。彼らのレーベル〈コンポスト〉はジャズ・ハウスの引率者となり、他方で彼らは、そして、いわゆるnu jazzの走りともなった(そしてもうひとつの彼らのレーベル〈ソナー・コレクティヴ〉は、その後、新しいヨーロッパ・ハウスの潮流を生んでいる)。


Jazzanova
Funkhaus Studio Sessions

Sonar Kollektiv/Pヴァイン

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 ベルリンを拠点とするジャザノヴァは、ステファン・ライゼリング、アクセル・ライネマー、ロスコ・クレッチマンのプロデューサー・チーム、そしてユルゲン・フォン・ノブラウシュ、アレクサンダー・バーク、 クラアス・ブリーラーのDJチームからなる。ベルリンにおけるクラブ・ジャズの最重要拠点である。
 2002年にリリースされたファースト・アルバム『イン・ビトゥイーン』では、うまさや熱狂だけではなく、彼ら自身の深いエモーショナルな側面も強調しているが、2008年に由緒ある〈ヴァーヴ〉からリリースされた『オブ・オール・シングス』では、アジムス、ドゥウェレ、ホセ・ジェームス、ベン・ウェストビーチなどなど豪華なゲストを招き、それまで以上に生演奏の比重を増やし、よりダイナミックで華麗なサウンドを確立している。ちなみに『オブ・オール・シングス』のクローザー・トラックが、大人に成長することを拒む少年の気持ちを歌っているモリッシーの"ダイアル・ア・クリシェ"(1988)カヴァーだったことは実に興味深い。
 そして、先月リリースされた4年ぶりのサード・アルバム、『ファンクハウス・スタジオ・セッションズ』で、ジャザノヴァはまったくの生バンドとなった。デジタル化する世界とは逆行するように、彼らはビットとバイトの世界よりもアナログを選び、サンプリングよりも生演奏に徹し、ジャザノヴァ流のバンド・サウンドの完成へと向かった。アルバムにおける唯一の書き下ろし曲"アイ・ヒューマン"がそうなったことの本心を明かしている。
 いずれにせよ、美しい歌、心躍る演奏、それらヒューマンな行為のなかの陶酔する甘美な時間......我々がなぜソウル・ミュージックを必要とするのか、その理由がここにはある。
 ジャザノヴァをステファン・ライゼリングとともにオーガナイズしている中心人物のアクセル・ライネマーに話を訊いた。

バックステージでも空港でもemailをチェックしたり、Facebookのコメントをチェックしたりと、これも僕たちの生活の一部になっている。まあ、当たり前なことだと思う。でも隣に座っている人とSkypeで会話をするのではなく、向い合って心のこもった会話をすることは大切なことなんだ。

まずはアルバム完成おめでとうございます。とても人間味あふれる素晴らしい内容で、いつまでも色褪せないアルバムだと感じました。まず、今回のこのバンド・プロジェクトを試みることになった経緯を教えて下さい。

アクセル:このバンド・プロジェクトのきっかけは2009年にロンドンで開かれたジャイルス・ピーターソンのワールドワイド・アワードだった。ジャザノヴァは今年で結成15年になるんだけど、前作の『オブ・オール・ザ・シングス』では、いままでのプログラミングとサンプリング主体とは違って、ミュージシャンをたくさん使って制作した。だからジャザノヴァのDJは世界中でプレイするたびに各地で「なんでバンドを連れてこないの? DJだけなの?」と質問され続けてきた。だから僕とステファンは「すべてサンプリングで制作された自分たちのエレクトロニック・ミュージックをどうやってステージ上で再現しようか」と話し合ってきた。
 最初はやり方がわからなかったけど、『オブ・オール・ザ・シングス』はドラムスだけがプログラミングされたものだったから、もしかしたらいまならバンドで再現することができるかもしれないと思って、そこで以前から一緒に仕事をしてきたミュージシャンを招いた。ミカトーンのポール・クレバーはいつも僕たちの楽曲でベースを弾いてくれていたし、セバスチャン・シュトゥッドゥニツキーは音楽的なディレクターとして楽曲の別アレンジを作る際に協力してくれた。前のアルアバムではオーケストラやストリングス隊など多くのミュージシャンと制作していたから、一緒にステージで演奏するのは難しいと思っていた。でも、セバスチャンが別のアレンジを作ってくれたので9人編成で演奏することができるようになった。

打ち込み、ダンス・ミュージックに飽きてしまったんでしょうか?

アクセル:飽きたってことはないね。ライヴだってダンス・ミュージックだろう。"フェディムズ・フライト"のようなクラシックから"アイ・ヒューマン"のような最新曲まで演奏するよ。充分にダンサブルな曲だし、パーティ用のセットでもあるからね。クララ・ヒルやラ・ルーの作品をプロデュースしたり、たくさんレコーディングしてきたんで、スタジオでの作業もどんどん良くなっていって、その制作過程を自分たちの楽曲にも活用できると思った。だからステファンはもっと作曲にフォーカスするようになってきたんだ。それでもプログラミングでの制作に飽きたわけじゃないよ。いまでもビートはクレイジーな感じにプログラムしているしね。

これまでの制作との違いはなんでしょう?  こだわりの部分や、苦労したこと、予想もできないハプニングなどがあったら教えて下さい。

アクセル:もっとも変わったことといえばフル・バンドとともにスタジオに3日間入ってレコーディングしたことだね。いままでのジャザノヴァの制作ではホーン隊で1日、次の日にストリングスをレコーディングしたりと、すべてレイヤーになっていて、録音も分けてやっていた。
 だけど今回はフル・バンドで一緒にスタジオに入ってレコーディングしたんだ。これは本当に新しいことだったね。しかもかなり上手くいったよ。一緒にツアーをしてきたバンドだから楽曲も知っていたし、演奏も熟知してたからね。このスタジオ・セッション・アルバムはジャザノヴァのスタジオで制作された楽曲とライヴ・ショーとの架け橋だと思っている。ライヴについて言えば、つねにステージの上でジャザノヴァのスペシャルなサウンドが出せるわけでないけどね。ときには20分しか準備時間がないときなんかもあって、9人のバンドでみな違うセッティングだと正しい音が出せないこともある。だけどこのレコーディング・セッションではヴィンテージなマイクをたくさん持ち込んでレコーディングして、自分でミックスをした。だからサウンドがスタジオでのプロダクションとライヴ・バンドの中間なんだ。

前作から4年間ブランクがありましたね。たとえば、その間、アレクサンダー・バークはクリスチアン・プロマーとのコンビで〈Derwin Recordings〉から積極的に作品をリリースしていましたよね。」他のアーティストは、どのような活動を続けていたのですか?

アクセル:ステファンと僕はバンドと一緒にずっとツアーに付きっきりだった。新しいアルバムはすぐリリースできると思っていたんだけど、ツアーや準備に思った以上に時間がかかってしまった。新しい体験だったからね。でもすごく楽しいことだったよ。それから他のミュージシャンのスタジオ作業やプロデュースでも忙しかった。たとえば〈P-VINE〉からリリースしたフィン・シルヴァーも僕のプロデュースだし。フィン・シルヴァーとはレコーディング、ミックス、ツアーとたくさんの仕事をしてきた。この4年間はこんな感じだったよ。

各個人が有名なって、なかなか一緒に制作をする時間がないと思いますけど、どのようにやり取りし、制作を進めたのですか? また、衰えることのない制作意欲の源はなんでしょう?

アクセル:ジャザノヴァのメンバー全員がレコーディングに参加したわけではないんだ。オリジナルのメンバーは僕とステファンだけだった。このふたりですべてのプロジェクトをオーガナイズしている。ライヴ・バンドはジャザノヴァのオリジナルのメンバーとはまったく違ってライヴのために結成した新しいものだよ。DJたちは世界中をツアーしたり、コンピレーションを作ったり、自分たちのレーベル、〈ソナー・コレクティヴ〉のことに集中したりとみんな忙しいから、少し休んでからまた制作を再開したんだ。

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ジャザノヴァのDJは世界中でプレイするたびに各地で「なんでバンドを連れてこないの? DJだけなの?」と質問され続けてきた。だから僕とステファンは「すべてサンプリングで制作された自分たちのエレクトロニック・ミュージックをどうやってステージ上で再現しようか」と話し合ってきた。


Jazzanova
Funkhaus Studio Sessions

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手本にしたバンドや、影響を受けたバンドはいましたか?

アクセル:そうだね、たとえばば昨日は僕にとってはダラダラした感じの日曜日だった。ゴロゴロしながらたくさんの音楽を聴いたよ。僕にとってはいろんな音楽のサウンド・スケープに飛び込んでいくような感覚が楽しくて、どうやって曲を作っているのか考える。とても刺激的で、すぐにでもスタジオに入ってレコーディングしたくなる。スタジオで多くの人と働くことも素晴らしいことで、さまざまな人がいるからそれぞれが音楽に何を感じているのか、音楽で何を表現しようとしているのかを理解しようとする。だからみんなの音楽から影響を受けるんだ。

ジャザノヴァのデビュー当時は、ボサノヴァ色が強かったように思いますが、あの頃に比べ、よりジャズやソウル・ミュージックへ傾倒している理由はなんでしょう?

アクセル:ジャザノヴァが音楽を作りはじめた90年のはめの頃、僕とステファンは、ア・トライブ・コールド・クエストやジャングル・ブラザーズといったヒップホップにどっぷりとはまっていた。それと同じ頃にレコード収集もはじめて、サンプリングに使えそうなものを探していたし、他のアーティストがサンプリングに使っていたものもたくさん聴いた。だからソウル、ファンク、ジャズには大きな影響を受けてきた。時間が経つに連れてロックだったり、カントリーなんかも聴くようにもなったけどね。
 音楽を作るときには新しいスタイルを見つけたり、異なったスタイルのなかから類似点を見つけることができる。これが自分のスタイルを確立するのに影響をあたえるんだよ。だから最初にはまったヒップホップやソウルからの影響が大きいんだ。

デトロイト出身のポール・ランドルフをヴォーカルに起用してますよね。前作でも彼は歌っていますが、どうしてこうなったんですか?

アクセル:自然な流れだったんだ。彼はクールなソウル・シンガーだからね。うまくいったと思っているよ。

どこでポール・ランドルフとつながったんですか?

アクセル:ジャザノヴァのDJ、ユルゲンがオーストラリアでDJしたときに、ポールはアンプ・フィドラーとツアーしていた。そこで彼らが会った。数年たってからポールがベルリンでライヴをやった際にまた連絡を取って、そのときのアフター・パーティでポールが即興で歌った。彼がマイクを取ったときは本当に驚いた。こんなにすごいシンガーだったとは思ってなかったからね。そこで新しいアルバム(『オブ・オール・ザ・シングス』)で数曲歌ってくれないかと尋ねてね。そして"レット・ミー・ショー・ヤ"と"ラッキー・ガール"、それからモリッシーの"ダイアル・ア・クリシェ"のカヴァーの3曲をレコーディングした。
 ライヴ・プロジェクトをはじめる際に「一緒にツアーできるのは誰だろう?」と悩んだ。あのアルバムに参加してくれたホセ・ジェームスとベン・ウェストビーチもツアーで相当忙しかったし、全員で一緒にツアーを回るのは難しかった。そこでポールがいいと思った。ポールならベースも弾けるし、いろんな曲も歌える。ホセが歌った"リトル・バード"もポールの個性で歌えるし。
 ポールがマイクを握ると、ジャザノヴァ・バンドのフロントマンにぴったりな感じだった。素晴らしい決断だった思うし、彼もちょうど時間があったからね。いまではジャザノヴァ・バンドの重要な一員になったよ。ライヴ・バンドで制作した曲も、ポールはすべての曲を歌えるからね。

また、次のシングルでは同じくデトロイトのハウスDJ、マイク・ハッカビーをリミキサーに起用しているようですね。デトロイトへの憧れ、デトロイトからの影響みたいなものはあるのでしょうか?

アクセル:ベルリンとデトロイトはエレクトロニックな音楽で昔から繋がっている。もちろん初期のテクノの時代からDJはデトロイトに影響を受けてきた。僕はそこまでデトロイトの音楽に詳しいわけではないけど、ジャザノヴァのオリジナル・メンバーのユルゲンとアレックスが"アイ・ヒューマン"のリミキサーにマイク・ハッカビーを選んだ。"アイ・ヒューマン"は、僕たちが交流のあるカール・クレイグなどに代表されるデトロイトのエレクトロニックなダンス・ミュージックからの影響ももちろん受けている。

さらにその次のシングルはウクライナの気鋭ヴァクラのリミックス盤がリリースされそうですが、リミキサー選びの基準は?

アクセル:"アイ・ヒューマン"のテンポやフィーリングはクラップ的なリミックスにぴったりなんだ。歌もヴァクラの音にはまるんだ。クラップな感じのミックスができるDJを探していた際に、僕たちのブッキング担当のダニエルがヴァクラを紹介してくれたんだよ。

また、ここ数年で友だちのDJやアーティストが数多くベルリンに引っ越してしまいました。あらためて訊きますが、ベルリンの魅力はなんでしょう? 他の都市と違うと感じるところがあったら教えてください。

アクセル:ベルリンはちょうどいい街なんだ。多くの人がベルリンを訪れるよ。ここに住んでDJをはじめたり新しいプロジェクトをはじめたりね。ただ、ある人はベルリンで仕事を見つけるのは難しいとも言うけどね。正しい人と繋がらなければ、シーンが独特なので、仕事を得るのは難しいかもしれないな。イギリスからきたDJレッケムみたいにうまくやっている人もいるけど。また、ベルリンに作曲をしに来るミュージシャンもけっこうまだいるよ。ジョナサン・ジェレマイアーの曲を書いているヘリテイジ・オーケストラのメンバーとも最近出会ったんだけど、彼もロンドンからベルリンに移ってきたんだ。まぁ、手頃な価格で生活できる街なんだよ。

アルバムには、15年前のデビュー・シングル曲"フェディムズ・フライト"のリメイクも収録されていますが、当時自分たちが作った作品を今再び聴いてみた感想は? また、歳をとったなと感じるところはありますか?

アクセル:"フェディムズ・フライト"は僕たちにとってすべてのはじまりだった。思い出の曲だ。だからこそリメイクを作るべきだと考えたんだ。いまでもライヴで演奏するとき、ベースラインがはじまるとお客さんがすぐに反応してくれる。いまではバンド・メンバーはツアーを通して曲を熟知したから、ソロ・パートを入れたり、レコーディングもリラックスしてできたりと、とてもクールな感じなんだ。昔を振り返ると、すべてをプログラミングするのは時間もかかりすぎたし、考えすぎていた。いまではいろいろな音の個性が見えてくるので、僕自身もこの曲が大好きなんだ。ソロ・パートもかっこいいし、本当にうまくリメイクできたと思っているんだ。
 この話を訊いてくるとき、みんな「レジェンド」という言葉を使うんだ。ちょっと怖い言葉だと感じるときがあるよ。自分も歳を取ったのかなーと感じてしまうんだ。もちろん実際に歳は取ったけど、でも気持ちは若いままだよ。すべてが新しくてエキサイティングに感じるしね。毎日が学ぶことの連続でそれが重要なんだ。ライヴでは20代の若者が僕たちをレジェンドのように見ているときがある。でも彼らは"フェディムズ・フライト"を知っている。とても不思議な感じがするんだ。

昔のように、新譜のガンガンにレコードを買ったり、クラブに遊びに行ったりするんですか?

アクセル:DJとステファンはいまでもたくさんレコードを買っているね。僕は昔ほどではないけど、いまでもクラブには行くよ。僕はそこまでたくさんのレコードを買わないけど、いまはマイクやプリアンプといったスタジオ用の機材をもっと買うようになった。みんなはレコードに夢中で僕は機材に夢中なんだ。

アルバムで唯一の新曲"アイ・ヒューマン"の歌詞には、人間と人間の「生」のつながりの大切さが歌われていますよね。いまのネット社会に対する危機感が込められてるように思いましたが、いかがでしょうか?

アクセル:仲の良い友人の話なんだけど、みんなで集まって食事に行ったとき、彼女はみんなで話しているあいだもブラックベリー(スマートフォン)を手にとっていま何をしているかをずっとネットにアップしていたんだ。彼女は仲の良いたくさんの友だちに囲まれているのに、本当は楽しんでいないように見えた。ずっと投稿していたんだね。ちょっといき過ぎな感じがして、これを曲にしようと思ったんだよ。でも彼女はこの曲が自分のことだとは知らないけどね。
 この話は誰にも当てはまることだよね。バックステージでも空港でもemailをチェックしたり、Facebookのコメントをチェックしたりと、これも僕たちの生活の一部になっている。まあ、当たり前なことだと思う。でも隣に座っている人とSkypeで会話をするのではなく、向い合って心のこもった会話をすることは大切なことなんだ。だからこの曲は楽しい曲にしたかった。「みんなで集まって何かしたり、楽しもうよ!」ということを言いたかった。情熱を込めたかったんだ。これは本当にピースフルな曲なんだよ。

数年前に比べ、12インチ・シングルのリリース・タイトルは増加している(量は減りましたが......)様に感じますが、あなた達もレコード(盤)に対する愛着、リリースすることに対するこだわりはお持ちですか?  また、最近ではデータのみのリリース音源もありますが、どう思いますか?

アクセル:もちろん愛着はあるよ。音質を考えてアルバムをアナログでも作ることにした。これはDJの伝統でもあるしね。しばらくのあいだアナログの人気は下火だったけど、また復活してきた。CDしか売ってなかった店でも、いまではアナログもまた買えるようになってきたんだ。次第に戻ってきた感じがするよ。多くの人はmp3をダウンロードするけどね。でももちろん僕たちはアナログも大切にするよ。DJもみんながアナログだけでプレイするわけではないけど、「ある音楽」にとってはアナログは必要なものなんだ。
 やっぱりいまでも手に取れるものが好きなんだ。情報を知ることができる読むことができるブックレットも重要だ。どこでレコーディングしたのか、誰が作曲したのか、バックグラウンドの情報を知ることができるからね。デジタルだと見逃してしまうことだよ。

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気持ちは若いままだよ。すべてが新しくてエキサイティングに感じるしね。毎日が学ぶことの連続でそれが重要なんだ。ライヴでは20代の若者が僕たちをレジェンドのように見ているときがある。でも彼らは"フェディムズ・フライト"を知っている。


Jazzanova
Funkhaus Studio Sessions

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あなたたちにとって音楽は仕事ですか? 趣味ですか?

アクセル:実際には仕事ではないね。ときには簡単なことではないけれど、僕たちにエナジーを与えてくれるんだ。音楽なしでは生きられないよ。ライヴのときは前の方の観客がバンドにあわせて反応するのを見るのは気持ちのいいことで、一体感を感じる。頑張った甲斐があったと感じるんだ。

制作しているのは売れる音楽? それとも好きな音楽?

アクセル:売れる音楽を作っているとは思っていないよ。たぶんできないね。つねにジャザノヴァは僕たちのなかから出てくるものを制作する。僕たちにはレディ・ガガのような音楽はできないし、彼女にも僕たちの音楽はできないんじゃないかな。これは個性であって真似できるものではないよ。ヒットを作ろうとは思わない。一度ヒットしてしまうと、同じようなものを作ろうと思うんだけど、同じものは作れないよ。それでは成功したとは言えないでしょ。ラナ・デル・レイも一緒。セールスはとてもいいし、他と同様な曲は入っていない。同じようなことを繰り返ししようとは思わないんじゃないかな。

ある意味、このアルバムでジャザノヴァにとってのひとつの最終地点/完成形を迎えてしまったと思うのですが、次はどこへ向かうのか、次に向かう先はもう明確に見えているのか?

アクセル:休もうとは思っていないよ。次のアルバムを作りたいんだ。向かう先は今作で作った道の延長だろうね。バンドで作曲した曲を増やしたいし、また原点に帰ったインストの曲も入れたいな。そういう曲もジャザノヴァらしい曲だと言えるし、新しいテクニックや、新しいサウンドを見つけたい。
 完成形と言われるのが不思議だよ。このアルバムではジャザノヴァは大して変化していないからね。すべての音符をきっちりプログラミングしてきたことから、ライヴ・バンドによってレコーディングするという変化はあったけどね。自分たちでこれ以上コントロール出来ないこともあって、諦めたこともあったけど、いろいろと学ぶことができた。僕とステファンにとってはとても楽しい経験だったよ。もしバンドがいいグルーヴを持っていたら、レコーディングしたものを切り刻んでつなぎ合わせることはしない。ひとつの音が遅れてたり、もしくは走っていたとしても、良い感じに聴こえるのならOKなんだ。昔はすべてをきっちり作ろうとしすぎていたけどね。ポールのヴォーカルもきっちりと正そうとは思わなかった。たとえ音がずれていても、それがライヴ・パフォーマンスなんだ。これは僕たちの主張でもある。すべてを完璧にしようとは思わない。感情に従って、全体像を見る。相互作用を聴くんだよ。でももしかしたらおかしなところがあるかもしれないけどね。

最後に日本のリスナーにメッセージをお願いします。

アクセル:いつでも日本には行きたいと思っているよ。僕たちの住むベルリンとは全く異なる街だからとても楽しいしね。長く滞在して文化を学べたらいいと思ってるよ。どこへ行ってもライヴに集中して、インタヴューなど受けたりするとその街をじっくり探検することができないからね。みんな日本が大好きで、友人からは日本に行くことを羨ましがられるんだ。素晴らしいファンがいてくれて、素晴らしいコミュニティがあるしね。日本に行けることを本当に楽しみにしているよ!

ゆっくり生きていたときを忘れないで
いっしょにどんちゃん騒ぎをして祝おう
"アイ・ヒューマン"


I Human feat. Paul Randolph


Believer


Let It Go


【ジャザノヴァがバンドセットでの来日決定!】
BROOKLYN PARLOR presents
"GOOD MUSIC PARLOR" LIVE at BLUE NOTE TOKYO


JAZZANOVA LIVE featuring PAUL RANDOLPH
ジャザノヴァ・ライヴ featuring ポール・ランドルフ

DJ : DJ KAWASAKI (7.16mon.)、沖野修也(Kyoto Jazzz Massive) (7.17tue.)

2012 7.16mon.-7.17tue.

7.16mon.
 [1st]Open4:30p.m. Start6:00p.m.
 [2nd]Open8:00p.m. Start8:45p.m.
 ★DJ
 [1st]4:30p.m.-6:00p.m.
 [2nd]8:00p.m.-8:45p.m.

7.17tue.
 [1st]Open5:30p.m. Start7:00p.m.
 [2nd]Open8:45p.m. Start9:30p.m.
 ★DJ
 [1st]5:30p.m.-7:00p.m.
 [2nd]8:45p.m.-9:30p.m.

https://www.bluenote.co.jp/jp/artist/jazzanova/

 6月に入り、ニューヨークはイヴェントで目白押し。





 まずはいま、ブルックリンでいちばん面白いアート・エリア、ブシュウィックで、「ブシュウィック・オープン・スタジオ」が、6月第一週末に開催された。
 アーティストのスタジオを、その週末だけ一般開放して、スタジオを見学をするイヴェントである。ブシュウィックには数えきれないほどのアーティストがスタジオを構えているので、場所によってはミュージック・ショーがあったり、ヴィデオ上映会があったり、ライヴ・ペインティングがあったり、盛りだくさんなのである。
 たくさんあるので、案内所として、いくつかのハブ・スタジオがあり、そこで地図やインフォをもらい、オススメを教えてもらえる。駅でいうと、3、4離れて固まっているので、プランをたてて行動するのが良い。デタラメに行っても、そこそこ面白いものが見れる。みんなフレンドリーで、アーティストと触れ合えるし、フリードリンク、フード、見る物満載、楽しい週末イヴェントである。
 私がチェックしたのは、デカルブ・アベニューとブロードウェイの角にある「ロード・サインズ」。道の角に、大きなサインが作られていて、サインの先には、このサインを作ったアーティスト(スコット・グッドマン、サキ・サトウ)も含む10人ぐらいのアーティストのスタジオ「1100broadway」があり、その近所の「ブルックリン・ウェイ・フェアーズ」にもお邪魔した。友だちの家に来たかのようで、スナックなどが持ち寄り。アーティストの作品は、ドローイング、ペインティング、彫刻、クリスタル、ボトル、ヴィデオ......などなど。作者は、気軽に作品について説明してくれる。

 同じ週末には、「ブルックリン・フィルム・フェスティヴァル」のキックオフ。ニューヨークでは、次々とフィルムフェスティヴァルが開催されるが、有名所では「トライベッカ・フィルム・フェスティヴァル」がある。私が個人的に好きなのは、監督の顔が見える、インディ感漂うフェスティヴァルで、「Res fest」(レス・フェスト)、「ニューヨークUFF」(ニューヨーク・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティヴァル)、「BFF」(バイスクル・フィルム・フェスティヴァル)などが印象に残っている。
 今回のブルックリン・フィルム・フェスティヴァルも、私の心を動かすインディ・フェスティヴァルである。アメリカ、ロシア、イタリア、トルコ、スペイン、ドイツなどの映画が集まっているのだが、監督やロケ地、ストーリーなどが、ブルックリンに関連していて、ブルックリンが映画の中心であることをアピールし、インディの映画制作、アーティストの素晴らしさ、アーティストの創造の自由を促進している、ブルックリンから世界に発信するフェスティヴァルだ。

 こちらがトレーラー。






 このなかからひとつ、「lefty loosey righty tighty (レフティ・ルージー・ライティ・タイティ)」をピックアップする。
私が昔働いていた音楽オンラインショップで、現在働いていて、私のレーベルの物もいつも扱ってくれるパトリックが脚本を書いたというので、個人的にも親近感をもっていた。
 ストーリーは彼と同世代の典型的なアメリカ人30代男の生活、その恋愛模様が描かれている。3人の友だちが、これまでのバブルの崩壊を悟り、歳を取るごとに直面する自分自身や生活の変化のなかでドラマは繰り広げられる。
 撮影場所はブルックリンのパークスロープ。ここは、ブシュウィックとは対象的な、家族が住む地域で、ストローラーを押したお母さんを良く見かける。エッジさはないが、別面のブルックリンという感じが伝わる。
 ブルックリンと言っても、とても広く、インディ・ロック界でいうブルックリンはウィリアムスバーグ、ブシュウィック、グリーンポイント辺りなので、機会があれば、他の地域も紹介していきたい。例えば、どこに住んでいるの? と聞いてブシュウィックというと、「ああ、ミュージシャンかアーティストなのね」と、パークスロープと言うと、「ああ、落ち着いてるのね。子供がいるの?」などと、会話がはじまる。地域ごとに「顔」がある。

 さて、席は100席もなかったが、ほとんど埋まっていた。監督が言うには、DIYでどこまでできるかがテーマで、脚本家、俳優、映画音楽(ミュージシャン)、いやいや、お客さんもほとんどが彼の友だちだったかもしれない。見に来ている人は登場人物が経験していることを自分と照らし合わせ「ああ、わかるわー」という、共感を楽しんでいるように思えた。
 日本人の私から見ると、30代の微妙なお歳頃のアメリカ人が作った、ローカル感満載の映画で、「まったくアメリカ人はルーズでイージー(良い意味で)」と、表面的に思えるのだが、そのなかに見える登場人物の、微妙な心の動きや葛藤には、共感できるものがある。
 結局この映画で伝えたかったメッセージは、特異性を越え、生活を混乱させ、壮大で恐ろしい現実に自分の心を開いていくことだろう。ちなみに映画の最初に出てくる制作者のクレジットが、デリのサインを使って表され(つまり、かなりニューヨーク的)、オーディエンスにもしっかり受けてたが(拍手まで起こった)、ただこれは、アメリカの地方に住んでいる人にも理解し難いかもしれない。日本で言うと、町の商店街のサインを使って、名前を載せるという感覚なのだが、そのユーモアのセンスが、ここにいるからわかるという限定的なもの。笑いは、世界共通で有りながらツボは違う。上映後の監督への質問には、これでもか、というぐらい質問する(的外れな質問でもお構いなし)。

 もうひとつ見た映画は、「Cat Scratch Fever(キャット・スクラッチ・フィヴァー)」。こちらはルームメイトで親友のふたりの女の子が主人公、彼女たちは自分たちの生活を別次元の世界で見れることを発見する。そう、現在の生活とテクノロジーの数えきれない可能性の暗喩でもある。 こちらも、ストーリーからロケーションからとてもDIYで親近感を感じた。いずれせによ、これもまた、今日的なテーマである。

 話しは飛ぶが、たまたま見つけたこのプロモ・ヴィデオ(https://news.aol.jp/2012/06/04/italian-supermarket-lip-dub_n_1537380/)、イタリアの生協のスタッフが、オープン記念で作っているのだが、素人でここまでできるのは、イタリア人の血筋(ジェスチャーに長けている国民)なのか!

LOW END THEORY JAPAN - ele-king

先日、下北沢のZEROに行ってしばらく飯島直樹さんと話し込んでいたら、いきなりズカズカとお店のなかに原雅明さんがこのフライヤーを置きにやって来て、僕を見るなり、「紹介してよ!」と、迫力満点のヴォーカリゼーションで言われたので紹介することになりました。今日のロサンジェルスの最重要拠点、ロー・エンド・セオリー・ジャパン再来です!
 倉本諒くんのように、ドゥーム・メタル/ノイズを追求していたらマシューデイヴィッド周辺と知り合って、それでロー・エンド・セオリーへと漂着しているインディ・キッズもいるんだよと、おそるおそる原さんに言ったら、「最近はそういう子、多いよ!」と、これまた迫力満点に言っておられました......。そうですよね、いろいろなジャンルの交流点になってますよね。昨年、タイムラインのライヴ会場でも、フライング・ロータスからデトロイト・テクノへと漂着した若者がおりました。一時期は島宇宙だとかタコツボ化などと揶揄されていましたが、実はリスナーは、ぜんぜん横断しているんですよねー。
 はっきり言って、メンツがかなり豪華です。原さん、ありがとう。僕も行ってみようかと思っています。
 
 以下、原さんから届いたメールです! 札幌と大阪でもありますよ!

 3月に大盛況で終わったLOW END THEORY JAPANが早くも再登場! 今回はダディ・ケヴとノーバディのレジデントの2トップに、ラス・Gという最強の布陣。さらに、プロデューサーたちがフレッシュな未発表ビートを紹介するLOW END THEORYの名物企画Beat Invitationalの日本版を開催。多数出演する日本のビートメイカー、DJ、ビートボクサーたちのパフォーマンスにも注目!

LOW END THEORY JAPAN [Summer 2012 Edition]
6.30 (土) @ 渋谷 WWW (03-5458-7685)
https://www-shibuya.jp/schedule/1206/001745.html
OPEN / START : 23:00
CHARGE : ADV.3,500yen / DOOR 4,000yen
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。(要写真付き身分証)

Live&DJ
DADDY KEV / NOBODY / RAS G

Beat Invitational
(出演者は後述)

DJ
DJ KENSEI / DJ SAGARAXX / BUDAMUNK / BUGSEED & PIGEONDUST / YAGI & ILLSUGI / FUJIMOTO TETSURO / DJ FEBB

VJ
DBKN / KAZUYA ITO

RAS G | ラス・G
ダブやジャズも飲み込んだスモーキーなビートと、敬愛するSun Ra譲りのコズミックな世界観で、ユニークなサウンドを作り上げたラス・G。LAのシーンのキーとなるPooBahやBrainfeederにも関わり、 Dublab制作の『Secondhand Sureshots』など重要なプロジェクトにも参加している。最近はRas G & The Alkebulan Space Program名義で、よりディープなサウンドを追求している。 2009年のLOW END THEORY JAPAN以来の待望の再来日となる。 https://afrikanspaceprogram.com/

DADDY KEV | ダディ・ケヴ
LOW END THEORYの、またレーベルALPHA PUPの主宰者。アンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンの伝説的プロデューサーであり、フリースタイル・フェローシップからフライング・ロータスまでさまざまなアーティストのマスタリ ング・エンジニアとしても有名。LOW END THEORYでは多くの若いアーティストをフックアップし、LAのみならず世界のビート・ミュージック・シーンの活性化に寄与し、多くのアーティストから リスペクトを集めている存在。 https://www.daddykev.com/

NOBODY | ノーバディ
ヒップホップ育ちのサイケ・ロッカーであり、マーズ・ヴォルタやプレフューズ73のツアー・メンバーとしても知られているノーバディは、サイケデリック・ロックとヒップホップを融合させた『Pacific Drift: Western Water Music Vol.1』で脚光を浴びた。ミスティック・コーズ・オブ・メモリー、ブランク・ ブルー名義でもアルバムをリリース。ネットラジオdublabの設立メン バーの一 人でもあり、常にLAの音楽シーンの中心で活動を続けている。 https://www.alphapuprecords.com/artistpage.php?ArtistID=93


Beat Invitational〈ビート・インヴィテーショナル〉は、ビートメイカー/ プロデューサーにスポット当ててきたLAのLOW END THEORYの人気企画。今回初めて日本人アーティストも多数交えて日本で開催される。

Beat Invitationalに出演するのは以下の9組の個性豊かな面々......

HAIR STYLISTICS a.k.a 中原昌也
小説やペインティング、映画批評でも知られる中原昌也の音楽ユニット。リリース作品多数あり。ヴィンテージのサンプラーやシンセサイザーなどハードウェアを基本にしたライヴの出音の良さも魅力の一つ。

BUN / FUMITAKE TAMURA
2011年、坂本龍一のレーベル「commmons」よりアルバム『BIRD』をリリース。ザラついた音の質感を綿密に構成し、様々なジャンルを横断していくアーティスト。先頃、LAに赴き、LOW END THEORYにライヴ出演したばかり。

QUARTA330
Hyperdub所属。Flying Lotusへのリミックスの提供をはじめ、Thom Yorke(RADIOHEAD)、Mouse On Mars、Ministry of Soundのミックスに収録される。2010年ハートキャッチプリキュア!との出会いを契機に【中略】 SonarSoundTokyo2011へ出演。

NEO TOKYO BASS
CRASH、ENDLESS、GYTO、SKYFISHから成るプロダクション&DJクルー。

櫻井響
ベーシストの父とシンガーの母の元、幼少からジャズに親しみつつ、DJの活動中にhuman beat boxを始め友達が増える。言葉以外の「音」でコミニュケートできることから、国内外、様々な人や楽器とのセッションも多い。音を模写した声をその場で LOOPさせ、曲を変えていくソロライブで活動の場を広げている。

CONFLICT
KABEYA & SHIROの2人によるビートメイカー・デュオ。5年振りの新作アルバム 『YELLOW BEAT』の評価も高く、DADDY KEVのAlpha Pupを通じてワールドワイド配信されている。

JEALOUSGUY
北海道を拠点に活動中。AKAIのMPD18というMIDIパッドを叩きながらリアルタイムでbeatやメロディーを構築している。ライブ感を重視したスタイル、つんのめったビートでフロアを盛り上げている。SonarSoundTokyo2011でも話題を呼んだ。

BUGSEED
サンプリングベースのHIPHOPビートメイカー。2010年Bandcampにて"Bohemian Beatnik LP"を発表後、海外から世界に発信しているオンラインメディアのコンピレーションアルバムやGuest Mixに多数参加するなど国内外を問わずアクティヴに活動している。

DJ MUTA
JUSWANNAへの楽曲提供や数々のミックスCDのリリースなど精力的に活動を続けるDJ&プロデューサー。3月のLOW END THEORY JAPANのDJがネットでも公開されて注目を集めている。https://www.mixcloud.com/LowEndTheoryJapan/...


+DADDY KEV、NOBODY、RAS GもBeat Invitationalに参加決定!

メインフロアを共に作り上げるDJはLOW END THEORY JAPANのレジデントとも言えるこの二人......

DJ KENSEI
DJの可能性を追求するDJとしてのレンジの広さもさることながらHIP HOP DJとして80年代後半から主に90年代にかけてその時代のDOPEなSOUNDをリアルタイムで数多くのCLUBの現場でプレイしてきたDJとして知られている。DADDY KEVによる INDOPEPSYCHICのリマスタリングも話題を呼んだ。

SAGARAXX
1990年代後半からDJを始める。山仁との1MC×1DJのライブアクトとしても活動を展開し、2007年からはDJ Kenseiとのプロジェクト、Coffee& Cigarettes Bandと して楽曲の制作やライヴ・セッションにも関わっている。


ラウンジDJには才能あふれるフレッシュなDJ&プロデューサーが多数参加。こちらも見逃せない......

YAGI & ILLSUGI
2012年にスプリットBeatTape『STONED BEAT TAPE』をCassetteTape,CDRで自主リリース、国内外のBeat系メディアでも紹介されるなど好評を得る。渋谷THE ROOMで行われているBeatパーティ"Trane."をDJ SAGARAXXやBugseedらと開催。

BUDAMUNK
ヒップホップのプロデューサー。96年にLAに渡米。MCのJoe StylesとOYGと"Keentokers"として活動開始。帰国後はAKAI主催のMPCバトルで優勝、Jazzy SportやDOGEAR RECORDSからリリースを重ねる。現在はSick Teamの一員として、全てのビートをプロデュース。また、mabanuaとのユニットGreen Butterでもリ リース。

BUGSEED
サンプリングベースのHIPHOPビートメイカー。2010年Bandcampにて"Bohemian Beatnik LP"を発表後、海外から世界に発信しているオンラインメディアのコン ピレーションアルバムやGuest Mixに多数参加するなど国内外を問わずアクティヴに活動中。

PIGEONDUST
90年代からトラック制作を始める。当時の音楽体験、辺境地レアグルーヴコレクター、ジャズ専門レコード店などの遍歴、尺度から現行するヒップ ホップ、ビート音楽を同世代とは一線引いたスタンスで咀嚼する。18歳で米mushへトラック提供、その後haiiro de rossiを始めとする日本人MCに楽曲を提供。

FUJIMOTO TETSURO
新しいクロスオーヴァーミュージックを追求するビートメーカー/DJ。Aroop Roy監修の『Absolute!!』に参加以降、数々のremixをこなし、COSMOPOLYPHONIC のコンピや、チャリティーコンピ『LA・JPN・LA』にも曲を提供。最近ではオリジナルEP「Reflections」をBagpakよりリリース。

FEBB
16才でAKAI主催のビートバトル "GOLD FINGER's KITCHEN"予選で優勝。ラッパー、トラックメイカー、DJとしての顔を持ち、SPERB of TETRAD THE GANG OF FOURらと共に"CRACKS BROTHERS" としても活動。東京の正統派ハードコア HIPHOPの未来を担う者として、また一人のアーティストとして、今後の動きが注目されている一人。

"LOW END THEORY JAPAN [Summer 2012 Edition]"ツアー、札幌、大阪公演の詳細

6.29(金) : 札幌 BESSIE HALL (011-221-6076)
https://bessiehall.jp/
Live&DJ
DADDY KEV/ NOBODY / RAS G
+
REBEL MUSICAL / jelousguy / DJ KEN / and more
VJ
SWEET SMOKE

7.01(日) : 大阪 TRIANGLE(06-6212-2264)
https://www.triangle-osaka.jp/
START 17:00 FINISH 1:00
Live&DJ
DADDY KEV / NOBODY / RAS G
+
KILLER BONG (BLACK SMORKER from Tokyo)
DJs
KAZUMA (phenoma / mo'wave) / QUESTA (beats gourmet band) / naguy
SPECIAL LIVE PAINT:
TOKIO AOYAMA
VJ
Colo GraPhonic(COSMIC LAB / BetaLand) / LPC
DANCER:
SUPREME GOODMAN
Another floor DJs:
鬼タモリ / MASH (ROOTDAWN RECORD) / Dj Tell (Buddha Smog) / Dj old Shella a.k.a NAGAN SERVER (MONO ADAPTER) / GREENWORKS (FACTORY NO.073)
DECO:
OLEO
SOUND
KABA-MIX

MORE INFO
corde inc. https://corde.co.jp/
Twitter: Alpha Pup Japan https://twitter.com/alphapup_jp
Facebook: https://www.facebook.com/events/314529778617248/

Gabby & Lopez - ele-king

 ギャビー&ロペスの音楽は、それ自体が多幸感に溢れているわけではないのだが、聴いている人をほんわかとした気持ちにさせる。間違ってもアッパーではないし、いまどきのドリーミーな感じでもないが、気持を楽にしてくれる。ポスト・ロックのアンビエンスのなかで、たとえば〈スリル・ジョッキー〉のような洗練されたアブストラクト・サウンドへと向かったとしても、他では代用が効かない、ギャビー&ロペスにしか出せない感覚がある。彼らの音楽には一種の慎ましさ、物静かであることの快楽がある。森俊二が〈メジャー・フォース〉という日本で最初のヒップホップのインディ・レーベル出身というのが嘘のようだ。

 ギャビー&ロペスは、森俊二と石井マサユキというふたりのベテラン・ギタリストによるプロジェクトで、本作『トワイライト・フォー・ナインス・ストリート』は、2006年の『ニッキーズ・ドリーム』以来6年振りにリリースされる3枚目のアルバムとなる。このアルバムには、はからずともマーク・マッガイアとの共通点を見出すことができる。ギター・サウンドの追求、波乗り好きなこと、ムードを醸し出すアンビエント的な音楽性、とくに"Reflection "のディレイ・サウンドなどは......しかし、ギャビー&ロペスには、日本の音楽に特有の繊細さがある。さざ波のようなかすかな揺れ動きにこそ、彼らは美しさを見出している。ギターのいち音いち音に細心の注意が払われ、エレクトロニクスの注ぎ方にも深い配慮がなされている。そして、2本のギターの交錯する響きこそが、このプロジェクトの肝にある。

 "Birdcall Lulu"や"She Likes Motor Cycle"はファンにとってはキラーな曲のひとつだ。ふたつのギターの音符は水飴のように溶け、静けさのなかで音が躍動している。ベースがうなる"Half Step Ahead "では、マニュエル・ゲッチング流のディレイに加え、ジェフ・パーカーのポスト・バップめいた質感を思い出す。
 アルバム・タイトルになった"Twilight For 9th Street"はアンビエントというよりも、彼ら流のバラードで、アルバムのなかでもっとも感傷的な曲だが、演奏される2本のギターの弦の振動が織りなす音響の美しさは将来への不安を一時期的にせよ、確実に取りのぞいでくれるだろう。すでにいろんな名カヴァーが存在するボブ・ディランの"Just Like A Woman"を彼らもカヴァーしている。

 『トワイライト・フォー・ナインス・ストリート』は、何か偉そうなことを言っているわけではないが、我々にとっては大切な音楽のひとつだ。過去の2枚と比較すると、ギターの演奏もほどよく抑制されている。ドラムパートは控えめに演奏され、2本のギターの音色の甘美さが前面に出ている。UMA UMAの叙情にも接近しているように思えた。いずれにせよ、間違いなく、彼らの最高作。

HYPERDUB EPISODE 1 - ele-king

 歴史は繰り返す......ではないけれど、90年代後半のブロークン・ビーツが出てきた頃に似てきているのが現状。ダブステップがメインストリームになって、ブローステップが出てきた途端にアンダーグラウンド回帰がはじまっている。〈ハイパーダブ〉からキング・ブリットの作品が出ていることはその象徴のように思える。かつて、ブロークン・ビーツを先導した4ヒーローのふたりも復活している。
 しかし、そのいっぽうで、ハイプ・ウィリアムスとロレール・ヘイローといった、おそらくこれまでの多くの〈ハイパーダブ〉のファンが聴いてこなかったであろう、(インディ・ダンス/チルウェイヴ系のリスナーが追っていた)〈ヒッポス・イン・タンクス〉のアーティストを引っ張ってきているのが、最近のこのレーベルの興味深い動向だと言える。
 マンネリズムに陥っているダブステップにおいて、コード9はどんな手を打ってくるのだろう。ハウスとグライムをたくさんかけるのだろうか......。そしてジュークとか......。ハイプ・ウィリアムスはいったいどんなライヴをやるのだろう......、しかしサブウーファーを追加するくらいだから、とくにキング・ミダス・サウンドあたりは、相当な低音を出すつもりなんでしょう、いずれにしても、興味は尽きないですね!

 

東京 2012/6/8(FRI) 代官山UNIT
HYPERDUB EPISODE 1
featuring
KODE9 | KING MIDAS SOUND
DVA | HYPE WILLIAMS(Dean Blunt and Inga Copeland)
QUARTA 330 | AO INOUE | DJ KENSEI and much more

OPEN/START 23:00 前売TICKET¥3,800
※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。
必ず写真付き身分証をご持参ください。
You must be 20 and over with photo ID.

INFO: BEATINK 03 5768 1277

大阪 2012/6/9(SAT) CONPASS
OPEN/START tbc 前売TICKET¥tbc
INFO: tbc 協力: ZETTAI-MU (https://www.zettai-mu.net)

企画制作:BEATINK
INFO: BEATINK:03-5768-1277[www.beatink.com]

トクマルシューゴ - ele-king

 ディー・ヴイ・ディー(d.v.d)もおもしろかった。なるほどそれは「みる音楽」であって、動画サイトで静止した画像を観ながら音楽を聴くというあの奇妙な「きく絵」体験と不思議な対照をなすように思われた。

 この日はトクマルシューゴのDVD作品『トノフォン・フェスティヴァル&ソロ2011』の発売を記念したライヴだった。ステージには2台のドラム・セットが左右に配置されていて、真ん中には大きなモニター(ドラムス・ヴィジュアルズ・ドラムス=d.v.d)。2台で構築するコンピュテーショナルなドラミングに連動して、プログラムされた映像が動いていく。映像は音と独立したものではなく、音に反応して展開するもので、一打されるたびにマルやサンカクが増えたり変形したりをくりかえしている。

 音の信号性を強調するようなそうした設計は、メカニカルなドラミングと協調しながらオーディエンスを別次元のライヴ空間へと導くかに思われた。モニターの向こうにあるマルやサンカクの世界へだ。あれだけ卓抜でビート感のあるドラミングであるにもかかわらずほとんど誰も踊っていないのは、われわれがほぼ全員でそのサイバーなフロアへと移動させられてしまったから、だろう。われわれはおそらく身体を置きざりにして、マルやサンカクの世界で踊っていたのである。そのフロアには終わりがなかった。
 そもそも抽象的にデザインされているから、出口・入口もなく、直線は伸びつづけ、波形はうねりつづけ、マルは増えつづけ、空間はひろがりつづける。それがすこしこわいようにも思われた。なんともいえない微量の不安がドライに砕かれ、顆粒状にふりまかれていると言えばいいだろうか。音もインフレーションしつづけるが、その先に当然迎えるはずの破滅をまるで感じないこと、そして当然破滅がやってこないこと、こうしたことがなにかおそろしいのである。エレクトロニックな上もの自体はとてもかわいらしい音だ。だがあの平板なピコピコ音には小児的で傲岸な無邪気さとともに、つめたい批評性が圧縮されているようでもある。「ほんとうは怖いにこにこぷん」、というか。家で聴くというわけにいかない。生演奏という価値のためではなく、インスタレーションであるからして会場に足を運ばざるをえない、不思議な種類の音楽である。DVDで観るのもいいだろうが、おそらくそこにはいま体験している即興性とは別のレヴェルの即興、別種の仕掛けがなされているはずだ。と思った。

 次号『ele-king』掲載の金田淳子氏を迎えた座談会の収録が終わったところだが、音楽には明るくないという氏にも教えてさしあげればよかった。ディー・ヴイ・ディーは音楽性の高さに比して非常にリスナーへの敷居が低いというか、アート的な文脈を持っているぶん音楽ファンにかぎらない広い層に受け入れられるプロジェクトではないかと思う。かつ、おそらくメンバー諸氏はイケメンと呼ばれる種類の人びとであり、ドラムとラップトップというストイックなフォルムをまとった電子男子として、多大な想像力の供給源となるのではないだろうか。MCも軽妙。噺家がせんすで話の間をとるように、しゃんとハットを鳴らしていたのがおもしろかった(ジマニカ氏)。

 トクマルシューゴはとても親密な空気のなかではじまった。ドラムス、その他パーカッション、アコーディオン、ベース、ギターと歌。"リンネ"のミュージック・ヴィデオ(https://www.youtube.com/watch?v=PfgB3bX0sLg)のつづきのように、楽器を持ってみんなでここまで歩ってきたといったふうのたたずまい、ステージという場所の異質さを中和するくだけた雰囲気がつくられている。それはオーディエンスにも確実に共有されていて、多くの人がとてもリラックスしながら、ほどよい緊張のなかで音を待っている。人の音楽を聴こうというときに、考えられるかぎりもっとも好意的なムードだ。なるほどこれがトクマルシューゴかと開始早々に敬服してしまった。みなビールさえ持っていない。

 しかし演奏じたいもややカジュアルであったというか、録音物としてのトクマルシューゴの緻密さはほとんど目指されていないように感じられた。全体にアコースティックなセットだったが、トクマル自身の演奏はやや埋もれがちで、セッションのダイナミズムを優先したということかもしれないが、もう少しくっきりと聴きたかったという思いがある。そもそもセッション(合奏、というほうが的確か)それじたいというより、それぞれの音の非常に繊細なつながり、行き届いたプロダクションがトクマルシューゴの魅力だ。それをライヴで再現するかどうかは考え方によるが、初めて観るものとして個人的には期待していた点ではあった。

 とはいえ、このがちゃがちゃとした合奏にはひとつの理想やテーマ性が織り込まれているのかもしれないとも思う。ひとりユニットや夫婦デュオなどが繚乱と生まれてくる一方で、3人以上のファミリーを形成することの意味は想外に大きい。もちろん単純に音数が必要だということもあるだろうが、それこそどのようにでもプログラミングは可能であって、人間が数人寄り集まって合奏をするというスタイル、とくに"リンネ"的なパーティのイメージは、ただ生音志向だという以上のなにかを持っているように思われる。ここに集まっているオーディエンスにも、アコースティックな合奏へのオーガニック幻想や一種のファミリー幻想が上質なフィクションとして機能しているのではないか。これを率いるのがギター弾きだというのがまたクリティカルである。「父」ではなく、しなやかにやせた青年の風貌が、ここで奇妙な説得力を持ってせまってくる。

 8分の6拍子で祝祭性を生み出すシーンも多かった。アニマル・コレクティヴのような、混沌として多幸的、どこの土地のものとも知れない架空的なフォークロアが奔出し、高揚感をあおる。ベイルートなどがやろうとしていることを日本で実践していると言いかえてもいいかもしれない。驚いたのは、幕間やアンコールを求めての拍手まで8分の6拍子になっていたことである。これは偶然ではなく、オーディエンスの側に明確にその手拍子を合わせ打つ意志があった。あれだけの会場でかなりの人数でそれを合わせることのむずかしさは、高校時代に応援団に従い、気ののらない3、3、7拍子を打った記憶のある人にならだれにでもわかるだろう。気持ちが重なり、いちリスナーを超えるファミリーのムードがあるからこそそれは可能であったと言える。

 またここに参加している人びとには、音楽の好みにも強い共通性があるようだ。イントロ・クイズのようなトクマルのギターの誘いに応じ、会場にはサケロックの合唱が起こったりしていた。ギターで人をその気にさせるのもうまい。筆者にはシンプルな弾き語りがとてもよかった。6月9日には町田の簗田寺にてソロでの出演を控えている(https://blog.shugotokumaru.com/)ようだが、ロケーションといい規模といい音響といい、かなりすばらしい演奏が聴けるのではないかと思う。

SonarSound Tokyo - ele-king

 まあそんなわけで大阪はすっかり深夜踊れない街になっているので、やってられるかと僕はバスで寝ながら東京に向かった......SonarSound Tokyoでしこたま踊るためである。ちなみに「オールナイトの イヴェントに行ったことがないから行ってみたい」というふたつ年下の友人を連れて行ったのだが、キャッチーな入り口がありつつ、現在のエレクトロニック・ミュージックの奥行きも感じられるラインアップになっているのはソナーならではだ。
 それだけ豪華なメンツになっていることもあり、今回に限ったことではないが全くの個人的なレポートになっていることをお許しいただきたい。ケン・イシイのプロジェクトの裏ではグローバル・コミュニケーションとアオ・イノウエがやっている......そんなイヴェントなのだ。

 会場は今年も新木場のアゲハ/スタジオコーストで4ステージ、しかしものすごい数のひとだ。これだけの人間が深夜に踊りたがっているのに、クラブを閉店に追いやって警察はいったい何がしたいんでしょうな......とグチりたくなりつつも、ステージをいくつかウロウロしてアルコールとビートを身体に馴染ませていく。外のステージであるSonarLabでは大阪出身の若いトラックメイカーのSeihoとAvec Avecが煌びやかな エレクトロニック・ミュージックで沸かせている......法律に関係なく、ダンス・ミュージックはただそこに存在して新しい世代を踊らせるのをやめていなかった。

 メイン・ステージであるSonarClubに向かうと、ドリアン・コンセプトが相当デカい音量で遠慮なくビートを投下している。テンポが変わるブレイクビーツと音程の揺れまくるキーボード・サウンド、とにかく情報量が多い。ヒップホップとエレクトロニカの感性がミックスされているという点では珍しくないけれど、コミカルにもシリアスにもなりきらず、ややこしい実験の袋小路にも向かわず、妙にあっけらかんとした開放感があるのがいい。
 SonarDomeと名づけられたテントはひとが溢れ、入場規制がかかった。グローバル・コミュニケーションのリユニオンだ! 「世界規模の、伝達」という例のサンプリング・ヴォイスからはじまり、トム・ミドルトンとマーク・プリチャードはスクリーンの向こう側からゆっくりと、ゆっくりとその脳の襞に染み込んでいくような和音を響かせていく。スクリーンには、『ナショナル・ジオグラフィック』か『Newton』の写真のような宇宙の映像が広がり、みるみるうちにサイケデリックな領域にオーディエンスを連れて行く。メイン・ステージに比べるとどうしても音量が小さくなってしまい即効性はなかったが、その分、後にアンビエントのクラシックとなった『76:14』の音響世界に耳を澄まして分け入っていくような体験を味わうことができた。映像の使い方にしても音にしても90年代のエレクトロニカの文法を外れるものではないが、それだけ過不足のない完成された型がそこにはあったように思う。とくに中盤に訪れた、足元から這い上がってくる恍惚には背中を撫でられているような気分になった。もちろんこのアンビエントは現代まで繋がって、さまざまなヴァリエーションに展開している。ラストにはミニマルなテクノでガシガシ踊らせもしたが、あの気の遠のくような音響がグローバル・コミュニケーションなのだと感じられた。

 すっかり上機嫌でテントの外に出た僕は、友人のOと合流した......のだが、持っていた財布が消えたらしく忙しそうだったので、邪魔するのも悪いのでOをそっとしておいてメイン・ステージに向かう。ちなみにこの友人Oは、去年のフジロックのレポートで酔いつぶれてその辺で寝ていた男と同一人物である。僕が知っているだけでも、Oは4回財布をなくしている。
 それはともかく、ここからメイン・ステージは〈ワープ〉のスターが続く。まずはクラークだ。彼のライヴは三度ほど観ているが、激変の新作『イラデルフィック』の直後とはいえ、これまでの内容と大きく変わるものではなかった。圧迫感のある強力なビートと狂気じみた電子音の交差が、次から次へと展開していき全く休む暇もない。エイフェックス・ツインの血筋はたしかにあって、僕にはクラークは〈ワープ〉の正統な第二世代だと思える。けれども、エイフェックスのような子どもじみた悪意はここにはあまり感じられないし、その狂気は陰湿なものではない。シンプルに「ぶっ飛んでいる」状態が様々なテンポで応酬する、そんな気のふれたアッパーさがクラークのライヴの醍醐味だろう。いくつかミスもあったが、それも気にさせない堂々たる内容だった。アンコールでは『イラデルフィック』収録の変拍子も聞かせてくれたが、基本的には新機軸よりも得意のやり方で会場をピークまで持っていった印象だ。
 
 ステージの後ろの方に行くと酔いつぶれてOが寝ている......。横にいた彼女に聞くと、財布は戻ってきたものの現金はなかったそうだ。酔いつぶれたい気持ちも分からなくもないが、友人として声をかける。「スクエアプッシャーはじまるで」。起きない。そっとしておくことにした。
 そんな人間以外はかなりのひとがステージに押し寄せる。スクエアプッシャーへの期待は相当なものだ。バックに大きなLEDのスクリーン、卓にもLED。そこにLEDスクリーンつきのヘルメットをかぶって現れた男は、本当にトム・ジェンキンソンだったのだろうか? というのも、これまでと印象がかなり違う。音に合わせてぶんぶん腕を振り回すような、サービスめいた煽りをするタイプだったか? が、新作『ユーファビュルム』からの楽曲を生楽器を使わずすべてエレクトロニックでやっているとは言え、音そのものはスクエアプッシャーらしい高速のドラムンベースやブレイクビーツとメランコリックかつエモーショナルなメロディ。その迫力と完成度は確かなもので、ジェンキンソンもまた、10年以上かけて作り上げた型を洗練させているように見えた。新鮮な驚きはなくとも、音と完全に同期した映像の手際の良さも含めてとても安定している。彼のキャリアも一周したということなのかもしれない。新世代がひしめくソナーのなかで、ヴェテランの意地を見せるようなライヴだった。
 その点、ラストのアフリカ・ハイテックはもっと粗野で横断的だ。その日二度目の登場のマーク・プリチャードは自在にビートをコントロールする――ヒップホップ、ドラムンベース、ダンスホール、ダブステップ、アフロ・ビート、それらのミックスと野太いベース音。そのハイブリッドな音はデタラメではなくて、プリチャードの長いキャリアで培われた審美眼によるものなのだろう。ビートは雑多でも、ダンスの機能性はまったく損なわれていない。スティーヴ・スペイセックはそこに時折歌を乗せ、自ら踊りながらオーディエンスを乗せる。僕もまんまと乗せられて、ひたすら足を止めることなく踊り続ける。ああ、明日絶対寝坊するな......マーク・プリチャード意外とかわいいな......とか朦朧とした頭で考えているうちに、あっという間に朝になっていた。

 2日目。野田ボスの「寝てた?」という電話で目が覚めて、「寝てました!」と元気良く答えたら苦笑されたのにもめげず、再び新木場へ。めげない友人O(1日目はほとんど寝ていたらしい)も行きたいと言うので連れて行く。野田さんはそのとき夢中のものの話しかしないから、今回はグルーパーの話をひたすらするんだろうなあ......と思いながら合流する。とても上機嫌そうだ。「いやあ木津くん、昨日のグルーパーは素晴らしかったよ」......。

 それはともかく、ボスにつられてすでに数杯目の酒を飲みながらラスティを観る。これがまた、声を上げて笑ってしまうぐらい面白かった。横にいた野田さんが「頭いいのかバカなのかわかんないね」と言うように......いややっぱり、ちょっと「バカ」寄りなんじゃないかと思えるほどに、無闇に壮大で突拍子のないドラマティック・シンセ・サウンドが展開される。無駄にトランシーな上モノはレイヴ感覚を茶化しているようにしか聞こえず、しかし一周して大真面目なんじゃないかと錯覚してしまいそうにもなる。そこにはガキの衒いのないギャグがあり、同時にシニカルな風刺があり、しかしそれらはやたらに強い音圧でもって「もう何でもいいや」という気分に取って代わられる。ダブステップ以降のビートを使って、こんなに無責任な跳躍を見せたのはラスティがいちばんではないか。とにかくエネルギッシュ、ファンキー、エクストリーム。こんなに笑えるダンス・ミュージックはいま、なかなか見当たらない。
 その後のマウント・キンビーは一転、思慮深い演奏でポスト・ダブステップのもっともメランコリックな場所へとガイドする。曲の断片が現れては消え、思った以上に複雑な音のレイヤーの絡み合いで聞かせる。まだライヴに慣れていないのか頼りない部分もあったが、エコーの響きの余韻に浸らせながらじっくりと自分たちの音に引き込んでいった。"カーボネイティッド"や"メイヤー"といった代表曲では冷たさのなかに熱がじわりと溶け出す瞬間のスリルが見られたので、もっと1曲1曲をじっくり広げるライヴも観てみたいと感じた。
 ヴィンセント・ギャロの姿を一瞬確認しつつも、SonarDomeへ。ハドソン・モホークもまたテントをいっぱいにして、不利な音条件のなか頑張っていた。とくに先のEPのトラックがひときわ光っていて、インタヴューでは本人にはやんわり否定されてしまったが、やはりレイヴィーな眩しさがそこでは反射していた。連発するカットアップには脈絡がなく痛快極まりないが、ラスティを観た後だときちんと考え抜かれているようにも聞こえるから不思議だ。とは言えグラスゴーのこのエネルギーがいま手をつけられないのは間違いなく、次の動きのひとつは間違いなくここから続くだろうと思わされる。終盤、ここぞというときにR&B調のブレイクビーツ"オーヴァーナイト"が投下され、オーディエンスを激しく縦に揺らしていた。プレステでひたすら作曲を続けていたような少年たちが、フロアを沸かせる時代がまさにいま訪れている。
 
 バスの時間があったため僕は途中までしか観られなかったが、ザ・シネマティック・オーケストラは最後にたっぷりとアーティスティックな時間を用意していた。ヨーロッパの古典映画などからの引用を編集で処理した白黒映像と、ストリングスを加えた叙情的なアンサンブル。ジャズとエレクトロニカを交えたオーケストラは、美しい映像に緩やかにシンクロしながらまさにシネマティックな物語を奏でていた。

 たしかにメンツが豪華だったSonarSoundだが、結局のところ僕が味わいたかったのはダンス・ミュージックの胎動し続ける力そのものだった。そしてそれはその2日間、まったく遠慮することなく放たれていたのだった。すっかりエネルギーを使い果たした僕は、バスで気絶しながら大阪に帰った。
 
 
木津的best 3
グローバル・コミュニケーション
ハドソン・モホーク
アフリカ・ハイテック

木津的worst 3
2日目のスタート時間の早さ
SonarDomeの音量
友人の金を盗んだ輩

野田的best 3
ラスティ(情報量の多さにびっくり)
マウント・キンビー(思ったよりも良かった)
ハドソン・モホーク(メインで聴きたかった)

野田的worst 3
ビールの値段(酒飲めないわ)
SonarDomeの音質(メンツが良いだけに......)
ヴィンセント・ギャロ(可もなく不可もなし)

Bear in heaven、Blouse、Doldrums @ Bowey ballroom may.8.2012

 最近のショーを見に行って感じるのがノスタルジック=懐かしさ。「音楽はもう最近見に行ってないんだ」と言っている30代後半の人でさえ、懐かしいバンドがプレイするとなれば、そこそこするチケットを買って、足を延ばして見に行く。
 1ヶ月ほど前に、『チックファクタ』というインディポップ・マガジンが20周年を迎え、当時活動していたバンドがこの日のためにリユニオンした。ブラック・タンバリン、アイラーズ・セット、スモール・ファクトリー、ジム・ルイーズ・グループ、ヴァーサス、スティーヴィー・ジャクソン(ベル・アンド・セバスチャン)、ソフティーズなど、好きな人にはたまらないラインナップである。パフォーマーも観客もほとんどが30~40歳代真っ只なか。仕事に疲れ、家庭にも疲れ(?)ている世代。でも、この瞬間はみんなとても活き活きする。笑顔がずーっと絶えない。
 そういえば、小沢健二も最近(3~4月)に復活コンサートを行った。かなりの競争率のチケット争奪戦を勝ち抜き、幸運にもチケットを手に入れた人は、さまざまな思いを胸に、それぞれの青春を取り戻していた。この話を知り合いにしたら、自分も最近クラフトワークが8日連続で毎日違うアルバムを演奏する(しかもミュージアムで)ライヴに、かなりの競争率のチケット争奪戦の末に行くことができたと、語っていた。入場者には3Dメガネが配られ、たくさんのファンと一緒にノスタルジッーをシェアしたと、キラキラした目で興奮しながら話してくれたのである。

 何だ! この、揃いも揃って昔を懐かしむ感は? いつも忙しいと言っている人でさえ、チケットの値段や日程も限定されているのに、時間を作ってこのために出かける。当時を経験している人たちだけの楽しみかと思えば、クラフトワークの彼は、オンタイムで経験していないが、このチケット取るのに最高級の力を注いだという。「懐かしさ」は人を動かすアドレナリンなのか?

 次から次へとバンドがクロスするニューヨークではいろんなショーが毎日やっていて、何を見に行くのかは自分にかかっている。私は自分の興味のあるライヴ、友だちが教えてくれて、自分も興味がありそうなライヴ、まったく調味はないが友だちが行くというのでついていくライヴ、いろいろあるが基本的に音楽が好きなので、どこに行ってもある程度楽しめるし、それぞれいろんな感想もある。最近のワッシュド・アウト、ヒア・ウィ・ゴー・マジックのショーの熱も冷めやらぬまま、今回はこの3組のショーに行った。ベア・イン・ヘヴン、ブラウス、ドルドラムス! まさにいまどきのメンツだ。


Bear in Heaven
Photo by Dan Catucci


Blouse


Doldrums
Photo by Amanda hatfield

 ベア・イン・ヘヴンは〈デッド・オーシャンズ〉という〈ジャグア・ジャグア〉傘下のレーベルと契約し、精力的ににツアーしている真っ最中。何だかんだと最近名前はよく耳にしていて、機会があれば見に行こうと思っていた。
 彼らを最初に見たのは5年ぐらい前のこと。プレフューズ73とツアーをしていた友だちから「友だちのバンドがガラパゴス(ノース6通りにあったアートギャラリー)でやるから見においで、ビア・イン・ヘヴンだよ」と言われた。ビア・イン・ヘブン? 天国にビール? ビール飲み放題? バンド名だとも知らず(しかも聞き間違ってる)、勝手に勘違いして行くと、ベア・イン・ヘヴン。天国にいるクマか? ビールじゃなかったのって。そのときはきちんとしたバンド体制で(たしか5人ぐらいメンバーがいた)、キーボードの印象が強いバンドだなと思っていた。

 さて、話を戻そう。オープニングのふたつのバンドは、この会場を上手にウォームアップした。どちらもうしろのプロジェクションを使い、うまい感じにこのノスタルジック感を演出していた。

 ドルドラムスはカナダ、トロント出身の3ピース。見た目はいかにもオール・セインツのモデルになりそうな、カーリーヘアのユニセックスな男の子。女の子のような、エンジェリックなヴォーカルはエキゾチックでトロピカル。かなりハイトーンなのに絶叫系。フロント2台のキーボードをくるくる変えながら横にあるドラムパッドを叩く。後ろにはフーディを深くかぶったドラマーがビートをキープし、バンドをまとめている。打楽器音が多いから音がトロピカルに聴こえたのか、いちばん面白かった。

 次に登場のブラウス(Blouse)は、ポートランド出身の80年代ノスタルジック・ポップ・バンド。ローキーな女の子のヴォーカルは、アイラーズ・セットとゾーイ・デシャネルを足して2で割ったような、コクトー・ツィンが現れた感じ。ダークでゴス、チルでセンチメンタル、そしてギターのディストーションがシューゲイザーしている。うしろに流される七色のプロジェクションが何ともアーティーで哀愁を誘う。これも一種チルウェイヴか?

 トリはベア・イン・ヘヴン。3人編成で、うしろにはピンクとブルーの蛍光レーザーライト&スモークマシンが何の遠慮もなく、がんがん施される。ジョンは主に歌とシンセ、そしてダンスと盛り上げ役だ。アダムはクールにギター、ドラマーのジョーはマイアミ・ヴァイス・スタイルのフィルをマシンガンのように叩き続ける。
 ちなみに、ドラマーのジョーは私の近所のバーのバーテンでもある。目つきが鋭いブレードランナーのような体力の持ち主で、ドリンクを作るのも早い。
 
 ベア・イン・ヘヴンの印象は、ノスタルジックでドラマチック。蛍光ライトにワッシュド・アウトを思い出し、究極に歌にのめり込んでいく姿は80年代の映画の世界......あるいは"ダンシング・クイーン"、『サタディ・ナイト・フィーヴァー』の世界(?)。見ている方がはらはらして体力を使い果たして、最後に抜け殻のようになってしまった。まわりを見ると楽しんでいる人と消耗している人両方いる。
 このバンドが、ブルックリンでどの位置にいるのかを説明するのは難しい。『ローリング・ストーン』にレビヴューが載っていたり、NPRにもフィーチャーされているので、少なくてもアンダーグラウンドではない。かといってデス・キャブ・フォー・キューティ、シンズなどのメジャーに近いインディというわけでもない。オーディエンスの層もミックスで、音楽マニアというよりは大衆音楽、ある程度の懐かしさを期待する、まったく新しい何かを求めているというよりは自分が安全で快適な音楽に浸りたい、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドのすれすれの観客。今日の観客と次どこのショーですれ違うかは、興味のある所でもある。少なくとも、『ショーペーパー』は読んでいないかな......。

https://www.brooklynvegan.com/archives/2012/05/bear_in_heaven_12.html

YO.AN (HOLE AND HOLLAND / YOKOYOKO) - ele-king

たしかに 10


1
NIAMA MAKALOU ET AFRICAN SOUL BAND - KOGNOKOURA Daphni's Part 2 Edit - Sofrito Super Singles

2
YAKAZA ENSEMBLE - YAKAZA ENSEMBLE meets SYUNOVEN EP(J.A.K.A.M. RMX) - CROSSPOINT

3
RUMPLESTILTSKIN - RUMPLESTILTSKIN(YO.AN EDIT) - Unreleased

4
FUSHIMING - ALL SET TO GO(Fresh remix) - Hole and Holland Recordings

5
C90 - Everyday Edit - Soundbox Dynamic

6
Lee Van Dowski - 1977 - REKIDS

7
Lindstrom - Quiet Place To Live (Extended Disco Version) - Smalltown Supersound

8
Andreas Reihse - Romantic Comedy - M=Minimal

9
ATOM TM - WEIBES RAUSCHEN - RASTER-NOTON

10
CAPABLANCA & T. KEELER - No Hay Ritmo - Gomma

Mark McGuire - ele-king

 ステージに登場すると、マイクを持って「クリーヴランドから来たマーク・マッガイアと言います」とまずは自己紹介、プロモーターやレーベルへの謝礼、それからオーディエンスに向かって「楽しんでいってください」と言い終えると、よっこらしょとギターを肩にかけて、そしてショーがはじまった。なんだか礼儀正しい人だった。

 ライヴは、ダンス・ミュージックだった。ドラムがないのに......将来音楽からドラムはなくなるだろうと空想したのはアーサー・ラッセルだった。ディスコ・ダンス・ミュージックに情熱を燃やしながら、同時にドラムのない音楽こそが刺激的に思える時代がいつか来ると、彼は予言している。
 音楽によって、ビートは人の内部からスポンティニアスに生まれる、マーク・マッガイアがやったのはそれだった。人びとのざわめきからはじまり、マッガイアはループを重ねてうねりを創出する。いくつもの反復がシンコペーションしているので、リズムが生まる。そうしてでき上がった音の波のうねりの上をマッガイアは滑るようにギターを弾いている。
 ギターを肩からぶらせげて、彼自身も身体をリズミックに動かしながら演奏する。けっこう、ノリノリだ。アンビエント......というイメージからは遠く、良い意味で期待を裏切るようなマッガイアのリズミックな演奏に、オーディエンスの身体はじょじょに反応していく。時折歪ませ、激しさを見せながら、しっかりと起伏のある曲を展開する。曲の途中でベース・ギターに持ち替えて、ベースのループも加え、ふたたびギターを重ねるという芸まで披露した。瞬間的だが、彼はロバート・フリップやデイヴ・ギルモアといった領域にも接近したが、幸いなことにそれがミニマリズムから脱線することはなかった。
 気がつけば、彼は適度に埋まったユニットのフロア全体を桃源郷へと連れていっている。どこまでも連れて行く。気がつくと、もう1時間も経っている。
 そして、まだ20代半ばをまわったばかりの青年は、桃源郷からこの現実への着地までも、しっかりと、焦ることなく、ゆっくりとやった。これがマッガイアのライヴかと、我にかえったオーディエンスは、あらためて驚嘆を感じながら拍手した。アンコールがあった。1時間半ほどの演奏は終わった。終わって帰ろうかと思ったら、松村正人が入ってきた。

 マーク・マッガイアの前に演奏した青葉市子も素晴らしかった。彼女の静かな演奏においては、カウンターバーのあたりのお喋りがライヴ中に延々とステージ前方にまで聞こえていたので、いっしょに来た友人は少々不満を感じているようだったが、そこはまあ、ジョン・ケイジではないが、そうした周囲の雑音もまた音楽(ライヴ)のいち部ということで受け入れよう。日本のライヴでは、なかば信仰めいた感じで、客個人→ステージという図式が絶対化しているけれど、本来なら客同士の相互関係も同様にあってしかるべきだし(サッカーの試合ではある)、公共の場における猥雑さは全否定すべきではない。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライヴ盤など、客のお喋りがその音楽のいち部になっている。
 その晩は、彼女は、ジョン・フェイヒィを彷彿させるテクニックもさることながら、ほとんど喋りなしで、長めの曲を4曲演奏した。それら楽曲は後方のお喋りがステージまで聞こえるほど静かだが、しかし気迫のこもった演奏だった。いちばん可哀想なのは、その目に前に素晴らしい音楽があるというのに、その晩の青葉市子の演奏を聴き逃している喋っていた連中だった。

 先日のグルーパーのライヴは、可能な限り音量を下げることで(空調のノイズよりも低い音量で)、その場の耳すべてを惹きつけた。マーク・マッガイアはスティーヴ・ライヒとインディ・ロックの溝を埋めるかのようなダイナミックな演奏をした。USアンダーグラウンドの新世代では確実に変化が起きている。その正体がこの日本で明かされた数週間だった。多くの若いリスナー、そして未来に関心のある多くのリスナーが集まった。我々は、いま、確実に、音楽の新しい場面に立ち会っている。

 というか、マーク・マッガイアの追加公演決まりました! 今週日曜日(5/20)、場所は新宿SOUPです!!!!! 行けなかった人はこれを見逃さないように! (DJもやるようですよ)
https://ochiaisoup.tumblr.com/#22780951997


 ※ちなみに、まったくの蛇足ながら、メタモルフォーゼのG2Gのライヴもさすがだった。あれはむしろ、ドラムがないことが考えられない音楽だった。

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