「OTO」と一致するもの

 毎年3月中旬になるとメディア関係のニューヨーカーは、暖かいテキサス州オースティンへと向かう。音楽見本市として知られるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)は毎年ハイプになっていき、本来の意味(未開発インディ・バンドのショーケース)は、すっかり忘れ去られている。ハイテクや映画の見本市でもあるが(マイスペース、ツイッター、フォースクエアなどの電子ツールはここから注目を浴びた)、単にパーティを求めている人たちが集まる場でもある。
 今年は、スピンナショナル・パブリック・ラジオなどが、ショーケースのライヴ・ストリーミングをしたり、『ピッチフォーク』や『BKヴィーガン』などのメディアが、時間刻みで自分が推したいショーをウェブにアップデートする。フェイスブック、ツイッターなどにもあげてくれるので、媒体の好みに偏るが、まるで行ったような感覚に陥る。インターネットは便利だが人びとを動かなくする。

 ラジオ局NPRのショーケースでは、ニック・ケイヴ&バッド・シーズ、ヤーヤーヤーズ、イギー・アンド・ザ・ストゥージーズ、ジャスティン・ティンバーレイク、プリンスなどの大物、クラウド・ナッシング、ヴァンパイア・ウイークエンド、ブレイズ、キャサリン・ハンナ、フレーミングリップスなどのインディ・フレンドリーまで、たくさんのバンドが集まった。目的がはっきりしているならSXSWは価値がある。ただ、バンドが1日3回ショーをすることも珍しくなく、DIIVもいうようにセットアップ5分、プレイ15分、サウンドシステムと、質は求められない。人気のあるショーは、長いラインに並ぶか、入れないことも多いし、フリードリンク、フリーフード、たくさんのバンドや新しいテックの誘惑で、週明け、パーティ疲れでげっそりした人たちがNYに戻ってきている。
 その週の土曜に、ブルックリンのカフェで食事していたら、その日の朝にSXSWから帰ってきたばかりマシュー・ディアのメンバーにばったり出会った。SXSWの感想を聞くと「すごく疲れた」とひと言。

 SXSW期間でも、NYではたんさんのショーが開催されている。そのときに見たひとつのバンドのヌード・ビーチを紹介。アザー・ミュージック(other music.com)から音源をリリースし、革ジャンにタイトパンツ、アフロヘア、ストロークスっぽくもあるが、サウンドはトム・ペティ、リプレイスメンツ風のハートランド・クラシック・ロック。スタイルは、ギターウルフ的であるが、あそこまで攻撃的ではない。何回かショーを見たが、1:人に媚びない。2:難しい事をしない。3:共演バンドが毎回違うジャンル......が彼らの特徴で、誰もがスンナリ入っていける許容範囲がある。見ていてスカッと気持ちが良い。いろんなミックス・ジャンルの音楽がはびこるなか、懐かしのストレート・クラシック・ロックが、戻って来ているのは何かの兆しなのか。
 今週はSXSW上がりの話題のバンドがNYを通過する。Savages、Sky Ferriera、Chvrches、Disclosure、Fear of Men......1週間遅れのSXSWがはじまる。


ヌード・ビーチ

HOUSE OF LIQUID presents WARM UP - ele-king

 足を素速く動かしましょう。冗談を理解しましょう。フットワーク/ジューク、ハウスとベース・ミュージックを楽しく聴きましょう。恵比寿のリキッドルーム2Fに行きましょう。入場料は1000円。大ベテランのムードマンも出ます。明日のために、大量の汗をかいてください。財布を落とさないように。

featuring
D.J.APRIL(Booty Tune)
Kent Alexander(PAN PACIFIC PLAYA/Paisley Parks)
1-DRINK
MOODMAN(HOUSE OF LIQUID/GODFATHER/SLOWMOTION)

2013.3.30 saturday night
at KATA[LIQUIDROOM 2F]

open/start 23:00
door only 1,000yen

*20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参下さい。(You must be 20 and over with photo ID.)

info
KATA https://www.kata-gallery.net
LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

▼D.J.APRIL(Booty Tune)
Hardfloorでシカゴに目覚め、のらりくらりとシカゴ・ハウスを追いかけております。横浜で「Ruler's Back」というJukeをメインにしたっぽいイベントをオーガナイズ(現在休止中)させていただいたり、Jukeレーベル「Booty Tune」の広報などもしております。
https://www.bootytune.com

▼Kent Alexander(PAN PACIFIC PLAYA/Paisley Parks)
高校生の頃からパーティ地獄巡りを重ね、日本とアメリカ各地でDJ。昨年は自身が所属するjukeユニットPaisley Parks楽曲のみのdjセット等をjukeの本場シカゴのラジオで披露するなどの活躍を見せている。横浜Pan Pacific Playa所属。
https://www.panpacificplaya.jp/blog/

▼1-DRINK
BASSと非BASSの境界を彷徨いながら現在にいたる。ときどき街の片隅をにぎわせている。
https://soundcloud.com/1-drink

▼MOODMAN(HOUSE OF LIQUID / GODFATHER / SLOWMOTION)
日本でもっとも柔軟な選曲能力を持っているベテランDJ。近々、新しいミックスCDをエイヴェックスからリリース。
https://www.myspace.com/moodmanjp

Gold PandaとStar Slingerが春を運んでくる - ele-king

「とってもかわいらしいIDMスタイルですよ」「初期のマウス・オン・マーズと初期のエイフェックス・ツインが一緒にスタジオに入ったと想像してみてください」
(野田努 https://www.ele-king.net/review/album/001097/

 フル・アルバムをたった一枚リリースするばかり(2010年)なのだが、ゴールド・パンダには日本においてもしっかりとファンがついている印象がある。リリカルなメロディを持った彼のIDMにはそれほどの存在感があった。フォー・テットのファンからJディラのファンにまで快く迎えられているだろう。ダンス・フロアとベッドルームのはざまからじつにやわらかいエレクトロニカを届けてくれる。

 ゲストもまた注目である。CD、ヴァイナルともに日本でもよく売れたスプリット作『チームスvs スター・スリンガー』を手に取り、気になっていた方も多いはずだ。チームスは2011年にプロパーなリリースがあるが、スター・スリンガーは自主盤以外はリミキサーとしてさまざまなアーティストとの仕事の上にその名を見るばかりだ。洒脱にして繊細なエディット、心地よいドリーム感覚。彼の全貌があきらかになるとあれば、この機会を逃す手はない。

ゴールド・パンダの1年4ヶ月振りとなる来日公演が決定!
スペシャル・ゲストは現在題沸騰中のスター・スリンガー!!

傑作デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』から2年半、海外ではヴァイナル/ デジタルのみで発売される『トラストEP』に未発表曲他を追加収録した日本企画盤CDを3月にリリースし、年内には待望のセカンド・アルバムのリリースもアナウンスされているゴールド・パンダの1年4ヶ月振りとなる来日公演が決定! 更にスペシャル・ゲストとしてゴールド・パンダを始めウォッシュト・アウト、ゴー! チームなどのリミックスを手掛け注目を集め、2011年にメキシカン・サマーよりリリースしたUSノックスビルのプロデューサー、チームスとのスプリット作『チームスvs スター・スリンガー』が日本でもコアなレコード店を中心に大ヒットを記録したスター・スリンガーが待望の初来日!!

次世代のエレクトロニック・ミュージックを担う2 アーティストのカップリング・ツアーにご期待下さい!!!

■GOLD PANDA JAPAN TOUR 2013 SPECIAL GUEST STAR SLINGER

[東京公演]
2013/04/12(FRI) 代官山UNIT
OPEN/START:23:00
ADVANCE:¥3,500 / DOOR:\4,000
出演:GOLD PANDA, STAR SLINGER AND MORE
*20歳未満の方はご入場できません。また入場時に写真付身分証の提示をお願いしています。

[大阪公演]
EXTRA~Gold Panda Japan tour 2013 special guest Star Slinger~
2013/4/13(SAT) LIVE SPACE CONPASS
OPEN:20:00 / START:20:30
ADVANCE:¥3,000 (D別) / DOOR:¥3,500(D別)
出演:GOLD PANDA, STAR SLINGER AND MORE

主催/ 企画/ 招聘 : 代官山UNIT 協力 : YOSHIMOTO R and C CO., LTD.
MORE INFORMATION : UNIT / TEL 03-5459-8630 www.unit-tokyo.com


■GOLD PANDA (ゴールド・パンダ)

バイオグラフィー
英エセックスのチェルムズフォード出身で現在は独ベルリンに住むゴールド・パンダは、UKのインディ・レーベル、Wichitaがマネージメントとして手掛けるアーティストで、過去に日本に数年住んでいたこともあり、日本語の読み書きもできる。2009年に『Miyamae』『Quitters Raga』『Before』といったシングルをリリースし頭角を現し、2010年3月には初の来日公演を敢行、4月には先のシングルをまとめた日本オリジナル編集アルバム『コンパニオン』で日本デビューを果たした。2010年10月にはシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・ショーがミックスを担当したデビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』をリリース。彼の長年の活動が凝縮されたこのアルバムは大きな評価を獲得。年末には各媒体の年間ベスト・アルバムの1枚に選ばれ、英ガーディアン紙の「ガーディアン・ファースト・アルバム・アウォード2010」の獲得に至った。また同年10月には朝霧JAM 出演の為、再度の来日公演もおこなった。その後、ゴールド・パンダは世界中をツアー。2011年にはDJ Kicksのコンピレーションをリリース。同年9月にはメタモルフォーゼ2011に出演の為、来日。メタモルフォーゼは台風により中止となったが、札幌で単独公演をおこない、12月には東京/ 大阪で来日公演もおこなっている。

アーティスト・オフィシャル・サイト:https://www.iamgoldpanda.com/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://www.bignothing.net/goldpanda.html

 
■STAR SLINGER (スター・スリンガー)

バイオグラフィー
スター・スリンガーことダレン・ウィリアムスはマンチェスター出身のプロデューサー。2010年にビート集『Volume 1』をセルフ・リリースし、本作がピッチフォーク・メディア、スピン、デイズド&コンフューズドといったメディアから取り上げら注目を集める。2011年にはUSノックスヴィルのプロデューサーであるTEAMSと手を組んだ傑作スプリットEP『TEAMS vs. STAR SLINGER』をMexican Summerよりリリース。本作は限定プレスとの事もあり瞬く間にソールドアウトした。またスター・スリンガーはこれまでJuicy J、Project Pat、Lil B、Reggie BやTeki Latexとコラボレーションし、Gold Panda、Jessie Ware、Washed Out、Daedelus、The Go! Team、Broken Social Sceneといったアーティストのリミックスを手掛けている。

アーティスト・オフィシャル・サイト:https://starslinger.net/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://www.bignothing.net/starslinger.html

■新譜情報
ゴールド・パンダ『イン・シーケンス』
傑作デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』から2年半、ゴールド・パンダの新しい作品が遂にCDリリース。
海外ではヴァイナル/デジタルのみで発売される『トラストEP』に未発表曲他を追加収録した日本企画盤(全9曲初CD化)。

2013.03.13 ON SALE
¥1,260(税込)
日本企画盤(海外発売の予定はなし)
■収録曲目
1. MPB / MPB
2. MOUNTAIN / マウンテン*
3. FINANCIAL DISTRICT / ファイナンシャル・ディストリクト*
4. TRUST INTRO / トラスト(イントロ)**
5. TRUST / トラスト**
6. BURNT-OUT CAR IN A FOREST / バーント・アウト・カー・イン・ア・フォレスト**
7. CASYAM_59#02 / カシャム59#02**
8. MORE TRUST 8 / モア・トラスト8
9. HEALTH TOUR / ヘルス・ツアー
*taken from 『Mountain/ Financial District』(7”)
**taken from 『Trust EP』

shinjuku LOFT presents SHIN-JUKE vol.2 - ele-king

 控えめに言っても野菜マシマシ。このイヴェントのヴォリュームは、近隣のラーメン二郎(歌舞伎町店)を遥かに超えた大きさだった。
 まず、会場は日本のジュークシーンを成さんとするひとたちの集大成。日本でジュークを着実に広めている〈ブーティー・チューン〉のひとたちはもちろんのこと、昨年の『ゲットー・ギャラクシー』が最高に笑かしてくれたペイズリー・パークス/『アブソルート・シットライフ』が発売したばかりの主役であるクレイジーケニー(CRZKNY)/ジュークスタイルの自作曲から選り抜きしたコンピレーション『AtoZ!!!!!AlphabetBusterS!!!!!』がリリースされたばかりでなぜか入手困難になっているサタニックポルノカルトショップ(Satanicpornocultshop)らミュージシャンをはじめ、ジュークのイヴェントでは必ず見かける若いフットワーカー(ダンサー)たちも踊っていた。
 それだけではない。このイヴェントの特徴は、ジューク勢だけでなくスタイルの異なる出演陣が混合している点にある。ザ・モーニングス/掟ポルシェ/どついたるねんといったライヴハウスでは名の知れたバンドをはじめ、炭酸を抜ききったコーラで踊り狂ってみる感じのディスコ・バンド=ハヴ・ア・ナイス・デイ!/ハイパーヨーヨ(hy4_4yh)という女性アイドル・ユニットまで混ぜこぜになって出演していた。

 開場から3時間も遅刻して僕が到着したすると、ホール・ステージでは〈Shinkaron〉のDJフルーティーがジュークの爆低音を唸らせている。そのままバー・ステージを覗いてみる。3人の女性が無味乾燥のギターロックに合わせて元気に歌って踊っている(註1)。おお.....訳が分からない。その2つの風景がクロスオーヴァ―もなにもなく分断していたのは明らかだったが、そこから先の心配は杞憂であった。

 程なくしてホール・ステージには、日本においてゴルジェ(#gorge)を先駆けたハナリがライヴを開始した。以前、六本木ではゴルジェ勢とジューク勢が訳もなく抗争を繰り広げていたことは本誌でも伝えたが、おなじくゴルジェの作家であり〈アナシー〉の主宰=ウッチェリーも今回駆けつけていたものの、今回ゴルジェの出演者はハナリのみ。
 ゴルジェを自称するルールのひとつとしてタムを用いるという条件があり、それがゴルジェというタグ概念をサウンドの面で特徴づけている。ハナリのサウンドも然り、体育館で大量のバスケットボールを一斉にドリブルしたかのようなタムの乱れ打ちは山岳や岸壁の険しさを表現しているといわれるが、そのゴツさと険しさはインダストリアルなノイズの延長線上で生まれた音にも聞こえる。
 ハナリが両手でMPCを叩き打ち、シンバルやSEが騒がしく響き渡る。一切の照明を消した暗闇の奥、何台ものデカいウーファー・スピーカーの向こう側でヘッドスコープを着用しているハナリは、洞窟のなかを進むように、ポスト・ダブステップ的なビートやジュークのテイストをそれとなく織り交ぜながら、ひたすらMPCでノイズを出し続けていた。そのコミカルさに、オーディエンスも呆れ半分、こういうものかと見守り始める雰囲気があった。
 思うに、デス・グリップスやレッド・ツェッペリンのドラムソロにまでゴルジェと言ってしまうくらい貪欲なタグなのだから、ジュークとしてタグ付けされプレイされる音楽のパターンがより多様性を得て、そのライヴやDJぼんやり見ている層まで惹きつけるようになったとき、ゴルジェはより予期しない方向に発展する.....かもしれない。ゴルジューク(Gorjuke)などいう試みは、踊れるという意味でも、そのよい例であるのではないだろうか。僕からすれば、ジャム・シティなんかとも遠からず共振する無機質な合成感がゴルジェにはあるのではと思う。

 DJヤーマンのドラムンベース/レゲエのあとには、どついたるねんがいつも通りといった感じの悪ノリでフロアの湿度を上げていた。途中、唐突にジュークタイムを2分ほど挟んでフロアを駆けずり暴れていたのはとても分かりやすく、つまりはジュークのサウンド/リズムエディットに悪ノリっぽさを見出し、幼稚な意匠として利用したということだ。と同時に、音楽的な味わいどころをまったく放棄して「俺の友達面白いっしょ!」と押しつけがましく暴れてるどついたるねんのステージのなか、ジュークが音楽としていかにフレッシュで刺激的であるかが浮き彫りになった瞬間にも見えた。

 DJクロキ・コウイチがニーナ・シモンの名曲"シンナーマン"のジューク・エディットなどでホール・フロアをクールに煽り、機材準備の完了したペイズリー・パークスにそのままの勢いでなだれ込んだ。
 MPCやルーパーでザクザクとジュークを料理していくライヴ・エディットを披露した。レコーディング音源にも共通していえることだが、ペイズリー・パークスのエディットは、高速のBPMでダンス・ミュージックとしてフィジカル(脚)を直接ダンスへ鼓舞するというよりも、ダークかつ扇動的なサウンドと、脳味噌を右左に揺さぶり方向感覚を失わせる不安定なエディットで、訳のわからないトランス感のなか脚をガタガタさせるような作用があり、いわば脊髄反射ではないという意味においてはヘッド・ミュージック的に楽しませるところがある。リスナーの脳をぶっ壊さんばかりのエディットは、トランス感とダンスへの昂揚を同時にオーディエンスに湧き立たせる。フロアの多くのひとが熱狂していたというのに、わずか10数分あまりで終わってしまったことが本当に惜しいが、そう欲しがりにさせるほど、ペイズリーのトラックは中毒性が高い。アルバムを制作中だというが、ガッチリ完成させて、一刻も早くリリースしてほしい。

 その後のサタポ、ステージ上に現れたのは5人。全員が仮面を終始被っており、名の通り、ややカルティックな気味の悪さを演出している。ジョークめいたラップと歌を披露する2人と、トラックマスター1人、ほかにステージ上をゆっくり動きまわりながら、突如ほかのメンバーをプロレスよろしく張り倒しはじめる2人(どうやらDJフルトノとクレイジーケニーだったらしい)。
 急に仰々しいバラードを熱唱し始めたり、ひよこのオモチャを弾きまくったり、練習中っぽいフットワークを披露したり、アンダーワールドの"ボーン・スリッピー"を堂々とジュークエディットしていたり、ちゃらんぽらんの英語で歌ったり、歌の途中、うろつくメンバーにいきなり張り倒されたり、チーズのお菓子を気まぐれに投げ始めたり、尻に貼っていた湿布を渡されたり(受け取ってしまったが、心の底から要らなかった).....およそ1時間、大阪弁のMCも含めとにかく笑わせてくれたし、音楽もしっかり聴かせる、素晴らしいショーケースだった。
 これはペイズリー・パークスにもすこし言えることだが、サタポがポップな諧謔性をジュークに見出しているのがよくわかった。まだまだフレッシュなジュークの音楽にのっかって、これからも多くの人にライヴで発見されていってほしい。あなたの街にサタポが来たら、とにかく腹筋のトレーニングだと思って観てほしい。

 オーディエンスも長丁場と連続する低音にかなり疲れていた様子のなか、ペイスリー・パークスのケントに煽られながらクレイジーケニーは登壇した、が、いきなり機材トラブルで音が出ない。酔っ払いながらここぞとばかりに本気出せよと捲くしたてるケント。広島弁のヤクザな態度で怒鳴り返すケニーは、愛嬌はありながらも、もしかしてマジでその筋から出てきた人なのではと思ってしまうほど恐かった。
 新譜のなかの"ナスティー・ティーチャー"に顕著だが、徹底的にロー(ベース)に腰を据えたサウンドは、この日の聴いた中で最もシブく逞しいものだった。一番むさかったとも言える。
 ローの熱く張り詰めた空気と中和するように、本人がイジラれキレる様子はとてもコミカル。サンプリングもユニークで、『キューピー3分クッキング』のテーマ曲がリズミカルに乗っかっていたり("3minute 2K13")、ヤクザ映画の言葉を織り交ぜたり("Midnight")、なかでも昨年の夏にツイッター上の何気ない提案から制作された"JUNJUKE"は最高に笑かしてくれた。稲川淳二の声がリズミカルにリピートされ、何重にも折り重なっていくさまは痛快だった。「ユウユウオワオワオワオワオワ」「ガタガタガタガタガタガタ」「ハアッハアッハアッハアッハアッハアッハアッハアッ」「ヒー! バババババババ」といった擬音がパーカッシヴに生かされ、ジュークのリズムをMADの枠組みとしてうまく活用している。
 サタポとおなじく、クレイジーケニーのセットにも笑いの解放感があった。

 クレイジーケニーが深々と頭を下げてイヴェントは終了した。
 特別にいくつもレンタルした低音スピーカー=ウーファーの片づけを会場に残っていたみんなで済ませ、競技を終えた体育祭のあとのような、わるくない疲労感に浸った。

 僕はこの日、気の向くままに踊り、と同時に大いに笑かされたことで、スカッとしたし、生きていてよかったなあとさえ思った。ダンスミュージックであるジュークを、笑いを生むリズムとして解釈して遊びきってしまう出演者たちの姿は、観ていて清々しいものがあった。ウーファーはいささかブーミー気味でもあったし、音響がベストだったとは思わないが、フットワーカーがよじ登り、そのスピーカーでさえステージとして活用していたのもカッコよかった。とにかく遊びきっていた。イヴェントのむさくるしさ(男臭さ)を笑う声もあったが、女性も少なくはなかったと思うし、フットワークを披露した女性もいるので、とくに気にすることもないだろう。
 それに第一、今回のイヴェントのもっとも有意義な点は、〈新宿ロフト〉というライヴハウスで、ふだんクラブに来ない人たちまでもがジューク&フットワークを目撃し体感したことだろう。どついたるねんのメンバーも、ハヴ・ア・ナイス・デイ!のメンバーも、ペイズリー・パークスやサタポのライヴ中、ジュークに感銘を受けたように踊っていたし、それこそがこのイヴェントのもっとも象徴的な画だったかもしれない。打ち込みの音楽とはいえ、バンドマンもといライヴハウスの人間を圧倒させる力がジュークには確かにある。笑って遊びきる感覚を武器に、ジュークにはこれからもどんどん広まっていってほしい。この思いきったイヴェントを主催した〈新宿ロフト〉の副店長=望月氏には拍手と感謝を送りたい。当日も現場で送ったが、まだ足りないくらいだ。

 最後に大事なことをひとつ。この日はフロアでも頻繁にフットワークのサークルができ、先に述べたように、スピーカーまでもがダンスのステージとして活用され、転換中、スクリーンにはフットワークのレッスン動画が流されるほど、フットワークへの注目が高まりつつある。
 ただし、この日フットワークを披露してい(るとこを僕は初めて観)たDJクロキ・コウイチ氏も言うように、ジュークのDJのなかでフットワークを踊るひとは少ないし、こうしてイヴェントに集まるフットワーカーもまだ多いとはいえない。筆者は、トラックスマン来日エレグラゴルジェとジュークの全面抗争につづいて、イヴェントでジュークを聴いたのは4回目。若いフットワーカーもイヴェントのたび増えている印象があるが、それでもまだ少ないダンサーが切羽詰まったローテーションで踊り、サークルの流れが途絶えてしまうのも事実。
 もちろん会場のみんなが踊れるべきだとまでは思わないけども、このジュークという音楽をすこしでも多くのひとがダンス・ミュージックとしてもエンジョイできたら、どんなに楽しいパーティになるだろうか。ダンスできる/できないの壁をどれだけ払拭していけるかが、ジュークのこれからを考えたとき、ひとつ大きなポイントであるのではないかと思う。
 
 ということで、レッスン会のようなものがないうちは、夏頃に開催されるだろう〈SHIN-JUKE vol.3〉に向けて、以下のレッスン動画でチャレンジしてみましょう。犬の声はサンプリング?
 ほかにいい動画や練習の集まりがあるぞーというひとはぜひ僕宛てに教えてください。

 

 
(註1)あのとき鳴っていたのはファンコット(FUNKOT)だったというご指摘をたくさんいただきました。筆者のまったく記憶違いでしたらまことに申し訳ありません。(斎藤辰也 3/12 13:12)

Chart - JET SET 2013.03.11 - ele-king

Shop Chart


1

Will Sessions Feat. Rickey Calloway - The Jump Back (Funk Night)
リリースする全ての作品が当店大ヒットを記録するWill Sessions。本作は再び、Rickey Callowayをフィーチャー!

2

O.s.t. - Django Unchained (-)
鬼才Quentin Tarantino手がける最新話題フィルムからのサントラがヴァイナル・カット!Rick RossやJohn Legend, Anthony Hamiltonのオリジナル楽曲に加え、James Brown Vs 2pacというナイスな組み合わせが実現したB-5、他映画からのフレーズも盛り込んだボリュームありの全23曲!

3

Skints - Part & Parcel (Soulbeats / Bomber Music)
Hollie Cookに匹敵のポップなセンスと、スカからラガまで取り込んだクロスオーバーなサウンド。Prince Fattyプロデュースの大傑作が入荷です!!

4

Gold Panda - Trust (Notown)
新世代エレクトロニカ最高の才能による新曲が待望のヴァイナル・リリース!!自身のレーベルNotownとGhostlyとの共同リリースによる限定12インチ。ダウンロード・コード封入!!

5

Tx Connect / Speculator - House Of Confusion (L.i.e.s.)
少量入荷につき即日ソールドアウトが続くus最深地下"L.i.e.s."発のリミテッド黒盤シリーズ最新作4番。Wt Records総師Willie Burns A.k.a. Speculator手掛けるカルト・エディッツ3楽曲を収録!!

6

Spinnerty - Gestures (Record Breakin)
John RobinsonやB.bravoを迎えた同レーベルからの前作も好評だった、ベイエリアのビートメイカー/DjのSpinnertの新作が登場! クロスオーバーにオススメなLil Dave, J-boogieのリミックスも必聴!

7

Space Dimension Controller - Welcome To Mikrosector - 50 (R&s)
デビュー12"『The Love Quadrant』がいきなりの当店爆裂ヒットを記録したのも記憶に新しいギャラクティック・ベース・ディスコ人気者S.d.c.が遂に待望の1st.アルバムを完成です!!

8

Lindstrom & Todd Terje - Lanzarote (Olsen)
昨年、Six Cups Of Rebel名義でのアルバムや、Smalltown Supersoundからの数々の12"でも不動の人気を魅せたLindstromと、'12年度、ディスコ/ハウス・シーンにおいて世界的なセールスを記録したと噂の絶えない大人気Todd Terjeがタッグを組んだ注目作品!

9

Four Tet - 181 (Text)
毎度即日完売する大人気レーベルTextから、主宰Four Tet自らによる3年振りの変則最新アルバムが登場。なんと'97年~'01年にかけての自作曲をメガミックスした長尺2曲を収録です!!

10

Third World All Stars - Rebel Rock (Pressure Sounds)
ジャジーなサックス、メロウなシンセ、ヘヴィなベース。Errol Dunkleyの名作『Sit And Cry Over You』を下敷きにした極上レゲエ・インストが再発!

〈SPF420〉第3回目が開催 - ele-king



 以前、ヴェイパーウェイヴ界隈のフェスティヴァル〈#SPF420 FEST〉の模様を本誌でお伝えしたが、きたる3月20日にその第3回目が開催される。苗場にも幕張にも長野にも行けずとも、お手元の機器がインターネットに接続されてさえいればこのフェスには参加できるので、ご安心を。会場はこちらです。

video chat provided by Tinychat

HTTP://WWW.TINYCHAT.COM/SPF420

 とはいえ、開催時刻には気をつけてほしい。米国東部時で3月20日22:00だが、日本標準時で考えると3月21日(木曜日)12:00である。平日ではあるものの、時間がある方はぜひこの戯れに混ざってみてはいかがだろうか。
 前回の様子は、チャットも込みで、以下の動画を参照していただきたい。

Transmuteo Live @ SPF420FEST2.0 from Transmuteo on Vimeo.

 今回の出演者で注目したいのは、情報デスクVIRTUALでもなくプリズムコープ(PrismCorp)でもなく、元来の名義での登場となるヴェクトロイド。もともとトロ・イ・モアをリミックスしていたように、ヴェクトロイドはそもそもチルウェイヴの潮流のなかで名を拡げていたアーティストだ。おそらく、今回はミューザックの垂れ流しではないだろう。どのようなライヴを披露するのか楽しみである。
 ほかにも、日本のツイッタラーからも愛されている、ジューク/スクリューが得意なDJペイパル。ヴェクトロイドともギャラリーで共演しているマジック・フェイズ。そして、サウンドクラウドにも音源のない、謎のツイッタラー=コーダック・キャメオがなにをするのか気になるところである。
 なお、フライヤーデザインはホワイトバックグラウンドによるもの。

 主宰のひとり、ストレスからプレスキットが届いたので、その言葉をもとに再構成したフェスティヴァルの詳細を以下にご紹介しよう。
 ストレスがこのフェスティヴァルを積極的にプロモーションしたがっているのは明らかで、自分たちの正体を隠したがるヴェイパーウェイヴ連中が、注目を集めた後にどのように振る舞っていくのかがこのイヴェントの一番の見どころともいえる。

 やあ、〈SPF420〉に興味をもってくれてありがとう。

 〈SPF420〉はタイニーチャット(HTTP://WWW.TINYCHAT.COM/SPF420)で開催されるオーディオ/ヴィジュアルのライヴ体験です。 この私=ストレスが、チャズ・アレン(またの名をメタリック・ゴースツ)とともに、きたる3月20日の〈SPF420〉を主宰しています。

 ショーのラインナップは以下のとおりです。

DJペイパル (DJ Paypal)(https://soundcloud.com/dj-paypal
コンタクト・レンズ (Contact Lens)(https://soundcloud.com/contactlens
ヴェクトロイド (Vektroid)(https://soundcloud.com/vektroid
マジック・フェイズ (Magic Fades)(https://soundcloud.com/magicfades
ブラックドアウト (Blackedout)(https://soundcloud.com/blvckedout
コーダック・キャメオ (Kodak Cameo)(https://twitter.com/fumfar

シュガー・C(Sugar C)(https://soundcloud.com/metallicghosts)我らがハウスDJ
トランスミューティオ(Transmuteo)(https://soundcloud.com/transmuteo)アフターパーティー主宰

 フェイスブックのイヴェント・ページもあります。
https://www.facebook.com/events/136903026484461

 前回の〈SPF420〉は2013年1月3日に行われました。ラインナップは、ヴェラコム/トランスミューティオ/プリズム・コープ/ラグジュリー・エリート/クールメモリーズ/インフィニティ?・フリーケンシーズ/メタリック・ゴースツ。
 そのときのいくつかのアーティストの音声は、以下にあります。
https://soundcloud.com/spf420

 以下は、1月3日(第2回目)についての記事です。

"Vaporwave and the observer effect", written by Leor Galil for The Chicago Reader:
https://www.chicagoreader.com/chicago/vaporwave-spf420-chaz-allen-metallic-ghosts-prismcorp-veracom/Content?oid=8831558

"『#SPF420FEST 2.0』から見るヴェイパーウェイヴ @ tinychat.com" written by ele-king.net (グーグル翻訳をおすすめします):
https://www.ele-king.net/review/live/002758/

"#SPF420FEST2.0" written by Jheri Evans for Decoder Magazne:
https://www.secretdecoder.net/2013/01/spf420fest20.html

 観客動員は、135人ものリスナーたちを記録しました。私たちはセルフ・プロモーション以外なにもしていませんが、このイヴェントを拡げていきたいと思っています。私たちの世界を、喜んで併合していきます。

音楽、ドラッグ、会話
XOXO,
SPF420: Roll The Dice ™

HTTP://WWW.TINYCHAT.COM/SPF420


 ストレスのプレスキットでは本誌の記事も紹介されているが、(ヴェイパーウェイヴ連中は散々つかっているというのに)どうやら日本語を読めないらしい。
 
 大麻を意味するスラング「420」に合わせて3月20日開催なのだと思われるが、では4月20日(マリファナ・デイ)にはなにかあるのだろうか?
 どうやら、やはり、ヴェクトロイドは期待を裏切らないらしい。〈ビアー・オン・ザ・ラグ〉から新作のリリースにも期待しよう。

 マン・マンというバンドをご存じだろうか? 日本ではあまり知名度はないかもしれないが、アメリカではけっこう有名だ。彼らはフィラデルフィア出身、中年男5人組のエクスペリメンタル・ロック・バンド、結成は2003年だ。
 ドラマーのパウ・パウは、インディ好きにはたまらない、ニード・ニュー・ボディアイシー・デモンズなどのバンド他、ボアドラム、チボマットの羽鳥美保氏とも共演している歴の長い凄腕のドラマーである。
 長年追いかけているパウ・パウを通じてマン・マンを知った。彼が参加するバンドなら間違いないと軽く見に行くと、メイン・プロジェクトかと勘違いするほどの人気の高さと、インディ・ロック・ファンだけでなく、一般の人もすんなり入ることのできる許容範囲の広さに驚く。
 ブルックリンを歩くとそこかしこの壁やお店のトイレなどにタグ付けされているし、大手スポンサーのフェスティヴァルやショーにも頻繁に出演している、お茶の間でも人気のあるバンドなのである。詳しい経歴はこちらを参照
 最近、ネコ・ケースも所属する〈アンタイ〉から作品を出している。

 マーク・デマルコ、シャウト・アウト・ラウド、スターズ、ジェイミー・リデル、マーニー・ステーン、ジョニー・マー(!)級のバンドがプレイする、ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグという、東京で言えば、フィーヴァーぐらいの規模の会場はソールドアウト。マン・マンは、すでに10数回見ているが、いち度たりとも「今回はまあまあだったな」というときがない。
 1回1回全力疾走である。そういう意味ではオブ・モントリオールとかぶるところがあるが、マン・マンはもっと男臭い。オーディエンスは80%男だ。以前、〈ブルックリン・ボウル〉という会場にマン・マンを見に行き、別の日に同じ会場にヤング・フレッシュ・フェロウズ(80年代、シアトルで結成されたオルタナティブ・バンド)を見に行ったらお客さんが、かなりかぶっていた。マン・マンは数あるUSインディ・バンドのなかでも実力派なのだ。

 メンバー全員がさまざまな楽器(ピアノ、クラリネット、ムーグ、サックス、トランペット、フレンチホーン、ドラム、フレンチホーン・ジャズベース、バリトンギター、鉄琴、マリンバ、メロディカなど)を演奏し、曲により楽器を変えるフレキシブルさ。鍋やヤカン(やお客さんの頭)が打楽器として演奏されるときもある。

 キーボードとドラムが前、後ろにギター、ベース、キーボード(やその他)という形態。ヴォーカルのライアンはキーボードを弾いたり、スタンド・アップ・マイクでドラムの上に立って歌ったり、船長さんになったり、エイリアンのマスクを被ったり、エンターテイメントに決して手を抜かない。さらにドラムセットのアートペイント、ドラムやマイクにつけられたクリスマス・ライト、ステージの装飾、歌も演奏もとてもマン・マンらしく個性的で、ショーを見たあとは、運動会を見に行った後のような、心地良い疲労感がある。

 アメリカで人気のあるバンドは、大抵がライヴの良いバンドだと思う。こちらのオーディエンスはライヴが悪かったら即座に反応する(悪ければすぐに帰ったり、演奏は無視してしゃべりだす)、ライヴが良いバンドは演奏力はもちろん、エンターテイメント性、ユーモアのセンス、そしてコマーシャル的でなく、心から「良い!」と思えるのが共通点である。
 言葉で説明しても、ヴィデオで少し見ても、そのバンドを実際見たことにはならない。百聞は一見にしかず。日本で人気があるインディ・バンド、たとえばダーティー・プロジェクターズ、アニマル・コレクティヴ、ディアフーフ、この並びにマン・マンも入ることは間違いないのだが、やっぱり中年男5人ではダメなのだろうか......。

intext - ele-king

 言語=フォント=シニフィアンの「美」が、形式=デザインの「美」へと遡行し、そこからサウンド=音響・音楽が生まれること。京都在住の外山央・尾崎祐介・見増勇介らによるこのエレクトロニクス・サウンド・アート・プロジェクトのミッションは、テクスト・フォント・デザイン・サウンドのマッピングを拡張していくことで、電子音響作品における「形式の美」を刷新する試みのように思えた。電子音の清冽な持続、陶器のような質感のクリッキーなリズム、記憶を解凍のようなサウンド・コラージュ。それらが精密に重なりあい、一切の濁りのない清流のようなサウンド・レイヤーを生成していく。そのサウンドのなんという美しさ!

ダイナミズムとアンビエンスが作り出す、
壮大なヴァーチャル・サウンドスケープへの旅。


intext(インテクスト)はアート・プロジェクトへの参加、音と映像によるライブ・パフォーマンス、デザインワークや出版など、あらゆる境界を越境して活動するグループ。メンバーは外山央、尾崎祐介、見増勇介。外山はsoftpadのメンバーでもある。 本アルバムはこれまでにライブ・パフォーマンスなどを通して、そのサウンドが高く評価されてきたintext待望の初音源。全編を通してダイナミズムとアンビエンスが作り出す壮大なヴァーチャル・サウンドスケープを旅するようなイメージが繰り広げられる。 実際に彼らが旅をした際に収集した音素材を引用したり、それらをカットアップして原型のわからない状態まで加工後使用しているのだが、コンテクストを引き剥がすような技法を用いているにもかかわらず、旅・移動のイメージに帰結することで成立しているパラドキシカルな文法が興味深い。 また作曲にグリッド・システムなどデザインのロジックを持ち込んでいるが、異なる分野のロジックを持ち込み、置き換え、類型を破ろうとするアプローチに、専門的ミュージシャンではない彼ら独自の視点を読み取ることができる。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

Toru Yamanaka - ele-king

 睦月、如月は例年僕の生体バイオリズムが最も降下を記録するシーズンである。それは自身のなかと外の世界に最も顕著なズレが生じることを意味する。芸術表現における主たるモチヴェーションのひとつはこのズレを補正することだ。この『セクスタント』には彼の内省的事柄を音像とその配置によって丁寧に具現化していく根源的行為が各トラック毎に完遂されていて、それが聴者の心象から新たなるスケッチを描き出す。セクスタント(航海計器)はいかなる聴者の内なる大海原にても正確な航路を導き出してくれるに違いない。〈shrine.jp(シュラインドットジェイピー)〉なる独自のブランディングを施されたリリースをハイペース継続している現代型のレーベルが畑は違えど存在しているということは、いい加減正月ボケから目を醒ますべきだと僕に告げているのかもしれない。

猥雑さと崇高さの融合。京都の地下シーンをリードし続ける山中透が、コンポーザーとしての魅力を余すところなく発揮した傑作。

山中透は80年代より活動する作曲家、レコーディング・エンジニア、プロデューサー、DJ。Foil Records主宰。ダムタイプに結成当初から2000年まで音楽監督として参加し、代表作『S/N』をはじめ多くの作品で音楽・音響を手掛ける。また1989年より続くドラァグクイーン・イベントDiamonds Are Foreverを主催するなど、常に京都の地下シーンをリードしてきた。 本アルバムはクラブ・ミュージックとフィルム・ミュージックを組み合わせたような、独自のバランス感覚で構成されており、山中がコンポーザーとしての魅力を余すところなく発揮した作品となっている。
抑えのきいたグルーヴからジャジーなシンコペーションへと変化するリズムが印象的な"Birdy"、ヴァイブとオルガンのフレーズがクールなファンクネスを作り出す"Slide Show"など、随所に散りばめられたブラック・ミュージック特有の律動は極めてフィジカル。また荘厳なパイプオルガンの旋律が、強烈なエモーションを生み出す"Barnard 68 Part 2"に代表される、猥雑さと崇高さの融合も作品の重要なファクターとなっている。 リミックスにAUTORAやSPDILLなどでも活躍するspeedometerことJun Takayama、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの石川智久が参加。マスタリングはMAGIC BUS Recording Studioの沢村光が手掛けている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

ieva - ele-king

 最初にヘッドフォンで聴いて、数分後、このアルバムにすっかり魅せられた。イエバによる『Il Etait Une Fois(昔々)』は、聴覚による想像的景色の万華鏡だ。まどろみを誘い、夢と記憶の茂みをかき分け、日々の生活では忘れている感情の蓋を開ける。アンビエント・ミュージックはこの10年で、より身近な音楽となった。ただ、そう、ただ耳を傾けさせすれば、景色は広がる。そして、フィールド・レコーディングとミュージック・コンクレートも、アンビエントにおいてより効果的な手法として普及している。クリスチャン・フェネスやクリス・ワトソン、グレアム・ラムキン、あるいはドルフィン・イントゥ・ザ・フューチャー......本作もこうした時代の新しい静寂に連なっている。女性ヴォーカルの入った最高に美しい曲が2曲あるが、それらは歌ではなく、あくまで音。フィールド・レコーディング(具体音)の断片たちが奏でる抽象的で想像的な音楽のいち部としてある。まったく、なんて陶酔的な1枚だろう。

フィールド・レコーディングにより切り取った日常の情景と音楽を重ねたアンビエント・アンサンブル。

ieva(イエバ)ことSamuel Andréはフランス出身の音楽家、作曲家、映画作家。2000年からコンピューター・インターフェイスのデザイン研究を開始し、音楽と映像に関するクリエイティヴな活動を続けてきた。これまでにアメリカ、ポルトガル、フランスなどのレーベルから音源を発表している。映画作家としては2002年にthe Aquitain Film Music Competitionの実験映画部門を受賞。現在は京都を拠点にライブ及び創作活動を行っており、過去に自身のレーベルPollen Recから、京都で集音した素材を用いたアルバムをリリースしている。 サウンドワークでは、フィールド・レコーディングにより切り取った日常の情景と音楽を重ねることで、ノスタルジックな感情や、謎めいたイメージを想起させるような作品を制作している。 本作でも車の走る音、鳥の鳴き声、シンセやヴォーカルのフレーズなどによる繊細なアンサンブルが、穏やかな朝の情景を描き出す"a wind away"、ブランコが揺れるような音、人の声、ノワール調の音楽が物語性を呼び込む"an empty swing"など、様々なイメージをもつ楽曲を堪能することができる。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114