「OTO」と一致するもの

Washed Out/Memory House @ Highline Ballroom 4/22/2012
Here We Go Magic @ Knitting Factory 4/26/2012

Photo by Dan Catucci

 4月21日のレコード・ストア・ディの翌日(ブラック・ダイス、フォー・テットなどのゲストが1時間毎に出演した、アザー・ミュージックには、2ブロックを超える長い行列ができた。)ウォッシュト・アウトをハイライン・ボール・ルームに見に行った。この場所はマンハッタンのミート・パッキング・エリア(ちょっとしたファンシーエリア)にあり、ジャズ、フォーク、R&B、ワールド・ミュージック、インディ・ロックなど(4月のカレンダーはスザンヌ・ヴェガ、レイチェル・ヤマガタ、チック・コレア、アタリ・ティーンエイジ・ライオットなど)、ジャンルはバラバラ、ベテランから新人まで出ている。近くの観光名所ハイライン・パークから名前がつけられた、700人を収容できる比較的新しい会場だ。
 私はウォッシュト・アウトについては、この日までノーマークである。チルウェイヴという言葉くらいは知っているが、自分がよく見に行くバンド(エンターテイン重視で、フレンドリーなバンド)にはあまりないタイプだ。チルウェイヴには、いろんな評価があるだろう。だから、ウォッシュト・アウトに関しては「いまの時代を表す新世代の音だろう」という知識だけでライヴを見て、自分がどう感じるか興味あった。
 ショーはソールド・アウト(翌日のブルックリンでのショーもソールドアウト!)。少なくとも700人がチケットを前もって買っている、つまり評価が高い、期待も高まる。

 オープニングはウォッシュト・アウトと同じ〈サブ・ポップ〉にサインした、オンタリオ出身のデニースとエヴァンのドリーミー・ポップ・デュオ、メモリー・ハウス。女の子(デニース)の穏やかで、湖にこだまするようなヴォーカルが乗り、憂さ、そしてストリングスの音がせつなく響く音楽だ。個人的にはオ・レヴォワール・シモーヌのエリカ嬢(ソロが出ました!)を彷彿させるが、可愛い女の子が見れるというだけでもテンションはあがる。
 なのに、会場に到着すると、ちょうどメモリー・ハウスが終わったところだった。がっかりしながら、せめて物販だけでもと物販テーブルに行く。ドットのワンピースの女の子がいたので、「今日のショーはどうだった?」と尋ねて見ると、彼女はその本人! デニース。とっても気さくに今日のショーのこと、ツアーのこと、ギアーを盗まれてしまったこと(!)などを話してくれた。近くで見るとより可愛い。

 そして、ウォッシュト・アウトに戻る。ジョージア州出身のアーネスト・グリーンのプロジェクト、きちんとしたバンド編成でのライヴだ。

 セッティングに20分あまりを要し、照明が落ちたところでメンバーが登場する。フロントにシンセが3台、左からアーネスト、ブレア(アーネストの奥さん)、ベース・プレイヤー(キーボードもプレイ)、そして後方いち段上がったところにドラマー。アーネストは白のパリッとしたボタンダウンシャツに黒のパンツというシンプルな出で立ち。観客は「ウォッシュト・アウトがプレイするよ。これ行かないといけてないでしょ」とでも吹聴しそうな(?)、20台前半のパーティ好きが大半を占めている(大体バドライトを飲んでいるか、ここぞとばかり、ファンシーなカクテルをオーダーしている)。いちばん前で見ていたので、後方はあまり見えなかったが、フロントのいち部の観客がノリノリなのはよく見えた。
 アーネストはiPadを一時も(どの曲でも)離さず、キーボードを弾き、トラックを進める。ベースとドラムはずっしりお腹に響くが、シンセの音は儚く、ノスタルジックな夢心地で頭のなかを駆け巡る。そんな浮遊中に、「どう、そっちは、元気?」と、曲間に突然、アーネストが観客を煽ったりするから、どこまでが夢でどこまでが現実なのか、はっとさせられてしまう。
 ウォッシュト・アウトのニュー・アルバム『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』は、パンダ・ベアの『パーソン・ピッチ』に影響を受けている。ライヴノスタルジアなダンシーなシンセを展開する。新しいけど古めかしく、実験的要素のなかにハーモニーやコーラス部分もあり、観客をダンスさせる......たしかにパンダ・ベアのアルバムにも共通する、クールな音楽が好きな、新世代感覚を持った音楽で、「ちょっと懐かしいけど新しい」という感覚を持っている。そして、これは何でもミックスするいまの時代を表してもいる。
 全体的に気だるく、ドラマティックで、内に秘めた音楽、これこそがチルウェイヴなのだろう。曲間に「ヘイ! 気合いれてダンスしよう!」などと煽りを入れたり、キャラクターあるベースとドラムをいれ、バンドのバランスを保っているのは、彼自身のなかに表面には出さないが、ものすごく熱い「ダンス・パンク」精神が息づいているからだろう。

https://www.brooklynvegan.com/archives/2012/04/washed_out_play_1.html


Here we go magic w/glass ghost @ knitting factory 4/26(thu)


HERE WE GO MAGIC Photo by Dan Catucci

 こちらも新世代バンド(と著者が解釈)、ヒア・ウィ・ゴー・マジック。5月8日に新しいアルバム『A Different Ship』が発売されるので大忙しだ。彼らは1年前にも野外で見ていてほんわりするバンドという印象だった。以前の曲は、ウォッシュト・アウトに通じるところ(浮遊感、シンセ音)も多々ありなのだが、新しいアルバムはよりポップでトロピカル、暖かい。チル(ウォッシュト・アウト)とトロピカル(ヒア・ウィ・ゴー・マジック)ならちょうど良い。
 このニュー・アルバムにはエピソードがある。2010年、彼らは、グラストンベリー・フェスティヴァルでお昼前にプレイした。彼らのコンディションは悪い(前の日にほとんど寝ていない)、お客さんもほとんどが二日酔いというシチュエーションのなか、いちばん前にいたふたりだけがノリノリだった。それがレディオヘッドのトム・ヨークとプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチ。これがきっかけでナイジェル・ゴッドリッチが、このアルバムをプロデュースすることになった。

 シングル曲「How Do I Know」は、私がよく聴いているカレッジ・ラジオでもヘヴィーローテーションで、シンプルなギター、ヴォーカル、ドラム・コンボで、クルクル回るシンフォニーが心地よい日当たりの良いトラック。いちど聴くと「おっ、またかかっているな」と、ついつい口ずさんでしまう。

 この日もウォッシュト・アウトと同じくソールドアウト。観客は、みんな彼らの友だち(?)かと思うほど、彼らのことをまるで自分のことのように一生懸命話していた。いちばん前には、カメラを一時も離さないノリノリなメンバーの両親がいた。
 メンバーは、白を基調した衣装で登場。少し緊張も感じられたが、演奏がはじまるとリラックスし、良く見せようとすることもなく、自分たちにできる精一杯を出し切っているように見えた。それが好感度の秘訣なのかもしれない。ラ・ラ・ライオット、ガールズあたりと被るところが多々あった。
 "How Do I Know"はラストから2番目に演奏した。ここまで、ほとんどMCのなかったメインガイのルークが、「今日は来てくれて本当にありがとう、あと2曲演奏します」と丁寧に言った。

 ウォッシュト・アウトは彼らの両親の世代には理解し難いかもしれないが、ヒア・ウイ・ゴー・マジックはどの世代でも受け入れる包括力がある。メンバーのキャラ、演奏力(少し音を外したりするのがまたいい)、応援したくなる要素が満載だ。アンコールでは観客一緒にハンド・クラップしたり、昔の曲を出してきたり盛り上がり、最後はギターのディストーション音、ノイジーサウンドが白く続いたあと、ピタリと終了した。

 ウォッシュト・アウトとヒア・ウィ・ゴー・マジック。行った場所がマンハッタンとブルックリンという決定的な違いもある、来ている観客も違っただろう、一緒にプレイするのは、フェスティヴァル以外にないだろうが、このふたつのバンドはなぜか私のなかでリンクしている。共通点がたくさんあるというわけでもなく、正反対でもない。そして互いに新しい音を生み出そうとする新世代の代表で、同世代からの支持を得ている。

Chart by Underground Gallery 2012.04.27 - ele-king

Shop Chart


1

Onomono

Onomono Onomono_ep_0506 (onomono.jp /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
過去2作品は、予約のみで完売してしまい、市場には殆ど出回らず、一部オークションでは既にプレミアさえ付き始めている、某有名トラックメイカーの変名テクノ・プロジェクト"onomono"待望の第三弾が遂にリリース!ALVA NOTOのような高周波が響くマイクロ・ミニマルを思わせるイントロから、一気に捻れたアシッド・シンセが走りだし、気がつけば"onomono"ワールドへ誘われているA面の「onomono_05」、ヘビーウェイトなイーブンキックに、金属的な響きを効かせたノイジーウワ音が巧みな変化を繰り返しながらドープに展開していくB面「onomono_06」の2トラックを収録。手も足も出ない完璧なミニマル・テクノ!今回も凄まじいです...。

2

MM/KM aka Mix Mup/Kassem Mosse

MM/KM aka Mix Mup/Kassem Mosse 6 Track Mini LP (The Trilogy Tapes/lp) / »COMMENT GET MUSIC
リリース前から、一部、耳の早いコアなファンの間で話題を集めていた注目ユニットのデビュー・ミニ・アルバムが、超少量入荷! UKのカセット・レーベル[The Trilogy Tapes]が贈るヴァイナル作品第三弾は、[Mikrodisko]などからリリース経歴を持つMIX MUPと、ベルリンの奇才KASSEM MOSSEによるユニットMM/KMのデビュー・ミニ・アルバム!ダブステップ /ベース・ミュージック、テクノ、ディープ・ハウスなど、全ての要素が混在する、実験的なアンダーグラウンドなディープ・トラック集!既に本国UKをはじめ、ヨーロッパでは入手困難な状況になっている、稀少な作品です。

3

Vinalog

Vinalog Lost Patterns (Relative /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
未だ、はっきりとした詳細がつかめない独[LiveJam Records]関連ですが、傘下レーベルの中でも一際個性を放っている、UGヘビープッシュのロウ・ハウス・レーベル[Relative]の新作は、レーベルの中心人物JOHN SWINGのプロジェクトVINALOGのNew12インチ! やっぱりVINALOGカッコイイです!別格ですね!ねっちょりとしつこいくらいにループされる、もっさりしたディスコ・グルーヴで、じわりじわりとハメ込んで行く、スモーキーなロウ・ハウスを展開したA1、ストレートなTR-909グルーヴにネジ曲がったベース・ラインとサイケデリックなウワ音でロックするA2、ジャズ・ピアノ・サンプルがループするB2など、かなり癖の強いハウス・作品が4トラック収録。今回も限定盤です。再入荷が難しいレーベルですので、気になる方はお早めに

4

Infiniti aka Juan Atkins

Infiniti aka Juan Atkins The Remixes - Part 1 (Tresor /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
TV VICTOR / THOMAS FEHLMANNリミックス! 90年代初頭から、常に最前線を走る、老舗中の老舗レーベル、ベルリンの 名門[Tresor]、記念すべき250番(凄い!)を記念した、スペシャル企画は、デトロイト・テクノのオリジネーター、JUAN ATKINSがINFINITI名義にてリリースした過去作品のりミックス! 第一弾となる今作は、98年に[Tresor]からリリースされたアルバム『Skynet』に収録されていた楽曲「Walking On Water」と「2Thought Process」の2曲を、クラウトロック・バンドNO ZEN ORCHESTRAとして活動してた事でも知られる、ジャーマン・テクノ / エレクトリック・ミュージック界の大ベテラン、UDO HEITFELD aka TV VICTORと、3MB名義でJUANとのコラボも行った事がある大御所THOMAS FEHLMANNがリミックス!

5

BMG & Derek Plaslaiko

BMG & Derek Plaslaiko Is Your Mother Home? (Interdimensional Transmissions /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
90年代から活動するデトロイトのカルト・エレクトロ・ユニットECTOMORPHが主催する、[Interdimensional Transmissions]の新作は、そのECTOMORPHのメンバーでもあるBMGと、デトロイトのローカルDJ DEREK PLASLAIKOとのコラボレーション。 ここ最近は、エレクトロから路線変更して、面白いリリースが増えてきていた[Interdimensional Transmissions]レーベルですが、今回も是非注目して頂きたい、オールド・スクーリーなテクノ・トラックを披露しています。ローランドの各種リズムマシーンのむき出しのビートを軸に、繊細な電子音が絡んだミニマル・テクノ集!ドイツのTOBIAS.辺りのアナログ・テクノが好きな方なら間違いありませんよ!

6

Tom Trago

Tom Trago Use Me Again (Rush Hour /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
2010年リリースのディスコ・キラーをCARL CRAIGが再構築!CARL CRAIG本人が以前からプレイしていた、あのヴァージョンが待望の12インチ・カット! ここ数年、[Rush Hour]がフックアップしているアムスの新世代アーティストTOM TRAGOが、2010年にリリースした12インチ「Voyage Direct - Live Takes」に収録され、CARL CRAIG本人も以前からプレイしていた、ブラックディスコ/ビートダウン・チューン「Use Me Again」が、そのCARL CRAIGの手により再構築されて12インチ化! リリース当時から現在まで、CARL CRAIGやRADIOSLAVEなどが、ことあるごとにプレイし続けているディスコ・ハウス「Use Me Again」、スリリングなストリングスとアップリフティングなディスコ・グルーヴが超アガるキラー・チューン。この曲をCARL CRAIGが、強烈なエフェクトを効かせ、空間をねじ曲げた、ドラッギーなディスコ・ハウスへリエディット!マジで最高ですよ!

7

Idjut Boys

Idjut Boys One For Kenny (Smalltown Supersound /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
LINDSTROM、MUNGOLIAN JETSET、TODD TERJEなど、重要アーティスト達がリリースしてきた、名門[Smalltown Supersound]の新作は、遂に満を持して大御所IDJUT BOYSが登場! 昨年日本で先行リリースされ話題となった、IDJUT BOYSキャリア初のオリジナル・アルバム「Cellar Door」より、昨年惜しくも他界してしまった、UKのKENNY HAWKESに捧げた楽曲「One For Kenny」が待望の12インチ化。ビートダウン風のブギー・ダブ・ディスコ・グルーブに、盟友 PETE Zによる、サイケ & ダヴィーなシンセ、BUGGE WESSELOFTによる可憐な鍵盤が絡みあう、めちゃくちゃカッコ良い、ミッド・ディスコ・チューン!アルバムの中でも一際人気の高い1曲だっただけに今回のアナログ・カットが嬉しいという方も多くいることでしょー。しかも 45回転、重量盤プレスで音も良し。DJのみならずとも、コレは要チェックです!全世界500枚限定!

8

Pepe Bradock

Pepe Bradock Imbroglios 1/4 (Atavisme /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
フランスを代表するアーティスト、ビートダウンを基調にしながらも、規格を超えたオリジナルなハウス・サウンドで大きな支持を得ているPEPE BRADOCK が、前作 「Path Of Most Resistance」以来、約3年ぶりとなる新作をリリース!今後、パート4までリリースが予定されている「Imbroglios」シリーズの第一弾。ビートダウン的なムードを持ちつつも、より実験的でアバンギャルドな雰囲気があって、奇才ならではのディープ・ハウス作品が4曲収録。ジャジーなサンプルを巧みに操った「Katoucha?」がイチオシですが、全曲濃いですよ!流石PEPE BRADOCK!

9

V.A

V.A I'M Starting To Feel Okay Vol. 5 Pt. 1 (Endless Flight /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
東京[Mule Muziq]のサブレーべル [Endless Flight]から、毎年恒例となっているレーベル・コンピレーション・シリーズ「I'm Starting To Feel Okay」第5弾からの12インチ・カット! ここで特筆すべきは、文句なしにMOVE D!リバース・フレーズを巧みに交えた、ミニマル・ディスコ作品で、テンションやグルーヴ、展開や鳴り、全てが完璧!この作品だけの為に買っても損はありませんよ!保証します!その他にもアムステルダムのニュースターJUJU & JORDASHによる、マッド&ピプノなアシッド・テクノや、TERRE THAEMLITZ aka DJ SPRINKLESによる淡い色彩感覚とライトなグルーヴが素晴らしいフローティング・ハウスが収録されていて、全曲◎な内容!これはお見逃しなく!オススメです。

10

Madteo / Shake Shakir

Madteo / Shake Shakir Kassem Mosse / Marcellus Pittman Rmx (Meakusma /12inch) / »COMMENT GET MUSIC
ANTHONY "Shake" SHAKIR / KASSEM MOSSE / MARCELLUS PITTMANリミックス! 先日JOY ORBISONが新レーベルからリリースされたばかりの最新作「Bugler Gold Pt.1」が、UKを皮切りに欧州で大きな話題を集めている、N.Yはブルックリンの奇才MADTEOの楽曲を、デトロイトの大ベテランTHONY "Shake" SHAKIR、[Workshop]からのリリースでお馴染みのベルリナーKASSEM MOSSE、そして、THEO PARRISHやMOODYMANNと共に、3CHAIRSのメンバーとしてもお馴染みのMARCELLUS PITTMANがリミックス!

Grouper、青葉市子、ILLUHA、en、YusukeDate - ele-king

 午後5時半、曇の日の弱い光が臨済宗のお寺の本堂の障子越しからぼやっとはいってくる。畳の上の黒い影になった100人ほどの人たちは、本陣をぐるりと囲んでいる。竜が描かれている天井の隅にある弱い電灯が照らされているアメリカのポートランドからやって来た女性は、980円ほどで売られているようなカセットテレコが数台突っ込まれたアナログ・ミキサーのフェーダーを操作しながら、膝に抱えたギターを鳴らし、歌っている。時折彼女は、テレコのなかのカセットテープを入れ替える。そのときの「がちゃ」という音は、彼女の演奏する音楽よりも音量が大きいかもしれない。本陣の左右、ミキサーの前にふたつ、そして本堂のいちばん隅の左右にもスピーカーがある。その素晴らしく高性能なPAから流れるのは控えめだが耳と精神をを虜にする音......この風景の脈絡のなさは禅的とも言えるだろう。が、たしか我々は、その日の昼の1時からはじまったライヴにおいて、ある種の問答のなかにいた。我々はなぜ音楽を聴くのだろうか......そして、ここには禅的な答えがある。聴きたいから聴くのだ。聴いたら救われるとか、気持ちよくなるとか、自己肯定できるとか、自己啓発とか、頭良くなるとか、嬉しくなるとか、とにかくそうした期待があって聴くのではない。ただ聴きたいからただ聴く。そう、只管打坐である。

 禅宗は、欧米のオルタナティヴな文化においてつねに大きな影響のひとつとしてある。ヒッピー、フルクサス、ミニマル・ミュージック、あるいはレナード・コーエン......僕が好きな禅僧は一休宗純だ。戒律をやぶりまくり、生涯セックスし続けた風狂なる精神は、日本におけるアナキストの姿だと思っている。まあ、それはともかく、僕は会場である養源寺に到着するまでずいぶんと迷った。1時間もあれば着くだろうと高をくくって家を11時半に出たのだけれど、会場は商業音楽施設ではない。結局、こういときはiphoneなどのようなインチキな道具は役に立たず、八百屋の人やお店の人に尋ねるのがいちばん正確に場所に着ける。ふたり、3人と訊いて、ようやく僕は辿り着けた。
 谷中、そして団子坂を往復しながら、着いたのはYusukeDateのライヴの途中だった。1時を少し過ぎたばかりだと言うのに、本堂の1/3は人で埋まっていた。
 YusukeDateの弾き語りは、アンビエント・フォークと呼ぶに相応しいものだった。アンビエント・フォーク? 安易な言葉に思われるかもしれないが、歌は意味を捨て音となり、ギターは伴奏ではなく音となる。それは、ここ数年のフォークの新しい感性に思える。僕は畳に座りながら、少しずつその場のアトモスフィアにチューニングして、そして次のenのライヴのときにはほぼ完璧にチューニングできた。〈ルート・ストラタ〉を拠点にするふたりのアメリカ人によるこのプロジェクトは、ひとりが日本語が堪能で、日本語の軽い挨拶からはじまった。
 enのひとりは日本の琴の前に座り、もうひとりは経机の上のミキサーの前に座っている。いくつかのギターのエフェクター、そしてミキサーの上には数台のカセットテレコが見える。琴の音が響くなか、無調の音響が広がる。畳の上には子連れの姿も見え、子供はすやすやと眠っている。曲の後半では、カセットテレコを揺さぶり、音の揺れを創出する(なるほど、だ)。また、カセットテレコについたピッチコントロールを動かしながら、変化を与え、曲のクライマックスへと展開する。

 セットチェンジのあいだ、僕は本堂の下の階で飲み物を売っている金太郎姿の青年からビールを買って、次に備える。1杯300円のビールは良心的な価格......なんてものではない。この日のコンサートへの愛、音楽集会への愛を感じる。

 次に出てきたILLUHAは、今回の主宰者というかキューレター的な役目の、伊達伯欣とコーリー・フラーのふたりによるユニットで、すでにアルバムを出している。伊達は、古い、捨てられていたという足踏みオルガンの前に座って、フラーはギターを抱えながら、ミキサーの前に鎮座する。ミュージック・コクレートすなわち具体音──このときはドアがきしむ音だったが──が静寂のなかを流れると、ILLUHAのライヴはゆっくりをはじまる。オルガンの音が重なり、やがて、完璧なドローンへと展開する。
 enとも似ているが、具体音を活かしたパフォーマンスは彼らのそのときの面白さで、そしてメロウなギターの残響音そしてハウリングは、ドローンはラ・モンテ・ヤング的な瞑想状態を今日的な電子のさざ波、グラハム・ランブキンらの漂流のなかへとつないでいる。
 enのライヴにも感じたことだが、ひと昔前(IDMから発展した頃)のドローンは、猫背の男がノートパソコンを睨めているような、お決まりのパターンだった。が、この日はenもILLUHAもアナログ・ミキサーを使い、そして、パソコンもどこかで使っていたのかしれないが、ついついiPadを表に出してしまうような味気ないものとは違っていた。デジタルやソフトウェアに頼らず、そしてアイデアでもって演奏する姿は、これからのアンビエント/ドローンにおいてひとつの基準になるかもしれない。
 また、こうした「静けさ」を主張する音楽において、ほとんど満員と言えるほどの若いリスナーが集まったことは注目に値する。「ライヴ中に寝てしまったよ」とは通常のライヴにおけるけなし言葉だが、この日のライヴにおいては「眠たくなる」ことは賞賛の言葉だった。本堂という木の建造物における音の響き、畳の上での音楽体験という環境や条件も、この新しいアンビエントの魅力を浮彫にしていた。

 青葉市子は、その評判が納得できる演奏、そして佇まいだった。本堂の障子の外から子供の泣き声が聞こえると、彼女はその"音"を聞き逃さず、「あ、泣いている」と言う。その瞬間、我々は、そこでジョン・ケージのその場で聞こえる音も音楽であるというコンセプトを思い出す。彼女は、オーソドックスなフォーク・スタイルだが、しかし、彼女の素晴らしいフィンガー・ピッキングによる音色は、音としての豊かさを思わせる。曲が終わるごとに、まだ20歳そこそこの若い彼女は、「足を伸ばしたり、リラックスして聴いてくださいね」とか「空気入れ替えませんか」とか、気遣いを見せながら、「こういう手作りのコンサートでいいですね」と素朴な感想を言った。その通りだと僕も思った。

 リズ・ハリス(グルーパー)は、大前机の上の、でっかいアナログ・ミキサーの前にテレキャスターを持って胡床に座った。黒いパーカー、黒いジーンズ、そして足下にはペダル、エフェクター(ボーズのディレイ、オーヴァードライヴなど)がある。それまで出演してきた誰とも違って、何の挨拶もなく、何台かのテレコに何本かのカセットテープを入れ、それぞれ音を出す。リハーサルかと思いきや、音は終わらず、そのまま、いつの間にか、彼女の曇りガラスのような独特の音響が本堂のなかを包み込む。前触れもなく、それははじまっていた。
 マニュピレートされたテープ音楽が流れるなか、彼女はギターを弾いて、音をサンプリング・ループさせ、歌とも言えない歌を重ねる。ギターの残響音をループさせると、彼女はギターを置いて、そしてテープを入れ替え、ミキシングに集中する。いつからはじまり、そしていつ終わったのかわからないようにリズ・ハリスは音量をゆっくり下げる......。しばし沈黙。マイクに近づき、たったひと言「サンクス」(それがこの日、公に彼女が話した唯一の言葉だった)......大きな拍手。

 この日のライヴは、この賑やかな東京においては、本当に小さなものなのだろう。ハイプとは1万光年離れたささやかな音楽会だ。が、このささやかさには、滅多お目にかかれない豊かな静穏があった。そして、いま、音楽シーンにもっとも求めらていることが凝縮されていたように思えた。300円のビール、美味しい!
 この日は、2000円で、お客さんをふくめ誰でも参加自由な打ち上げもあった。青葉市子さんは、自ら率先して、料理を運んでいた(若いのにしっかりした方だ)。こうした音楽集会のあり方は、最初期のクラブ/レイヴ・カルチャーを思わせる。
 なお、グルーパーは、日本横断中。名古屋~京都~金沢、そして都内では4/30に原宿の〈VACANT〉でもある。その日は、CuusheやSapphire Slowsも出演。たぶん、まだ間に合うよ。
 最後に、蛇足ながら、ライヴが終了後、リズ・ハリスに30分ほど取材することができました。結果は、次号の紙ele-kingで。

青葉市子 - ele-king

 4月8日、桜も満開に近づき、代々木公園ではお花見を楽しむ人たちに溢れるなか、僕は原宿の〈VACANT〉で定期的に開催されている青葉市子さんの独奏会に参加してきた。〈VACANT〉は原宿から連想されるそれとは大きく異なる、木と鉄をコンセプトにした、一種原宿から切り離された内装と、アットホームな空間が魅力的なフリースペースで、イヴェント・スペース、アート・スペース、ギャラリーなどの他にも、ショップやカフェも展開している。

 会場に入り、客席を見渡し、あらためてこの1年での変化にまず驚く。僕がはじめて青葉市子さんの演奏を見たのは去年の震災前の新宿タワーレコードのインストア・イヴェントで、当時お客さんも30人程度だったのに比べ、当日は100人近くのお客さんが集まり、以前よりも世代が分散されている事にも気づく(先日行われた新宿タワーレコードのインストア・イヴェントも数多くの人が集まっていた)。

 日が暮れ出しはじめた夕方の18時頃、ひっそりと会場に姿を現し、「こんばんわ」のひと言を言い終え、深く息を吸い込み、そして青葉市子さんの演奏は静かにはじまった。白いワンピース、クラシックギター、楽譜、いままでと変わらない風景も立ちこめるなか、彼女自身の変化にもじょじょに気づかされていく。演奏が続くなか、音と空間が交わり、声にも表情が見えはじめてきた頃、どこかあどけなさが残る印象の裏に、見えない自信と演奏を楽しんでいるさまが垣間見れ、当時僕が見た彼女のそれとは大きく異るものを感じさせられた。しかし、いままでと変わらない線の細い、しかしどこか力強い、声という楽器が奏でる音色と、優しく包み込むように奏でられるギターの音色が情景を鮮やかにし、透き通るまばゆい音の風景にお客さんたちは彼女の世界を旅し、深く入り込んで行く。目をつむって音を聴く人。何か答えを見つけるように深く考え聴き込む人、笑みがこぼれ、彼女を幸せそうに見つめる人、表情もさまざまだ。一部が終わり、二部が少しあいだを開けて開始される。

 途中のMCでは七尾旅人さんのカヴァーを少し披露したり、細野晴臣さんの"悲しみのラッキースター"(デイジーホリデイでも以前披露)、この日のために用意した妖怪人間ヴェムの曲などを披露。演奏中の間や、アレンジ、即興性、遊び心のある空間の演出などにもこの1年で培ってきた良い意味での余裕が感じられた。演奏も終盤に差し掛かり、サード・アルバム『うたびこ』からの楽曲、"奇跡はいつでも"、"ひかりのふるさと"を披露。いままで異なっていた表情もこの場面ではたくさん目をつむって聴き込んでいる様子が多く伺えた。ここで僕は以前彼女が演奏中のMCで、こんな難しい時代だからこそ、こういう場では自分を解放して欲しいと言っていたのをふと思い出した。
 アンコールを含む2時間弱の演奏全てが終わり、彼女は「終わりです」とだけ言い残し、ひっそりと独奏会は幕を閉じた。青葉市子さんの音楽は僕らの意識のなかに内在する音や感覚であって、こんな時代だからこそ信じたい、そして触れて欲しい音だなとつくづく思った。終了後、久しぶりに会う彼女にいくつか質問をしてみた。


お疲れさまです。

青葉:ありがとうございます。

いくつか質問していくのでよろしくお願いします。まず、〈VACANT〉で演奏会を開かれてますけど、〈VACANT〉を選ぶ意味とか理由とかありますか?

青葉:うーんと、なんというか、堅すぎず、緩すぎず、っが良いかなと。以前はクラシックホールなどで演奏していたんですけれど、自分がどういう場所で演奏したら良いのか当時は定まってなかったんですね。この期間いろんなところで演奏して、〈VACANT〉さんでも演奏させて貰った時に凄く音の響きが良くて、それで木で作ってあるから何か温かい音になるかなと。お客さんにも皆こう、ちゃっと椅子に座るんじゃなくて、伸び伸びしてもらいたくてここを選びました。

演奏中のMCでたまに同世代の方が今日はたくさん来てくれて嬉しいとおっしゃてたりするじゃないですか、青葉さんの周りには細野(晴臣))さんや、小山田(圭吾)さん、七尾(旅人)さんなど、比較的年上が多い気がするのですが、平成生まれだという意識とか自覚みたいなものはあったりしますか?

青葉:うーん、それは全然ないですね。ただやっぱり同じ時代を同じように成長しながら生きてきた人達と自分の音楽を共有できることはとくに嬉しいなとは思っています。

なるほど。

青葉:刺激を受けた時期が同じ人たちってやっぱり勘が鋭いというか、言いたい事をすぐキャッチしてくださったりしますし。でも平成生まれとして意識をして活動をする、みたいなことはとくにないです。

今日もたくさんいろんなアーティストさんの楽曲をカヴァーしてましたね(当日は細野さん、ユーミンさん、七尾さんなどをカヴァー)。去年の夏にお話したとき、あんまり意識して自分から音楽を聴かないっておっしゃってたのが凄く印象的だったんですが、あれ以降その意識とか変わったりしましたか?

青葉:変わってないですね。この曲を聴こうみたいなことがあんまりなくて。これはたぶん言っちゃいけないことなのかもしれないんですけど、貰ったCDとかもあまり聴かないんです。私は生で鳴ってる音が一番好きで、CDとかは、そこで鳴っているもの、という感覚しかどうしてもなくて。うーん、これは凄く難しいんですけど、私は目に見えないもの、例えば会話とかその場でしか起こらないもの、ライヴもそうですよね。そういうものが好きです。

今日の演奏でもすごく感じたことなのですが、以前よりも今おっしゃっていた、その場でしか起こらない、例えば即興性、MCなんかもそうなんですけど、青葉さん自身以前より楽しんで取り組んでいるのが凄く印象的で。

青葉:多少上手になったのかなとは思いますけど(笑)、うーん、そうだなあ、臨機応変の力っていうのは場数を踏んで、ちょっとは出来るようになってきたかなとは思うけれど、こう来たらこうしようみたいなのは全然考えてないです。

ずっと僕個人的に気になってたことがあって、SOUNDCLOUDに、Joe Meekみたいな打ち込みのエレクトロの曲とかをアップしてらっしゃるじゃないですか、ああいう曲をこれからもっと全面に押し出して、例えばアルバムに入れてみたり、ライヴでも取り入れてみたりとかは考えてたりはしないんですか?

青葉:おお、凄い。それどんなライターさんにも訊かれたことなかったです(笑)。アンテナが凄いですね。

やった(笑)!

青葉:実はそういうのは凄く興味があって、なんでもできるものはやりたいので、できればいいなーとは密かに思ってます。あれはMacのガレージバンドで適当に遊んだだけなんですけど(笑)。ちゃんと機材も揃えたいんですけど、まだお金が......(笑)。

そういうものは小山田さんとかたくさん持ってると思うので借りたらいいと思います(笑)。

青葉:ふふふふふ(笑)。小山田さん、要らないものがあればください(笑)。

そういうセットでも小山田さんとか、細野さんとかとライヴで絡めたら面白そうですね。新しい世界が広がりそうで。

青葉:私もそう思ってます。出来る事は全て取り入れたいと思ってるので。エレキギターとかもいつかまた使ってみたいなあとも思ってるので、是非楽しみにしててください(笑)。

なおさら今後も期待ができそうですね。楽しみにしております。お疲れさまです、以上です。短いインタヴューでしたが、今日はどうもありがとうございました。

青葉:なんかひっかき回されてすごく面白かったです(笑)。話を聞いてて、事務的な人が多いなかで、いまみたいなスタイルはとても楽しいし、そのスタイルを変えないで頑張って欲しいです。

は、はい! ありがとうございます(笑)。僕と世代がまったく一緒ですし、初めてのインタヴューが青葉さんで本当に良かったです。僕自身もすごく取り組みやすかったです。本当にありがとうございました。


 僕は去年行われた青葉さんとアミーゴさんが企画をしたイヴェントから、青葉さんをひとつの目標としてここまで頑張ってきたので、こういう形での再会は信じられないくらい嬉しくて、帰り道震えが止まらなかったです。

 青葉さんはこの演奏会の翌日、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」への出演を発表。僕ももっともっと頑張らなくてはと強く思った。〈VACANT〉でのライヴは来月の5.12(土)も開催予定。素敵な空間で、彼女が言う、生の音はたしかに鳴っています。是非会場へ!

Mouse On Mars - ele-king

 1990年代生まれのリスナーが何曲か聴いたら、モードセレクターの曲をハドソン・モホークやフライング・ロータスがリミックスしたんじゃないかと勘違いするかもしれない。いやしかし、そのきめ細かいトリックに「おや」と思うだろう。マース・オン・マーズ(MOM)の6年ぶりのお茶目なIDM、〈モードセレクター〉のレーベルからのリリースとなるそれは、ラップトップのソフトウェアによるグリッチの効いたファンクが耳に残る。
 グリッチ――「不具合、予期せぬ事故、誤った電気的信号、電流の瞬間的異常」は、1990年代のドイツのエレクトロニック・ミュージックにおいて発展した一種の技だと言える。それは「失敗の美学」に基づいて、オヴァルを発端としながら、ドイツにおけるIDM/エレクトロニカというクラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者によって磨かれているが、MOMもそのいち部だった。MOMが初めて来日したとき、彼らがファンだったという中原昌也と対談をしてもらったが、話は「どうやってあの音を出しているのか?」という話題で沸騰した。MOMは、まずはテープで録音して、そのテープをグチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込むんだよと、秘密を明かしてくれた。このような微妙なユーモアがヤン・ヴェルナーとアンディ・トマのIDMにはある。
 MOMは、90年代なかばの最初の2枚のアルバムをインディ・ロック系の〈トゥ・ピュア〉からリリースしていることが物語るように、彼らにはたしかにクラウトロックの申し子のようなところがあり、先述した通りの「クラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者」だが、結局のところクラブ・ミュージックとの関わりを完璧に絶っているわけでもないように思える。MOMは、反動的なセクト――ある種のエリート意識で、オウテカがもっとも気を遣っていたところ――にとらわれた時期があったのかもしれないけれど(とはいえ、ヴェルナーとオヴァルによるマイクロストリア名義の作品は魅力的だった)、ポップを見失ったことはない。たとえオヴァルとともにロンドンの由緒あるバービカン劇場にてシュトックハウゼンの"少年の歌"を演奏したとしても......。

 この手の「捻り」に個人的に久しく接していなかったからだろうか、10枚目のスタジオ・アルバム『パラストロフィックス』を初めて聴いたとき、僕にはMOMがあらためて新鮮に思えた。このアルバムは、喩えるなら、クラフトワークの『コンピュータ・ワールド』やサイボトロンの、いわば80年代的なエレクトロをラップトップのなかで「グチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込んだ」ような強烈なファンクネスを感じる。"The Beach Stop"は本当に心地よい曲だ。人工的な女性のささやき声、フレンドリーのようでいて、穏やかに歪んでいくサウンドスケープ......初期の2枚に顕著だった無垢な遊び心は18年目経ったいまも健在で、その芸当は緻密になっている。
 ビートが際だっている"Metrotopy"や"Wienuss"、"Polaroyced"のような曲には可笑しさ、巧妙さ、そして強力なエネルギーがある。グルーヴィーなのだ。しかしリスナーは"Cricket"や"Baku Hipster"のような曲に含まれている悪意にも気をつけなければならない。パンキッシュな"They Know Your Name"は、マーク・E・スミスとのヴォン・スーデンフェッド名義による『トロマティック・リフレクションズ』(2007)を思い出すが、MOMはリスナーにとってつねに「いい人」であるとは限らない。批評的だし、彼らにはハードコアな側面、IDMにありがちな「やり過ぎ」たところもあるし、はっきり言えばからかいもある。それでも"Chord Blocker, Cinammon Toasted"や"They Know Your Name"には、知性派の嫌らしさを感じさせないぐらいのファッション性があるのだ。少なくもぐったりと疲れているときにお薦めできる音楽ではないが、不思議なことに、たっぷり睡眠を取った翌朝に聴くと「よし、やるぞ!」という気持ちになれる。ホント、不思議なことだが。

■オブ・モントリオール @ウエブスター・ホール(3/30 & 3/3)

 オブ・モントリオールが3月末、2日連続でニューヨークの1000人規模の会場、〈ウエブスター・ホール〉に登場した。2日ともオープニングを変え(30日:ハード・ニップス、コンピュータ・マジック、31日:キシ・バシ、ロンリー・ディア)、セット・リストも少し変えた。両日行っても十分に価値のある演出だった。初日観て、翌日も行ってしまった人も少なくなかった。
 メンバーは、前回のツアーから比べてぐっと削ぎ落され、8人だった。演奏もタイトになっていた。新しいメンバーのサックスプレイヤー、パーカッション、ドラマー、バイオリンが、オブ・モントリオールの音をさらにフレッシュに、そしてセクシーに活気づけていた。
 フロントマンのケヴィンは、1日目はグレイのスーツに、下は赤のフリルシャツ、2日目は白のラインが入ったスカイ・ブルーのジャケット、下も青のシャツと鮮やかな色。目にはブルーのラメ・アイシャドーとファッションも抑えめながらいつも通りだ。他のメンバーも 多色使いのエスニック・パターンのポンチョ(BP:ギター)、白のAラインのワンピース(ドッティー:キーボード)、全身シルバーのラメのトップ(ザック:サックス)はなど、他のメンバーの個性的なファッションも全体のバランスを保っていた。
 ショーは、ニュー・アルバム『Paralytic Stalks』からの曲がほとんどで、1曲目はケヴィンがキーボードを弾きながらはじめた。今回のツアーでは、ケヴィンは、キーボード、ギター、ヴォーカル、そしてパーカッションなどさまざまな楽器も手がけていた。曲前半に白の風船を観客に向けて飛ばし、それがセット中いろんな所でふわふわしている演出で、スクリーンをそれぞれのメンバーの前において、サイケデリックなヴィジュアルと曲をシンクさせたり、いつものボディースーツのメンバーが所々に登場し、そして曲を盛り上げ、ケヴィンに絡んだり、奇天烈なパフォーマンスをぶちまけた。

 このアルバム『Paralytic Stalks』で、ケヴィンは自分の人生について突き詰めている。基本的に彼のアルバムはパーソナルなものだが、今回もさまざまな苦しみや、葛藤、精神的な危機、さらに「人間とは」というユニヴァーサルな域にも達している。楽器的にも、ペダス・スティール・ギター、ホンキー・トンク・ピアノ、チェロ、ホーン楽器など、いままでとは違う要素を取り入れ、いままでに使ったことのない手法で新しい曲を創造している。ケヴィンの表現がオーディエンスを引きつけて離さないのは、こうした深さがあるからだ。

 2時間ほどのパフォーマンスはいままで見たオブ・モントリオールのなかでも力強く、完成度も高かった 。ステージ全体をカレイドスコープのように使ったマジカルな音楽オーケストラはとてもリズミカルだった。私は1日目はいちばん前、2日目は2階席から見た。全体が見渡せる2階席からは、リズムをキープするバンドの姿、そして彼らが本当に楽しんで演奏している一面も見れた。スクリーンにはバックとフロントでは違う映像が映し出され、シンク感覚も興味深かった。スピリチャライズドをもう少しカラフルにした感じとでも言おうか、オブ・モントリオールをフジロックで見たら、曲といい、演出といい、場所とも自然とも、シンクロするのだろう。アンコールはアルバム『Skeletal Lamping』(2008)、『Hissing Fauna, Are You The Destroyer?』(2007)などからの往年のヒット曲を集めた物だった。バランスの取れた選曲の良さもショーをより価値のある物にしていた。

 観客は圧倒的に若者が多い。バンドをなかばアイドル化している感もある。ケヴィンやBPが少しでもステージ際に近づくと、みんな手を伸ばし、彼らに触れようとする。BPがアンコールで観客にダイヴしたときには、大騒ぎになり、後ろのほうまで流されていってしまった。

 ショーの後、ケヴィンといろいろ話した。彼は私と会うたびに、〈コンタクト・レコーズ〉がオーガナイズした最初の日本ツアーがどれだけ楽しかったのかを話する。日本の観客が熱く受け入れてくれたことに感動し、彼ら自身が心から楽しめたと語る。「あのときは日本のオーディエンス本当に僕らを好きだということがわかったんだ」と彼は言った。そのショーの最後の曲を演奏し終えると、ケヴィンは感極まってダイヴした後、そのままダンス・パーティに流れ込み、朝までみんなで踊った。「こんなことはほとんどない」と、彼は言う。商業的に成功したわけではなかった。贅沢なホテルに泊まれたり、ギアなども誰かが用意してくれるようなツアーでもなかった。それでもバンドにとって、最初の日本ツアーは最高の出来事だった。実はその後も彼は、何度か日本に戻っている。が、しかし、そのときはもう「日本の人はそこまで僕らのことを好きじゃないのかもね」と言っていた。


■ワイルド・フラッグ@ウエブスター・ホール(4/1)

 ......というわけで、私は3日続けてこの〈ウエブスター・ホール〉に来ている。今日はワイルド・フラッグのライヴだ。スリーター・キニーのキャリー、ジャネット、ヘリウムのメアリー、マインダーズのレベッカというガールズ・スーパー・バンドである。昨年10月のCMJで見て以来、私のなかでナンバーワン・ライヴに位置づけられている彼女たちのパフォーマンスを再び見に行った。チケットはもちろんソールドアウト。

 観客は、スリーター・キニーのファンだったに違いないある程度の年齢層(?)から最近の若者まで幅広かったが、昨日のオブ・モントリオールに比べると女の子が多かった。物販にはCD、レコード、Tシャツ、メンバーの顔Tシャツがあった。それらはショーの前から景気良く売れていた。
 オープニングはレーベル・メイト(マージ・レコーズ)であるホスピタリティ。彼女たちもCMJ(このときもワイルド・フラッグの前座)で見ているが、全体の印象的はまあ、......あどけないよちよち歩きの赤ちゃん。演奏はしっかりしているが、良くも悪くも若い。ナダ・サーフ(今週末4/6,7と2連夜でNYに戻ってくる!)のオープニングだったパロマーやラ・ラ・ライオットに音的にも姿的にも被るところがあった。

 さて、ステージにスモークが降り、ワイルド・フラッグが登場。メアリーは赤と黒の太めボーダー・シャツに黒のタイトパンツ、キャリーは黒のシャツ黒タイト・ジーンズ、ジャネットは幾何学模様のワンピース(自分用の扇風機持参)、レベッカはベージュのトップに黒のミニスカート......とメンバーの個性もばっちり。
 後ろからスポットライト、さらに電飾の色がめくるめく変わっていきステージに色を添える。オープニングはメアリーのヴォーカル曲でスタート。その後はキャリーと交互にヴォーカルをチェンジする。バンドのなかにヴォーカリストがふたり(メアリー、キャリー)、ギタリストがふたり(メアリー、キャリー)、ベースがなくて、キーボード(レベッカ)とドラム(ジャネット)。ふたつバンドができそうだ。

 今回はCMJで見たときとくらべ、がつんと来ることはなかった。別に演奏が悪かったわけではない。1回観ているため何となく読めてしまったのか、彼女たちが演奏を重ねて新鮮さが抜けてしまったのか......はわからない。観客を引きつけるパワー、ただならぬオーラーは相変わらずだが。
 私は写真を撮るために2階席にあがり、「1分だけ写真を撮らせてください」といちばん前にいた女性に頼み込んで写真を撮っていたら、本当に1分で「タイムアウト!」と後ろに返されてしまった。1分も見逃したくないほど好きなのだ。申し訳ない気分になった。
 ステージのいちばん前には男の子もかなり居て、一緒に歌など口ずさんでいる。メアリーとキャリーのギターの絡み、キャリーがバスドラの上に載って、ギターをかきならし続けるパフォーマンス(しかもハイヒールで!)などはワイルドフラッグの姿勢を表している。これこそ女の子がお手本にしたい、男に媚びないバンドの姿である。ラスト・ソングはシングル曲"ロマンス"で、シンガロングが会場に響き渡る。アンコールは、ビーチボーイズの"ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス?"などのカヴァー・ソングを披露。

 今回ワイルド・フラッグを見に行った理由のひとつに、野田編集長から日本ではワイルド・フラッグはアメリカのように知られていないし、そこまで盛り上がっていないと聞いことがある。今回のオーディエンスはインディ・キッズからもっとゆるい音楽ファンまでいろいろだが、ショーに行くという行為はアメリカではお茶を飲みに行くのと同じぐらい日常的な行為だ。ライヴがはじまってもひたすら友だちとぺちゃくちゃお喋りして、飲み続けている人たちも少なくない(日本ではライヴ中に喋っていると怒る人がいるらしい!)。そもそもライヴとは、ビールを飲みにいったらバンドもやっていた、じゃあついでに見ていこうか、なんてのりだ。まあ、〈ウエブスター・ホール〉という場所がファンシーで、アンダーグラウンドではないのだけれど、ワイルド・フラッグはインディのなかでもより一般の人にも受け入れられている。音楽に使えるお金をそこそこ持っていて、前売りチケットを1週間前からオンラインで買う層である(byトッドP)。
 日本ではライヴを見に行くとなると、何かあまりにも特別な行為なのかもしれない。自分が楽しみたいというより、もっと緊張感のあるものなのだろうか。アメリカでライヴを観ることは、もっとリラックスしているし、テキトーだ。この考えの違いが日本でまだまだインディが受け入れられない理由なんだろうと思いつつ、ワイルド・フラッグの熱狂的なライヴを観ていた。日本とアメリカの温度差の違いもあるだろうし、言葉がわからないというハンデもある。しかし、ホントはシンプルに楽しめばいいだけのことなんだけど。

Chart by Underground Gallery 2012.03.29 - ele-king

Shop Chart


1

BURIAL + FOUR TET

BURIAL + FOUR TET Nova (Text Records / 12Inch) »COMMENT GET MUSIC
FOUR TET率いる[Text]の新作は、ダブステップ界の大ボスBURIALと、レーベル主催、レフトフィールド・ミニマルの天才FOUR TETのコラボレーション! FOUR TETらしい、アコースティックなギター・リフで軽やかに展開していく、ディープ・テック・トラック!

2

ROCKET JUICE & THE MOON FEATURING ERYKAH BADU

ROCKET JUICE & THE MOON FEATURING ERYKAH BADU Manuela / Mark Ernestus Dub (Honest Jon'S / 12Inch) »COMMENT GET MUSIC
BLUR/GOZILLAZのDAMON ALBARN、RED HOT CHILI PEPERSのFLEA、FELA KUTI BANDの TONY ALLENという、とんでもない面子による、スペシャル・ユニット ROCKET JUICE & THE MOONが、間もなくリリースを予定している1stアルバムに先駆けたリミックス12インチ! 言わずと知れた歌姫、ERYKAH BADU嬢をフィーチャーし、アルバム未収録作品を、何と、ベルリンのダブマスター、BASIC CHANNEL / RHYTHM & SOUNDでお馴染みのMARK ERNESTUSがリミックス!屈指のロックミュージシャン2人と FELA KUTIと共にアフロ・ビートを作り上げたTONY ALLENをバックに従え、"Neo-Soul"の女王 ERYKAH嬢による悩ましげなヴォーカルがダビーに響き渡る、濃密なブラック・アフロ・ソウル作品!

3

BUBBLE CLUB

BUBBLE CLUB In Consequence Of A Wish (International Feel / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
ERIC DANCAN、BRENNAN GREEN、SOFT ROCKSらがリミックスで参加した 自身主宰レーベルも好調な、ロンドンのバレアリック・ディスコ・ユニット BUBBLE CLUBが、前作「The Goddess」以来、久々となる新作を、DJ HARVEYのプロジェクトなど、話題作連発な [International Feel]からリリース。 前作「The Goddess」に、スライド・ギターを加え、よりレフトフィールド/コズミック風ディスコへと昇華させた「In Consequence Of A Wish」、疾走感のあるリズムにライブ・パーカッションやバレアリックなシンセ類を散りばめた「Seven Hills」、BRIAN ENOの「Apollo」や、Daniel Lanois諸作品を思わせるような、ペダル・スチールでとろけるような甘いムードを演出したチル・アウト・チューン「Ex-Voto」の 3作を収録。今回もJOSE PADILLA周辺の"Ibiza~Big Chill"方面を中心に大きな話題を集める事は、まず間違いありません!

4

ANIMATION

ANIMATION Sanctuary (Sarcred Rhythm / 10inch) »COMMENT GET MUSIC
[Blue Note]等で活躍するアメリカのサックス奏者/コンポーザー、BOB BELDENによるANIMATION名義でのアルバム「Agemo」に収録されていた楽曲「Sanctuary」を、レーベル・オーナー JOE CLAUSSELLがリミックスした大注目の1枚。まず Side-Aでは、JOE CLAUSSELLらしい 空間を巧く活かした スモーキー & トリッピーなウワモノを響かせた 傑作ロービート・ダブ「Part.1」。Side-Bには、90年代後期の UK/クロスオーヴァー作品を彷彿とさせるような、疾走感のあるジャズ/ブレイクビーツ風のトラックに、鮮やかな高揚感を持って響く鍵盤やサイケ & ディープなストリングス/Saxリフなどを散りばめた、グルーヴィーなフロアートラック「Part.2」を収録。

5

KEVIN SAUNDERSON FEAT. INNER CITY

KEVIN SAUNDERSON FEAT. INNER CITY Future (Carl Craig / Kenny Larkin Remixes) (Defected / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
JUAN ATKINS / DERRICK MAYとともに、デトロイト・テクノを誕生させた、パイオニアの一人、KEVIN SAUNDERSONのメイン・プロジェクトINNER CITY、約11年振りとなる新作「Future」を、CARL CRAIG & KENNY LARKINがリミックス!

6

KRISP

KRISP Lovestomp (Sex Tags Ufo / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
ノルウェーのカルトレーベル[Sex Tags Mania]傘下[Sex Tags UFO]新作! 今回は、90年代初頭より活躍する 同地の巨匠 BJORN TORSKEによる変名 KRISPによる1枚で、何と言っても注目してもらいたいのがB面に収録された「Lovestomp」。 往年のディスコクラシックをサンプリングし、フィルター処理を交え、ファンキー & グルーヴィーに展開させた、BJORN TORSKE流のディスコ・ハウスを展開。MOODYMANN辺りのデトロイト勢縲怎Vカゴ系のファンキー。ハウス好きまで、多方面にオススメです!!さらにA面には、トビを効かせた、疾走感のあるオールドスクーリーなドラム・マシーン・リズムに、BJORN TORSKEらしい、妖しくダビーな上モノを配しながら展開させたハウス・チューン「Truckstomp」を収録。

7

MOOMIN

MOOMIN Sleep Tight ( Smallville / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
昨年秋にリリースされたフルアルバム『The Story About You』が、ここ日本でも高く評価され、一躍注目の的となったMOOMINが、待望の新作12インチをリリース! 傑作アルバム『The Story About You』の延長線上にある、アコースティック楽器を上手く取り入れた、極上のディープ・テックハウス作品。零れ落ちるような、エレガントなピアノ・フレーズと、哀愁を帯びたサックス・サンプルが交差するA面「Sleep Tight 」が最高の仕上がり!CHRISTOPHER RAUにも通じるような、オールドスクーリーなリズムマシーン+淡い空間シンセで構成されたフローティング・ハウスの「Humbling Love」、きらびやかなストリングス・フレーズはループする、ディープなディスコ・ハウスを展開した「Catch A Cold」も、隙の無いカッコ良さ!全曲◎!

8

DA SAMPLA (ANTHONY

DA SAMPLA (ANTHONY "SHAKE" SHAKIR) West Side Sessions (Wild Oats / 12inch+7inch) »COMMENT GET MUSIC
ANTHONY "SHAKE" SHAKIRのレアマテリアルが未発表曲を加えて再発!デトロイトの若手実力派、KYLE HALLが主催する[Wild Oats]レーベル新作は、ANTHONY "SHAKE" SHAKIR aka DA SAMPLAが、1997年に、デトロイトのレコードショップ "Record Time" が運営し、ALTON MILLERやRICK WADEがリリースした事でも知られる、カルト・レーベル[M3]からリリースした傑作「M3 Sessions」に、未発表トラックや、KYLE HALLとのコラボ作等を加えて、12インチ+7インチの2枚組にて再発!

9

UGANDAN METHODS

UGANDAN METHODS Beneath The Black Arch (Ancient Methods / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
インダストリアル・テクノ最高峰!REGIS+ANCIENT METHODS =UGANDAN METHODS! 限定盤!これは最強!過去作品の再発など、このところ高く再評価されている、UKのミニマリスト大ベテランREGISと、HARDWAXが流通するインダストリアル・テクノ・レーベルからのリリースでカルトな人気のANCIENT METHODSによる、新ユニットUGANDAN METHODS! 全3曲、凄まじい鳴りとグルーヴにお手上げです...。全てのモノをなぎ倒し巻き込みながら進んでいくような、重圧なビートと攻撃的なグルーヴ、手も足も出ない最強のインダストリアル・テクノが3トラック!プレス枚数が少ない限定盤ですので、ファンの方はお早めに!

10

STILL GOING

STILL GOING D117 (Still Going / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
しばらく前から世界中の著名DJ達の Twitter、Facebook、Blog、チャート、プレイリストなどに取り上げられ、ファンの間でリリースが待ち望まれていた、STILL GOING主宰レーベル、第1弾シングルが遂に解禁! LCD SOUNDSYSTEMのPAT MAHONEY、FISCHERSPOONERのLIZZY YODERがゲストで参加した今作は、不穏な雰囲気を漂わせた、スペーシーなテック・ディスコ風のトラックに、MANUEL GOTTSCHINGっぽい、サイケ・ギターを響かせた1曲。カップリングでは、そのギター・プレイをより全面に押し出した、別ヴァージョンを収録。STILL GOING自ら、「お気に入りのアーティスト、楽曲、さらには自らの作品は、今後、このレーベルを中心にリリースしていく」と力強く語っているこの新レーベル、来月には早くも第2弾シングルも控えているようですし、今後の動向からも目が離せません。ディスコ~ハウス・ファンの方は絶対に要チェックですよ!

 無粋なことはいいたくないけれど、昨年は音楽イヴェントとNPOの関係がいやでも気になる年になってしまった。カナダではテクノのレーベルをやる場合でも国から援助が出るのは当たり前なので、あえて国からお金をもらわないでレーベルを運営することが実にクールなことになっていたりするけれど、日本にはそのような文化的インフラがないので、レーベルや赤字イヴェントを背負い込む意味がまるで違ってしまう。リスクが大きすぎるし、成功したところで金を儲けたとしかいわれないのはあまりにもヒドい。音楽を利用して金を引っ張ろうとしているNPOが横行しまくったことを思うと、商業イヴェントがどれだけ純粋なことかとムダに肩入れまでしたくなってしまう。とはいえ、ある大物ミュージシャンが援助金を受け取る前例をつくったことにまったく意味がないとも思わないので、なかなか複雑な気分ではある。ちなみにNPO法は4月から改正になります(→https://www.npo-homepage.go.jp/)。その筋の方はご注意を(笑)。

 そうしたなか、第1回目のササクレフェスティヴァルが術の穴とリパブリックの共同企画で開催された。フラグメントにとって初のインストゥルメンタル・アルバム『ナロウ・コスモス104』のレビューでも告知されていたので、新しい動きを予感した人もいたことでしょう。最初はささくれUK(https://sasakuration.com/)が主宰なんだろうと思っていたら、なんの関係もなくて、帰り道に考えていたことはロウ・エンド・セオリーの日本版になるかもしれないなーという希望的推測。あるいは、良いものを観た後で芽生えてくる捻じ曲がった欲望。ならば日本のNPOに負けない不純な動機でリポートしてみるかな(子どもの皆さん、冗談ですからね。エレキングって、難しいとかいわれるけど、実際、どれぐらい、子どもの読者なのか? ラリーサ・コンドラキ監督『トゥルース 闇の告発』とか観て泣いちゃう感じ? あれは大人でもちょっと震えるか)。

 これまで地球上で初めてセックスをしたのはサメだと思われてきたが、僕が会場に入るとほぼ同時にイーライ・ウォークスのライヴがはじまった。最初は音が小さいと感じたのも束の間、徐々にSEというか、メロディが派手になってくると、一気に存在感を増してくる。ビートは強いのにグルーヴが弱いので3曲ほど聴いていると、まだ時間が早いせいか、フロアは空いているので座って聴きたくなってくる。実際、黄色い声は飛んでいるのに、踊っている人はほとんどいない。ヒップホップ調のリズムなんだから、もう少し腰が誘われてもいいようなものだけど、むしろアンビエント・パートを儲けた方がパフォーマンス的にも説得力は上がったのではないかと。どちらかというとレコーディング向きのミュージシャンだということを確認した感じ。終わってからキリコを観ようと上の階に行ったら、偶然にも通りかかった本人に紹介されたので、(英語しか話せない日本人だと聞いていたので)「ナイス・トゥー・ミーチュー」とかなんとか。シャイな人でした。

 メイン・ステージに戻ってくると、すでに12編成のミクスチャー・バンド、画家がエネルギッシュな演奏を展開中。クラウドも一気に増えていて、誰もが華やかなムードを楽しんでいる。最近はMCが上手すぎて、それって音楽家としてはどうなのと思うことも少なくなかったけれど、画家のMCは何を言っているのかさっぱりわからなくて、それが意外と良かったり。「ライヴの予定です」といってスクリーンに大きく映し出された文字も滲んだようになっていてまったく読めなかった。ササクレフェスはVJにも力を入れているイヴェントで、すべてのフロアのすべてのパフォーマンスにVJがブッキングされ、そのセンスも千差万別。画家のライヴが終わると同時に、福島原発にレッド・カードを突きつけている男の後姿がスクリーンに映し出され、そこからチン↑ポムとホワイ・シープ?によるパフォーマンスがはじまった。観たことのある映像がほとんどだったけれど、音楽との相乗効果で、"ブラック・オブ・デス"など、思ったよりも引き込まれてしまう(いつの間にかクラウドも隙間なくフロアを埋めている)。誰かの携帯電話がスクリーンに映し出され、事細かにやり取りされているメールの内容を読んでいると、地震があり、放射能が撒き散らされた世界で踊ったり、笑ったりしていることがとても自然なことに感じられてくる。それはなかったことでもなく、改めて考えなきゃいけないことでもない。いつもと同じだけど、いつもと同じではない。いまここでしか成立しない表現だった。

 ホワイ・シープ?×チン↑ポムのラスト・ナンバー"気合100連発"からフラグメント"リクワイアード・ヴォイス"への流れは涙が出るかと思った。誰の演説を訳したものなのか、CDにもクレジットはないけれど、「人々よ失望してはならない」と大上段に振りかぶる"リクワイアード・ヴォイス"はそれこそ僕を子どもみたいな気持ちにさせてくれた。質のいい音楽がそうさせてくれたことは間違いない。フラグメントのステージは、実際、彼らのCDから想像できるよりも遥かにダイナミックで素晴らしく、腰が動いてしまうなどというレヴェルのものではなかった。ビートの差し引きから過不足なく畳み掛けられるリフレイン、さらにはあっさりと転換させるタイミングまで、クラウドは自由に操られるままに近かった。演奏が中断すると「僕らの大先輩を紹介させて下さい」というMC。誰が呼び込まれるのかと思ったら「東京ナンバーワン・ソウル・セットからビッケさん!」といわれて誰も知らない男がステージに上がってくる。呼んだ本人も「誰ですか?」を連発し、座が白けるギリギリで、ようやくビッケが姿を現した。しかし、酔っ払いすぎて3回も試みたパフォーマンスはすべて失敗。これは本当に予定になかった演出だったようで、フラグメント側が「僕らがビッケさんと知り合いだというのはカッコいいかなと思って、つい呼んでしまいました」と反省すると、ビッケも「僕もフラグメントとやったらカッコいいかなと思って、つい出てしまった」と、あまりに正直すぎて、さっきから笑い転げていた会場も度が過ぎてもはや虫の息。気がついたら「あと、1曲しかやる時間がなかった......」。

 その後、フラングメントをバックに、カクマクシャカ、さらにはシンゴ02がMCで登場する予定だったものの、約束があったので会場から離れざるを得ず、ちょっと残念なことをした。フェス全体をどうこう言うには、特定のミュージシャンだけを集中的に観てしまったので、大袈裟なことは言いにくいものの、2回目があるならもちろん足を向けたいと思っている。それにしてもフラグメントはもっと観たかった。予定時間の半分ぐらいしかやらなかった訳だし、そのうち人が押し寄せてくるのは目に見えているので、すしづめ状態になる前にフル・セットは体験しておきたい。家に帰って『ナロウ・コスモス104』を聴いても、この気持ちは収まるどころか掻き立てられるばかりだった。

きのこ帝国 - ele-king

 女性ふたり、男性ふたりの4人組で、ステージ前方にはテレキャスターを持って歌っている女性(佐藤)、そしてカラフルな衣装に身を包んでギターを弾いている女性(あーちゃん)がいる。ナンバー・ガールを彷彿させる動きを見せるが、曲は内面の暗いドラマで張り裂けそうだ。痛ましい言葉が美しいメロディのなかでとめどなく流れてくる。「生ぬるい惰性で生活を綻ばす/ゴミ箱みたいな部屋のなかで、時が/過ぎるのをただただ待っている それだけ/眠れない夜更けに呼吸の音を聞く」"退屈しのぎ"

 きのこ帝国というくらいだからゆらゆら帝国とどこか繋がっているのか思いきや、あんなふうな笑いは......まったくない。果てしない夜のなかでぼろぼろに傷ついている。悲しみと、そう、どこまで消えない悲しみと、生死をかけているかのような、内面の葛藤が繰り広げられる。「目が覚めたらすっかり夜で/誰かに会いたくなったよ/鍵もかけずに部屋を出て/夜の、夜の、空を歩く/最近は爪も切らず/復讐もガソリン切れさ/なんにも食べたくないし/ずっと考えている」"夜が明けたら"

 きのこ帝国の演奏は、そして、潔癖性的な叙情によってリスナーをその世界に引きずり込む。ヴォーカルの佐藤は、言葉ひとつひとつを噛みしめるように丁寧に歌っている。ときおり、激しく声を張り上げる。地盤がガタガタに揺れているこの国の、信じられるものを失った世代が、豊かさとは何かを訴えているように聴こえる。
 これは、涙の領域にまでに連れていかれるような美しいソウル・ミュージックである。並はずれた情熱があり、暗い予感のすべて吐き出し、さらけ出すことによる、ある種のカタルシスがある。はっきり言えば、魂が揺さぶられる音楽なのだ。
 シューゲイザー......とも呼ばれているそうだが、もしそれをマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスペースメン3、スローダイヴなどの系譜と捉えるのであるのなら、きのこ帝国はシューゲイザーではない。この際言っておくが、そもそもシューゲイザーと言われる連中の音楽には、ミニマル/ドローン/ノイズからの影響がある。つまりシューゲイザーとはアンチ・ドラマで、聴覚における享楽性がある。自分でもたまに使っているので、こんなことを言うのも何だが、正直な話、シューゲイザーというターム自体が表層的で、無意味だと僕は思っている。だいたいきのこ帝国は、シューゲイザーと呼ぶには、どうにもドラマ(夢)に飢えているように思える。
 が、きのこ帝国をそう呼んでしまう人の気持ちもわからなくもない。このバンドには、ジョイ・ディヴィジョンに端を発しているような、いわゆる「重さ」が、そして同時に〈4AD〉的な、あるいはモグワイめいた耽美があり、それがナンバー・ガール的なセンス(ないしはジャックス&早川義夫)と交わっていると言える。力強い演奏力、大胆な言葉、そして魅力的ヴォーカリゼーション......夢を見たくて見たくて仕方がないことの裏返しのように聴こえる。たしかにこのバンドには、実存的な苦行へ突き進んでしまいそうな危さもある。が、マジー・スターを彷彿するような、低空飛行のなかの素晴らしい煌めきもある。おそるべきメランコリー......"退屈しのぎ"は名曲だ。

 面白いバンドが出てきた。数ヶ月後にはより多くの人間がこのバンド名を記憶するだろう。きのこ帝国のデビュー・アルバム『渦になる』は5月9日に発売される。

Ogre You Asshole | Dry & Heavy - ele-king

 最初に出てきたのはオウガ・ユー・アスホール。およそ20分にもおよぶ"rope"のロング・ヴァージョンからはじまる。まったく素晴らしい演奏。反復の美学、どんどん進んでいく感覚、クラウス・ディンガーのモータリック・サウンドをアップデートしたドライヴ感、出戸学のギターはリズムを刻み、馬渕啓はじっくりと時間をかけながら熱量を上げていく。やがて出戸学もアクセルを踏む。もうこのままでいい。このままずっと演奏し続けて欲しい。魅惑的な疾走感。もう誰にも邪魔されないだろう。ところどころピンク・フロイドの"星空のドライヴ"のようだが、支離滅裂さを逆手にとって解放に向かう『homely』の突き抜けたポップが広がっている。
 なかば冷笑的な佇まいは、心理的な拠り所を曖昧にして、オーディエンスを放り出したまま、黙々と演奏を続けている。それでもエモーショナルなヴォーカルとバンドの力強いビートが心を揺さぶる。そして、右も左も恐怖をもって人の気を引こうとしているこの時代、"作り物"の胸の高まりは前向きな注意力を喚起しているようだ。それにしても......こんなに気持ちよくていいのかと、そばでガン踊りしている下北ジェットセットの森本君の肩を叩く。が、彼はもうすでに手のつけられないほどトランスしている。
 オウガ・ユー・アスホールは、昨年の秋、赤坂ブリッツでのワンマンを見て以来だった。あのときも書こうと思っていたのだが、諸事情が重なり書けなかった。ようやく書ける。間違いない。90年代なかばのボアダムス、90年代後半のフィッシュマンズ、00年代のゆらゆら帝国、この3つのバンドの領域にオウガ・ユー・アスホールは確実に接近している。要するに、誰がどう考えても、彼らこそいまこの国でもっともスリリングなライヴ演奏をしうるロック・バンドなのだ。
 ちょうどライヴの翌日、彼らの新しい12インチ・シングル「dope」がリリースされている。"rope"のロング・ヴァージョンもそこで聴ける。同シングルのA-1は"フェンスのある家"の新ヴァージョンで、いわばキャプテン・ビーフハート的賑やかさ。語りは英語のナレーションに差し替えられ、管楽器によるジャズのフリーな演奏で飾り立てている。コーネリアス風のコーラスが不自然な入りかたをして、曲を異様なテンションへと導いている。

 オウガ・ユー・アスホールが終わると、ステージの中央にはいかにも重たそうなベース・アンプが置かれ、やがてドライ&ヘビーが登場する。向かって左にはドラマーの七尾茂大がかまえ、そして秋本武士をはさんで反対側にはキーボードとして紅一点、JA ANNAがいる。彼女は4年前、ザ・スリッツのメンバーとしてライヴをこなしつつ、バンドの最後の作品となったアルバム『トラップド・アニマル』でも演奏している。なんとも運命的な組み合わせというか、ドライ&ヘビーの鍵盤担当としてはうってつけだと言える。
 再活動したドライ&ヘビーは主に1970年代のジャマイカで生まれた曲をカヴァーしている。この日の1曲目はジャッキー・ミットゥーの"ドラム・ソング"だが、その音は『ブラックボード・ジャングル』のように響いている。最小の音数、最小のエフェクト、そして最大のうねり。ダブミキシングを担当するのはNUMB。そう、あのNUMBである(そして会場にはサイドラムもいた)。
 演奏はさらにまた黙々と、そしてストイックに展開される。ブラック・ウフルの"シャイン・アイ・ギャル"~ホレス・アンディの"ドゥ・ユー・ラヴ・ミー"......。ドライ&ヘビーの魅力は、ジャマイカの音楽に刷り込まれた生命力、ハードネス/タフネスを自分たち日本人でもモノできるんだという信念にある。その強い気持ちが、ときに攻撃的なフィルインと地面をはいずるベースラインが織りなす力強いグルーヴを創出する。気安く近づいたら火傷しそうだが、しかしだからといってオーディエンスを遠ざける類のものでもない。ドライ&ヘビーは、アウトサイダー・ミュージックというコンセプトがいまでも有効であること、"フェイド・アウェイ"や"トレンチタウン・ロック"といった名曲がいまでも充分に新しいということを身をもって証明しているのだ。
 僕は彼らと同じ時代に生きていることを嬉しく思う。

 追記:まとめてしまえば、オウガ・ユー・アスホール=クラウトロック、ドライ&ヘビー=ダブというわけで、『メタルボックス』時代のPILのようなブッキングだった。

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