「OTO」と一致するもの

 音楽そのものに疑いをもつこと、ジョン・ケージがいまだ影響力があることの理由のひとつだろう。ひとはいつの間にか音楽を小学校で習った譜面の延長のなかでのみ考えがちだが、ケージは音楽がもっと広く自由であることをあの手この手を使って証明した。もっとも有名な“4分33秒”はそのひとつだが、この曲を、〈ミュート〉レーベルが設立40周年のメイン・プロジェクトとしてレーベルのいろんなアーティストにカヴァーしてもらうという、なんともじつに度胸ある企画をやっていることは先日お伝えした通り(https://www.ele-king.net/news/006694/)。
 今回、レーベル創始者のダニエル・ミラー伝説のソロ・プロジェクト、ザ・ノーマルによる“4分33秒”が公開された。

■The Normal「4分33秒」

https://smarturl.it/STUMM433J

 “4分33秒”のカヴァー全58曲収録の『STUMM433』は、10月4日に発売される。おそらくアルバムのトータルタイムは、“4分33秒”×58ということだろう(あるいは、“4分33秒”をたとえば2分で演奏するアーティストはいるのだろうか)。
 なお、『STUMM433』は、ボックス・セットとしてレーベルの通販サイトのみで販売され、LPはダニエル・ミラーのサイン入り限定盤として、CDは5枚組として販売。またデジタル配信(ダウンロード、ストリーミング)は日本の各サイトより購入可能。

■『STUMM433』 購入予約リンク
https://smarturl.it/STUMM433J
・タイトル:『STUMM433』
・発売日:2019年10月4日
・ボックス・セット(LP, CD):MUTEレーベル通販サイト Mute Bankのみで販売
・デジタル配信(ダウンロード、ストリーミング):日本の各配信サイト


photo : Diane Zillmer

 ダニエル・ミラー(レーベル創始者)はこのプロジェクトに関して次のように語っている。「ジョン・ケージの ‘4分33秒’ は自分の音楽人生の中で長い間、重要で刺激を受けた楽曲としてずっと存在していたんだ。MUTEのアーティスト達がこの曲を独自の解釈でそれぞれやったらどうなんだろう?というアイデアは、実はサイモン・フィッシャー・ターナーと話してるときに浮かんだんだよ。私は即座に、これをMUTEのレーベル40周年を記念する”MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ”でやったら完璧じゃないか、と思ったんだよ」

 ダニエル・ミラーは、自身のソロ・プロジェクト、ザ・ノーマルの7インチ・シングル『T.V.O.D.’ / ‘Warm Leatherette』を発売するためにMUTEレーベルを1978年に創設した。ザ・ノーマル名義の「4分33秒」は、その7インチ以来、実に41年ぶりの発売となる。彼は今回の楽曲の録音をノース・ロンドンのある場所で行った。 16 Decoy Avenueという住所は、MUTEのファンにとってはレーベル発祥の地としてお馴染みの場所である。


■サイモン・グラントのアート作品

 今回、各アーティストが自身の作品とともにビジュアルも作成しており、MUTE所縁のデザイナー28名がそれぞれ「4分33秒」から発想を得たアートワークを披露している。その中の一部を紹介すると、サイモン・グラント、彼は初期MUTE作品、ザ・ノーマルやファド・ガジェット、それにデペッシュ・モード等のアートワークを担当。スティーヴ・クレイドン、Add N To (X)のメンバーでもある彼はゴールドフラップのデザインを担当し、スリム・スミス、彼は1980年代から90年代を通してMUTEと仕事を共にした。マルコム・ギャレットはヴィンス・クラークとマーティン・ウェア(ザ・クラーク・アンド・ウェア・エクスペリメント)のハウス・オブ・イラストリアスのボックス・セットのデザインを担当し、トム・ヒングストン、彼はこれまでイレイジャーと仕事を共にし、2000年台初頭よりニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッドシーズやグラインドマンのアートワークを担当している。アントン・コービン、彼は特にMUTEとの距離も近く、1980年代初頭からデペッシュ・モード、ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズ、それにファド・ガジェット等と数多くの仕事を行っている。

 ヴァイナルのボックス・セットにはキャンドルセットが付属し、そのデザインは著名なシックス・センツ・パルファンのジョセフ・クオルターナが「4分33秒」から発想を得て作成したものである。彼は古い木造の劇場の中で光る一瞬の閃光をイメージした。それはコンサートの余韻を比喩的に表したものであり、静寂の香りとは?という問いに答えたものである。

 この作品から発生する純利益は英国耳鳴協会とミュージック・マインド・マターへ寄付される。この団体が選ばれた理由として、インスパイラル・カーペッツの創設メンバーでもあるクレイグ・ギルが、自身の耳鳴りの影響による心身の不安から不慮の死を遂げたことが挙げられている。このボックスセットは2019年5月にリリース予定、詳細はここ数ヶ月後にアップデートされていく。

■公開済み映像

ライバッハ 「4分33秒」
ザグレブにあるHDLU’sバット・ギャラリー・スペースで行われたインスタレーション「Chess Game For For」開催中に撮影・録音され、クロアチアのパフォーマンス・アーティストのヴラスタ・デリマーとスロヴェニア製の特製空宙ターンテーブルをフィーチャーした作品だ。

■「STUMM433」参加アーティスト一覧
A Certain Ratio, A.C. Marias, ADULT., The Afghan Whigs, Alexander Balanescu, Barry Adamson, Ben Frost, Bruce Gilbert, Cabaret Voltaire, Carter Tutti Void, Chris Carter, Chris Liebing, Cold Specks, Daniel Blumberg, Depeche Mode, Duet Emmo, Echoboy, Einstürzende Neubauten, Erasure, Fad Gadget (tribute), Goldfrapp, He Said, Irmin Schmidt, Josh T. Pearson, K Á R Y Y N, Komputer, Laibach, Land Observations, Lee Ranaldo, Liars, Looper, Lost Under Heaven, Maps, Mark Stewart, Michael Gira, Mick Harvey, Miranda Sex Garden, Moby, Modey Lemon, Mountaineers, New Order, Nitzer Ebb, NON, Nonpareils, The Normal, onDeadWaves, Phew, Pink Grease, Pole, Polly Scattergood, Renegade Soundwave, Richard Hawley, ShadowParty, Silicon Teens, Simon Fisher Turner, The Warlocks, Wire, Yann Tiersen

■MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ
https://trafficjpn.com/news/mute40/

mute.com

第7回 ゆるい合意で、がんがん拡大 - ele-king

「愛はあ、地球をォ、救わねえんだよ!」
 何の脈絡もなかった。小学五年生の真夏である。外気温に比すれば信じられないほど快適な温度の部屋で、私は「関東地方で最も恐ろしい塾講師」とすら噂されていた先生に算数を習っていた。先生が冒頭のセリフを言った時、普段一切の許可なき発声を許されなかった私を含む子どもたちが、いっせいに声をあげて笑ったことをよく覚えている。我らの笑いについて、先生は何も咎めなかった。
 私はなぜ笑ったのだろう? 単純にその言葉の唐突さに勢いだけで笑ったのか、恐怖政治の最中に作られた「笑いを許す瞬間」を素直に察知したのか、あるいは「愛は地球を救う」をあっさりと否定する大胆さが小気味よかったのかもしれない。YouTubeの見方を知っているだけでクラスメイトから一目置かれるような時代である。24時間テレビはまだ活気があって、「みんなが見ている番組」だった。「愛は地球を救う」の否定は、「勉強しないで24時間テレビを見るあいつら」を「勉強をするので24時間テレビを見ないわれら」が嘲笑する響きを間違いなく持っていたのだ。
 24時間テレビがいかに陳腐でマジョリティの欺瞞を含んでいるのかは、これまでさんざん批判されてきた。それでもまだあの番組は存続している。まだ続いているということはまだどこかで求められていると捉えるべきなのだろう。公式サイト(参照:https://www.24hourtv.or.jp/total/ 最終アクセス2019年7月15日午後6時)によれば、2018年の寄付総額は8億9376万7362円だったそうだ。寄付金は年々減っているのかと思いきや、推移を見渡してみても如実に下がっている感じはしない。この寄付金で誰かが救われることもあるのだろうし、全否定するのもよくないとわかっているが、どうしても晩秋のゴキブリのようなしぶとさにはぞっとしてしまう。
 考えるほどわからないのだ。「愛は地球を救う」は全てが曖昧だ。愛とは何なのか? 半泣きで100キロ走りきることが愛なのか、障碍のある人にチャレンジをさせて「勇気をもらった」などと述べるのが愛なのか、同じTシャツを着た大量の人間が「サライ」を合唱することが愛なのか。毎年毎年同じことが繰り返されてきたが、いまだに地球は救われていない……というより、どういう状態になれば「地球が救われました!」と言えるのかがわからない。何一つ具体性がない。何を指すのか一切わからない目標は便利だ。「達成しました」も「達成できませんでした」も全部思うがままにできる。もっと言えば、裏に何がうずまいていようが、表向きの目標が「愛は地球を救う」であるなら、多くの人はそれを否定しないだろう。「愛は地球を救う」という字面には、「漠然としたfeeling good」が漂っている。「ねこはかわいい」とか、「お菓子はうまい」とかと同じレベルの解像度であるがゆえに、「愛は地球を救う」なる言葉は広く受け入れられる。

 最近話題になったキム・カーダシアンの「kimono」騒動――キムが自らプロデュースしたブランドの下着に「kimono」と名付け、文化の盗用であると批判され、最終的に名称変更が発表された事件――に際して、私はすさまじい違和感を覚えていた。違和感の対象はキムの決定ではなく、批判者たちのやり方だ(これはキムのやったことには問題がないという意味ではない)。
 例えば京都市が発表した抗議文には、以下のように書かれている。

 「きもの」は、日本の豊かな自然と歴史的風土の中で、先人たちのたゆまぬ努力と研鑽によって育まれてきた日本の伝統的な民族衣装であり、暮らしの中で大切に受け継がれ、発展してきた文化です。また、職人の匠の技の結晶であり、日本人の美意識や精神性、価値観の象徴でもあります。
(出典:https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000254139.html 最終アクセス2019年7月15日午後6時)

 この文章、本当に何も言っていないに等しい。「きもの」を「(任意の民族衣装)」に、「日本」を「(任意の国・地域)」に変更すれば、あらゆる地域に対して通用する内容だ。着物を「日本人の美意識や精神性、価値観の象徴」とまで言うのならもっと具体的な歴史について語ってもよさそうなものだが、そういう話は何も出てこない。
 そもそもここで「伝統的な民族衣装」と目されている「きもの」とは、何を指しているのだろうか。BBCの記事には、以下のような「one Japanese women」のコメントが紹介されている。

“We wear kimonos to celebrate health, growth of children, engagements, marriages, graduations, at funerals,”
“It's celebratory wear and passed on in families through the generations.”
「私たちは健康、子どもの成長、婚約、結婚、卒業を祝うため、また葬式の場において着物を着用します」
「それはお祝いの服であり、世代を超えて家族に伝えられました」
(出典:https://www.bbc.com/news/48798575 最終アクセス2019年7月15日午後6時、訳は筆者)

 「祝いの服」としての「着物」……この時点でもう怪しい。「民族衣装」と正装がイコールで結ばれる状況は、ものすごく近代的だ。少なくとも芝草山で刈敷にするための芝を刈る江戸時代の百姓が着ていた「着物」や、中世の被差別民が着ていた柿色の「着物」は、ここでは完全に切り捨てられている。
 前近代において、衣服は身分表象であった。多様な形と機能があることはもちろん、着る人間の置かれた立場を示す意味が付随していた。すなわち「着物」を列島の衣服の中で通時代的に位置付けるとき、ある特定の形の衣服に「着物」を代表させることは、大部分の人間を列島の歴史から捨象する行為と同義なのである。数え切れないかつての生者たちの汗や涙を吸っていた衣服の大部分は、名もない人が必要に迫られて仕立てた普段着であって、職人が気合いを入れて作った高級な晴れ着に「着物」全てを代表させるのは、あまりに偏っている。
 兒島峰「「日本」の身体化」(方法論懇話会編『日本史の脱領域』森話社、2003年)によると、現代における「着物」のイメージは、「身分による着衣規制が解かれた明治期になって確立したもの」(前掲書、235ページ)なのだという。明治初期から半ばにかけて帯の重要性が高まり、昨今イメージされるような大きく立派な帯を締める形に変化していくのだ。兒島氏はこの「着物」イメージの成立時期を、洋服の受容とほとんど同時であると指摘している。「着物」のアイコン化は、明らかにナショナリズムの波の中で起きた現象であった……というより、今われわれが当たり前のように用いている「着物」というカテゴリ自体、この時期に「外部」の目を気にしながら設定し直されたものだと言えるのかもしれない。
「着物」を「日本人の美意識や精神性、価値観の象徴」とすることのグロテスクさは、改めて批判するときりがない。繰り返しになるが、今「着物」として想像されるスタイルは日本列島の衣服の歴史を代表させられるものではない。かつての首都である京都市が自らを「きもの」文化の発信者であり擁護者であると自負している状況自体、セントリズムであると言ってよい。また現在日本国籍を所持している人の中には、当然「着物」に連なる文化圏以外にルーツを持つ人が数え切れないほどいる。「着物」という曖昧な言葉で示されたカテゴリ内部の変化、揺らぎ、多様性を無視しながら「文化」の守護者であるかのように振る舞うのは、実に奇妙だ。
 兒島氏の「着物文化」批判をさらに引用しておこう。

 着物を文化とみなすことは、自己肯定感を満足させる。本来、流動的で、固定した枠組みを持たない着物は、やはり曖昧な概念である「民族」とか「人種」と結びついて、個人の感情に働きかける。(前掲書、237ページ)

「着物は昔からあるよね」「伝統は守ったほうがいいよね」……抽象的であるからこそ、そして「日本人」を漠然と肯定するからこそ、これらの問いは人の首を縦に振らせる力を持つ。あやふやな概念であるからこそ、ゆるやかかつ広範に合意を回収するのだ。

 今一番警戒すべきなのは、この「ゆるい合意でがんがん拡大するあやふやな概念」なのではないかと感じている。先に挙げた「愛」や「文化」の他はその筆頭であろう。これらの響きは、よい。「漠然としたfeeling good」がある。さらになんとなく重厚な雰囲気と、いかようにも解釈できる曖昧さを持っている。どんな人間でも何がしかの形で自分の気持ちや営みを委ねることができてしまうのである。
 何が問題なのだと思われるかもしれないが、社会が一人一人が違う気持ちでいること以上に、たくさんの人間が抽象的で大きな気持ちをひとつ共有していることを優先するのだとしたら、大量の人間を思うがままに支配したい人間にとって、こんなに都合のいいものはないだろう。その共有されたひとつの気分を口にしてやれば、それだけで大量の人間の感情が喜んで動くのだから。
 洋画が日本で公開されるとき、他にもっと力を入れた部分があるにもかかわらず「愛と感動の物語」文脈に寄せて宣伝を打たれる様子をよく見かけるが、あれもまた「漠然としたfeeling good」によってより広い人びとにリーチすることを狙ったものだろう。「これは愛なんですよ」「こういう文化なんですよ」でなんだってすてきに説明できてしまうなら、一人の人間が自分の抱いた感情がどのようなものであったか、自分の実践がどのような背景でいかに遂行されたかを、細かく言葉にする必要はなくなってしまう。これが恐ろしい。自分の考えや行動を自分の手から離して大きなものに委ねるやり方を繰り返していれば、個人など消えてしまう。そうなれば行き着く先は(もうすでに到達しているのかもしれないが)、他者のいない世界だ。批判も自浄能力もない、ただ全てがなんとなく同じ形であると信じられているぼやけた人混みと、その人混みの一部になるよう強制する静かな圧力だけが残る。

 やっぱり気持ち悪いのだ。私は特に「愛」の語りに鳥肌を立てている。「漠然としたfeeling good」の全てを否定するわけではないが、世間でここまで「愛」が尊いものとして重んじられているのを見ると、なんとグロテスクな仕組みなのだろうと思わずにいられない。批判しないとまずい気がする。くどいようだが、みんな「愛」に具体的なものを委ねすぎなのだ。解像度を下げて大きい括りに回収させる、この繰り返しで「愛」はすっかり幅を利かせているではないか。「愛」の専制は「愛」をそもそも理解できない、必要としていない人たちをシャットアウトするセントリズムであるし、「愛」概念をよくないものの隠れ蓑として機能させてしまう危うさでもある(「これは愛だ」と銘打って振るわれた暴力の事例は枚挙に暇がない)。

 話題にするにはだいぶ遅い話だが、しばらく前に友人が米津玄師の“Lemon”について「あれは抽象的だから売れたのだ」と言っていた。なるほど、あの曲はドラマ『アンナチュラル』の主題歌だったが、死や離別を扱う話であれば大抵マッチするため、どのエピソードで流れても大概泣けるようにできている。多くのおたくがこの曲に心を委ねていたのは印象的な光景であった。好きなキャラクターが死を迎えたり誰かと死に別れたりするシーンになんらかの形で思いを馳せながら、“Lemon”を聴いていたのである。“Lemon”はあらゆる物語が代入可能な感情装置であった。おそらく全て戦略的に設計されているのだろう。“Lemon”に限らず、「市場」全体が抽象的な方向に流れているような気がする。

 今や複雑な合意形成を広範に取り結ぶこと自体、ほとんど不可能になりつつあるのかもしれない。自分が何に対して何を感じているのかを緻密に言語化する作業、自分の宇宙を個別具体的な存在として捉え直す営みを、当たり前のこととして怠けずにやっていく必要がある。このとりとめもなく我ながら説教くさい文章も、「個人」を消さないための実践の一部だ。その時々で一番不安に思っていることを書き起こすと、胸のつかえが少し降りる。今夜は昨夜より少しだけいい。

Holly Herndon - ele-king

 コンピュータ技術などの進歩によって、2045年ごろには、技術的特異点が生じ、これまでとはまったく異なる世界がやってくるらしいが、この技術的特異点=シンギュラリティは、はたしておとずれるのか。
 シンギュラリティとは、制御できないほどに加速していくテクノロジーと、その結果引き起こされる重要な変化に対して人間が対処できなくなる、その加速化の到達点のことをさして言う。これは主にAIの進歩に関してたびたび耳にする言葉であって、AIが用いられている音楽においても同様の意味で用いられるだろう。
 テクノロジー/人間性、ソフトウェア、エレクトロニクス/身体性のような対立項は音楽において切っても切り離せないものであり続けた。実際、1955年〜56年のシュトックハウゼンの〝少年の歌”は、歌われた音響と電子的に制作された音響の統一をはかるというテーマのもとに作曲されたものであった。もちろんテクノロジーはどんどん進歩していくものであるから、テクノロジー/人間性、ソフトウェア、エレクトロニクス/身体性のような対立項の関係性はシュトックハウゼンが1950年代に〝少年の歌″を作曲した頃とは変わっているだろう。音楽の領域においてのシンギュラリティにも人間は近づいているのかもしれない。

 この問いにいま現在のこたえを出したのが自身のAIの赤ちゃんとコラボしたというホーリー・ハーンダンの『PROTO』である。このアルバムは「Spawn」と名付けられたホーリー自身のAIの赤ちゃんとのコラボレーションのなかで生まれた。
 ハーンダンはテクノロジーに対して、「私たちはテクノロジーに向かって走っているが、ただしそれらは私たちの思い通りである」との考えを持っているようだ。そんな彼女の活動に通底するテーマもテクノロジー/人間性、エレクトロニクス/身体性という対立項であった。
 そしてこれに対する彼女なりの答えが、人間の身体とデジタル・テクノロジーを結合させることの可能性を追求することであり、その方法として用いたのが彼女自身の「声」であった。
 1曲名“Birth″から彼女の歌声は引き伸ばされ、加工され非人間的なサウンドを構築していく。が、一方でアルバムを通して人間的な力のある歌声も彼女は披露している。人間的/非人間的な、彼女自身の歌声たちの循環、呼応によってこのアルバムは作り上げられているように感じる。

 私はこのアルバムを聴き、音楽=身体性について記述されているロラン・バルトの声のきめに書かれていたことを思い出した。声のきめとは「歌う声における書く手における、演奏する肢体における身体」であり、私たちはきめ=音の手触りを感じることができる。私たちがそれについて評価したところで、曲がもつ内容は個人的なものでしかなく、完全に科学的なものにはなり得ないのである。ハーンダンの歌声も、AIにより学習され、無機質に、テクノロジーによって加工されていくわけであるが、もととなる声はあくまで彼女自身のものであり、完全に科学的なものにはなり得ないのである。

 音楽の領域におけるシンギュラリティを超える日が来るのかどうかは私にはわからないが、ホーリー・ハーンダンの今作『PROTO』は2019年現在のテクノロジーと人間の関係を体現した作品としてとても価値があることは間違いない。ハーンダンは、エレクトロニック・ミュージックにおけるテクノロジーと人間の正しい関係性を提示しているのである。

Pasocom Music Club - ele-king

 昨年『DREAM WALK』で一気にその名を轟かせた関西のDTMユニット、パソコン音楽クラブが9月4日にセカンド・アルバム『Night Flow』をリリースする。去る5月には Native Rapper の名ダンス・チューン“TRIP”をスウィート・エクソシストばりにブリーピィに再解釈した、あまりに切ないリミックス(とくにインストがヤヴァい)を発表している彼らだけに、いったいどんなサウンドに仕上がっているのか、いまから非常に楽しみだ。リリース・ツアーも決まっているので、下記より詳細をチェック。

tofubeatsも大注目する「パソコン音楽クラブ」、ゲストボーカルにイノウエワラビ、unmo、長谷川白紙、マスタリングエンジニアには得能直也氏を迎えた1年ぶり待望のセカンド・アルバム遂にリリース! トレーラーも公開!!

関西発DTMユニット・パソコン音楽クラブ。2015年11月に結成。80年代後半~90年代の音楽モジュールやシンセサイザー、パソコンで音楽を製作。ロング・ヒットした前作をより深化させてポップ・チューンが満載。ゲストボーカルにイノウエワラビ、unmo、長谷川白紙、マスタリングエンジニアには、tofubeats、cero、石野卓球等を手掛ける得能直也氏を迎えた快心作が遂に完成!! 今年のサマー・アンセム!

夜から朝までの時間の流れにおける感覚の動きを描いた9曲入りの2ndアルバムです。

時間の経過とともに、夜が深まり、日を跨いで朝になるまで、見知ったはずの街並みは刻一刻と表情を変え、その中にいる僕たちの感覚も変化していきます。僕たちは夜を歩き、その特別さへの高揚感、底知れなさへの不安感を覚えます。最後に朝になり、再びいつもの世界へと戻るとき、僕たちの感覚は新しいものへと移り変わっているように思います。 前作『DREAM WALK』では記憶やイメージに焦点を当てましたが、今作はもっと現実と地続きに感じる異質さ、日常的なものが特異になる様子に着目しました。
──パソコン音楽クラブ

アルバム・トレーラー映像
https://www.youtube.com/watch?v=30kmoqeb7MQ

■商品情報
アーティスト:パソコン音楽クラブ
アーティスト かな:パソコンオンガククラブ
タイトル:Night Flow
タイトル かな:ナイトフロウ
発売日:2019年9月4日
定価:2,000円+税
JAN:4526180491194
仕様:CD1枚組
レーベル:パソコン音楽クラブ

収録曲:
1. Invisible Border (intro)
2. Air Waves
3. Yukue [vocal:unmo]
4. reiji no machi [vocal: イノウエワラビ]
5. Motion of sphere
6. In the eyes of MIND [vocal: イノウエワラビ]
7. Time to renew
8. Swallowed by darkness
9. hikari [vocal: 長谷川白紙]

■パソコン音楽クラブ
https://pasoconongaku.web.fc2.com/Index.html

プロフィール
2015年結成。“DTMの新時代が到来する!”をテーマに、ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど90年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。2017年に配信作品『PARKCITY』を発表。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングなど幅広い分野で活動。2018年6月に自身初となるフィジカル作『DREAM WALK』をリリース。

Andrew Weatherall - ele-king

 言わずもがな、80年代からDJとして活躍し、数々のリミックスやプロダクションで名を馳せ、セイバーズ・オブ・パラダイスやトゥ・ローン・スウォーズメン、ジ・アスフォデルスなど多くのプロジェクトで素晴らしい音楽を生み出し続けてきたヴェテラン、ポスト・パンクとハウスとの間に橋を架けたUKテクノ番長、アンドリュー・ウェザオールが久方ぶりの来日を果たす。表参道のヴェニュー VENT の3周年を祝うパーティ《VENT 3rd Anniversary》の一環として開催される《Day2》への出演で(サークル・オブ・ライヴを迎える《Day1》についてはこちらから)、なんとオープンからクローズまでひとりでロングセットを披露するのだという。と、とんでもない。いま彼がどんな音楽に注目しているのか確かめる絶好の機会でもあるので、8月24日は予定を空けておきましょう。

伝説! Andrew Weatherall が表参道VENTの3周年パーティーDay2で、オープン・トゥ・ラストのロングセットを披露!

国内屈指のサウンドシステムと、こだわり抜いたブッキングで日本のナイトシーンに一石を投じてきた表参道VENT。8月17日と24日に3周年パーティーを開催! 8月24日のDay2には現代のミュージックシーンに計り知れない影響を及ぼしてきたリビングレジェンド、Andrew Weatherall (アンドリュー・ウェザオール)がオープン・トゥ・ラストのロングセットで登場!

Andrew Weatherall ほど多岐にわたる音楽ジャンルに影響を及ぼしてきたアーティストもなかなかいないだろう。10代の頃からポップカルチャー全体に傾倒し、音楽と洋服と本と映画に夢中になっていたという。音楽制作を始めてからは、ずば抜けた才能を発揮し、New Order、My Bloody Valentine、Primal Scream、Paul Weller、Noel Gallagher、Happy Monday などの制作に関わったり、リミックスを提供。デビュー前の The Chemical Brothers や Underworld などの素晴らしい才能をいち早く発掘したのも Andrew Weatherall 達だった。

アナログレコードをこよなく愛し、今でも幅広い音楽ジャンルのDJプレイを披露している。ロカビリーからテクノまでをプレイする、Andrew Weatherall にとっては音楽ジャンルの壁などは無いに等しい。数々の革命を音楽業界に巻き起こしてきた、真のイノベーターと共に迎えるVENTの3周年パーティーに乞うご期待!

更に超豪華特典! VENTの3周年を祝して Andrew Weatherall が、最新の Mix を2本提供してくれました!

・Mix #1はこちらでお楽しみ下さい!
Andrew Weatherall VENT 3rd Anniversary Mix #1
https://soundcloud.com/vent-tokyo/andrew-weatherall-vent-3rd-anniversary-mix-1

・Mix #2はVENTのメールマガジンに登録してくれたお客様にダウンロードリンクをお送り致します。
https://vent-tokyo.net/
こちらのトップページ中段にあるフォームにてご登録下さい。
※ 不定期にVENTの最新情報をお送り致します。

別冊ele-king 続コーネリアスのすべて - ele-king

『コーネリアスのすべて』の続編が登場!

再発される『The First Question Award』と『Point』にフォーカスした
ファン必読のロング・インタヴュー
および秘蔵写真
そしてコレクターズアイテム
などなど

細野晴臣や砂原良徳との対談、
メンバーの取材などを交えながら、
コーネリアス・ワールドをお楽しみください!

■目次

PHOTO STORY
写真=濱田晋

LONG INTERVIEW CHAPTER 1
ファースト・アルバムにしていまのところ唯一のポップ・アルバム
 まずは『The First Question Award』について

LONG INTERVIEW CHAPTER 2
いかにして音は削ぎ落され、独自のサウンドが構築されたか
 そして『Point』について 

CROSS TALK
細野晴臣×小山田圭吾「エッセンスとデザイン、日本と海外、水平と垂直 ふたりの類似点と相違点」
砂原良徳×小山田圭吾「いちど全部捨てたところから『LOVEBEAT』も『Point』も生まれた」

INTERVIEWS
堀江博久「1990年代前半は数ヶ月ごとになにかが動いていた」
大野由美子「コーネリアスはクセナキスに近い!?」
あらきゆうこ「コーネリアスというホーム」
辻川幸一郎「認識としての映像」杉原環樹
大西景太「映像による『聞こえ』の手ざわり」
中村勇吾「デジタルの宿命を超える表現」

CRITIQUE, COLUMN
大久保祐子「25年目の『The First Question Award』を聴きながら」
草彅洋平「僕の90年代」
野田努「コーネリアス私論、および『Point』について」
イアン・F・マーティン「ポストモダンを背に~『Point』におけるポイント、視点、論点、そして音の点をめぐる考察」
松村正人「音のひとのことば」
畠中実「もうひとつのディメンション~コーネリアスにおけるヴィジュアル・ミュージックとしての映像表現」

ARCHIVES
「『The First Question Award』コレクション」ばるぼら/siloppi
資料「英米音楽メディアはコーネリアスと『Point』をどのように受け止めたのか?」

選挙の夏、反緊縮の夏がやって来た。
私たちの代表者を選ぶ準備はできているだろうか?

 4月のはじめにAOC(アレクサンドリア・オカシオ-コルテス下院議員)やMMT(モダン・マネタリー・セオリー=現代貨幣理論)、そして欧米の反緊縮運動についてのコラムを書かせていただいた。執筆時期は3月であったが、それから4ヶ月あまりが経って、日本の政治情勢にも大きな変化があったので、またこちらで報告させていただくことにさせてもらった。

 4月初旬に前回拙コラムの掲載があった頃には、日本ではMMTに関する記事は中野剛志氏(元・京都大学工学研究科大学院准教授)によるものしか存在しなかったが、現在までに主流メディアから各雑誌に至るまで、あらゆるメディアが繰り返しMMTを扱うまでになった。それほどMMTという黒船は強烈で、物議を醸したことに他ならない。日本語の記事も充実してきたこともあるし、経済学の専門家でもない筆者が理論について語ることも憚られるので、少し違った視点からMMTと政治との関わりについて観測していきたい。

 なお、MMTの理論について知りたい方は、上述した中野剛志氏をはじめとする反緊縮界隈で活動する三橋貴明氏、松尾匡氏(立命館大学教授)や一般社団法人「経済学101」の解説に触れていただくことをお勧めする。




 7/16、7/17に来日公演を行うステファニー・ケルトン教授。MMTのファウンダーの一人、サンダース大統領候補の経済顧問として知られる。

 さて、MMTが本家アメリカで取りざたされたのは、大統領候補のサンダース上院議員がステファニー・ケルトン(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校教授)を経済顧問に採用したことに始まるが、そのサンダースが創設したSanders Instituteによるインタビューで、ケルトンはサンダースとの初対面の様子を語っている。

 民主党上院の経済顧問に就任する際、初めてサンダース会ったときに「貴方がもし私だったら、どういう政策を出すだろうか」と聞かれました。
私は、サンダースに見合うような、クールでスケールの大きなことを言わなければならないと思い、フランクリン・D・ルーズベルトの「Second Bill of Rights(第二権利章典)」の話を切り出したんです。
 FDR(ルーズベルト)がやり残した仕事の話、つまり教育を受ける権利、医療保険を受ける権利、雇用保証を受ける権利の話をしました。
それは民主党の精神の核になる部分であり、私もずっと取り組んできたことでもありました。
 経済には浮き沈みのサイクルがあり、どうしてもリーマンショックのような大不況が訪れることがあるのですが、そのときに失業に苦しむ人々をサポートし、経済復興を早めるための公的プログラムを備える必要があります。
失業者の最後の雇い手は国家でなくてはならないのです。
(上記は筆者による要約)

 FDRは「Second Bill of Rights(第二権利章典)」を提案したその年に脳出血で死去してしまったが、そのFDRの”やり残した仕事”とは以下のような権利となる。

・社会に貢献し、正当な報酬を得られる仕事を持つ権利
・充分な食事、衣料、休暇を得る権利
・農家が農業で適正に暮らせる権利
・大手、中小を問わず、ビジネスにおいて不公平な競争や独占の妨害を受けない権利
・すべての世帯が適正な家を持てる権利
・適正な医療を受け、健康に暮らせる権利
・老齢、病気、事故、失業による経済的な危機から守られる権利
・良い教育を受ける権利

 このFDRの第二権利章典をアップグレードさせたものが、去る6月12日にサンダースがジョージ・ワシントン大学で「This Is The Time(時は来た)」と力強く語った「21st Century Economic Bill of Rights(21世紀の経済権利章典)」となる。これは、人びとが受ける権利は、基本的人権のみならず、誰もが経済的に自活可能な権利を自然に有するというものである。

 サンダースの「21世紀の経済権利章典」は、MMTのJGP(Job Guarantee Program=総雇用保証)とも親和性の高いGreen New DealやJob for Allという政策も含まれる、数百兆円〜千兆円規模の巨額の投資プロジェクトとなるが、その政策の全貌は彼のウェブサイトでも明示されている。

 FDRの44年のスピーチから引用しよう。”私たちは、真の個人の自由が、経済的保障と独立心と密接不可分な存在であるという事実を、明確に認識するに至った”
 (中略)
 私の政策とこのキャンペーンの核心は、すべて1944年にあります。
FDRは第二権利章典を提案した1年後に死去し、そのビジョンを実現することはできませんでした。
 75年後の私たちの宿命は、ルーズベルトが始めたことを完成させることにあり、そしてそれが今日、私が”21世紀の経済権利章典”を提案している理由でもあります。
 (中略)
 私にとっての民主社会主義というものは、この国のすべての地域社会に政治的、経済的な自由を達成することにあります。
 (中略)
 1%の人々は莫大な富と権力を持っているかもしれないが、それは結局ただの1%にすぎず、99%の人々こそが共に立ち上がり、社会を変革させることができるのです。
- サンダース大統領候補(2019年6月12日 ジョージ・ワシントン大学にて)

 米国では、MMTの「過度なインフレーションにならない限り、財政赤字は気にすることはない」とする議論に呼応するように、そしてトランプによる1.5兆ドルにも及ぶ巨額減税を含む財政政策に対抗すべく、サンダースをはじめとした民主党予備選挙に名乗りをあげる20人以上もの候補が、それぞれにグリーン・ニューディールや大学無償化、最低賃金15ドル、社会保障費の増額など、積極的な財政政策を競って掲げているが、その余波が我が国日本にも少しずつ届いているようだ。

 4月以降、日本では中野剛志氏の記事を皮切りに、近い関係にある自民党の西田昌司参議院議員が4月4日の国会予算委員会でもMMTを扱い、黒田日銀総裁、安倍首相、麻生財務大臣に質問している。西田議員が、MMTの、主に貨幣論的側面にフォーカスを当てた質問の趣旨は以下の通りだ。

 これ以上国債を発行したら引受け手がいない」といわれています。「引受け手がいなければ財政破綻してしまう」と。ところがそうではない。
政府が国債を発行して事業を行えば国内にお金を出すので政府の借金も増えるが、民間の資産預金も増えるんです。いつまで経っても破綻しないんです。
 これまで、預金を集めて(政府は)借金すると思われていたのが、実際は借金するから預金が生まれる。
 まさに天動説から地動説なんです。

 いわゆるMMTの「万年筆マネー」や「Spending First」という概念についてとなる。今までの主流経済学では「国債は民間銀行の預金からファイナンスされている」と信じられていたが、MMTの貨幣観では、「国債発行を介した政府支出により、新たに貨幣が創造され、民間銀行から預金を借りているわけではない。このため国家は債務不履行になりようがない」ということになる。

 西田議員の質問に対し、麻生財務大臣は「日本をMMTの実験場にするつもりはない」と一蹴し、安倍首相は「自国通貨建て国債はデフォルトしないというのは事実だと思う。しかしだからといって債務残高がどれだけ増えても問題はないのだろうか。財政再建は進めていきたい。MMTの論理を実行しているわけではない」と答えた。

 このときの様子がロイターのWeb版でも扱われ、その記事にはケルトン教授までがツイッターで「消費増税と合わせた大胆な金融政策ですって? それに私たちを無知だと決めつけている。ご苦労様ですね(笑)」と皮肉と怒り交りに反応したほどだった。

 以降、この予算委員会での質疑が発端となり、日本でもMMTインフレ-ションが起こり、また各所で物議を醸すことともなったのだ。

 5月9日、この日の参議院・財政金融委員会での主役は自民党・西田昌司議員と共産党・大門実紀史議員の二人だった。西田議員が「政府が国債を発行すると民間銀行の日銀銀当座預金は減って、その分政府の日銀当座預金は増える。この認識は正しいか」と黒田日銀総裁に再三に渡り質問をするが、黒田総裁はまともに答えることなく質問時間が過ぎていった。しかしその後、西田議員に代わった大門議員の質問は圧巻であった。

 大企業のための緊縮への反発がMMTブームを生んだが、虐げられた国民が反逆するのは歴史が証明している。”財務省は国民の敵になるな”と思う。
 共産党は国債発行に関して“政府はお金使え、場合によっては借金してでも国民の暮らし守れ”ということです。
 20年間、新自由主義、グローバリゼーション、規制緩和、小さな政府、緊縮や財政規律、そして社会保障を抑制しておいて増税して我慢しろと言うのか。
 いままでの緊縮は、いったい誰のための緊縮だったのか。富裕層や大資本が逃げないために緊縮財政を押し付けてきたのではないか。
 私は心情的にケルトン教授が好きだ。財務省の脅しに乗るよりは「統合政府論」を考えておいたほうがよっぽど良い。
 西田議員の信用創造の話は当たり前のことを言っているだけだ。

 筆者はこの質疑の後、大門議員本人にヒアリングをする機会に恵まれたが、やはり過度な国債発行により高インフレの状況になり、国民生活が毀損される可能性があることは危惧しているようだったが、「西やんとは貨幣に関する認識は8、9割は同じ」と発していたことは印象的でもあった。

 極右とも称されることの多い西田議員と、極左と揶揄されることもある共産党の大門議員が、貨幣観に関して認識を同じくする現象は非常に興味深い。信用創造システムには右も左もないということだろう。

 MMTの解釈を、貨幣観のみならずマクロ経済にまで拡げると、MMTは反緊縮派の人びとに引用されることが多い。ケルトン教授の日本でのシンポジウムにも参加する駒澤大学准教授の井上智洋氏は、6月の講演で「日本では左右で逆転現象が起きている。左派は財政再建派。これには”しっかりしろよ”と思う。逆に右派の方が日本経済のために財政支出しようとしている大きな政府主義。MMTは左派・社会主義に近いが 日本ではなぜか左派界隈から批判されている」と述べていた。

 日本ではなぜか左右の逆転現象が起きている。それでは共産党以外の野党はどうだろうか。筆者が知る限り、MMTや反緊縮の経済政策を取り入れる議員は与野党ともに少ないが、その中でMMT/反緊縮財政をもっとも理解するのは4月に「れいわ新選組」を立ち上げた山本太郎議員である。

 次回は、れいわ新選組・山本太郎代表、国民民主党・玉木雄一郎代表、社民党・相原りんこ候補、立憲民主党・落合貴之議員ら、反緊縮議員の発言を追ってみる。

Stereolab - ele-king

 去る2月に再始動がアナウンスされ、大きな話題を呼んだステレオラブ。5月にはセカンド・アルバムおよびサード・アルバムがリイシューされているが、それに続いてこの9月、彼らの代表作である4枚目から6枚目まで、すなわち『Emperor Tomato Ketchup』『Dots and Loops』『Cobra and Phases Group Play Voltage in the Milky Night』も一挙に復刻される運びとなった。追加収録されるボーナス・トラックにも注目だけれど、この3作ではジョン・マッケンタイアがプロデューサーを務めていて(6枚目にはジム・オルークも)、当時のいわゆるポスト・ロックの流れを知るうえでも超重要なアルバムたちである。発売は9月13日。現在、トレーラー映像とともに、ボーナス・トラック“Freestyle Dumpling”が先行公開中。

[8月17日追記]
 いよいよ一ヶ月後に迫った上記3作のリイシューに先がけ、去る8月13日、『Dots and Loops』収録曲“The Flower Called Nowhere”の未発表ヴァージョンが公開されている。この曲についてメンバーのティム・ゲインは、以下のように語っている。

この曲はマウス・オン・マーズのヤン・ヴェルナーとアンディー・トマと一緒にレコーディングしたんだ。ステレオラブの中で、ずっとお気に入りの曲だよ。ポーランドのジャズ・ミュージシャンやクシシュトフ・コメダの音楽から抱く感覚を想起するようなコード進行に興味があったんだ。たしか偶然だったんだけど、ようやく自分の好きなコードを見つけることができて、そこからこの曲を書き上げたんだ。あと60年代中期〜後期のヨーロッパ映画音楽の雰囲気を取り入れようとして、ハープシコードや優美なヴォーカル、カラフルなサウンドと使ってる。 ──Tim Gane

 試聴・購入はこちらから。

STEREOLAB

90年代オルタナ・シーンでも異彩の輝きを放ったステレオラブ
10年ぶりに再始動をした彼らの再発キャンペーン第二弾が発表!
名盤『EMPEROR TOMATO KETCHUP』を含め一挙に3作がリリース!

90年代に結成され、クラウト・ロック、ポスト・パンク、ポップ・ミュージック、ラウンジ、ポスト・ロックなど、様々な音楽を網羅した幅広い音楽性で、オルタナティヴ・ミュージックを語る上で欠かせないバンドであるステレオラブ。その唯一無二のサウンドには、音楽ファンのみならず、多くのアーティストがリスペクトを送っている。10年ぶりに再始動を果たし、今年のプリマヴェーラ・サウンドではジェームス・ブレイクらと並びヘッドライナーとして出演。5月には、再発キャンペーン第一弾として『Transient Random-Noise Bursts With Announcements [Expanded Edition]』(1993年)、『Mars Audiac Quintet [Expanded Edition]』(1994年)の2タイトルが、アナログ、CD、デジタルでリリースされている。

今回の発表に合わせトレーラー映像と、『Emperor Tomato Ketchup』にボーナス・トラックとして収録される“Freestyle Dumpling”が先行公開されている。

Expanded Album Reissues Part 2
https://youtu.be/i3FyBhrOuso

Freestyle Dumpling
https://stereolab.ffm.to/freestyle-dumpling

今回リイシューが発表されたのは、1996年にリリースされた代表作『Emperor Tomato Ketchup』、1997年の『Dots and Loops』、1999年の『Cobra and Phases Group Play Voltage in the Milky Night』の3作が、全曲リマスター+ボーナス音源を追加収録した “エクスパンデッド・エディション” で、前回同様アナログ、CD、デジタルでリリースされている。

今回の再発キャンペーンでは、メンバーのティム・ゲインが監修し、世界中のアーティストが信頼を置くカリックス・マスタリング(Calyx Mastering)のエンジニア、ボー・コンドレン(Bo Kondren)によって、オリジナルテープから再マスタリングされた音源が収録されており、ボーナス・トラックとして、別ヴァージョンやデモ音源、未発表ミックスなどが追加収録される。

国内流通盤CDには、解説書とオリジナル・ステッカーが封入され、初回生産限定アナログ盤は3枚組のクリア・ヴァイナル仕様となり、ポスターとティム・ゲイン本人によるライナーノートが封入される。また、スクラッチカードも同封されており、当選者には限定12インチがプレゼントされる。されに対象店舗でCDおよびLPを購入すると、先着でジャケットのデザインを起用した缶バッヂがもらえる。

なお11月には、『Sound-Dust』 『Margerine Eclipse』がリリースされる予定となっている。

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: EMPEROR TOMATO KETCHUP [Expanded Edition]
release date: 2019/09/13 FRI ON SALE

3LP CLEAR VINYL / D-UHF-D11RC
3LP BLACK VINYL / D-UHF-D11R
2CD / D-UHF-CD11R

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10376

[TRACKLISTING]
CD / Digital

Disk 1
01. Metronomic Underground
02. Cybele’s Reverie
03. Percolator
04. Les Yper Sound
05. Spark Plug
06. OLV 26
07. The Noise Of Carpet
08. Tomorrow Is Already Here
09. Emperor Tomato Ketchup
10. Monstre Sacre
11. Motoroller Scalatron
12. Slow Fast Hazel
13. Anonymous Collective

Disk 2
01. Freestyle Dumpling
02. Noise Of Carpet (Original Mix)
03. Old Lungs
04. Percolator (Original Mix)
05. Cybele's Reverie (Demo)
06. Spark Plug (Demo)
07. Spinal Column (Demo)
08. Emperor Tomato Ketchup (Demo)
09. Les Yper Sound (Demo)
10. Metronomic Underground (Demo)
11. Percolator (Demo)
12. Tomorrow Is Already Here (Demo)
13. Brigitte (Demo)
14. Motoroller Scalatron (Demo)
15. Anonymous Collective (Demo)

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: DOTS AND LOOPS [Expanded Edition]
release date: 2019/09/13 FRI ON SALE

3LP CLEAR VINYL / D-UHF-D17RC
3LP BLACK VINYL / D-UHF-D17R
2CD / D-UHF-CD17R

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10377

[TRACKLISTING]

Disk 1
01. Brakhage
02. Miss Modular
03. The Flower Called Nowhere
04. Diagonals
05. Prisoner of Mars
06. Rainbo Conversation
07. Refractions in the Plastic Pulse
08. Parsec
09. Ticker-tape of the Unconscious
10. Contronatura

Disk 2
01. Diagonals (Bode Drums)
02. Contranatura Pt. 2 (Instrumental)
03. Brakhage (Instrumental)
04. The Flower Called Nowhere (Instrumental)
05. Bonus Beats
06. Diagonals (Instrumental)
07. Contranatura (Demo)
08. Allures (Demo)
09. Refractions in the Plastic Pulse (Demo)
10. I Feel The Air (Demo)
11. Off On (Demo)
12. Incredible He Woman (Demo)
13. Miss Modular (Demo)
14. Untitled in Dusseldorf (Demo)

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: COBRA AND PHASES GROUP PLAY VOLTAGE IN THE MILKY NIGHT [Expanded Edition]
release date: 2019/09/13 FRI ON SALE

3LP CLEAR VINYL / D-UHF-D23RC
3LP BLACK VINYL / D-UHF-D23R
2CD / D-UHF-CD23R

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10378

[TRACKLISTING]

Disk 1
01. Fuses
02. People Do It All The Time
03. The Free Design
04. Blips Drips And Strips
05. Italian Shoes Continuum
06. Infinity Girl
07. The Spiracles
08. Op Hop Detonation
09. Puncture In The Radax Permutation
10. Velvet Water
11. Blue Milk

Disk 2
01. Caleidoscopic Gaze
02. Strobo Acceleration
03. The Emergency Kisses
04. Come And Play In The Milky Night

BONUS TRACKS
05. Galaxidion
06. With Friends Like These Pt. 2
07. Backwards Shug
08. Continuum (Unreleased Original Version)
09. Continuum Vocodered (Unreleased)
10. People Do It All The Time (Demo)
11. Op Hop Detonation (Demo)
12. The Spiracles (Demo)
13. Latin Cobra Coda (Demo)
14. Infinity Girl (Demo)
15. Blips, Drips & Strips (Demo)
16. Blue Milk (Demo)
17. Italian Shoes Continuum (Demo)
18. Come And Play In The Milky Night (Demo)
19. Strobo Acceleration (Demo)
20. Caleidoscopic Gaze (Demo)
21. Galaxidion (Demo)

vol.116 : プライド月間 2019 - ele-king

 NYの夏は野外コンサートが盛りだくさん。先週末はTortoiseが1998年のアルバム『TNT』を通して演奏、その2日前は、テキサスのKhruangbinが雨の中、日本のKikagaku Moyoと一緒にライヴ、そして今週頭はJapanese BreakfastとHatchie、水曜6/26はカナダディで、トロントのAlvvays、カルガリーのthe courtneys、オンタリオのEllis……といった具合だ。

 野外ショーはフリーが多く、がっつりバンドを見たい人は前、雰囲気を楽しんだりまったりしたい人は後ろの方でシートを敷いてピクニックをしている。アルコールは持ち込めないが、スナックや水なは大丈夫。出店の飲み物やフードなどもあり、友だちとハングアウトするには持ってこいである。
 ここ何年かは、プロスペクトパークの野外ショーが気に入ってよく通っていたが、今年はセントラルパークのサマーステージによく来ている。3年前にはUnknown Mortal Orchestraも観たし、良いインディのラインナップが揃っている。
 こういったショーは、寄付をするパトロンで成り立っているので、VIPエリアやメンバーエリアがあるために、私たちは、フロアでぎゅうぎゅうになりながら見るのであるが、ショーがフリーで楽しめるので文句はあまり言えない。
 私が普段行くDIYショーは、若者、クィアが多く、まだまだ少数派だと感じるが、野外ショーはNYという街をここに持ってきたかのように、いろんな種類の人がいる。白人、黒人、アジア人、ラテン系、ユダヤ系、アラブ系など、野外コンサートに来るとあらためて自分はメルティングポットといわれるNYにいる、と感じる。今年は、LGBTと女性が良く目につく。6月はプライド月間ということもあり、マーメイドパレードやイベントがあったり、たくさんの企業がこぞってレインボー旗を掲げている。サマーステージのスポンサーのひとつのキャピタルワン銀行などは、ユニオン・スクエア支店が、レインボー柄になっていたし、他の銀行や企業も自分だけ取り残されたくないというように次々レインボーに染まっている。


 プレイするバンドも女性フロントのバンドが多く、オーディエンスもLGBTに対してとてもオープンに感じる。その背後では、まだまだコンサバな人も多く、この多様性をまとめるのは一筋縄ではいかないのだろうとも感じる。
 今月初めにポルトガルに行ってからというもの、アメリカのエキセントリックさが目に付くようになった。ポルトガルの人はめったなことでは声を上げないが、アメリカの人は小さなものにでもすぐ声を上げる。人種や国の違いと言えばそれまでだし、どちらが良いという問題でもないのだが、NYにいると、NY的にならないと生きていけない。今月最後の日曜日には5番街でLGBTの大きなパレードが行われるそうなので、NYの新たな団結を見れることを願う。


interview with Joe Armon-Jones - ele-king

 UKジャズの快進撃が止まらない。「UKジャズ」というワードに触れるキッカケは人それぞれだと思うが、僕にとっては2017年に〈Brownswood Recordings〉からリリースされたユセフ・カマール『Black Focus』の存在が大きい。このリリースを皮切りに、アルファ・ミストサンズ・オブ・ケメットモーゼス・ボイドなど約2年の間に次々と新しい作品やアーティストが登場してきた。広い目で見渡せば、もはや円熟味を増したカマシ・ワシントン(彼はアメリカのアーティストだがUKジャズのムーヴメントにも多大なる影響を与えたと思う)、日本の地上波に出演するまで成長したトム・ミッシュ、R&B方面で言えばジョルジャ・スミスなど「ジャズ」をキーワードにしたアーティストがここ日本でも旋風を巻き起こしている。いわゆる典型的なジャズに限らず、ダブやアフロ、ヒップホップ、ベース・ミュージック、そしてハウスなど1枚のアルバムの中にいろんな要素を詰め込むフュージョン感は、人種や性別を超えたボーダレスで今っぽいサウンドだし、ジョー・アーモン・ジョーンズが2017年に〈YAM Records〉からリリースしたマックスウェル・オーウィンとの共作『Idiom』も間違いなくブロークンビーツ、ハウスといったクラブ・ミュージックの解釈が強かった。そしてソロ・デビュー・アルバム『Starting Today』で一躍UKジャズ・シーンの顔になったピアニスト/ソングライター。ムーヴメントを築いてるアーティストの半数以上が彼と同じく南ロンドン出身、そしてこれだけの短期間で一気に頭角を現した彼のキャリアは何か特別な秘密があるに違いない……!!! と、思っていた矢先の来日、そしてインタヴューは本当に貴重だった。熱の篭ったステージ上でのパフォーマンスとはうって変わって、シャイで物静かな雰囲気だったが、アルバム制作秘話、南ロンドンのリアルなシーン、インタヴューから見えてくるUKジャズ快進撃の真の裏側をたっぷりと丁寧に語ってくれた。


ジャズのミュージシャンだからってジャズだけをやるって思われるのは残念なことだよね。自分も他の奴らに比べたらあんまり騒がない静かな方だから、周りから緩いジャズだけをやってるって思われてたかもしれないし。

先日終わったばかりの日本でのツアー公演はどうでしたか?(6/1 (土) FFKT、6/2 (日) ビルボードライブ東京にて公演)

ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon-Jones、以下JAJ):良かったよ、とても良い雰囲気だったね。すごく楽しめたし、野外フェスとコンサートホールで2日とも違った空気感だった。日本に来る前は周りの人から「日本のオーディエンスはとても行儀が良くて、声も出さずに聴き入ってる……」なんて聞いてたけど、FFKT ではみんな踊ってくれたし、ビルボードの1stはチョット静かだったけど、2ndは歓声もたくさん聞こえた。ショーの最後はみんな立って手を叩いたり踊ってくれたからね。来てくれたみんなに本当に感謝してるし、とても良い経験になったよ。

日本とイギリスのオーディエンスで何か違いは感じましたか?

JAJ:大きな違いを感じたのは日本の方がもっと「音楽に感謝してる」って印象だね。もちろんイギリスの人たちも間違いなくそれはあるんだけど、音楽が溢れすぎてて甘やかされてるというか……。なんか慣れちゃってる感じもするからね。その点、日本はわざわざ遠くの海外からアーティストが来日してるってこともあって、もっと強い価値を感じてライヴを聴きにきてる感じがしたな。

日本に来たのは初めてですか?

JAJ:自分の名義としては初めてだけど、2017年にチャイナ・モーゼスの公演でキーボードとして参加して Blue Note で演ったんだ(https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/china-moses/)。彼女は素晴らしいシンガーで、あのときの公演も本当に楽しかったよ、良い思い出だね。

ではジョー・アーモン・ジョーンズがアーティストとしてデビューするまでの過程を聞きましょうか。ありきたりな質問かもしれませんが、いつから音楽をはじめたんでしょうか?

JAJ:母がジャズ・シンガーで、父もジャズ・ピアニストだったんだ。だから物心ついた頃から当たり前のようにピアノが目の前にあったし、親から影響を受けて自分も音楽を始めるのはまぁ普通な流れだよね。「子供の頃から音楽に没頭した!!」って程じゃないけど、自然にピアノは弾いてたし、その頃からなんとなくアドリブでやっていく癖もついてたのかも。ピアノのレッスンは7歳くらいからはじめたから、それが正式にスタートってことになるかな。

もちろん音楽学校にも通ったんですよね?

JAJ:ロンドンのグリニッジにある「Trinity College London」って学校に通いながら「Tomorrow's Warriors」っていう若いミュージシャンに向けたコミュニティでもよく演奏してたんだ。カリキュラムももちろんだけど、土曜日に若いミュージシャン同士で集まってプレイしたり、そこでの出会いや経験が自分にとって本当に大きかったと思う。

註:Tomorrow's Warriors はジャズ・ウォーリアーズのオリジナル・メンバーでもあるゲイリー・クロスビーによって1991年よって設立されたアーティスト育成プログラム。ジョー・アーモン・ジョーンズも所属するエズラ・コレクティヴも Tomorrow's Warriors のユースから生まれたプロジェクト。

 そこで、ジャズの要素が入ったヒップホップにすごいハマってJ・ディラとかロバート・グラスパーとかを聴きながらビートがどうなってるかとか、曲の構成についていろいろ学んでたね。で、自分でもビートを打ったり、曲を書いてるタイミングでエズラ・コレクティヴもはじまって、いまの仲間たちと一緒にプレイするようになったのかな。当時はいちばん多い時期で8つのバンドを同時に演ってたし、いろいろ違うジャンルもやって忙しくしてたよ。

8つも同時に抱えてたのはすごいですね……。その流れで自身のプロジェクトもスタートしたということですよね?

JAJ:そもそもジョー・アーモン・ジョーンズっていう名義でスタートしてまだ2~3年しか経ってないし、マックスウェル・オーウィンとやったアルバムも2年前のことだからね。それが自分の名前でリリースした最初の作品になるんだ。それから〈Brownswood Recordings〉とリリースの話になって、去年自分のソロ名義でのアルバムが出たという流れさ。

マックスウェル・オーウィンとはどうやって知り合ったんですか?

JAJ:5、6年前に共通の友人を通して知り合って、よく誰かしらの家で会ってたんだ。意気投合していまはふたりで家をシェアしてるし、スタジオもそこでセットアップして、曲も作ってるよ。

ということはふたりのアルバムもそこで創られたってことですよね?

JAJ:そう、まさしく家のリヴィングでね。

ふたりのアルバムは〈YAM Records〉というダンス・ミュージックが中心のレーベルからのリリースでしたよね。僕も仲のいいハウス/ブロークンビーツのDJやアーティストがふたりの楽曲をプレイしたり、チャートに入れてるのを見て初めて知ったのを覚えてます。で、そこからどんな作品が出るかなと思ったら……いきなり〈Brownswood〉からソロを出したのは驚きましたね。

JAJ:ジャズのミュージシャンだからってジャズだけをやるって思われるのは残念なことだよね。自分も他の奴らに比べたらあんまり騒がない静かな方だから、周りから緩いジャズだけをやってるって思われてたかもしれないし。そりゃジャズを聴いてるときは静かにしてたけど……(笑)。ヒップホップもダブも好きだからいろんなシーンの中で良い音楽だけを選んで一緒にするのがやりたかったのさ。ジャズ・ピアニストってことで他のジャンルをやるのも難しくないし、リリースした〈YAM Records〉もダンス・ミュージックの中で幅広い音楽をやってるから「ただのハウス・プロデューサー」とは思われなかったのは良かったのかもしれないね。

地元のサポートも大きかったと感じますか?

JAJ:もちろん。ロンドン、特にサウスロンドンのペッカムを拠点にしている〈YAM Records〉はレーベルとレコード屋もやってるし、同じアーケード街には Balamii Radio やアパレルストアもたくさんあって、みんなが集まってコラボレーションも頻繁におこなわれているんだ。マックスウェル・オーウィンも良い人脈を持ってたし、ここのエリアの雰囲気はいまでも良い影響をもたらしてくれるね。

そういえば〈YAM〉から出したアルバム、〈Brownswood〉からのソロ・アルバム、どちらもアートワークが最高ですよね。どちらも同じアーティストが担当したんですか? 

JAJ:〈YAM〉からリリースした「Idiom」はレーゴ・フットって奴が描いたんだ。4つのバラバラの絵を掛け合わせてできたアートワークで、4枚の絵はいまでも家の壁に飾ってあるよ。〈Brownswood〉から出した『Starting Today』はディヴィヤ・シアーロが担当してくれて、彼女は次にリリースするアルバムも描いてくれてるよ。ちょうど6月にアルバムに先駆けてニューシングル「Icy Roads (Stacked)」もリリースされて、そのアートワークもやってくれたんだ。

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自分のリヴィングがスタジオだから、家でゆっくりしてたら誰かが急に入ってきて曲を作りはじめるってこともよくあるんだ。いつも誰かが曲を作ってるからインスピレーションは無限に湧くよ。

いまアルバムの話も出たので、次のリリースについて聞いてもいいですか? もし秘密でなければアルバムについても少し教えてください。

JAJ:次のアルバムはもう作り終えてるんだ。ちょうどこの後東京のスタジオでバンドのメンバーとでき上がったアルバムを聴く予定で、いまから本当に楽しみだ。

具体的に前のアルバムと比べてメンバーの構成や曲調など変わった部分はありますか?

JAJ:メンバーは前回と全く同じ。でも間違いなく違った雰囲気になってるよ、完璧に違うプロジェクトと思っていい。言葉で説明するのはいつも難しいんだけど、前回と違って長い6曲のトラックものが中心になってるよ。前作の『Starting Today』は1曲にそれぞれ違ったストーリーがあって、ヴォーカルも多くあったけど、新しいアルバムはよりアルバムとしての全体感がより強いのかもしれないね。

制作にはどれくらい時間を要したんですか?

JAJ:去年の8月からレコーディングをスタートさせて、編集とかマスタリングを終えたのは……それこそ日本に行く1週間前とかだよ。

制作するときはソングライティングもしっかりやるタイプですか?

JAJ:もちろん譜面に起こしたりとかもやるけれど、基本はスタジオでセッションして曲を作り上げるパターンが多いかな。ソロのアルバムを作ってるときはピアノの前に座って、思いついたアイデアを弾いたり、いろいろ試すんだ。ベースラインはすごく重要にしてて、ベース・プレイヤーによって曲の表情も大きく変わってくる。そこにドラムを加えて、聴いてるうちに良いメロディーが思いついて自分も弾いたりとかかな?
それに、2枚のアルバムともバンド・メンバーがそれぞれのプロジェクトで忙しかったからリハーサルを組んだりっていう時間がなかったんだ。だからある程度自分で譜面に起こして、後はそこから即興で作っていく。お互いのことをよく知ってたり、それぞれ技術がないとできないことだけど、最初にみんなで合わせるときの熱量やフレッシュさも大事にしたかったんだ。最悪、誰かが間違えた場合も別のテイクを取って良い部分を張り替えれば良いしね。

それはテクノロジーが助けてくれる部分でもありますよね。

JAJ:昔だったら録ったテープを本物のハサミで切って貼り付けてなんて……いまだにそのスタイルでやってる人もいるけれど、僕らは100%技術の進歩の恩恵も受けているよ。とはいえ、たまにドラムのテンポがズレてるってときもリズムを修正しないでそのまま残すこともある。それは曲の中のひとつの熱量と思ってキープするんだ。

アルバムの他にもいろいろなコンピレーションにも積極的に参加してますよね。この前もマーラとヌビア・ガルシアとの共作も話題になりました。どれくらいの頻度でスタジオに入っていますか? 最近はツアーもあって忙しいように見えますが……。

JAJ:まさしくいまツアーが増えてきて、自分の中で制作とギグのバランスを考えはじめてるところだよ。ツアーがないときは基本的にスタジオ、というか家にいるよね。自分のリヴィングがスタジオだから、家でゆっくりしてたら誰かが急に入ってきて曲を作りはじめるってこともよくあるんだ。他のプロデューサーみたいに「スタジオに行って働く」とかそういう感覚じゃないのかも。それこそマックスウェル・オーウィンが友だちを連れてきて四六時中ビートを作ってるってこともあるし、いつも誰かが曲を作ってるからインスピレーションは無限に湧くよ。

なかなかすごい環境ですね。そんな状況でゆっくり寝られたりできるんですか?

JAJ:いい質問だね(笑)。幸い僕は上の階だからあんまり音も漏れてこないんだよ。隣の近所がどう思ってるかは正直わからないけど、苦情もいまのところないから大丈夫なんだと思う。

それはイギリスやヨーロッパの国ならではな状況かもしれないすね。日本でそんなことは滅多にできないので……。

JAJ:本当に?? そういえば誰かが言ってたな。日本は楽器を大音量で練習できる家が少ないからヘッドホンとかでやってるって。

それから、たぶん日本は自分のプライヴァシーを守りたい人が多いかも?しれないですね、自分の家に知らないミュージシャンが毎日出たり入ったりっていう状況はあまり考えられない気がします。

JAJ:そうだね、たまに20人くらいのミュージシャンが一気に集まって「これから曲を作るんだ」ってこともあったりするよ。そのときは知らない同士でも、共通の仲間を通して知り合えばお互いにとってプラスになることが多い。自分はとにかくいろんなミュージシャンやアーティストとのコラボレーションがメインで活動してるからこのスタイルが好きなんだ。もちろん日本の礼儀正しい部分だったり、お互いをリスペクトする部分は理解できるから、文化の違いってことかもしれないね。

まだデビューしていなかったり、ローカル・レヴェルで是非チェックすべきというアーティストやミュージシャンはいますか?

JAJ:プロジェクト・カルナック、ブラザース・テスタメント、シュナージ、それからCYKADA辺りはいいね。どれも違ったサウンドやジャンルだよ。

それだけ多くのアーティストを知ってるならレーベルをやっても良いかもしれないですね。

JAJ:いや、止めておくよ。事務作業とかが多いと思うし、多分自分には向いてないと思うな(笑)。

日本でご存じのアーティストはいますか?

JAJ:Kyoto Jazz Massive は素晴らしいよね。それから SOIL & "PIMP" SESSIONS も知ってるよ。この前リーダーの社長と FFKT であったけど、ファッションもマジで最高だったな。

アルバムのリリースも控えてますが、今後の予定は決まってますか?

JAJ:まずはアルバムのリリースに向けて、しっかり準備。その後は何も決めてないな(笑)。たぶん日本にまた戻ってライヴがしたいね、ここは本当に素晴らしい場所だよ。最高だ。

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