「OTO」と一致するもの

KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 - ele-king

 ルイ・ヴェガとケニー・ドープによる、ニューヨークを拠点とする伝説的プロデューサー・デュオ、Masters At Work (MAW)についていまさら説明するのもナンだが、ひと言で表すなら、90年代のハウス・ミュージック黄金期の象徴、その影響はダフト・パンクからマドンナまでとおそろしく幅広い。また、その特徴は、ハウス・ミュージックをベースに、ジャズ、ファンク、ソウル、ラテンを自在にミックスしたこと。ハイブリッドなNYサウンドのひとつの型を創出したことにあります。で、ケニー・ドープ——ビート職人であり、ファンクの探求者として崇められている。当日は、間違いなく、タフなファンクの祭典となるでしょう。

KENNY DOPE (MASTERS AT WORK, KAY-DEE RECORDS, DOPEWAX / Brooklyn, NY)
 グラミー賞に4度ノミネートされたDJ/プロデューサー、KENNY “DOPE” GONZALEZは、ダンスミュージック史において最も影響力のあるアーティストの一人である。ルイ・ヴェガとの伝説的デュオMasters At Workの一員として、ハウス、ヒップホップ、ラテン、ジャズ、ソウルを横断する革新的なサウンドを生み出し、ビョーク、ジャネット・ジャクソン、ダフト・パンク、ルーサー・ヴァンドロスら数多くのアーティストのプロダクションやリミックスを手がけてきた。
 ソロ名義ではThe Bucketheadsとして発表した「The Bomb! (These Sounds Fall Into My Mind)」が世界的ヒットを記録。さらにケブ・ダージと共に設立したKay-Dee Recordsや、自身のレーベルDopewaxを通じてレア・ファンクの再発や新たな音楽の発掘にも尽力している。近年はMasters At Workとしてブライアン・ジャクソンのアルバム『Now More Than Ever』のプロデュースも手がけ、世代を超えたコラボレーションを展開。豊富な音楽知識と卓越したビート感覚を武器に、45sからハウスまで縦横無尽に紡ぐDJプレイは世界中のフロアを魅了し続けている。
IG : https://www.instagram.com/djkennydope

RPR Soundsystem with Dreamrec - ele-king

 きっと桜が満開のころでしょう。来たる3月28日(土)、ミニマル・アンダーグラウンド・シーンの雄、ルーマニアのRPRサウンドシステムが2年ぶりにリキッドルームにやってきます。前回同様、オフィシャルVJのドリームレックも出演。独特のサウンドとヴィジュアルがおりなす異空間をふたたび体験できる、これは絶好のチャンスです。至福の一夜をぜひ、あなたも。

RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ @LIQUIDROOM

2026年3月28日 (土) 23:30 OPEN/START

LIQUIDROOM 03-5464-0800
http://www.liquidroom.net

■出演者
― 1F LIQUIDROOM ―
RPR SOUNDSYSTEM (Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh / [a:rpia:r])
Dreamrec VJ

― 2F LIQUID LOFT ―
Satoshi Otsuki (Time Hole)
PI-GE (TRESVIBES)
P-YAN (A.S.F.RECS)

Total Information:
https://linktr.ee/rpr2026tokyo

Produced by Beat In Me


■料金
▼早割 - Early Bird (SOLD OUT)
5,500yen (50 Limited)

▼前売 - Standard Advance / STAGE 1 (SOLD OUT)
6,500yen

▼前売 - Standard Advance / STAGE 2
7,500yen
1/21(水) 00:00~3/27(金) 23:59

▼グループ割 - GROUP TICKET(4p)
28,000yen (Limited)
1/21(水) 00:00~3/27(金) 23:59

▼U-23
5,000yen (50 Limited)

▼当日 - Door
8,500yen

■TICKET
ZAIKO (Early Bird・STAGE 1・STAGE 2・GROUP TICKET・U-23)
RA (STAGE 2)
e-plus (STAGE 2)

■注意事項
※チケットは全て電子チケットとします。入場の際はQRコードを読み取りいたします。
※23歳以下割/U23チケットの購入の間違いにお気をつけください。当日に身分証明書をご提示いただき、23歳以下であることを確認させていただきます。24歳以上の方は、U23チケットをご購入いただいても当日のエントランスにて差額分をお支払いいただきますのでご了承ください。
※本公演は深夜公演につき20歳未満の方のご入場はお断り致します。
本人及び年齢確認のため、ご入場時に顔写真付きの身分証明書(免許書/パスポート/住民基本台帳カード/マイナンバーカード/在留カード/特別永住者証明書/社員証/学生証)をご提示いただきます。ご提示いただけない場合はいかなる理由でもご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。
(You must be 20 and over with photo ID.)

■BIOGRAPHY

ー RPR SOUNDSYSTEM (Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh) ー
世界のアンダーグラウンドミュージックを席巻するルーマニアン・シーンのトップ、Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh。
現行のワールドシーンにおけるキングの一人として全世界に君臨し、ルーマニアシーンの事実上のボスであるRhadoo、卓越したプレイはもとよりその生み出される作品群が世界最高レベルのクオリティーの評価を獲得している唯一無二のアーティストPetre Inspirescu、3人の中でも特にメジャーシーンにおいても抜群の名声を確立しているRareshの3人による、最重要レーベル・そしてアーティスト集団がこの [a:rpia:r] (アーピアー)である。
そして、その3人による別名義のスペシャルユニット『RPR SOUNDSYSTEM』の名で出演するイベントは、バルセロナ『OFF SONAR Festival』やロンドンの名門クラブ『Fabric』などと言った、世界でも彼らにより選ばれたトップイベント・フェスのみとされ、年にごく数回しか実現する事はない。東京LIQUIDROOMのパーティーは、その選ばれた数少ない中の一つである。

ー Dreamrec VJ ー
新しい未知の世界を創造し、常に自然に回帰することが、Silviu Vișan (通称:Dreamrec) の芸術的アプローチを形成する大いなる源である。遊園地向けにオーバーサイズのおもちゃを製作していた父親のもとで育ったことは、没入型環境の感情的な経験と、様々な場所を何かエキサイティングなものへと変える秘密を学ぶのに最適な文脈となった。

Dreamrecはビデオフィードバックと最新のソフトウェアのレイヤーをツールとして使用し、コンピュータが予測不可能な状態になり出力がパレイドリア(錯覚)の流動的なストリームになる異常な時間と空間を探求している。これらの手法を用いて、彼は国際的なフェスティバル、クラブ、アートスペースで独自の視覚的美学を表現している:没入型で、うっとりさせるような、まるで訪れた者が物理的に別の次元に足を踏み入れたかのような。

ビデオパフォーマンス・大規模なマッピング :
V&A Museum (ロンドン)、Biennial of Young artists (ブカレスト)、Decenter Armory at Abrons Arts Center (ニューヨーク) など

アート&ミュージックフェスティバル・クラブ :
Rokolectiv Festival (ブカレスト)、TodaysArt Festival Hague (オランダ)、ICAS Suite by Club Transmediale (ベルリン)、Periferias Festival (スペイン)、Simultan Festival (ルーマニア)、EasternDaze Night (スロバキア)、Crack Festival (ローマ)、Insomnia Festival (ノルウェー)、Arma17 (モスクワ)、Liquidroom (東京)、Fabric (ロンドン) など

また、RPR Soundsystem ([a:rpia:r]) やRochite、Sillyconductor (実験音楽家)との長期にわたるコラボレーションが挙げられる。

大友良英スペシャルビッグバンド - ele-king

 15年を長いと見るか短いと見るかは人によって様々だと思うが、少なくともいまの若者たち、たとえば中学生には15年前の記憶がない。わたし自身、音楽を自覚的に聴くようになったのは14歳の頃だと思うから、いまあの頃の自分のような人間が背伸びしてアヴァンギャルドな音楽を聴いているのだとしたら、そのリスナーには東日本大震災発生時の記憶がないことになる。そう、3.11から15年の歳月が経過した。決して短くない時間が経った。そしてこの間、世界ではさらなる災厄、さらなる惨禍がもたらされてきた。だが時の流れとともに少しずつ積み重ねられてきた物事もある。15年前には思いもよらなかったような「希望」を鳴らす人たちもいる。大友良英率いるスペシャルビッグバンド(OSBB)はそのような響きでわたしたちに未来について考えさせる。

 もともとは劇伴が出発点だった。2013年に放送された連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽を手掛けるためにOSBBのメンバーは集められた。そこに至る経緯を手短に振り返っておきたい。大友良英はゼロ年代の中心的なプロジェクトのひとつだったニュー・ジャズ・オーケストラ(ONJO)を2009年に休止した。その後軸足を移したのは、相前後して進行していた音遊びの会への参加(2005年〜)やアジアン・ミーティング・フェスティバルの開催(同)、インスタレーションの試み(同)、FENの結成(2008年)、ONJTの始動(2009年)、ダブル・オーケストラの立ち上げ(2010年)といった複数のプロジェクトだった。それらのいくつかは「アンサンブルズ(=アンサンブルの複数形)」をキーワードに展開していった。そうしたなかで2011年、3.11を契機にプロジェクトFUKUSHIMA!へと活動の比重が傾くことになる。そこでは阪神・淡路大震災の発生から15年後の神戸を舞台としたドラマ『その街のこども』(2010年、音楽は大友が担当)を参照しながら活動したという。

 3.11以後の大友の活動は「アンサンブルズ」がますます重要なコンセプトとなっていった。というより、一般の参加者と制作するインスタレーションからアマチュアを交えたオーケストラまで、誰かひとりが中心となるのではない、様々な来歴の人びとと共同作業をおこなう「アンサンブルズ」の試みが、3.11以後の混乱した社会において文化活動をおこなう上で大きなヒントとなったのだと思う。そして2013年、『あまちゃん』の音楽を任されることになった大友は、2年前に「アンサンブルズ・パレード/すみだ川音楽解放区」で知り合ったチャンチキトルネエドの全メンバーが合流する形で、劇伴のためのスペシャルビッグバンドを結成した。

 通常であればドラマが終われば劇伴バンドも解散するものだが、スペシャルビッグバンドは活動を継続した。正確には2013年をもって「あまちゃんスペシャルビッグバンド」は解散し、OSBBとして再出発を果たした。大友はOSBBについて「ONJOの続きができるかもしれないと思った」と語ったことがある。後期ONJOではジャズ・ミュージシャンだけでなく、いわゆる音響的な即興演奏家やアジア近隣諸国の実験的音楽家、音遊びの会のメンバーなど、非ジャズ・ミュージシャンが参加するようになっていた。そのようにONJOで垣間見られた「ジャズ経験者以外の人たちによるジャズ」の可能性を、OSBBに見たのだという——チャンチキトルネエドのメンバーはクラシックの素養を持つ藝大卒の演奏家たちだった。新宿ピットインがオープンから50周年を迎えた2015年、OSBBはファースト・フル・アルバム『Live at Shinjuku PIT INN』をリリース。『あまちゃん』の劇中曲も含みつつ、チャーリー・ヘイデンやエリック・ドルフィーなど、ONJO時代のレパートリーを新たな解釈で演奏してみせた。コロナ禍に見舞われた2022年には初のスタジオ・アルバム『Stone Stone Stone』を発表し、多数の気鋭ゲストを交えるとともに「あまちゃんバンド」から脱した新たな段階に到達したことを示した。

 さらに2024年、OSBBは初の欧州7カ国を巡るツアーを敢行。楽曲の演奏だけでなく、指揮を駆使して即興的なアンサンブルを創出するという大友が長年取り組んできた試みをバンド・メンバー全員が入れ替わりで指揮者となる形で導入し、唯一無二のラージ・アンサンブルへと成長を遂げた——その記録は翌年にライヴ盤『Live at Cafe OTO 2024』として世に放たれることになる。そして勢いを増したOSBBが新たに挑んだのが、組曲『そらとみらいと』のレコーディングだった。同組曲はもともと指揮者・佐渡裕からの委嘱を受けて大友が作曲、江藤直子、加藤みちあき、荻原和音が編曲し、阪神・淡路大震災から30年の節目となる2025年1月に兵庫芸術文化センター管弦楽団によって初演された25分ほどのオーケストラ作品だった。それをOSBBがあらためて編曲し、50分近くにおよぶ大作へと発展させた。

 『そらとみらいと』は3つの楽章から成っている。第1楽章「レクイエム」は場を鎮めるような鈴やおりんの静謐な響きから幕を開ける。じっくりと時間をかけながら、次第に管楽器の持続音やピアノの打音などが重なり、徐々にクレッシェンドしていく。美しいハーモニーが形成されると、ふっと音が消え、木管楽器が穏やかな速度で印象的なメロディを奏で始める。近年の大友良英のレパートリーとなっている「空が映えた2022年11月18日水曜日」をベースとしたじつにシンプルなメロディだ。大きく深呼吸するようにメロディが繰り返され、ピアノやギターがまるで浮遊する魂のごとく漂うと、低音が力強いリズムを刻み始め、ドラムやパーカッションも入り、アンサンブルが豊かな厚みを増していく。続く第2楽章「Life」は指揮による集団即興のパートだ。ここでは佐渡裕がゲスト指揮者として参加している。強烈なアタック、不定形なサウンドの変容、突如として流れ出すリズミカルなビート。自在に変化するアンサンブルはカオティックにもなればときには調和をも生み出す。大友のノイズ・ギターが炸裂する一方、ストレンジなグルーヴで身体を揺さぶりもする。いまここで生まれ落ちた剥き出しの音楽。そして第3楽章「祭りと空と」で16分を超える壮大なクライマックスへと向かう。「福島わらじまつり」の笛のフレーズを取り入れた祭囃子から始まり、骨太なベースを合図に即興的アンサンブルが躍動し始めると、第1楽章で聴いたあの印象的なメロディが、今度は希望に満ち溢れた晴れやかなサウンドで高らかに奏でられる。同一のメロディがこれほど変わるのかと驚いた。さらにそこに大河ドラマ『いだてん』のメインテーマから引用したメロディが紛れ込み、記憶を撹拌するようにコラージュされた、しかし有機的なビッグバンドのアンサンブルが、祝祭の興奮を高めるようにして場を盛り上げていく。ピークに達したところで一転、穏やかなメロディへと切り替わるが、そこからさらに祭囃子を経て奇怪な音色が暴れ出し、最後は三三七拍子で大団円を迎えるのである。ラスト・トラックの「Epilogue」では「福島わらじまつり」のフィールド・レコーディングと思しき響きが幻影のように姿を現し、そこに被さるように音頭のリズムが奏でられ、あたかも終わらない祭りが延々と続くかのようにフェードアウトしていく。

 「鎮魂、即興、そして祭り」がテーマだという。それは大友良英がとりわけ3.11以後に力を入れてきた活動の足跡でもあるだろう。その意味で『そらとみらいと』はまさに集大成と言っていい作品だ。だがたんに大友の個人史がまとめられたというわけではない。彼の活動そのものがつねに社会と接してきたからである。ではその活動とはどのようなものであったのか。大友は2025年10月18日に放送された『JAMJAMラジオ』のなかで、ゼロ年代半ば頃に現在へと繋がる「原点」が生まれたと説明しつつ、その後の活動について「コミュニティ運動」という言葉で振り返っている。誰かひとりが全ての決定権を持つのではなく、あるコミュニティのなかで、プロフェッショナルもときにはアマチュアも交えて協働し作品を制作することを繰り返してきたのだと。それはたとえば音遊びの会で知的な障害のある人たちとワークショップをおこなうことであったり、山口情報芸術センターや水戸芸術館でそれぞれの地域の人たちとコラボレートしながらインスタレーションを制作することであったり、プロジェクトFUKUSHIMA!で見知らぬ人びとと盆踊りを踊ることであったりしただろう。2015年から始まったアンサンブルズ東京では市民参加型のワークショップで指揮による集団即興の試みをさらに発展させていった。そのように社会と接する様々なコミュニティにおける協働なくしては、『そらとみらいと』も生まれなかったのではないか。

 3.11の記憶を持たない世代は時を経るにつれて増えていく。いかにして記憶を継承するかということがいまを生きるわたしたちの課題である。もちろんそれだけを取るならば手段は様々にあるだろう。言葉、映像、モニュメント——音楽はどちらかというと記憶を形として残すことには不向きで、鳴り止めば空中に消え去って忘れられてしまう。だが音楽を聴くには一定の時間が必要であり、裏を返すなら、わたしたちは音楽を聴くことによって何がしかを感じ取り考えるための時間を確保できる。『そらとみらいと』を聴きながら、たとえ当時の記憶がなかったとしても、3.11とそれ以後に起きた様々な出来事について思いを巡らすことができる。未曾有の大震災から15年ほど経ってこのような響きが生み出されたのだ。さらに15年後の未来にはどのような空が広がっているだろうか——。

「僕だけじゃなくて、誰も全部は見られないというのが、やっぱりいいな」

 大友良英は小田原・江之浦測候所で開催したイベント「MUSICS あるいは複数の音楽たち」を振り返ってそのように呟いた。普通、できることなら、全体を見渡したいと思うものである。木を見て森を見ず、と言うように、全体が把握できないと物事の本質が見極められないような気がしてしまう。何か大事なことを見逃してしまっているのではないかと不安に駆られる。それでも誰も全体を把握することができないことにポジティヴな意味合いを見出すとしたら、それはどのようなことなのだろう。


11月3日(月)、江之浦測候所。撮影:田村武

 去る2025年11月初旬、アジアン・ミーティング20周年記念スペシャルが各地で開催された。大友良英が2005年に立ち上げ、その後dj sniffとユエン・チーワイがキュレーターとなって継続してきたアジアン・ミーティング・フェスティバルの詳細については、これまで様々な場所で書いてきたので、ここでは繰り返さない。一言だけ説明しておくならば、アジアン・ミーティング・フェスティバルとは、アジア諸地域で活動する様々なタイプの実験的ミュージシャンたちを集め、即興を一つの鍵となる手法として用いながら、音楽的交流を行うプロジェクトのことだ。開催を経るにつれて規模が拡大し交流も広がりと深まりを見せていったプロジェクトだったものの、コロナ禍も相俟ってニーゼロ年代に入るとともに休止状態となっていた。そうした状況にあるアジアン・ミーティングを再起動するべく、20周年の節目を迎えた年に大友があらためて狼煙を上げた。このうちわたしは11月3日の江之浦測候所と11月6日の新宿ピットインでの公演へと足を運んだ。

 江之浦測候所での公演は、2022年から大友が同地で開催してきた「MUSICS あるいは複数の音楽たち」と題したイベントの第3弾を兼ねておこなわれた。江之浦測候所は現代美術作家・杉本博司が手掛けた、それ自体がアート作品でもあるような特異な施設である。100メートルの長大な廊下状のギャラリー、冒険心を擽るトンネルのような空間、石舞台、光学ガラス板を木琴のように敷いた舞台などがあるほか、海に面した斜面を下ると蜜柑畑や竹林が広がる。歩くだけでも景色の移ろいが楽しめ、鳥の囀りやカラスの鳴き声、航空機が過ぎる音、遠くを行く列車の走行音など、開けた空間ならではの豊かなサウンドスケープがある。パフォーマンスする演奏家にとっては、普段のライヴハウスとは勝手が異なり様々な制約がある一方、アプローチ次第ではこの場所ならではの表現ができる可能性を秘めた挑戦的な環境だと言えるだろう。

 わたし自身はこれまで2022年、2024年と「MUSICS あるいは複数の音楽たち」を観てきたため、3度目となる今回は、場所そのものに対して新鮮な驚きを期待していたわけではなかった。むしろ、どこへ行けばどんな響きが得られるのか、ある程度把握しているつもりでもあった。加えて11月3日は、公演前に竹林エリアでスズメバチが発生する不測の事態があり、限られた安全なエリアでのみパフォーマンスがおこなわれることになった。ギャラリーやトンネル、屋外のいくつかの舞台といった比較的行き来しやすい施設に限定されたことから——それでも一望できない広さはあるものの——、なおさら「面白そうな空間」を狙って観て回ろう、などと考えていた。だが開始早々、そのような邪な考えは打ち砕かれることになる。


11月3日(月)、江之浦測候所。撮影:田村武

 パフォーマンスはまず石舞台周辺で始まった。気づけば始まっていた、と言った方が正確かもしれない。打楽器を微かに鳴らす石原雄治、敷砂を足で擦る松本一哉、ゴングを引き摺る大友良英。樹下でスツールに腰掛けたイェン・ジュンは虚ろな表情で砂を拾ってはステンレスボトルのようなもの目掛けて投げ続けている。石舞台には吉増剛造が鎮座しており、Sachiko Mは四角錐のピラミッド型チャイムを鳴らして歩く。リュウ・ハンキルはショルダーバッグよろしく抱えたスピーカーから猛獣の唸り声のような音を発している。ふとフィードバック音のようなものが聴こえてくる。細井美裕と岩田拓朗によるインスタレーションのようだ。しばらくするとパフォーマーたちは思い思いの場所へと散らばっていった。

 何箇所か、ミュージシャンが好みそうな空間があった。たとえば鋼板で作られた全長70メートルのトンネル。まるで管楽器の内部のようでもあり、実際、ここで発された音は独特の反響を生み、トンネル自体が楽器となって壮大なドローン・ミュージックを聴かせる。そのトンネルへ向かったミュージシャンがいた。わたしは後を追った。だがすぐに音を出すわけではなかった。ただ佇んでいるだけのミュージシャンの姿をしばらく眺めていた。すると全く別の場所から、耳を惹く奇妙な音が聴こえてきた。誰かがセッションしているのだろうか。トンネルの中からは見えない。すぐに音の鳴る方へと向かった。だが着いたときにはすでにパフォーマンスが終わっていたようで、それらしき姿は確認できなかった。それどころか今度はトンネルの中から興味深い響きが聴こえてきた。

 しまった、と思った。同時に、やはり、面白そうな出来事だけを狙い撃ちして追いかけることは不可能だと悟った。野外フェスのように目当てのステージを効率よく観て回ることなどできないのだ。そう思った瞬間、いまここにいることがとても自由であるような気がした。多くの見落としがあるかもしれない。大層盛り上がった場面をいくつも聴き逃しているかもしれない。だが誰もがそうであるならば、どこへ行こうとも自由なのだ。足を運んだ先で偶然起きた出来事を受け入れればいい。その積み重ねがこの日のイベントの個々別々な体験を形成する。来場者の数だけあるそうした個別の体験を集めたところで、おそらく、それは全体を構成することにもならないだろう。


11月3日(月)、江之浦測候所。撮影:田村武

 開演から2時間半ほど経ち、パフォーマーたちは光学硝子舞台に集まってきた。初めはダンサーの小暮香帆が舞台にひとりで立ち、相模湾を臨む絶景をバックに踊りを披露していた。次第にひとりまたひとりとパフォーマーが舞台に上がり、集団での緩やかな即興演奏を行なった。ほぼ全ての観客がこの舞台を眺めていたことだろう。広大な江之浦測候所の様々な場所で繰り広げられていたパフォーマンスを個々別々に体験してきた観客は、最後、この舞台上での集団即興の光景を共有する。バラバラだった景色が束の間の重なりを見せる。石舞台で始まり光学硝子舞台で終わる、まるでテーマで始まりテーマで終わるジャズのような構成。ただしその中間部はどこまでも自由で誰も把握し切れないほどの広がりを持つようなものとしての。

 誰も全体を把握できないイベント。だがそもそも全体を把握するとはどういうことなのか。大友はそれを「録音」的な思考として説明する。たしかにそうだ。「面白そうな出来事」だけを追いかけようとしていたわたしは、どこかでそれを特定の視点——すなわち集音するマイク——によって捉えられる記録可能なイベントとして考えていた節がある。大友は「いまの音楽って、基本的には皆の頭の中では録音できる前提になっているでしょう。コンサートも録音できるようなものが前提になっているけど、そうじゃないものをやりたい」と「MUSICS あるいは複数の音楽たち」について語る。

「録音も否定しないよ。もちろん大好きなんだけど、でも、録音って音楽の中のごく一部でしかない。いま、録音しないと音楽って評価されないというか、評価軸に乗りにくいと思うんです。けれどもそれは、昔の西洋音楽で言えば、譜面じゃないと評価軸に乗らないのと同じぐらい、録音が不自由なものになっているということでもある。別にそれへのアンチで作ってるわけじゃないけど、少なくとも『MUSICS あるいは複数の音楽たち』に関しては、そういう視点では一切評価軸には乗らないというか。録音してもいいけど、全然違うものになっちゃう」(大友良英)

 こうした全貌が把握し難い非記録的なアプローチは、新宿ピットインでのアジアン・ミーティング20周年記念の公演でも試みられた。11月6日、ピットインの会場は通常のようにステージと客席が一方通行的に分かれたセッティングではなく、会場内の至るところに楽器が置かれ、それらミュージシャンの持ち場を取り囲むようにステージの上にも下にも客席が設置されていた。座る場所によって目の前で演奏が見えるミュージシャンもいれば、音しか聴こえてこないミュージシャンもいる。1stセットではデュオ〜トリオの小編成による短いセッションを4つ行い、2ndセットでは全員が参加した集団即興をおこなった。むろん江之浦測候所に比べれば、ひとまずは全員の音を聴くことができるという意味で「全体」が把握できはする。

 だがたとえばわたしが座った場所からはトランペットの類家心平とターンテーブルのdj sniffがよく見え、このふたりの演奏が特に強烈だったのだが、それは手元まで見える位置で体験したから印象が強かったとも言えるかもしれない。座る場所が異なればライヴの印象はまた違っていたことだろう。視覚的な体験としてもそうだし、聴覚的にも——いわば異なるミキシングで聴くように——それぞれの観客にとって別様の体験をもたらしたと思われる。先ほど「全体」と書いたが、それは出来事の総体ということではなく、ピットインという空間を来場者同士で「共有」していたと言った方が正確だろう。2ndセットは映像が配信されていたが、映像では記録し切れない要素が現場には多々あった。


11月6日(木)、新宿ピットイン。撮影:横井一江

 こうも言い換えることができるだろう。演奏者や観客それぞれに出来事の中心があったのだと。ただし単にバラバラな体験がもたらされたのではなく、全体としてひとつの同じイベントを共有していた。何かひとつのことを全体で描いているが中心はひとつではない、そのような試みは、アジアン・ミーティング・フェスティバルがテン年代を通じて磨き上げてきたひとつの音楽実践のフォーマットであった。以前、2017年に札幌で開催されたアジアン・ミーティング・フェスティバルを評して松渕彩子が「中心を持たない円を描く」と記していたが、これは言い得て妙だと思う。全体としては円を描いている。だがそうでありながら中心を持っていない。むしろ多数の中心がある。多数の中心があり、誰も全体を掴めない中で、しかしながら全員で何がしかを共有しつつ、全体として何かを作り上げていくこと。

 そもそも人間社会とはそのようにできている、とも言える。というより音楽とは、ある種の人間社会を反映するものである。とりわけ集団即興はプリミティヴな形でそうした社会のありようを映し出す。アジアン・ミーティング・フェスティバルにあっては、国籍もジャンルも違えた、異なる背景を持つ人びとが集まり、時と場に応じて音を介した共同作業をおこなう。あらかじめ用意された再現すべき設計図があるわけではなく、交流を通じてその場で何がしかを設計していかなければならない。中心が多数あることは、こうした共同作業を必ずしも円滑に進めるとは限らない。むしろ衝突や破綻のリスクと隣り合わせである。だがそれこそが人間社会の豊かさでもあるのではないか。

 むろん中心を設けないという大友の試みはいまに始まったわけではない。それどころか大友の活動に一貫した音楽思想であるとも思う。「MUSICS あるいは複数の音楽たち」において録音を前提としない音楽を考えていたことも、生のパフォーマンスに真実が宿るといった現場主義的な発想ではなく、それ以前に、録音偏重の時代に評価軸の中心をズラそうとしたからであるはずだ。そしてそのような複眼的思考はわたしたちがいま生きていくうえであらためて見つめ直すべきことでもある。ひとつの中心、ひとつの価値観、ひとつの原理に大勢が偏りつつある時代においてこそ。

Dolphin Hyperspace - ele-king

 サンダーキャットルイス・コール、あるいは近年のドミ&JD・ベックなどなど、カリフォルニアには凄腕プレイヤーたちによるジャズ/フュージョン文化が息づいている。そうした系譜に新たに連なることになりそうなのが、ドルフィン・ハイパースペースと名乗る彼らだ。サックス奏者のニコール・マッケイブと、ベース奏者のローガン・ケインからなるこのLAのデュオは、すでに2枚のアルバムを発表しているのだけれど、来る5月1日、3枚目のアルバム『Echolocation』がリリースされることになっている(ルイス・コール、ジャスティン・ブラウンらも参加)。このアルバムでいよいよブレイクしそうな予感がひしひし。チェックしておきたい。

先行シングルのヴィジュアライザー

ルイス・コールとのライヴの様子

LAビートシーンを切り裂くブっ飛びエレクトリック・ジャズ、ドルフィン・ハイパースペース最新作!ベースとサックスのバカテクデュオに超絶ドラマー、ルイス・コールも参加した摩訶不思議奇天烈ダンスビートとエレクトリック・ジャズの融合!

ニコール・マッケイブ(Sax)とローガン・ケイン(Bass)によるバカテクデュオに超絶ドラマー、ルイス・コールも参加した、摩訶不思議奇天烈ダンスビートとエレクトリック・ジャズを融合したドルフィン・ハイパースペース最新作がリリース決定!

現代ジャズの先進性と電子音楽の拡張性を取り入れたジャズの複雑なハーモニーや即興的なアプローチとシンセサイザーやビートシーンから生み出されたエレクトロニックな要素をクロスオーヴァーしたサウンドはLAビートの新たなスタイルと言っても過言ではないでしょう。

同じくLA拠点に活動する超絶ドラマー、ルイス・コール、ジャスティン・ブラウンに加えて、グラミー賞ノミネートのピアニスト、ジェラルド・クレイトンもゲスト参加し、前作でも話題となったイルカをフィーチャーしたビジュアルは健在!

現在進行形のLAジャズ/ビートシーンを体現するサウンドを聴き逃しなく!!

The Life of a Bee (official visualizer)
https://youtu.be/UyKaLedYRmA

【Streaming/Download/Pre-Order(CD/LP)】
p-vine.lnk.to/kaBy6J

【リリース情報】
アーティスト:DOLPHIN HYPERSPACE / ドルフィン・ハイパースペース
タイトル:ECHOLOCATION / エコロケーション
フォーマット:CD/LP/DIGITAL
発売日:2026.5.1
定価:CD ¥2,750(税込) / LP ¥5,060(税込)
品番:CD PCD-25524 / LP PLP-8334CP
レーベル:P-VINE

【Track List】
01.Vacation
02.BIG FISHY feat. Louis Cole
03.The Life of a Bee feat. Louis Cole
04.Kyoto feat. Louis Cole & Bad Snacks
05.Dolphins are Cute feat. Jon Hatamiya & Justin Brown
06.Biological Sonar
07.Dolphin Samba feat. Aaron Serfaty
08.Green Chimneys feat. Gerald Clayton
09.The One Evil Dolphin (About Which We Can Make No Conclusions)
10.Cool Star feat. Justin Brown
11.Sardine Jam Session feat. Louis Cole
12.Dolphin Mode feat. Bad Snacks & Justin Brown
13.Never Give Up on Cephalopods
14.My Big Break feat. Louis Cole
15.Memories of the Deep Blue Sea feat. Justin Brown
LP SIDE A:M1-M7 / SIDE B:M8-M15

【DOLPHIN HYPERSPACE (ドルフィン・ハイパースペース)】
USロスアンゼルスを拠点に活動するエレクトロ・ジャズ・デュオ。サックス奏者のニコラ・マッケイブとベーシスト/プロデューサーのローガン・ケインの2人により結成され、現代ジャズの先進性と電子音楽の拡張性を取り入れジャズの複雑なハーモニーや即興的なアプローチとシンセサイザーやビートシーンから生み出されたエレクトロニックな要素をクロスオーヴァーしたスタイルが特徴的なアーティストである。2020年に1st EP『Dolphin Hyperspace』、翌2021年に1stアルバム『Mini Giraffe』を発表するとともにLAビートシーンで頭角を現していくと、2024年に発表した2ndアルバム『What is my Propoise?』ではルイス・コールやジャスティン・ブラウンといった同じくLAを拠点とし世界的にも高い評価を得ているドラマーをゲストに迎え、そのサウンドの先進性と奇妙奇天烈なグルーヴから生み出させる絶妙なポップネス、そしてイルカのイラストをカヴァーに採用した独特なアートワークで日本国内でも話題となり世界的にリスナーを獲得している。2026年5月にリリースされる『ECHOLOCATION』には前作から活動を共にしているルイス・コール、ジャスティン・ブラウンに加えて、同じくLAを拠点に活動するグラミー賞ノミネートのピアニスト、ジェラルド・クレイトンも参加するなど現在進行形のLAジャズ/ビートシーンを体現する作品へと仕上がっている。
https://www.instagram.com/dolphinhyperspace/

2月のジャズ - ele-king

Tigran Hamasyan
Manifeste

Naïve

自身の出目であるアルメニアの民謡から教会音楽やクラシック、ロックやヘヴィ・メタル、プログレ、ダブステップやビート・ミュージックなどエレクトリック・ミュージックの影響を受け、独自の活動を続けているティグラン・ハマシアン。2020年に発表した『The Call Within』は、20世紀初頭にオスマン帝国との民族紛争を逃れてアメリカに渡ったアルメニア移民についての楽曲があるように、アルメニアン・ディアスポラとしてのティグランの在り方を示す作品でもあった。その後はアメリカのジャズ・スタンダード集である『StandArt』(2022年)、アルメニアの国鳥である火の鳥を題材にアルメニアの民話に基づいた『Bird Of A Thousand Voices』(2024年)と、異なる色合いのアルバムをリリースしている。これらのレコーディング時期は大体2019年から2021年にかけてのもので、『The Call Within』については2019年の録音だったが、最新作の『Manifeste』は2023年から2025年にかけ、アルメニアの首都であるエレバンから、アテネ、モスクワ、ロサンゼルスと世界各地でおこなわれたレコーディングをまとめたものとなる。

 参加メンバーはマーク・カラペティアン(ベース)、エヴァン・マリネン(ベース)、ネイト・ウッド(ドラムス)、アーサー・ナーテク(ドラムス)といったこれまでも共演してきたメンバーはじめ、アルティョム・マヌキアン(チェロ、ベース)、アルマン・ムナツァカニャン(ドラムス)、ダニエル・メルコニャン(トランペット)などアルメニア人のミュージシャン、クリスティーナ・ヴォスカニャン指揮によるエレバン国立室内合唱団など。“Prelude for All Seekers”はクラシック的なピアノ演奏が精密なテクスチャーを導くなか、ビート感覚に溢れたリズム・セクションと交わるテクノ・ミーツ・ジャズというような作品。後半に向けてアグレッシヴに進むなか、エンディングに美しいピアノ・ソロが訪れる構成も秀逸である。“Ultradance”はダブステップにインスパイアされたダイナミックなビートを持つナンバーで、ビートの谷間に訪れる静穏なピアノ・フレーズとの対比が素晴らしい。アルメニア語で“悩みや悲しみを取り除いてくれる人やもの”という意味を持つ“Dardahan”は、シンセを通して変調されたヴォイスを交えたアルメニア特有のメロディを持つ。“One Body, One Blood”はエレバン国立室内合唱団による幽玄のようなコーラスをフィーチャーし、中世の教会音楽のような荘厳な世界とクリック・テクノのようなトラックが融合する。戦時下で生きる子どもたちに捧げられた“War Time Poem”には、プログレのような強烈なサウンドとレクイエムのように静かな悲しさを湛えた世界が交錯する。今作もティグランのアイデンティティが強く反映された独自の作品集となっている。


Momoko Gill
Momoko

Strut

 モモコ・ギルは日系英国人のドラマー/ヴォーカリストで、即興演奏から作曲/プロデュースもおこなうマルチ・アーティストである。オックスフォードで生まれ、京都、横浜、アメリカのサンタバーバラへと移り住みながら育ち、独学で学んだドラムをはじめキーボードなども操り、現在はロンドンを拠点に音楽活動をおこなう。ロンドンのジャズやインプロヴィゼイション・シーンからオルタナティヴ・シーンと縦横無尽に活動し、アラバスター・デプルーム、コビー・セイティルザなど幅広いアーティストと共演してきた。エレクトロニック・ミュージックの分野ではマシュー・ハーバートコラボ作『Clay』(2025年)が知られるところで、またラッパーの、ナディーム・ディン・ガビージと一緒にアン・エイリアン・コールド・ハーモニーというプロジェクトもおこなっている。そんなモモコ・ギルが満を持してソロ・アルバム『Momoko』をリリースした。

 セルフ・プロデュースとなる『Momoko』は、ロンドンのトータル・リフレシュメント・センターでレコーディングをおこない、マシュー・ハーバートがミックスを担当する。ドラム、キーボードはじめ楽器演奏などは基本的にモモコひとりによる多重録音がおこなわれ、彼女自身のヴォーカルのほかにシャバカ・ハッチングス、ソウェト・キンチ、アラバスター・デプルーム、コビー・セイ、マリーシア・オスーらが名を連ねた50名にも及ぶコーラス隊がフォローする。“No Others”は軽やかにシャッフルするリズムに乗って、モモコの伸びやかなヴォーカルが浮遊感に包まれたムードを作り出す。アルバムのなかでもっともジャズの要素が強い作品だ。“When Palestine Is Free”はコーラス隊とホーン・アンサンブル(クレジットはないが、おそらくシャバカ・ハッチングス、ソウェト・キンチ、アラバスター・デプルームらが演奏していると思われる)をフィーチャーした重厚な作品で、モモコのドラムはマーチング・ソングとブロークンビーツを混ぜたようなリズムを作り出す。そして、フィールド・レコーディングや環境音も取り入れた作曲がおこなわれている点は、コラボレーターでもあるマシュー・ハーバートの影響があるのかもしれない。


Amir Bresler
See What Happens

Raw Tapes

 イスラエルのジャズ・シーンで新世代ミュージシャンとして注目を集めるキーボード奏者/マルチ・ミュージシャン/プロデューサーのリジョイサーことユヴァル・ハヴキン。彼はいろいろなグループやプロジェクトをやっているが、そのなかのひとつである4人組グループのアピフェラや、ヒップホップとジャズのミクチャー・バンドのL.B.T.、ユヴァル周辺のミュージシャンが集まったタイム・グローヴでドラマーを務めるのがアミール・ブレスラーである。ほかにも世界的なベーシストのアヴィシャイ・コーエンのグループ、ピアニストのオメル・クレインのトリオ、サックス奏者のアミット・フリードマンのグループ、トランペット奏者のセフィ・ジスリング、キーボード奏者のノモックと組んだアフロ・ジャズ・バンドのリキッド・サルーン、フォーク・ロック・バンドのフォリー・トゥリーなどで活動するなど、現在のイスラエルを代表するミュージシャンのひとりである。ジャズ、ファンク、ロック、サイケ、プログレ、フォーク、オルタナ、R&Bなどいろいろな音楽に通じたヴァーサタイルなミュージシャンで、これまでソロ作品も『House Of Arches』(2022年)、『Tide & Time』(2024年)などを発表。これらの作品はリジョイサー、ノモック、ニタイ・ハーシュコビッツなど、日頃から一緒に演奏をしてきた仲間たちが参加しており、ジャズ、アフロ、ファンク、サイケなどが融合した内容となっている。

 最新アルバムの『See What Happens』は過去12年間に渡るレコーディング音源やセッションなどをまとめたものである。アミール・ブレスラーはドラム以外にギター、ベース、キーボード、パーカッションなどを演奏するマルチ・ミュージシャンぶりを発揮し、プログラミングなどトラック・メイクもおこなう。共演者にはリジョイサー、ノモック、セフィ・ジスリング、ニタイ・ハーシュコビッツ、ジェニー・ペンキン、ケレン・ダン、イツァーク・ヴァントーラなどイスラエル・シーンの仲間たちが名を連ねる。今回も彼のさまざまな音楽性が融合した内容だが、おすすめはケレン・ダンをフィーチャーした“See What Happens”と“Who Will Hold Your Hand”。ケレンはリジョイサー、ベノ・ヘンドラーとのバターリング・トリオで活躍し、L.B.T.のメンバーでもあるマルチ・ミュージシャン/シンガーであるが、今回はヴォーカリストとしてこの2曲に参加している。原初的でエキゾティックなグルーヴに包まれた“See What Happens”、変拍子による不思議なグルーヴを持つジャズ・ファンク“Who Will Hold Your Hand”と、フェアリーな魅力を持つケレン・ダンの歌声が生かされている。リジョイサーをフィーチャーした“Lesoto”など、アンビエントなフィーリングを持つ作品も印象的。


Joabe Reis
Drive Slow - A Última das Fantasias

Batuki

 ジョアベ・ヘイスはブラジルの新進トロンボーン奏者/作曲家で、ジャズ、ファンク、MPB、サンバ、ヒップホップなどを吸収してきた。1970年代から活動するベテランのキーボード奏者/作曲家のネルソン・アイレス率いるビッグ・バンドで演奏をしてきたほか、エルメート・パスコアール、エヂ・モッタなどブラジルのアーティストから、アメリカのロビン・ユーバンクス、マーシャル・ギルケス、メイシー・グレイなどとも共演してきた。自身のソロ作品としては2024年にファースト・アルバムとなる『028』をリリース。オリジナル曲のほかにジャヴァン、ジルベルト・ジル、アジムスとフローラ・プリムの楽曲をカヴァーしていて、そのアジムス/フローラ・プリムの“Partido Alto”ではイエロージャケッツなどの活動で有名なアメリカのサックス奏者のボブ・ミンツァーと共演している。

 新作の『Drive Slow - A Última das Fantasias』は、ダニエル・ピニェイロ(ドラムス)、デデ・シルヴァ(ドラムス)、アジェノール・デ・ロレンツィ(キーボード)、ジョシュア・ロペス(テナー・サックス)、シドマー・ヴィエイラ(トランペット)、マルチェロ・デ・ラマーレ(ギター)といった『028』でも演奏していた面々に加え、新進ピアニストとして注目を集めるエドゥアルド・ファリアスやベーシストのフレデリコ・エリオドロらがバックを固める。ほかにゲストでラッパーのズディジーラとシンガーのエオラ・オランダ、アメリカからトランペット奏者のシオ・クローカーも参加する。“Simbiose (Nefertiti)”は人力ブロークンビーツのようなビートでソリッドに展開するジャズ・ファンク。全体にエズラ・コレクティヴなどUKジャズに近い雰囲気を持ち、エドゥアルド・ファリアスのピアノもジョー・アーモン・ジョーンズあたりを彷彿とさせる。ジョアベ・ヘイスのトロンボーンをはじめとしたホーンの掛け合いもスリリングだ。“Baile Real”はサンバにブギーやファンクをミックスしたブラジルらしい楽曲で、かつてのバンダ・ブラック・リオあたりを思い起こさせる。

HELP(2) - ele-king

 1995年にブライアン・イーノ主導のもと誕生することとなった『Help』は、ボスニア戦争に巻きこまれた子どもたちを支援するためのチャリティ・アルバムだった。それから30年。どうやら人類はより悪い方向へと進んでいるようで、戦争の影響を受けている子どもたちの割合は当時の倍になっているという。かくしてここに『Help(2)』が誕生することとなった。
 当時も参加していたデーモン・アルバーンやグレアム・コクソン、あるいはジョニー・マー、デペッシュ・モードパルプベス・ギボンズベックといったヴェテランたちから、ヤング・ファーザーズキング・クルールエズラ・コレクティヴら2010年代のポップ・ミュージックを牽引してきた面々、さらにはブラック・カントリー・ニュー・ロードビッグ・シーフにと、そうそうたる面々が集結している。収益はすべて War Child UK に寄付されるとのこと。

HELP(2)
世界中の紛争で影響を受ける子どもたちへ
錚々たるアーティストが集結したチャリティ・アルバムが誕生

3月6日(金)のアルバム『HELP(2)』発売に先駆けて
デーモン・アルバーン x グリアン・チャッテン x ケイ・テンペスト
豪華コラボレーションが生んだ 2ndシングル「Flags」がリリース!



photo by Adama Jalloh

本作チャリティ・アルバム発表と同時に大きな反響を生んだ、アークティック・モンキーズによる約4年ぶりの新曲となった先行シングル「Opening Night」の余韻の中、アルバム『HELP(2)』発売に先駆けた 2ndシングルとなる「Flags」がヴィジュアライザーと共に公開された。本曲はアルバムに収録される楽曲の中でも特に象徴的なコラボレーション作品であり、デーモン・アルバーン(Blur/Gorillaz)、グリアン・チャッテン(Fontaines D.C.)、ケイ・テンペストによって制作されている。

本楽曲は内なる強さと他者との連帯の中で見出される “レジリエンス” を象徴した、力強いメッセージを放っている。印象的なピアノのモチーフに導かれながら、豪華なアーティスト陣が集結。ジョニー・マー、デイヴ・オクム(The Invisible)、エイドリアン・アトリー(Portishead)、セイ・アデレカン(Gorillaz)、フェミ・コレオソ(Ezra Collective)、そして43人編成の児童合唱団が本曲に参加している。

さらに、もうひとつの豪華オールスターによるコーラスが加わり、楽曲にさらなる厚みと広がりをもたらしている。 そのメンバーには、ジョニー・マーをはじめ、ジャーヴィス・コッカー(Pulp)、カール・バラー(The Libertines)、デクラン・マッケンナ、マリカ・ハックマン、ローザ・ウォルトン(Let’s Eat Grandma)、ナディア・カデックらに加え、イングリッシュ・ティーチャーとブラック・カントリー・ニュー・ロードがバンドとして名を連ねている。

Damon Albarn, Grian Chatten & Kae Tempest - Flags (Visualiser)
試聴リンク >>> https://warchildrecs.ffm.to/flags
YouTube >>> https://www.youtube.com/watch?v=EUdF5cPF8mk

『HELP(2)』は、1995年の記念碑的作品『HELP』に着想を得た新たなコラボレーション・アルバムであり、世界中の紛争の影響を受けた子どもたちへ緊急支援、教育、専門的なメンタルヘルス支援、保護を提供する団体であるWar Childの重要な活動を支援するため、国境を越えて音楽愛好家を巻き込むことを目的としている。この新作アルバム『HELP(2)』もまた、今日の世界的な人道状況の緊急性を訴えかけている。

2025年11月の驚異的で濃密な1週間を中心に、著名プロデューサーのジェームス・フォード指揮のもとレコーディングされた本作は、オリジナル作品と同様にAbbey Road Studiosでの即興的なレコーディング・プロセスと共に多くのコラボレーションが実現した。

参加アーティスト(アルファベット順)
アンナ・カルヴィ (Anna Calvi)
アークティック・モンキーズ (Arctic Monkeys)
アーロ・パークス (Arlo Parks)
アルージ・アフタブ (Arooj Aftab)
バット・フォー・ラッシーズ (Bat for Lashes)
ビーバドゥービー (Beabadoobee)
ベック (Beck)
ベス・ギボンズ (Beth Gibbons)
ビッグ・シーフ (Big Thief)
ブラック・カントリー・ニュー・ロード (Black Country, New Road)
キャメロン・ウィンター (Cameron Winter)
デーモン・アルバーン (Damon Albarn)
デペッシュ・モード (Depeche Mode)
ダヴ・エリス (Dave Ellis)
エリー・ロウゼル (Ellie Rowsell)
イングリッシュ・ティーチャー (English Teacher)
エズラ・コレクティヴ (Ezra Collective)
フォールズ (Foals)
フォンテインズ D.C. (Fontaines D.C.)
グレアム・コクソン (Graham Coxon)
グリーンティー・ペン (Greentea Peng)
グリアン・チャッテン (Grian Chatten)
ケイ・テンペスト (Kae Tempest)
キング・クルール (King Krule)
ニルファー・ヤンヤ (Nilufer Yanya)
オリヴィア・ロドリゴ (Olivia Rodrigo)
パルプ (Pulp)
サンファ (Sampha)
ザ・ラスト・ディナー・パーティー (The Last Dinner Party)
ウェット・レッグ (Wet Leg)
ヤング・ファーザーズ (Young Fathers)

ブライアン・イーノ主導のもと、1995年にたった1日で録音されたオリジナル・アルバム『HELP』は120万ポンド以上を調達し、ボスニア紛争に巻き込まれた数千人の子どもたちへの緊急支援を可能にした。 ところが、紛争の影響を受けていた子どもが世界全体の約10%だった『HELP』のリリース当時から現在までにその割合はほぼ倍増し、約5人に1人の子ども(実に5億2,000万人)が紛争の影響下に置かれている。これは第二次世界大戦以降、かつてない規模であり、紛争が激化し資金削減の影響も深刻化するなかで、War Childの活動もこれまで以上に切迫している。オリジナル・アルバムが体現していた「集団的行動」の精神が現代のアーティストたちへ引き継がれる必要性が、極めて重要な意味を持つ。

どんな子どもも、戦争の一部であってはならない。決して。

War Child によるチャリティ・アルバム『HELP(2)』は、2CD、2LP、デジタル/ストリーミングで2026年3月6日(金)に世界同時リリース。国内流通盤2CDには解説書が付属する。なお、本アルバムの収益はすべて War Child UK に寄付され、世界中の紛争地域で暮らす子どもたちの保護、教育、そして権利を守る活動に充てられる。

label : War Child Records / Beat Records
artist : V.A.
title : HELP(2)
release date: 2026.03.06
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15604

・国内流通仕様盤2CD(解説書封入)
・輸入盤2CD
・輸入盤2LP

Tracklist
1. アークティック・モンキーズ - 「Opening Night」
2. デーモン・アルバーン、グリアン・チャッテン&ケイ・テンペスト - 「Flags」
3. ブラック・カントリー・ニュー・ロード - 「Strangers」
4. ザ・ラスト・ディナー・パーティー - 「Let’s Do It Again!」
5. ベス・ギボンズ - 「Sunday Morning」
6. アルージ・アフタブ&ベック - 「Lilac Wine」
7. キング・クルール - 「The 343 Loop」
8. デペッシュ・モード - 「Universal Soldier」
9. エズラ・コレクティヴ&グリーンティー・ペン - 「Helicopters」
10. アーロ・パークス - 「Nothing I Could Hide」
11. イングリッシュ・ティーチャー&グレアム・コクソン - 「Parasite」
12. ビーバドゥービー - 「Say Yes」
13. ビッグ・シーフ - 「Relive, Redie」
14. フォンテインズ D.C. - 「Black Boys on Mopeds」
15. キャメロン・ウィンター - 「Warning」
16. ヤング・ファーザーズ - 「Don’t Fight the Young」
17. パルプ - 「Begging for Change」
18. サンファ - 「Naboo」
19. ウェット・レッグ - 「Obvious」
20. フォールズ - 「When the War Is Finally Done」
21. バット・フォー・ラッシーズ - 「Carried My Girl」
22. アンナ・カルヴィ、エリー・ロウゼル、ニルファー・ヤンヤ&ダヴ・エリス -「Sunday Light」
23. オリヴィア・ロドリゴ - 「The Book of Love」

輸入盤2CD

輸入盤2LP

War Child UKについて
5つの資金調達拠点と14のプログラム・オフィスから成るグローバルな財団、War Child Allianceの一員であるWar Child UKは、戦争の影響を受けるすべての子どもに安全な未来を届けるという、ただひとつの目標のもとに活動している。War Childはパートナー団体とともに、アフリカ、アジア、中東、ラテンアメリカを含む世界14か国で、欠かすことのできない支援活動を展開し、30年にわたる経験と実証済みの手法を活かし、紛争から可能な限り迅速に子どもたちへ支援を届け、メディアの注目が去ったあとも長く寄り添いながら、回復までを支え続けている。

Shintaro Sakamoto - ele-king

 ニュー・アルバム『ヤッホー』が話題の坂本慎太郎、今年最初の国内ツアー、『坂本慎太郎 LIVE 2026 "Yoo-hoo" ツアー』の開催が決定した。今回のツアーは、初の仙台公演を含む、神奈川、東京、名古屋、大阪、福岡、沖縄の全国7都市で開催です。


坂本慎太郎 LIVE 2026 “Yoo-hoo”ツアー

5月5日(火/祝)神奈川県立音楽堂(横浜) 
開場: 16:30 / 開演: 18:00 / チケット: 5,500円 (全席指定)
お問い合わせ先: TONIKAK info@tonikak.com

5月14日(木)Rensa(仙台)
開場: 18:00 / 開演: 19:00 / チケット: 4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: WESS info@wess.co.jp

5月26日(火)ダイアモンドホール(名古屋) 
開場: 18:00 / 開演19:00 / チケット:4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: JAILHOUSE https://www.jailhouse.jp/

5月27日(水)なんばHatch(大阪)
開場: 18:00 / 開演: 19:00 / チケット: 4,800円 ( 1F: スタンディング / 2F指定)
お問い合わせ先: GREENS https://www.greens-corp.co.jp

6月9日(火)昭和女子大学 人見記念講堂(東京) 
開場: 17:30 / 開演: 18:30 / チケット: 6,000円 (全席指定)
お問い合わせ先: SMASH https://smash-jpn.com

6月19日(金)桜坂セントラル(沖縄) 
開場: 18:00 / 開演: 19:00 / チケット: 4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: 桜坂セントラル http://www.nahacentral.com

6月21日(日)Drum Logos(福岡) 
開場: 17:00 / 開演: 18:00 / チケット: 4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: BEA https://www.bea-net.com/


●オフィシャル抽選先行特設サイト
先行受付URL: https://eplus.jp/ss-yoo-hoo/

- オフィシャル先行予約→ 2月5日(木) 20:00 ~ 2月11日(水/祝) 23:59
- 一般発売: 2月28日(土)10:00  

※仙台、名古屋、大阪、福岡、沖縄公演は別途ドリンク代が必要となります。
※枚数制限 / お一人様2枚まで
※年齢制限: 未就学児入場不可、6歳以上チケットが必要

shotahirama - ele-king

 20年にわたり活動してきたニューヨーク出身の電子音楽家、shotahiramaがなんと音楽活動に幕を下ろすという。ラスト・アルバムとして先週1月31日、『A Love Supreme』がリリース。「至上の愛」とはまた印象深いタイトルだけれども、同作はこれまでのソロ活動から厳選された20曲で構成されている(新曲にしてラスト・シングル “NERVOUS” も所収)。グリッチからヒップホップまで、独特の感性で活動をつづけてきた彼の、有終の美を見届けよう。

2006年にENG (エレクトロノイズ・グループ) を結成、09年にグループ解散以降はノイズ/グリッチミュージックシーンでソロアーティストとして活動を続けてきたニューヨーク出身の音楽家shotahirama。そんな彼が2026年1月31日をもって20年の音楽キャリアに幕を下ろすラストアルバムを同日リリースする。最終作は『A Love Supreme』と題され、10年代のグリッチミュージックシーンに大きな潮流を起こした「post punk」をはじめ、レゲエをフュージョンさせた傑作「Maybe Baby」やラストシングル「NERVOUS」など、ソロ転向後の作品から20曲を選曲したベストアルバムになっている。

YouTubeリンク:
『A Love Supreme』アルバムトレイラー
https://youtu.be/CC7C1YnB5Og

『NERVOUS』ミュージックビデオ
https://youtu.be/_J0BSe5a2Ag?si=z8wfw8gJ_5JzkDod

また、本作にも収録されているアンビエントトラック「Nothing But You and Me」が発売から14年の時を経て、映像作家Masashi Okamotoディレクションによる新たなミュージックビデオを公開しているのでこちらも併せて確認したい。

YouTubeリンク:
『Nothing But You and Me』ミュージックビデオ
https://youtu.be/WSxGIWsvwLM

A Love Supreme (Bandcamp Original) by shotahirama

Bandcampリンク:
https://shotahirama.bandcamp.com

1. Cut (from "Cut" SIGNAL DADA, 2018)
2. FIRE IN WHICH YOU BURN (from "GET A LOAD OF ME" SHRINE.JP, 2021)
3. IM ON FIRE (from "Stay On The Light" SIGNAL DADA, 2020)
4. KIDS TRUX (from "Conceptual Crap Vol,5" スローダウンRECORDS, 2017)
5. CRAZY (from "ZOOYORK" SIGNAL DADA, 2024)
6. THE WHOLE NINE YARDS (from by "GET A LOAD OF ME" SHRINE.JP, 2021)
7. You Dub Me Crazy (from "Maybe Baby" SIGNAL DADA, 2017)
8. Do The Right Thing (from "KETURON RIGHTS" SIGNAL DADA, 2018)
9. SLACKER (from "Rough House" SIGNAL DADA, 2019)
10. CANDY STORE (from "DON'T STRESS TOMORROW" SHRINE.JP, 2022)
11. BRAINFREEZEE (from "COLDVEIN" SIGNAL DADA, 2024)
12. FIRE AND ICE (from "APARTMENT" SIGNAL DADA, 2021)
13. STOP FRONTING (from "Rough House" SIGNAL DADA, 2019)
14. Start Breaking My Heart (from "Conceptual Crap Vol,1" スローダウンRECORDS, 2016)
15. Copernicus (from "post punk" SIGNAL DADA, 2014)
16. Nothing But You and Me (from "NICE DOLL TO TALK" SIGNAL DADA, 2012)
17. And The Elevator Music In The World Trade Center (from "Modern Lovers" Duenn, 2014 and Shrine.jp, 2016)
18. Neptune (from "Cluster" Shrine.jp, 2014 and 2016)
19. Cassini (from "Clampdown" SIGNAL DADA, 2014)
20. NERVOUS (from "NERVOUS" SIGNAL DADA, 2025)

about shotahirama:
ニューヨーク出身の音楽家・ビートメイカーshotahirama (平間翔太)。中原昌也、evala、野口順哉(空間現代)といった音楽家がコメントを寄せる。音楽批評家・畠中実による記事『デジタルのダダイスト、shotahiramaがパンク以後の電子音楽で継承するオルタナティヴな精神』をはじめ、音楽ライターの三田格やVICEマガジンなどによって複数のメディアで紹介される。Oval、Kangding Ray、Mark Fell、Ikue Mori等のジャパンツアーに出演。代表作にCDアルバム「post punk」や4枚組CDボックス「Surf」がある。

CoH & Wladimir Schall - ele-king

 コー(CoH)とウラジミール・シャール(Wladimir Schall)による本作『COVERS』は、静謐なピアノの響きと、硬質で冷ややかな電子音/ノイズが交錯し、美しくも深淵なサウンドスケープを展開するアルバムである。
 旋律は断片化され、ピアノの残響は電子処理によって引き延ばされる。もしくは削ぎ落とされる。その結果、本作は「ピアノ作品集」でも「電子音楽作品」でもなく、両者が拮抗しながら共存する不安定かつ精緻な音響空間を生成している。まずは、このアルバムがそうした音の在り方を徹底的に追求した作品であることを明確にしておきたい。リリースはスイスの実験音楽レーベル〈Hallow Ground〉から。

 まず、『COVERS』は一般的に想像される「カヴァー・アルバム」とは大きく異なる作品である点も指摘しておきたい。本作でおこなわれているのは、原曲をそのまま演奏し直したり、わかりやすく現代的にアレンジしたりすることではない。そうではなく、楽曲の内部に含まれている構造や時間の流れ、そして聴き手の記憶に残る感触を丁寧に取り出し、それらを一度解体したうえで、まったく別のかたちに再構築する試みが行われているのである。『COVERS』というタイトルは、その意味で意図的に挑発的だ。本作は「カヴァーとは何か」を問い直すところからはじまっているからだ。

 アルバムについて語る前にまず最初に、コーことイワン・パヴロフ(Ivan Pavlov)の経歴を簡単に振り返っておきたい。彼は1990年代後半から国際的に活動してきた電子音楽家である。ロシア出身で、旧ソ連崩壊後の混乱期を背景にキャリアをスタートさせ、活動初期からノイズ、インダストリアル、ドローンといった領域に関心を向けてきた。
 2000年代以降は、〈Raster-Noton〉、〈Editions Mego〉といった実験音楽/電子音楽の重要レーベルからも作品を発表した。現在はストックホルムを拠点に、電子音楽の境界を横断する制作を続けている。
 コーは多彩なレーベルから楽曲をリリースしているが、重要なのは〈Raster-Noton〉と〈Editions Mego〉からのリリース作品であろう。〈Raster-Noton〉の作品では、『Mask Of Birth』(2000・のちに〈Mego〉からも再リリース)も重要だが、特に2007年にリリースされた『Strings』(2007)が決定的なアルバムであった。ストリングスの音を電子的に解体し、クリック・ノイズやデジタル・グリッドを基盤とした厳格なミニマリズムを実践しているのだ。音は空間に配置される抽象的な「構造体」として扱われていたように思える。彼の作品のなかでもシリアスな作風といえよう。その現代音楽的な音響は、『COVERS』に通じている。
 その一方、〈Editions Mego〉からの作品群はよりヴァラエティに富んでいる。グリッチ以降のインダストリアル・サウンドの傑作『0397POST-POP』(2005・これは〈Mego〉時のリリース)、ギター・ノイズの粗さや歪みを強調したメタ・メタリックな『IIRON』(2011)、リズミックなビートやヴォーカル(ヴォイス)入りのポップな『Retro-2038』(2013)、『TO BEAT』(2014)など、よりヴァラエティに富んでいる。そして2016年リリースの『MUSIC VOL.』では不安定なノイズと静謐な音響空間が交錯するサウンドを構築する。続く2017年の『COHGS』では多彩なゲストを召喚し、不安定なノイズからリズミックなトラック、ヴォーカル導入まで、〈Editions Mego〉期の集大成ともいうべきアルバムに仕上がっていた。このひとつのスタイルや音響に留まらない姿勢こそ、コーの音楽が単なるミニマリズムにとどまらない理由でもある。
 また、コーのサウンドを理解するうえで、コイルのピーター・クリストファーソンとの関係も決定的である。クリストファーソンと共に活動した Soisong は、コーのキャリアにおける重要な転機となった。音楽を完成された作品ではなく、環境や儀式、経験と結びついた出来事として捉えるピーター・クリストファーソンの思想は、コーに強い影響を与えた。音の不完全さや偶発性、聴取状況によって意味が変化するという考え方は、Soisong 以降のコー作品において重要な軸となった。音楽を「機能する装置」として捉える視点をより明確なものにしていったのである。
 本作の共作者ウラジミール・シャールは、パリを拠点とする作曲家で、クラシック音楽および実験音楽の文脈を背景に持つ。音そのものの質感や沈黙、反復によって生まれる感覚のズレに強い関心を持ち、2020年にはエリック・サティの “Vexations” を無限にループさせるカセット作品を発表している。既存の楽曲を「完成された作品」として固定するのではなく、聴かれ続ける過程で意味が変容していくものとして捉える姿勢が、シャールの制作のコアにある。
 このふたりは「音」そのものに対する思想的な共通点を持ちながらも、明確に共同名義で制作された作品は本作が初めてであった。本作『COVERS』は、コーとシャールが本格的にタッグを組み、それぞれの考え方や手法を一つの作品世界の中で結びつけた最初の成果と言える。その意味で本作は、単なる企画的な共作ではなく、両者の関心が自然に交差した結果として生まれた作品でもある。
 本作をリリースした〈Hallow Ground〉というレーベルの存在も、『COVERS』を理解するうえで重要だ。〈Hallow Ground〉は、現代音楽、実験音楽、サウンドアートを横断しながら、ジャンルよりも聴取のあり方そのものを問い続けてきたレーベルである。静けさ、持続、反復、微細な変化に耳を澄ませる態度を要請する点で、〈Hallow Ground〉のカタログは一貫して能動的な聴取を前提としている。ピアノと電子音、記憶とノイズの関係を再構築する『COVERS』は、その美学と強く共鳴する作品だ。

 『COVERS』は全7曲から構成されており、そこには明確な戦略がある。ピアノによる既存曲を出発点としながら、電子処理とデジタル操作によって、聴き慣れた旋律や和声の内部から「異物」を浮かび上がらせること。これらの楽曲は「音楽の機械装置を、欠陥も含めて誠実に露出させる」ための一連の装置として構想されている。楽器や楽曲の不完全さを補正するのではなく、その脆さをそのまま提示する態度が、アルバム全体を貫いている。
 1曲目 “MERRY XMAS MR ERIK” は、坂本龍一の “Merry Christmas Mr. Lawrence” とエリック・サティを重ね合わせることで、本作の核心を明示する楽曲だ。あの有名な旋律は、完全な形で現れることなく、響きと電子子ノイズの間を漂う。そうすることで坂本とサティが同じ「響き」を持っていることをあぶり出す。
 6曲目 “GNOSSIENNE À RYUICHI” でも、坂本龍一とエリック・サティというふたりの「静かな急進性」が結びつけられる。フランス近代音楽が切り開いた機能和声から解放された音色と余韻の美学は、直接的な引用ではなく、音の扱い方として継承され、電子的操作によって再び解体されていく。ちなみ坂本龍一は、コーの『To Beat Or Not To Beat』に坂本がリミックスの提供などをしている。
 1978年のソ連アニメ短編『Контакт』や『Ну, погоди!』シリーズに着想を得たという2曲目 “KOHTAK”、少ない音階の旋律を音色を変換しつつ展開する3曲目 “OKOLO KOLOKOLA” などは、音楽的記憶が歪み、変化を遂げていく過程をトレースしているかのようだ。アルバム中でももっとも静謐な印象を残す楽曲だ。
 4曲目 “SOII BLANC” では、コー自身の過去曲 “Soii Noir” (2011年リリースのアルバム『IIRON』に収録)をモートン・フェルドマン的な静謐なミニマム感覚を媒介に再構築し、自作すらも「他者の作品」として扱う姿勢を明確にする。そして5曲目 “SNOWFLAKES” は、存在しない原曲をカヴァーするという逆説的な試みであり、ノスタルジアという感覚の不確かさを露わにした。そして、アルバム最後に置かれた7曲目 “STAROST NE RADOST” では、喜びと悲しみ、親しみと疎外の境界が曖昧に揺らぎ続ける。

 『COVERS』はコーの単独作とも明確に異なる位置にあるアルバムだ。何しろ本作は「すでに存在する音楽の記憶」そのものが素材として扱われているからだ。構造を構築する存在から、記憶と聴取のズレを媒介する存在へ。この視点の転換こそが、『COVERS』をコーのディスコグラフィの中でも特異な作品へと位置づけている要因といえよう。
 要するに過去の名曲を懐かしむための作品ではない。音楽の記憶がどのように現在に作用し、変わり続けていくのかを静かに示すアルバムなのだ。耳を澄ませることで、知っているはずの音楽がまったく異なる表情を見せる。その体験こそが、本作最大の魅力といえよう。

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