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追悼:KAGAMI - ele-king

2010年5月25日、多くのひとに愛されリスペクトされたKAGAMIこと加々美俊康くんが突然この世を去ってから、はや1ヶ月以上の時間が経とうとしている。あまりにショックで、混乱し、葬儀のあともなかなか自分自身にフォーカスを戻すことができない日々がつづいたが、ようやくこうやって、彼のことをまとめて振り返ろうかと思うことができるようになった。

 実際のところ、2005年に3枚目のアルバム『SPARK ARTS』をリリースして、フロッグマンから独立して以降はKAGAMIとじっくり話したりする機会はほとんどなかった。だから、僕の知ってるのは、まだ18歳の学生で右も左もわからないくせにやけに自信だけはあったころから、ある程度コマーシャルな成功を経験して、これから第3のステップに移行するにはどうしたらいいだろうか、と考えているような時期までのことだ。ただ、95年のデビューから05年までという濃密な10年、とくに彼にとっては多感で重要な10年をいっしょに過ごせ、彼を通してでなければ絶対に見られなかったし経験できなかったことを、僕らにいっぱい与えてくれたことには、改めて感謝したいし感慨をおぼえる。
 2010年5月25日、多くのひとに愛されリスペクトされたKAGAMIこと加々美俊康くんが突然この世を去ってから、はや1ヶ月以上の時間が経とうとしている。あまりにショックで、混乱し、葬儀のあともなかなか自分自身にフォーカスを戻すことができない日々がつづいたが、ようやくこうやって、彼のことをまとめて振り返ろうかと思うことができるようになった。

 KAGAMIとの出会いの話は何度も書いたし話したけれど、もしかしたら後年彼のファンになったような人の目には触れてないかもしれないので、再度そこから話をはじめよう。
 1995年、アシッド・ハウス復興やジャーマン・トランスの栄華、デトロイト・テクノ再評価~インテリジェント・テクノ流行みたいないっさいの流れを嘲笑うかのように、突如グリーン・ヴェルヴェットに代表されるシカゴ発のチープで狂ったダンス・トラックがフロアを席巻した。トランスを作ろうとして、ヤマハのQY20(入門者向け格安シーケンサー)とモノラル音源のサンプラーしか持っていないから似ても似つかない音しか出せなくて悩んでいた加々美くんは、シカゴのチープでプアだがファニーで踊れる音が耳に入って、「これなら僕にも作れる!」と俄然やる気を出した。そうしてできたのが、デビュー曲となった"Y"だ。
 当時、まだ日本では踊れるトラック、DJ向けのツールを積極的に作ろうというアーティストはほとんどいなかった。水商売的な部分のつきまとうDJとオタク的な内向性をもった打ち込みをやる人のあいだには、相当深い溝があった。だからこそ、僕らは加々美くんのデモを聴いて狂喜した。ヒデキや「フロッグマンだからカエルだろ」という安直でしかし誰の真似でもないネタをそのままフックに持ってくるストレートさ。ただの4つ打ちではない複雑でファンキーなリズム、荒削りだけどパワフルで、きっとアナログにしたらレコード屋で売ってる「いまいちばんホットな曲」とミックスしても負けてない音。どれもが新鮮で、興奮させられた。しかも、連絡してみると、まだ18歳だという。そうして、加々美くんはKAGAMIとなって、異例のスピードでデビューすることが決まった。

 2枚目のシングルは、「Beat Bang EP」と名付けられた。アナログの盤面には、KAGAMIが全部手書きしたテキストとカエルが泳いでいるイラストが添えられている。Beat Bangというのは「ビート板」のもじりで、なぜビート板にこだわったのか忘れてしまったけど、そのネーミングにも独自の論を切々と話してくれた(この曲のシリーズに色がついてるのは、戦隊モノへのオマージュ)。そもそもこのシングルのリード・トラックは、TM Revolutionのリミックスという大仕事が入ったときに、好き勝手やりすぎてNGを喰らい、そこから声や原曲の要素をすべて排して作り直したものだった。プロのエンジニアとスタジオでの作業というのを初めて経験して、KAGAMIも気合いが入っていた。
 当時ジョシュ・ウィンクとかやたらに流行っていた長~~~いブレークがあってその後大盛り上がりのピークに持っていくという手法をここでもやっているんだけど、"Beat Bang Blue"の狂気のブレークは、どんなパーティでもフロアを爆発させる力をもっていた。よく覚えてるのが、96年の夏にベルリンでTOBYがオーガナイズしたパーティでDJさせてもらったときのことで、90分の持ち時間のピークで僕はプラスティックマンの"Spastik"とこの曲を使った。終わったら、興奮した現地の若者が駆け寄ってきて「すごい良かった! 次はいつプレイする?」って訊いてくれて嬉しかった。そんなことがあって、KAGAMIというアーティストは海外でも通用する曲を作れる。もっと売り込まなくちゃという思いを強くしたんだ。

 ただ、実際には多くのDJがKAGAMIに目を向けてくれたのは、1998年のファースト・アルバム『The Broken Sequencer』だった。例えば、カール・コックス。あれはたしか、カールが〈Yellow〉でプレイした日だった。少し早めに〈Yellow〉に行って、プレイ前にバーでくつろいでいたカールを見つけて話しかけると、彼は当時かなり珍しかった日本のアーティストのレコードに興味を持ってくれた。白盤だから手書きの曲名しかなかったわけだけど、KAGAMIの独特のセンスが輝く曲名はカールに大受けで、「Elefant's Discoとか、なにこれ? 最高だな」と腹を抱えていたのを思い出す。その晩、事前に聞いていたわけでもないそのアナログの曲がいきなり2曲もかかるとは思ってもみなかった。その後も彼はこのアルバムをお気に入りにして世界中でプレイしてくれたようで、自らのDJチャートの1位に選んでくれたりBBCの名物番組「Essential Mix」でもプレイリストに挙がって、それをきっかけにUKや欧州のひとからも問い合わせが来るようになった。
 トーマス・シューマッハは"Beat Bang Black"をえらく気に入って、自分のレーベル〈Speil-Zeug Schallplatten〉でライセンス・リリースしてKAGAMIが本格的にドイツで認められるきっかけを作ってくれたし、ヘルはそのアルバムを丸ごとライセンスしたいとまで言ってくれた。たしかあのとき、ヘルは日本に来る飛行機でレコードを紛失して、急遽テクニークでレコードを買い漁っていて『The Broken Sequencer』を見つけたんだと言っていた。ヘルもそのとき一晩で何曲もKAGAMIの曲をプレイしていて、まぁそういう緊急事態だったとはいえ、すごく驚いた。
 実はあの2枚組アナログ、ヘルもドイツでは買えないと思い込んだほどだし、大半が日本で売れて、欧州ではかなりコアなひとたちが買ってくれただけだった。でかいところだしと安心して任せたドイツのディストリビューター〈EFA〉(04年に倒産)は、実際のところなんの宣伝も売りこみもしてくれなかった......アーティストが現地で活躍してるわけでもなく、レーベル側でもプッシュする人間が誰もいないという状況でしっかり売ってもらおうというのが無理な話だったのだ。ただ、そんな盤をちょこちょこ使ってくれて、日本で知名度をあげてくれたのは石野卓球だった。
 当時卓球は、J-Waveのラジオ番組でDJミックスを流していたんだけど、そこで自分の曲がかかった! ってすごく喜んでいたKAGAMIの顔はいまでも忘れられない。それ以前はあまり意識してなかったけど、KAGAMIも思いっきり電気グルーヴ直撃世代であったのだ。たぶん、僕や佐藤大が電気のふたりとかなり近い間柄ということもわかっていたから、あえてそういう話を自分から積極的にする機会は多くなかったのだろう。まさかそのころは、KAGAMIが電気グルーヴのステージに立ったり、リミックスを依頼されたりするようになるなんて、誰も思ってなかった。世界のトップDJたちに絶賛されることより、石野卓球や電気グルーヴと接点ができる方がよほど「夢」みたいな話だったんだ。

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当時、まだ日本では踊れるトラック、DJ向けのツールを積極的に作ろうというアーティストはほとんどいなかった。水商売的な部分のつきまとうDJとオタク的な内向性をもった打ち込みをやる人のあいだには、相当深い溝があった。だからこそ、僕らは加々美くんのデモを聴いて狂喜した。


電気グルーヴの香港ライヴにて(2000年)。

 いま考えるとかなり不思議な感じもするが、かなり長いあいだKAGAMIはライヴをやることを頑なに拒んでいた。友だちのパーティとか、限定された機会に実験的にやることはあったかもしれないが、公式にライヴをやると告知してしっかりセットを組み立てたのはずっと後になってのことだ。最初はお世辞にもうまいとは言えないプレイだったし、呼んでくれるパーティもほとんどなかったが、KAGAMIはずっとレコードを愛していてむしろDJをやることにすごく真剣に取り組んでいた。タバコも吸わないし酒も飲めない、どんちゃん騒ぎしたりフロアで激しく盛り上がるタイプでもないKAGAMIが、クラブというもしかしたら彼の肌にしっくりくるわけでもない職場であんなに長くすごせた理由。ただ音楽の知識とかDJテクニック的なことじゃなく、レコードを掘る楽しみとかお客さんと対峙する姿勢とか夜遊びのコツとか、たぶんそんなもろもろを肌で吸収したのは、DJ TASAKAを通してだったんじゃないかと思う。
 たぶん、TASAKAもまだ大学生だったと思うんだけど、浅草にあった(後に青山に移転)レコード屋〈ダブ・ハウス〉で彼がバイトしていたら、いつの間にか入り浸ってずっとレコードを聴いてる迷惑な客だったKAGAMIがレジ・カウンターの内側にいた。当時、まだKAGAMIも専門学校を卒業したばかりか、在学中だったはずだから、暇はあるけど金はないってとき。最新のレコードを聴き放題で、気が向いたら店のターンテーブルでDJすらできて、なおかつお金がもらえるというのはおいしすぎるバイトだったろう。最近になっても、友だちの洋服のショップで「レジ打ちなら得意だから、人手が足りなければ手伝う」などとうそぶいていたようだが、たぶん、このときが彼にとって数少ない「ふつうの」仕事をした経験であったのと同時に、TASAKAという得難いパートナーとの出会いとなったのだった。
 たしか、TASAKA自身、この店に客として来ていた卓球にデモテープを渡して、だんだんとキャリアが開花していったはずだから、短命だったこの店は、実は日本のシーンにとってとても重要な役目を担っていた。――というか、海外だったらDJが店員という店はたくさんあるが、ほとんど床で寝ているかレコード聴いてるだけだったという噂もあるKAGAMIを雇うというのはすごい経営判断だったと思う。ちなみに、この店を仕切っていた女性は、のちにDJ TASAKAの夫人となる。
 その後、意気投合したKAGAMIとTASAKAのふたりは、〈DISCO TWINS〉という名前のパーティをスタートさせる。たぶん、〈DISCO TWINS〉はふたりのユニットだと思ってるひとも多いだろうが、あくまで最初はふたりの共通の音楽要素であるディスコに的を絞ったパーティだったのだ。そのうち、それぞれが交代でブースに上がるだけでなく4ターンテーブル2ミキサーでいっしょにDJをしはじめ、まずはミックスCDを出すことでユニットとしての形を提示、そこから曲の制作にもどんどん乗り出して、最終的にはアルバムを出したり吉川晃司をフィーチャーしたプロジェクトなどもおこなった。
 最近でこそ複数人が同時にステージに上がりひとつの流れを作るというスタイルでプレイするDJも結構いるけど、リアルタイムに目配せしつつお互いのネタ出しを瞬時にやって、個性を殺し合わずものすごいプラスを生みだしているというコンビは、ほとんど見たことがない。それぞれは意外に照れ屋だったり飽くなき挑戦心をもってるふたりが、いろんな殻やしがらみやらかっこつけやらを脱ぎ捨てとにかくパーティ・モードで盛り上がれる音を全力で若いクラバーにぶつけたDISCO TWINSは、とても貴重な存在だったし熱いエネルギーを持っていた。
 訃報を伝える電話をTASAKAからもらったとき、僕はもうほかから話を聞いていてわかわからなくて悲しくて半泣きだったけど、彼は無理矢理笑って直前の週末にいっしょにDJしたことや、なんで突然逝ってしまったのか全然わからないってことを話してくれた。それで「たぶん、まちがって電源落としちゃったんじゃないかなぁ、あいつバカだよなぁ......」って言っていて、こんなときでも機材の連想が浮かんでしまうんだろって容易に想像できるテクノ馬鹿一代ふたりの、スタジオや楽屋での会話やなんやかんやが想起されて、本当にやり切れない気持ちになってしまった。

 KAGAMIと言えば、やっぱり2000年にリリースされた"Tokyo Disco Music All Night Long"だと皆が言うだろう。いまだにiTunes Storeなどで売れ続けているし、アナログ盤が世界で5000枚以上売れ、ドイツではメジャーがライセンスし、くるりの岸田くんやサニーデイの曽我部くんが絶賛し、2 Many Dj'sが無断でネタにしたというこの曲は、ジャパニーズ・テクノの歴史のなかでいちばん成功を収めた楽曲のひとつだと言っていいと思う。しかし、この曲がああいう形で世に出ることになったのも、本当にただの偶然だった。ヘルがデビュー・アルバムをかなり気に入ってくれて、彼のレーベル〈Gigolo〉がニューウェイヴ・リヴァイヴァル的な流れを作って、ミス・キティンとかゾンビ・ネーションみたいな新しいスターを生みだしはじめたころ、KAGAMIは〈Gigolo〉からのシングルとして、「Tokyo EP」用の2曲を作った。それ以前のファンクを感じる黒っぽいディスコ・リコンストラクトからジョルジオ・モロダー的なエレクトロ・ディスコへと完全にシフトし「これが東京のディスコ、東京のテクノだ」と思いっきり打ちだした。最初から〈フロッグマン〉で出そうとして作ったらここまで恥ずかしげもなく東京! と連呼するアッパーそのものの曲はできなかった気がする。敬愛するヘルの懐へ飛び込もうとしたからこその、この思い切りだったのだ。
 しかし、僕が丁寧な手紙をつけてDATを送っても、しばらくレスポンスはなかった。曲を聴いたこちら側の人間は誰ひとりとして熱狂しない者などいなかったのに......。しびれを切らして何度か電話したりして催促すると、どうもヘルは思っていたのと違うタイプの曲だったからとリリースに乗り気でないという返事がきてしまった。「じゃあいいよ、これだけサポートしてくれて、気に入ってくれてる〈フロッグマン〉で出そうよ」とKAGAMIは言った。それで、新しく決まったドイツのディストリビューターに音を送って、心機一転再度欧州での成功を目指す〈フロッグマン〉の久しぶりのアナログとしてリリースされたのだ。その後、卓球はじめあらゆるDJがサポートしてくれ、本人は出てないのに〈WIRE〉で何度もかかりまくり、数ヶ月後にアナログが発売されるとどこの店でも売り切れになって空前のヒットになっていったのはみなさんご存じの通りだ。いつだったか、ベルリンのクラブでヘルがこの曲を嬉々としてプレイしているのを見たときはビックリした。あれ、気に入らなかったんじゃないの? と。でも、神のいたずらか、ああいう形でこの曲が世に出たことは、KAGAMIのそれからの音楽人生を大きく変えることになったのだった。

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KAGAMIは、動物的な勘とカッコイイことに異常なこだわりをもったアンファン・テリブルという姿からずっと変わらなかった。子供がやるように機材を手に入れるとすぐにシールだの落書きだので自分仕様にして、おもちゃで遊ぶようにただただ本能に従って音を出しては「あはは」と笑っていた。


KAGAMI サウンドの心臓、2台のMPC2000、ステージ楽屋で(2002年)。

 "Tokyo Disco..."のヒットでKAGAMIにはふたつの大きな変化が訪れた。電気グルーヴのサポート・メンバーとして声がかかって雲の上の存在だと思っていた卓球、瀧と一緒に長い時間をすごし、ライヴごとにアレンジやアプローチが変わる電気グルーヴのトラック制作の重要な部分を任されることになった。これは、たぶん彼にとってとてつもないプレッシャーになったはずだが、僕らには愚痴も文句も泣き言もなく、あの飄々とした様子でサポートをつとめた。それどころか、卓球の要求に応えたり横でいっしょに作業したりすることでメキメキと実力をつけ、無尽蔵と思えるほど曲のアイデアが湧いて次々驚かされるような曲を作ってくるようになったのだ。普通あれだけのヒットを出したら次どうするかと悩むだろうし、DJやリミックスの仕事が急に忙しくなったらそっちに時間を取られてなかなか次の曲が作れないというアーティストも多いのに、KAGAMIはまったく逆。そうして、CMJKも砂原良徳もずっとは続かなかった毒の強すぎる石野+瀧のコンビと昔からずっとそこにいるように馴染んでるのも衝撃だった。ステージで瀧にいじられたり、インタヴューでなにかとKAGAMIの話題が出てきたり、篠原までもがKAGAMIと仲良くなっていたりと、なんだかマスコット的なポジションに収まりつつあるのは、親心的にいつも嬉しく思っていた。
 いっぽうで、それまでも頑固で秘密主義だった彼の制作スタイルは、ますます神秘のベールに包まれるようになった。意見は求めても指示やディレクションはまったく要らないという傾向が、いっそう強くなっていった。もしかしたら、友だちにはもっとアドヴァイスを求めていたのかもしれないし、僕も全然関係ないこと(iPodとかパソコンとかゲームの相談とか......)では何時間も電話で話すこともよくあったけど。
 もうひとつ、メジャーのワーナーから話をもらって、セカンド・アルバムの『STAR ARTS』はそれまでに比べたら潤沢な予算を使って制作することができた。そこで爆発したのが、とくにアートワークや作品としてのアルバムの見せ方など、KAGAMIらしいこだわりだった。ずっと仲のよかった新潟のファッション・デザイナー関くん(Submerge / TAR)に大きな油絵を描いてもらい、それを全面にプリントしたデジパックのパッケージは、帯とディスク下にトレーシング・ペーパーを使いジャケ自体にはほとんど文字情報がなく、盤自体は2枚組にするという贅沢な仕様だった。しかも、2枚組の2枚目はどうしても「なんだこれ?」とリスナーが混乱するようなものにしたいと言って、譲らない。最初は、まったく同じデザインなんだけど1枚は空のCD-Rにしようと言っていたがそれは却下され、「カガミだから、鏡像にしよう。デザインもひっくりかえしたものにして、音は1枚目の音を全部逆回転して入れよう! カーステレオで聴こうと思ってCD入れたら、びっくり! みたいなものにしたい。それでも最後まで聴いてくれたら、なにかいいことがあるような、そんな2枚目がいいよ」と、とても【新人でよくわからないインストのダンス音楽やってるアーティスト】とは思えない無謀なアイデアを連発して、どうにかこうにか、それを了承してもらった。それをメジャーの人たちが納得するわけないだろう......という侃々諤々の話し合いを何十回もした記憶がある。あのアルバムは本当に大変だったなぁ。
 ただ、この頃からもう、自分の役目はいっしょに「あーでもないこーでもない」って彼の突飛な発想に乗っかって遊ぶと言うより、どうにかしてそれを実現させようと大人と交渉したり予算を持ってきたりときにはKAGAMIに諦めてもらったりという、どうにも嫌な役回りばかりになった。もちろん、子どもみたいに突っ走ってしまうことも多かった彼を誰かがコントロールしないと、というシーンも増えていた。アート志向の強い前出の関くんの影響も大きかったのかもしれないが、後から振り返るとKAGAMIの「やりたい!」と言ったことは無謀であっても面白いことがたくさんあった。まだパソコンの性能も低かったし個人でProToolsを操るひともいなかったから、けっこうな予算を使ってエンジニアにスタジオで曲をHD上で編集してもらってミックスを作っていくというのは間違いなくその後のKAGAMIのライヴでの構成や音作りに役立ったし、〈WIRE〉のライヴ音源をCDにしたいという卓球からの依頼で作った『WIRE GIGS』(タイトルは、加々美くんが大好きだったBO?WYからのインスパイア)では、「音を作らなくていい分ジャケにこだわりたい」と言ってコンセプトを「プリクラ」に定め、〈WIRE〉の映像をプリクラ状に大量にプリントした上で自分でコラージュしてアートワークを作り込んだ。このときの経験は、息子とともに手書きでクレジットから何から仕上げたミックスCD『PAH』につながっているだろう。

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僕はよくあいつに言ってた。「どこのメジャーなレコード会社にもマネジメントにも所属しないで、最初からDJユースのテクノだけを作って、自分のやりたいようにやって成功してたKAGAMIは、ほんとかっこいいと思うよ」って。少なくともこの国だけで見たら、そんな人はほとんどいないんだし。


ついにWIREのメインステージに登場。緊張の面持ちでリハーサル(2003年)。

 そうやって、なんでもかんでも自分で抱え込んで、自分の理想にできるだけ近づけようと突っ走るKAGAMIは、人知れず大きな疲労をためてしまっていたのかもしれない。よりプロフェッショナルなプロダクションで、ナカコー、シーナさん、MEGちゃん、カオリちゃんと夢のようなヴォーカル・ゲストを迎えて作った彼のオリジナル・アルバムとしては最後の作品になった『SPARK ARTS』では、制作過程でこれが〈フロッグマン〉と作る最後の作品という決断を切り出された。その数年後、運営がうまくいかなくなって、〈フロッグマン〉を続けられなくなってしまったという話を深夜に電話で切り出したときは、口にこそ出さなかったけどこれ以上ないくらいショックを受けているようだった。"僕が愛して僕がデビューして僕とともに歩んだレーベルは、永遠にかっこよくあって欲しい"という想いがたぶんいつもKAGAMIのなかにはあって、その期待を裏切ってしまったのだから。
 だから、一旦ピリオドを打つための盤となる〈フロッグマン〉のベストを作る決心をした際も、「いやぁケンゴの気持ちはわかるけど、僕にとっても〈フロッグマン〉は大切だし、納得いかない【ベスト】作るくらいなら出さないで欲しい」と言われた。じゃあKAGAMIが全面的に協力してやってくれるのかと聞くと、自分から独立したわけだし、ほいほいと愛憎まみえるレーベルの墓標になるかもしれない作品に手を貸すと言うわけもなかった。少しわだかまりのあるまま、既存の曲の使用と最後のパーティへの出演だけは認めてもらって、バタバタと〈フロッグマン〉は休眠。その後は、たまにクラブの現場で挨拶するくらいになっていた。
 どちらかと言うとプライヴェートで近いところにいたMOAくんのレーベル〈Carizma〉でシングルを出したり、前出の『PAH』やベスト盤『BETTER ARTS』を出したりと、ゆっくりと再始動のアクセルをふかしはじめていたように見えていたKAGAMI。実は、やはり別のレーベルから出す予定でお蔵入りになってしまったかっこいいミニマルのトラックが手元にあって、僕はそれが大好きだったからベストで使いたいと話したら、「自分で手を加えてリリースするつもり」と言っていたのに、結局それらはリリースされなかった。そういうどこかに眠ってる曲や、途中までできてる曲がたくさんあるはずなのだ。そろそろ、完全な新作、まったく新しいKAGAMIの姿を拝めると期待していた。もちろん、これから彼の友だちやまわりの人の手で発見された未発表の曲が作品として出てくることはあるかもしれないが、本来あいつは自分で納得してないものは、絶対出さないし聴かせるのすら嫌がる男だったから、それらがどんな形でお目見えするはずだったかは、永遠にわからない。

 いつだったか原稿で、「テクノとインヴェーダー・ゲームやるのは同じだよ」みたいなKAGAMIらしい発言をして、インタヴュアーの野田さんが頭上に「?」を浮かべて困ってるというのを読んで爆笑したことがあった。彼の言葉はときに通訳が必要なこともあったし、器用に生きてるとも言えなかったが、誰に聞いても彼の言動は彼なりの筋が通っていたし、天才を感じさせる瞬間がたくさんあった。僕と佐藤大は、自嘲的に「凡才インディーズ」なのだと自分たちのやってることを説明している時期があったけど、凡才の僕らだからこそなんだか得体の知れない生き物みたいなKAGAMIのポテンシャルに最初からやられてしまったし、自分の限界が簡単に見えてしまう凡才だからこそ、KAGAMIの聴かせてくれた音、見せてくれたすごい景色に、「こんなすごいものがあるなら、まだ次がもっと次が......」とどんどん欲が出て、それが彼のような独特のアーティストを育てていく下地になったんじゃないかと思う。
 正直言って、僕にとってのKAGAMIは、動物的な勘とカッコイイことに異常なこだわりをもったアンファン・テリブルという姿からずっと変わらなかった。子供がやるように機材を手に入れるとすぐにシールだの落書きだので自分仕様にして、おもちゃで遊ぶようにただただ本能に従って音を出しては「あはは」と笑っていた。口べたで、真剣に音楽の話をしようとしても「うんうん」とちゃんとわかってるんだろうかと不安になるような相槌ばかりだった。だからこそ、彼のトーンやリズムは饒舌だったし、それがたくさんのひととコミュニケーションするためのツールだったんだと思う。一方で、岡村ちゃんとかオザケンとかクラムボンとか、独特の歌詞や世界観をもったポップスのアーティストを愛していたKAGAMIにも、もっと情緒とか人間性とか、なんというかいつものシンプルな形容詞では言えないようなことを表現したいという欲求はあったと思う。そういう話をもっとできなかったのは残念だった。もしかしたら自分の息子が大きくなってきて対話したりするなかで、そういう閃きを得ていたかもしれないなとも思うだけに。

 実は、KAGAMIの訃報を載せるためにものすごく久々にフロッグマンのサイトに手を入れたとき、僕はもうこのままフロッグマンは永遠に眠りつづけるのだろうと勝手に思っていた。例えば、何年か後にまだ第一線で活躍していて、一緒にやろうよとかなにかそんなプランが芽生えて実現する可能性のあるアーティストは、たぶんKAGAMIしかいないだろうから。リョウ・アライもヒロシ・ワタナベも、最初〈フロッグマン〉で作品を出してその後立派なアーティストとして羽ばたいていったひとたちは、きっと僕らがレーベルやっていなくても別の形で世に出たり活躍していたと思うけど、KAGAMIというアーティストはたぶん、かなりの部分僕らが育てたと言える存在だった。そのKAGAMIがいなくなってしまったいま、もう復活することは二度とないんだろうなと。
 BPM133と135の曲ばかり作っていたKAGAMIが、まるで彼の愛したレコードみたいに33で逝っちゃうなんて、なんでこんなことが現実に起きるんだろうとしばらくはぐるぐる考えた。たしかに、僕はよくあいつに言ってた。「どこのメジャーなレコード会社にもマネジメントにも所属しないで、最初からDJユースのテクノだけを作って、自分のやりたいようにやって成功して、誰かの決めたルールや道筋なぞって生きてるわけじゃないKAGAMIは、ほんとかっこいいと思うよ」って。少なくともこの国だけで見たら、そんな人はほとんどいないんだし。だからって、こんなに早く死んじゃって、そんな伝説まで作らなくてもよかったんだよ。ぜんぜん笑えないし、最悪のサプライズ・パーティ in 町田だったよ、まったく。
 何を聴いても、たくさんの情景が浮かんでしまってキツイからしばらく聴けないなと思っていたKAGAMIの曲。しんみりする作品なんてひとつもなくて、ずっと元気にリズムを打ち鳴らしつづけるあれらの曲なのに、それを本人のお葬式でずっと聴くことになるなんてな。でも、そうやって耳にしたあのタフでアッパーなトラックに鼓舞されたのか、式の最後に、佐藤大や、たくさんの世話になった人たちからも、「せっかくだから何かやろうよ、フロッグマン、眠ってるだけなんでしょう?」と意外な声をかけられて、ああそういう風にも考えられるのかと驚いてしまった。まったく柄にもなく、縁取りもつみたいなことしてくれちゃうんだ、KAGAMI......と。たしかに、残された者は、アゲてくしかないんだよね。わかったよ。Party Must Go On. Disco Music All Night Long!

KAGAMI Classic 10 Ttrax

1. Tokyo Disco Music All Night Long (「TOKYO EP」 / 2000 / Frogman)
めまぐるしく表情を変えながらすべてをなぎ倒してスクラップ&ビルドしていくような迫力あるトラックと、ヴォコーダー声でKAGAMI自身が唄う東京賛歌。リミックスも多数あるが、やはりオリジナルが素晴らしい。クラシック。

2. Perfect Storm (「The Romantic Storm EP」 / 2000 / Frogman)
『WIRE01 Compilation』にも収録され、KAGAMIのWIREデビューとともに記憶される曲。印象的なワンフレーズとヴォイス・サンプルの執拗な繰り返し、フィルターの極端な開閉で表情が変わりビルドアップしていく。まさに嵐を呼ぶかのよう。

3. Tiger Track (「Tiger Track」 / 2005 / Frogman)
そういえば何枚かブラジルもののレコード貸したままになってるな...と思い出されるバトゥカーダ的リズムの錯綜する激しい曲。監督の希望でアニメ『交響詩篇エウレカセブン』の音楽として起用され、重要な戦闘シーンで何度もかかる。

4. PC Na Punk De PC Ga Punk (『Spark Arts』/ 2005 / Platik, Frogman)
KAGAMIのソングライターとしてのユニークさが聴ける。リミックス担当した大昔のシーナ&ロケッツの曲のイメージでシーナさんに唄ってもらったら迫力がありすぎたので、急遽MEGちゃんとの掛けあい曲として完成させた。

5. Machicago (「Splinter EP」 / 2002 / Frogman)
シカゴのゲットーからアシッド・ハウスやゲットー・ハウスが生まれたなら、地元町田だってゲットー感なら負けてないから、町田ならではのサウンドがあるはずだと言って作った曲。DJ Funkあたりを彷彿とさせる恐ろしくファンキーなリズムと「Pump It Up!」の掛け声が強烈。

6. Hyper Wheels (『The Broken Sequencer』 / 1998 / Frogman)
ヘルがこの頃のKAGAMIのことを、「Jeff Mills meets Daft Punkだ!」と言っていて、たしかに芯の太いビートと荒々しいディスコ・サンプルで構成されたスタイルはそういう雰囲気。ファースト・エディに捧げられたようなこのトラックは、踊れるグルーヴ作りに天才的な閃きをもつ彼の実力を早くも感じさせる。

7. Y (「Y EP」 / 1995 / Frogman)
本文中にも出てきたデビュー曲。Bサイドはカエルが歌うアシッド・トラック"Pyon Pyon"。最初のデモは曲が長すぎて途中でブチッと切れてしまってる安物の10分カセットに収録されていた。DJを初めてやってもらったとき、これと元ネタの"YMCA"の7インチを延々ミックスして遊んでいたなぁ。

8. ∞あわせKAGAMIの現実∞ (Disco Twins)
(『Twins Disco』 / 2006 / Kioon)
デモ段階では少し石野卓球の影響もうかがえる「歌」を披露することもあったKAGAMIが、初めて公式に歌った曲。Disco Twinsならではの冒険か。実はJ-POPも大好きだった彼の意外な一面が知れるし、なんと言っても歌声が聞けるのはいまとなっては貴重。

9. Guardians Hammer 「Guardians Hammer」 / 2008 / Carizma)
KAGAMI名義では、一番新しいオリジナル曲。多少パーティ感は抑え気味だがサーヴィス精神豊かなKAGAMI以外には作れないアッパーなテクノで相変わらず楽しい。Bサイドがブリープ~エレクトロ的な、DJでKAGAMIの選曲を知ってるひとなら「待ってました」というタイプのトラックで、こちらも良い。

10. Beat Bang Black (『The Broken Sequencer』 / 1998 / Frogman)
激しい太鼓系ミニマルの「黒」は、数多くのDJに愛された初期の代表トラックのひとつ。時を経ても、この辺の若さと天性のフットワークで駈けぬけるような気持ちよさは色褪せてない。トーマス・シューマッハがあまりに気に入ってライセンス、自らリミックスも手掛けてドイツでもヒットした。

Chart by JETSET 2010.07.05 - ele-king

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1

THE BACKWOODS

THE BACKWOODS S/T »COMMENT GET MUSIC
DJ Kentのソロ・プロジェクト、The Backwoodsのデビュー・アルバム!ハウス~バレアリック~ディスコなど様々なジャンルを通過し、新たなダンス・ミュージックへと昇華させた12曲を収録!限定特典つき!!

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SBTRKT & SAMPHA

SBTRKT & SAMPHA BREAK OFF »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆無国籍トライバル仕立てのアーバンUKソウル/UKG最新型トラックスが誕生!!DiploやSwitch、Sindenらからも引っ張りダコ状態の覆面トライバル最前衛UKG天才SBTRKTが、噂の新鋭Samphaとのタッグ名義で名門Rampデビュー!!

3

BEAUTIFUL SWIMMERS

BEAUTIFUL SWIMMERS BIG COAST »COMMENT GET MUSIC
極上の80'sサウンドを振り撒くアノ2人組の新作12"が到着。今作もやはり...!?口あんぐりな素晴らし過ぎる80'sシンセ・サウンドを展開してくれています! 素材はレトロながら仕上がりは激フレッシュな全3曲を収録です。

ROBERT DIETZ

ROBERT DIETZ HOME RUN »COMMENT GET MUSIC
Cadenzaから遂にRobert Dietzが登場!!Cecille Numbers、Running BackそしてAir Londonと錚々たるレーベルで活躍する気鋭のクリエイター、Bobert DietzがいよいよCadebzaへも大抜擢!!やはりセンスがスバ抜けています。

5

DJ NOBU

DJ NOBU 011 E.P. »COMMENT GET MUSIC
Future Terror主宰"DJ Nobu"話題の12"が到着。お見逃し無く~!!ベルリンの聖地"Berghain"でのプレイも成し遂げ、さらに先日リリースされたAltzとの東西両雄対決においても素晴しい楽曲を披露したハード・コアDIY Party"Future Terror"主宰のDJ Nobuによる話題の漆黒盤がコチラ。Rawfila a.k.a. Kazuhiro主宰の"Grasswaxx Recordings"からの登場です。

6

DARKHOUSE FAMILY

DARKHOUSE FAMILY FAMILY TREES EP »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆Hudson MohawkeとJoy Orbisonがコラボレートしたような特大傑作1st.EP!!ウォンキーやニューディスコ、ダブステップ以降の最前衛ヒップホップの魅力を凝縮した超強力トラックx4と、レーベルメイトMr.DibiaseによるリミックスB2を搭載!!

7

CEO

CEO COME WITH ME »COMMENT GET MUSIC
話題沸騰★Tough AllianceのEricによるソロ。爆裂キラー・デビュー・シングル!!死にます!!Tough Allianceがスーパー・ロマンティック・ドリームに浸ったような素晴らしすぎるシンセ・ダンス・ポップ。両面ともに超グレイト。こんなの世界にコレだけです!!

8

J-WOW

J-WOW O DEDO EP »COMMENT GET MUSIC
なんとBird PetersonとSbtrktリミックスも収録。完璧過ぎる1枚が登場しました!!クドゥロ最強トリオBuraka Som Sistemaの1/3、J-WowことJoao Barbosaが、当店定番化したソロ・デビュー作"Klang"に続く特大ボムを完成っ!!

9

TIM TOH

TIM TOH NO TRACE »COMMENT GET MUSIC
Soulphiction主催Philpotからデヴューの若き才能による素晴らしい新曲!!Philpot発三連作"Join The Resistance"でその大器の片鱗を見せ付けたTim Tohですが、やはりこの男は本物ではないでしょうか。マジでTheo Parrishに匹敵するソウルを実感させる素晴らしすぎるヴォーカル物です。

10

OTHELLO WOOLF

OTHELLO WOOLF DOORSTEP »COMMENT GET MUSIC
ときめき風が吹き抜ける。Golden Silvers + Washed Outなインディ・A.O.R.・ポップ!!メチャクチャおすすめ★デビュー・シングル"Stand"が即完売となった新星Othello Woolf。超待望のセカンドは、さらに洒脱にポップに爽やかにキメるミラクル大名曲!!

"生きる"勇気――B.I.G JOE - ele-king

この国のラップ・ミュージックにおけるイリーガルなトピックやニュースを単純に善悪の問題へと矮小化することは、つまり、その背後にある人間の苦悩や葛藤、文化や社会の複雑さや本質から目を背ける愚かな行為と言わざるを得ない。

 すでに1ヶ月以上も前のことだが、5月14日、池袋のヒップホップ・クラブ〈bed〉にビッグ・ジョーのライヴを観に出かけた。終電後、家のある中野から1時間かけて歩いた。〈KAIKOO POPWAVE FESTIVAL '10〉でのライヴを友だちと酒盛りに興じる間に見逃してしまったことを後悔していた。だから、その日は、酒は控え目にして、ライヴの時間を待っていた。ビッグ・ジョーは、「WORLD IS OURS」と冠された全国ツアーの一環で東京を訪れ、MSCの漢らが主催する〈MONSTER BOX〉に出演していたのだ。ハードでタフなスタイルを愛するBボーイが集まる、ハードコア・ヒップホップのパーティだ。DJ BAKU、CIA ZOOのTONOとHI-DEF、THINK TANKのJUBE、INNERSCIENCE、JUSWANNA、PUNPEE、S.L.A.C.K.、CHIYORI、PAYBACK BOYSのMERCYと、100人も入ればいっぱいのクラブには多くのラッパー、DJ、ミュージシャンも駆け付けていた。

 深夜3時過ぎ、ビッグ・ジョーは、圧倒的な存在感を持ってステージに登場した。オーディエンスを一瞬にして釘付けにする訴求力にはやはり特別なものがある。ステージで躍動するビッグ・ジョーは、ハードにパンチを繰り出す野性味溢れるボクサーのようであり、愛を説く説教師のようであり、また、街頭で群集に決起を呼びかける扇動者のようでさえあった。ストリートの知性とは何たるかを、スピリチュアルに、セクシーに、ポジティヴに表現し、光と影の世界を行き来していた。ライヴ前半、いま注目のトラックメイカーのBUNによるスペイシーなグリッチ・ホップ風のトラックの上で、ビッグ・ジョーが過去の追憶と未来への決意を歌う"DREAM ON"がはじまる。『RIZE AGAIN』に収録された曲だ。ビッグ・ジョーが「夢を持っているヤツら手を上げろ!」と叫ぶと、フロアが一瞬身構えたように見えたが、4、5人の女性ファンが豪快に体を揺らしながら、いかついBボーイたちを尻目に大きな歓声を上げるのが目に飛び込んできた。

B.I.G JOE / Rize Again
B.I.G JOE
Rize Again

Triumph Records /
Ultra-Vibe
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 1975年、ビッグ・ジョーこと中田譲司は北海道・札幌に生まれる。ビッグ・ジョーは、『RIZE AGAIN』のなかでひと際メランコリックな"TILL THE DAY I DIE"という曲でも自身の幼少期について赤裸々に告白しているが、リーダーを務めるヒップホップ・グループ、MIC JACK PRODUCTION(以下、MJP)のHP内のブログで、生い立ちについて次のように綴っている。

「物心がついた頃、親父がヤクザだったのが判明して、悪いことするのがそんなに悪い事だとは思ってなかったんだ。悪いことと言っても万引き、ちょっとした盗み、ギャング団みたいなのを小6までに結成して中学入ってからは、喧嘩、カツアゲ、タバコ、バイク、夜遊び、マ-ジャン、e.t.c...あげればもう片手ぐらいは出てきそうだが、YOU KNOW?? いたって普通の悪いことだよ」(『Joe`s Colum』VOL.21 「BEEF&DRAMA」 08年2月)

 ストリートで生きる16歳の不良少年を音楽に目覚めさせたのは、レゲエのセレクターの兄が勤める美容室にあった2台のターンテーブルとレゲエ・ミュージシャン、PAPA Bのライヴだった。「兄貴がレゲエを買ってたんで、俺は違うのを買おうって。ビズ・マーキーとかEPMDとかを買ったりしてた」
 ビッグ・ジョーは、レゲエのディージェーやセレクターではなく、ヒップホップのラッパーとしてキャリアをスタートする。転機は19歳の頃に訪れる。RANKIN TAXIが司会を務める『TAXI A GOGO』というTV番組のMCコンテストに出場し、北海道予選で優勝を果たしたのだ。
 その流れでDJ TAMAとSTRIVERZ RAWを結成。その後、90年代中盤にRAPPAZ ROCKを結成し、当時の日本語ラップをドキュメントしたコンピレーション・シリーズ『THE BEST OF JAPANESE HIP HOP』に、"デクの棒""常夜灯"といった曲が収録される。先日亡くなったアメリカのラッパー、グールーを擁したギャング・スターやアイス・キューブが札幌に来た際には、彼らの前座を務め、ジェルー・ザ・ダマジャらとのフリースタイルも経験している。THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOがビッグ・ジョーのステージに感化され、ラップをはじめたエピソードは日本語ラップの熱心なリスナーの間では良く知られているが、ビッグ・ジョーは自他共に認める北海道のラッパーのオリジネイターとして名高い人物でもある。

 僕の手元には、RAPPAZ ROCKとILL-BOSSTINO(当時はBOSS THE MC)が〈NORTH WAVE〉という北海道のFM局に出演したときのCDRがある。MJPの取材で札幌を訪れた際、MJPのDJ KENからもらったものだ。そこでは、ビッグ・ジョー、ILL-BOSSTINO、SHUREN the FIREらが、荒削りなフリースタイルを30分近くに渡って披露している。ハードコアなラップ・スタイルは、たしかに90年代の日本語ラップの先駆的存在であるMICROPHONE PAGERやKING GIDDRAからの影響を感じさせるが、しかし同時に、胎動しつつあるシーンの渦中で、オリジナリティを獲得するために才能を磨き合う姿が刻み込まれている。前年に日比谷野外音楽堂で〈さんぴんCAMP〉が開かれた97年、まだ全国的に無名だった彼らの、地方都市のアンダーグラウンド・カルチャーを全国に認めさせたいという意地とプライドが札幌の分厚い積雪を溶かすような熱気となって放出されている。

 その2年後、99年にMJPは結成される。札幌、帯広、千歳、釧路など異なる出身地を持つ、ラッパーのビッグ・ジョー、JFK、INI、LARGE IRON、SHUREN the FIRE(現在は脱退)、DJ/トラックメイカー/プロデューサーのDOGG、KEN、HALT、AZZ FUNK(現在は脱退)から成るグループは、クラブでの出会いやマイク・バトルを通じて、徐々に形成されていった。そして、02年にファースト・アルバム『SPIRITUAL BULLET』を発表する。すでにMJPのサウンドのオリジナリティはここで完成している。ファンク、ジャズ、レゲエ、ダンス・ミュージックの要素を詰め込んだ雑食性豊かなこのアルバムは、全国のヒップホップ・リスナーの耳に届き、音楽メディアからも高く評価される。14分を超えるコズミック・ファンク"Cos-Moz"でラッパーたちは壮大なSF叙事詩を紡いでいるが、この曲は、SHING02の"星の王子様"がそうであるように、架空の宇宙旅行を通じて人類のあり方を問おうとする。同郷のTHA BLUE HERBと同じく、「生きる」というテーマに対するシリアスな態度は彼らのひとつの魅力である。
 また、MJPが所属する〈ill dance music〉というインディペンデント・レーベルの名が示すように、ヒップホップとダンス・ミュージックの融合はつねにMJPのサウンドの通奏低音として鳴り続けている。ライヴに行けば、MJPにとってダンスがどれだけ重要なファクターであるかがよくわかるだろう。そこでは、ハウスやテクノといったダンス・ミュージックの文化が独自の発展を遂げた札幌という土地の空気を吸い込んだ音を聴くことができる。『SPIRITUAL BULLET』はインディペンデントのアルバムとしてそれなりのセールスを記録するが、それでも彼らが期待したほどの劇的な展開をMJPにもたらしてはくれなかった。金銭的に潤ったわけではなかった。音楽だけで生活をすることはそんなに生易しいものではなかった。

 その矢先、事件は起きる。03年2月25日、ビッグ・ジョーが香港からオーストラリアに約3キロのヘロインを密輸しようとした際、シドニー空港の税関の荷物検査で摘発され、麻薬密輸の罪で逮捕、起訴されたのだ。当初は軽くても10~15年、最悪の場合は無期懲役の可能性もあった。「血の気が失せたというか、オレの人生は終わりだなって。自殺も考えました」
 黒幕の存在が認められたことなど、いくつかの要因が救いとなり、10ヶ月の裁判の後、6年間の実刑判決が言い渡される。少しずつ未来が見えはじめる。しかし、なぜ、そのような危険な仕事を引き受けたのだろう。「もちろん金もあるけど、それだけじゃないといまはっきりと言えるんです。例えば(運び屋の仕事が)成功したとしても自分にとっていいトピックになるのかなって。そこでアーティストとしてのオレはどういう風に変わっていくのかなって」
 ビッグ・ジョーは、09年2月の帰国後、渋谷のカフェで取材した際に穏やかな口調で僕にそう答えてくれた。

 犯罪行為へと向かった彼の動機を浅はかだと嘲笑することは容易だし、犯罪行為そのものを批判することも同じくである。果たして、犯罪を道徳的に断罪することにどれだけの意味があるのか。さらに、あえて書くが、断罪せずとも、この国のラップ・ミュージックにおけるイリーガルなトピックやニュースを単純に善悪の問題へと矮小化することは、つまり、その背後にある人間の苦悩や葛藤、文化や社会の複雑さや本質から目を背ける愚かな行為と言わざるを得ない。

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ビッグ・ジョーは持ち前の明るさとオープンな人柄で多様な国籍・人種―イタリア人、ギリシャ人、アメリカ人、フランス人、ロシア人、中国人、韓国人、レバノン人、アボリジヌー――の囚人たちと交流を深め、肉体を鍛え、哲学的思索に耽る。

小便やゲロまみれの裏路地で俺は生きてゆくために必要な日銭を稼いだ
小分けしたヤクをいくつも売りさばいた
UNKYのほとんどがヤクの奴隷さ
出口の無い迷宮に俺はいた
長い夜が永久にさえ思えて来た
さらに濃い霧が俺をつつみ込み
もう来た道がどちらかさえもわからないんだ "IN THE DARKNESS"

B.I.G JOE / Rize Again
B.I.G JOE
THE LOST DOPE

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 逮捕以前に制作され、ビッグ・ジョーの評価を決定付けたソロ・ファースト・アルバム『LOST DOPE』(06年)に収録された"IN THE DARKNESS"では、出口の見えない漆黒の闇のなかで孤独感に苛まれる心情が吐露されている。儚くも美しいピアノのウワモノから死の匂いは漂えども、希望の香りを嗅ぎ取ることは難しい。ある意味、ビッグ・ジョーのその後を予見しているような曲だ。『イルマティック』の頃のナズと『レディ・トゥ・ダイ』の頃のノートリアス B.I.G.が、一人の人間の中で蠢いているとでも形容できようか。数年後に興隆する、この国の都市生活者の過酷な現実を炙り出した(ドラッグ・ディールを主題とした)ハスリング・ラップのニヒリズムの極致に、すでにこの曲は到達していたのではないだろうか。

 徹底的にリアリストになるか、露悪的なニヒリストになるか。00年代、この国のラップ・ミュージックのいち部は、過酷な現実を描写することで圧倒的な説得力を有した。01年に発足した小泉政権が推し進めた、相互扶助や社会福祉を切り捨て、経済的な競争原理を優先する新自由主義が、ヒップホップの拝金主義的なメンタリティやゲットー・リアリズムに拍車をかけたのは皮肉な話ではある。カネ、セックス、ドラッグ、貧困、暴力。メジャーの音楽産業が尻尾を巻いて逃げてしまうようなハードなリリックやトピックが、アンダーグラウンド・ラップ・ミュージックのシーンを席巻した。
 たしかに、たんなるセンセーショナリズムとしての表現もあっただろう。しかし、そのシーンにおいて、少なくない才能あるラッパーが登場し、切実な音と言葉が創造され、多くの若者が共鳴し、熱狂したのだ。MSCの漢はその代表格のひとりである。

 紋切り型な表現を使うならば、彼らの音楽は、マスメディアやジャーナリスト、社会学者さえ見向きもしない社会の片隅からの叫びであり、声なき声だった。そこからは希望の言葉も絶望の言葉も聞こえてきたが、彼らの反社会性や反抗は「不良」という酷く安直なカテゴライズに回収され、片付けられることが少なくなかった。だが、「不良」はひとつの属性であって、彼らのすべてではない。重要なのは、彼らが社会の片隅から生々しい声を上げ、出自や階層や性別を越え、このどうしようもない社会で生きるという感覚を持つ人びとと響き合ったということだ。彼らの強烈に毒気のある表現は階級闘争の萌芽を孕んでいると僕は考えている。

 80年代後半、レーガン政権下のアメリカでギャングスタ・ラップのオリジネイターであるN.W.Aが登場したとき、その暴走する反逆に議会を巻き込むほどの社会的な論議が起こり、物議を醸した。メンバーのアイス・キューブは、元ブラック・パンサー党員のアンジェラ・デイヴィスやフェミニストの論客と対談で激しくやり合った。アメリカのあるヒップホップ評論家は、ポップ・カルチャーへの影響力という観点から言えば、N.W.Aのデビュー・アルバム『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、セックス・ピストルズ『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス』がイギリスに与えた衝撃に匹敵すると評価している。つまり、野蛮な反抗と最新の社会問題、そして、ストリート出身者ならば誰でも音楽を作れるというDIY精神に火を付けたという点において。

 日本のアンダーグラウンド・ラップ・ミュージックが国家を脅かしているかと言えば、もちろんノーである。あるいは、N.W.A.やセックス・ピストルズほどの社会的・文化的影響力を持っているかと言えば、それももちろんノーだ。このアンダーグラウンド・カルチャーは、積極的に平穏な昼間の世界に背を向け、メジャーの音楽産業から逸脱し、地下に潜ることで、その粗暴でアナーキーな感性を研ぎ澄ましている。現在のこの国の音楽という分野、あるいは社会においてはそのやり方しかなかったとも言える。
 話があまりにも拡散するので、その理由や詳細についてここでは書かない。いずれにしろ、この文化が新しく刺激的な才能あるアーティストを輩出し、また、日々刻々と変化するこの国のダークサイドをリアルタイムに描写し、問題を提起し続けているのは事実なのだ。

  先日リリースされたばかりのHIRAGEN(彼の存在を僕に教えてくれたのはPAYBACK BOYSのMERCYだ)の強烈なファースト・アルバム『CASTE』を聴いたとき、喉を潰したような声でスピットするラップとインダストリアルなビートに、UKのグライムに似た切迫感とノリを感じた。この乾いた路上のニヒリズムとデカダンスはどこまで行くのだろうか。そう思わせる得体の知れない荒々しいパワーが漲っている。HIRAGEN from TYRANTについては、いずれ改めて紹介するつもりだ。

 そろそろ話をビッグ・ジョーに戻そう。"IN THE DARKNESS"をアンプ・フィドラーを彷彿とさせるデトロイティッシュなビートダウン・トラックにリミックスしたDJ KENのヴァージョンは、深いニヒリズムをグルーヴィーなダンス・ミュージックの渦の中に放り込むことで未来への飛翔を試みている。ビッグ・ジョーと仲間たちのニヒリズムとの闘いの合図が鳴らされているとでも言えようか。そして、ここでの音楽的探究心こそ、ビッグ・ジョーとMJPの6年間を単なる空白期間にしなかったのだ。

 この電話は他でもなく盗聴されてるが
 ソウルまでは奪えはしないさ"LOST DOPE"

 ビッグ・ジョーがジェイル(刑務所)にいるあいだ、MJPのEP『ExPerience the ill dance music』(05年)、『LOST DOPE』、MJPのセカンド・アルバム『UNIVERSAL TRUTH』(06年)、獄中で出会ったアメリカの黒人ラッパー、エル・サディークとのEP『2WAY STREET』(07年)、ソロ・セカンド・アルバム『COME CLEAN』(08年)がリリースされる。『LOST DOPE』には、ジェイルの電話越しにラップを録音した表題曲や、ギターの弾き語りを伴奏にしたラップをテープレコーダーに録音し、テープのリールを封筒に忍ばせ札幌のMJPの元に送り再構築された曲が収められている。音楽への情熱と熱意を看守に訴えたビッグ・ジョーは、音楽スタジオのあるジェイルへの移転を許可され、そこでエンジニアとして働くことを実現させる。『UNIVERSAL TRUTH』以降のラップは、06~07年のあいだにそのスタジオで録音されている。

 オーストラリアのジェイルが日本の刑務所に比べれば、「自由」だったことは不幸中の幸いだった。僕はこれまでビッグ・ジョーに5回ほど取材しているが、そのうち3回はジェイル内の電話を通じて実現している。その貴重なコミュニケーション手段がなければ、この原稿は書けなかっただろうし、囚われの身となっている6年間にこれだけの作品がリリースされることもなかったに違いない。

 ビッグ・ジョーは持ち前の明るさとオープンな人柄で多様な国籍・人種―イタリア人、ギリシャ人、アメリカ人、フランス人、ロシア人、中国人、韓国人、レバノン人、アボリジヌー――の囚人たちと交流を深め、肉体を鍛え、哲学的思索に耽る。2パックは獄中で15世紀イタリアの政治思想家、マキャベリの『君主論』を愛読したというが、ビッグ・ジョーはドイツの詩人・小説家であるゲーテを座右の書として生き抜いた。『UNIVERSAL TRUTH』のインナースリーヴには、アメリカの詩人・批評家のエズラ・パウンドの言葉が引用されている。彼はラップで格言めいたパンチラインを時節展開する。それは、そこそこ哲学や古典文学の知識がある人間が鼻にもかけない類のものかもしれないが、彼が人生のどん底から這い上がるために、知識への飢えを満たすために獲得した言葉をいったい誰が簡単に否定できようか。

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ビッグ・ジョーが伝えたいメッセージも至ってシンプルだ。ずばりそれは、「世界は自分たちの手で変えられる」ということである。世界を変える必要はないと考える人びとにとっては、彼の直球な物言いは滑稽に聞こえるだろう。

 俺には聞こえるんだ......
 本当は病んで病んで病んでどうしようもないのに、
 一人じゃ不安で、
 何をどうしたいのかもわからず救いの無い大都会の海で、
 溺れている人間達の、澱んだ声が......
 俺達は何のためにこの世に生まれたんだ?
 何故こうして 息を吸って、今を生きているんだ?
 そこには、意味はあるんだろうか?
 そんな社会に生まれて、何かがおかしいと思ったおかげで、
 けだものあつかいにされ
 彼等の期待通り犯罪を犯し、囚われの身となり、
 もう誰にも顔は見せられない
 PSYCHO......彼等は俺の事をそう呼ぶんだ
 ......いい響きだ、最高じゃないか/
 これで良くも悪くも、彼等と境界線が引ける"PSYCHO"

B.I.G JOE / Rize Again
B.I.G JOE /
COME CLEAN

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 『COME CLEAN』は、こんな哲学的な問いかけから幕を開ける。メタファーを多用したリリックとライム、ビートに絡みつくジャジーなフロウ、寓話的で文学的なストーリーテリング、社会意識を持ったアティテュード、汚れた魂と美しい魂が交錯するスピリチュアリズム、それらの要素を併せ持ったビッグ・ジョーのラップをバックアップするのは、アメリカナイズされたトレンドのヒップホップとは違う、自分たちの音を鳴らすことに情熱を傾けるトラックメイカーたちのユニークで果敢な挑戦だ。
 トラックメイカーたちはすでに録音されたラップに合わせる形で制作を進めた。LAのアンダーグラウンドなパーティ〈ロー・エンド・セオリー〉と共振する、Olive Oil、BUNによる凶暴で繊細なビートの実験、DADDY VEGA a.k.a. REVEL BEATZ によるファンキーなビート、あるいは、DJ QUIETSTORM の妖しいサイケデリック・ヒップホップ"SPEAK 2 THE SILENT"があり、ILLCIT TSUBOIの"CLINK RAP"に至ってはスピリチュアル・ジャズとラップの対決である。

 ビッグ・ジョーは、自身の体験を基にドラッグ・ディーラーの不幸な顛末を物語化し("D.D.D-Drug Dealer`s Destiny")、逮捕直後の絶望的な状況と心境を告白し("NOWHERE")、ドラッグ・ディールで身を滅ぼすことの愚かさをメッセージする("YOU WANNA BE ME")。「道ばたでドラッグを売りハッスルしながらマッポに追われる生活なんてクソだ」、"YOU WANNA BE ME"のファースト・ヴァースではこう言い切る。だが、ここで展開されるのはありきたりな更正物語や陳腐な道徳論ではない。また、アンチ・ハスリング・ラップやポスト・ハスリング・ラップという単純な図式化に収まるものでもない。僕も最初は、前述した冒頭の数曲に耳がいった。ある種のスキャンダリズムに関心を奪われていたのはたしかだ。しかし、アルバムを何度も繰り返し聴くうちに、"PUBLIC ENENY NO.1"や"WE`RE SOULJA"といったより深く彼の人生観や哲学や内省を抉っていくような曲の虜になっていった。

 "PUBLIC ENEMY NO.1"でビッグ・ジョーは、生い立ちや犯罪者という自身の置かれた立場から、社会からの疎外と異端者の誇りについてラップしていく。
 正義とは何か? テロリズムとは何か? 反体制とは何か? 異端者とは誰か? そして自分は何者か? 自分自身と聴く者を答えのない問いの迷宮に引き摺り込みながらも、最後のところで異端者を鼓舞し続ける。そこに答えを差し出すかのように、ストリングスとビートが厳かなムードを演出する"WE`RE SOULJA"で、「誰もがたたかっている今もどこかで/命をかけ、/僕等はこの世に生きている限り/戦場の上の兵隊さまるで」と呼応する。
 愛、家族、自由、正義、理想、芸術、民衆、未来、革命......、何かのために誰もが闘っているのだと、闘うことの美しさと気高さを、ときに詩人が朗読するように、沈黙を味方につけながら官能的にフロウする。この2曲をプロデュースしたBUNの、金属片を擦り合わせたような鋭角的なビートの響きと、静謐さと躍動が入り混じるフライング・ロータス以降のセンスを感じさせる構成は、ビッグ・ジョーをひとりのラッパーから雄弁で情感豊かな説教師か扇動者へと変貌させているようである。聡明なギャングスタ・スタイルと野性的なコンシャス・スタイルの融合とでも言えようか。こういう表現が的確かどうかはわからないが、ここには――ハスラーから革命家に転身したマルコムXのように――町の不良がストリートの代弁者へと脱皮する姿が刻み込まれていると思えるのだ。なんというか、本質的なまでに闘うこと、反抗することを肯定する。その愚直さがなんとも潔く、清々しく、かっこいいのだ。

 今年発表された通算3枚目のソロ・アルバムとなる『RIZE AGAIN』のCDのインナーには、力強く突き上げた拳のなかにガーベラと思われる真紅の花が握られた絵が描かれ、"HERE I AM"というアルバムの最後を飾る曲のタイトルが上書きされている。このアートワークは、闘いと希望と平和のメタファーなのだろう。アルバムでは、SD JUNKSTAのNORIKIYOを客演に迎えた、シンセが勢いよくうねる表題曲が象徴するように、ビッグ・ジョーがこれまで溜め込んできたエナジーとファンクネスが一気に放出されている。共同プロデューサーに抜擢されたBUNが『COME CLEAN』以上に見せるユニークな表情と、現在インディペンデント・レーベル〈TRIUMPH RECORDS〉の主宰を務め、トラックメイカー/プロデューサーとしても活動するビッグ・ジョーの新たな側面も楽しめる。

 ところで、少なからず期待を寄せた民主党政権のだらしなさといったらないが、管直人新首相に至っては就任会見で「政治の役割は最小不幸社会を作ること」とやたら景気の悪いことを言い出し、しまいには消費税を上げるという。「こら! ふざけるな!」と家で酒を飲みながら心のなかで叫んでしまった。
 とはいえ、自分の生活を振り返ってみると、そこには多くの快楽があり、遊びがあり、満足がある。酒を飲んで、パーティに行って、気持ちの良い音楽と気の合う連中と酔って大騒ぎするのは最高に楽しいし、こうやって自分の好きなことを書いてお金をもらい、また発言する自由も感じている。だが、この日々の幸せは、諦めと表裏一体じゃなかろうかというアンヴィバレンツな感慨に襲われてしまうときがある。そんな時、フェラ・クティやジェームス・ブラウンやボブ・マーリーといった理想主義と闘いの結晶のような最高にファンキーな音楽を聴くと、いまでも心底感動し勇気づけられるし、そこから湧き上がる躍動と闘争心を僕は深く愛している。

 そう、ビッグ・ジョーが伝えたいメッセージも至ってシンプルだ。ずばりそれは、「世界は自分たちの手で変えられる」ということである。変化を望まず、いまの世界でそこそこ上手くやることに疑いのない人びと、あるいは世界を変える必要はないと考える人びとにとっては、彼の直球な物言いは滑稽に聞こえるだろう。何を変えるのか? どんな世界を望むのか? そして、何のための闘いなのか? 体制と反体制、右翼と左翼、資本主義と共産主義という分かり易い二項対立など誰も信じていないし、これだけ価値観が多様化している時代に、何のための闘いなのかという問いはもっともややこしいい命題だ。しかし、ただ一つ言えるのは、生きることは正しく、そもそも生きることは闘いであるということだ。

 『RIZE AGAIN』の"SHE JUST..."という曲を聴くと、僕は、ビッグ・ジョーが何を背負いどこからやって来て、誰の味方であり、これからどこへ向かおうとしているのかが見えてくる。「彼女は天使の夢を見ていた/白い翼が空に散って目を開けた」というリリックからメロウに滑り出すソウル・フィーリングに溢れた"SHE JUST..."では、社会の片隅で寄り添って生きる国籍不明の若く無力な男女の儚く切ない物語が、女性ヴォーカリスト、TSUGUMIとの掛け合いのなかで丁寧に紡がれていく。
 そこでビッグ・ジョーが強烈に発している感情は、社会からはじかれた人びとへの深い慈愛のようなものである。彼が呼びかける相手は、ドラッグ・ディーラーであり、風俗嬢であり、サラリーマンであり、ヤンキーであり、オタクであり、Bボーイであり、その誰でもあり、誰でもないのかもしれない。ビッグ・ジョーが思い描く理想は、これから彼の音と言葉に力強いレスポンスを返すリスナーやオーディエンスとともにゆっくりと具体的な形を伴って立ち現れていくだろう。

 そして、この原稿も終盤を迎えた頃、ビッグなニュースが届けられた。ビッグ・ジョーは来たる7月21日に、ILL-BOSTTINO、Olive Oilと制作した「MISSION POSSIBLE」という、大胆にも、現在のこの国におけるもっともデリケートかつ重要な政治課題の一つである沖縄基地移設問題をテーマにしたシングルをリリースする。僕はその曲をまだ聴いていないが、勇敢な理想主義者である彼らの、音楽の力で世界を少しでもより良くしたいという強い信念に間違いはないと信じている。

 僕が1ヶ月以上前に観たビッグ・ジョーのライヴは素晴らしいものだった。全国各地を回る「WORLD IS OURS TOUR 2010」はまだ続いている。自分の目と耳でビッグ・ジョーの勇姿をたしかめ、大きな声を上げて欲しい。

interview with The Raincoats - ele-king

 緊張していた。アリ・アップやマーク・スチュワートのときはビールがあったから良かったのだ。取材時間も1時間以上押していた。待つことは苦ではないが、こういう場合は時間の使い方に困惑する。カメラマンの小原泰広くんがサッカー好きで助かった。われわれは六本木のスターバックスでおよそ1時間に渡って今回のワールドカップについて論評し合った。

 「僕はいま46歳ですけど......」、正直に打ち明けることにした。「1979年、15歳のときに地元の輸入盤店でザ・レインコーツのデビュー・アルバムを知って、そして買いました。それは僕にとってもっとも重要な1枚となりました」

 音楽ごときに人生を変えられるなんて......と昔誰かがあざけりのなかで書いていた。ところが僕の場合は、音楽ごときに人生を変えられたと認めざる得ない。もし自分が中学生のときパンクを知らずに、そして高校生になってザ・スリッツやザ・ポップ・グループやPiLや......エトセトラエトセトラ......あの時代のポスト・パンクを知らずに過ごしていたら、まったく違った人生を送っていただろう。
 そしてあの時代のすべての音楽が説いてくれた"現在"に夢中になることの大切さと"未来"に向かうことの重要性をいまでも忘れないように心がけている。よって......ザ・レインコーツのライヴの2日前のS.L.A.C.K.、Rockasen、C.I.A.ZOO、その前日の七尾旅人、iLL、トーク・ノーマルといった"現在性"の並びで30年前に死ぬほど好きだったバンドのライヴを観るというは、残酷な郷愁と純真な愛情が入り混じった、なんとも複雑な思いに支配されることでもあった。僕は......聖地を目指す巡礼者のように、余計なものを入れずにその日を迎えるべきだったのだ。そうすればもっとたくさんの違った言葉が溢れ出たかもしれない。

 が......、そんな不埒な思いを巡らせながらも、なんだかんだとこうしてぬけぬけと彼女たちに会いに来てしまった。煮え切らない46歳のオヤジとして。
 アナ・ダ・シルヴァとジーナ・バーチのふたりは、その日8時間も取材をこなしているというのに、ステージと同じように、おそろしく元気だった。


向かって右にジーナ・バーチ、左にアナ・ダ・シルヴァ。ソロ・アルバム、楽しみっす。
(photo by Yasuhiro Ohara)

奇妙な発音の外国人やアウトサイダーが多かったのよ。なぜなら私は当時スクウォッターだったから。パンクのコミュニティのなかで暮らしていたの。空き家に住んでいた。都市のアウトサイダーたちの溜まり場よね。

ライヴで"歌っていて楽しい曲"と"演奏していて楽しい曲"をそれぞれ教えてください。

アナ:歌っていて楽しいのは"シャウティング・アウト・ラウド"ね。演奏して楽しいのは......ないかも、失敗ばかりするから(笑)。

ジーナ:私は"シャウティング・アウト・ラウド"が演奏するのが楽しいわよ。まるで空中を滑るようなベースラインが好きだし、演奏しているあいだに異なった雰囲気が出てくるんだけど、それをフォローしていくのが楽しい。

アナ:私は演奏して楽しかったのは"ノー・ワンズ・リトル・ガール"かな。私はギターを引っ掻いたりしてノイズを出すのが好きだから。

ジーナ:歌うのが楽しいのは"ノー・サイド・トゥ・フォール・イン"よね。コーラス・パートがあるでしょ、あのみんなで「わー!」って声を出すのがいいのよ。ひとりで歌うなら"ノー・ルッキング"。ファースト・アルバムの最後に入っている曲よ。

今日はたくさんの取材を受けて、さんざん昔の話をしたと思うのですが。

アナ&ジーナ:ハハハハ。

1979年。ザ・レインコーツのデビュー・アルバムがリリースされた年、あなたがたはまず何を思い出しますか? 

アナ:1979年の4月にシングルが出て、で、たしか11月よね、アルバムが出たのは。「わお!」って感じだった。あるとき〈ラフ・トレード〉に務めていたシャーリー(後のマネージャー)が言ってきたの。「あなたたちのシングルを出すわよ」って。そのとき「あー、私たちはバンドで、シングルを出すんだ」と実感した。そしてツアーに出て、〈ラフ・トレード〉からアルバムを出した。それは素晴らしい感動だったわ。

ジーナ:私はノッティンガムからロンドンにやって来たばかりだった。で、パルモリヴがスペインから来た子だったでしょ。彼女の英語の発音がおかしくてね、たとえばフライングVの「V」を発音できずに、「B」と発音するのよ。当時私は音楽のこと何も知らなかったから、その楽器の名前をフライングBだと思っていたのよ。シングルが出たとき、初回プレスがクリア・ヴァイナルだったから、私たちが「ヴァイナルが出たわね」とか言ってると、パルモリヴがそれを「ヴァニール」って発音するのよ(笑)。「ヴァニラじゃないのよ」って(笑)。

アナ:ハハハハ。

ジーナ:そう(笑)。私はイングランドに住んでいるはずなのに、私のまわりにはそんな人ばっかだったの。奇妙な発音の外国人やアウトサイダーが多かったのよ。なぜなら私は当時スクウォッターだったから。パンクのコミュニティのなかで暮らしていたの。空き家に住んでいた。都市のアウトサイダーたちの溜まり場よね。

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決してエリート主義にはならなかったわ。でも、とてもインテリジェンスがあったし、そうね、ジョン・ライドンには会ったことがあるんだけど、他人に気配りができて、率直にモノが言えて、すごく誠実な人だと思ったわ。

ザ・レインコーツのまわりにはディス・ヒートやレッド・クレイヨラのようなバンドがいましたが、あなたがたからみて当時のバンドやアーティストで他に重要だと思えるのは誰でしょうか?

アナ:まず思い出すのは、ペル・ウブよね。それからディス・ヒートもすごかった。ライヴが素晴らしかったのよ。普通のバンドはドラムのカウントからはじまるでしょ。ディス・ヒートはそんなことなしに、いきなり「ガーン」とはじまるのよね。

ジーナ:ヤング・マーブル・ジャイアンツは偉大だったし......。

あの当時はPiLの『メタル・ボックス』やザ・スリッツの『カット』やザ・ポップ・グループの『Y』や......。

ジーナ:ザ・ポップ・グループ! そう、それものすごく重要! 私がいま言おうとしたのよ。私はザ・ポップ・グループの最後のライヴを観ているのよ。もうそのライヴでバンドからマーク・スチュワートが抜けるっていうことがわかっていて、私はマーク・スチュワートのところまで駆けていったわ。「どうかお願い、ポップ・グループを辞めないで。ポップ・グループはやめてはいけないバンドなのよ!」って叫んだわ(笑)。

ハハハハ。ちょうど1979年、最初に話したように、僕は地方都市に住んでいる15歳でした。近所の輸入盤店に、ザ・スリッツ、ザ・ポップ・グループらとともにザ・レインコーツのファーストのジャケットが壁に並びました。当時は、円がまだ安かったのでイギリス盤はとても高くて、2800円しました。それでも1年かけて、僕はその3枚を揃えました。1979年には他にも素晴らしい音楽がたくさん発表されました。他によく覚えているのはPiLの『メタル・ボックス』でした。イギリスだけではなく、日本からもいくつもの興味深いバンドが登場しました。で......。

アナ:あなたのその話、私知ってるわよ。あなた私のMy spaceにメール送ったでしょ?

僕じゃないです(笑)。

アナ:いまのあなたの話と同じ話だったのよね。

なんか......パンクという火山があって、その火山が爆発したら、いっきに空からたくさんの素晴らしい音楽が落ちてきた、そんな感じでした。

アナ:私もまったくそう感じたわ。セックス・ピストルズやザ・クラッシュの最大の功績はそこよね。「自分たちでやれ」と言ったことよ。バズコックスのようなバンドだってセックス・ピストルズを観てはじまった。あらゆるバンドがそうだった。私はアメリカのバンドも好きだったわ。パティ・スミス、テレヴィジョン、リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズ、トーキング・ヘッズ......彼らは音楽的に興味深かった。彼らはイギリスのバンドに影響を与えた。当時のポスト・パンクが素晴らしかったのは、それぞれが違うことをやっていたことよね。セックス・ピストルズやザ・クラッシュの物真似みたいなバンドもいっぱいいたけど、私たちのまわりにいたバンドはそれぞれ違うことをやっていたわ。

ジーナ:私はアナよりも年下だったから、私はイギリスのパンクの第一波に影響を受けたわ。アメリカのバンドを知ったのはもっと後になってから。

アナ:そうね。私があるパーティに行ったとき、ものすごい特徴のある声が聞こえてきたの。それがパティ・スミスの『ホーシズ』だった。しばらくして彼女がロンドンの〈ラウンドハウス〉というライヴハウスに来ることを知った。そこに私は行ったのよ。まだセックス・ピストルズが出てくる前の話よ。

パティ・スミスは、やはりその後の女性バンドのはじまりだったんですね。

アナ:彼女が「自分たちで何かやりなさい」という勇気づけ方をしたわけじゃないけどね。ただ、その音楽がすごく良かったのよ。

ジーナ:パティ・スミスがロンドンに来たとき会場でアリ・アップとパルモリヴが出会って、で、ある意味でそれでザ・スリッツが生まれたとも言える。で、ザ・スリッツからザ・レインコーツが生まれたとも言えるわけだし、繋がっているのよ。

アナ:そういえば、パティ・スミスとロバート・メイプルソープとの関係を中心に書かれた彼女の本が出版されて読んだんだけど。

ジーナ:ああ、あれね!

アナ:そうそう、あれはとても美しい話だったわよ。

パティ・スミスのレコード・スリーヴは、まあ、いわゆる"ロックのレコード"じゃないですか。でも、ザ・レインコーツや『カット』や『Y』のジャケットがレコード店に並んでいるのを見たとき、すごい違和感があったんですね。ロックのレコードとは思えない、いままで感じたことのないものすごいインパクトを感じたんですね。初めて見たザ・レインコーツのプレス用の写真もよく憶えていて、みんなで普段着のままモップを持っている写真がありましたよね。あれもまったくロックのクリシェを裏切るような写真だったと思いました。アンチ・ロック的なものを感じたんです。

アナ:そこまで深い理由はないんだけど、自然にそう考えたのよ。たしかに普通はジャケットにバンドの写真を載せるものだったんでしょうけど、そのアイデアは最初からなかったわね。しかし、あなたも若いのによくそこまで気がついたわね。

ジーナ:まるで私のママみたいだわ(笑)!

はははは。

アナ:セックス・ピストルズやジョイ・ディヴィジョンにはそれぞれデザイナー(ジェイミー・リードとピーター・サヴィル)がいたけど、私たちにはいなかったわ。デザインのアイデアもすべて自分たちで考えたのよ

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インディペンデント・レーベルにもネガティヴな面があるからね。〈ラフ・トレード〉や〈ファクトリー〉は考えもお金もすごくしっかりしていたけど、いい加減なレーベルも多かったのよ。

パンクというのはすごく極端なエネルギーだったじゃないですか。だからパンクに関する議論のようなものもあったと思うんですよ。パンクに対する"議論"みたいなものと、音楽はまだ前進することができるという野心があれだけの多様性を生んだのかなと考えたのですが、どうでしょうか?

アナ:議論?

たとえば......僕はザ・クラッシュが大好きですけど、やっぱマッチョなところがあったと思うし、あるいはマガジンの有名な曲で、えー、なんでしたっけ? "ショット・バイ・ボス・サイド"?

ジーナ:そう、ショット・バイ・ボス・サイド"ね。

「両側から撃たれる」っていうあれは、「右翼」にもつかないし、「左翼」にもつかない、どちらにもつかないんだという、政治的だったパンクへの批評精神の表れじゃないですか。あるいはセックス・ピストルズやザ・クラッシュはメジャーでやったけど、ポスト・パンクはインディペンデント・レーベルだったじゃないですか。そこにも批評性があったと思うし......。

アナ:そうね。リスクを背負ってもやりたいことがやれる、クリエイティヴなインディペンデント・レーベルを選んだわ。メジャーはわかりやすいものを好むのよ。だから、自然と多様性はインディペンデント・レーベルのほうにあったわね。

ジーナ:でもね......ヒューマン・リーグみたいにメジャーで成功したバンドもいたし、ギャング・オブ・フォーはものすごく左翼的なバンドだったけど、メジャーと契約したわよ(笑)。いいのよ、それは彼らの論理で、ケダモノたちのなかから変えてやれってことだから。でも、私たちはインディペンデント・レーベルが性にあったのよね。

アナ:それにインディペンデント・レーベルにもネガティヴな面があるからね。〈ラフ・トレード〉や〈ファクトリー〉は考えもお金もすごくしっかりしていたけど、いい加減なレーベルも多かったのよ。

ちょっと僕の質問の仕方が悪かったんで、話がずれてしまったんですが、言い方を変えると、何故この時代のバンドは情熱と勇気がありながら同時に頭も良かったんでしょうか? ということなんです。ジョン・ライドンやマーク・E・スミスのような人たちは独学で、大量の読書を通じてメディアやアカデミシャンを小馬鹿にするほどの知識を得ていたし。

アナ:ええ、ジョン・ライドンは本当に偉大な人だと思う。

ええ、とにかくあれだけ情熱的で、頭も良くて、で、しかもわかる人だけにわかればいいというエリート主義にならなかったじゃないですか。

アナ:そうね、決してエリート主義にはならなかったわ。でも、とてもインテリジェンスがあったし、そうね、ジョン・ラインドンには会ったことがあるんだけど、他人に気配りができて、率直にモノが言えて、すごく誠実な人だと思ったわ。

ジーナ:そうね、マーク・E・スミスでよく憶えているのは、彼はちゃんとした学校教育を受けていないのよ。でね、ザ・フォールをはじめたときに、普通だったら16歳から19歳のあいだに修了しなければならないAレヴェルの英語を、マーク・E・スミスは成人してから独学で修得したの。ザ・フォールであのアナーキーなキャラクターをやりながらよ! 私はそれがすごくファンタスティックだと思ったのよね。独学というのは素晴らしいことよ。

アナ:そこへいくと〈ラフ・トレード〉のジェフ・トラヴィスはケンブリッジ大学出ているからね。

スクリッティ・ポリッティの歌詞なんか何を言ってるのかさっぱりわからかったですからね。グリーンが現代思想を読み耽って書いていたっていう。

アナ:あー、あれはわかるわけないわ(笑)。

ジーナ:安心して、私たちもわからないから(笑)。

アナ:てか、読んでないから(笑)。

ハハハハ。

アナ:(グリーンのナルシスティックなゼスチャーを真似しながら)おぇー。

ジーナ:いわば大学院の博士課程路線よね。それをポップ・カルチャーにミックスしようとしたのよ。

まあ、スクリッティ・ポリッティの話はともかく、ポスト・パンクにはどうして情熱と頭の良さの両方があったんでしょうね?

アナ:私たちは情熱だけよねー。まあ、知性はぜんたいの30%ぐらいかな(笑)。

ジーナ:アナはインテリよ(笑)。サイモン・レイノルズの『ポストパンク・ジェネレーション』を読んだけど、いろんなアーティストを過去の偉大な作家たちと比較したりしていて、そこはまあいいんだけど、何故か女性バンドの話になると「彼女たちもそうだった」ぐらいの扱いになっているのよね(笑)。ちょっと注意が足りないんじゃないかな。

ハハハハ。質問を変えましょう。僕はいまだにザ・レインコーツみたいなバンドを見たことがありません。それってザ・レインコーツがこの30年消費されずにいたことだと思うんですよね。

アナ:ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいわ。「ザ・レインコーツに影響されました」というバンドがたまにいて、音を聴かされるとただケオティックなだけだったりするの。カオスはザ・レインコーツのいち部でしかないのよ。まあ、ザ・レインコーツの真似されても嬉しくないしね。

ジーナ:だけど私は、MAGOは私は気に入ったわ。繊細さと大胆さがあって、オリジナルだと思った。彼女たちから「影響受けた」って言われるのはわかるような気がする。

アナ:そうね。重要なのは「自分たち独自のもの」を探すことよ。それがザ・レインコーツってことでもあるから。

ただ、いまの時代、1979年のように音楽を新しく更新させることはより困難になっていると思いませんか? 音楽のパワーが落ちていると感じたことはありますか?

アナ:昔と比べるのはあんま好きじゃないけど......いまでも新しいものは出てきていると思うわ。ただし、インターネットの影響は大きいわよね。選択肢があまりにも多すぎて、選ぶ気がおきない。それでパワーが落ちたというのはあると思うけどね。

僕個人はむしろ"現在"のほうに興味があるのですが、なんだか多くの人は"過去"を向いているように思えるフシが多々あるのです。

アナ:そうねー。

ジーナ:わかるわかる。友だちの娘に「あなた何が好き?」って訊いて「レッド・ツェペリン」だもんね(笑)。

ビートルズとかね?

アナ:ビートルズは偉大よ(笑)!

ジーナ:でも、あなたのように"現在"に夢中な人だっているわよ。

アナ:そうね、あなたが会ってないだけよ!

ハハハハ。いないこともないんですけどね......。ちなみに新しい世代の音楽では何が好きですか?

アナ:やはりどうしても、15歳の音楽体験は特別なものなのよ。ボブ・ディランやヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ローリング・ストーンズを初めて聴いたときの衝撃というのは消えないもので、年齢を重ねていってもそれと同じような衝撃を受けることはないと思うの。

アナはでも、チックス・オン・スピードのレーベルからソロ・アルバムを作っているじゃないですか? テクノは聴かない?

アナ:ひとつのアーティスト、ひとつのスタイルばかりを強烈に聴くことはもうないのよ。

そうですか。わかりました。ありがとうございました。近い将来にリリースされるというおふたりのソロ作品を楽しみに待っています。

アナ:それでは15歳の少年にサインしよう(笑)。

ぜひ!

 ......それから記念撮影までしてしまった......。
 
 これは『EYESCREAM』の連載でも書いたことだが、ザ・レインコーツのデビュー・アルバムのアートワークは、いま思えば可愛らしいとも思えるかもしれないけれど、当時あれは『カット』や『Y』と並んで、レコード店のなかで強烈な異臭をはなっていたのである。パティ・スミスの『イースター』が古くさく感じてしまったし、手短に言えば彼女たちのアンチ・ロックのセンスは音楽の世界に明白な亀裂を与えた。音のほうも......とてもじゃないが、キュートだなんて思えなかった。破壊的で、混沌と調和が入り交じって、それでいて素晴らしい生命力を感じたものだった。

 と同時に、写真で見る、いたって普段着の彼女たちは、ショービジネスの世界で女性がありのままの普通でいることが、どれだけ異様に見えるかを証明し、逆にショービジネスの世界の倒錯性を暴いてみせたのだった。レディ・ガガのような人が哀れなのは、本人はアートのもつもりでもあれは結局のところ、型にはまったショービジネスそのものでしかないからだ。ちなみにアートとは......ジョン・ライドンやマーク・E・スミスのような連中がとくに馬鹿に言葉である。

 ザ・レインコーツは〈ラフ・トレード〉らしいバンドだった。ジェフ・トラヴィスが経営した〈ラフ・トレード〉は、"男の世界"だったレコード屋のカウンターのなかに女性を送り込み、ザ・スリッツ、デルタ5、エッセンシャル・ロジックなど女性アーティストを積極的に後押しした。

 そして「50:50」契約も実現した。これは経費を除いた利益をレーベルとアーティスト側で半々に分配するというやり方だ。音楽業界の印税率を考えると、おそろしく破格の契約であるばかりか、弁護士の出る幕をなくし、わかりやすい平等思想を具現化したものだった。そうしたフェミニズムとコミュニティ意識のなかで、ディス・ヒートやレッド・クレイヨラとともにザ・レインコーツはいた。彼女たちのセカンド・アルバム『オディシェイプ』ではチャールズ・ヘイワード(ディス・ヒート)が叩き、ロバート・ワイアットとリチャード・ドゥダンスキー(PiL)も参加した。『オディシェイプ』はデビュー・アルバムとはまた違った方向性を持っている作品で、これもまたこの時代のクラシックの1枚である。

Chart by JETSET 2010.06.21 - ele-king

Shop Chart


1

DAICHI

DAICHI MBILITE EP »COMMENT GET MUSIC
エレクトロニクスとジャズ・ファンクを高レヴェルで融合させたダンス・トラックが到着!SoftやBased On Kyotoの一員として活動を行い、アンダーグラウンド・ダンスミュージック・シーンを中心に熱い指示を受けるDaichiのソロ作がついにリリース!

2

WILD NOTHING

WILD NOTHING GEMINI »COMMENT GET MUSIC
ひとりRadio Dept.あるいはPainsなネオアコ・シンセ・ポップの爆裂感動アルバム!!メチャクチャ最高です。。。Captured Tracksの新星、ヴァージニア在住の天才Jack Tatumによるソロ・ユニット、Wild Nothing。2枚のシングルを経て、初のアルバム到着しました!!

3

RANKIN TAXI

RANKIN TAXI チンチンピンピン »COMMENT GET MUSIC
遂に7"で出ました!B面にはサイプレス上野参加のBuzzer Beats Remixも収録!ジャパニーズ・レゲエのオリジネイター、ランキンキン・タクシー!!昨年末から配信限定でリリースされ話題炸裂の超ビッグ・チューン(通称"CCPP")が遂にアナログ盤で登場です。これは絶対マストです!!スプリット・カラー・ヴァイナル。CCPPオリジナル・コンドーム付。

4

ALLO DARLIN'

ALLO DARLIN' S.T. »COMMENT GET MUSIC
無条件降伏しかありません。正統派UKキューティー・バンドの超感動ファースト・アルバム!!LPも到着しました!!大人気爆発のロンドンの4ピース、Allo Darlin'。瑞々しいヴォーカルと、躍動感溢れる爽やかなサウンド、愛らしく儚げな雰囲気、全てがスペシャルです!!

5

REBOOT

REBOOT SHUNYYATA »COMMENT GET MUSIC
パーティー・ピープルから注目度はピカイチの旬なクリエイターReboot!!Lucianoによるリミックスが話題となった先行シングル"Rambon"も只今ヒット中、Ricardo VillalobosやLucianoが認める才能の持ち主、Rebbotによるファースト・オリジナル・アルバムが遂に登場です!!

6

INFINITE BODY

INFINITE BODY CARVE OUT THE FACE OF MY GOD »COMMENT GET MUSIC
めちゃくちゃイイ・・・戻ってこれない・・・快楽指数マックスのドリーミー・ドローン・アルバム!!No Age主宰P.P.M.から、西海岸のKyle ParkerによるユニットInfinite Bodyの大傑作ファースト・アルバムが登場。これは参りました。

7

V.A.(DJ KIYO A.K.A DULO, DJ KEN, AKT THE JN, DJ HAL)

V.A.(DJ KIYO A.K.A DULO, DJ KEN, AKT THE JN, DJ HAL) TIGHTBOOTH PRODUCTION PRESENTS LENZ EP »COMMENT GET MUSIC
スケーター目線で日本のアングラ・シーンを切り取るドキュメンタリーからの12"がコチラ!日本が誇るクリエーター/トラックメイカー達がスケートボードの既痣哀楽をイメージし作り上げた音源を収録した映像作品『LENZ』から待望のアナログ・カットが実現!

8

MARK SEVEN

MARK SEVEN SWEPT AWAY »COMMENT GET MUSIC
スウェディッシュ・バレアリック大注目プロデューサーが早くもMule Musiq系列からデヴュー!!前作"Travelogue"の爆発的な売れ行きにも驚かされたスウェーデンのディープ・ディガー/DJ、Mark Sevenが国内Mule Musiqにフックアップされ、Endless Flightから2nd.シングルをリリース!!

9

DJ SPRINKLES VS K-S.H.E.

DJ SPRINKLES VS K-S.H.E. A SHORT INTRODUCTION TO THE HOUSE SOUNDS OF TERRE THAEMLITZ »COMMENT GET MUSIC
テーリ・テムリッツさんがSkylaxから初登場!!DJ Sprinkles名義での未発表曲"Hush Now"と、"上作延ハウス・エクスプロージョン"ことK-S.H.E.名義での'06年度アルバム『Routes Not Roots』から"B2B"をカップリング。

10

BOBMO

BOBMO FALLING FROM THE CRESSENT MOON »COMMENT GET MUSIC
師匠Oizo直系の痙攣エディテッド・ハウスへと仕上げられたFeadzリミックスB2も!!☆特大推薦☆盟友SurikinとのデュオHigh Powered Boysとしても大人気、Institubesが誇る若き精鋭Bobmoが2年振りにぶっ放す特大ボムがこちらっ!!

iLL - ele-king

 スーパーカーが結成された青森の港町で僕は育った。この町でテクノやエレクトロニカに傾倒していた思春期の頃の僕にとってスーパーカーそして中村弘二は、近いような遠いような、つかみどころがあるような無いような。言ってみれば遭難者が砂漠で見るオアシスの蜃気楼。そういう存在だった。

 地方都市でアンダーグラウンドな音楽にどっぷり傾倒するということは、やはり孤独との戦いという部分が大きい。情報を入手するのもひと苦労だし、発信者になろうとしても受け手の絶対数が限りなく少ない。田舎独特の閉塞感もある。ダンス・ミュージックに関しては素晴らしいレコード店とクラブ、そしてそれらの店を中心としたコミュニティがあった。が、しかし音響系だとか古いジャーマン・ロックだとかそういう音楽に関しては、当時高校生だった僕はやはり同好の士をなかなか見つけられずにいた。そんな状態だったので、スーパーカーやニャントラの活動を通してポップとアヴァンギャルド、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの境界線をヒョイヒョイと軽やかに飛び越えて活動し、熱い支持を集めていたこの同郷の才人には共感と羨望と......、そしていま思うと希望のようなものすら感じていたのだと思う。ほんと、砂漠でオアシスを見つけたみたいに。

 ナカコーこと中村弘二がiLL名義でリリースする5枚目のアルバムとなる今作は、各曲がいろいろなミュージシャンやDJとのコラボレートによって作られている......とひと言で書くと「あー、そういうアルバムあるよね」という感じかもしれないが、参加しているミュージシャン/DJのラインナップはやっぱり何度見ても圧倒される。なにせ、(これはやっぱり名前が並んでいることに意味があると思うで全員列挙すると)山本精一+勝井祐二、向井秀徳、POLYSICS、ALTZ、Base Ball Bear、DAZZ Y DJ NOBU、the telephones、MEG、RYUKYUDISKO、moodman、ABRAHAM CROSS、aco、ASIAN KUNG-FU GENERATION、clammbonである。このラインナップのなかのいくつかの組み合わせであれば同時にチェックしているという人も少なくないだろう。とは言っても、少なくとも現状ではアブラハム・クロスとMEGを同列に並べる人はそうそういないんじゃないだろうか。それこそ、本人を除いては。この時点で充分"中村弘二ならではのアルバム"だと思う。でも、これ音的にはどうやって纏めるのだろう? というのがこのアルバムを聴く前の最大の関心事だった。

 「相手がワルツを踊れば私もワルツを、ジルバを踊れば私もジルバを踊る」、これは、20世紀を代表するアメリカのプロレスラー、ニック・ボックウィンクルの言葉だ。このアルバムにおけるナカコーのスタンスは、まさにこういう感じだ。相手のファイティング・スタイルに合わせて柔軟に立ち回りながら要所要所で自分の持ち味の技を繰り出していく。それが例えば電子音のテクスチャーであったり、その声とメロディ・ラインであったり、ギターのトーンであったりする。自分の色は必ず出していくが、それはすべてをナカコー色に染め上げるような安易な統一感ではない。フラットな視点で相手を理解して、コミュニケーションが取れていなければなかなかできない芸当だ。このラインナップが決して、ある種の悪戯心だけで選ばれたわけでないという事が窺える。

 なんというか、iLLという存在そのものがひとつのメディアとして機能しているようだ。しばしば語られるDJのメディア性にも似たそれは、さながらガラージにおけるラリー・レヴァンのようだ。サルソウル・オーケストラのようなフィリーソウルだけではなくザ・クラッシュから島田奈美まで、ラリーの手によって、ときに自らリミックスを施してプレイされた楽曲は一様にガラージクラシックスとして扱われている。それはひとつのジャンルであり、ラリー・レヴァンというメディアを通して参照されるひとつの時代のドキュメントでもある。じゃあ、iLLをフィルターとしていまの日本の音楽を参照する行為ってどうなんだろう? ちょっぴりフリーキー? やっぱり"iLL"なんだろうか? いや、ひとつの入り口からこんなにフラットにいろいろな音楽文化圏にアクセスできるというのはむしろヘルシーなことだろう。もしいま、文化的孤独に悩む地方の高校生がこのアルバムを聴いて、誰かと関心を共有できる音楽がひとつでも増えたとしたらそれはとても素晴らしいことだと思うし、やっぱりそれは希望なんだと思う。

Chart by UNION 2010.06.17 - ele-king

Shop Chart


1

MALIK PITTMAN

MALIK PITTMAN From Jzz To Jlb WHITE / JPN / »COMMENT GET MUSIC
RE-STOCK!!! THEO PARRISH、MOODYMANN、RICK WILHITEに続く3 CHAIRSのメンバー、MALIK PITTMANNによるMIX-CD!! トラック・メイカーとしては、実験的でアングラテイストのDEEP BEATDOWNをプロデュースしますが、こちらのMIX CDは、彼のバックボーンの一つでもある80'Sのメロウ・フュージョンををMIXしたリスニング仕様のMIX CD!

2

INNER SCIENCE

INNER SCIENCE Theme of the Transitions BLACK SMOKER RECORDS / JPN / »COMMENT GET MUSIC
毎回、こちら側を飽きさせない、深いMIX CDをリリースし続けるBLACK SMOKERから、INNER SCIENCEが2年振りに再登場!! 大幅にダンスミュージックにアプローチした快作の流れをそのままに、MINIMAL、DUB、DISCO RE-EDITなど、ハメ+アゲのMIX CDになってます!!

3

CV313

CV313 Infiniti-1 ECHOSPACE / US / »COMMENT GET MUSIC
KING OF MINIMAL DUB、DUB TECHNOのトップ・レーベル「ECHOSPACE」の中心的アーティスト、CV313による新作!! 年内リリースのアルバムの先行12"との事。常に変わらない、深スギル、リヴァーヴ&ディレイの世界。REMIXERに、これまた独自のセンスを貫くSTLが参加。ECHOSPACE的アトモスフィック処理とインダストリアルな四つ打ちで素晴らしくハマる。

4

ROUND TWO

ROUND TWO New Day MAIN STREET / GER / »COMMENT GET MUSIC
RE-STOCK発見!!! BASIC CHANNEL傘下「MAIN STREET」レーベル!!2番は、今も現場でフルに活用されて、中古でも毎回即売れです。A面は、ソウルフルに歌い上げるNY HOUSE系のVOCALを活かしたDEEP HOUSE。B1がクラシック!! 渋いほどに、展開なしで、ねちっこいGROOVEのみで踊らせるTECH DUB。

5

ROUND THREE

ROUND THREE Acting Crazy Feat. Tikiman MAIN STREET / GER / »COMMENT GET MUSIC
RE-STOCK発見!!! BASIC CHANNEL傘下「MAIN STREET」レーベル!! 1番2番は、DEEP HOUSE的要素が強めでしたが、ここら辺からMAURIZIO節が効きはじめます!! TIKIMANをフューチャーし、トビ要素も高まり、ウラ打ちのハイハットと、おなじみのディレイの利いたリフは永遠に飽きない名曲です!!!

6

VARIOUS PRODUCTION

VARIOUS PRODUCTION Keep Her Keen VARIOUS PRODUCTION / UK / »COMMENT GET MUSIC
THEO PARRISH MIX CD" Suggested Use Pt.2"収録、FRANCOIS K WANT!! ACTRES REMIX!! 一度聴いたら忘れない、悪夢的なコーラスと、初期THEO PARRISH、OMARS あたりのLOW-FIなリズム。真っ暗なフロアで聴いたら、酩酊間違いない危険極まるダークな変態HOUSE。レコメンド!!!!

7

SLAM MODE FEAT.THE BAULS OF BENGAL

SLAM MODE FEAT.THE BAULS OF BENGAL Apreketa (Black Vinyl) SPIRITUAL LIFE MUSIC / US / »COMMENT GET MUSIC
SPIRITUAL LIFEが2003年にリリースしたコンピ「NEW BIRTH」に収録されていたSLAM MODEのJEFF MILLS REMIXが初のヴァイナル化!! JEFFらしい、ミステリアスなウワモノと、トライバルはリズム、浮遊するアフロ・チャント。異常なまでのトランス感を漂わせた三次元トライバル・ハウス!!

8

ALTZ VS DJ NOBU

ALTZ VS DJ NOBU Mariana JAPONICA / JPN / »COMMENT GET MUSIC
アフロジャズ・トライバルチューン傑作!!! ALTZとDJ NOBUによる脅威のジャパンアングラ合戦!!! フリーキーでアクティヴなトランペット、ファンキーなVOICEサンプル、ススペーシーで密林ジャングル系のリズムを擁するアッパートラック!! DJ NOBUによるREMIXは、チャント要素とミニマル要素をより強化し、クラップも気持ちいいRICARDO、LUCIANOラインのTOPチューン!!!

9

BRENDON MOELLER

BRENDON MOELLER Mainline EP ECHOCORD COLOUR / DEN / »COMMENT GET MUSIC
ヨーロッパにおける、DUB TECHNOの中心的レーベル「ECHOCORD」から、ベテランのBRENDON MOELLER A.K.A. ECHOLOGISTがリリース!! 曇りガラスの向こう側から鳴るような独特のキックと、NEW WAVE的なシンセのリフが気持ちいいDUB TRACK。逆面に、最近好調のROBAG WRUHMEがREMIXERとして参加。ぶっ壊れたビートと演説っぽいスポークン・ワードを使った流石の内容!!

10

CLAUDIO FABRIANESI & DONATO DOZZY

CLAUDIO FABRIANESI & DONATO DOZZY Disco Infecta MULE ELECTRONIC / JPN / »COMMENT GET MUSIC
PETER VAN HOESENはじめ数々のコラボーレーションを成功させてきた鬼才・DONATO DOZZYが今回タッグを組んだのは、同郷イタリアの新鋭・CLAUDIO FABRIANESI! ウォーミーなシンセと緩やかな打ち込みが身体に浸透していくタイトルトラックも良い出来ですが、ヘビーなキックが静かに変化していくドローンの海を切り裂くB面"Fade Out"が秀逸!

Chart by JETSET 2010.06.17 - ele-king

Shop Chart


1

TODD TERJE

TODD TERJE REMASTER OF THE UNIVERSE »COMMENT GET MUSIC
Remaster Of The Universeからのシングル・カット!!ニュー・ディスコ・シーンに新風を巻き起こしたリエディット職人"Todd Terje"のリミックス/エディット・ワークをコンパイル/ミックスした"Remaster Of The Universe"から、文句なしの選曲で12"カットをドロップ!!

2

BULLJUN

BULLJUN BULLJUN & FUNKY PRESIDENTS 2029 »COMMENT GET MUSIC
コレこそヴァイナルで欲しかった!2ndアルバムが遂にジャケ付2LPで登場!A.Y.B. イズムをクレイツに詰め込み、NY~東京~宮崎とさすらう中でかすかに覚えたゼロ年代への違和感と、無関係に加速するソウル~ファンク~ジャズ~ラテンへの愛情。それら全てを16パッドに込めることで自らのBボーイ美学を表明した、正に【Mo' Music, Less Talk】な2枚組です!

3

JOHN TALABOT

JOHN TALABOT SUNSHINE REMIXES »COMMENT GET MUSIC
トロピカル・フロウティン・サマー・ディスコ最高曲!!Delorean Remixもグレイトです。Permanent Vacationからの12"でオナジミのバルセロナの新鋭、John Talabot。地元レーベルHivern Discsからの超限定カラー・ヴァイナル!!

4

BINGO PLAYERS / EDWARD'S WORLD

BINGO PLAYERS / EDWARD'S WORLD TOM'S DINER / SOUL & ROOTS »COMMENT GET MUSIC
永遠のカフェラテ・アンセム"Tom's Diner"をダーティ・ダッチ・リミックス!!☆特大推薦☆Suzanne Vega feat. DNAによる歴史的アンセムを、大人気のダッチ・リミキサー・デュオBingo Playersがリミックスした特大ボムが登場っ!!

5

BIZ MARKIE

BIZ MARKIE TRIBUTE TO SCRATCH »COMMENT GET MUSIC
JET SET独占入荷!昨年以降噂になっていた垂涎の一枚・・・緊急入荷しました!Bizの1st収録曲ながら、12"化は勿論初!しかもインストやアカペラ、更にJackson 5やMarvin Gaye楽曲をふんだんに盛り込んだ危険過ぎるお蔵入りバージョンまで収録!

6

DVS1 (ZAK KHUTORETSKY)

DVS1 (ZAK KHUTORETSKY) LOVE UNDER PRESSURE EP »COMMENT GET MUSIC
Derrick May氏率いるTramsmat復活第2弾が早くも登場です!!Greg Gowの"Pilgrimage EP"でドラマティックな復活を果たしたTransmatがまたもや新作をリリース!!間もなくリリースが予定されているベルリン最高峰のクラブ BarghainからのBen Klockによる最新ミックスCD『Berghain 04』にも収録予定と話題です。

7

MYLES COOPER

MYLES COOPER GONNA FIND BOYFRIENDS TODAY »COMMENT GET MUSIC
超オススメです★スーパー・カラフルなベッドルーム・トロピカル・エレポップのニュー・ジーニアス!!快調リリースが続くTransparentから、またもや新しい才能が登場!!カリフォルニアの宅録シンガー、Myles Cooperのデビュー・シングル。今年のサマー・ポップ定番はコレです!!

8

DUBBEL DUTCH

DUBBEL DUTCH THROWBACK EP »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆ダーティ・ビーツをルーツに持つUKファンキー超新星が遂に正規デビュー!!ダーティ・ビーツ系US最強ブログが主宰する同名レーベルからのヴァイナル・リリース第2弾。Girl UnitのFactミックス収録で話題を集めたキラーA1を搭載ですっ!!

9

ERIC COPELAND

ERIC COPELAND DOO DOO RUN »COMMENT GET MUSIC
Gary Warを超える衝撃のグニャグニャ不定形サイコ・ポップ。これは普通じゃ作れません。ブルックリン最重要バンドのひとつBlack Diceの中心メンバーEric Copelandのソロ7"が、No Age主宰P.P.M.より!!大判ポスター・スリーヴの限定盤!!

10

1000NAMES

1000NAMES ILLUMINATED MAN LP »COMMENT GET MUSIC
得意の壮絶カットアップに加え、明滅アルペジオ・シンセも組み込まれた大傑作!!Team AcreからのEP"Paradise"も当店ヒットしたブルガリアンDJデュオが、ウォンキー/ブロークンヒップホップ大人気レーベルBlack Acreからアルバム・リリース!!

interview with iLL - ele-king

 広尾の〈DOMMUNE〉のうえにある〈SUPERCORE〉という、このエリアに似つかわしくない怪しげなカフェで(入口にはスターリンの『虫』とプライマルの『スクリーマデリカ』が飾られている)、ここ最近はよくビールを飲んでいる。オーナーご自慢のカップに注がれた生ビールは格別に美味しい。

 明るい店内にはつねに音楽が流れているが、それは実はナカコーの選曲によるものだそうだ。実際、そのカフェで何度かナカコーを姿を見かけている。この、青森からやって来たサイケデリック・ロックの使者は、いわゆる猫背なので、すこしばかり酔っていると、ホントにネコと見間違えてしまう。彼の実験的なエレクトロニック・ミュージックのプロジェクトの名前を思いだそう。ニャントラ――である。

 これだけ世のなかが"健康"と"明るさ"ですべてを包み込もうとしている時代において、青森からやって来たニャントラは、その真逆の"iLL"なる言葉を自分のプロジェクトの名前に選んで、しぶとく活動している。かつてスーパーカーとして宇宙誕生の瞬間まで見てしまったであろうこの男は......iLLとして試行錯誤を繰り返しながら、彼のロック・サウンドを探求している。カフェから流れる音楽――ミニマル・テクノ、ヴェルヴェッツ、ザ・XX、あるいはビートルズやロキシー・ミュージック等々――は、ニャントラの毎日のサウンドトラックようである。


iLL / Turn a
Ki/oon

Amazon

 iLLは今回、ある意味では無茶なことをやっている。アルバム1枚をいろんなミュージシャン/DJとのコラボレーションによって作るというものだ。アルバムには、山本精一+勝井祐二、向井秀徳、POLYSICS、ALTZ、Base Ball Bear、DAZZ Y DJ NOBU、the telephones、MEG、RYUKYUDISKO、moodman、ABRAHAM CROSS、aco、ASIAN KUNG-FU GENERATION、clammbon......が参加している。このリストを見ても、ほとんどすべての人がいったい何のことなのか想像がつかないだろう。サイケデリックなニャントラは、いったい何を考えているのだろうか。

 〈SUPERCORE〉でナカコーと会った。

聴く前から、もうイメージで聴かないという人が多いでしょ。まずは聴いて欲しい......というのがありますけどね。知らないっていうだけで、価値のないモノとされるような感じはあんま好きじゃないので。ああいうモノもあるけど、別のモノもある、それは面白いけどな。

じゃあ、今日は夢のある話をしてもらいましょうか。

ナカコー:はははは。

やっぱ夢がないとね(笑)。

ナカコー:はははは。

何度も訊かれているだろうけど......、なんでこんな企画を考えたの?

ナカコー:段階があるんだけど、まずはやったことがないことをやろうと。それで、コラボ・アルバムはやったことがないと。最初はそこ。

なんでコラボ・アルバムを?

ナカコー:自分と日本のミュージシャンとの距離感というのがずっとあったから。てか、自分のなかにそれがあったから。一歩引いた目で見ていたというか。だから、コラボをやれば、逆にお客さん的な目線で作品を作れる。

そうなんだ?

ナカコー:それは面白いかなと。新鮮だし。

言い方悪いけど、他力本願というか。

ナカコー:はははは。そうだね(笑)。

DJ的とも言えるよね(笑)。

ナカコー:はははは、そうだね。

なるほどねー。自分がいままで距離を感じていたっていうのは、どういうこと?

ナカコー:いや、もともと邦楽あんまり聴かないから。アンダーグラウンドなものやオルタナなものは聴いてたけど、日本のポップスとかロックはそんなに聴いていないからね。バンド付き合いもあるわけじゃないし。だから、それを実際に経験してみようと。自分はやっぱ、日本の音楽の場所にいるわけだし、だけど、そこをいままであんまり見てなかったからね。自分と同じところでやっている人たちがどんな風に考えているのか知りたかったというのもあるし......そこは大きかったかな。

で、知ることはできた?

ナカコー:うん、できたかも。ある程度は。

それは夢のある話だった?

ナカコー:夢があるかどうか知らないけど、良い経験だったけど。良い気分転換だったし。

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会ったこともない人といっしょにやるのがスリリングなんですよ。向井くんとも会ったことなかったし、ポリシックスにも会ったことなかったし。ベースボールベアーも、ノブくんも、アジカンも、クラムボンも......ほとんど会ったことがなかった。

いろんな日本のミュージシャンやDJとコラボして、良かったところは何ですか?

ナカコー:やる前に、自分はきっと柔軟に違いないと思っていたんだけど、実際にやってみて柔軟だった。

はははは。なにそれ?

ナカコー:ちゃんと相手に合わせることができる。チューニングができる。それはコミュニケーションが取れるってことだから。

なるほどねー。最初にこの企画の話を聞いたときに思ったことがあるのね。たとえばDJやクラブというのはシーンがあると思うのね。DJだけではなく、オーガナイザーやクラバーをふくめて、自分はこのシーンのいちぶであることを自覚していると思うのね。多少の音楽性は違ってもだよ。やはりそこには風営法だったり、社会的に自分たちの"シーン"ということを自覚しなければやっていけないところがあると思うのね。翻ってロックはどうかと言うと、シーンという意識がすごく希薄に思えるんだよね。日本のロック・シーンと言われても、もうわけわからないでしょ? 

ナカコー:まあ、でも、下北のシーンとかありますけどね。秋葉とか。

ああ、そうか。ハードコアのシーンもあるよね。でも、UKやUSなんかと比較すると、この国のロックは何が最良であって、どんなバンドに未来が託されているのかよくわからないし、どのシーンにいま注目したらいいのかっていうのもない。向こうはロラパルーザとかさ、あるいはビースティーのチベット支援とかさ、なにか理想があってそれでバンドが集まるじゃん。日本でそういうのって知らないし......。だから、ナカコーが持っていた"距離感"は他のバンドも持っていたかもしれないなと思うの。だって、これだけたくさんのロック・バンドがいて、そして、言ってしまえばバラバラなわけでさ。だからね、そういう意味で、ナカコーが今回やっている試みは、極論すればシーンがないなかでやっているわけだからさ......すごいことだよ(笑)。

ナカコー:はははは。

甘くはないというか、そう簡単に理解されるものじゃないと思うんだよね。

ナカコー:ただ、今回ここにいるのが日本の音楽のすべてじゃないからね。これが日本の音楽シーンだとも思っていないし。

そうだよね。ナカコーがキュレーターを務めたプチ・フェスティヴァルみたいな。

ナカコー:そうですね。それはあるかも。海外の人に、これはいまの日本の音楽のひとつの姿ですって、そういう感じでは出せるかな。

iLLやっていて、対バンに困ることはある?

ナカコー:まあ。

正直なところ、仲間が欲しいって気持ちはあったのかな?

ナカコー:仲間というか......、まず何を考えているかわからないし、だけど、いっしょに音を出してみて、で、何を考えているかわかったという(笑)。

なるほど(笑)。あのー、今回の企画は、本当に冒険的なことをやっていると思うんだよ。こんなこといまどき誰もやらないし、自分が興味のない外の世界とはまったく関わりたくないというのがいまの日本社会だから、すごく世のなかに逆らっているとも思うんだよ。だけどさ......ポリシックス聴いている子がDJノブに興味を持つかな? アブラハム・クロスを聴いている子がアジカンを聴くかな? おたがいはなっから「自分とは違う」という意識でいるのがいまなんじゃない?

ナカコー:うーん、そうなんだけど、そこは聴いている人の感性によるし、ひょっとしたら"アリ"かもしれないし。うん、たしかにそうなんだけど、聴いてみないとわからない。

それはたしかにそうだね。

ナカコー:聴く前から、もうイメージで聴かないという人が多いでしょ。まずは聴いて欲しい......というのがありますけどね。知らないっていうだけで、価値のないモノとされるような感じはあんま好きじゃないので。ああいうモノもあるけど、別のモノもある、それは面白いけどな、それにどっぷり浸からなくても......。

そうだよね。やってみて、このコラボした人たち全員に共通しているモノって何だと思う?

ナカコー:うーん。

DJノブからベースボールベアーまで。

ナカコー::「すげー、わからない」ということと「すげー、わかる」ということが共存している。なんて言うか......「聴けばわかる、でも、聴かないとどうやって作っているのかわからない」、そういうところがあって。ベースボールベアーの音楽も何かをやろうとしていることはわかる。みんなに「わかる」と「わからない」がある。

"分断化された10年"という言葉があるんだけど、いまはとにかくみんなバラバラだと。たとえばアブラハム・クロスの小さなシーンとアジカンのシーンには回路がないでしょ。ナカコーはそこを繋げたいと思っているの?

ナカコー:できれば繋げたいと思っている。

それは夢のある話だね(笑)。

ナカコー:はははは。フェスとかで......、ロッキングオンのフェスでもなんでもいいんですけど、このメンツでやったらお客は揺れ動くよなーとは思うんですけどね。

揺れ動くって?

ナカコー:まあ、それが良いか悪いか別にして、こっちのほうが健全というか、同じようなバンドばかりが続くよりは、むしろこっちのほうが繋がるんじゃないかなと思うんですけどね。

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ナカコーはなんで日本の音楽を聴かないの?

ナカコー:なんでだろ? それわかんないですけどね。

僕があんま日本の音楽を聴かない理由は音が魅力的じゃないからで、やっぱ歌詞が重要だったりするんでしょ。で、その歌詞がさ......『脳内革命』ってわかる? いわゆる自己啓発本ってヤツなんですけど、「あなたは偉い」「あなたは間違ってない」「あなたは輝いている」とか書いてあるのね。それを読んでサラリーマンは前向きになるんだけど、で、だから売れているんだけど、音がつまらない歌詞重視の日本の音楽の言葉って、ほとんど自己啓発じゃない。それがすごくイヤなんだよね。

ナカコー:はははは。

ねぇ(笑)。「言われたくないぜ、お前には」、って(笑)。だから......ナカコーも「君は世界でいちばん輝いている」とか歌えば売れるよ(笑)。

ナカコー:はははは。そうかな(笑)。

もちろん歌詞も重要だけどさ。iLLもそういう意味では、まずは、たぶん音が好きなわけでしょ?

ナカコー:まあね。

だからね、今回のコラボ・アルバムはたぶん、純粋に面白い作品を生みたいことだと思うし、意外なほど音にまとまりを感じたんだよね。もっと支離滅裂になるかと思っていたけど、意外なほど整合性があったね。

ナカコー:そうっすね。自分が現場にいるし、どんな音を出されても自分がまとめるみたいな気持ちがあったから、最後の仕上げみたいのは自分でやるから、まあ、統一感は出るだろうなって思ってました。それはあったほうがいいと思っていたし、あるだろうなと思っていた。

いっしょにスタジオに入ったのは誰?

ナカコー:山本(精一)さん、勝井(祐二)さん、ポリシックス、ベースボールベアー、テレフォンズ、アブラハム・クロス、クラムボン......。

向井秀徳は?

ナカコー:データのやり取りだけだったね。忙しかったから。オレがリズムトラックとかオケを作って、それで向井くんが歌とシンセを入れてきて。

ミニマル・テクノだったもんね。

ナカコー:向井くんと話したときに、お互いムードマンが好きだということで、そこで「よく、わかった」と。作りやすかったですけどね。

たしかにインパクトがある曲だよね(笑)。

ナカコー:はははは。

DJに関してはみんなリミックスだよね?

ナカコー:頼んだのはオレが大好きなDJですね。

ノブくん、ムードマン、アルツ、みんな良かったんだけど、なかでもアルツのミックスがちょっと素晴らしいと思ったな。よりサイケデリックなクラウトロックというか。

ナカコー:そうですね。原曲は3コードのロックなんですけどね。

ムードマンはクラスターがミニマルやったみたいな音だったね。ノブくんはダビーでアシッディなエレクトロニック・ダブ......。

ナカコー:どっちも格好いいですよね。

ハルカっていうのは?

ナカコー:それは曲名(笑)。

はははは。

ナカコー:はははは。

アジカンの"新世紀のラブソング"はiLLがミックスしたの?

ナカコー:そうそう。

それもアリなんだ。出たばかりのシングルなのに、よく許可してくれたね。

ナカコー:そうですよね。びっくりしました。

アジカンがいちばん浮いているよね。

ナカコー:それはまあ。

悪い意味じゃないよ。やっぱ歌詞がしっかりあるし。

ナカコー:たしかにアジカンがいちばん難しかった。

メッセージがあるというか、言葉が強いからね。

ナカコー:そう、それを消しちゃうと曲の意味もなくなっちゃうしと思って。最初はぶつぶつ切っちゃおうって思っていたっだけど、それだとアジカンをやる意味がないなと。しかもアジカンと自分がいちばん接点がないようにも思っていたし。それはわかっていたんです。でも、接点がない同士でやるのもいいかと。リミックスは、あと琉球ディスコもやりましたね。

それがMEGちゃんが歌っている"遙"という曲だね!

ナカコー:はははは。そうっす。

失礼しました(笑)。でもさ......ダンス色が強くない?

ナカコー:それは意識したわけないんですよ。やったらそうなっちゃった。なんかね、気がついたら4つ打ち聴いているみたいな、それが自分のモードでもあったし。

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自分が自分のことをやっているよりも、こうやって人と広がっていくほうの面白さというのもあるんですよね。参加してくれた人たちもみんなそういう感性を持っている人たちだと思うんです。だから参加してくれたと思うし......。

今回は実現できなかったけど、やりたかった人っていますか?

ナカコー:七尾旅人くん、瀧さんとか......。

ピエール瀧?

ナカコー:はははは。

はははは。

ナカコー:やっぱ電気グルーヴは巨大なんで(笑)。

たしかに。

ナカコー:影響も大きいし、日本の音楽の重要な要素だから。でも、ちょうど忙しかったみたいで。

残念だったね。それこそ彼の歌詞は聴きたかったかもしれない(笑)。ちなみにリミックス以外はぜんぶナカコーが曲を書いているの?

ナカコー:いや、ベースボールベアー、テレフォンズは彼らの曲ですね。

テレフォンズとはどういう関わりがあるの?

ナカコー:彼らのアルバムをプロデュースしたんで、今回はもっと深くプロデュースしてみたいなと思って。

AC/DCがディスコやったみたいなバンドだなという印象なんだけど。

ナカコー:いや、いろいろ考えていると思いますよ。

そのアイデア自体は面白いと思うんだけど。

ナカコー:もっと幅広く音楽を聴いているし。

じゃあ、この先もっと変化していくかもしれないんだね?

ナカコー:たぶん、そうだと思います。海外からの影響もあるし、ダンス・ミュージックとロックということの組み合わせを考えているし。

僕は唯一、このベースボールベアーっていうバンドを知らなかったな。どんなバンドなの?

ナカコー:『ロッキングオン・ジャパン』とかでよく見るバンドというか......すごく乱暴な説明ですけど。

なるほど。

ナカコー:20代半ばのバンドで、すごく人気ありますよ。前から名前は知っていたんだけど、自分のなかではさっき言った「わかる/わからない」の共存の度合いが強いバンドだったから、頼んでみようって。

「わかる」部分って?

ナカコー:やっぱバンドとしての結束力ですね。そこはオレもずっとバンドやってたからわかる。バンドとしての生き方......みたいなの。

じゃあ「わからない」ところは?

ナカコー:うーん。......「なんでそこまでバンドにこだわるの?」っていう。

はははは。

ナカコー:バンドを解散したオレからみると(笑)。

分裂しているものがあるんだね。

ナカコー:そうかも(笑)。

まあ、じゃあ、これは......とにかく作ったからあとは聴いてくれた人がどう思うか、というところに賭けているアルバムなんだね。

ナカコー:たぶん。きっと邦楽メインで聴いている人たちにいくと思うから。

そうだろうね。DJノブが千葉を拠点にどんな音楽活動をしているのか初めて知るとっかかりになるかもしれないしね。これを聴いてアブラハム・クロスのファンになる人がいてもおかしくないものね。

ナカコー:そうだね。そうなったら、すごく良いですよね。

ILLがいま見ている......でっちあげかもしれないけど、シーンのようなモノが見えればね。

ナカコー:うん、ただシーンというのが、まったく繋がっていないのがもったいない気がします。

ここ1年、何回かオム二バスのライヴに行ったんですよ。そうすると、自分の目当てのバンドが終わると多くのファンが帰ってしまう。そういう状況が僕はずっと不健全だなと思っていたのね。相対性理論のライヴが終われば客は帰る......とかね。でも、それってよく考えてみれば、シーンがないってことなんだよね。シーンがあれば、パンクでもテクノでもラップでも、オム二バスのライヴの最後まで見ようとするじゃない。でも、シーンがないから単体のアーティストにしか興味が集まらない。そういう意味では、まあ、勇気ある挑戦でもあったね。

ナカコー:はははは、そうかもしれないですね。

良くやったなーと思いますよ。

ナカコー:よく参加してくれたなーと思いますね。

そうだね。

ナカコー:参加した人たちも「これどうなるの?」って思いがあったと思いますよ。

それはそうだよね。

ナカコー:でもきっと、面白いものになると信じてくれたんだと思うんですよ。

中村くんの人徳でしょうね。

ナカコー:いや、これで初めて会う人ばっかだったし(笑)。

会ったこともない人とよくいっしょにやったね。

ナカコー:会ったこともない人といっしょにやるのがスリリングなんですよ。向井くんとも会ったことなかったし、ポリシックスにも会ったことなかったし。ベースボールベアーも、ノブくんも、アジカンも、クラムボンも......ほとんど会ったことがなかった。

そうかー。

ナカコー:音楽があるから、知らない人とも話せるからね。

なるほどね。ナカコーはこのアルバムで、たしかに他の人たちがやらない"努力"をしたんだろうなとは思いますよ。

ナカコー:努力というか、自分が自分のことをやっているよりも、こうやって人と広がっていくほうの面白さというのもあるんですよね。参加してくれた人たちもみんなそういう感性を持っている人たちだと思うんです。だから参加してくれたと思うし......。それをリスナーの人も共有してもらえたらいいんですけど。

大きく言えば、分断された島宇宙を繋げたかったんだろうし、そういう努力はもう日本では誰もしなくなったからね。ただし、ここまで努力してみても、誰もこっちを振り向かないかもしればいし、空振りするかもしれないでしょ。知らなかった音楽を知りたくない、そんなこと求めてないって人だっているわけだし。その覚悟はある?

ナカコー:もちろん。まったく空振りするかもしれないって覚悟はありますよ。

できれば夢のほうに話が進んで欲しいけどね。

ナカコー:はははは。ですねー。夢は夢だから(笑)。

最後のクラムボンとの曲が、なんかそんな感じだね。淡く終わっていくような......。

ナカコー:まあ(笑)。

CHART by STRADA RECORDS 2010.06.11 - ele-king

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