「iLL」と一致するもの

Oliver Sperl - ele-king

 なにかにつけてベルグハイン最高と言われると、どうにもケチを付けたくなるものだが、そんな皮肉屋も、しばらくベルリンに住んでいたデザイナーの真壁昂士(日本でもっともぶっ飛んだ雑誌『Erect Magazine』を手がけるデザイナー)の話は耳を傾けるに値する。ベルリンに滞在した数年間、ベルグハインに通い続けたこの男が言うには、「ベルグハインは音の良さばかりが日本で言われているが、実はアートもすごい」とのことで、そのアート(主にフライヤー)を手がけているのが、Oliver Sperlである。
 エッシャーとバンクシーとジェイミー・リードをマルキ・ド・サドがミックスしたような混沌とした世界は、たまらく魅力的である。この機会にベルリンのクラブ・カルチャーに深く関与するアートに触れてみよう。

Oliver Sperl 個展 「raw material」

2014/4/26(土)- 5/2(金)
13:00-20:00
at KATA (東京・恵比寿 LIQUIDROOM 2F)
https://www.kata-gallery.net

闇に差し込む躍動の光は、現代社会を反映し、不条理なフォルムを描き、原始の鼓動と来るべき未来を彷彿とさせる! オリバー・シュピールは、あのベルリンのウルトラフロア=BERGHAINのアートワークも手がける最前衛アーティスト! 彼の眼差しは、URのアイコンを無数に生み出したアブドゥール・カディム・ハックがデトロイトを象徴したように、 現在のベルリンのエクストリーム・ミニマル・ソサエティを表層する批評眼なのだ!!!!!宇川直宏(DOMMUNE)

イラストレーションとコラージュという工具を使い、漆黒の闇の中、地下深くに広がる真っ黒なメルヘン世界をデザインし続けている。そして、それは現代社会を記した絵巻物なのだ河村康輔(ERECT Magazine)


■オープニングレセプション
2014.4.26(Sat)18:00-21:00
入場無料
DJ:
37A (PANTY)
DJ Soybeans
Takashi Makabe
※オープニングレセプションでは、作家が在廊いたします。
作家と共に作品の世界に触れられる機会ですので、どうぞ足をお運びください。


■クロージング・パーティー
「Orange Lounge」
2014.5.2(Fri)19:00-23:30
entrance free *1st drink charge 1,000yen(include music charge)
at Time Out Cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]

music by
Nobu (FUTURE TERROR/Bitta)
河村康輔
JUBE (BLACK SMOKER RECORDS)

※Orange Lounge詳細は以下より
https://www.timeoutcafe.jp/
news/140502000726.html

::ARTIST PROFILE::
Oliver Sperl https://oliversperl.de

70年代後半 - 幼いOliverの目に焼き付いたのは、ローゼンタール磁器工場に金色のポルシェで通うグラフィック・デザイナーの隣人の姿だった。
この強烈な印象が彼をグラフィック・デザイナーに道へと進ませるきっかけとなった。
ベルリンのLette-Vereinでグラフィック・デザイン、そしてHamburg’s University of Applied Sciencesでイラストレーションを学んだ後、サンディエゴでフリーランス・デザイナーとしてキャリアを積む。
2000年にベルリンに拠点を移し、現在に至る。主なクライアントは音楽レーベルや出版社、ベルリンのテクノ・クラブとして名高いBERGHAINや日刊紙tazなどがある。



When Oliver was a little boy in the late seventies he once saw his neighbour, a graphic designer at the Rosenthal porcelain factory, drove by in a gold-coloured Porsche.
This powerful and lasting impression was the impetus for him to study graphic design at the Lette-Verein Berlin and illustration at Hamburgs University of Applied Sciences- He has also worked as a graphic artist in San Diego, California, and since the year 2000 has been working as a self-employed designer in Berlin.
Among his clients are music and publishing houses, the party temple Berghain, as well as the Berlin-based daily newspaper taz.


interview with Yakenohara - ele-king


やけのはら
SELF-PORTRAIT

Felicity

Amazon

 やけらしい……というか、総じて、のんびりしている。カリブ海の影響を受けたリズムも、控え目に鳴っている。ジャケはかわいいイラスト。
 『SELF-PORTRAIT』はやけのはらのリミックス集で、2007年から2013年までのあいだに彼が手がけた楽曲が12曲入っている。
 このリミックス盤は……、彼のファースト・アルバム『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』が2010年のリリースなので、2007〜8年という、より初期のやけのはらが聴ける作品だと言える。リミックスを依頼しているのは──中村一義 、奇妙礼太郎、idea of a joke、ランタンパレード、アナログフィッシュ、Spangle call Lilli lineなどなど──名前を並べるとあまり統一感のないように思えるのだが、彼らの曲をやけのはらが再構築すると1枚のアルバムの1曲に収まる。
 個々のアイデアについては、彼自身が書いたライナーに詳細が記されている。ライナーをいつか自分で書きたかったということだが、たしかに力が入った言葉をみっちり書いている。

 ボヘミアン気質の初期の作風、オプティミスティックな感覚はいまでもやけのはらのトレードマークなのだろうが、やはりある時期までの初々しさは、その時期──彼がまだ真冬でもサンダル履きで街をうろついていた頃──だからこそ出せたものだと言えるだろう……ふと、いまこれを書きながら思ったのだが、サンダル履きのやけのはらは、日本でチャヴ・ファッションを先んじて実践していた男なのかもしれない。

 彼は、2000年代なかばの時点では、ラッパーというよりも、若手のDJのひとりとして評判だった。いろんなところから声をかけられ、よくDJをしていたと思う。ファースト・アルバムを出すのが遅すぎただけで、早い時期から彼のもとにリミックスのオファーがあっても不自然ではない……

ずっとリミックス盤を出したかったんですけど、タイトルが決まらなかった。エイフェックス・ツインのタイトル、『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』がずーっと頭にあって、ほんと最高のタイトルだなと思ってたんで(笑)。あの秀逸なタイトルが、ハードルとして高くありすぎましたね。

率直な感想を言うと、けっこうリミックスをやってたんだなっていう。

やけのはら(以下、やけ):あ、そうですか。まずそこから(笑)。

(笑)すごくやってたんだね! 奇妙礼太郎のリミックスは知ってるけど、他のはほとんど聴いてなかったなあ。知らないものばかりだったよ。

やけ:野田さんの聴きそうなところとはちょっと違うかもしれないですね、もしかすると。

日本では、リミックス作品のリリースが90年代ほど盛んじゃないし、あとポップスとDJカルチャーとの溝、いま日本では開いちゃってるからね。

やけ:その頃だったらリミックス盤ってけっこうありましたもんね。1枚丸々リミックスとか。

だから、いまエレキングでもリミックス盤って作ってるんだよ。12インチのアナログ盤で。

やけ:知ってますよ。踊ってばかりの国。

そうそう、それが1枚目で、次はオウガ・ユー・アスホールの新曲をアルツくんにリミックス頼んでいて……いま気がついたんだけど、やけちゃんってアルツくんに似てるよね?

やけ:それ見た目でしょ(笑)? たしかによく言われます。

へへへへ、それにしても、やけちゃん、こんなにリミックスをやってるんだなあ。売れっ子じゃない。

やけ:けっこう、長いタイムスパンのなかから選んだんで。でも、もっといっぱいあるから。まあ、あんまクラブ仕様って感じでもないですけどね。

そうかなー。やっぱ、どちらかと言うとクラブ寄りの感性だなと思ったんだけど……と言っても、オリジナルを知らない曲が多いから、オリジナルがクラブ寄りだったりするのかもね。でも、やけらしさは感じるよ。ちょっと清々しい感じとか、タイトルを『SELF-PORTRAIT』ってつけたくなる気持ちもわかる。良いタイトルだね。

やけ:はい。ありがとうございます。

やっぱ、フェリシティから出してから、リミキサーとしての仕事は多いの?

やけ:いや、わかんないです(笑)。ひとと比べて多いのか少ないのかわかんないですけど、まあたまに誘ってもらったり。さっきの、ポップスとクラブとの溝の話で言えば、僕がロックとかポップスが好きだったり理解があった上でクラブっぽいものができると思われてるのかもしれないですね。頼んでくれるひとからしたら。

ああー。(DJ)ヨーグルトとちょっと近いよね、その見られ方は。

やけ:あくまで想像なんで、実際はわからないですけどね。頼む側からすると、自分たちの音楽はあんまりわかんない人間がただクラブ仕様にするっていうのは、ちょっとなって思うのかもしれないです。

なるほど。頼まれると絶対断らないタイプでしょ?

やけ:基本は。ただ自分のそのときのスケジュールとかもあるんで。

よほどのことがない限りね。

やけ:まあそうですね。

相手は選ばない?

やけ:選ばないって言うとヘンですけど、なんというか、挑戦というか。例えばこれには入ってないですけど、てんぱ組.ってアイドルみたいなひとなんかもやらせてもらったりしたんですけど。そういう普段聴かなかったり自分の作っているものと距離があっても、リミックスだと、チャレンジでやってみようかな、っていうのはありますけど。

なんで入れなかったの。

やけ:リミックスは、今回選んだ曲の倍ぐらいあって、そのなかからこれにしたんで。なんとなく、評判が良かった風のやつから逆算して入れていったというか。あと、ぼんやりなんですけど「あのとき友だちがいいって言ってくれたな」とか。3票ぐらい。ゼロか3かくらいの小さい差なんですけど(笑)。あとは自分がいままで関わったやつの、一番端と端まで入れちゃうとぐちゃぐちゃになりすぎるんで。いちおう1枚の整合性とバランスを考えつつ。

なるほど。でも、昔から議論されることだけどさ、リミックスを楽しむ文化が、いまだに日本では定着してないんじゃない?

やけ:どういうことですか?

いまだにビョークの曲をハーバートがリミックスするとビョークのファンが怒っちゃうみたいな。

やけ:はい、はい。ミュージシャンのクレジットのほうが大きいのは仕方がないけど。

だから、アイドルだろうが何だろうがさ、リミックスする側からすれば関係ないじゃない。

やけ::そうなんですけど、でも僕の場合は、たとえば歌のひとの曲だったら歌は全部残すとか、素材にはしないって自分内での決めごとにしてるんで。元のひとの中心軸は、まあ歌なら歌で、全部残すんで。あとなんだろう、そのサジ加減を楽しんでるんですけど、思いっきり全部素材にはしないで、いちおう元のリアレンジって風にやってるんで。だから自分ヴァージョンにはなってるけど、元のひとの核は全部尊重してるっていうか残してるっていうか。

なるほどね。たしかにリミックスっていうのは原曲に対するリスペクトがあるかどうかっていうのは、ひとつあるかもね。

やけ:リスペクトって言葉かはわからないですけど、素材にしちゃうんだったら何でもいっしょになっちゃうんで、やっててもつまらないっていう。

まあね。エイフェックス・ツインがそれこそ「カネのためにやったリミックス」って言ったりね(笑)。

やけ:あれが頭にあったんですよね、あのタイトル。

『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』(2003年)だっけ。あれは、リミックス文化に対するシニカルな批評だもんね。

やけ:そうなんですよ。ずっと(リミックス盤を)出したかったんですけど、タイトルが決まらなかったんですよね。で、エイフェックス・ツインのあのタイトルがずーっと頭にあって、ほんと最高のタイトルだなと思ってたんで(笑)。『26ミクシーズ・フォー・キャッシュ』みたいなのがいいなーって。あの秀逸なタイトルが、ハードルとして高くありすぎましたね。それで、なかなか出せなかった。

ああー。それでなんで『SELF-PORTRAIT』にしたの?

やけ:これはね、もう……まあボブ・ディランなんですけど。

うわ、大きいこと言うねー(笑)!

やけ:いや、ディランのアルバムであるじゃないですか。カヴァーが多く入ってる『セルフ ポートレイト』。あの感じでいいかなっていう。いま言った話の流れに通じるかもしれないですね。一見ひとの曲だけど、意外と俺のエッセンスがあるぞ、と。

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リミックスって、トム・モルトンとかウォルター・ギボンズとか、初期ディスコのひとたちのリエディットが最初じゃないですか。もっと過去に遡れば、やっぱりジャマイカのダブって発想があるでしょう。すでに録音してある素材を並べ替えたり、抜き差ししたりっていうか。


やけのはら
SELF-PORTRAIT

Felicity

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このジャケットの感じも、2000年代半ばぐらいの、やけのはらが自主で作ったミックスCDを思い出すなー。

やけ:たぶん一貫してそういうノリが好きなんじゃないですかね、僕。

これって、どういうノリなんだろうね?

やけ:まあ明るい感じ。楽しい感じ。

かわいい感じ好きだよね。ちなみに、リミックスしても歌詞を残すっていうのは、ひとつのこだわり?

やけ:うーん、歌詞を残さないとつまらない。なんだろうな、元からあった自分の曲のストックにちょっとヴォイス・サンプル乗せるとかやり出したら、なんかあんまり楽しく取り組めないんで。

ある程度縛りがあるなかでオリジナリティを出すっていう。

やけ:そうっすね。あとはアレンジって意識なんで、元の曲の一番大事なところは残さないとアレンジにならないんで。野田さんはどれが面白かったとかありますか?

意外なことに、中村一義のリミックスがいちばん良かったね。

やけ:意外(笑)? 何に対して意外なのかわかんないですけど(笑)。僕もけっこういいと思ってるから2曲めにしてるんですよ。

あと1曲めも良かったけどね!

やけ:それはイントロですよ(笑)。大丈夫ですか、2曲めまでしか聴いてないんじゃないですか?(笑)

はははは、中村一義のリミックスは、ちょっとハウシーな感じじゃない?

やけ:ハウスではないですよ。アンビエントですよ。

ピッチが遅いけどビートはあるし、ビートダウン・ハウスって感じじゃない? 

やけ:キックがないし。

ああ、これはアンビエントという解釈なんだね。で、続く奇妙礼太郎はダブんだけど。

やけ:リミックスやるときに限らず、あんまり打ち出すタイミングがないんですけど。ダブとアンビエントはすごく好きなんですよ。ただそれだけなんですよね。

ダブとアンビエントっていうのは、自分のスタイルとして意識しているの?

やけ:それはね、違うんですよねー、なんとなく。でもリミックスって、トム・モルトンとかウォルター・ギボンズとか、初期ディスコのひとたちのリエディットが最初じゃないですか。もっと過去に遡れば、やっぱりジャマイカのダブって発想があるでしょう。すでに録音してある素材を並べ替えたり、抜き差ししたりっていうか。どうしてもリミックスって、ダブにたどり着くところがあるような気がしますけどね。

なるほどね。そういう理解かー。音色はどういう風に選んでるの?

やけ:マニアックな質問ですね(笑)。それはそのときどきで、「これが合うな」とか、逆に「合わないから面白いな」とか、ケース・バイ・ケースですけど。

なんで訊いたかって言うと、基本的にはわりとストレートな音色っていうかさ。

やけ:まあ、そうかもしれないですね。作っていくなかで、自分がしっくり来るものを選んでいるだけなんですけどね。

基本的にはキラキラした感じの、気持ちいいサウンドだよね、って言っちゃうと単純だけど。

やけ:まあ、そうですね。やっぱ自分のなかの要素としてはあんまりないんじゃないですか、インダストリアルとかは。

あんまり気持ち良すぎて、気持ち悪くなったりしない?

やけ:(笑)すごい質問ですね! 面白いですね。あ、でも、それがギリギリ僕のなかでテクノですかね。ちょっと砂糖多すぎるなと思うとテクノ聴いたり。

いまの世のなかの一部っていうのは、どんどん快適な方向に行ってるからさ。

やけ:いや、そこの対立軸には置いてほしくないっていうか。

はははは!

やけ:いや、この気持ちいい世界観は直接的にわかりやすい気持ち良さじゃないですよ。もうちょっと隙間産業的なもので。

(笑)ニッチな。

やけ:でもストレートに、「こういう風にしたら気持ちいいだろう」っていう風には行ってないっていうか。自分の意識としては。

すごく抽象的な質問だけど、じゃあどの辺に落とし込もうとしてるの?

やけ:それは毎回チャレンジというか。でも、けっこう行き先を決めないで作ってるかもしれないですね。自分の曲でもそうですけど。とりあえず、最短距離には行かないようにはしてるんですよね。たとえば「シティ・ポップ風のアレンジにしよう」とか、そういうのは自分のなかでは無いっていうか。

そうだね、当たり前だけど、やけのはらの個性が出てるもんね。

やけ:僕の好みは出ていますよね。

今回のリミックスで一番古いのってどれ?

やけ:Aira Mitsukiってひとかな。2008年とかだから。

このひとは知らないんだけど、どういうひとなの?

やけ:ちょっとアイドル的な。パフューム的なことをやってたひとですね。

とくに大変だったものってある?

やけ:うーん、どれが極端に大変だったってことはないかもしれないですね。もちろん、どれも頑張ってやってるんですけど、でもそんなに苦労しなかったやつのほうが入ってるかもしれないですね。こねくり回してやったやつは、なんだろう、悪いってわけでもないですけど。ここには入ってないやつのほうが、むしろこねくり回したり悩んじゃったのが多いかもしれないです。

「こういうリミックスをお願いしたい」みたいな、リクエストをされたことはある?

やけ:うーん、思い出す限り、基本的にはないですね。そういうオファーだったら他のひとに行くんじゃないですか(笑)。もっと器用にできそうなひとに。

「クラブでかけられるダンス・ミュージックにしてくれ」っていう依頼はなかった?

やけ:思い出す限りそういうのはなかったですね。あと、僕がリミックスやるときは、そのメディアのことも考えてやるんで。CDのあとにボーナス・トラックで付くのか、5曲ぐらいのシングルのカップリングで入るのか、レコードの7インチや12インチで出るのか、とかは、いちおう考えて作ってるんで。最初からレコードだったら、クラブでもかかる可能性のあるようなのにしようとか。
 あと、対象のミュージシャンを僕が知ってる場合もあんまり知らない場合もあるんですけど、どんなリスナー層が多いのかな、とかもぼんやりとは気にするというか。そのひとたちがまったく好きにならないものは避けたいけど、合わせてもつまらないので、そのバランスは最初に考えますけどね。ギリギリ楽しんでくれるかな、ぐらいの感じだけど、その層のひとが聴かない要素も入れたりとか。そういう案配は考えます。

時代的な難しさはとくに感じなかった? リミックスって、そのファンのためにやるものでもないんだけど、そのファンに聴いて欲しいものでもあるし。

やけ:リミックスなんで、ひとから頼んでやってることが前提にありますからね。まずは、頼んでくれるひとがいたからできたものなんで、そこは受け身は受け身ですから。ただ、今回リミックスを出したいと思ったのは、自分なりにそのときどき──バイト的にではなく──ちゃんとリミックスをやってるって意識があったり、それが世のなか的にどう取られるのかはわからないですけど、まとめて聴いて面白く聴いてもらえるんじゃないかと思ってるからなんですね。

ダンスフロアのことは考えない?

やけ:僕の曲ってもともと日本語の歌とかが入ってるのが多いので、ダンスフロアのど真ん中、2時とかの感じではないですよね。アレンジや曲調によっては時間帯が違えばかけられるかも、とかはあっても。

昔、ディスコをよくかけてたじゃない?

やけ:ディスコはいまでもかけてますよ。ダンスフロアの感覚はどれもあるんですけど。でも、けっこう(自分が頼まれるリミックスは)歌ものが多いからなー。そういう意味ではダンス・リミックスって言うより、やっぱりリアレンジしてるって意識かもしれないですね。あんまり想定はフロアではなかったりもする。
 そういう意味で言えば、たしかに直接的にダンスフロアを目指したものは少ない。っていうかそういう意識はないかもしれないですね。でも後半のアンビエント的なやつも、自分のなかではダンスフロア的な感覚でアンビエントになってはいるんですけどね。自分としては、ハウスやテクノもやってみたいんですけどね。あんまりそう見られてないのかもしれないですね。いまは、あんまりダンスのイメージがないのかもしれない。

選曲は、それなりに大変だった?

やけ:選曲は、けっこう大変でしたね。リミックス盤は、5年前からずっと出したいなと思ってたんですよ、ファースト・アルバム(※2010年の『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』)の前ぐらいから。僕の気持ちとしてはもっと前からやりたかったんですけど。

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僕のことをラッパーだと知らなかったひとも多かったと思います。自分でラップをしてるひとが、ひとの曲をリミックスしてアルバム出すっていうのも前代未聞な気がするんですけどね。


やけのはら
SELF-PORTRAIT

Felicity

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2007年から2013年までに作った曲が入っているわけだけど、やけのはらは、2007年のあたりはクラブ系だと括られていたじゃない?

やけ:ある意味、いまでもそのつもりなんですけど(笑)。でもリミックスって、クラブ・ヴァージョンにするもんだってことも忘れて作業してましたね。普通にただリアレンジのつもりっていうか。アレンジャーの気分っていうか。ただ自分の手駒として、ギターを上手く弾けるとかじゃないんで、どうしてもクラブ的な感覚が自分のできる解釈になるっていうのはありますけど。

2007年から2013年だと、デビュー・アルバム前からの仕事も入っているわけだけど、自分自身のリミックス・ワークに対する姿勢はあんまり変わらなかった?

やけ:聴き返して思うのは、変わらないっていうとヘンかもしれないですけど、古い曲でもいま作りたいものや好きなものと細かいポイントはあんまり変わらなかったり。興味あることなんかはそのときどきで変わるんですけど。今回振り返って、逆に連続性を感じましたね。半分ぐらいミックスも直したりしたんですよ。古い曲に手を入れたりしてたら、そんなに断絶したものと感じなかったというか。

統一感があるよね。

やけ:さっきの話とも繋がるんですけど、そのときに流行ってる音のモード/ジャンル/スタイルをちょっと取り入れてても、そのときそのときで飛び石的に変えていくってことをやってないですからね。自分なりのやり方でいつもやってるし、そういう面では時間軸はあんまり関係なかったりする。良くも悪くも。この時代は流行ってたからエレクトロやってたけど、いまではEDMですねとか、そういう直接的な進み方ではないっていうか。

たとえば、アイドルには興味なくても、アイドルのやけのはらリミックスには興味がある人もいるはずだし。

やけ:僕も、自分と関わりのないひとのリミックスもしてみたいですけどね。

それもやっぱ、それはやけのはら的なものに落とし込まれるんだろうね。メローで、アンビエントなフィーリングなものに。

やけ:わからないけど、自分の好きテイストには持って行こうと努力しますね。

やけちゃんって不思議なポジションだよね。ヒップホップでもないし、ロックでもないし、ハウスやテクノのクラブDJでもない。なんか、カテゴライズできないよね。

やけ:そこは僕も悩みどころなんですよ。

なんで(笑)? 良いことじゃない、カテゴライズされたくないって言いながらカテゴライズされた音楽をやるより。

やけ:いや、それは自然にやっててそういう状況になってるんですけど。どれもやりたくてやってるからいまから変わりようもないんですけど、普通の感じの売り方──っていう言い方が合ってるかもわからないですけど──でいったら、こういうのじゃダメなんだろうなーとか思ったりするんですけど。どれも楽しく、思い入れあってやってるんで難しいんですけど。

2007年って言うとDJばかりをやってた頃?

やけ:そうですね。その頃やってたことを今回まとめられたりしたんで。そのときにアルバムって形で直接出せなくても、やってたことがいままとめられたし良かったかなとは思います。今後に関しては、自分のアルバムを5年に一度、10年に一度ではなく、もっと早いペースで出したいなっていうのは思っていますね。

もうちょっと制作に力を入れたいんだ。

やけ:なんていうか、作るのが遅いんですよね。

ファースト・アルバムもリリースが遅かったもんね。

やけ:そうですね。たぶん遅いんです。27歳とかでアルバム出せても良かったのかもしれないし。20代のときはいっぱいDJをやってそれが楽しくて良かったっていうのもあったんですけど、形に残ることでいろいろしたいなっていうのは思いますけど。

最近はクラブとライヴハウスだったらどっちからのオファーが多い?

やけ:けっこう同じぐらいになってるかもしれないですね。ちょっと前までは基本DJやクラブをバーッといっぱいやって、ライヴのほうがちょこちょこって感じだったのが。

ライヴのオファーがけっこう増えてるんだ?

やけ:それと、DJが減ってる。で、ラップのアルバムを出すとライヴに誘ってくれるひとが増えて、クラブ系のひとは「あれ、この頃あんまりDJやってないのかな」みたいな感じで両方のバランスが動くというか。自分としてもそれをどっちかだけに振り切りたいわけでもないし。DJのオファーが減ると寂しいんですけど。

ははは。

やけ:だけどDJばっかり年100本とかできないな、とかもあるし。そのペースでやってるとアルバムが作れないんですよ、結局。

そうだよね。ファースト・アルバム出る前は、DJとして評判だった男だもんね。

やけ:まあラッパーであることを知らなかったひとも多かったと思いますしね。ひとの曲にたまに参加しても、そういうことを知らないひとはいっぱいいたんじゃないですか。このひとはラップをしてる、みたいなことは。ちなみにその話で言うと、自分でラップをしてるひとが、ひとの曲をリミックスしてアルバム出すっていうのも前代未聞な気がするんですけどね。普通あんまりないっていう。それだったらどっちかって言うと、自分のラップをいろんなひとにリミックスしてもらったアルバムは出すでしょうけど。

たしかにそれは言えてる。だからそういう意味でヘンなポジションだと思うんだよ。

やけ:そうですね。そういう認識は自分でもあります。

良くも悪くもオリジナルなポジションだよね(笑)。

やけ:もっとわかりやすいほうが良かったのかなと思ったりもするんですけど、でも変えようがないんでね。

でも、やりたいことは、はっきりあるでしょう?

やけ:それはつねにありますね。いつでもいっぱいある。10個ぐらい先までありますね(笑)。そういう意味で言うと。アンビエントのアルバム出してみたいとか、ブレイクビーツのアルバム出してみたいとか。ラップのアルバムはラップのアルバムで、僕のなかにいろいろあるんですよ。たとえば全部バンドでやってみたいとかもあるし、全部ひとにプロデュースしてもらってやってみたいとか。そういうやりたいことはいっぱいあって。「でも次はこれをやろうかな」とか、いまのことより次のことを日々考えてるって感じですね。

じゃ、次はアンビエントだ。

やけ:アンビエントは僕のなかで取っといてるんですけどね。20年後ぐらい後にやろうかなと。

はははは、20年後生きてるかどうかわからないよ(笑)。

やけ:ま、そうですけど、いまはまだ、先に、もっとフィジカルなものをやりたい気分ですね。


※初回盤特典のダウンロードEP(5曲入り)は思い切りダンス仕様でした。


■Only Love Hurts(a.k.a. 面影ラッキーホール)とは?


Whydunit?

Tower HMV iTunes


ON THE BORDER

Tower HMV iTunes

aCKy:インタビューするよりWikipedia読んだらだいたいわかりますよ。さっき見てみたけど、だいたい合ってたから(笑)。

──ご自分でWikipediaを編集してるんですか?

sinner-yang:するわけないでしょ(笑)。ネットに書き込んだりとか、そういうのは基本的に女子供がやるもんだと思ってるから。でも最近のバンドはみんな自分たちで書いてるんでしょ?

──でも実際やってる人、少ないと思いますよ。バンドマンには「プロモーションなんてアーティストの仕事じゃない」みたいな思いもあるみたいで。

sinner-yang:それはただ彼らの識字率が低いだけでしょ(笑)。

とまあこんな具合にOnly Love Hurts(a.k.a. 面影ラッキーホール、以下、O.L.H.)へのインタヴューはスタートした。O.L.H.はsinner-yang(B)とaCKy(Vo)を中心とした大所帯のファンクバンドだ。彼らのディスコグラフ、「好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいた」や「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた・・・夏」など、強烈なタイトルが並んでいるので、アーティスト名は知らなくても曲名くらいは聞いたことがあるはずだ。雄弁な楽曲に対して彼らに関する情報は極端に少ない。Wikipediaにはたしかにバンドの詳細が書かれているが、バンドにコアに触れるような記述は一切ない。まずはバンドの成り立ちについて訊いてみた。

──そもそも初期のバンド・コンセプトはどのようなものだったんですか?

sinner-yang:20年近く前のことを思い出せって言われても難しいですね。

──じゃあ、aCKyさんとsinner-yangさんの出会いを教えていただけますか?

aCKy:え〜、そういうのも恥ずかしいよ〜。でも言っちゃうね(笑)。俺が大学3年生の時、21かな、なんかしなくちゃいけないなって思ったんです。もともとはマルコム・マクラーレンみたいな裏方になりたかったんですよ。でもまあ、あんなのそんな簡単にできないし、そもそもアイディアがあるんだったら自分でやったほうがいいかなって思って、バンドを作ることにしたんです。とはいえ、当時はインターネットなんて当然ないからメンバー募集のビラを作ったんです。下のとこがイカの足みたくなって、取って持って帰れるやつ(笑)。

──懐かしいですね(笑)。昔はライヴハウスとか、練習スタジオによく貼ってありました。

aCKy:募集内容も恥ずかしいんだけど、……言っちゃうね(笑)。当方はギター・ヴォーカルで、全パートを募集。ジャズロックやりたし。イメージはマイルス・デイヴィス『オン・ザ・コーナー』『アガルタ』『パンゲア』、オーネット・コールマン『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』って書いたんです。

sinner-yang:オーネット・コールマンは「ヴァージン・ビューティー」じゃなかったっけ?

aCKy:いや『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』。そのビラを作ったのがちょうど学園祭の時期だったんで芸術系の大学やジョン・ゾーンの来日公演とかに配りにいって。そこで連絡してきたのが2人で、ひとりがリーダー(sinner-yang)なんですけど、もうひとりは大友良英さん(笑)。大友さんは「ジョン・ゾーンのライヴでビラもらったんだけど」って。

sinner-yang:惜しかったねー! 大友さんと組んでたら、いまごろaCKyも紅白の審査員席に座ってたわけですよ!(笑)

──(笑)。

aCKy:そうそう(笑)。で、リーダーとふたりで無駄話したり、あれこれ試行錯誤するようになって。しばらく経ってから、バンドを始動させることにしたんです。

sinner-yang:実際にスタートしたのは知り合ってから2〜3年後だよね。

──ではバンドを始動するにあたってはどのように動いたんですか?

sinner-yang:aCKyはフロントマン、即ち御輿ですよね? だから神輿を担ぐ人たちを集める作業は、俺主導でやりました。それにaCKyは面影が人生最初のバンドだから、ミュージシャンの横の繋がりとかもなくて。僕はそういう知り合いが結構いたから、それでいろいろバンドに合う人たちを探したんです。

──sinner-yangさんはいろいろなバンドに入っていたんですか?

sinner-yang:俺もバンドはやってなくて、面白半分で宅録してましたね。あとCMとか商業音楽の制作みたいなこともやってました。

──そのつてでメンバーをそろえていったと。

aCKy:最初の最初はDCPRGみたいなのがやりかったんですよ。

sinner-yang:ああいうのってさ、音楽的偏差値が一定以上の人にとっては麻疹みたいなもんでしょ。

aCKy:そうそう。でもさ、当たり前だけどああいうのは簡単にできないわけですよ。たとえばバンドとしては小さいパーツが欲しいのに、ばかデカいパーツを持ったメンバーが入って来ちゃったり。そういうので、なかなか自分が思い描いてるものが形作れなかったというのがありましたね。現在のO.L.H.っていうのは、そういう細かい齟齬を修正していって、その中から出てきた最適解なわけ。その意味でいくと当初の思いとはまったくちがうバンドになっていますね、いまは。こんなはずじゃなかったと(笑)。

sinner-yang:いずれにせよ小奇麗な音楽をやろうとしてなかったから、集まってくれた人たちの理解を得るのも難しかった(笑)。そういう意味でバンドも最初はなかなか苦労しましたね。

──ファースト・アルバムの収録曲“必ず同じところで”や“今夜、巣鴨で”が個人的にはすごく好きなんですが、バンドとしてはその時点ではある程度、いまにつながるものができあがっていたんですね。

sinner-yang:そうですね。バンドが結成されて4〜5年で、あそこまで固まった感じですかね。

aCKy:うん、だいたいあの方向が見えてきたのは2〜3年たってから。ライヴで客の反応を見て、これやるとこうなるんだ、みたいな感じで微妙に修正していったんです。

■科学者の視点

 O.L.H.といえば、彼らの歌詞について触れないわけにはいかない。スキャンダラスな題材もさることながら、その視点の妙は特筆すべきものがある。彼らが2011年に発表したアルバム『ティピカル・アフェア』の1曲めに収録された“ラブホチェックアウト後の朝マック”を例にとれば、この曲はタイトル通り「ラブホチェックアウト後の朝マック」にいるカップルについて歌っている。ヴァース1では昨夜の情事について、ヴァース2ではふたりがワケありカップルであることが明らかにされ、最後に主人公の女性が関心を寄せることへの回答が出される。しかもその回答から連想させられるものは、この男女が発するどうしようもないほどの人間臭さだ。

──O.L.H.の歌詞の源泉はどこにあるんですかね?

sinner-yang:恥ずかしいね。

aCKy:でも言っちゃうね(笑)。歌詞についてはいろいろ研究したんですよ。ニューウェーヴのとんがった詞とかありえない詞とか。あと現代詩を読んだり、ドアーズがどんなこと歌ってるのか調べたりもしました。そんなとき、はたと昔の日本の歌謡曲の歌詞のほうがすごいということに気づいたんです。こっちのほうがアヴァンギャルドだし、サイケデリックだなって。だからそういう意味で歌詞については日本の歌謡曲に影響を受けてると言えますね。

sinner-yang:なかにし礼と阿久悠という両巨頭に代表される70年代の歌謡曲の世界です。では、なぜ70年代の歌謡曲がラディカルかと言えば、それは作り手と歌い手がまったく関係ないところにいたからです。シンガーは歌ってればよかったし、作詞家は歌詞を書いていればよかった。だからその誰も責任を取らなくてもいいシステムが、結果としてラディカルな作品を生み出していたんです。でもね、そういうものは80年代のニューミュージック・ムーヴメント以降、淘汰されてしまった。

──なぜですか?

sinner-yang:客単価を上げるためですよ、シングルよりもアルバムを売るため。アルバムを売るためには、それが“アーティスト”の内面を反映したものであると客に思いこませる必要があるんですよ。

──価値を“アーティスト”に集約させたということですか?

sinner-yang:そうそう。だからコンセプトも、アートワークも、作詞も、作曲も、すべては“アーティスト”の内面にある何かを表現していると思わせて、アルバムを売っていったわけです。誰もピンク・レディーに「歌詞の源泉はどこにあるのか? なぜUFOと歌うのか?」なんて訊かないけど、尾崎豊には訊くじゃないですか?(笑) でもその結果としてすべての“アーティスト”は、自ずと私小説家になって行かざるを得ないですね。その場合、なかなかラディカルなものは生まれにくくなる。だって身の回りの卑近なことを歌って“共感”を誘うビジネスモデルだから。だから俺らの最大の特徴は、意識的に私小説じゃない歌を作っているということですね。そうすると何からでも題材がとれるんですよ。

──その歌詞の題材についてなんですが、いつも目の付け所がすごいですよね。

sinner-yang:そうかな。どこにでもあることだと思いますよ。俺たちは、どこにでもあるけど誰も触れないものに関心があるんです。

aCKy:僕らは若いわけでもないし、ルックスがいいわけでもないので、隙間を狙わないといけなんですよ(笑)。

sinner-yang:俺らが「桜」や「絆」や「感謝」の歌を歌ってもしょうがないでしょ。

──僕はO.L.H.の歌詞にものすごい批評性とユーモアを感じるんですよ。

aCKy:俺らのやってることに批評性を感じてるっていうのは、それはたぶんあなたが世の中を批判的、批評的に見ているということなんじゃないですか? 俺たちは自分たちが見たまんまを表現してるだけですよ。

sinner-yang:もっと言えば、俺らにユーモアを感じるのは、あなたがそれを滑稽だと思ってるからなんですよ。僕たちはファーブルのように昆虫日記をつけてるだけ。“見てる”ってだけです。“見てどう思う”じゃないですよね。ただ見てる。“観察してる”ってことにつきる。これはいろんなインタヴューで言ってることだけど、ファーブルは自分の糞を転がすフンコロガシを観察して「こいつ、汚ねえな」とは思わないでしょ。そもそもフンコロガシは違う種族だから、そいつらに「自分のウンコいじったら汚いよ」ってアドバイスしても仕方ないじゃないですか。「え! マジで!?」と新鮮に驚きつつ見てるってだけですよ。逆にそこで怒ったり、バカじゃねえかって思った瞬間に観察眼が曇るし、違う習俗を持った種族に対して不遜ですよね。
 あとね、俺らは自分が何者でもないって思いがすごく強いんですよ。何か言える立場ではないというか。俺らみたいなチンピラには何かを批判する資格もないし。そういうのは新橋のSL広場でTVのインタヴューに答えているような人たちに任せとけっていう(笑)。

──すごく達観した、まるで神様のような視点ですね。

sinner-yang:いや、それはおこがましいですよ。せいぜい「日本野鳥の会」の視点です。見たものを正確に記録しなくちゃいけない。右手にカウンター持ってね。つい最近震災のドキュメント映画で演出がどうしたこうしたって問題があったじゃないですか。あれと同じですよ。過剰な演出はしない。

■面影ラッキーホールとジェイムズ・エルロイ

 多くの人を絶句させた楽曲“パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏”。この曲もタイトル通りの内容なのだが、歌詞は「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた」母の独白という形で進行していく。彼女が置かれた境遇、パチンコにハマっていく過程、そして娘を死なせた原因がやたらと陽気なファンクチューンに合わせて歌われていく。彼女に対して同情の余地もあるものの、曲中では結局何の救いもなく、ただ絶望のみが残る。これはまさしくノワールの世界観だ。

──おふたりはジェイムズ・エルロイがお好きらしいですね?

aCKy:『Whydunit?』を作る前に時間ができたから本を読もうと思って、リーダーに「何かバシッとくるものない?」って訊いたら、エルロイを教えてもらって読みはじめました。だから『Whydunit?』自体がエルロイにすごく影響を受けてると思う。あのどこまで行ってもクールというか、救いようがない感じ、ウェットな感じがない、ビシビシ行く感じはエルロイに影響を受けていると言えますね。

──なるほど。僕はO.L.H.作品の中でもとくに『Whydunit?』が好きなんですが、それはエルロイ作品の世界観が好きだからというのもあるのかしれませんね。

sinner-yang:君はエルロイでは何がいちばん好きなんですか?

──『ビッグノーウェア』です。

sinner-yang:俺もそう。

aCKy:『ホワイトジャズ』じゃないんだ?

sinner-yang:じつは俺、『ビッグノーウェア』は当時新刊で買ってて。エルロイの何がすごかったかっていうと、アメリカ文学におけるノワールの価値観をぶっ壊したことにあるんですよ。エルロイ以前のノワール文学ってのは(レイモンド・)チャンドラーや(ダシール・)ハメットだったわけじゃないですか。つまりアメリカのノワール文学は90年代になるまで50年代の価値観のままだったわけなんですよ。でも『ビッグノーウェア』はそれをひっくり返したんだ。俺は本当の意味ではパンクをリアルタイムで経験してないんですよね、1978年の時はまだローティーンだったから。既存の価値観がぶっ壊されるさまを見てないの。だから俺はパンクというものを後づけで想像するしかなかったわけ。パンクがいかに先鋭的で、価値観をひっくり返したかってのをね。でも『ビッグノーウェア』を読んで、ようやくパンクが起こした価値観の転倒を知ることができたんですよ。音楽の世界でパンクを体験することができなかったけど、文学の世界では体験することができた。だからエルロイは特別なんです。

──O.L.H.はその世界観をユーモアを交えて表現するところが好きなんです。

sinner-yang:音楽とユーモアで言うとね、ザッパは好きでしたよ。でもお笑いってとらえ方で行くと、意識的でないぶんプログレは笑いの宝庫なんです。キング・クリムゾンとか抱腹絶倒ですもん。

aCKy:あと志村けんね! たしか「だいじょぶだぁ」のエンディングテーマってオーティス・レディングの“セキュリティ”じゃなかったっけ。“髭ダンス”とかもファンキーだしね。あれ、テディ・ペンダーグラスでしょ。

──では、価値観の転倒という意味でヒップホップはどうだったんですか?

sinner-yang:それはどっちかっつったらaCKyなんじゃない?

aCKy:ヒップホップは価値観がぶっ壊れるって感じじゃないですね。ヒップホップはカットアップや編集の音楽だと思うんで。

sinner-yang:俺はパンクとヒップホップはすごく似てると思いましたね。音楽のフォーマットが違うってだけで。ヒップホップの起源は相手へのディスなわけでしょ。そこも含めて、大きな視点で言うとパンクとヒップホップは似たものなんじゃないかと思いました。自分が90年代の頃に青春時代を送っていたら、もっとぶっ太いパンツを履いてたと思います(笑)。でも、(ヒップホップがパンクは)似ていたからこそ衝撃は受けなかったな。

■目的のない人生

aCKy:話をノワールに戻すと、たしかに『Whydunit』以降の作品はノワール的な表現に意識的になったというのはあります。でもね、『Whydunit』を含む〈Pヴァイン〉から出した3枚というのは、自分で自分を演じてるという感覚が強いんですよ。「こういうのが好きなんでしょ?」というか。やりたいことは「音楽ぎらい」までの作品でやりきってるんですよね。一回終わってるというか。

sinner-yang:〈Pヴァイン〉時代とそれ以前との作品が明確にちがうのは、いまの俺たちはもう目的を完全に見失っているんですよ。初期の3枚というのは、いまよりももっとマスにコネクトするにはどうしたらいいかと考えているところがあった。それは曲づくりの面でもそうだし、aCKyが書く歌詞にしても、当時はもっとふたりの間に激論があったんです。最近はもうまったくないですから(笑)。

aCKy:まったくなくはないでしょう(笑)。

sinner-yang:(笑)。過剰なディレクションはしないと言ったほうが正しいかもね。初期3枚は本当に喧嘩になるくらいだったし。

aCKy:そうだったっけ?

──じゃあいまは完全に惰性でやってるということですか?

sinner-yang:完全に惰性です(笑)。

aCKy:ライヴも10年前とほぼ変わってないですよ。アレンジやディティールの違いはありますけどね。この前、田我流さんたちのstillichimiyaとのライヴはヒップホップを意識したんですけど、あれはすごい昔に新宿の〈MARS〉というところでRUMIちゃんとか漢くんとかが出たライヴの焼き直しですよ。MCとかも全部いっしょだし。

──ではなぜいま現在もバンドは存続しているんですか?

sinner-yang:それは俺ら以外のメンバーたちが楽しそうだから。あとレコード会社の方や、ファンの人たちからの期待に応えなきゃって思いはすごくあります。

──……。

sinner-yang:なんだか不満そうですね(笑)。じゃあ、こういうたとえはどうですか。俺が小学生のときに従姉のお姉ちゃんがお祭りでカラーひよこを買ってきたんですよ。ああいうのって普通すぐに死んじゃうじゃないですか。でも電球入りの巣箱とかちゃんと作って、しっかり面倒みたらそのまま何年も生きてニワトリになったんですよ。朝とかすごい早い時間から鳴いたりして、もう鬱陶しくてしょうがない。デカいし、うるせーし、かわいくねーし(笑)。でも生きてるから殺せないじゃないですか。つまり、面影っていうのは育ってしまったカラーひよこみたいなもんなんで、殺すわけにもいかないんですよ。

──好きなバンドに「惰性でやってます」と宣言されるのって、ファンにとっては残酷なことだと思いませんか?

sinner-yang:そおお? 生きてるだけでいいじゃない。バンドを死なせないようにするのってすごく大変なんですよ。だって20年も続くバンドなんてないでしょう? カラーひよこがニワトリに育つのと同じくらい奇跡的なことなんだから!

──極端な話ですが、目的もない人生があってもいいんですかね? 僕は何の目的もなくただ生きているという状態に自分がおかれたとき、えも言われぬ不安感に支配されてしまうんです。「俺はこんなことでいいのか?」と。

sinner-yang:いいも何もそうせざるを得ないでしょう。存在というものは善悪の彼岸にあることじゃないですか。

──人生を善悪で割り切ろうとすること自体に無理がある、と。

sinner-yang:そう。その概念の前に、いまここに存在そのものがあるから。それを受け入れるしかないでしょう。しかも存在は未来永劫つづくわけではない。みんないつかは死ぬでしょう。だから、死ぬまでの暇つぶしをしてるんですよ。みんなが電車でスマホいじってるのと同じです。

aCKy:暇つぶしのアイテムがバンドだけじゃないから、活動しなかったこともあるんですよね。いまここでインタヴューを受けているのも暇つぶしのひとつでしかない。もちろん悪い意味じゃなくてね。楽しいんですよ、こうやってあなたと話してるのも。

sinner-yang:だってこうやって僕らに「話を訊きたい」なんて言ってくれる人は非常に稀なことですから(笑)。

aCKy:こんなおっさんふたりの出会いなんて誰も聞きたがらないよ、普通。

sinner-yang:こういう機会があるから、俺らもブログやらツイッターやらはじめなくて済んでるのかも知れないし。みんな自分のことを知ってほしいんですよ。だから昼飯の写真撮ってブログやSNSに上げたりしてるんでしょ?

aCKy:リーダーは絶対やらないよ(笑)。

 RHYMESTERの宇多丸氏が映画『かぐや姫の物語』を評したとき、「“ここにはない何か”“こうではなかった人生”という幻を追っている、それが人間の生である」「しかしそれすらも肯定するしかない」と語った。さらに「仮に人が害をなすだけの存在であったとしても、それでもその害も含めて何かあるほうがいい」「無(死)より何か(生)があったほうがいいじゃないか」とも話していた。生とは何か。これは僕個人が最近自問していることだ。何もなさずに、何もなすことができずにただ生きている。しかもその存在が周りにとって有益ではなかったなら、そんな状態なら無に向かうべきなのか、否か? 今回のインタヴューはそんなことを考えているなかで行われた。O.L.H.のふたりはどうしようもない生の塊を観察している。それが滑稽でも、醜くても、生ある者について歌いつづけている。生とは何か。僕自身にその答えはまだ見つかっていない。しかし、僕にとってこのインタヴューを行っている時間、そしてそれを原稿にまとめている時間は本当に楽しいものだった。

HOBOBRAZIL. (bonobo) - ele-king

春めいてから、常にレコードバックに入っているお気に入りから十枚です。


1
La Danse Des Mots - Jean Baptiste Mondino

2
Coolin' In The Rye - Brend Beachball Ray

3
This Love - Zuruchi

4
One Night - Marie Dawn and Philip Leo

5
Rasing Storm - Mad Professor

6
Egyptian Rock - Sly & Robbie & The Taxi Gang

7
In The Name Of Love - Kenny Rankin

8
Dance Sucker - Set The Tone

9
UFO Funkin' - Arttu

10
Thinkin - Dan Shake

[DJ スケジュール]
★4/15 " Earth Bag Work Camp 2 "
~皆既月食スペシャル x 望月一揆~
@ under the rock ( 詳細は予約者にのみ通知)
52名限定。¥3300
Live : Satoshi Fujise a.k.a STB/Maryse/吉田主税
DJs : STB/Polypical/Yue/Atsushi/Ras Fuku/HOBOBRAZIL

★4/19. " 20 "
~DJ FUMI 20th Anniversary Party~
@ 江ノ島Oppa-La
23:00~ ¥2000
DJs: FUMI/Ree.K/ALTZ/NOB/HOBOBRAZIL

★4/21 " Monday Express "
~celebrating DJ FUMI 20th & bonobo hits vol.2 release!!!~
@ 神宮前bonobo
22:00~ ¥1000
DJs: FUMI/Dee/7e/ALTZ/wakka/FMW/The KLO/HOBOBRAZIL

Front Bar/Food : Toshio Bing Kajiwara & Yoko Higashino
Inside Bar : Pappi & Chie
2nd Floor : ベジタブル曼荼羅 by Mangosteen

★4/26 " danhill "
@ 湯島Underconstruction
23:00~ ¥2000
DJs: Max Essa/HOBOBRAZIL/CIRKUS

★4/28
@青山トンネル
21:00~ no charge
DJs: SEI/Pooyan/HOBOBRAZIL/G.O.N

★5/6@福岡(T.B.A)
★5/16@神宮前bonobo(T.B.A)

Man From Tomorrow - ele-king

 GWの5月5日/6日に、フランスの映像作家ジャクリーヌ・コーによるジェフ・ミルズのドキュメンタリー・フィルム『Man From Tomorrow』のプレミア上映がおこなわれる。
 ジャクリーヌ・コーは、ピエール・アンリやピエール・シェフェールと並ぶフランスの(電子)現代音楽家、リュック・フェラーリのドキュメンタリー『resque Rien avec Luc Ferrari』(2003年)、デトロイト・テクノに思想的な影響を与えたラジオDJ、エレクトリファイン・モジョを追った『The Cycles of The Mental Machine』(2007年)、ジョン・ケージ、ラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒなどの60年代のミニマル・ミュージックをテーマにした『Prism’scolors,mechanicsoftime』(2009年)といった作品を発表している。ジェフ・ミルズの『Man From Tomorrow』は、今年2月2日、パリのルーブル美術館オーディトリアムにおけるワールド・プレミア上映では、入りきれない人が続出する程の盛況を博したという。電子音楽ファンにとっては、興味津々の上映だろう。
 東京:5/5(月・祝)、京都:5/6(火・祝)、上映後にはジェフとコー監督によるスペシャル対談もあり。東京分前売り券は先週より発売を開始しています!
 
 なお、ジェフ・ミルズは映画の同タイトルのDJツアーを同時期に開催。東京・名古屋・大阪の3都市を回るツアーは2012年10月ぶり。

『Man From Tomorrow』
U/M/A/A https://www.umaa.net/news/p681.html

■上映日程
タイトル:「Man From Tomorrow」(マン・フロム・トゥモロー)(2014年、フランス、40分)
監督:ジャクリーヌ・コー / 出演:ジェフ・ミルズ / 音楽:ジェフ・ミルズ

【東京】
日程:2014年 5月5日(月・祝)
会場:ユーロスペース(渋谷) https://www.eurospace.co.jp
時間:21:00 スタート 
 上映後トークショーあり: ジェフ・ミルズ、ジャクリーヌ・コー(通訳:門井隆盛)
問合せ・詳細:ユーロスペース TEL: 03-3461-0211  https://www.eurospace.co.jp

チケット: 前売:1600円/当日:1800円
4/4(金)10:00よりチケットぴあにて前売り開始 Pコード:552-935
チケット購入に関する問合せ:チケットぴあ TEL: 0570-02-9111 https://t.pia.jp/

【京都】 <同志社大学 日・EUフレンドシップウィーク>
日程:2014年5月6日(火・祝)
会場:京都市・同志社大学寒梅館クローバーホール
時間:18:00開場/18:30開演
 上映後トークショーあり: ジェフ・ミルズ、ジャクリーヌ・コー (通訳:椎名亮輔、下田展久)

チケット:料金:500円均一(当日のみ)*同志社大学学生・教職員無料
主催:同志社大学今出川校地学生支援課、同志社大学図書館
協力:Axis Records
詳細URL: https://d-live.info/program/movie/index.php...
問合せ:同志社大学今出川校地学生支援課 tel 075-251-3270 e-mail: ji-gakse@mail.doshisha.ac.jp


■ “Man From Tomorrow”について

 近年、音楽だけにとどまらず近代アートとのコラボレーションを積極的に行い、フリッツ・ラング『メトロポリス』への新たなサウンド・トラックや、パリ、ポンピドゥーセンターにおけるフューチャリズム展に唯一の生存アーティストとして作品を提供してきたジェフ・ミルズ。

 テクノ/エレクトロニック・ミュージックによる音楽表現の可能性を広げる彼が、現代のミニマル音楽(John CageからRichie Hawtinまで)に造詣が深く、デトロイトのElectrifying Mojoのドキュメンタリー『The Colours of the Prism, the Mechanics of Time』などでも知られる仏映画監督フランス人映像作家、ジャクリーヌ・コーとタッグを組んで今回発表する映像作品『Man From Tomorrow』は、なぜ彼が音楽を作るのか、テクノとは何のために存在するのかという疑問の答えを解き明かす映像による旅路だ。

 通常のドキュメンタリーとは一線を画したフィルムを作りたい、という二人の意思を実現していくためにジェフとジャクリーヌは1年以上に渡る話し合いを重ね、コンセプトを共有した。アーティスティックでエクスペリメンタルなこの映像の中には、ジェフの考えるテクノのあり方、音楽制作の過程、彼の想像する未来、また、大観衆の前でプレイする際に感じる不思議な孤独感(「One Man Spaceship」で表現しようとした宇宙における孤独感に通じるものでもある)などのすべてが凝縮され、同時に、テクノ・ミュージックの醍醐味を、DJイベントとは異なったスタイルで表現する試みでもあるという。まさにジェフ・ミルズの創造性・実験的精神をあますところなく体現する作品だ。

 『Man From Tomorrow』は今年2月2日、パリのルーブル美術館オーディトリアムでワールド・プレミアを行った後、ニューヨーク(Studio Museum of Harlem)、ベルリン(Hackesche Hofe Kino)にて上映を重ね、4/19にはロンドン(ICA)での上映を予定、その後、東京・京都での上映となる。

https://www.jacquelinecaux.com/jacqueline/en/documentaire-man_from_tomorrow.php


■Man From Tomorrow 各国PRESSより

デトロイト・テクノの魔術師ジェフ・ミルズとフランスの映画監督ジャクリーヌ・コーのコラボレーション作品は、ミルズの音楽と人生をユニークな方法で描きだし、彼の作品、思考そして想像力を通して 夢のような旅へと私たちをいざなう
── Institute of Contemporary Art (UK)

 ミルズの音楽がすばらしい。緊張感、飛躍感があり、しかししなやかな音はスタイリッシュでダークな映像と完璧にマッチしている」「このジャクリーヌ・コー監督のフィルムはルーブル美術館という最高峰のロケーションでプレミア上映が行われたが、それもミルズの最近のアート活動からすればひとつの小さな出来事だったのかもしれない
──『The WIRE 』(UK) by Robert Barry


■JEFF MILLS “MAN FROM TOMORROW” JAPAN TOUR event information

●名古屋公演 2014.05.02(金) @CLUB JB’S 名古屋  
OPEN:23:00
DJ:JEFF MILLS、APOLLO(eleven.)
LIGHTING:YAMACHANG
SOUND DESIGN:ASADA
info: www.club-jbs.jp

●大阪公演 2014.05.03(土) @LIVE & BAR ONZIEME  www.onzi-eme.com
OPEN:21:00
DJ:JEFF MILLS、KEN ISHII、SEKITOVA、LOE、and more
VJ:COSMIC WORLD、KOZZE
info: www.onzi-eme.com

●東京公演 2014.05.04(日) @AIR 
OPEN:23:00
DJ:JEFF MILLS -Opening till Closing set-
info: www.air-tokyo.com


■JEFF MILLS(ジェフ・ミルズ)

1963年デトロイト市生まれ。
デトロイト・テクノと呼ばれる現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンルのパイオニア的存在。高校卒業後、ザ・ウィザードという名称でラジオDJとなりヒップホップとディスコとニューウェイヴを中心にミックスするスタイルは当時のデトロイトの若者に大きな影響を与える。 

1989年にはマイク・バンクスとともにアンダーグラウンド・レジスタンス(UR)を結成。1992年にURを脱退し、NYの有名 なクラブ「ライ ムライト」のレジデントDJとしてしばらく活動。その後シカゴへと拠点を移すと、彼自身のレーベル「アクシス」を立ち上げる。1996年には、「パーパス・メイカー」、1999年には第3のレーベル「トゥモロー」を設立。現在もこの3レーベルを中心に精力的に創作活動を行っている。

Jeff Millsのアーティストとしての活動は音楽にとどまらない。シネマやビジュアルなどこの10年間、近代アートとのコラボレーションを積極的に行ってきている。2000 年フリッツ・ラングの傑作映画「メトロポリス」に新しいサウンド・トラックをつけてパリポンピドゥーセンターで初公開した。翌年にはスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」にインスパイアされた「MONO」というインスタレーションを制作。2004年には自ら制作したDVD「Exhibitionist」を発表。このDVDは HMV渋谷店で洋楽DVDチャート一位を獲得するなどテクノ、ダンスミュージックの枠を超えたヒットとなった。

2007年、パリのケブランリー博物館内展示の音楽担当やシネマテークでのシネミックスイベント (“Cheat” by Cecil B Demille / “Oktober” by Sergei Einstein / “Woman In The Moon” by Fritz Lang) などの功績が讃えられ、フランス政府より日本の文化勲章にあたるChavalier des Arts et des Lettresを授与。その後もポンピドゥーセンターでイタリア、フューチャリズム100周年記念の展示で唯一生存アーティストとして映像作品を展示したり、2012年には「Dancer Sa Vie」というエキシビションでJosephine Bakerをモチーフにした映像作品を展示。

同2012年には主催アクシス・レコーズの20周年記念として300ページにおよぶブック「SEQUENCE」を出版。2013年には日本独自企画として宇宙飛行士、現日本科学未来館館長毛利衛氏とのコラボレーションアルバム「Where Light Ends」をリリース。同時に未来館の新しい館内音楽も手がけた。

2014年、Jeff Mills初の出演、プロデュース映像作品「Man From Tomorrow」が音楽学者でもあるジャクリーヌ・コーの監督のもとに完成。パリ、ルーブル美術館でのプレミアを皮切りにニューヨーク、ロンドンの美術館などでの上映を積極的に行っており今秋からは世界中の映画祭にて上映される予定である。

■Jacqueline Caux (ジャクリーヌ・コー)

 フランス生まれの映画監督/音楽学者。長編ドキュメンタリーや短編エクスペリメンタルフィルムなどを制作し、各映画祭にも参加。レクチャーやキュレーションなども手がける。リュック・フェラーリに関する著書「リュック・フェラーリのほとんど何もない」は日本語訳本も出版されている。

主な作品:
« Contes de la Symphonie Déchirée » (“Tearen Symphonie Tales”) (2010年、54分)

Luc Ferrariの”Symphonie Dechiree” (音楽作品)をもとにしたフィクション
«Prism’scolors,mechanicsoftime» (2009年、96分)

1960 年代中盤から21世紀初頭における半世紀にわたるアメリカ、ミニマル音楽の歴史を探求。
John Cage, La Monte Young, Terry Riley, Steve Reich, Philip Glass, Meredith Monk, Pauline Oliveros, Gavin Bryars, Richie Hawtinが参加。
« The Cycles of The Mental Machine » (2007 年、57 分)
モーターシティ、デトロイトにおけるテクノの発祥を追うドキュメンタリー。”Electrifying Mojo”という謎めいたラジオDJ、Underground ResistanceのMike Banks、Carl Craigが参加。
« Presque Rien avec Luc Ferrari » (2003年、48分)

フランス人音楽家 Luc Ferrariの肖像。シューレアリズムからテクノ、そして具体音楽への道。

www.jacquelinecaux.com



Moodymann - ele-king

 4月29日、東京晴海で開催される「Rainbow Disco Club」に出演するために来日するムーディーマンですが、東海、関西、北陸方面のツアーも決定しています。
 最近では、新しい12インチ「Sloppy Cosmic」(Pファンク・ネタの曲+新曲)が予約の段階ですでにショート。相変わらずの人気を見せつけているムーディーマン、折しも、ハウス・ミュージックが加速的に逆襲している今日ですから、ここは注目したいところです!

■MOODYMANN JAPAN TOUR 2014

4.25(金)名古屋 @Club Mago
4.26(土)金沢 @MANIER
4.27(日)大阪 @Studio Partita(名村造船所跡地)
4.28(月)岡山 @YEBISU YA PRO
4.29(火/祝)東京 Harumi Port Terminal @Rainbow Disco Club


■MOODYMANN JAPAN TOUR 2014

4.25(金)名古屋 @Club Mago
- AUDI. -

Guest DJ: Moodymann
DJ: Sonic Weapon, Jaguar P
Lighting: Kool Kat

Open 23:00
Advanced 3000yen
Door 4000yen

Info: Club Mago https://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F
TEL 052-243-1818


4.26(土)金沢 @MANIER
MUSIC BUNNY - MOODYMANN JAPAN TOUR 2014 -

Guest: Moodymann
DJ: DJ YOSHIMITSU(S.E.L/MusicBunny), BONZRUM(S.E.L/MusicBunny), Diy(everyday records/MusicBunny/HI-LIFE), U-1(HI-LIFE)
Lighting: etenob!

Open: 22:00
Advanced: 3500yen
Door: 4000yen

Info: Club Manier https://www.manier.co.jp
金沢市片町1-6-10 ブラザービル4F
TEL 076-263-3913


4.27(日)大阪 @Studio Partita(名村造船所跡地)
- CIRCUS & AHB PRODUCTION presents
MOODYMANN JAPAN TOUR OSAKA SUNDAY AFTERNOON SPECIAL -

Moodymann
MOODMAN(HOUSE OF LIQUID/GODFATHER/SLOWMOTION)
MARTER(JAZZY SPORT)
AHB Trio+TeN(A Hundred Birds)
DJ AGEISHI(AHB pro.)
DNT(FLOWER OF LIFE/POWWOW)
DJ BANZAWA(Soul Tribe/Radical Soul)
DJ QUESTA(COCOLO BLAND/HOOFIT/PROPS)
MASH(Root Down Records/HOOFIT)
YASUHISA(TetralogisticS)
KAITO(MOLDIVE)
FUMI(LMIRL)

Lighting: SOLA
PA: KABAMIX

Open:15:00 - Close: 23:00
Advanced: 3500yen
Door: 4000yen

Info: CCO クリエイティブセンター大阪 https://www.namura.cc
大阪市住之江区北加賀屋 4-1-55 名村造船所跡地
TEL 06-4702-7085

circus https://circus-osaka.com
大阪市中央区西心斎橋1-8-16
TEL 06-6241-3822


4.28(月)岡山 @YEBISU YA PRO
Guest DJ: Moodymann
DJ’s: hysa, TETSUO, flying jukebox, fxtcmatty, York, YOSHIDA, Nakamura, SOW

Open: 22:00
Advanced: 3000yen
Lawson Ticket: L-code 61913
Door: 4000yen

Info: YEBISU YA PRO https://yebisuyapro.jp
岡山市北区幸町7-6 ビブレA館 B1F
TEL 086-222-1015


4.29(火/祝)東京 Harumi Port Terminal @Rainbow Disco Club

Info: Rainbow Disco Club https://www.rainbowdiscoclub.com
東京都中央区晴海5-7-1(晴美客船ターミナル)

Total Tour Info: AHB Production www.ahbproduction.com


■Moodymann (KDJ, Mahogani Music / From Detroit)

 ミシガン州デトロイトを拠点に活動するアーティスト、MoodymannことKenny Dixon Jrは、レーベル〈KDJ〉と〈Mahogani Music〉を主宰し、現代そして今後のインディペンデント・シーンやブラック・ミュージックを語る上で決して無視出来ない存在である。
 1997年、デトロイト・テクノ名門レーベル〈Planet E〉からファーストアルバム『Silent Introduction』をリリースし、その後UKの名門〈Peace Frog〉よりアルバム『Mahogany Brown』,『Forevernevermore』,『Silence In The Secret Garden』,『Black Mahogani』をリリース。
 『Black Mahogani』の続編『Black Mahogani Ⅱ ~ the Pitch Black City Collection ~』では、もはやStrataやTribe、Strata Eastといったブラックジャズ〜スピリチュアルジャズをも想わす作品を発表し、その限りない才能を発揮し続けている。  また、J Dillaの未発表作をYANCEY MEDIA GROUPとMahogani Musicとで共同リリースし、J Dilla Foundationに貢献した。 2014年1月にはKenny Dixon Jr.名義でのアルバム『MOODYMANN』をリリース。5月23-25日の3日間渡り、デトロイトにてSoul Skate 2014を開催する。

www.mahoganimusic.com
www.facebook.com/moodymann313
www.facebook.com/blackmahogani313


 

Raspberry Bulbs - ele-king

 はたして〈BEB(ブラッケスト・エヴァー・ブラック)〉をモヤシ系メタル・レーベルと呼ぶことに語弊があるだろうか。たとえば〈BEB〉が発足した2010年前後、メタル志向なアンビエントや限りなくポストロックに汚染されたメタルは完全な飽和状態にあったわけで、当時僕はこういったかたちでそれがUKのテクノ・シーンと迎合してゆくとは思わなかった。または、ある種これがブルズム(Burzum)→ザスター(Xasthur)の流れにあるワンマン・ブラックメタルの系譜の現在系とも捉えられる……云々と、バーネット+コロッチアのLPのおかげでもう完全にメタル/ハードコア目線で考えてしまう。

 アレックス・バーネット(Alex Barnett)とフェイス・コロッチア(Faith Coloccia)はそれぞれオークイーター(Oakeater)とエヴァーラヴリー・ライトニングハート(Everlovely Lightningheart)──当時からなんちゅー名前だよって思ってましたが──のバンド時代からの長きにわたる交流を経てお互いに影響を与え合ってきた。どちらのバンドもパッシヴ楽器やコンタクトマイクによって採集したオーガニック・ノイズが印象的なポポル・ヴー系のユニットという点ではとても共通項の多いバンドであった。フェイスのエヴァーラヴリーはすでに活動を停止し、現在はマミファー(Mamiffer)やハウス・オブ・ロー・カルチャー(House of Low Culture)等のユニットで活動している。フェイスのテープ・マニピュレーションにヴォーカル、短波レディオがバーネットによるミニマルかつヘヴィなシンセループと美しい調和を成すこのレコードは、使用された豪華絢爛なヴィンテージ・シンセも相まってか、いままで以上に洗練された彼らのサウンドをリッチに聴かせてくれる。彼等のバッグ・グラウンドの多くはもちろんブラックメタルやドゥームメタルによるものだが、それを極端にサタニックな方向に(とはいえじゅうぶんドス黒いんだけども)走らず、独自の灰色世界を構築しているのが特徴だ。イエロー・スワンズ時代から交流の深いガブリエル・サロマンのソロ作品とも共鳴する世界観とも言えるだろう。

 ……にしても、〈BEB〉が提示するヴィジョンは昨年暮れにヨーロッパを放浪して完全なトレンドと化していることを見せつけられたわけだが、それはUSのAscetic House(エセティック・ハウス)に代表されるようなミニマル/ニューウェーヴからパワエレ/ノイズにEBMといったノリとも微妙に違う、テクノからのメタル/ハードコア思考のゼロ年代のドローンへの回答のように聴こえる。“真実ならば、打ちのめしたい”のリフレインが異常に耳に残るレイム(Raime)のふたりによるポストパンク・バンド、モイン(Moin)のEPやヤングエコー(Young Echo)の3人によるキリング・サウンド(Killing Sound)など同一メンバーによる異なる手法のユニットは、かつてのゼロ年代のドローン・ドゥームのムーヴメントをもろに彷彿させるし、電子音楽ファンよりもその手のファンに受けていることは間違いない。

 毎度黒/ピンクのアートワークとバンド名がかなりゲイなラズベリー・バルブス(Raspberry Bulbs)も最近の個人的なヘヴィロテだ。以前ここでも取り上げたヴィレインズと並ぶマイ・フェイバリットUSBMであったカリフォルニアの伝説、ロウ・ノイズ・ブラックメタルバンド、ボーン・アウル(Bone Awl)のドラマー、マルコ・デル・リオがNYへと拠点を移し、当初はソロとして始動したこのバンド。マルコによるコンセプチュアルなアートワークやヴィジュアル・イメージに、リリック&ヴォーカルと、77ボアドラムやダモ鈴木'sネットワークでもドラムをプレイするジム・シーガル(Jim Siegel)との完成度の高いソングライティングは、このバンドをアンダー・グラウンドに収まらないコンテンポラリーな存在にしていることはたしかだ。

 個人的に〈BEB〉ほど自分の暗黒音楽史を現在に繋いでくれるレーベルはなかなかないなぁなどといまさらながら感慨に耽りつつ……こういったジャンルに縛られず、パーソナルなヴィジョンが共有されるようなレーベルやイヴェントがもっと日本でも盛り上がればなぁと期待しつつ……つーか俺やっぱ暗いなぁ。そういえば春だもんなぁ……。

DRUM & BASS: DARKSIDE HISTORY 25選 - ele-king

 4月19日(土)、代官山ユニットにて開催される「DBS: LEE BANNON x SOURCE DIRECT」、今回は、90'sジャングル/ドラム&ベースのダークサイドを開拓した巨匠、ソース・ダイレクトの17年ぶりの来日とあって、主催者の神波京平さんに「DRUM & BASS: DARKSIDE HISTORY 25選」を書いていただきました。
 ジャングル/ドラム&ベースが広まって20年、漆黒の歴史を振り返りましょう。

■DRUM & BASS: DARKSIDE HISTORY 25選 (選・文:神波京平)
1. 4 HERO - Mr. Kirk's Nightmare
[1990: Reinforced]
ポスト・セカンド・サマー・オブ・ラヴ=90年代初頭のレイヴ・シーンは暗い世相を反映して先鋭化するが、ハードコア・ブレイクビーツの台頭を予見した4ヒーローのビッグチューン。
https://www.youtube.com/watch?v=Xoxew9FO_JM
2. LENNIE DE ICE - We Are i.e.
[1991: i.e.]
ラッシュ感溢れるプロダクションのレイヴ・アンセム。エクスタシーを想起するヴォイスサンプルは空耳で、アルジェリアのライ音楽(CHEB SAHRAOUI)から。08年にCaspa + Ruskoのmixも出た。
https://www.youtube.com/watch?v=HQGmsQ2_Fa0
3. NASTY HABITS - Here Comes The Drumz
[1992: Reinforced]
ダークコアの到来を告げるナスティ・ハビッツことドック・スコットの歴史的名作は4ヒーローのレーベルReinforcedから。片面の"Dark Angel"も必聴。
https://www.youtube.com/watch?v=xkh_U3dRGzw
4. RUFIGE CRU - Darkrider
[1992:Reinforced]
同じくReinforcedからルフィジ・クルーことゴールディのダーク・クラシック。同時期の"Terminator"、"Sinister"('92)、"Ghosts Of My Life"('93)も必聴。
https://www.youtube.com/watch?v=-DblfFRL4ek
5. 4 HERO - Journey From The Light
[1993: Reinforced]
盤面に'YOU HAVE NOW ENTERED THE DARKSIDE'と書かれている4ヒーローの傑作。彼らならではのソウルフルなサンプル(BRAINSTORM、FIRST CHOICE、EW&F)を混成。
https://www.youtube.com/watch?v=sg9igdIHShM
6. Q PROJECT - Champion Sound (Alliance Remix)
[1993: Legend]
スピンバックとのコンビ、トータル・サイエンスで名高いQプロジェクトのオリジナルをよりアグレッシヴにリミックスしたアンセム。今なおプレイされ続けるモンスターチューン。
https://www.youtube.com/watch?v=qxTltrwuV2Q
7. ORIGIN UNKNOWN - Valley Of The Shadow
[1993: Ram]
アンディC&アント・マイルズのプロジェクトによるアンセム。BBCドキュメンタリーから採取した'long dark tunnel'のヴァイスがフラッシュするタイムレス・チューン。
https://www.youtube.com/watch?v=a5meT63flnM
8. ED RUSH - Bludclot Artattack (Dark Mix)
[1993: No U-Turn]
鬼才ニコが主宰するダーク工房、No U-Turnから出現したエド・ラッシュによる'93年ダークサイドの重要曲。
https://www.youtube.com/watch?v=tD14ioNOzyA
9. CODENAME JOHN - Deep Inside Of Me
[1994: Prototype]
コードネーム・ジョン=ハードコア~ダークコアをリードしたトップDJ、グルーヴライダー(因みに著作権出版社名はDARKLANDS MUSIC)のクラシック。ジュークのルーツがここに!?
https://www.youtube.com/watch?v=CzYz5KMWnWs
10. RENEGADE - Terrorist
[1994: Moving Shadow]
ジャパン"The Nightporter"のピアノ・サンプルから一転、激烈Amen breakと獰猛なReese bass(ケヴィン・サンダーソン発祥) が炸裂するビッグチューン。レイ・キースとヌーキーによるユニット。
https://www.youtube.com/watch?v=dnY5q-IYqfw
11. DEEPENDANCE - Dark Tha' Jam
[1995: Emotif]
シャイFXやTパワーを輩出したSOURがエクスペリメンタルにフォーカスした新レーベル、Emotifを担ったディーペンダンスはNo U-Turnのニコの変名。ダーク&ヘヴィー。
https://www.youtube.com/watch?v=g215hDv4UeI
12. ASYLUM - Da Base II Dark
[1995: Metalheadz]
ストリートに根差したジャングルの発展に貢献したLダブルがアサイラム名義でMetalheadzに提供したビッグチューン。システムで体感したい重量級D&B。
https://www.youtube.com/watch?v=rDkIX7Xu7BM
13. SOURCE DIRECT - Stonekiller
[1996: Metalheadz]
15才で制作を始め、'90s D&Bを急進させたジム&フィルのソース・ダイレクト。数多くの名作の中でもアトモスフェリックなサイファイ音響とダークネスが結晶した本作は不滅。
https://www.youtube.com/watch?v=XBQW2YoQetE
14. DJ TRACE - Mutant Revisited
[1996: Emotif]
Reese Basslineが席巻した'96年、ダークはTech-Stepの呼称で新たなステージに。No U-Turn門下生のトレイスによる9分を越す本作は、まさにテックステップの代名詞とも言える。
https://www.youtube.com/watch?v=gAPwdm04_MQ
15. BOYMERANG - Still
[1996: Prototype]
ポスト・ロックバンド、バーク・サイコシスを率いたグラハム・サットンがボーイメラングとしてD&Bシーンに参入、グルーヴライダーのレーベルからの本作はダブプレートでライダーが掛けまくったアンセム。
https://www.youtube.com/watch?v=iIfP9HC5CkM
16. ARCON 2 - The Beckoning
[1996: Reinforced]
ダーク・エクスペリメンタルの名門Reinforcedから突如出現したアルコン2 aka レオン・マー。そのディープ&ダークなサウンドスケープは'97年のアルバム『ARCON 2』で全開する。
https://www.youtube.com/watch?v=653SrLkVbDU
17. RUFIGE KRU - Dark Metal
[1996:Metalheadz]
D&Bの帝王、ゴールディ/メタルヘッズのアイデンティティを具現化した快心作はMoving Shadowのロブ・プレイフォードが補佐。片面"T3"は新型ターミネイター。
https://www.youtube.com/watch?v=d0_39xA3_H0
18. NASTY HABITS - Shadow Boxing
[1996: 31]
'Metalheadz Sunday Sessions'を始め、D&Bイヴェントでヘヴィーローテーションされたダークマスター、ドック・スコットの傑作、レーベルは自身の31。'14年にOm Unit Remixで蘇る!
https://www.youtube.com/watch?v=z_VKMWs2eaI
19. ED RUSH - The Raven
[1996: Metalheadz]
これもMetalheadzの定番チューン。ミニマルな前半からベースがうねりを上げるディープな展開に引き込まれる。
https://www.youtube.com/watch?v=Kuhjsn5bwDg
20. OPTICAL - To Shape The Future
[1997: Metalheadz]
'96~97年に弟のマトリックスと共にシーンに台頭したオプティカル。Prototype、31、Moving Shadow等の名門で活躍、本作はMetalheadzにフックアップされた未来派サウンズ。
https://www.youtube.com/watch?v=A8Y6OT4iooQ
21. DOM & ROLAND - Trauma
[1998: Renegade Hardware]
'94年にNo U-Turn系列Saigonから登場したドム&ローランド(ドムと彼の愛機Roland S760の意)。ダークかつインダストリアルな音響で個性を発揮、アルバム『Industry』('98年: Moving Shadow)も必聴。
https://www.youtube.com/watch?v=xmloE-iiNa4
22. KLUTE - Silent Weapons
[1998: Certificate 18]
パンクバンド出身でD&Bに転向したクルートは、フォーテックやソース・ダイレクトのリリースでも知られるCertificate 18で足場を築き、ダーク勢の一翼を担った。'01年に立ち上げた自己レーベル、Commercial Suicideも注目。
https://www.youtube.com/watch?v=jsrkL9jlz4Q
23. SOURCE DIRECT - Exorcise The Demons
[1999: Science]
Virgin/Scienceと契約したソース・ダイレクトの歴史的1st.アルバム&コンビ最終作。DARK!を実感するフルアルバムを堪能してほしい。SDはジムが引き継ぎ完全復活!17年ぶりの来日に注目!
https://www.youtube.com/watch?v=sVXyFwh9edI
24. BC - Planet Dust
[2001: Prototype]
DJフレッシュが主導し、'90年代末~'OO年代初頭に一世を風靡した4人組、バッド・カンパニー。グルーヴライダーが惚れ込んだ本作は一晩に8回プレイされたとの伝説があるオールタイム・クラシック。
https://www.youtube.com/watch?v=s0y9RbQYP3s
25. PHOTEK - Age Of Empires
[2004: Metalheadz]
Metalheadzに帰って来たフォーテックのアンセムはEgyptian Empire(ティム・テイラー)の"The Horn Track"('91年: Fokus)サンプルをハイテンションに構築、ヴィンテージな緊縛ダーク・エスニック!
https://www.youtube.com/watch?v=s_NxxPx8XPU
EXTRA: LEE BANNON - NW/WB
[2013: Ninja Tune]
そして最後に追加で、本企画の契機となった奇才リー・バノンのNinja Tuneからのアルバムからの1曲。必見の初来日!
https://www.youtube.com/watch?v=IXIKeqSMsmU

Illuha - ele-king

 先日僕は、TMTの下山のレヴューを興味深く読んだ。暴論じみてもいるが、日本がどう見られているのか、のぞき見として面白い。もっとも、「日本のロックの歴史は、本質的に、アメリカの文化帝国主義に対する日本人の集合的意識の入口における苛立たしい承認の、アンビヴァレンスの歴史である」という前提は、日本のロック(大衆音楽)を見るときの外側からの視線として、何度か目にした覚えのある言葉だ。
 我々は、いくら『アンノウン・プレジャーズ』のTシャツを着ようが、どうしようもなくジャパニーズであり、そう見る視線からは逃れられない。そして、欧米の急進的なジャーナリズムは、往々にして、無邪気なコピー・バンドを文化的服従だと感じつつも、「日本で人気のあるジャンル──J-ロック、ジャパノイズ、音響系、ハードコア──は、強制的に輸入された欧米文化というテンプレートのうえで自分たちのルーツを(曖昧ながら、あまり意識せずに)持っている」と分析している。そして、ボアダムスやアシッド・マザー・テンプルから下山のような、欧米文化を受け入れながら服従(コピー)しない、日本は欧米の一部という幻想──まさにヴェイパーウェイヴが問うたように、何でも等価のウルトラ・フラッターな世界(1998年生まれのアイドルも石橋英子も見事に並列化される『CDジャーナル』的世界とでも言えばいいのでしょうか……)にも甘んじない、白い文化に一撃を加えるぐらいの何かを持っているバンドの肩を持つ。
 自分の内側の醜さを打ち破るには、内側にはないモノ=異文化に期待したいという衝動は、洋楽ファンである自分にも身に覚えのある話だ。が、この国の音楽がアンビヴァレンスの歴史であり、そして、なかば強引に与えられたモノへの齟齬感、ある種の服従と抵抗が具現化されている音楽が国際舞台における個性だと言うのなら、それはパンク的な記号のみに集約されるとは限らないと思う。それは、アンビエント・ミュージックのなかにこそよりよく見えるかもしれない。

 それはジョン・ケージだとか、鈴木大拙だとか、禅宗だとか、お香だとか、そういうことを言いたいわけではない。そもそも日本人は大人しいし、静かだし──正直、本当にそうなのか疑問を感じることが多々あるが──、とにかくそれを美徳としてきている。その気風は、民主主義的には、あるいはフットボール的には有効的ではない場合もあるが、抵抗となるときもあるだろう。
 アメリカの影響力あるレーベルのひとつ、テイラー・デュプリーの〈12K〉からリリースされるイルハ──伊達トモヨシとコーリー・フラー、日本人とアメリカ人からなるアンビエント・プロジェクト──の新しいアルバムに、静けさを追求するこの作品に、僕は衝突めいた感覚を覚える。2011年のデビュー作『シズク』には、とくにそれが明瞭にうかがえた。アメリカの古い教会で録音されたそのアルバムは、当時、デンシノトさんがブログで書いたように「いわゆる〈日本的なもの〉への適切な距離と美意識が同時に感じられる」作品だが、西欧的なるもの、たとえばモダン・クラシカル的響きがあるとしたら、それがと日本的エートスが仲良く並んでいるのではなく、細部でせめぎ合いながら、彼らの衝突/葛藤は、発狂、怒り、苛立ちといった過剰さから遠ざかり、静けさに戻ろうとする。その「適切な距離」こそが我々の美意識かもしれないし、それはアイデンティティのメンテナンスなのもしれない。

 『アカリ』は、イルハにとって3年ぶりのセカンド・アルバムで、録音は、かのZAK氏のST-ROBOスタジオでおこなわれている。最近の彼らのライヴを見ている人は知ってる話だが、ラップトップは使われていない。アナログ・シンセ、オルガン、ギター、小型エフェクターやアナログミキサーやカセットテープ、安価で揃えられる多くの機材を工夫して使っている。録音は手間暇をかけたであろう、ただそれだけ酔えるほど素晴らしい録音で、イルハならではの叙情性と言えるモノも広がっているには広がっている。「いわゆる〈日本的なもの〉への適切な距離と美意識」は今作にもある。
 僕は『アカリ』に、畠山地平とのオピトープによる新作『ピュシス』との連続性も感じるかもしれない。作っている人間もひとり違うし、『ピュシス』の録音は2008年から2011年なので、新作との連続性を言うのはこじつけがましいのだが、音の間の空き方で言えば、『アカリ』は前作『シズク』より『ピュシス』に近い。
 が、『アカリ』には、『ピュシス』の滑らかさと違って、やはり何か衝突めいた感覚が潜んでいる。わりとメロディアスで、メロウに浸れる過去の作品と違って、『アカリ』は、普通は印象に残るはずの旋律的な要素は目立たず、ときおり鳴り出す無旋律/ドローンめいた音響は耳に付く。ときには中心よりも背景が、表側よりも裏側が目立つように仕組まれているが、結局は、どちらかが一方的に際立つことはない。
 細かい音の断片──ピアノ、具体音、電子音などなど──は、いままで以上に細かく断片化されている。露骨ではないが、フリー/インプロヴィぜーションへのアプローチも今作の特徴だ。音は、それ自体が単調/モノトーン/フラットであっても、ゆっくり、やがてさざ波のようにたがいに干渉し合って、他の何かを醸成していく。
 また、“音の持続への重力の関係”だの、“共鳴音の身体的な解釈のダイアグラム”だの、曲名の意味は僕にはさっぱりだが、この作品は1曲目の最初から聴くことを強制しない。つまり、矛盾した言い方をするが、3分聴いても60分弱のアルバム全体はつかめないが、3分のなかに60分弱のすべてがあるとも言える。

 座禅の経験者や日常的に黙想をしていた人にはよくわかることだが、ゆっくり流れる時間感覚は、早いそれよりも順応しづらいものだ。黙想していると時間の流れは遅くなるし、大量の情報を浴びていると時間の経過は早く感じる。テンポの速い曲のほうがポピュラーだし、メインストリームだし、売れ線だ。疲れを知らない我が家の幼児もハイピッチの曲にはノるが、疲れを知っている遅い曲にはノれない。歳を重ねるごとに良くなってくるのがアンビエントだと言いたいわけではない。たんに僕は、あまりにも長いあいだ、疲れ知らずという美学に拘泥していただけの話である。
 伊達トモヨシとコーリー・フラーは、何気に、すでに新しい場所へと進出しているのかもしれない。彼らの音楽へのアプローチにならって言えば、イージー・リスニングとアンビエントとは、やはり別モノである。気休めの音楽としても楽しめるかもしれないが、本質はそうではない。繰り返すが、そこにはむき出しにはならない、確固たる衝突、ひいては抵抗があるように感じる。
 そして、あからさまに言わないだけで、いつもは、この忙しい日常生活では、なかなか振り向かない角度に我々の関心を惹きつけているように思える。それがアンビヴァレンスの歴史からの逸脱なのかどうかは僕にはわからないが、自分に夢中の人がやっている音楽とは明らかに一線を画している。

※最近は、アナログ盤のみのリリースだったアルゼンチン人のフェデリコ・デュランドと伊達トモヨシとのメロディア名義の作品『サウダーデス』のCDもリイシューされる。

※また、彼らはただいま絶賛ツアー中です

interview with Kelela and Total Freedom - ele-king

「これ以上、神聖なものって、ないの?」

 いつのまにか音楽はしぼみ、日本語のナレーションがくりかえし聞こえてくる。さっきまでトータル・フリーダム(=Total Freedom)のDJで盛り上がっていたフロアは、波がひいたように静まりかえった。会場の全神経がステージ上に注がれる。ほどなくして歌声が響きはじめ、しなやかな身のこなしでケレラが姿をみせた。「Is there sacred anymore?」――そのとき、10分後の気持ちさえ誰も予測できなかっただろう。当時はアルバム一枚さえなかった。たった一曲で彼女は話題になったのだ。張りつめたムードのなか、ケレラとオーディエンスが「はじめまして」からお互いをさぐりはじめる――あまりに官能的な瞬間だった。
ケレラはイヴェントが終わる直前にも、20人もいなかっただろうフロアに降りて、ふたたびマイクを握った。あの日むかえた夏の朝5時は、とても小さいのに広がりがあって、優雅でありながら繊細で、みんなが美しい汗に濡れていた。僕にとって〈Prom Nite 3〉は、2013年どころか、ヒカリエでの〈Revolver Flavour〉と並んで、生涯の最高の夜のひとつだ。


Kelela - Cut 4 Me
Fade to Mind

Review Amazon iTunes

 念のためおさらいしておこう。2013年5月にリリースされたキングダム(Kingdom)・フューチャリング・ケレラの楽曲“バンク・ヘッド(Bank Head)”が、サウンドクラウドで〈フェイド・2・マインド(Fade to Mind)〉レーベル史上(ケタひとつ違う)最多の再生数を記録し、『ダミー』誌や『デイズド&コンフューズド』誌は2013年のベスト・トラックとして評価している。同年10月に満を持してレーベル初のアルバムとなるケレラの『カット・4・ミー(Cut 4 Me)』がリリースされ、音楽メディアが軒並み高評価のレヴューで取り上げたのはご存じのとおり。受け身(feat.)のシンガーに納まりたくなかったケレラも陽の目をみるチャンスをうかがっていたはずで、R&Bサンプリングを愛してきたキングダムにとっても、そして世に知られるための決定的なフックを必要としていた〈フェイド・2・マインド〉にとっても、『カット・4・ミー』はまさにウィン・ウィンの結晶といえる作品だ。それによってケレラだけでなくレーベルの存在も急浮上し、『ファクト』誌は〈フェイド・2・マインド〉を2013年のベスト・レコード・レーベルとして讃えた。

 また、〈フェイド・2・マインド〉にはマイノリティとしての背景/出自があることも忘れてはならない。天野龍太郎がレヴューで触れているように、ケレラは移民の娘として育ち、マイク・Q(Mike Q)はヴォーグのフィールドで名を馳せているほか、レゲトンをかけまくっていたトータル・フリーダムやングズングズ(Nguzunguzu)はラテン系移民のLGBTコミュニティが集まるLAでのパーティ〈ワイルドネス(Wildness)〉で活動していた。

ドキュメンタリー映画『ワイルドネス』(ウー・ツァン(Wu Tsang)監督、2012年)には、周囲の圧力によってパーティが中止に追い込まれる様子が記録されているようだが、いまのところ観る手段はなさそう。

 そういった事柄は〈フェイド・2・マインド〉のあくまで一面/一要素にすぎないかもしれないが、まったく無視してしまうわけにもいかない。あのパワフルな「Ha!」が幾度となくミックスされているのは、けっして故なきことではないのだから。

 2014年3月末リリースのボク・ボク(=Bok Bok)との新曲“メルバズ・コール(=Melba’s Call”を、あなたは聴いただろうか? ケレラはまだまだ野心的だ。ぶつ切りにされたエレクトロ・ファンク。脳がゆれるようなオフビート。この故障気味のトラックに歌を乗せてしまうぶっ飛び様にはただただ感服するしかない。「次はこんなに近くで(=DOMMUNE)観れないかもね」と1-DRINKさんがささやいていたように、たしかにケレラの人気は高まっていくばかりだろう。けれど、彼女はけっして安全牌に落ち着くことなく、野心的な活動を続けてくれるにちがいない。

 幸い、近くで観れなくなるかもしれないその前に、僕はケレラとアシュランド(=トータル・フリーダム)に話をきく機会に恵まれていた。帰国直前のふたりといっしょに小さな町の蕎麦屋の暖簾をくぐったのは、2013年、コンクリートもジューシーに焼きあがり、トリップしそうになるほど暑かった真夏の昼のこと………。

(※ぜひ日本のファンに読んでほしいとケレラ本人から届いたラヴ・レターを、最後に添えておきます。)

アメル・ラリューっていうシンガーのライヴを初めて見たときのことなんだけれど、彼女がわたしのなかの何かをぶちこわしたの。あんなに自分の人生を懸けて歌を歌っている人を見るのは生まれて初めてだった。

アシュランド、今年(=2013年)だけで日本には4回も来ていたけど、今回はいろいろと慌ただしい滞在でしたね。そんななかわざわざ時間をくれてありがとうございます。まずはルーツについて訊かせてください。初めて買ったレコードは何ですか?

アシュランド:初めてのレコードはトッド・ラングレンかな。名前が思い出せないんだけど、彼が80年代に出した変なエレクトロっぽいやつ。8歳のときに初めてお小遣いをもらって、家族とショッピングモールに行ったときにレコード屋で買ったテープがそれだった。見た目が可愛かったからジャケ買いしたんだ。

ケレラはどうでしょう?

ケレラ:わたしは……トレイシー・チャップマンのデビュー作だったな。

アシュランド:素敵だね。

ケレラ:うん。でも自分で買ったわけじゃなくて、父からの贈り物だった。たぶん彼は私に気を遣って買ってくれたんだと思うわ。そのとき両親は離ればなれに暮らしていて、父がいつもわたしの送り迎えをしてくれていたの。学校に車で迎えにきてくれるときにだけ、父とふたりで会うことができる時間だったのだけれど、そのときにいつもおねだりばかりしていたから……Oh、 アリガトウゴザイマス(訳者註:蕎麦を運んできた店員に対して彼女は満面の笑みでそう応えた)。

初めていまのようなアーティストになりたいと思ったのはいつ頃ですか?

アシュランド:僕は自分のことをアーティストだなんて思っていないんだ。だからそのようなことを考えたこともない(笑)。そういう誰かのレコードを聴いて、この人みたいにいつかなりたいっていうプロセスで物事を考えたことはないんだ。

ケレラがシンガーになろうと決めたきっかけはなんだったのですか?

ケレラ:アメル・ラリューっていうシンガーのライヴを初めて見たときのことなんだけれど、彼女がわたしのなかの何かをぶちこわしたの。それがきっかけよ。あんなに自分の人生を懸けて歌を歌っている人を見るのは生まれて初めてだった。彼女の歌を聴いて涙が出てきたし、同時にとても幸せな気分にもなった。彼女はべつにわたしのそばでわたしの瞳を見つめながら歌ってくれていたわけではないのよ。ワシントンDCにある大きなコンサートホールで、わたしはステージから遠く離れて座っていたの。それなのに彼女の歌声はわたしの心の奥深くまではっきりと届いた。そのときは信じられなかったわ。その事実も、そんなことができる彼女の歌唱力も。その日を境に、わたしも人生のうちで一度くらいは歌に懸けてみるべきだと思いはじめた。 

それはいつ頃の話ですか?

ケレラ:わたしはもう大学生だったから、2004年頃のことかな。それまで浴室でシャワーを浴びながら歌ったりはしていて、学校の行事とかでソロで歌わされたりしたことはあったけど。あ、そういえばわたし、高校の「将来ポップ・スターになりそうな人ランキング」で1位に選ばれたのよ!

アシュランド:ハハハ(笑)。

ケレラ:きのう考えごとをしていたらちょうどそのことを思い出して。でもとにかく若いときから毎日下手なりに歌は歌っていたわ。日に日に少しずつ上達していっていまに至ったと思う。

以前、インタヴューで「アシュランドはアートスクールに行っていないことを誇りに思っている」とサブトランカのマイルスが言っていましたが、実際どうでしょう?

アシュランド:べつに誇りになんて思ってないけど(笑)、でも多くの人が僕はアートスクール卒だと思うみたい。実際、〈フェイド・2・マインド〉の連中や周りの友だちがみんなそうだし、シカゴに住んでいたときからの知り合いも未だに深い関係にある人はみんなアートスクールの出身なんだ。恐らくそういうイメージがつきやすいのは僕の立ち位置によると思う。僕はアートの世界でコンスタントに活動しているけれど、とくに音楽活動をするときにはいつもインスティチューショナルな現代アートの世界とクラブの世界の両方を行き来するようにしてきたしね。

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それこそが歴史的にシーンと呼ばれるものが生まれてきたポイントだと思うんだ。そこにあるんだと言ってしまうこと自体がそれを生むというか。

あなたがキュレーターを務めたプロジェクト『ブラスティング・ヴォイス』(Blasting Voice)はLPとエキシヴィションの両方の形で発表されましたが、あのヴァリエーション豊かなキュレーションは、何かのシーンを総括するようなものだったのでしょうか?

アシュランド:違うよ。コンピレーションを依頼されたときに「君のシーンにすごく興味があるから何かそれを総括するような物を作ってくれないか」って言われたんだけど、実際それを聞いてすごく笑ってしまったんだ。「それっていったいどういう意味?」って。依頼してきた人のこともまだよく知らなかったし、そのときはそれがすごくおかしくてさ。彼が想像していたようなシーンはそこには存在しなかったし、それぞれのアーティストもその作品もお互いに影響しあわずにすでにそこにあった。だからきっとすごくおもしろい仕事になるなって思ったよ。互いに繋がりのないさまざまな人たちの作品をそこに何か関連があるって想像しながらひとつにまとめていくんだから。でもそれこそが歴史的にシーンと呼ばれるものが生まれてきたポイントだと思うんだ。そこにあるんだと言ってしまうこと自体がそれを生むというか。だから、それはレコードを作る理由としてはじつに楽しいアイデアだったよ。本来のゴールとは違う形だったとはいえどもね。内容の時間軸もバラバラで、2005年頃に知り合いからもらった作品もあればリリース直前に完成した楽曲も入ってる。でもコンピレーションが出るまで誰も聞いたことがなかったものばかりだよ。エキシヴィジョンも同様で、すでに存在していたシーンをリプリゼントしたようなものではないんだ。
どちらもできる限り広範囲から選ぶように努力はしたんだけど、実際思ったより狭い範囲でのキュレーションになってしまったかな。みんな僕の知っているアーティストだったからそういった意味で偏りがあるのはどうしようもないけどね。

わたしが表現した「心地の悪さ」というのは、そこにまた戻ってきたいと感じさせる類いのものなの。それはただ無益に人を傷つけることとは違うのよ。

ケレラは、『ファクト』誌のインタヴューで、「ほとんどの人に共鳴されるとともに、リスナーを心地わるく(uncomfortable)させ」たいという旨をおっしゃっていましたが、それには何か理由があるのですか?

ケレラ:それは、「不安を感じること」には「成長すること」が伴うというわたしの考えから来ていると思う。いままで心地の悪さを経験したときにはいつも、「どうして不安になるんだろう?」って考えさせられてきた。だってもうそんな気分味わいたくないじゃない? たとえそれが意図的に経験させられたものじゃなかったとしてもよ。
わたしが表現した「心地の悪さ」というのは、そこにまた戻ってきたいと感じさせる類いのものなの。それはただ無益に人を傷つけることとは違うのよ。わたしが言いたいのは、他人のパフォーマンスを見ることによって自分が成長できるような瞬間があるということなの。単に「きみは歌がうまいね」とか「あの曲を見事に次の曲にミックスしていたね」とかそういうことじゃなくて、わたしはあなたに関与したいし、あなたにも関わりを感じてほしい。わたしは芸術というフォーマットを通して人との繋がりを得たいし、それだけが人が歌を歌う理由だと思わない? もしも誰にも触れることができないのだとしたら、わたしにはこれを続ける理由がわからないわ。

心地の悪さ、不安感などを伝えることで表面的な部分だけでなく、より深い部分でコミュニケーションを取りたいということでしょうか?

ケレラ:そうね。他にいい言葉がきっとあるはずなんだけど、思い浮かばないな……。とにかく人に関わりを感じて(feel engaged)ほしい。それは「OK、いまのわたしはこの場を去ることはできない」とか「あぁ、いまは飲み物を買いにいけない」とか、いまここで起きていることしか考えられなくなってしまう感じ。それはとても楽しいことにもなりえるのよ。とてつもなく幸せな瞬間にも。ただわたしはそこに心地の悪さや不安感のような感情までも含めてあげたいと思うの。クラブだけじゃなくてどんな場所でも言えることだけど、わかりきった内容のものなんてぜんぜんおもしろくないでしょう。そのために、わたしはいつもそこにある空気を破れるように、みんなのスペースに割って入ることができるようにトライしているわ。

『カット・4・ミー』の歌詞はご自分で書かれているのですか?

ケレラ:基本的には。でも自分ひとりではどうしたらいいかよくわからなくなるときもあって。そんなときにはアズマ(=ングズングズのメンバー)がよく助けてくれる。“エネミー”の歌詞は彼女といっしょに書いたのよ。それからスタジオでもときどきみんなに「ここはこうじゃなくてこう言うべきだ!」って強く言われるときがあった。わたしも「あー! うるさいな!」って感じになっちゃうんだけど、それがよりいい結果に繋がることも多くて(笑)。だからひとりで書いているつもりはないし、みんなでクリエイトした結果だと思ってる。

パートナーとしてングズングズのアズマを選んだのは何か自分と似ているところがあるからですか?

ケレラ:そう。彼女とは知り合ってまだ1年半くらいだけれど、彼女はわたしとまったく同じところからやってきた人のように感じるの。お互い両親が移民だってことも関係しているのかもしれないけれど、彼女もわたしと同じで、ある種のコンテキストに挑戦しながら生きてきた人だし、いまはともに挑戦していける同士だと思ってるわ。だから彼女とはとても深い関係にあるわね。とくにふたりでいっしょに歌詞を考えてるときは、彼女はとても利口で立ち回りの上手な女の子だって気づかされる。英語的表現で言うところの、「Girl in da hood」ね(笑)。とても頭が良くて、必要なときにさりげなく気を利かせてくれる。それは彼女も同じ経験をしてきたから。そしてわたしも同じことを経験しているということにとても重きを置いてくれている。だから彼女と歌詞を書くことは大好きだし、彼女のフィードバックを聞くのも大好き。「ここはこのままで大丈夫よ~」 「なんでここ変えちゃったのよ~?」「ここはこうするべきだわよ~」って。彼女の意見には反発できっこないわ(笑)。

(そっくりなアズマの声真似に一同笑)

アシュランド:いつもそんな感じだよね。みんな自信ないときは「本当にこれで大丈夫なの? アズマに訊かないと……」ってなっちゃうんだ(笑)。

ケレラ:アシュランドもそういう立ち位置だけどね。

〈フェイド・2・マインド〉のアネゴ的存在なんですね(笑)。

ケレラ:わたしにとってアシュランドが父親でアズマが母親みたいな感じなのよ。

みなさん本当に仲良しですね。インク(inc.)のスタジオでおふたりは出会ったときいていますが……

アシュランド:インクのスタジオが初めて会った場所だったっけ?

ケレラ:そうよ。はっきり覚えてるわ。エレベーターの中でふたりで話していて、「友だちがフューチャー・ブラウン(Future Brown)って名前のグループやってるんだけどさ」って言われて、「『フューチャー・ブラウン』だって!? 一体どうしてこのわたしがそのバンドのメンバーじゃないのよ。どこにデモ送ればいいの?」って話したのよ。

アシュランド:(笑)

そのときのお互いの印象はどうだったのですか?

アシュランド:僕はすでにそのときレコーディングしていたティーンガール・ファンタジー(Teengirl Fantasy)のデモで彼女の歌声を聴いていたから、その印象が強かったかな。ケレラはたぶんなんで僕がそこにいたのかも知らなかったと思うよ。僕がニック(筆者註:ティーンガールのニックだろう)の彼氏だったってことは知ってたんだっけ?(笑)

ケレラ:わたしはそう聞いてたわよ。アシュランドが素晴らしいDJだってことも聞いてたけど、プレイを見たことはなかったし、彼がそこにいることの背景とかをまだぜんぜん理解してない状況だった。

アシュランド:彼女はインクのことも知らなかったんだ。その時ティーンガール・ファンタジーがスタジオを探していたから僕がインクのふたりに頼んで使わせてもらっていたんだけれど、それでその日に知ったんだよね。

ケレラ:インクも知らなかったし、トータル・フリーダムも知らなかったの。そのときにはティーンガール・ファンタジーのことも知ったばかりだったし、その背景にある世界っていうのもわたしにはまったく新しいものだった。〈フェイド・2・マインド〉も〈ナイト・スラッグス〉もぜんぜん知らなかった。

アシュランド:君はいったいどこからやってきたのさ(笑)? ティーンガール・ファンタジーの“EFX”のデモを聴いたときに、「これはいますぐにでもヴォーカルを見つけてきて完成させるべきだ! 宅録じゃ駄目だよ、絶対にスタジオでだ!」って言ったんだ(笑)。ケレラはそのときにはもうティーンガール・ファンタジーのふたりとは知り合いだったのかな?

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ティーンガール・ファンタジーの“EFX”のデモを聴いたときに、「これはいますぐにでもヴォーカルを見つけてきて完成させるべきだ! 宅録じゃ駄目だよ、絶対にスタジオでだ!」って言ったんだ(笑)。

ケレラ:たしか10月に彼らがLAでジェイムス・ブレイクとプレイしたのだけれど、その後だっけ? あまりよく思い出せないな。とりあえずそのイヴェント会場で初めて彼らに……ちょっと待って、アシュランド、あなたもあそこにいたわよ!

アシュランド:LAだったらたぶん僕もいたはずだけど……あれ、本当に?

ケレラ:わたしはそこでローガン(筆者注:ティーンガールのローガンだろう)を待っていて、誰も知らなくて不安だったら、そこにあなたもふたりといっしょに現れたじゃない! 初めて会ったのにすごく素敵でキュートな挨拶をしてくれて。そのあとみんなでハウス・パーティーに行ったのよ。

アシュランド:ダニーの家(筆者註:インクのダニエルだろうか)! そうだ思い出した。それが初めて会ったときだよ。なんか不思議だね(笑)。 

ケレラ:すごく行き当たりばったりよ。その日に顔合わせして初めて“EFX”のデモに合わせて歌ったんだけど、わたしはまだ歌詞を持ってなかったの。コクトー・ツインズみたいに自分の独自の言語を作って歌いたいって話をして、ローガンがそのアイデアをとても気に入ってくれたのを覚えてる。まだインクのスタジオに入る1ヶ月以上前の話よ。だからそのときが初めて会った日。訂正するわ。

やっぱりいつもアシュランドがキーパーソンなんですね。ニックと付き合っていたということも驚きです。

アシュランド:本当にただしい期間の間だけだよ(笑)。でも僕らの関係がなかったらケレラは生まれていない。

ケレラ:本当にそうよ。アシュランドの交友関係が広くなければインクのスタジオを使ってレコーディングすることにもなってなかったし、わたしも〈フェイド・2・マインド〉のことも知らずに生きてたんじゃないかな。

すごく興味深いです。それでは、アシュランドはどういった経緯で〈フェイド・2・マインド〉と関わるようになったのですか?

アシュランド:エズラ(=キングダム/Kingdom)とングズングズとは同時期に出会ったんだ。彼らはお互いのことはまだ知らなかったはずだけどね。当時エズラはボストンに住んでいて、とあるバンドのメンバーだったんだ。そのバンドをシカゴで僕がブッキングしたんだよ。彼とはそれ以来の付き合いかな。
その後エズラはバンドを辞めてニューヨークに引っ越すんだけど、ちょうど同じ頃に僕もングズングズとウー・ツァン(筆者註:序文で先述したとおりドキュメンタリー映画『ワイルドネス』の監督)といっしょにシカゴからLAに引っ越したんだ。彼らとは昔からいっしょに音楽を作ってはいたんだけど、LAに越してからングズングズのダニエルがダンス・ミュージックに入れ込みはじめた。そのうちアズマも彼といっしょにビートを作るようになってたんだ。そこでングズふたりにエズラの音楽を聴かせたらマイスペースで連絡をとったみたいで、彼らも友だちになった。それ以来エズラはときおりLAに遊びにくるようになったんだけど、しばらくしたらエズラもLAに引っ越すって言い出してさ。彼は当時テキサスに住んでいたプリンス・ウィリアム(Prince William)とすごく仲がよくて、新しいレーベルをはじめる計画に関してずっとやり取りしていた。それでエズラがLAに越してきてから1年くらい経ってウィル(=プリンス・ウィリアム)もテキサスから越してきたんだ。
それからはみんな毎日のように集まっては音楽を共有したり、ジャムしたりする生活がはじまった。そして〈フェイド・トゥ・マインド〉が生まれたんだ。だからとても自然な経緯だったよ。誰かが「神経質なトータル・フリーダムをレーベルに迎え入れて彼が垂らす不満を聞きながら今後のことを決めていこうじゃないか!」だなんて言い出したわけじゃない(笑)。はじめからそこにいただけなんだ。とても自然に。

アシュランドのDJに毎回テーマはあるのですか?

アシュランド:ないよ。唯一気をつけていることといえば、DJの前に自分が持っている新しい曲たちをUSBかCDに焼くのを忘れないようにすること。

ケレラ:それが彼の準備のすべてなのよ。

アシュランド:それがすべてだよ(笑)。

「いまの会話のなかで君はR&Bという言葉を1回たりとも使わなかったけど、それはどうしてなのか教えてくれるかい?」って。そこで初めて気がついたの。わたしはR&Bという言葉で自分の音楽を考えたことが一度もなかったんだって。

※アシュランドについてはもうすこし掘り下げたかったのだが、彼は一足先に帰ることになっていたので、後日メールでくわしく話しをきくことにして、ひとまず彼を見送った。

それでは、ケレラに質問していきます。現在アメリカにR&Bのシーンのようなものは存在しているのでしょうか?

ケレラ:R&Bに関する何かは起きているわね。でも正直それがなんなのかさっぱりわからないの。ちょうどいまリズラ(=Rizzla)といっしょにわたしのプロフィールを作っているところなのだけれど、わたしのバイオグラフィーに関してひと通り彼に話す機会があって、そのときに彼はこう言った。「いまの会話のなかで君はR&Bという言葉を1回たりとも使わなかったけど、それはどうしてなのか教えてくれるかい?」って。そこで初めて気がついたの。わたしはR&Bという言葉で自分の音楽を考えたことが一度もなかったんだって。それはわたしがルールよりも先に作品のクオリティのことを考えているからかもしれない。作品の完成形を追い求めているときにわたしはR&Bのことを考えていないのよ。完成した後にこれは何ですかって訊かれたら「あぁ、これはおそらくR&Bよね」って単純に思うだけで。だからその言葉を使うことに抵抗は無いし、もしあなたの音楽をまったく知らない人にごく簡潔にあなたの音楽について説明してくださいって言われたら、「これはクラブR&Bよ」って言うと思う。でも歌っているときの影響やなんでそのようなメロディなのかって訊かれたときにR&Bという言葉はそこにはあてはまらない。
それに気づいたとき、リズラといっしょにこの「R&B」現象はいったいなんなんだろうって話をしたわ。だってR&Bに関することなんて2年前には誰もわたしに質問してこなかったもの。この1~2年の間に何かが起こったの。わたしにはそれがよくわからない。でもそれはおそらく、上位中産階級の白人たちみんなに「いま、君はR&Bを聴いているべきなんだよ」って書かれたメモが配られたような、そういう類いの変化なんだと思う。そしてみんながいっせいにそれに関するオンラインのリサーチをはじめて、あたかもいままでずっとそういう音楽を聴いてきたかのように振る舞いはじめたのよ。まるで「オーマイガッド! 僕はR&Bを愛しているし、いままでもずーっとそうだったんだよ! 本当のことさ! やっぱり君は最高だよね!」みたいな感じ。そう、だから何か起きているのはたしかなのよ。
でもわたしはそんな状況をあてにしたくないだなんてカッコつけたことを言うつもりはまったくないわ。すべてのシンガーは自分の限界というものと戦わなければならない。多くのアーティストがそれを乗り越えようとしているし、いまこの瞬間にもそれは実際に起きていることなの。その暗闇は、アーティストからしたら――それはそれはとてつもなく冷たい現実なのよ。
ただ、そういうインターネットで白人でインディなる何かがそこに覆いかぶさってきたような……本当につい最近のことなんだけど。

もともとヒップスターだった白人のキッズたちのことでしょうか?

ケレラ:まさしくその通り! 「だった」というより彼らは未だにそうなの。現在のヒップスタリズムの提示する美学の中にはなぜかR&Bを聴くことも入ってしまっているの。いつからそうなってしまったのかはまったくわからないけれど。でも大事なのはここよ、次のパートよ、よく聴いていて。
そういったこともぜーんぶ含めて、わたしはそれが起きてくれて本当によかったと心から思ってる。正直小さなことはどうだっていいわ。もしヒップスターたちが「R&B」を好きになってくれるなら、それはわたしがアーティストとしてすこしでも長く生活していけるということなんだもの。不満なんてまったく言えた立場じゃないわ。ただ、自分がどこから来たのかってことをいままでよりダイレクトに、はっきりと伝えなくちゃいけないっていうことだけなの。そして何よりもいちばん重要なことは、いまこそがわたしのクリエーションがいちばんノリに乗っている瞬間ということではないっていうことをはっきりとさせることなの。だって「R&B」が流行っていなかったとしても、多少違うかたちにはなっていたかもしれないけれど、わたしの表現したかったこと、目指してきたものは対して変わっていなかったと思うもの。だからどんな理由であれ、いまの状況になってくれて本当によかった。「わたしの音楽が好きなの? アメージング! チケットを買ってショーを見に来てくれるの? グレイト! 本当にありがとう。とても感謝しています」。そういう気持ちだわ。

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現在のヒップスタリズムの提示する美学の中にはなぜかR&Bを聴くことも入ってしまっているの。そういったこともぜーんぶ含めて、わたしはそれが起きてくれて本当によかったと心から思ってる。

なるほど……。続いて「R&B」関連ですが、ジェシー・ウェアと彼女の音楽についてはどう思いますか?

ケレラ:ジェシー・ウェア?  今日中にメールで返答しなくちゃいけない他のメディアからのインタヴューがあるんだけど、そこにも彼女に関する質問があったの。ちょっとここで読ませてもらってもいいかな?

どうぞ。

ケレラ:「質問その1) われわれはあなたもジェシー・ウェアと同じようなラウンドを進めていくものと予想しています。脇役としてのアンダーグラウンド・シンガーからメインストリーム・アーティストへの素早い立ち上がり。この予想に関してはどう思われますか?」

(一同沈黙)

ケレラ:ジェシー・ウェアの音楽に関してわたしがどう思うかというと、彼女が有名になる前に当時の彼女の歌を聴いたことがあるんだけど、正直あまり好きにはなれなかった。彼女が去年くらいに出したアルバムも聴いたけど、わたしはもっとクラブよりのものが好きだし、そういう文脈で音楽を模索していた時期だったこともあって、いまいちぱっとしなかったんだ。何よりもそういうクラブの文脈の中にいるってことがわたしのファースト・ステートメントだと思っているし。
ステートメントの話から派生するとね、わたしにとって「物語(narrative)」ってとても重要なことで。ここで言われている「脇役からメインストリームへの立ち上がり」っていう物語は、わたしにとってとても問題のあるものなんだよ。誰かに付随した価値を得たいと思ったことは一度もないし、その誤解を防ぐためにつねにベストをつくしているつもりなの。たとえば、わたしが最初にキングダムとのフューチャリング・トラック(“バンク・ヘッド”)をリリースしたときのことなんだけど、プロモーターがみんなキングダムとケレラをいっしょにブッキングしたがったの。みんな「Kingdom featuring Kelela」を見たがっていた。たぶんあなたたちもそう思っていたと思うけど……。

プロモーターがみんなキングダムとケレラをいっしょにブッキングしたがったの。みんな「Kingdom featuring Kelela」を見たがっていた。たぶんあなたたちもそう思っていたと思うけど……。

たしかに、あなたが出てきたときには正直そのようなコラボレーション・シンガーのような印象をすくなからず抱いていました。

ケレラ:そう見えたと思う。わたしはそれがすごく嫌だった。エズラはもちろん素晴らしい友だちだしいっしょにやってて楽しいから、最初はイエスばかり言っていっしょにギグをしてたんだ。でも最初の4、5回がすぎた頃、わたしのマネージャーにこう言われたの。「この『Kingdom & Kelela』ってのは一体なんなの? バンドでもやってるの?」って。違うわ、そういうつもりじゃないのよってわたしは言ったけど、彼は「君はソロをやろうとしているんじゃないのかい? 僕にはそのようにはまったく見えない。」って。
つまりわたしが言いたいのは、あなたの意図っていうのはそれが物語の中に反映されていなければまったく意味がないってこと。とくにインターネットの世界では、あなたの考えている意図とはまったく関係なく、そこに提示されている物語がすべてなの。だからエズラに伝えなければならなかった。もうこれ以上はできないって。それはとても辛い会話だったわ。なぜなら、わたしは誰かに付随した価値を得たいわけじゃないんだって、はっきりと言わなければならなかったから。それと同時に、誰かがわたしに付随するDJにもなってほしくなかった。最近はアシュランドといっしょにギグをすることが多いけど、ケレラのショーではあなたのお気に入りのDJがミックスを披露することもあって、トラックを繋げたり、エフェクトを懸けたりするような形でケレラのライヴセットをサポートすることもあるっていう見え方であってほしいの。そしてケレラも彼らのミックスに合わせて歌うこともあるっていう、そういうストーリーであるべきなのよ、ケレラの物語は。ボノボ(=bonobo/イギリスのプロデューサー)っていうアーティストがいるでしょう?

アンドレヤ・トリアーナ(Andreya Triana) をプロデュースしていますよね。

ケレラ:そうよ。アンドレヤはとても長いあいだ歌ってきたのよ。ボノボとのフューチャリングをはじめるずーっと前から。
だからわたしが言いたいのは、物語っていうのはわたしにとってとても重要なことで。男性の横で――いや、それが白人だったらもう本当に最悪なんだけど――白人男性の横で歌う薄幸の黒人「R&B」シンガーの女の子が、ハンサムな彼に拾い上げられて世界の目にさらされたことで初めて成功することができたっていうシンデレラ・ストーリーはわたしのなかではまったく受け入れられないんだ。たいていの場合、そんなのぜんぜん事実じゃない。わたしはべつにジェシー・ウェアが嫌いなわけじゃないよ。おそらくわたしたちが会って話をしたらすぐに仲良くなれると思う。きっと共通項もたくさんある。でも彼女の音楽のこととなると、やっぱりその物語が好きになれないし、それは音楽を聴くときにも反映されてしまうことなの。わたしもよく訊かれるんだよ、「キングダムとの曲“バンク・ヘッド”は素晴らしい出来です。ところで彼はどこであなたを発掘したのですか?」……って。すでに質問の中に暗に含まれてしまっているのよ。わたしの才能を発見したのはわたし自身なのよ。そしてケレラのプロジェクトのほとんどにおいてキュレーションをしているのはわたし自身なのにって。そういうときは本当に悔しい。いままで歌だけ歌って呑気に生きてきたビッチが、運良く腕の良いプロデューサーに育ててもらっただけでここまで有名になれたんだ、っていうこの業界のステレオタイプには本当にうんざりしてる。そしてこういう類いのことはいつも女性に起こっているのよ。女性アーティストに対しては、ありえないくらい頻繁に起こっているの。悲しいけれど、自分の物語は自分自身で守っていくしかないのよ。だからわたしの物語というのはもっと複雑だってことをちゃんと見せていくことで、そういったものには挑戦しつづけたいと思っている。

悲しいけれど、自分の物語は自分自身で守っていくしかないのよ。だからわたしの物語というのはもっと複雑だってことをちゃんと見せていくことで、そういったものには挑戦しつづけたいと思っている。

とても素晴らしい話をありがとうございます。日本の状況を生きる我々にとっても心に突き刺さる内容でした。今回のインタヴュー中に、あなたの口から「コンテクストに挑戦する(Breaking the context)」というような表現を何度か耳にしました。それから代官山〈UNIT〉でのパーティ、〈DOMMUNE〉でのリハーサルの際に、どちらのPAスタッフも女性だったことに、あなたはおおきな喜びを表現していましたね。

ケレラ:超最高(So Sick)だったわ。

やはり、あなたの言うコンテクストというのは男性至上主義なるものなのですか?

ケレラ:そうね。たしかにわたしたちはとても男性優位な社会に住んでいるわよね。でもそれに挑戦することだけがわたしのゴールや目的ではまったくないわ。わたしはべつに男性より強くなりたいわけではないし、いまの男性のポジションが女性のものになるべきだとも思っていない。いちばん重要だと思っているのは、やっぱりわたしたちがちゃんと当たり前にいい仕事をすることなの。そしてそれらのいい仕事の副産物として、そういった社会的コンテクストにも挑戦することができたら素晴らしいと思うの。べつにその人が女性だからってPAスタッフに雇うだなんてことをわたしはしたいわけじゃないよ? わかるでしょう。たとえばクラブのフロアに入ってサウンドチェックで音がパーフェクトで、微妙なマイクの調整も何のドラマや問題もなくスムーズに起きて、すごく満足しているときに、サウンドの担当を見たら女性だったっていう事実は、やっぱり多くを語っているのよ。それはとても意味あることだと思う。

わたしたちの住むこの社会のコンテクストにおいては?

ケレラ:そうよ。そして、それは女性たちの間だけの問題ではないのよ。マッチョさがより少ないっていうのは、何かを成し遂げるときにはとくに必要なように感じる。仕事を無事に終えることを心配されるっていうのは女性たちに共通して起きていることで。自分なりに正しくあるってことよりも、そっちに気を遣ってしまっている女性はやっぱり多いと思う。アズマやファティマ(・アル・カディリ/Fatima Al Qadiri)のようなわたしとおなじシーンに属している女性たちを代表してどうこう言うつもりはないけれど、わたしたちに共通して言えるのは、わたしたちはべつに男性になろうとしているわけではないということ(筆者註:ファティマは「ゲイのムスリム・クウェート人」と中傷されたことへの怒りのツイートを残している)。アグレッシヴでハードなダンス・ミュージックに、フェミニンなタッチが正しい形で融合されることって、いままでに起きた最高のことのひとつだと思ってる(笑)。この前のテキサス州オースティンでの〈SXSW〉でのアフターパーティーのときに、レーベルのみんながバック・2・バックでDJプレイしたのだけれど、アズマがプレイする番になったときのことは言葉で表現できないくらい素晴らしかったわ。彼女の醸し出す上品さがCDJの上にまるで女神のように降臨したのよ(笑)。そして、それはとても価値あることなの。わたしたちの住むこの社会のコンテクストにおいてはね。

貴重なお話をありがとうございます。それでは、最後の質問です。今回の来日公演での1曲めで「Is there nothing sacred anymore」という歌詞を、くりかえしオーディエンスに尋ねるパフォーマンスをしていましたね。その言葉を選んだ理由はなんでしょうか?

ケレラ:1曲めのあの歌はアメル・ラリューの曲のカヴァーなの。わたしにとってとても重要な意味をもつ歌で、“セイクリッド”っていう曲よ。ユーチューブで聴けるわ。その歌詞と曲を選んだ理由は、くり返すようだけれど、みんなのスペースに割って入りたかったから。心地を悪くさせたかったからよ。あそこがクラブじゃなく、聴衆が椅子にすわって待っているような、とても静かな場所だったとしたら、おそらくあの歌は歌っていない。照明を落としてあの曲でパフォーマンスをはじめて、その場のトーンを決めたかったんだ。それに、ケレラにとってとても意味のある歌だから、だよ。

 「本当にありがとう。また会おうね!」 最後にハグをしながらケレラはそう言った。まだ8月前半だったというのに、ケレラと挨拶をしてわかれたとき、僕は夏が終わったのをはっきりと感じた。

結局あの夏から、アシュランドは追加の質問の返答をくれていないままだ。けっこう大切な質問だったんだけどなぁといまでも悔やんでいるのだけれど、なんと今年5月に〈Prom Nite 4〉でJ・クッシュ(J-CUSH)とともに来日するらしい

 今年も春をむかえようとしているさなか、ケレラから手紙が届いた。

BANK HEAD  (Translated into Japanese)

Like kicking an old bad habit
(悪い習慣を断つときのように)
It's hard, but I'm not static
(苦しいのに、落ち着いていられないんだ)
We lock eyes from far away
(遠くから目が合っても)
And then you slowly turn your face
(あなたはゆっくりと顔を背けるのだもの)
Like middle school we're a secret
(ミドルスクールのような秘密の関係ね)
There's more to it but we keep it
(本当はそれ以上だけど抑えてるんだ)
It's not a game I know
(遊びじゃないのはわかってる)
We're moving at our pace
(ただわたしたちのペースで進んでいるだけなんだ)

Remembering that one time
(あの時のことを思い出す)
Had to stop it's making me hot
(本気になってしまいそうで 止めなければならなかった)
Come on out, there's no need to hide
(姿をみせてよ、隠れる必要なんてないのに)
Could you be my new love?
(わたしの恋人になってくれますか?)
Could it be that we need some time?
(それとももっと時間が必要なのですか?)
I'm still browsing, there's no need to buy
(わたしはまだ窺っている、お金で買えるものでもないのに)

It's all I dreamed of, it can't get started
(すべてわたしが夢みていたこと、起こりえないことなんだ)
Time goes by really slow and I need to let it--
(ただ時が過ぎるのが遅すぎて、わたしは――)
And all I dreamed of, it can't get started
(それはわたしが夢みていたこと 起こりえないことなんだ)
Time goes really slow and I need to let it--
(ただ時が過ぎるのが遅すぎて、わたしは――)

Out
(吐き出さずにいられない)

I'm keeping you close you know it
(あなたの近くにいるのは知ってるでしょう)
And I'm taking my time to show it
(時間をかけてそれを伝えていることも)
You're touching me like you've had it all along
(初めから全部わかっていたかのように触れられると)
Feels like you're right
(あなたが正しいような気もするんだ)
And once you're around I notice
(でもいっしょにいると気がつく)
That I need to draw you closer
(もっと近くにたぐり寄せなくちゃならないことに)
A breath away, I wonder how you keep it all inside
(ため息がこぼれるたび、あなたがどうして内に秘めていられるのか気になるんだ)

Remembering that one time
(あの時のことを思い出す)
Had to stop it's making me hot
(本気になってしまいそうで とめなければならなかった)
Come on out, there's no need to hide
(姿をみせてよ、隠す必要なんてないのに)
Could you be my new love?
(わたしの恋人になってくれますか?)
Could it be that we need some time?
(それとももっと時間が必要なのですか?)
I'm still browsing, there's no need to buy
(わたしはまだ窺っている、お金で買えるものでもないのに)

It's all I dreamed of, it can't get started
(すべてわたしが夢みていたこと、起こりえないこと)
Time goes by really slow and I need to let it--
(ただ時が過ぎるのが遅すぎて、わたしは――)
And all I dream of, it can't get started
(それはわたしが夢みていたこと 起こりえないこと)
Time goes really slow
(ただ時が過ぎるのが遅すぎて、わたしは――)

And I need to let it out…
(吐き出さずにはいられない……)

Sad we couldn't go any deeper...
(これ以上深い関係になれなくて残念だよ……)
Something tells me you're a keeper...
(あなたしかいないような気がしているのに……)
Time. goes. by.
(時は過ぎてゆく)

[Something I can't define; Is it love? Loooooove...]
(言葉にできない何か;これが愛なの? 愛……)


  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196