「iLL」と一致するもの

10月のジャズ - ele-king

 つねに新しいものが求められがちな音楽シーンにあって、ジャズの場合はそれだけでなく、過去の音源の発掘や歴史に埋もれた作品の再評価といった作業も大きな意味合いを持つ。そして、歴史や伝統のある音楽シーンであるからこそ、昔から現在に至るまで長く活動するミュージシャンも多い。今月はそうしたレジェンドのリリースが見られた。


Hugh Masekela
Siparia To Soweto

Monk Music / Gallo Record Company

 南アフリカ出身で米国に渡り、世界的に活躍したトランペット奏者のヒュー・マセケラ。シンガーでもあり、作曲家としても数々の名曲を残した彼が没したのは2018年だが、その死後もミュージシャンたちへの影響は続いており、たとえば生前の2010年に録音された故トニー・アレンとの共演作『リジョイス』が2020年にリリースされた。これは彼らふたりの録音に、新たにエズラ・コレクティヴココロコなどの演奏を加えて完成されたもので、見事に新旧ミュージシャンの共演となっていた。そして、この度またヒュー・マセケラの未発表音源が発掘された。

 2005年にトリニダード・トバゴのジャズ・フェスに参加して以来、アフリカとカリブの音楽を繋ぐことに腐心していったマセケラは、2012年から2016年にかけてトリニダード・トバゴを訪問し、現地のミュージシャンたちとのセッションをおこなった。参加したのはソカの伝説的なミュージシャンであるマシェル・モンタノ、スティールパンの世界的第一人者であるアキノラ・セノンが率いる楽団のシパリア・デルトーンズ・オーケストラなど。マセケラは2005年のフェスでシパリア・デルトーンズ・オーケストラに出会ってから、その演奏にずっと魅せられ続けてきており、念願の共演となったようだ。

 トリニダーソ南部の街であるシパリアから南アフリカのヨハネスブルグにあるソウェトへと題されたこのアルバムは、マセケラはじめとした参加ミュージシャンの国境を越えたセッションに留まらず、アフリカ大陸とカリブ海の文化的遺産を巡る旅のような音楽である(トリニダードの住民の多くは、かつて旧英領時代にアフリカから奴隷として連れてこられた人びとを祖先とする)。トリニダードで人びとが集うもっともポピュラーな場所はマンゴーの木下だそうで、そこで政治や経済について議論がおこなわれ、歴史や文化が受け継がれてきたとアキノラ・セノンは述べており、そうした背景が “ザ・ミーティング・プレイス” “マンゴ・ツリー” といった曲へと繋がった。自分たちのルーツは本質的にアフリカ人であるというセノンは、トリニダード・トバゴの文化的遺産とアフリカ系カリブ人のディアスポラの復興のため、その象徴的な楽器としてスティールパンを用いているそうだ。そして、その音色はとてもピースフルで、“ボンゴ・デイ” や “ロール・イット・ガル” などさまざまなタイプの音楽とも調和することが可能だ。アフリカからカリブへと跨る文化遺産の多様性、そしてその根底にある平和的な思想を音楽にしたアルバムと言えよう。


Idris Ackamoor & The Pyramids
Afro Futuristic Dreams

Strut

 1970年代より活動するアイドリス・アカムーアと彼の率いるザ・ピラミッズは、2010年代に入るとスピリチュアル・ジャズ再評価の影響を追い風に、『ウィ・ビー・オール・アフリカンズ』(2016年)、『アン・エンジェル・フェル』(2018年)、『シャーマン!』(2020年)とコンスタントにアルバムを発表している。『アン・エンジェル・フェル』『シャーマン!』はヒーリオセントリックスのマルコム・カットが共同プロデューサーとなり、そのミキシングやレコーディング作業を通じてアイドリス・アカムーアの音楽観や世界観を現在のシーンにも繋がるものへと仕上げていたわけだが、この度リリースされた新作『アフロ・フューチャリスティック・ドリームズ』もやはり彼が共同プロデュースをおこなう。結成から50周年を迎えたザ・ピラミッズは、オリジナル・メンバーのマルゴー・シモンズや1970年代の作品にも参加したブラディ・スペラーのような年長のミュージシャンがいる一方、サウス・ロンドンのアフロ・バンドであるワージュやジョーダン・ラカイのバンドに参加するアーネスト・マリシャレスと若いミュージシャンも参加するなど、新旧ミュージシャンが融合した形で、サン・ラー・アーケストラのように過去・現在・未来を繋ぐ存在と言えよう。“サンキュー・ゴッド” あたりはとてもサン・ラー的な楽曲だ。

 『アフロ・フューチャリスティック・ドリームズ』というタイトルが示すように、シャバカ・ハッチングスら南ロンドンのミュージシャンらの活躍で再び注目を集めるようになったアフロ・フューチャリズムを反映したアルバムであり、『アン・エンジェル・フェル』以降に顕著なブラック・ライヴズ・マターからの影響が本作においても “ポリス・デム” “トゥルース・トゥ・パワー” などの楽曲に表れている。また、表題曲などシンセサイザーやエフェクターによって人工的なサウンドとプリミティヴなアフリカ音楽を意図的に融合する場面があり、そこがアカムーアなりのアフロ・フューチャリズムの表現と言えるだろう。


Kofi Flexxx
Flowers In The Dark

Native Rebel Music

 コフィ・フレックスとは覆面的なアーティストだが、実際はシャバカ・ハッチングスの新たなプロジェクトである。これまで2022年にカルロス・ニーニョとコラボした “イン・ザ・モーメント・パート3” というフリーフォームなアンビエント音源をデジタル・リリースしたのみで、今回の『フラワー・イン・ザ・ダーク』が実質的な初リリース・初アルバムとなる。シャバカ以外の参加ミュージシャンは明らかではないが、楽曲ごとにラッパーやシンガーがフィーチャーされていて、ビリー・ウッズ、アンソニー・ジョセフ、コンフューシャスMC、エルシッド、ガナブヤ、シヤボンガ・ムセンブなどが参加する。トリニダード・トバゴ出身の詩人であるアンソニー・ジョセフのポエトリー・リーディングをフィーチャーした “バイ・ナウ(アキューズド・オブ・マジック)” は、同じカリブをルーツに持つシャバカ・ハッチングスにとって、彼らのルーツや歴史・文化を表明したアフロ・ジャズ。ヒュー・マセケラやアイドリス・アカムーアら先人の音楽とも繋がる作品である。

 “イット・ワズ・オール・ア・ドリーム” や “フラワーズ・イン・ザ・ダーク” など、比較的リズムを中心とした作品が多く、リズム・セクションもパーカッション中心にミニマルでトライバルな展開をしていく。シャバカのサックスやクラリネット、フルートも土着的な音色を奏で、“インクリーズ・アウェアネス” や “ショウ・ミー” のように薄くアンビエントな演奏が目につく。特に “インクリーズ・アウェアネス” ではインド音楽のようなコーラスが幻想的に流れ、サンズ・オブ・ケメットザ・コメット・イズ・カミングなどともまた異なる、シャバカのまた新たな側面を見せるプロジェクトだ。


Daniel Villarreal
Lados B

International Anthem Recording Co. / rings

 ダニエル・ヴィジャレアルは南米パナマ出身で、シカゴに移住して活動するドラマー/パーカッション奏者。ラテン・バンドのドス・サントスのメンバーでDJとしても活動する彼は、ジェフ・パーカーなどとも交流が深く、その力を借りてファースト・アルバムの『パナマ77』を2022年にリリース。アメリカの黒人ドラマーなどとはまた異なる、ラテン民族ならではの独特のリズム・センスを感じさせるアルバムだった。

 この度リリースした新作『ラドスB』は、鍵盤楽器や管楽器なども入っていた『パナマ77』と異なり、ダニエル・ヴィジャレアルのドラム&パーカッション、ジェフ・パーカーのギター、アンナ・バタースのベースというミニマムなトリオ録音(“サリュート” という曲のみローズ・ピアノが入る)。録音自体は2020年10月のロサンゼルスにて2日間でおこなわれており、3人の即興的なセッションを比較的ラフな形でレコーディングしている。ラテン音楽特有のハンド・ベルではじまる “トラヴェリング・ウィズ” は、ファンキーなフレーズを奏でるギターやベースを交え、1970年代のエル・チカーノやマロといったラテン・ロックを彷彿とさせる作品。このあたりはDJもやるヴィジャレアルのレア・グルーヴ的なセンスが表れているようだ。速いビートを刻む “リパブリック” は、ラテン民族ならではのヴィジャレアルのドラミングが光る楽曲。一方、レイドバックしたグルーヴの “サリュート” にはフォーキーで枯れた雰囲気もあり、ラテン音楽とアメリカのブルースがうまくマッチした楽曲となっている。

Amnesia Scanner & Lorenzo Senni - ele-king

 2018年に出た『Another Life』は強烈だった。以降も実験的かつコンセプチュアルな電子音楽を送り出しつづけている〈PAN〉のデュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラから成るアムニージャ・スキャナーが初めての来日を果たす。今年出た最新作ではいま話題のNYのアーティスト、フリーカ・テット(OPN最新作収録曲の、あの印象的なMVも手がけていましたね)とコラボしていた彼らだが、今回の東京公演はハイマラとそのテットのコンビで敢行。
 また同時にミラノからネオ・トランスの先駆者、みずからを「レイヴ・シーンの覗き屋」だと称するロレンツォ・センニも来訪、東京と大阪の2か所をめぐる。東京では上記アムニージャ・スキャナーと、大阪ではSoft Couとの共演だ。エレクトロニック・ミュージックの前線に触れるまたとない機会。お見逃しなく。

WWW & WWW X Anniversaries

Local 25 World -FIESTA! 2023-
Amnesia Scanner & Lorenzo Senni

2023/11/17 FRI 18:00 at WWW X
早割 / Early Bird ¥3,900 (+1D) *LTD / 枚数限定
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

LIVE:
Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
Lorenzo Senni [IT / WARP]

+++

4F Exhibition: TBA

curated by ippaida storage / Soya Ito
artwork / painting: Nizika 虹賀
layout: pootee

https://www-shibuya.jp/schedule/017250.php

現代ポップ&レイヴ・アートの伝説2組、ベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えた世界を巡るサウンド・アドベンチャーLocal Worldが本編25回目となるWWWの周年パーティを開催。

2016年12月渋谷WWWを拠点に始動、本年7年目を迎えるイベント・シリーズ兼ディレクターLocal World本編第25回がベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えWWWの周年イベントとして開催。

10年代前期の元流通/レーベル業のmelting botからイベント業への変換機に生まれたLocal Worldはクラブとアートにおけるコンテンポラリーな電子音楽のモードを軸に立ち上げ当初の脱構築期(Deconstructed)から始まり、アジアやアフリカを念頭に多種多様なサウンドとリズムのキュレーションしながら世界各国のアーティストを招聘、並行してディレクションを務めるWWWの最深部”WWWβ”を基盤に新しいローカル・シーンを形成する担い手としてコロナ禍では下北沢SPREADを拠点にハイパーポップ期へと突入、都内のクラブにてメディアのAVYSSのイベント制作やアーティストのリリース・パーティのサポート含む断続的な活動を続け、本年からWWWにカムバックを果たす。下記のテキストとフライヤーのアーカイヴ・リンクから本パーティを始め前身のシリーズBONDAID、過去のブッキングやツアー・プロモーターとしての活動リストが確認出来る。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic -halloween nuts-
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX1 World DJ Sprinkles
Local XX2 World Oli XL
Local XX3 World Pelada
Local XX4 World Piezo & Liyo

Lorenzo Senni Japan Tour 2023

トランスのその先へ!〈Warp〉から最新アルバムをリリースするイタリアの鬼才、現代レイヴ・アートの始祖Lorenzo Senni待望の来日ツアー開催。

11/17 FRI 18:00 at WWW X Tokyo w/ Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

11/19 SUN 18:00 at CIRCUS Osaka w/ Soft Cou [IT]
https://eplus.jp/sf/detail/3980020001-P0030001

今回のテーマ”FIESTA!”は8年前の2015年11月にLorenzo SenniとInga Copelandを招いてWWWで開催したLocal Worldの前身イベントBONDAIDの記念パーティBONDAID#7 FIESTA!から踏襲し、10年代のエレクトロニック・ミュージックの文脈において最重要な現代ポップ&レイヴ・アートの伝説とも言える2組、ニューヨークのフリーカ・テトを迎えた新形態のオルタナティブ・エレクトロ・デュオAmnesia Scanner(本公演ではフリーカ・テトとヴィレ・ハイマラのみ出演)をベルリンから、トランス系脱構築レイヴの始祖Lorenzo Senniをイタリアから迎えた”祝祭”をコンサートと展示を通して表現する。

またLorenzo Senniは11/19日に大阪公演をCIRCUS OSAKAにて予定、両公演追加アクトの詳細は後日発表となっている。

[プロフィール]


Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]

Amnesia Scannerはベルリンを拠点とするフィンランド人デュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラ。2014年に結成されたグループの活動範囲は、作曲、プロデュース、パフォーマンス、そしてクリエイティブな演出と循環に及ぶ。システムの脆弱性、情報過多、感覚過多への深い憧憬を特徴とするAmnesia Scannerは、現在をカーニバル化する。ストリーミング・プラットフォームが主流となり、アーティストとファンの間のフィードバック・チャンネルがより直接的になるにつれて、音楽やライブ・パフォーマンスの聴き方がどのように進化しているかを含め、彼らの作品の中核には、現代の体験がどのように媒介されているかという関心がある。

2014年のミックステープ『AS Live [][][][][]』をベースに、グライム、トラップ、レイヴのデータ・リッチなメッシュと、2015年のオーディオ・プレイ『Angels Rig Hook』で絶賛された機械仕掛けのナレーターを織り交ぜた。その直後には、アーティストのハーム・ヴァン・デン・ドーペルとビル・クーリガス(PANの創設者)とのサイバードローム・オーディオ・ビジュアル・プロジェクト、Lexachastを発表した。純粋なAmnesia Scannerの領域に戻ると、Young Turksの2枚のEP(ASとAS Truth)が2017年に到着し、デュオがますます知られるようになった没入的な環境を、ダークなレイヴ・ツールの研磨されたコレクションに抽出した。Angels Rig Hookの実体のないヴォーカリストは、デュオ初のLP『Another Life』(2018年 PAN)で "オラクル "として姿を変えて戻ってきた。このアルバムは、ポップな曲構成とアヴァンギャルドなEDMをカップリングし、子守唄から過熱したドゥームバトンやニューメタル・ギャバまでスイングする。2021年、Amnesia Scannerはセカンド・フル・アルバム『Tearless』をリリースした。このアルバムは「地球との決別の記録」であり、サウンド的にもメロディ的にも、彼らの特徴であるオーヴァークロック・ポップという作品の幅を広げている。ラリータ、LYZZA、コード・オレンジがアムネシア・スキャナーに加わり、迫り来る崩壊へのボーダレスなサウンドトラックを作曲している。

Amnesia Scannerは、デンマークの大規模なRoskilde FestivalからベルリンのBerghain、ロンドンのSerpentine Galleriesまで、幅広い会場や環境でパフォーマンスを行ってきた。デザインとビジュアル・ディレクションは、PWRとコラボレーションしている。ヴィレ・ハイマラは、独立して、デヴィッド・バーン、FKAツイッグス、ホリー・ハーンドン、アン・イムホフなどのアーティストのために作曲し、プロデュースもしている。Amnesia Scannerでの活動以外にも、マルッティ・カリアラは建築家、文化批評家、クリエイティブ・シンクタンク「ネメシス」の共同設立者でもある。

https://pan.lnk.to/STROBE.RIP

https://www.youtube.com/watch?v=mgbSR7f4K-o&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=3MzBSV-_mjQ&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=N8mT3-YvmxE&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=5CEmVTzmzpw&t=143s


Lorenzo Senni [IT / WARP]

ダンス・ミュージックのメカニズムや動作部分のたゆまぬリサーチャーであり、尊敬されるエクスペリメンタル・レーベルPresto!!!の代表であるこのイタリア人ミュージシャンは、この10年で最もユニークなリリース『Persona』(Warp 2016年)、『Quantum Jelly』(Editions Mego 2012年)、『Superimpositions』(Boomkat Editions 2014年)を手がけている。

2016年にWarpと契約し、EP「Persona」は、デジタル・カルチャーと音楽の分野で最も有名で、最も長く続いている年間賞の1つであるプリ・アーツ・エレクトロニカで名誉ある「Honorary Mention」を受賞した。Pointillistic Trance(点描トランス)」や Rave Voyeurism(窃視レイヴ)という造語で自身のアプローチを表現するロレンツォ・センニは、トランスから脊髄を引き抜き、目の前にぶら下げるサディスティックな科学者のようである。

彼の作品は、90年代のサウンドとレイヴ・カルチャーを見事に解体し、その構成要素を注意深く分析して、まったく異なる文脈で再利用できるようにしたもので、反復と分離を重要なコンセプトとして、多幸感あふれるダンス・ミュージックに見られる”ビルドアップ”のアイデアを出発点として、高揚感はほどほどに、より内省的な作品を作り、暗黙のうちに感情の緊張とドラマを保っている。

Presto!!! レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に高く評価されているアーティストのアルバムをリリースしてきた。レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に評価の高いアーティストのアルバムをリリース。映画、演劇、映画音楽の作曲も手がけ、ユーリ・アンカラニの受賞作『ダ・ヴィンチ』や『ザ・チャレンジ』のサウンドトラック、ウェイン・マクレガーの『+/- Human』(コンピューター制御のドローンとロイヤル・ナショナル・バレエ団のダンサーによるダンス・パフォーマンス)などがある。また、アメリカの歌手ハウ・トゥ・ドレス・ウェル(How To Dress Well)の音楽も手がけ、テート・モダン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、MACBA(バルセロナ)、カサ・ダ・ムジカ(ポルト)、MACBA(バルセロナ)、Auditorium Nazionale Rai(トリノ)、Auditorium Parco della Musica(ローマ)、Zabludowicz Foundation(ロンドン)、ICA(ロンドン)などでLasers & CO2 Cannonsを含む作品を展示し、パフォーマンスを行っている。

https://linktr.ee/lorenzosenni

https://www.youtube.com/watch?v=qNlbN_YZHFY
https://www.youtube.com/watch?v=0UH2tqHTi_M&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=v_AjXH0xu4A&t=174s&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=X2Yh8zkC-0g&ab_channel=ka1eidoscopic2

インタビュー@eleking “パンデミックの中心で「音楽を研究したいだけ」と叫ぶ!”
https://www.ele-king.net/interviews/007574

インタビュー@SSENSE “ロレンツォ・センニ:情熱の規律”
https://www.ssense.com/ja-jp/editorial/music-ja/lorenzo-senni-discipline-of-enthusiasm?lang=ja

liQuid × CCCOLLECCTIVE 中野3会場回遊 - ele-king

 「死ぬまで遊ぼう!!!」

 AROW(fka Ken Truth)が最後に放った飾り気のない一言。それを受け彼を抱き締める拳(liQuid)。電池切れ寸前まで走り抜いたふたりの主催者の素の人間くささが表出して、音楽は鳴り止む……そんな実にありふれた幕切れを迎えたこのパーティは、ありふれているからこそ特別な一夜として記憶に焼き付いた。平日も休日も音楽について考えてばかりだと「あー楽しかった」で終われる日も次第に目減りしていってしまうものだけど、この日ばかりは100%の純度で、スカっとした感覚のまま走り切ることができた。まずはそこに純粋な感謝を。

 2021年に旗揚げされ、トレンドの潮流を汲みつつ独特の違和感をブレンドしたオーガナイズを続けるプロモーター・拳(こぶし)によるパーティ・シリーズ〈liQuid〉と、2010年代末にコレクティヴ〈XPEED〉を立ち上げ現行インディ・クラブ・シーンの潮流をいち早く築き上げた立役者・AROWが新たに始動したコミュニティ〈CCCOLLECCTIVE〉初の共同企画としておこなわれたのが、この「中野3会場回遊」だった。なお同日、世間ではTohji率いる〈u-ha〉とコラボレーション開催された「BOILER ROOM TOKYO」やゆるふわギャングによる「JOURNEY RAVE」などのビッグ・パーティが各地で開催されていたが、それらと一見同質のようで全くの異物である、人と人との有機的なつながりに基づく営みであったことも印象深い。

 総計30組以上が知名度やシーンを越境して混ざり合う特異点となったこの日、メインステージのheavysick ZEROではアンビエント~ノイズ~エレクトロニカ~デコンストラクテッド(脱構築)・クラブといった実験性の強い電子音楽や、トランス~ジャングル~ゲットー・テック~レフトフィールド・テクノなどの異質さを備えたクラブ・ミュージック、レゲトンやトラップ、ダブステップなどバウンシーな熱気に下支えされたストリート・ミュージックが2フロアで同時多発的にプレイされ(B1Fではマシン・ライヴも!)、サブ・フロアとなる2022年オープンの小箱・OPENSOURCEと〈Soundgram〉主催DJ・PortaL氏が営むバー・スミスではハウシーなクラブ・マナーを下地にしつつジャンルレスな音楽がスピンされ続けた。

 無論、出演者単位で切り取るべき素晴らしいアクト、素晴らしい瞬間はいくつもあった。国内Webレーベルの筆頭〈Maltine Records〉からのリリースも話題となったDJ・illequalの希少なライヴが見せた激情と繊細さのコントラスト、世界的に活躍しながらも日本のロードサイドの慕情をこよなく愛する電子音楽家・食品まつりa.k.a FOODMANが〈ishinoko 2023〉帰りの足で披露した戦慄の前衛サイケデリック・ドローン(これはかなり怖かった)、かつて2010年代後半にアンダーグラウンド電子音楽シーンを築いたDIYレーベル〈DARK JINJA〉を率いたShine of Ugly Jewelのゴシックなレイヴ・セットなど、副都心エリアの小箱というスケール感を大きく超えたギグが同時多発的に各ヴェニューで繰り広げられていた。知らない人は知らないが、知っている人には垂涎のラインナップ。いま、クラブ――けっしてビッグ・ブランドの支配下にない、人の息遣いがすぐそばに在るインディ・クラブ――を追いかけているすべてのユースは、このタイムテーブルを前に「他会場の様子を覗きに行きたくても行けない!」というアンビヴァレントな悩みに苛まれたことだろう。

 けれど、そういったアーティスト個々の表現にフォーカスするよりは、なんとなく全体を取り巻くムード自体の方にエポックな一時があったように思える。スミスでのオープニングDJをきっかり128BPMで果たしてからはひたすら3拠点を駆けずり回り、フロア・ゾンビとなって朝を迎えた身としては、羽休めに立ち寄ったヴェニューをソフトなサウンドでロックしていた初めて出会うDJの所作や、移動中偶然会った友人と公園で過ごす10分限りのチルタイム、夜明け前の空のあの群青色、フロアの熱狂を尻目に閑散としたバーで頼んだ鍛高譚(ソーダ割り)の味……そうした合間合間に訪れるエア・ポケット的な一時がただ愛おしかった。フロアの内にも外にも色濃くクラブ的な体験が根付いている、そんな極上の遊び場を20代の我々が自力で作り上げた、という実感も含め、忘れられない高揚感に包まれた。

ちなみに、朝7時近くまで続いたパーティの終盤には、前述した複数のイベントから流れてきたユース・クラバーもいつしか合流してきていた。「みんな」というのは実に恣意的な括りであり、現象を俯瞰するには適さない表現だが、そこには最後、たしかに「みんな」がいてくれた。その事実も、ただただ嬉しいことで。

 パーティの開放感はそのままに、各々が隠し持つ美意識がラフな形であけすけに表出してゆくような美しい一幕が、3つの拠点で同時多発的に展開されていく。それは市井の人々の暮らしを切り取って提示する群像劇のように。生活と地続きであり、音楽シーンを未来へと後押しするあらゆるインディペンデントな営みを「ハシゴ」という体験とともに凝縮する、というのがおそらく裏側にあるコンセプトなのだけど……そんな説明も野暮かもしれない。とにかくめちゃくちゃ楽しくて、めちゃくちゃ刺激的だった、みたいな。もう、それに尽きる。最高の夜だった。世のさまざまな不和を打ち破るには、アクチュアルに「死ぬまで遊ぶ」ことと本気で向き合い続けるしかないと改めて痛感した。

 たぶん、なにかを粛々と続けていけば、どこかで別のなにかが生まれて、潮目が変わっていく。そんな絵空事を馬鹿正直に信じて日々を紡ぐ覚悟を無意識のうちに持っている人々が、中野の小箱に(少なく見積もっても)160名以上が集まったというのだから、それは感動的な事実なのではないだろうか?(世代的にはやや外れた年頃の自分ではあるが)我々ユース層が大人たちに「Z」と十把一絡げに括られることへの抵抗感は、やはりこうした場を知らない層への反発から起こるものだろう。だって、そんな括りでは説明できない営みが、この国の各地で日々、ハレでもケでもない夜として確実に存在しているのだから。そう、遊び場に必要なのは純度のみ。いつの時代も人々が追い求めるのはピュアネスだろうと僕は信じている。フロアは暗く、クラブ文化の未来は明るい。

追記:本パーティについて一点だけ文句をつけるとしたら、それはフォトグラファーやビデオグラファーといった記録媒体を操るプロフェッショナル(ないしはプロを超越したアマチュアの才人たち)を迎え入れなかったことにある。本記事の執筆中、自身のカメラロールを見返してもそこにあったのは数本の動画のみで、写真の用意に窮する事態となった(オーガナイザーふたりの笑顔は、iPhoneのスクリーン・ショットで無理やり用意したもの)。

 そこで、InstagramやTwitter(現X)の各地に「なにかフロアの感じが伝わるような写真を送ってください!」と呼びかけてみたものの、寄せられたのはパーティの終わりごろに訪れた青年から送られてきた画素数の粗い1枚のみに留まった。つまり、そう、これは……「ナイス・パーティ」だったことを決定的に証明する事実でもある、ということ! アーカイヴという行為がここまでイージーとなったこの時代に、デバイスの存在を失念させるほどの体験を与えてくれたふたりに改めて謝辞を送る。
 AROW、拳、heavysick ZERO、OPENSOURCE、スミス、そしてすべての来場者と出演陣へ。過去/現在/未来を繋いでくれてありがとう。でも、あくまでここはスタート地点にすぎない。満足してなんかいられない。まだまだゴールしちゃいけない。そうでしょ?

※以下はパーティーと主催コレクティヴについての概要です

liQuid × Cccollective 中野3会場回遊

2023/09/30(sat) 22:00
at heavysick ZERO / OPENSOURCE / スミス

▼heavysick ZERO

B1F

LIVE:
Deep Throat
illequal
Misø
食品まつりa.k.a FOODMAN

DJ:
電気菩薩(teitei×Zoe×DIV⭐)
DJ GOD HATES SHRIMP
Hiroto Katoh
ippaida storage
PortaL
Shine of Ugly Jewel

B2F

AROW
Egomania

KYLE MIKASA
London, Paris
MELEETIME
Rosa
Sonia Lagoon

▼OPEN SOURCE

AI.U
ハナチャンバギー速報
Hue Ray
DJsareo
テンテンコ

▼スミス

かりん©
Hënkį
kasetakumi
kirin
kiyota
mitakatsu
NordOst
shiranaihana

『liQuid』
2021年より東京でプロジェクト開始。オーガナイザー・拳(こぶし)の音楽体験をもとにHIPHOPからElectronicまで幅広く取り込み、ジャンルやシーンに捉われない音楽イベントのあり方を模索している。PUREな音楽体験/感動を届けることに重きを置き、オーバーグラウンドからアンダーグラウンドまで幅広い層の支持を集めている。
Instagram : https://instagram.com/liquid.project_

『CCCOLLECTIVE』
2022年末に始動した〈CCCOLLECTIVE〉は、有機的な繋がりを持ったオープンな共同体を通して参加者に精神の自由をもたらすことを目標として掲げている、自由参加型のクリエイティヴ・プラットフォームである。これまで『Orgs』と題したパーティを下北沢SPREAD、代官山SALOONにて開催。また、2023年8月からは毎月最終水曜日の深夜に新宿SPACEにて同プラットフォーム名を冠したパーティを定期開催中。シーンを牽引するアーティストらを招き、実験と邂逅の場の構築を試みている。
Instagram : https://instagram.com/cccollective22

Christopher Willitst & ILLUHA - ele-king

 サンフランシスコを拠点に活動するクリストファー・ウィリッツが、2023年の来日公演の一環として御茶ノ水RITTOR BASEにて3Dサウンドシステムを使用したライヴコンサートとセミナーを開催します。
 また、スペシャルゲストとして〈12K〉レーベルのメンバー、ILLUHAのライヴもあり。
 ILLUHAはドラマーの山本達久を新メンバーに迎え、9月22日にアルバム『Tobira』をリリースしたばかり、今回は伊達伯欣と山本のデュオによるライヴ。イベントの最後にはウィリッツとILLUHAがギター、生ドラム、エレピによる生演奏を披露。アンビエント・ファンの皆様、ぜひお見逃しなく。
(*ウィリッツのセミナーは日本語の通訳があります)

主催: RITTOR BASE(御茶ノ水)
開催日時:2023年10月29日 (日)
Open 14:45 Start 15:00
https://rittorbase.jp/event/948/

14:45- 開場(チケット番号順の入場になります)
15:00- クリストファー・ウィリッツによるセミナー
15:45- ILLUHA live
16:45- クリストファー・ウィリッツ live
17:45- ウィリッツ+ILLUHA live
(終演予定18:30)
会場参加券:4,950円(学割:3,300円)
オンライン視聴券:3,300円

*会場参加券、オンライン視聴券ともに2023年11月5日23時までアーカイブ視聴が可能です

※なお、:2023年10月31日 (火)京都METROでも、Christopher WillitstとTomoyoshi Dateのライヴがあります。関西の方はこちらもぜひチェックしてくださいね。https://www.metro.ne.jp/schedule/231031/

 フィンランドはヘルシンキに注目しておきたいレーベルがある。ジャズ・フェスティヴァル《We Jazz Festival》を母体に、DJの Matti Nives が2016年に設立した〈We Jazz Records〉がそれだ。〈Blue Note〉にも作品を残す当地のヴェテラン・サックス奏者 Jukka Perko からジャズ・ロック、フリー・ジャズ、実験的なものからカール・ストーンによるリワーク集まで、すでに多くのタイトルを送り出している同レーベルだが、このたび初めて日本盤がリリースされることになった。今回発売されるのは2タイトル。
 1枚は、昨年〈ECM〉からアルバムを出したベーシスト、ペッター・エルドが率いるバンドのコマ・サクソ。もう1枚は、おなじく〈ECM〉から作品を発表し、スクエアプッシャーのバンドでも演奏したことのあるピアニスト、キット・ダウンズを中心とするトリオのエネミー。どちらもなかなかよさそうです。ぜひチェックをば。

Koma Saxo『Post Koma』
2023.11.22 CD Release

Edition RecordsやECMでも活躍するスウェーデンのベーシスト/プロデューサーのペッター・エルド率いるKoma Saxo(コマ・サクソ)最新アルバム『POST KOMA』。常に進化を続け、エッジと流動性に満ちた様々なサウンドスケープを表現した最高傑作!!ボーナストラックを追加収録し、CDリリース決定!!


photo by Maria Louceiro

気鋭のジャズ・ベーシストで作曲家、プロデューサーのペッター・エルド率いるコマ・サクソを、遂に紹介できるタイミングが訪れた。2022年の傑作アルバム『Koma West』からさらに進化したサウンドとヴィジョンを、このアルバムで提示している。ジャズを出発点に、クラシック音楽、ルーツのスウェーデン民謡、中東音楽、ソウルとファンク、ヒップホップとエレクトロニカ、様々の音楽の断片が交錯しながら、大胆で美しいアンサンブルが出現する。掛け値なしにいま最も観たいグループだ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

[リリース情報]
アーティスト名:KOMA SAXO(コマ・サクソ)
アルバム名:Post Koma(ポスト・コマ)
リリース日:2023年11月22日
フォーマット:CD
レーベル:rings / We Jazz Records
品番:RINC115
JAN: 4988044094314
価格: ¥2,860(tax in)

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008736163

http://www.ringstokyo.com/koma-saxo-post-koma/

ENEMY『The Betrayal』
2023.11.22 CD Release

ピアニストのキット・ダウンズが中心となり、ECMからリリースされた『Vermillion』の続編ともいえるメンバーで構成されたピアノ・トリオENEMY(エネミー)による、新たな方向性を示した大注目のサード・アルバム『The Betrayal』が、ボーナストラックを追加収録しCDリリース決定!!


photo by Juliane Schutz

ピアニストのキット・ダウンズ、ベーシストのペッター・エルド、ドラマーのジェームズ・マドレンによるエネミーは、ECMから『Vermillion』のリリースでも知られる、欧州きっての先鋭的で美しいピアノ・トリオだ。この最新作では、爆発的なエネルギーと繊細な叙情性を併せ持つトリオの真髄を聴くことができる。全てがダウンズとエルドのオリジナル曲で、「意図的な矛盾と脱皮」がテーマとなっている。スリリングというしかない展開のアルバムに仕上がった。エルドが率いるコマ・サクソの『Post Koma』と共に本作を紹介できることもこの上ない喜びだ。(原 雅明プロデューサー)

[リリース情報]
アーティスト名:ENEMY(エネミー)
アルバム名:THE BETRAYAL(ザ・ベトレイアル)
リリース日:2023年11月22日
フォーマット:CD
レーベル:rings / We Jazz Records
品番:RINC114
JAN: 4988044094307
価格: ¥2,860(tax in)

https://rings.lnk.to/mQLhFXsS

http://www.ringstokyo.com/enemy-the-betrayal/

Laurel Halo - ele-king

 黄昏時という、昼でも夜でもない時間帯、街ゆく人びとの顔が逆光で曖昧になり、あらゆるものが抽象化を帯びるあのとき、内部からわき上がるそわそわした奇妙な感覚を、それこそ一生懸命に言葉にしたのは我らが稲垣足穂だった。彼にとってのそれはもっとも想像力の働く時間帯であり、道に落ちているシケモクしか吸えなかった極貧の文学者にとっての酒以外の贅沢/愉しみは、その想像力、いや、空想力のようなものにあったのだから。さて、それに対して我らがローレル・ヘイローは、新作『アトラス』において、彼女がツアーでいろんな場所を訪れた際の、黄昏時から夜にかけての街並みのなかで感じる感覚をサウンドで描いている。それはもう、みごとと言って良い。クワイエタスがうまい表現をしている。「水彩画アンビエント」、なるほど、たしかに音が絵の具のように滲んでいる。

 ヘイローはこの10年の、OPNやアクトレスのような人たちと並ぶ、もっとも重要なエレクトロニック・ミュージシャンのひとりである。当初彼女はテクノやクラブ・サウンドに接近したし、彼女がいまもその回路を大切にしていることは、モーリッツ・フォン・オズワルドやデトロイトとの繋がりからうかがえる。が、2018年の傑作『Raw Silk Uncut Wood』においてヘイローは、ジャズとアンビエントとモダン・クラシカルの重なる領域で独自のサウンドをクリエイトし、あらたな路線を切り開いてもいる。その延長において坂本龍一が自らの葬儀のプレイリストの最後の曲に選んだ“Breath”を含む『Possessed』(サウンドトラック作品)を制作し、そして、それに次ぐアルバムがこの『アトラス』になるわけだ。
 それにしても、『アトラス』を語るうえで『ミュージック・フォー・エアポーツ』が引き合いに出されてしまうのは、不可避だと言える。アンビエント・シリーズの最初のアルバムとされる『MFA』は、イーノが数年前から実験していたジェネレイティヴ・ミュージックのひとつの高みでもあった。曲を構成するそれぞれのレイヤーが同じ間隔では反復しないことによって、曲の表面は反復めいて聞こえるがその内部では細かいズレが生じ、結果、聴覚においては不思議な体験(エクスペリエンス)となる。ヘイローの『アトラス』も、表明的には優美なドローンのように聞こえるが、しかしその内部においては、細かい変化や繊細なコラージュがある。それはたしかに黄昏時の、滲んだ街並みの背後で幽かに響き、そして囁かれる音色や物音たちのようだ。ジャケットの表面には夕闇のなか朧気となった彼女の顔がある。

 全10曲は、それぞれ独立しているが、アルバム内で滑らかにつながってもいる。幽玄なストリングスが引きのばれるなか、曲の後半で哀しげなジャズ・ピアノが聴こえる“Naked to the Light”、幻のような弦楽器の残響を漂わせながら、暗い夜道の灯りのなかに遠い昔を見ているのかのような“Late Night Drive”、蝋燭の炎のような揺らめきをもったジャズ・ピアノとアンビエントの美しい融和“Belleville”ではコビー・セイが参加している。エレガントで柔らかいな“Sweat, Tears or Sea”に続く表題曲“Atlas”は、チェリストのルーシー・レイルトン、ヴァイオリニストのジェイムズ・アンダーウッド、サックス奏者のベンディク・ギスクらの演奏が1枚のシルクのようにたなびいている。その曲名に反してなかば超越的にも思える“Earthbound”は、空の広がりやひとの人生の大きさ、それを思うときの安らぎをもった感情を引き出す。

 『アトラス』は、『Raw Silk Uncut Wood』と並ぶ、ヘイローの代表作になるかもしれない。ぼくはこのアルバムを、自分に残された時間のなかで許される限り何度も聴くだろう。そしておそらく聴くたびに、あらたな発見があるのだ。そんな音楽であって、この先アンビエント・クラシックなる企画があったら必ずエントリーするのだろうけれど、しかしそれ以上に、自分の人生のなかで重要な音楽となるような気がする。 

WAAJEED JAPAN TOUR 2023 - ele-king

 昨年、“ Motor City Madness”が話題になって、〈トレゾア〉からアルバム『Memoirs of Hi-Tech Jazz』をリリースしたデトロイトのワジードが来日する。

 日程は以下の通り。

 10.21 (SAT) CIRCUS TOKYO
 Info: CIRCUS TOKYO https://circus-tokyo.jp/event/waajeed/
 10.22 (SUN) ASAGIRI JAM ’23
 Info: ASAGIRI JAM https://asagirijam.jp

 ワジード(Waajeed)ことRobert O’Bryantは、ミシガン州デトロイト出身のDJ/プロデューサー、アーティスト。10代のとき、デトロイト・ヒップホップを代表するグループ、Slum VillageのT3、 Baatin、J Dillaと出会い、DJやビートメイカーとしてSlum Villageに参加。奨学金を得て大学でイラストレーションを学ぶ時期もあったが、Slum Villageのヨーロッパ・ツアーに同行しに、音楽を生業とすることを決めた。
 2000年にはSaadiq (Darnell Bolden)とPlatinum Pied Pipersを結成し、ネオソウルやR&B色強いサウンドを打ち出した。Platinum Pied Pipersとして、Ubiquityよりアルバム『Triple P』、『Abundance』がある。2002年からレーベル〈Bling 47〉を主宰し、自身やPlatinum Pied Pipers名義の作品のほか、 J Dillaのインスト・アルバム『Jay Dee Vol. 1: Unreleased』や 『Vol. 2: Vintage』をリリースしている。
 2012年、レーベル〈DIRT TECH RECK〉を立ち上げ、より斬新なダンス・ミュージック・サウンドを追求している。Mad Mike Banks、Theo Parrish、Amp Fiddlerとのコラボレーションを経て、2018年、ワジードとしてのソロ・アルバム『FROM THE DIRT LP』を完成させた。2022年、最新アルバム『Memoirs of Hi-Tech Jazz』をドイツのテクノ名門、〈Tresor〉から発表。

https://linktr.ee/waajeed
https://www.instagram.com/waajeed/
https://twitter.com/waajeed_

Waajeed - Motor City Madness (Official Video) (2022)

Dames Brown feat. Waajeed - Glory (Official Video) (2023)

Church Boy Lou - Push Em' In the Face (Official Music Video) (2023)

 2020年、コロナ禍のさなか、多くの人が〈Jerusalema〉に合わせて踊るところを自撮りし、SNSに投稿した。南アフリカの歌手が歌ったこの曲は神への信仰を歌ったゴスペルであると同時に、サブサハラのダンス・ミュージックを取り入れたアーバン・ミュージックの範疇にある。アフリカ南部とコートジボワール、コンゴのゴスペル音楽シーンを概観する。

 1922年ロンドンで行われた世界初のアフリカ人歌手による宗教音楽の録音が大英図書館のアーカイブに保存されている。西アフリカに広く普及しているヨルバ語の「Jesu olugbala ni mo f’ori fun e」という歌詞は明解である。「われは救世主イエスに身を捧ぐ」という意味だ。この曲を歌い、作詞・作曲者でもあるジョサイア・ジェシー・ランサム=クティ(1855-1930)は、イギリス保護領ナイジェリアの英国国教会の聖職者であり、人々を教会に惹きつける強い力を音楽に見出していた(1)。彼は録音の8年後に亡くなったが、彼の血筋はアフリカの知的・文化的歴史に名を刻むことになる。孫のフェラ・ランサム=クティ(1938-1997)はアフロ・ビートのパイオニアであり、「ブラック・プレジデント」と呼ばれているが、1977年に録音されたアルバム『Shuffering and Shmiling』(2) の中で、ナイジェリア国民が盲目的に宗教を受け入れている様を非難している。しかし、これは無駄なことだった。2060年には、地球上のキリスト教徒の40%がアフリカにいるだろう。そして、アフリカの宗教音楽も同様に社会での地位が高まりつつある。まず、典礼聖歌のレパートリーが解放されて、礼拝堂や教会の外で、「霊的に生まれ変わった」歌手たちによって歌われた。彼らはサブサハラの福音派、ペンテコステ派の信者で、時として女性である。この新しいアフリカのキリスト教音楽のアーティストたちは、福音派信仰の特徴のひとつである、「新生」に(たと) えるべき回心を自ら体験しているが、教会の中だけで歌い報酬を受け取らない典礼聖歌の歌い手とは異なっている。

 コロナ感染症拡大が社会や経済に与えた影響と魂の癒やしへの欲求が、音楽配信プラットフォームで新しい世代の歌手たちが頭角を現す後押しとなった。彼らはリンガラ語で、ヌシの言葉で(3)、ナイジェリアのピジン英語で、神の言葉と家族の価値を説く。彼らのリズムは、サブサハラのアーバン・ビート(南アフリカのアマピアノ[ハウス・ミュージックのサブジャンルのひとつ]、ナイジェリアのアフロ・ビート)も、5千万人以上のアメリカ人が高く評価している、R&B、ポップ・ミュージック、大編成のオーケストラとバイオリンといった、信仰に結びついた音楽の規範的様式も同じように取り入れている。

 ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)と南アフリカは、アフリカ南部にあって、才能が育つ好環境の土地である。そこは合唱団が数多く存在する土地であり、ボーカル・ミュージックが重要な地位を占めて、サブサハラの文化産業のニッチにあるキリスト教音楽の中心地であり続けている。2015年に行われたある調査によると、南アフリカの国民の13%がゴスペルを聴くのを好むということだ。この数字は世界の平均の3倍以上の値である(4)。この国では、国内のゴスペル・ミュージック市場は「世俗」音楽市場と競い続けている。それは、ソウェト・ゴスペル・クワイア(5)のような国境を越えて評価されている大合唱団や、ベンジャミン・ドゥべ(6)のような歌う牧師、活気あるこの業界、毎年11月にゴスペル音楽の活況をテレビを通して祝う南アフリカ放送協会のクラウン・ゴスペル・アワードの放送などのおかげである。アパルトヘイトの間、ゴスペル音楽は批判をかきたて、希望を鼓舞してきた(7)。今日でも「大部分の南アフリカ人にとってゴスペル音楽は、自分が何者であるか、人生をどう考えているか、どのような試練を経てきたかを表現するよすがとなっている」と、ヨハネスブルクのウィットウォーターズランド大学の民族音楽学教員、エヴァンス・ネチヴァンベは指摘している。

 モータウン・ゴスペル・アフリカはデトロイトのソウル・ミュージック会社の子会社レーベルである。2021年、1994年に結成された南アフリカのゴスペル合唱団ジョイアス・セレブレーション(8)との契約からアフリカ大陸での活動を始めた。アビジャンにあるユニバーサル・ミュージック・アフリカの社屋内に本社を構えて(9)、最近アフリカの3つのキリスト教歌曲が成し遂げた国際的成功を再現しようと、新しい才能の発掘も行っている。3つの曲のうちのひとつである〈Jerusalema〉[原題の意味は「エルサレム」]は、メソジスト教会の信者で、DJでもありプロデューサーでもある、南アフリカ人のガオゲーロ・モアギ、別名Master Kgが制作し、ノムセボ・ズィコデが歌って、2019年末に発表された(10)。リンポポ・ハウス(アフロ・ハウスのサブジャンルのひとつ)に乗ったズールー語の歌詞の最初の部分は、聖書(新約聖書の最後の書である『黙示録』)から引用されている。国内で発表されたあと、SNSのTikTokのダンス・チャレンジに用いられて(11)、まずアンゴラでヒットし、ポルトガルで勢いを得て、2020年夏のヨーロッパにおけるヒット曲のひとつとなった。そして、ナイジェリアのスター歌手ブルナ・ボーイのリミックス(12)のおかげでアフリカ大陸に凱旋した。この曲は今までに、5億6400万回以上YouTubeで再生されている。


スィナッチ photo by Pshegs, CC-BY-SA-4.0

 同じ時期にアメリカ合衆国では、別のアフリカのゴスペル曲が話題になっていた。ナイジェリア人歌手スィナッチの〈Way Maker〉である(13)。彼女は、いろいろと批判を受けているナイジェリアの牧師、クリス・オヤキロメ氏(カルト的偏向が特に非難されている)が設立した福音派教会である「キリスト大使館」の合唱団出身で、この曲は教会のレーベルLoveworldから2015年末に発売された。4年後、アメリカの白人キリスト教徒の歌手マイケル・W・スミスにカヴァーされて、〈Way Maker〉は(14)、コロナ・ウイルスの世界的蔓延の中、癒やしの曲になった。それと同時に、アメリカ音楽産業のバイブル、ビルボード誌で、キリスト教歌曲部門の1位を占めた最初のメイド・イン・ナイジャ(ナイジェリア)のゴスペル曲となった。そして、国際的ヒットの3つめは、[10年以上も前に作られた]〈Comment ne pas te louer〉[原題の意味は「あなたをほめたたえずにはいられない」](15)がSNSで爆発的に話題になったことである。この曲は、カメルーン出身のベルギー人で、聖霊布教会の聖職者であるオーレリアン・ボレヴィス・サニコの作曲で、今年初め、ヨーロッパの隅々まで圧倒的な人気を博したカトリック歌曲となった。

 この3曲は、メディア・グループAudiovisuel Trace TVが2015年に開設したチャンネルであるTrace Gospelで何度も放送され、「フランス語圏アフリカのメンタリティの縛りを破り、自分たちの勢力圏に留まっていてはいけないと理解させることになりました」と、アビジャン在勤の番組編成者、カーティス・ブレイ氏は指摘している。「これまで私たちは実際のところ、英語話者に比べると、まったく保守的で伝統主義的でした。宗教音楽は教会でしか聴くことができませんでした」と彼は続ける。今では、ますます多くの、回心した若いフランス語話者のキリスト教信者が「自分の神への愛だけでなく、ミサを離れたコミュニティの中にあるアーバン・ミュージックへの情熱を正しいものだと認めることができる」この新しい考え方に従うようになってきているとブレイ氏は見ている。ブレイ氏はまた、「音楽クリップでわかるように、フランス語ゴスペルは明らかにプロフェッショナル化」しているとも指摘している。2019年、コンゴ人歌手、デナ・ムワナの〈Souffle〉[原題の意味は「いぶき」](16)のために制作されたクリップは、英語圏で制作されたクリップに比べても、まったく遜色がない。「目には見えないことを/聴くことができないことを/神の霊よ、あなたは知っている/そうあなたは知っている……」


デナ・ムワナ photo by Missionnaire2013, CC-BY-SA-4.0

 このデナ・ムワナは、モータウン・ゴスペル・アフリカのサポートを受けた最初のフランス語話者アーティストのひとりである。コンゴの福音派教会の合唱団で名を高めた後に、Happy Peopleレーベルと契約した[この契約を継続しつつ、モータウン・ゴスペル・アフリカのサポートを受けている]。このレーベルは、彼女の夫のミシェル・ムタリ氏が、モバイル決済サービスのマネージャーを経験した後、Canal+ Afriqueのセールス・ディレクター を経て立ち上げたもので、そのLinkedIn[ビジネス向けSNS]のページによると、「キリスト教の文化活動・感化活動の企画・実行に特化している」としている。ムタリ氏によれば、「新しいゴスペルにはふたつの目的がある。福音伝道と、アーティストが自分の才能によって生活することを可能にすることである」。アビジャンのゴスペル音楽業界に端的に表れているように、今やMP3のシステム、すなわち、3カ月ごとに1曲発表する、ということが大切である。


Femua15開会式のKSブルーム photo by Aristidek5maya, CC BY-SA 4.0

 コートジボワールの経済の中心地アビジャンでは、キリスト教ラップを歌う売出し中のラッパー、スレイマン・コネ、別名KS・ブルームが「人々を神の御許に導く(17)」ために歌っている。彼は2017年に「万物の創造主」と出遭ったという。それ以来、2021年に発表されたアルバム『Allumez la lumière』[原題の意味は「光をともせ」]とシングル曲〈C’est Dieu〉[原題の意味は「 神がお始めになった」](18)の発売にも支えられて、彼の人気は急上昇した。昨年の夏には、フランスの一般メディアの注目は集めなかったが、カジノ・ド・パリ[コンサート・ホール]を満員にした。4月の終わり、マジック・システム(19)のリーダー、サリフ・トラオレが創設したコートジボワールのFemua フミュア(アヌマボ・アーバン・ミュージック・フェスティバル)の第15回フェスティバルで、KS・ブルームはラッパーのブーバ(20)と並んで、出演者の一角を占めた。この26歳の若いアーティストの航跡には、コートジボワールの音楽シーン「クーペ=デカレ[ダンス・ミュージックのひとつの流れ]」の離脱者の驚異的な成功を見ることができる。多くの者が2019年8月のDJ アラファト(21)の事故死の後、[彼がいなくなった]クーペ=デカレから離脱して、それぞれ国内に4千ある福音派教会のひとつへと戻っていったのだった。

 新しい世代の出現があっても、新しいゴスペルも仲間内の足の引っ張り合いや意見の対立から免れているわけではない。「気をつけていなければ」とコンゴ人のキリスト教徒のラッパー、エル・ジョルジュ(22)は2022年7月に警告している。「キリスト教徒のアーバン・ミュージックは[主流のアーティストの模倣となってしまって]実のないものになってしまうだろう……。もしアーバン・ミュージックを通して神に仕えるように神が本当に君を呼んでいるのなら、君は同様に、独創性を発揮するビジョンももっているはずだ。独創性を伸ばせ(23)

 救世軍の一員で、ジンバブエのゴスペルの父である80歳のギタリスト、マカニック・マニエルーケ(24)は、これまでに約30のアルバムを出してきた。その彼は独創性をどう伸ばすかという問いを自らに問うたことはない(25)。「歌っている内容に自分が納得できているかだけが重要です」と、2018年に彼は説明している。若い人への彼のアドバイスはどういうものか? 「神を信じて、罪を犯さぬよう立派に行動しなさい。私たちが今日生きている世界は、まったくのところ、誘惑に満ちています」。今やそのひとつに、神を賛える歌を歌うことで財産を築くことができるという誘惑がある。

出典:ル・モンド・ディプロマティーク日本語版9月号

(1) Janet Topp Fargion, «The Ransome-Kuti dynasty », The British Library, janvier 2016. [このサイトで〈Jesu olugbala ni mo f’ori fun e〉(「 われは救世主イエスに身を捧ぐ」)を聴くことができる]
(2) [訳注]Fela Ransome-Kuti - Shuffering and Shmiling https://youtu.be/kjEObOMRJJE
(3) [訳注]nouchi:コートジボワールで主に若者によって用いられている、ジュラ語・マリンケ語・フランス語が混交した言葉。ラルース仏語辞典による。
(4) Darren Taylor, « In South Africa, Gospel Music Reigns Supreme », VOA, 8 octobre 2015.
(5) [訳注]Soweto Gospel Choir https://youtu.be/fjiVG1QKZJs
(6) [訳注]Benjamin Dube https://youtu.be/jkAcQs39fuA?list=RDcs0mtACUd58
(7) ヨハネスブルクのメソジスト宣教団がもつ学校の合唱団のために、教員のエノック・ソントンガが1897年に作曲した〈Nkosi Sikelel’ iAfrika〉(神よ、アフリカに祝福を)は、アフリカ民族会議(ANC)の賛歌となり、[アパルトヘイト反対運動の中でさかんに歌われ]のちに新生南アフリカのふたつの国歌のうちのひとつとなった。
(8) Murray Stassen, « Universal Music Africa and Motown Gospel sign superstar South African music group joyous celebration », Music Business Worldwide, 19 mars 2021. [Joyous Celebration - Ndenzel’ Uncedo Hymn 377 https://youtu.be/g-4QAtOrIoA]
(9) [訳注]モータウン・グループはユニバーサル・ミュージックの傘下にある。
(10) [訳注]Master KG - Jerusalema [Feat.Nomcebo Zicode] https://youtu.be/fCZVL_8D048
(11) [訳注]Jerusalema Dance Challenge https://www.youtube.com/watch?v=mdFudLPyqng
(12) [訳注]Master KG - Jerusalema Remix [Feat. Burna Boy and Nomcebo] https://youtu.be/9-RhCvYpxqc
(13) [訳注]Sinach - Way Maker https://youtu.be/QM8jQHE5AAk
(14) [訳注]Michael W. Smith - Way Maker https://youtu.be/iQaS3KudLzo?list=RDiQaS3KudLzo
(15) [訳注]Aurélien Bollevis Saniko - Comment ne pas te louer https://youtu.be/Wv_KsPW0tIY
(16) [訳注]Dena Mwana - Souffle https://youtu.be/NM-eXztJFc4
(17) « En Côte d’Ivoire, l’engouement pour le rap chrétien », Radio-France Internationale, 30 avril 2023.
(18) [訳注]KS Bloom – C’est Dieu https://youtu.be/m0N965nXmXY
(19) [訳注]Magic System - Anoumabo est joli https://youtu.be/oPK3-ogvAqI
(20) [訳注]Booba - Préstation Femua 15 Abidjan 2023 https://youtu.be/XRDes6dEipU
(21) [訳注]DJ Arafat - Ça va aller https://youtu.be/SfMd87D16a8?list=PLuD1V5DZjZV7uoReuPNyF2e1jPhbbWe3e
(22) [訳注]El Georges – Jubiler https://youtu.be/9l7fW_A9k2c
(23) « El George[sic] agacé par les artistes urbains qui imitent Tayc, Hiro», Infos Urbaines, 19 juillet 2022.
(24) [訳注]Machanic Manyeruke - Madhimoni (“Demons”) https://vimeo.com/452912642
(25) Sur cette figure zimbabwéenne, on peut voir Machanic Manyeruke : The Life of Zimbabwe’s Gospel Music Legend, de James Ault, https://jamesault.com

Lawrence English & Lea Bertucci - ele-king

 2023年、アンビエント・アーティストのローレンス・イングリッシュは、〈Kranky〉からロスシルとのコラボレーション・アルバム『Colours Of Air』と〈Room40〉からデイヴィッド・トゥープとのコラボレーション・アルバム『The Shell That Speaks The Sea』をリリースしている。
 そして、ローレンス・イングリッシュとリー・ベルトゥッチとの共作である、『Chthonic』は、イングリッシュにとっては2023年、3作目のアルバムにあたる。このアルバムはローレンス・イングリッシュが追及してきたフィールド・レコーディング作品の極地、いや完成形といえるほどに見事な出来栄えであったのだ。音に満ちた世界が音楽の断片と交錯し、より深く、より大きなサウンドスケープが生成れている。

 『Chthonic』ではイングリッシュがフィールド・レコーディングとエレクトロニクス、テープ操作を担い、ベルトゥッチがチェロやフルート、ヴァイオリン、ラップスティールまでも演奏し、壮大かつ緻密な音響空間を織り上げている。マスタリングはニューヨーク在住のアンビエント・アーティスト、ラファエル・アントン・イリサリが手がけていることも付け加えておきたい。リリースはシカゴの〈American Dreams〉からである。
 リリース元の〈American Dreams〉は、シカゴのチェロ奏者リア・コール(Lia Kohl)、フィラデルフィアの実験音楽家/作曲家のルーシー・リヨウ(Lucy Liyo)、イラン・テヘラン出身のアンビエント・アーティスト、シアヴァシュ・アミニ(Siavash Amini)などのエクスペリメンタル・ミュージックのみならず、「アメリカのレディオヘッド」と評される12RODS『We Stayed Alive』、ポスト・ブラック・メタルともいえるAnti-God Hand『Blight Year』までもリリースするなど、多様なラインナップが魅力的なレーベルとしてマニアには一目遅れている。アンビエント作品とブラック・メタルが並ぶラインナップはまさにこのレーベル独自のものだろう。

 話を本作『Chthonic』に戻そう。イングリッシュによる環境録音は自然現象そのもののように力強いが、環境音に溶けるように交錯されていくベルトゥッチによるチェロやフルート、ヴァイオリンなども実に見事だ。まるで音響の中に溶け込み、まるで霧のような音を生成しているのだ。見事なサウンドスケープである。よく聴き込んでみると、環境音と聴こえていた音が、エディットされたリズムを発していることに気がつきもする。繰り返し聴き込むたびに、そのダイナミックかつ緻密な音響空間に驚きを得ることになるはずだ。
 まずは、1曲目 “Amorphic Foothills” を聴いて頂きたい。環境音が生のまま音のように鳴っているかと思いきや、明らかに周期的なリズムも聴こえてくる。そこに弦楽器の折り重なり、環境音と一体化していく。自然と楽器音、無編集と人為的な編集が曖昧に交錯し、ひとつより大きな(深い)サウンドスケープを形成しているのである。私はこのアルバム冒頭のトラックを聴き、世界の音が交錯し、重なり合い、溶け合っていくさまに衝撃を受けた。もちろんこの種のサウンドの作品は他にも多くある。だが、『Chthonic』は環境音それじたいが音楽的に持続し変化していっている。そんな印象を持った。素材を選択と編集が絶妙だからではないかと思う。
 ローレンス・イングリッシュはアンビエント・アーティストでもあるので、自身のサウンドとコンポジションを持っている。環境録音に対しても同じような意識で編集・加工していると思われる。音が線的に変化しているのだ。シアヴァシュ・アミニの弦楽器もイングリッシュのアンビエント作家的なサウンドに共鳴しているように思えた。チェロやヴァイオリンが環境音と共に変化しているように聴こえるのだ。
 ふたりは2019年に出会い、その後、オーストラリアとニューヨークのあいだをリモートで制作をしたという。時期的にみても2020年のコロナ禍も挟んでいる。いわば世界的な危機の状況で、この超自然的な音響作品が制作されたことはやはり重要と思える。このアルバムに満ちている自然のうごめきのようなサウンドは、まるで地球の地殻変動や気候の変化などを体現するように聴こえてくる。

 アルバムには全5曲が収録されている。2曲目 “Dust Storm” ではより激しい、まさに豪雨のような音響空間を形成し、アルバム中もっとも長尺(12分25秒)の4曲目 “Fissure Exhales” ではアルバム全体の音響が統合されたようなスケールの大きいサウンドを展開する。そしてアルバム最終曲 “Strata” では、すべてが過ぎ去った後の不思議な空虚感を漂わせてアルバムは終わっていくのだ。
 どれも長尺だが、しかしその音の変化、質感、レイヤーを意識的に聴き込んでいくと、われわれリスナーの時間もまたローレンス・イングリッシュとシアヴァシュ・アミニの音の中に漂うようになり、やがて溶け合っていくような感覚を得ることになるだろう。音と音楽。環境音と楽器。時間と無時間。その交錯。実に高品質なエクスペリメンタル・ミュージック/フィールド・レコーディング作品/アンビエントである。音と音楽の境界線がここには鳴っている。

Lloyd McNeill - ele-king

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