「iLL」と一致するもの

mixCD"swim in"発売中
https://tmblr.co/ZnHH9xWlBSX7

2012/12/28(FRI) Swim in @GRASSROOTS
Haruka , Jyotaro , Tsukasa , Tomoharu

2012.12 CHART


1
SIGHA - SCENE COUPLE / BROOD - Hotflush

2
Anthony Parasole & Phil Moffa - Atlantic Ave - The Corner

3
XAMIGA - Kermit's Day Out - Rush Hour

4
Julius Steinhoff - So Glad - Smallville

5
Mikkel Metal - Fron - Semantica

6
SIGHA - Living With Ghosts - Hotflush

7
The Fantasy - Secret Mixes Fixes Vol. 14 - Secret Mixes Fixes

8
Black Dynamite - City To City EP - Tenderpark

9
Arttu - Tune In - Royal Oak

10
Dance - Still / Ha - Blank Mind

第4回:HAPPY?/パンクの老い先 - ele-king

 久しぶりに、2年前までヴォランティアしていた無職者支援チャリティー施設の付設託児所で働いた。どうしても人手の足りない日があるというので、有給を消化して手伝いに行ったのである。
 2年も経てば、顔ぶれも変わっているだろう。というわたしの読みは甘かった。
 ゴム長靴を履いたオールド・パンクのNも、昔は音楽ライターだったらしいけどいまは当該施設の食堂でヴォランティアしているAも、長期無職者たちは、まるでそこだけ時が止まってしまったかのようにそこにいた。
 5年前、わたしがこの施設に出入りするようになって驚いたのは、10年や20年単位の長いスパンに渡って生活保護を受けて暮らしている人びとの存在だった。そういう人びとのなかには、自らの主義主張のために労働を換金することを否定し、生活保護を受けながらアナキスト団体に所属してヴォランティア活動に励んでいる人びとや、昔は音楽やアートなどのクリエイティヴな業界で働いていたらしいんだけれども、クリエイティヴな仕事しかしたくないの。とか言ってるうちに気がついたら生活保護受給者になっていた。という人びとなんかもいた。

 こうした国民のライフスタイルの多様性を可能にしていたのは労働党政権である。が、保守党政権下では無職者は激しい締め付けを受けているので、例えば、CRASSな生き方を信条とする50代半ばのNは、職安に仕事を斡旋されて断ったためベネフィットを打ち切られそうになり、タイムリーに脚の骨を折ったので打ち切りは見送りになったそうだが、これには、彼が公営団地の窓から飛び降りてわざと負傷したという噂もある。
 元音楽ライターのAにしても、当該慈善施設のキッチンでチップスばっかり揚げているのが災いし、職安からフィッシュ&チップス屋の仕事を斡旋されて難渋しているという。そんなに難渋しなくても働けばいんじゃないかと思うが、これらの人びとにとって、働く。ということがどれだけの難事で、面倒で、敗北を意味するのか、ということを知っているので、わたしは黙って話を聞いている。

 「『俺らのように生きろ。俺らのようになることが模範的国民になることだ』ってのが、保守党の政治だ。自らの正当性を疑わない人間は、バカの最たるものである」
 と言いながら、Aは2年前と同じようにキッチンで芋の皮を剥いている。昔は『NME』に書いていた。と彼が言った時には、こいつもホラ吹き野郎のひとりかな。と思ったが、彼の場合、80年代に活躍していた日本の音楽ジャーナリズムの人の名を複数知っているので、けっこう真実なのかも知れない。
 一方、いつもゴム長を履いてアナキスト団体の無農薬野菜園を耕しているNについては、休刊中の『ユリシーズ』にも書いたことがあるが(よく思い返せば、Aについても書いていた)、彼はアナーコ系オールド・パンクであり、エコロジカル・アーバン・ヒッピーみたいな若手アナキストたちに笑われながら、いまでも己の信じた道を進んでいる。というか、いまとなってはもう他の道に移りようがないから。というほうが的確な気もするが、噂の左足をギブスで固めて松葉杖をつきながら、腐ったような革のライダース・ジャケットを羽織り、「ハーイ」とか言っている彼の姿を見ていると、つくづく思う。

 ああ。パンクもこんなに老いた。

             ************

 今年、個人的に大きな衝撃を受けたのは、あるジョン・ライドンの発言だった。
 「俺は報われた。だから、俺はもっと世界を報いたい。いったいぜんたい、どうしてこんなに人生をエンジョイできるチャンスを俺に与えてくれたんだ? こんなの、おかしい」
 John Lydon Lollipop Blog Part3で、そう言いながら彼は目を潤ませた。

 長年のライドン・ウォッチャーなら、そのうち彼がこういうことを言うんじゃないかという漠然とした予感はあっただろう。
 表現メソッドとしては、いろいろトリッキーなねじれを見せる人だが、この人の根底には、筋を通したい。というのがある。喧嘩別れして空中分解し、死人まで出した青春のセックス・ピストルズで「おっさんたちの和解」を成し遂げたのもそうだし、マルコム・マクラレンへの追悼文のなかで「I will miss him」と言ったのもそうだった。最近の彼の言動に大団円的ハピネスの香りがするのは、何十年も心の奥に刺さっていた案件に、自分なりのカタをつけたからなのかもしれない。

             **********

 無職者支援施設の食堂のクリスマスツリーに、今年は変化が見られた。
 いやに侘しいのである。自宅にツリーを持ってない人や、ツリーを飾る塒さえない人びとが集う場所なので、当該施設のツリーは金銀ぎらぎらとド派手なのが通常だったのに、今年は誰かが倉庫からツリーの装飾品をごっそり盗んで行ったという。
 「でも、ツリーの装飾品なんか盗んでどうすんの」と言うと、
 「大量にあったから、レストランとか、パブとか、デカいツリーを飾るところに持って行って安く売ったら、買う店はあるだろ」とAが言う。
 同様のことはオフィスでも起こっているそうで、ぺティ・キャッシュの金庫やPCも盗まれるようになったという。「ここには貧者たちのコミュニティ・スピリットがある」と言った人もいたが、追い詰められると人間のスピリットは摩滅するもののようだ。
 ツリーの寂寥感を軽減するために施設が考案した苦肉の策は、クリスマス・カードをぶら下げる。というものであった。施設宛てに送られて来たカードや、施設利用者たちが受け取ったカードを持ち寄って、ツリーに下げているらしい。
 「ピースフルな年になりますように」
 「来年は、みんなに仕事が見つかるように」
 ぶら下がっているカードの内側を読んでみると、「Wish」「Hope」といった言葉がやたらと多用されていることに気づく。様々な人間の願望を記した紙切れが下がったその木は、もはやクリスマス・ツリーというより、たんざくが垂れ下がった七夕の笹の木のようだ。

        **************

 「ライドンが、『俺は報われた』って言ったの、知ってる? PiLのギグをやっていると、そう思う瞬間があるんだって」
 「また大げさなこと言ってるけど、要するに、ハッピーなんだろう」
 「うん」
 Aは炊事場で手際良く大量のじゃが芋をチップス状に切って行く。
 「最初にピストルズを見たのは、15歳の時だった。批評心も何もない年頃だったから、神のお告げを聞いたようなもんだった」
 ロンドン北部の公営住宅地で育ったAは、「金は人を幸福にはしないが、人生における選択肢を与える。その選択肢の有無が、階級と呼ばれているものの本質だ」と言ったことがある。同じような境遇から出て来て、世界のありとあらゆるものを呪詛したジョニー・ロットンに、若き日のAは強い共感を覚えたらしい。
 「俺にとっては特別なバンドだ。だから、彼がようやくハッピーになったのは嬉しい」
 と言って、Aは薄く笑った。
 「なんとなく置いていかれたような気がするのは、こちら側の問題で」

 炊事場の外では、当該施設名物の、賞味期限切れの無料パンの配給がはじまった。
 「フリー・ブレッド!」
 という食堂係の叫び声と共に、ぞろぞろと施設利用者がカウンター前に並びはじめる。
 ドレッド・ロックの白人ニューエイジ・トラヴェラーや、アサイラム・シーカー系の有色人種。若いアンダークラス・シングルマザーたち。Aもエプロンを外しながら、Nも松葉杖をつきながら、列に加わる。
 彼らは長年、この列に並んできた。
 雨の日も、風の日も、雪の日も並んできた。
 「この施設を使いたいのなら、きちんと(F)列の(F)後ろに並べ!」
 脇から入り込んできた若きアナキストを、Nが叱り飛ばす。しかし、激昂して怒鳴った瞬間に松葉杖から手を離したものだから、ふらふらと頼りなく体勢が崩れ、怒鳴りつけた当の青年から、「爺さん大丈夫かよ」か何か言われて体を支えられている。

 彼は何十年もこの列に並んできたのだ。
 労働を換金して賞味期限の切れてないパンを買うことより、労働しないで賞味期限の切れたパンを貰うことを選び、それを変えなかったのである。
 Nにどやされたアナキスト青年は、バンクシーのグラフィティがプリントされたTシャツを着ていた。編み物をしている老女たちの絵に、こんなスローガンが書かれている。
 PUNKS NOT DEAD THUG FOR LIFE

 グホグホグホと痰の絡んだ爺さんのようなサウンドでNは咳き込んでいる。
 ギブスで膨れた脚では、さすがにゴム長も履けなくなったらしい。12月も半ばだというのに、オールド・パンクはサンダル履きだった。
 そのどどめ色の靴下には、ぽっかりと大きな穴。
 「雪が降ってきたよ」と誰かが言うのが聞こえた。

Chart JET SET 2012.12.10 - ele-king

Shop Chart


1

Frisco - Sho' Nuff (Hong Kong Elevators)
メンバーチェンジを経て新生Friscoとなってから初のリリースとなる本作は、レゲエ・シンガーSpinna B-illをフィーチャー!

2

Ogre You Asshole - 100年後 (Vap / Jet Set)
アルバムごとに常に新たなアプローチをし続けてきたオウガ。期待が膨らみ膨張寸前のところで届けられた本作は『Homely』の作風から一転し、オーガならではの解釈で奏でたチルな要素の強いAorアルバムに仕上がりました。

3

Sign Of Four - Jumping Beans (Jazzman)
大人気Greg Foat Groupに続くJazzmanからの新人が凄すぎます。電子音が飛び交うサイケデリック・ファンクと疾走ピアノ・ジャズ・ファンクを収録。

4

Four Tet / Austra - Motion Sickness part 2 (Domino)
名門Dominoのリミックス・コンピ『Motion Sickness』からのカット第2弾。シンセ・ポップ・トリオAustraがDomino(Us)から限定リリースしたNy新鋭デュオStill Goingリミックスも収録です!!

5

Dr. Beat From San Sebastian - Mediterraneo - Dj Harvey Remix (Eskimo)
イビザでのプロモ盤限定流通後、2007年にベルギー名門"Eskimo Recordings"より正規発売されたバレアリック・ハウス・クラシック「Mediterraneo」。予てからヘヴィ・プレイしていた御大Dj Harveyがリミックスを手掛けた500枚限定盤が遂にリリースされます!!

6

D'angelo - Voodoo - Deluxe (Modern Classics Recordings)
世界遺産的名盤!! プロモオンリーの"Devils Pie"や、Soul名曲カヴァー"Feel Like Makin' Love"、メロー最高峰の"Send It On"、名曲"Spanish Joint"等捨て曲皆無の極上のトラックを収録!

7

Prodigy - Added Fat Ep (Xl)
蟹ジャケの通称で親しまれる'97年リリースのディジタル・ロック名作『The Fat Of The Land』を彩ったお馴染みのワールド・ヒッツを豪華メンバーがリミックス大会した話題沸騰盤!!

8

Dj Nu-mark - Broken Sunlight Series 6 (Hot Plate)
Stones Throwからのリリースで一世を風靡したAloe Blaccと、現行ファンク/ソウル名門Daptoneからのリリースでお馴染のCharles Bradleyをフィーチャー!

9

Vakula & Kuniyuki - Vakula & Kuniyuki Ep (Sound Of Speed)
VakulaとKuniyukiによる珠玉のコラボEpがSound Of Speedからリリース!2012年を代表する1枚になること間違いなしの圧倒的なクオリティーを放つ全4曲を収録。

10

Vakula & Dusty Baron - Leleka 4 (Leleka)
ウクライナの奇才として世界中かの注目を集めるVakulaと、McdeからLatecomer名義での作品のリリースでも注目となったDusty Baronによるスプリットシングル!さらにDusty Baronによる楽曲を2曲収録したボーナス7"付き!

ダブステップ人生(DUBSTEP FOR LIFE) - ele-king


VARIOUS ARTISTS
1ST ASCENSION

GURUZ

Amazon

 こんにちは。
 レーベルGURUZ主宰のDJ Doppelgengerです。

 僕がDUBSTEPのDJをやりはじめたのが約5年前。それからいまを比べれば、随分と認知は広がったように思えます。当初はBack To ChillとDrum&Bass sessionsぐらいしかDUBSTEPのパーティがなかったですし、DJの数もまだ少なかったのを思い出します。僕は幸いなことにそのなかでプレイをすることができ、多くの国内、そして海外アーティストとも共演することができました。

 そのなかで記憶に新しいのがDJ PINCH。Techtonicといういまや有名なUK DUBSTEPレーベルを主宰する彼との交流は、すごく貴重な時間でしたね。彼は僕と同じ境遇、クリエイターでもありDJでもありレーベルマネージメントもおこなっており、れでいて、あれだけ多くの作品を輩出し世界で認知させてきた経緯など、いろいろ聞かせてもらいました。

 一緒に居て思い浮かんだ言葉は「情熱」。
 例えば、1枚のレコードやCDを出すことにも、実に多くの労力と時間、そして覚悟が必要です。ひとつひとつ、その思いが詰まったレコードたち。PINCHのレコードバッグはすべてDubplate(テストプレスの白盤。なかにはアンリリースも多々!)だったのが衝撃でした。
 それと針がSHUREの44Gを使ってたんですよね。何でこんな針圧も弱く、ハウリングしやすい針を使うのか? Dubplateは通常のレコードよりも溝が浅いので、ortofon等の針圧の強いものだと溝がえぐれてすぐに盤がダメになってしまうからなんです。なもんで、リハも相当入念に行ってましたね。これだけ自分の曲からリリース、そしてDJセットまで、すべて究極を追求し、それをスピーカーを通じて聞き手に届けている......本場のDUBSTEP、そのひとりの姿勢を魅せて貰いました。

 これは例として、海外DUBSTEPアーティスト全般、皆オリジナル思考がすごく強くあって。それって音楽云々以前のとても大切な部分であり、人と違う自分だけのものを追求するっていう大切な行為だと思います。

 DUBSTEPが海外でこれだけ大きくなった背景には、このオリジナル思考を随所に感じます。まだそれほど歴史は短いにしても、この枝分かれ具合にしろ、スタイルにしろ、細分化の早さがそう物語ってますね。

 聞いたことあるかもしれませんが、Digital Mystiksが主宰するパーティDMZはあまりに尋常じゃないBASSを出すので、入口で耳栓を配るそうです。イカレてますよね(笑)。けど、そこでのサウンドは相当やばいらしく、平気で数千人のクラウドが集まるとか。やっぱヨーロッパのクラブシーンの個性、そしてレヴェルの高さは凄いですね。
 やってる人は解ると思いますが、オリジナル志向って度胸や覚悟も必要なんですよね。自分や仲間の、それも未マスタリングのアンリリースの曲って音質もバラバラだし、鳴りも同じくマチマチですし。スタイルも何処にも属さない、誰も知っちゃいないような曲ですし。けど、それをプレイすることってすごく大事なんですよね。

 たとえ未完なものでもいいんです。いまを全力で追及した結果を1曲に封入し、それを現場でかけるって行為が大切なんじゃないかと。

 最初の頃は、なかなか良い結果は出ないでしょう。それだけ、自分の曲でフロアを納得させる事って簡単じゃないですから。けど、作り続け、かけては直し入れてを繰り返し、そしてプレイし続ければやがて「この曲好きです!」っていうのが出てきます。そこでようやく長年かけ続けてきた意味が出てくるわけであって。そして、「自分の音」ってものが確立され、DJとしても一脱出来るんじゃないかと。全体がそうなっていけば、それぞれの個性がもっと出て、パーティの盛り上がり方も変わってくると思うんです。自分らの曲でアンセムが出来たりして、やがて独自の文化が生まれると思うんですよね。

 日本のDUBSTEPは、徐々にそれが浸透していっているように感じられます。今年僕は1st Album『Paradigm Shift』をリリースして、国内ツアーで全19カ所を回ってきたんですが、随所でそういったアーティストと会うことが出来て。人数は少ないながらも、オリジナル曲で勝負してるDJもいました。
 そして、そんな仲間に声をかけて集まった曲をすべてリリースしようと思い、年末の12/22にコンピレーションアルバム『1st Ascension』をリリースすることになりました。

 今回最年少だと17歳と20歳の兄弟デュオSeimei&Taimei。僕が知り合った頃、兄のSeimei君は19歳だったんで、クラブに入れないっていう話で(笑)。そして弟のTaimei君はまだクラブ行けないそうです......。
 しかし、曲聴いてびっくりですよ。若い柔軟な脳みそってここまで吸収しちゃうんだなーと。DUBSTEPが好きだという気持ちが全面に出ていて、それが随所で感じられて、見ててこっちも刺激になりますね。深夜クラブには行けないけど、彼らなりにやれる場を探して、早い時間帯のU20のパーティに出演したり、自分でUstream配信したり。この情熱は見習うべきですね。是非彼らの曲、聴いてみると良いですよ。そして彼らを例に、若いクラブミュージック好きな人、いますぐ曲作りにチャレンジしてみるといいでしょう。着手は早いに越したことが無いし、若い方が覚えるもの速いです。時間も余裕あるだろうし。

 話戻しますね。

 あと、栃木にB Lines DelightというDUBSTEPクルーがいます。
 彼らも凄いですね。何が凄いって、メンバーほぼ全員が曲作ってて、それを現場でしっかりかけてるんですよね。東京以外でここまで成熟したクルーは彼らぐらいしか現状居ないと思います。それぞれやばい曲作りますし、なかには海外ラジオや有名DJがかけている曲も保有してます。

 コンピにも彼らのなかからSivariderとRyoichi Ueno、Negatinが参加してます。とくにRyoichi Uenoの曲「Brain」はラッパーの志人君の声がサンプリングされてて彼の諭すような声と重厚なビートが合わさって、いままでに無いDUBSTEPサウンドが出来たと思います。志人君に聞かせたところ、快くOKしてくれて。嬉しかったです。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう!

 それに加え、今回は沖縄出身のアーティストが3組います。DUBGYMNER、Helktram、CITY1。それぞれ別々に知り合ったんですけどね。昔から何故か、沖縄の人とは縁が深いです。それってやっぱ土地柄というか、沖縄って全般的に個性が強い場所だと思うんですよね。
それが音楽にもやはり反映されてて、3人とも全然違った個性ながらも、かっこいい曲作ってきますよ。DUBGYMNERのMONDOってやつはDJもやってて、BUD RYUKYUっていうDUBSTEPパーティも主宰してます。僕もツアーで足を運ばせて貰ったんですが、凄く良いパーティでしたよ。沖縄DUBSTEPシーンの先駆け的なパーティでしたね。

 あと、これはBack To Chillを通じて知り合った100mado、DEAPA、DUBTRO。とくに100mado「Indian Zombie」はかれこれ2年前ぐらいからプレイしており、それを自分のレーベルからリリース出来て、すごくうれしいですね。僕のDJを何回か聴いた事のある人は、絶対に耳にされてる曲だと思います。DUBTROもじわじわと頭角を現してきてますしね。

 これは制作秘話? ってほどでも無いんですが、マスタリングはこれまたBack To ChillクルーのENA君にやってもらいました。やはり同じジャンルに精通しているだけあって、実に理想的な音に仕上げてくれました。
 彼と作業した1日も、いろんな意味で面白かったですね。エンジニアワーク見てるって面白いですよ。制作とはまた違う視点で。使ってるケーブルやら機材、電源やら、スピーカーとか吸音材とかの話もして。かなりマニアックな話でした。ついでにですが、ENA君のアルバムが来年7even Recordingsからリリースされます。これもかなり凄い内容で、国内外で話題になる事でしょう。

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VARIOUS ARTISTS
1ST ASCENSION

GURUZ

Amazon

 こんな感じで、自分を取り巻くDUBSTEPアーティストの皆さんと協力して、今回こういったリリースが出来る訳でありまして、なんとも感慨深い気持ちですね。しかも「国内初の日本人DUBSTEPコンピレーション」という名目まで! ありそうで無かったんですよね。これが。そして12月22日。マヤ暦が終焉を迎えるこの日を敢えてリリース日とさせて頂きました。タイトルも『1st Ascension』。これは、JAPANESE DUBSTEP新時代の幕開けという裏テーマが隠されています。

 これを皮切りにレーベルGURUZからどんどん日本人DUBSTEPをリリースしていく予定です。何故か? DUBSTEPが好きだからですよ。
 これ、PINCHにも同じ質問してこう返ってきたんですよね。シンプルかつ響いた言葉、僕も使わせてもらいます。

 もっといろいろなスタイルがあって良いと思うし、さまざまな解釈があってこそ、DUBSTEPだと思います。それこそ、いま大きく言えば二極化してるブロステップとディープ系ダブステップ、それぞれが盛り上がるって大事なことですよ。
 いまのシーンを見てると、ブロステップの流行が目に入りますね。こないだのスクリレックス公演なんか3000人SOLD OUTらしいですね。僕は正直、ブロステップに関しては好きではないです。聴く努力はしましたけど、サウンド然り、どうも馴染めないです。けど、それはそれでそういったシーンが出来たという現実は受け止めてますし、彼らの功績もまた凄いですね。ただ、いまそれがアメリカで流行ってる、だから正しい、というわけではないと思います。日本人はとくにメディア操作に操られ過ぎです。
 シーンが虚空の肥大をして過度のビジネス傾向に陥り、魂の無い音楽が蔓延して、結果、何も残らないっていうね。それではならんのです。
 僕はDUBSTEPを大事にしたいんですよね。だからこそ、そこに魂、そしてメッセージが宿っているかどうか? ってことにはサウンドクオリティと同等に気持ちの比重を置いてますね。

 これは自分に対する課題でもあると思ってます。いまの僕視点でのDUBSTEPが果たして正しい道なのかどうか、これは時間が経たないと解らないじゃないですか。それだし、僕が提唱しているDUBSTEPでもきちんとビジネス出来る環境を作らなきゃいけないって思うんです。
 これはUK DUBSTEPシーンを見ていてもそう。例えば先に言ったPINCHやMALAみたいなアーティストが、 いまの日本のシーンで成功出来るとは到底思えない。しかし、彼らは向こうじゃトップアーティストであって、音楽で生活を賄っているわけで。

 これを日本でやろうって「無理だ」って言葉が大多数ですけど、そう言って動かないでいては何も変わらない。畑は耕さないと、芽はいつまでも出てきませんから。僕はDUBSTEPとこれからも長く付き合っていきたいです。そのためには少しずつ、ひとりずつ納得、共感してもらって土壌を作って行く事が今の自分がすべき事だと思ってます。サウンドクオリティの向上は当然ながら、それとともにリスナーの聴くレヴェルも向上させていく必要性は感じてますね。

 だから、僕はレーベルを立ち上げたというのもありますし。GURUZからもっといろいろな日本で暮らしているDUBSTEPのクリエイターを世に知らせていきたいなと。そして、もっとこの国で起こっているドープなDUBSTEPのシーンの実情を国内外共に伝えていきたいんですよね。これだけ世界で大きな波となってるDUBSTEP、だけどそれって日本の場合、大衆には僕らがやってるDUBSTEPというのが現状あまり見えてないと思うんですよ。先に言ったブロステップ然り、表面的なものでストップしちゃってる。

 これを広めるって容易では無いですよ。一人対全国ですから。しかし、不毛だからこそチャレンジしたいっていうね。あきらめたらそれまで。前進すれば道は拓ける。これは音楽云々以前の、人としての生きる姿勢の選択であって。地道に時間かけてでも、道を拓く覚悟ですよ。

 パーティにおいては、東京だとDrum&Bass sessionsやBack To Chillなんか、音響も素晴らしいですし、日本最高峰のDUBSTEPが聴ける現場と言えるでしょう。最新の国内外のDubplateもガンガンかかってるし、DUBSTEPのいまを知るにはうってつけのパーティと言えますね。まだ行ったことの無い方、そして若いDUBSTEP好きな方は是非、足を運んでみるといいでしょう。大箱でしか体感出来ない極太BASSを体全身で感じれば、DUBSTEP本来の素晴らしさを知ることでしょう。

 最後に、12月22日のリリース日に、僕の地元大宮でリリースパーティも開催します。僕がいま思う新鋭アーティストを揃えた奇跡の一晩となることでしょう。サポートは地元のDUBSTEPクルーMAMMOTH DUBがしてくれてて。彼らとは共に3年、地元でパーティを開催してきて。大宮は年々DUBSTEPが育っていってる感をビシビシ感じますね。オリジナル曲もどんどん増えてるし、この日はかなりの数のオリジナル曲がスピンされるでしょう。都内からも近いですし、是非皆さん遊びに来て下さい。
JAPANESE DUBSTEPの新たな一面をここで垣間見ることでしょう。

 東京でのリリパは2月を予定。詳細をお楽しみに! ほか、地方公演もいろいろ入ってきてます。スケジュールは以下の通り。各地の皆さん、またお会いしましょう!

 それでは、DUBSTEP FOR LIFEでした。
 PEACE.

DJ Doppelgenger - DJ SCHEDULE
12/1 Version @ CACTUS (乃木坂)
12/8 Drum&Bass Sessions @ UNIT (代官山)
12/22 [ 1st Ascension ] Release Party @ 444quad (大宮)
12/31 Countdown Party @ 444quad (大宮)
1/13 TBA @ Circus (大阪)
1/20 Dubstep Area @ The Dark Room (福岡)
1/25 TBA @ TBA (長野)
2/1 TBA @ TBA (東京)
2/23 TBA @ Bangkok (タイ)
3/2 TBA @ Rajishan (静岡)

■2012 DUBSTEP sellection 10
MALA / MALA in Cuba (Album)

今年一番好きなアルバム。
これだけポップに、かつ相当凶悪なベースを鳴らしたアルバムってこれぐらいなのでは? ダブステップとキューバ音楽とのコラボ、これは楽しい1枚でした。

Review Amazon iTunes

GOTH TRAD / NEW EPOCH (Album)

言わずもがな、GOTH TRADのニューアルバム。
前作MAD RAVER'S DANCE FLOORから世界へと進出し、研ぎすまされた次のビジョンを見させてもらいました。
RESPECT。

Interview Amazon

Swindle / Do The Jazz (12inch)

DEEP MEDIからの新たな刺客Swindle。
彼の持ち味のJAZZがふんだんに盛り込まれた、新しいスタイル。
これは斬新だった。

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ENA / Analysis Code (12inch)

これまた、何処にも属さない全くオリジナルスタイルを提唱した問題作。
来年出るアルバムも、かなり物議を醸し出しそうな予感。
これからの進化がどうなるのか、予測不能で楽しみです。

Amazon iTunes

Shackleton / Fablic 55 (MIX)

ミックスながらも全曲オリジナルでの編成。
これは凄い。呪いステップですね。世界観の統一具合、クオリティ、完璧でした。

Review Amazon

KRYPTIC MINDS / THE DIVIDE (12inch)

ミニマルテクノ+ダブステップ。
凄くシンプルながらもフロアライクなテッキースタイル。
こういうダブステップもどんどん出てほしい。

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DUBTRO / MIND HUMAN (Compilation)

Back To ChillクルーDUBTROのニューチューン。
これはUK ダブステップレーベル [ MIND STEP ]コンピレーションからの1曲。
これまでのDUBTROを越えた感がありました。

KILLAWATT & THELEM / kaba (12inch)

KILLAWATT好きですね。他もだいたい好きです。
ダンジョン系ダブステップ最高峰。

iTunes

V.A / 1st Ascension (Compilation)

僕が見てきた日本のダブステップが此処に。
今、日本のアンダーグラウンドダブステップの実情を知りたいのならば、これを聴いてほしい。

Amazon

DJ Doppelgenger / Paradigm Shift (Album)

今年リリースした僕の1stアルバム。
僕のアーティスト人生も大きく変わった、2012年、一番心に残る一枚となりました。

Review Amazon iTunes


DJ Doppelgenger ( GURUZ )

15歳からDJキャリアをスタート、そして2008年よりDJ Doppelgenger名義でDubstep DJとしての活動を開始する。世界各国を放浪した経験を基に、ワールド感漂う独自の音楽観をDubstepというフィールドで表現している。東京を代表するBass Music Party『Drum&Bass Sessions』@代官山UNITのレジデンツとして出演。そして、2009年より地元埼玉でMAMMOTH DUBを開催し、多くのアーティストを招聘している。これまでにrudiments、subenoana等のレーベルよりmix、trackをリリース。

Chart JET SET 2012.12.03 - ele-king

Chart


1

Slow Motion Replay Presents Dunk Shot Brothers - Love Me Tender Ep (Smr)
早くも、HikaruやMr.Melody、やけのはら等がプレイするなど、前作同様のヒットを予感させるエディット集が到着しました。様々なシチューエーションでばっちりハマるレコード・バック内のスタメン確定な1枚です。

2

Maxmillion Dunbar - Woo (Rvng Intl.)
Beautiful Swimmersの片割れにして、Future Times主宰者のAndrew Field

3

Greg Foat Group - Girl And Robot With Flowers (Jazzman)
これまでの作品は全て即完売で先行シングルも大ヒット。エレガントでサイケデリックでグルーヴィーな独自の世界を進化させた、待望のニュー・アルバムが遂にリリース!!

4

七尾旅人 - サーカスナイト (felicity)
2012年リリースの最新作『リトルメロディ』より名曲「サーカスナイト」がアナログ盤で登場!!名曲オリジナルVerに加えて、向井秀徳、Mabanua、Luvraw&btb、Grooveman Spotによるリミックスも収録!!

5

Will sessions - Xmas Break (Funk Night)
素晴らしく骨太な楽曲に加え、今回は赤と緑のラベルで完全クリスマス仕様です!!

6

Lusty Zanzibar - Empress Wu Hu Remixes (Glenview)
100枚限定で先行リリースされたVakula & Oeによるリミックスに加え、気鋭Volta Cabによるリミックス+オリジナル・トラックを追加収録した話題の一枚が到着。

7

Pepe California - Yureru - Dj Nozaki's Pure Pleasure Control Mix (10 Inches Of Pleasure)
Mick「Macho Brother」のカルト・ヒットも記憶に新しい"10 Inches Of Pleasure"から話題沸騰の新作第二弾が無事到着。2010年に自主レーベルからリリースされたPepe California最新アルバム『White Flag』収録曲をレーベル首謀Dj Nozakiがリミックス!!

8

Star Slinger - Ladies In The Back Feat Teki Latex (Pias)
フィジカル12"第1弾『Dumbin'』のメガヒットも記憶に新しいマンチェスターのStar Slinger待望のソロ第2弾には、シカゴのベース人気者Chrissy Murderbotによるジューク・リミックスも搭載です!!

9

Dntel / Herbert - My Orphaned Son - Die Vogel Remix (Pampa)
音響ハウス帝王Lawrenceのリリースでもお馴染み、天才Dj Koze率いる越境ミニマル・ハウス名門Pampaから、看板デュオDie Vogelと主宰による極上リミックスを搭載した特大傑作が登場です!!

10

Echocentrics Feat. Grant Phabao - Echocentrics Remixes (Ubiquity)
名門Ubiquityお抱えの人気バンドEchocentricsの1st.アルバム収録曲をGrant Phabaoがジャマイカン・リミックス!!

CAMPANELLA & TOSHI MAMUSHI - ele-king

 福岡天神は親不孝通りを代表したILL SLANG BLOW'KER、その唯一となるセイム・タイトルは、マニア界隈において周知の名盤である。。元々は別個に活動するメンバーが集い、ワンボックス・カーで全国行脚を行うも、あるものはその土地に住み着くなどして、グループは離散。そうした逸話もまた、彼らの奔放さを表していていい話だし、この盤からもそんな人となりがなんとなく想像できる。生活臭のなかに入り混じった生のブルーズとでも言おうか。そんなものがパッケージされているからか、たまに聴き返したくなるときがある。CAMPANELLAとTOSHI MAMUSHIがタッグを組んで作った『キャンピー&ヘンピー』にはその作品を想起させるわずかな片鱗があった。振れ幅の広い、ひと癖あるトラックが並ぶなか、異なる話法を持つ語り手がひとつの世界観を作品に落とし込んでいること。高い熱量とクールな空気感が同居し、たえず常温を保つような、ほどよいドープさとチル加減。もちろん、ハイライトとなるいくつかのヴァースはスリリングだし、何より終盤を飾るCAMPANELLAのソロ曲"ナイト&ナイト"こそが、くだんの作品をもっとも強く思い出させる。煙の立ちこめる夜の音楽である。

 フリーのミックス・テープ『デトックス』をはじめ、ネット上で旺盛な音源リリース――MINTとJinmenusagi、daokoとの"ヒート・オーヴァー・ヒア"(リミックス)は必聴――を行い、粘着質のある独特のフロウが持ち味のCAMPANELLAと、抜けのいい声と小気味よいライミングでさすがは名フリースタイラーといったラップを披露するTOSHI MAMUSHIからなるこのコンビは、HIRAGEN、YUKSTA-ILLらを擁するTYRANT、MIKUMARI、ICHIBA SICKNESSが参加するグループ、HVSTKINGSとともに実体のつかめないTOKAI DOPENESS/NEO TOKAIという独自のコミュニティに属している。
 TOKAI DOPENESS/NEO TOKAIという言葉でまず思い出されるのは、かつて名古屋で絶大な人気を誇ったラッパー、TOKONA-Xの最初にして最後のアルバム『トーカイ×テイオー』。2004年、彼の早すぎる逝去以来、いまなお名古屋のヒップホップ・シーンには彼の存在が影を落としていて、そんなシーンの滞りに対するジレンマは確実に溜まりつつあった。そんな現状を打破するために新たに立ち上げた呼称がTOKAI DOPENESSであり、NEO TOKAIなのである。
 彼らの徹底した上昇志向とスキル絶対主義の姿勢は、もはや聴き手に共感とは別種のものを抱かせる。地域性に根差したコミュニティではない彼らが、口ぐちにレップしているのは架空の都市RACOON CITY。これが何のことかと言うと、(たしか)四日市辺りにある工業コンビナートのことで、遊び場にしているこの地域一帯が、夜間はイルミネーションに煌々と照らされる都市のように見えることから取ったそうだ(偶然ではあるが、親不孝通りもまた、実在しない名称である)。
 この集合体は、同じ地元を持つ絆の強い同胞......というより、純粋にスキルの高い個々の才能がひとつの呼称と指標を合言葉に集まったようで興味深い。やや話が脱線するが、2005年あたりからはじまったUMBのような、いわゆるフリースタイルの巧さを競ったMCバトルの開催は、ラッパー全体のスキルの向上・底上げだけでなく、点在するシーンを繋げ、活性化を促したという部分において、何よりもその後のシーンへの恩恵を感じさせる。

 『キャンピー&ヘンピー』の聴きどころはやはり、まったくスタイルの異なる両者のラップ。展開やトリッキーな韻の置き方や、オフビートにも動じない安定感。トラックの中核を成すのはどこか異国的な音像と繊細なエディット感覚が耳を惹くRAMZA、そしてCAMPANELLAとは共作のあるC.O.S.A。バウンシーだが揺れのある、変則的なリズムを刻む。ソウルフルな"ストリート・リンク"はTONOSAPIENSプロデュースで、他にも"チェス・ボクシング"など、完成度の高い曲が並ぶ。
 しかし、昨年リリースされたYUKSTA-ILLの『クエスチョナブル・ソウト』を聴いたときにも思ったことなのだけれど、現場感を作品にパッケージングすることはつくづく難しい。ライヴでは質の高い見応えのあるパフォーマンスも、作品としてのアルバムにうまく作用するとは限らないということだ。ことにラップ表現においては、言葉が直接的すぎるため、聴き手に息苦しい印象を与えてしまうきらいがある。『キャンピー&ヘンピー』というアルバムは、TOSHI MAMUSHIが淡々とラップを繰り広げる反面、醒めた酩酊感を伴ったようなCAMPANELLAがヨレや破綻を生むことで成立しているアルバムだと感じた。思えば、ILL SLANG BLOW'KERのあの作品が素晴らしいのは、ユルさやミスや悪ノリが閉塞感を脱するメソッドとして、明確に提示されていたからだった。TOKAI DOPENESSの今後がシーンの現状にどう影響してくるのか、ひとまず12/8に渋谷FICTIONで行われるリリース・パーティ(https://www.residentadvisor.net/event.aspx?427129)に足を運んで思いを巡らせてみたい。

Bushmind(Seminishukei) - ele-king

https://soundcloud.com/bushmind
https://www.facebook.com/bushmind
https://seminishukei.shop-pro.jp/
https://wdsounds.com/

Nipshit of 2012(順不同)


1
King 104 / Margarita

2
Lil Mercy & Mamimumemosu / 20mamimume12

3
Hoodies / Dogbite

4
Campanelra & Toshi Mamushi / K.B.P

5
D.U.O / Wish Wash

6
Bes & DJ One-Law / U Can't See Me

7
Owl Beats feat.Yuksta-Ill / Time Less

8
Rhyda feat.piz? / Yah Yah Yah

9
Tonosapiens feat.Rockasen / SquAll

10
Fla$hbackS / Gladiator

「REPUBLIC」 - ele-king

 2012年12月1日。日本のオーディオ・ヴィジュアル・イヴェントのパイオニア「REPUBLIC」が遂に終焉を迎える。書籍「映像作家100人」とのコラボレーションなどでも多くの話題を呼んだ本イヴェントが初回開催された2007年5月から5年の月日を経て、多くの映像作家や、ミュージシャン、DJ、VJといったアーテイストに「音と映像」の新しい関係を提示してきた。そんな「REPUBLIC」も10回目で遂に最終回となりフィナーレを迎える。

 そんな、最終回となる今回は、もっともフラットで自由な表現に溢れており、ホームグランドである「WOMB」のDAY TIMEでの開催となる。

 出演陣も豪華で、「bonobos」や「OGRE YOU ASSHOLE」、「ハイスノナサ」、「ATATA」などのバンド勢に、今年最も話題を呼んだMCでもある「田我流」、ネクストブレイクを期待される「転校生」、巷で話題のガールズラッパーのニューカマー「泉まくら」などのフレッシュな面々も揃える。
 さらに、sasakure.UK、TeddyLoid、okadada、DJ WILDPARTYなどネットから新しい音楽カルチャーを発信する面々に、骨太のビートを生み出すトラックメーカーの「Fragment」、「Himuro Yoshiteru」、「SUNNOVA」に、「dot i/o (a.k.a. mito from clammbon)」、「aus」といったジャパニーズ・エレクトロニカの雄と「DUB-Russell」、「metome」、「Avec Avec」、「Seiho」などの新世代のエレクトロニカ・シーン牽引するアーテイストが一挙に渋谷に集結する。

 また、映像面も「伊藤ガビン」や「原田大三郎」などのレジェンドとともにVimeoでの映像が海外でも高い評価を受ける「yusukeshibata + daiheishibata」、「吉田恭之」、「Kezzardrix」。そして、日本を代表するメデイア・アーテイストの「exonemo」と「FREEDOM」で一躍世にその名を知らしめた「神風動画」に気鋭のデザイン・チームの「TYMOTE」、「FREEDOMMUNE」や「TOWER RECORDOMMUNE」のヴィジュアルを手がけた「yasudatakahiro」など新旧のTOPヴィジュアル・クリエイターが最後の宴に映像で花を添える。

 そして、その豪華面々がこの日にしか見れない極上のオーディオヴィジュアル・ショーケースを準備。また、前回好評を博した各フロアの映像演出もさらにスケールアップ。プロジェクターと液晶モニターを大量に特設で用意し、「WOMB」の全フロアを余すところなく映像で包み込む。もちろん長時間にわたる開催にあたってのホスピタリティとしてFOODもご用意。


2012年12/01(Sat)
REPUBLIC VOL.10~THE FINAL~
@WOMB
13:30-21:30(予定)
当日¥4,500 / 前売り¥3,500 ※ドリンク代別途

【SOUND ACT× VJ】
bonobos × TYMOTE
OGRE YOU ASSHOLE × TBA
okadada × exonemo with 渋家 (VideoBomber set)
ジェイムス下地 × 神風動画
dot i/o (a.k.a. mito from clammbon) × Kezzardrix
Daizaburo Harada -Audio Visual Set-
田我流 × スタジオ石×SNEEK PIXX
sasakure.UK × まさたかP
ATATA ×伊藤ガビン+hysysk+matt fargo
aus × TAKCOM
ハイスイノナサ × 大西景太
DUB-Russell×(yusukeshibata+daiheishibata)
転校生 × 大橋史(metromoon)
TeddyLoid × COTOBUKI
Avec Avec × 超常現象 [水野健一郎. 水野貴信 (神風動画). 安達亨 (AC部). 板倉俊介 (AC部)]
DJ WILDPARTY × SUPERPOSITION
Fragment × ogaooooo
shhhhh × 最後の手段
泉まくら × 大島智子
Inner Science × Takuma Nakata
Yaporigami × yasudatakahiro
Hiroaki OBA - Machine Live - × らくださん
metome × 吉田恭之
Himuro Yoshiteru × maxilla
Seiho (Day Tripeer Records, +MUS, Sugar's Campaign)× 子犬+UKYO Inaba
munnrai(TYMOTE/ALT) × leno
hiroyuki arakawa × Shinji Inamoto
Free Babyronia × NOISE ELEMENT
Licaxxx × DEJAMAIS

【SOUND ACT】
SECRET GUEST LIVE!!!
SUNNOVA
MASTERLINK
i-sakurai with passione Team B
specialswitch
Narifumi Ueno ( Ourhouse / Arabesque )
neonao(futago traxx)
M'OSAWA
SHIGAMIKI
MAYU
motoki
iYAMA(konnekt, MESS)

【VJ】
BENZNE by VMTT
VideoNiks
blok m
アサヒ
VJ PLUM

【映像装飾】
S.E.E.D

【プロジェクション コーディネート】
岸本智也

【FOOD】
浅草橋天才算数塾
錦糸町izakaya渦

【ORGANAIZED BY】
ishizawa(sonicjam Inc.)

2012/12/01(SAT)渋谷WOMBにて終焉を迎える「映像と音の共和国」を見逃すな!!

https://republic.jpn.org/

 ロンドンとパリは列車で結ばれている。ユーロスターで所用2時間。時差が1時間なので往路は3時間、復路は1時間という幻惑を誘うタイムラグ。しかも海底を抜ける。その途方もなさに、果たしてパリに無事辿りつけるのかという幼児なみの不安が頭をよぎる。住んでいるロンドンの自宅で予約はウェブ上で済ませる。当日、無事に起床することができた。出国手続きを終え、無事列車にも乗れた。なんてことはない。新幹線のような快適な乗り心地。いつの間にか海を越えていた。地上を走っている時間のほうが長い。フランスののどかな田園風景を走り抜ける。と、パリのターミナル駅に着く。最初の驚きは、駅舎の壁面に途切れることなく続くグラフィティ。その後、5日間の滞在でパリはロンドンをしのぐグラフィティの街だと知る。

 ウェブ・マガジン『ピッチフォーク』のフェスティヴァルがパリで開催されるというのでチケットをとった。ジェームズ・ブレイク、ファクトリー・フロア、アニマル・コレクティヴ、ジェシー・ウェア、ラスティー......と話題のアーティストばかり。7月にシカゴで開催された同フェスティヴァルの様子をウェブで見ていたので即決だった。正直、ちょっとパリにも行きたい気持ちもあったし、フェスティヴァルでパリジェンヌがどんな風に狂気するのか見てみたかった。  同じ歴史を感じさせる都市とはいえパリは明らかにロンドンよりも落ち着いた街だ。そして悦ばしいことに食べ物が美味しい。いずれもロンドンがうるさ過ぎ、食べ物が不味い、とも言える。フランス語ができればパリは日本人にとって住みやすい街なんじゃないか。とはいえ、たった数日の滞在では計り知れない。街中にグラフィティが溢れかえっている。この意味するところは何だろう。アートの街だから許容されている? 確かにお金を出しても惜しくない立派な作品にストリートで出合ったりする。そして、スリの腕は世界一だから気をつけるよう散々言われた。しかもよく考えると、2005年にこの街では暴動が起きている。表面的に落ち着いているように見えても、他の欧州各国と同様に煮えたぎるものがある? でも、いち早く左派政権になったし、この落ち着きは余裕をしめしているのか......。などと色々と頭の中を駆け巡った。だけど街中を歩く人びとがオシャレで似合っていて、ただただ魅了され雑念もふっ飛ぶ。たった2時間の移動でロンドンとパリでここまで違うのか、と当然のことかもしれないが改めて驚く(ロンドンのコモン・ピープルは必ずしもオシャレじゃないから)。

 会場はパリの北東部に位置する〈Grande halle de la Villette〉。大きな倉庫を改造したのか、ちょうどサッカー・コートぐらいの広さで天井がやたら高いホール。フランスで『ピッチフォーク』が扱うようなオルタナティヴなロックやダンス・ミュージックがどこまで人気があるのか知らない。しかも、ほとんどが英語圏のアーティスト。ピークでも会場の6割ぐらいしか埋まらなかったので、すごく人気がある訳ではなさそう。でも、その分、会場のなかに逃げ場があって過しやすかった。耳にイギリス英語が飛び込んでくる。とくに2日目はイギリス人が多かった。結局、僕のようにユーロスターでロンドンから来たオーディエンスが多数いる印象。

 パリに着き、ホテルにチェックインしてから会場に入った。言葉が通じないので終止緊張していたせいか、疲れが出てボーとアルーナジョージなんかチェックしていたアーティストも遠巻きに見る。ティンバランドとミッシー・エリオットの出会いがいまのロンドンで実現されたら、と評されるこの異色ユニット。アルーナの愛くるしい佇まいが微笑ましかった。
 さて、いまはとにかくフジ・ロックでのライヴも終え話題になっているファクトリー・フロアに備えよう。アルコール片手にリラックスして会場を歩き回った。ロンドンのラフ・トレードが大きな物販ブースを出している。オフィシャルのバックをここで買う。片隅でジュエリーや靴なんかのハンドメイドの作品を扱ったフリー・マーケットも開かれている。オシャレ! いちいち立ち止まって見てしまう。そうこうしているうちにファクトリー・フロアだ。終止ストイックに展開するミニマリズム。退廃美はスロッピング・グリッスルのそれに近いが、さらに渇いている。この渇きは諦念に近いのか......。打ち鳴らされる音の粒の快楽に酔いしれる。どうしようもない寄る辺なさに身をゆだねる。恍惚とする......。
 その後、バンクーバーを拠点にするJapandroidsという謎のふたり組のロックバンドを見てポカンとしたり、The xx やSBTRKTのレーベル〈Young Turks〉からリリースのあるJohn Talabotで身体をほぐしたりしながら、ジェームズ・ブレイクに備えた。
 パリのジェームズ・ブレイクは都市のもつ気高さに演出され、いっそう高貴なものに映った。ヨーロッパを覆っているであろう無力感を一歩進めて絶望に至り、そこからの救済を希求しているような...、というと大袈裟? 不安定なトラックと彼の中性的な声が心の襞に分け入ってくる。見たことのない世界を見せてくれそうな予感に包まれる。
 午前1時頃、この日のヘッドライン、フランスのポスト・ロック・バンド、M83のやたらとテンションの高いライヴを横目にホテルに向かう。

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 2日目。午後5時開始。遅い朝に貴重なパリの1日を怠惰に過す。ルーブル美術館の近くにあるビルごとアーティストのスクワットになっている59 RIVOLIというスペースに行く。たくさんのアーティストの制作現場になっていて展示も無数にある。どれも個性的で目を惹く。街中で見かけたグラフィティと同じアーティストの作品もあった。1999年にはじまったスペースらしい。ヨーロッパではスクワットが違法ではない国がある。ちなみにイギリスでは2ヶ月前に住むことが違法になった。が、不思議なことに空いている建造物を一時使用することは違法になっておらず、まだスクワット・パーティなんかがある。
 少し遅れて午後6時頃開場についた。その日は目的がたくさんあった。まずはジェシー・ウェア。彼女を最初に見たのは5月にKOKOロンドンであったベンガのリリース・パーティだった。日本では考えられないが、ロンドンではダブ・ステップでモッシュが起る。DJも応酬してアオりにアオる。この日もそうだった。そんな、どちらかというと男くさい匂いが漂うパーティで、ジェシー・ウェアが登場すると変わった。たった1曲歌っただけなのに会場がしっとりとした雰囲気に包まれた。その後、ずっと気になっていたらジョーカーやSBTRKTと楽曲制作をしている歌手だと判った。ニュー・アルバムが発売される頃には、レコード屋のみならず駅の掲示板などにもポスターが貼られ、ちょっと盛上っていた。新作『DEVOTION』はイギリスのエレクトロニック・ミュージック・シーンを背景にしながら、しかし耳ざわりのよいソウル作品だ。ブロー・ステップのように過激/過剰に行きがちなシーンに淡々と距離をとっているとも言えるし、ただ自分の好きな音楽を黙々と追求しているだけにも見える。最近ではディスクロージャーと絡むなど趣味のよさ、立ち位置のうまさを印象づける。僕は新作をどう聞いたかと言うと、決して雰囲気がよいとは言えない不景気のロンドンで、ゆらぐことのないイギリスのアーティストとしての誇りのようなものを感じた。エイミー・ワインハウスは......あまりにもいまのイギリスの雰囲気を暴きだし過ぎている、と感じることもあるから。「DEVOTION=献身」が彼女を育んだミュージック・シーンに対するものであったら、それは素晴らしいことじゃないか。

 可愛い言葉づかいのジェシー・ウェア。肩の荷を下ろし一曲終わるたびに何やら語りだす。可愛い。歌いはじめると一気にオーラを身にまとう。特に凝った演出もなかったがその分、歌に集中できた。まだキャリアが始まったばかりのアーティストにありがちな衒ったところもなく純粋な歌がそこにあった。ジーンとする。
 続いてワイルド・ナッシング。80年代風、イギリスのギーター・ポップ・サウンドは日本人にとって聞きやすいがもはや"カルト"と評されている。ジャック・テイタム──実質、彼ひとりのバンドみたい──が、アメリカ人なのも共感できる。シンセも相俟ってキラキラしたギター・サウンドを、他国の過去の音に想いを馳せながら作っている感じ。わかる。新作『ノクターン』を愛聴していたのでライヴも楽しめた。なんだかんだいっても現代の解像度の高いサウンドとフェスの大音響の効果は心地よく、快感だった。

 ピッチフォーク・ミュージック・フェスティヴァルは個性派ぞろいのフェスティヴァルで、まったくノー・チェックでも意外なアーティストに巡り合う。例えばザ・トーレスト・マン・オン・アース。ボン・イーヴェルのツアーのフロント・アクトを務め知られるようになったというスウェーデンのアーティストだ。ボン・イーヴェルやベン・ハワードなんかの極楽系フォーク・サウンド。だけど、どこかボブ・ディランぽい。まとめると、現代スウェーデンのボブ・ディラン兼ボン・イーヴィル、その名もザ・トーレスト・マン・オン・アース。謎だが、謎めいた魅力があった。次に、初めて知ったけど欧米では結構知られているらしいロビンも強烈なシンガーだった。エレクトロニック・サウンドにのせ歌われるポップ・ソング。彼女独特のコケティッシュな魅力に溢れたステージ。どこか振り付けが80年代のアイドルっぽい。どうしても日本のアイドルを思い出してしまうステージをパリで、しかもピッチフォークのイベントで目撃するという倒錯感がすごかった。

 2日目のヘッド・ライナーはアニマル・コレクティヴ。新作『センティピード・ヘルツ』がこれまでの作品と一変していたので、ライヴはどうかと興味深く観た。新作の楽曲中心に進んでいく。リズムとサンプリングのおもちゃ箱をひっくり返したような躁状態が続く。サイケデリックなデコが虹色に怪しく明滅するステージのうえでたんたんと演奏したり機材をいじっている。変拍子や過剰なサウンド・エフェクトを駆使しながら不可思議な物語を感じるステージ。終盤は、これまでのアニコレのイメージどおりアシッドにフォークに展開し陶酔する。深夜2時近く、この日のパリの夜は時空が捩じれたまま深けていった。

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 さて3日目だ。またも遅い朝。昼食にパリに在住していたレゲエ・ライターの鈴木孝弥さんに教えてもらったアフリカ料理を食しに出向く。パリの南に位置する大通りブルヴァール・バルベス周辺はアフリカ人の街。その北側にあるセネガル料理屋シェ・アイダ。しかし...一向に見つからない。しばらく漂う。パリのアフリカ人街はヨーロッパ大陸に突然アフリカへの入口が出現したかのようで軽く混乱する。結局、見つからない。たぶん閉店したのだろう。何度か鈴木孝弥さんがこの店のメニューをお手本にして創った料理を東京で食して期待が膨らんでいたので、泣く。そのあと、ロンドンからの友人と落ち合い3日目のフェスティヴァル会場に向かう。

 この日、まずはプリティ・リングという4AD所属のユニットに度肝を抜かれる。声だけでなく佇まいもビヨークっぽいメガン・ジェームズと、均整のとれた体つきなのにラップトップに向かってひたすらヘッドバンギングするコリン・ロディックの男女二人組。クリック系のサウンドに浮遊感ただよう歌声。聴いているだけでひたすら気持ちいい。小さい体のメガンが時おりドラを打ち響かせるのでハッとし、ニヤっとする。
 3日目だけオール・ナイトだったのでお客さんも若く、オシャレ。ロンドナーだったら無造作にアーティストTシャツなんかで済ますところ、やっぱりパリッ子は違う。マフラーの巻き方や靴の合わせ方ひとつ違う。もしかして日本のクラバーに近いのかもしれないが、まあ、なんというか絵になる。パリッ子のファッションに憧れても、絶対に真似できない。さすが本場、なんて常套句を思わず心の中でつぶやく。ロンドナーよりも踊らないけれど、踊る姿が美しい。見惚れる。そして、この人たちのなかで踊っている自分はなんてオシャレなんだ、なんて自己満足。
 さて、このフェスティヴァルで一番楽しみにしていたグレズリー・ベアーだ。新作『シールズ』はバンド・サウンドの完成度と、楽曲としての先進性が同居する近年では希有な作品として聴いていた。これがいわゆるロックなのかどうかもはやわからないが、ロック編成の音楽の可能性みたいなものさえ感じていた。
 いたってクールに進んでいくステージ。サウンドに対して忠実でストイックな印象さえ受ける。しかし、だからこそ時おりサイケデリックに、またゴシックに展開するとき、音の渦に吸いこまれる。アンサンブルに酔い痴れ、コーラスワークの虜になる。
 しかしハイライトはグレズリー・ベアーではなかった。演奏が終わると、間断なくデェスクロージャーがはじまる。ピンとした空気が暴発して一気にパーティ・ムードへ。まだ20歳そこそこの兄弟のデュオ。"Tenderly"のようなUKガラージから、"Latch"のようなハウスまで気の利いたグルーヴが会場全体を覆う。うまい......と油断していたらジェシー・ウェア"ランニング"のリミックスが投下される。まるでドナ・サマーを初めてクラブで聴いたときみたいに、我知らず全身で踊っていた。

夜は長かった。トータル・エノーモス・エクスティンクト・ダイナソーズの変態的なエレクトロ・ポップに嵌ったと思ったら、グラスゴー出身のラスティーのDJセットにも終止引き込まれ、何度も雄叫びをあげる。このとき、客席前線の熱狂度はすごくて、オシャレなパリジェンヌが乱舞。なんというか、世界中どこにいっても変わらない。結局は、そういうことだ。

Cero - ele-king

 街中がひっくり返ったような、東北地方の変わり果てた港町。その破壊のイメージが未だに私を離さない。比喩でもなんでもない、街は失われてしまった......と同時に、その街の記憶を持つ人びともまた、あるいは失われてしまったのだと思うと、奇妙な戦慄があった。完結してしまった喪失というものは、語り手を持たないものなのだと。
 私たちが放り込まれた「以後」の世界は、完結していない喪失が進行と回復を繰り返しているようなややこしい場所だ。もちろん、死や別れは最初から私たちの人生のオプションだし、その意味では何も変わっていないという言い方もできるだろう。だが、やはり、多くの人が見る世界の在り方が大きく書き換えられたのは間違いないと思う。
 その点、セロもたしかに、変わった。少なくとも、この新作『My Lost City』は、東京をもう以前とは違う(あるいは失われた)街と呼ぶことで生まれている。だが、ここには喪失を直視したことによって生じ得る重苦しさの類は、いっさいない。彼らは祝祭を継続する道を選んだのだ。いわば、現実に対する非服従としてのポップ・ミュージックを奏でている。喪失と、祝祭を、同時に引き受けることによって、それは高らかに鳴っている。
 
 "大停電の夜に"が持った奇妙な予見性、そして、『WORLD RECORD』(2011)がそれと同時に持った同時代的な切迫感との乖離。そのギャップが彼らを苦しめていたことを、私は知らなかった。「でも、その時、村上春樹が『海辺のカフカ』で「想像の世界においても、人は責任を負わなければならない」というようなことを書いていたなって、頭をよぎったんです。(https://www.kakubarhythm.com/special/mylostcity/)」――そう、セロは、より強力な物語を立ち上げることで、虚構の作り手としての責任を引き受けたのだろう。
 より大きな現実には、より大きな虚構を。"水平線のバラード"のア・カペラで導入され、以降、賑やかに、カラフルに、48分が目まぐるしく展開していく。何かヘヴィなものを振り切るように、ある種の切実さを持って、『My Lost City』は明確に祝祭性を志向する。現実からもっともっと遠く離れて。悲観や感傷ではなく、さらに大きな、情熱的なファンファーレで、「以後」の世界に生きる人びとを迎え入れている。

 音楽としてのスケールも遥かに大きくなっているように思う。はっぴいえんど、鈴木恵一、ジャズ、ファンク、合唱、テクノ、キューバ音楽......打楽器にしても、金管にしても、鍵盤打楽器にしても、1曲のなかでも目まぐるしくシャッフルされ、特に演劇仕立てのプログレッシブ・ポップな展開を見せる"船上パーティー"は中盤のハイライトとなる。
 また、セロ a.k.a. Contemporary Exotica Rock Orchestraというネーミングは実に的確で、チェンバー・フォーク的な緻密さと、ストリート・バンド的な豪快さを兼ね備えたムードがあり、何より、『My Lost City』からはたくさんの人の気配がする。スティールパンやトランペットで参加しているMC.sirafu、ドラムス、サックスで参加しているあだち麗三郎らは事実上のバンド・メンバーのようで、演奏のクレジットは賑やかなことになっている。
 そう、音楽を作ることがあまりにも簡単になったこの時代に、数分のポップ・ソングのために数十人が集まっている。その光景を想像するだけでも感動的である。ルー・リードのクラシック"A Walk on the Wild Side"(1972)をトロピカル・サイケ・ポップにリアレンジしたような"cloud nine"、合唱に包まれながら、幽霊船に乗って暗闇の中を突き進む"Contemporary Tokyo Cruise"、そしてアルバム本編の実質的なエンディングを飾る"さん!"の底なしの多幸感には、私は小沢健二を感じた。

 しかし『My Lost City』は、そこで終わらない(終わっていれば、いわゆる出来過ぎた「名盤」である)。"わたしのすがた"で、物語の主人公は現実の東京に戻っている。虚構の旅を終え、CDと文庫本でぐちゃぐちゃになった狭い部屋で、現実に思いを馳せる彼は、『My Lost City』を聴き終えたあなたそのものだ。そこで何を思う? 音楽で盛り上がったところで、「この街」は変わらない。そうした無力感とも取れる感情を吐き出し、『My Lost City』は、エレクトロニックな閉塞感とともに、ある意味では汚い終わり方をする。
 ポップ・ミュージックが多くの人を熱狂的にアップリフトさせる時代は終わったし、その不可能性に逆に陶酔するというシニシズムの時代も終わったのだと思うが、それを自覚した上で、個人以上/社会未満としての都市(シティー)の気分や気配を、そのまま音楽にしてしまうことを、セロは諦めていない。それでも、"わたしのすがた"が生まれなくてはならなかった(あるいは録音されなければならなかった)理由を考えると、なんともアンビヴァレントな気持ちになる、、、。

 少し話を変えよう。『My Lost City』が持つ意味について。筆者は昨年、「スモール・ミュージック」という言葉でこの国のあまり売れていない(だが素晴らしいと思える)音楽を形容したけれども、これは、かつて本誌編集長がロバート・クリストガウを引用する形で紹介した「セミ・ポップ」という概念とは少し違う。細分化に対して下位層に潜るのではなく、そこがどれほど狭い場所であれ、堂々とポップの可能性にベットする音楽――『ピッチフォーク』の表記に倣えばスモール・ポップ――の時代は、欧米ではアーケード・ファイアの『Funeral』(2004)で始まっているが、『My Lost City』はつまり、この国のインディ・ポップにおける始まりのはじまりである。
 また、地球儀を軽くスピンするようなその豊かな音楽性を踏まえれば、『Illinois』(2005)前後のスフィアン・スティーヴンスに対する「風街」からの回答とも言えるし、あるいは、90年代に『LIFE』があったのなら、私たちの時代にはこれがある、『My Lost City』はそういう作品だ。奇跡のようなポップの現象はもう、このさき生まれ得ないのだろう。だが、奇跡をともに願える仲間を、セロは見つけたようだ。それもまた、小さな奇跡なのではないだろうか。「いかないで、光よ/わたしたちはここにいます」("Contemporary Tokyo Cruise")――この祝祭は、きっと徒花ではないし、ひとりの天才が作り上げた孤城でもない。枯死していく風景の中に浮かび上がる、輝かしい宴の虚像。この時代を笑顔で生きようとする人びとに捧げられた、巨大な祈りとしての音楽が、ここにある。

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