「iLL」と一致するもの

Ryuichi Sakamoto、Illuha、Taylor Deupree - ele-king

 私はジョン・ケージが「聴くこと」のみを単純に推奨したとは思えない。どう考えても事態は逆だ。ケージはむしろ「聴こえないこと」の問題を人生かけて追及したのではないか。あの有名な無響室での彼の経験は、聴こえないことの驚きであったはずだ。ケージは音を「生きているもの」「捉えられないもの」として、いわば不確定な運動体として認識していたと思うのだが、無響室においては音が止まっている経験をした(のかもしれない。そんなことは本人しかわからない。だがそれで何が問題あるのか?)。音が聴こえず、真空状態にいること。音が止まっている経験。聴こえるのは体内の音のみ。それは死に限りなく近い体験であったともいえよう。つまり音の極限地点であったのだ。

 その意味で「静寂な」エレクトロニカ以降のアンビエント/ドローンやフィールド・レコーディング作品がときにケージの美学を援用するのは、「ジョン・ケージという作曲家のイメージ」を借用・援用したに過ぎない。大谷能生が言うように、「4分33秒」は休符の音楽だし、休符はカウントしなければならないのだから、そのとき演奏者は厳密には世界の音のざわめきなどを聴いて恍惚になっている場合で(暇)はないはずだ。演奏者は自分の/他人の音楽を聴かなければならない(黙々とカウントしている)。
 とはいえケージの思想は極端な両義性をもっているからこそ誤読できるし、誤読できるからこそ、普及しやすい。それゆえ誤読の豊かさがあるともいえる。それは事実だ。だが、本当にジョン・ケージは「聴くこと」のみを推奨していたのか。彼の言説にはどこかにトリックがないかともう一度疑ってみるのも悪くはないはずだ。それこそ誤読の可能性として。そもそも「音楽を演奏する」と、「世界の音を聴く」というのは、相反する矛盾を孕んでいないか。

 坂本龍一もまた、音楽/ノイズという両義性を生きてきた音楽家だ。坂本は類稀な作曲家でありながらも、同時に、ノイズに対して柔軟かつ鋭敏な感性を持ちつづけているサウンド・アーティストであり、ノイズ・コンポーザーであった。私はこのような両義性こそ、この音楽家の本質ではないかと思っている。たとえば、あのYMOの活動も、坂本にとっては新しい音色の探求と発見という側面も強かったはずである。だからこそ彼は2000年代を通じてカールステン・ニコライ(アルヴァ・ノト)やクリスチャン・フェネスらエレクロトロニカ/電子音響アーティストとのコラボレーションを続けてきたのではないか。そして細野晴巨、高橋幸宏ら「盟友」との再会・再合流もエレクトロニカを介してものではなかったか(90年代には『愛の悪魔』のサントラがある。坂本ノイズを満喫できる傑作だ)。
 その音楽/ノイズという両義性は、2009年にリリースされた坂本のソロ・アルバム『アウト・オブ・ノイズ』以降、より随所にあきらかになっている(正確には2004年の『キャズム』をもうひとつの中継点とした00年代全般だが)。彼は作曲家として世界のノイズをリ・コンポジションしようとしている。そこで坂本が取った方法論は何か。私は、即興=インプロヴィゼーションとコンポジションの交錯であったのではないかと思う。さまざまな音への反応によって、世界の音を再構築していく行為だ。彼が2000年代を通じて行ったカールステン・ニコライやクリスチャン・フェネスとの共同作業もインプロヴィゼーションからはじまってコンポジションへと行きつく創作であったはずである。グリッチからアンビエントへ、という変化もこれに呼応している。だが、これは世界的な傾向でもあった。坂本はつねに世界の無意識にアジャストする。

 この2015年にNYのレーベル〈12k〉からリリースされた坂本龍一とテイラー・デュプリーとイルハ(コリー・フラーと伊達伯欣)の3組(4人)による『パーペチュアル』がリリースされた。本作もまた、エレクトロニカ以降のインプロヴィゼーションとコンポジションの交錯としてのアンビエントを、より深い次元で実現している傑作であった。
 演奏は2013年夏、山口のYCAMで繰り広げられたもの。4人での演奏はこれが初という。もっとも坂本はテイラーと共演経験があり、すでに〈12k〉からデュオ・アルバムを出しているし、イルハも〈12k〉からアンビエント作品をリリースしており、いまや新時代のアンビエント・アーティストと目されている。彼らのファースト・アルバム『shizuku』は、鎮静と静寂を与えてくれる傑作だ。もちろんテイラー・デュプリーとの競演の経験もある。
 だが、4人という状態になったことで、それぞれの共演とがちがう奇跡が起きたようにも思える。坂本龍一、テイラー・デュプリー、イルハらによる3組4人の演奏は、偶然とコントロールの狭間で揺らめいている。まるで光のように。まるで空気のように。坂本は彼らしいピアノをほとんど演奏していない。そのかわりに叩く、擦る、落とすなどしていてサウンドを生成させている。まさに「アウト・オブ・ノイズ」。

 何より、これがインスタレーション的なサウンド・アートではない点が重要だ。彼らはそれぞれの演奏者の音を意識しつつ、ときに受け流し、ときに反応をしている。つまり「音楽を演奏している」のだ(と同時に彼らの音はパフォーマンスである。かつて坂本が影響を受けたナム・ジュン・パイク的な演奏ともいえる)。
 朝霧のような持続音からはじまり、まるで明け方から早朝にかけての大気の変化のような1曲め“ムーヴメント1”、繊細な音と微かにプリペアドされた異物感のある音などが蠢く2曲め“ムーヴメント2”、カサカサと鳴る静かなノイズの狭間から、水滴のように美しいピアノが鳴り響く3曲め“ムーヴメント3”まで、まさに光の陰影のような音響/音楽である。
 このアルバム(録音)で注目すべき点は何より3人の個が音の空気の中に融解している点だ。反応と生成によって生まれる音響空間は、それぞれ個性的な音楽家の個性を消し去る。音を聴いているかぎりでは3曲めに僅かにあらわれる坂本のピアノなどを除き、どの音を3人が発生させているのかは即座にはわからない(担当楽器のクレジットと照らし合わせ、よく聴けばわかるが)。インプロヴィゼーションからの無の生成。それはけっしてネガティヴな意味ではない。美しい音響の空間の生成のみ貢献しているのだから。個人的には2曲めに突如響くコインが落ちる音のようなサウンドにとても惹かれる。なんという美しい音だろう……!

 そうして生まれた美しい音の群れは、私たちの耳を静かに通り過ぎていく。「聴く」という後期の恣意性は宙吊りにさせられ、音の繊細な変化に、ただ耳を傾けることになる。そう、聴き手は音を捕まえることはできない。音響による無の生成。それはアルバム名とおり「永遠」をも意味しているはずだ。永遠=無。この「永遠」の領域においては「聴こえる/聴こえない」の距離は、そう遠くないものとして存在している。「生きること」と「死」が常に隣り合わせのように。動き。持続。変化。永久。無。つまり「音楽」とは生と死の営みなのであり、即興と作曲は人生そのものを刻みつける行為なのだろう。


(追記)
 本年2015年に入り、坂本龍一関連のリリースが相次いだ。中でも2005年から2014年までの未発表曲集『イヤー・ブック2014-2015』は非常に重要なアルバムである。2005年以降ということは、坂本流のグリッチ・ミュージックの消化ともいえる『キャズム』以降であり、また、アンビエント/ドローン(およびポスト・クラシカル)の時代を先駆けた2009年の『アウト・オブ・ノイズ』直前と以降を挟んでいる重要な時期に当たる。クリスチャン・フェネスやカールステン・ニコライ、クリストファー・ウィリッツなどと共作を行っていた時期でもあり、どの楽曲も(とくに2011年以前)、彼の音楽のドローン性とそのドローンの内部に運動する微細なサウンドが、静謐な音響の中に生成していくさまが手にとるようにわかってくる。また、2009年以降の音には、来るべきソロ・アルバムの萌芽を聴きとることも可能だろう。美術館やCMなどのために作られた音楽だが2000年代中盤から2010年代初頭の坂本龍一が、いかにサウンド・アーティスト/ノイズ・コンポーザーとして充実していたのかをあらためて知ることができる。このような充実した曲がいままでリリースされなかったことは、彼の現在進行形としての音楽家としての全体像を私たちは捕まえていなかったことになる。まさに発表されなかった幻のソロ・アルバムといっても過言ではない。また、ようやくリリースされた『音楽図鑑 2015エディション』は、本編であるディスク1のリマスターも、いたずらに音量・音圧を上げずに音の解像度を明確するというじつに素晴らしいリマスタリングが行われており必聴だったが、マニアなら未発表曲・テイクのみを収録したディスク2も貴重な音源だ。とくにラストに収録されたアンビエント/ドローンな未発表曲“M33 アンタイトルズ”は、この作曲家にとって音の内部にミクロに動く音の運動がいかに重要なエレメントであるのかわかってくる。坂本本人もインタヴューで語っていたが、たしかに彼の現在の作風に近く、非常にいまを感じる曲だ。

REMI (ROUNDHOUSE / DAWD) - ele-king

All time favorite BOOTLEG KILLER HOUSE tracks

MORE INFO
AIRでシカゴハウスパーティ「ROUNDHOUSE」やってます。次回は4月17日金曜日にシカゴのゴッドファーザー「Marshall Jefferson」をゲストDJに開催します。
https://www.air-tokyo.com/schedule/2013.html

DJスケジュール等はこちらで。
https://acidbabyjam.blogspot.jp/
https://twitter.com/theacidbaby
https://www.facebook.com/remi.yamaguchi.3

Afrikan Sciences - ele-king

 フラング・ロータス、さもなければシカゴのディープ・ハウスおける最重要プロデューサー、90年代後半のロン・トレント──、アフリカン・サイエンスのアルバム『Circuitous』を聴いたとき、そのように感じました。アフロで、コズミックで、スピっているようです。
 とはいえ、こちらは、ベルリンのもっともクールなレーベル〈PAN〉からのリリースです。アフリカン・サイエンスはよりモダンで、実験的で、フリーキーです。音楽の向こう側には、ブラック・サイエンス・フィクションが広がっているかもしれません。ケオティックです。何かが起きているようです。アクトレスを思い出して下さい。この音楽は、どきどきします。
 まったく……これは注目の初来日です。

AFRIKAN SCIENCES Japan Tour 2015

Afrikan Sciences x DE DE MOUSE
4.24 fri @ 大阪 心斎橋 CONPASS
Live Acts: Afrikan Sciences(PAN, Deepblak - New York), DE DE MOUSE
DJs: T.B.A.
Open/ Start 19:00
¥ 3,000(Advance), ¥ 3,500(Door)plus 1 drink charged @ door
前売りメール予約: https://www.conpass.jp/mail/contact_ticket/
Ticket Outlets: PIA, LAWSON, e+(eplus.jp)
Information: 06-6243-1666(CONPASS)
www.conpass.jp

UBIK
4.25 sat @ 東京 代官山 UNIT
Live Acts: Afrikan Sciences(PAN, Deepblak - New York), N'gaho Ta'quia a.k.a. sauce81(disques corde)
DJs: Shhhhh(SUNHOUSE), MAMAZU(HOLE AND HOLLAND)
Open/ Start 23:30
¥3,000(Advance), ¥3,500(Door)
Ticket Outlets: LAWSON(L: 76745), e+(eplus.jp), disk union CMS(渋谷, 新宿, 下北沢), TECHNIQUE, Clubberia Store, RA Japan and UNIT.
Information: 03-5459-8630(UNIT)
www.unit-tokyo.com


Afrikan Sciences(PAN, Deepblak - New York) https://soundcloud.com/afrikan-sciences
オークランド出身、 NY拠点のエリック・ポーター・ダグラスのソロ・プロジェクト。DJとして80年代のヒップホップをルーツに持ち、90年代後期の電子音楽のプロダクションに自身のサウンドを見い出し、2007年にオークランドの盟友 Aybee主宰の〈Deepblak〉からデビュー、同レーベルからEPとアルバムをリリース、 Gilles Peterson主宰の〈Brownswood〉のコンピレーションにも参加。Afrika Bambaataaの私生児、SF作家Octavia Butler、 Sun Raの孫息子とも言及され、90年代の東海岸のハウス、40年代のジャズ、 西ロンドンのブロークン・ビーツ、土着的なアフリカやラテンのリズムから掻き集め、蓄積されたビートの感性は様々な音楽のフォームとサイファイ・ビジョンと結びつきながら独創的なプロダクションへと発展。AybeeとのMile Davisトリビュート・プロジェクト『Sketches Of Space』ではアシッド・ハウス先駆者Ron Hardyとアフロ・ビートかけあわせたような作品を披露。 長年先人達によって育まれ、更新されて来たアフロ・フューチャリズムの前衛としても異彩を放つ電子音楽家である。

N'gaho Ta'quia a.k.a. sauce81(disques corde) https://soundcloud.com/sauce81
プロデューサーsauce81の変名プロジェクト。sauce81としては、2008年、バルセロナにて開催されたRed Bull Music Academyに招待され、Sonar Sound Tokyoなどの国内フェス、海外でのライヴパフォーマンスも行っている。生々しいマシン・グルーヴとラフで温かみのあるシンセ使い。雑味たっぷりの楽器演奏と時折表すファジーでメローなボーカルワーク。ディープなソウルとファンクネスをマシンに宿すプロダクション・スタイルで、数々のリミックス、コンピへの楽曲提供を重ねてきた。これまでに『Fade Away』EP、『All In Line / I See It』EP、77 Karat Gold(grooveman Spot & sauce81)『Love / Memories In The Rain』7inch、『It's About Time』EP などのオリジナル作に加え、Shing02脚本・監督のショートフィルム『BUSTIN’』のために書き下ろした楽曲が、UKの〈Eglo Records〉から『Natural Thing / Bustin'』7inch レコードとしてリリース。N'gaho Ta'quia(ンガホ・タキーア)では、自身のルーツである 70's ジャズ、ファンク、ソウル・ミュージックをヒップホップ/ビート・ミュージックのフィルターを通してアウトプットすると共に、アルバム制作へと繋がるコンセプチュアルな世界観を表現している。

Shhhhh(SUNHOUSE) https://twitter.com/shhhhhsunhouse https://shhhhhsunhouse.tumblr.com/
DJ/東京出身。オリジナルなワールドミュージック/伝統伝承の発掘活動。フロアでは民族音楽から最新の電子音楽全般を操るフリースタイル・グルーヴを発明。オフィシャルミックスCD、『EL FOLCLORE PARADOX』のほかに『ウニコリスモ』ら2作品のアルゼンチン音楽を中心とした、DJ視点での南米音楽コンピレーションの編集/監修。ライナーノーツ、ディスクレビューなど執筆活動やジャンルを跨いだ海外アーティストとの共演や招聘活動のサポート。 全国各地のカルト野外パーティー/奇祭からフェス。はたまた町の酒場で幅広く活動中。

Mamazu(HOLE AND HOLLAND)https://mamazu.tumblr.com/
SUPER X 主催。90年代中期頃からDJとして活動を始める。今は無きclub青山MIXの洗礼を浴び、音と人、空間に触発され多種多様な音を吸収。小箱から大箱、野外まで独自の視点で形成される有機的なプレイを続け、国内外数多くのDJ、アーティストとの共演を果たす。トラック制作ではSkateDVDの『007』や『LIGHT HILL ISM』、雑誌『TRANSWORLDJAPAN』付録DVD、代々木公園にて行われる伝統ダンスパーティー『春風』のPVなどに楽曲を提供。2011年HOLE AND HOLLANDから発売されたV.A『RIDE MUSIC』の収録曲「ANTENA」ではInterFMなどでも放送され、日本が宇宙に誇るALTZもPLAY!、BOREDOMSのEYEもMETAMORPHOSE 2012でPLAYし、REDBULL主宰の RBMA RADIO にて公開され大きな話題となる。2012年5月には『RIDE MUSIC』から待望のアナログ・カット、MAMAZU - ANTENA - YO.AN EP EDITをリリースしこちらもALTZ、INSIDEMAN aka Q(Grassroots)、箭内健一(Slow Motion Replay)、YAZI(Blacksmoker)などなど様々なDJがPLAY中!2013年は自身初となるMIXCD『BREATH』をリリースし、最近ではアパレルブランドSON OF THE CHEESEの2015F/WのイメージMIXを提供。HOLE AND HOLLANDからリリースが予定されている。またCOGEEとのB2Bユニット『COZU』やSUNGAを加えたライヴユニット『DELTA THREE』ではBLACK SHEEPによるコンピレーションLP『ANTHOLOGY』に曲を提供するなど、活動は多義に渡る。

Black Zone Myth Chant - ele-king

 昨年11月にヒッソリと再来日を果たしていた流浪のフレンチ・サイケ・クラウト・ドローン・ドリフター、ハイウルフ(High Wolf)の公演に行かれた方はおられるだろうか。もはや遥か昔のようだが、初来日ツアーでのサポートにてさんざんタカられたトラウマから僕は彼ことマックスに顔を合わせていない……というのは半分ウソで、多忙にかまけて彼の今回のライヴ・セットをすべて見逃してしまったのを悔やんでいる。オフの日は普通にいっしょに遊んでいたのだが……。

 そもそものハイウルフのコンセプトはアマゾン出身の謎のミュージシャンという設定で、当初は仮面なんか付けちゃって、出来もしないライヴ・パフォーマンスをデッチ上げて強引なツアーを敢行していた完全なベッドルーム・ミュージシャンであった彼は、しかしその圧倒的な量のツアーをこなすことによって次第にリアルなスキルを身につけ、てか仮面とか被ってたら演奏しづらいしってことでコンセプトが有耶無耶になりながらもミュージシャンとしてめざましい成長を遂げたと言っていい。アナプルナ・イリュージョン(Annapurna illusion)と、このブラック・ゾーン・ミス・チャント(Black Zone Myth Chant)は異なるコンセプトの下に活動する彼の変名プロジェクトである。これも本人的に当初は別の誰かがやってるってことにしてほしかったと思うのだけれども、もはや完全にバレバレってのも彼らしい。

 BZMC名義としては2011年にリリースされた『ストレート・カセット(Straight Cassette)』以来、およそ4年ぶりとなる今回の『メーン・セセル・ファーレス(Mane Thecel Phares)』もまた彼が長年に渡ってワールドワイドなアンダーグラウンド・ミュージック・シーンにてドリフトを経た進化を充分に感じさせる内容である。胡散臭いエセ・エキゾ感は彼のその他のプロジェクトと同様だが、BZMCは彼のミュージシャンとしての出発点でもあるヒップホップ的ビートメイキングへの回帰でもある。時にインダストリアルな鉄槌感はあれど暴力的にはけっして展開せず、無意味に極彩色のアシッド・トリップに走ることを抑えてあくまで上品なサイケデリックを聴かせ、レトロなメロディによるリードが洗練されたトライバル・ビートを締めてくれる。同時代の変テコ電子音楽家たちに比しても見事にストイックな差別化を果たしていると言えるだろう。

 ちなみにリリース元である〈エディションズ・グラヴァッツ(Editions Gravats)〉はマックスと同郷で親交を深めるロウ・ジャック(Low Jack)によるレーベルである。噂によると、ていうか飲みながら本人が言っていただけなんだけども現在この二人によるバンド編成による新たなプロジェクトが水面下で進行中とのことでこちらもじつに楽しみだ。そしてマックスのハイウルフの新譜、グローイング・ワイルド(Growing Wild)は間もなくマシュー・デイヴィッドの〈リーヴィング・レコーズ〉より発売される。

 こっちもいっしょにレヴュー書こうかと思ってたけど、まぁ、いろいろお前には貸しもあるし、気分が向いたら書いてやんよバーカ、マックス、愛してるぜ。

ENA - ele-king

 コム デ ギャルソンと音楽。このふたつを考えると真っ先に頭に浮かぶのは、1991年に東京でヨウジヤマモトと合同で開催されたメンズ・コレクションのキャットウォークを、ハーモニカを吹きながら歩くジョン・ルーリーの後ろ姿だ。もちろん写真でしか見たことがないし、写真なので動いてもいないのが、頭のなかでそのジョン・ルーリーは映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のようによろよろと進み、オーバーサイズのジャケットを揺らしている。

 過去には小野誠彦がショーの音楽を担当し『コム デ ギャルソン オノ・セイゲン』という作品集もリリースされているほど、ブランドを率いる川久保玲は音楽を常に重要な要素として位置付けてきた。2012年にオープンした川久保主導によるセレクトショップ、ドーバー・ストリート・マーケット・ギンザ(以下、DSMG)の音楽をブルックリンを拠点に活動するサウンド・アーティストのカルクス・ヴィーヴ(Calx Vive)に依頼したことから、その姿勢は今日も健在なようだ。ヴィーヴはニューヨーク店の音楽環境も担当し、店内のBGMだけではなくレコード・プレイヤーから構築した芸術作品も同店舗のために創作している。

 「サンプリングもしません。自分のコピーもしません。それは自分のキャリアを殺すことになっちゃうんですよ」とエナは本サイトのインタビューで語ってくれた。ルールを破壊し見るものの想像を超えるような服を常に提示してきた川久保玲の姿勢とエナのことばは共鳴する部分がある。
 ドラムンベースとダブステップを通過し、よりミニマルで音響的なアプローチから生まれたエナのアルバム『バイノーラル』は、今日ますます細分化していくダンス・ミュ—ジックのシーンに点在するどの音にも回収されない2014年の快作だ。そんな彼の作品にコム デ ギャルソンの「音」を担当するカルクス・ヴィーヴは渋谷のレコード店テクニークで出会う。そこからエナの音楽がDSMGの店内BGMに起用され、その一環として店内でライヴを行うことになったのだから偶然とは面白い。
 
 当日はDSMGの3階(コム デ ギャルソンのメンズラインなどのスペース)に特設の会場が設けられ、買い物に訪れたひとびとや、ブランドの関係者、エナのホームである〈バック・トゥ・チル〉やドラムンベースのパーティの常連たちが集まっていた。木製のボディが目を引くドイツのムシークエレクトロニク・カイサイン(musikelectronic geithain)社製のスピーカーME-800Kが2台設置され、その間にセットされたブースにエナの姿がある。
 昨年の〈バック・トゥ・チル〉で行われたライヴでは低音に特化したサウンドシステムを用いて、溢れんばかりのノイズの海を重低音が統制していくようなセットが披露された。クラブではなく音響システムも異なる環境でどのようにライヴを繰り広げるのか、会場の期待は高まっていく。

 定刻になるとエナを起用したカルクス・ヴィーヴ本人が現れ、ライヴの趣旨を説明する。ここで少々意外だったのは、今回の企画にはアーティストの支援も目的にあるということだ。単純に服をよく見せるために音楽が使われてきたことはあったが、アンダーグラウンドのアーティストに活動の場を提供するという形で音楽と服が手を組むことはそうあるものではない。会場にはテクニークによる売り場も設置され、エナの作品がその場で購入できるようになっていた。

 ヴィーヴのスピーチが終わると、とうとうエナのライヴがはじまる。今回のセットではスピーカーの特性を生かしてか、中高域のノイズの部分に焦点を当てているライヴが進行していくように感じた。エナは手元にあるギター用のエフェクターから偶発的に音を作り出しそれを幾重にも重ねていき、雑音になってしまうギリギリのところでミキサーを操り即興で音像を構築していく。
 すでにリリースされた曲のテーマ(のようなもの)が断片的に聴こえてはくるが、自分が目の前にしている音が果たしてそれなのか確信は持てなかった。断言できるのは、音にはドラムンベースのBPM170のグルーヴがしっかりと残っていたということだ。リズムや曲の構造にある程度のルールが敷かれたダンス・ミュ—ジックのフィールドで、エリック・ドルフィの「音楽を聴き終った後、それは空中に消えてしまい、二度と捕まえることはできない」を地でいってしまう約45分間のパフォーマンスだった。

 ファッションと音楽。リック・オーウェンスの2014年のパリ・コレクションではエストニアのバンド、ウィニー・パフが現れ、昨年の11月に東京で開催されたC.Eのプレゼンテーションでは〈ザ・トリロジー・テープス〉のリゼットがライヴを披露し、そこには服のためとも音楽のためともつかないような空間が広がっていた。音楽の聴き方だけが多様化するのではなく、ミュージシャンが立つステージのあり方も変わりつつある。今回のエナのライヴもファッションにおけるその一例に過ぎないが、音楽シーン全体の今後を考えるうえで大きな出来事だったのかもしれない。

ENA - Binaural
Samurai Horo / melting bot

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ENA - Bilateral
7even Recordings / Pヴァイン

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HMV

V.A.
GOTH-TRAD Presents Back To Chill "MUGEN"
Back To Chill / Pヴァイン

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ele-king限定公開〈4AD〉ミックス! - ele-king

〈4AD〉といえば、最近はバウハウスでもコクトー・ツインズでも『ディス・モータル・コイル』でもない。それはすでにディアハンターであり、アリエル・ピンクであり、セント・ヴィンセントであり、グライムスであり、インクのレーベルである......というのは引用だけれども、そのアップデートはさらに途切れることなくつづいているようだ。レーベルとしてのカラーをまったく色あせさせないまま、しかしそこに加わっていく音とアーティストたちはより多彩により新鮮に変化している。
先日もピュリティ・リングの新譜が発表されたが、これを祝して〈4AD〉のA&R、サミュエル・ストラング(Samuel Strang)氏がレーベルのいまを伝えるミックス音源を届けてくれた。ele-kingのために提供してくれたもので、もちろんピュリティ・リングからはじまるセット。ギャング・ギャング・ダンスやチューンヤーズのエクスペリメンタリズムもくすまないが、グライムスピュリティ・リングドーターなど〈4AD〉らしい幽玄のヴェールをまとうエレクトロニック勢、アリエル・ピンクディアハンターらのアウトサイダー・ロック、ソーンのインディR&B、ホリー・ハーンドンのテクノ、そして昨年大きな話題となったスコット・ウォーカー+サンのコラボレーションまで、未発表はないものの、「そういえば聴いていなかった」作品に気軽に触れて楽しめるいい機会なのではないだろうか。


Purity Ring - push pull
Gang Gang Dance - MindKilla
Ariel Pink - Dayzed Inn Daydreams
Deerhunter - Sleepwalking
Daughter - Youth
Grimes - RealiTi
Tune-Yards - Real Thing
SOHN - Artifice
Scott Walker + Sunn o))) - Brando
Holly Herndon – Interference

Selected by Samuel Strang(4AD)


高木壮太 (CATBOYS) - ele-king

狂おしくも美しい曲を訪ねて

「午前3時のラウンジ・ファンク・バンド」CATBOYSのファースト・アルバム
『BEST OF CATBOYS vol.1』4月20日発売です。
問い合わせブッキングはcatboys@m02.itscom.netまで
スケジュール
4月17日きんようび 深夜 吉祥寺チーキー DJ
4月20日げつようび 20時 渋谷HMV インストア
4月25日どようび 深夜 渋谷 梅バー
5月02日どようび 深夜 青山蜂
5月05日こどものひ 深夜 渋谷クラブエイジア
5月22日きんようび 深夜 神宮前ボノボ】

interview with D.L - ele-king

MixCDFunkJazzHiphop

『FREEDOM JAZZ FUNK“Everything I Dig Gonna Be Funky”』
Track List
01. LES DEMERLE / A Day In The Life
02. PLACEBO / Balek
03. LES DEMERLE / Moondial
04. PLACEBO / Humpty Dumpty
05. PAUL HUMPHREY / Do The Buzzard
06. LEMURIA / Hunk Of Heaven
07. BILLY WOOTEN / Chicango (Chicago Land)
08. WENDELL HARRISON / Farewell To The Welfare
09. MANFREDO FEST / Arigo
10. LES DEMERLE / Underground
11. PLACEBO / Bolkwush
12. JAZZBERRY PATCH / Jazzberry Patch
13. SOUNDS OF THE CITY EXPERIENCE / Getting Down
14. MANFREDO FEST / Jungle Kitten
15. IVAN BOOGALOO JOE JONES / Confusion
16. LES DEMERLE / Aquarius
17. HOT CHOCOLATE / What You Want To Do
18. THE WOODEN GLASS featuring BILLY WOOTEN /Monkey Hips & Rice
19. BOBBY COLE / A Perfect Day
20. ROY PORTER SOUND MACHINE /Out On The Town Tonight

 いまやヒップホップのみならず、ファンクやレアグルーヴ、そして、和モノDJとしても活動し、ファンですらBuddha Brandとしての活動を忘れてしまうほどに、DJとしての圧倒的な存在感を見せつけているD.Lが老舗レーベル〈Pヴァイン〉と組んで、今冬、ミックスCD『FREEDOM JAZZ FUNK』をリリースした。「Everything I Dig Gonna Be Funky」=俺のディグったものすべてがファンキーになるとの副題のついたこのCDは、〈Pヴァイン〉が誇る極上の音源をミックスしたというだけにとどまらない、D.Lにしか生み出せない太くファンキーなグルーヴに溢れた特別なものに仕上がった。ヒップホップやレアグルーヴ、フリーソウルのリスナーにはおなじみの名曲たちがD.Lの手により、そのイメージを一新しかねないほどのサウンドを手に入れている。4月、その第2弾となる『FREEDOM JAZZ FUNK “Mellow Storm”』がリリースされるのを目前に、まずは“Everything I Dig Gonna Be Funky”と刻まれたこの驚くべきミックスCDについてじっくり話をきいた。

■D.L / ディー・エル
Illmatic Buddha M.C's、Buddha Brandのキーマンとして90年代の日本のヒップホップ・シーンに旋風を巻き起こす。2005年の改名以前はDev Large名義でMC、プロデューサー、DJ、執筆業など多岐にわたる分野で活躍。レコードディガーとしても定評があり、ヒップホップはもちろん、Soul、Funk、Jazz、Rock、日本の歌謡曲まで貪欲にレコード探求を続ける。

フリーダム・ジャズ・ファンクっていう言葉が浮かんできて、じゃこれで作ろうって感じになってって。

柳樂:まずこれはどういうコンセプトで作られたのかっていうところから、はじめてもいいですか。

D.L:気づいたら、こうなっていました。コンセプトは無かったんです。無かったっていうか、いろいろ緻密に、どういうのにしようか、こういう楽曲があるよ、こんなのもあるよみたいなことを言ってるときに、フリーダム・ジャズ・ファンクっていう言葉が浮かんできて、じゃこれで作ろうって感じになってって。曲ありきで、曲からいろいろこうイマジネーションが膨らんでった感じなんです。

柳樂:たとえば、キーとなる曲はどういう曲ですか?

D.L:もともとビリー・ウッテン(Billy Wooten)の“イン・ザ・レイン”を入れたかったんですよ。“イン・ザ・レイン”をいちばん最後に入れようみたいな感じで。でも、もうそれ無くなっちゃったんで、次の作品に入れると思うんですけど、このアルバムで言うとやっぱプラシーボ(Placebo)とレス・デマール(Les Demerle)、そうだな、そのへんが、すごく絶対入れたいものだなって。やっぱり最初の4、5曲めくらいの間に入れて、試聴機にかかったときにそこで引っかかるようなものになったらいいなと思ってたんです。

柳樂:プラシーボが3曲で、レス・デマールが4曲入ってますもんね。

D.L:そうなんです。この2組をピックアップしたかったんです。あとアイヴァン・ブーガルー・ジョー・ジョーンズ(Ivan Boogaloo Joe Jones)のこの“コンフュージョン(Confusion)”とか、ジャズベリー・パッチ(Jazzberry Patch)とか、そのへんのジャズ色が強いと思ってるんで。

柳樂:このミックスCDを何回も繰り返し聴いたんですけど、とくにびっくりしたのがレムリア(Lemuria)で、ぜんぜんイメージが違いますね。

D.L:あーそうですね、たしかに。

柳樂:D.L.さんの昔のインタヴューで「メロディアスで軽くないやつがいい」とかって、そういう軽くなくてファンキーでちょっと重いものが好きだみたいな話をされているんですよ。でも、レムリアって軽くてメロウな印象があったんですけど、ここに入っているレムリアはまったく印象が違ってて。だから、「こんなんだったっけ?」と思って何回も聴いたんですけど。プラシーボとかもそうですね。今回この並びで、このミックスでぜんぜん曲の印象が変わったのかなと。どういうイメージで作ったんですか?

D.L:最初から最後までだーっと行っちゃうのもおもしろくないので、2ヵ所か3ヵ所、パッと変えるところを作ろうと思って入れたのがレムリアと、マンフレッド・フェスト(Manfred Fest)。そこがすごい変わるところだったんですよね。あと、なんて言うのかな。これはあくまでも〈Pヴァイン〉が持ってるグレートな音楽の中で作った74分20曲っていう感じなんで、たぶんいつも出してる自分のミックスCDのときは、もっと究極にどういう音を出したいかっていうところで引っ張ってくるので、そういった意味でちょっとは違うかもしれないですね。もしかするとレムリアはこの選曲には、自分の『ゲットー・ファンク(Ghetto Funk)』シリーズだったら入らなかったかもしれない。
あと個人的に思ったのがやっぱり1曲目のこれ(“ア・デイ・イン・ザ・ライフ(A Day In The Life)”を死ぬほど聴いてたんですけど、具体的にこの作業に入るまで、作曲者がジョン・レノンとポール・マッカートニーだなんてぜんぜん知らなくて、これはすごいびっくりしましたね。たぶんそう思ってる人も多いんじゃないかな。まだ原曲は聴いてないんだけど、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの。どういうものなのか。ただ、こっちのこればっかり聴いてるから、あの、たぶんわかんないだろうな、原曲聴いたとき。そんな気がしますね。

柳樂:ちなみに、このへんのレス・デマールとかプラシーボとかって、なんかサンプリングとかもされてるんですか?

D.L:自分は、してないです。

柳樂:ご自分でサンプリングネタとして使われる曲とかも入ってるんですか?

D.L:いや、あのね、いっつもそうなんですけど、なるべく使った後に入れるかなんかで、使おうと思ってるのは入れないときが多かったですね、いままで。〈ビクター〉で、前に2枚ほどやったのがあるけど、あれも使おうと思ってるのは入れなかったです。

柳樂:普段のDJで使う曲が多いですか?

D.L:ぜんぜん多いですね。都内でやるときはかけてます。最近は、地方に行くときは和モノの、頭のおかしいムード歌謡しかかけないで45分とか1時間半とかなんで。

柳樂:D.L.さんいま和モノですよね。このあいだディスクユニオンの和モノのセールで整理券1番だったらしいですね? 並んでるんだいまだにって思って。

D.L:でも、もっとすごい人たちがいますよ。DJじゃない、一般のおじさん。50いくつだって言ってたけど、ずーっと高校生のときに聴いてた昭和40何年の音楽を聴いてるって人。あそこ行きました? 新宿の昭和歌謡館(ディスクユニオン)。

これ、全部■■■■にしてるんですよ。

柳樂:行きましたよ。

D.L:異常ですよね。入った瞬間から。

柳樂:階段から異常ですよね。

D.L:うん、そうそう。

柳樂:いま和モノがいちばんやばいですもんね。

D.L:やばいですね。だからおれ和モノのコンピもやりたいんだよね。めちゃくちゃかっこいいのあるから。名盤解放同盟とか、〈Pヴァイン〉から出てたやつはCDも廃盤で高いんですよね。やりたいなぁ。

柳樂:ははは。僕もしばらくD.L=和モノっていうイメージがあったので、今回のジャズ・ファンクのミックスCDは逆に新鮮でしたね。

D.L:そうですね。こういうのも普通に聴くんですけどね。

柳樂:でもずっと和モノでまぁかなりプレイされて、けっこう長いじゃないですか。なんか和モノずっとかけてきて、逆にそれでこういうレアグルーヴの掛け方が変わったり、発見があったりみたいのってあります? ちょっと変わり種のジャズ・ファンクみたいなのも多いじゃないですか。プラシーボみたいなのも。

D.L:そうですね。

柳樂:そのへんって、カウント・バッファローズ感っていうか猪俣猛感っていうか、石川晶感っていうか。そういう普通のUSのジャズ・ファンクと違う感じのグルーヴみたいなものが、このミックスにはあるのかなっていうのを感じたんですよ。

D.L:たしかに、そうですね。プラシーボというよりも、マーク・ムーラン(Marc Moulin)とか変なのいっぱい入ってるじゃないですか。あっちから聴いてからプラシーボに行ったほうなんで、自分のDJではよくありがちなメインストリームのジャズ・ファンクとか70年代のUSモノじゃない感じは、モロしてましたね。そういった意味でカウント・バッファローズとかめちゃくちゃなことしてるから好きなんですけど、ある種似たものを感じていたと言えばそうですね。

柳樂:なんかその感じなのかわかんないですけど、ザラザラした感じっていうか、ちょっとアンダーグラウンド感って言ったら違うかもしれないですけど、すごい太くて尖った感じがあって。全体的に。

D.L:これ、そうとうやばいミックスしてるよね。もうほとんどヒップホップなんですよ。楽曲は全部ジャズだけど。あと、これ、全部■■■■にしてるんですよ。

柳樂:!?

D.L:●●●●した上で■■■■■ってて。だからよく言われるんですよ。なんか太いですよね、あんな太かったっけなぁって。

柳樂:なるほどね、なんか音がすごいなと……

D.L:いままでありがちだった作り方のミックスCDではないんですよ。なんでそうなったかっていうと、MUROのやつ聴いたんですけど、すごい良かったんで、自分のはもっとアンダーグラウンドにできないかなっていうのがあって。

柳樂:そうですよね。だから僕がいちばん聴きたかったのは、レムリアとボビー・コール(Bobby Cole)が、そんな曲じゃなかったじゃんっていうことなんですよ。ボビー・コールはなんか、こういうミックスCDに入る感じの曲じゃないじゃないですよね、どちらかというとフリー・ソウル系で、もうちょっとライトな、爽やかな。

D.L:そうですね。

柳樂:だけどすげー粗いし音も太いし、これどうなってんだろうって思って。どういうミキサーをどういじったらこうなるんだろうなって思って。

D.L:じつはそういう強い▲▲▲▲▲になってるんですよ。だいたいいままで『ゲットー・ファンク』みたいなミックスCD って3日かかったのはほとんどないんですよ。これは全部合わすと5日くらいいってるかな。

いままで『ゲットー・ファンク』みたいなミックスCD って3日かかったのはほとんどないんですよ。これは全部合わすと5日くらいいってるかな。

柳樂:でもいままでそんなやり方したことないですよね。『ゲットー・ファンク』とか『テキサス・デス・ロック(Texas Death Rock)』とかでも。

D.L:そうですね。毎回こんなすごいのできればいいんですけどね。でも悲しいのは、誰も知らないんですよ。こんなすごいことをやってるって。もしかしたら音がちょっと怪しいなって思ってても、まさかここまで絵を描いてこうなんだなって思う人はいないんで。

柳樂:すごいなぁ……

D.L:このCDに入っても入らなくてもいいんですけど、■■■■を作ってもらうときに、その■■■■が変わる瞬間に、前のDJがいて後ろの前のレコードをひねりつぶすくらいズドンとくるつくりにしてくださいと言うんですよ。だからその、どの状態でもどこに行っても、誰の順番の後でも先でも、あ、絶対この曲かかっちゃうと前の人がかわいそうだなとか後の人かっこつかないだろうなっていう作りにしてくれってよく言います。だから全曲そういう感じになってるんです、本当に。

柳樂:たとえばそれはどういうところだったりします?

D.L:太いとこですね。いちばん太いところさらに太く。ちょっと困っちゃうのは、実際たとえばプラシーボの“ハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)”、これとか、なんて言うのかな。■■■■のほうがすごい太すぎるので、アルバムで▽▽▽▽▽▽▽の方をかける前に俺のをかけちゃうと▽▽▽▽▽▽▽のほうがつぶれちゃう感じになっちゃうんですよ、すごすぎて。すごいイコライジングしてもなかなか合わないものになってしまってて、最近出た■■■■に対して、やりすぎると困っちゃうななんて。かけれなくなっちゃって。それはもう、また▽▽▽▽▽▽▽のやつを■■■■作ろうかななんて思ってるんですけどね。

柳樂:ちなみにこれまではどうしてたんですか?

D.L:まぁ普通にできる範囲でちょろっとイコライザーとかいじるくらいで、他にできることは無かったと思いますね。

柳樂:じゃあ本当にそれですごい変わったんですね。

D.L:そうですね。あの、たとえば、うーんどうだろうな。クボタタケシってわかります? あいつとか、あの、DJのときにCDも多用するんで、たとえば坪井くん(illicit tsuboi)が作った曲とかもいつもヘビー・ローテションで入ってて、ああいう感じでそういうプレイをする人は、自分で加工したものを自分リミックスでかけるんでしょうけど、俺はそういうのやらなかったから。DJ Krushとか(DJ シャドウの)“オルガン・ドナー(Organ Donor)”の、すごい、もうなんだろうな、空爆にあってしまったようなすごいドラムのやつかけてて、こういうのいいな、なんて昔思ってたんですけど、まぁ、ああいうのを、こんどはいいなって思うんじゃなくて■■■■でかけちゃおうかなとか思ってるんですけど、なんかそういうことができたらいいな。

細かく叩くとすごい埃が出てくる危ないミックスCDです。

柳樂:じゃあ、でもご自分でDJするときのためにリミックスとかはされない?

D.L:ぜんぜんしなかったですね。あ、でも、■■■■作って以降は、いろいろ出てないのをやってるんだけど。KrushさんがMUROとやってる、“チェイン・ギャング(Chain Gang)”って曲、■■■■にしたから、よくかけてますね。

柳樂:そっか、ずっとプレイは基本■■■■ですもんね。

D.L:そうですね。あとそうだな、もっと本当はね、ちゃんとグルーヴよりのものをやりたいって考えたときもあったんだけどね、なんて言うのかな。MUROがやったフリー・ソウルのやつにけっこうもう好きなのが入っちゃってて、何曲か、2曲くらい、被ってるのあるかもしれないけど、あまりに向こうと合うともう意味ないから、そういうのはあえてやめようって入れなかったんですけど。あれはもうすごいいい選曲で、むちゃくちゃ、さすがだよな……

柳樂:MUROさんを意識してたんですね(笑)。

D.L:普通に考えると、あのキング(・オブ・ディギン)が3枚出した後に俺がやると人気ないなで終わっちゃうのかも知れないけど。けっこう、もうすごいガチガチかっこいい曲入ってるから、MUROがやると。だからハチマキしましたね、心で。それで、こういうものができたって感じですね。買える人はこの時期タワーで買えるから、逃さないでくれと言いたいんですね。こういうのなかなか作らないと思うから。

柳樂:そうですよね。

D.L:細かく叩くとすごい埃が出てくる危ないミックスCDです。あ、それちょっとかっこいいね。

柳樂:ははは。ザラッとしててちょっとスモーキーな感じで。

D.L:はい、そういう感じもありつつ。買ったリスナーの方は自分で叩いて埃を出してくださいと。

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あのね、すごい好きなのはね、また〈グルーヴ・マーチャント〉ですけど、なんかいちばん最初に浮かぶのはいつもそれなんですけど、

D.L: そういえば、ぜんぜん話が違うんですけど、びっくりするくらいすごい女の子がいるんですよ、ヤマハのエレクトーン・コンクールに出た女の子が、ビリー・ウッテン(Billy Wooten)の曲を弾いたんですよ。ビリー・ウッテンがその子のすごいプレイをYoutubeで見て驚いたっていう。俺はこの子をプロデュースしたいなって思ったんですよね、連絡とって。ジャズの曲だけどヒップホップ的アレンジで何か足してって何かやりたいなと。

柳樂:これ、すごいっすね。

D.L:こんな女の子が。しかもこの曲だもんね。音なりだすと、凍っちゃうくらいすごい。

柳樂:上原ひろみだってヤマハのコンクールがはじまりですもんね。

D.L:この人と、なんかできないかな。

柳樂:それ最高じゃないですか。

D.L:連絡つかないかな。このYoutubeに上げてるのがたぶんお母さんなんですよね。アカウント名がそんな感じで。それでメール送ってみたんですけど、返事こないですね。見てないっぽいなと。

柳樂:ヴィジュアル的にもおもしろかったですもんね。エレクトーンだから、めっちゃ足踏んでるし。そもそもコンクールの雰囲気が、何も期待させない感じがいいですよね(笑)。

D.L:そう、逆にね、なんだよすごいじゃんって気になっちゃうもんね。まったく期待させないあの感じ。

柳樂:のど自慢大会で突然フリースタイルはじめるみたいな感じですもんね。突然何か起きちゃったみたいな感じで。これは、ここで呼びかけましょう!
ちなみになんか、ジャズで好きな曲を3つ挙げるとどんな感じですか?

D.L:あのね、すごい好きなのはね、また〈グルーヴ・マーチャント〉ですけど、なんかいちばん最初に浮かぶのはいつもそれなんですけど、あの、オドネル・リーヴィ(O'donel Levy)『ブリーディング・オブ・マインド(Breeding Of Mind)』に入ってる“ウィーヴ・オンリー・ジャスト・ビガン(We've Only Just Begun)”。ピート・ロックが使ってたけど、あれすごい好きですね。うーん、なんだろう、あ、ボビー・ハッチャーソン(Bobby Hutcherson) “レイン・エヴリィ・サーズデイ(Rain Every Thursday)”。ドーナツ盤が、めちゃくちゃ太いんですよ。70年代に出てるのにありえないくらい太くて、で昔からかけてたんですけど、これすごい好きですね。あとなんだろう。あれはもしかしたらジャズ・ファンク、ジャズじゃないかもしれないけど、“ザ・ダーケスト・オブ・ライト(The Darkest Of Light)”、“ラファイエット・アフロ・ロック・バンド(Lafayette Afro Rock Band)”の。すごい好きですね。

柳樂:やっぱヒップホップなセレクトですね。最近のジャズで好きなバンドいたりしますか?

D.L:そういえば、レコードで買ってそれいまだにかけてるんだけど、日本のジャズバンドで、ベースがすごい太くて、なんだっけな、あのグループ。大阪のグループで……4年くらい前に買ったんですよ。ヴィレッジヴァンガードの、イチオシみたいな感じでしたね。アナログは限定でネットで売ってて、普通のとこでは売ってなくてそこで買ったんだけど、それすごいかっこいいんですよね。

柳樂:Indigo Jam Unit(インディゴ・ジャム・ユニット)?

D.L:そう。かっこいいんですよ。ベースが効いててすごいかっこいい音してて。一回観に行きたいなって思ってるんだけどね。

柳樂:Indigo Jam Unitって、年齢的には普通にBUDDHA BRANDとか聴いてたりしそうですよね。

D.L:そうなんですかね。

柳樂:たぶん。僕もそうですけど、世代的に先にヒップホップがあってからジャズじゃないですか。たとえば、アメリカのジャズ・ミュージシャンでもいまはピート・ロックが好きとか、もうそういうやつらばっかりで。

D.L:あ、そうなんだ。

柳樂:ロバート・グラスパーとかだと、「いまのジャズ・ミュージシャンにどういう音楽聴けばいいかレコメンドしてくれ」って言うと、「J・ディラ全部と、スラム・ヴィレッジ!」とかそんな感じ。みんなヒップホップを子どもの頃に聴いてて、で大人になってから学校行ってジャズ勉強して、でそのあとジャズやりながらヒップホップっぽい音楽もやってるみたいなやつがすごい多くて。たぶん日本だったら、リスナーとしてMUROさんとかD.LさんとかのそういうミックスCDも聴いてて、いまはジャズもやって、みたいなそういう人、絶対多いですよ。黒田卓也さんって世界的なトランペッターがいるんですけど、彼はDJスピナがすごい好きで、とりあえずアメリカ行ったときに、ニューヨークで、スピナのイベントがあったから行ったとか言ってましたよ。

D.L:そうなんだ。みんな影響うけてるんですね、ヒップホップに。

柳樂:だからジャズ・ミュージシャンとかで人間発電所聴いてましたとか、自分でアルバム作って最後にD.Lリミックス入れたりとかそういうやつ絶対いますよ。

D.L: 機会があればやりたいなぁ。

柳樂:しかし、Indigo Jam Unitとかも普通にチェックしてるのが、すごいっす。

ロックは10年以上ずっと、いつかこの俺がデスロックって呼んでるジャンルをフリー・ソウルみたいにしてやるって思ってたんですよ。

D.L:ヴィレッジヴァンガードに行って、あれ、なんだこのベースって言って、ちょっと待ってってずーと聴いてて、あ、もうやばい買ってくって言って。最初、しょうがないからCD買ったんですよ。それで、読んだら郵便でレコード買えるって言うんで、なんだそっちも買うハメになるじゃないかよって言ってる間に買って、CDはもうあんまり聴いてないんですけど、レコードばっかり聴いて。両方買っちゃいました。

柳樂:どん欲だなぁ。和モノとファンク以外だとどういうの買います? いまだにいろんなジャンル買う感じですか?

D.L:買います。でもね、昔は「曲作ろう」と思って買ってたんで、このエレピのこの音が好きとかこのドラムが好きとかそういう感じで買ってたんで、そういう使わないレコードがどんどん増えてって、これはドラムのハコ、これはベースのハコ、これはシンセのハコって、ぜんぜん曲なんて作りやしないから、もうそういう買い方やめよっかなって。作ろうと思えばすごいの作れるんだけど、出すタイミングが時代が変わってきちゃって、90年代頭とか、いま買っとけば、あとで曲出してリクープできるとか思ってたけど、もう絶対できないんで。だから、うーんダメだなぁってなってきちゃって。

柳樂:それ、やばいネタだけ貯まってるっていうことですか?

D.L:うーんそうなんだよね。ぜんぜん使わなくなっちゃってるからね。いちばんそれで使わなくなっちゃっててやばくてやろうとしてるのが、ロックですね。もうロックは10年以上ずっと、いつかこの俺がデスロックって呼んでるジャンルをフリー・ソウルみたいにしてやるって思ってたんですよ。キーボードがよく聴こえるとか、ブレイクが多めとか、ファンキーに聴こえるとか、そういうのデスロックって呼んじゃってます。

柳樂:そっか、ロックのミックスCD出してますもんね。

D.L:あ、そういえば、俺、メタルのDJもやるんですよ。

柳樂:マジっすか。それは、どういう……?

D.L:それはね、年に2回か3回やってる……。

柳樂:どこでやるんですか。

D.L:〈Organ Bar〉です。

柳樂:へー。

D.L:クボタタケシもいっしょに回してますね、メタルを。あと近藤くんっていうデザイナーの。BB、えーとブラックベルトジョーンズDCっていうんですけど。BBJDCかな。あと、ファンクのDJの黒田さん。黒田さんは、ドーナツ盤でメタルを集めてるんですよ。だからドーナツ盤でメタルをかけるの。

メタルはメタルのマナーに則ってメタルの人になりきって当時の熱さを思い出すみたいなのじゃないと意味ないんで。

柳樂:メタルは何が好きなんですか。

D.L:俺が担当するのは、ジャパニーズ・メタルの時間って感じで、Loudness(ラウドネス)とか44 Magnum(44マグナム)とかEarthshaker(アースシェイカー)とか、いろんなそういう、恥ずかしいものをかけるのが大好きなんですよ。

柳樂:それを、ヒップホップっぽい感じで繋ぐんですか?

D.L:いやクボタはね、すごいヒップホップっぽくかけるんですよ。ビッグビート2枚がけとか。そういうのつまんないから俺は違うんですけどね。メタルはメタルのマナーに則ってメタルの人になりきって当時の熱さを思い出すみたいなのじゃないと意味ないんで。

柳樂:メタル・マナーのDJってどういうスタイルなんですか。

D.L:いや、高校くらいのときは、藤沢のギター・クリニック・スクールに44 Magnumの人が来てて、そのギターを観に行ったりしてた頃の視線でかけますね。その頃の視点でディープ・パープルをかけるとか、オジー・オズボーンをかけるとか、そういう感じですね。

柳樂:やっぱギターを大事にする感じで。

D.L:そうですね。

柳樂:そこやっぱ太いとかじゃないんですね。

D.L:違いますね。うるさいって感じですね。ギターをうるさく。

柳樂:ラウドな感じで。

D.L:そうですね、そうなんですよ。ほんとみんなそこですね。黒田さんもそうなんだけど、高校くらい……ヘビメタ・ブームだったときに、聴いてたメタルを俺たちがかけるみたいな感じで。30年振りにみたいな。

柳樂:メタルはメタル・マナーでかけるって発言やばいですね。かっこいい。

D.L:ダメなんだよ、メタルなのにヒップホップ的にかけちゃうのって。トリックとかやっちゃうんだよ、メタルで。ガーチキチキ、ガーチキチキとか。ぜんぜんダメで。そういうのはやっちゃダメなの。すごい上手くても、ヒップホップを通った人がやるメタルと違うんで。ヒップホップが無かった頃から最初にメタル聴いてた人たちは。

“ウォーク・ディス・ウェイ”とか。なんだろね、偽物っぽく聴こえてた。どっちかっていうと“ロック・ボックス”のほうがもっとロックだった。

柳樂:やっぱもとは当時普通に流行ってたメタルとかがお好きで?

D.L:そうですね。トップ40系から入ってメタル行って。アメリカ行って最初に、アメリカン・トップ40とかヘビメタが流行ってましたね。LAメタルとか。それが93年、4年くらいで、その時にもうランDMCの“サッカー・M.C.’s(Sucker M.C.'s)”とか出ちゃったから、並行して聴くようになって、それ以降、そっちばっか聴くようになって。だからメタルのほうが先でしたね、じつは。

柳樂:そういう話を聞くと、“ウォーク・ディス・ウェイ(Walk This Way)”でエアロスミスとランDMCが共演した時代のことも納得できますよね。

D.L:そうですね。あの頃はぜんぜんよく聴こえなかったんですけど、“ウォーク・ディス・ウェイ”とか。なんだろね、偽物っぽく聴こえてた。どっちかっていうと“ロック・ボックス”のほうがもっとロックだった。エディ・マルティネス(Eddie Martinez)のギターのソロが入ってて。あれはロックだと思ったけど。ビースティ・ボーイズがきて、なんかアリだなって思いましたね。レッド・ツェッペリン使ってたり。あと“ファイト・フォー・ユア・ライト(Fight For Your Right)”。どっちかっていうとロックの曲に聴こえちゃった、ラップの曲よりも。あれがすごい開いた感じですよね。

柳樂:やっぱビースティってけっこう衝撃的だったんですね。

D.L:もうニューヨークにいて、白人と思えないくらいレッド・アラート(DJ Red Alert)もみんなかけてましたね。あれはたぶん、ラッシュの力でしょうけど。ランDMCとマンツーマンでライブをやらせたり、ラジオとかも回ってたみたいだから、すごい、“ホールド・イット・ナウ、ヒット・イット(Hold It Now, Hit It)”っていう曲があるでしょ。「ホールドナウホールドナウ」っていう。あれがもう、ランDMCの“ヒット・イット・ラン(Hit It Run)”と“ホールド・イット・ナウ”が、五分五分のタイミングで必ずローテションで組まれてて、すごい流行ってましたね。『レイジング・ヘル(Raising Hell)』もすごい売れてたけど、だんだんビースティの『ライセンスト・トゥ・イル(Licensed To Ill)』のほうがすごい人気になっちゃって。でも、俺たちはそのへんの曲にはあんま反応しなくて、俺たちが反応してたのは、“スロウ・アンド・ロウ(Slow And Low)”でしたね。たぶん80くらいしかないピッチの。ウォーーーっていう、「let it go, let yourself go」っていうあのやつですね。あれをラジオだとWBSより、Kiss FMよりもっとちっちゃいWNEWっていう小さいラジオ局があって、そこのGhetto DJみたいなやつがいて、ナイス&スムース(Nice & Smooth)のアルバムをプロデュースしたオウサム2(Awesome 2)なんですけど、そいつらがかけてるすごい人気ないラジオ番組があって、夜中2時からやってて、そこでそれがかかってて、それを毎週みんなチェックしてたんですよ。ビースティはそっちだなって感じでやってて。

柳樂:小さい番組はやっぱりそういうディープな曲を。

D.L:そうなんですよ。あともう1つ、DNA&ハンクラヴっていうDJの番組があって。そっちはね、ウルトラ・マグネティックMC’s(Ultramagnetic MC's)のいちばん最初のシングルをリリースしてる会社をやってたんですよ、DNAインターナショナルって。そこでは、「あのpeter piper picked papersって言ってる曲聴いたか、あんなのワックだぜ」ってランDMCの“ピーター・パイパー(Peter Piper)”をディスってる曲があって、それをかけてて。自分たちもそのほうがかっこいいなって思ってて、でも世の中はもう間違いなくランDMCを推してるんですよ。確実にランDMCが8:2くらいで優勢なんだけど、その2くらいのもわもわってしてる人たちはそっちのラジオを聴いて、絶対いいこっちのほうがいいって言ってた、そんな感じでしたね。

〈プロファイル〉が実際とてつもない、〈デフジャム〉なんかよりビッグなレーベルだったって知らないと思うんですよね。

柳樂:その頃いちばん好きなヒップホップって何でした?

D.L:ヒップホップで、なにかな。〈プロファイル(Profile)〉がすごい流行ってたんですよ。プロファイルっていうレーベル。だから〈プロファイル〉系のものはすごい好きでしたね。ぜんぜん流行ってなかったけど俺が好きだったのはドクター・ジキル&ミスター・ハイド(Dr.Jeckyll & Mr.Hyde)の“ファースト・ライフ(First Life)”って曲とか、あとディスコ・フォー(Disco Four)。ディスコ・フォーはね、何のため、why、was I born、nah mean、ガキの頃からのクエスション、なんだっけなあの曲。それで使ってる曲なんだけど、“ザ・キング・オブ・ヒップホップ(The King Of Hip Hop)”って曲。〈プロファイル〉ばっかり聴いてましたね。

柳樂:D.Lさんに〈プロファイル〉のイメージってあんまないですね。

D.L:あの、なんて言うのかな。いま日本にいる人、あの頃18くらいだった人はいま40いくつだろうけど、そのときニューヨークに住んでなかったんで、たぶん、〈プロファイル〉が実際とてつもない、〈デフジャム〉なんかよりビッグなレーベルだったって知らないと思うんですよね。すごい、毎週ラジオからかかる新曲のやばいのって〈プロファイル〉だったんで。渋谷の、いまもうなくなっちゃったけど、駅降りるとフリーマーケットみたいになってたんですよ、昔。そこでニューヨークのラジオを誰かがたぶん送って、それを日本でダビングして売ってたんですよ。今日はWBS、来週はKissのとか、日付違いで、けっこう何十本もあって、わけのわかんない人がやってたんですよ。そういうので聴いてたら多少はわかるけど、そういうので聴いてなかったらほとんど入らないから、〈プロファイル〉がすごい流行ってたのはたぶん知らないと思うんですよね。〈スリーピング・バッグ(Sleeping Bag)〉とかもすごい流行ってたし、ジャンパー作るくらい流行ってたし、なんて言うのかな、その時期そのタイミングで、ピークだったように見えるレーベルっていっぱいあるんですよね。〈ワイルド・ピッチ(Wild Pitch)〉もそうだし。

柳樂:へー。

D.L:これあの、ぜんぜんこの話と違うんだけど、ウルトラマグネティックMC’sの〈ワイルド・ピッチ〉の“トゥー・ブラザーズ・ウィズ・チェックス(Two Brothers With Checks)”のときに、日本におれ、ウルトラ呼ぼうと思って仲良くなってて、そのビデオの中に出てるんですよ。野球やるシーンで、〈ワイルド・ピッチ〉の社長と奥さんと息子と。で、1人足りなかったんでおれが入って、ホームベースのところで、一塁はこの人、二塁はこの人、三塁はこの人、ホームベースはこの人みたいな感じで、そこで野球っぽいことをやってるシーンがあるんだけど、そういうのちょっと出てる。
まぁ、いま何を言おうとしたかって言うと、〈ワイルド・ピッチ〉もいまもう無いし、本当にあったのってくらい誰も覚えてない、何でもないレーベルなんですけど、当時は、あの、宣伝にTシャツを作って配ってたり、宣伝用のレコードジャケットのサイズの段ボールを道路脇の柱にホッチキスで止めたりして、ビギーの宣伝だぜみたいにやったり、ストリート・プロモーションみたいなことやってたんですよ。で、俺たちみたいなのは、それを剥がして持って帰っちゃうみたいな(笑)。日本ではレーベルもあんまそういうことやんないなって帰ってから思ったけど、あっちではしょっちゅうやってましたね。
ステッカーがあとすごいいっぱいあって、もう、もちろんそれはもう〈ワイルド・ピッチ〉も〈プロファイル〉も〈デフジャム〉もどこでもそうなんだけど、なんで12インチの宣伝ごときにこんな2パターンも3パターンもステッカー作っちゃうのかなって、わけんねーなってくらいいろんなステッカーを貼って、流行ってない頃から貼っちゃって、あたかもすごい流行ってるって勘違いさせながらラジオですごいプッシュするんで、それがすごい蔓延してく……みたいなやり方とか。(O.C.の)“タイムズ・アップ(Time's Up)”のときのステッカーもそうだけど──こういうなんか、手のやつなんですけど、それなんか流行る前からいろんなとこに貼ってあって、何なんだろうこれ「タイムズ・アップ」、時間だぜみたいなタイトルで何なんだろ何なんだろと思ってたらぐあーっと来て。そういうのやってましたね。すごいお金かけて、それがプロモーションになるのかわかんないけどやっちゃってましたね。

12インチの宣伝ごときにこんな2パターンも3パターンもステッカー作っちゃうのかなって、わけんねーなってくらいいろんなステッカーを貼って、

あと、渋谷のシスコの、当時プロモでがんがん売れるからどんどんプロモの12インチをとってくれとってくれってきてて、シスコのレコード送る担当やってたんだけど、当時のマンハッタンとかブルックリンとかクイーンズに、その街の、まぁなんて言うのかな、プロモ盤を一挙に握ってるような、怪しいガキとかが一杯いて、そいつらから2ドル50とかでプロ盤買えるんですけど、「4枚しか売っちゃダメだって言われてるから4枚しか売れないよ」って言ってるやつに「倍の5ドル出すから倍の10枚くれ」って言うとそいつらも金がないから「お前に売るけど内緒だぞ」みたいな感じで10枚くらい売ってくれるんですよ。でそれをシスコで日本に送って、クボタが日本で受け取ってニューヨークは俺がやるみたいな感じでずっとやってた時期があったんだけど、そういう感じで、お金を持ってるから日本人に売っちゃうっていうのはあんまりよくないけど、実際イギリス人と日本人しかがっつり買わなかったから、日本に流れた当時のプロモ盤っていうのはそういうふうにやってたんですよね。でそういうふうにプロモ盤をいっぱい持ってる彼らは、レコードも持ってるけど、そいつの家とかに行くとそれといっしょにステッカーを束でいっぱい持ってたんですよね、いろんなタイプの。それももらって日本に送っちゃってたんですけど、なんかね、プロモのやり方とか、昔はそんな感じだったんですよね。

柳樂:すげーなんかストリートの、地道なっていうか。

ある日、レコードを買いに行ってそのあと歩いてたらクール・キース(Kool Keith)がいて、電柱に登ってて、ウルトラ・マグネティックって書いてあるステッカーを貼ってて……一生懸命。

D.L:うん、本当そうだったね。もうストリートの地道のどうのこうのって話でいちばん狂ってるのが、ニューヨークで、ジャマイカ・アヴェニューっていうところがあって、クイーンズの。まぁジャマイカ人がけっこういてジャマイカの風俗とかもあったからそこはジャマイカ・アヴェニューって感じで呼んでたんだけど、そこである日、レコードを買いに行ってそのあと歩いてたらクール・キース(Kool Keith)がいて、電柱に登ってて、ウルトラ・マグネティックって書いてあるステッカーを貼ってて……一生懸命。何やってんだって言ったら、お前ジャパニーズだなって下りてきて、ぜんぜん面識ないのに「お前と俺はこうやってステッカー貼ってるときに会うから、女紹介してくれ」みたいな、すごすぎて(笑)。最初にクール・キースと話したのはそれだったんだよね。で、実際あの、“トゥー・ブラザーズ・ウィズ・チェックス”のビデオのときに、当時の、まだ誰も知らなかったウエダカオリと、●●の彼女だった人ふたりを連れてったんで、よく見るとライヴのシーンで日本人の女が二人いる。よく見るとカオリちゃんと、チッチっていう……。

柳樂:カオリちゃん?

D.L:DJ Kaoriです。日本人の女よんでくれって言われたから。そうそう。

柳樂:マジで。クール・キースが電柱登ってたってのもやばいですね。

D.L:登ってたし、他の、普通のプロモーションをやる子どもたちがステッカーを貼るかのように自分もやってたみたいな感じで。すごいですよ。そんなもんだったんですよね。やつらもきっと契約金とかもぽーんと入るんだろうけどすぐ使っちゃってぜんぜんお金なくなるから自分でそういうことやってるって感じで。

柳樂:へーすげー。そっちにいないと本当そんなのわかんないですもんね。

D.L:そうですね。

柳樂:すごいアンダーグラウンドだったんですね。

D.L:そうですね。そのビデオのときに、結局そのカットすごすぎて写んなかったんだけど、クール・キースがシマウマ柄の超ハイレグみたいになってる怪しいパンツはいて、背中にピンク色の空気ボンベみたいのしょってて、裸で変な帽子かぶって、すごい感じで出てきてライヴとかやったんだけど、あんまりかっこよくなかったんだよ、正直。で、そこカットされてたね。もう、ウルトラのメンバーもみんな凍っちゃってて。1人だけ、やっぱ狂ってるんだよね。

柳樂:狂ってますね

D.L:もうね、クール・キースはベルヴューっていう精神病院に入院してた時期があったり、頭おかしい時期があったんですよ。でも、日本に来たときも頭すげー悪くて。BUDDHA BRANDでクール・キースのオープニングみたいなライヴやったときが1回あって。ロックバンドの54-71のバックの演奏になぜかクール・キースが入るみたいなアルバムが出てて。そのときに、ポルノ映画ほしいから、ポルノ買いに行こうって言われて、それは付き合わなかったんだけど、子どもがミニカーを欲しいって言ってるから連れてってくれっていうんで中野のまんだらけに行ったんです。その時に、3000円くらいの、べつにそんな高くないミニカーをずーーっと30分くらい眺めててずーーっとなんか言ってて「これを買ってってやらないと、俺のポルノのお土産はけっこうあるから子どもに何も買ってかないと怒るから、買ってってやりたいけど俺はもっとポルノを買いたいからこれを買う自信はないなぁ」とかずっと言ってんだよ独り言。で、また買わずに他のとこぐるって回ってまたそこ戻ってまたこうやってこれを買わないとどーのこーのって、結局買わないで帰ったんだけど(笑)。やっぱ変態なんだよね。自分のポルノのお土産はけっこう買ってったのに、子ども用のお土産は結局買わなかったんだよ。

柳樂:狂ってますね

D.L:もっとすごいのがね、楽屋で俺と話してるときに、白人のアメリカ人の女がここにクール・キースいるからってのを聞きつけて楽屋に来て。俺はクール・キースと真剣な話してたんだけど、女が横に来てハーイって言いはじめたら、こっちで話してるのに、もう顔はほとんど女のほうばっか向いてて、だんだん話がつじつまが合わなくなってきて、もういつの間にか横に女が座ってきちゃって、もういいやインタヴューみたいな感じになっちゃって、いやインタヴューじゃないや、このビジネスのトークはまた今度にしよう、明日でもいいから。こっちが忙しくなったから、こっちでちょっと話するからみたいな感じになっちゃって。めちゃくちゃでしょ、これやっぱ変わってないな、昔のあーゆー感じで、色気違いだなって感じで……

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気づけば予定の時刻を超過していた。ミックスCDの話から、メタルDJ、そしてネットで見つけた新たな才能、アメリカでのヒップホップのプロモーションや親交のあったクール・キースの話まで、振れ幅の広い、ディープな話の連続だった。ちなみにここに掲載できた話題は半分にも満たない。いま、D.Lがとてつもなく危険なDJになっていることを我々の手ではここまでしかお伝えすることはできない。もし、そのさらなる答えが知りたければ、D.LのDJの現場に足を運んでほしい。そこにはファンク/レアグルーヴを自分の流儀でプレイするDJの究極の姿を見ることができるはずだ。

KiliKiliVIlla - ele-king

 ここ数年、全国の各地域それぞれのスタイルで育っているシーンが独自のネットワークで活動を広げている。そこに集う新しい価値観とユニークなサウンドを持ったアーティストを書き下ろしの新曲でコンパイル。数年後に振り返った時、このコンピレーションがその時代にとっての『C86』や『Pillows & Prayers』になるかもしれない。
 1970年代後半から1980年代前半、多くの自主レーベルが活動を開始したこの時期、新しく、しかしマイナーな音楽を愛好する同志が情報を交換し、コミュニケーションの場として機能していたのがファンジンだった。インターネット経由でどんな情報にもアクセスできるいまだからこそ、音楽をテーマに志しを同じくする者が集える場所をファンジンとして作ってみようという試みだ。
 80年代から90年代、シャープな絵柄と巧みな人物造形でロック・バンドを描いた名作『緑茶夢』、『おんなのこ物語』の作者、森脇真末味へのメール・インタヴューが実現!
 いまアメリカで最も注目されてカセット・レーベル、〈バーガー・レコーズ〉の創設者のインタヴューも収録!

 レーベル・コンピレーション第一弾、4月22日発売決定!
 1,000部限定、KiliKIliVilla初のファンジン付きレーベル・コンピレーション
 ファンジン、CDを豪華ケースに収納の特殊パッケージ
 タイトル:「While We're Dead.」~ The First Year ~
 品番:KKV-004FN
 値段:2,500税抜
 安孫子真哉プロデュース、全13バンド書き下ろし新曲を収録。

 収録アーティスト
 01.Laughing Nerds And A Wallflower/NOT WONK
 02.リプレイスメンツ/SEVENTEEN AGAiN
 03.SILENT MAN/THE SLEEPING AIDS & RAZORBLADES
 04.Littleman/SUMMERMAN
 05.The sunrise for me/over head kick girl
 06.FINE/Homecomings
 07.Tornade Musashi/CAR10
 08.I ALWAYS/MILK
 09.それはそれとして/Hi,how are you?
 10.All Time Favorite/odd eyes
 11.レイシズム/Killerpass
 12.The Sun Wind In Summer Zeal/SUSPENDED GIRLS
 13.Douglas/LINK

 ファンジン著者一覧
 インタヴュー
 ショーン・ボーマン(バーガー・レコーズ)インタヴュー
 森脇真末味インタヴュー

 レヴュー
 下地 康太(DiSGUSTEENS, Suspended Girls)
 オニギリギリオ(WATERSLIDE)
 与田太郎(KiliKiliVIlla)

 対談
 安孫子真哉&角張渉(カクバリズム)

 エッセイ
 安孫子真哉(KiliKiliVIlla)
 中村明珍
 snuffy smiles
 卓洋輔(Anorak citylights)
 庄司信也(YOUTH RECORDS・factory1994)
 谷ぐち順(Less Than TV)
 よこちん(DYENAMiTE CREW)
 五味秀明(THE ACT WE ACT)
 伊藤 祐樹(THE FULL TEENZ)
 久保 勉(A Page Of Punk)
 橋本康平(over head kick girl)
 しばた(FÖRTVIVLAN)
 山崎周吾(DEBAUCHMOOD)
 林 隆司(Killerpass)
 藪 雄太(SEVENTEEN AGAiN)
 はっとりたけし
 SUMMER OF FUN

 https://kilikilivilla.com/post/114722201604/news-2015-03-27

 https://kilikilivilla.com/

Chesterbeatty - ele-king

Often imitated never duplicated

※Shout out to "The Nation of HIPHOUSE(website)"
https://maesaka1991.blog.fc2.com/blog-entry-42.html

写真:CHESTERBEATTY

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