「iLL」と一致するもの

interview with Yakenohara - ele-king


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

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 太陽、新しい、リラックス、幸せ、未来、夢、光、希望、大切なこと......言っておくけど、これは啓発本ではない。やけのはらの2年半ぶりのセカンド・アルバム『SUNNY NEW LIFE』から聴こえる言葉だ。CDのケースには、明るいリゾート地のような写真がデザインされている。ジャケには青空が見える。

 やけのはらは、ゼロ年代、さまよえる世代の代弁者として登場した。小洒落たリゾート・ミュージックとは、ある意味真逆の存在で、ささやかな、汚れた日常をロマンティックに描こうとするリリシストだ。彼の初期のレパートリー、"Summer Never Ends"(SFPのリミックス)、"Rollin' Rollin' "(七尾旅人との共作)、"DAY DREAMING"(BUSHMINDとの共作)、あるいは"GOOD MORNING BABY"といった曲は、空しい日々の、しかし小さく甘い、そして美しい物語だった。結果、2010年の真夏にリリースされた彼の『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』は、派手な宣伝もないのに関わらず、多くの人たちに聴かれることになった。
 地下より野外、夜より朝、冬より夏を、やけのはらは、好んでいる。猥雑俗悪なものより潔癖な表現を選ぶ。そのように僕には見える。『SUNNY NEW LIFE』は、それに輪をかけてドリーミーなサウンドに特徴を持つ。曲によっては、トロピカルなムードさえある。近年稀に見る脱力感もあるし、そうした軽やかさが『SUNNY NEW LIFE』の魅力だが、口当たりの良い言葉ばかりが並んでいるわけではない。春の日差しのようにうららかで、温かい音楽の背後にあるやけのはらの「思い」をお届けしよう。

僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。

ジェフ・ミルズのときに久しぶりに会ったんだよね。

やけのはら:あー、はいはい。ていうか、ジェフ・ミルズが音楽を担当した、麿赤児さんの大駱駝艦の公演ですよね。それから次の日にも何かで野田さんに会ったんですよ。

寺尾沙穂さんのライヴじゃない?

やけ:そうです、そうです。

ジェフ・ミルズのときに行って、「あれ、やけのはらに似てるひとがいるなー」と思って。あまりにも似てるなーと。そしたら本人だった(笑)。

やけ:あれは、友だちが劇に出てたから。

「何でここにいるの?」って。

やけ:野田さんはおかしくないですよね、ジェフ・ミルズだから。僕はジェフ・ミルズだから行ったんじゃなくて、友だちが出るのに興味があるから行ったんですけど。

しかも2日連続で会ったからね。びっくりしたよね。ずっと会ってなかったから。実際、前のアルバムから今回のアルバムまで長い年月が経ったんだけれど。

やけ:そんな、そこまでは(笑)。10年とかじゃないんで(笑)。えっと、前が夏なんで2年半。

2年半かぁ......。そうだよね。なんか、『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』の頃がすごく昔に思えない?

やけ:それは僕もあります。いろんなひとたちにとっても3.11があったんで、やっぱりそれ前後っていう考えがあるんだろうし。自分のなかでも、同じ世界の同じ時間のつながりのなかですけど、そのときの雰囲気というか感情ってまた違うものとしてあるイメージがありますね。

今回の『SUNNY NEW LIFE』は、『THIS NIGHT~』を出した後から考えられていたものなの?

やけ:考えてました。なんていうか、ラッパーとしてガツガツとアルバムを出していこうって感じじゃないんですけど、『THIS NIGHT~』で自分なりのラップ・アルバムを1枚作れて、やっと作り方がわかったというか、いちおうできるってなって。ただ、早く作れるタイプでもないので、そのうちできればいいやっていうのだと、5年か10年かわからないけど、なかなかできないだろうなっていうのもあったし。
 もともとの気持ちとしても、DJのほうが自分の性格には向いてると思っていて、そういうのは自分のライフ・ワークとしてずっとできるかもしれないし。でも声出してラップして、っていうことはいろんな状況や自分の体力とか気持ちとかにしろ、できるタイミングにできるだけやりたいなっていうのもあったので。気持ち的にはすぐ作りたいぐらいの感じで思ってたというか、最初は「2011年に出します」って言ってましたね。
 そこに震災があって、いろんな面でドタバタしたりっていうのがあって、作業も止まるわっていうか、2011年は早かったっていうか。思うようにできず。まあ、なんやかんやで多少時間経ったなっていうか。イヴェントにはいろいろ出たのはあるんですけど。そんななかで2年半経ちましたが、気持ち的には早く出したいっていうのはありましたね。

サンダルはいつやめたの?

やけ:30歳ぐらいじゃないですか。大人になったんじゃないですか。

あれはやめようと思ってやめたの?

やけ:うーん、覚えてないですけど、なんですかねえ。ある日、「この靴キレイだしいいなー」と思って、わらしべ長者的に。靴をいっぺん履き出すと、現代人は恐ろしいもので、もう靴のない生活には戻れないですよ。

なんで(笑)?

やけ:いやいやいやいや、ちょっともうそういうのは。

逆に、あの頃ってなんでつねサンダル履きだったの?

やけ:よくわかんないです。ラクだったんじゃないですか?

最初会ったときのインパクトっていうのがサンダルに集約されているところがあって。だって、真冬に、横浜から渋谷までサンダル履いたまま来てラップするひとって、それまで知らなかったからね。

やけ:そういう感じで書いてましたよね。そのときに「スポーツシューズではなく、サンダルを履く彼の......」っていう風に書かれていたのを覚えています。

やけのはらと言えば、冬でもサンダルっていうイメージだったのにね。

やけ:そこまでいくと極端じゃないですか(笑)?

上はダウン着ているのに、足がサンダルというね(笑)。でも、今回のアルバムもそういう意味では、変わらないというか、やけのはららしいなっていう風には思ったけど。もちろん変化はあるけど、「彼ならこういうときこういうこと言うだろうな」っていう。

やけ:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。

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だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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それにしても最初のアルバムは完成まで時間がかかったね。

やけ:大きな問題は、ライヴを当時はまだできなかったことですね。DJをバックにラップするっていうのがなんか、まずしっくり来なかったっていうか。それがドリアンくんに出会って、キーボードとだったら1DJ1MCぐらいの人数で、音楽的にもイヴェントとしても自分にとってやりやすかったし、自分なりのライヴができるって。それが、すごく大きいですね。モチベーションとかいろんな意味とかでも。そのことに気がつくのが、すごい遅いんですけど(笑)。
 で、いまはライヴができる楽しさがあって。DJも楽しいんですけど、それとはまた別の、新しい曲を作りたいとかアルバムを作りたいとか意欲が湧いてく来るというか......、自分が好きなレーベルで、楽しくコミュニケーションしながらできているので、普通に次のアルバムを作りたいなと思いました。僕が野田さんにはじめて会ったときから6年ぐらい経ちますよね。そのとき僕にはライヴの手段がなかったから。

DJしかやってなかったもんね。

やけ:ライヴがない状態で、日々の仕事っていうとヘンですけど、DJとかリミックスとか日々の時間でやることもいろいろあるなかで、なんか行くアテのないラップ曲を10曲作るとかってなかなか難しかったというか、機会があるときしかできないというか。

温かい作風だとは思うんだけど、今回のアルバムには、他方では、やけちゃんの問題提起や主張がより際立っているようにも感じたのね。その辺をひとつひとつ話していければなっていう風に思ってます。

やけ:こういう感じがもともとの自分の素っていうか。いまの感じが素に近いっていうのは、僕も思ってる し。野田さんは最初から俺のサンダルを気にしてるようなひとだったから。サンダル感はこのアルバムとは違うかもしれないけど(笑)。物質に対する考え方とか世のなかの情報とか、物事に対する僕の感覚みたいなものをサンダルってタームで野田さんが捉えてくれたんだと解釈して(笑)、そういうのはこっちのほうが入ったりしてるっていうか、そういうのを僕らしいって言ってくれたのなら、自分もそうだと思う。

もう、とにかく、何とか、ある種の前向きさみたいなものを打ち出したいわけでしょう?

やけ:そうですね。ぜんぶそうですけどね。

思春期な感じを残しつつ。

やけ:思春期? あー、そこはちょっと違います。言ってる意味はわかるんですけど。たしかに、ファーストのときは青春を意図的に入れてますが、このアルバムではそういうところを排除したつもりなんですよね。大人になっていくっていうことが裏テーマだったので。

でも大人になってもYOUNGでいたいっていうのじゃないの?

やけ:いや、このアルバムに関しては、なんだろう、大人を受け入れるみたいなものが裏テーマなんですよ。

今回のアルバムっていうのはさ、結果的には、すごくポジティヴな雰囲気を前に出しているじゃない?

やけ:うーん、僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的 に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。
 今回は、新しさとか生活とか、統一したテーマで作りました。そして、「年を取っていく」とか「暮らしていく」とか、「大人になる」......。「暮らしていく」っていうのは時間が経過していくから当然年を取るわけで。そこが裏テーマだったんですけど、それは誰にも指摘されてないですね。「大人になりましょう」っていうのを言ってるんです。

それにしても、何故、ここまでムキになって前向きさを打ち出したの?

やけ:やっぱり震災は大きかったですし、震災だけじゃなくて原発だったり、そういう3.11で起こったこと以外の経済や、それによって気にするようになった社会のシステムだ ったりとか。たとえば僕がもともと感じていた資本主義社会やグローバリゼーションに対する違和感みたいなものが、よりいっそう気になったり。さらには自分が知っている範囲よりも広い、社会や世界の構造だったり。
 で、世界の構造を生む、貨幣の制度に対する個人ひとりひとりの気持ち。たとえばそんなに紙幣をいっぱい集める満足感を、市民はそこまで憎しみ合いながらも得る必要があるのか、とか。物質なんかにしても、そういうものが本当に必要なのか、とか。自分にもともとあった、ダサイ言葉だけど(笑)、消費社会に対する距離感や違和感みたいなものが、よりいっそう震災を経た社会や世界では自分が知りたいと思ったりとか。
 で、よりいっそう違和感であったり、豊かさの形だったり、何に喜ぶべき??「べき」っていうのもおかしいんですけど、たとえばこういうものを得てこういう暮らしをするのが幸せだっていうことに対 して、ひとりひとりの多様性がもっとあっていいんじゃないか、とか。
 そういう意味で、「新しさ」は、自分に対して言ってるっていうのもあるし、リスナーのきっかけになってくれたら嬉しいみたいな意図もあるし。なんですかね......あれ、僕、何言おうとしてたんだっけ(笑)?

(笑)今回が明るいアルバムになった理由は3.11にあるっていう話かな。

やけ:そう、それで社会のシステムがその前に戻ろうみたいになっているけど、変えようよっていう。何が本当に必要でどういうものを美しいと思うかなんかを、もう一度ちゃんと捉え直したりしようと。みんなが思わされている世界の認識も、デッサンし直して新しいのにしようと。そういう意味での「新しい」。戻るんじゃなくて、流れをリセットしたほうがいいんじゃないかって。リセットっていうか、新しい発想。たとえば音楽産業なんかで言っても、「あの時代のああいうのに戻ろう」とかそういうことよりも、新しい形を模索しようって。

「90年代をもう一度」ではなくて......。

やけ:社会には意外とそういうムードがある気がするんですよね。3.11を経ても。

いまは、むしろ「明るくなれ」って言うほうが難しいことだと思うのね。

やけ:「SUNNY」っていうのは「明るくなれ」って感じでもないんですけど......、なんだろうなあ。

『SUNNY NEW LIFE』っていうのはさ、言葉としては空振りしかねないというか。世のなかの絶望感に対して、もっと希望を持とうと言ってるわけでしょう?

やけ:まあそうですね。

イチかバチか、でも言ってみるか、みたいな感じなの?

やけ:そんなでもなかったですけどね。だって"RELAXIN'"とかも「リラックスしていこうよ」だから。

「リラックスしろ」なんて言われたらさ、「ふざけるな」って怒るひともいるかもしれないじゃない?

やけ:いやいやだから、わざとリラックスしようって言ってるんです。

ははははは。

やけ:みんながリラックスしてたら言わないですから。そういうムードじゃないから、リラックスしようって言ってるわけです。あとなんか、ギスギスした空気感よりは、抜けた軽やかなものにしたい。

ギスギスした空気感っていうのはどこから感じるの?

やけ:いろいろですね。僕が愛する文化も落ち込んできてるし......。それがどんどんコンビニエンスになってたり、文化的なものっていうものが利便性や消費のなかでどんどん求められなくなっているというか、切り捨てられていっているように感じますけどね。

"JUSTICE against JUSTICE"という曲には憤りがあるんだけど、これは何についての曲?

やけ:これは去年の12月の選挙のときに書いたもので、まあ石原慎太郎ですね、はっきり言うと。尖閣問題。
 マチズモみたいなこととか男性性・女性性とかもいろいろ気になっていた時期で。戦争だったり、あらゆるとこにも通じると思いますし、だからべつに石原だけのことじゃないけど。もうひとつ言うならアメリカ。近年のアメリカ、というかアメリカの侵略の歴史、アメリカ人的なマッチョな発想だったり支配の歴史だったり。アメリカのこともちょっと考えてたかな、9.11とか。なんだっけ「次々と作る敵」とかは、アメリカがいろんなところを次々と侵略したり、大義名分を作って侵略するみたいなイメージで。
 これはガンジーの言葉の引用ですけど、「目には目を歯には歯をってことをしてると、ぜんぶなくなってしまうよ」と。人類の知恵は科学で核兵器を作れるんだから、このまま戦い合っていても取り返しがつかないことになっちゃうんじゃないかなって。日本人でももちろん、99.9パーセントのひとたちが戦争反対って言うと思いますよ。だけど、「中国人ってアレだよね」とか言っちゃうひともいたりとか。北朝鮮は気持ち悪いって言ったりとか。北朝鮮にいつ攻撃されるかわからないんだったら、「そこはもうやっちゃいましょうよ」みたいな、とか。そういう空気って普通にあるような気がして。

アルバムではこういう、ある意味では、すごく際立った言い方、前向きさもふくめて単刀直入に言ってるよね。

やけ:それはだから、大人になってきたり??。良くも悪くも年を取ってきて、それを受け入れるっていうのが裏テーマなんですけど。30超えた大人で、3.11で社会と日本が大変なことになってるなかで、やっぱり考えざるを得 ないですよね、それは。そういう社会構造だったり、いろんなことを。クラブとかDJとか、そういうみんなが楽しむ物事に関わることとしても。

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激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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いまでもクラブDJやってる?

やけ:基本的に、もちろん。

どれくらいやってるの?

やけ:ここ3、4ヶ月はアルバム制作でほとんど入れてなかったですけど、基本的にけっこうやってますね。性格的にもほんとはそっちのほうが合うんですけどね。元から世界に何かを伝えたいから音楽をやる、俺が声を出すって言うよりは、何かを作りたいっていう感じで音楽を作り出しただけなんで。単純に音楽を聴くのが好きで、自分が前に出たい欲求で音楽をやってるわけでもないので。だからDJっていう距離感であったりコミュニケーションの仕方っていうのは自分の性格に合ってるなと思いますけどね。

そして、本人いわく大人になったという......

やけ:いや、なってないんですけど。その話をもっと言うと、ずっといつまでも子どもでいることがいいというか、大雑把に言うとアンチ・エイジングな風潮ってあるじゃないですか。ロリコン嗜好とか。そういうのに対するちょっとしたアンチがあるっていうか。なんか全体的に年を取ることがいけないみたいな風潮がある気がして。若いのがいい、みたいな。自分がファースト・アルバムで言いたかった「YOUNG」はそういうことでもないし。

共感できるけど、でも、そういうのもいいなあと思うときもあるし、ダメだなと思うときもあるし(笑)。

やけ:でもそれはいいんじゃないですか。なんていうか、振る舞いですね。直接的な、服とかそういうことよりも、精神構造、世界認識とか、そこが誤解されたイヤな子どもっぽさみたいなものまでもアリみたいになっ ちゃってるような気がするというか。そういうのに対する対する違和感とか。大人っていうのも象徴的な概念ですけど、それがじつは裏テーマであったんですよね。

去年やけちゃんと飲んだときに、1枚CDをくれたよね。『7泊8日』ってやつ。

やけ:あー、はい、友だちです。VIDEOTAPEMUSIC。僕も曲に参加してますね。それが出たぐらいのときで、たまたま持ってたんで。

やけちゃんのアルバムにも似たような感覚があると思ったんだよね。コンセプトとしてはさ、虚構でもいいからユートピアみたいな感じがあるじゃない?

やけ:ユートピアというのはちょっと違うけど。

やけのはらがディストピアを表現するとは思えないから。

やけ:それはそうですよ。自分のテーマはずっと「SUNNY」だし、内に行くエネルギーより外に行くエネルギーだし、ヴェルヴェッツよりビーチ・ボーイズなんですけど。なんだろうな、VIDEOTAPEMUSICの音楽はそこが良さですけど、フィクションじゃないですか。そういうところよりは、もうちょっ と地に足つけて、僕は本当の生活のことを言ってるんですけどね。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも生活のことを言ってると思うんだけど。

やけ:でもさっきの話で言うディストピア志向じゃないですか。僕のいちばん好きだったり、僕がやりたいことは、ヴェルヴェッツではなくてビーチ・ボーイズなんです。ビーチ・ボーイズのほうがファンタジーなんですけど。

いまビーチ・ボーイズをやるっていうのは、どうなんだろうね。それ相応の気持ちが必要じゃない?

やけ:なるほど、そういう意味での空振りってことだ。

何故ビーチ・ボーイズなの?

やけ:それはだから難しいですよ。それはたぶん、自分がいちばん最初に音楽を好きになったときから、音楽の聴き方でどういうとこ ろを聴いてたかっていうと、反抗とか興奮というよりも楽しくなりたいとかだったと思うんで。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもビーチ・ボーイズも両方好きっていう風にはならないんだ?

やけ:いや、音楽で言ったらヴェルヴェッツも好きですよ。だけど、自分の素でそういうトーンのアルバムには行かない。ジャケットが黒一色にはやっぱりならないっていうか。

まあ、そりゃそうだよねえ。

やけ:いや、そりゃそうかはわかんないですよ。次のアルバムは意外とゴシックな感じで(笑)。

わはははは。だったら、そもそも、やけのはらって名前が矛盾してるよね。

やけ:ビーチ・ボーイズみたいなものが好きなひとがいるとして、そういうのをいま風にやってますみたいなひととは、たぶんまた全然違います、それは。

ワイルドサイドのビーチ・ボーイズ(笑)。

やけ:砂糖だけしか入ってないのは、やっぱヤなんですけど、ドリーミー・ミュージックっていうのは、ちょっとありました。磯部(涼)さんなんかは「けっこうエキゾだね」って言ってて、自分はラウンジ・ミュージックっていうのはもちろんあったけど、エキゾっていうのはまったくそういう認識を持っていなかったから、それは意外だったんですけど。自分のなかではラウンジ・ミュージック、ドリーミー・ミュージックっていうイメージっていうか。

やっぱり『7泊8日』とも近いと言えるんだね?

やけ:元々好きなラインだし、友だちだし、会う前から彼は僕の音楽を聴いてくれてたり、音楽に求めているものが近かったんで、けっこうすぐ仲良くなって、今回のアルバムに参加してもらって、大事な役割を果たしてくれてますね。
 ただ、僕としても、こういう音楽のトーンっていうのは昔から地で普通に好きだったっていうか。だから新機軸って言うよりは、逆にバック・トゥ・ベーシックっていうか。
 これを作ってる2、3年はUSインディとかにも興味なくなったし、新譜で興味あるラインとかもほとんどなく、逆に世界や歴史のことなんかに興味があったり、音楽でも古いほうに遡ったり。新譜もまったく聴いてないわけではもちろんないですけど。
 前のアルバムのほうが、そのときのトレンドなんかをちょっとぐらい取り入れようかなとか、そういうのがあったから、今回はもうちょっと素ですね。最後の最後になってトラップに興味持って、何曲かドラムがちょっとトラップ風なんですけど。かなり何でもないオールド・ミュージックだったり、自分の素で好きなトーンって感じ、かなあ。

アルバムの冒頭は、ウクレレか何かを弾いてるの?

やけ:あれはただのサンプリングです。簡単なコード弾きのやつを、ちょっとピッチ変えて2コードにして。だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。

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つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないっていうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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やけちゃんが言うラウンジ・ミュージックっていうのはどういうイメージ?

やけ:部屋で鳴ってて気持ちよくなるってことですかね。それ以上にも以下にも最終的には着地しないっていうか、あんまり意味性を持たせてもわからないし。

具体的に言うとたとえばどんなの?

やけ:うーん、なんですかねえ。それこそ、アンド・ヒズ・オーケストラとか名前に入っているような古いものとか。ジェントル・ピープルの元ネタみたいなものとかですよね。やっぱりレコード世代なんで、古いよくわからないラウンジっていうか「その他」とか買ってましたね。だから音楽を聴いて高揚したいとかより、自分の中でもいろんな耳のチューニングはもちろんありますけど、たぶん音楽聴いて楽しくなりたいんじゃないですか、自分は。
 僕、起きてから寝るまでずっと音楽聴いてるんですよ。気候とか自分の気持ちとかに合わせて、うちでひとりDJをずっとしてるんです。ひとによっては「聴くぞ」っていうときにだけヘッドフォンで聴いたりするじゃないですか。でも僕は、なんだろう、つねにぜんぶムード・ミュージックとして捉えてると言えば捉えてるっていうか。言葉が入っちゃってはいますけど、自分が昼に聴きたいトーンはこんな、っていうか。

"HELTER-SKELTER"も曲名とは裏腹な......。

やけ:"HELTER-SKELTER"って「混乱してる」って意味ですよ。ジェット・コースター。

のんびりしてるじゃん。

やけ:ああ、まあまあ。でもジェット・コースターの名前ですけど、元々の意味は「混乱してる」って意味ですよ、これは。これが震災のあとの曲ですよ。「どうしよう」っていう。

でも、音楽がけっこうのどかに感じたんだよね。

やけ:いや、これ全然のどかじゃないですよ! いちばんリリカルな曲ですよ。感情がいちばん入ってるというか。もうだって、「このまま あのときのままではいられないよ」「この夢の続きは一体どんな風?/フキダシの中の言葉をなんにする?」ですよ。君は何を思うんだってことですよ。フキダシのなかの言葉っていうのは比喩で、漫画のひとの横にこうフキダシがあるみたいなイメージで、それに対して何を思うんだっていう。
 こんな日々をどうやって受け入れるんだ、どう消化するんだ、それを「混乱している」、"HELTER-SKELTER"って言ってるんですよ。消化できないっていう。

でも聴いた感じはまったくそういう風に思わなかったので、逆に言えばそれはやけのはらの狙い通りっていうことでもあるわけでしょう?

やけ:まあたしかにそうですね。この曲は、このアルバムのなかではヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなアレンジでも成り立つような歌詞というか、意味の曲であるわけだから。ちなみに、もちろん沢尻エリカとは何の関係もないですってことは、書いといてください。

とにかく、ドリーミーなものを心がけたっていうのはいい話だね。

やけ:心がけてもいるし、元々好きだし、気分的にもそういう......あ、震災の後にけっこう思ったことですね。それがさっきのマチズモとかインスタントなんかの話に繋がるんですけど、年齢もあるのかもしれないけど、激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。
 とくに震災の後とかは、直接的にその後にやったリミックスはぜんぶノンビートにしちゃって。ほとんど低音入ってない曲とか。気分的にもそういうムードだったっていうのはありますね。まだこれ(アルバム)は、揺り戻しがあってビートをそれなりに入れたっていう。でもノンビートの曲もあるし、けっこう一時期のノリだと危なかったですね。声入ってるのに1曲ぐらいしかリズムがない、みたいな(笑)。

おおー、それも聴きたかった。クラウド・ ラップみたいな(笑)。

やけ:いや、それだとさらに素なんで、そういうのはもっと年取ったときに取っときます。そこまで行っちゃうともう戻せないんで。

最後から3番目の曲("BLOW IN THE WIND")でさ、「普通じゃないものにいまも夢中さ」ってあるけど、その「普通じゃないもの」って何のこと?

やけ:いや、それはだから難しいんですよね。わざと危ない言葉だからそのままで言ってるんですけど。多様性ってことですね。

難しいことを言うねー。

やけ:いや、ぜんぶで一貫して言ってるんですけど、「小さな声をなかったことにするな」みたいなこととか、「はみ出る感情や生き方を楽しもうよ」とかだったり。自分が聴きたいのは誰かの代理ではなくて。まあこれも安易な言い方にまとまっちゃいますけど、誰かの思惑で決められた何かに流されるんじゃなくて、自分の好きなものを自分で決めたりとか。こういう言い方をするとカッコいい風に聞こえてしっくり来ないな。 うまく言えないけど、つねに一貫したテーマとしてあるというか。
 たとえばその時代の大多数の感情や音楽がこうだからって言って作るんじゃなくて、そこからやっぱり零れ落ちるそのひとなりのエネルギーであったり形であったり、表現だったり。そういうのに対する愛着っていうのはすごくあるし、そういうのが聴きたい、したい。っていうのはあると思いますね。

やけのはらって、家のなかで考えて作るって言うよりは出かけて行って作るようなイメージをずっと持っててさ。前作のときのPVでも、江ノ島の海辺でみんなで遊んでるのを使ったじゃない? イヤミったらしいぐらい楽しそうな映像をさ(笑)。

やけ:なんですか、「イヤミったらしいぐら楽しそう」って(笑)。パンチラインですね。言葉としてエッジが効いてた(笑)。でも、いまの気分だったらあんなことはできない。

でも、「外に出よう」って感じはまだあるでしょう?

やけ:それはでも、実際のことでも観念的なことでも、もっと世界を知ろうってことは言ってるんですけど。最後の("where have you been all your life?")がまさにそういう曲ですよ。最後の曲のことがあんまり言及されないんだよなあ。

いや、話がまだそこまで行ってないから(笑)。じゃあさ、アルバムの後半、"JUSTICE against JUSTICE"以降っていうのがさ、希望を見ようとしているよね?

やけ:それはでも、"D.A.I.S.Y."って曲ですかね。"BLOW IN THE
WIND"って曲は文化のことを歌ってるんですけど、これはむしろ寂しさを伴ってる感じがしますけどね。「普通じゃない」っていうのも、これは不毛さを愛していくってことで、だからこの曲は、そういう意味では意外とブルーなんですよね。

なるほどね。まあメランコリックな曲でもあるからね。でもこの"D.A.I.S.Y."はさ、「やけのはら、どうしちゃったんだろう」ぐらいのさ、人生肯定感じゃない(笑)?

やけ:え、でもそんなこと言ったら"GOOD MORNING BABY"とかもそうじゃないですか! 曲名は、デ・ラ・ソウルの"デイジー・エイジ"が何かの言葉の頭文字になっていて、その法則を踏襲したというか。だから、"D.A.I.S.Y."は"DAYS AFTER INOSENT SWEET YEARS"の頭文字ってことにしたんですけど。だから、これもじつはブルーだからこそ、ですよ。
 あと、"D.A.I.S.Y."って、いろんな意味がありますよね。『2001年宇宙の旅』でコンピュータが歌った"デイジー・ベル"っていうのは、はじめて電子合成のロボットが歌った曲だし。でも、映画だとあのコンピュータが最後に歌った曲なんですよね。それで壊れてなくなっちゃって。希望の象徴だったり、でもアンビヴァレントなブルーな匂いもするじゃないですか。『2001年宇宙の旅』での使われ方なんか。

あるいは、ヒッピーというかフラワー・チルドレンというか。20世紀的な理想主義だよね。

やけ:そうですね。でも「デイジー」みたいなこととか、ヒッピー的なタームでそういう物事の象徴となってた時代、60年代、70年代のほうが未来に対しての希望みたいなものが、何て言うか、無邪気だった感じがあるじゃないですか。無邪気に本当に希望を信じていたような。僕はもちろん生まれてないんで、後から触れての印象ですけど、未来に対して希望があった時代の象徴って気がして。そういうのが気分にあったというか。

それを敢えていま言ってみたかったっていう感じ?

やけ:いや、難しいっす。いろんな自分の知ってる情報やニュアンスのなかでしっくり来たっていうか。ニュアンスや感覚の捉え方の話なのでうまくは言えないですが。でも前のアルバムも音ができてないときからPVは"GOOD MORNING BABY"って決めてたし、このアルバムもじつは前からこの曲になるんだろうな、って1、2年前からそう思ってました。

新しい恋をしたとか(笑)?

やけ:恋は関係ないです。ラヴ・ソングはできないっすよねえ。タイトルだけ"I LOVE YOU"って曲入れましたけど。観念的なラヴ・ソングだったらいいですけど、本当に女性との直接的なラヴ・ソングっていうのは人生で一度も作れたことがないかもしれないですね。そういうのはちょっと、今後のテーマに取っておいて。昔、野田さんが「やけちゃんはラヴ・ソングやったらいいよ」って言ってくれて、心のなかにはラヴ・ソングに対する想いはいろいろあって。

やけのはらは場面の描写が好きだよね。なんか、男と女というよりも、もっとがやがやしている感じがする。

やけ:それは性格ってことになっちゃうと思うんですけど、つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないって いうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。

これがやけのはら人気の秘密なんだよ(笑)。

やけ:いや、これが性格なんですよ。映画なんかでも、あんまり楽しくない映画とかイヤなんですよね。それはDJで培ったものがあるのかもしれないのと、自分も人間なんでそういうのがゼロとは言えないですけど、自己陶酔してるタイプのミュージシャンじゃないと思うので、例えば「苦労してるオレを見てもらう」みたいなことって発想としてないっていう。

だからっていうか、"デイジー"は、今回のアルバムの象徴的な曲なわけだよね?

やけ:この曲は大事でしたね。ぜんぶの曲で同じことを言ってるとも言えますが、この曲では、ぜんぶまとめて言ってるってとこもあるので。結局ひと言でまとめると、「楽しく生きましょう」とかそういうことなんですけど(笑)。

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絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、夜中4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。


やけのはら
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やけのはらは、決して順風満帆にここまで来ているわけじゃないよね。

やけ:まず、ファースト・アルバムが30歳とかですからね。

ある意味では苦労人というか。

やけ:まあ、生活的に貧しかった20代前半とかもありますが。ただ、べつに苦労って気はなかったですよ。苦労っていう実感はないですね。

絶望を味わったことはあるわけでしょう?

やけ:わかんないです。そのころは、絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、午前4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。
 それはいまでもそうですけど、そういうところを何かに合わせてしまうんだったら、野垂れ死ぬわ、ぐらいの感じがやっぱりあったんで。けっこう現実面でそう思ったっていうか、笑い話じゃなくて、ガチで浮浪者みたいな生き方も視野に入れつつぐらいの感じっていうか。べつにいいです、もうなんか。それだったらもう死にます、野垂れ死にます、みたいな。

説得力のある話だね。午前4時にさ、何もやることのない青春っていうのが良いよね。

やけ:何もやることがなかったわけではないけど(笑)。

そういう未来の見えなさのなかで生まれた前向きさなわけだね。

やけ:それはそうだと思いますけどね。だから、いちおう知恵を練ったんじゃないですか。性格的に月から金の普通の仕事はできないと。CDとか出しつつも音楽はやってる。じゃあ音楽でもっと収入を上げようとか、DJやるにしろ何やるにしろ、もっと細かいところから積み重ねる、もっとこうして良くしていこう、楽しんでもらおう、とかだったり。ここをもっとこうできるようになって、音楽のクオリティを上げよう、とか。

知り合った頃は、DJとしてはすでに人気あったからなあ。

やけ:DJはひとりでできたから。なんとなくやれてしまったというか。
 同い年の旅人くんとかを見ると僕なんか全然遅いなと思いますよ。上京してきて18、19で音楽で身を立てるみたいな思いがあって。すごい偉いなと思いますよ。僕にはそういう気持ちがぼんやりしかなくて、性格もあるし、横浜っていう都内近郊が地元だったので、音楽はしたいけどガツガツとミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。僕はそういうところで判断が遅くて、ボンヤリしてましたね。ファースト・アルバムが30歳ですからね。

素晴らしいじゃない、それは(笑 )。

やけ:性格なんですよ。ひとつひとつのことを、こういうのがいいらしいって言われても、「ほんとっすか?」みたいな感じでつねに疑ってかかるタイプなんで(笑)。だからひとつひとつがすごい時間かかって。

じゃあ、最後の曲("where have you been all your life?")について、なぜこの曲を最後にして、そしてどうしてこの曲が生まれたのかを。

やけ:うーん......まず直接的に言うとタイトルからできたんですけど。年上の友だちの結婚式で、引出物のトート・バッグに「where have you been all your life?」って書いてあって。なんかいい言葉だなと思って。オールディーズの曲名なんですが、なんかこの言葉が引っかかってて、そこから連想してできたというか。街を歩いているときにふっとフレーズが出てきて、あのタイトルで「あなたは何したいの」みたいなことを問いかけるっていうのが面白いかなと思って作ってた感じですね。
 でもどっちだったかな、「your」か「my」かどっちか忘れたんですけど、英語で「やっと会えましたね」みたいな意味になるんですよね(註:「where have you been all my life?」で「どうして君ともっと早く巡り会わなかったの?」の意)。そこらへんが面白いな、と思って。だからいろんなことがあったり、世界や生活のなかで自分にしっくり来る楽しいことをやっていきましょう(笑)、それのために知恵を絞って街に出たり、いろんな世界と友だちになろう、街に出よう、そういう曲ですね。

リスナーに呼びかけるっていうか、こういう直接的に語りかける曲っていうのも、俺久しぶりに聴いたような気がしたんだよなあ。

やけ:マジですか。まあ自分に言ってる的なところもあるんですけどね。なんかボンヤリしたりするじゃないですか、生きてるなかで。まわりから望まれていることと違ったりとかね、そういうこともありますし。自分がいちばんやりたいこと 、好きなこと、いちばん大事なひとを考えるとか、そういうのがいいんじゃないかって。暮らしっていう意味で見ても、物質面で見ても、いろいろなひとつの作法、もの。どこに住んで何をする、そうしたことひとつひとつもある種思想ですし、自分ももう一度しっくり来るものを見つけたいですし。みんな本来のしっくり来るものを見つけるのがいちばんいいんじゃないかと思うので。
 それは前も言ったんですけど、答が出る前に「こういうのがしっくり来ますよねー」みたいな押し売りの波とかがやっぱりすごく多いような気がするので。生き方、場所、ものとか、いろんなことですけど。

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音楽はしたいけどガツガツミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

今回さ、アルバムのジャケットにひとを載せなかったのはなんで?

やけ:うーん......具体的にひとを載せたくなかったわけではないですが、たとえばまた同じような感じで女のひとが載るっていうのは続編っぽくなるので絶対ヤだなっていうのはありつつ、まあ流れですね。信藤三雄さんの写真なんですが??〈トラットリア〉とかピチカート・ファイヴで信藤さんがやってたことっていうのは好きだったし。で、大人になって、〈トラットリア〉や信藤さんがやって来たことが当時よりも見えてきて。
 そうしたら、僕の前のアルバムをなぜだか信藤さんが気に入ってくれてて。それでお会いする機会もあって、面識もできた流れもあって、今回のアルバムを作ったスタジオが信藤さんの事務所の近所で、スタジオに遊びに来てくださって。で、世間話のなかで見せてもらった信藤さんがiPhoneで撮った写真なんです よ。これはただの記録みたいな感じで信藤さんが撮った写真なんだけど、なんかピンと来て、写真をお借りして使わせてもらったっていう。

どこにピンと来たの? 青空?

やけ:雰囲気です。ムードですね。

これはどこなの?

やけ:沖縄です。

沖縄なんだ。いいねぇ。やけちゃんは間違っても沖縄なんか住めないからね。

やけ:え、なんで?

俺と同じように、東京で生きて東京で死のうぜ。

やけ;僕は意外とレイドバックしたところで死んでいくつもりです。

どこで(笑)?

やけ:いや、わかんないですけど。

そんな~、やけのはらのクセに。

やけ:いやでも、都市生活に対するアンビヴァレントな気持ちは感じ取れるんじゃないです か、このアルバムからは。

はい、むちゃむちゃ感じ取れますね。じゃあ、そろそろ最後の質問にしたいんだけど。"SUNNY NEW DAYS"みたいな曲は、どういうときに作ったの?

やけ:これはアルバムの最後で、「もう作るぞ」と思って作ったっていうか。近所の公園で歌詞を書きました。

シンプルな歌詞だけどさ、これはアルバムのコンセプトが固まってから?

やけ:完全にそうですね。ちなみに「新しいニュースペーパー」って言葉はSAKANAの曲から引用してるんですが。えーっと何て曲でしたっけ? ......、"ロンリーメロディ"。

へえー、そうなんだ。

やけ:あの曲ほんっと最高ですよね。あの曲の歌詞はほんとにすごい。なんでしたっけ、「わたしの歩き方が遅すぎるのなら/どうぞ置いていってください」。その「歩き方が遅すぎるのなら、どうぞ置いていってください」っていうようなラインは、ほんと文明社会に対する違和感みたいなところもある曲なんですけど。あの曲はほんと素晴らしい。あの曲の影響はあるかも。あの曲とアルバムでやろうとしてたことの感じは近い。

ああ、SAKANAとやけのはらの共通する感覚ってあるかもね。

やけ:厭世観みたいな意味で近いところはあると思いますよ。世界に希望を求めてるけど、じつはあんまり信じてない、みたいな。

ああー、なるほどね、厭世観。都会のなかで暮らしながらの厭世観みたいな。

やけ:だから諸手挙げてキレイな世界、先へ進んでいこうみたいなカラっとした感じは実は全然なくて。だからこそ無理矢理そうしてるっていうか。

(笑)たしかにブライアン・ウィルソンも、彼の複雑な人生を考えるとね。あの明るさっていうのは。

やけ:しかもあれだけグチャチャな人生を生きているブライアン・ウィルソンがいまでも一応元気で音楽やりながら生きてるっていう。

interview with Jesse Ruins - ele-king


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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 「日本人ということはわかっているが、 女の子か男の子かは定かではない。ただ、彼らの音楽は圧倒的に素晴らしい」──『ガーディアン』はジェシー・ルインズのデビューにそのような賛辞を送っている。同紙いわく「性のサインを持たない、不定形で、中性的な音楽」、ゆらめくジェンダー、そのドリーム・ポップは、想像癖のあるリスナーの関心を集めている。
 顔の見えない男女の写真もミステリアスなイメージを膨らませた。彼らは東京にこだわってはいるが、トゥーマッチな情報世界からは静かに身を引いている。いまごろはモノレールに揺られながら夕日を眺めていることだろう。ちょっとしたファンタジーだ。言葉を主張しない歌が、黄昏に響く。

 以下のインタヴューを読めば、チルウェイヴとは何だったのかがよくわかる。その正体、その真の姿、それはブロガー文化が最初に純粋な高まりを見せた2009年の、ほとんど瞬間的に成立したデジタル民主主義がもたらしたひとつの成果だった。ジェシー・ルインズはその恩恵を受けた日本人のひとりである。
 僕がジェシー・ルインズを好きな理由のひとつは、彼らがインディ・シーンの動きに敏感で、自分たちでもDIYでやっているところにある。
 彼らは、とくにUSのインディ・シーンに触発されている。3年前はチルウェイヴにどっぷりハマって、そしていまがある。彼らはそういう自分たちの経験や気持ちを決して隠さず、いつでもざっくばらんに話してくれる。ジェシー・ルインズが生まれる土台となった〈コズ・ミー・ペイン〉は、カセットテープとアナログ盤しか出さない。日本では、おそらくその手では、唯一のレーベルだ。

 ジェシー・ルインズは、2011年に〈コズ・ミー・ペイン〉からカセット作品を出すと、2011年12月、ロンドンの〈ダブル・デニム〉から7インチ、2012年にはブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉からミニ・アルバム「ドリーム・アナライシス」をリリースしている。
 このたび、西海岸の〈レフス〉から出る『ア・フィルム』が正式なファースト・アルバムというわけだ。バンドのメンバーはサクマ(Nobuyuki Sakuma)、ヨッケ(YYOKKE)、ナー(Nah)の3人だが、ほとんどはサクマがコントロールしている。

 3人は、物静かで、シャイだが、わりと気さくな人たちである。週末の夜、下北沢のレコード店で待ち合わせをした我々は、店を出ると人通りの少ない通りの、若者で賑わっている値段の安いカフェに入った。生ビールを注文して、それからスパゲッティー、フラインドポテト......。

「Gorilla vs Bear」という『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。最初は〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。

ジェシー・ルインズはどうやって結成されたの?

ヨッケ:もともとは完全に佐久間君のソロでしたね。〈コズ・ミー・ペイン〉を立ち上げたときに、ファロン・スクエア(Faron Square)、エープス(AAPS)、そして、佐久間君のナイツ(Nites)があったんですね。最初はその3組でスプリットを作ろうと思ったんですけど、それでは面白くないからコンピレーションにしようと。でも、コンピレーションを作るには曲数が足りない。で、それぞれがソロを作れば2倍になるから、なんとかなるだろうと(笑)。

はははは、その話憶えているよ。

ヨッケ:そのときに佐久間がジェシー・ルインズという名義を作ったんです。そのときは......、なんて言うんだろう、アンビエント、ドローンじゃないけど、ディスコ・パンクも混じって、雑多なものでしたね。

いま流行のインダストリアル調な感じもあったよね。

サクマ:最初は、別名義の名前を考えただけで、インダストリアルもそんなに意識してないけど、作ったらあんな感じなったんです。

"If Your Funk"という曲ですね。

サクマ:メロディもなにもない曲ですよね。

サクマ君のなかには新しいアイデアがあったの?

サクマ:いや、何もない。ただ、コンピのために名前を作っただけ。どちらの曲もナイツ名義で良かったんです。コンピのときは、名前を考えただけです。

『CUZ ME PAIN COMPILATION #1』だよね。

サクマ:はい。2010年ですね。

ヨッケ:6月? 8月? 夏ぐらいだったよね。

サクマ:2010年の年末に、ザ・ビューティとスプリットでカセットを出そうとなって、「じゃあ、ジェシー・ルインズでやろうかな」と。ザ・ビューティにとってもそのときのメインは、ファロン・スクエアだったんですね。その次にアトラス・ヤング名義でもやってて......ややこしいんですけど、ザ・ビューティという名義は優先順位で言えば、いちばん下だったんですよね。僕は、ナイツ名義だったから。だから、自分たちのメインではない名義で何かをやろうという、単純な発想ですね。俺はその頃は、DJやるのもナイツ名義だったし。

なるほど。

サクマ:で、そのカセットを出したのが2011年の1月だったんです。それを瀧見(憲司)さんが買って、そこからザ・ビューティが出てくる。そのあと、僕も、春ぐらいかな、"ドリーム・アナライシス"という曲を作って、それが「Gorilla vs Bear」とか、海外のサイトに載って、そこからですね、海外のレーベルからオファーがやたらたくさん来るようになったのは。

どうして載ったんですか?

サクマ:僕が送ったんです。「Gorilla vs Bear」に。mp3のサイトで、〈フォレスト・ファミリー〉というレーベルもやっているんですけど、そのときは『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。テニスを発掘したのもそのレーベルでした。最初は、〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。それから、多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。

それはすごいね(笑)。

サクマ:すごかったですね。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。それで、〈レフス(Lefse)〉からアルバムを出したいというオファーをもらったんですけど、曲数がぜんぜんなかったので、「いますぐに出せない」と言ったら「マネジメントをやりたい」と言われて。海外事情もわからないので、手助けしてもらえたら嬉しいということで、マネジメント契約を交わしました。UKの〈ダブル・デニム〉から7インチを出すのはそのあとですね。

そのEP、「A Bookshelf Sinks Into The Sand / In Icarus」が出たのは?

サクマ:2011年の12月です。

そのときに『ガーディアン』が新人コーナーで取りあげたんだ。

サクマ:ちょうどリリースのときですね。〈ダブル・デニム〉の人から「来週ぐらいに『ガーディアン』に載るから」って言われて。

あれはびっくりしたよね。あのアー写が良かった。NAHちゃんも格好良かったよ。

ナー:梅ヶ丘で撮ったヤツ(笑)?

顔が写ってないの。あれは想像力を掻き立てられるものがあったと思うよ。

サクマ:そこまで考えていないけど、そのときは顔は出さないほうが良いなとは思った。何人だってわからないほうが面白いだろうし、受け手に勝手に想像してほしかった。

ジェシー・ルインズという名前が良かったよね。音楽と合っているというか。女の子の名前でしょう?

サクマ:男の子の名前です。

ナー:女の子は、JESSIEなんです。

ああ、そうか。海外からのメールって、オファー以外ではどんなメールがあった?

ヨッケ:amazingが多かったよね。

サクマ:あとは、brilliantとか。そういう単純な感想ですね。でも、やっぱ、そういう感想よりも、業者みたいな人から「ツアーを組みたい」とか、「曲を使いたい」とか、それが異様に多かった。

ヨッケ:個人ブログへの掲載許可みたいな内容のメールも多かったよね。

それそれ、それがまさにチルウェイヴというムーヴメントの正体だよね。インディ・ミュージックをブログで紹介するということのピークがチルウェイヴだったんだよね。

サクマ:そうですよね。

ヨッケ:それは無茶苦茶あったと思います。

だから、コズ・ミー・ペインが日本のチルウェイヴの代表みたいな言い方は当たっているんだけど、それはどういう意味かと言うと、そうした、2010年ぐらいのインディとブログ文化との連動にアクセスしていたっていう意味で、チルウェイヴなんだよね。音楽性で言えば、ウォッシュト・アウトとコズ・ミー・ペインがそこまで重なっているとは思えないし......。そもそもサクマ君の音楽的なルーツって何なの?

サクマ:ハードコアや、ポスト・ロック。

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とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。だから、描きたいのは、雰囲気ですね。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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自分の音楽制作に影響を与えたものってある?

サクマ:いまでも昔の音楽に影響を受けているわけではないんですよね。常に新しい音楽のほうが好きなんで、新しい音楽に影響受けてます。

音楽を意識的に聴きはじめた当時の影響は?

ヨッケ:それ、俺も知りたい(笑)。

サクマ:とくに何かひとつのアーティストがすごい好きだったという感じではないんですよね。あー、ジョン・オブ・アークは好きだった。シカゴ音響派は好きでした。20歳とか、大学時代でしたね。でも、いまもハードコアは聴いてます。高校生のときは好きだったから。

ヨッケ:コズ・ミー・ペインはみんな趣味がバラバラなんですよ。僕はアヴァランチーズが好きだった。レモン・ジェリーとか。サンプリング・ミュージックが好きでしたね。

ナー:私は、2004年~5年にイギリスに留学してたんですよね。

ま、まさかリバティーンズ・ギャルだった!?

ナー:その世代の後のもっとアングラなバンドばかり観ていました。ただ、私は、UKロックからの影響のほうが大きかったですね。日本に帰ってきたらは、どんどん古いほうに興味がいって、ゴシック・パンクとか、ポジパンとか......ヴァージン・プルーンズとか、80年代の音を探したり。

すごい(笑)!?

ナー:クリスチャン・デスとか。

はははは。

ヨッケ:ホント、みんな趣味が違っているんですよね。

UKから帰ってくると、何かやらなきゃっていう気になるよね(笑)。

ナー:ホントにそう。私も、帰ってすぐにイヴェントはじめた(笑)。

はははは。ところで、〈ダブル・デニム〉から出たときには、ジェシー・ルインズの音楽の方向性は固まっていたの?

サクマ:「Gorilla vs Bear」に音源を送ったときには、もう「これだ」という感触はありましたね。

〈ダブル・デニム〉の次は、2012年2月の〈キャプチャード・トラックス〉からの12インチ『ドリーム・アナライシス』だよね。

サクマ:〈ダブル・デニム〉からのリリース前に、〈キャプチャード・トラックス〉からオファーがあったんです。同時に3つのオファーがあったんですよね。そのなかで〈キャプチャード・トラックス〉はインディのレコードを買ってる人間からしたら特別なレーベルだったんです。

『ドリーム・アナライシス』のときはもう3人だった?

サクマ:ライヴは3人でした。ただ、ヨッケはまだサポートだったので、メンバーは最初は2人でしたけど。ライヴをやりたかったんですよね。

ナー:コズ・ミー・ペインが梅ヶ丘でやっていたパーティに友だちに連れて行かれたんですよね。それで知り合って。

サクマ:ナーは僕がこういう人がいいなって考えてた理想像に近い人だった。あと、メンバーにするなら、もともと友だちじゃないほうが良いなというのもあったんです。コズ・ミー・ペインの周辺じゃないところにいる人が良いと思っていた。

共通する趣味は何だったんですか?

サクマ:わからなかったですね。2~3回会ってから、誘った。

ヨッケ:2011年の夏前ぐらいだったね。

サクマ:初ライヴは2011年の12月でしたね。〈ダブル・デニム〉からシングルが出て、すぐぐらいでしたね。渋谷のラッシュというところでした。夏前から半年弱くらい3人でスタジオ入ってひたすら練習してました。

ヨッケはドラム経験者?

ヨッケ:いや、それが初めてでした(笑)。

サクマ:俺もぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。

サクマ君とナーちゃんの2人で録音した最初の曲は何だったんですか?

ヨッケ:『CUZ ME PAIN compilation #2』の曲(Hera)じゃない?

サクマ:基本的には僕が曲を作っているんですが、一緒に作っているってことはないですね。曲を作って、ヴォーカルを入れてもらう。だから......これは言っていいのかな......。

ナー:はははは。

ヨッケ:ああ、そういうことか。

ええ、意味ありげな、なにが「そういうことか?」なの(笑)?

サクマ:どうしようかな......。

ナー:はははは。

サクマ:正直に話すと、彼女のヴォーカルを入れたのは今回のアルバムが初めてです。〈ダブル・デニム〉や〈キャプチャード・トラックス〉からの音源は、実は僕が曲も作ってヴォーカルをやって完パケまでやっている。女の人の声になっていますが、実は僕の声を加工して、編集したものなんです。ただ、そこをずっと隠していたんです。あたかも彼女が歌っているように。

『ガーディアン』でも「androgynous(中性的)」とか、「we have no idea whether Jesse Ruins is a boy or a girl(ジェシー・ルインズが男の子なのか女の子なのは我々は知らないが)」って紹介されていて、やっぱそこは、すごく引っかかるところだったんでしょうね。

サクマ:まあ、わかる人にはわかったと思いますけどね。ただ、その編集した声と、実際の彼女の声が似ているんですね。すごい偶然なんですけど。だから、ライヴを聴いている人には、本当に彼女が歌っていたんだと思っている人もいたと思います。

へー、面白い話だね。それでは、今回の『ア・フィルム』は3人のジェシー・ルインズにとっての最初の作品でもあるんだね。

ヨッケ:とはいえ、ほとんどがサクマ君が作っていますけどね。僕は録音を手伝ったり、1曲だけアレンジを担当して、マスタリングを手伝った。

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ぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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ジェシー・ルインズが描きたいものは何でしょう? 何らかのムードやアトモスフィアを描きたいのかなと思っているんだけど。

サクマ:海外のサイトでは、よくM83と比較されるんですけど、好きですけど、ぜんぜん意識したことない。モデルにしているようなアーティストがいるわけでもないんです。最初のイメージとしてあったのは、ソフィア・コッポラの映画と『ツイン・ピークス』の雰囲気が混ざった感じでしたね。

ヨッケ:ソフィア・コッポラは音楽の使い方がうまいですからね。ニュー・オーダーとかストロークスとか。

エールとか?

サクマ:『ヴァージン・スーサイド』ってよく言われるけど、『ロスト・イン・トレンスレーション』です。「Gorilla vs Bear」に送った音源は、あの斜陽な感じと、それから『ツイン・ピークス』のダークな感じを出したくて作りましたね。

ヨッケ:インダストリアルなM83みたいなことを言われたんですけど、ニュー・オーダーの影響を受けているのがM83なんで。

ああ、そうか、ニュー・オーダーって映画から知っているんだね。

サクマ:とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。

はははは。

サクマ:だから、描きたいのは、雰囲気ですね。

そうだよね。歌はあっても、言葉がないもんね。そこはすごく徹底しているというか。

ナー:ライヴをやっているときも、自分でも無茶苦茶エフェクトをかけていますからね。

アルバム最後の曲なんかは、ヴェルヴェットみたいだけど、もっと抽象的だよね。ああいう文学性はないしね。

サクマ:もともと歌い上げている音楽は好きじゃないんで。歌が中心にある音楽が好きじゃない。音が部分としてあるほう好きなんで。シンセと歌メロは同じなんです。

声も楽器のひとつという言い方は昔からあるんだけど、それとも違っているかなーと思うんだけど。あと、8ビートじゃない。ほとんど8ビートだよね。

サクマ:そこは気にしていない。わからないから。僕がそれしかできないってだけなんです。打ち込み能力がないんです(笑)。ただ、もし能力があったとしても複雑なことはやらないかと思いますね。

ニュー・オーダーの"ブルー・マンデー"よりもジョイ・ディヴィジョンのほうが好きなんでしょ?

サクマ:ああ、そうですね。僕はジョイ・ディヴィジョンのほうが好きです。意識してなかったけど。

ヨッケ:8ビートだから僕が叩けたっていうのもあるね(笑)。

はははは。

サクマ:中学生用のバンドスコアですね。

いま日本のロック・バンドって、なんであんなにみんなうまいの?

ヨッケ:真面目なんだと思います(笑)。ドラムは過去にやったことがまったくなくて、YMOの"CUE"という曲があるんですけど、最初はあの曲の坂本龍一の叩くストイックなドラムのコピーからはいりました(笑)。

ナー:初めて知りました(笑)。

はははは、練習した?

ヨッケ:練習はしませんでしたが、研究はしました。

サクマ:うまくなくても良いんですよ、僕は。自分たちがスタジオ・ミュージシャンみたいにうまかったら、面白くないと思うんです。

『ア・フィルム』というタイトルにしたのは?

サクマ:収録曲が、映画のタイトルや登場人物の役目などを文字って付けているんですよ。完全に自己満足の世界ですね(笑)。最初は、タイトルは「ジェシー・ルインズ」でいこうと思っていたんですけど。

それいいじゃん!

サクマ:でも、『ア・フィルム』のほうがリスナーが勝手に想像できるかなと。曲もそんな作り込んでないんです。もう、ばーっと作った感じ。作り込んでしまうのが嫌なんです。

ヨッケ:2ヶ月以内でぜんぶ作ってましたからね。

海外ツアーの予定は?

サクマ:今年はそれが目標ですね。『ドリーム・アナライシス』のとき、ツアーの話は2回くらいあったんですけど、中止になりましたから。アルバムが出るんで、今年はやりたいな。日本国内のツアーはします。

ライヴはいまのところ何本くらいやってるの

ヨッケ:20本ぐらいかな。多いときは月に2回はやっています。

サクマ:次のライヴでは4人組になるかもしれないね。

新メンバーが?

ヨッケ:ドラマーが入って、僕がギターその他を担当するっていう。

レーベル的には新しい動きはある?

ヨッケ:コズ・ミー・ペインの新しいコンピレーション、『#3』を出します。

良いですね。コズ・ミー・ペインは、さっきのチルウェイヴの話じゃないけど、ブログ文化で支えられながら、フィジカルではアナログ盤とカセットのみという、そこもチルウェイヴの人たちと同じだったよね。

ヨッケ:そこは自分もひとりのリスナーとして、そうでないと嬉しくないというか、残るものにしていというのがありましたね。ネット・レーベルが全盛ですけど、僕らがそれやったらすぐ終わっちゃう気がするんですよね(笑)。やっぱ、アナログやカセットみたいに、手間暇かけてやるからこそ、続ける気になるというか。そういうのが単純に好きなんです。

サクマ:お金ないんですけど(笑)。

ヨッケ:お金ないんですけど(笑)。

 サクマは、コールド・ネーム名義でも最近、カセット・レーベルの〈Living Tapes〉から作品を出したばかり。また、ジェシー・ルインズの視聴はココ→https://soundcloud.com/lefse-records/jesse-ruins-laura-is-fading

■5月26日『ア・フィルム』リリース記念のパーティがあります!5/26(sun) at 渋谷Home
Cuz Me Pain
-Jesse Ruins "A Film" Release Party-

OPEN 18:00予定

Live
Jesse Ruins
Naliza Moo
and more...

1 2

Chart - JET SET 2013.04.08 - ele-king

Shop Chart


1

Poolside - Only Everything (Scion Audio Visual)
アルバム『Pacific Standard Time』には未収録の2曲!!昨年夏にフリーデータ配信されていた大人気音源が10インチ・リリース。

2

Haim - Falling (Polydor)
人気爆裂L.a.3姉妹バンドのUkメジャー第2弾。オリジナルに加えて、Psychemagik、Duke Dumontによるリミックスも収録!!

3

Sign Of Four - Hammer, Anvil, Stirrup (Jazzman)
大人気Greg Foat Groupに続きJazzmanから登場した脅威の新人。電子音が飛び交うサイケデリック・ファンクからエレクトリック・サンバまで、凄すぎます!!

4

Suff Daddy x Ta-ku - Bricks & Mortar (Melting Pot Music)
Melting Potでも随一の人気を誇るSuff Daddyと、J Dilla追悼ビート集が話題を席巻/即完売も記憶に新しいオージー・ビートメイカーのTa-kuによる奇跡的コラボ!

5

Sweatson Klank - You, Me, Temporary (Project Mooncircle)
名門Alpha Pupからのリリースでもお馴染み、西海岸ビーツ・シーンのパイオニアTakeによるベース通過以降の新プロジェクトSweatson KlankがメガヒットEpに続く1st.アルバムを完成です!!

6

Tame Impala - Mind Mischief (Modular)
2012年ベストの声も高かった傑作アルバム『Lonerism』収録のドファンキー・サイケ・ポップを、DucktailsとFieldという間違いなしの2組がリミックス!!

7

Justin Timberlake - 20/20 Experience (Rca)
先行シングル"Suit & Tie"や"Mirror"が世界的なヒットを記録しているJustin Timberlakeですが、約7年ぶりとなるスタジオ・アルバムが遂にヴァイナルで登場! ※ゲートフォールド・ジャケット仕様。

8

Disclosure - White Noise Feat Alunageorge (Pmr)
ご存じ『Face Ep』と『Latch』が連発メガヒットしたベース・ハウス最強人気デュオDisclosureがなんと、Tri Angleの新星デュオAlunageorgeのAluna FrancisをFeatした話題盤です!

9

Owiny Sigoma Band - Power Punch (Brownswood)
Brownswoodからのハイブリッド・アフロ・プロジェクト!!高い評価を受けた2011年のファーストに続く2枚目のアルバムが到着です。

10

A Tribe Called Quest - Beats, Rhymes And Life -ア・トライブ・コールド・クエストの旅- (Transformer)
結成秘話から各メンバーの現在の心境まで綴った貴重な映像も多数含むB-boyのみならず全ミュージック・フリーク必携の1枚! セル版のみの豪華特典満載! 本編97min.+特典映像78分のフル・ボリューム映像作品!

DJ MASA a.k.a conomark - ele-king

これからもずっと好きであろうアルバムあげてみました。2013年もどうぞよろしくです!
twitter ID:conomark
Facebook ID:Masatake conomark Koike

all times best


1
Chico Hamilton - The Dealer - Impulse!

2
The Tony Williams Lifetime - Turn It Over - Polydor

3
Niagara - Niagara - Mig

4
Art Blakey - Holiday For Skins - Blue Note

5
V.A - The Garage Years - 99 Records

6
NEU! - NEU! - Gronland

7
Herbie Hancock - Dedication - CBS/SONY

8
The Watts 103rd Street Rhythm Band - In The Jungle Babe - Warner Bros

9
WAR - Young Blood - UA

10
Donny Hathaway - Live - Atco

Sam Lee - ele-king

 貧民街の公園というのは単なる空き地であることが多いため、ジプシーやトラヴェラーと呼ばれるキャラヴァン生活者の滞在地になりやすく、年に数回、うちの近所の公園もパイキーと呼ばれるアイリッシュ・トラヴェラーの方々に占拠される。
 で、数年前のクリスマスのことだ。ちょうどその時期、パイキーの方々が近所の公園に滞在しておられ、降誕祭の朝、カトリック教会のミサに大挙してやってきたのである。それでなくとも子沢山で大家族の彼らが一堂にやって来られたものだから、教会の椅子は足りない&彼らが貧民街在住者ですら気後れするようなタフでラフな雰囲気を漂わせておられるため、博愛なはずの教会でも明らかに歓迎されている風ではなかったが、彼らの方でもそれに慣れきっている様子で、ぞろりと教会後方の床の上に座っておられた。
 カトリックのミサには答唱詩篇という聖歌を歌う部分があり、それは平坦なメロディで何度も同じ祈りの文句を歌い倒す、というものなのだが、そこにさしかかったとき、聖堂の後方からこぶしの回ったバリトンで歌いあげるパイキーの男性たちの声が響いてきた。  
 あの大地の底から沸き上がってくるような答唱詩篇は、クラシック系の声で歌われる聖歌とはまったく別ものであった。一曲の聖歌の中で、クラシックとフォークがせめぎ合っているかのようだった。クラシック風の歌唱法をしているのが前方に座っている貧民街在住者たちで、後方から野太い民族歌謡の声を聞かせているのがトラヴェラーズ。という構図も面白かった。

           ************

 サム・リーは、英国内のイングリッシュ、アイリッシュ、スコティッシュ、ルーマニア系トラヴェラーのコミュニティに伝承されているバラッドのコレクターである。彼が自分の足でトラヴェラーの滞在地に出向いて行って、そこで代々歌い継がれて来た歌を学び、新たなアレンジを施して録音したものが『Ground of Its Own』だ。わたしはそれがとても好きだったので、昨年末、紙エレキングで個人的な2012年ベスト10アルバムを選んだとき、3位に入れた。で、そのアルバムが3月に日本でも発売されたというので、こうして再びしゃしゃり出て来たわけだが、このアルバムを初めて聴いたとき、これはマムフォード&サンズのアンチテーゼだと思った。昨今流行のポップなネオ・フォークに対する、「どうせやるならここまでやってみろ」という力強いステイトメントに聴こえたからだ。

 トラヴェラーズ。という英国社会における明らかな被差別対象の人びとが伝承してきた歌を集めてアルバムを作った、などというと、ちょっとプロテスト・ソングのかほりもするが、サム・リーはそんな直情的な意思は微塵も感じさせないほどアーティーでミニマルな民族音楽の世界を展開している。そもそも、フォークのくせにギターが使われていない。サム・リーは、ギター・ベースのフォークには探求できるものはもうほとんどないと考えているそうで、"TUNED TANK DRUM"とリストに書かれている打楽器や、ジューイッシュ・ハープ(彼はユダヤ系である)、フィドル、トランペット、電子楽器などを使用しており、ギグで日本の琴を使っているのを見たこともある。クラウトロックやアンビエントと比較されるようなアレンジが施された曲もあり("The Tan Yard Slide"の「電子と土とのせめぎ合い」みたいな静かな緊迫感と迫力は特筆に値する)、ジャズとジプシーの伝承音楽を融合させようとしているような曲もある("On Yonder Hill")。

 とはいえ、それらのインストルメンツやアレンジメントは、単なる脇役に過ぎない。
 ロンドン北部の裕福なユダヤ系家庭に生まれ、名門プライベート・スクールに通い、チェルシー・カレッジ・オブ・アートに進学した彼は、芸術系お坊ちゃまのルートを辿りながら、野生環境でのサヴァイヴァル術を教える講師となり、バーレスク・ダンサーとしても働いていたという。「乳首にタッセルを装着している女の子たちに囲まれ、楽屋のテーブルの下で昔の羊飼いたちが歌った曲を覚えていた」と『ガーディアン』紙に語った彼は、伝承歌を教わったというルーマニア系ジプシーの85歳の老女と共にインタヴューに応じており、老女が『Ground of Its Own』を「あなたの音楽」と呼ぶのを聞いて、「いや、あれは君たちの音楽だよ」と言い直している。
 人びとに避けられ、忌み嫌われてきたコミュニティの音楽が、ひとりのミドルクラスの青年の手によって蘇る。ということは、通常、この国のソシオ階級的なものを踏まえれば、あり得ないほど特異な話だ。しかし、それを可能にしたのは双方の音楽への情熱だろうし、その階級を超えたパッションこそが、このアルバムの真の主役だとわたしは思う。

interview with Jeff Mills - ele-king

 ハード・ミニマルとは、ジェフ・ミルズがひとりで切り拓いたダンスのサブジャンルだ。最近ではそれが、大雑把に言って、インダストリアル・ミニマルとして呼び名の元でリヴァイヴァルしている。20年後にして、『ウェイヴフォーム・トランスミッション』のようなサウンドをふたたび聴くことになるとは思ってもいなかった。そして、ジェフ・ミルズがそうしたリヴァイヴァル現象を良く思っているはずもなかった......。

 昨年の、彼自身のレーベル〈アクシス〉20周年を記念してのベスト盤『シーケンス』を経てリリースされるジェフ・ミルズの新作は、驚くべきことに、宇宙飛行士である毛利衛との共作となった。毛利衛がストーリーを書いて、ジェフ・ミルズが音を加えた。『ウェア・ライト・エンズ』=明かりが消えるところ=闇=宇宙ないしは宇宙体験がテーマだ。

 精力的な活動を続けながら、とにかく迎合することを忌避し、誰もやっていないことにエネルギーを注ぐデトロイト・テクノの重要人物のひとりに話を聞いた。

僕のインダストリアルな感覚は、もともとファイナル・カットのスタイルから来ている。当時、デトロイトでウィザードとしてDJをやっていたときも、インダストリアルとハウスとテクノをミックスしていた。


Jeff Mills
Where Light Ends

U/M/A/A Inc.

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Jeff Mills
SEQUENCE-A Retrospective of Axis Records(2CD Japan Edition)

U/M/A/A Inc.

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この取材では、新作の『ウェア・ライト・エンズ』について、そして、昨年の〈アクシス〉レーベル20周年にも焦点を当ててやりたいと思います。

ジェフ:これから何をしたいのか、何を考えているのか話すことのほうが興味深いかもしれないけどね。

ぜひ、過去と未来のふたつで。

ジェフ:何かについての作品を作るというプロジェクトをやり続けてきている。その基盤がいまできていて、それは10年、15年前にはなかったことだから、ぜひ先のことについても話したいんだ。

若い読者も多いので、昔のことも訊かせて下さい。

ジェフ:オッケー。

昨年、〈アクシス〉レーベル20周年企画のBOXセット『シーケンス』を出しましたが、ジェフが自分で書いたそれぞれの曲に関するコメントが面白かったです。そのなかで、〈アクシス〉レーベルのマニフェストとして、最初に「AXISは失敗を犯さない。失敗とは目的と計画が明確ではない場合にあり得ることであるからだ」とありますよね。ジェフらしい言葉だなと思いましたが、これはあなたの人生にも当てはまることですか?

ジェフ:ノー(笑)。人生には当てはまらない。

はははは。

ジェフ:アイデアにチャレンジして、そしてうまくいかなかったとしても、それが他の場面で役に立つこともある。失敗を失敗として片付けてしまうことはない。アクションを起こしてからアイデアをキャンセルしたこともない。別の機会をうかがうということもつねに考えているから。
 それは、自分以外の、ほかのインディペンデント・レーベルをやっている人たちの視点を変えることでもある。つねに、正解はない。状況が変われば結果に結びつく。だからすべてはポジティヴであって、ネガティヴに捉えることはないと思っている。

なるほど。失敗と言えば、"コンドル・トゥ・マヨルカ"という曲のエピソードも面白かったですね。プロモーターが迎えに来なくて、マヨルカ島行きの飛行機に乗り遅れて、せっかくの休暇が台無しになった話です。あの曲に、まさかそんな背景があったとは(笑)......その旅費は、その曲を作ることで取り戻せたのですね?

ジェフ:あのときは、まったくがっかりした。とてもタフな体験だった。いまのようにビジネスクラスに乗れるわけではなかったし、まだ空の旅にはいろいろな制約があった。あのときの自分にできることは、このバカげた体験に関するトラックを作ることだけだった。お金のためというか、ちょうどのその頃、『ウェイヴフォーム・トランスミッションvol.3』(1994年)を作っていたので、旅ということで、そのアルバムにもうまくハマるんじゃないかと考えた。当時はDJとしてツアーするのも乗り継ぎなど大変だったな。若かったからできたんだと思う。

『ウェイヴフォーム・トランスミッションvol.1』の1曲目は、"デア・クラング・デア・ファミリエ"というラブパレードのテーマ曲でもあったトラックを使っていますが、初期のあなたにとってベルリンとはとても重要な都市だったと思います。当時のベルリンに関する思い出を教えてください。

ジェフ:初めてベルリンに行ったのは、1989年だった。インダストリアル・バンドのファイナル・カットのメンバーとして行った。そのときにトーマス・フェルマンやモーリッツ・オズワルドたちと知り合った。
 デトロイト・テクノの初期の頃、デリック・メイ、ホアン・アトキンス、ケヴィン・サンダーソンたちはイギリスを中心にツアーしていた。そこで、僕とマイク・バンクスはドイツを選んだ。最初、僕たちにとってのドイツの窓口は、〈トレゾア〉だけだった。〈トレゾア〉が自分たちの音楽に興味を持ってくれたからね。そして、リリースできるかもしれないという話から、デトロイトとベルリンとの関係がはじまった。ちょうどデトロイトでも、デリックやホアンたちとは別の、テクノの進化型が生まれつつあった時期だった。ベルリンではラヴパレードやメイデイがはじまって、メディアも創刊されて、すべてが新しかった。

当時のあなたの作品は、とてもハードでした。あのハードさはどこから来たものなんでしょうか?

ジェフ:ああいうインダストリアルな感覚は、もともとファイナル・カットのスタイルから来ている。当時、デトロイトでウィザードとしてDJをやっていたときも、インダストリアルとハウスとテクノをミックスしていた。ミート・ビート・マニフェストとスクーリー・DとDJピエールをミックスするようなスタイルだね(笑)。だから音楽を制作するうえでもいろいろな要素が加えられた。それにマイク・バンクスは、フォースフルな(力を持った)音楽の必要性を考えていた。また、ヨーロッパのクラウドの規模がだんだん大きくなって、1万人規模の人たちを動かすことを考えると、密度であったり、強さを持ったものではないと効果はでなかった。
 最初にヨーロッパに行ったときは、僕にはそんな考えはなかったよ。ヴォーカル・ハウスだったり、ハードではない音楽をプレイしていた。しかし、ハードでなければダンスしてもらえない。相手のドイツ人はそんなにうまくダンスできる人たちでもない。それで考えたのが、もっとカオティックで、踊れなくてもうわーっと熱狂できるような、そしてよりハードでより速い音楽を目指した。必ずしもそれがもっともやりたいことではなかったけれど、効果はあった。自分では、ソウルフルな音楽を作りたいと思っていたんだけどね。

初期の頃のあなたはヘッドフォンだけを使って、低い音量で作っていたとありますが、そのことも意外に思いました。その理由を教えてください。

ジェフ:音量を下げたほうがすべてのフリーケンシーが聴こえるんだ。スタジオでは、たいていニア・フィールド・スピーカーで音像が目の前に来るようにセッティングしているんだけれど、大きくしてしまうと、音のエンヴェロープが前ではなく頭の後ろで鳴ってしまい、どうなっているのかわかなくなる。もちろん大きな、ちゃんと設備の整ったスタジオなら大きな音を出してもすべての音がしっかり聴こえる。しかし、インディペンデントでやっている小さなスピーカーでは難しい。フルステレオの音の領域を聴くには、小さな音量のほうがいいこともある。さらにヘッドフォンで聴けば、サウンドのロスが少ない。これがレコーディングの話だ。
 ところが現場では、スピーカーがぜんぜん違う。ロウが強くて、中域がなくて、高音が強いという、いわゆるクラブの音になるので、スタジオで作業していたときの音との違いに気がつく。だから現場でどう鳴るのかを補正しながら作っていくようになるんだ。90年代なかばのトレンドは、各チャンネルの音量を目一杯上げて作ることだった。それがエレクトロニック・ミュージックがミニマルになっていく大きな要因でもあったし、ある意味、音が画一化されていく要因でもあった。
 音楽はどういう風に聴くかでも変化するものだろうね。現代のPCDJたちは、ヘッドフォンすら使わなくなっている。つまり、出音で、オーディエンスに聴こえる音と同じ音でDJしているわけだ。それによってサウンドのクオリティは良くなってくべきだ。

あなたのベースに対する考え方を教えてもらえますか? あなたのベースのアプローチの仕方はユニークだと思います。

ジェフ:ベースラインは、デトロイトの音楽にとって重要な要素だ。僕は、メロディとベースを同時に弾いている。右手でメロディを弾いて、左手でベースラインを弾いている。右手と左手が同時に鍵盤を押すことはない。ベースとメロディが同時に鳴っていることはないんだ。タイミングがあって、順序がある。普通のやり方とは違っているから、独特なベースになっているんだと思う。

パーカッシヴな感覚ですか?

ジェフ:そうだね。パーカッションに近いと思う。

あるジャズ・ミュージシャンによれば、あなたの音楽は譜面に書くとブルースだそうですね。自分では意識していますか?

ジェフ:それは僕が生まれてから生きてきた長い人生の経験、環境から来ていることだ。子供の頃に何を聴いて、そして、どれが良い音楽なのか、そうした判断力などすべてと関係している。モータウン、ジャズやブルース、ゴスペルからの影響を無視して語るわけにはいかない。音楽は、自分がどういう風に感じているのかを反映するものだから、デトロイト・テクノにはある種のブルース・フィーリングが滲み出ているんだろう。

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いまだにうまく説明できないことが多くあることに驚きを覚えた。とくに宇宙の暗さ、闇の深さ、黒さは、僕たちが見ている黒さを越えた黒さがある。地球にはない黒さだから、その説明が難しいんだろう。

あなたがデトロイトを離れて久しいですが、デトロイトに戻らない理由をあらためて教えてください。

ジェフ:そこは、もう自分が育ったデトロイトではないからだよ。犯罪や経済のことを言っているんじゃない。人が変わってしまった。80年代なかばには多くの人がエクソダスした。90年代には人びとの精神が変化してしまった。自分がDJするためだけでも戻らない理由は、トゥー・マッチだからだ。どこでやるのか、誰のパーティでやるのか、ベルリンもそうだが、小さなエリア内に多くのプロデューサーがいると、批評も度が過ぎて、別のことでジャッジされてしまう。人間関係のちょっとした政治が生まれてしまう。そういう人間関係がある場所では、純粋に楽しめない。たとえばウィザード名義でデトロイトでやったとしても、昔踊っていた人たちは来ないし、何でヒップホップをかけているの? と思われてしまう。昔のように、聴いたことがない音楽を聴きに来る人たちが少なくなってしまった。フェスティヴァルをやっても、当たり前のメンツが出るだけだからね。

もし100万円で宇宙旅行に行けたら行きますか?

ジェフ:100万円じゃ安いだろ(笑)!

あ、そうか(笑)。では、いくらまでだったら真剣に宇宙旅行を考えますか?

ジェフ:いくらにしようか......(笑)。うーん、まあ、1億で行けるなら払う(笑)!

新作の『ホエア・ライト・エンズ』を作るきっかけになった宇宙飛行士との対話ですが、あなたがもっとも強く印象に残っている話なんでしょうか?

ジェフ:彼には多くの質問をしたんだけど、いまだにうまく説明できないことが多くあることに驚きを覚えた。とくに宇宙の暗さ、闇の深さ、黒さは、僕たちが見ている黒さを越えた黒さがある。地球にはない黒さだから、その説明が難しいんだろう。他には、大気や湿気がないから、どれだけ外がクリアに、鮮明に見えるか、そのことを彼がいまだにうまく説明できないこと。もう20年も講演会などで話していることなのに、いまだに説明できないこと、それが実に興味深かった。

その宇宙飛行士、毛利(衛)さんが今回の作品に寄せたコメントも興味深いですよね。「彼の音楽を聴いた私は、正直、宇宙で聴きたいものではないと感じました。なぜなら、宇宙ではむしろ自分が地球にいたことを感じられるような安心感を得たいからです。彼の音楽は、まさに宇宙そのものを表現していました」とありますね。

ジェフ:宇宙にいるというのは、いつ危険な目に遭うかわからない。決してイージーな場所ではないから。僕の音楽が毛利さんにそういう緊張感を思い出させたのではないだろうか。そして僕の音楽が宇宙とはそれほど遠くはない、いつか行ける場所であるんだという身近な感覚をもたらしているのであれば、それはいいんじゃないかと思う。

「AXISは未来の音楽を制作しているのではない。未来を考える理由を制作している」とあなたは言いますが、「未来を考える」には何らかの問題意識があるはずです。それは何でしょうか?

ジェフ:メンタル的なこと、精神病的な状況に問題を感じている。アメリカでは、診療心理学的にアウトな状態ではなくても、精神病的になっている人が大勢いる。ある種の躁鬱病的に、現実を正しく受け止めることができない人がたくさんいるのではないかと思う。現実を受け止められず、現実の社会を合理的に捉えることができない人たち、非論理的なことが社会に浸食するかもしれない。たとえば、インターネット上では、クレイジーなことを書き込んでいるのに、いざ人前に立つと普通に振る舞っている人がいる。そういう潜在的な、おかしい人たちがこれから増えていくだろうね。

ひとりのオーガナイザーが同じ時間帯、同じギャランティでDJをやって欲しいと、ただし、場所だけは自分で選べと言われたらどんなところでDJをやりたいですか?

ジェフ:僕たちと一緒に成長していった人たちに囲まれてやりたい。昔から知っている友人たちと一緒に、音楽で繋がっている人たちに囲まれてやりたい。音楽のコンテクストも理解している人たち、音楽の背景も理解している人たちのなかで。そのパーティはスペシャルなものになるだろう。

ふだん、家にいるときに、自分がリラックスするためにはどんな音楽を聴いていますか?

ジェフ:ジャズをよく聴いている、あるいは......ディスコを聴くことも多いね。

ディスコを聴いていたらリラックスするというか、気持ちが上がってしまいませんか?

ジェフ:いや、全盛期のディスコは、最高の演奏者による最高の録音物でもあるから。クオリティが高く、とてもプロフェッショナルな作品が多いし、ダンス・ミュージックとしてはもっとも進化した形態だったと思う。最高級の職人芸による賜物だよ。いまのダンス・ミュージックはもう、ホームスタジオで、ひとりで作るものになっているけど、ディスコの時代のプロダクションには、才能あるベーシスト、最高のドラマーがいて、最高のスタジオと素晴らしいエンジニアもいる。そうした最高のクオリティを楽しむためにディスコを聴くんだ。

"ジ・インダストリー・オブ・ドリーム"では、「人類は夢を生産する目的のための家畜に過ぎない」というコンセプトがありますが、これは何のメタファーなのでしょう?

ジェフ:僕たちが家畜を飼っているのではなく、僕たち自身が家畜かもしれないという発想から来ているんだけど、それはあくまでも、『ザ・メッセンジャー』(2011年)というアルバムのために描いたシナリオのいち部。僕はふだん考えていないことを考えるきっかけを作っているんだ。

それでは最後の質問ですが、ここ数年、90年代初頭のテクノがリヴァイヴァルしていますが、どう思いますか?

ジェフ:まったく興味がないし、実につまらない現象だと思う。現代は、90年代とは環境も違うわけだし、いまのテクノロジーを使えばずっと進化した音楽を作れるはずだ。いまさら90年代に戻る必要などない。

しかし、ときとして、歴史を知ることも必要なのでは?

ジェフ:いや、そうは思わないな。いまさら"ストリングス・オブ・ライフ"を知る必要もない。若い人たちは、歴史に囚われずに未来を見て欲しいと思う。


JEFF MILLS(ジェフ・ミルズ)新作動画公開、と同時に「宇宙新聞」(号外)を発行!!
毛利衛氏とのコラボによる新作アルバム『Where Light Ends』いよいよ発売!!

日本科学未来館館長・宇宙飛行士 毛利衛氏とのコラボレイトによるジェフ・ミルズの新作『Where Light Ends』が、本日4月3日(水)に発売される。

これまで宇宙をテーマに作品を作り続けてきたジェフ・ミルズが実際の宇宙体験を持つ宇宙飛行士とコラボレイトして作品を作り上げたことや、ジェフとして初めて他アーティストによるリミックス作品を自身のオリジナル・アルバムに収録したことでも話題を呼んでおり、KEN ISHII、Q'HEY、Gonno、DUB-Russell、MONOTIX、Calla Soiledらベテランから気鋭のアーティストまでが名を連ねる作品となっている。

そして今回、『Where Light Ends』の発売と同じくして公開されたのがアルバムからの1曲“STS-47: Up Into The Beyond”をフィーチャーした新作動画「Jeff Mills "Where Light Ends" Comic Video」である。

「Jeff Mills "Where Light Ends" Comic Video」


この動画では、本アルバムの制作にあたるジェフ・ミルズ自身の姿と、毛利氏のオリジナル・ストーリーの中で描かれた宇宙観が表現されたもので、ジェフが幼少期にSF作品に触れ多大な影響を受けたアメリカン・コミックの手法が用いられている。

この動画の制作を手がけたのは、LA在住のGustavo Alberto Garcia Vaca(グスタボ・アルベルト・ガルシア・ヴァカ)とKenny Keil (ケニー・ケイル)というふたりのアーティストで、それぞれ音楽とコラボレイトした作品も多数発表しており、今回は英語版に先駆けて日本語Ver.が公開された。

また今回、来日中のさまざまなイヴェントで配布されたのがジェフ・ミルズ発案による「宇宙新聞(スペース・タイムス)」である。この新聞のなかでは『Where Light Ends』が作られるにいたった経緯や、関係者のインタヴュー、宇宙関連の基礎的情報から最新のトピックスまで紹介されている。JEFF MILLSの作品をリリースしている音楽レーベル、〈U/M/A/A〉のHPで見ることができるのでこちらもぜひご覧頂きたい。

宇宙新聞Link(U/M/A/A)
https://www.umaa.net/news/p517.html

JEFF MILLS アーティスト・プロフィール [U/M/A/A HP]:
https://www.umaa.net/what/wherelightends.html

4月に行きたい10の場所、その1 - ele-king

 2005年にデビュー作をリリースして以来、スペイン民謡集のカヴァーやシューマンやブラームスへの参照を通して独特のフォーク・スタイルを確立してきた異才、ジョセフィン・フォスターが来日する。フリー・フォーク・ムーヴメントへの関心が高まっていた当時は、そうしたムードのなかでさらにその名が知られるようになった。じっと動向を追ってきたファンの方もいらっしゃるだろう。最新作『Blood Rushing』は「WIRE」の2012年ベスト・アルバムにも選ばれ、じっくりとした活動の積み重ねの上に、いままさに彼女の時代が花開こうとしている。
 今回のツアーには先に挙げたスペイン民謡カヴァー作品『Anda Jaleo』でもお馴染みのギタリスト、ヴィクトール・エレーロが同行。4月23日(火)のWWW公演では彼女との親交も深いというドラマー、田中徳崇が加わる。また同日は灰野敬二もソロで登場。フォスター本人も興奮する豪華な組み合わせが実現した。全国10ヶ所で行われる公演のうちには、ボアダムスのYOSHIMIなどの参加も伝えられている。見逃せない機会だ。

Josephine Foster、待望の初来日。
WWW公演の共演には灰野敬二が決定。

 最新作『Blood Rushing』がイギリスの雑誌「WIRE」の2012年ベスト・アルバムの一枚として選ばれ、発売時には表紙も飾ったJosephine Foster。デビュー以来、最も来日が待望されていたアーティストの一人である彼女の初来日が決定しました。近年の彼女の作品・ライブには欠かせない、スペイン人ギタリスト・VICTOR HERREROも共に来日。WWW公演ではJosephineがシカゴで活動していた時期に親交の深かったドラマー田中徳崇を迎えます。共演には灰野敬二がソロで登場。Josephine自身も「とても名誉なこと」と云うこの組み合わせが実現するのはもちろん今回が初めてです。じつに幅広い音楽に造詣が深く、数々のジャンルのミュージシャンと多彩な共演を行ってきた灰野敬二とJosephine Fosterの一夜限りの邂逅。お見逃し無く。

■2013年4月23日(火)渋谷WWW
JOSEPHINE FOSTER & VICTOR HERRERO JAPAN TOUR APRIL 2013
出演:
JOSEPHINE FOSTER & VICTOR HERRERO with 田中徳崇(Noritaka Tanaka)
灰野敬二 Keiji Haino
open 18:30 / start 19:30
前売 ¥3,500 / 当日 ¥4,000(共にドリンク代別)
<TICKET>
▶メール予約
www.info@www-shibuya.jp
contactwindbell@gmail.com
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予約ご希望の方は各公演・予約受付EMAIL address宛に
公演日時・出演者名を件名とし、
・お名前(カタカナフルネームでお願いします)
・予約枚数
・連絡先(メールアドレス、電話番号)
を明記の上、メールを送信してください。
ご入場は受付時にお伝えする整理番号順となります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
▶WWW・シネマライズ店頭販売
▶ローソンチケット[L:72848]
問い合わせ:WWW 03-5458-7685
主催:WWW
企画制作:WWW / windbell
イベント詳細URL → https://www-shibuya.jp/schedule/1304/003630.html

《出演者プロフィール》
■Josephine Foster
ジョセフィン・フォスター

アメリカ・コロラド州出身。
15歳で歌い始め、ロッキー山脈のログキャビン教会、葬儀や結婚式でも歌っていたという。
オペラ歌手になることを夢見てクラシックを学んだがシカゴ移住後自ら曲を書くようになる。
数年の間歌を教える教師として働くかたわら、Born Heller、The Children's Hour などシカゴの様々なバンドのライヴやレコーディングに参加。
自主制作でいくつかの作品をリリース後、2005年に1stアルバム"Hazel eyes I will lead you"をリリース。
2ndアルバム"A wolf in sheep's clothing"ではシューマン、ブラームス、シューベルトの歌曲を披露。
2009年リリースの4枚目のアルバム"Graphic as a star"は19世紀のアメリカの詩人・エミリー・ディッキンソンの詩に曲をつけた意欲作。
スペインの詩人・劇作家 フェデリコ・ガルシア・ロルカが採譜・編曲による
スペイン民謡集"Colleccion De Canciones Populares Españolas"に取り組んだ2010年リリースのアルバム"Anda Jaleo"、
スペイン各地に伝わる様々なトラディショナル、ソングブックの数々からの楽曲をとりあげた2011年リリースのアルバム"Perlas" の二作を
「Anda Jaleo/Perlas deluxe edtion」二枚組(WINDBELL four 112-113)としてリリースしたのが初の日本盤発売となった。
半年開けずにリリースされた最新作「Blood Rushing」(WINDBELL four 115)は
イギリスの雑誌「WIRE」の2012年のベスト・アルバムの一枚として選ばれ(発売時には表紙にもなっている。)、
ここ日本でも主にミュージシャン、DJたちが2012年のベストの一枚に選んだ。
ブリジット・フォンテーヌ、カレン・ダルトン、アネット・ピーコック、ニコ、バルバラ、ロッテ・レーニャ、ウム・クルスーム...など真のレジェンドたちに連なり、
まもなく名門NONESUCHから新作をリリースするデヴェンドラ・バンハートと同様に未来の子供たちが発見することになる現代を代表するアーティストの一人。
デビュー以来、最も来日が待望されていたアーティストの一人である彼女が遂に初来日する。

■灰野敬二
1952年、千葉県生まれ。非常に厳格な「音」へのこだわりをもとに、現在でも実験的な前進を続ける野心的な音楽家であり、ロック、サイケデリック、ノイズ、フリー・ジャズ、フ リー・ミュージックなど、扱う音楽のジャンルは非常に多岐に亘る。いかなるジャンルに着手するときにも極めてプリミティヴな即興性が大きな意味を持つ。
1970年代より活動を続け、常に新たなスタイルを探し続ける野心的な音楽家である。挑戦的で実験的な作品群は、日本のみならず海外での評価も高い。リリースしたレコードやCDは優に100を超える。ソニック・ユースのサーストン・ムーアをはじめ、彼を信奉するミュージシャンは世界的にも数多い。
一般的なイメージとしては、幾重にもエフェクトがかかったギターによる轟音とやや上ずったトーンでの絶叫や激しいヴォイスパフォーマンスをからめた、ノイズ的でもあるサイケデリック・ロックとガレージ・ロックの過激な折衷で知られている。しかし演奏する音楽のフォーマットはじつに幅広く、トラディショナルなブルースやジャズ、ハードコアにも意識を持つほか、哀秘謡において歌謡曲やフォーク、童謡、オールディーズなロックンロールをカヴァーしたり、雅楽や民族音楽(多くの民族楽器を我流でマスターする)、現代音楽、ノイズといったポピュラー音楽の埒外へのアプローチも行う。数々のジャンルのミュージシャンと多彩な共演を行う懐の深さを持ち、 演劇・舞踏・絵画といった他分野の芸術からの影響も大きい。
特筆すべき点はその音量に関してであり、尋常ではない大音量から微かに聴きとれるかどうかの繊細な音まで使いこなす。かつて「ライバルは雅楽」と述べたことから、轟音から静寂までといった極端なレンジ差をもった音楽は、「間」の感覚に関する延長線上のアプローチであるとされる。聴き取りにくいながらレパートリーの中には歌詞があるものも多く、音楽性の苛烈さと相反する内省的で柔らかなリリシズムを持ち味とする。
自らの作るべき気配を佇ませる場所を「黒」という色に求めており、身につける服や作品のジャケット等はほぼ黒一色に統一されてい る。また、黒という色は白を含め全ての色が混ざっており、黒という色のように全て(の音楽のジャンル)を内包したいと語っている。このことからも分かるように、彼は黒という色に対して並々ならぬ思い・考えを持っている。
2012年5月に還暦を迎え、7月には初のドキュメンタリー映画『ドキュメント灰野敬二』が公開された。

JOSEPHINE FOSTER & VICTOR HERRERO

■4月11日(木)神戸 bar Gospel
開場 19:00 開演 20:00
料金¥4000(1 drink + 1 plate Korean Tapas 付/限定 50 set)
予約受付 contactwindbell●gmail.com

■4月12日(金)岡山 城下公会堂
https://www.saudade-ent.com/index.php
開場19:00 開演20:00
料金 ¥3500(+1 drink)
予約受付 info●saudade-ent.com

■4月14日(日)金沢 shirasagi / 白鷺美術
https://www.shirasagi-art.net/
開場 19時 開演 20時
料金 ¥3500(前売)¥4000(当日)
予約受付 info●shirasagi-art.net
with 垣田 堂
https://do-kakita.cu-tablet.com/

■4月15日(月)大阪 Grotta dell Amore
(グロッタ・デ・アモーレ - ニューオーサカホテル心斎橋B1F)
https://www.newtone-records.com/
開場 19:30
料金 前売 3300円 当日 3800円
予約受付 info●newtone-records.com
with YOSHIMIOLAYABI (YOSHIMI with AYA+AI from OOIOO)
https://ooioo.jp/

■4月17日(水)京都 Urbanguild
https://www.urbanguild.net/
開場18:30 開演19:30
料金¥3500(+1 drink)
with 林拓
https://hayactaku.ciao.jp/

■4月18日(木)岐阜 nakaniwa
https://www.pand-web.com/
開場 19:00 開演 20:00
料金 前売¥3500 当日¥4000(+1 drink)
予約受付 info●pand-web.com

■4月19日(金)名古屋 KD ハポン
https://www2.odn.ne.jp/kdjapon/
開場18:30 開演 19:30
料金¥3500(+1 drink)
予約受付 kdjapon●gmail.com
with Gofish
https://www.sweetdreamspress.com/search/label/Gofish
https://dopplernahibi.jugem.jp/

■4月20日(土)立川 gallery SEPTIMA
https://galleryseptimablog.blogspot.jp/
開場19:00 開演19:30
料金¥3500(1drink付)
予約受付 galleryseptima●gmail.com
     contactwindbell●gmail.com

■4月21日(日)代官山 MAMA TARTE
開場20:00 開演20:30
料金¥4000(1drink付)
予約受付 contactwindbell●gmail.com

■4月23日(火)渋谷 WWW
https://www-shibuya.jp/index.html
開場18:30 開演19:30
料金 前売:¥3500 /当日:¥4000(共にドリンク代別)
予約受付
www.info●www-shibuya.jp
contactwindbell●gmail.com
WWW・シネマライズ店頭販売
ローソンチケット
出演:JOSEPHINE FOSTER&VICTOR HERRERO with 田中徳崇(Noritaka Tanaka)
灰野敬二 Keiji Haino
https://www.fushitsusha.com/
https://www.doc-haino.com/

予約ご希望の方は各公演・予約受付EMAIL address宛に
公演日時・出演者名を件名とし、
・お名前(カタカナフルネームでお願いします)
・予約枚数
・連絡先(メールアドレス、電話番号)
を明記の上、メールを送信してください。
ご入場は受付時にお伝えする整理番号順となります。

*上記予約受付Email address の●部分を@に差し替えてください。
予約受付 Email addressが明記されていない公演は
各会場HPからお申込ください。

ツアー全体詳細ページ
https://windbelljournal.blogspot.jp/2013/02/por-fin.html



フューチャー・ガラージの使者 Satol - ele-king


Satol
harmonize the differing interests

Pヴァイン

Amazon

 昔クラブのフロアは、隣で踊っている人が見えないほどに真っ暗だったが、最近のクラブには闇がない。今日のインダストリアル・ミニマルにしろ、ニュースクール・オブ・テクノにしろ、ブリアル以降の流れは、クラブに闇を、暗さを、アンダーグラウンドを取り戻そうとする意志の表れとも言えないでしょうか。「フューチャー・ガラージ」と形容されるSatolも、そうした機運に乗っているひとりである。
 Satol(サトル)は、いわゆる新人ではない。一時期ベルリンに住み、すでに3枚のアルバム──『madberlin.com』(2010)、『Radically Nu Breed's Cre8』(2010)、『Superhuman Fortitude』(2011)──を出している。昨年、故郷である大阪に戻ってからは地元での活動に力を入れている。今回がデビューというわけではないし、すでにキャリアがある。とはいえ、〈Pヴァイン〉から出る新作『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』が、多くの人の耳に触れる最初の機会となるだろう。
 彼の音はブリアル直系の冷たく暗い2ステップ・ガラージの変形で、インダストリアル・ミニマルとも共通する音響を持っている。セイバース・オブ・パラダイスを彷彿させる刃物がこすれ合う音、ひんやりとしながらも、ダンスをうながすグルーヴが響いている。3月はO.N.Oとツアーをして、その闇夜のガラージを日本にばらまてきたようだ。
 彼の名前はまだ全国区になってはいないかもしれないけれど、Satolの作品が素晴らしいのは疑う余地のないところ。ブリアル~Irrelevant
Irrelevant~Satol......ニュー・インダストリアル、そしてフューチャー・ガラージの使者を紹介しましょう。



アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。

生まれは大阪ですか?

Satol:愛媛の松山です。

では、大阪に住まれたのは?

Satol:僕が2歳のときからです(笑)。

そういうことですね(笑)。

Satol:いま親は、河内長野というところです。僕は、大阪市内です。

Satolさんはいまおいくつですか?

Satol:33です。

じゃあ、けっこうキャリアがありますね。

Satol:まあ、そう言ってもらえれば(笑)。

バンドをやっていたんですよね?

Satol:10代から20代にかけて、5~6年、バンドをやってましたね。

どんなバンドでしたか?

Satol:ハードコアです。

ああ、それって大阪っぽいんですかね?

Satol:そうですね。大阪にはハードコアがありますし、先輩もみんなどうだったんで。

いつぐらいからクラブ・ミュージックにアプローチしたんですか?

Satol:20代の前半のときにはヒップホップが好きでしたね。ウェストコーストも、2パックも、ノートリアスも、いろいろ好きでしたね。

ヒップホップのクラブには行っていたんですか?

Satol:20歳のときぐらいから行くようになりました。

DJはどういうきっかけではじめるんですか?

Satol:DJはやったことないんですよ(笑)。

えー、そうなんですか。ベルリンで暮らしながらDJやらないなんて......いちばんメシの種になるじゃないですか?

Satol:エイブルトンという機材、あるじゃないですか。僕はエイブルトンを使ってのライヴ・セットなんですよ。エイブルトンには自信があります(笑)。

先ほど、最初はヒップホップだと言ってましたが......

Satol:もっと最初を言うと、ブルー・ハーブとかなんですよ。精神的なものが大きかったんですよね。自分に正直になっていくと、まあ、いろいろなパイオニアも言ってることだと思うんですけど、自分に正直になっていくと、メロディが生まれてくるんですよ。悲しいことも思い出して、悲しいメロディも生まれる。それから、UKガラージのブリアルが好きになりましたね。

ブリアルがファーストを出したばかりの頃?

Satol:ファースト・アルバムです。

2006年ですね。それが大きなきっかけですか?

Satol:あと僕、ファッションが好きなんですよ。モードっぽいものが。

それがすごく意外ですね。パリコレみたいな?

Satol:そうそう、ミラノとか。あの、暗く、シュールな感覚が好きなんですよ。

好きなデザイナーは?

Satol:アレキサンダー・マックイーンは好きですね。

ビョークとかやってた......僕は、ジョン・ガリアーノとかの世代なんで(笑)。

Satol:格好いいですね。そういえば、ブリアルの曲は、絶対にショーで使われているだろうと思っていたら、アレキサンダー・マックイーンが使っていたんですね。

へー。まあとにかく、ブリアルがきっかけで作りはじめたんですか?

Satol:いや、ホントに最初に作りはじめたきっかけはブルー・ハーブとかなんですよ。ロジックとか使って、作りはじめましたね。クラッシュさんとか、ONOさんとか。

関西と言えば、クラナカ君とかは?

Satol:それが、僕は、まだお会いしたことないんですよね。

タトル君は?

Satol:いや、まだ知らないんです。

絶対に会ったほうが良いですよ。それはともかく、ブルー・ハーブがきっかけだったら、ラップを入れるでしょう。言葉が重要な音楽ですから。

Satol:ええ、そうですね。ですから、実は自分でそこもやっていたんですよ。

ラップしていたんですか?

Satol:いや、ラップというか......アンチコンのホワイの歌い方をアートって呼ぶらしいんですけど、頭のなかで浮かぶ言葉をオートマティックに出していく感じなんですけど、シュールレアリスムに似ているというか。それを僕もやっていました。それだとふだんは出てこないような、グロテスクな、ダークな言葉も出てくるんですね。だからラップじゃないですよね。ブルー・ハーブも韻を踏んでいますけど、アメリカのラップとは違いますよね。そこが好きでした。大阪だと土俵インデンとか。凄い研ぎ澄まされた人で、基本短髪な方で、僕らのイメージとしては僧侶みたいな人がいるんですけど、最初に自分でイヴェントをやったときに声をかけました。それとMSCの漢でした。

そこに自分も出て?

Satol:出ました(笑)。

ONOさんとツアーをまわるのも、その頃からの繋がりがあるんだ?

Satol:いや、全然なかったです(笑)。

ただ、いっぽうてきに好きだった?

Satol:ブルー・ハーブの全員が好きでした。ヌジャベスさんも好きでした。

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ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。


Satol
harmonize the differing interests

Pヴァイン

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とにかく、2006年にブリアルを知って、それでガラージに行くわけですね。

Satol:はい。

そこから〈madberlin〉と出会って、それでベルリンに移住するまでの話をしてもらえますか?

Satol:まず、知り合い4人でクラブをはじめるんです。〈ルナー・クラブ〉っていうんですけど。テクノ、エレクトロ、ハウスに特化したクラブでした。あとは、自分がやりたいことをやってました。300人ぐらいのキャパで、入るときは400ぐらい来てましたね。そのクラブをやっているときにkill minimalを呼ぶんですよ。2009年ぐらいですか。

kill minimal?

Satol:マドリッドからベルリンに移住したヤツで、僕は本名でジュアンって呼んでるんですけど。

〈madberlin〉のmadって、Madridのmadだったんですね。狂ったベルリンじゃなかったんですね(笑)。

Satol:ハハハハ。マドリッドのほうとかけているんですけど、ただ、本人いわく「あのmadでもいいよ」と。

kill minimalを呼んだのは?

Satol:いっしょにやっていた連中が好きやったんですよ。ビートポートで聴いて、みんな好きだったんです。僕はあんま好きじゃなかったんですけどね。カローラ・ディアルっていう女の子とジュアンが〈madberlin〉をやっていたんですど、ふたりとも日本に来るのが夢だったみたいで、「ありがとうございます」みたいな、で、ふたりともスペイン人的な情熱的な人で、人懐こい人間で、それで、なんだか僕がふたりと仲良くなってしまったんです(笑)。そのときジュアンから、「エイブルトンを教えるから、おまえ、これでがんばってみろ」って言われて、教えてもらうんですよ。エイブルトンは、ベルリンに本社があるドイツのソフトなんですね。〈madberlin〉のアーティストのほとんどが使っていて、「難しいけど、面白い」って言ってましたね。ジュアンはベルリンで、そのソフトの使い方の講師のようなこともやっていました。

スペインは不況で、仕事がないから、多くの若者がベルリンにやって来たというけど、そのなかのひとりだったんでしょうかね?

Satol:ハハハハ、そんな感じだったと思います。kill minimalはいまは、ヨーラン・ガンボラ(Ioan Gamboa)という名前でやっています。

今回のアルバム『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ(異なる利害関係を調和)』の前に、〈madberlin〉から3枚出しているんですよね?

Satol:はい。〈madberlin〉もかなりゆっくりやっているレーベルですから(笑)。

ベルリンに移住したのは?

Satol:いまから1年ちょっと前ですね。音楽活動が日本ではやりにくいかなと思ったんですね。いまは、反骨精神でがんばってますけど、でも、クラブで下手したらJ・ポップとか流れるんですよ(笑)。レディ・ガガとか。オールジャンルというか。

昔のディスコですね。ヒット曲がかかるみたいな。

Satol:そう、ディスコ化しちゃってるんですよ。

それはきついですね。

Satol:大阪はそうですよ。ガッツリ音楽をやっている人間には活動しにくいところです。

それでもう、ベルリンに行こうと?

Satol:そうです。後、特にクラブ摘発の件が大きく左右しました。

〈madberlin〉から作品を出しているという経歴もあって、アーティスト・ビザを収得できたんですか?

Satol:僕の場合は、マグレですね。簡単に取れる時期がありましたけど、いまは難しいです。

ユルかったですよね。

Satol:そうですね、昔はユル過ぎましたね。

良いことでしたけどね。では、ベルリンではジュアンたちといっしょに住んでいたんですか?

Satol:弁護士といっしょに(笑)。カイ・シュレンダーという。ハハハハ。彼のおかげです。

本当に良い友だちを持たれましたね。

Satol:ただ、いまは大阪でがっつりやっていますけどね。要するに、ビザが取れてしまったので、もういつでもベルリンに戻れるからっていうか、「もう一回大阪でがんばってみよう」って思うようになったんですね。ベルリンでがんばるんじゃなくて、大阪でがんばってみようって。

素晴らしい(笑)。

Satol:ホント、なんか、ギャグです(笑)。ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。

今回リリースされることなった『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』ですが、何で、P-VINEから出すことになったんですか?

Satol:アンダーグラウンドなところを探すのが好きで、まあ、P-VINEをアンダーグラウンドって言ったら失礼かもしれないけど、とにかく送ってみて、そして栃折さん(担当者)に連絡しました。

Satolさんのスタイルは、「フューチャー・ガラージ」と呼ばれていますが、その定義について教えてください。

Satol:ガラージとダブステップの雑種ですよね。ブリアルの流れの、2ステップな感じで......。

ハウスのピッチで、アトモスフェリックで、それで、金属音のような効果音、ちょっとインダストリアルな感じもあって、アンディ・ストットなんかとも感覚的に似ているなと思ったんですよね。

Satol:ありがとうございます。アンディ・ストットは前から好きだったみたいです、名前は覚えないんですけど、曲は聴いてました。

Satolさんの音楽もひと言で言えば、非情にダークですよね。

Satol:ハハハハ、そうですね。

暗いなかにも艶があるというか。

Satol:日本では味わえないことをベルリンでは味わえるので、その経験も活かしつつ......。

ベルリンではクラブに行きました?

Satol:かなり行きました。たくさん行きましたけど、とくにベルグハインとトレゾアはすごいと思います。

どんなインスピレーションを受けましたか?

Satol:スタイルとしてはテクノやミニマルなんですけど、しかし音楽性は幅広いという、変な広がり方があって、それは影響されました。

しかし、冷たい音楽ですよね。

Satol:ゴス・トラッドさんは「ダーク・ガラージ」と呼んでくれました。

何を思って作っているんですか?

Satol:いや、もう思いつくままにやっています。ひたすら、テーマから逸れていくというか......僕は音楽をやる意味は、聴いてくれた人が前向きになってくれるかどうかなんです。

前向き?

Satol:外れたこと言ってるかもしれませんが、勇気というか。

このダークな音楽で? こんなアンダーグラウンドな音楽で?

Satol:ハハハハ、だから、逆にこんな音楽でもいいんだよっていうことをわかってくれたら。

こういうアンダーワールドな音楽のどこに価値があると思いますか?

Satol:アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。冬だけど、でも、寒くないっていう感じでしょうか?

ああ、そういうことですか。

Satol:寒いけどやっていける、というか。

ブリアル以外に、Satolさんに方向性を与えた人っていますか?

Satol:ロシアのガラージですかね。名前は出てこないんですけど、ロシアのフューチャー・ガラージはよく聴いていました。

フォルティDLは?

Satol:やっぱ好きですね。

しかし、ブルー・ハーブ、DJクラッシュ、そしてゴス・トラッドというとひとつの世界が見えてくるようですが、Satolさんはそこにパリコレもあるんですよね(笑)。

Satol:いや、もう好きです。ウォーキングのときにかかる音楽が大好きです(笑)。

Chart Meditations 2013.03 - ele-king

Shop Chart


1

Ferial Confine - The Full Use Of Nothing Siren Records
英ドローン作家Andrew Chalkによる初期のノイズ名義、Ferial Confineの伝説的な85年録音ものが遂にCD再発。金属の軋みノイズの種を水分多めで育てあげ、野に放ち、野生化させたような、生々しく儚い感触があります。

2

Cankun - Culture Of Pink Hands In The Dark
Not Not Funでお馴染みのシンセシスト、Cankunの新LP。Co LaやHeatsick、Peaking Lightsらに通じる抜け感のポップさ、継ぎ接ぎのビートからは南国の風が吹き抜けて何処までも心地良くダンスします。

3

Robert Lawrence / Mark Phillips - The Dadacomputer: The Birth Of 5XOD Iceage Productions
81年の知られざるインダストリアル/電子音楽な怪作がCD再発。目玉はMinimal WaveのVAに収録されていたComputer Bankでしょう。早過ぎたアシッドハウス+インダストリアルとも言うべきバキバキの劣悪電子音が駆け巡ります。

4

MV & EE - Fuzzweed Three Lobed Recordings
ベテランのサイケ夫婦MV & EEの最新作。雄大なドローンのサイケデリア、優しく響くコーラスの調和、B面の組曲では爆発的な熱量のインプロ放出ありと、膨大な作品数と比例した宇宙ドローンの無限の広がりは目を見張るものがあります。

5

Gnod - Presents.. Dwellings & Druss Trensmat
サイケバンドGnodが突如として、ポストパンクやインダストリアル/ミニマル・テクノの黒い影響を感じさせる極圧振動ビートを発表。破壊力抜群で、再生した途端に目や耳には感じ取れない分厚く黒い雰囲気がモクモクと沸き上がります。再入荷予定あり。

6

Birds Of Passage / Je Suis Le Petit Chevalier / Motion Sickness Of Time Travel / Aloonaluna - Taxidermy Of Unicorns Watery Starve Press
現行地下シンセ界の強力女性作家4名によるスプリット2カセット。葉っぱや毛糸が挟み込まれたパッケージ+大判ジンという丁寧な作りで、フィジカルでこその感動があります。

7

CHXFX - The Unhaptic Synthesizer Further Records
Maurizio Bianchi、Kplr、Hieroglyphic Being、Conrad Schnitzler系の狂ったの出てきました。緩やかに起動した電子機器が徐々に勢力を増し、脱線&分離&集合を繰り返す強力な電子音の嵐。

8

Transmuteo - Transmuteo Aguirre
全新人類に...現行ニューエイジの雄、Transmuteoによる初LP。ナレーションに載せて満ちるデジタルの波、夕陽が浮かぶ楽園風景、神経内の機械都市が活発化するアシッド、ヴェイパー的スクリューなどなど、3Dヴァーチャルな世界観の更なる拡張がなされています。

9

Alex Cima - Cosmic Connection Private Records
シンセ狂レーベルPrivate Recordsより、79年のコズミック過ぎるディスコ/ジャズのカルト名盤が遂に再発。黄ばんだネオン管から広がる華やかな町並みや、快適な宇宙生活を夢見る幻想が、シンセの音色からモクモクと立ちこめて虜にさせてくれます。

10

S.M. Nurse - 30th Anniversary: 1980?-?1983 Domestica
80年代初期のオランダ地下のミニマルシンセユニットが発掘。プロト・テクノ/アシッドな熱量、秀逸なサンプリング、歪な電子音と男女ボーカルのダンスからなる圧倒的なグルーヴと、文句無しに唸らせられる必殺曲ばかりです。

Prettybwoy - ele-king


Various Artits
Grime 2.0

BIG DADA

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 時代は少しづつ変わっていきます。5月に〈ビッグダダ〉からリリース予定のグライム/UKガラージのコンピレーション盤『Grime 2.0』には、Prettybwoyと名乗る日本人のプロデューサーの曲が収録される。
 グライム/UKガラージとは、ブリテイン島の複雑な歴史が絡みつつ生まれたハイブリッド音楽で、ジャングルやダブステップと同じUK生まれの音楽だが、後者が国際的なジャンルへと拡大したのに対して、グライム/UKガラージは......英国ではむしろメジャーな音楽だと言うのに、ジャングルやダブステップのように他国へは飛び火していない。言葉があり、ある意味では洗練されていないからだろうか。
 僕はグライムの、洗練されていないところが好きだし、そして、迫力満点のリズム感も好きだ。グライム/UKガラージの最初のピークはワイリーやディジー・ラスカルが注目を集めた10年前だったが(ダブステップやフットワーク/ジュークに目を付けた〈プラネット・ミュー〉も、最初はグライムだった)、コード9が予言したように、最近もまた、昨年のスウィンドルのように、このシーンからは面白い音源が出ているようだ。そもそも〈ビッグダダ〉がグライムのコンピレーションを出そうとしていることが、その風向きを証明している。
 そのアルバムには、ひとりの日本人プロデューサーも加わっている。10年前にはなかったことだ。日本にながらグライム/UKガラージをプレイし続けている男、Prettybwoyを紹介しよう。

生まれはどちからですか?

Prettybwoy:東京生まれですが、地味に引越しが多く、学生時代は茅ヶ崎~逗子~横須賀と。学校は、小:鎌倉、中~大:横浜でした。東京には大人になってから帰ってきたという感じです。

子供の頃に好きだった音楽は?

Prettybwoy:子供の頃はコナミのファミコン全盛期? で、ゲーム・ミュージックがとても好きでした。サントラCDとかも良く買っていました。ゲームのはまり具合とかもあると思いますが、「ラグランジュポイント」というファミコンソフトの音楽は強烈に印象に残っています(笑)。たしか他にはないFM音源チップをカセットに積んでるとかで、カセットサイズが倍くらいあるんです。ゲームって、クリアしたらもうやらないタイプだったのですが、CDはいつまでも聴いてましたね。
 余談ですが、ゲームのサントラを買っていたのはスーパーファミコン期まで。あの制限のなかで表現している感が好きだったんだと思います(笑)。

クラブ・ミュージックやDJに興味を覚えた経緯は?

Prettybwoy:ちょうど高校生の頃、Bボーイブーム(?)のようなものがありました。行きませんでしたが、さんぴんCAMPとかもその頃だったと思います。その頃に、まぁ、人並み過ぎるんですが、HIPHOP/R&Bからクラブ・ミュージックに入りました。初めて買ったのが、バスタ・ライムスのファースト・アルバムだった気がします。そこから、フィーチャリングのアーティストを掘り進めて、買っては新しいアーチストと出会い......というのが面白くて聴いていました。
 共有できる友だちはクラスにたくさんいたと思いますが、あまり人付き合いが得意ではなく、独りで掘り進んでいました。その頃は、神奈川のローカルTVで毎週ビルボードTOP40(usR&BのPVをよくVHS録画してました)、それとどっかの局で深夜にクラブ専門番組、それ終わって「ビートUK」って番組やってたり、インターネットが普及しはじめの時期だったので、情報はそんなくらいでした。
 大学入ってヒップホップ~テクノとか適当に聴いていて、やっと、学校のPCルームでインターネットのありがたさを実感した頃でした。あるとき、バイト代が数十万貯まっている事に気付いて、たまたまVestaxの2CD&MIXER一体型のCDJを買って、さらにいろいろ満遍なく聴いてみるようになりました。

UKガラージとは、どのように出会ったのでしょう?

Prettybwoy:たまたま買ったR&Bミックス・テープのラストに、原曲の後に、2step remixを繋がれていて。ビートはかなり軽快で、あくまで歌が主役なんだけど、不協和音で、いままでのUSヒップホップとは別次元の、妙によどんだ空気を感じました。なんだコレ? って思った最初の音楽かもしれません。こういうの何て言うんだろう?今 より全然情報の無いインターネット、それとかろうじてHMVとかでもPUSHされていたおかげで、それが2ステップ/UKガラージ/スピード・ガラージという呼ばれ方は変われど、同質のひとつのジャンルなんだと知ることができました。
 いまよりもずっと、DJがミックステープでかける曲が、未知の音楽体験を与えていた時代かなと思えます。いまはリスナーがちょっと調べたら最先端を視聴程度ならできますからね。

UKガラージのどんなところが好きになりましたか?

Prettybwoy:当時横浜のHMVですら、UKガラージのミックスCDをコーナーで置いていました。MJコールのファースト・アルバムが、出たかくらいの時期だったと思います。まず僕はミックスCDから手をつけて行きました。きっと僕は運が良かったのか、これもめぐり合わせだと思うのですが、いちばん最初に手にした〈Pure Silk〉から出ていたMike"Ruff Cut" LloydのミックスCDが、最高にかっこよかったんです。まず、こんなにアンダーグラウンド感があるんだ? って感想でしたね。入ってるトラックは、いまではレジェンド級の名曲オンパレードなんだけど、全体的に土臭くてRAWな質感にヤラレました。
 派手なシンセなんかはほとんどまったく入ってなくて、お馴染みのサンプリング・ネタも随所に散りばめられて、BPM140くらいのベースと裏打ちリディム、そこにカットアップされたヴォーカル。とにかく黒いなぁ。って思いました。2000年くらいだから、ヒップホップも正直つまらなくなっていたし。本当の黒さがここにあるなって衝撃でした。
 あと面白いのが、後になって、オリジナルを手に入れて、曲の地味さに驚くことがすごく多いジャンルですね(笑)。いまは結構元から派手目なトラック多いですけどね。それだけDJのミックスしがいのあるってことだと思います。ただ繋いでるだけじゃ、絶対伝わらない。ミキサーのフェーダー使いもスイッチが随分多いジャンルだなって思いました。

PrettybwoyさんなりのUKガラージの定義を教えてください。

Prettybwoy:とても難しい質問だと思います(笑)。
 僕は、2ステップの時代にこのジャンルを知りました。そこから掘り起こしてみると、UKガラージという言葉が出てきました。さらにその前は、スピード・ガラージという言葉まであります。コレは、UKガラージのなかから発生したひとつの流行が、名前を付けて出て来たに過ぎないと思っています。
 いまに例えると、Disclosureがとても人気があって、流行っています。UKガラージのディープ・ハウス的アプローチがとても流行っています。これ単体に新しいジャンル名がつくとはまったく思いませんが、大小合わせて、そういうのの繰り返しと言うことだと思います。
 とくに2000年以降、ダブステップやグライム、ベースライン、ファンキーという言葉も出てきました。さらにはそこからまた派生ジャンルまで......ひとつひとつを厳密にジャンル分けして考えることは、もはや無意味だと思います。
 ここ6~7年で、ダブステップは世界的に拡がり、独自性をもったジャンルになっていると思います。いわゆる、特徴的な跳ねたビート・フォーマットのことをUKガラージといってしまうと、じゃああんまり跳ねない重たいビートはガラージじゃないの? ってことになるし、逆にそれさえ守ればUKガラージなの? って話にもなるし......。じゃあ、グライムは何でガラージと親和性を保っているの? という話も出てきますし。
 懐古主義ではないけれど、1997~8年から2002年くらいの、オールドスクールと言われるUK ガラージの良さを、理解して、現在、ガラージなり、グライムなり活動しているアーティストを、僕はUKガラージと定義しています。例えば、DJで言うと、Rossi B & Luca,EZ、Q、Cameoなんかは、わかりやすいですよね。UKガラージと言われるけれど、グライムもプレイするし。僕自身、UKガラージ/グライムのDJと言っていますが、厳密なジャンル分けはこの周辺音楽にとってはナンセンスと思ってます。
 ついでに、フューチャー・ガラージなんて言葉もありますが、例えばWhistlaのレーベル・アーティストなんかは、もともとUKガラージとは別の活動をしてきた人がほとんどみたいです。そういった、ガラージフォーマットを使って活動しているアーティストをフューチャー・ガラージと言うのかと思います。

衝撃を受けたパーティとかありますか?

Prettybwoy:昔、六本木にCOREという箱があって、そこで開催されたUKガラージのパーティのゲストがZED BIASだったんです。僕は大学生だったんですが、初めて見たUKガラージのアーティストだったので、衝撃でしたね。
 ちょうど、「Jigga Up(Ring the Alarm)」をリリースする前で、その曲をかけてたのがすごい印象に残っています。それと、派手な衣装を着たダンサーがブース横にいました(笑)。一緒に来日していた、たしか、MC RBだったんですが、急に曲が止まって、みんな、後ろを観てくれ! って煽って、後ろを見たら、そのダンサーたちのダンス・ショーケースがはじまったんです。しかもSunshipかなんかの曲で(笑)。その時のちょっとバブリーなパーティ感は忘れないですね。ああチャラいなと(同時に、Moduleなんかでは、超アンダーグラウンドな音楽勝負!! みたいなUKガラージのパーティもおこなわれていました)。
 それと、DBS Presentsで、GRIMEのワイリーとDJ スリミムジーが来日したパーティ。代官山UNITですね。いままで経験したなかで、MCがあんなに喋って、DJがあんなにリワインドしたパーティは初めてでした。2005年、あの時期にこれをやるDBSって、凄い!!っ て思いました。

最初は、どんなところでDJをはじめたのでしょうか?

Prettybwoy:ヒップホップのDJをやっている友だちがいて、彼に、ラウンジだけど、DJやってみる? って言われたのがきっかけで、DJ活動をはじめました。正直それまではミックステープを渡しても、個人的に好きだけど、現場ではねぇ......って言われて、やれる場所を見つけられず、DJ活動は正直半ば諦めて、働いていた服屋でBGMとして自分のミックスをかけるくらいでした。それでもちょっとアッパーすぎて、お店からNGを出されることも良くありました(笑)。それが、2006年の初め頃です。
 でも、ヒップホップ/R&Bのパーティのラウンジでやってても、共演者に上手いね。こっちのパーティでもやってよって言われることはあっても、なかなかお客さん自体に反応を貰うことはありませんでしたね。
 そんなときに、Drum&Bass Sessionsから、SALOONをUKガラージでやりたい、っていうことでオファーを頂いたんです(実は、DBS GRIME特集のパーティに言った直後、DBSのサイトに直接メールをして......)。それが、D&B、そして俗に言うUK BASS MUSICのシーンへの入口でした。それからすべてがはじまりましたね。

自分に方向性を与えた作品(シングルでもアルバムでも曲でも)を5つ挙げてください。

Prettybwoy:実は、2月に国書刊行会から出版された『ダブステップディスクガイド』で相当な枚数のUKガラージ、アーリー・グライム紹介させていただいたので、ここではあえて当時学生でお金も無く、すごい欲しかったけどレコードでは集め切れなかった盤を5枚。当時、このBPMで、ヒップホップしてるのがすごいかっこ良かったです。

・G.A.R.A.G.E(DJ Narrows Resurection remix) - Corrupted Cru ft.MC Neat
https://youtu.be/CtN8qHLaSqU
・Fly Bi - T/K/S
https://youtu.be/aj_M50uh8hg
・We Can Make It Happen (Dubaholics 4 to the floor) - NCA & Robbie Craig
https://youtu.be/Ft0V2-Wp6mM
・Haertless Theme - Heartless Crew
https://youtu.be/qEYQM1mm8Rc
・Whats It Gonna Be (Sticky Y2K Mix) - Neshe
https://youtu.be/Qp0mKDiPFP4

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UKのパーティには行ったんですか? 

Prettybwoy:残念ながら、まだ飛行機で北海道(修学旅行)しか行ったことないです。

トラックを作りはじめたのはいつからですか?

Prettybwoy:大学生の頃、(まだWindows98)ノートPCでACIDの廉価版を買って、弄っていましたが、本格的にはじめたのは、2010年の後半から、PCを新しくしてからです。その前少しのあいだ、友人から古いPCを頂いて、使っていたのですが、ソフトも新しくして、それまでWin98だったのでWin7になって一気にリニューアルしたので技術の進歩に感動しました(笑)。

DJの技術や音楽制作はどのように学びましたか?

Prettybwoy:独学ですね。DJに関しては、僕はいま家にターンテーブルしかないので(CDJはなし)。たまに楽器屋にいって、弄ってみるか、現場で覚える感じです。ターンテーブルを買った学生のとき、ちょうどパイオニアのスクラッチ可のジョグダイヤルのタイプが初めて発売された頃でした。で、当時仲良くなった店員さんが元DJで、「凄いの出るよ!」いろいろと教えて貰ったり、ふたりで店でB2Bみたいなことをよくやっていました(笑)。よく現場で言われる、CDJのちょっと変わった使い方の基礎はこの頃覚えたものです。
 いま思い出しましたが、1回、日曜デイタイムのお店のDJイヴェントに出させて貰ったのが僕の人前でのDJデビューでした。そのときも、UKガラージでしたね(笑)。
 制作は、失敗と成功の繰り返しです。いまも、毎回曲を作るごとに、思いついた新しいことを1回1回やっています。FL Studioを使っていますが、僕はとても気に入っています。ハッキリ言って、人に誇れる技術は持ち合わせていないと思います。毎回がテストです。作ってみて、仲良しの海外UKガラージのアーティストに送ってみて、感想を聞いてみたり。その人だけかもしれませんが、イギリス人は、素直に感想を聞かせてくれて、良い曲だと、プレイで使ってくれたり、日本人よりも反応がわかりやすいので、デモは彼らにまず送ってます。

どのようなパーティでまわしてたののですか? 

Prettybwoy:大きいパーティだと、「Drum & Bass Sessions」で、サブフロアのSALOONですが、たまに呼んで頂いています。それと、Goth-Trad主催の「Back To Chill」も定期的に呼んで頂いてます。
定期的にD&Bのパーティではやらせていただいてますね。Soi、Hangover、Jungle Scape......など。やっぱり、親和性は高いと思います、D&B/ジャングルは。
 それ以外は、スポットで呼んで頂いて、やらせてもらっています。
ただ、やはり、UKの低音カルチャーに重きを置いたパーティのブッキングがほとんどです。僕個人としては、UKガラージの多様性を活かして、ハウス、テクノ、ヒップホップ、レゲエなど、いろいろな音楽と交流できればと思っています。そこはもっと、リスナーの理解と、自分自身の知名度が必要だと思いますが。

UKガラージは、まさにUKならではの音楽スタイルですが、日本に根付くと思いましたか?

Prettybwoy:いまでも、根付いているとは思ったことがありません。まだたまに、日本でUKガラージが聴けると思わなかった! って外人さんから言われます(笑)。
 いま多くの日本に根付いているのは、2ステップでしかないんです。それがいい悪いではないのですが。本当に根付いているならば、こんなにグライムとUKガラージに壁があるわけはないと思います。本当に、ごくごく一部のリスナーにしか、まだ根付いてる、とは言えないと思います。
 ただ、ダブステップ、グライムがジャンルとして確立したおかげで、UKガラージに興味を抱く人が昔より増えたと思います。そういう人たちに、あまり個人では堀りにくいオールドスクールからいまの流行まで紹介していけたらいいと思っています。

もっともインスピレーションをもらった作品/アーティストを教えてください。

Prettybwoy:「U Stress Me 」K-Warren feat. Lee O(Leo the Lion)です。コレはアナログしか出てなくて、Vocal mixとDub mix(両方K Warren本人プロデュース)が入っています。こんなにハードでRawでベースなヴォーカル・トラックがあるんだなぁって。こういう前のめり感って、UKガラージならではの魅力だと思います。

UKガラージはレコードもなかなか日本に入ってきません。音源はネットを探しているんですか?

Prettybwoy:いまは時代が時代なので、比較的データ・リリースも多くはなったと思います。残念ながら、iTunesのみのリリースとかも見かけます。本当に仲良くなったアーティストは新曲を日本でも紹介してくれって送ってくれます。むしろリリース予定は無い曲とかもありますが。けっこう、昔からブート・リミックスも大量にあるので、そういう曲はフリーダウンロードになっていたり、プロモメールのみだったり。いまはほとんどそういう曲をプレイしています。
 レコードに関しては、日本の中古レコード屋で、100円とかでたまに掘り出し物みつけますね(笑)。ただ、UKガラージオリジナルの曲だと、ほとんど中古にはないです。昔はBig Appleで、初期ダブステップ、グライム、ガラージを扱っていたので、(昔はグライムではなく、SUBLOWでしたね)そこと、HOTWAXを利用していました。いまアナログを本気で掘ろうと思ったら、あんまり教えたくないんですが(笑)、DNRっていうイギリスのレコード・ショップが、大量の在庫を持っています。たまに僕もここで購入します。

Prettybwoyと名乗るようになった理由を教えて下さい(カタカナ表記も教えてください)。

Prettybwoy:あまり、カタカナ表記は拘りないのですが、プリティブォイですね(笑)。本当、思い付きです。名前をつけた20代中盤頃、クラブで女子に、何故かカワイイと言われることが多かったのと、ガラージ・アーティストで、Pretty boy Entertainmentってのがいたんで、語呂もいいし、呼びやすいかなって。もともと、ガラージ・アーティストでなんとかボーイって多かったですし。

Pretty Boy Entertainment - Buttas (Sunship Vs Chunky Mix)


 それと丁度、SoundBwoy Ent.ってアーティストが2ステップ曲出して日本にも入ってきてたので、じゃあ、Prettybwoyでいいやって(笑)。後から、prettyboyって、男好きな男子とか、チャラ男とか、いい意味ではないよって外人の友だちに言われて、まあ、ガラージDJでプリティブォイとかまんまだしネタになるしいいか。という具合です。

いつぐらいから良いリアクションが得られるようになりましたか?

Prettybwoy:もう、それこそ、その時々でリアクションは違いますが......。DBSに出させていただいてから、こんな人がいたんだってリアクションはありました。最初の頃、ガラージDJっていうイメージがもう、チャラいんですよね。でも、みんなが想像するより、低音が凄くて、ていうのは最初の頃よく言われていました。
 ただ、それは僕が好きなラインがそういう、グライムとガラージの中間ぐらいが好きなので、いい具合にみんなの期待を裏切れたんだと思います。だから、もっと、いろんな層に、違うアプローチで試してみたいとはつねづね思っています。超お洒落セットとか(笑)。

日本にもガラージ・シーンと呼べるものがあるのでしょうか? あるとしたら、どんな人たちがいるのか教えてください。

Prettybwoy:シーンと呼べるものは、ないと思います。ただガラージが好きで、メインでガラージDJをやっていなくても、プレイできる人はけっこういると思います。僕は僕のやり方で、求めるガラージ感を追求していくことが、いまやるべき事と思っています。ガラージをメインに活動している人間自体が、僕しかいないと思っているので、他にももしいるんなら、名乗り上げてほしいですね(笑)。シーンは、僕のDJや曲がいいねって言ってくれる人が増えたら、それがイコールシーンになるのかな? と、うっすら思っています。

地方ではどうですか?

Prettybwoy:DBSに初めて出演したときに、真っ先に反応してくれたのが名古屋のクルーの方だったのですが、名古屋では2000年当初、UKガラージをメインにパーティをやっていたクルーがいて、いまでも名古屋の現場にいます。だから、名古屋は比較的、ガラージに理解があると思います。栃木で活動しているBLDクルーもガラージには理解があります。他の都市は、正直ほとんど行ったことがないのでわかりません。

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BIG DADA

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とくにMCが重要なシーンですが、日本人MCでとくに素晴らしい人は誰がいますか?

Prettybwoy:誤解を恐れず、言わせていただきます。いません。UKガラージだけで見ても、UKにはDJの数と同じくらいMCがいます。MCのスキルだけあっても、どれがUKガラージのアンセムで、どれがいまヤバイ新譜で、という、ナビゲートができるMCでないといけないと思います。さらにレジェンドMCと言われるレベルのMCまでたくさんいます。彼らはみな、自分の決め台詞を持っています。
 また、グライムの若いMCと、UKガラージのMCとでは、求められる質が違います。MCというスタイルで、日本でそこまでやっている人が、UKガラージ、ちょっと広げてBPM140のシーンにどれだけいるでしょうか? 僕が知らないだけかもしれませんが、いないと思います。
 D&Bや、別のシーンで活躍している人は、そうやって頑張っているMCがいると思います。UKガラージシーンもまだないので、MCもこれから一緒に育っていけたらいいな。と思います。いまUKガラージに対する思い入れがあるMCは、Rallyさん、名古屋のYukako、Agoさん、福井のGoship君、僕が知っているのはこれくらいです。

J-Hardcore Dynasty RecordsのMC RALLYさんについて教えてください。

Prettybwoy:もともと、六本木クアイルでステップスという2ステップのパーティをやっていて、そこでMCをやっていました。残念ながら僕はそのパーティに行ったことはないのですが。現在はメイン活動はハードコア・テクノのパーティでマイクを握ってます。UKガラージには特別思い入れがあり、ある程度知識もあるMCだと思います。DJ Shimamuraさんと一緒にトラックも作っていたり、かなりアッパーなMCですね。元気すぎるときもあります(笑)。

UKガラージはUSのR&Bからの影響もありますよね。PrettybwoyさんはUSのヒップホップやR&Bは聴きますか?

Prettybwoy:もともと、クラブミュージックの入り口が90年代初期ヒップホップ/R&BBなので、その年代のはとくに、いまでも聴きます。TLCは大好きでDVDも買いました(笑)。

日本のR&Bというと、Jポップなイメージがついてしまっているのですが、アンダーグラウンドで良いシンガーはいますか?

Prettybwoy:僕自身、シンガーの方の知り合いがほとんどいないのでアレなのですが、名古屋にいて、D&BのMC活動もしている、yukakoというシンガーとはいま、一緒に曲を作っています。いわゆるJポップ・ガラージになってしまうのは嫌なので、いろいろ密に話し合って試行錯誤しています。初めての経験なので、勉強になるし、楽しいです。機会があれば、日本語のMCモノとかにも、今後は挑戦してみたいです。

ダブステップやジャングルなど、親類関係にあるジャンルもありますが、ガラージのみにこだわっている感じですか?

Prettybwoy:いままでの質問のなかでも触れましたが、とくにガラージのみにこだわっているわけではありません。トラックに関しては僕はガラージDJといいつつ、DBS(ドラムンベース・ジャングル)やBTC(ダブステップ)などに出演させてもらっているのもあって、そのいま現在の現場で培ったものを昇華して、UKガラージ的アプローチで表現できればな、と思って作っています。グライムとガラージは、とくに、インストモノ・グライムと、ガラージは僕のなかでまったく区別していません。ダブステップや、他にたくさんいいプレイヤーが周りにいるので、僕があえてプレイすることもないと思っています。ジャングルやD&Bに関しては、完全に僕は後追いなので、出演しているパーティで、こんなのもあるんだぁ、と勉強している感じですね。

2011年に自分ではじまた「GollyGosh」について教えてください。どんなコンセプトで、どんな感じでやっているのでしょうか?

Prettybwoy:もともとは月曜日というのもあり、気軽に楽しめるUKガラージ/グライムというコンセプトではじめました。UKガラージ好きだけど、普段あまり現場でかけることができなかったり、そういうDJの側面を実際に見て、親交を深められれば、という比較的緩い雰囲気でした。
最近は去年イギリスから日本に引っ越してきたFrankly$ickというDJとやっています。彼は、UKガラージ/グライムそしてオリジナル楽曲以外に、Jackin'という、ガラージの兄弟のようなジャンルを最近プレイするようになって、ここでしか聴けない音楽、という要素がここ最近強くなったような気がしています。
 また、Ustream配信もおこなっていたのですが、それによっての海外からの反応が意外とあることに驚きました。もともと、なかなか東京に来れない地方都市のUKガラージファンとの交流としてはじめたのですが、意外な発見ですね。これがきっかけで仲良くなった海外アーティストもいます。(ちなみに、次回は4/8月曜日です)

UKガラージというと、UKでは一時期、警察に監視されていたほど、ラフなイメージがあるのですが、日本のフロアはどんな感じでしょうか?

Prettybwoy:日本はピースですよ。さすが世界でも有数の安全な国です(外国に行ったことはありませんが)。どういうわけか日本では、そういうやんちゃな若者が、ガラージ/グライムに辿り着かないですからね。大人が聴く音楽というイメージは引きずっています。だいぶ変わってきてるとは思いますが。正直若い人たちにもどんどん聴いてほしいですね。

今回、UKの〈ビッグダダ〉のコンピレーション盤『Grime 2.0』に参加することになった経緯を教えてください。

Prettybwoy:まず、僕が自宅からUstreamでアナログのみでミックスを配信していたら、ツイッター経由でイギリス人が、「そのアナログどこで買ったんだ?」って聞いてきて、友だちになりました。そしてある日、「今度日本に行くよ!」と言ってきて、「え? 旅行?」って聞いたら、「DJだよ」って。それがHOTCITYでした。彼を呼んだのは、80kidzのAli君の「PEOPLE ROOM」というパーティでした。場所はUNITでした。
 来日した彼に音源CDRを渡して、彼が帰国後、すぐに「俺の友だち(Joe Muggs)が〈Bigdada〉のコンピに関わってて、お前のトラック入れたいってよ! やったなコングラチュレイション!」ってメールが来て......という流れです。最初は、騙されているんじゃないかと思いました(笑)。夢みたいで契約書来るまでほとんど誰にも言いませんでした。
 それと、収録される"Kissin U"は結構前からできていて、現場でも比較的プレイしていたトラックなのですが、今回リリースが決まってから、(先ほど話に出た)yukakoに新たにヴォーカルを歌って貰いました。よりドープなヴァージョンになったと思います。

日本人としては初のガラージ/グライムという感じで紹介されるんじゃないでしょうか?

Prettybwoy:おそらく、公式なリリースモノとしてはそうだと思います。最初は、Bandcampなどで自主リリースでもしようかと考えていたので、本当によいチャンスを貰えたと思います。それにこんなビッグ・レーベルで、僕がずっとやってきたことの成果として、『Grime 2.0』というコンピレーションに参加出来て本当に光栄です。日頃から、ちょっとヒネくれたガラージ表現をしてきて良かったと思います(笑)。
 これ以外でも、「Don't watch that TV」というUKアンダーグラウンドミュージックの情報サイトや、UKG専門の情報サイトなどで僕のDJ動画や、曲の紹介はしてもらっていました。
 また、去年の暮れにイギリス国内~国外でUKガラージの神様的存在として知られ、ラジオ局「KissFM UK」で10年以上ガラージ専門の番組を続ける超人DJ EZの番組で、「Guest Track from Japan」という感じの扱いで僕のトラックを紹介してくれたりしました。去年からUKのガラージDJたちからの反応が少しずつ出はじめてきたところです。たぶん、まだリスナーにまではなかなか届いていないと思います。

今後の予定を教えてください。

Prettybwoy:そうですね。せっかくだから、向こうから収録アーティスト何人か来て、リリース記念ツアーとか出来れば最高かなと思いますが、いまのところそういうお話はないので、いままで通り、トラックを作り、DJをやり続けたいと思います(笑)。
 国内から、いくつかリリースのお話はいただいているので、そちらを順に取り掛かります。それと、いくつか国内外アーティストと曲を作ったりが溜まっているのでそれもそのうち何らかの形で世に出せればと思います。パーティ情報はオフィシャル・サイトか、FACEBOOKで更新しています。いちばん直近だと、3/30に千葉〈CRACK UP MUNCHIES〉というところに行きます。

最後に、オールタイム・トップ・10のアルバムを教えてください。

Prettybwoy:アルバムに絞るとこんな感じですね。相変わらずアルバムが圧倒的に少ないですよね。個人的に、アルバムとして世界観の完成度が高かったと思うものをセレクトしました。
・MJ Cole / Sincere / Talkin' Loud
・Wookie / Wookie / S2S Recordings
・So Solid Crew / They Don't Know / Independiente
・Wiley / Treddin' On Thin Ice / XL Recordings
・In Fine Style / Horsepower Productions / Tempa
・Jammer / Jahmanji / Big Dada Recordings
・The Mitchell Brothers / A Breath Of Fresh Attire / The Beats Recordings
・Luck & Neat / It's All Good / Island Records
・True Steppers / True Stepping / NuLife Recordings
・Donae'o / Party Hard / My-ish
(順不動)

ありがとうございました! 

Prettybwoy:こちらこそ、ありがとうございました!

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