「iLL」と一致するもの

LOW END THEORY JAPAN - ele-king

 気候のせいなのか、クオリティの高過ぎるメディカル・ウィードのせいなのか、L.A.にいると、いい意味でいろんな細かいことがどうでもよくなってくる。連中は「Just Chill」と日常のなかで連呼するが、この言葉こそとてもL.A.的だ。
 既存のスタイルやシステム、マーケットに回収されない表現、〈ノット・ノット・ファン〉周辺の連中や、本誌6号にてインタヴューを強行したマシュー・デイヴィッドの〈リーヴィング〉周辺はそれこそ「細かいことはどーでもいいじゃない、Just Chillよ」と語っているようなサウンドは、僕にとってL.A.ならではの存在に思えるのだ。
 エル・エー・リアンを自称するRAS GもまさしくL.A.からしか生まれえないアーティストのひとりだ。え? RAS G来るの? 行くしかないでしょ。......というワケで僕はライヴ・レポにかこつけて〈ロー・エンド・セオリー・ジャパン〉に行ってきました。
 結論から言うと最高でしたよ、野田編集長。何で来なかったんですか? ......ってこれじゃレポになってませんね。では気を取り直して真面目に。

 小生、恥ずかしながらRAS Gをちゃんと聴いたのは昨年、マシューから〈リーヴィング〉から出ている「EL-AYLIEN」のテープを奪い取ったあとで、そのあまりのビート云々じゃないコズミックっぷりに完全にブッ飛ばされた。その後、マシューやサン・アローのキャメロンたちとのパーティ三昧の日々のなか、本家ロー・エンドでのパフォーマンスに腰を抜かし、ダブラブのフロスティー監修の「Secondhand Sureshots」をこれまた恥ずかしながらいまさら見て、その深淵なパーソナリティに魅了された次第である。
 昨年僕が体験したL.A.のビート・シーン、それは率直にその寛大な懐の広さだ。御存知の通り〈ストーンズ・スロー〉はまったく聴いたこともないような若手のアーティストもガンガンリリースし(それこそ何じゃこりゃと思わせるようなバンドも含めて)、ダディ・ケヴ率いるロー・エンドもサン・アローがプレイしたことが表すように垣根がない。僕が勝手に思っていたロー・エンド=硬派なビートメイカー、それこそ漢なら808、SP-1200、DRUM-TRAKSオア・ダイだぜ的なイメージは完全なる偏見であったし(それはそれでカッコイイけどね)、その柔軟な耳といい意味でのこだわりのなさはこの日初めに見たダディ・ケヴのプレイにも如実に表れていたようにも感じた。残念ながらこの日僕はバイト上がりで自宅にて弛緩しきった後で向かったため、中原昌也氏のヘアスタを見逃してしまった。異色のラインナップとの言えるヘアスタの出演はそれこそ本家のロー・エンドの懐の広さにしっかりと共鳴する部分であったとも言えるので残念。
 ノー・バディのプレイ時くらいからこれまた恥ずかしながら非常に酒の弱い僕はだいぶいい感じとなり、気がつけばラウンジで、久々に足を運んだクラブ・イヴェントにおける女子率の高さ、おっぱいとおしりによって自分が何故エクスペリメンタルやノイズという非モテ音楽に身を投じていることを呪っていた。いや、関係ないんだ! この日何故かチケットもぎりの手伝いをしていた僕のバンドのサポート・メンバーであるK氏のように必死でビートを作り、夜はスケート・パークを攻めてるのに良い歳こいて童貞(追記、先日卒業しました。おめでとう!)、中原氏はあんなにエクストリームなサウンドを奏でているのに女子のファンもしっかりいる......だいぶ話が反れた。
 そして大本命RAS Gの登場。控えめに言っても神懸かっていた。彼の内宇宙の律動とシンクするベースとビート、サン・ラさながらの土星まで届く飛ばしっぷり。何だかご利益がありそうな風貌のラスのズシリとした動きもイイ。時折彼が指差す明後日の方向は故郷の土星の方角に違いあるまい。大大大満足であった。近々ドロップされる〈disques corde〉からの『Raw Fruit』、〈リーヴィング〉からの「El-Aylien pt. II」と「C.razy A.lien 7' + CS」も楽しみでしょうがない。

 その後再びダディ・ケヴへと一巡するなか、僕は明日への労働のため残念ながら帰途へついた。余談だが、僕のなかでは本家ロー・エンドのエントランスは最悪である。屈強なセキュリティが毎度しっかりと入場規制をかけ、長蛇の列が続く。かと思えばいわゆるハリウッド的なセレビッチ風の姉ちゃんがハァイ久々! なんつってスルっと入れちゃったりする。それも含めると今回の〈ロー・エンド・ジャパン〉はある意味本家より遥かに快適で素晴らしいものであったし、確実にオーディエンスにはこのイヴェントを通じて「細かいことはどーでもいいじゃない、Just Chillよ」といったL.A.のリアルなシーンからの空気は届いていたことを確信した。

 6月はフェスティヴァルの季節のはじまりである。
 第3週目の木曜日はニューヨーク中の路上でいっせいに音楽がプレイされる、メイク・ミュージック・ニューヨーク、ブルックリンのDIY(do-it-yourself)ミュージック・フェスティヴァルのヒル・ストック、もともとL.A.ではじまったDIT(do-it-together)フェスティヴァルのファミリー・フェストが、ブルックリンのブシュウィックのさまざまな会場、家で同時開催され、次の週末は、ウィリアムスバーグのアート好きにいち目おかれるアート・ハード・ウエア・センターのクレストが主催するクレスト・フェスティヴァルなど、まだまだあるが、6月のブルックリンで重要なフェスティヴァルといえば、今回4年目を迎える『L・マガジン』主宰のノースサイド・フェスティヴァル
 これは、「CMJのブルックリン・ヴァージョン」とも言える、音楽、アート、映画、起業家パネルで包まれる8日間だ。350のバンド、30の会場、3つのシアター、45の映画、100のアーティスト、1500の起業家パネル、8万人の参加者を見込むブルックリンのノースサイド(ウィリアムスバーグ、グリーンポイント)を拠点にする大きなフェスティヴァルである。
 ウィリアムスバーグの一角の壁を乗っ取ってしまうほどのパワーがある、まさにお祭り(フェス)だ。
http://www.brooklynvegan.com/archives/2012/06/northside_festi_5.html

 ブルックリンでバンドをやっているならノースサイドへの出演はひとつのステイタスでもある。理由は、以下の通り。
 
1 『L・マガジン』というブルックリンを拠点とし、さまざまなイヴェントを企画、運営しているマガジン主催のフェスティヴァル。
2 ノースサイド(ウィリアムスバーグ、グリーンポイント)のローカルはもちろん、アメリカ、世界中の面白いバンドたちをノースサイドがピックアップしているので、新しいバンドをいち早く発見できる。
3 パネルやショーに行って、さまざまな情報も交換ができる。
4 ノースサイド時期に合わせてバンドやプレスがニューヨークにやってくるので、両方にとても都合が良い。



町中がノースサイドのポスターだらけ。

 私は参加できなかったのだが、起業家パネルでは、インディ音楽、映画業界などを引っ張るメンバーが、ビジネス・トピックについて論議を広げる。
http://www.northsidefestival.com/entrepreneurship/panelists
 パネルは朝から夕方までノースサイド・ウエアハウス(ノースサイド・サインのある壁の場所)でおこなわれた。「バンドや会場のためのソーシャル・メディアを使った次世代のマーケティング」、「ブッキングとツアーリングの新しい技術」、「ロイヤルな顧客のつかみかた」、「ラジオとオンライン・ストリーミングをチューンしよう」、「スポンサーとブランドと彼らの新しい場所」、「GZAが語る混乱とブルックリンの精神」などなど興味深いトピックが並んでいる。パネルのあとで観談できるようにバースペースも設置されている。

 出演バンドは、GZA、クール・キース、オブ・モントリオール、オリヴィア・トレマー・コントロール、ジェンズ・レックマン、ビーチ・フォシル、ツイン・シスター、サーマルズなど。
http://www.northsidefestival.com/music/artists
http://www.thelmagazine.com/newyork/the-portraits-of-northside/Content?oid=2240398

 このフェスについて説明を加えるため、ノースサイド・フェスティヴァルのディレクター、ダナ・キースにインタヴューをした。


取材に答えてくれたダナ・キースさん。

2012年ノースサイド・フェスティヴァル、お疲れさまでした。今回のハイライトのエピソードを教えてください。個人的にはどのショーを見たのでしょうか?

ダナ:どうもありがとうございます。カテゴリーごとに答えますね。音楽週間最初の日(6/14)はニッキ・アンド・ザ・ドーヴをグラスランズで見ました。彼らのエネルギーや演奏には度肝を抜かれました。起業家パネルではMTVのネクスト・ムーヴィーのブルーク・ターノフ、トライベッカ・フィルムのマット・スパングラー、ハフィングトン・ポストのクリストファー・ローゼンの「映画批評、キュレーションとソーシャル・メディア時代の発見」が面白かったです。ノースサイド・フィルムではジョー・スワンバーグの「ザ・ゾーン」とレナ・ダンハムの大学映画の「クリエィティヴ・ノンフィクション」はどちらも素晴らしく、映画を作るプロセスについての面白いメタフィルムでした。土曜日の「ウィリアムスバーグ・ウォーク」のアートも美しかったです。

今年で4回目を迎えるノースサイド・フェスティヴァルですが、過去3年と比べて、今回変わった部分はありますか? 

ダナ:今年は、初めて起業家パネルとトレード・ショーを立ち上げました。120人のパネリストが演説をし、25のヴェンダーがトレード・ショーに出店しました。このカンファレンスのために、N5ストリートとケント・アヴェニューにある古いカーペット工場の倉庫を借り、フェスティヴァルの本部にしました。

ノースサイドはブルックリンのノースサイド(ウィリアムスバーグ、グリーンポイント)で開かれます。4年前にはじまったときと現在では、この地域を比べるとかなりの変化を感じます。この地域の変化をどう思いますか? またこれからも、ここノースサイドを拠点としていくのでしょうか?

ダナ:一般的にブルックリンはアートや文化の「次の何か」の中心地と定義されます。とくにノース・ブルックリンはそれが続くと思います。

私は起業家パネルを見ることはできなかったのですが、リストに興味深いトピックがたくさんありました。ハイライトでもあるGZAはパネルにも音楽にも出演していますが、どんな話をしたのでしょうか? また、印象に残ったパネルなどを教えてください。

ダナ:私たちは2011年のノースサイドのアイディア→ブルックリン・ブリュワリーでの6パネルで起業家パネルのアイディアを開拓しました。コミュニティの興奮と固い結びつきをそこで見て、今年のフェスティヴァルにこの要素を成長させようと努力しました。これがノースサイドの起業家パネルになり、来年も続ける予定です。GZAはミュージック・ホールで2回もプレイし、「バンド対ビジネス-アーティスト/起業家として実現する」というAT&Tのミュージック・ナウ・サミットのパネルでスピーチしてくれました。

私は、オリヴィア・トレマ・コントロール、エターナル・サマー、M.A.K.Uサウンドシステム、ケーキショップ・ショーケーなどを見たのですが、かなりの数なので時間のオーガナイズが難しかったです(笑)。ノースサイドは、どのようにバンドを選んでいるのでしょうか? また、ジャンル別にハッシュタグがついていましたが(http://www.thelmagazine.com/newyork/the-hashtags-of-northside/Content?oid=2236679)、どのように区別しているのでしょうか?

ダナ:ノースサイドは40以上のショーケースのキュレーターとパートナーシップを取り、その年の彼らの好きなバンドをブックし、ウィリアムスバーグやグリーンポイントの会場とこれらのバンドとをマッチさせます。これが私たちがここまで広い音楽ジャンルが作れる理由です。私たちはノースサイドのすべてに関して発見する過程、テイストを作るいち部をショーケース・パートナーに頼っています。

私はノースサイド・フィルムでは『ブルックリン・ブラザーズ・ビート・ザ・ベスト』、『アバウト・チェリー』、『スチューデント・ショート・フィルム』を見たのですが、映画週間のハイライトは何でしたか? 

ダナ:映画はどれもこれも素晴らしく、ほとんどが売り切れになるほどで、これは、ノースサイドフィルムとして、別枠の4日間を持った最初の年、別のイヴェントと重らないようにした事は、私達にとって大きな達成でした。「ブルックリン・ブラザーズ」はとても好評で、後にかなり面白かったライヴ演奏もありましたね。

6月はニューヨークでは、FMLYフェスト、ヒルストック、クレスト・フェストなどたくさんのフェスティヴァルがあちこちで起こっています。ノースサイドは、どのように他のフェスティヴァルと特徴を分けているのでしょうか?

ダナ:私たちのパートナー、ショーケースのプレゼンター、映画のキュレーター、起業家パネルのパネリスト、ユニークで多様なティストのアーティスト達でしょう。音楽、アート、映画、起業家精神パネルにおいて、「次に来る何か」の本質を捉えるように、それらは共生していて、それがノースサイドの実体を作っています。また、フェスティヴァルをプロデュースしたり、3ローカル雑誌(『L・マガジン』、『ブルックリン・マガジン』、BAMの文化団体信奉者のプログラム・ガイド)、ふたつのローカル・ウェブサイト(thelmagazine.combkmag.com)を運営している、ノースサイドのメディアグループはコミュニティと強いつながりがあり、それが1年に1回ノースサイド・フェスティヴァルとして生にショーケースされるのでしょう。

ノースサイド・フェスティヴァルは「CMJ のブルックリン版」ともいえると思うのですが、ノースサイド・フェスティヴァルはこれからどうなっていくのでしょうか?

ダナ:起業家精神パネルは続け、成長させていきたいです。また、音楽についてはたくさんの野外のショーを増やしていきたいし、アートはアートフェアなどに形を変えていきたい。たくさんの音楽ショーを思いもよらない場所で開催したり、映画はブルックリンのプレミアの数を増やしていきたいです。

 多種多様な音楽と映画が集まっていて、いまのニューヨークの生々しい空気が感じられる。今回のフェスのハイライトは、オブ・モントリオールやジェンズ・レックマンが出演したマカレン・パークのショーやウータン・クランの設立メンバーのGZAだったが、個人的なハイライトはオブ・モントリオールと同胞の、エレファント6集団代表のオリヴィア・トレマー・コントロール(OTC)。
 2011年の再結成以来、ショーを見るたびに、変わらない彼らにさまざまな思いがよぎる。1997年ぐらいに彼らを知り、2000年あたりのピーク時に活動を停止した彼らはソロや別名義での活動はあったが、バンドの存在もすでに過去のことになり、そのまま忘れさられていくのかと思っていた。オブ・モントリオールは、ダンス・ミュージックなど新しい挑戦を果たし、新たなファンを獲得していくなか、オリヴィア・トレマ・コントロールやニュートラル・ミルク・ホテルのコアなファンは陰ながら応援していた。
 使い捨ての時代だ。2010年に彼らが再び活動をはじめたのはどういう意図があったのだろう。時代の流れに逆らうがごとく、ニュートラル・ミルク・ホテルはボックス・セットをリリースしている。ライヴでプレイするのは曲は昔の曲ばかり、さらに彼が「オール・トゥモローズ・パーティ」をキュレートしたり、大きなフェスティヴァル参加してはソールドアウトになっている。


熱気のなかのオリヴィア・トレマ・コントロールの演奏。
Olivia Tremor Control photos by Kristine Potter

 今回のオリヴィア・トレマ・コントロール、新しいギタープレイヤー以外は,昔からのアセンス・メンバーで、ホーン・セクションもいれると全部で8人の大所帯。昔からのメンバーだ。
 プレイしているのは昔の曲ばかりだが、いま聴いても新しいし、観客から曲のリクエストまで飛ぶ。彼らの再活動は、使い捨てに慣れた現在の音楽ファンに、何か忘れていた物を思い出させてくれるような存在なのだ。例えば、機械でなく人間の生々しいライヴ演奏を見て、涙が出るほど感情を揺さぶられるとか。そろそろ日本でもこのサーカス集団が大暴れしても良い頃だろう。

http://www.brooklynvegan.com/archives/2012/06/the_olivia_trem_1.html
 
 個々のプレゼンターが映画を紹介している。ルーフ・トップ・フィルム推薦の『ブルックリン・ブラザーズ・ビート・ザ・ベスト』、ユニオンドックス推薦の『ハウ・トゥ・アクト・バッド』(アダム・グリーンのロックンロール・ライフのオンとオフ)、インディ・ワマグノリア・ピクチャー推薦の『テイク・ディス・ワルツ』(マリリン・モンロー役も記憶に新しいミシェル・ウィリアムスが主演)。http://www.northsidefestival.com/film/films
 私が、ele-king読者に紹介したいのが『ブルックリン・ブラザーズ・ビート・ザ・ベスト』(http://www.oscilloscope.net/films/film/77/Brooklyn-Brothers-Beat-The-Best)。ライアン・オーナンが監督、脚本、俳優をこなす、ブルックリン、メリーランドなどで撮影された映画。内容はガールフレンド、仕事、バンドなど、すべてがうまくいかないアレックスがひょんな出会いの、新しいバンドメイトと一緒にツアーに出て、ショーを重ね、自分のなかの子供部分に向き合っていく。
 映画上映の後には、映画のなかで演じた(実際のバンドでもある)ブルックリン・ブラザーズの演奏があり、漫才の様なQ&Aがあり、会場はフレンドリーな雰囲気に包まれた。ユーモアのセンスや監督のキャラクターが映画に表されているのがわかる。最後に、監督のライアンにインタヴューした。


映画を制作しながら音楽も作るライアン・オーナン

自己紹介と、映画について紹介してください。何があなたをインスパイアさせ、映画を作らせたのでしょう?

ライアン:こんにちは、僕は『ブルックリン・ブラザーズ・ビート・ザ・ベスト』の監督、脚本家です。これは僕の初監督映画です。僕はいつも音楽について、とくにアーティストの旅や夢を追う人、何か時代から外れている人などの映画を作りたかったので、とても興奮しています。

あなたが映画で演じていたブルックリン・ブラザーズは、実在のバンドなのですか? ライノからアルバムを出すと言っていましたが、これについてもう少し説明していただけますか? あなたのパートナー、マイケルについて、彼が集めていた子供のおもちゃの楽器についてもお願いします。

ライアン:かなりクレイジーなのですが、僕とバンド・パートナーで俳優のマイケル・ウエストンは、ワーナー・ブラザーズとライノ・レコーズにサインし、来月(7月)に最近スタジオでレコーディングしたアルバムが出ます。10曲入っていて、とても良くできたと思っていますので、みんなに気に入ってもらえると嬉しいです。マイケルは小さなカシオ・キーボード、フィッシャー・プライス・ピアノ、ベイビー・アコーディオンなどの80年代のたくさんの子供のオモチャの楽器を演奏しました。その中なかの1曲にはとても楽しい、メタルのトイ・ドラムマシンを使ったり、カズーも使いました。

映画を作る(アイディアを集める所から編集まで)のにかかった時間はどれぐらいですか? インスピレーションを集めるのに、参考にした映画はありますか?

ライアン:映画はトータルで1年ぐらいかかりました。脚本を書いて、資金を調達し、3週間(!)で撮影しました。この映画の僕の大きな影響は、たぶんジョン・ヒュースの作品集です。『16本のロウソク』、「ブレックファースト・クラブ」、「フェリス・ブエラーズ・ディ・オフ」、「飛行機、電車、自動車」などは僕の大好きな映画で、これらを見て育ちました。

これはノースサイド・フェスティヴァルの一部で、映画週間に上映されたのですが、今回のフェスティヴァルで、面白かった映画やバンドを見ましたか?

ライアン:残念な事ことに今回は時間がなくて、映画もバンドも見れなかったのです。バンドはいまは「ドーター」(ohdaughter.bandcamp.com)に夢中です。とても美しいです。

あなたの音楽は、ポップで、スイートなのですが、どこか、もの悲しい感じがします。ナダ・サーフ、シンズ辺り思い出しましたが、どういった音楽に影響されたのでしょうか?

ライアン:映画のために書いた曲はキュアー、ニュー・オーダー、シンディー・ローパー、メン・アット・ワーク、ポリスなどの僕が小さいころから聴いてきた、素晴らしいポップ・ソング・ライターに影響されました。

次の目標は何ですか? この映画をイギリスでも上映すると言っていましたが、ニューヨークや日本ではどうなのでしょうか? 日本についてもお聞きしたいのですが、例えば日本の映画やバンドで好きな物はありますか?

ライアン:映画イギリスで7月20日に、8月にフランス、9月21日にアメリカで公開されます。是非日本でも上映したいです。日本のディストリビューターは興味ないでしょうか(笑)。小さい頃は日本のアニメを見て育ち、「バトル・エンジェル」が好きでした。ジェームス・キャメロンがこの権利を持っていると聞きましたが、だから、空想的な映画を作るのでしょうね。

最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。

ライアン:もっとたくさんの日本の映画やバンドをアメリカで見てみたいです。ブルックリンは素晴らしい場所ですが、僕はいつも日本に行って、そこにあるアートを全部見たいと思っていました。何年か前に、ハルキ・ムラカミのシアター・プロダクションの『象の消滅(The Elephant Vanishes)』をニューヨークで見たのですが、完璧にやられましたね。

大駱駝艦+Jeff Mills - ele-king

 麿赤児率いる大駱駝艦の音楽をジェフ・ミルズが担当する。そういえば、数年前にアントニー・アンド・ザ・ジョンソンが大野一雄の写真をアートワークに使用していたが、まさかジェフ・ミルズが日本の前衛舞踏の音楽を手がけることになるとは......。
 麿赤児といえば、土方巽に端を発する暗黒舞踏と呼ばれる前衛舞踊の第一世代を代表するアーティストのひとりで、欧米においてこの表現を広めた第一人者でもある。唐十郎との状況劇場を経て、1972年に大駱駝艦を結成しているが、その活動領域は舞台のみならず数多くの映画出演などにも広がっている。少々強引だが、土方巽がシュトックハウゼンなら、麿赤児とは暗黒舞踏史におけるクラフトワークにたとえられよう。実際、1980年代までは暗黒舞踏というジャンルそのものが日本の若い世代にとっていまよりずっと身近で、音楽や写真や漫画や映画や文学などと並ぶ、大きなインスピレーションのひとつだった。
 これは実に大胆な文化的交流、ミクシングである。世代も時代背景も異なるなかで生まれたふたつの強烈な存在が交わるということは、まったくもって興味深い!! 大駱駝艦、創立40周年公演の新たな実験。

 


大駱駝艦・天賦典式創立40周年公演「ウイルス」

[振鋳・演出・鋳態] 麿赤兒
[音楽] 土井啓輔/ジェフ・ミルズ
[鋳態] 村松卓矢/向雲太郎/田村一行/我妻恵美子/高桑晶子/鉾久奈緒美/ほか

会場:世田谷パブリックシアター
日程:
7月5日(木)19:30〜
7月6日(金)19:30〜
7月7日(土)15:00〜 19:30〜
7月8日(日)15:00〜

チケット状況:以下公演のみ、前売り発売中
7月6日(金)19:30〜
7月7日(土)19:30〜

世田谷パブリックシアター
チケットセンター
03-5432-1515(10時〜19時)
https://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/07/post_286.html

大駱駝艦
0422-21-4984
https://www.dairakudakan.com/

interview with DJ Kentaro - ele-king

 来るときは、気がつけば来ている、そんなものだ。たとえば昨年末の紙『ele-king vol.4』でも話題にしたブローステップ、あのとき日本ではまだ「何それ?」だった。が、いまではホット・チップが中目黒の部屋でねちねちと嫌味を言うほど身近なものとなっている。好むと好まざるとに関わらず、この時代のレイヴ・カルチャーが上陸しているのだ。


DJ Kentaro
Contrast

Ninja Tune/ビート

Amazon iTunes

 こうした新しいダンスの波を前向きに吸収しているのがDJケンタロウの『コントラスト』。若干20歳で世界の舞台に躍り出たDJによる10年目のセカンド・ソロ・アルバムで、彼が所属するロンドンの名門〈ニンジャ・チューン〉からのリリースだ。
 『コントラスト』にはDJクラッシュやファイヤー・ボール、キッド・コアラなど多彩なゲストが参加しているものの、アルバムに通底するのはベース・ミュージックやドラムンベースといった、今日のレイヴ・カルチャーに欠かせないエートスだ。DJケンタロウという人のカラっとした気質は、ある意味ブローステップさえも受け入れているが、彼の出自であるバトルDJの擦りの美学がなくなることはない。そこはさすが〈ニンジャ・チューン〉一派、ヒップホップを忘れてはいない。
 しかしあなた......よりよってこの時期に......、いくら国際的なDJとはいえ、いや国際的だからこそか、日本でこれだけダンスがポリティカルな話題になっているこの時期にダンスのアルバムを出すという心意気が、良い。レイヴ・オン! である。

アメリカでもダブステップがメチャクチャ盛り上がってて。L.A.だと、とくに。スクリレックスとかトゥエルブス・プラネットとか、やっぱりダンス・ミュージックっていうのは、いま、世界でバンドをしのぐ勢いになっちゃってる。

じゃぁ、よろしくお願いします。

DJ KENTARO:よろしくお願いします。

あのー、あれですよね。オリジナル・アルバムとしてはセカンド・アルバム(DJ KENTARO『Contrast』)になるんですよね。

DJ KENTARO:はい。

DJケンタロウっていうと、ミックスCDとかね、出されているんで。

DJ KENTARO:そうなんですよね。

意外とたくさんリリースしているような印象を持たれがち、思われがちなんだけど。オリジナル・アルバムとしては今回で2枚目なんだよね。

DJ KENTARO:そう。5年ぶり、なんですよね。

今回のセカンド・アルバムっていうのは、2012年の6月27日にリリースされるんだけど、「2012年6月」っていう、このリリースのタイミングみたいなものっていうのは必然性があったんですか? それとも、たまたまというか、流れというか。

DJ KENTARO:両方です(笑)。

ハハハハ。

DJ KENTARO:けど、ぶっちゃけ偶然のほうがデカいです。けど、いろんな偶然も重なって「その日にしよう」っていう風にはなって。あの、まぁ、そうすね。(偶然と必然の)両方あると思います、ぶっちゃけ。意図したものもあれば。けど、やっぱり、ちょっとリリースが遅れたんですよ。ホントは4月だったんですよ。

あぁ、そうなんですか。

DJ KENTARO:そこででき上がらなくて。

ほほう。ちなみに、その意図した部分っていうのは、どんなところなんですか?

DJ KENTARO:別に6月にとかって意味はないですけど。この時期に出したい。2012年の中頃には出したいなっていうのがあって。けど「日本盤だけでも4月に出してくれ」って言う話があって。2月中に作らなきゃいけないっていうのがあったんですけど。それはもう物理的に無理で。結局、まぁ、2ヶ月伸びちゃったんですけど。

その「セカンド・アルバムを出したい」っていうのは、やっぱり自分のなかで出したいものが、それだけ溜まってきたっていうこと?

DJ KENTARO:そうですね。去年もわざわざL.A.まで行って、2ヶ月間レコーディングしてきて。トラックもいっぱい溜まってきて。本当はそこで完成に持っていきたかったんですけど。やっぱ2ヶ月なんかじゃできないし。けど、そこで30曲ぐらいできたおかげで、コラボレーションしたラッパーに投げるトラックとか、いろいろできたんで。すごい成果にはなったんですけど。やっぱりアルバムをひとりで作るっていうのはスゴく大変で。たぶん、次にアルバム出すときも5年ぐらいかかると思う(笑)。

はははは。で、ちなみに、取っ掛かりというか、今回の『Contrast』を作る取っ掛かりみたいなものは何かあったの?

DJ KENTARO:えーと、やっぱ「アルバムを作りたい」っていうのは前からあったんですけど。最初に作ったのが、このクラッシュさんとの曲("KIKKAKE")で。これが1曲目っていうか、これで基盤ができて。2年ぐらい前なんですけど。

へぇぇ。

DJ KENTARO:これをいちばん最初に作ってから、いろいろほかの曲とか、"HIGHER"とか"FIRE IS ON"とかできてきて。

じゃぁ、そのクラッシュさんと一緒に作ったっていうのが、ひとつの取っ掛かりになったんですか?

DJ KENTARO:なりましたね。けど、そのときは"KIKKAKE"ってタイトルはまだ無くて。アンタイトルドだったんですけど、オレもクラッシュさんと世界で......例えば、ロンドンの〈KOKO〉っていう、伝統的なデッカいところで演ったりだとか(DJ KRUSH VS DJ KENTARO at KOKO/2009年10月3日)。セッションする機会が増えて。クラッシュさんのプレイも生で見る機会が増えて。スゴいやっぱりカッコイイなって。オレと全然違うスタイルなんですけど、やっぱりカッコイイなぁっていう風に思って。で、仲良くなってから、クラッシュさんが家に遊びに来たときに、こう、焼酎とか注ぎながら(笑)。

はははは。

DJ KENTARO:飲み会的な感じで(笑)。クラッシュさんとサシで飲むなんてなかなかないんで。で、そのノリで曲も作って。したら、その日のうちに結構基盤ができたんですよ。そっからメールでやり取りして。「どうですか?」って。あとは、じょじょに音足していって。この"Kikkake"ってタイトルは、オレがクラッシュさんのインタヴューをウェブか何かで読んで。「キッカケ」って言葉を見て。「あ、イイなぁ」ってボーっと。「クラブで『ケンタロウさん、キッカケでDJはじめました』って若いコとかいたなぁ」とかいろいろ考えて。オレもクラッシュさんキッカケでいろいろ知って......とか、そういうこと、いろいろ考えていて。

あー。

DJ KENTARO:で、まぁ"KIKKAKE"って。あと、「コントラスト」と「キッカケ」って、オレはイコールだと思ってて。やっぱりキッカケを作るにはコントラストが必要だし、コンストラストを作るとキッカケが生まれるし。何事もっていうか、ホント。抽象的ですけど。そういう意味では、今回の一種の核となってる曲ではありますね、この曲"KIKKAKE"は。

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前半戦がダンス・ミュージックで、後半はターンテーブリスト作品とか、ヒップホップっぽい感じとか。あとは、インスト物? っていう意味で、グラデーションのようにじょじょに変わっていくというか。


DJ Kentaro
Contrast

Ninja Tune/ビート

Amazon iTunes

なるほど。あの、聴いたざっくりとした印象なんですけど、すごくエネルギッシュなダンス・アルバムじゃないですか。

DJ KENTARO:はい。

で、とにかく、たぶん、このアルバムがもっとも強く伝えることがあるとしたら、ダンス・ミュージックってことかなっていう風に......。

DJ KENTARO:そうですね。やっぱり、クラブ・ミュージック......。

って解釈したんですけど。ここまでダンスにフォーカスしたっていうのは意図したものなんですか? 自然に出てきたっていう感じなんですか?

DJ KENTARO:けど、(アルバム全体を)ダンス・ミュージックだけにはしたくなかったんですよ。前半戦がダンス・ミュージックで、後半はターンテーブリスト作品とか、ヒップホップっぽい感じとか。あとは、インスト物? っていう意味で、グラデーションのようにじょじょに変わっていくというか。そういう流れは作りたくて。前半はイケイケではじまって。じょじょに曲調が転換していって、最後はスクラッチで終わるっていうところは意図して作りましたね。

もちろん、曲は本当にいろいろ。それこそドラムンベースからの影響もあるし。いろんな要素あると思うんだけど。まぁ、すごくダンスを強く打ち出したアルバムだなと思ったんですけど。

DJ KENTARO:あ、はい。

やっぱり、それは、いま、欧米ですごくダンス熱が上昇してるでしょ?

DJ KENTARO:ですね。

やっぱりそこに触発されたものっていうのはありますか?

DJ KENTARO:あ、でも、少なからずありますね。やっぱ、僕は、どっちかっていうと、ロンドンっていうか、ヨーロッパのシーンにドップリ浸かってたんですけど。アメリカとかツアーするようになってから、アメリカでもダブステップがメチャクチャ盛り上がってて。L.A.だと、とくに。スクリレックス(Skrillex)とかトゥエルブス・プラネット(12th Planet)とか、ビッグ・ネームがアメリカからいっぱい出てきてて。あとはデヴィッド・ゲッタ[David Guetta]とかアフロジャック(Afrojack)とか。四つ打ちの、もうジャンルを越えたモノが増えてきてるじゃないですか? 例えば、ヒップホップにハウス入れたり。アフロジャックだったら、ダッチ・ハウスにR&B入れたりとか。だから、やっぱりダンス・ミュージックっていうのは、いま、世界でバンドをしのぐ勢いになっちゃってる。それはたしかじゃないですか。

ホントそうですよね。

DJ KENTARO:で、逆に言うと、スクリレックスとかも、かつてバンドマンだったんですよ。バンドを辞めてパソコンに移った。っていうタイプが、いま、スゴく多いっていうか。

あぁぁ。

DJ KENTARO:バンドマンだった人、バンド畑だった人が、パソコン・ミュージックに行って。要は、お客さん的にも「音が鳴ればイイじゃん!」っていう概念になってきてて。バンドが生演奏しても、しなくても、スピーカーから出てくる音が良ければイイじゃんっていう感じで。そういうダンス・ミュージック、DJがスゴい欧米で人気出てますよね。そういう印象受けますね。

じゃぁ、やっぱり欧米のシーン、レイブカルチャーに触発されたっていう?

DJ KENTARO:そぉっすね。けど、やっぱり......僕もターンテーブリストとしてのアイデンティティがすごくあるので。(アルバムの)後半戦は、そういう感じに終わらせたいなっていうのあって。だから、全部洋楽、全部ダンス・ミュージックってアルバムにはしたくなかったんですよ。日本人だから、日本語の曲も入れたかったし。それこそ和のテイスト、和楽器入れたりっていうのもやりたかったし。最後のフランス人(C2C)と演った曲もある。ま、このまんまっていう感じなんですけど。これが素直な、オレのやりたかったことではあるんですよ。
 ドラムンベースの曲も1曲絶対入れたかったし。このメイトリックス・アンド・フューチャーバウンド(MATRIX & FUTUREBOUND)って、僕、スゴいファンで。彼らの曲しょっちゅうDJで使うんで。純粋にリスペクトしてるんすよ。彼らと一緒に、フューチャーバウンドが家に遊びに来て、3日間、一緒に曲作ったのが、これ("NORTH SOUTH EAST WEST")で。

最近は海外ではどのぐらいの頻度でDJ演ってるんですか?

DJ KENTARO:アルバム制作中はあんまり行ってなかったですね。で、次行くのは7月のヨーロッパとか、ぐらいですね。

だいたい1年のうち......

DJ KENTARO:年に2回ぐらいヨーロッパ行くんですよ。で、1回ぐらいアジア・ツアーとかオーストラリアとか。

その1回のヨーロッパってけっこう長いの?

DJ KENTARO:えー、2週間。2週間ぐらいですか? 1ヶ月とか2ヶ月か、そんなには行かないですけどね。

USなんかは?

DJ KENTARO:この前が2週間。で、あんまり1ヶ月とか演ったことないですね。アメリカ......アメリカがいま、スゴいベース・ミュージック盛り上がってるんで。

らしいねぇ。

DJ KENTARO:チャンスっちゃチャンスだし。けど、UKのヤツらはそれを見てあんまりよく思ってないとか(笑)。いろいろあるんすよ(苦笑)。

ハハハ(笑)。知ってる知ってる。あのー、ブローステップに対してね。

DJ KENTARO:ブローステップ。「ふざけんな! ファック・オフ!」とかスゲェ言ってるし(笑)。

DJケンタロウはそこはどう思うの?

DJ KENTARO:それを遠くから見てますよ。「「あぁ~」って。やっぱアメリカ人ってもうイケイケの人多いじゃないですか? 気質っていうか。「イッたれ! イッたれ!」みたいな。こう、大ノリっていうか。やっぱ、そういうノリではアメリカ人には勝てないし。けど、イギリスはイギリスで、長い歴史と、ダブステップとかベース・ミュージックとか曇り空な感じとか、いろんな要素がUKにはあるから。オレもそっちの要素はスゴい惹かれてて。
 で、やっぱUKから見て、ダブステップ、ブローステップが(アメリカで)盛り上がってるのを、よく思わないヤツらが、やっぱりいて。今度は逆に、イギリスとフランスもやっぱ仲悪いし。

ダンス・カルチャーの違い、みたいな?

DJ KENTARO:いや、もう国ごと。

それはまぁ、そうだよね。

DJ KENTARO:歴史的にもあるし。

それ言ったら、ドイツとイギリスだって仲悪いじゃん。

DJ KENTARO:そうっすね。で、ドイツとフランスは仲良いとか。なんか、そういう、白人内でも、また派閥があったりとか。

ふーん、なるほど。

DJ KENTARO:だから、どこでも一緒なんだな。日本でも一応民族っていうのがあるし。例えば、アジア諸国のね? 近所の関係とかもあるし。だから、どこでもある。ヨーロッパなら白人同士でもいがみ合ってて。アメリカとUKでもいがみ合ってて。ま、けど、認め合ったりもしてて。そういうの全体的に見ると、どこ切り取っても一緒っていうか。けど、やっぱりいまのトレンド、ダンス・ミュージックっていうのが完全にテイク・オーヴァーしてて。それをイギリス人、例えば、ドラムンベースにしちゃうと「今いまはシーンも下火」って言う人もいるんで。

え、そう? でも、なんか、ほら、でもスクリームとかさ、ああいうダブステップ演ってた人の一部は、最近、みんなドラムンベースになっちゃったじゃん。

DJ KENTARO:え? スクリームがですか? 

シングルとかで。

DJ KENTARO:え、スクリームがドラムンベース出したんですか? それ知らないっす。へぇぇぇ。

ちょっと前だけど。ワイリーなんかもそうだし。それとはまた別に、わりと、ほら......新しいタイプのドラムンベース...とか、たぶん、それこそ〈ニンジャ・チューン〉とか、すごくいちばん好きな部分なんじゃないかなと思うんだけどさ。

DJ KENTARO:え、なんすか? 知らない。

Dブリッジ(D-Bridge)とかさ。

DJ KENTARO:Dブリッジ。あぁ、ハイハイ。あぁぁ、アイシクル(Icicle)とか。

面白そうののが出てきてるじゃない? なんか。

DJ KENTARO:あぁ、たしかに。そう、だから、ドラムンベースでも、やっぱり滅茶苦茶ドープな、孤高のシーンしかないんすよ。だから、いま、言ったようなDブリッジとアイシクルとか、いわゆる超ドープなドラムンベースこそが「リアル・ドラムンベースだ」って。例えば、オレが大好きなサブ・フォーカス(Sub Focus)とかペンデュラム(Pendulum)とか、「ああいうのはワックだ」って言っちゃうんすよ。だから、もう、ある意味、「Dブリッジ以外認めねぇ」みたいな。

ハハハハ(笑)。イギリス人はそういうところあるよね、昔から。良くも悪くも。

DJ KENTARO:ありますよね。「ドープなモノしかリアルじゃねぇ」みたいな。

みんなマニアだから。

DJ KENTARO:そう、マニア。ある意味、ダブステップもそうなんですよ。ポスト・ダブステップ。「ブリストル発の、ああいうサウンドじゃないと認めねぇ」って。もうちょっとローファイで、空間うまく使って、いわゆるオールド・スクールじゃないけど、こう......「ポスト・ダブステップ以外はクソだ」って。

なるほど。でも、まぁ、それは歴史は繰り返すじゃないけど。

DJ KENTARO:そうそう、ジャングルも、そうじゃないですか。

1990年代初頭のテクノのときもあったことで。

DJ KENTARO:そうですよね。レイヴからはじまって。

それこそ、もうアンダーワールドが「レズ(Rez)」っていうシングルを出した頃は、アンダーグランドでもすごい盛り上がってたんだけど。

DJ KENTARO:はい。

「ボーン・スリッピー」の頃は、もう「セルアウトしてるから」みたいな。

DJ KENTARO:(苦笑)なるほどね。

そういうイギリス人気質っていうのがあるから。

DJ KENTARO:プライド高いからね、イギリス人は。

ただ、逆に言えば、連中はそれだけ自分らの音楽文化に対して誇りを持ってるし、熱があるってことなんだよね。

DJ KENTARO:そうなんですよね。モチベーション、そんぐらい熱中してるから、言えるっていうのはあるんですけど。

でもさ、DJケンタロウとしては、〈ニンジャ・チューン〉っていう、すごい拠点もあるわけだから。

DJ KENTARO:でも、やっぱり〈ニンジャ・チューン〉っていうのも、イギリス人のレーベルなんで。彼らもプライド持ってやってるし。彼らの考えもあるし。日本人とは違うバックボーンもあるし。だから、そういう意味でも、オレが〈ニンジャ・チューン〉から出すっていうことの意義は、良くも悪くも、しっかりあると思うんですよ。

うん、そうだよね。〈ニンジャ・チューン〉って、日本にはあまり伝わってないけど、イギリス国内ではものすごく尊敬されているレーベルだし、〈ワープ〉と並んでイギリスが誇るインディ・レーベルだから。

DJ KENTARO:だから、やっぱり〈ニンジャ・チューン〉の社長も考えがあるわけで。で、やっぱセールスの人も考えがあるわけで。オレも日本人として考えがあるし。だから、そこでぶつかり合いみたいなものも多少あるんですよ。

あぁぁ、なるほど。

DJ KENTARO:けど、それを面白いって言ったら変だけど、「じゃぁ、やってやるよ」っていうトコで見てて。だからって相手に嫌がらせするとかじゃなくて。オレの意見をバンバン言う。ピーター(・クイック/ニンジャ・チューン・オーナー)も自分の意見を言ってくる。で、セールスの人も意見を言ってくる。そういうので、アルバムができて。例えば、こういうフィーチャリングのラッパーとかも、リリックは任せるんですよ。何言ってもいいから。まぁ、エディットするけど。で、そういうので生まれる化学反応をそのままパッケージしたりとか。

なるほどなるほど。面白いね、それは。

DJ KENTARO:で、「これを見てくれ、これがいまの世界だよ」っていうところも簡単にあるし。だから、今のアルバム、今しか出せないアルバム。自ずといましか出せない曲にもなるし......何て言ったらいいんすか、なんか、こう......

よりアクチュアルなというか。

DJ KENTARO:そうですね......これを日本の自主で出してたら、たぶんこんな音になってないし。〈ニンジャ・チューン〉から出して、マスタリングも〈ニンジャ・チューン〉お抱えでやって、とか。

うんうん。向こうのさ、そういうレーベルっていうのはさ、平気でダメ出しするじゃない。例えば、変な話、「いままでAっていうレーベルから出してたのに、何で今回はBから出したの?」ってアーティストに訊いたら、「Aから断られたから」とかね。

DJ KENTARO:はいはい。

そういう直球なダメ出しってアレだよね。日本ではなかなか無いっていうかさ。

DJ KENTARO:一応、これも3枚契約になってたんだっけな〈ニンジャ・チューン〉と。契約があるんですけど。何枚だったか......(笑)?

なるほど。まぁ〈ニンジャ・チューン〉にしてみたら、DJケンタロウは、かつて自分たちがいた場所みたいな存在じゃないですか。だってコールドカットなんていうのはさ、だって初期はまさにアレですよ、ターンテーブルによるサンプリングだけで音を作ってた人たちなわけだから。

DJ KENTARO:(万感込めて)そうっすねぇ。で、「忍者」が好きで〈ニンジャ・チューン〉って(レーベル名に)したわけだし。日本の文化も好きだったろうし。だから共感できる部分もあるんすけど。けど、やっぱりお互いの主張もあるし。

じゃあ、シンドかったりするわけだ。そういうやりとりが。

DJ KENTARO:まぁ、オレは楽しいですけどね。けど、やっぱりそういうのしっかり見据えて。(相手の意見に耳を傾けながら)「ウンウンウン」って考えますね。で、こう、フィーチャリング勢も色んな人がいるんで。例えば、イギリス人。メイトリックス・アンド・フューチャーバウンドもイギリス人で、例えば、フォーリン・ベガーズ[FOREIGN BEGGARS]も、イギリス人だけど、ひとりはドバイのヤツで、ひとりは黒人、で、バックDJは白人とか。

じゃぁ、そこはスゴくインターナショナルな感じなんだね。

DJ KENTARO:だから、黒人英語、白人英語、上流階級英語とか、イギリス訛りとか、英語圏の......小っちゃいコダワリっていうのもあるんすよ。だから、やっぱり黒人が言う英語を、白人の前で言うと「ハ?」ってなったり。オレもそこまでわかんないから。そういうのが知り合いにいて。黒人同士だったら「ヘイ」「ワッツアップ、ブロ」とか、上流階級同士の「ヘイ」とか、なんかあるんすよ、言い方が。オレもわかんないですけど、そういうニュアンスみたいなのが向こう行くと、日本以上にムチャクチャあって。だから、ロンドンって細分化しまくって、白人は白人で固まって、日本人は日本人、アジア人はアジア人って。

なるほどなるほど。イイ話だね。いま、ケンタロウ君が話してくれたような、猥雑な熱量みたいなものはスゴく出てるなと思いましたね。ダンス・ミュージックの良いところだね。

DJ KENTARO:だから、まぁ、何を作ってもいいんすよね。絶対、いまの音になるから。もうまかせていいっていうか。ラッパーにしても何にしても。ソイツが言いたいこと言えばいいっていうか。それをバーンってパッケージして、「ハイ、みんな、これがいまの地球だぜ」っていうところもあるし。

なるほど。

DJ KENTARO:そういう、狙い、じゃないけど。まぁ、そういうのも面白いかなとか。

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〈ニンジャ・チューン〉っていうのも、イギリス人のレーベルなんで。彼らもプライド持ってやってるし。彼らの考えもあるし。日本人とは違うバックボーンもあるし。だから、そういう意味でも、オレが〈ニンジャ・チューン〉から出すっていうことの意義は、良くも悪くも、しっかりあると思うんですよ。


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あの、変な話、じゃぁさ、具体的にいまの向こうのシーンって若いじゃない? ダブステップとかブローステップしても。

DJ KENTARO:ウンウンウン。たしかに。

ああいう若い連中、若いDJ、若いプロデューサーとかが出てくるなかで、DJケンタロウから見て「コイツはヤルな」って思ったヤツっている?

DJ KENTARO:若いのっすか? ジョーカーとか、あと、若くないけどサブ・フォーカス。オレと同年代、ちょっと上なんですけど。サブ・フォーカスとか、もうドラムンベースでは断トツ。群を抜いてますね、オレのなかで。

それはプロデューサーとして?

DJ KENTARO:そう。作る音楽が。サブ・フォーカスは断トツ1位ですね、オレのなかで。若いプロデューサーっていう意味では、それこそスクリレックスとか。ま、正直、オレちょっと飽きてるんですけど。まぁ、けど、いろいろ超盛り上げて。あんだけポップにしたって功績はスゴいし。ま、音楽的にはオレはちょっとよくわからないけど。ジョーカーとか、それこそジェームス・ブレイクとか、あと誰だろうな、若いの......若いの......あ、アメリカいっぱいいますね、若いのは。アメリカとUKだったらブリアル。ブリアルは、若くないのか。

まぁ、若くはないけどね。

DJ KENTARO:けど、ブリアルの音ってポップじゃないけど。オレけっこう好きで。なんか、あのチリチリした音で。空間っぽいテクノっぽい感じもあるし。

初期の、それこそ『STRICTLY TURNTABLIZED』とかの頃のクラッシュさんとも似た感性を思ってるよね。

DJ KENTARO:たしかにたしかに。リズム・パターンが2ステップとかUKガラージ、ブロークン・ビーツみたいな。ツン・ツン・タン・ツン・ツン・ツ・タンみたいな不規則な感じとか。暗ぁい、灰色な、ロンドンっぽい感じがブリアルがやっぱり......オレとやってることはぜんぜん違うけどスゴい好きなんですよね。

はぁ、なるほどねぇ。

DJ KENTARO:ブリアル、スゴい暗いけど(笑)、ムチャクチャクリエイティヴだと思います。

ちなみに、海外のそういう盛り上がりに対して、日本のシーンっていうのは当然気になるわけでしょう?

DJ KENTARO:ハイ。

DJケンタロウから見て、最近の日本のシーンって言うのはどういう風に見える?

DJ KENTARO:日本のシーン......けど、クラブ風営法とかっていう面ではいろいろ。例えば、オレも京都の〈WORLD〉で演ってるときに中止になったりとか。まぁ、ニューヨークで演ってるときもあったんですけど。

最近ね。ようやくそれがおおやけで文字になって、クラブ風営法に関する疑問っていうのは。

DJ KENTARO:法律っていうか。

『エレキング』のサイトにも載せたら、スゴく反響があって。あと、ちょっと前にね、朝日新聞の方にも載ったらしいね(朝日新聞2012年5月16日水曜日・朝刊・文化面|https://bit.ly/L4G2N2

DJ KENTARO:ほぇぇ。

何で日本では踊ると違法になるのか? っていう(苦笑)。

DJ KENTARO:これ面白いですね。「踊ると違法」っていう。バーだったらいい。バー営業だったらOK。

変な話、そもそも先進国で、ナイトクラビングがない国があるとしたら、おかしいでしょう? ファシズムかっていう。

DJ KENTARO:たしかにたしかに。ないですもんね、他には。そんな国。

現代の民主主義国家の都市として、ホントどっかに欠陥があるとしか思えないっていうね。オレ、昔、調べたことがあって、第2次大戦後のダンスホールが、売春斡旋を兼ねてたのね。

DJ KENTARO:あぁ。(現在の「クラブ」とはイントネーションの違う)「クラブ」みたいな。

それを取り締まるために「ダンスホール」という言葉が使われてるんで。それを、変な話......クラブを潰すために利用することもできる。あと、やっぱほら、クラブに対するすごくネガティヴなイメージがあるじゃない?

DJ KENTARO:「ドラッグやったり、ケンカして、なんか悪いことやって......」って。ウン。

だいたいクラブがなくてもドラッグの問題はあるからね。

DJ KENTARO:まぁ、夜の水商売ですから。結局クラブって。水商売、だけど、「やってることは音楽ですよ」っていうのは言いたいし。

ウン

DJ KENTARO:なにが原因なんですかね。ホント、オレ、よくわかんない。

ヒドい話ですよね。でも、さすがにこういう風に表立って議論されるようになった分だけ。

DJ KENTARO:マシっていうか。

イイかなと思って。少なくとも、クラブという場所自体は悪いことしてるわけじゃないから。文化を作ってるわけだから。

DJ KENTARO:うん。むしろ。

アートだからね(笑)!

DJ KENTARO:そうっすね。福岡の〈CLUB O/D〉もヤラれたらしくて。

そうそうそう。そういう意味では、いま、ダンス・ミュージックのアルバムを出すっていうのは、また別の、良い意味で前向きな意味もあって。

DJ KENTARO:そうですね。今回、そういう復興ソングみたいなものも、あえて入れなかったんですよ。世界から出すっていうのもあるし。全体的なメッセージを受け取って欲しいっていうのもあるし。そういう意味では、ダンス・アルバムとして、後はターンテーブリストとして、っていうか。オレもプロデューサーとDJ両方とも、二足の草鞋なんで。上手く落とし込みたいなっていう狙いは一応あって。

僕はもうここ数年、クラブにはあんま行ってないんだけど、たまに耳にするのは、人によっては、日本のクラブのエネルギーがね、海外に比べると下がってるんじゃないか? っていう。クラブ・カルチャー、下火なんじゃないかと。それはやっぱり感じますか?

DJ KENTARO:......どうなんすかね。オレ......例えば、ハウスってこと? テクノってことですか?

イヤ、全体的に。クラブ・ミュージックっていうことで。

DJ KENTARO:たしかに地方は、仙台の話すると、動員数は少なく。

まぁぁ、仙台は、さすがにしょうがないかなっていう気もするけどね。

DJ KENTARO:まぁ、そうっすね。けど、地方はどこもそういう感じがしますね。福岡とかもそうだし。京都とかでもクラナカさんとかも言うし。大阪はなおさらだし。東京もね。そんなにメチャクチャ入ってるってわけじゃないし。だから、まぁ、そういうのを深く考えると、こう、危機感を持たないとなって。そ東京のクラブ、それこそ〈HARLEM〉だ〈Asia〉だって、それも無くなりはじめたらとんでもない。そこまでいって動き出すっていうのはないけど。まぁ、そこまでなったら、さすがヤバいですね。〈Asia〉閉まって、〈ageHa〉閉まって、〈VISION〉(SOUND MUSEUM VISION)閉まってまでは......なんないですけど。もし、なったら。

DJブース越しのお客さんは、昔のほうがハジけてる感じがする? 

DJ KENTARO:あぁぁ......最近......こないだ岡山(岡山YEBISU YA PRO |2012年5月5日)でやったときはクソ盛り上がりました。アンコール3回ぐらい来て。

やっぱり場所によっては、ぜんぜんエネルギーがあるんだね。僕もたまに行くとそのクラブの熱さを感じて燃えることがあるよ(笑)。

DJ KENTARO:〈ageHa〉であった〈Sonar〉(SonarSound Tokyo|2012年4月21日、22日)とかどうだったんすかね。オレ行かなかったけど。

スゴい盛り上がっていたよ。3千人以上入ったっていうし。

DJ KENTARO:ね? 人もメチャクチャ入ったって。

そうなんだよね。クラブが元気ないっていう人もいるけど、ディミトリ・フロム・パリスとDJヘルで2千人近く入るとか、僕の時代では考えられない動員だから、そういう意味では盛り上がっているんだなーとは思う。〈Sonar〉なんか、アレだけ新しいメンツで盛り上がったんだから大したものじゃない? ラスティであんなに人が踊るとは思わなかったもん。

DJ KENTARO:あ、ホントすか。へぇぇ、ラスティ、ラスティ、ヤバいな。

音がちょっとね......DJはハドソン・モホークのほうが良かったですけどね。ああ、DJケンタロウの新作は、ラスティのアルバム(『Glass Swards』)とちょっと似てる感じもしましたね。

DJ KENTARO:あ、けど、それ、言われましたね。オレもラスティの音好きだし。彼と一緒にライヴも演ったし。ただ、彼、DJヘッタクソなんすよ。ライヴは上手いんだけど。

はははは(笑)。でもさ、ダブステップの人ってさ、DJ......オレもラマダンマンっているじゃないですか? ポスト・ダブステップのラマダンマンって知らない?

DJ KENTARO:いや、わかんないっす。

昨年末、日本に来たときに聴きに行ったんだけど、4つかけているんですよ。でもさ、ダブステップで4つ打ち掛けても、それって、テクノでやってるヤツらに敵わないから(笑)。ずーっとミニマルとか回してるヤツらに。だから、トラックは面白いんだけど、DJはまだまだかなとかって思ったりしたこともある。

DJ KENTARO:そうですね、たしかに。だってラスティとかもメチャクチャ若いですよね。まだ22~3歳でしょ、たぶん。

そうだねぇ。でも、あの情報量っていうかさ。1曲のなかにそれこそレイヴもあって、ダブステップもあって、グライムもあるような感じは、今回のDJ ケンタロウのアルバムと似てるというか。情報量の多さ、その圧縮した感じというか。

DJ KENTARO:ラスティ......マッドリブもそうだけど。マッドリブもDJ全然ダメで、昔、〈フジ・ロック〉で演ったときとか酷かったもん。自分で謝ってたもん。「ソーリー」って(笑)。

だったらイイじゃん(笑)

DJ KENTARO:そうそう(笑)。いや、でも、ピーナッツ・バターウルフに怒られてましたよ(笑)。「そんなこと言うな!」って。

ハハハハ! ケンタロウのアルバムは、カラーリングが絶対......いろんな色になりますよね。

DJ KENTARO:そうですね。けど、一応、「まとまりはついたかな」っていう気はしてます。前回と違って、マスタリング・エンジニアも今回超良くて。ケヴィンってヤツがイイ腕してて。

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オレはCDJ使わなかったけど、パソコンでセラートっていうのが生まれて。「自分の作った曲すぐ掛けれんじゃん」っていうので、オレも導入して。で、いつしか割合が、じょじょにデジタル増えて。


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さっき言ってた、自分の出発点というか、自分の出自であるコスリというかね、スクラッチを後半のクライマックスに持ってきてるわけだけど。DJ ケンタロウがどこらやって来たのかって言うと、いわゆる「DJバトル」って言われるシーンだから。

DJ KENTARO:そうですね、一般的に。

で、その「DJバトル」が日本でもすごく注目されて、みんなが夢中になったのって、1990年代末から2000年代頭......。

DJ KENTARO:そうですね。2003年、2004年ぐらいまでかなぁ。

......ぐらいまでで。そこからほんのわずか10年も経っていないにもかかわらず、エクイップメントであるとか、DJカルチャーを巡るツールが激変したでしょ。

DJ KENTARO:進化しまくってますね。

そのことに関してはどういう風に思いますか?

DJ KENTARO:まぁ、アナログ......をやって〈DMC〉とかも勝ったし。例えば、自分のオリジナル・ブレイクスも作って。っていう時点から、ちょっとずつ変わってきたっていうか。元々は売ってるランD.M.C.でも何でも、レコードに入ってる溝の範囲内でやってるからカッコイイって美学があったじゃないですか? そういうのでずっとDJバトルがあって。そのうちオリジナル・ブレイクスっていう概念が生まれて。自分でレコード・プレスする。その時点で、もうワックだなんだっていう話は出てきてたんですよ。「自分で逆算して作れちゃうじゃん」って。例えば、リズム・パターンも自分で決めて、作りたいルーティン、逆算してできちゃう、と。「そんなのワックだ」っていうのも初期からあったんすよ。だから、売り物のレコードだけでやんないと面白くないみたいな。
 だけど、だんだんそれ(オリジナル・ブレイクスありき)が主流に、主流まではいかないけど、オレも自分でオリジナル(・ブレイクス)出して優勝したし。それが過ぎて、今度はデジタル。オレはCDJ使わなかったけど、パソコンでセラート[Serato]っていうのが生まれて。「自分の作った曲すぐ掛けれんじゃん」っていうので、オレも導入して。で、いつしか割合が、じょじょにデジタル増えて、アナログがだんだん、3割、2割、とかなってきて。いまはもう数枚しか現場に持って行かない状況なんすよ。やっぱりオレも海外とか行くと、ロスト・バゲージとか細かい問題があったりして。レコード無くなるし。

重たいの運ぶから、最近は金取られるしね。

DJ KENTARO:金取られるし。10万とかかかる。「ギャラ全部なくなっちゃうよ」とか、いろいろ事情があるから。だから、海外はどうしてもセラートで。クラッシュさんもいまセラートで演ってるけど。ムロさん[DJ MURO]でさえ、海外は7インチ・セットでしか行かないと。やっぱりそれも......。

そこで7インチ・セットで行くところが、またイイね。

DJ KENTARO:カッコイイっすよね(笑)。だから、それをムロさんはアナログでしっかりやってる。あと、仙台のGAGLEのミツさん(DJ MITSU THE BEATS)も、ミウラさん[DJ Mu-R]もアナログで演ってたり。オレも少なからず、そこは感じてて。けど、オレはアナログ、いまでも家に。5000枚ぐらいあって。かなり売っちゃったんですけど、けど、それはもうプロモとか、ハッキリ言って要らないレコードで(苦笑)。オレの買ってきたレコードとかお気に入りは5000枚ぐらい家にあって。そういうアナログ・セットの、3時間、4時間っていうロングセットを、その棚ごと持って来て、今年どっかで演りたいなっていうのがあって。まぁ、漠然とですけど。そういうアナログ・セットをコンセプト的に演りたいなっていうのがあって。やっぱり、オレも、デジタルになると、もちろん便利だけど、溝飛ばすとか、もともと入ってる曲のアレとかっていうのが楽しかったのになぁ、とかって正直考えたりしてるし。

デリック・メイなんかは、もうDJと呼ばれている職業の......

DJ KENTARO:デリック・メイ。

そう、テクノの。彼がミックスCDを自分が出す理由は、そのDJという職業がもういなくなってしまうから、その記録として、オレは(ミックスCDを)出すって言っているんだけどさ。

DJ KENTARO:なるほどぉ。

DJケンタロウやクラッシュさんの時代だったら、すごく練習するわけじゃない。

DJ KENTARO:そうですね。ターンテーブリストたちとか、大会に出るDJとかは。

まずピッチを合わせる。「どうやったらピッチが合うんだ?」っていうところからはじまって。どうしたら上手く、カッコ良くミキシングができるのかとか。あと、バトル系なわけだからさ、当然、その速さであるとかね。リズム感であるとか。

DJ KENTARO:ジャグリングとか、そうですからね。

トレーニング、努力しなければできなかったことがさ、もう努力しなくてもできるようになっちゃったじゃない。

DJ KENTARO:スポーツ。〈DMC〉とか、スポーツとかって言われますからね。言われないですか? スポーツっぽいって。

スポーツ。アハハハ(笑)。スポーツっていうのはアートじゃないですか。

DJ KENTARO:まぁ、そうですよね。動き早いし、結構忙しいし。それがいまやボタンひとつだからね。

だから、なんかこう、思いがあるんじゃないですか? ターンテーブリストとして。いまのパソコンDJに対して。要はピッチはボタン、ポーンとかっていう新しく出てきた世代に。あまりにも便利になってしまって。

DJ KENTARO:そうですね......で、いまの若いコ、ターンテーブル、触ったこと無いっていうコ、いるんだなぁと思って(苦笑)。

けっこういる。

DJ KENTARO:けっこういるんですよね。「あ、いるんだ」って目の当たりにしたときに、「え、ピッチコントローラー、スゴォい」みたいな感じで(笑)。喜んでるコがいて。

一同:(笑)

DJ KENTARO:「そうなんだ!」って。

だって、DJ ケンタロウって、ハッキリ言って、まだ若いよね。

DJ KENTARO:30歳ですよ、一応。けど、まぁ......。

ぜんぜん若いよ! 

DJ KENTARO:ハハハハ。

時代の速度、速すぎない? 自分が歳を取っただけ?

DJ KENTARO:けど、正直オレもアナログからデジタルに移行してきたっていう流れもあって。セラートとトラクター(TRAKTOR)両方持ってるし。いまはセラート使ってやってて。オレもいま、デジタルの恩恵っていうのは受けてDJ演ってる。取り敢えず海外でツアーできて、自分の曲もすぐ掛けれて。例えば、「あ、今日はレゲエっぽいのいこう」、「今日はテクノ掛けてみよう」とかってパッとプレイリスト作ったり。ある意味、その場で〈ビートポート〉で買ったり。もうイヴェントの1時間前まで仕込めるわけですよ。だから、そういう便利さっていうのはあったけど。
 いままでは、持ってきたレコードのなかでどうにかストーリーを作るっていう制限があったから、逆に、オレっぽさが出ててたのかなぁっていうのも考えたんですよ。オレが買ってきたレコードしかないから、オレっぽさが出てた......とか、まぁ、だから、どっちがイイかわかんないっすけど。デジタルDJになってきてて、ピッチなんか合わせなくても、「ハイ、SYNCボタン。これだけ」みたいなっていうのは、そのうち、そこに人がいなくなるだろうな。それこそ遠隔操作でイイっていうか(苦笑)。ミックスCD掛けて終わりみたいな。そんなんなったらもうDJとかじゃないですけど。(改めて)たしかにそうっすわ......そう考えてみれば、DJって今後どうなっていくんだろう。あんま考えたたことねぇわ。

スタッフ:DJミキサー自体はもうWi-Fiの機能が積んであって。パソコン画面も付いて、要は、Wi-Fiでミキサー上からデータにアクセスにしにいくから、もうパソコンも要らなくなるように、いま......

DJ KENTARO:ミキサーだけってこと?

スタッフ:ミキサー内で全部完結できるようにしてるって言ってた。Wi-Fiを積んでデータにアクセスする。要は、手ぶらでクラブに行って、「あ、付いてる? じゃぁ......」って言って、ケンタロウの家のサーバにアクセスして、データから呼び出して。やっていくっていうところをいま(エンジニアは目指してる)。第2の......っていうか、この先はそこらしいですよ。

DJ KENTARO:だから〈ドロップボックス〉(Dropbox)にアクセスして。

スタッフ:そうそう。そういうこと。クラウド上にアクセスしにいくミキサー。もうパソコンだよね。

DJ KENTARO:やっべぇ......。

ケンタロウは、早熟だったから、デビューが若すぎたね。同世代のさ、友だちとかね。それこそアナログなんて、ほとんど聴いてないだろうし。

DJ KENTARO:アナログを? え? 同世代で? あ、DJ以外か。それはもう、そうですね。アナログっていうのはDJしか持ってないものだったんで。アナログ・フォーマットで音楽リスナーって、たぶんいないと思いますね。

いないよね。もうね。

DJ KENTARO:DJしか聴いてないと思います。

だからさ......ケンタロウがまだ30歳ってところが素晴らしいよね(笑)! 20歳で世界デビューですからね。

DJ KENTARO:そうっすかね。もう10年経った感じはあって。オレも世界チャンピオン(2002年・DMC世界チャンピオン)っていうのはイイけど、もうそろそろ10年経ったし、その肩書きをずっと引っ張る必要はないのかなって。

でも、やっぱり、正直言って、クラブ・カルチャーを知らないコたちは気の毒だなって思うこともあって。ロックしか知らないコたちってのはホント可哀想でさ。

DJ KENTARO:あぁ。

いちどクラブ文化を好きになった立場からすると、なんでそんなにスターを崇めながらって思ってしまうんだよね。クラブ・カルチャーっていうのはさ、自分たちが楽しむものじゃない。

DJ KENTARO:ホントっすね。主役はお客さんですからね。

欧米でクラブ・カルチャーが、新しい世代によってスゴく盛り返してきたでしょ。デジタル環境の普及、ソーシャル・ネットワークの普及と比例して、クラブが盛り上がっている。それってよくわかる話だよね。当たり前だけど、やっぱ身体性が欲しいんだよね。

DJ KENTARO:(満足できない)からライヴに来る。それはイイことっすよね。

スタッフ:僕、最近、SNSをピタっと止めたんですよ。そうしたら「アイツ生きてる?」ってウワサが(笑)。

まあ、たしかにSNSが果たしている役割は大きいけど、そこだけに依存しちゃうのは怖いね。

スタッフ:人とのコミュニケーションが、SNS基準になってて。

DJ KENTARO:でも、その感じ、オレにもわかる、わかるよ。オレもそうなる。そこだけになっちゃってて。とくに若い世代はそうですよ。20歳代はみんな(SNSが音信不通になったら)「え? 大丈夫??」みたいな。

そこで認識し合ってるんだね。

DJ KENTARO:ウチらの世代は、まだマシだよ。逆に言うと、どっかで誰かがFacebookにオレの写真を上げてくれてれば、「あー元気なんだな」ぐらいの。けど、20歳代、オレの妹とかの世代は、FacebookとかTwitterとかやってないと「大丈夫? 生きてる?」みたいな。

昔はね、それこそ、行きつけの飲み屋に顔出さないと「アイツ、生きてる?」みたいなね。電話に出ないとかね。

スタッフ:レコ屋で出会う人とかいましたからね。

そうそう。「アイツ、最近、レコード屋に来ないな」とかね。そういう意味では、クラブは音楽が好きな人にとって砦みたいなところがあるよね。ミレニアルズがクラブに走るのは、すごく理にかなっているよ。

DJ KENTARO:でも、そのいっぽうで......〈コーチェラ〉(Coachella Valley Music and Arts Annual Festival)で、2パックのホログラム、見ました? あれとかもね......コンセプトとかあったんだろうけど。2パック蘇らせて、横にスヌープ(・ドッグ)と(ドクター・)ドレーがいてみたいな。2パックがホログラムでライヴしたんですけど。「えぇぇ...」みたいな。

へー!

DJ KENTARO:だから、そのうちビギー(ノトーリアス・B.I.G.)とかもライヴやるんだろうなみたいな。

ハハハハ(笑)。死人だらけのフェスみたいな。

DJ KENTARO:ジミ・ヘンドリックスが出てきたり。ニルヴァーナのカート・コバーンが出てきたり。

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オレもいま、デジタルの恩恵っていうのは受けてDJ演ってる。取り敢えず海外でツアーできて、自分の曲もすぐ掛けれて。例えば、「あ、今日はレゲエっぽいのいこう」、「今日はテクノ掛けてみよう」とかってパッとプレイリスト作ったり。ある意味、その場で〈ビートポート〉で買ったり。もうイヴェントの1時間前まで仕込めるわけですよ。だから、そういう便利さっていうのはあったけど。


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はははは。ところでさ、DJ KENTAROみたいな人とかさ、クラッシュさんみたいな人、あるいはゴス・トラッドとかさ、日本人のDJっていうのは、海外と日本を往復しているわけだよね。その落差みたいなものをより......なかなか僕も最近海外に出る機会がなくなっちゃったんだけど。昔、1990年代は、そういう落差ってあんまり感じなかったんだけど。

DJ KENTARO:どういう落差ですか?

いや、もう文化的な。ユース・カルチャーのあり方の。欧米との格差みたいなもの。いまの日本のポップ音楽は90年代よりも内部に閉じている感じでしょう。内需も大切だけど、どんどん国際化していってる外国とは逆行しているというか。

DJ KENTARO:あぁ、ありますね。それに、やっぱり、クラブに関して言えば、向こうって、逆に、夜の選択肢が少ないっていうか。飲み屋とか無いし。クラブでしか酒飲めないから。みんな来るんですよ、クラブに。オヤジからオバちゃんから、若者はもちろん。
 何でかって言うと、酒飲みたいときに、バーが空いてるところもあるけど、バーは午前1時に閉まる。1時以降飲みたい時はクラブに行くしか無い。けど、日本って選択肢があって。飲み屋、カラオケ、ボーリング、クラブって。クラブなんて選択肢の1個に過ぎなくて。いくらでも酒飲んだり遊んだりできるから、けど、法律の関係もあって、向こうではクラブでしか酒が飲めないから。やっぱりいつでも来るんすよね。
 で、社交場にもなってて。みんなとくにその日のゲストに興味が無いから。取り敢えず飲んで。「あ、なんか演ってんな」、「お! いまの曲カッケェ」ぐらいで。けど、それで良いと思うんですよ、クラブって。で、(出演者側も)だんだん新しいファンをキャッチしたりとか。お客がいちばん楽しんでるっていう状況が目に見えるっていうか。オレの方、別に見てないヤツもいるし。フロアの真んなか見て踊ってる。それこそ自分が楽しんでる状況。日本はもう少し音楽的に真摯だから、やっぱりステージしっかり見て、ちゃんと聴いてる。それの良いところもあると思うんですけど。真摯過ぎて「ウァァァ」って感じにならない。

やっぱり、日本人ってコミュニケーション下手じゃない。外国の人に比べて圧倒的に。

DJ KENTARO:まぁ、英語を喋れないですからね。

コミュニケーション能力っていうかさ。苦手だし。だから、どっちかって言うと人と会うよりはさ。

DJ KENTARO:家でパソコンしてるほうが。

自分のベッドの上でパソコンしてるほうが楽だとは思うんだよ、たしかに(笑)。僕も若い頃は、電話出るのも抵抗あった人間だったから。でも、人間っていうのは、当然、ひとりでは生きていけないものであって。

DJ KENTARO:そういう集いの場みたいな。

そうそう。だからなおさら、クラブ・カルチャーに頑張ってもらいたいなっていう気がしてね。今回のアルバムっていうのは、日本がもしいま、欧米みたいにすっごくダンスが盛り上がってたら、違った内容になってたかもしれないよね。それはない?

DJ KENTARO:そう、ですね。けど、一応、このアルバムを〈ニンジャ・チューン〉、UKから出すっていうことは、やっぱり意識しました。日本語の曲も、ホントは「入れないでくれ」っていう風に言われて。

あぁ、そうなんだ。

DJ KENTARO:向こうも「日本語の曲出してもしょうがない。意味ないから」っていうのもあって。ファースト(『ENTER』)でもあったんですけど、今回も「1曲だけは入れさせてくれ」って言って。「わかった」って。だから、この曲("FIRE IS ON")っていうのは外人は皆飛ばすコーナーだ、と......ってぐらい言ってくるんですよ、やっぱり。

厳しいねぇ(笑)。

DJ KENTARO:「日本語の曲なんか入れるくらいなら、女ヴォーカル入れてよ」みたいな。「英語のヴォーカル入れようよ」みたいな。

けど、日本語の曲を入れたかったっていうのは、やっぱり日本人に聴いてもらいたかったっていうことだよね。

DJ KENTARO:そうですそうです、はい。だから、これ、日本先行で出てるのもあるんですけど、日本人の人もにも聴いて欲しいっていうのはデカいし。もちろん、これはイギリスでもアメリカでも流れるし。やっぱり、クラッシュさんの曲とかファイヤー・ボールの曲とか、日本の人に聞いて欲しいし。

ファイヤー・ボール。有名な横浜のダンスホール・クルーじゃないですか。

DJ KENTARO:そうっすね。

これは意外な感じがしたんだけど。

DJ KENTARO:あ、ホントですか。

いや、僕が単に勉強不足なのかもしれないけど。変な話、DJクラッシュとファイヤー・ボールが一緒に演るっていうことは、あんまり無いでしょう?

DJ KENTARO:たしかに。同じアルバムに、っていうのは。

それはどういう狙いがあったんですか?

DJ KENTARO:やっぱり〈レゲエ祭〉(横浜レゲエ祭)とかも出させてもらったり。ファイヤー・ボールのアルバムとか、DVD(『FB THE MUSIC VIDEO』)のDVJスクラッチ・リミックスみたいなのやったり。一応、仲良くさせてもらってて。

あぁ、そうなんだ。でも、前からレゲエとかもやってるもんね。

DJ KENTARO:で、マイティ・クラウンとかとも仲良くさせてもらってて。彼らの音楽も好きだし。オレ、メンバーのチョーゼン・リーさんのアレンジとかもやってて。その流れで「オレの曲にも参加してくださいよ」「あ、イイよイイよ」ってなって。で、今回アルバムのタイミングでやったんで。オレがやりたかったことがやっとできた。〈ニンジャ・チューン〉のアルバムに入れたっていうこともすごい意義深いし。日本語の曲なのに〈ニンジャ・チューン〉、UKから出して、欧米でも売られてっていうのもありますね。

シーンが細分化してるじゃない? そこをクロスオーヴァーさせたいっていう意図はあったの?

DJ KENTARO:ありましたね。来月演るイヴェント(BASSCAMP 2012| 2012年6月30日)もなんですけど、ベース・ミュージックがテーマなんですけど、ハウスのDJの女のコとか、ドラムンベースのアキさん、マコトさんみたいな第一線でやってる人、クラッシュさん、オレ、マイティ・クラウン、ファイヤー・ボールとか、みんな。ぜんぜん違うシーンの人たちが集まって。バトルっぽくもしたいんですけど、バトルっていうのもポジティヴな感じ。みんな刺激しあって、「すげぇカッコイイじゃないっすか」みたいなことが、お互い生まれて。いま、日本だけじゃなくて、世界中、スゴい細分化して戦いの場に立たされてるっていうか。どこもそうなんすけど、いろんなジャンル。イギリスとフランスの関係......わかんないけど、すっごいヒドいらしいし......。

ハハハ(笑)。でも、イギリスもさ、広い音楽業界っていうレヴェルで見ると、いまは細分化じゃなくて、むしろ混合っていうか、交じり合ってて。エラいなぁって思うのは、多少センスは悪かったかもしれないけど、レディオヘッドみたいな、ああいう大物、スタジアム・ロック・バンドが、あんなマイナーな人たちにリミックスさせたりとか。ビョークは、まぁ昔からやってるけど。

DJ KENTARO:ですよね。

J-POPの誰かがケンタロウやゴス・トラッドやオリーブ・オイルにリミックスを頼むなんてことはないわけでしょう。イギリスは、口悪いわりに、そこの所はしっかりしてる(笑)

DJ KENTARO:口は悪いっすよぉ......超上から目線(苦笑)。

上から目線(笑)! メチャクチャ上から目線だよね(笑)。でも、オレね、イギリス人で「スゲェなぁ」って思うところはね、自分たちの文化に誇りを持ってるでしょ。それはスゴいと思う。

DJ KENTARO:ビートルズって言われたらかなわないっすよ(笑)。

そうなんだよね。それはもう、ホントに悔しくてさ(笑)。

DJ KENTARO:だから、まぁ......しょうがない(笑)。

しょうがない(笑)。

DJ KENTARO:スイマセーンって感じで(笑)。

でも、ケンタロウとかさ、ゴス・トラッドもそうだし、最近はまた日本からも出てるじゃないですか、少ないとはいえ。インターナショナルな舞台へ。

DJ KENTARO:ま、一応、頑張ってはいる。でも、差別野郎はいますよ。それはいますよ、向こうにいっぱい。会った瞬間、「ジャップか」みたいな。税関でもそうだし、イミグレ(ーション)。で、Oビザ見せた途端に「お、人間国宝ぉ」とかって。コロッと態度変えるんですよ、ビザ見せた途端に。「なんだ、お前、そんな言葉知ってんの?」って。

なるほどね。わかりました。じゃぁ、そんな感じで。ありがとうございました。

※6/30(土)アルバム・リリース・パーティ「NIXON presents BASSCAMP 2012」が開催!!
アルバム参加面子をはじめ、DJケンタロウと共鳴しあう強力なゲスト・ラインアップに加え、メインステージ を演出する壮大なLEDショウと共に伝説の一夜を作り上げる!

NIXON presentsBASSCAMP 2012
2012.06.30(土)@新木場ageHa
OPEN 22:00 ADV ¥3,300 / DOOR ¥4,000
TICKET IS NOW ON SALE! >>> https://bit.ly/Kmz88Y
詳細はコチラ!>>>https://www.beatink.com/Labels/Ninja-Tune/DJ-KENTARO/topics/120620.html

翌7/1(日)には大阪Jouleでも開催!!>>>https://club-joule.jp/venue/flyer/107064



Chart by JET SET 2012.06.25 - ele-king

Shop Chart


1

Hikaru - High Psy - Limited Edition (Modulor Japan)
Hikaru初のオフィシャル・ミックスが到着。沖縄弁で【こんにちわ】を意味する【ハイサイ】を英語でモジり『high psy』と冠した本作。夏を心地よく彩るゆるーいミックスを収録。

2

Dump - Nyc Tonight (Presspop Music / Zelone)
Jennifer O'connorとのスプリット7"シングル以来、約4年ぶりとなるDumpの新作が登場!N.Y.パンク名曲"Nyc Tonight"をメロウ・ディスコ・アレンジで蘇らせた、インディー・ロック~ニュー・ディスコ・ファン必聴の1枚です。

3

Slow Motion Replay Presents Dunk Shot Brothers - Love Celebration (Smr)
先日リリースされたOnur Engin"Love Talkin"が大ヒットを記録するなど、和モノ音源のリエディットが逆輸入されて盛り上がりをみせる中、ここ日本からも危険な12インチ・シングルが登場しました!

4

Simi Lab - Uncommon (Summit)
デビュー作『Page 1 : Anatomy Of Insane』から待望のアナログ12"シングルが登場。

5

Freddie Gibbs & Madlib - Shame (Madlib Invazion)
今年秋頃にニュー・アルバムを控えているFreddie GibbsとMadlibのタッグ。前作でも見られたソウル~ジャズをサンプリングした一味も二味も違うダスティーなビートと、タイトなラッピンが絡んだ傑作です!

6

Lorn - Ask The Dust (Ninja Tune)
Flying Lotusフックアップのエレクトロ・ヒップホップ精鋭がNinjaからアルバム・リリース!!ご存じBrainfeederからのリリースでブレイクを果たしたイリノイのトラックメイカーLornが'10年の『Nothing Else』以来となる3rd.アルバムを完成。メランコリックな電気ビーツが満載です!!

7

Killer-bong - Sax Blue (Black Smoker)
Black Smokerから遂にKiller-BongによるジャズをテーマとしたミックスCdが登場!

8

Ig Culture - Soulful Shanghai (Kindred Spirits)
前作『Zen Badizm』より約4年振りとなるロンドンのクリエイター=Ig Cultureの新作は、10数名ものタレントを迎えたヒップホップ~ブレイクビーツ~レアグルーブなどの黒い要素が滲み出た全17曲! 感服です!

9

V.a. - The Silk Road (Melting Bot / 100% Silk)
ItalやMagic Touch、Maria Minervaなどヒット連発する'12年インディ・ダンス最重要レーベルの初コンピレーション盤。さらに初回入荷分にはOcto Octaによるレーベル・サンプラーMix Cdが付きます!

10

Para One - Passion (Marble / Because)
フレンチ・エレクトロ・ムーヴメントの顔役Para Oneが実に6年振りに完成させた待望の2nd.アルバム。

Back to Chill - ele-king

 ゴス・トラッドの『ニュー・エポック』、欧米ではかなり好意的に受け取られているようで、もうすぐ本サイトでupされるボーニンゲン(ロンドン在住の現地で評判となっている日本人バンド)のインタヴューでもさんざん語られているのだが、どうやら「トーキョーに行ったら〈バック・トゥ・チル〉を体験したい!」がロンドンのディープ・リスナーの合い言葉になっているようだ。
 さて、アメリカ・ツアーを終えたばりのゴス・トラッドも2ヶ月ぶりのホームとなる。今月の〈バック・トゥ・チル〉は7月5日、思う存分にダブステップを経験してくれ!

DATE: 7月5日
TIME: 23:00 ~ LATE
PRICE: DOOR: 3000yen/1d WF and Girls: 2000yen/1d
[All Girls Before 24:00 → FREE!!! (500yen for a drink)]
ARTISTS: GOTH-TRAD, DJ 100mado, ENA, HEAVY1, DUBTRO, DJ メメ, π, yuitty, O-konogi, CITY1, DON, and more!
https://backtochill.com/

younGSoundsのアルバム「more than TV」
7月18日発売です!宜しくお願い致します。
https://1fct.net/archives/3744

percepto music lab
https://xxxpercepto.com/

ここ最近。2012年6月20日


1
キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者

2
OH NO - Ohnomate - FIVE DAY WEEKEND

3
THE GENTLEMEN - The Gentlemen - MR.BONGO

4
OWEN MARSHALL - The Naked Truth - JAZZMAN

5
櫻井響 - This One - self release

6
CE$ & SCRATCH NICE - Live Now, Pay Later - self release

7
BLAQ CZA - The Dice Life - WHATEVA MUZIK

8
YOTTU - Dance Or Chill/Slow Flow - self release

9
TRONICS - Love Backed By Force - WHAT'S YOUR RUPTURE?

10
DJ MAYAKU - EP - GOLDFISH

Sapphire Slows First US Tour Diary! - ele-king

昨年末ロサンジェルスの〈ノット・ノット・ファン〉から12インチ・シングルでインターナショナル・デビューを果たした東京在住のサファイア・スロウズ。彼女がele-king読者のために去る3月のツアー日記を書いてくれました。現在のUSインディの感じがそれとなく伝わると思います。それはどうぞ!!!


Sapphire Slows
True Breath

Not Not Fun

Amazon iTunes

 こんにちは。Sapphire Slowsです。

 今年の3月に初めてのUSツアーで、ロサンゼルスとサンフランシスコとテキサスのSXSWに二週間かけて行ってきたんですが、そのとき書いていた日記を読んでもらうことになりました。(恥ずかしいけど!)

 最初にアメリカに行くと決めたのは去年の10月くらいで、〈Not Not Fun〉のブリットからSXSWに誘われたのがきっかけです。アメリカでツアーするなんて最初は想像もできなかったけど、レーベルの人たちやアーティストのみんなに会いたい! という気持ちが強くて、何はともあれ行ってみることにしました。少し時間が経ってしまったけど、いろんなことがあって最高だったので、とにかく、この日記を読んで向こうのシーンについて少しでも知ってもらえればなぁと思います。


ようやく対面した〈100%Silk〉のアマンダは、会うまではものすごくぶっ飛んでるんじゃないかと思ってたけど、実際に会ってみると小さくて華奢で、ものすごくかわいらしかった。

3/5
ロサンゼルス初日

 朝8時、LAに到着。LAでは車がないと不便すぎるので、すぐに空港の近くでレンタカーを借りて、アメリカで使える携帯電話も購入。とりあえず〈Not Not Fun〉のアマンダとブリット、その他にも会う予定にしてたアーティストたちに連絡をいれて、ハリウッド近くのステイ先にチェックイン。ランチを食べたあとは、LAで絶対行こうと思ってたWELTENBUERGERへ。ここはアマンダおすすめの服屋さんで、ヨーロッパやいろんな国のデザイナーの服やアクセサリーをおいてるセレクトショップ。二階建ての小さなお店だけど、本当にセンスがよくてとってもいい感じ。店内には〈100%Silk〉のレコードも置いてある。私はそこでピアスと黒いドレスを買って、そのあともショッピングや視察のために街中をブラブラ。

 夜はDUNESのライヴへ。他にも何組かやってたけどDUNESが一番よかったな。ギター/ヴォーカルはショートヘアの小さくて可愛い女の人、ベースは普通の男の人。そしてドラムの女の人の叩き方がエモーショナルで超よかった。そのあとは近くのビアバーで飲んで帰った。1日目は当たり前だけど見るものすべてがただおもしろくて新鮮でアメリカにきたなーという気分を始終満喫。ただの観光客。


DUNESのライヴ

3/6
ロサンゼルス2日目。 NNF & 〈100%Silk〉 Night @ Little Temple

 この日がアメリカで最初のライヴの日。というか正真正銘初めてのライヴ。ああとうとうきてしまったこの日がという感じで朝から緊張しまくりだったけど、夜まで時間があったのでPuro InstinctのPiperに会いにいった。Piperがたまに働いてるらしいヴィンテージのインテリアショップへ。彼女は女の子らしい感じだけどなんていうか強そうで、でもすごく優しくて、そしてとてもよくしゃべる。最近のPuroの話をいろいろしてくれた。いろんな人と共同作業しながら新しい音源を作っていて、次の音源は打ち込みっぽいこととか、もっと実験的な部分もあるのだとか。楽しみ!

 夜になって、「〈100%Silk〉 Night」の会場、Santa MonicaにあるLittle Templeへ。着いたらまだ誰もいなくて、どきどきしながら待っているとメガネで背の高い男の人がやってきて、「君、Sapphire Slows?」と話しかけてきた。誰だろうと思ったらLeechのブライアンだった。「僕も今日プレイするんだ、よろしくね!」「あ、よ、よろしく!」そのうちにみんなぞくぞくとやってきて会場に入る。行くまで知らなかったけど一階がライヴフロアで二階は〈dublab〉のオフィスと放送スタジオになっていた。すぐに〈dublab〉のDJでもあるSuzanne KraftのDiegoとSFV AcidのZaneがレコードをまわしはじめて、PAの用意ができるまでみんなでシャンパンをあけてわいわい。遊びにきてくれたPiperもすでにアガっている。なんだか素敵な部室みたい! そしてようやく対面した〈100%Silk〉のアマンダは、会うまではものすごくぶっ飛んでるんじゃないかと思ってたけど、実際に会ってみると小さくて華奢で、ものすごくかわいらしかった。「ハローキヌコ! やっと会えて本当に嬉しいわ!」私は皆に会えた感動でアワアワしつつ、「こ、これは夢じゃないぞ!」と自分を落ち着かせるのに必死......。


dublabのスタジオで。左からPuro InstinctのPiper, Austin, Suzanne KraftのDiego.

 この日、最初のアクトはソロアーティストのLeech。LeechといえばMiracles ClubのHoneyたちがやってる〈Ecstasy Records〉界隈の人だと思っていたけど、〈100%Silk〉ともしっかり繋がりがあったみたい。私の好みド直球の音で、最初からやられた。次のPharaohsは意外にフィジカルで、数台のアナログシンセやサックスなどを使って本格的に演奏していた。グルービー!転換の間はSuzanne KraftとSFV Acidが始終いい感じのDJをしてる。そしてやってきたLA Vampires、やばい! Amandaのダンスは神懸かっていて、音は最近のOcto Octaとのコラボレーションの影響もあるのか、過去のレコードと違ってかなりビートもしっかりした、ハイファイな感じ。

 私がライヴをしているあいだも、お客さんはあったかくて皆盛り上がってくれた。私はここに来るまでインターネットでしかフィードバックがなかったから、正直自分の音楽がちゃんと受け入れられるのか不安だったけど、たくさん反応があってなんだかすごくほっとした。ほっとしすぎて泣きそうになりながら二階で機材を片付けていると、SFV AcidのZaneがライヴよかったよと話しかけてくれた。そして色々話しているうちに「LAにいるあいだ暇があったらうちで一緒にレコーディングしよう!」という流れに。ワーイ。

 それからPeaking Lightsの後半半分くらいを見た。彼らはライヴに巨大なカセットデッキを使っていて、この日はいきなりテープが再生できなくなったり機材のトラブルも多かった。でもそれも含めアナログっぽさならではの良さがあってとても素敵だった。パーティが終わり、最高だった2日目も終了。


LA Vampires @ Little Temple

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家のなかは本とカセットとレコードだらけで、(Night Peopleのカセットが全部ある!)私が想像してた通り、というかそれ以上のセンスでまさに完璧な理想の家。全部の配置が、おしゃれなインテリアみたい! 

3/7
ロサンゼルス3日目。

 お昼過ぎにRoy St.のNNF Houseに遊びに行く。アマンダは出かけていて、ブリットが迎えてくれた。それからすぐLA Vampiresのニックも来てくれた。ブリットたちは去年の11月くらいに引っ越したばかりで、新しい家は本当に超かっこいい! 外の壁は全部紫っぽく塗ってあって、絵が描いてあったり、変な形の植物がいっぱいあったり。庭にはハンモック、納屋みたいな小さな離れはスタジオルームになってる。スタジオにはCasioのSK-1とかSK-5とか、おなじみの古いチープな楽器がいっぱい。家のなかは本とカセットとレコードだらけで、(Night Peopleのカセットが全部ある!)私が想像してた通り、というかそれ以上のセンスでまさに完璧な理想の家。全部の配置が、おしゃれなインテリアみたい! 家具も、アマンダの趣味の作りかけのジグゾーパズルも、ちょっとした置物も。将来こんなふうに生活したいよね......と誰に同意を求めるわけでもなく納得。かっこいいことしてるかっこいい人たちがかっこいい家に住んでてよかった。音と、人と、環境が、まったくズレてない。彼らのセンスを信じてて良かった。


Not Not Fun Houseの居間にてブリットと。


Not Not Fun Houseにて。壁にはカセットテープ。

 BrittとNickといろいろおしゃべりしたあと、お腹すいていたのでNNF Houseを後にし、Eagle Rockあたりにある、Brittに教えてもらったタイレストランへ。うまー。それからハリウッドの近くに戻り、Amoeba Musicっていう死ぬほどデカイ、あらゆるジャンルが置いてあるレコード屋さんに行った。90年前後のハウスのレコードを中心に掘ったけど、何時間あっても見きれない。そして古いレコードはほとんどが1枚2ドルで、クリアランスは99セント。安すぎるー。


レコードをディグる。

 夜は昨夜の約束通り、SFV AcidのZaneの家へ。待ち合わせ場所でZaneは絵を描きながら待ってた。彼はスケッチブックを持ち歩いていて、いつでもどこでも絵を描いてる。部屋にもそこら中に絵があって、どれもめちゃくちゃかっこよかった。彼にとって絵は音楽と同じくらいかそれ以上に大切なものなんだろうと思う。不思議で、ちょっと(だいぶ?)変で、でもちゃんと自分の考え方やこだわりを持ってて、そして何より本当は繊細なんだってことが、話してても作品を見ててもわかった。Zaneの家は地下がスタジオになっていたので、アナログシンセやTR-707、TR-909、TB-303などを使ってジャム! 声をサンプリングさせて、と言われて適当に歌ったりしてすごく楽しかった。



SFV Acidの自宅スタジオでセッション!

 そうしてるうちに誰かが家に帰ってきて、誰だろう? と思ったらなんと4ADのINC.のDanielとAndrewが来てた。ここが繋がってるとは思ってなかったのでびっくり。2階に住んでるらしい。ふたりは双子なので顔もそっくりで見分けがつかないくらいなんだけど、Danielが一瞬二階に上がって降りてくると「いま剃った!」とスキンヘッドになっていた。おかげで見分けがつくようになったよありがとう......。

 そのあとはしばらくみんなでダラダラ。INC.たちがご飯を作ってくれたので、お礼に煙草が好きらしいAndrewに日本のマルボロをあげたらすごく喜んでた。それから、僕も何かあげなきゃ、と渡されたのが大量のINC.のロゴ入りコンドーム。なんじゃこりゃ、と思ってよく見ると小さく<inc-safesex.com>のURLが。一体なんのサイトだろうとドキドキしながら、結局帰国してからアクセスしてみたんだけど......。それにしてもゴム作るってすごいセンス。余計好きになった! そんな感じで盛り上がっていると、Andrewが明日よかったら僕たちのスタジオにくる?と言ってくれて、次の日遊びに行くことに。

 そのあとはみんなでDown Townのクラブへ遊びに行った。そこは本当にLAでも最先端の若者たちが集まってるっていう感じで、みんなエッジーで本当におしゃれ、というか、垢抜けていてセクシーだった。この夜、私は楽しさと疲れで飲んでいるうちに緊張の糸が切れたのか、あまりに幸せすぎていきなり泣き出してしまった。みんなびっくりしてどうしたの!? と心配して慰めてくれたんだけど、こんなに素晴らしいアーティストたちがたくさんいて、みんな友だちで、っていうのはそのときの私には東京じゃ考えられないことで、心底うらやましかった。ずっとひとりで引きこもって音楽を作っていたし本当はすごく寂しかったっていうのもあると思う。だからアメリカにきて、あまりにもたくさんの素晴らしい人たちに出会えたことが夢みたいで、号泣しながら、日本に戻りたくない! と思った。

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彼はスケッチブックを持ち歩いていて、いつでもどこでも絵を描いてる。部屋にもそこら中に絵があって、どれもめちゃくちゃかっこよかった。彼にとって絵は音楽と同じくらいかそれ以上に大切なものなんだろうと思う。

3/8
ロサンゼルス4日目。Korallreven/Giraffage @ Echoplex

 この日はLAでふたつめのライヴ。その前にINC.のスタジオに遊びに行かせてもらった。家の地下にあったスタジオとは別の、かなりちゃんとしたINC.専用のプライヴェートスタジオ。わかんないけど、4ADに与えられてるのかなぁ?スタジオは広い倉庫みたいなところで、中は真っ白に塗ってあってとてもきれい。天井からは白い透けた布みたいなのがたくさんぶら下げられていて、彼らの美へのこだわりを感じた。メインの空間にはiMacと、生ピアノ、シンセ、ミキサー、数本のギターとベース、ドラムセットがあって、それとは別にクッションで防音してある小さな歌入れ用の部屋がある。(スタジオの写真は彼らのサイトで見れるよ! でもつい最近レコーディングが終わって引き払っちゃったみたい。)

 ふたりは今新しいアルバムの最後の作業中で、そのなかの何曲かを聴かせてもらった。INC.のアルバムなんてもう聴かなくても最高なのはわかってるけど、やっぱり最高だった。それからふたりは曲を作りはじめた。AndrewがMPCでドラムを打ち込んで、Danielはピアノをひいてる。ふたりはもともと、他のアーティストのライヴのサポートをするスタジオミュージシャン? のようなことをしていたらしく、とても演奏がうまい。私はふたりの生演奏をききながらぼーっとして、このまま死んでもいいなって感じだった。そのくらい素晴らしい空間で、素晴らしい音楽で、ふたりが美しくてかっこよすぎたから! そんな感じでしばらく音を聴かせてもらったり、いろいろしてるうちにライヴのリハに行かなくちゃいけない時間になった。名残惜しかったけど、AndrewとDanielに自分のレコードを渡して、お礼を言って、お別れ。


INC.のスタジオにて。左奥がAndrew、一番右にいるのがDaniel.左手前がリハーサル前に迎えにきてくれたPiperで、右奥に立ってるのはPiperの友だちのJosh.

 この日のライヴはKorallrevenやGiraffageと。同じくUSツアー中のKorallrevenは意外ながら〈Not Not Fun〉が好きらしく、私が彼らのオープニングをつとめさせてもらうことに。場所はEcho ParkというLAのインディーシーンの中心にある、Echoplexという結構大きめの箱だった。私はこの日のライヴ中、実はあまり体調がよくなくて、ダウナーで頭がフラフラになってたんだけど、友だちを連れて見にきてくれてたPiperやBritt, Nick, Zaneたちはみんな暖かく見守ってくれた。


Sapphire Slows LIVE @ Echoplex

 ライヴのあと、私が明日LAを経つから、ということでPiperたちがホテルの屋上のバーみたいなところに連れて行ってくれた。オープンルーフで開放的な中、音楽がガンガン鳴っていて、ダウンタウンが見下ろせる景色のいいところ。夜景がすごくきれいで。きっと彼らなりに、普段行かないような特別な場所に連れて行ってくれたんだと思う。Piperはずっとおしゃべりしてたし、PuroのバンドメンバーのAustinはずっとハイテンションで踊ってる。Zaneはここでもずっと絵を描いてた。みんな同い年くらいで友だちみたいに接してくれたからすごく楽しかったな。LAのシーンでは結構若い人が多かった。Puro Instinctも、SFV Acidも、Suzanne Kraftも、INC.も、みんな20代前半。みんなと離れるのは本当に寂しかったけど、またアメリカに来たら遊ぼうね! 日本にも来てね! と言ってバイバイ。


ホテルの屋上のバーで、Austin, Josh, Piper, 私, Zane。(左から)

3/9
サンフランシスコ初日。Donuts @ Public Works w/Magic Touch & Beautiful Swimmers

 ロサンゼルスからサンフランシスコへ移動の日。朝早く出発。フライトは一時間くらいで、すぐサンフランシスコに到着。空港まではMagic Touch/Mi AmiのDamonが迎えにきてくれた。Damonはツアーのことも助けてくれていたし、アメリカに行くずっと前から連絡を取り合って一緒に曲を作ったりもしていたので、やっと会えたって感じで嬉しい! サンフランシスコでは一緒に作った曲をプレイできるのも楽しみだった。

 この日の夜はDonutsというDamonの友だちのKat(DJ Pickpocket)がオーガナイズしてるパーティでライヴ。とりあえずDamonの家に荷物をおかせてもらったあと、タコスを食べに行った。サンフランシスコではほぼ毎日タコスだったような......そのあとBeautiful SwimmersのAndrewとAriと合流して、アイスクリームを食べたり、公園みたいなところで犬と遊んだりビールのみながら夕方までまったりと過ごす。サンフランシスコにいる間はずっとMagic Touch、Beautiful Swimmers、Katと一緒に遊んでた。

 17時くらいに一旦サウンドチェックへ。会場はPublic Worksという、壁いっぱいに派手な絵が描いてあって素敵なところ。この日のライヴはMagic Touchと私だけだったので、サウンドチェックとセッティングを終えてDamonの家に戻ると、オーガナイザーのKatと、テンション高めのAndre(Bobby Browser)が来てた。Andreは大量のパエリアとサラダを作ってくれて、すごくおいしかった! みんなで腹ごしらえをしたあと、疲れていた私はパーティのオープンまでちょっとだけ寝て、ライヴのため再びPublic Worksへ。ライヴはこのとき3回目だったけど、まだ緊張で頭がぼーっとしてる感じがあって、なかなか慣れない......。

 ライヴのあとは外でAndreと話して、その会話がすごく印象的だった。機材についてきかれたから、Macと、中古のMidiコントローラーと、ジャンクのキーボードと500円のリズムマシンしか使ってないの、というとびっくりしてた。Andre いわく、「音楽を作るっていうこととDJをするのは全然ちがうし、DJをやろうとする人は多いけど作ろうとする人はあんまりいない。お金と機材がないと作れないと思ってる人が多いし、持ってる奴らに限ってみんな『僕はJunoもMoogも808も、あれもこれもたくさん持ってるんだぜ!』って機材ばかり自慢する。じゃあ君の音楽はどうなの? ときくと『それはちょっと......』って、肝心の音楽は作ってなかったりしてね。でも君は少ない機材でもちゃんと自分らしい音楽を作ってるし、もしもっとお金と機材があったらもっとすごいことができるってことじゃん!」私はそんなふうに考えたことがなかったからすごく嬉しかったけど、なんだか照れくさくなってなんて言えばいいのかわからなかった。それでまた「でも、日本にはこんなに素敵なミュージシャン仲間たくさんいないからうらやましいよ」って言ってしまったんだけど、Andreが「僕はOaklandに住んでるけど同じ趣味の仲間たちとミーティングするときは10人もいなくて、多くて7、8人くらいかなぁ? OaklandはHIPHOPのシーンが盛んだからあんまり仲間がいないんだ」と言ってるのを聞いて、どこにいても同じなのかもしれないなぁと思った。

 私の次にはMagic Touchがライヴをして、そのときにDamonと一緒に作った曲もプレイした。初めてで慣れないけど、一緒にライヴをするのはすごく楽しかった。Beautiful SwimmersのDJもかなり最高で、みんなで踊りまくった。思っていたよりディスコっぽくなくて結構ハードな4つ打ちばかりだったのは、最近の彼らの趣味かも。

 同じPublic Worksでは別の階にある大きいフロアで同時に違うイヴェントをやってて、(スタッフのChrisいわく、Burning Manみたいなイヴェント)そっちにも少しだけ遊びに行った。変なコスプレをしたり、変な帽子をかぶったり、頭に角をつけてる人たちがたくさんいて、異常に盛り上がっていた。どのへんがBurning Manだったのかは謎だけど、たぶんあのコスプレみたいな人たちのことを言ってたんだろう......。

 そのあと疲れてきた私はうっかり、階段のところでうたた寝をしてしまった(ほんとに一瞬)。知らなかったけど、アメリカではクラブで寝るのはタブーらしく? いきなりガードマンのいかつい黒人さんたちが3人くらいやって来て引きずり出されてめちゃ怒られた(まじで怖かったー!)。みんな私が疲れてるのを知っててかばってくれたけど、最初なんで怒られてるのかわからず、え? 何も悪いことしてないよ! 状態でした。寝るだけであんなに怒られるとは......。そう、場所によるとは思うけど、アメリカと日本のクラブで違うなぁと思ったところはいくつかあって、「絶対に寝てはいけない(経験済み)」「お酒は2時までしか飲めない」「イヴェント自体もだいたい朝4時までには終わる」「室内は絶対禁煙」っていう感じだったな。

 イヴェントが終わったあとみんなで歩いて帰って、朝7時頃に違うパーティでBeautiful SwimmersのDJがあったけど私は起きられなくてそのまま寝ちゃった。みんなが帰ってきたのは朝9時くらい!

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こんなに素晴らしいアーティストたちがたくさんいて、みんな友だちで、っていうのはそのときの私には東京じゃ考えられないことで、心底うらやましかった。ずっとひとりで引きこもって音楽を作っていたし本当はすごく寂しかったっていうのもあると思う。

3/10
サンフランシスコ2日目。

 みんな帰りが遅かったので、昼すぎまで寝てる。昼ごはんはタコス。とはいえもう夕方だったけど。そのあとはみんなでドライヴ。「どっか行きたいとこある?」と言われて、ほんとは服とかも見たかったんだけど、Magic TouchとBeautiful Swimmersに女の子の買い物付き合わせるのもなぁ、と思って大人しくレコード屋に行きたいと言う。ということで、サンフランシスコで一番有名な通りらしいHaight Streetを通って(通っただけ)、Amoeba Musicサンフランシスコ店へ。LAよりは少し小さいけど、やはりデカイ。みんな大量にお買い上げ。でも私はもうこれ以上買えない......LAでも結構買っちゃったし、重すぎてひとりで運べなくなるから。機材もあるし仕方ないけど悲しいなぁと思っていると、KatとDamonがおすすめのレコードを1枚ずつ選んでプレゼントしてくれた。こういうのは宝物!

 夜は日本料理屋 へ。精進料理(のつもり)のレストラン。みんなたぶん私のために連れて行ってくれたんだけど、揚げ出し豆腐以外はまずかった!でもみんなで精進料理っていうシチュエーションがおもしろしすぎて十分楽しかった。夜はDamonと近くのクラブに遊びに行ったけど、疲れていたのであまり長居せずに帰った。

 みんな本当にレコードおたくで、とくにAndrewは昨日もこの日もめちゃくちゃ買ってた。そして家に帰ると「今日買ったレコード自慢大会」がはじまるのが恒例。なんかそういうのがいいんだよね。やっぱりみんな大好きなんだなと思って。あと、最近はなぜかコクトー・ツインズのCDがお気に入りみたいで、家でもハウスのレコードかけてみんなで盛り上がったあとは必ずコクトーツインズで落ち着いた。

3/11
サンフランシスコ3日目。

 起きてみんなで歩いて出かけて、昼ごはんはまたまたタコス。いいけど! 私はビーフサンドイッチみたいなのを選んだ。そのあとはぶらぶらしながらコーヒを飲んだり、アイスを食べたり、本屋やレコード屋にいってのんびり過ごした。街の小さなレコード屋で、〈Triangle〉からリリースしてるWater Bordersっていうバンドのレコードを買った。彼らはサンフランシスコに住んでて、Public Worksにも来てくれてたけどすごくかっこいい。

 その後は車に乗って、サンフランシスコで有名なGolden Bridgeっていう大きな橋を渡って、Muir Woodsという国立公園に行った。平均樹齢500歳以上のカリフォルニア・レッドウッドの原生林で、気持ちよく森林浴。そのあとグニャグニャした崖の道を走って、サンセットを見るために海へ行く。サンフランシスコの海岸はすごく広かった。車のなかでは大音量で音楽をかけてみんなテンションあがってハイになって、
 めちゃくちゃ綺麗なサンセットを見ながら幸せすぎてこのまま死んでもいいなぁと思った(二度目、いやほんとは三度目くらい)。


サンフランシスコの海岸で。Damon(左)とAndrew(右)と記念撮影!

 夜はみんなでIndian Pizzaを食べに行った。ピザの上にカレーがのってるような食べ物で、アメリカで一番おいしかったかも。サンフランシスコではほとんどダラダラ遊んで過ごしただけだったけど、住むならここがいいなと思えるくらい居心地のいい街で、やっぱり離れるのは嫌だった。でも明日はもうテキサスに移動する日。荷造りをして早く寝た。

3/12
SXSW初日

 朝早くにサンフランシスコを出発。空港へ。飛行機に乗ってすぐロサンゼルスやサンフランシスコでのことを思い出していると、ホームシックならぬカリフォルニアシックになって、なぜかひとりで号泣してしまった。飛行機のなかでだいぶ怪しかったと思う。ロサンゼルスもサンフランシスコも両方だけど、カリフォルニアは最高だった。本音を言うと、疲れもピークだったテキサスでの最初の数日よりもずっとずっと楽しかったし、すぐにでもまた行きたいと思った。泣き止んで気持ちが落ちついた頃にはソルトレイクに着いて、乗り換えてテキサスのオースティンについたのは夕方頃。

 オースティンにいる間は広い家に住んでる若い夫婦のエクストラルームを借りてステイした。家について挨拶したあと、バスや電車でSXSWのメイン会場のほうへの行き方を教えてもらって、夫婦に連れられてタコスを食べに行った(また!)。でもさすがに、本拠地テキサスのタコスは格別にうまい。フィッシュタコスっていう魚のタコス。ステイ先のエクストラルームは部屋もバスルームもすごく綺麗でずっと快適だった。この日はライヴを見たりすることもなく終了。

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みんな本当にレコードおたくで、とくにAndrewは昨日もこの日もめちゃくちゃ買ってた。そして家に帰ると「今日買ったレコード自慢大会」がはじまるのが恒例。なんかそういうのがいいんだよね。やっぱりみんな大好きなんだなと思って。

3/13
SXSW2日目。ここからは適当なライヴ・レヴューがメインかも!

 昼間は中心のストリートからちょっと歩いたところにある小規模な野外ステージでXray EyebellsやBig Dealを見る。芝生でビール飲んでごろごろしながら見たBig Dealはよかったな。アメリカ、テキサスで聴くUKの感じが新鮮で。男女2人組のメランコリックで優しい空気感。

 夕方からはこのあと何度も行くことになる会場Mohawkで『Pitchfork』のパーティへ。ここ、中心部にある結構メインでいい会場なんだけどいかんせん人が多くて入るのも大変。 Shlohmo,、Star Slinger、Sun Araw、Trustを見る。Shlohmoは若手のイケメンビートメーカーということでわくわくしてたけど込みすぎててほとんど顔見えなかった。音はもちろんいいよ! Trustは〈Sacred Bones〉からの「Candy Walls 」が大好きで本当に楽しみだったんだけど、最前列のファンたちがなんというかダサくて、テンションさがってしまった......逆にStar Slingerは頑張って真ん前まで見に行くと、気付けば周りに熱狂的なデブとオタクとオッサンしかいなくて妙に納得、より大好きになった。

 夜も更けてきて、そのあとは会場忘れたけど別のとこでSurviveとBodytronixを見た。どっちも最高。Surviveは見た目怖い人たちがヴィンテージのドーンとしたアナログシンセを横に4台並べてプレイ。最前列のファンもやばげな人たちが踊り狂ってていい感じ。Bodytronixはオースティンの2人組のアーティストで、見るまでは知らなかったのだけれど、そこにいた同じくオースティン在住のPure XのボーカルNateに「オースティンで一番かっこいいから見たほうがいいよ!」と激押しされ見てみると最高にかっこよかった。SFV Acidをもっとハードにした感じの音で、どツボでした。


Survive @ SXSW

3/14
SXSW3日目。

 昼間はまたMohawkへ。大好きなBlood Orangeを見る。ひとりでトラックを流しつつ、ギターソロを弾きまくりながら歌うスタイル。ステージから降りて激しくパフォーマンスをしているとき、記者会見並みにみんな写真を撮りまくっていてなんだかなぁという気分に。私は自分のライヴ中にパシャパシャ携帯で写真をとられるのが嫌いでそういうの見てるといつも嫌になる。Pure XのNateもライヴ中に写真撮られるの本当は嫌いなんだって言ってたなぁ。まぁその話はいいとして......人混みに疲れてしまった私はしばらくダウンして、夜になり同じストリートにあるBarbarellaでD'eonを見た。そのあと一度抜けて違うクラブに行き、Italians Do It Betterのドン、Mike SimonettiのDJで飲みながら踊る。どこに行ってもそうだったんだけど、私が行ったところには日本人が全くいなくて踊っても何してても浮いてた。そのあとBarbarellaに戻って見たPure XとBlondesは最高だった。Pure Xのサイケデリックでノイズな夢の中、ボーカルNateの唐突なシャウトは心のかなり奥の方にガツンときたし、NYからのBlondesはあの音で全部ハードウェアで演奏してるっていうのが超かっこいい。ああいうダンス的な音楽はもはやラップトップやMidiを使ってやるほうが多いと思うから。

3/15
SXSW4日目。

 またまたMohawkへ。もうドアマンに顔を覚えられている。ほんとはFriendsが見たかったんだけど、混みすぎてて並んでるうちに終わっちゃった(涙)ので、SBTRKTとCloud Nothingsを見た。SBTRKTは「?」だったけど、Cloud Nothingsはグランジな感じで演奏もよくてかっこよかった。そのあとメインストリートとは逆のサイドにある会場まで行って、Dirty Beachesを見る。なんというか本当にアジアの星だね、彼は。カナダだけど。見た目に関してだけ言うと、アジア人ってそれだけで普通は欧米人よりダサくなってしまうような気がするけど彼は違う。最高にエッジーでかっこいい。彼になら殴られてもいい! いや、殴られたい! そしてそこには同じくカナダのJeff Barbaraもいて、話していると彼らが仲良しなことが判明。Dirty BeachesとJeff Barbara、音は全然違うけど、なんかいいね。スタジオをシェアしたり、LAでのSFV AcidとINC.みたいにルームシェアしてたりとかそういうの。東京はどうだろう?なんて思ったり。音が違っても心が通じてる、そんな感じの仲間がたくさんいればいいね。

 夜はRed 7という会場で〈Mexican Summer〉ショーケース。〈Mexican Summer〉rはもちろん大好きだから本当は全部見たかったんだけど、この日は本当に疲れていて、最初のPart Timeだけ見て帰ってしまった。Light Asylumも、Oneohtrix Point Neverも、The Fresh & Onlysも、Kindnessも、死ぬほど見たかった! けど、ここまでの旅の疲れと、なんともいえない孤独感と、SXSWの人混みとクレイジーな祭り状態にしんどさがMAX限界状態だったのです。ちなみにPart Timeはめちゃくちゃダサかった(良い意味で)。

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私は自分のライヴが終わったあと、トリのPeaking Lightsを見ながら、明日には日本に帰るのかと思うと悲しくなりすぎて、またホロリ。何度目? 本当に帰りたくなくて。

3/16
SXSW5日目。NNF House Show@Hounds of Love Gallery

 あまりに疲れたのでこの日はライヴは見に行かず、自分のライヴのために体力温存&準備しながらまったり。

 夜。SXSWで最初のライヴはNNFファミリーの身内感あふれるハウス・パーティ。Hounds of Love GalleryはギャラリーではなくNNFのヴィデオなどを作っている映像作家Melissaのギャラリーっぽい自宅。そこによく集まってるらしいMelissaとそのアートスクール仲間たちはみんな映像を作ったり絵を描いたりしてる子で、年も私と同じくらいだったので話しやすかった。この日のうちにCuticleのBrendan、Samantha GlassのBeau、Willieと仲良くなり、彼らと最後の2日間遊び続けることに。

 ライヴはオースチンの漢(おとこ)、Xander Harrisからスタート。VJで怪しげな映像を流しつつ、途中から脱いでいた。彼の人柄は野性的なのか律儀なのかよくわかんない感じでおもしろかった。その次はCuticle! 話してると普通なんだけど、ライヴしてるときはなんともいえない色気があってぞくぞく! Cuticleは似たような音のアーティストたちのなかでもなんとなく奇妙さと個性があって好き。アイオワに住んでるからカリフォルニアのSILKアーティストたちとは場所的にも離れているけど、離れたところでひとりマイペースにやってるとこも共感できるのかな。Samantha Glassはゆったりとした、ディープでサイケでギターの音が溶ける心地のいいサウンド。私はこの日トリで、そこそこ飲んでいたし音響などの環境も悪かったけれど、とくに問題なくプレイできた。床でやったけどね。この日のライヴはMelissaのVimeoで見ることができるので興味ある人はこちらからどうぞ。(https://vimeo.com/40269662


ライヴ中はセクシーなCuticle @ Hounds of Love Gallery

 ハウス・パーティが終わったあとはCuticleとSamantha Glassと違うパーティに遊びに行って、そこでSleep Overをみた。他のメンバーと別れひとりになったSleep Over、心無しかライヴも悲しく哀愁が漂っている。そして変な弦楽器を悲しげに弾いている。嫌いじゃない......。そのあとはお腹がすいたのでみんなでスーパーにいって、ご飯を買ってかえった。

3/17
SXSW6日目。最終日そして最後のライヴ。Impose Magazine Presents The Austin Imposition III @ Long Branch

 前日からもはやお祭り騒ぎのSXSWに疲れ果て、他のアーティストのライヴを見に行くことを放棄している私。この日、昼間はCuticleのBrendan、Samantha Glassのふたりとその友だちの女の子たち6人くらいで車に乗って郊外へ遊びに行った。なんとかSpringっていう池なのか川なのかよくわからないところで泳いだり飛び込んだりして(飛び込んではしゃぎまくってたのは主に男たち)、遊んだあとはSXSWに戻って会場入り。アメリカで最後のライヴだ......。Cuticle、Xander Harris、Peaking Lightsとは二度目の共演。この日初めて見たキラキラで怪しさMAXの女子ふたり組Prince Ramaのパフォーマンスはすごかった。ライヴっていうか、儀式。ダンスが最高で、取り巻きファン的な男の人たちもかなり熱狂的だった。Tearistも力強いというか強烈なインパクトがあって、ヴォーカルの女の人の髪が扇風機的なものでずっとTM Revolution並になびいていた。私は自分のライヴが終わったあと、トリのPeaking Lightsを見ながら、明日には日本に帰るのかと思うと悲しくなりすぎて、またホロリ。何度目? 本当に帰りたくなくて。でもみんなに背中を押されつつなんとか帰って、無理矢理荷造り......。

3/18
帰路

 早朝に出発、したにも関わらず飛行機が5時間くらい遅れてやってきて、デトロイトで乗り換えできなくなってしまった。よくあることらしいんだけど、想定外のホテル一泊。ここで帰るのが遅れても嬉しくないよ。結局丸一日半ほど遅れて日本に帰国。ただいま。

あとがき

 日記、めちゃくちゃ長くなっちゃった。読んでくれてありがとうございました。行くまでは大変だったけど、楽しすぎて何度も日本に帰りたくないと思った。でも向こうのアーティスト同士のつながりやシーンを見ていて、東京でもこれからやっていけることがたくさんあるんじゃないかなと思ったし、離れた場所にたくさんの仲間がいることがわかって、どこにいても何をしてても、ちゃんとつながっていけるんだなぁと実感。それが一番の収穫かな? とにかく行ってよかった。またいつでも行けるようにこれからも音楽作っていこうと思います。

オワリ

 

※この続きは......というか、彼女のインタヴューは、紙版『ele-king vol.6』にてご覧ください!


Hot Chip in DOMMUNE - ele-king

 ABBAは持ってないし
 GABBAはプレイしない
 ZAPPが好きなんだ
 ZAPPAじゃない
 だから、そのタワゴトは止めてくれませんか
 僕はMACCAを選曲してる
 ここはAIYA NAPAじゃないんだよ
 僕がラッパーに見えるかい?
 
 僕 が ラ ッ パ ー に 見 え る か い ?
 
        ホット・チップ"ナイト・アンド・デイ"(2012)


 見えません。

 ele-kingの読者のみなさん、初めまして! ホット・チップくんです。ファンサイトなき時代に、ホット・チップの情報を垂れ流すツイッターをやっています(https://twitter.com/#!/HOTCHIPjp)。パブリック娘。というグループでラップもやっているぞオラオラ。辛辣な合評を待ってます。ライターとしては、ele-kingの癌あるいは恥部のようでありたいと思っています。毒ポスト・ツイッタラーのみなさんもどうぞお手固くよろしくお願いします。

 さて、チケットもどうやら完売の<Hostess Club Weekender>2日目での来日公演に併せて、ホット・チップのアレクシス・テイラーとアル・ドイルがDOMMUNEでDJをするぞ。1年前にアレクシスと話をしたときはDOMMUNEのことをまったく知らなかったようなのに、今じゃ出演するようになるなんて。ホット・チップも大きくなったんだなと思うよね。アレクシスの背も伸びているのだろうか。
 新譜『In Our Heads(イン・アワ・ヘッズ)』もどうやら絶賛の嵐で、これをきっかけに日本でのブームがようやくやってきたのかもしれません。僕は、新譜には複雑な思いがあるのだけど!

 冒頭にも上げた新曲"ナイト・アンド・デイ"やオフィシャル・インタヴュー(https://www.iloud.jp/interview/hot_chipin_our_heads_1.php)で語っているように、あまりにも注文をつけるとレコードを投げ飛ばし、DJ機材をなぎ倒してしたことがあるとのこと。温厚なアレクシスが暴れているところはなかなか面白そうなので、ぜひ「ザッパをかけろ!」「おい、ラッパー! ガラージをかけろ! プリンスはかけるな!」とリクエストしてみよう(ただし、PCの前でね)。ハッシュタグは#DoILookLikeARapperで。
 そうでなくて、まったりとグッド・ミュージックに身体を揺らしたい人はぜひ現場へ!あと、眼鏡男子に萌えの女子もね。先着50人だなんてあっという間だから。

予約はコチラから!

 1年前、アレクシスはagehaで開催された<KITSUNE CLUB NIGHT>で朝4時から2時間DJを務めたのだけれど、アゲアゲでイケイケなパーティーピーポーは、ジルダや80KidzやHEARTSREVORULTIONで踊りきったのか、アレクシスのプレイしはじめたミニマルなテクノをBGMに「おつかれー!」とばかりに続々と帰っていった。アレクシスはさして気にしている様子も見せず(でもきっと気にしてる)、まったり身体を揺らす客に「やっぱり、これいいよね」と無言で語りかけるかのようにYAZOO(ヤズー)の"Situation(シチュエーション)"をプレイし、自身のヴォーカル曲でマイクをとり客を盛り上げ(分かってやってるのがニクい)、ポール・マッカートニーの"Silly Love Songs(心のラヴ・ソング)"を笑顔で流しながら締めくくるのだった。
 アレクシス、それ2年前にも流していたよね。今年も待ってるよ。


斎藤辰也akaホットチップくん

QN - ele-king

越境者としての彼 文:中里 友

QN
New Country

Summit

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 5月31日にポストされたQNのツイート...そこに貼られたOMSB'Eatsに対するディス曲"OMSBeef"の音源。その、あまりに唐突過ぎる決別の報を、この楽曲によって知った人がほとんどではないだろうか。このビーフ自体が相当衝撃的だったのだけれど、"OMSBeef"を聴いて、さらに驚かされてしまった。それは、前作以上の拡張と深化を遂げている彼の音楽に、だ。

 どんなジャンルの音楽にも熟練というものはある。僕が日本語ラップを面白いと思うのは、それぞれ独自の言語――それは言葉のアクセントや起伏、間の取り方、もちろん生来の声質によるところはかなり大きい――を思考錯誤して体得しているところにある。10人いれば10通りのスタイルがある。それはキャラクターとも言い換えられ、それは彼らの最大の「武器」でもある。他にはない表現やスキルを見せようとする初期作は冒険心に溢れ、フレッシュでいて、ときとして非常にトリッキーであったりする。それが作品を重ねる毎に、じょじょに言葉は削ぎ落とされて整理され、次第に聴きとりやすいオーソドックスなラップ・スタイルへ移行していく(それはメッセージ性に重きを置きはじめるというより、メッセージを持ちはじめるというケースが多いような気がする)。イコール独自の言語を捨てていくという事では必ずしもない......が、表現がこなれて洗練されていくという事はこういうことなのか? と疑問を感じたりもする。
 ヒップホップというシーンへの帰属意識の高いアーティストほどこういう面が強く、かたやジャンルの横断を繰り返すアーティストほどブレずに言語の独自性を保持・深化させながら、音楽性を拡張させていっている。僕は彼らを「越境者」と呼んでいる。韻踏を早くに抜けたミンちゃんやEVISBEATS、さらに言えばKREVAやイルリメは拡張の末にポップ・フィールドにまで波及した例だと思う。もちろん例外はあって、降神はさらに独自のコミュニティで表現に磨きをかけていった気がするし、KILLER BONGなどは越境......というよりも間違って地球に産み落とされた宇宙人のよう。

 QNは間違いなく越境者だ。越境者は実験を繰り返す(ミレニアルズ以降のネット・ネイティヴな世代は生まれながらに「越境者」なのかもしれないが)。QNの作品にはいつも耳を惹くアイデアがある。先月リリースされたDJ松永のアルバムにラップで客演した"Tell The Truth"での甘いフックを聴かせた後の1バース目はつかみとしても最高だし、昨年、名義を変えてトラックメイカーとしてリリースしたEarth No Madでは実験的な試みにも意欲的で、自身を拡張しようとしている意図がとれる。相模原CITYのLABORATORYから、自らをProfessorと名乗っているのも頷ける。

 そして件の"OMSBeef"だ。このトラックはやや風変わりなクラウドラップで、おまけに彼のラップはどんどん訛っていっている(同時にアップされている歌詞がなければ聴き取れなかっただろう......)。先の持論を漠然と考えていた折に、編集部から今作『New Country』が届き、聴き通してみて、やはり! と思った。もちろんまだ彼がSIMI LABに所属していた際に作られた作品なのだが、よりグルーヴを求めて削ぎ落とされたタイトなサウンドで、前作以上に無国籍なビートを鳴らしている。
 フリーキーでエキゾチックな"Cray Man"、"Hands"。ベースとドラムとわずかな音色、その上をラップでスイングする"Freshness"、"DaRaDaRa"。ファニーなルーディーズ・ミュージック"Hill"、"Boom Boom"、そしてJUMAのフックが効いたモラトリアムなメロー・ソング"Cheez Dogg"からは彼のプロデュース能力の高さが伺い知れる。アルバムの終焉にふさわしい"船出"と"Flava"は旅情と言うべき感傷さが漂っていて、総じて温かみに溢れた作品となっている。

 熟練というのは、キャリアの積み方という事でもある。3年の間に、2枚のソロ、SIMI LABのアルバム、別名義Earth No Madのアルバム、Dyyprideのアルバムのプロデュース...そして前作から5カ月というハイペースで発表された今作の『New Country』。早い。彼の初となる商業作品のタイトルを『THE SHELL』(抜け殻)とした意味も「やりたい事がコロコロ変わるから、このアルバムも今やりたいことではもうないんですよ。」とかつてインタヴュー(https://amebreak.ameba.jp/interview/2010/08/001618.html)で語っていたが、本当にそのスピード感で彼は成長を続けている。今回の脱退は残念だが、すでにRAU DEFと共にMUTANTANERSなるユニットを組んでYOUTUBEに作品をアップしている。歩調や歩幅を変えても、この先も決して歩むことはやめないのだろう。

 ラジオを通じてQNとOMSB'eatsに熱いメッセージを送った菊地成孔じゃないが、4月のDCPRGとのライヴで、STUDIO COASTという大舞台で見せたSIMI LABの素晴らしいステージング......世代も越えて観客をロックした、あの光景に夢を見てしまった僕も含めて、多くのファンが今回のQNの脱退がとても残念な事に思えてしまうのは、それはしようがないことだ。いや、こんなこと書いても本当にしようがないのだけれど。
 

文:中里 友

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物語の外側へ 文:竹内正太郎

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 「早熟」という形容は、むしろこの作品の前では礼を欠くかもしれない。

 「もう僕はSIMI LABには居ません。QN」、突如そうツイートされたのは5月22日だった。ツイートは確かに本人のアカウント(@professorQN)だったが、前後の書き込みからしてもまったくの無文脈だったので、私は何かの冗談だと思っていた。が、6月1日、QNのSoundCloudに"OMSBeef(Dis)"がアップされ(https://soundcloud.com/simi-lab/omsbeef-qn)、どうやら事態は想像以上にシリアスであると、多くの人がさらなる深刻化を覚悟してしまったのではないだろうか。少なくとも、OMSB'Eats(@WAH_NAH_MICHEAL)やMARIA(@MariaPPgirl)のアンサー・ツイートを見る限り、QNとSIMI LABメンバーとのあいだには何か決定的な行き違いがあり、容易には復しがたい距離が存在する、それがどうやら一定の事実であるようだった(注:残念だが、6月12日、QNの脱退がオフィシャルで報じられた......)。当然、詳しい内部事情はいっさい承知していない。無用な推測は控えるべきだろう。何かを言うべき立場の人はもうコメントを出している、例えば菊地成孔のように。オーケー、私が言いたいこと(言えること)はたったひとつ、『New Country』は本当に素晴らしいアルバムだ。

 そもそも、OMSB'EatsもMARIAも、そしてDyyPRIDEも、このアルバムに参加している。あたかもそこになくてはならない既定の風景のように、SIMI LABの面々はこの作品に協力し、パフォーマンスしている。それに、RAU DEFや田我流もいる。本来であれば、純度100%の、大きな祝福の中で聴かれるべき作品だと思う。もちろん、例の件をできる限り肯定的に捉えれば、SIMI LABが馴れ合いで運営される仲良しクラブでないことが公けに示されたとも言えるが、この作品の完成とこのタイミングでの発売を、決してよく思わない人たちもいるであろうことは、(ぶり返すようだが)残念ではある......。SIMI LABのデビュー・フルレンスに寄せ、かつて「個人的にはQNにもう少し出しゃばりを期待」している、などと書いた人間からすれば、本作はまさにあのとき理想に描いたとおり作品であるが、だからこそ余計、複雑な感情になってしまうのもまた事実で......。

 いや、妙な感情論はやめよう。QN(今後はプロフェッサーQNと呼ぶべきなのだろうか?)は、さらに磨きあげたトラック・プロデュースで、すべての協力者に報いている。音楽家としては、まず間違いなく最高の仕事を果たしている。アレンジメントされる多彩な弦類、重く揺れ動くベース・サウンド、淡々とリズムを刻む軽やかなドラムスは、彼の手によって美しい循環構造を描いている。そして、これは相変わらずと言っていいのか、この1990年生まれが持つ雰囲気というのは、ちょっと並はずれたものがある。絶対に浮かれてたまるかと言わんばかりの、常にローにコントロールされた異様なテンション。ビートの鳴りやループの展開は、前作『Deadman Walking 1.9.9.0』(2011)以上にタイトになっている。そして、ベースの効かせ方がとにかく心地よい。J・ディラのビート・プロダクションを"21世紀のヘッドフォン・ファンク"と評した海外のライターがいたが、それはこの作品にもそのまま当てはまるのではないか。これはQNによるファンク解釈のグルーヴィな作品である。

 そしてラッパーとしても、その不遜な口振りは更なる自信を見せつけている。この年功序列国家においては、ときに過剰なまでの謙遜が重んじられる傾向にあるが、ヒップホップはその道徳を破棄する文化でもある。そう、QNは誰よりもクールに、だが自分がナンバーワン・ラッパーであるかのように、ファンク・ビートの上で堂々と韻を流している。日本語も英語もない交ぜに、とにかく滑らかに流れていく。引用すべきパンチ・ラインも、もちろんある。とくに、表題である「新国家」の、おそらくは同義語として「夢」という言葉がふたつの意味で使われる"Better(feat. RAU DEF, MARIA)"には、QNの決意がもっとも強く表れている。が、韻文として組んだリリックを、あくまでも散文のように崩して聞かせる技術には舌を巻く。ゼロ年代、ドメスティック・ラップの潮流に物語回帰(それも、"Street Dreams"としての物語ではなく、"My Space"としての物語への回帰)があったとすれば、QNはまたぶらぶらと物語の外側へ出て、意味のあること/ないことを問わず、背景にある物語からいくつかの場面や感情のみを取り出し、新たな世界を立ち上げているように思える。

 また、こうした純粋なラップの機能性からの影響なのか、浅からぬ縁を持つ田我流を招いた"船出"は、粒揃いの本作でも群を抜いたコズミック・ファンクで、『B級映画のように2』という、おそらくは現在の日本に対する複雑な心境を込めたアングリーなアルバムからは一転、「こんな国は捨てて/空を突き抜けて/大気圏に突入/無重力でパーティ」とラップする田我流が、私には実に楽しそうに見える。彼の『B級映画のように2』が、ヒップホップの圏外へと向かう社会性の作品だったとすれば、本作はヒップホップの原理的な魅力にこだわった、周囲との国境線を強く意識した作品だ。貫禄めいたこの落ち着きぶりはいったいなんだ? 表情はまだどこかに十代の面影を残しているが、「早熟」という形容は、むしろこの作品の前では礼を欠くかもしれない。浮かれることを知らない弱冠21歳が、新たな王国を築こうというのか。月並みの結論であるが、事情はどうあれ、作られた音楽そのものに罪はないと思う。おそらくは多くの人の期待を凌いでいるのではないか。『New Country』、その確信めいたヘッドフォン・ファンク。存分に楽しんで欲しい。


文:竹内正太郎

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