「iLL」と一致するもの

 アイスランドのインディ・シーンが熱い? 2013年に、毎年11月にレイキャビックで開かれる音楽フェスティヴァル「アイスランド・エアウエイヴス」に行って以来、すっかりアイスランドの音楽にハマっているNY在住の沢井陽子。Randam Accese N.Y.番外編として、アイスランド・シリーズ行きます。ビョークの新作も発表されたし、アイスランド人気、日本にも押し寄せそうです。
 まずは、ジャスト・アナザー・スネイク・カルトというバンドのメンバー、ソーリのインタヴュー。アイスランド生まれで、アメリカ育ちの彼は、両国のインディ・シーンを知っています。

interview with Þórir(ジャスト・アナザー・スネイク・カルト)


取材に答えてくれた、
ジャスト・アナザー・スネイク・カルトの
Þórir(ソーリ)

まず自己紹介をお願いします。

Þórir(ソーリ):僕はジャスト・アナザー・スネイク・カルトというバンドのÞórir(ソーリ)です。エクセントリックなローファイ・サイケポップをプレイしています。https://snakecult.tiredmachine.com

どのくらいアイスランド(レイキャビック)に住んでいますか? 現地の生活について教えてください。

P:僕はレイキャビックで生まれ、子供から青年期にかけてアメリカで暮らしました。レイキャビックには5年前に戻ってきました。冬は長く気候は恐ろしいけど、家の中は暖かいので、創造的なことに集中したいなら最高の場所です。週末の夜は、知っている人全員が、同じバーでいるのを見かけます(笑)。とても居心地が良く好きだけど、アメリカが懐かしく感じるときもあります。アイスランドは、ニッチェなシーンを支持できないくらい人口が少ないけど、自分のことだけに集中出来るメリットがあります。アイスランドは不毛で、木や野生動物が懐かしく霜が多すぎます。夏のあいだ少し暖かくなったとしても、日中のある時点で温度がいきなり下がるから、セーター無しでは家から出られないです。

私は、2013年〜14年の「アイスランド・エアウエイヴス」時にレイキャヴィックに滞在し、ユニークなインディ音楽シーンと文化に魅せられました。アイスランドは、一度経済崩壊した国にも関わらず、少なくとも、同じように、経済的、将来の不安にさらされながら、活動している他の国のインディバンドたちに比べて、とても元気で活発なエネルギーがあります。それはなぜでしょうか。

P:銀行が崩壊する前、アイスランド人の生活にはバブルが繁栄していました。銀行と国民の大多数がお金を借り、無責任に投資し、その富がどこから来たのか誰も疑わなかったのです。崩壊時も、アイスランド人はそんなに貧困になりませんでした。自己破産して、自分の家や車を売った人もいましたが、食べ物に困ることはなかったし、むしろ物事は普通に戻りました。人びとは働いて借金を返さなくてはならなかったですが、仕事はあったし、社会保障もありました。
 銀行経済に失敗すると、アイスランド政府は、観光事業に力を入れはじめました。アイスランド通貨の価格が下がったので、観光客は行きやすくなりました。アイスランド自身は、魚とヴィデオゲーム以外、ほとんど生産能力がないので、外貨の流入は、アイスランド人の消費者運動に必要でした。政府はアイスランドと文化を外国に強く促進し、観光地をアピールしました。結果として、アイスランドのミュージシャンにもたくさんのサポートがあり、外国に進出することを助けてくれました。
 が、同時に政府は、近くしか見えていないことも多く、音楽会場を閉め、それをホテルや観光客のための物に建て替えました。観光客の季節には、本当のアイスランド人を、ダウンタウンで見かけることはありません。全員観光客なのです。家は、高い値段で観光客に貸されるため、夏の間だけでも、手頃な価格で住む所を見つけるのが難しくなりました。
 サンフランシスコやニューヨークで起こっていたような、同じ文化の死が、レイキャビックにも起こっているのはおかしいですね。いま、レイキャヴィックの音楽シーンは、黄昏時かも知れません。アイスランドの難しいところは、他にアーティストが行く場所が無いことです。アイスランドのアートや文化を海外に促進し、支持してくれても、住むのが難しくなって来ています。いずれは、バランスが取れるのかも知れませんが。
 音楽やアートを作るときは、やりたくてやるので、ほとんどの人は、そこにお金は絡みません。アイスランドにはミュージシャンをサポートする十分な人口はありません。退屈な大衆音楽を作っている一部の大物ミュージシャンをのぞいて、コンサートやレコードの売り上げで生活出来る人はいないのです。大多数のアーティストが、いつも金銭面で奮闘していますが、これは銀行が崩壊した前も後も、変わらないと思います。

レイキャヴィックに、マクドナルドやスターバックスがないのはなぜでしょうか?

P:経済的な理由からだと思います。他のフランチャイズは、アイスランドで経営するため、より利益を生む企業家でした。他にも、KFC、サブウェイなど多くの多国籍なチェーン店があり、ビジネスモデルを真似た地元のチェーンもあります。マクドナルドがクローズしたのは、フランチャイズのオーナーにとって、自分のハンバーガー屋でビジネスをする方が利益があったからだと思います。

アイスランドの人びとは、反グローバリゼーションを意識しているのでしょうか?

P:アイスランドは、極端な消費者優先主義者国です(ほとんどの欧米の国がそうだと思いますが、それ以上に)。グローバリゼーションを考える人もいますが、ほとんどは考えていないか、少なくとも真剣ではないです。アイスランド人は、環境や社会的に責任を追うたくさんの製品を作りますが、実際は違います。例えば、観光地のお店で売られているアイスランディック・セーターは、ほとんどが中国製で、「ファーマーズ・マーケット」なる意図的な欺き商標名で売られています。
 アメリカに住んでいたときは、アイスランド人の消費者意識に気づいていませんでした。対して、グラスルーツ音楽やアートに関わるアメリカの若者は、何かあると急速に進化します。こんなことはアイスランドではほとんど起こりません。
 アイスランドはEU加盟国ではないですが、ヨーロッパの経済地域にあります。党派の両端から見て、中道派はEUに加盟したいが、リベラル派と保守派は加盟したくないのです。中道派がEUに加盟したいのは、アイスランド政府が堕落していて、乱用を防止することで、利益を得た人びとから力を奪うからだと思います。排他的な漁業権のように、保守派はアイスランドのお金の利益を守りたいし、左翼は反グローバリゼーションの理由で反対していると僕は思います。

ビョークのニュー・アルバムが発売されましたが、ビョークはアイスランドでも特別人気があるのでしょうか? レイキャヴィックで、素晴らしいバンドをたくさん見た後では、ビョークも、アイスランドではごく普通なのでは、と思いました。

P:ビョークは伝説です。彼女は成功したポップスターであると同時に、真のアーティストで、いつもびっくりさせるような創造的な音楽を作っています。アイスランドでビョークに影響を受けていないミュージシャンを見つけるのは難しいと思います。

https://snakecult.tiredmachine.com



「Iceland Airwaves NOV 5-9 2014」レポート

 2013年に初めて行って、あまりの良さに2014年も自動的にアイスランド行きをブックしてしまった。
 ひとから何がそんなに良いのかと訊かれるが、とにかく人が温かく、街の小さいお店、大きな会場など、さまざまな場所で音楽を楽しめるところも良いし、何よりも、来てみるまで、何が起こるかわからないところにこのフェスの魅力がある。今回も、行き当たりばったりでバンドを見たが、アクシデントもありながら新しいお気に入りのミュージシャンにたくさん出会えた。

 今回は金曜日から現地入り、3日で総勢25のバンドを見た。Olena, Fufanu, Vorhees, Sin Fang, La luz, Godchilla, Unknown mortal orchestra, Ham, Anna soley, Mosi musik, Prins polo, Vok, Young Karin, Kaelan Mikla, Munstur, Spray Paint, Leaves, Odonis Odonis, Low Roar, Grisalappalisa, Perfect Pussy, Vintage Caravan, MC bjor, Just another snake cult, AmabadamA
 他にもチラッと見たバンドや、通りかかったバンドも少なくない。歩くとそこかしこで音楽が鳴っているので、音に吸い込まれるように入って行き、良ければステイ、ダメなら次。人気のあるバンドは大勢の人が入っているが、次のバンドまでの暇つぶしと言うこともある。エアウェイヴスのアプリケーションをダウンロードすると、いま何がやっていて場所がどこかなど全て把握できる。このアプリケーションが大活躍!
 以下、好きだったバンドをいくつかピックアップしてみました。

Vok
@ landsbankinn

まずはvok 。去年から噂は聞いていて、今回やっとライヴが観れた。
男2人、女1人、サックスとギター、エレクトロ、DJなど。ディストーションかかった、深い女の子のヴォーカルが良い。ビョークが生まれた町というのが納得出来る。
https://www.facebook.com/Vokband

Grisalappalisa グリサラパリサ
@gaukrinm

知り合いのレコード・レーベルの所属アーティストだったことで、たまたまキャッチしたが、すぐにエアウエイヴスのお気に入りになった。男6人組。ヴォーカル2人、サックス、ギター、ベース、ドラム、半端ないハイエナジー。キラキラのシャツを脱ぎ捨て半裸になるヴォーカル。聞けばそれがスタイルらしい。アグレッシブなフリーホイール・クラウトロック。
https://grisalappalisa.com

Just another snake cult
ジャスト・アナザー・スネイク・カルト
@ kaffbarinn

ランダムに出会ったローカル・バンド。様々なエレクトロ機材を使いつつも、ベースはローファイ・アコースティック。チェロや爪琴などの弦楽器を加えフリーキーなのにドリーミー。ライヴはドキッとさせられる面多し。
https://snakecult.tiredmachine.com

Low roar ロウローア
@gamla bio

アメリカ出身のライアンがアイスランドの引っ越して、ひとりぼっちの寂しさからこのバンドを作った。切なくて美しいレーザービームが似合うバンド。ライヴはストリング隊が美しく弦を奏で、オーケストラのようなスペクタクル。いまではビルボードまでが彼らをカヴァーするまでに。
https://www.lowroarmusic.com

Vorhees ヴォーチス
@bio paradis

NY出身のdenaのプロジェクトで、エレクトニックとギターをミックスした、サウンドコラージュ。Rachel coleyというNYのデザイナーが彼女のスタイルを担当し、ヘアリーなトップがよく似合っていた。mumのサウンドを担当していたゆかりで、9回ほど来日経験あり。只今日本語勉強中。
https://vorheesmusic.tumblr.com

Unknown mortal orchestra
アンノウン・モータル・オーケストラ
@bio paradis
会場に入るのも一苦労な人の多さ。外から覗いていたが、勇気を出して人混みの中へジャンプ。ライヴは3人編成。サイケデリックなシャープ・ソウルは、ヒップホップからインディロックファンまでを網羅し、一緒に歌っているファンもいた。イギリスのバンドだと思っていたら(なぜ?)、ルーベンは、ニュージーランドからポートランドに移住したらしい。
https://unknownmortalorchestra.com

Godchilla ゴチラ
@12 tonar

男3人組のコズミック/ドーム/ノイズ/サーフバンド。音は宇宙の様にヘビーで、来ている客は男が多かったが、ルックスが良いので、ファンが増えそう。
https://www.facebook.com/Godchillah

Ham ハム
@ KEX hostel

びっくり! アイスランドの伝説のヘビーロック・バンド。マスタード色のベスト、シャツ、パンツにシルバーのヘアーがヴォーカリスト。バンド全体がカッコよすぎて、エアウエイヴスってエレクトロが主流じゃなかった? と疑ってしまった。このショーがHAMのたった一回のエアウエイヴス・ショー。KEXPが盛り上がるのもわかった。
https://blog.kexp.org/2014/11/07/kexp-at-iceland-airwaves-day-3-ham/?fb_ref=Default&fb_source=message

ラジオ・ショーが終わっても10分ほどアンコールが鳴り止まず。アイスランドのレッド・ゼペリンは言い過ぎか?
https://facebook.com/svikharmurdaudi

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 レイキャヴィックの歩ける町の作りがこのフェスを可能にしているひとつだが、人びとの音楽に対する半端ない熱意、昼のショーは子供も参加できるしファミリーフレンドリー、10代のバンドもチラホラ、英語が通じる、人々の大酒呑み&パーティ好きで誰彼も受け入れる、と理由は様々だが、1日目で興奮がピークに達してしまうのだ。
 エアウエイヴスが終わると、人々はレイキャヴィックから抜け出し、南部やゴールデンサークル、ブルーラグーンなどの観光地、町をふらっと歩くだけで、自然の美しさに感謝し、時間がなければ近所の温水プールなど、アイスランドのアトラクションは後を絶たない。世界中からこのフェスティバルに来る人が後を絶たないのはよくわかる。何が起こるかは自分次第だが、素晴らしい音楽と感動に出会えるのは間違いない。来年は一緒にいかがですか? 

https://icelandairwaves.is

interview with Back To Chill - ele-king


Various
GOTH-TRAD Presents Back To Chill "MUGEN"

Back To Chill/Pヴァイン

Amazon iTunes

 バック・トゥ・チル(BTC)が誕生して8年、そう、8年……、ようやくここにそのレーベルが誕生した。いままでバック・トゥ・チルにレーベルがなかったことが不自然なほど、ゴス・トラッド、100マド、エナの3人は、国内外のレーベルから作品を出しているわけだが、晴れてここにクルーのプラットホームが生まれ、彼らの音が結集したことは、日本のシーンにとってたいへん喜ばしいことである。
 昨年リリースされたコンピレーション『MUGEN』がその第一弾となる。ここには、ダブステップ以降の、ケオティックで、ある種何でもアリ的な今日のシーンにおける、彼らなりの姿勢がよく表れているし、それぞれ違ったバックボーンを持つクルーのそれぞれの個性もまったくもって、よく出ている。彼ららしく、先走ろうとしているところも、収録された興味深い楽曲に結実している。今後のクラブ・カルチャーを占う意味でも、興味深いアルバムだ。
 以下、レーベルのコンセプトやヴィジョンについて、ゴス・トラッド、100マド、ENAの3人が話してくれた。

「なぜ、いまレーベルをはじめたのか」


Goth-Trad

ネットでいくらあげても、いまは誰もがやっていて、たくさんあり過ぎるから、人に聴いてもらうには何かしらのキッカケはやっぱり必要だと思うんです。レーベルをはじめたいなとはみんなで言っていました。2012年にアルバムを出したら新しいことをやりたいと思うようになったんです

パーティとして〈バック・トゥ・チル〉が2006年に開始してから8年目にして、コンピレーション『ムゲン』の発売と同時にレーベルがはじまりました。なぜいまになってレーベルをはじめることになったのでしょうか?

ゴス・トラッド(Goth-Trad、以下GT):レーベルをはじめる時間がなかったというのはありました。

考える時間は必要だったんですか?

GT:やっぱりある程度の曲が揃わないと出したくないと思っていました。競争率というか、ダブステップという言葉とレーベルが過渡期だったというか。レーベルの量もハンパなかったし。2006〜11年くらいは〈バック・トゥ・チル〉のアーティストもダブステップを中心にプレイしていました。だから、その時期にダブステップというイメージを付けてレーベルをはじめるのは果たして良いのかと思っていたし。

うん。

GT:いずれはレベル・ファミリアだったりとか、もうちょっと幅広いことをやりたいなというのもあったので。あとは自分のアルバム『ニュー・エポック(“NEW EPOCH”, 〈DEEP MEDi Musik〉, 2012)』をリリースして、ツアーもひと段落したというのもあるし。

具体的に理想とするレーベル像はあったんですか?

GT:何年も一緒にやってきたアーティストや、日本で良いものを作っているひとを中心に出したいなとは最初から念頭に置いていて、それにプラス・アルファで自分が繋がってきたアーティストにリミックスなどで参加してほしいとは思っていましたね。

〈バック・トゥ・チル〉には8年の歴史があるけど、コンピレーションを出すのが今回が初めてって、ちょっと意外ですよね。もっと早くやってても良かったんじゃないかと思ったりもして。

GT:単純に自分はUKの〈ディープ・メディ〉にどっぷり所属してやっていたというのもあったと思うし。みんなダブステップが共通項にありつつも、ちょっとずつ変わっていっている面もあって、エナくんや100マドくんや自分自身もそうだし。最初の〈バック・トゥ・チル〉からのその変化の過程をレーベルとして打ち出していきたかったんです。そのタイミング的にいまかなと。コンピレーションの曲にしても納得のいくものが1年前とかだったら揃わなかったと思うし。勢いに乗ってやっちゃえばいいというノリではできないとも感じていて。

いつかはやりたいという気持ちはあったんだ?

GT:もちろんありました。基本的に焦ってやりたくないなというのがあって。

『ニュー・エポック』もなかなか出なかったもんね。ゴス・トラッドは〈バック・トゥ・チル〉をはじめる前くらいからそうやって言っていた記憶がある。「ダブプレートを作って12インチを交換するのが良いんだ」みたいな。そういう意味では本当に時間はかかったという気がする。

GT:それと、みんなダブステップを聴いてダブステップをはじめたってアーティストでもないから、この幅広さっていうのもこのレーベルに残したいなと。ダブステップというイメージは強いと思うけれども、それだけじゃない部分もレーベルにコンセプトとして入れていきたかったんです。

以前、100マドさんに「レーベルはじめないんですか?」と尋ねたら、「〈バック・トゥ・チル〉はゆるいから良いんだよ」と言っていたのが印象に残っています。

GT:ハハハハ。

他のメンバーともレーベルについては話し合っていたんですか?

GT:レーベルをはじめたいなとはみんなで言っていました。自分自身、この6年くらいは年間に4、5ヶ月はツアーでヨーロッパ、アメリカ、アジアとかを周って、帰ってきてまたちょっとホッとして、また次のツアーやリリースのために曲を作っての繰り返しで。さらに毎月自分のパーティをやりつつブッキングを考えて。ある意味「回している」感があって、そのなかでなんとかアルバムを作ってリリースしたんです。だから、落ち着いて音楽を幅広い目で見られない時期だったんですね。例えばその流れのなかでレーベルを開始することになったら、たぶんすごく狭い視野で「よし、ダブステップのレーベルで!」ってなっていたかもしれないけど、2012年にアルバムを出したらダブステップもあるけど新しいことをやりたいと思うようになったんです。

『MUGEN』のリリースを考えはじめたのはいつなんですか?

GT:3、4年前から良い曲をメンバーが作っていたら「その曲は〈バック・トゥ・チル〉で出したいな」とは言っていたんですよ。実際にパッケージにしようとなったのは2014 年の春くらいからですね。

今回、レーベルをここ日本ではじめたことによって、ダブトロさんのように特定のレーベルに所属していなかったアーティストに居場所を作ることができたように思います。そう考えると、エナさんには〈セブン・レコーディングス(7even Recordings)〉や〈サムライ・ホロ(Samurai Horo)〉という海外レーベルにすでにホームがあったわけですよね?

エナ(ENA、以下E):海外にはあったけど、やっぱり日本にはなかったから。それと日本にはいろんなプロデューサーやDJがいるけど、心底納得できるのはひと桁くらいしかいなくてゴスさんはそのなかひとりだから、そういうひとがホームを作ることは日本にとって大事だと思うし、クオリティのコントロールに関しても、ゴスさんの性格も知っているから変なものを出すこともないだろうから。 そういう面がブランドや信頼に繋がっていけば良いなと思っていました。

ダブトロ(Dubtro)さんやカーマ(Karma)はレーベルがはじまるまで曲を出さないようにしているって話も聞きました。

GT:インディペンデントのレーベルって曲をシヴにしたがるんですよ。とくにダブステップのシーンを何年か見てきて、「こいつ、あっちからもこっちからも出して……」って揉めてリリースがなくなったこともあって。俺はそこまで縛りたくもないし、音楽のジャンルも縛りたくなくて、ただ質の良いものを出していきたいと思っています。例えば、アーティストが自分の好きなレーベルから出せることの良さや嬉しさもわかる。それに名前があるアーティストを出したいわけじゃなくて、地方で良い曲を作っている子とかを巻き込みたいなというのもあって。やっぱり地方の子ってなかなかそういう機会がないから。

ネットを活用するひとはあんまりいないの?

GT:ネットでいくらあげても、いまは誰もがやっていて、たくさんあり過ぎるから、人に聴いてもらうには何かしらのキッカケはやっぱり必要だと思うんです。この間も岡山のDay Zeroって子が〈バック・トゥ・チル〉に来ていて、デモをもらったんですけどなかなか良かったんですよ。ちょうどツアーもそのとき組んでいて、「今度岡山にきたら僕がやります」って言ってもらったりとか。あと、〈バック・トゥ・チル〉って曲の作り方とかもみんなでディープに話すんですよ。どのソフトが良いとか、どのプラグインでこのベースを作ったとか。アドバイスして曲がよくなったら次のパーティに出てもらったり。こじんまりとしているけど、そういうサイクルを現場でやってきたんですよね。やっぱりその積み重ねでみんな良くなってきている。例えば〈グルーズ〉のドッペルゲンガーだったりとか、そのまわりのクルーだったりとか。

ドッペルゲンガーとも繋がっているんだ。

GT:ドッペルゲンガーは〈バック・トゥ・チル〉にしょっちゅう来てたし、音楽の話もみんなとしているから。

プラグインの話までするって、なんかすごい具体的な話になるんだね。

GT:ヨーロッパでも、みんなでそこまで話すんですよ。ネット上にそういう情報はいくらでもあるけど、英語でわかりにくい部分もあって調べる気にならないひとが多くて。日本語でそこまで説明しているサイトもないんです。
 もともと2006年に〈バック・トゥ・チル〉をはじめたきっかけもそこに関係しています。俺がマーラたちに出会って、自分はそれまでライヴしかやりたくないタイプでDJはひとの借り物をかけてるっていうイメージだったのが、UKのダブステップ・プロデューサーたちが1枚1万円くらいかけてダブプレートを100枚くらいプレイしている姿勢を見て、これはライヴに匹敵するものだなって思ったんです。DJ=プロデューサーという公式がいままで日本にはなかったから、ここでもやらなきゃなと思って、トラックを作っていた100マドくんに声をかけたんです。〈バック・トゥ・チル〉は曲を作っているアーティスト同士ではじめたものだから、曲の作り方について話すこともこのプロジェクトの重要な部分なんです。

ひと世代前のテクノのアーティストだと、機材やプロダクションに関しては手の内を見せたがらない人も多かったけど、いまの話を聞いているとかなりオープンになってきているんだなと。

E:やっぱり、いまは作るひとの数が多いですからね。

GT:本当にベーシックな情報はインターネットで誰でも調べられるから。

そうか、もう隠しても意味がないと。

GT:それに良いものを作るアーティストにはもっと良くなってほしと俺は思うし、そういうひとにパーティに出てほしいし、俺もその曲をかけられるわけですからね(笑)。そういうとこまで考えると良くなったほうが確実に良いんですよね。それから先はそれぞれのセンスとかの問題なので。

クレジット問題でも、ひと昔前だったら例えばゴス・トラッドが〈ディープ・メディ〉から出していたら、ゴス・トラッドの名義は他のレーベルでは使えなかったじゃない? みんなレーベルによってわざわざ名義を変えていたからさ。そういう面も現在はオープンになってきているんだね?

GT:いまはひとつの大きいレーベルが力を持っているんじゃなくて、小さいインディペンデントなレーベルがたくさんあるなかで、たくさんリリースをすれば良いわけじゃないけれど、「あっちにも、こっちにも顔がある」ほうがアーティストにはメリットがあると思う。レーベル側も他で出してくれることによってまた違う層にも広がると考えるし。

ジェイムス・ブレイクがメジャーと契約したときに、他のレーベルからもリリースができるっていう条件だったらしいからね。また〈1-800ダイナソー〉からのリリースも決定したし。

GT:そのアンダーグラウンドさっていうのはアーティストをかっこよく見せる要素のひとつだと思うんですよね。

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「『ムゲン』のコンセプトについて」


100mad

レコードをひたすら集めるか、自分でレコードを作るかの違いですよね。そこで「コイツ、ハードコアだな」って思ったり。ダブステップをディグりはじめたのって100マドくんのほうがたぶん早いんですよ。


Various
GOTH-TRAD Presents Back To Chill "MUGEN"

Back To Chill/Pヴァイン

Amazon iTunes

コンピレーションの中身についても訊いていきたいんですけど、いま話したように自分が本当に良いと思える曲を選んだのでしょうか? 具体的な選曲基準があれば教えてください。

GT:日本でトップ・クラスの曲を作っているアーティストが〈バック・トゥ・チル〉でプレイしていると俺は自負していて、そのなかから選んだと思っていて。

最終的な選曲のゴー・サインはゴスさんが出したんですよね?

GT:この曲は出したいっていうのは4年くらい前から言っていたよね?

E:ハハハハ、そうそう。

じゃあ古い曲とかも入ってるんだ?

GT:ふつうにありますよ(笑)。たぶん、100マドくんの “ヘヴィー・ウェイト・ステッパーズ”が一番古いんじゃないかな?

100マド(100mado以下、100):これ2006年とかの曲なんですよ。

●▲おー!

100:逆に“グライミー(Grimmy)”は一番新しいです。

“グライミー”では100マドさんが85BPMをやっていて意外でしたね。

GT:そこもさっき触れたように、ダブステップを一歩出たところをやろうよって3人で話して、俺とエナくんと100マドくんの曲は85BPMになっているんです。だからその3人の曲は比較的新しい。

聴いてみて、2006年の曲があるとは思わなかったな。

GT:例えば、1曲目のイントロっぽいダブトロの曲とかも去年できた曲で。ほかにも候補はあったんだけど、コンピレーションっていう感覚で集めたくはなくて。

一貫してストーリー性を持たせたかったということですね。

「コンピレーションという感覚で集めたくなかった」ってどういうこと?

GT:良い曲をひとりのアーティストから2曲集めてコンパイルしたというようにはしたくなかったんです。ダブトロの1曲目とカーマの最後の曲は、他にも良い曲はあるけどイントロとアウトロはこの曲でというふうに決めたんですよ。

E:ダンス・ミュージックのコンピレーションはシングルの寄せ集めというか、ツール的なトラック集というか。アルバムを作品として考えていないパターンがけっこう多いんじゃないかな。

どうして『MUGEN』というタイトルにしたんですか? 

GT:ハハハハ。それは軽い感じなんですけど、「8周年でTシャツ作んなきゃな〜」って夏前に考えていたら、「8って無限(∞)に見えんな。しかもムゲンってタイトルなかなか良いな」って思い浮かんで。英語でインフィニティってするよりもアルファベットで「MUGEN」のほうが良いなって思ってコレにしたんですよ(笑)。

E:そうなんだ、そこだったんだ(笑)。

GT:この3人ってバックグラウンドがちがっていて、いろんな音楽を通ってきているから、どっちの方向に進むのかわからない面もあって。例えば、パーティの最後にバック・トゥ・バックをやることになって、全然違うテクノをやろうってなっても対応できたりするんです。いろんなことができる面白みもあって、可能性も無限というか。

「ムゲン」はいろんな意味付けができる言葉でもあります。ジャケットのアートワークも夢幻の境地のようなテイストです。

GT:そのアートワークを手がけたのはパリのアーティストなんです。2014年の頭にツアーでパリの〈グラザート〉っていうハコでやったときに、イベントのプロモーターの彼女が俺のライヴ・セットを良かったって言ってきて。話を聞くと彼女はタトゥーの絵を描いているらしくて、絵も見せてくれたんです。それがすごく面白くて今後のために連絡先を交換したんですよ。それで今回のコンピのために描いてほしいとお願いしたら、「いまある絵はお店のストックだからあげられないけど、新規で書ける!」ということでやってくれたんですよね。彼女の絵には和の雰囲気がすごくあるのも興味深くて。

たしかに。

三田さんはこの作品を聴いてみてどうでした?

何回か聴いているうちに、「おっ、これなんだろう?」って必ず思うのが5曲目の100マドさんの“グライミー”なんですよ。正直、1、2曲目にはジャーマン・トランスの雰囲気があるなって思って。

GT:へー(笑)。

だから3曲目から聴きはじめるとかいろいろしてみたり。でも「ダブステップからはみ出したい」と言われてみると納得するところあって。いまってUKのシーンでも90年代のブレークビーツ・テクノをやり直したりとか、ダブステップがいろんなところを見ているでしょ。雰囲気はいろいろあるけど、でもイギリスのものだってわかるし。100マドさんに教えてもらって買ってみたポクズ&パチェコの『ザ・バングオーヴァー(Pocz&Pacheko,“The Bangover”,〈Pararrayors〉, 2009 ) 』とかは、ベースとかは軽いんだけど、ヴェネズエラって言われれば「そうか」と。フェリックスKのドイツっぽさもわかる。そういう意味で、『ムゲン』を聴いたときはひと言で言えば「日本っぽい」と思った。だから日本特有のジャーマン・トランス解釈じゃないんだけど、ダブトロさんの後半に入っている曲では、今度はレイヴっぽい音使いをしていたりするじゃないですか?  あの感じが他にはないと思うから特徴としてはそうかな。自分的には5曲目から入って6、7曲目といく流れがすごく好き。

GT:俺は、UKのやつらがやっているのばっかりを聴いていると飽き飽きとしてくるんですよ。

そうなんだ!

GT:日本って世界で各地から離れているから、アメリカもドイツのシーンも見るし。それと日本ってパーティにしてもヒップホップやって次の日はドラムンベースやってエレクトロをやるやつはたくさんあるけど、海外ってテクノはテクノ、ドラムンベースはドラムンベースってなっていて、雑多なイベントは存在しないじゃないですか? それは日本のすごく良いところだと思うんですよ。自然とみんないろいろ聴いて育ってきているし。それもあって今回のコンピレーションはこういう選曲になったんだと思いますね。

俺はゴス・トラッドがダンス・ミュージックにいった時点でびっくりしたからね。「えっ、ノイズじゃないの!?」みたいな。

GT:そうですよね(笑)。でも、2012年にアルバム『ニュー・エポック』を出してから自分のやってきたことを振り返って、いま、また昔のノイズのサンプルを引っ張りだしてきてそれで曲を作ったりしてるんですよね。

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「ノイズ/アヴァンギャルドとBTC」


ENA

俺はトラップはヒップホップだと思うから、ベース・ミュージックだとは言いたくないんですよね。ベースありきなのかもしれないけど、トラップはベースありきじゃなくていいというか。俺が思うかっこいいベース・ミュージックっていうのは、ベースがあってグルーヴがあって踊れるものというか。そこが重要だと思っているんですよね。

100マドさんとエナさんはダブステップにくる前は何をしていたんですか?

100:僕は京都でノイズ・グループのバスラッチなどでインプロをやっていましたね。京都って当時そういうカルチャーが根付いてたんですよ。

えっ、そうなの?

100:〈メゴ(Mego)〉とかの音響ブームのときに、大阪とかよりも京都の方が盛り上がってたんです。パララックス・レコードというお店があって、いわゆるアヴァンギャルド系はもちろん、ダブのレコードでもそういう観点で面白いものを聴いてみたりとか。初期の2ステップもジャングルも面白かったらなんでも聴い ていましたね。そういうところでバイトしていて、音楽の聴き方に20歳くらいのときにすごく影響を受けたんですよ。

じゃあ京都出身なの?

100:生まれは金沢で、大学で京都に出てきて5年くらいいました。自分の音楽遍歴をあえて言うなら、アヴァンギャルドとジャングルを並行してずーっと聴いていた感じです。東京に出てきたのは10年くらい前で、ちょうどそのときは自分のなかでダンス・ミュージック熱が下がっちゃっていて。当時代々木にあった伊東(篤弘)さんがやっていた〈オフサイト〉ってギャラリーとかに行っていて、当時流行っていた微音系を聴いていました。ホント鳴るか鳴らないのかわからない音を(笑)。

じゃあ現代音楽のほうにもいっていたんだ。

100:三田さんが『スタジオ・ヴォイス』に書いた「ひと通りシュトック・ハウゼンとかフルクサス系とか聴いたけど、入れこみ過ぎて離れていった」とかそういう記事も読んでましたよ。

全然憶えてない(笑)。

100:ダンス・ミュージックとアヴァンギャルド系ってけっこう聴き方は近い気がします。

GT:あったね。俺がガンガンにノイズやってたのってそのときだもん。ヒップホップのパーティとかでね。〈ノイズのはらわた〉ってイベントとか『電子雑音』って雑誌とかがあったときだよね。

100:そんな中2002年くらいって日本にオールミックス・ブームみたいなのがあって、シロー・ザ・グッドマンとかが出てきて。あとはヒカルさんとか、ケイヒンくんもそうだし、タカラダミチノブとか。あのへんはいかに違うジャンルのレコードを混ぜるかってチャレンジしてい 。ブレイクコアの次に演歌がきて、演歌の次にサーフロックがきて次にテクノいきますみたいな(笑)。そんなときにデジタル・ミスティックズとかスクリームのミックスをネットで聴いたら、全曲がBPM140で、しかも自分と友だちの曲しかかけてなかったんです。すっごく狭い感じがしたんですよ (笑)。日本では、ディグる&混ぜるセンス競争みたいなものがあって、それに対してむこうで起きていることは正反対というか、点でしかないっていう(笑)。

そうだよね。

100:それが逆にすごくショックで。最初のときは、「このひとたち音楽を知らないのかな?」って思いました。

スクリームが来日したときにまったく同じことを聞いたら、テクノを聴いたことないって言ってたな。本当に知らなかったみたいだね。

100:ピンチとかはテクノなど幅広く聴いていて、マーラはレゲエに詳しいけど、シローくんみたいなごった煮感は誰も持っていなかった。けど逆にそこが面白かったんですよ。

めちゃくちゃ詳しいか全く知らないかのどっちかだよね。

GT:さっき俺が言った、レコードをひたすら集めるか、自分でレコードを作るかの違いですよね。そこで「コイツ、ハードコアだな」って思ったり。ダブステップをディグりはじめたのって100マドくんのほうがたぶん早いんですよ。100マドくんはブラックダウン(Blackdown)とかを日本に呼んでいたもんね。

ブラックダウンが日本に来たときに100マドさんとゴスさんが初めて絡んだんですよね?

GT:ちょうどそのときにパーティをはじめようと思っていて、日本で同じことをやっているやつはいないのかとネットを探しているときに100マドくんを見つけたんですよ。それで俺が連絡して、「今度DJするから会おうよ」って。

彼のレーベル〈キーサウンド・レコーディングス(Keysound Recordings)〉がはじまったのが2005年なのでかなり早くから注目していたんですね。

100:その来日が2006年です。そのときブラックダウンはダブステップに詳しい音楽ジャーナリストみたいな感じだったんだけど、ブログに「日本に旅行に行くから、ジャパニーズ、誰かブッキングしてくれって」って書いていたんですよ。それで「僕がやる!」って返事をして。

GT:当時100マドくんとは「このレアなやつ知ってる?」「知ってる!」って話をしたりね(笑)

レアなやつをちょっと挙げてみてくださいよ。

100:よくノイズの話をするときは、ザ・ニュー・ブロッケイダーズですね。

GT:ニュー・ブロッケイダーズやばいよね。

なるほど。その話は掘り下げなくていいです(笑)。

GT:ハハハハ。「〈ワードサウンド(WordSound)〉のサブレーベルの〈ブラック・フッズ(Black Hoodz)〉の10インチのやつ知ってる?」とかね(笑)。

なるほどね。ではエナさんは?

E:俺はアブストラクト・ヒップホップですね。ヒップホップからアブストへいきました。でも90年代にはジャングルとドラムンベースがあったので、そこからUKのほうを聴きはじめて。俺はどっちかっていうとドラムンベースなんですよ。

じゃあ唯一ずっとダンス・ミュージックなんですね?

E:もちろんIDMとか音響みたいなものは好きでしたけどね。

そこは作品からも感じる。

E:だからダブステップへの入り方が違うかもしれないですね。2005、6年とかにペンデュラムとか〈サブ・フォーカス〉とか商業的なドラムンベースが 出てきて飽き飽きしていたときに、UKアンダーグラウンド直球のデジタル・ミスティックズやスクリームを聴いて興味を持った感じです。

ドラムンベースからダブステップへ乗り換えた意識が確実にあるわけだ。

E:ずっと並行してやっているんですけどね。ダブステップと同時に、2008、9年にロキシー(Loxy)とか〈オートノミック(Autonomic)〉とか面白いドラムンベースも出てきたので完全に乗り換えたつもりは全然ないんですよ。

また最近ダブステップとドラムンベースが近づいた印象がありますけどね。ダブ・フィジックス(DubPhizix)とかサム・ビンガ(Sam Bingaを聴いていると近寄ってきたかなって。

E:どうなんですかね。でもあれはFootwork的なアプローチだと思うし、だからダブステップのひととリンクしている感じはないんじゃないかな。

GT:ドラムンベースのあとにできたダブステップがあって、ドラムンベースのひとも別名儀でダブステップを作るし。

エイミットはややこしくて、ドラムンベースでトロニック名義を使ったりしてるしね。

GT:ですよね。でもそのへんってUKのベース・ミュージックの根本的なところになっちゃったし、アーテイスト間の繋がりも強いからそのふたつを分けている感はないというか。

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「ベースであってベースでない」

「EDMほど俺はバカ騒ぎしないぜ! でもダブステップは男塾すぎる。俺はもうちょっとハウスなんだよね」みたいなひとがベース・ミュージックって言っているのかなって。


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さっきゴス・トラッドが「UKのものばっかり聴いていると飽き飽きとしてくる」って言っていたけど、ゴス・トラッドが出てきたのはUKじゃないですか?

GT:はい。

それはUKのシーンに対するアンビヴァレンスな気持ちがあるからなんですか? それとも本当にいまのUKはダメということ?

GT:いや、そういうわけじゃないです。例えば、UKダブステップがあって、「次はブローステップだ!」っていうとこのアンサーみたいな感じでダンジョ ン・スタイルと言われるダブステップがバーンと出てきて。 またみんな似たようなダンジョンの曲を作っちゃって。 そういう状況が、俺からしたらどっちも同じみたいな。さっき言ったのはUKだからってわけでもなくて、ひとつのものに一瞬火がつくとみんな作っちゃうっていうね。そうなっちゃうとつまんないなと思うというか。

それだけ出せるのがすごい気がしちゃうけどね。

GT:そうなんですけどね。そういう意味で、「ドラムンベースがつまんなくなった」ってエナくんが言っていたけど、自分もジャングルからドラムンベースを聴いていて、初期は面白かったけどだんだん型にはまっていって、なんかつまんなくなったなと思っていたのもあるし。アブストラクト・ヒップホップもはじめは歌モノが出てきたりとか、インダストリアルっぽいものが出てきたりとか面白かったけど、だんだんみんなコピーするのが上手になってきちゃう。最終的にはアブストラクトなSEが鳴っていて、そこにロー・ビッドなビートが入ってくれば良いみたいな雰囲気になったじゃないですか? それで「あー、面白くないな」って思ったんですよね。

同じことをいま、ダブステップに感じているってことなの?

GT:そう感じている部分もあるんだけど、やっぱり信用できるアーティストは面白いものを作るんですよね! 去年のクロアチアでの〈アウトルック・フェスティヴァル〉で〈ディープ・メディ〉のステージとかでやっても、カーンとかコモドとかはすっげえ変な曲を作っていて、「良いアーティストは面白い曲作んなー!」って思うんですよ。

そうだよね。去年〈ディープ・メディ〉から出たKマンの“エレクトロ・マグネティック・デストロイヤー”とか買おうか本当に迷ったもん。

GT:そうですよね。だからシーンそのものがっていうよりも、アーティストによる話だと思うんですけど。

最初の質問の「なぜいま〈レーベル〉なのか?」という質問に関連するけど、シーンを俯瞰してみるとやっぱりダブステップも紆余曲折があって、そのなかで〈バック・トゥ・チル〉が目指した良い音楽がここにあるとは思う。だけど、そういう意味ではみんながいろいろやっているじゃない? 例えばピンチは〈コールド・レコーディングス〉をはじめてテクノをやってみたりとか、さっき言った90年代回帰してバック・トゥ・ベーシック的になってみたりとかね。そういうシーンのなかで、何を思ってレーベルをはじめたんですか?

GT:俺が思う本物のベース・ミュージックをやりたいんですよね。

その「本物」って?

GT:ベース・ミュージックとかEDMとか言葉が出てきてごちゃーとしちゃって、いまってそれをさらにシュレッダーにかけた状態じゃないですか。で、俺はテンポ感覚とかって関係なくなっちゃっていると思っていて。パーティとしてはジャンルを付けたいのかもしれないけれど、〈バック・トゥ・チル〉に関しては関係なくやりたいと思っているんですよね。本当に良いベース・ミュージックというか。
 例えば、俺はトラップはヒップホップだと思うから、ベース・ミュージックだとは言いたくないんですよね。ベースありきなのかもしれないけど、トラップはベースありきじゃなくていいというか。俺が思うかっこいいベース・ミュージックっていうのは、ベースがあってグルーヴがあって踊れるものというか。そこが重要だと思っているんですよね。

あんまり跳ねるの好きじゃないでしょ? トラップもそうだし。

GT:うーん。トラップって雰囲気の低音なんですよ。ベース・ミュージックというよりは低音が鳴っているだけというか。

100:ベースラインがないんだよね。

GT:そうそう! 俺はやっぱりレベル・ファミリアで秋本(武士)くんのダブのベースを聴いてきて、ダブを通過したひとの奥深さがやっぱり自分にフィードバックされているんです。UKの子たちのすげえ曲って、レゲエとかを通過しているというか。日本のプロデューサーが持ってくる曲を聴いて感じるのは、やっぱりそこのセンスがちょっと足りていないように聴こえるんです。雰囲気の低音は鳴っているし、上もちゃんとプログラムされてメロディもちゃんと乗っているんだけど底がないというか。そこってすごく重要だけど、一番わかりづらいんです。

日本で行われている〈アウトルック・フェスティヴァル〉で〈バック・トゥ・チル〉のクルーを見ていると、他の日本のアーティストのなかで、レゲエっぽさが全面に出ていないという意味で、浮いている印象があります。でも、そのレゲエっぽさがあまり感じられないから、僕は〈バック・トゥ・チル〉が好きだと感じる部分もあるんですよ。

GT:俺が秋本くんとレベル・ファミリアをやっていて考えていたのは、わかりやすいレゲエっぽいベースのところを一番聴いてほしいわけじゃないんですよ。例えば、いわゆるレゲエのベースラインのところじゃなくて、一番ドープなところはワンコードで「ドゥー、ドゥー、ドゥー、ドゥー」って潜って行くところだったり。実はそこが一番ヤバいダブのベースっていう認識ですね。テクノでいう盛り上がってからキックとベースだけに戻ってくるところが一番かっこよくて、「うぉー! きたー!」ってなるじゃないですか?

おー、なるほど。

GT:レイヴとかでも、「わー」ってなって、上モノが一切なくてキックとベースだけになったスッカスッカなところが一番グッとくるんですよ。

俺はS-Xの“ウー・リディム(“Woooo Riddim”,〈Butterz〉,2010)”みたいにリズム・トラックだけで成立する曲がすごく好きなんですよ。そういうところか聴くと、〈バック・トゥ・チル〉は上が多いと思う。雰囲気を作る曲というか。

100:ジャーマン・トランスだ(笑)。

だからもっとリズムだけで勝負できる曲があってもいいと思う。

GT:たしかに今回のコンピレーションはそうかもしれないですね。ただ、アルバムとして考えたときに、やっぱそういうアップ・ダウンが欲しかったんですよ。

全体的にイントロっぽい曲が多いなと思ったんですよ。1曲目のもつイントロとしての感じもわかるけど、8曲目でもどこから入ってもはじめられそうな気がするので、いまいったようなリズムだけで攻められる曲があったら嬉しいなという感じはあります。

GT:なるほど。でも自分はそういう意味でドラムとベースの良さが出ている曲をやりたいんですよ。

そこは日本人が一番理解していないところだと思うんだよね。

GT:やっぱり日本人って上モノのキラキラさとか、前に出ているドラムとかに反応しやすいんですよ。だから音数が多くなったりするから、余分なパーカッションを減らして、その隙間のグルーヴをベースで動かしたりしたほうがいいんじゃないと思うことが多いので。

Jポップを聴いていても本当にリズムが関係ないと思うしね。そこを聴いているひとがいないというか。俺は日本からあるリズムのジャンルが出たら絶対にすごいと思う。なんだかんだ言ってもいままではお手本があってやってきたでしょ? ダブステップやジュークもそうだけど、日本発のリズムってないじゃないですか? これはやってほしいよね。

E:この前話していたんですけど、ゴスさんも最近やっている85とか170のドラムンベースのテンポで、ダブステップとかけ離れた感じの曲をヨーロッパでDJとして現場でやっているひとがけっこう少ないんですよね。

GT:BPM85の遅い4つ打ちってある意味、ヒップホップのテンポなんだけど、ドラムンベースのグルーヴにもノれるし、隙間もあるからダブステップ的な良さもあるというか。だけどテンポ的には全然違うというか。それでミニマル・テクノみたいなアプローチもできつつっていうのがこの3人で流行っていて(笑)。

E:そういう曲を海外でかけているひとが少なくて、ゴスさんと「ヨーロッパで実際にかけてみてどう?」っていう話をしていたんですよ。反応はよくも悪くもイベント次第なんですけどね。ゴスさんと俺がヨーロッパで出るパーティって全然違うフィールドでのブッキングだからそこでの反応も違うけど、去年の10月のヨーロッパ・ツアーでは「どうやって踊るかわからないけど楽しかった!」っていう良い意見があったんですよ。

おっ! 日本発いくか?

GT:そういうことをパーティを毎月やっているわけだから、試しながらできるわけですよ。

なるほど。そのリズムが〈バック・トゥ・チル〉のテーマだということはベース・ミュージックのひとつの解釈として面白い話だと思います。

GT:それが日本発になるのかわからないけど、やらないとどうしようもないというか。そういう意味で現場があるのはありがたいです。それを作ってキープしていかなきゃいけないし、それを裏で話していくことはやっぱり大事だなと思います。若い子たちも「ゴスさん、最近変なテンポやってますよね? 僕も最近作ってみてて」っていうひとがけっこういるんですよね。狭いながらそういうコミュニティも作っていきたいから。

その小さいコミュニティがもっと大きくなってほしいとは思いますか?

GT:もちろんそうですね。まずは、実際に作品をリリースしなきゃいけないと思うから、今新しいアルバムも作っているんですよ。「こういうBPMで、こういう曲をやってみんなで楽しんでいます」って文章にして書きたくもないとうか(笑)。

そりゃそうでしょ(笑)。

E:でもいまみたいな感じになったときに、最初にこれをやろうって相談があったわけじゃなくて、基本的にみんな勝手にやってるだけなんですよね。この3人も音楽的に共通する部分があるようでないのかもしれないから、自由にやっていて面白いと思っている部分がリンクしただけというか。

GT:100マドくんとかはBPM100の曲をずっと作っていて、それを「85まで落としてみたら?」って薦めてできた曲が“グライミー”なんですよ。

100:そうそう。これはもともとBPMが100だったんですよ。

さっき秋本くんの話も出たけど、ジャマイカの音楽ってたとえ実験的でも大衆音楽じゃないですか? キング・タビーを誰が良いかって言ったというと、まずはそこで踊っているファンであって。

GT:それはすごくあると思うけど、それをわかり易くするために自分のやりたくないことやるかってなると別なんですよ。さっき言った遅いビートにイケイケのドラムンベースをミックスしたらわかってくれるんじゃないかとか(笑)、そこまではやりたくないんですよ。でも、何かしらのきっかけみたいなものは自分でセットを作っていますけどね。チルな部分とアガる部分をイメージしながらやっています。でも、日本の場合だと作品を出してからなのかなと。

〈バック・トゥ・チル〉は、高橋くんの世代にもちゃんと伝わっているの?

ひとつ言えることは、僕は〈バック・トゥ・チル〉は先鋭的なことをやっていて好きだけど、日本のベース・シーンと言われるもののなかで、他に良いと思えるものがあまりないというか。それはベース・ミュージックという言葉の使われ方にも表れていると思います。〈バック・トゥ・チル〉で使われているような意味とは別に、「ベースが鳴っていればOK」みたいな解釈でその言葉を捉えているひとも多いですからね。深い解釈も安易な解釈もあるから、僕は文章を書くときは「ベース・ミュージック」って鍵括弧付きで使うんですよ。

『ベース・ミュージック・ディスクガイド』というカタログ本も、ダブステップもマイアミ・ベースも同じ「ベース」という解釈だったよね。そういう認識なの?って思ったけど。

100:ベース・ミュージックって言葉が出てきたとき、ゴスは最初っから批判的だったよね。「ベースがない音楽ってなくない?」みたいな。

GT:いま適当に思い付いた名前だけど、〈ベース・アディクト〉みたいなパーティってたくさんあるじゃないですか(笑)? そういうパーティって4つ打ちのエレクトロとかもベース・ミュージックに入っちゃうんですよね。

100:いままでだって低音がない音楽がなかったわけじゃないもんね。

GT:そうそう。だから、「これをベース・ミュージックっていうと全部じゃん」ってね。

現在のタームでいえば、「ベース・ミュージック」って言葉はイギリスから広まったんだよね。ダブステップっていう言葉を使いたくなくなったときに、その言葉が出てきた感じがしたな。俺はダブステップよりもグライムが好きだったんですよ。そういうときに「ないまぜ」というか、ベースって言えば済むかなってなった気もしますね。

GT:それはあるかもしれないですけど、ひと括りになりすぎている感じもあって。

100:言葉として便利すぎるというか。ダブステップからディープで暗いところを切り離したいひとたちが言葉を広めた印象が当時はありました。ブローステップだったりトラップも同じ感じで、ダブステップのアンダーグラウンド感が自分たちには違うなってアーティストが使いたがっているんだろうなと思いますね。

逆にダブステップがEDMみたいなものになっちゃったから、アンダーグラウンドのひとたちが前向きにベース・ミュージックって言葉を使っているのかと思っていたな。

100:もちろんそういう前向きな意味がある一方、「EDMほど俺はバカ騒ぎしないぜ! でもダブステップは男塾すぎる。俺はもうちょっとハウスなんだよね」みたいなひとがベース・ミュージックって言っているのかなって。でも、そういう〈ナイト・スラッグス(Night Slugs)〉とか〈スワンプ81(Swamp81)〉みたいな格好いいレーベル以外のひとも、ベース・ミュージックって言葉をトレンディに使いやすくなっていて意味がわからい状況になっているんじゃないですかね。

GT:いまとなってはベース・ミュージックもなくなってきたんじゃない? UKの俺も周りのやつとかはサウンドシステム・ミュージックって呼んでますね。

100:それはベース・ミュージックと線引きしようとしてるんじゃないの(笑)?

GT:なるほどね。でも、実際に〈バック・トゥ・チル〉はサウンドシステムを入れてやっているからね。

まぁでも、秋本くんとゴス・トラッドが揃うと男塾っぽくなるよね(笑)。

GT:ハハハハ!

このコンピレーションにも女性はいないんでしょ? わりとドラムンベースでは踊るのが好きな女のひとが多いじゃない? そのなかから作るひとが出てこないんですかね。

GT:あんまりいないですね。

100:いてもやめちゃうケースが多いかな。

E:まぁでも作る側のひとはどのジャンルもそうじゃないですか?

海外は女性で作るひとが増えてきたよね。

日本でも何人かいますよね。

GT:最近はソフトウェアからアナログに戻っている感じがあるじゃないですか? パソコンでプラグインを使ってやる作業が苦手な女のひとって多い気がするんですよ。でもドラムマシンで打ち込んでいくのはできると思う。エレクトロ・パンクのピーチズはローランドのMC-505一台で作ったって言ってましたね。

E:キョーカさんはわりとアナログ派ですよね? 年明けのライヴもものすごく良くて。いままでのメランコリックな部分がなくなって、〈ラスターノートン(Raster-Noton)〉で一番暴力的な感じになったというか。

彼女はリズムが弱いかなと思っていたから、ドローンをやればいいと思ってた。

E:そっちじゃなくてまさに暴力的な感じにいきそうな気がしましたけどね。年明けのハッピーな雰囲気をぶち壊してましたよ。

ダイヤモンド・ヴァージョンの影響なんじゃない?

GT:いまはインダストリアルの音がすごくきている感じがあるから、ダブステップでもそっちっぽいやつがあるんですよ。いまのコモドもバキバキな音ですよね。ディープなダブステップなんだけど、鳴っている音はインダスっぽいっていうか。この前マーラがかけていたダブもフランス人って言っていたけど、昔の〈ワードサウンド〉みたいにダークなんだけど鳴っているキックとスネアがインダストリアルみたいで、さらに音がスカスカというか。

エンプティセットみたいなではなく?

GT:ああいうパキパキな感じの音じゃなくて、音に丸みはあるんだけど歪んでいるみたいな。

タックヘッド(『テクノ・ディフィニティヴ』P95)とか?

GT:雰囲気的にはそういう感じはしますね。マーク・スチュアートのようにハードコアなんだけれども、アナログ的な丸みがあるというか。

ダブが現代的にちゃんとアップデートされている感じなんだ?

GT:うん、そうれはありますね。

去年〈トライ・アングル〉からリリースされたSdライカ(Sd Laika)の『ザッツ・ハラキリ』は、ゴスさんがノイズをいまも続けていたらこうなっていたかもな、と思わせるような作品でした。いろんな音がサンプリングされたノイズ音にBPM140のビートが入ってきたりするんですよ。

GT:エイフェックス・ツインがこの何年かで面白いと感じたのはSdライカって言ってたね。

そうなんですよ。ガンツもそのアルバムを評価していました。Sdライカとゴスさんの曲を比較してみると、Sdライカにはビートが少しリズムとぶれたり、音がチープな感じになっていたりと「軽さ」みたいなものがあるんですよ。これはゴスさんの曲などではあまり見られないと思うんですが、こういう表現にも興味はありますか?

GT:うーん、「軽さ」ね……(笑)。

俺が最初にジャーマン・トランスっぽいと思ったのは、2013年に〈ディープ・メディ〉からでたゴス・トラッドの“ボーン・トゥ・ノウ(Born To Knoow)”ですよ。あの盛り上がるところにジャーマンっぽさを感じたんですよ。「軽さ」ではないかもしれないけどね。

「軽さ」のイメージでいうと、アントールドが〈ヘッスル・オーディオ〉から“アナコンダ”を出した感じに似ていますかね。

E:シリアスさが薄いというか、そこの微妙なバランスだよね。

ちなみになんで“ボーン・トゥ・ノウ”だったんですか? 気になるタイトルですよね。「何かを知るために生まれてきた」って何なんだろうって思って(笑)。

GT:もう雰囲気ですよ。まず最初に、他にはないタイトルをつけようと思っているから、「ボーン・トゥ・ノウ ダブステップ」で検索して出てきたらナシなんですよね(笑)。

あと、さっきのパチェコ(※ヴェネズエラ出身、スペイン在住のアーティスト)のコンピレーション・ミックスにエナさんと100マドさんが入っている理由も気になりました。

GT:このきっかけは100マドくんとパチェコが出したスプリット・アルバムを2009年に出して繋がっていくんだよね。

E:俺はその作品でリミックスとマスタリングをやってるんですよ。それで自分の曲がミックスで使われたのはパチェコとやりとりしていた縁ですね。

100:それで僕らの曲が入った感じです。もういまはこのパチェコもポクズもスペインにいて。

E:ヴェネズエラは治安が悪すぎてって言ってましたね。

チャンガトゥキ(※アルカも影響を受けているヴェネズエラのゲットー音楽)やクドゥロ(※アンゴラのダンス音楽)のコンピを買ってもこのひとたちは入っているから。ワールド系とダンス・ミュージックが混ざったところには必ずいるっていう(笑)。

100:もういまは名前も変えちゃって、昔のクリアーみたいなエレクトロをやっているんですよ。あそこまではビート感はないですけどね。

でも彼らの曲ってベースが薄いんだよね。

100:そうなんですよ。いまはより一層ベースがない感じです(笑)。

E:そのコンピに入っているカードプッシャー(Cardopusher)はいまは〈スワンプ〉っぽいエレクトロみたいな感じなんですよ。

GT:けっこうみんなどっかに行っちゃった感があるよね。なんか俺はさっき言ったような曲を去年はずっと作ってたけど、もう一度いわゆるダブステップというものを見直して年末くらいに1曲作っていました。それを送ったら反応が良くて、こんど〈ディープ・メディ〉からまた12インチを出すことになったんですよ。自分のなかで6〜7年はどっぷりで、時間もなかったからとりあえずBPM140のダブステップを作って、リリースに備えて、ツアーに出てという繰り返しで他を見る感覚もなかったんです。おととしくらいからまたいろいろ聴き出して面白くて別のテンポのものを作りはじめたというのがあって、また一周してダブステップが作りたくなったというか。ベースはそこにあるから、そこを進化させたかったというのもあるし。ダブトロとかはそれ一本で作っているし、海外の〈アウトルック〉とかに行くとやっぱり面白いものは生まれているって感じるんですよ。そこで曲を送って繋がったりっていうのをこれからも続けなきゃなと思いますね。

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「ハードかつゆるくやりましょう」

これからも本当に面白いものが出てくると思います。自分的にはすげぇ多くのことに興味があるんですが、生の音楽の音自体にすごく興味があって。この前、ドライ&ヘヴィーのミックス・ダウンをやって、やっぱこれが自分のダブだなっていうのをすごく感じたし。ロック・バンドのミックス・ダウンもやったりしたし、いまはノイズ・コアのバンドのリミックスをやっていたり、そっちも面白いなって思っているんですよね。


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ちなみにレーベルとしての今後の予定はありますか?

GT:ダブトロや100マドくんは最近リリースがないから、できたらEPみたいなものを出していきたいなというのもあるし、自分のアルバムを〈バック・トゥ・チル〉から出したりとか。レンチのドラマーのムロチンさんとやっているバーサーカーや、あと今年はレベル・ファミリアでも曲をつくっていこうと思っています。
 みんな個人でたくさん動いているけれど、さっき言っていたみたいに、ここに居場所を作るっていうのは良い目標になるというか。ダブステップのダブプレートを作ってそれをかけることは面白いけれど、じゃあその行き着く先は何なのかっていうのがなきゃいけないというか。もちろん現場があることも大事なんだけど、その先にリリースという目標がパッケージを作っていく方がアーティストにとっても良いことだし。そういうものを「場」として作れたらなと思うんですよね。

じゃあ、12インチのリリースも考えているの?

GT:そうですね。いまアナログはむずかしいけど、少ない数でやりたいですね。

昔からそれは言っていたもんね。アナログは売れてるっていうニュースが入ってきたり、その逆の情報が入ってきたりどっちにいくんだろうとは思うけど。

GT:UKの大手流通会社のSTホールディングスもなくなりましたもんね(※ele-king Vol.15 P92参照)。〈ディープ・メディ〉もそことやっていたから一時期は浮いちゃって、結局はクドス(KUDOS)っていうところが動いてくれて落ち着いたんですが。

E:STのひとが、いまアンアースド(Unearthed Sounds LTD)を立ち上げてそこの引き継ぎをやってはいますけどね。

イギリスもアメリカも5年連続でアナログ盤の売り上げは増えているらしいからね。だから配信とアナログが伸びているから、分が悪いのはCDなのかなって気はするけど。

E:まぁ、レコードの売り上げが伸びているって言っても、売れているのはクラシック・ロックの再発とかですから。

100:ダンス・ミュージックは300枚とかのプレス量だもんね。

E:そうそう。メジャーがたくさん出すから、プレス工場が忙しくなって小さいレーベルの発売が遅れそうになったりでみんな文句を言っているのが現状なんですよ。

ビートポートの発表によると、同サイトのなかでダブステップは全ジャンルのなかで一番売り上げが少ないというのが発表されましたけど、それは単純にリリース量が少ないからですよね?

E:それはビートポートではテクノはEDMやエレクトロとかも指しているしね。だからそういうのに比べたら少なくて当然なのかなと。

そういう状況を反映して何が起こるのかと言うと、リリース量が少ないからみんな買うものが似てくるじゃないですか? 自分で曲を作れるひとは、オリジナル曲で自分のDJセットに幅を作ることができるけど、そうじゃないひとのセットが似通ってつまらなくなる傾向があると思います。〈バック・トゥ・チル〉のように曲が作れるひとが多いパーティでも、イプマン(Ipman)の“パーシステント・ドレッド(Persistent Dread)”がリリースされたときに、ちがうひとが2回かけていたこともありました。

GT:ハハハハ。それはある意味初期に戻っちゃっているよね。最初はリリース量が少なすぎて、みんな同じ曲を3、4回かけるっていう(笑)。

そういう状況のなかで別ジャンルの曲とダブステップを混ぜられる、もしくはひとつのジャンルの曲をしっかりと紹介できるスターDJ的な存在がいないことが日本のベース・シーンの弱さなのかなと思います。UKにはベンUFOのようなアーティストもいるわけですが、ゴスさんはそういう存在にはなりたいとは思わなかったんですか?

E:要するにジャイルス・ピーターソンみたいな存在ですよね。

GT:そういう存在がUKにはいるよね。ダブステップならばヤングスタやハッチャがそうだし……。さっきも言ったように、俺はずっと自分の曲でライブをやってきて、DJを本格的にはじめたときもまずは自分の曲を中心にかけたかったから、100枚のリリースを聴くよりもまずは曲を作ろうと思ってきたかな。

〈バック・トゥ・チル〉で曲を作らないDJをひとり育てたらどうですかね?

GT:DJをやっていて自分では曲を作らないけど周りに曲を作っているっていう子とかには、友だちの曲を使いながらDJをする宣伝役的な立ち位置になったらいいんじゃない、とかアドヴァイスしますけどね。そこで「曲を作らなきゃダメだよ!」とまではDJには役割があるから俺も言いたくはないですから。実際UKには、曲はあまり作らないDJ職人みたいな存在がいて、彼らの元にはどんどん新譜やダブプレートが送られて来るんです。ラジオや現場でいち早くプレーしてくれるから、すごく良いプロモーションにもなる。そういうDJは、UKのアンダーグラウンドシーンでは重要な存在になってますね。

〈バック・トゥ・チル〉は変わっているんだよね。日本ではテクノもハウスも、作るひとが少なくてDJが多いから、逆に言えばシーンをプロモートしていくことには長けていたのかも。〈バック・トゥ・チル〉はみんな曲を作るからさ。それはゴス・トラッドの意向なの?

GT:パーティをプロモートするためにオーガナイズをしているんじゃなくて、新しいことをやっているひとを集めることが目標というか。そういうのって常に作っているひとじゃないと持ってこれないじゃないですか? 「買う」っていう手段はあるけど、もっともっとエクスクルーシヴなものになるには、作っている側が集まってそれをプレイする空間を作りたいんだけど、その考えって一般のひとからするといきすぎちゃっているのかなって(笑)。

E:でも〈メタルヘッズ〉の〈ブルー・ノート〉での〈サンデー・セッション〉の例もあるし、あれも90年代にみんなプロデューサーがその日のためにダブプレートを切ってやってましたからね。

GT:そうだね。そこが基本的にはコンセプトだけど、たださっき言ったみたいに幅の広いDJがひとりいてもいいかなとは考えます。だからはじめの3年とかハードコアにそのへんにこだわってたよね?

100:うん。こだわってた。

GT:だけどこの3年くらいは本当に良いDJだったら入れたいって考えてるかな。

100:会場を〈サルーン〉から〈エイジア〉に移した2008年くらいからダブ(プレート)とかじゃなよねって言うようになったよね。

GT:そういうのを言っていたら100マドくんとかに「出たいひとはたくさんいるんだけど、そういうところが厳しすぎる」って言われて。

E:〈エイジア〉に移ってから、ケイヒンくんとかリラくんとか出てたもんね。

GT:そうだよね。曲は作っていなかったけど通ずるものはあったからね。

パーティの歴史を見ていると、〈サルーン〉時代は鎮座ドープネスや志人などのヒップホップMCが出ていていまよりも幅があったと思うんですが、それは方向性が定まっていなかったからですか?

GT:あのときは単純に俺やSKEはルミのアルバムをプロデュースしたりとか、スカイフィッシュもダブステップを作っていた数少ないプロデューサーのひとりだったから。

最初は試行錯誤をしていて、次第に男塾的な厳しさが出てきてしまったわけでしょ?

GT:はじめのほうが逆に厳しかったんですよ。でもそのときはダブステップに興味を持っているひともあまりいなかったから、近いアーティストに出てもらっていたんです。ルミや鎮座ドープネスは近かったしMCものせられて良い意味でブッキングしやすかったというか。

100:結果的にごちゃ混ぜ感が出たのが初期だよね。

GT:〈エイジア〉に移った2008年くらいからは、ダブステップを意識して入ってきた良いDJもいたし、曲を作るひとも増えてきたんだけど、2010年くらいにはみんな飽きてやめちゃうんですよね。「ファンキーのほうがモテる」とかさ(笑)。だからブッキングできるひとも減っていったんです。

飽きるのが早いよね。

E:音楽のスタート地点がダブステップという世代も出てきて、そこで寿命が短かったというのはあるよね。

GT:そこで踏ん張ってやるやつとやらないやつが出てきて、ダブトロとか踏ん張ったよね。あいつは〈バック・トゥ・チル〉に出たくて大阪から上京してきた んですよ。俺とマーラが最初に大阪にツアーで来たときに初めて観たらしくて、そこからダブステップも作りだして。初めてデモを貰ったときも、「まだクオリティは低いけど、なんか光る部分はあるよね」みたいな。このふたりは「うーん」って言ってたけど(笑)。

100:めちゃくちゃゴスっぽい曲があったのを覚えてる(笑)。

GT:でもみんなアドバイスしていったら、だんだんと良くなってイギリスで12 インチをリリースしたりとか。それの積み重ねでいまがあるから、1年や2年でできるものじゃないですからね。

そうこうしていたらモーニング娘。や氷室京介もダブステップやってるもんね。

GT:飛行機に乗っているときに邦画が観たいなぁと思ってたらやっていたんですよ。

同じやつだな。エンディングでしょう?

GT:そうそう!

ダブステップだと思って聴いてたら歌が入ってきたから(笑)。しかも歌い方が演歌だからさ(笑)。

GT:まさに同じですよ(笑)! なんて映画だったかな……(※三池崇史監督『藁の楯』主題歌:氷室京介“ノース・オブ・エデン”)。

100:野田さんと三田さんはテクノのシーンをずっと見ていたわけじゃないですか? ダブステップとかだと、ダブステップから入ったひとが、ブローステッ プへいってファンキーとかも気になりつつ、ムーンバートンへいってトラップへいって、ジュークへたどり着きいまはヴォーグかなっていうパターンがあったりするんですよ (笑)。鞍替えしまくって、「最新のキーワードを持っているのは俺だぜ!」みたいな所有感競争というか。テクノとかハウスってそうやってス タイルを変えてきたひとって黎明期にいたんですか?

いたけど残ってないよね。いまコアなシーンに残っているひとはやっぱりみんな同じコンセプトを続けているんじゃないのかな。

ケン・イシイなんかはイビサDJになっちゃったけど。随分最初とちがう、みたいな。

ころころ変えて、商業的に成功している人はいるよね。

どんなジャンルを見ていても思うのが、だいたいどんなジャンルでも15年目で迷うひとが多いよね。ボブ・ディランとかもそうだけど、10年は勢いで揺るがないでやるんだけど、15年目に流行のものを追っかけて失敗するひとが多いなって。だけど、20年続けたひとは頑張って元に戻った感じがある。

GT:俺はちょうど15年ですね。

じゃあいままさにだね(笑)。

どんなひとでも15 年から20年が正念場かなぁと。ボブ・ディランの例とか見ていると、ジョン・レノンは1980年に殺されていなかったとしても、乗り切れなかったんじゃないかなって気もするし。『ニュー・エポック』を出す前に印象だったのが、ゴスさんはダブステップに本当にハマっていたじゃない? そのときはポスト・ダブステップが出てきて、ダブステップが迷っているときに出したくないから、ダブステップが最初のダブステップに戻れたときに出すって言ってたよね。それで本当にその通りになったから納得したんだよ。さっきもすごくダブステップっていう言葉にオブセッションを感じるくらいだから、そのこだわりはずっとあるんだろうなって感じるね。

GT:そうですね。これからも本当に面白いものが出てくると思います。さっきのSDライカみたいなアプローチもあるしね。自分的にはすげぇ多くのことに興味があるんですが、生の音楽の音自体にすごく興味があって。この前、ドライ&ヘヴィーのミックス・ダウンをやって、やっぱこれが自分のダブだなっていうのをすごく感じたし。打ち込みを散々やってきたけど、音の厚みとか生のベースの音圧ってやっぱりちげえなとか、去年の後半とかは感じなおしたりしました。ロック・バンドのミックス・ダウンもやったりしたし、いまはノイズ・コアのバンドのリミックスをやっていたり、コラボレーションの話もいろいろあったりとか。そっちも面白いなって思っているんですよね。

僕もノイズはいまも聴いているけど、昔よりも呼吸が短くなってきていると思うのね。ジャーってなっているときにそれに合わせて呼吸をしていられなかったんですよ。でも最近は切れ方が早くなったんだよね。アンビエントをやっている伊達伯欣とかの話を聞いていると、ダンス・カルチャーを通ってからアンビエントをやっているから、どこかで踊りのセンスがあるんだよね。踊らないひとがアンビエントをやると身体性が全然ちがうからキツイっていう(笑)。

GT:ノイズとかインプロの世界って、一時期は本当にクローズドマインドだったじゃないですか? 「お前ダンス・ミュージックを通過してんの?」みたいな。自分はそれを通過してノイズをやっていて、当時そういうのを感じてたけど、逆にいまは、そういう雰囲気は無くなったよね。

ギリシアから出てきたジャー・モフは、ビートがないのに踊りを感じさせるから俺はすごいと思った。しかもギリシアは経済的に破綻したのにアルバムのタイトルが『経済的に裕福』っていうタイトルで(笑)。

GT:最近友だちから教えてもらった、ファルマコンっていうデス・ヴォイスの女の子が「ドーン、グワー」ってやっているやつがありますよね。

彼女はたしかニューヨークだよね。それをもうちょっとポップにしたガゼル・ツインってひとがいて、俺は『MUGEN』を聴いたときにそれをちょっと思い出したんだよ。彼女はレディオヘッドの『キッドA』を更新したって言われてて。子供っぽくて、インダストリアルな雰囲気のあるポーティスヘッドみたいな感じのひとで、『キッドA』も子供が飛びついた感じがするじゃない? なんかその感じをコンピを聴いていると思い出すんだよね。

GT:そういう風潮がいまアメリカであるような気がするんですよ。打ち込みとエクスペリメンタルな感じがごちゃっとした感じ。さっきの〈トライ・アングル〉とか、いままでのダンスミュージックを通過して取り込んだものをリリースしているというか。

今度日本に来るD/P/Iとかそのへん直球だよね。

E:今度来日の時に一緒にやるんですけど、D/P/Iはカットアップっぽいですよね。

彼は生バンドもやっているから、その方向で縛っているみたい。いろんなプロジェクトをいっぱいやっていてよくわからないけど。インタヴューしたら過去の音楽も詳しくて、ピエール・アンリに影響されていたり。

ジャングルが好きなんだよね。

いまのようなアーティストを〈バック・トゥ・チル〉から出したいと言ったらOKを出しますか?

GT:ジャンルであまり縛りたくはないから、正直に言えばかっこよければ出したい。あと、いまはカセットで出したりとかいろんな方法があるでしょ? そういうフォーマットを使うのもありかなと思ったり、エクスペリメンタルなライヴをカセットにして50本限定で出したりとか。そういうのもレーベルで自由にできるのを考えているから、そのくらいニュートラルに考えているんですよ。

じゃあそろそろ時間なので、三田さんにまとめてもらいましょう。

50を過ぎるとクラブがキツいのでパーティに実際に足を運べていないんですが、ユーチューブで動画を見るととても自分が混ざれる場所ではないなと思います(笑)。この8年間でグラフにするとお客さんにどういう推移がありましたか?

GT:去年の1月は〈デイ・トリッパー〉から出しているイードン(Eadonmm)に出てもらったんですけど、早い時間でお客さんもいたんだけどちゃんとみんな聴いていた感じもあるし、そのあとのDJでもしっかり盛り上がっていましたよ。この前もエナくんがエクスペリメンタルなノンビートなライヴ・セットをやっても、お客さんがしっかり聴いていて。平日だからすごくひとが入っているわけじゃないけれど、けっこう来ているお客さんはそこをわかっていてくれているのかな。聴いているひとは聴いてくれているし、盛り上がりたい子は前の方に来てくれるから。

E:俺は個人的に去年はテクノ系のパーティにもけっこう出ているんですよ。〈ルーラル〉や年末には〈フューチャー・テラー〉にも出たし。実際にやってみると、ジャンルの壁はそれほどないなと思いますね。〈フューチャー・テラー〉もルーシー(Lucy)の裏でやっていたんですけど、俺のときもいっぱいだったし。もちろんそのときもテクノじゃなくてBPM170をかけてたけれど、みんな踊ってましたよ。

GT:〈バック・トゥ・チル〉に来ているひとは耳の幅や聴き方は広いかもしれないね。

次の8年くらいで対抗馬的なパーティやレーベルが出てきたら良いですね。

この3人が決裂して別々のパーティやるとかね(笑)。

GT:なんで〈バック・トゥ・チル〉を8年やっているかといえば、やっぱり日本でやりたいからなんだよね。日本で全てを完結させるのが良いのかもしれないしね。それで作品を向こうに投げるというか。ツアーをやるっていうのはやっぱり体力仕事だし。海外に行けるからやるっていうのは、日本がダメって言っているような気がしてなんか嫌なんですよ。海外だから良いっていうのもなんかアレだし。日本でもすごい耳を持っていて、すごく良いもの作って、すごく良いプレイをするひとっているわけじゃないですか? その絶対数が少ないだけで。

何か最後に言い残したことはありますか?

GT:うーん、じゃあ100マドくんで(笑)。100マドくんは本当に初期からいるから。

100:えっ、俺で締めんの(笑)? 絶対におかしいでしょ(笑)?

E:まぁ、今日はいろいろハードコアに言っておいて、100さんの「ゆるくやろうよ」っていうのがコンセプトでもあるわけだから(笑)。


interview with The Waterboys(Mike Scott) - ele-king

 つくづくノマドな男だ。ウィリアム・バトラー・イェイツの詩に曲をつけた前作『アン・アポイントメント・ウィジ・ミスター・イェイツ(An Appointment With Mr. Yeats)』(2011)を制作するためにアイルランドに2年ほど赴き、そして、そのままアイルランドに落ち着いたのかと思いきや、この新作は一転してアメリカはナッシュヴィルでレコーディング。『フィッシャーマンズ・ブルース(Fisherman's Blues)』(1988年)や『ドリーム・ハーダー(Dream Harder)』(1993年)といった過去の作品を思い出すまでもなく、定期的にアメリカに渡ってきたことが知られているマイク・スコットだが、30年以上のキャリアを重ねてもこの人の辞書には「安定」「定住」という言葉はないようだ。


The Waterboys
Modern Blues

Puck / ホステス

Folk RockBlues

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 昨年のフジ・ロック・フェスティバルでのパフォーマンスも記憶に新しいそんなマイク・スコットによるウォーターボーイズが4年ぶりの新作『モダン・ブルース』を発表した。エルヴィス・プレスリーへのオマージュのようなドゥー・ワップ調の曲や、南部産スワンプ・ロックにアプローチした曲など、あらたな持ち駒を次々と繰り出したようなアメリカ讃歌的アルバムだが、一つの場所にしっかりと腰を落ち着けることなく彷徨いつづけながらこうした作品が作られるのもどうやらすべて彼にとっては本能であり、音楽そのものに導かれてとのことらしい。そんなノマドな作品に再び「ブルーズ」というタイトルを与えてしまうのも本能なのだろうか。

 ところで、大衆音楽のルーツをディグしていく姿勢やウィットに富んだリリックなどなどかねてより、マイク・スコットとエルヴィス・コステロにはいくつかの共通点があると思っていたが、今回のアルバムに収録の“ニアレスト・シング・トゥ・ヒップ(Nearest Thing To Hip)”には「Brilliant Mistake」という名前の少女が出てくる。気づいた方もいるかもしれないが、この「Brilliant~」はコステロの『キング・オブ・アメリカ(King Of America)』の1曲めのタイトルと同じ。奇しくもコステロもあのアルバムでアメリカ録音を敢行していたが、英国人(スコットはスコットランド出身だが)にとってアメリカという名の「音楽の宝箱」を開けることは永遠の命題なのかもしれない。

■The Waterboys / ザ・ウォーターボーイズ
1983年結成、英国エジンバラ出身のマイク・スコットを中心としたUKロック・バンド。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどの影響を受けている。バンド名はルー・リードの曲の歌詞から名付けられる。初期はNYパンクの影響を受けたニューウェイヴ・バンドとしてスタートし、U2フォロワー的な扱われ方もされていた。2014年にフジロックで初来日を果たし、2015年1月に約4年ぶりとなるニュー・アルバム『モダン・ブルース』をリリース。同年4月には初の単独来日公演が決定。

僕はいつも自分の音楽が言うとおりに行動しているだけなんだ。

まず、去年はフジ・ロック・フェスティバルで久々に来日公演を実現させましたが、80年代と変わらぬパッショネイトなライヴが大きな話題となりました。いまなお、音楽に対して情熱を注ぐことができる、そのエネルギーの源はどこにあるのでしょうか。

マイク・スコット:僕はいつも自分の音楽が言うとおりに行動しているだけなんだ。もちろん、僕の人生の中で、妥協するチャンスが与えられたことは幾度かあったよ。同じサウンドを作りつづけるというプレッシャーや、あるいはより成功すると思われるサウンドに変化させるというプレッシャーに屈することもできたんだ。でも僕はそういった誘惑にいつも抵抗してきたし、たとえそれがときには僕を商業的には見込みのない、変な場所へと導いても、ずっと音楽が求めることをやってきた。
 それには代償が伴うこともあったよ、非商業的なレコードを作ったりしたことでさ。キャリア上のことを考えれば、もっとメインストリームなものをやるべきときにそうしなかったりもした。でもそれもすべて、音楽が言う通りのことをしてきた結果なのさ。そういう代償は、キャリアの観点から言えば失敗とみなされることもあるけれど、そのお陰で音楽との感覚的なつながりを保ちつづけてこられたんだよ。音楽的なインスピレーションとのズレを感じたり、それを誰かに売り渡したりしたことは一度もないから、音楽との隔たりを感じたこともないんだ。だからいまも音楽が内から流れ出してくるし、曲はひとりでに生まれてくる。いまも音楽を愛しているし、自分が内に持っているインスピレーションを裏切ったことはないといえるよ。そのインスピレーションは新鮮なまま、僕の中に存在しているんだ。

そうやって音楽を信じていられるのはなぜなのでしょう。

マイク:そういうのはべつに僕だけの特別なものじゃなくて、たとえば僕はニール・ヤングが流行や商業的なものに関わらず、自分の興味を追究しつづけるところをとても尊敬しているし、ケイト・ブッシュもそうだよね。でも同時に、誰とは言いたくないけれど、ミュージシャンの中には妥協をしたように思える人たち、さっき言ったようなインスピレーションとの特別な繋がりを失ってしまったような人たちもいて、彼らがそれを取り戻そうともがくのを見ることもある。その中には実際に取り戻す人たちもいる……僕はディランは一度80年代にそれを失って、88年前後にまた取り戻したと思うよ。彼自身も自伝の中で、彼が自分自身の音楽やインスピレーションとの葛藤を感じて、歌える曲の数も減ってしまったあるとき、バーで歌っている老人を見て、その無名の老人が持っているあるものを自分が失ってしまったことに気づき、それがきっかけになってまた失ったものを取り戻した、っていう話を書いているんだ。僕自身もウォーターボーイズが停止していた頃に、ソロ・アーティストとして東京に滞在していたある日、渋谷の真ん中で立ち止まって、ふとものすごく孤独を感じた瞬間が強烈に頭に焼き付いているんだけど、その話にちょっと似ているね。ウォーターボーイズのみんなをすごく恋しく思って、あれをなぜ失ってしまったのか、取り戻すために自分は何をするべきなのかってことを必死で考えたんだ。90年、『ルーム・トゥ・ルーム(Room to Roam)』を作ったあとにスティーヴ・ウィッカムがバンドを去って、アルバムで演奏したミュージシャンのうち3人だけでツアーをしなきゃならなくなったんだけど、あれは本当に辛かったよ。アルバムへの評価もさんざんなもので、ひどいレヴューももらった。なんとか続けていくために、心の中で唱えつづけていたのは「ここからはもう良い方向に向かうだけだ」ってことさ。そのときがどん底だったから、あとは楽になるだけだと思ったし、幸いその通りになったよ。

ウォーターボーイズのみんなをすごく恋しく思って、あれをなぜ失ってしまったのか、取り戻すために自分は何をするべきなのかってことを必死で考えたんだ。

そういう意味でも、過去に活動停止時期があったとはいえ、ウォーターボーイズというバンドはあなたにとってやはりなくてはならない「武器」であり「ホームグラウンド」なのだな、ということがよくわかります。あなたがウォーターボーイズを背負っている意味、意義はどこにあると考えていますか?

マイク:僕は90年代にソロ・アーティストとして2枚アルバムを出したけど、ウォーターボーイズという「上着」なしでやるのはすごく変な感じがした。自分より大きな何かがあるっていう感覚が恋しくて、「マイク・スコット」だけなのはどうも気に入らなかった。「ウォーターボーイズ」の名前でやるときは、僕単体のときよりもミステリアスさや、存在感が増すんだ。それにバンドのメンバーそれぞれちがった立場を持っているっていうのも大事だよ。97年、日本に行ったときもソロ・ツアーの途中だったけど、そのツアーでもバンドはいたんだ、ただし僕のソロのバンド「マイク・スコット・バンド」としてね。なんだかすごく変な感覚で、どうにもしっくりこなかった。不完全な感じがしたんだ。そしてその次にツアーをしたときはまたウォーターボーイズとして演奏することができたけど、それははるかによかったし、まるで世界が正しい軸に戻ったようだったよ。

さて、新作についてなのですが、前作『アン・アポイントメント・ウィズ・ミスター・イェイツ(An Appointment With Mr. Yeats)』はウィリアム・バトラー・イェイツの詩に音をつけるというコンセプトで制作されたアルバムでしたが、今回は一転してナッシュヴィル録音です。過去にもアメリカ録音を敢行したことのあるあなたが、いまなぜナッシュヴィルに赴こうとしたのですか?

マイク:イェイツはアイルランドの詩人。それで実際前回のアルバムでは、僕自身ダブリンにまた引っ越したんだ。彼の街にいたかったからさ。アイルランドの文化をただ中で感じたかった。アルバムを作るまでの2年間そこに住んで、そもそもあれはアルバムになる前、「アン・アポイントメント・ウィズ・ミスター・イェイツ(An Appointment With Mr. Yeats)』ってタイトルのライヴ・コンサートとして生まれたものだったんだけど、そのショウをイェイツ自身が創立したアイルランドの国立劇場であるアビー・シアターで上演する、という流れがあったんだ。僕にとって、このショウをイェイツ自身の作った劇場でやるっていうのはとても重要なことだった。そしてダブリンでの2年間、僕はイェイツはもちろん、その時代の詩人や作家を読みふけって、昔のケルトの世界に浸りきったんだ。そしてアルバムを作ってツアーが終わった頃には、僕はすっかり「イェイツ疲れ」していた。すっかり自分の生活そのものをその世界の中で送っていたから、そこから出てきたときには何かまったくちがうものが必要だったんだよ。幸い僕はここ10年くらいアメリカのソウル・ミュージックをよく聴いていて、自分でもそういうサウンドやファンキーさのあるレコードが作りたかった。それがナッシュヴィルでレコーディングしようと思った理由のひとつさ。

前作を作ってツアーが終わった頃には、僕はすっかり「イェイツ疲れ」していた。すっかり自分の生活そのものをその世界の中で送っていたから、そこから出てきたときには何かまったくちがうものが必要だったんだよ。

 それ以外にも、ナッシュヴィルにはたくさんの良くて安いスタジオがあるし、エンジニアの質も高いっていう理由もあった。ヨーロッパではスタジオの数がすごく減っていて、値段も高いうえに、腕の良いエンジニアの数も減ってしまった。ところがアメリカではまだレコーディング・スタジオの産業が健在で、とくにナッシュヴィルにはいまも40や50ものトップレベルのスタジオがある。それも広いレコーディング・ルームや、いいエンジニアがたくさんいるようなスタジオがいくつもあるんだ。そして2013年に、とても幸運なことにキーボード・プレイヤーのブラザー・ポールことポール・ブラウンに出会った。彼はメンフィス出身で、バンドに参加するとすぐに素晴らしいソウル・ミュージックの世界を持ち込んでくれたよ。彼の存在もナッシュヴィルでのレコーディングを決めた理由の1つだね。

“アイ・キャン・シー・エルヴィス(I Can See Elvis)”の歌詞を見ていると、そんなアメリカのさまざまな音楽財産への憧憬を感じることができます。曲調もドゥー・ワップを取り入れた、あなたにとってはとても珍しいタイプの曲になっています。この曲はナッシュヴィルで録音することを想定して作ったのですか? それとも、こうした視点の曲は一つのテーマとしてつねに描いていたことなのでしょうか?

マイク:一種の音楽的なジョークとして、ああいうエルヴィスの初期のレコードのサウンドを使ってみたかったんだ。ちょっとした茶目っ気みたいなものさ。曲自体は2012年か2013年に書いたよ、どっちか思い出せないけれど。アルバムの曲全部がナッシュヴィルに行く前に書いたものだよ。アメリカでのレコーディングはこれが初めてじゃなくて、86年には『フィッシャーマンズ・ブルース(Fisherman's Blues)』でも少しやっているし、92年には『ドリーム・ハーダー(Dream Harder)』ってアルバムをニューヨークのスタジオでニューヨークのミュージシャンたちと作っている。でもあれは僕にとっては成功したアルバムとは言えないんだ。セールスはまあまあだったけど、芸術的にはいまいちで、思うようなサウンドが出なかったし感覚もしっくり来なかった。だからあのアルバムにはずっとどこかがっかりした気持ちがあったんだよ。アメリカのミュージシャンは素晴らしくて、彼らの演奏にはセクシーさや、粋さがあるけど、それをあのアルバムでは捉えきれなかったのが何より残念だった。
 今回はそれをちゃんとやりたかった。今回の結果には満足しているよ。大きな要因の1つになったのは、今回のベーシストであるデイヴィッド・フッドと仕事ができたことだね。彼はアラバマ州にある、アメリカのロックやソウルの歴史上でも有名な音楽の街であるマッスルショールズの出身で、そこではボブ・ディランやローリング・ストーンズ、アレサ・フランクリンにジェームス・ブラウン、ザ・ステープル・シンガーズといった大物がレコーディングしたスタジオがある。そしてデイヴィッドはそれらのアルバムのいくつもで演奏しているんだ。ジェームス・ブラウンやザ・ステイプル・シンガーズと共演したことがある、クラシックなソウル・サウンドのベースをマスターしているんだよ。だから彼はこのアルバムにとても重要な影響を与えているね。

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僕は一匹狼だから、他のソングライターといっしょに同じ部屋で座って、「これどう思う?」とか言いながら曲を書くタイプじゃないんだ。

“ザ・ガール・フー・スレプト・フォー・スコットランド(The Girl Who Slept For Scotland)”も、70年代の米南部を思わせるスワンピーなロックになっていますし、遠くからスコットランドを思う少女の目線で書かれています。あれはどのようなイメージで書かれた曲なのでしょうか?

マイク:あの曲の意味は、たとえばいつも喋ってばかりいるイギリス人の友だちがいたとすると、「He could talk for England at the Olympics(彼はお喋りでオリンピックのイギリス代表になれるよ)」って言うことができるけど、それと同じで「スコットランド代表になれるほどよく眠る女の子」ってことだよ。これは僕の昔のガールフレンドについての実話で、彼女はすごく深く眠るから朝に起こすのが大変なんだ。だからよく、睡眠コンテストがあったら彼女はスコットランド代表として優勝できるねって冗談を言っていた。それがタイトルの由来さ。

“ニアレスト・シング・トゥ・ヒップ(Nearest Thing To Hip)”の歌詞には「Brilliant Mistake」という名の少女が出てきますね。この名前と同じタイトルの曲がエルヴィス・コステロの86年のアルバム『キング・オブ・アメリカ』に収録されています。あの作品も、英国人の彼がアメリカに趣き、T・ボーン・バーネットとともにアメリカへの思いを形にした作品でした。何かシンクロするものを感じたのですが、あの作品をどの程度視野に入れていましたか?

マイク:そうだ、そうだね、あのアルバムに出てくる名前なのか! いまやっと思い出したよ、きっと潜在意識の中でその名前を覚えていたんだけど、そのときはどこで聞いたのかわからなかったんだよ。あれは「Brilliant Mistake」っていう名前のカフェで、女の子はそのカフェの中にいるんだ。たしかにそう言われてみればあのアルバムに出てくる名前だし、コステロもまさにあのアルバムでアメリカに行ってアメリカのミュージシャンとやっていたから、共通点は多いね。そのときは意識していなかったけど、きっと無意識でどこか頭の隅にあったんだと思うな。

あの作品においてコステロが現地ミュージシャンと組んで録音したように、あなたも今作でナッシュヴィル拠点のミュージシャンを迎えてレコーディングをしていますしね。

マイク:そうだね。今回のミュージシャンたちのうち2人はすでに共演したことがあったんだ、キーボードのポールとリード・ギターのジェイは2013年前後にウォーターボーイズのライヴで何度もいっしょに演奏したことがあった。ふたりともナッシュヴィルに住んでいて、今回もいっしょにやることになった。それとデイヴィッドは僕らのマネージャーからの推薦で知り合ったんだ。その他のミュージシャンたちについては、ナッシュヴィルではたくさんのいいミュージシャンがいるから、たとえばある日バック・コーラスが必要になったとすると、誰々と誰々と誰々がいるよって言われて、その1時間後にはそのひとりがもうスタジオで歌っている、なんてことが普通なんだ。そしてナッシュヴィルのミュージシャンの水準はすごく高いから、そうやってやってくる人たち誰もがとてもいいミュージシャンなんだよ。

たとえばある日バック・コーラスが必要になったとすると、誰々と誰々と誰々がいるよって言われて、その1時間後にはそのひとりがもうスタジオで歌っている、なんてことが普通なんだ。

 そんな感じで、ドリー・パートンのバッキングもしていたヴィッキーは今回のアルバムの2曲のためにスタジオに来てバック・コーラスを歌ってくれたし、トランペット奏者のスティーヴやナッシュヴィルでも指折りのドラマーのグレッグも参加してくれた。僕らはいったんアルバム全部のレコーディングをしたんだけど、その後で2曲ほどやり直したくなったんだ。でもそのときにはバンドのドラマーであるラルフはロンドンに帰ってしまっていて、そっちで仕事があったからナッシュヴィルに戻ってくることはできなかった。それでグレッグに来てもらって2曲やってもらったんだけど、素晴らしいドラマーだよ。

ジェームス・マードック、フレディ・スティーヴンスンといったシンガー・ソングライターたちの参加も興味深いですが、彼らとの交流はいつ頃からはじまり、今回の作品への参加に対し、あなた自身はどういう部分を彼らに求めましたか?

マイク:彼らは僕の友人で、ふたりともニューヨークに住んでいる英国人のソングライターなんだけど、僕もニューヨークに小さな部屋を借りていてよくそこに滞在するから、ニューヨークには友人が多いんだ。ニューヨークにいるときはダブリンにいるときより外に出たりして社交的な生活を送っているしね。ジェームスとフレディは中でも僕の親友で、ふたりとも素晴らしいソロ・アーティストでもある。僕はときどき自分のソングライティングに飽きることがあって、何かちがうものが聴きたくなるんだ。それでメールで今回の歌詞のうち3つをジェームスに送って、1つをフレディに送ってみた。すると彼らはその歌詞にメロディを書いて、MP3をメールで送り返してくれた。それを僕が聴いて、変えたい部分を変えてまた送り返して、そういうやりとりを続けて曲を完成させたんだよ。とてもいいやり方だったね。僕は一匹狼だから、他のソングライターといっしょに同じ部屋で座って、「これどう思う?」とか言いながら曲を書くタイプじゃないんだ。自分ひとりで自分のペースで仕事をしたいのさ。だから、メールでやりとりをするのは、他の人と共同作業をしながらも、同時に自分ひとりで仕事ができてよかった。
 彼らに求めていたのはとにかく音楽性さ。たとえば“ニアレスト・シング・トゥ・ヒップ”の歌詞ができたときは、言葉だけで音楽がついていなかった。それかもしかしたら、音はついていたけどあまりよくなかったのかもしれないな、どっちだったか思い出せないけど。それでジェームスにその歌詞を送ったら、彼が送り返してきたのはほとんどアルバムに入った曲そのままのものだった。唯一、僕がやったのは、ブリッジの部分くらいさ。他の部分はほぼすべてジェームスが書いたメロディで、彼の作ったものを聴いたときとてもうれしかったよ。

僕はケルアックの他の本はあまり好きじゃなくて、『路上』が彼の本の中で断然いちばんだと思うよ。他のは、僕には未完成品のように思えるんだ。

“ロング・ストレンジ・ゴールデン・ロード(Long Strange Golden Road)”は10分を超える圧巻の作品で、歌詞もケルアックさながらのロード・ムーヴィ風リリックになっていますね。この曲には実際にケルアックの『路上』の朗読部分がサンプリングされてますが、あなたにとってケルアック、および『路上』はどういう存在ですか?

マイク:『路上』を初めて読んだとき僕は20歳で、すごく大きく深い影響を受けたんだ。あの本は旅についてだけじゃなく、友情や世界の見方についての話でもある。僕はケルアックの他の本はあまり好きじゃなくて、『路上』が彼の本の中で断然いちばんだと思うよ。他のは、僕には未完成品のように思えるんだ。

あなた自身、デビュー以来、スコットランド人というアイデンティティの上に立ちながらも、ノマドのごとく精神的にさまざまなエリアをさまよってきました。『路上』から学んだ人生の哲学、ミュージシャンとしてのインスピレーションがあなたをどう動かしてきたと言えますか?

マイク:僕がいつも住む場所を移動しつづけているのはあの本のせいではないけれど、まだ子どもの頃に両親が何度も引っ越しをしていたから、3年や4年ごとに生活ががらりと変わることに慣れたんだろうね。いつもちがう街やちがう景色の中にいて、そこからインスピレーションを受けていた。80年代にアイルランドに移り住んだのはとても大きなインスピレーションになったし、その後90年代にはニューヨークに引っ越して……と、ずっと移動しつづけているんだ。そういう動きつづける生活はこれからもずっと人生の一部でありつづけると思うけど、最近はダブリンでずいぶん落ち着いてきてもいるよ。

同じこの曲には、もう一つ、日本の近藤トモヒロによるピアノ演奏も使用されていて、そうした起用からもまた地域を超えてノマドのごとくワンダリングしつづけるあなた自身の思想が感じられます。あなたの“フィシャーマンズ・ブルース”をカヴァーしたこともある近藤の演奏、作品のどういうところに惹かれているのでしょうか。

マイク:彼の音楽にあるメロディックなセンスに、僕と共鳴するものがあるんだ。彼の作る音楽はかなりちがっていて、送ってくれたアルバムもとても熱量の高いロックンロールだけど、もう1つのアルバムはもっとメロウで、どの作品にも通じるメロディ感覚があるんだよ。それが僕に訴えかけるものがあるのさ。きっと影響を受けたものも共通しているんだと思うね、彼も昔のボブ・ディランが好きみたいだし。

こうした性格の作品に対し、『モダン・ブルース(Modern Blues)』とタイトルを与えたのはどういう理由からでしょうか? かつての『フィッシャーマンズ・ブルース』と呼応したようなタイトルなのも印象的ですが、実際にはそこは意識していたところでしょうか?

マイク:『フィッシャーマンズ・ブルース』は、アメリカでのレコーディングも少ししていたし、アメリカ人のプロデューサーといっしょにやったから、そういう共通点もあるし、ライヴ録音でのアルバムっていう点でも共通しているけど、実際の制作としてはかなり異なったものだったよ。『フィッシャーマンズ・ブルース』がスタジオでほぼ即興で作られたのに対して、今回は事前にすべての曲を書いて、リハーサルしてからレコーディングに臨んだから、もっと緻密なものになっている。アルバムのタイトルは“Rosalind (You Married The Wrong Girl)」を聴いていたときに思いついたんだけど、べつにこれが字義どおりのブルース・レコードだってわけじゃないし、音楽的にもそれほどブルースじゃない。ブルースっていうのはなにも音楽性だけを指すものじゃなくて、歌詞の書き方や歌詞の中の「ロマンス」のことでもあると思うんだ。今回の歌詞にはそういうロマンスの要素がいくつも入っているよ。それにアルバムのジャケット写真とタイトルのミスマッチ感も気に入ったんだ、タイトルを決める前にジャケットを決めていたからね。

Geotic - ele-king

 蝶にはわたしたちに見えない色がみえているという仮説のように、フクロウが音を視覚のようにとらえるというように、人間をふくめた生物の知覚や世界把握は非常に複雑なものだけれども、バスことウィル・ウィーセンフェルドにとって、あるいはビートはハーモニーのようにとらえられているのかもしれない。デイデラスに見初められて〈ロウ・エンド・セオリー〉のゲストDJとなり、のちにはレギュラー・パフォーマーとして活躍、名門〈アンチコン〉ともサインし、LAビート・シーンの鬼っ子として華々しいインパクトを残した彼ではあるが、Bサイド集やセカンド・アルバム以降のモードを眺める上でも明らかなように、ファースト・フル『セルリアン』の後は、ダンス・ミュージックとしてビートを追求する方向にではなく、むしろハーモニーを織り、歌を生み出すことで、あの溢れんばかりにエネルギーが奔るプロダクションを構築していた(『オーシャン・デス』にあっては、そのエネルギーの方向は死と暗黒をめざしていたけれども……)。

 そのバスがふるくから名乗ってきた別名義、ジェオティックのアルバムがリリースされた。これはおもに彼のアンビエント・サイドのアウトプットに用いられる名義だが、本作『サンセット・マウンテン』が多分にプライヴェートな作品でもあるだろうことは、それがセルフ・リリースだということや、ジャケットのアートワークに彼の母親の作品が使用されていることからもうかがわれる。
 そして音はといえば──声とハーモニーと残響のみ、という、まるでジュリアナ・バーウィックを思わせる作風で、いささか以上に驚いた。彼の音楽の叙情性や際立ってメロディアスなフレージングはたしかに彼の特徴ではあったけれども、そこのみを純粋に抜いてアルバム一枚をつくってしてしまうとは……たしかに「バス」としては冒険的すぎる内容だ。これはその意味で彼のキャリアにおいてもっともミニマルで実験的な作品であり、同時にもっともピュアで素直な作品でもある。

 讃美歌の譜面を忠実になぞるかのような、教会音楽的なハーモニーと進行。古典的な和声を中心にして、4声(もちろんすべて本人)で編まれるヴォーカル・トラック。いや、合唱作品といったほうがしっくりくる。“イン・ザ・アンバー・アワー”など例外はあるものの、ジョスカン・デ・プレ(Josquin Des Prez)やギヨーム・デュファイ(Guillaume Dufay)、あるいはトマス・タリス(Thomas Tallis)、近代ならばグリーグやフォーレまで──現代的な「個性」も「自意識」も圧倒的な力でおしつぶされてしまう、調和と秩序の世界。彼のファルセットに彼独特のクセは感じるものの、それぞれのパートはリヴァーブなりの音響処理を施され、何よりも和音を立てるように機能している。バスほど強烈な個性や自意識をもった音楽も稀有にして輝かしいが、それを各楽曲の要素という要素が打ち消そうとしている。そしてそのためにいやましにまして輝く個性がほの見えてくる。媒体などでシングル的に紹介されているのは“フリット・アラウンド・ザ・リヴュレット(小川の躍動)”だが、この曲で愛らしく元気よく跳ねる旋律とハーモニーは彼そのものの姿に重なり、ビートはないもののたしかで細やかなビート感覚が楽曲の下部に透けてみえるような気がする。彼は旋律でありハーモニーでありビートそのもの。そんなことを再確認してしまう楽曲だ。「フリット」には同性愛者の意味もあるようだが、それは深読みにすぎるかもしれない。

 難解かといえばまったくその逆。そして現代性がないかといえば、むしろ不思議に現代ならではの作品だと思えてくる。ウィーセンフェルドはそうしたことを「狙って」はいないだろう。サンプリングでもなく、古典復興でもリヴァイヴァルでもなく、蔵の中で自分の身体にしっくりなじむ古い道具をみつけたというような、あるフォームとの邂逅。それが彼をさらに遠く高いところまで連れていっている。という点では、パンダ・ベアの新作と並び、いまというときにありえないほどの豊かさと喜びを運んでくるアルバムだ。過去からネタと文脈を引っ張ってくるというのではない。過去人類につくりえたすばらしい知恵と感情に触れにいくのだ。音楽においてはいっときたりとも一つ所に止まっていないウィーセンフェルドの、これはいままでもっとも大胆な旅である。

SWANS - ele-king

 いよいよ来週の火曜日(東京)と水曜日(大阪)、USオルタナティヴ・シーンの巨星、スワンズの来日ライヴがあります。2年前にも素晴らしいステージを披露し、昨年〈ミュート〉からリリースした13枚目のスタジオ・アルバム『To Be Kind』でも、彼らの底力をこれでもかと見せつけました。彼らのライヴには、「何百万ものロック・バンドが忘れたものがあり、最高のレイヴ、最高のサウンドシステムの経験に等しい」とは、ある米音楽メディアの評。
 最高の体験は、いよいよ来週です。

 以下、主宰者から熱いメッセージです。

 1982年、Michael Gira(ギター/ヴォーカル)を中心に結成、70年代末から80年代初頭の混沌としたニューヨークのアンダーグラウンド・シーンを象徴するバンドとして、SONIC YOUTHと共にオルタナティヴ・シーンに君臨した。ジャンク・ロックと称された初期作品『Filth』『Cop』、当時隆盛したノー・ウェイヴ・シーンと激しく共振しながら、その余りにヘヴィーなサウンドと破壊的なライヴ・パフォーマンスも相まって瞬く間に注目を集めた。Jarboe参加後の聖と俗、静謐と混沌の入り交じったような中期作品『Greed』『Holy Money』『Children of God』辺りから、唯一無二の絶対的な世界観とサウンドを獲得していく。ビル・ラズウェルのプロデュースによるメジャー・リリース作品『The Burning World』で見せた限りなくダークな歌へのアプローチは、自らのレーベルYoung God Records設立後の後期作品『White Light from the Mouth of Infinity』『Love of Life』でのサイケデリックかつドローンなサウンドへと継承されていった。Michael Gira以外のメンバーは、Norman Westberg(ギター)とJarboe(キーボード/ヴォーカル)以外は1997年に解散するまで流動的であった。
 2010年、「SWANS ARE NOT DEAD」の宣言と共に楽曲をアップ、Norman Westberg, Christoph Hahn, Phil Puleo, Thor Harris, Chris Pravdicaといった新旧のメンバーを召集、復活第一弾アルバム『My Father Will Guide Me Up a Rope to the Sky』を同年9月にリリース、精力的なツアーを行った。2012年8月復活後第二作目『The Seer』を発表。数多の媒体のレヴューでは最高の賛辞を持って軒並み高得点を獲得した。2013年2月には約22年振りの来日公演を敢行、ヴォリュームのリミット無しの2時間を超える強靭なパフォーマンスは新旧のファンの度肝を抜いた。そして、前作を遥かに凌駕する怪物アルバム『To Be Kind』を引っ提げて2年振り3回目の来日公演決定!現在最も体験するべき価値のある最高のライヴ・パフォーマンス、現在進行形の伝説を五感を総動員して自ら確認して下さい! 
 最新作『To Be Kind』は年末のアルバム・ベストに数多く選ばれている。

【東京】
開催日時:2015年1月27日(火) Open 18:00 Start 19:00
会場:SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
前売券:¥6,000(1ドリンク別)
お問い合わせ:TEL03-3444-6751 (SMASH)
https://smash-jpn.com/live/?id=2195

【大阪】
開催日時:2015年1月28日(水) Open 18:00 Start 19:00
会場:UMEDA CLUB QUATTRO
前売券:¥6,000(1ドリンク別)
お問い合わせ:TEL06-6535-5569(SMASH WEST)
https://smash-jpn.com/live/?id=2195

【年間ベスト・アルバム】
# 18 - A.V. Club
# 23 - Clash
# 14 - CMJ, Cokemachineglow
# 28 - Consequence of Sound
# 12 - Crack Magazine
# 10 - Drowned in Sound
# 20 - MAGNET
# 42 - MOJO
# 14 - musicOMH, Newsweek
# 22 - NME
# 7 - No Ripcord
# 19 - Pazz & Jop
# 6 - Pitchfork
# 5 - PopMatters
# 8 - Pretty Much Amazing
# 36 - Rough Trade
# 17 - SPIN
# 25 - Sputnikmusic
# 13 - Stereogum, The Line of Best Fit
# 3 - The Quietus
# 11 - The Skinny
# 3 - The Wire
# 30 - Tiny Mix Tapes
# 18 - Uncut
# 22 - Under the Radar
# 28 - Wondering Sound


Ryuichi Sakamoto, Taylor Deupree, Illuha. - ele-king

 2月、坂本龍一、テイラー・デュプリー、イルハ(伊達伯欣+コーリー・フラー)の共作が〈12K〉よりリリースされる。
 これは、2013年の7月、山口県のYCAMホワイエにて坂本龍一をディレクターに迎えて開催された「アートと環境の未来・山口 YCAM10周年記念祭」におけるライヴ音源。

 以下、〈12K〉のレーベル・サイトから。

 「糧や会話や探求のためにアーティストたちはコンサートの日々に集った。有意義で、打ち解けた情調があり、彼を共演へと導いていった。ピアノ、ギター、パンプオルガンやシンセサイザーによる即興演奏は結果的にアーティストたちに深いところで影響をもたらしたのだった。
 4人はそれまで一度も共演したことがなかったが、徐々に彼らを取り巻いた節度や聴力のレヴェルにあっけを取られてしまった。息をのむほどの静寂に腰をおろしたオーディンスたち。音楽は7月の空気に満ちた束の間の休息を彼らに与える。
 最後に奏でられた静かな一音が暗闇に消え入るとき、アーティストたちは自らが深い旅に出ていたのだと気づくのだった。このような瞬間が捉えられたときこそ幸運な出来事であり、コンサートはまさにそうであった(その様子は良質なDSDによって録音された)。
 不変で齢を重ねることとは無縁な音楽の性質を指す永久性が、シンセサイザーや加工されたギターにはじまり、開放的で空気感のあるプリペアド・ピアノと無音の連続性や、果ては寂寥なピアノ、ひび割れた既製品やフィールド・レコーディングの音声、そして霧のように宙に浮遊する音による、限りなく忘れがたい繊細な子守り歌の緩やかな層を横断する3楽章に存している。
 永久性とは我々と時間の伸張を囲い込むだけではなく、単一の記憶や、時間が静止し4人の音楽家が合一する刹那の記録への広がりをも包括するのである」

Ryuichi Sakamoto, Taylor Deupree, Illha
Perpetual
12k


以下、イルハからのコメントです。

「この日の演奏は、坂本さんのプリペアドピアノ、テイラーがモジュラーシンセ、僕らはパンプオルガンとギターを中心にコンタクトマイクなどで坂本さんの音をプロセッシングしたりしました。
 演奏前の二日間も演奏者でゆっくり食事ができ、企画のタッツを始め、YCAMスタッフも素晴らしく、良い演奏に繋がりました。
音源を聴いて改めて驚かされたのはPAのzAkさんのミックスと音質の良さです。当日はテイラーとILULHAのトリオの演奏の後に、数十秒のインターバルを挟んで坂本さんとのカルテットでしたが、音楽的な連続性があったので1曲にしました。各チャンネルごとの録音もあったのですが、結局zAkさんの2mixを使うことになりました。
 山口という場所に、あれだけの施設があるということは不思議なことですが、山口だからこそYCAMが存在しているんだと思います。
またいつか演奏出来たらと思っています」 ── ILLUHA

※なお、TaylorDeupree, ILLUHAの参加したStephan Mathieu, Federico Durandとのツアー音源が ハイレゾで1ヶ月限定で以下で販売されている。 https://kualauktable.limitedrun.com/

interview with Sherwood & Pinch - ele-king


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

0N-U SOUND / TECTONIC / ビート

DubWorldBass MusicSoulReggae

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 『レイト・ナイト・エンドレス』には姿勢がある。音楽は、時代と関連づけて語られるものであると同時に、何度も繰り返し体験できる楽しみなのだ。ふたりのベース探求者は、アルバムを通して、そう主張している。
 実際、これはクオリティの高いアルバムだ。話題性のみで終わらせないぞと、意地でも良い作品にするんだという気概を感じる。ヴァリエーションも豊かで、ロマンティックな側面もある。以下のインタヴューで本人たちが言っているように、これは、「クラブとリヴィングを繋げる音楽」だ。

 簡単に、ふたりの紹介をしておこう。
 エイドリアン・シャーウッドという人物の名前は、少なくとも5年音楽を聴いたら覚えることになる。それほど彼は、コンスタントに、ポストパンク時代から延々と、スタジオの卓の前に座って、フェーダーやつまみをいじりながらダブ・ミキシングをし続けている。
 音の電気的な加工、あるいはミックスを変えることがひとつの創造行為として広く認識される前から、彼はその技術をジャマイカの一流ミュージシャンに囲まれながら磨いてきた。ジャマイカ大衆音楽、すなわちレゲエは、音のバランスにおいてベースの音量を上げたことで知られている。ことレゲエから派生したダブは、ベース・ミュージックという言葉が生まれる前からの低音の音楽で、ベースの扱いに関しては歴史があり、研究の成果がある。
 シャーウッドは〈On-U Sound〉という主にレゲエ/ダブを出しているレーベルの主宰者としても知られている。いまでこそ白人や日本人がレゲエ/ダブをやったところで文句を言われることはないが、シャーウッドが活動をしはじめた時代は、白人が関わっているだけでレゲエ・ファンから「偽物」と言われていた時代だった。つまり、文化的な観点においても、シャーウッドは先駆者のひとりである。

 いっぽうのピンチ(ロバート・エリス)は、ダブステップ世代を代表するDJ/プロデューサー。人気と実力を兼ね備えたひとりだ。〈Tectonic〉を主宰し、最近では新レーベルの〈コールド〉が話題になった。ちなみに、ピンチがブリストルに生まれた1980年は、シャーウッドが〈On-U Sound〉をスタートさせた年でもある。それは、1958年生まれのシャーウッドが22歳の年で、彼が初期ブリストル・シーンのゴッドファーザー、マーク・スチュワートらと交流をはじめた頃だ。

 まさに親子ほど年が離れ、世代の異なるふたりだが、『レイト・ナイト・エンドレス』には、しっかりそれぞれの長所が出ている。ダブステップ系のグルーヴもあれば、いかにもシャーウッドらしいダブの宇宙とルーツの香気も広がっている。ふたりの調和が取れているのだ。
 それは時代の風向きとも合っている。細分化するダブステップ以降のダンス・ミュージック/商業化されたレイヴ全盛の現代において、足元を見つめる慎重なプロデューサーたちは、自分たちの立ち帰る場所を求めている。ある者はハウスへ、ある者はテクノへ、ある者はジャングルへ、そしてある者はダブへと向かっている。ハウスが来ているように、長いあいだ埃をかぶっていたダブもいま、たしかに来ているのだ。
 が、まあとにかく、今作においてなによりも重要なのは、この作品を家で聴いたときに気分良くなれること。アルバムのなかばあたりのメロウな雰囲気は、とくに素晴らしい。
 力作と呼ぶに相応しい作品を完成させたふたりに、昨年末、スカイプで取材した。

“ムード”を描写してるんだ。このレコードを聴いたら、真夜中のダンスやまったりした雰囲気、そういうのが延々と続くようなムードが反映されてるのがわかると思う。だよな?

通訳:こんにちは。今日は宜しくお願いします。

ピンチ(以下、P):こちらこそ。いま、エイドリアンを呼ぶから待ってね。(スカイプで招待)

エイドリアン・シャーウッド(以下、A):ハロー!

通訳:部屋のクリスマス・デコレーションが素敵ですね。(※取材は昨年のクリスマス前におこなわれた)

A:娘が飾ってくれたんだ。いいだろ?

P:ツリーも光ってるしね。

さっそくいくつか質問させて下さい。「Music Killer」のスリーヴアートは誰のアイデアだったんですか? あのキミドリのスマイリー(の逆の表情)ですが。

P:あれはスポティファイ(※欧米では有名だが、インディ・シーンでは不評の配信サービス)のマークをイメージしたんだ。周りはあんまり気に入ってなかったけどな……

A:でも俺たちは気に入ったから使うことにしたんだ。

P:だね。アンハッピーなスポティファイ・フェイス。

A:ロブとチャットしてて……

P:で、その会話の中であのアイディアが出て来たんだ。

A:そうそう。

P:俺は面白いと思ったんだよね。

A:基本、俺はスポティファイとかそういったものが好きじゃないんだ。それを表現したのがあのマークなんだよ。

P:当時、スポティファイが話題になってたからね。まあ、スポティファイはスポティファイ。好きな人はそれでいいとは思うけど。

通訳:日本って、まだスポティファイがそこまで普及してないんですよ。

A:それはいい。さすが日本だ。先進国だからスポティファイがないのさ(笑)。日本人はいまだにCDやヴァイナルを買うし。

P:デジタル時代になって、音楽は使い捨てになってきてしまってるからね。危険だと思う。CDやヴァイナルを買えば、それを聴こうとする気持ちが強くなると思うんだ。デジタルだと、音楽のチョイスが無限になってしまう。でも形として手元にあれば、それをもっと聴こうとするんじゃないかな。

A:最近は情報が飛び交いすぎてる。音楽もそうだし、だからハイプがすごいんだ。もう誰を信用していいのかわからない。昔はレコード店に行ってオススメを聞いたりしてたのにね。他のアーティストとの交流も前より減ったと思う。俺はプロモーションのために流された情報は信じたくないし、そういういまの時代だからこそ、人の信頼を得ることが大切だと思ってるんだ。ロブと俺のCDは信用できる内容だよ。是非聴いて欲しいね。

『Late Night Endless』というタイトルは、ふたりのセッションのことを喩えているんですか? それとも、この音楽の性質のようなものを表しているのですか?

A:あれは、“ムード”を描写してるんだ。このレコードを聴いたら、真夜中のダンスやまったりした雰囲気、そういうのが延々と続くようなムードが反映されてるのがわかると思う。だよな?

P:だね。本当にそう。あと、俺が音楽を作るのも大抵深夜だし。

通訳:クリエイティヴ・タイムってよくいいますもんね。

P:静かでピースフルだからね。メールを返さなくてもいいし、電話もならないし。夜中って好きなんだ。そういう時間だとマジックも生まれやすいし。

A:このレコードを作ったときも、深夜の作業が多かったよな。

通訳:作業はどうでした?

A:かなり楽しかったよ。自分たちの創造力を探求したんだ。そこからマジックが生まれたし、いつもと違うムードで作れたのがよかったね。

通訳:ロブ、あなたはどうですか?

P:エイドリアンと夜中の2時とか3時まで作業するのは楽しかった。作業する度にどんどん楽しくなっていったんだ。

先に出たふたつのシングルがわりとダブステップ(ベース系)のマナーで作られていましたが、今回のアルバムで予想以上に音楽性が幅広くて驚きました。ピンチにしたらフロア向けの曲はたくさん作っているわけで、このプロジェクトでのアルバムにおいては、クラブ・リスナー以外の人たちにも届けたいという気持ちがあらかじめあったのだと思いますが、いかがでしょうか?

P:2枚のシングルは、もう少しダンスフロアを意識して作ったんだ。でも今回のはアルバムだから、リスナーをさまざまなエナジーへと誘い込む音楽の旅を作る事ができた。だから、いろいろな幅広いサウンドを取り込むことを意識したんだ。それが出来るのがアルバムの特権だからね。

A:このレコードを聴いたら、完璧な真夜中のレコードっていうのがわかると思うよ。家でも楽しめるし、すごく瞑想的であると同時に、クラブでプレイすることも出来る。そんなレコードなんだ。

P:だね。

A:クラブとリヴィングを繋ぎたいんだ。俺が作って来たレゲエのレコードもそう。サウンドシステムでもスピーカーでも楽しめる作品。僕とロブは、ダンス・フロアのムードを持ちつつ家でも楽しめる作品を完成させることが出来たと思う。

P:エンジニアが、ダンスフロアでもプレイしたくなるインパクトを音に加えてくれたと思う。それもあって、ベースのフィジカルなインパクトを持っていながら、音の深さや緻密さも持ったレコードが出来たんじゃないかな。そのふたつのレベルを兼ね備えてる。だからサウンドシステムでも楽しめるし、ヘッドフォンや家で注意して聴きながら音の細かさを楽しむことも出来るんだ。

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クラブとリビングを繋ぎたいんだ。俺が作って来たレゲエのレコードもそう。サウンドシステムでもスピーカーでも楽しめる作品。僕とロブは、ダンス・フロアのムードを持ちつつ家でも楽しめる作品を完成させることが出来たと思う。


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

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今回エンジニアにベルリンのダブプレート&マスタリング(のラシャド・ベッカー)を起用していますね。

P:俺はラシャドの大ファン。彼は俺がシャックルトンとやったアルバムを手掛けてくれたんだけど、そのときにすごく良いエンジニアだなと思って。忙しすぎてなかなかつかまらないけどね(笑)。

通訳:じゃあ、ピンチが彼にオファーしたんですね?

P:そうだよ。今回もすごく良い仕事をしてくれたと思う。

A:かなりね。

通訳:制作中に会うことは?

A:俺は会ってない。

P:彼はベルリンに住んでるから、こっちに呼んだり会いに行くよりデータを送った方が安いんだ(笑)。

1曲目の“Shadowrun”のビート、細かいエフェクトは、まさにシャーウッド&ピンチですね。お互いの特徴がうまく混ざっている曲のひとつですが、これを1曲目にすることに迷いはなかったですか?

P:トラックの順番がすんなり決まるってことはまずない。でも“Shadowrun”に関しては、最初に持ってくるのがいいんじゃないかって、しっくりきたんだよね。曲の順序ってすごく大事なんだ。音楽の“旅”を作るのにはそれがすごく重要だから。
(エイドリアンがクリスマスの飾りの人形をカメラの前で左右にいったり来たりさせる)

通訳:何してるんですか(笑)?

A:いや、旅っていうから漂わせてみたんだ(笑)。……このトラックは、他のトラックと比べてもっとS&Pっぽい自然なトラックだったからね。まずそこから入っていって、期待以上のものに入っていくっていうのが良いと思った。今回は、境界線を越えて、たくさんの面での可能性を探求したんだ。もっとお決まりのこともやろうと思えば出来たけど、でも、自分たち自身もいつも以上のことに挑戦したかったんだよね。“Bring Me Weed”や“Music Killer”みたいな(フロア向けの)曲だらけのアルバムは作りたくなかったんだ。
 例えば、俺の前回のアルバム『Survival & Resistance』と比べると、このアルバムには全く違うフレイヴァーが詰まってる。このアルバムでは、俺とロブのアイディアや音の調和が探求されてるんだ。それが出来たことをすごく誇りに思う。妥協することなく、ふたりの融合によって新しいものを作り出すことが出来た。だから新鮮なサウンドでもあるし、10年経っても飽きないレコードが完成したと思うよ。

P:本当にタイムレスな作品だと思う。未来的とかそういうのでもなくて、特定の時期に当てはまらない作品を作りたかったんだ。ある意味、参考となっているのは〈On-U Sound〉や俺のダブステップの背景だけど、同時にそのどのサウンドでもない。その要素の間を自由に動き回ることが出来るというか。そういう作品がこのアルバムなんだよ。

まさにその通りで、曲ごとに趣向が違っていて、聴き応えのあるアルバムですよね。たとえば、“Wild Birds”みたいなエレガントな曲は、アルバムの目玉のひとつだと思うんですが、この曲に関してコメントください。

P:そういってもらえると嬉しいね。

A:どのトラックだって?

P:“Wild Birds”だよ。

A:ああ、あれか。

P:俺はあのトラックが大好きなんだ。

A:あれはアシッド・トリップみたいな音楽だな。ダブ・チューンだと思う。セットの最初に流す、みたいな感じだな。

P:だな。ムードを変える曲だね。1年くらい、自分のDJセットの最初に、この曲の初期のヴァージョンを流してたんだけど、すごく良かったんだ。その部屋にどんなエナジーやムードが出来ていても、この曲をプレイするとパッと雰囲気が変わる。リセットボタンを押してる感じ。いちから新しいエナジーを生み出していくんだ。大好きなトラックだね。トリッピーなヴァイブがあって。

“Wild Birds”におけるふたりの役割をそれぞれ教えて下さい。

P:俺が自分で作ったリズムやサウンドをエイドリアンに持っていって、そこから何を乗せることが出来るかを探していったんだ。スキットを入れたり、ピアノやサンプルを加えたり。で、それをアレンジした。で、そのあとエイドリアンがデスクでボタンをいじりながら魔法をかけてくれたんだ(笑)。

A:ははは(笑)

“Stand Strong”も素晴らしい曲ですね。メロウでエキゾティックな歌とパーカッションが魅力的だと思いました。歌っているのではどなたですか? 

P:あれはTemi(テミ)だよ。

通訳:『Ten Cities』(※〈サウンドウェイ〉からのコンピレーション)で一緒にやったTemi?

P:そう。俺がラゴスに行って、テミと何曲か作業してたんだけど、そのときたまたまこの曲の初期のヴァーコンのインストが手元にあって、それにヴォーカルを乗せてみれくれないかと彼女に頼んだんだ。そしたらそれが最高でね。ふたりとも結果に大満足で。彼女はナイジェリアのヨルバ語で歌ってるんだ。
 先にインストのアイディアがあって、彼女がその上から歌って、そこからまた音を変えていって。声やムードがインストにフィットしたんだ。嬉しかったね。君がパーカッションを魅力的と言ってくれてよかったよ。あのバランスをとるのにすごく時間をかけたから(笑)。

A:ははは(笑)、かな~り長く(笑)。

通訳:どれくらいかかったんですか(笑)?

P:思い出したくもないよ(笑)。エンドレスだったから(笑)。

通訳:今後、共演するヴォーカリストは増やしていきたいのでしょうか?

A:イエス。ロブはこれまでに俺と同じくらい様々なアーティストと作業してきたし、彼はテミを始めとするいろいろなヴォーカリストとの作業を楽しんで来た。既に共演したことのあるヴォーカリストももちろんいいけど、他のヴォーカリストも含め、いるかロブとヴォーカル・アルバムを作れたらいいなとは思うね。可能性はあるかも。

P:だね。

通訳:どんなヴォーカリストとコラボしたいですか?

A:マイケル・ジャクソン。

P:エルヴィス。

A:エルヴィスいいな。

P:ジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックス(笑)。

通訳:亡くなってないとダメなんですか(笑)?

A:ははは。世の中には素晴らしいヴォーカリストがたくさんいるからね。このアルバムにはテミやビム・シャーマンなんかが参加してくれているけど、彼らとまた作業したいとも思う。やっぱり、内面でも繋がりを持てる人間とコラボしないと。今回も、だからこそチームとして良い仕事が出来たと思うし。

P:たしかにそうだ。

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本当にタイムレスな作品だと思う。未来的とかそういうのでもなくて、特定の時期に当てはまらない作品を作りたかったんだ。ある意味、参考となっているのはON-U Soundや俺のダブステップの背景だけど、同時にそのどのサウンドでもない。その要素の間を自由に動き回ることが出来るというか。


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

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このアルバムの「アフリカ」について訊きます。“Africa 138”という曲がありますよね。ピンチには、2009年の“カッワーリー(Qawwali)”という、アフリカンなリズムを披露した人気曲があります。

P:あれは、アフリカンというより、スーフィーが参考になっているんだ。スーフィーっていうのはスピリチュアルな音楽のフォームで、“カッワーリー”はヴォーカル・ベースの音楽なんだけど、“カッワーリー”全体のポイントが意識なんだ。スピリチュアル・メディテーションみたいな。そのアイディアやムードが好きで、自分と音楽のスピリチュアルな繋がり、みたいなものを元にしてヴォーカルなしで書いたのがあのトラックなんだよ。

通訳:そうなんですね。で、質問なんですけど、エイドリアンには『スターシップ・アフリカ』というクラシックがありますよね? つまり、お互いの音楽に「アフリカ」はこれまでもあったと思いますが、今作においても“Africa 138”があります。

A:すべてのリズムはアフリカから来てるんだよ。ロブはラゴスに行ってたくさんの若手アーティストたちと出会ってるし、テミもそのひとり。ロブのパーカッションのほとんどもアフリカンだし、興味深いビートのほとんどはアフリカから来てるんだと思う。あそこが起源なんだよ。

P:俺はポリリズムが好きなんだけど、ダンス・ミュージックの面白い面の多くがアフリカのパーカッションに通じてると思う。ローランド808を見てみても、あのサウンドのほとんどがアフリカのパーカッションを基に作られてるしね。モダンなものとして受け入れてるけど、実はアフリカの伝統的なフォームが基になってる。ダンス・ミュージックに限らず、音楽におけるアフリカのパーカッションの影響はすごく深くて浸透してる。それと離れて音楽を作る方が無理ってくらいさ。

通訳:あの曲はどのようにして生まれたんですか?

P:“Africa 138”は最初の方に作った品のひとつ。そこから変わっていったんだ。いろいろな面白いリズムさサウンドのコラージュみたいな作品だと思う。

A:あれは、元々は俺がビム・シャーマンと一緒に何年も前に作っていたトラックなんだ。

P:だから最初に作りはじめて、時間があったからこそどんどん変化していった。

では、“Run Them Away”はどうでしょう? これはもう、エイドリアンらしいルーツ・レゲエを基調にした曲ですが、この曲にはメッセージも込められていますよね? 

A:あの歌詞は、最近世界を操ってるバカな奴らを排除しようっていう内容なんだ。彼らが何をやってるかとか。

ベース・ミュージックとルーツ・ダブとのミックスということについては、かなり意識的に取り組んだのでしょうか?

A:俺たちは、あまりそのふたつを違うものとして捉えてないから……ダブステップがシーンに来たとき、すでに好きな音楽だったから、俺にとってはすごく良かったんだ。ジャングルもそうだし、すぐに繋がりを感じることが出来たんだ。ロブもそうだと思う。ルーツを辿ると同じだから、ダブステップやベース・ミュージックは好きだね。俺にとっては、すべてが調和してるんだ。トーンやパワー、マイナーコード、それが全部重なった音楽が好きなんだ。同じだから、1972年~1973年のルーツ・ミュージックとコンテンポラリーなベース・チューンのバック・トゥ・バックは自然なんだよ。“Run Them Away"も、すごく自然に出来たしね。

“Gimme Some More”はベース系のリズムで、とくにダブの強度が強い曲ですが。

A:君が言うように、ダブの強度が強いトラックではある。ロブが最初にリズムを作って、そこから俺たちで色を加えていったんだ。このトラックは、どちらかというとロブが率いた作品で、そこに俺がアイディアやオーバーダブを加えていった。

P:俺が作ったものはすべてデスクに行って、エイドリアンの魔法の手にかかる。だから、必ずダブの要素は入る。このトラックには、ダンスフロアの良いグルーヴが入ってると思う。だからそこまでルーツは感じないけど、ダブとのコネクションは確実にあるトラックだと思うよ。

“Different Eyes”も面白いリズムなんですけど、この曲のメロディラインは、ルーツ・レゲエ的で、しかしビートがハイブリッドですよね。

P:このトラックは、90年代初期のブリストルを感じさせるんだ。俺が昔から聴いてきた音楽でもあるし、ルーツっぽさももちろんあるけど、この曲はもっとヒップホップ・クオリティが強い。

A:これは、アルバムのなかでも一番ダブステップなトラックだね。

“Precinct Of Sound”のような、敢えてクラシックなダブステップ・スタイルを使いつつ、エイドリアンのスペーシーなダブ・ミキシングが活きている曲も面白いですね。

P:Andy Fairley(※かつてON-Uからアルバムを出している)のヴォーカルが少し入ってるんだ。彼は多分、クラシックなON-U Soundのヴォーカルだから、それをもっとコンテンポラリーな環境におとしこむのことは意識したね。自分の初期のダブステップの作品とか。すごくパワフルな作品が出来上がったと思う。

ああいうミキシングはスタジオで一発録りなんですか?

A:ノー(笑)。完璧な作品を作りたくて、何度もミックスしたんだ。たくさんのアイディアを何度も試したんだよ。

P:アルバムには、オンもオフも含めて制作に2年かかったんだ。だから、書いたけどアルバムに使わなかったトラックもたくさんある。出来が悪かったからじゃなくて、アルバムのムードにフィットしなかったからっていう理由でだよ。トラックとトラックの繋がりは大事だから。最終的には269くらいミックスがあった(笑)。

A:ははは(笑)。

P:ムードを繋げるっていうのがチャレンジだったし、かなりの時間を費やしたから、皆にはそれを評価して欲しいな(笑)。

通訳:是非、CDを買って何度も聴いて欲しいですね(笑)。

P:2枚買って、1枚は母親にあげて(笑)クリスマスだから(笑)。

「Bucketman」とか、「マリワナ」とか「スモーキング!」とか、笑える声ネタもありますが、こういうのはエイドリアンが集めて来るんですか?

P:あれはダディ・フレディだったよな?

A:そう。いつも人がスタジオに出入りするから、そういうレコーディングを録リためておいているんだ。あれは2、3ヶ月前に録ったダディのヴォーカル。最近のなんだよ。かなり前に録ったものもいくつかあるけどな。ダディのヴォーカルは使ったことがなかったから、今回使ってみることにしたんだ。アルバムにすごくフィットするだろうと思ってね。

絶対に笑いながら作っていたと思うんですね。

A:毎回笑いが耐えなかった。レコーディングのプロセスは、クリエイティヴでありつつ、マジックでありつつ、そして何より楽しくないといけない。だから仕事と思わずに楽しめるのさ。スタジオの時間は楽しい時間でなきゃ。ロブとはそれが出来てる。彼と作る作品だけじゃなくて、制作過程にも感謝してるんだ。

通訳:どんな風にリスナーには楽しんで欲しいですか?

P:聴くにふさわしいシチュエーションはたくさんあるよ。夜中に聴くのがいいかもね。ムードがいいから。でも、どこで聴いていてもそういうムードに導いてくれると思う。とにかく、あまり先入観をもたずに耳をすまして欲しい。少なくとも、2~3回は聴いて欲しいな。

A:ロブが言ったように、毎回プレイするたびに違う何かを発見して欲しいね。たくさんレコーディングしたし、ミックスしたり、いろいろなものが詰まってるから。だから家でも楽しめるし、クラブでも楽しめるんだよ。

ピンチにとって、このアルバム制作はどのような意味を持つのでしょう? 

P:たくさんある。自分が昔から聴いてきたエイドリアンの素晴らしい音楽でもあるし、そこからさらに音を探求するっていう素晴らしい経験だった。これは彼との作業という経験のシンボルだし。楽しい時間も含め、すべてがポジティヴな経験だよ。

ダブを長年作ってきたエイドリアンとの作業は、ピンチのダブステップの解釈にも影響を与えましたか?

P:エイドリアンが俺のダブステップの見方を変えたとは思わない。俺たちは、自分それぞれが持つ要素を使って音楽を作ってるだけだから。

〈コールド〉で試みているテクノ・サウンドとこの作品とはどのように関連づけられますか? 

P:うーん……関連はとくにないよ。“Shadowrun”にはちょっとその要素が見られるかもしれないけど、他のトラックはとくにそういうのはないと思うな。

エイドリアンにとってこのプロジェクトは、どのような意味を持ち、今後、どのようにご自身のキャリアに活かされるものなのでしょう?

A:ロブに出会えたことは本当に嬉しいんだ。俺は常に自分が共感出来る何か新しいもの、新しい才能を探しているからね。彼はまさにそういう存在なんだ。世の中、才能のある人間はたくさんいるけど、メンタリティが合わないことも多い。でもロブとは共感が出来るから作業が楽しいんだ。共通点もあるし、互いの創造力をエンジョイしてる。ロブは若くて才能があるから、一緒にいてプラスだらけなんだよ。良い人間と働けば、それが作品に反映される。ロブでもプリンス・ファーライでも(笑)、良い環境で作ることが大事だからね。それ以上のものはない。だから本当に彼と作業が出来てハッピーなんだ。ギグも、レコーディングも、ただ飲みにいくだけでも、彼と一緒ならすべてが楽しみになるんだよ。

P:たしかに。

客観的に見て、『Late Night Endless』はダブ・ミュージックを更新できたと思いますか? 

P:更新とか、あまりそういうのは考えてない。未来に進もうとか、未来のことを考えたりはしてないんだ。俺たちは、ただ昔からのサウンドのインスピレーションを使って、いま自分たちが楽しめるものを作ってるだけだから。

通訳:もし、『Late Night Endless』のライバルがいるとしたら、何(作品名/アーティスト名)だと思いますか?

A:『サージェント・ペッパー』だな(笑)。

P:同じだったり似たレコードは他にはない。2015年に買うべき唯一のアルバムさ(笑)。

一夜限りの貴重ライヴ - ele-king

 結成31年。ザ・ウォーターボーイズが新作を携えて来日、初となる単独来日公演を行う。アイリッシュ・トラッドへの傾倒をひたむきに作品化してきたマイク・スコットの仕事は、ニューウェイヴ世代ばかりでなく、あまねく音楽ファンに愛されるべき。ele-kingでもインタヴューを公開予定です。ぜひ彼の音と言葉に触れ、来日までの時間を豊かにふくらませてみてください──。

PEALOUTの近藤智洋も参加した、ウォーターボーイズの約4年ぶりとなる新作がリリース!
4月には東京にて初の単独公演が決定!
期間限定で全曲試聴も!

 今年で結成31年を迎える大御所バンド、ウォーターボーイズ。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどからの影響を受けたその独自の音楽性、そしてスコットランドの吟遊詩人とも評される歌詞は国内外で高い評価を受けている。

 今年のフジロックではバンドとして念願の初来日も果たした彼らの4年ぶりとなる新作『モダン・ブルース』が、1月14日(水)に発売を迎える。国内盤は1週間先行リリースのうえ、2曲のボーナストラックを収録。
 また今作には、PEALOUT時代に「フィッシャーマンズ・ブルース」のカヴァーを演ったことでマイク自身とも親交のある近藤智洋の演奏が使用されている。

 そんな中、アルバム発売に先駆けてさらに嬉しい情報が入ってきた! なんとウォーターボーイズにとって初となる単独来日公演が東京にて4月に開催されることが決定したのだ。1夜限りの貴重なライヴとなっているので、この機会をお見逃しなく!

 また、現在期間限定でニュー・アルバム『モダン・ブルース』の全曲試聴を実施しているので要チェック!

ウォーターボーイズアルバム全曲試聴はこちら:


■公演情報
2015/4/6 (月) 渋谷クラブクアトロ
open18:30/ start 19:30 ¥8,000(前売/1ドリンク別)
お問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)
※未就学児童の入場は出来ません。

チケット情報
主催者先行予約:1/27(火)スタート予定
2/7(土)プレイガイド発売開始予定
※共に詳細は1/20(火)に発表


Amazon Tower Amazon

■アルバム情報
アーティスト名:The Waterboys(ウォーターボーイズ)
タイトル:Modern Blues(モダン・ブルース)
レーベル:Kobalt
品番: HSE-60200
発売日:2015年1月14日(水)
※日本先行発売、ボーナストラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ 付

<トラックリスト>
1.Destinies Entwined
2.November Tale
3.Still A Freak
4.I Can See Elvis
5.The Girl Who Slept For Scotland
6.Rosalind You Married The Wrong Girl
7.Beautiful Now
8.Nearest Thing To Hip
9.Long Strange Golden Road
10. Louie's Dead Body (Is Lying Right There)*
11. Colonel Parker's Ascent Into Heaven*
*日本盤ボーナストラック

※新曲「Destinies Entwined」iTunes配信中&アルバム予約受付中!(高音質Mastered For iTunes仕様)
https://itunes.apple.com/jp/album/modern-blues/id946840347?at=11lwRX

■ショートバイオグラフィー
1983年結成、英国エジンバラ出身のマイク・スコットを中心としたUKロック・バンド。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどの影響を受けている。バンド名はルー・リードの曲の歌詞から名付けられる。初期はNYパンクの影響を受けたニューウェーブバンドとしてスタートし、U2フォロワー的な扱われ方もされていた。2014年にフジロックで初来日を果たし、2015年1月に約4年ぶりとなるニュー・アルバム『モダン・ブルース』をリリース。
同年4月には初の単独来日公演が決定。


こだま和文 - ele-king

 最近何が驚いたかって、ぜんぜんダブのイメージのないパンダ・ベアがキング・タビーからの影響を取り入れたらしい新作を発表するかと思えば、Back To Chillのレーベルを始動させたゴス・トラッドがいまだからこそダブのベースの凄みを強調しようとする。UKでは、エイドリアン・シャーウッドとピンチは世代を超えたダブ・アルバムを作って、リリースしたばかり。そして日本のダブの先駆者、こだま和文が還暦を迎える。1月29日には、その一大イベントが開かれる。ここしばらく「ダブ」というキーワードは表だってこなかったけど、これは、ダブの季節の到来、本当にあるかも。

  以下、リキッドルームからの熱いメッセージです。

還暦のエコーこだまする宴へ

 30年以上にわたるエコーの連なりをこの国の音楽シーンに響き渡らせ続けてきた男、こだま和文。還暦を迎える、現在もそれは継続した響きの連なりを 持っている。ミュート・ビート、世界初のライヴ・ダブ・バンドとして東京の音をひとつ、1980年代に前進させた。これを発端にして、そして“レゲエ” や“ダブ”という言葉を外しても、彼がいなければ、果たしてこの国のアンダーグラウンドからポップ・ミュージックにいたるまで、それらがいまと同じ形に なっていったかというのを考えるばかりである。ソロ・アーティストとしても数々の名作を残し、1990年代以降から現在にいたるまでの中心的プロジェク ト“DUB STATION”での、ある種、ヒップホップやベルリンのリズム&サウンドやミニマル・ダブへの回答のような、そのスタイルは唯一無二の存在感を放ってい る。そして、フィッシュマンズのファーストなど、プロデュース作においても、やはりその動きはこの国の音楽シーンに消せない刻印をくっきりと残している。 新作が待たれるばかりだが、ライヴや客演での活動は、いまだ活発だ。

 先ごろ、ミュート・ビート以前の、これまで謎の多かった、その若き半生を綴った近著『いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった』が刊行されたばかりだが、こだま和文がこのたび還暦を迎える。

 この日、これまで共演や客演などでそのリスペクトを示してきたEGO-WRAPPIN’、bonobos、ORESKABANDなど、その遺伝子を 持つアーティストたち、そして後期ミュート・ビートのメンバーでありこだま和文の朋友、故江戸アケミ率いるじゃがたらでもキーボードを務め、先ごろ円熟の ソロアルバム『遠近(おちこち)に』をリリースしたばかりのキーボーディスト、エマーソン北村も出演。

この宴、祝う。

▼EGO-WRAPPIN’
1996年 中納良恵(Vo、作詞作曲)と森雅樹(G、作曲)によって大阪で結成。2000年に発表された「色彩のブルース」や2002年発表の「くちばしにチェ リー」は、多様なジャンルを消化し、エゴ独自の世界観を築きあげた名曲として異例のロングヒットとなる。以後、作品ごとに魅せる斬新な音楽性において、常 に日本の音楽シーンにて注目を集めている。2014年5月には、オダギリジョー主演テレビ東京系ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」の主題歌・劇中歌、エンディングテーマの3曲を収録した、New Single「BRIGHT TIME」をリリース。
https://www.egowrappin.com

▼bonobos
2001年結成、2003年『もうじき冬が来る』でメジャー・デビュー。レゲェ/ダブ、ドラムンベース、エレクトロニカ、サンバにカリプソと、様々なリズ ムを呑み込みながらフォークへ向かう、天下無双のハイブリッド未来音楽集団。ROCK IN JAPAN、FUJI ROCK FES、RISING SUN ROCK FESなど、毎年数多くの野外フェスに出演し、ライヴ・バンドとしても確固たる地位を築いている。他アーティストへの楽曲提供、演奏サポートなど、それぞれ のソロ活動も精力的に行われ、2010年にはvo.蔡、dr.辻ともにソロアルバムも制作/発表。2014年3月5日には6thアルバム『HYPER FOLK』をリリース。さらに8月20日には初のライヴ・アルバム『HYPER FOLK JAMBOREE TOKYO.1/2』をライヴ会場限定販売にてリリース。
https://www.bonobos.jp

▼ORESKABAND
2003年に大阪・堺にて結成し、ライブを中心に活動するガールズ・ブラスロックバンド。3Rhythms&3Hornsの楽器構成。The Specials から絶大な影響を受けており、結成当初からスカバンドとして活動してきたが、活動を続けていくにつれて、2トーンをより精神的なものとして捉え、音楽のス タイルやジャンルをさまざまな方向に広げ、より自分たちらしい音楽を追求するようになる。2008年に全米46都市ツアーを行ってから、精力的に海外と日 本での活動を続けている。
https://www.oreskaband.com

▼エマーソン北村
ミュージシャン。オルガン・シンセを中心とする鍵盤演奏及び作編曲を行なう。ニューウエーブのバンドで音楽活動を始め、「ワールドミュージック」全盛 の’80年代末、JAGATARAとMUTE BEATに参加。’90年代前半にはライブハウス「代々木チョコレートシティ」及びそのレーベル「NUTMEG」においてあらゆる個性的な音楽、特に初期 のHip Hopやレゲエの制作に関わる。その後忌野清志郎&2・3′sを皮切りにフリーのキーボードプレイヤーとして活動。ロック畑からオルタナティブな 分野まで、音数は少ないが的確な演奏と音楽を広く深く理解する力によって、インディー/メジャーを問わない数多くのアーティスト・バンドをサポートしてき た。また、レゲエの創成期からジャマイカで活躍したミュージシャン、ジャッキー・ミットゥーの音楽を出発点としてリズムボックスと古いキーボードによるイ ンストゥルメンタル音楽を作っており、「エマソロ」と呼ばれる一人ライヴを全国各地や海外で展開している。2014年7月、オリジナル曲を中心としたソロ アルバム『遠近(おちこち)に』を、自身のレーベルからリリース。
https://www.emersonkitamura.com

▼松竹谷 清
1957年、北海道・札幌市生まれ。80年代から90年代初頭 に掛けて”TOMATOS”のリーダーとして活躍。メンバー には、じゃがたらのNABE CHANG(Bass)、EBBY(Guitar)や ミュート・ ビートの松永孝義(Bass)、今井秀行(Drums)ら が在籍。TOMATOSは、80年代にじゃがたら、ミュート・ ビート、S-KENと共にTokyo Soy Souceというライブ・イ ベントを企画、 シリーズ化して、それまでの日本のロック とはまた違った新たな音楽シーンを作った。彼らの活動が ベースにあった上で、後にリトルテンポやフィッシュマン ズが生まれた といっても過言ではない。又88年には、ス カの創始者ローランド・アルフォンの初来日公演 “Roland Alphonso meets Mute Beat”でサポート・ギタリストとし て参加、 後世に語り継がれる感動のライブとなった。その 後、ローランド・アルフォンとは2枚のアルバム 『ROLAND ALPHON SO meets GOOD BAITES with ピアニ カ前田 at WACKIES NEW JERSEY』、『Summer Place』を 一緒に作り、リリースした。
近年は、”吾妻光良&The Swinging Boppers”、“西内徹バ ンド”、“松永孝義”のアルバム等に参加。その天真爛漫 な存在感、ブラック・ミュージックの粋なエッセンスを日 本語に 置き換えた唄は、キャリアと共により味わい深さを増している。

▼こだま和文
1981年、ライヴでダブを演奏する日本初のダブ・バンド「MUTE BEAT」結成。通算7枚のアルバムを発表。1990年からソロ活動を始める。ファースト・ソロアルバム『QUIET REGGAE』から2003年発表の『A SILENT PRAYER』まで、映画音楽やベスト盤を含め通算8枚のアルバムを発表。2005年にはKODAMA AND THE DUB STATION BANDとして 『IN THE STUDIO』、2006年には『MORE』を発表している。プロデューサーとしての活動では、FISHMANSの1stアルバム『チャッピー・ドント・ クライ』等で知られる。また、DJ KRUSH、UA、EGO-WRAPPIN’、LEE PERRY、RICO RODRIGUES等、国内外のアーティストとの共演、共作曲も多い。現在、ターン・テーブルDJをバックにした、ヒップホップ・サウンドシステム型のラ イブを中心に活動してしている。また水彩画、版画など、絵を描くアーティストでもある。著述家としても『スティル エコー』(1993)、『ノート・その日その日』(1996)、「空をあおいで」(2010)『いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった』(2014)がある。
https://echoinfo.exblog.jp

主催:上村勝彦
企画:上村勝彦
協力:LIQUIDROOM

2015.01.29
OPEN / START 18:00 / 19:00
ADV / DOOR ¥3,500(税込・ドリンクチャージ別)

LINE UP
EGO-WRAPPIN'、bonobos、ORESKABAND、エマーソン北村、松竹谷 清、こだま和文
*エマーソン北村の一人ライヴ「エマソロ」は開場時に行われます。

TICKET
チケットぴあ [250-653] ローソンチケット [74120] e+ LIQUIDROOM 12/13 ON SALE

INFO
LIQUIDROOM 03(5464)0800


Sherwood & Pinch MIX音源 - ele-king

 明日(1月14日)リリースされるシャーウッド&ピンチの待望のアルバム『レイト・ナイト・エンドレス』、聴き応えのある力作です。シャーウッドのダブ/レゲエ、そしてピンチのダブステップという、それぞれの長所がほどよく調和しているところが最高だと思います。前半は軽快にダンスしながら、後半は夜の闇にしっとり溶けるような、メロウな展開がまた素晴らしくて、とても完成度の高い作品になったのではないでしょうか。
 で……、そのアルバム発売を記念して、ただいまシャーウッド&ピンチのエクスクルーシヴ音源が聴けます! 
 これを聴いてワクワクして下さい。

1. Shackleton / King Midas Sound 'Deadman, Death Dub remix' (Honest Jons)
2. Ishan Sound 'Namkah (Kahn remix)' (Tectonic)
3. Sherwood & Pinch 'Music Killer' (On-U Sound vs Tectonic)
4. Scientist 'Burn Them' (Hawkeye)
5. Sherwood & Pinch 'Bucketman' (On-U Sound vs Tectonic)
6. Pinch 'Croydon House VIP' (Dubplate)
7. Mumdance & Logos 'Legion VIPinch mix) (Tectonic/Dubplate)
8. Pinch & Mumdance 'Double Barrelled Mitzi Turbo' (Tectonic/Dubplate)
9. Andy Fairley 'System Vertigo' (On-U Sound)
10. Pinch & Shackleton 'Greedy Life' (Honest Jons)

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